説明

低透過性燃料チューブ

【課題】軽量で、アルコール類を混合した混合燃料に対する低い燃料透過性を有する燃料チューブを提供する。
【解決手段】燃料チューブ10は、バリア層11と、バリア層11の内周側及び外周側に設けられる内層12、外層13と、バリア層11と内層12の間、及びバリア層11と外層13との間に設けた接着層14、15とを備える。バリア層11は、ポリブチレンナフタレート(PBN)から形成される。内層12、外層13は、高密度ポリエチレン樹脂から形成される。接着層14、15は、PBN樹脂及びPBNエラストマー樹脂の少なくとも一方と、変性ポリオレフィン樹脂とを含有する。変性ポリオレフィン樹脂は、例えば不飽和カルボン酸及びその誘導体、並びにビニルエステルより成る群から選ばれた少なくとも1種のもので変性したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリン燃料や燃料蒸気、特にアルコール類を混合した混合燃料や燃料蒸気に対しても、優れたバリア性を備えるとともに、低コストで軽量化を図ることが可能な自動車燃料配管用等に使用される燃料チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンにアルコール類を混合した混合燃料が代替燃料として検討されており、燃料チューブに関しても、混合燃料に対して優れたバリア性を有することが求められつつある。従来、混合燃料に対するバリア性を高めるために、チューブにポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂から形成されたバリア層が設けられることが検討されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
燃料チューブは、PBN樹脂単層から形成されると、十分なバリア性が発揮されるが、剛性が高くなるため、通常、種々の樹脂から成る層が複数積層された構造となっている。例えば、特許文献1では、バリア層の内周、外周側それぞれに、フッ素系樹脂又はポリアミド系樹脂から形成された内層、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーから形成された外層が設けられ、さらに内層と中間層、及び外層と中間層の間に接着層が設けられている。また、特許文献2においても、バリア層の内周、外周側それぞれに、ポリエステル系樹脂から形成された内層、ポリブチレンテレフタレート樹脂にエチレン−アクリルゴム等が混合されたポリマーによって形成された外層が設けられている。
【0004】
さらには、バリア層にPBN樹脂以外のものが使用される例として、特許文献3には、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)から形成されたバリア層と、変性高密度ポリエチレンから形成された外層とで構成された燃料チューブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3126275号公報
【特許文献2】特開2007−261078号公報
【特許文献3】特開2003−191396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、自動車用の各種部品は軽量化が求められているが、特許文献1、2に開示された燃料用チューブは、内層及び外層に比較的比重が大きい樹脂が使用されるため、チューブ全体の重量が大きくなる。また、特許文献1の燃料用チューブにおいては、最内層にポリアミド系樹脂が適用された場合、ポリアミド系樹脂に含有される低分子量物質がチューブ内面に析出する一方、最内層にフッ素系樹脂が適用された場合、コストが高くなるという問題もある。
【0007】
一方、特許文献3の燃料チューブは、外層に変性高密度ポリエチレンが使用されるため、チューブの軽量化が図りやすくなる。しかし、バリア層としてEVOHが使用されるため、混合燃料のアルコール濃度が高い場合や、燃料に水分が含有される場合等には、バリア性能が著しく低下するという問題がある。
【0008】
また、PBN樹脂と、ポリエチレンとの接着性は低いため、従来、これらを積層化して、バリア性能に優れ、かつ軽量化を図ることが可能な燃料チューブを開発することは検討されていない。
【0009】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、低コストかつ軽量で、混合燃料等の各種燃料に対するバリア性能に優れた燃料チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る燃料チューブは、ポリブチレンナフタレート(以下、“PBN”という)樹脂から形成されるバリア層と、このバリア層の内周側及び外周側の少なくともいずれか一方に設けられ、ポリエチレン樹脂から形成されるポリエチレン層と、バリア層とポリエチレン層の間に設けられる接着層とを備えることを特徴とする。
【0011】
接着層は、PBN樹脂及びPBNエラストマー樹脂の少なくとも一方と、ポリオレフィン樹脂とを含有することが好ましい。接着層のポリオレフィン樹脂は、変性ポリオレフィン樹脂であっても良いが、非変性ポリオレフィン樹脂と、変性ポリオレフィン樹脂を含んでいても良い。また、接着層のポリオレフィン樹脂及び変性ポリオレフィン樹脂のポリオレフィンは、ポリエチレンであることが好ましい。
【0012】
上記変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸及びその誘導体、並びにビニルエステルより成る群から選ばれた少なくとも1種のもので変性されたものであることが好ましい。例えば、変性ポリオレフィン樹脂は、少なくとも、エチレン等のオレフィンと、エポキシ基、カルボキシル基、及びカルボン酸無水物基から成る群から選択される反応基を有する不飽和カルボン酸若しくはその誘導体と、不飽和カルボン酸アルキルエステル若しくはビニルエステルとが共重合されたものである。また、PBNエラストマー樹脂は、ハードセグメントとソフトセグメントからなり、例えば、ハードセグメントがPBNであり、ソフトセグメントがポリアルキレングルコールである。
【0013】
ポリエチレン層は、例えば、密度0.945g/cm以下のポリエチレン樹脂から形成される。なお、本発明においては、バリア層の内周側及び外周側の両方にポリエチレン層が設けられたほうが良い。ポリエチレン層のポリエチレン樹脂は、その一部又は全部が変性ポリエチレン樹脂であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、PBN樹脂のバリア層の内周側又は外周側又はその両側にポリエチレン層が設けられたことにより、低コストかつ軽量で、アルコール類を含む混合燃料等の各種燃料や、水分を含む燃料に対するバリア性能に優れた燃料チューブを提供することができる。また、バリア層とポリエチレン層は、それらの間に接着層が設けられたことによって、それらの接着安定性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料用チューブの断面斜視図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る燃料用チューブの断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面参照しつつ説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る燃料用チューブを示す。
本実施形態に係る燃料チューブ10は、例えば自動車燃料配管用等に使用されるチューブであって、バリア層11と、バリア層11の内周側及び外周側に設けられ、チューブ10の最内層及び最外層を構成する内層12、外層13と、バリア層11と内層12の間、及びバリア層11と外層13との間に設けられる接着層14、15とを備える。
【0017】
バリア層11は、PBN(ポリブチレンナフタレート)樹脂で形成される中間層である。PBN樹脂は、例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸又はそのエステル等と、1,4−ブタンジオールとを共重合することにより得られる樹脂である。PBN樹脂は、燃料バリア性に優れ、ガソリン燃料、特にアルコール類を混合した混合燃料に対して優れたバリア性を有するため、燃料用チューブ10の燃料低透過性を実現させることができる。また、PBN樹脂は、機械的強度及び成形加工性に優れるため、強靭で生産性に優れた自動車燃料配管用燃料チューブを提供することが可能となる。
【0018】
内層12及び外層13は、ポリエチレン樹脂で形成されたポリエチレン層である。ポリエチレン層は、チューブの柔軟性を向上させるため、ISO 178による曲げ弾性率が1000MPa以下であることが好ましい。これら内層12及び外層13に使用されるポリエチレン樹脂としては、例えば、密度が0.945g/cm以下のポリエチレン樹脂が挙げられる。このような密度を有するポリエチレン樹脂は、比較的柔軟性が高く、チューブ10の柔軟性を良好にすることができる。当該ポリエチレン樹脂としては、その樹脂の物理的特性等から、密度0.930〜0.945g/cmの高密度ポリエチレン(HDPE)であることが好ましい。なお、内層12及び外層13に使用されるポリエチレン樹脂は、変性されていない非変性ポリエチレン樹脂であるが、変性ポリエチレン樹脂であっても良いし、非変性ポリエチレン樹脂と変性ポリエチレン樹脂の混合物であっても良い。
【0019】
チューブに種々の性能を付加するために、内層12、外層13のポリエチレン層に、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、加工助剤、帯電防止剤、導電性フィラー、ガラス繊維等の補強剤、耐磨耗性改良剤、核剤、離型剤、衝撃改良剤等の各種添加剤を加えても良い。
【0020】
接着層14、15は、バリア層11と内層12、及びバリア層11と外層13との接着性を良好にするために設けられた層であって、PBN樹脂、PBNエラストマー樹脂又はこれらの混合物と、ポリオレフィン樹脂との混合樹脂によって形成される層である。
【0021】
接着層14、15のPBN樹脂には、バリア層11で使用されるPBN樹脂と同様のものが使用される。また、PBNエラストマー樹脂としては例えばハードセグメントとソフトセグメントからなり、ハードセグメントがPBNであり、ソフトセグメントがポリアルキレングルコール、好ましくはポリテトラメチレングリコールから選択されるものである。PBNエラストマー樹脂は、PBN樹脂に比べると柔軟性に優れるため、接着層14、15がPBNエラストマー樹脂を含む場合、チューブ10の柔軟性を高めることができる。
【0022】
接着層14、15のポリオレフィン樹脂としては、変性ポリオレフィン樹脂が単独で使用され、或いは、変性されていない非変性ポリオレフィン樹脂と、変性ポリオレフィン樹脂との混合物が使用される。非変性ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレンや、エチレン−α−オレフィン共重合体のようなエチレンとエチレン以外のポリオレフィン(例えば、プロピレン)との共重合体等が使用され、また、これらポリオレフィン樹脂を変性したものが変性ポリオレフィン樹脂として使用される。好ましくは、外層12や内層13との接着性の観点等から、ポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン樹脂が使用され、すなわち、ポリオレフィン樹脂として、変性ポリエチレン樹脂が単独で使用され、或いは、非変性ポリエチレン樹脂と、変性ポリエチレン樹脂との混合物が使用される。接着層14、15において使用される非変性ポリエチレン樹脂としては、上記した密度0.945g/cm以下のポリエチレン、好ましくは密度0.930〜0.945g/cmの高密度ポリエチレン(HDPE)が使用される。
【0023】
接着層14、15において、非変性ポリオレフィン樹脂は、PBN樹脂や、PBNエラストマー樹脂との相溶性が十分ではないが、変性ポリオレフィン樹脂が使用されることにより、ポリオレフィン樹脂とPBN樹脂又はPBNエラストマー樹脂との相溶性が高められる。また、PBN樹脂、又はPBNエラストマー樹脂とポリオレフィン樹脂との相溶性を高めるために、相溶化剤が適宜添加されても良い。
【0024】
変性ポリオレフィン樹脂としては、PBN樹脂やPBNエラストマー樹脂と相溶性が良い樹脂が使用され、不飽和カルボン酸及びその誘導体、並びにビニルエステルより成る群から選ばれた少なくとも1種のもので変性された変性ポリオレフィン樹脂が使用される。上記不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば不飽和カルボン酸エステルが挙げられる。不飽和カルボン酸若しくはその誘導体やビニルエステルとしては、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、エポキシ基等の反応基を有するものや、反応基を有さないものが使用される。
【0025】
反応基としてカルボキシル基やカルボン酸無水物基を有するものの例としては、マレイン酸等のジカルボン酸で例示される不飽和カルボン酸、無水マレイン酸等で例示される不飽和カルボン酸の酸無水物が挙げられる。反応基としてエポキシ基を有するものの例としては、グリシジル(メタ)アクリレートで例示される、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルが挙げられる。また、反応基を有さないものの例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル等の不飽和カルボン酸アルキルエステルや、酢酸ビニル等のビニルエステルが挙げられる。
【0026】
変性ポリオレフィン樹脂としては、オレフィンと、不飽和カルボン酸及びその誘導体、並びにビニルエステルのうち少なくとも1種のものとが共重合されたものが使用される。具体的には、オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸エステル系共重合体、オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸系共重合体、オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸無水物系共重合体、オレフィン−酢酸ビニル系共重合体、オレフィン−酢酸ビニル部分ケン化物系共重合体等が挙げられる。また、例えば、PBN樹脂やPBNエラストマー樹脂との相溶性や、接着性の観点から、オレフィンと、反応基を有する不飽和カルボン酸若しくはその誘導体と、反応基を有さない不飽和カルボン酸アルキルエステルやビニルエステルと、が共重合されたものが使用される。この場合、上記接着性や相溶性の観点から、反応基を有さない不飽和カルボン酸アルキルエステルやビニルエステルの配合量(モノマー重量比)は、反応基を有する不飽和カルボン酸やその誘導体よりも多く、オレフィンよりも少ないことが好ましい。なお、上記したように、変性ポリオレフィン樹脂は変性ポリエチレン樹脂であることが好ましく、これら共重合体において、オレフィンはエチレンであることが好ましい。
【0027】
また、変性ポリオレフィン樹脂としては、不飽和カルボン酸及びその誘導体、並びにビニルエステルのうち少なくとも1種のものがグラフト重合によってポリオレフィン樹脂(好ましくはポリエチレン樹脂)に導入されたものが使用されても良い。
【0028】
変性ポリエチレン樹脂の具体例としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−アクリル酸アルキルエステル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−アクリル酸アルキルエステル−グリジジルメタクリレート三元共重合体、マレイン酸グラフトポリエチレン等が挙げられる。
【0029】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る燃料チューブを示す。本実施形態においては、内層12及び接着層14が省略され、バリア層11がチューブ10の最内層となる。その他の構成は、第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。ただし、最内層にバリア層11のように、比較的硬度が高い層が設けられると、チューブ10が衝撃等を受けたとき、その最内層に割れが生じやすくなる。したがって、本発明においては、第1の実施形態のように、バリア層11の内周側に、接着層14及び内層12が設けられたほうが良い。
【0030】
以上のように上記各実施形態では、PBN樹脂のバリア層と、その内周側及び外周側の少なくとも一方に、ポリエチレン層とが設けられることにより、低コストで、様々な組成の燃料や水分を含有する燃料、さらにはこれら燃料の蒸気に対して高いバリア性を有し、燃料透過性が低い燃料チューブを提供することが可能となる。また、バリア層の内周側及び外周側の少なくとも一方に設けられた層が、ポリエチレン層であることにより、燃料チューブの軽量化を図ることも可能となる。
【0031】
また、上記各実施形態では、ポリエチレン層とバリア層との間に、PBN樹脂又はPBNエラストマー樹脂と、ポリオレフィン樹脂とを含む接着層が設けられるため、バリア層とポリエチレン層との接着性を良好にすることが可能となる。さらには、チューブの最内層が、PBN樹脂層やポリエチレン層から成るため、チューブ内周面におけるオリゴマー等の低分子物質の析出が少ない燃料チューブを提供することも可能となる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下説明する実施例に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
加熱した各樹脂を同時に押出成形することにより、内周側から、PBN樹脂から成る厚さ0.1mmのバリア層と、体積比が50/50であるPBN樹脂/変性ポリエチレン樹脂の混合樹脂から成る厚さ0.1mmの接着層と、密度0.935g/cmの非変性ポリエチレン樹脂である高密度ポリエチレン樹脂から成る厚さ0.8mmの外層とを備えた、外径8mm、内径6mmの図2に示す三層構造の燃料チューブを作製した。接着層の変性ポリエチレン樹脂としては、モノマー重量比が60:30:10であるエチレン−アクリル酸アルキルエステル−グリシジルメタクリレート三元共重合体を使用した。
【0034】
[実施例2]
加熱した各樹脂を同時に押出成形することにより、内周側から、密度0.935g/cmの非変性ポリエチレン樹脂である高密度ポリエチレン樹脂から成る厚さ0.35mmの内層と、体積比50/50であるPBN樹脂/変性ポリエチレン樹脂の混合樹脂から成る厚さ0.1mmの接着層と、PBN樹脂から成る厚さ0.1mmのバリア層と、体積比50/50であるPBN樹脂/変性ポリエチレン樹脂の混合樹脂から成る厚さ0.1mmの接着層と、密度0.935g/cmの非変性ポリエチレン樹脂である高密度ポリエチレンから成る厚さ0.35mmの外層とを備えた、外径8mm、内径6mmの図1に示す五層構造の燃料チューブを作製した。接着層の変性ポリエチレン樹脂としては、実施例1と同様のものを使用した。
【0035】
[比較例1]
加熱した樹脂を押出成形することにより、厚さ1.0mmのナイロン11から成り、外径8mm、内径6mmの一層構造の燃料チューブを作製した。
【0036】
[比較例2]
加熱した各樹脂を同時に押出成形することにより、内周側から、ナイロン11から成る厚さ0.35mmの内層と、体積比5/5/1であるナイロン11/ポリエステル系エラストマー/変性ポリオレフィンの混合物から成る厚さ0.1mmの接着層と、PBN樹脂から成る厚さ0.1mmのバリア層と、体積比5/5/1であるナイロン11/ポリエステル系エラストマー/変性ポリオレフィンの混合物から成る厚さ0.1mmの接着層と、ナイロン11から成る厚さ0.35mmの外層とを備えた、外径8mm、内径6mmの五層構造の燃料チューブを作製した。
【0037】
[比較例3]
内層に使用する樹脂として、変性エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(変性ETFE)を使用した点を除いて比較例2と同様に実施した。
【0038】
[比較例4]
加熱した各樹脂を同時に押出成形することにより、内周側から、密度0.935g/cmの非変性ポリエチレン樹脂である高密度ポリエチレン樹脂から成る厚さ0.35mmの内層と、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂から成る厚さ0.1mmの接着層と、エチレン−ビニルアルコール共重合体から成る厚さ0.1mmのバリア層と、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂から成る厚さ0.1mmの接着層と、密度0.935g/cmの非変性ポリエチレン樹脂である高密度ポリエチレン樹脂から成る厚さ0.35mmの外層とを備えた、外径8mm、内径6mmの五層構造の燃料チューブを作製した。
【0039】
上記各実施例、比較例の燃料チューブを以下の方法により評価した。表2に、各評価試験の結果を示す。
【0040】
[重量評価]
各樹脂材料の比重からチューブの1m当たりの重量(g/m)を、比較例1を1.0として重量比率として算出した。
【0041】
[オリゴマー抽出]
外径8mm、内径6mm、長さ1mのチューブ内に下記試験燃料を封入し、両端に盲栓をして、60℃のオーブン中に168時間放置後、オーブンから取り出し、室温(23℃)まで冷却した。次に、チューブ内の封入燃料を廃棄し、チューブの両端を開放状態にし、室温(23℃)にて24時間放置した。その後、チューブを長さ方向に半分にカットし、チューブ内面へのオリゴマー等の付着物の有無を目視確認した。
試験燃料:Fuel C 85vol%+メタノール 15vol%
※Fuel CとはASTMの燃料油Cを指し、トルエンとイソオクタンを50:50の体積比率で混合した燃料である。
【0042】
[透過量]
外径8mm、内径6mm、長さ1mのチューブをサンプルとして複数用意し、その各サンプル内に下記試験燃料(A)〜(C)それぞれを封入し、両端に金属製の盲栓をして、サンプルを60℃の防爆オーブン中に放置した。これらサンプルを定期的に取り出し、1/10000g単位まで重量測定を実施し、下記計算式(1)による透過速度を算出した。これら透過速度が平衡に達するまで、60℃での処理を継続した。
【0043】
試験燃料(A):Fuel C 90vol%+エタノール 10vol% (CE10)
試験燃料(B):Fuel C 15vol%+エタノール 85vol% (CE85)
試験燃料(C):上記CE85 90vol%+蒸留水 10vol%(CE85+水10vol%)
【0044】
透過速度(g/m/day)
={(Wn−1−W)−(Bn−1−B)}/A/d ・・・・(1)
ここで式(1)中の各記号は以下を示す。
:燃料封入サンプルのn時間処理後の測定重量
n−1:燃料封入サンプルの前回の測定重量
:燃料未封入のブランクサンプルのn時間処理後の測定重量
n−1:燃料未封入のブランクサンプルの前回の測定重量
A:燃料封入チューブサンプルの内面積(m)
d:日(day)換算による係数、24時間/(n時間−前回までの処理時間)
【0045】
透過速度が平衡に到達後、サンプル内の燃料を同一の新しい燃料に交換して、次にサンプルを40℃の防爆オーブン中に移し、500〜600時間放置した。なお、サンプルの温度が40℃へ移行した後は、サンプル内の燃料を同一の新しい燃料に1週間毎に交換した。
【0046】
上記処理後のサンプルについて、SHED(Sealed Housing for Evaporative Determination)装置を用いて、SHED槽内の炭化水素濃度を測定し、下記式(2)により、24時間毎の透過量を算出した。温度条件は、CARB(カリフォルニア州 大気資源局)のDBL(Diurnal Breathing Loss)パターンの温度サイクル(表1参照)を1サイクルとし、3サイクル測定を行い、その時の最大値を採用した。
【0047】
【表1】

【0048】
透過量={(サンプル投入状態での炭化水素透過量)−(サンプルを入れない状態での炭化水素透過量)}/(サンプル測定メートル数) ・・・・・(2)
【0049】
(炭化水素透過量の計算式)
炭化水素透過量(g/cycle)=2.36×V{D1×7.501・P1/(T1+273.15)}×10−4−2.36×V{D0×7.501・P0/(T0+273.15)}×10−4
2.36:濃度・透過量換算係数
V:SHED槽容積(m
D0:前日測定HC濃度(ppm)
D1:当日測定HC濃度(ppm)
P0:前日測定時大気圧(kPa)
P1:当日測定時大気圧(kPa)
T0:前日測定時槽内温度(℃)
T1:当日測定時槽内温度(℃)
【0050】
上記で得られた透過量をチューブ1m当りに換算し、透過量(mg/m/cycle)とした。そして、その算出された透過量を以下の基準で評価した。
○:透過量5mg未満であって、燃料透過性が低い。
△:透過量5mg以上10mg未満であって、燃料透過性は中程度である。
×:透過量10mg以上であって、燃料透過性が高い。
【0051】
【表2】

【符号の説明】
【0052】
10 燃料チューブ
11 バリア層
12 内層(ポリエチレン層)
13 外層(ポリエチレン層)
14、15 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂から形成されるバリア層と、このバリア層の内周側及び外周側の少なくともいずれか一方に設けられ、ポリエチレン樹脂から形成されるポリエチレン層と、前記バリア層と前記ポリエチレン層の間に設けられる接着層とを備えることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項2】
前記接着層は、PBN樹脂及びPBNエラストマー樹脂の少なくとも一方と、ポリオレフィン樹脂とを含有することを特徴とする請求項1に記載の燃料チューブ。
【請求項3】
前記接着層のポリオレフィン樹脂は、変性ポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の燃料チューブ。
【請求項4】
前記接着層のポリオレフィン樹脂は、非変性ポリオレフィン樹脂と、変性ポリオレフィン樹脂を含むことを特徴とする請求項2に記載の燃料チューブ。
【請求項5】
前記変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸及びその誘導体、並びにビニルエステルより成る群から選ばれた少なくとも1種のもので変性されたものであることを特徴とする請求項3又は4に記載の燃料チューブ。
【請求項6】
前記変性ポリオレフィン樹脂は、少なくとも、オレフィンと、エポキシ基、カルボキシル基、及びカルボン酸無水物基から成る群から選択される反応基を有する不飽和カルボン酸若しくはその誘導体と、不飽和カルボン酸アルキルエステル若しくはビニルエステルと、が共重合されたものであることを特徴とする請求項5に記載の燃料チューブ。
【請求項7】
前記接着層のポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項2ないし6のいずれか1項に記載の燃料チューブ。
【請求項8】
前記PBNエラストマー樹脂が、ハードセグメントとソフトセグメントからなり、ソフトセグメントがポリアルキレングリコールであることを特徴とする請求項2に記載の燃料チューブ。
【請求項9】
前記ポリエチレン層は、密度0.945g/cm以下のポリエチレン樹脂から形成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料チューブ。
【請求項10】
前記ポリエチレン層のポリエチレン樹脂は、その一部又は全てが変性ポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の燃料チューブ。
【請求項11】
前記バリア層の内周側及び外周側の両方に前記ポリエチレン層が設けられることを特徴とする請求項1に記載の燃料チューブ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−121292(P2011−121292A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281401(P2009−281401)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】