説明

体外血液回路における血餅形成を防止するためのオリゴ糖の使用

【課題】体外血液回路を有する、例えば血液透析を受けている患者において、出血の危険性を高めることなく、血餅形成を有効且つ安全に阻害することができる薬剤の提供。
【解決手段】抗トロンビンIIIを介して作用する、第Xa因子の選択的阻害物質である、ウロン酸やグルコピラノシドなどを骨格とする合成オリゴ糖体である、静脈内投与及び抗凝固薬コーティング用に適した、体外血液回路を有する患者において血餅形成を防止するための薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外血液回路における血餅形成を防止する薬剤を製造するための特定のオリゴ糖の使用に関するものである。更に、本発明は、該使用のための薬剤組成物に関するものである。
【0002】
体外血液回路での血餅形成は防止する必要がある。さもなければ、血液が人工の表面に接触すると直ぐに血液凝固が生じてしまう。その救済策として、通常は、非分画化ヘパリン(UFH)または低分子量ヘパリン(LMWH)が抗凝固薬として用いられる。
【0003】
UFHとLMWHは共に血液凝固カスケードの幾つかの段階に影響を及ぼし、共に第Xa因子とトロンビン(第IIa因子)を阻害する。第Xa因子はトロンビンの生成を触媒し、次いでトロンビンは凝固カスケードの最終ステップを調節する。トロンビンの主要な機能はフィブリノーゲンを開裂してフィブリンモノマーを生成することであり、これらのフィブリンモノマーが架橋して不溶性のゲルを形成し、これにより血栓形成が惹起される。UFHとLMWHは血栓溶解特性を有しており、即ち、それらは形成された血栓の溶解を誘発する。
【0004】
UFH及びLMWHとは反対に、幾つかの合成オリゴ糖、特にEP 84,999及びUS 5,378,829に記載されているオリゴ糖は、抗トロンビンIII(ATIII)を介して第Xa因子を高度に選択的に阻害するが、トロンビンに対する活性は有していない。しかし、トロンビンを阻害する能力や血栓溶解を促進する能力を持っていないにもかかわらず、これらのオリゴ糖は、例えば体外血液回路で生じる血栓形成を阻害するように思われた。このようにして、驚くべきことに、抗トロンビンIIIを介して作用する、第Xa因子の選択的阻害物質である合成オリゴ糖は、体外血液回路を有する患者における血餅形成を防止するのに有用であることが発見された。
【0005】
本発明に従うオリゴ糖を使用することにより、出血の危険性を高めることなく、例えば血液透析を受けている患者の血餅形成を有効且つ安全に阻害することができる。
【0006】
本発明による使用に適したオリゴ糖は、下記構造式を有する メチルO−(2−デオキシ−2−スルホアミノ−6−O−スルホ−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−O−(2−デオキシ−2−スルホアミノ−3,6−ジ−O−スルホ−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(2−O−スルホ−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−2−デオキシ−2−スルホアミノ−6−O−スルホ−α−D−グルコピラノシドで表される五糖またはそれらの薬剤学的に許容可能な塩(即ち、水素等の対イオンを有する塩や、より好適には、ナトリウム、カルシウム、またはマグネシウム等のアルカリあるいはアルカリ土類金属イオンを有する塩)である。
【0007】
【化1】

【0008】
特に好適なものは、コード名Org 31540またはSR 90107A(Chemical Synthesis to Glycosaminoglycans、Supplement to Nature 1991年、350、30−33に記載)により既知の、その十ナトリウム塩である。
【0009】
他の有利な五糖は、下記構造式を有するメチルO−(3,4−ジ−O−メチル−2,6−ジ−O−スルホ−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(3−O−メチル−2−O−スルホ−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−O−(2,3,6−トリ−O−スルホ−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(3−O−メチル−2−O−スルホ−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−スルホ−α−D−グルコピラノシドまたは、それらの薬剤学的に許容可能な塩(特には、US 5,378,829に記載されているその十二ナトリウム塩)、
【0010】
【化2】

及び、下記構造式を有するメチルO−(2,3,4−トリ−O−メチル−6−O−スルホ−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−O−(2,3,6−トリ−O−スルホ−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−スルホ−α−D−グルコピラノシドまたは、それらの薬剤学的に許容可能な塩(特には、これもUS 5,378,829に記載されているその九ナトリウム塩)である。
【0011】
【化3】

【0012】
本発明による、体外血液回路を有する患者における使用は、血液透析、腎透析、血液濾過、及びその他同種類のものに使用される回路及び静脈内注入ラインを含む。好適な体外回路は、血液透析患者の治療に用いられるものである。
【0013】
本オリゴ糖は、治療の幾つかの段階で投与することができる。この投与経路に限定するものではないが、好適には、本オリゴ糖は、治療を受けている哺乳動物に静脈注射で投与される。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0014】
本オリゴ糖の別の投与経路は、他の手段、例えばその回路への血液の導入と同時に、透析膜の上流でシステム内に徐々にもしくは一度に注入することにより、(透析)回路内へ本オリゴ糖を導入するものである。更に、体外回路のライン及び/又は更なる装具に、好適にはコーティングにより(しかし、これに限定するものではない)、本オリゴ糖を組み込むこともできる。代替的に、装置の一部を構成する材料、例えば透析に使用する膜に本オリゴ糖を吸着させてもよい。
【0015】
本発明に従って使用する場合、本オリゴ糖は、経腸的または非経口的に(特には、皮下もしくは静脈内経路を介して)投与してもよいし、あるいは外部ソース(上記参照)を介して投与してもよく、ヒトに使用する場合には、好適には、透析毎に体重1kg当たり0.001〜10mgの用量で使用される。より好適には、本五糖が、透析毎に患者1人当たり0.30mgから30mgまでの範囲の用量で投与される。
【0016】
本オリゴ糖は、単独で用いてもよいし、薬剤組成物として与えてもよい。従って、本発明は、更に、薬剤学的に許容可能な補助剤及び任意に他の治療薬と共に該オリゴ糖を含む、体外血液回路における血餅形成を防止するための薬剤組成物を提供する。「許容可能な」という用語は、該組成物の他の成分と適合し、受容者に有害な影響を及ぼさないことを意味している。
【0017】
組成物は、例えば、すべての成分が一回量の投与形態になった、経口、舌下、皮下、静脈内、筋肉内、経皮、経粘膜、局所、または経直腸投与、及びその他同種類のものに適したものを含む。
【0018】
経口投与の場合、活性成分は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、溶液、懸濁液、及びその他同種類のもの等の個別的単位で与えることができきる。非経口投与の場合は、本発明の薬剤組成物を、例えば予め定めた量の注射液を収容する密封したバイアル及びアンプル等の一回量または多回量容器に入れて提供してもよいし、また、使用前に水等の滅菌液体キャリアーを付加することだけが必要な凍結乾燥条件下で保存してもよい。
【0019】
本オリゴ糖を、例えば標準的な参考文献であるGennaroらによるRemington’s Pharmaceutical Sciences(第18版、Mack Publishing Company、1990年、特にPart8:Pharmaceutical Preparations and Their Manufactureを参照)に記載されているもの等の薬剤学的に許容可能な補助剤と混合し、丸剤や錠剤等の固形用量単位に圧縮するか、あるいは処理してカプセル剤や坐剤の形態としてもよい。また、薬剤学的に許容可能な液体により、本オリゴ糖を、例えば、溶液、懸濁液、乳濁液の形態の注射用製剤等の液体組成物として、または鼻用スプレー等のスプレー剤として適用することもできる。
【0020】
本発明に従ってコーティングとして使用する場合は、例えば、本オリゴ糖用の基質として薬剤学的に許容可能なポリマーを用いてもよい。また、本オリゴ糖が、その活性を失うことなく、表面に化学的に(例えば共有結合により)結合されたコーティングも含まれる。本発明の目的上、当分野で通常用いられている方法により調製されるあらゆる薬剤学的に許容可能なコーティングを好適に使用することができる。
【0021】
固形の用量単位を作るため、充填剤、着色剤、高分子結合剤等の通常の添加剤の使用が考えられる。一般的に、活性化合物の機能を妨害しないあらゆる薬剤学的に許容可能な添加剤を使用することができる。本発明のオリゴ糖と共に固形組成物として投与することができる好ましいキャリアーは、好適な量で使用される乳糖、デンプン、セルロース誘導体等、あるいはそれらの混合物を含む。非経口投与の場合は、プロピレングリコールまたはブチレングリコール等の薬剤学的に許容可能な分散剤及び/又は湿潤剤を含む、水性懸濁液、等張食塩水、及び滅菌注射液を使用してもよい。
【0022】
また、本発明による薬剤組成物は獣医科用組成物の形態で提供してもよく、そのような組成物は、当分野で通常用いられている方法により調製することができる。
【0023】
本発明は、更に、前述の薬剤組成物を該組成物に適した包装材料と組み合わせたものも含み、該包装材料は、前述の使用のための該組成物の使用説明書を含む。
【0024】
以下の実施例により、本発明を更に例証する。しかし、この実施例は、如何なる意味においても制限的なものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0025】
本発明による使用のための代表的な化合物として五糖、Org 31540/SR 90107Aを用いて、長期にわたり間欠的な血液透析を受けている12人の患者を対象とする試験的な臨床試験を行った。
【0026】
本試験は2相(AブロックとBブロック)で構成した。Aブロックでは、10mgのOrg 31540/SR 90107Aを投与した。その後、Bブロックでは、8mg、6mg、及び4mgのOrg 31540/SR 90107Aを用いた。
【0027】
薬剤は、各週毎の1回の透析に対する静脈内ボーラス前透析として与えた。効能は、透析中毎時、視覚的な検査を行って透析器、バッファー及び気泡チャンバーの開存性を決定することにより、また、血液をサンプリングして特定の凝固、血液学、及び生化学パラメーターを測定することにより評価した。薬物動力学を決定するため、抗−Xa血漿サンプルを、透析中毎時、及び透析の1時間後、更には透析後の3日間毎日採取した。各透析毎に大きな出血合併症並びに小さな出血合併症を評価することにより安全性を評価した。
【0028】
結果:すべての患者が本試験を完了した。透析は、全試験透析ですべての患者の体外回路に完全な血餅形成をもたらすことなく実施された。1人の患者においてのみ、バッファーチャンバーに生じた凝塊のため、最後の透析が終了する半時間前に透析が不可能になった。小さな出血や大きな出血は何も記録されなかった。
【0029】
結論:五糖、Org 31540/SR 90107Aは、血液透析患者の体外血液回路における血餅形成を防止するための安全(出血の危険性を高めない)且つ有効(幾つかの異なる用量で)な抗凝固薬である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外血液回路を有する患者において血餅形成を防止する薬剤を製造するための、抗トロンビンIIIを介して作用する、第Xa因子の選択的阻害物質である合成オリゴ糖の使用であり、該オリゴ糖が、メチルO−(2−デオキシ−2−スルホアミノ−6−O−スルホ−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−O−(2−デオキシ−2−スルホアミノ−3,6−ジ−O−スルホ−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(2−O−スルホ−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−2−デオキシ−2−スルホアミノ−6−O−スルホ−α−D−グルコピラノシドで表される五糖またはそれらの薬剤学的に許容可能な塩であることを特徴とする、前記使用。
【請求項2】
該五糖がその十ナトリウム塩の形態であることを特徴とする、請求項1の使用。
【請求項3】
該体外血液回路が血液透析患者のものであることを特徴とする、請求項1または2による使用。
【請求項4】
該薬剤が静脈内投与に適したものであることを特徴とする、請求項1〜3までのいずれか1項による使用。
【請求項5】
該薬剤が抗凝固薬コーティング用に調製されていることを特徴とする、請求項1〜3までのいずれか1項による使用。
【請求項6】
該薬剤が一回量の形態であることを特徴とする、請求項1〜5までのいずれか1項による使用。
【請求項7】
該五糖が、1患者の1回の透析当り0.30〜30mgの用量で使用されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項による使用。
【請求項8】
該五糖が、1患者の1回の透析当り4、6、8、または10mgの用量で使用されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項による使用。
【請求項9】
薬剤学的に許容可能な補助剤と共に、請求項1または2で定義した該五糖またはそれらの薬剤学的に許容可能な塩を含む、体外血液回路における血餅形成を防止するために適用される薬剤組成物。

【公開番号】特開2010−13455(P2010−13455A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193834(P2009−193834)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【分割の表示】特願平11−500250の分割
【原出願日】平成10年5月22日(1998.5.22)
【出願人】(504456798)サノフイ−アベンテイス (433)
【Fターム(参考)】