説明

住宅内環境ナビゲーションシステム

【課題】居住者が自然の変化を的確に把握し、より積極的に自然と関わり合って、環境負荷の小さい生活様式を実現できるような住宅内環境ナビゲーションシステムを提供する。
【解決手段】本発明の住宅内環境ナビゲーションシステムは、屋内環境計測手段101、屋外環境計測手段102、屋内設備監視手段103、エネルギー監視手段104等によって収集されたデータを基に、最適環境提案手段105が屋内環境の最適化条件を演算して屋内設備をどのように作動させるかの提案情報を作成し、この提案情報を案内表示手段106に表示して、居住者が表示された提案情報に従って主体的に屋内の空調・換気機器、通風用開口部、窓の日射遮蔽装置等を作動させうるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅の屋内環境を居住者の好みに応じて最適化しうるよう、居住者に対して空調機器のON・OFFや窓の開閉等の指示を与えるように構成された住宅内環境ナビゲーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、住宅等の屋内環境を快適化するための空調制御技術が種々提案されている。
【0003】
特許文献1には、屋内の温湿度や在室人数、屋外の温湿度、日射量等の複合的な環境状態を検出して空調負荷を予測し、これに基づいて空調の制御目標を決定し、決定された制御目標に基づいて空調機器や換気装置等の制御量を演算し、該当する機器に対して制御信号を出力するように構成された制御技術が記載されている。
【0004】
特許文献2には、屋内温度と屋外温度を検出して空調機器の運転を自動制御する装置において、居住者が快適と感じる設定温度を季節ごとに補正する技術や、屋内外の温度や冷暖房状況に応じて熱交換型換気装置を選択的に利用する制御技術が記載されている。
【0005】
特許文献3には、屋内温度と屋外温度を検出して複数の空調機器や送風機の運転を自動制御する装置において、設定温度に季節性を加味してヒートショックの少ない健康的な屋内環境を創出するとともに、空調に要するエネルギー消費量を抑制する技術が記載されている。
【0006】
特許文献4には、外気の温湿度や風力を検出して、その状況に応じ、窓等に設けた外気導入通路を自動的に開閉する制御装置や、該制御装置の駆動力の一部に太陽電池による電力を利用することが記載されている。
【特許文献1】特開平5−264086号公報
【特許文献2】特開平6−185785号公報
【特許文献3】特開2003−83586号公報
【特許文献4】特開平10−184193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、屋内外の環境条件をセンサ等で検出し、これに季節性等の諸条件を加味して最適の制御目標値を演算し、その制御目標値に近づけるべく複数の空調機器類や換気装置類の駆動を自動制御するシステムは、居住者が何もしなくてよいという利便性を生み出す反面、制御機器への依存度を高めすぎて、居住者に自然の気候変化から乖離した生活様式を強いることになりがちである。また、制御プログラムにおいて、居住者の体質や好み、あるいは地域ごとの気象特性といったきめ細かい制御条件を反映させることも現実的には難しい。
【0008】
さらに、上記のように複数の機器類を自動制御するシステムにあって、機器類を駆動させるために常時一定の動力が必要となるので、その分だけ、省エネルギー効果が損なわれるという問題もある。
【0009】
近年では、環境に対する意識の高まりから、より自然と調和した省エネルギー型の生活様式が望まれる傾向にある。特に気候の温暖なわが国においては、自然の風を屋内に取り込み、自然の変化を体感しながら、できるだけ機械式空調に依存せず、環境に対して負荷の小さい生活様式を実現するのが好ましい。本発明は、このような理念に基づいてなされたものであって、居住者が自然の変化を的確に把握し、より積極的に自然と関わり合って、環境への負荷が小さい生活様式を実現できるような住宅内環境ナビゲーションシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明の住宅内環境ナビゲーションシステムは、屋内の温湿度や気流状態等を計測する屋内環境計測手段と、屋外の温湿度、日射量、降雨量、風向風速等を計測する屋外環境計測手段と、屋内の空調・換気機器、通風用開口部、窓の日射遮蔽装置等の作動状況を管理する屋内設備監視手段と、太陽光発電設備の発電効率や蓄電状況、雨水の貯留量、電気、ガス、水道の使用状況を監視するエネルギー監視手段と、上記各計測手段及び各監視手段によって収集されたデータを基に屋内環境の最適化条件を演算し、屋内設備をどのように組み合わせて作動させるかについて2種類以上のモード提案を行う最適環境提案手段と、上記最適環境提案手段による提案情報を、上記各計測手段及び各監視手段によって収集されたデータとともに視覚的に表示する案内表示手段とを備え、居住者が上記案内表示手段に表示された提案情報に従って主体的に屋内の空調・換気機器、通風用開口部、窓の日射遮蔽装置等を作動させうるように構成されたことを特徴とする。
【0011】
この発明は、屋内外の環境条件やエネルギー使用状況に基づき、最適環境提案手段が最も効率的な屋内設備の作動のさせ方を提示し、居住者がそれを見て、自らの判断により窓を開閉したり、空調機器の運転をON/OFFしたりするように構成されているので、居住者が盲目的に機械式空調に依存するのではなく、常時、自然の状態を確認しながら、環境への負荷が小さい住まい方を自分で考え、実践するようになり、居住者の環境意識を向上させることができる。
【0012】
この発明において、上記最適環境提案手段は、案内表示手段に表示した提案情報に基づいて居住者が実行した屋内設備の作動結果を、居住者の嗜好性因子として記憶し、この記憶情報を次回以降の最適化条件の演算に反映させるように設定されてもよい。
【0013】
また、上記最適環境提案手段は、居住者が居住者自身の体感による快適度を入力しうるように構成され、入力された時点の屋内環境と屋内設備の作動状況を上記快適度とともに居住者の嗜好性因子として記憶し、この記憶情報を次回以降の最適化条件の演算に反映させるように設定されてもよい。
【0014】
これらの構成によって最適環境提案手段が学習機能を備えることにより、機械的に演算される提案情報よりも、さらに居住者の嗜好性を反映させた、快適性の高い環境制御が可能になる。
【0015】
また、居住者が自動制御モードを選択した場合には、最適環境提案手段による提案情報に基づいて一部の屋内設備が自動的に作動するように設定されてもよい。この構成によると、例えば就寝時や外出時など、居住者自身が屋内設備をすぐに操作できないときであっても、急な降雨に対応して窓を閉めたり、急な日差しの変化に応じてブラインドを開閉したりといった、状況に応じての自動制御が可能になる。
【発明の効果】
【0016】
上述のように構成される本発明の住宅内環境ナビゲーションシステムによれば、最適環境提案手段が屋内設備の操作に関する選択肢を提示し、この選択肢を見て居住者が自らの判断により窓を開閉したり、空調機器の運転をON/OFFしたりするように構成されているので、居住者が盲目的に機械式空調に依存するのではなく、常時、自然の状態を確認しながら、環境への負荷が小さい住まい方を自分で考え、実践するようになり、居住者の環境意識を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0018】
図1及び図2は、本発明の住宅内環境ナビゲーションシステムを採用した住宅の一実施形態を示す。図1は住宅内の主要な空間構成を示した縦断面略図、図2は同じく断面斜視図である。
【0019】
例示した住宅1は、都市部の住宅密集地域に建築されることを想定した2階建て住宅である。この住宅の空間構成における主要な特徴は、南側に設けられたダブルスキン空間4と、北側に設けられた吹き抜け状の階段室7にある。
【0020】
ダブルスキン空間4は、室外側に設けられたアウタースキン2と、このアウタースキン2の室内側に所定間隔を隔てて設けられたインナースキン3とによって区画された居室空間である。アウタースキン2は、ガラス類がサッシに嵌め込まれて構成され、少なくとも各階の上部および下部に、突き出し窓等の開閉形式からなる通気窓21,22を備えている。また、インナースキン3は、例えばガラス類がサッシに嵌め込まれて構成された建具であり、引き違い式や引き込み式等の開閉形式で建て込まれて、室内側の居室6とダブルスキン空間4とを区画している。さらに、ダブルスキン空間4の天面部には、勾配を有するトップスキン5が設けられて、ダブルスキン空間4への採光が可能となっている。このトップスキン5にも、突き出し窓等の開閉形式からなる通気窓51が水上側に設けられて、ダブルスキン空間4への外気導入を可能にしている。アウタースキン2の室内側には、昇降及び遮光角度の調節が可能なブラインド23が配置され、強い日射を防ぐとともに近隣からの視線を遮りつつ、ダブルスキン空間4に太陽熱を取り込みやすくすることができるようになっている。
【0021】
ダブルスキン空間4において1階と2階とを区画している床面にはデッキ41が採用されている。デッキ41を配設することによって、2階から1階または1階から2階への通気が可能になり、また、2階に導入された太陽光を1階へ透過させることが可能になる。
【0022】
このダブルスキン空間4におけるアウタースキン2とインナースキン3との間隔は、人の往来を許容する程度の距離(具体的には1.5〜2m程度)に設定されている。これにより、このダブルスキン空間4自体を、古来の日本家屋における「縁側」のように、屋外の気候変化を感じやすい半屋外的な空間として利用することができるようになる。
【0023】
階段室7は、ダブルスキン空間4から離間した位置に設けられている。階段室7は、1階から屋上階までを貫通し、最上部は屋上階の塔屋71となされ、屋上階に面して開閉可能な開口部72が設けられている。塔屋71の天井部には、階段室7内の空気の屋外への排出を促す排気ファン73が設置されている。また、屋根面8は緑化可能な陸屋根となされている。
【0024】
このような階段室7が生み出す煙突効果により、住宅1内の暖気が上昇して流出し、その負圧によって居室6及びダブルスキン空間4に外気が流入する。外気は、アウタースキン2の通気窓21,22から流入し、開放されたインナースキン3を経て居室6へ送られ、居室6内を通過して階段室7を上昇し、階段室7上部の開口部から外部へ排気される。このような自然気流を住宅1内に生成することによって、気候のよい春季や秋季には、空調機器に頼らずとも快適な室内環境を創出することが可能になる。
【0025】
また、この住宅1には、エネルギーの自給手段として、太陽光発電設備91や、雨水貯留タンク92が設置されている。雨水貯留タンク92に貯留された雨水は、植栽用の散水等に利用される。
【0026】
図3は、この住宅に導入される住宅内環境ナビゲーションシステムのブロック構成を示す。本システムの主要な構成要素としては、屋内環境計測手段101、屋外環境計測手段102、屋内設備監視手段103、エネルギー監視手段104、最適環境提案手段105、案内表示手段106等が挙げられる。
【0027】
屋内環境計測手段101は、住宅内の適所に設置された温度センサ、湿度センサ、気流センサ、CO2 センサ等(図示せず)によって、屋内環境を常時計測する。
【0028】
屋外環境計測手段102は、外壁や屋上等に設置された温度センサ、湿度センサ、日射センサ、降雨センサ、風向風速センサ等(図示せず)によって、屋外環境を常時計測する。
【0029】
屋内設備監視手段103は、屋内の空調装置や換気機器、通気窓21,22,51その他の通風用開口部、ブラインド23その他の日射遮蔽装置等の作動状況を監視する。
【0030】
エネルギー監視手段104は、電気、ガス、水道の使用状況や、太陽光発電設備21の発電効率及び蓄電状況、雨水貯留タンク92における雨水の貯留量等を監視する。
【0031】
これらの監視手段103,104によって収集されるデータは、最適環境提案手段105に送信される。最適環境提案手段105では、予め設定された演算プログラムに基づいて各データを処理し、屋内環境を最適化するための条件を演算する。そして、その最適化条件を実現するためには屋内設備をどのように作動させるのがよいか、その好適な組み合わせについて2種類以上のモード提案を行う。このモードとは、例えば、できるだけ機械式空調に頼らず、自然の風を取り込んで暮らす「涼風モード」とか、例えば夜間、屋外との連通部分を閉鎖してエネルギー効率のよい機械式空調を組み合わせる「防犯モード」といった生活態様の選択肢である。
【0032】
最適環境提案手段105によって演算された、屋内環境を最適化するための提案情報は、案内表示手段106に設けられたディスプレイ装置(図示せず)に表示される。ディスプレイ装置は、例えば屋内の1階及び2階にある主要な居室の壁面等に設置される。提案情報の表示形式としては、例えば屋内各所の空調装置や換気機器、通風用開口部、日射遮蔽装置等を一覧表示し、それぞれの設備について「開」、「閉」、「入」、「切」、「ON」、「OFF」といった作動指示を表示する形態が実用的である。さらに、この案内表示手段106は、屋内環境を最適化するための提案情報だけでなく、上記各計測手段101.102や各監視手段103,104によって収集された現時点の環境状況データも、居住者の選択操作によって表示できるように設定されている。
【0033】
そして、居住者は、ディスプレイ装置に表示された提案情報や現時点の環境状況データを見て、自らの判断で窓の開閉や空調機器の運転内容等を決定し、操作する。この操作においては、居住者が実際に個々の窓を自身の手で開閉してもよいし、ディスプレイ装置に設けられたタッチパネル式スイッチ等からなる入力手段107を介して、窓の開閉や各設備の運転が遠隔制御されるようになっていてもよい。
【0034】
個々の屋内設備が操作されると、その操作結果は屋内設備監視手段103を通じてフィードバックされ、ディスプレイ装置に表示される。また、屋内設備の操作によって、エネルギー消費量や光熱費、CO2 の発生量がどのように変化するかといった情報についても表示させることができる。
【0035】
さらに、居住者が選択した屋内設備の操作結果は、最適環境提案手段105の内部に設けられた記憶部(図示せず)に、居住者の嗜好性因子として記憶される。また、屋内設備を操作した結果、居住者が快適性を体感できたかどうかについても、居住者自身が入力手段107を介して入力できるように設定され、その申告情報が居住者の嗜好性因子として記憶される。そして、これらの記憶情報が、次回以降の最適化条件の演算に反映されるようになっている。このような学習機能を具備することにより、使い込むほどに居住者の嗜好性を反映させた、快適性の高い環境制御が可能になる。
【0036】
さらに、最適環境提案手段105は、提案情報の提示だけでなく、場合によっては自動制御手段108を介して屋内設備を自動的に制御しうるようにも設定される。この設定切り替えも、入力手段107を通じて行われる。これにより、例えば就寝時や外出時など、居住者自身が屋内設備をすぐに操作できないときであっても、急な降雨に対応して窓を閉めたり、急な日差しの変化に応じてブラインドを開閉したりといった、状況に応じての自動制御が可能になる。
【0037】
さらには、例えば居住者の就寝時における体温や心拍数を生体センサ等によって監視し、生体センサが収集した生体情報に基づいて、屋内の温湿度や気流を自動制御しうるように設定することもできる。
【0038】
図4は、上記のような一連のデータ処理をフローチャート形式でまとめたものである。こうしたデータ処理手順を通じて、居住者は多面的な環境情報と行動指針を得ることができる。その結果、居住者は、環境やエネルギーに対する意識も向上して、環境負荷が小さく持続性の高い暮らし方を主体的に実践できる能力を獲得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態に係る住宅の空間構成を模式的に示した縦断面略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る住宅の空間構成を模式的に示した断面斜視図である。
【図3】本発明の住宅内環境ナビゲーションシステムのブロック構成図である。
【図4】本発明の住宅内環境ナビゲーションシステムによるデータ処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0040】
1 住宅
101 屋内環境計測手段
102 屋外環境計測手段
103 屋内設備監視手段
104 エネルギー監視手段
105 最適環境提案手段
106 案内表示手段
107 入力手段
108 自動制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋内の温湿度や気流状態等を計測する屋内環境計測手段と、
屋外の温湿度、日射量、降雨量、風向風速等を計測する屋外環境計測手段と、
屋内の空調・換気機器、通風用開口部、窓の日射遮蔽装置等の作動状況を管理する屋内設備監視手段と、
太陽光発電設備の発電効率や蓄電状況、雨水の貯留量、電気、ガス、水道の使用状況を監視するエネルギー監視手段と、
上記各計測手段及び各監視手段によって収集されたデータを基に屋内環境の最適化条件を演算し、屋内設備をどのように組み合わせて作動させるかについて2種類以上のモード提案を行う最適環境提案手段と、
上記最適環境提案手段による提案情報を、上記各計測手段及び各監視手段によって収集されたデータとともに視覚的に表示する案内表示手段とを備え、
居住者が上記案内表示手段に表示された提案情報に従って主体的に屋内の空調・換気機器、通風用開口部、窓の日射遮蔽装置等を作動させうるように構成された住宅内環境ナビゲーションシステム。
【請求項2】
最適環境提案手段は、案内表示手段に表示した提案情報に基づいて居住者が実行した屋内設備の作動結果を、居住者の嗜好性因子として記憶し、この記憶情報を次回以降の最適化条件の演算に反映させるように設定されたことを特徴とする請求項1に記載の住宅内環境ナビゲーションシステム。
【請求項3】
最適環境提案手段は、居住者が居住者自身の体感による快適度を入力しうるように構成され、入力された時点の屋内環境と屋内設備の作動状況を上記快適度とともに居住者の嗜好性因子として記憶し、この記憶情報を次回以降の最適化条件の演算に反映させるように設定されたことを特徴とする請求項1に記載の住宅内環境ナビゲーションシステム。
【請求項4】
居住者が自動制御モードを選択した場合に、最適環境提案手段による提案情報に基づいて一部の屋内設備が自動的に作動するように設定されたことを特徴とする請求項1に記載の住宅内環境ナビゲーションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−300428(P2006−300428A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123499(P2005−123499)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)
【Fターム(参考)】