説明

低速電子線用蛍光体および蛍光表示管

【課題】カドミウムフリーで低速電子線により良好な黄橙色に発光すると共に、実用に十分な高輝度と長寿命とを有するZnS:Mn蛍光体およびこの蛍光体を用いた蛍光表示管を提供する。
【解決手段】ZnS:Mnで表される無機物粒子からなり、無機物粒子の表面にIn23、ZnO、SnO2およびこれらの化合物から選ばれた少なくとも1つの導電性酸化物層が被覆され、さらに平均粒子径0.01〜0.5μmの導電性酸化物微粒子が添加されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低速電子線用蛍光体およびその蛍光体を用いる蛍光表示管に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ、家電製品、計測器、医療機器などの表示部に所定のパターン情報あるいはグラフィック情報を表示する表示素子や、バックライト、プリンタヘッド、ファックス用光源、複写機用光源などの各種光源、平面テレビなどに自発光型の素子として蛍光表示管が多用されている。
これら蛍光表示管に用いられる蛍光体は、通常100V程度以下のアノード電圧で発光するものでなければならない。従来、この要求を満たす黄色系蛍光体として、輝度および寿命に優れるZnCdS蛍光体が長い間用いられてきた。
ところが、近年の地球環境問題への配慮からカドミウムフリーの蛍光体が求められ、この対応に例えばSrTiO3蛍光体とZnS:Mn蛍光体を重量比で1:19〜19:1の割合で混合した混合蛍光体の技術が開示されている(特許文献1)。
しかし、ZnS:Mn蛍光体は、黄橙色に発光する無機EL用の蛍光体としてよく知られているものの、ZnS:Mn単体で、低速電子線用蛍光体として用いることは出来なかった。その理由は、(1)ZnS:Mnは高抵抗な物質であるので従来のようにIn23粒子を混合して導電処理を行なっても導電効果が不十分であり、低速電子線を照射するとチャージアップ現象で十分な電子線が照射されず実用的な輝度が得られない。
(2)電子線照射により、ZnS→Zn+Sの分解が起こりやすく、蛍光体として寿命が短い。
【0003】
一方、導電性処理の方法として、酸化物被膜を設ける例(特許文献2)、導電性微粒子を配合する例(特許文献3)が知られている。
しかしながら、これら導電性処理方法であっても、ZnS:Mnに対しては十分でなく、ZnS:Mn単体が低速電子線用蛍光体として用いられることがなかった。
【特許文献1】特開2006−306906号公報
【特許文献2】特開平3−234789号公報
【特許文献3】特開2005−123922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、カドミウムフリーで低速電子線により良好な黄橙色に発光すると共に、実用に十分な高輝度と長寿命とを有するZnS:Mn蛍光体およびこの蛍光体を用いた蛍光表示管の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の低速電子線用蛍光体は、ZnS:Mnで表される無機物粒子からなる低速電子線用蛍光体であって、上記無機物粒子の表面に導電性酸化物層が被覆され、さらに平均粒子径0.01〜0.5μmの導電性酸化物微粒子が添加されてなることを特徴とする。
また、上記導電性酸化物層は、In23、ZnO、SnO2、およびこれらの化合物から選ばれた少なくとも1つの導電性酸化物の層であることを特徴とする。
本発明の蛍光表示管は、真空容器内に形成された上記蛍光体層に低速電子線を射突させて発光させる蛍光表示管であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の低速電子線用蛍光体は、ZnS:Mnで表される無機物粒子からなるのでカドミウムフリーであり、地球環境の負荷物質とならない。
また、無機物粒子の表面に導電性酸化物層が被覆され、さらに平均粒子径0.01〜0.5μmの導電性酸化物微粒子が添加されてなるので、導電性に優れ、実用に十分な高輝度と長寿命とを有する。
本発明の蛍光表示管は、真空容器内に形成された蛍光体層に低速電子線を射突させて発光させる蛍光表示管において、上記導電性酸化物層が被覆され、0.01〜0.5μmの導電性酸化物微粒子が添加されたZnS:Mn無機物粒子を蛍光体層とするので、高輝度と長寿命とを有する蛍光表示管が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の低速電子線用蛍光体は、ZnSである無機物粒子を母体としMnを付活する。
母体となる無機物粒子の調整、粒径、およびMn付活の方法、付活量等については、従来公知の方法を採用できる。
例えば、硫化物原料としては、硫化物自身、硫酸塩、炭酸塩等が挙げられる。
また、付活剤となるMn源には、酸化マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン、塩化マンガン等が挙げられ、結晶中に少量で均一にドープできる硫酸マンガン水溶液が好ましい。
【0008】
表面に被覆される導電性酸化物層は、ZnS→Zn+Sの分解反応を抑制できるようにZnS:Mn蛍光体の表面を覆い、かつ導電性を付与できる酸化物層であればよい。例えばIn23、ZnO、SnO2、ITO、Nb25、TiO2、WO3、およびこれらの化合物等が例示できる。
これらの中でも、In23、ZnO、SnO2、およびこれらの化合物から選ばれた少なくとも1つの導電性酸化物が導電性に優れ、蛍光表示管の製造工程で分解せず好ましい物質である。
【0009】
導電性酸化物層は蛍光体粒子全体に対して0.1〜3重量%の割合が好ましく、より好ましくは0.2〜1重量%である。0.1重量%未満ではZnS:Mn蛍光体の表面を覆うのに十分でなく、輝度特性が向上しない。3重量%をこえると、低速電子線が十分に蛍光体層に侵入せず輝度が向上しない。
【0010】
導電性酸化物層の形成は、空気中約500℃程度の焼成温度で酸化物層を形成できる金属化合物を用いて行なうことが好ましい。金属化合物としては有機金属化合物、無機化合物が挙げられる。
有機金属化合物は溶液状またはペースト状を形成しやすいため、無機化合物は水溶液となりやすいため、ZnS:Mn蛍光体の表面を覆う材料として好適である。有機金属化合物の中でも特にアルコールの水酸基の水素を金属で置換したアルコラート化合物は、溶液となりやすく、ZnS:Mn蛍光体をその溶液に浸漬、乾燥、焼成で均一な表面コーティングができるので好ましい。また、溶液の金属成分濃度、あるいは、浸漬、乾燥、焼成を繰り返すことにより、被覆層の膜厚を調整できる。
【0011】
本発明で添加できる導電性酸化物微粒子は、平均粒子径が0.01〜0.5μm、好ましくは0.01〜0.1μmである。平均粒子径が0.01μm未満では、蛍光体ペーストの製造方法において、有機溶剤への分散が困難になる。また、0.5μmをこえると蛍光体粒子への付着力が低下する。本発明において平均粒子径は、例えば比表面積法によって測定できる。
導電性酸化物微粒子の材質としては、上記表面に被覆される導電性酸化物を用いることができる。これらの粒子−被覆層は接触状態で加熱されるため、異種材料を用いると相互拡散反応を起こし当初の材料から変質してしまう可能性があるため、導電性酸化物被覆層と導電性酸化物微粒子とが同一材質であることが好ましい。
【0012】
本発明の低速電子線用蛍光体は、(1)所定量の表面被覆用導電性酸化物を形成できる有機金属化合物または無機化合物と混合して乾燥後大気中で焼成することで導電性酸化物層が被覆された蛍光体とし、(2)この蛍光体に平均粒子径が0.01〜0.5μmの導電性酸化物微粒子を添加することで得られる。なお、(2)において、導電性酸化物微粒子の添加は、乾式法による混合撹拌による方法、有機溶剤に分散させて混合する湿式法による方法を採用できる。
得られた低速電子線用蛍光体は、印刷ペーストを用いる印刷方法等、周知の方法を用いて蛍光表示管の陽極基板に形成して使用できる。
印刷ペーストは、バインダー樹脂を含み、低速電子線用蛍光体粉末と、導電性酸化物を形成できる有機金属化合物または無機化合物とを配合してペースト状とする。バインダー樹脂としては印刷性に優れるエチルセルローズ等を使用できる。
印刷ペーストを用いて陽極パターン上にスクリーン印刷、乾燥、焼成する工程を経て陽極基板が得られる。
【0013】
本発明の蛍光表示管について図1および図2により説明する。図1は蛍光表示管の断面図であり、図2は蛍光表示管を構成する陽極基板の部分拡大断面図である。
蛍光表示管1は、陽極基板7と、この陽極基板7上方にグリット8と陰極9とを設け、フェースガラス10およびスペーサガラス11を用いて封着して真空引きして形成される。陰極9より発生した低速電子線が陽極基板7上の蛍光体層6に射突して発光する。
陽極基板7は、ガラス基板2上に銀を主成分とする導電性ペーストを印刷塗布法により、またはアルミニウムの薄膜法により配線層3を形成した後、スルーホール4aを除くほぼ全面にわたって低融点フリットガラスペーストの印刷塗布法により絶縁層4を形成し、このスルーホール4aを介して電気的に接続された陽極電極5をグラファイトペーストの印刷塗布法により形成する。この陽極電極5上に、蛍光体層6を蛍光体ペーストの印刷塗布法より塗布したのち焼成して陽極基板7が得られる。
図2に示すように、蛍光体層6は表面に導電性酸化物層6bが被覆され、導電性酸化物微粒子6cが形成されたZnS:Mn無機物粒子6aを用いて形成される。蛍光体粒子の表面が導電性酸化物層6bで覆われ、導電性酸化物微粒子6cが形成されているので、発光輝度および輝度寿命に優れる。
【実施例】
【0014】
実施例1〜実施例3
ZnS:Mn蛍光体(平均粒子径3μm)に硝酸インジウム(In(NO33)と水とを加え超音波混合し乾燥後大気中で焼成しIn23の薄膜が被覆されたZnS:Mn蛍光体を作製した。In23被覆量として、実施例1は0.5重量%、実施例2は0.6重量%、実施例3は0.7重量%である。
これらの蛍光体に平均粒径0.1μmのIn23粒子をそれぞれ蛍光体全体に対して1重量%添加し振動混合機を用いて混合し、導電性薄膜が被覆され、さらに導電性酸化物微粒子が添加された蛍光体を得た。
【0015】
上記蛍光体と、印刷用ビークルとを混合し、印刷用蛍光体ペーストを作製し、蛍光表示管の陽極上にスクリーン印刷塗布した後、通常の蛍光表示管工程で管球化を行なった。得られた蛍光表示管の初期輝度を測定した。結果を図3に示す。図3において、横軸は対数座標軸であり、導電性酸化物添加量(wt%)は表面被覆量の重量%を表す。また導電性酸化物の被覆量として最適値の実施例2で得られた蛍光体の寿命試験を行ない初期輝度と5000時間後の輝度を測定した。5000時間後の輝度を初期輝度に対する輝度維持率(%)として表した。点灯条件は、アノード電圧35V、デューティー1/21である。結果を表1に示す。
【0016】
比較例1〜比較例3
ZnS:Mn蛍光体(平均粒子径3μm)にインジウムアルコラートを有機ビヒクルに添加して印刷用蛍光体ペーストを作製した。In23被覆量として、比較例1は0.5重量%、比較例2は1重量%、比較例3は2重量%である。
蛍光表示管の陽極上にスクリーン印刷塗布した後、通常の蛍光表示管工程で管球化を行なった。得られた蛍光表示管の初期輝度を測定した。結果を図3に示す。図3において、導電性酸化物添加量(wt%)は表面被覆量の重量%を表す。また導電性酸化膜の被覆量として最適値の比較例2で得られた蛍光体の寿命試験を行ない初期輝度と5000時間後の輝度を測定した。5000時間後の輝度を初期輝度に対する輝度維持率(%)として表した。結果を表1に示す。
【0017】
比較例4〜比較例6
ZnS:Mn蛍光体(平均粒子径3μm)に平均粒子径0.01μmのIn23微粒子を添加し、有機溶媒中で超音波混合し乾燥した。In23微粒子の添加量として、比較例4は3重量%、比較例5は4重量%、比較例6は5重量%である。
上記蛍光体と、印刷用ビークルとを混合し、印刷用蛍光体ペーストを作製し、蛍光表示管の陽極上にスクリーン印刷塗布した後、通常の蛍光表示管工程で管球化を行なった。得られた蛍光表示管の初期輝度を測定した。結果を図3に示す。図3において、導電性酸化物添加量(wt%)は添加された導電性酸化物微粒子の重量%を表す。また導電性酸化物微粒子の添加量として最適値の比較例5で得られた蛍光体の寿命試験を行ない初期輝度と5000時間後の輝度を測定した。5000時間後の輝度を初期輝度に対する輝度維持率(%)として表した。結果を表1に示す。
【0018】
比較例7〜比較例9
ZnS:Mn蛍光体(平均粒子径3μm)に平均粒子径0.1μmのIn23微粒子を添加し、有機溶媒中で超音波混合し乾燥した。In23微粒子の添加量として、比較例7は6重量%、比較例8は8重量%、比較例9は10重量%である。
上記蛍光体と、印刷用ビークルとを混合し、印刷用蛍光体ペーストを作製し、蛍光表示管の陽極上にスクリーン印刷塗布した後、通常の蛍光表示管工程で管球化を行なった。得られた蛍光表示管の初期輝度を測定した。結果を図3に示す。図3において、導電性酸化物添加量(wt%)は添加された導電性酸化物微粒子の重量%を表す。また導電性酸化物微粒子の添加量として最適値の比較例8で得られた蛍光体の寿命試験を行ない初期輝度と5000時間後の輝度を測定した。5000時間後の輝度を初期輝度に対する輝度維持率(%)として表した。結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の低速電子線用蛍光体は、従来蛍光表示管には使用されていない高抵抗なZnS:Mnを使用できるので、カドミウムフリーで地球環境の負荷物質とならない。また、初期輝度および輝度寿命特性に優れるので、蛍光表示管に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】蛍光表示管の断面図である。
【図2】陽極基板の部分拡大断面図である。
【図3】蛍光表示管の初期輝度を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 蛍光表示管
2 ガラス基板
3 配線層
4 絶縁層
5 陽極電極
6 蛍光体層
7 陽極基板
8 グリット
9 陰極
10 フェースガラス
11 スペーサガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnS:Mnで表される無機物粒子からなる低速電子線用蛍光体であって、前記無機物粒子の表面に導電性酸化物層が被覆され、さらに平均粒子径0.01〜0.5μmの導電性酸化物微粒子が添加されてなることを特徴とする低速電子線用蛍光体。
【請求項2】
前記導電性酸化物層は、In23、ZnO、SnO2およびこれらの化合物から選ばれた少なくとも1つの導電性酸化物の層であることを特徴とする請求項1記載の低速電子線用蛍光体。
【請求項3】
真空容器内に形成された蛍光体層に低速電子線を射突させて発光させる蛍光表示管において、
前記蛍光体層が請求項1または請求項2記載の低速電子線用蛍光体で形成されてなることを特徴とする蛍光表示管。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−221446(P2009−221446A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70650(P2008−70650)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000117940)ノリタケ伊勢電子株式会社 (38)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】