説明

低融点物質充填繊維およびその製造方法

【課題】中空繊維を中空のまま利用するのではなく、中空部に繊維とは別の物質を充填して利用することにより、まったく新規な繊維を提供する。
【解決手段】中空繊維の中空部に、融点が−20℃以上120℃以下である低融点物質が充填されており、中空繊維は、低融点物質の融点より10℃以上高い温度では溶融も分解もしない。低融点物質は、保温性を有する物質とすることができる。低融点物質充填繊維を製造する際には、中空繊維の中空部に、融点が−20℃以上120℃以下である低融点物質を、液体または流動体の状態にて吸引もしくは圧入することにより充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維の中空部にこの繊維よりも低融点の低融点物質が充填された低融点物質充填繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルやポリアミド等の合成繊維の繊維断面において中空部を有する中空繊維が、種々知られている(例えば、特許文献1参照)。通常、中空繊維は、その中空部は空気が存在する空間であるため、中空であることによる軽量性、あるいは中空部の空気による断熱性を有することを特長として、衣料、寝装品、産業資材などの種々の分野で利用されている。
【特許文献1】特開2004−143608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来技術のように中空繊維を中空のまま利用するのではなく、中空部に繊維とは別の物質を充填して利用することにより、まったく新規な繊維を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明の要旨は、次の通りである。
(1)中空繊維の中空部に、融点が−20℃以上120℃以下である低融点物質が充填されており、前記中空繊維は、前記低融点物質の融点より10℃以上高い温度では溶融も分解もしないものであることを特徴とする低融点物質充填繊維。
【0005】
(2)中空繊維が複数の中空部を有するものであることを特徴とする(1)の低融点物質充填繊維。
(3)中空繊維がポリアミド系合成繊維またはポリエステル系合成繊維であり、低融点物質がパラフィンであることを特徴とする(1)または(2)の低融点物質充填繊維。
【0006】
(4)低融点物質が保温性を有する物質であることを特徴とする(1)または(2)の低融点物質充填繊維。
(5)中空繊維がポリアミド系合成繊維またはポリエステル系合成繊維またはフッ素系合成繊維であることを特徴とする(4)の低融点物質充填繊維。
【0007】
(6)上記(1)から(5)までのいずれかの低融点物質充填繊維を製造するに際し、中空繊維の中空部に、融点が−20℃以上120℃以下である低融点物質を、液体または流動体の状態にて吸引もしくは圧入することにより充填することを特徴とする低融点物質充填繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、中空繊維の内部に低融点物質が配置された新規な構造の低融点物質充填繊維が提供される。すなわち、複合溶融紡糸法が適用できないような熱安定性に乏しい物質や、繊維形成性を有しない物質であっても、これを繊維の内部に配置した構造の繊維とすることができる。
【0009】
本発明によれば、低融点物質が保温性を有する物質であることで、従来においては溶融紡糸での製造が困難であった、保温性を有する複合繊維を、容易に、しかも中空繊維を限定することなく、得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の低融点物質充填繊維は、繊維横断面が中空であるいわゆる中空繊維の中空部に、この中空繊維よりも低融点の物質が充填されたものである。
【0011】
本発明に用いられる中空繊維を形成する素材は、特に限定されるものではない。したがって、中空繊維としては、スチール繊維、ガラス繊維、岩石繊維に代表される無機繊維や、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリフルオロエチレン等に代表される繊維形成性合成高分子からなる合成繊維や、レーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生繊維や、アセテート繊維に代表される半合成繊維等を、目的に応じて使用することができる。中でも、合成繊維が好ましく、生産やコストを鑑みるとポリアミド系もしくはポリエステル系の合成繊維が特に好ましい。他物質との界面活性の低いフッ素系合成繊維も、注入する物質によってはより好ましくなる。なお、中空繊維には、顔料、帯電防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤が添加されていてもよい。
【0012】
中空繊維の繊維横断面の形態としては、外郭の形態、中空部の形態とも、特に限定されるものではないが、複数の中空部を有する形態が好ましい。複数の中空部を有する形態としては、例えば図1や図2に示すように、繊維横断面が「田」の字形を呈するものが挙げられる。これらの図において、Aは中空繊維を示し、Bはその中空部を示す。そのような複数の中空部を有するものでは、中空部を複数に仕切っている部分(「田」の字で例でいえば「+」形の部分)が支えとなって形態保持性を向上させることができるので、中空部に液体状または流動体状の低融点物質を吸引により導入させる場合に有利である。このほかにも、図3および図4に示す横断面構造の中空繊維などを用いることもできる。いずれも、Aは中空繊維、Bはその中空部である。
【0013】
本発明に用いられる中空繊維の中空率は、特に限定されるものではないが、5〜50%程度が好ましい。ここで、中空率とは、繊維横断面において全断面積(繊維の外周により閉じられる面積のことである)に占める中空部の面積(中空部が複数ある時はそれらの合計面積)の割合をいう。中空率が5%未満では、低融点物質の充填が困難になる傾向がある。一方、50%を超えると、外力により、あるいは吸引によって中空部に低融点物質を圧入させる場合の負圧により、中空部がつぶれやすくなる傾向がある。
【0014】
中空繊維を製造する方法は、特に限定されるものではなく、中空断面が得られるように設計された紡糸口金を用いる方法や、芯鞘・海島等の複合繊維を製造後芯もしくは島成分をアルカリ等により溶出させる方法等、公知の中空繊維の製造方法を適宜採用することができる。換言すれば、公知の中空繊維の中から、本発明の目的に適す中空繊維を適宜選択して本発明に用いることができるのである。
【0015】
本発明において、中空繊維の中空部に充填される低融点物質とは、その融点が−20℃以上120℃以下の範囲、好ましくは0℃以上100℃以下にある物質をいう。融点を−20℃以上120℃以下とするのは、この範囲内の融点であれば、液体あるいは流動体の状態を容易に得ることができて、中空繊維の中空部に充填しやすいからである。逆に、融点が−20℃より低いあるいは120℃より高い場合は、低融点物質含有繊維を得る際に、低融点物質を中空部に充填する工程で、充填環境の影響や繊維内部の水分の影響が出やすくなる。
【0016】
低融点物質としては、中空部に充填された後は常温で固体になっていると使い勝手が良いことや、加温により融解させやすい点を考慮すれば、融点が30℃以上80℃以下であるものが特に好ましい。もっとも、用途によっては、氷点以下で凝固することが好ましい場合もある。
【0017】
低融点物質の融点との関係において、上記した中空繊維は、低融点物質の融点より10℃高い温度では、好ましくは50℃高い温度では、溶融も分解もしないものとする。本発明において、中空繊維の中空部に低融点物質を充填する際には、低融点物質を液体または流動体とするため、すなわち低融点物質をその融点以上の温度とするため、当該融点より10℃高い温度で溶融もしくは分解するような中空繊維では、変形、変色等の損傷を受けやすいからである。この点、低融点物質の融点は高々120℃であるので、ガラス繊維等の無機繊維はもとより、ポリエステル系、ポリアミド系等の多くの合成繊維を中空繊維として好ましく使用できる。
【0018】
低融点物質としては、上記の範囲に融点を有する物質であれば、単体でも化合物でも良く、特に限定されるものではないので、目的に応じた低融点物質を使用することができる。
【0019】
低融点物質として保温性を有する物質を用いると、保温性を有する複合繊維を得ることができる。その場合に、保温効果としては、
1.保温性を有する物質すなわち保温剤による保温効果
2.物質が液体から固体へ相転移する際に生じる潜熱によって、物質から外気に熱を放出することによる保温効果
が考えられ、これらの効果を得るための方法を目的に応じて選定することができる。
【0020】
以下、保温性を有する物質の例を挙げるが、これらに限定するものではない。例えば「1.」の効果を得るための物質として、カルボキシメチルセルロース、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、アルギン酸ナトリウム等の水溶性高分子の高粘度水溶液、もしくはそれらの水溶性高分子をホウ酸塩等の無機塩又は有機系架橋剤で架橋した含水ゲル状物を使用することができる。また、市販の保温剤をそのまま利用してもよい。また「2.」の効果を得るための物質として、ポリエチレングリコール(PEG)を使用することができ、数平均分子量によって分類されるPEGの融点から使用目的や状況により適宜のものを選定すればよい。
【0021】
保温性を有する物質として、このほかにも、たとえばパラフィンワックスを使用することができる。パラフィンワックスは、石油留分から分離、精製された、主にC20〜C30のn−パラフィンからなる結晶性の石油製品であり、常温(25℃)で固体であり、適当な温度で融解するため、融解潜熱を利用した蓄熱性の熱媒体たりうる。この場合の中空繊維としては、ポリアミド系もしくはポリエステル系の合成繊維が特に好ましい。
【0022】
低融点物質を中空繊維の中空部に充填するうえで、低融点物質の粘度は1×10−4Pa・s〜10Pa・sであることが好ましい。粘度が10Pa・s以上であると、中空部に充填する際に容易に導入することが困難である。また1×10−4Pa・s以下であると、中空部に充填直後に流れ出してしまう可能性があり、使い勝手が悪い。よって、より好ましくは5×10−4Pa・s〜1.0Pa・sである。
【0023】
低融点物質には、他の成分を含有させることもできる。例えば、顔料、染料、防腐剤等を含有させることができる。特に、高温では変質してしまうような染料であって、通常の芯鞘型複合繊維の溶融紡糸において芯成分に含有させることができないようなものであっても、本発明における低融点物質に含有させるものとしては採用が可能であり、これにより従来にはない色鮮やかな繊維を得ることもできる。
【0024】
本発明の低融点物質充填繊維を製造するには、まず、中空繊維を準備する。中空繊維は上記したように公知の方法により製造でき、また、市販の中空繊維をそのまま利用してもよい。中空繊維としては、低融点物質を効率的に充填するうえで、長繊維を用いることが好ましい。この長繊維は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。なお、低融点物質を充填し、凝固させた後に所望の長さに切断すれば、短繊維状の低融点物質充填繊維を得ることができる。
【0025】
低融点物質を中空繊維の中空部に導入する工程においては、低融点物質を液体状または流動体状に保つ必要がある。そのためには、低融点物質が常温で液体あるいは流動体であれば特別な措置は不要である。そうでなければ、当該工程において、低融点物質および中空繊維の温度を、低融点物質の融点以上の温度に保つ必要が生じる。そのための方法は、特に限定されるものではなく、高温槽、コイルヒーター、赤外線ランプ等を用いて、当該工程の温度雰囲気を、低融点物質の融点以上の適当な温度に調整すればよい。
【0026】
中空繊維の中空部に液体状または流動体状の低融点物質を導入する方法としては、吸引による方法と、圧入による方法とがある。
吸引による場合は、1本もしくは複数本の中空繊維、あるいは多数本からなる繊維束とした中空繊維の一方の端部を、真空ポンプやアスピレーター等の減圧機器に接続(トラップを介在させる)して減圧状態にし、他端を液体状または流動体状の低融点物質に沈めることにより、低融点物質を吸引させて導入する。このとき、中空繊維と減圧機器との間にトラップを設けておくことにより、トラップ内に副成分が出てきた時点で、中空繊維に低融点物質が充填されたことを確認できる。
【0027】
圧入による場合は、中空繊維の一方の端部から、加圧状態にした低融点物質を直接中空部に送り込む。この場合は、中空繊維におけるもう一方の端部から副成分が出てくる様子により、充填が確認される。
【0028】
通常は、吸引の方が、充填を容易かつ確実に行えるので好ましい。注入する物質が粘度の高い物質である場合や、加熱により分解が助長される物質である場合は、圧入しながら吸引する等、吸引と圧入とを組合せることができる。
【0029】
このようにして液体状または流動体状の低融点物質を導入した後は、低融点物質が中空部から外部に流れ出さないように、これを凝固させることが好ましい。凝固させるには、低融点物質の融点に応じて自然放冷してもよく、積極的に冷却してもよい。
【0030】
必要に応じて、中空繊維の端部を封止して、低融点物質を中空部に閉じ込めてしまうことができる。端部の封止方法としては、端部を結節する方法、器具を用いて強く挟む方法、中空繊維の構成素材自体を端部で融着させてしまう方法、別途封止材を用いる方法等、いかなる方法でもよい。
【0031】
図7は、中空繊維に低融点物質を導入するための具体的な手法を示すものである。図示のように、中空繊維1の一端をゴム栓4に貫通させ、このゴム栓4を耐圧チューブ7に差し込んで接続し、この耐圧チューブ7に、圧力ゲージ付トラップ5と、圧力調整弁6と、減圧ポンプ8とを順に接続する。中空繊維1の他端は、容器3内の液体状または流動体状の低融点物質2の中に入れる。このようにして、減圧ポンプ8を作動させることにより、容器3内の液体状または流動体状の低融点物質2を中空繊維1の中空部に導入することができる。
【0032】
このようにして得られた低融点物質充填繊維は、目的に応じて、そのままで、あるいは製織、製網、製編等を行って、各種用途に用いることができる。
上記の導入方法に代えて、中空繊維を予め製織しておいてから、その中空部に低融点物質を充填してもよい。例えば、550デシテックス程度の中空繊維を用いてタテ密度20本/インチ、ヨコ20本/インチ程度の平織組織で製織した織物を用意する。このとき、図5に例示するように、織物の周縁部において、タテ糸のみが存在する領域Cおよびヨコ糸のみが存在する領域Dを設ける。図5に示す例では、織物のタテ70cm、ヨコ30cmに加えて、タテ方向の両端に15cmずつタテ糸のみが存在する領域Cを設け、ヨコ方向の両端に15cmずつヨコ糸のみが存在する領域Dを設けている。
【0033】
そして、図6に示すように、織物11における一方の端部のタテ糸10を適当な本数ずつ束ねて、その繊維束12をゴム栓4に貫通させ、このゴム栓4を耐圧チューブ7に接続し、この耐圧チューブ7に、圧力ゲージ付トラップ5と、圧力調整弁6と、減圧ポンプ8とを順に接続する。また他方の端部のタテ糸10を適当な本数ずつ束ねて、その繊維束12を容器3内の液体状または流動体状の低融点物質2の中に入れる。このようにして、減圧ポンプ8を作動させることにより、容器3内の液体状または流動体状の低融点物質2を織物11のタテ糸10である中空繊維の中空部に導入することができる。ヨコ糸についても同様にすればよい。
【実施例】
【0034】
次に本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例、比較例において、中空繊維の中空率は、次のようにして求めた。すなわち、ニコン社製マイクロフォトS光学顕微鏡に顕微鏡写真撮影装置を取り付け、単糸の横断面を撮影し、この断面写真をプリントした紙から、中空部を含めた繊維断面全体に相当する部分を輪郭に沿って切り抜き、その質量W1を測定した。次いで、中空部に相当する部分のみを切り取り、その質量W2(中空部が複数ある場合は、複数の中空部の合計に相当する質量)を測定した。そして、次式を用いて中空率を算出した。なお、1つのサンプルについての測定数を5として、その平均値を採用した。
【0035】
中空率(%)=[W2/W1]×100
【0036】
(実施例1)
相対粘度4.0のナイロンチップ100質量部に、ヘキサメチレンアジパミド成分15質量部、エチレンビスステアリルアミド0.1質量部を添加し、通常のエクストルーダー型溶融紡糸装置を使用し、中空部の数が6個となるような紡糸口金を用いて275℃の温度で溶融紡糸した。紡出したモノフィラメントを20℃の水で冷却後、引き続いてこれを95℃の湯浴中で3.4倍に延伸(第一延伸)し、その後225℃の湯浴中で1.7倍に延伸した。その後230℃で0.9倍の弛緩熱処理を行うことにより、図4に示す横断面形状の中空繊維(550デシテックスのモノフィラメント)を得た。中空率は9%であった。
【0037】
上記の中空繊維を1000m長として、図7に示す如く、その一端を直径10mmのゴム栓4に貫通させ、このゴム栓4を内径8mmの耐圧チューブ7に差し込んで接続した。この耐圧チューブ7に、圧力ゲージ付きトラップ5、圧力調整弁6、減圧ポンプ8をこの順に接続した。
【0038】
中空繊維の他端をビーカーなどの容器3内の下部に固定し、この容器3に低融点物質2としての日本製蝋社製のパラフィンワックス、品名「120」(融点48.9〜50.6℃、動粘度0.03cm/s)を300g投入した。そして、高温試験室において、温度60℃の雰囲気下で、容器3内の120パラフィンが充分に溶融してから、減圧ポンプ8を作動させて吸引することにより、容器3内の120パラフィンを中空繊維の中空部に導入した。このパラフィンの導入は、吸引したパラフィンがトラップ5内に出てくるまで行った。なお、この過程で、中空繊維の途中に5m間隔で印をつけることにより、この間で低融点物質が吸引される速度を測ったところ、圧力調整弁6を8.0×10Paに調整した際の吸引速度が約0.6m/分であった。
【0039】
その後、120パラフィンを繊維の中空部に保持した状態で、試験室の温度を20℃まで下げることにより、この中空部に充填された120パラフィンを凝固させた。
このようにして得られた低融点物質充填繊維は、常温において切断しても、低融点物質が漏れ出さないものであった。また、これを用いて、タテ密度20本/インチ、ヨコ密度20本/インチ、長手方向1m、幅方向50cmの平織物を製造することができた。
【0040】
(実施例2)
繊維断面において中空部が2個となるような紡糸口金を用いた。そして、それ以外は実施例1と同様にして、溶融紡糸、延伸、熱処理を行って、図3に示すような横断面形状の中空繊維(460デシテックスのモノフィラメント)を得た。中空率は20%であった。
【0041】
この中空繊維を用いること以外は実施例1と同様にして、低融点物質充填中空繊維を製造し、実施例1と同様の結果を得た。なお、低融点物質が吸引される速度は、圧力調整弁6を8.0×10Paに調整した際の吸引速度が約0.9m/分であった。
【0042】
(実施例3)
実施例1と同じ中空繊維を得た。この中空繊維を3m長として、図7に示す如く、その一端を直径10mmのゴム栓4に貫通させ、このゴム栓を内径8mmの耐圧チューブ7に差し込んで接続した。この耐圧チューブに、圧力ゲージ付きトラップ5、圧力調整弁6、減圧ポンプ8をこの順に接続した。
【0043】
中空繊維の多端を容器3内の下部に固定し、この容器3に、低融点物質2としての保温性を有する物質として三洋化成工業社製のポリエチレングリコール、品名「PEG−1000」(融点37.0℃、動粘度0.80cm/s)を100g投入した。そして、高温試験室において、温度45℃の雰囲気下で、容器3内のPEG−1000が充分に溶融してから減圧ポンプ8を作動させて吸引することにより、容器3内のPEG−1000を中空繊維の中空部に導入した。
【0044】
その後、PEG−1000を中空部に保持した状態で、中空繊維の両端を溶融させることにより、PEG−1000を中空繊維の内部に閉じ込め、実施例3の低融点物質充填繊維を得た。
【0045】
(実施例4)
容器3内に、実施例3のPEG−1000に代えて、市販の保温物質(トライ・カンパニー社製のポリアクリル酸ナトリウム、品名「CP−20」、融点16℃、動粘度0.13cm/s)を投入した。そして、それ以外は実施例3と同様にして、実施例4の低融点物質充填繊維を得た。
【0046】
(参考例1)
容器3内に、実施例3のPEG−1000に代えて、水(動粘度0.0089cm/s)を投入した。そして、それ以外は実施例3と同様にして、参考例1の低融点物質充填繊維を得た。
【0047】
(比較例1)
実施例3と同じ中空繊維を得た。そして、この中空繊維の内部には物質を導入せずに、比較例1の繊維を得た。
【0048】
上記によって得られた実施例3、実施例4、参考例1の低融点物質充填繊維と、比較例1の中空繊維とを、高温試験室において、45℃の雰囲気下で放置した。これによって、実施例3、実施例4、参考例1の低融点物質充填繊維は、中空繊維自体とその中空部に導入された保温性を有する物質とに熱をもたせた。比較例1の中空繊維は、中空繊維自体に熱を持たせた。
【0049】
これらの繊維を、高温試験室より取り出した後、すぐに温度23℃である室内に放置し、繊維周辺の温度変化を確認した。その際、繊維から発生する熱を逃がさない為に、各繊維をそれぞれ発泡スチロール製箱(縦7cm、横7cm、高さ3cm、壁厚2cm)に閉じ込め、発泡スチロール製箱の内部に記録計付き温度計をはわせることによって、内部の温度を確認した。すなわち、各繊維の入ったそれぞれの発泡スチロール製箱内の温度を10分毎に確認し、室温23℃に達するまでの時間を計測した。その温度(℃)の測定結果は、表1の通りであった。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、参考例1では60分、比較例1では30分で外気温度と同じ23℃に達した。これに対し、実施例1は200分、実施例2は180分と、参考例1や比較例1の数倍の時間にわたって温度保持が可能であることが確認された。
【0052】
この実験により、実施例3、実施例4の低融点物質充填繊維は、保温性繊維として効果的なものであると考えることができた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明にもとづく中空繊維の断面形態の一例を示す図である。
【図2】本発明にもとづく中空繊維の断面形態の他の例を示す図である。
【図3】本発明にもとづく中空繊維の断面形態のさらに他の例を示す図である。
【図4】本発明にもとづく中空繊維の断面形態のさらに他の例を示す図である。
【図5】低融点物質を充填するための織物を例示する図である。
【図6】低融点物質を繊維の中空部に充填する方法の一例を示す図である。
【図7】低融点物質を繊維の中空部に充填する方法の他の例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空繊維の中空部に、融点が−20℃以上120℃以下である低融点物質が充填されており、前記中空繊維は、前記低融点物質の融点より10℃以上高い温度では溶融も分解もしないものであることを特徴とする低融点物質充填繊維。
【請求項2】
中空繊維が複数の中空部を有するものであることを特徴とする請求項1記載の低融点物質充填繊維。
【請求項3】
中空繊維がポリアミド系合成繊維またはポリエステル系合成繊維であり、低融点物質がパラフィンであることを特徴とする請求項1または2記載の低融点物質充填繊維。
【請求項4】
低融点物質が保温性を有する物質であることを特徴とする請求項1または2記載の低融点物質充填繊維。
【請求項5】
中空繊維がポリアミド系合成繊維またはポリエステル系合成繊維またはフッ素系合成繊維であることを特徴とする請求項4記載の低融点物質充填繊維。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の低融点物質充填繊維を製造するに際し、中空繊維の中空部に、融点が−20℃以上120℃以下である低融点物質を、液体または流動体の状態にて吸引もしくは圧入することにより充填することを特徴とする低融点物質充填繊維の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−56438(P2007−56438A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190996(P2006−190996)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】