説明

低音増強装置

【課題】スピーカやそれを駆動するパワーアンプを大型化することなく、スピーカの低域周波数特性の低下を補償し低音感を増強する低音増強装置を提供する。
【解決手段】位相反転手段3と第1の低域通過フィルタ4でスピーカの再生周波数帯域外の低域信号を抽出し、前記抽出された信号に高調波生成手段5で入出力特性が原点上を通り、原点以外の少なくとも1箇所以上に折れ点を有する原点非対称な非線形演算を施し、前記非線形演算を施された信号と、前記抽出された信号をそれぞれ適当な倍率にて減算処理を行うことにより、基本波を減衰させて第2次高調波と第3次高調波を生成し、前記生成した高調波を原信号に加算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカやそれを駆動するパワーアンプを大型化することなく、スピーカの低域周波数特性の低下を聴覚的に補償し低音感を増強する低音増強装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年オーディオ機器の小型化が進み、特にスピーカの大きさの制約から十分な低域再生ができないないという問題を有していた。この問題を解決するために、低域は指向性があいまいであることを利用して、前方以外の位置にも設置可能な低域再生専用のスピーカとそれを駆動するパワーアンプを備えたシステムが販売されているが、設置場所を要するとか、高価である等の問題を有しており、また、このようなシステムにおいても小型化の要求が高まっている。
【0003】
スピーカの低域周波数特性の低下を補償し低音感を増強する方法として、最も簡単にはイコライザーを用いて低域のゲインを上昇させる方法がある。しかし、スピーカの再生周波数帯域外の低音感を増強するには、低域ゲインを大幅に上昇させる必要があり、大電力出力が必要となり、スピーカを駆動するパワーアンプが大型化するという問題を有している。また、それに伴ってスピーカの許容入力も大きくする必要があり、スピーカも大型化するという問題を有している。
【0004】
このような課題に対して、スピーカやそれを駆動するパワーアンプを大型化することなく、スピーカの再生周波数帯域外の低音感を増強する方法として、スピーカの再生周波数帯域外の低域信号を抽出し、その高調波を付加する方法が特許文献1に示されている。図15は特許文献1に示されている低音増強装置のブロック図であって、以下、図15を用いて従来の低音増強装置を説明する。
【0005】
まず、装置に入力された左右の音声信号は第2の加算手段32に入力され、左右の信号が加算される。第2の加算手段32から出力された信号は第1の低域通過フィルタ33に入力され、スピーカの再生周波数帯域外の低域信号が抽出される。第1の低域通過フィルタ33から出力された信号は、高調波生成手段34である全波整流器35に入力され、入出力特性が出力軸に対して対称な偶関数であるため、主に第2次高調波に変換される。全波整流器35から出力された信号は、第2の低域通過フィルタ36に入力され、第2次高調波以外の高調波がカットされ、第2次高調波のみが抽出される。第2の低域通過フィルタ36から出力された信号は、第1の加算手段37、38に入力され、装置に入力された左右信号に加算される。このようにして、入力された音声信号に対して、スピーカの再生周波数帯域外の低域信号の第2次高調波を付加することができる。
【0006】
また、生成する高調波レベルを制御する方法として、抽出した信号にオフセットを与えた後に正負各半波成分にそれぞれ適当な値を乗じた信号を、抽出した信号に加算して高調波を生成する方法が特許文献2に示されている。
【特許文献1】特開平8−237800号公報
【特許文献2】特許第3462590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は第2次高調波のみを付加するものである。音響心理学において、基音(基本波)が発せられず、その高調波のみが発せられる場合でも、人間は基音を感じることができることが知られている。例えば、70Hz以下を再生できないスピーカにおいて、50Hzの第2次高調波、および第3次高調波である100Hz、150Hzを付加して再生した場合、人間は50Hzの基音を感じることができる。しかしながら、第2次高調波、および第4次高調波である100Hz、200Hzを付加して再生した場合は、100Hzを基音、200Hzを第2次高調波であると誤認識し、基音である50Hzを感じることができない。また、第2次高調波である100Hzのみを再生した場合、100Hzを基音と誤認識し、基音である50Hzを感じることができない。このように、音響心理学を応用して、スピーカの低域周波数特性の低下を補償し低音感を増強するためには、第2次高調波および第3次高調波を付加する必要がある。
【0008】
このように第2次高調波を主体とした偶数次高調波のみを付加する特許文献1の方法は、スピーカの再生周波数帯域外の基音の低音感を増強する効果が弱いという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法を実現するためには回路の規模が大きくなり、また抽出した信号から高調波だけでなく基本波も生成されるという問題を有している。
【0010】
本発明の基本的な概念は、図14のようにスピーカの再生周波数特性の低域が、基本波の範囲まで伸びていないものにおいて、原信号の基本波の第2次高調波、第3次高調波を発生させることによって、あたかも基本波が存在するように認識させ、スピーカやそれを駆動するパワーアンプを大型化することなく、スピーカの低域周波数特性の低下を補償し低音感を増強する低音増強装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的に対応するため、本発明の低音増強装置は、スピーカやそれを駆動するパワーアンプを大型化することなく、スピーカの低域周波数特性の低下を補償し低音感を増強するため、スピーカの再生周波数帯域外の低域信号を抽出し、当該抽出された信号に入出力特性が原点上を通り、原点以外の少なくとも1箇所以上に折れ点を有する原点非対称な非線形演算を施し、当該非線形演算を施された信号と、前記抽出された信号をそれぞれ適当な倍率にて減算処理を行うことにより、基本波を減衰させて第2次高調波と第3次高調波を含んだ高調波を生成し、当該生成した高調波を原信号に加算することで、
入力信号レベルが大きい場合にはスピーカの再生周波数帯域外の低域信号の第2次高調波と第3次高調波を含んだ高調波を付加し、入力信号レベルが小さい場合には低域ゲインを増大させることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の低音増強装置は、スピーカの低域周波数特性の低下する帯域に含まれる低域信号に対して上記の処理を行うことにより、基本波を減衰させて第2次高調波と第3次高調波を含んだ高調波を生成し、当該生成した高調波を原信号に加算することにより、
小規模な演算で、入力信号レベルが大きい場合にはスピーカの再生周波数帯域外の低域信号の第2次高調波と第3次高調波を含んだ高調波を付加し、入力信号レベルが小さい場合には低域ゲインが増大し、ローコストで、スピーカやそれを駆動するパワーアンプを大型化することなく、スピーカの低域周波数特性の低下を補償し低音感を増強できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における低音増強装置のブロック図、図2は同じくその反転加算増幅器の回路図、図3は同じくその非線形演算手段の回路図、図4は同じく図3の非線形演算手段の入出力特性図、図5は同じく図3の非線形演算手段に単一正弦波を入力した場合のスペクトラム図、図6は同じく高調波生成手段の回路図、図7は同じく図6の高調波生成手段の入出力特性図、図8は同じく図6の高調波生成手段に単一正弦波を入力した場合のスペクトラム図である。
【0014】
以下、図1、図2〜図8を用いて、本発明の低音増強装置を説明する。まず、低音増強装置に入力された左右の音声信号は、入力端子T1、T2からそれぞれ第1の加算手段11、12へ入力される信号と、高調波付加部1に入力される信号の2つに分岐される。
【0015】
高調波付加部1は、第2の加算手段2、位相反転手段3、第1の低域通過フィルタ4、高調波生成手段5、第2の低域通過フィルタ10で構成しており、高調波付加部1に入力された左右の音声信号は、第2の加算手段2に入力され加算される。第2の加算手段2から出力された信号は、位相反転手段3に入力され位相が反転される。
【0016】
図2は反転加算増幅器の回路図であり、第2の加算手段2と位相反転手段3の作用を兼用している。抵抗器R11とR12の各一端には音声信号が加えられて加算されてIC11の反転入力端に入力され、IC11の非反転入力は接地されている。また、出力端から反転入力端に抵抗器R13が接続されている。
【0017】
位相反転手段3から出力された信号は、第1の低域通過フィルタ4に入力され、スピーカの再生周波数帯域外の低域信号を抽出するように遮断周波数を設定する。回路規模を増大させないために、第1の低域通過フィルタ4は2次のものを使用する。ここで、第1の低域通過フィルタ4により通過帯域では位相の遅れはなく、遮断帯域では位相が180°遅れる。位相反転手段3による位相反転作用を含めると、第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数以下の帯域であるスピーカの再生周波数帯域外の低域では位相が180°進み、第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数以上の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の帯域では位相の遅れはない。
【0018】
第1の低域通過フィルタ4から出力された信号は、高調波生成手段5に入力される。高調波生成手段5は、非線形演算手段6、第1の係数器7、第2の係数器8、線形演算手段9で構成する。
【0019】
非線形演算手段6は、その入出力特性が原点上を通り、原点以外の少なくとも1箇所以上に折れ点を有し、原点非対称となるように正負非対称なリミッタ回路で構成する。その1例を示す図3の非線形演算手段6の回路図では、抵抗器R21と直列に接続した、抵抗器R20とダイオードD21の並列回路を用いたダイオードリミッタ回路の構成となっている。ここで、入力電圧が負の一定電圧以下の場合、図4に示すようにダイオードD21が導通状態となり出力振幅が制限される。これにより入出力特性が原点上を通り、原点非対称かつ出力軸に対して非対称な特性となり、奇数次高調波と偶数次高調波を生成することができる。
【0020】
非線形演算手段6に単一正弦波を入力した場合のスペクトラムは、図5に示すように、非線形演算手段6から出力された信号には、非線形演算手段6に入力された信号と同一周波数信号である基本波も含まれている。ここで、基本波が多く含まれていると、その信号が高周波付加部1より出力される際に、後述する第1の加算手段11、12に入力端子T1、T2より入力された音声信号と加算され、スピーカの再生周波数帯域外の低域信号であるにもかかわらず、ゲインが増大して装置から出力され、大出力時にスピーカやそれを駆動するアンプの負担となる。
【0021】
そこで、第1の係数器7により非線型演算手段6に入力される信号に所定の倍率を乗じ、第2の係数器8により非線型演算手段6から出力される信号に所定の倍率を乗じ、線形演算手段9により第2の係数器8から出力される信号から第1の係数器7から出力される信号を減算することにより、非線型演算手段6から出力された信号に含まれる基本波を減衰させる。これにより、高調波生成手段5は、基本波の信号レベルが小さく、第2次高調波と第3次高調波を含んだ高調波を生成することができる。
【0022】
図6に示す高調波生成手段5の回路図は、線形演算手段9に差動増幅器を用いた例を示す。第1の係数器7は抵抗器R24、R25、第2の係数器8は抵抗器R22、R23で係数を設定している。線形演算手段9は、差動増幅器はIC21、抵抗器R26、R27で構成され、第1の係数器7の出力をIC21の反転入力側に、第2の係数器8の出力を非反転入力側に接続して、後者から前者を減算するように構成する。高調波生成手段5の入出力特性を図7に、高調波生成手段5に単一正弦波を入力したときのスペクトラムを図8に示す。図8から、高調波生成手段5から基本波の信号レベルが小さくなって出力されていることが分かる。
【0023】
図7から分かるように、高調波生成手段5は、入出力特性が原点上を通り、原点以外の少なくとも1箇所以上に折れ点を有し、原点非対称であり、入力信号レベルの絶対値が一定値以下の場合は線形特性を有し、入力信号レベルの絶対値が一定値以上の場合は、負入力時で、入出力特性が入力軸に交差する方向に折り返す特性を有している。このため、入力信号レベルが小さい場合は、線形性が保たれて、振幅は抑圧されずに高調波も生成されない。一方、入力信号レベルが大きい場合は、負入力電圧の信号は正出力電圧に折り返して出力され、ピーク・トゥ・ピーク振幅は抑圧されるとともに高調波が生成される。
【0024】
すなわち、高調波生成手段5に入力される信号レベルが大きい場合は、入力信号レベルに対する基本波レベルが小さく、高調波レベルが大きくなる。いっぽう、高調波生成手段5に入力される信号レベルが小さい場合は、入力信号レベルに対する基本波レベルが大きく、高調波レベルが小さくなる。
【0025】
高調波生成手段5に入力される信号レベルが最大となるときに、線形演算手段9により基本波が最も減衰するように、第1の係数器7および第2の係数器8の係数を設定することにより、高調波生成手段5に入力される信号レベルが最大の場合は、基本波レベルが小さくなり高調波が生成される。そして、高調波生成手段5に入力される信号レベルが小さくなるにつれ、入力信号レベルに対する基本波レベルが大きく、高調波レベルは小さくなる。
【0026】
第1の低域通過フィルタ4を比較的緩やかな特性である2次のもので構成したため、第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数以下の帯域であるスピーカの再生周波数帯域外の低域信号だけでなく、第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数以上の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の低域信号も抽出される。ただし、スピーカの再生周波数帯域外の信号レベルに比べてスピーカの再生周波数帯域内の信号レベルは小さくなる。
したがって、高調波生成手段5に入力される信号レベルが大きい場合は、第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数以下の帯域であるスピーカの再生周波数帯域外の低域信号は、信号レベルが大きいため第2次高調波と第3次高調波を含んだ高調波に変換される。第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数以上の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の低域信号は、周波数が高くなるにつれ信号レベルが小さくなるため、生成される高調波の比率が小さくなるとともに、基本波の比率が大きくなる。なお、位相反転手段3により第1の低域通過フィルタ4の位相遅れを補償しているため、基本波の位相の遅れはない。
また、高調波生成手段5に入力される信号レベルが小さい場合は、帯域に関係なく高調波が生成されずに通過するが、信号レベルは第1の低域通過フィルタ4の減衰特性にしたがって周波数が高くなるにつれ小さくなる。
【0027】
高調波生成手段5から出力された信号は、第2の低域通過フィルタ10に入力され、不要な高調波がカットされ、必要な帯域の高調波が抽出される。第2の低域通過フィルタ10の遮断周波数は、第1の低域通過フィルタ4で抽出した低域信号の第3次高調波までを抽出するために、第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数の約3倍に設定する。回路規模を増大させないために、第2の低域通過フィルタ10は2次のものを使用する。
【0028】
第2の低域通過フィルタ10により、通過帯域では位相の遅れはなく、遮断帯域では位相が180°遅れる。位相反転手段3と第1の低域通過フィルタ4による位相変化を含めると、第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数以下の帯域であるスピーカの再生周波数帯域外の低域では位相が180°進み、第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数と第2の低域通過フィルタ10の遮断周波数との間の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の低域では位相の遅れはなく、第2の低域通過フィルタ10の遮断周波数以上の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の中低域では位相が180°遅れることになる。
【0029】
高調波付加部1に入力される信号レベルが大きい場合は、第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数以下の帯域であるスピーカの再生周波数帯域外の低域信号は、第2次高調波と第3次高調波を含んだ高調波に変換される。第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数と第2の低域通過フィルタ10の遮断周波数との間の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の低域信号は、周波数が高くなるにつれ生成される高調波の比率が小さくなるとともに、基本波の比率が大きくなる。なお、基本波の位相の遅れはない。第2の低域通過フィルタ10の遮断周波数以上の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の中低域信号は、信号レベルが小さくなり位相が180°遅れて通過する。
【0030】
高調波付加部1に入力される信号レベルが小さい場合は、第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数以下の帯域であるスピーカの再生周波数帯域外の低域信号は、位相が180°進み通過する。第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数と第2の低域通過フィルタ10の遮断周波数との間の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の低域信号は、信号レベルが小さくなり位相の遅れがなく基本波のまま通過する。第2の低域通過フィルタ10の遮断周波数以上の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の中低域信号は、さらに信号レベルが小さくなり位相が180°遅れて通過する。
【0031】
高調波付加部1の最終段である第2の低域通過フィルタ10から出力された信号は、第1の加算手段11、12に入力され、入力端子T1、T2に入力された左右信号にそれぞれ加算される。
【0032】
第1の加算手段11、12の出力は、入力信号レベルが大きい場合、第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数以下の帯域であるスピーカの再生周波数帯域外の低域信号は、第2次高調波と第3次高調波を含んだ高調波が付加される。第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数と第2の低域通過フィルタ10の遮断周波数との間の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の低域信号は、第2次高調波と第3次高調波を含んだ高調波が若干付加されるとともに基本波の信号レベルが若干大きくなって出力される。第2の低域通過フィルタ10の遮断周波数以上の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の中低域信号は、高調波付加部1から位相が180°遅れて出力されるが信号レベルが小さいため、第1の加算手段11、12から出力される信号にほとんど影響を与えない。
【0033】
第1の加算手段11、12の出力は、入力信号レベルが小さい場合、第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数以下の帯域であるスピーカの再生周波数帯域外の低域信号は、高調波付加部1から位相が180°進んで出力されるため、信号レベルが小さくなって出力される。第1の低域通過フィルタ4の遮断周波数と第2の低域通過フィルタ10の遮断周波数との間の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の低域信号は、高調波付加部1から位相の遅れがなく出力されるため、信号レベルが大きくなって出力される。第2の低域通過フィルタ10の遮断周波数以上の帯域であるスピーカの再生周波数帯域内の中低域信号は、高調波付加部1から位相が180°遅れて出力されるが信号レベルが小さいため、第1の加算手段11、12から出力される信号にほとんど影響を与えない。
【0034】
このようにして、装置に入力された音声信号に対して、入力信号レベルが大きい場合にはスピーカの再生周波数帯域外の低域信号の第2次高調波と第3次高調波を含んだ高調波を付加し、入力信号レベルが小さい場合には低域ゲインが増大するため、スピーカやそれを駆動するパワーアンプを大型化することなく、スピーカの低域周波数特性の低下を補償し低音感を増強できることとなる。
【0035】
(実施の形態2)
図9は本発明の実施の形態2における低音増強装置のブロック図である。
【0036】
以下、図9を用いて説明する。なお、実施の形態1と同様の部分については説明を省略するが、実施の形態1に音量調節手段13、14、付加量調節手段15、第1のフィルタ特性切り替え手段16、第2のフィルタ特性切り替え手段17、制御手段18、音声判別手段19、再生手段20を追加して構成したものである。
【0037】
まず、低音増強装置に入力された左右の音声信号は、音量調節手段13、14に入力され音量が調節される。音量調節手段13、14は電子ボリュームで構成する。制御手段18は、音量調節手段13、14に対して音量調節の指示を行う。
本発明低音増強装置は、実施の形態1において説明したように、入力信号レベルが小さい場合には低域ゲインが増大するが、音量調節手段13、14を第2の加算手段2および第1の加算手段11、12の前段に配置したことにより、小音量時の低域ゲイン増大の効果が大きくなる。
【0038】
音量調節手段13、14から出力された左右の音声信号は、それぞれ第1の加算手段11、12へ入力される信号と、高調波付加部1に入力される信号の2つに分岐される。
【0039】
高調波付加部1は第2の加算手段2、位相反転手段3、第1の低域通過フィルタ4、高調波生成手段5、第2の低域通過フィルタ10、付加量調節手段15、第1のフィルタ特性切り替え手段16、第2のフィルタ特性切り替え手段17で構成する。
【0040】
付加量調節手段15は、第2の低域通過フィルタ10から出力された信号の大きさを調節するもので、電子ボリュームで構成する。制御手段18は、付加量調節手段15に対して付加量調節の指示を行う。
第1のフィルタ特性切り替え手段16は、第1の低域通過フィルタ4の通過特性を切り替えるためのもので、第1の低域通過フィルタ4の定数を切り替えるように構成する。制御手段18は、第1のフィルタ特性切り替え手段16に対してフィルタ特性切り替えの指示を行う。
【0041】
第2のフィルタ特性切り替え手段17は、第2の低域通過フィルタ10の通過特性を切り替えるためのもので、第2の低域通過フィルタ10の定数を切り替えるように構成する。制御手段18は、第2のフィルタ特性切り替え手段17に対してフィルタ特性切り替えの指示を行う。
ここでは制御手段を1つとして説明したが、個別の制御手段で制御してもよい。
【0042】
装置に入力される音声信号の種類に応じて最適な補正を行うために、入力される音声が記録されている媒体とその媒体に含まれる音声のチャンネル数を判別する音声判別手段19を備え、音声の種類に関する情報を制御手段18に伝達する。音声判別手段19は、再生手段20により再生され、装置に入力される音声が記録されている媒体のTOC情報などの認識情報から、音声が記録されている媒体、すなわちCDであるかDVDビデオであるかDVDオーディオであるか等を判別する。また、その媒体に含まれる音声のチャンネル数、すなわち2チャンネル音源のみか、5.1チャンネル音源が含まれているかを判別する。そして、その結果を、制御手段18に伝達する。
【0043】
一般に音楽信号に比べ映画音声信号のほうが、より低い周波数の信号が多く含まれており、また、より強い低音増強効果が求められる。そこで、音声判別手段19から伝達された音声の種類に関する情報をもとに、制御手段18は、音声が記録されている媒体がDVDビデオであり、その媒体に5.1チャンネル音源が含まれている場合は他の場合に比べて、第1の低域通過フィルタ4、第2の低域通過フィルタ10の遮断周波数を低く設定するように、第1のフィルタ切り替え手段16、および第2のフィルタ切り替え手段17に指示を行い、さらに付加量を多くするように付加量調節手段15に指示を行う。この第1のフィルタ切り替え手段16、および第2のフィルタ切り替え手段17への指示と、付加量を多くするように付加量調節手段15への指示とは、いずれか、または両方同時に行ってもよい。
【0044】
これにより、装置に入力される音声信号の種類に応じて最適な補正を自動的に行うことができる。
【0045】
(実施の形態3)
図10は、本発明の実施の形態3における低音増強装置の高調波生成手段5の回路図、図11は同じくその非線形演算手段6の入出力特性図、図12は同じくその高調波生成手段5の入出力特性図、図13は同じくその高調波生成手段5に単一正弦波を入力した場合のスペクトラム図である。なお、低音増強装置の基本的な構成は実施の形態1で用いた図1と同様である。
【0046】
以下、図1、図10〜図13を用いて説明する。図10に示した高調波生成手段5は、ダイオードD31、D32による全波整流回路の前段増幅器IC31の帰還部に抵抗器R32を挿入して、全波整流器の折り返し点をシフトさせるとともに、各抵抗値の定数を正負ゲインが異なるように設定したものである。なお、第1の係数器7および第2の係数器8の係数は線形演算手段9の内部のゲインで設定している。R31〜R35は抵抗器である。またIC32、抵抗器R36、R37で構成した線形演算手段9自体は図6の9のものと同様である。
【0047】
図11は非線形演算手段6の入出力特性図であるが、実施の形態1における非線形演算手段6の入出力特性図である図4とは異なった特性である。実施の形態1においては、一定電圧以下の負入力電圧に対して振幅を抑制する特性であったが、実施の形態3においては、一定電圧以下の負入力電圧に対して振幅を拡張する特性である。
【0048】
そこで、図10では図6と異なり、高調波生成手段5への入力を線形演算手段9のIC32の非反転入力側に接続し、非線形演算手段6の出力を反転入力側に接続することで、前者から後者を減算し、図12の特性を得る。
【0049】
図12は高調波生成手段5の入出力特性図であるが、実施の形態1における高調波生成手段5の入出力特性図である図7と類似の特性となる。すなわち、入出力特性が原点上を通り、原点以外の少なくとも1箇所以上に折れ点を有し、原点非対称であり、入力信号レベルの絶対値が一定値以下の場合は線形特性を有し、入力信号レベルの絶対値が一定値以上の場合は負入力時で入出力特性が入力軸と交差する方向に折り返す特性を有している。
【0050】
図13は高調波生成手段5に単一正弦波を入力した場合のスペクトラム図であるが、実施の形態1における高調波生成手段5に単一正弦波を入力した場合のスペクトラムである図8と同様、基本波の信号レベルは抑制されており、第2次高調波と第3次高調波を含んだ高調波が生成されている。なお、高調波生成手段5に入力する信号レベルは、実施の形態1に比べ高く調節している。
【0051】
このように、本実施形態によれば、非線型演算手段6の入出力特性に関係なく、高調波生成手段5の入出力特性が原点上を通り、原点以外の少なくとも1箇所以上に折れ点を有し、原点非対称であり、入力信号レベルの絶対値が一定値以下の場合は線形特性を有し、入力信号レベルの絶対値が一定値以上の場合は負入力時で入出力特性が入力軸に交差する方向に折り返す特性を有しているならば、基本波の信号レベルが小さく、第2次高調波と第3次高調波を含んだ高調波を生成することができる。
【0052】
なお、上記各実施形態において、位相反転手段3の位置は例示の部分に限定せず、高調波付加部内のどの部分に配置しても差し支えない。あるいは、第1の加算手段11、12の前段に配置してもよい。
【0053】
また、位相反転手段3の作用と第1の加算手段11、12の作用を兼用し、第1の加算手段11、12を減算手段で構成してもよい。すなわち、上記各実施形態において、2つ以上の手段の作用が1つの手段で実現されても、1つの手段の作用が2つ以上の手段で実現されてもよい。
【0054】
さらに、入出力特性が原点上を通り、原点以外の少なくとも1箇所以上に折れ点を有し、原点非対称であり、入力信号レベルの絶対値が一定値以下の場合は線形特性を有し、入力信号レベルの絶対値が一定値以上の場合は、負入力時で入出力特性が入力軸に交差する方向に折り返す特性を得ることができるものであれば、ここに例示した回路に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明にかかる低音増強装置は、スピーカやそれを駆動するパワーアンプを大型化することが困難な小型ステレオ、テレビなどにおいて、スピーカからの低域周波数特性の低下を補償し低音感を増強する用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1および3における低音増強装置のブロック図
【図2】本発明の実施の形態1における反転加算増幅器の回路図
【図3】本発明の実施の形態1における非線形演算手段の回路図
【図4】本発明の実施の形態1における非線形演算手段の入出力特性図
【図5】本発明の実施の形態1における非線形演算手段に単一正弦波を入力した場合のスペクトラム図
【図6】本発明の実施の形態1における高調波生成手段の回路図
【図7】本発明の実施の形態1における高調波生成手段の入出力特性図
【図8】本発明の実施の形態1における高調波生成手段に単一正弦波を入力した場合のスペクトラム図
【図9】本発明の実施の形態2における低音増強装置のブロック図
【図10】本発明の実施の形態3における高調波生成手段の回路図
【図11】本発明の実施の形態3における非線形演算手段の入出力特性図
【図12】本発明の実施の形態3における高調波生成手段の入出力特性図
【図13】本発明の実施の形態3における高調波生成手段に単一正弦波を入力した場合のスペクトラム図
【図14】本発明の高調波付加の概念図
【図15】従来の低音増強装置のブロック図
【符号の説明】
【0057】
1 高調波付加部
2 第2の加算手段
3 位相反転手段
4 第1の低域通過フィルタ
5 高調波生成手段
6 非線形演算手段
7 第1の係数器
8 第2の係数器
9 線形演算手段
10 第2の低域通過フィルタ
11、12 第1の加算手段
13、14 音量調節手段
15 付加量調節手段
16 第1のフィルタ特性切り替え手段
17 第2のフィルタ特性切り替え手段
18 制御手段
19 音声判別手段
20 再生手段
31 高調波付加部
32 第2の加算手段
33 第1の低域通過フィルタ
34 高調波生成手段
35 全波整流器
36 第2の低域通過フィルタ
37、38 第1の加算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置に入力された信号の低域成分を抽出する第1の低域通過フィルタと、
前記第1の低域通過フィルタから出力された低域信号の高調波を生成する高調波生成手段と、
前記高調波生成手段から出力された信号の低域成分を抽出する第2の低域通過フィルタと、
前記第2の低域通過フィルタから出力された信号を前記入力された音声信号に加算し装置から信号を出力する第1の加算手段とを備え、
さらに前記高調波生成手段は、前記第1の低域通過フィルタから出力された低域信号に所定の係数を乗じる第1の係数器と、前記第1の低域通過フィルタから出力された低域信号に対して非線形演算を行う非線形演算手段と、前記非線形演算手段から出力された信号に所定の係数を乗じる第2の係数器と、前記第1の係数器から出力された信号と前記第2の係数器から出力された信号に対して加算または減算の処理を行って、前記非線形演算手段から出力された信号より前記第1の低域通過フィルタから出力された低域信号を減衰させる線形演算手段とを備え、
前記非線形演算手段は、その入出力特性が原点上を通り、原点以外の少なくとも1箇所以上に折れ点を有し、原点非対称であることを特徴とする低音増強装置。
【請求項2】
装置に入力された複数チャンネルの音声信号を加算する第2の加算手段と、
前記第2の加算手段から出力された信号の低域成分を抽出する第1の低域通過フィルタと、
前記第1の低域通過フィルタから出力された低域信号の高調波を生成する高調波生成手段と、
前記高調波生成手段から出力された信号の低域成分を抽出する第2の低域通過フィルタと、
前記第2の低域通過フィルタから出力された信号を前記入力された音声信号に加算し装置から信号を出力する第1の加算手段とを備え、
さらに前記高調波生成手段は、前記第1の低域通過フィルタから出力された低域信号に所定の係数を乗じる第1の係数器と、前記第1の低域通過フィルタから出力された低域信号に対して非線形演算を行う非線形演算手段と、前記非線形演算手段から出力された信号に所定の係数を乗じる第2の係数器と、前記第1の係数器から出力された信号と前記第2の係数器から出力された信号に対して加算または減算の処理を行って、前記非線形演算手段から出力された信号より前記第1の低域通過フィルタから出力された低域信号を減衰させる線形演算手段とを備え、
前記非線形演算手段は、その入出力特性が原点上を通り、原点以外の少なくとも1箇所以上に折れ点を有し、原点非対称であることを特徴とする低音増強装置。
【請求項3】
前記非線形演算手段は、正負非対称なリミッタ回路で構成したことを特徴とする請求項1または2記載の低音増強装置。
【請求項4】
装置に入力された信号の低域成分を抽出する第1の低域通過フィルタと、
前記第1の低域通過フィルタから出力された低域信号の高調波を生成する高調波生成手段と、
前記高調波生成手段から出力された信号の低域成分を抽出する第2の低域通過フィルタと、
前記第2の低域通過フィルタから出力された信号を前記入力された音声信号に加算し装置から信号を出力する第1の加算手段とを備え、
前記高調波生成手段は、その入出力特性が原点上を通り、原点以外の少なくとも1箇所以上に折れ点を有し、原点非対称であり、
入力信号レベルの絶対値が一定値以下の場合は線形特性を有し、
入力信号レベルの絶対値が一定値以上の場合は、正入力時もしくは負入力時の少なくとも一方で、入出力特性が入力軸と交差する方向に折り返す特性を有することを特徴とする低音増強装置。
【請求項5】
装置に入力された複数チャンネルの音声信号を加算する第2の加算手段と、
前記第2の加算手段から出力された信号の低域成分を抽出する第1の低域通過フィルタと、
前記第1の低域通過フィルタから出力された低域信号の高調波を生成する高調波生成手段と、
前記高調波生成手段から出力された信号の低域成分を抽出する第2の低域通過フィルタと、
前記第2の低域通過フィルタから出力された信号を前記入力された音声信号に加算し装置から信号を出力する第1の加算手段とを備え、
前記高調波生成手段は、その入出力特性が原点上を通り、原点以外の少なくとも1箇所以上に折れ点を有し、原点非対称であり、
入力信号レベルの絶対値が一定値以下の場合は線形特性を有し、
入力信号レベルの絶対値が一定値以上の場合は、正入力時もしくは負入力時の少なくとも一方で、入出力特性が入力軸と交差する方向に折り返す特性を有することを特徴とする低音増強装置。
【請求項6】
前記第2の加算手段、前記第1の低域通過フィルタ、前記高調波生成手段、前記第2の低域通過フィルタとからなる高調波付加部の位相を反転する位相反転手段を備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の低音増強装置。
【請求項7】
前記第1の低域通過フィルタを2次のフィルタで構成したことを特徴とする、請求項6に記載の低音増強装置。
【請求項8】
装置に入力された複数チャンネルの音声信号の音量を調節する音量調節手段を、前記第1の加算手段および前記第2の加算手段より前段に備えたことを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の低音増強装置。
【請求項9】
前記第1の低域通過フィルタの通過特性を切り替える第1のフィルタ特性切り替え手段と、
前記第1のフィルタ特性切り替え手段に対し特性切り替えの指示を行う制御手段と、
前記第2の低域通過フィルタの通過特性を切り替える第2のフィルタ特性切り替え手段と、
前記第2のフィルタ特性切り替え手段に対し特性切り替えの指示を行う制御手段と、
前記高調波付加部から出力される信号の音量を調節する付加量調節手段と、
前記付加量調節手段に対し付加量調節の指示を行う制御手段と、
入力される音声が記録されている媒体とその媒体に含まれる音声のチャンネル数を判別する音声判別手段とをさらに備え、
前記第1の低域通過フィルタの通過特性、または前記第2の低域通過フィルタの通過特性、または前記付加量調節手段の付加量のうち少なくとも1つを、入力される音声の種類に応じて自動的に切り替えるように構成したことを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の低音増強装置。
【請求項10】
入力される音声が記録されている媒体がDVDビデオであり、その媒体に5.1チャンネル音源が含まれている場合は他の場合に比べて、前記第1の低域通過フィルタの遮断周波数および前記第2の低域通過フィルタの遮断周波数を低い周波数に切り替える、または前記付加量調節手段の付加量を多くするように構成したことを特徴とする請求項9記載の低音増強装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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