体指標計
【課題】腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比の値を示す特徴量を簡便に測定して肥満指標を推定する。
【解決手段】体指標計100を提供する。体指標計100は、基準面Sに仰臥位で横たわる被験者10の腹部11の横幅を示す距離を複数の測定箇所で測定する測定手段を備える。これらの測定箇所は、基準面Sまでの距離が互いに相違し、基準面Sと交わる平面Gに含まれ、基準面Sに最も近い測定箇所と最も遠い測定箇所との間に、当該平面における腹部11の横幅のうち最長の横幅が位置するように定められる。そして、体指標計100は、所定の測定箇所の距離である第2距離に対する第1距離の比の値を用いた演算により、肥満指標を推定する。第1距離は、複数の測定箇所の距離のうち最長の横幅を示す距離である。
【解決手段】体指標計100を提供する。体指標計100は、基準面Sに仰臥位で横たわる被験者10の腹部11の横幅を示す距離を複数の測定箇所で測定する測定手段を備える。これらの測定箇所は、基準面Sまでの距離が互いに相違し、基準面Sと交わる平面Gに含まれ、基準面Sに最も近い測定箇所と最も遠い測定箇所との間に、当該平面における腹部11の横幅のうち最長の横幅が位置するように定められる。そして、体指標計100は、所定の測定箇所の距離である第2距離に対する第1距離の比の値を用いた演算により、肥満指標を推定する。第1距離は、複数の測定箇所の距離のうち最長の横幅を示す距離である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満に関する指標(肥満指標)を推定する体指標計に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満指標としては、内臓脂肪面積および腹部皮下脂肪面積がある。特許文献1には、内臓脂肪面積および腹部皮下脂肪面積を推定する体組成計が記載されている。この体組成計は、立位の被験者の腹部の一つの横断面を注目面としたとき、注目面における腹部の横幅のうち、腹部の前後方向における複数の測定箇所での横幅を測定し、測定された横幅のうち最長の横幅(立位最長横幅に準じた横幅)を用いる演算により、内臓脂肪面積や腹部皮下脂肪面積などの体組成に関する指標を推定する。なお、立位最長横幅は、上記の注目面における腹部の横幅のうち最長の横幅である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−22482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他の肥満指標として、肥満の類型を示す肥満型がある。肥満の類型としては、例えば、肥満の主要な要因を内臓脂肪とする内臓脂肪型、肥満の主要な要因を皮下脂肪とする皮下脂肪型、あるいはそれらの中間に位置付けられる中間型が挙げられる。肥満型を推定する場合、腹腔内脂肪(内臓脂肪及び腹部皮下脂肪)に対する腹部皮下脂肪の比の値が重要となる。しかし、特許文献1に記載の体組成計による推定では、この値を示す特徴量を用いない演算により指標が推定される。例えば、立位最長横幅に準じた横幅が同一であっても、内臓脂肪が多い場合もあれば腹部皮下脂肪が多い場合もあるから、この横幅は、上記の比の値を示す特徴量ではない。よって、肥満型の推定は困難であった。
また、上記の比の値を示す特徴量を用いない演算では、内臓脂肪面積や腹部皮下脂肪面積の推定精度も低く抑制されてしまう。さらに、上記の比の値を示す特徴量を簡便に測定する技術も知られていない。
そこで、本発明は、腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比の値を示す特徴量を簡便に測定して肥満型などの肥満指標を推定することができる体指標計を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、基準面に仰臥位で横たわる被験者の腹部の横幅を示す距離を複数の測定箇所で測定し、前記複数の測定箇所は、前記基準面までの距離が互いに相違し、前記基準面と交わる一つの面(図2の平面G)に含まれる測定手段と、前記測定手段によって測定された前記複数の測定箇所の距離のうち、最長の横幅を示す距離を第1距離とし、当該複数の測定箇所のうち所定の測定箇所での横幅を示す距離を第2距離としたとき、前記第1距離と前記第2距離との相違に関する変数(変数A)を用いた演算により、肥満に関する指標(肥満指標)を推定する推定手段とを備え、前記複数の測定箇所は、前記基準面に最も近い測定箇所と最も遠い測定箇所との間に、前記一つの面における前記腹部の横幅のうち最長の横幅が位置するように定められることを特徴とする体指標計を提供する。平面Gは、距離の測定時に仰臥位の被験者の腹部を横切る平面である。
仰臥位の被験者の腹部では、皮下脂肪が重力によって腹部の後側へ垂れ下がる。この垂れ下がりは、腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比(比率B)の値が大きいほど顕著となる。つまり、仰臥位の被験者の腹部の形状と比率Bとの間には相関がある。したがって、平面Gにおける仰臥位の被験者の腹部の形状を示す特徴量を用いれば、肥満型などの肥満指標を推定することができる。
そこで、この体指標計は、第1距離と第2距離との相違に関する変数Aを用いた演算によって肥満指標を推定する構成を採っている。第1距離は、平面Gにおける仰臥位の被験者の腹部の横幅のうち最長の仰臥位最長横幅に準じた横幅を示す距離であり、第2距離は、平面Gに含まれる所定の測定箇所での横幅を示す距離であるから、変数Aは、平面Gにおける仰臥位の被験者の腹部の横幅の分布の傾向、すなわち平面Gにおける仰臥位の被験者の腹部の形状を示す特徴量である。また、前述のように、仰臥位の被験者の腹部の形状と比率Bとの間には相関がある。つまり、変数Aは、比率Bの値を示す特徴量である。よって、この体指標計によれば、比率B(腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比)の値を示す特徴量を測定して肥満型などの肥満指標を推定することができる。
また、この体指標計によれば、被験者は仰臥位であればよいから、寝たきりの人が被験者の場合にも、比率Bの値を示す特徴量を測定することができる。また、測定手段は、複数の測定箇所で腹部の横幅を示す距離を測定する手段であるから、その構成を簡素とすることができる。よって、この体指標計によれば、比率B(腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比)の値を示す特徴量を簡便に測定することができる。
なお、前述したように、仰臥位の被験者の腹部の皮下脂肪は重力によって腹部の後側へ垂れ下がるから、推定精度の向上の観点では、鉛直方向に直交する平面を基準面とし、この基準面に平面Gが直交するように測定手段を配置して距離を測定するのが好ましい。この場合、距離の測定時に平面Gと身長方向とが直交するように測定手段を配置するのが更に好ましい。
また、測定手段としては、腹部の横幅方向において腹部を挟んで対向する二つの測距センサで構成される測距センサ対を複数備えるとともに、測距センサによって計測された距離を測距センサ対毎に合計して合計距離を算出する合計手段とを備えるものを例示可能である。この測定手段では、複数の測距センサ対は、それぞれ複数の測定箇所に配置され、各測距センサは、配置された測定箇所で腹部との距離を計測する。この場合、「複数の測定箇所の距離」の各々として、測距センサによって計測された距離を測距センサ対毎に合計して得られる複数の合計距離の各々を採用してもよいし、各測距センサ対の合計距離と当該測距センサ対を構成する二つの測距センサ間の距離との差分を採用してもよい。
また、「所定の測定箇所」は、単数であっても複数であってもよい。所定の測定箇所が複数の場合、指標を推定する演算は、複数の所定の測定箇所の各々と推定する指標とに対応する演算となる。また、肥満型を推定する演算としては、所定の測定箇所に対応する条件式や回帰式を用いた演算を例示可能である。条件式の閾値や回帰式の係数は、第1距離が仰臥位最長横幅を示す場合に推定精度が最高となるように定められる。
【0006】
上記の体指標計において、前記推定手段は、前記第1距離と前記変数(変数A)とを用いた演算を実行するようにしてもよい。第1距離は仰臥位最長横幅に準じた横幅を示す距離であり、仰臥位最長横幅と、腹部皮下脂肪面積や、内臓脂肪面積、腹囲などの肥満指標との間には強い相関がある。したがって、この体指標計によれば、腹部皮下脂肪面積や、内臓脂肪面積、腹囲などの肥満指標を高い精度で推定することができる。なお、腹囲は、腹部のある横断面の周長である。
ここで、腹囲を高い精度で推定可能な理由について説明する。腹囲の推定には、本来、内臓脂肪と腹部皮下脂肪との区別は不要である。しかし、仰臥位の被験者の腹部では、皮下脂肪が垂れ下がることにより、腹部の後側の横幅が立位最長横幅よりも著しく長くなる虞がある。この場合、立位最長横幅よりも著しく長い横幅を第1距離が示す虞がある。この場合、第1距離のみを用いる演算によって腹囲を推定すると、その推定値が実測値と大きく相違する虞がある。これに対して、この体指標計では、第1距離のみならず、腹部の形状を示す特徴量である変数Aをも用いた演算によって腹囲が推定されるから、上記の相違が小さく抑制される。これが、腹囲が高い精度で推定される理由である。
【0007】
この体指標計において、複数の電極を前記腹部に接触させて、前記腹部の生体インピーダンスを測定する生体インピーダンス測定手段を備え、前記推定手段は、前記生体インピーダンス測定手段に測定された前記生体インピーダンスと、前記第1距離と、前記変数とを用いた演算を実行するようにしてもよい。腹部皮下脂肪面積および内臓脂肪面積などの肥満指標と腹部の生体インピーダンスとの間には強い相関があるから、この体指標計によれば、腹部皮下脂肪面積および内臓脂肪面積などの肥満指標の推定精度が向上する。
【0008】
前記変数(変数A)としては、前記第1距離と前記第2距離との比又は前記第1距離と前記第2距離の差分を例示可能である。図5に示すように、第1距離に対する第2距離の比を変数Aとした場合、変数Aと比率Bとの間には相関がある。また、図16に示すように、第1距離と第2距離との差分を変数とした場合、変数Aと比率Bとの間には相関がある。つまり、どちらであっても肥満指標を推定することができる。ただし、図5と図16との対比から明らかなように、肥満指標の推定精度を向上させる観点では、差分よりも比の方が好ましい。
【0009】
前述のように、本発明では、肥満指標の推定において、仰臥位の被験者の腹部の形状も考慮される。したがって、変数Aが示す形状が実際の腹部の形状からかけ離れると、肥満指標の推定精度が低下する。変数Aが示す形状が実際の腹部の形状からかけ離れないようにする観点では、前記複数の測定箇所のうち前記基準面に最も近い測定箇所又は最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とするのが好適である。その理由は以下の通りである。
例えば、図3に示すように、基準面(基準面S)から順に、第1の測定箇所(測距センサ21a及び21e)、第2の測定箇所(測距センサ21b及び21f)、第3の測定箇所(測距センサ21c及び21g)、第4の測定箇所(測距センサ21d及び21h)が並んでいるものとする。さらに、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いものとする。
この場合、所定の測定箇所が第2の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅(Wmax)の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の前側(第3の測定箇所側)と後側(第1の測定箇所側)との二つである。また、所定の測定箇所が第3の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅(Wmax)の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の前側(第4の測定箇所側)と後側(第2の測定箇所側)との二つである。
これに対して、所定の測定箇所が基準面に最も近い第1の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅(Wmax)の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の前側(第2の測定箇所側)のみである。また、所定の測定箇所が基準面に最も遠い第4の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅(Wmax)の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の後側(第3の測定箇所側)のみである。
このように、複数の測定箇所のうち基準面に最も近い測定箇所又は最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とすることにより、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いケースにおいて、所定の測定箇所と仰臥位最長横幅との相対的な位置関係の候補を絞ることができる。これは、変数Aが示すべき仰臥位の被験者の腹部の形状が限定されることを意味する。つまり、複数の測定箇所のうち基準面に最も近い測定箇所又は最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とすることにより、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いケースにおいて、変数Aが示す形状が実際の腹部の形状とかけ離れる可能性を低減することができるのである。
さらに、基準面に最も近い測定箇所を所定の測定箇所とするよりも、基準面に最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とするのが好適である。その理由は以下の通りである。
仰臥位の被験者の腹部では皮下脂肪が重力によって腹部の後側へ垂れ下がるから、基準面に最も近い測定箇所での横幅より第1距離が長いケースよりも、基準面に最も遠い測定箇所での横幅より第1距離が長いケースの方が発生し易い。つまり、基準面に最も近い測定箇所を所定の測定箇所とする場合に比べて、基準面に最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とする場合の方が、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いケースが発生し易くなるのである。
【0010】
前記複数の測定箇所のうち前記基準面から最も遠い測定箇所を前記所定の測定箇所とする場合、前記推定手段としては、前記所定の測定箇所を前記基準面から最も遠い測定箇所とした場合に前記指標を推定する第1演算と、前記所定の測定箇所を他の測定箇所とした場合に前記指標を推定する第2演算とを実行可能であり、前記測定手段によって測定された前記基準面から最も遠い測定箇所の距離が零を示す場合には前記第2演算を実行し、前記測定手段によって測定された前記基準面から最も遠い測定箇所の距離が零を示さない場合には前記第1演算を実行する手段が好ましい。
所定の測定箇所を前記基準面から最も遠い測定箇所とした場合、所定の測定箇所で零を示す距離(長さが零の横幅を示す距離)が測定される可能性が高くなる。零を示す距離が第2距離となる場合、この距離を測定した測定箇所と腹部との距離を考慮に入れる等の工夫をしないと、仰臥位の腹部の形状の推定精度が著しく低下してしまう。これに対して、この体指標計では、基準面から最も遠い測定箇所で零を示す距離が測定された場合には、他の測定箇所で計測された距離が第2距離となる。つまり、この体指標計によれば、腹部の形状の推定精度が著しく低下する事態を回避することができる。
【0011】
上記の各体指標計において、前記複数の測定箇所のうち1以上の測定箇所は、前記基準面と交わる方向に可動であるようにしてもよい。前述したように、第1距離は仰臥位最長横幅に準じた横幅を示す距離である。したがって、第1距離が示す横幅が仰臥位最長横幅よりも著しく短くなると、変数Aで示される形状が実際の形状と大きく異なってしまう。これに対して、この体指標計によれば、可動の測定箇所を可動させることにより、第1距離が示す横幅の長さを仰臥位最長横幅の長さに近づけることができる。つまり、この体指標計によれば、肥満指標の推定精度が向上する。
なお、演算において回帰式や条件式を用いる場合、所定の測定箇所が固定ならば、所定の測定箇所に対応する回帰式や条件式を用意しておけば足りるが、所定の測定箇所が可動ならば、所定の測定箇所となりうる各箇所に対応する回帰式や条件式を用意しておき、所定の測定箇所となった箇所に対応する回帰式や条件式を演算に用いるようにすべきである。
【0012】
上記の各体指標計において、前記測定手段は、前記複数の測定箇所の距離を、前記腹部に接触することなく測定することが好ましい。この体指標計では、指標を推定する演算に必要な距離の測定が非接触式の測定となる。接触式の測定では、測定のための接触によって腹部が変形するから距離の測定精度が低下するが、非接触式の測定では、当該変形が発生しないから距離の測定精度が低下しない。つまり、この体指標計によれば、肥満指標の推定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態の体指標計100の外観を示す立面図である。
【図2】体指標計100のフレーム20の外観を示す斜視図である。
【図3】フレーム20と腹部11との位置関係を示す断面図である(中間型)。
【図4】体指標計100の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】変数Aと比率Bとの関係を示す相関図である(第4段の比)。
【図6】フレーム20と腹部11との位置関係を示す断面図である(皮下脂肪型)。
【図7】フレーム20と腹部11との位置関係を示す断面図である(内臓脂肪型)。
【図8】変数Aを用いる回帰式による腹囲の推定値EWと実測値との関係を示す相関図である。
【図9】変数Aを用いない回帰式による腹囲の推定値と実測値との関係を示す相関図である。
【図10】生体インピーダンスを用いない回帰式による内臓脂肪面積の推定値EIFとCTスキャン法によって測定された内臓脂肪面積との関係を示す相関図である。
【図11】生体インピーダンスを用いる回帰式による内臓脂肪面積の推定値EIFとCTスキャン法によって測定された内臓脂肪面積との関係を示す相関図である。
【図12】生体インピーダンスを用いない回帰式による腹部皮下脂肪面積の推定値EIFとCTスキャン法によって測定された腹部皮下脂肪面積との関係を示す相関図である。
【図13】生体インピーダンスを用いる回帰式による腹部皮下脂肪面積の推定値EIFとCTスキャン法によって測定された腹部皮下脂肪面積との関係を示す相関図である。
【図14】本発明の第1実施形態の体指標計200の電気的構成を示すブロック図である。
【図15】体指標計200のフレーム50の外観を示す斜視図である。
【図16】変数Aと比率Bとの関係を示す相関図である(第4段の差分)。
【図17】変数Aと比率Bとの関係を示す相関図である(第3段の比)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態は、複数の測定箇所が総て固定の測定手段(後述の測距センサ21とCPU41とROM42とメモリ43)を備えた体指標計100である。測定手段は、ベッド1の上面である基準面S上に仰臥位で横たわる被験者10の腹部11について複数の測定箇所で距離を測定する。体指標計100は、さらに、腹部11の生体インピーダンスを測定する生体インピーダンス測定手段(後述の生体インピーダンス測定部30とCPU41とROM42とメモリ43)と、測定された距離と測定された生体インピーダンスとに基づいて、肥満指標を推定する推定手段(後述のCPU41とROM42とメモリ43)とを備える。肥満指標は、腹囲、腹部皮下脂肪面積、内臓脂肪面積および肥満型である。
【0015】
以下、図面を参照して体指標計100を説明する。
図1は、体指標計100の外観を示す立面図である。この図には、基準面S上に仰臥位で横たわる被験者10も示されている。この図に示されるように、体指標計100は、フレーム20と生体インピーダンス測定部30とを備える。フレーム20は、一片が開放した枠であり、距離を計測する複数の測距センサ21a〜21hを備え、距離測定時には、腹部11を囲むように基準面S上に配置される。生体インピーダンス測定部30は、電流供給用電極31a及び32aと電圧測定用電極31b及び32bとを備え、生体インピーダンス測定時には、各電極が腹部11に接触するように配置される。
【0016】
図2は、フレーム20の外観を示す斜視図であり、図3は、距離測定時におけるフレーム20と腹部11との位置関係を示す断面図である。図2に示されるように、フレーム20は、その内側に、距離を計測する複数の測距センサ21を備える。
【0017】
各測距センサ21は、光学式の測距センサであり、例えば赤外線のような光を発光する発光素子と、被計測点からの反射光を受けて電気信号を発する受光素子とを有し、当該測距センサ21内の基準点Pと被計測点との距離に相当する電気信号を出力する。以降の説明では、測距センサ21及び基準点Pの各々を識別するために添字a〜hを付ける。
【0018】
例えば、測距センサ21aは、基準点Paと被計測点との距離(図3のLa)に相当する電気信号を出力する。同様に、測距センサ21b〜21hは、それぞれ基準点Pb〜Phと被計測点との距離(図3のLb〜Lh)に相当する電気信号を出力する。なお、各測距センサ21の被計測点は、当該測距センサ21の距離計測軸と被験者10等の物体とが交わる点である。
【0019】
また、図2に示すように、測距センサ21b〜21hは、一つの平面Gに含まれている。具体的には、測距センサ21b〜21hは、それぞれの基準点Pb〜Ph及び被計測点が平面Gに含まれるように配置されている。平面Gは、距離の測定時に仰臥位の被験者10の腹部11を横切る平面であり、測距センサ21b〜21hの配列方向(例えば図3では紙面方向)に延在する。図2中の二点鎖線は、フレーム20の可視面と平面Gとの交線である。
【0020】
また、各測距センサ21は、その距離計測軸が距離測定時に基準面Sと平行となるように設けられている。また、測距センサ21a〜21dは、測距センサ21e〜21hに線対称に配置されている。つまり、図2に示すように、測距センサ21a及び21eの距離計測軸は同一線上にあり、測距センサ21b及び21fの距離計測軸は同一線上にあり、測距センサ21c及び21gの距離計測軸は同一線上にあり、測距センサ21d及び21hの距離計測軸は同一線上にある。
【0021】
以降の説明では、測距センサ21a及び21eを基準面Sに最も近い第1段の測距センサ対、測距センサ21b及び21fを基準面Sに次に近い第2段の測距センサ対、測距センサ21c及び21gを基準面Sに次に近い第3段の測距センサ対、測距センサ21d及び21hを基準面Sに最も遠い第4段の測距センサ対と呼ぶ。つまり、フレーム20は、被験者10の腹部11の横幅方向において腹部11を挟んで対向する二つの測距センサ21で構成される測距センサ対を複数の測定箇所に備える。
【0022】
複数の測定箇所は、基準面Sに最も近い測定箇所と最も遠い測定箇所との間に、平面Gにおける腹部11の横幅のうち最長の横幅(以降、「仰臥位最長横幅(Wmax)」という)が位置するように定められる。例えば、基準面Sと第1段の距離計測軸との間隔W1は4cmであり、nを3以下の自然数としたとき、第n段の距離計測軸と第n+1段の距離計測軸との間隔Wn+1は3cmである。また、測距センサ対を構成する二つの測距センサ21間の距離(L)は、総ての測距センサ対に共通である。
【0023】
図4は、体指標計100の電気的構成を示すブロック図である。この図に示されるように、フレーム20は、測距センサ21a〜21hの他に、スイッチ22とアナログ/デジタル(A/D)変換器23とを備える。スイッチ22は、測距センサ21a〜21hの出力信号を順次に選択してA/D変換器23に供給する。A/D変換器23は、供給された信号をデジタル信号に変換し、後述のCPU41に供給する。つまり、距離測定時には、A/D変換器23からCPU41へ、測距センサ21a〜21hによって計測された距離を示す距離データが順次供給される。
【0024】
生体インピーダンス測定部30は、電流供給用電極31a及び32aと電圧測定用電極31b及び32bとの他に、電流供給部33Aと電圧測定部33Bとを備える。電流供給部33Aは、生体インピーダンス測定時には、電流供給用電極31a及び32aを介して被験者10の腹部11に高周波の定電流と低周波の定電流とを供給する。高周波の電流の周波数は例えば50kHzであり、低周波の電流の周波数は例えば6.25kHzである。高周波の電流が供給される期間(高周波期間)と、低周波の電流が供給される期間(低周波期間)とは互いに重ならない。
【0025】
電圧測定部33Bは、高周波期間と低周波期間との各々において、電圧測定用電極31bと電圧測定用電極32bとの間の電圧を測定し、この測定の結果(電圧)を示す電圧データを無線通信によってフレーム20のCPU41へ供給する。なお、高周波の電流を供給したときの電圧と低周波の電流を供給したときの電圧との両方を測定するのは、内臓脂肪面積および腹部皮下脂肪面積の推定に用いるのに好適な生体インピーダンスを測定するためである。すなわち、筋肉組織などの電解質組織の影響が少ない生体インピーダンスを測定するためである。脂肪組織などの非電解質組織の電気抵抗は低周波の場合でも高周波の場合でもさほど変化しないが、電解質組織の電気抵抗は低周波の場合と高周波の場合とで大きく変化するから、両方の場合の電圧を測定すれば、電解質組織の影響が少ない生体インピーダンスを算出可能なのである。
【0026】
また、フレーム20は、CPU(中央演算処理装置)41と、ROM(read only memory)42と、メモリ43と、人に操作される操作部44と、情報を表示する表示部45とを備える。ROM42には、CPU41に実行されるコンピュータプログラム(以降、「第1プログラム」という)が記録されている。メモリ43は、例えば揮発性のメモリであり、CPU41のワークエリアとして使用される。操作部44は、操作内容に応じた信号をCPU41に供給する。表示部45に表示される情報は、例えば、肥満指標の推定結果であり、CPU41から供給される。
【0027】
CPU41は、ROM42に記憶された第1プログラムを実行し、各部の制御や各種の演算を行う。例えば、CPU41は、操作部44から生体インピーダンスの測定開始を指示する信号が供給されると、電流供給部33Aを制御し、高周波期間および低周波期間にわたって腹部11へ電流を供給させる一方、電圧測定部33Bから二種類の電圧データを受け取り、受け取った電圧データで示される二種類の電圧に基づいて、腹部11の生体インピーダンス(Z)を算出し、算出した生体インピーダンス(Z)を示す生体インピーダンスデータをメモリ43に書き込む。なお、ここで算出される生体インピーダンス(Z)は、電解質組織の影響が少ない生体インピーダンスである。
【0028】
また例えば、CPU41は、操作部44から距離の測定開始を指示する旨の信号が供給されると、測距センサ21a〜21hに距離の計測を開始させ、スイッチ22による選択を開始させ、A/D変換器23から順次供給される距離データを受け取り、受け取った距離データで示される距離を測距センサ対毎に合計して合計距離(La+Le、Lb+Lf、Lc+Lg、及びLd+Lh)を算出する。
【0029】
そして、CPU41は、これらの合計距離のうち、最短の合計距離を第1距離(L1)とし、この距離を示す第1距離データをメモリ43に書き込む一方、第4段の測距センサ対(所定の測定箇所の測距センサ対)に対応する合計距離を第2距離(L2)とし、第2距離に対する第1距離の比の値を算出し、この比を示すデータを、変数Aの値(A)を示す変数データとしてメモリ43に書き込む。つまり、A=L1/L2であり、変数Aは第2距離(L2)に対する第1距離(L1)の比である。この比は、平面Gにおける仰臥位の被験者10の腹部11の横幅の分布の傾向を示すから、変数Aは、平面Gにおける腹部11の形状を示す特徴量でもある。
【0030】
ところで、健康を維持する観点で広く用いられている肥満指標は、腹部の臍を通る横断面(身長方向に直交する平面)に関して測定された特徴量に基づいて推定される指標である。したがって、生体インピーダンス測定時には、腹部11の臍を通る横断面を含む平面内に電極31a、32a、31b及び32bが配置されるように生体インピーダンス測定部30を設置し、距離測定時には、当該平面が平面Gに含まれるようにフレーム20を設置することが好ましい。つまり、身長方向に対して直角に生体インピーダンス測定部30とフレーム20を配置するのが最も好ましい。なお、生体インピーダンス測定部30が腹部11に接触すると、これによって腹部11が変形するから、生体インピーダンス測定と距離測定とは同時でない方がよい。
【0031】
もちろん、腹部の臍を通る横断面以外の平面に関して測定された特徴量に基づいて推定される指標も、健康を維持するために役立つ肥満指標となりうる。つまり、本実施形態によれば、腹部の臍を通る横断面が距離測定時に平面Gに含まれなくとも、健康を維持するために役立つ肥満指標を推定することができる。例えば、距離測定時に、腹部の臍を通らない横断面(身長方向に直交する平面)が平面Gに含まれるようにしてもよいし、腹部の前後方向において平面Gが腹部を斜めに横切るようにしてもよいし、腹部の横幅方向において平面Gが腹部を斜めに横切るようにしてもよいし、腹部の前後方向及び横幅方向において平面Gが腹部を斜めに横切るようにしてもよい。
【0032】
また例えば、CPU41は、操作部44から肥満指標の推定開始を指示する旨の信号が供給されると、式を用いた演算によって肥満指標を推定し、この推定の結果を表示部45に表示させる。肥満指標を推定する演算に用いられる式は、肥満指標毎に予め定められており、腹部の外観の特徴量である変数Aを含む項を有する。
【0033】
図5は、変数Aの値と腹腔内脂肪面積に対する腹部皮下脂肪面積の比(比率B)の値との関係を示す相関図である。この図の比率Bの値は、CT(Computed Tomography)スキャン法によって測定された値に基づいて算出されている。また、この図において、rは相関係数であり、SEEは推定値に対する標準誤差であり、Pは危険率である。この図から明らかなように、変数Aと比率Bとの間には強い相関がある。したがって、肥満指標を推定する演算に、変数Aを含む項を有する式を用いれば、肥満型などの肥満指標の推定精度を向上させることができる。これが、肥満指標を推定する演算に、変数Aを含む項を有する式を用いる理由である。なお、比率Bは腹腔内脂肪面積に対する腹部皮下脂肪面積の比であるから、比率Bとの間に強い相関のある変数Aは、腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比の値を示す特徴量でもある。
【0034】
ここで、肥満型が示す肥満の類型について説明する。本実施形態では、上記の比率Bの値が一定の範囲内にある類型を中間型とし、比率Bの値が当該範囲の下限を超えている類型を内臓脂肪型とし、比率Bの値が当該範囲の上限を超えている類型を皮下脂肪型としている。もちろん、これは一例に過ぎず、上記の範囲と異なる範囲を一定の範囲としてもよいし、中間型を削除してもよい。中間型を削除した場合の肥満型は、比率Bの値が一定の値以下ならば内臓脂肪型を示し、比率Bの値が当該値を上回っているならば皮下脂肪型を示すことになる。
【0035】
次に、変数Aと比率Bとの強い相関の理由について説明する。
図6及び図7は、図3と同様に、距離測定時におけるフレーム20と腹部11との位置関係を示す断面図である。ただし、被験者10の肥満型は、図3では中間型であるのに対し、図6では皮下脂肪型であり、図7では内臓脂肪型である。これらの図に示すように、腹部11の横断面には、縦線のハッチングが施された骨H、横線のハッチングが施された内臓N、斜線のハッチングが施された筋肉M、筋肉Mの外側に存在する皮下脂肪SF、及び筋肉Mの内側に存在する内臓脂肪IFが現れる。
【0036】
被験者10が仰臥位の場合、皮下脂肪SFのうち直下に筋肉Mが存在しない部分が重力によって腹部11の後側へ垂れ下がる。この垂れ下がりの程度は、比率Bの値が大きいほど大きくなり易く(図6)、比率Bの値が小さいほど小さくなり易い(図7)。このため、基準面Sに直交する方向(理想的には鉛直方向)における仰臥位最長横幅Wmaxの位置は、比率Bの値が大きいほど低くなり易く(図6)、比率Bの値が小さいほど高くなり易い(図7)。
【0037】
一方、第2距離に対する第1距離の比である変数Aは、図6の場合には、(La+Le)/(Ld+Lh)であり、1よりも著しく小さいが、図7の場合には、(Ld+Lh)/(Ld+Lh)であり、1と等しい。つまり、変数Aの値(A)は、仰臥位最長横幅(Wmax)の位置が低いほど小さくなり易く、高いほど大きくなり易い。すなわち、変数Aの値(A)は、比率Bの値が大きいほど小さくなり易く、比率Bの値が小さいほど大きくなり易い。これが、変数Aと比率Bとの強い相関の理由である。
【0038】
肥満指標の推定では、CPU41は、推定する指標毎に式を選択し、選択した式を用いた演算を行う。演算に先立ち、CPU41は、メモリ43から第1距離データ及び変数データを読み出す。また、メモリ43に生体インピーダンスデータが記憶されていれば、生体インピーダンスデータも読み出す。そして、これらのデータで示される第1距離(L1)、変数Aの値(A)及び生体インピーダンス(Z)と、測距センサ対を構成する二つの測距センサ21間の距離(L)とを用いて、腹囲、内臓脂肪面積、腹部皮下脂肪面積および肥満型を推定する。
【0039】
<腹囲の推定>
腹囲の推定では、変数Aを用いる回帰式である式1が選択される。
EW=−68.9+3.13×(L−L1)+62.0×A … (式1)
式1の各項の係数は、L2=Ld+LhかつL1=Wmaxの場合に推定精度が最高となるように定められている。CPU41は、L1、A、L及び式1を用いて、腹囲の推定値EWを算出する。この推定値EWと腹囲の実測値との関係は図8に示す通りである。この図に示すように、両者の間には強い相関がある。つまり、体指標計100によれば、腹囲を高い精度で推定することができる。
【0040】
図9は、変数Aを用いない回帰式による腹囲の推定値と腹囲の実測値との関係を示す相関図である。図9の破線で示す領域には、推定値と実測値とが大きく相違するサンプルが存在する。これらのサンプルは、比率Bが著しく高い被験者10である。仰臥位の被験者10の比率Bが著しく高いと、垂れ下がった皮下脂肪によって腹部11の後側の横幅が立位最長横幅よりも著しく長くなる場合がある。この場合、立位最長横幅よりも著しく長い横幅を第1距離が示す場合がある。この場合、腹部の形状を示す特徴量である変数Aを用いないと、腹囲の推定値と実測値とが大きく相違する虞がある。これが、推定値と実測値とが大きく相違するサンプルが存在する理由である。これに対して、図8には、そのようなサンプルが存在しない。これが、高い精度で腹囲を推定することができる理由である。
【0041】
<内臓脂肪面積の推定>
内臓脂肪面積の推定では、生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されていない場合には、Zを用いない回帰式である式2が選択され、生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されている場合には、Zを用いる回帰式である式3が選択される。
EIF=−907.2+937.8×A+0.127×(L−L1)2 … (式2)
EIF=−787.4+878.6×A+0.001215×Z×(L−L1)2 … (式3)
式2及び式3の各項の係数は、L2=Ld+LhかつL1=Wmaxの場合に推定精度が最高となるように定められている。
【0042】
生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されていない場合、CPU41は、L1、A、L及び式2を用いて、内臓脂肪面積の推定値EIFを算出する。この推定値EIFとCTスキャン法によって測定された内臓脂肪面積との関係は図10に示す通りである。この図に示すように、両者の間には強い相関がある。これは、内臓脂肪面積との間に強い相関がある第1距離のみならず、比率Bとの間に強い相関のある変数Aをも用いた演算によって内臓脂肪面積が推定されるからである。よって、体指標計100によれば、内臓脂肪面積を高い精度で推定することができる。
【0043】
生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されている場合、CPU41は、L1、A、Z、L及び式3を用いて、内臓脂肪面積の推定値EIFを算出する。この推定値EIFとCTスキャン法によって測定された内臓脂肪面積との関係は図11に示す通りである。図10と図11との対比から明らかなように、式3を用いた場合の内臓脂肪面積の推定精度は、式2を用いた場合の内臓脂肪面積の推定精度よりも向上する。
【0044】
<腹部皮下脂肪面積の推定>
腹部皮下脂肪面積の推定では、生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されていない場合には、Zを用いない回帰式である式4が選択され、生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されている場合には、Zを用いる回帰式である式5が選択される。
ESF=210.6−415.6×A+0.363×(L−L1)2 … (式4)
ESF=593.7−576.3×A+0.003512×Z×(L−L1)2 … (式5)
式4及び式5の各項の係数は、L2=Ld+LhかつL1=Wmaxの場合に推定精度が最高となるように定められている。
【0045】
生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されていない場合、CPU41は、L1、A、L及び式4を用いて、腹部皮下脂肪面積の推定値ESFを算出する。この推定値ESFとCTスキャン法によって測定された腹部皮下脂肪面積との関係は図12に示す通りである。この図に示すように、両者の間には強い相関がある。これは、腹部皮下脂肪面積との間に強い相関がある第1距離のみならず、比率Bとの間に強い相関のある変数Aをも用いた演算によって腹部皮下脂肪面積が推定されるからである。よって、体指標計100によれば、腹部皮下脂肪面積を高い精度で推定することができる。
【0046】
生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されている場合、CPU41は、L1、A、Z、L及び式5を用いて、腹部皮下脂肪面積の推定値ESFを算出する。この推定値ESFとCTスキャン法によって測定された腹部皮下脂肪面積との関係は図13に示す通りである。図12と図13との対比から明らかなように、式5を用いた場合の内臓脂肪面積の推定精度は、式4を用いた場合の内臓脂肪面積の推定精度よりも向上する。
【0047】
<肥満型の推定>
肥満型の推定では、Aを用いる条件式である式6及び式7が選択される。
A>0.95 … (式6)
A≦0.9 … (式7)
式6及び式7の右辺の値(閾値)は、L2=Ld+LhかつL1=Wmaxの場合に推定精度が最高となるように定められている。CPU41は、A及び式6を用いて、式6の真偽を算出する。式6が真の場合、CPU41は、被験者10の肥満型を内臓脂肪型と推定(判定)する。式6が偽の場合、CPU41は、A及び式7を用いて、式7の真偽を算出する。式7が真の場合、CPU41は、被験者10の肥満型を皮下脂肪型と推定(判定)する。式7が偽の場合、CPU41は、被験者10の肥満型を中間型と推定(判定)する。前述したように、変数Aと比率Bとの間には強い相関があるから、このような推定の仕方により、高い精度で肥満型を推定することができる。
【0048】
以上説明したように、体指標計100は、基準面Sに仰臥位で横たわる被験者10の腹部11の横幅を示す距離を複数の測定箇所で測定する測定手段を備える。そして、これらの測定箇所は、いずれも固定であり、基準面Sまでの距離が互いに相違し、平面Gに含まれる。また、これらの測定箇所は、基準面Sに最も近い測定箇所と最も遠い測定箇所との間に、上記の平面における腹部11の横幅のうち最長の横幅(仰臥位最長横幅)が位置するように定められる。さらに、体指標計100は、測定手段によって測定された複数の測定箇所の距離のうち、最長の横幅を示す第1距離に対する第2距離(所定の測定箇所での横幅を示す距離)の比(変数A)を用いた演算により、肥満指標を推定する推定手段を備える。前述したように、変数Aは、腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比(比率B)の値を示す特徴量でもあるから、体指標計100によれば、比率Bの値を示す特徴量を測定して肥満指標を推定することができる。
【0049】
また、体指標計100による測定は、いずれも仰臥位の被験者10に対して行われるから、体指標計100によれば、寝たきりの被験者10についても肥満指標を推定することができる。また、測定手段は、複数の測定箇所で腹部の横幅を示す距離を測定する手段であり、その構成は簡素である。よって、体指標計100によれば、比率Bの値を示す特徴量を簡便に測定することができる。また、体指標計100によれば、1回の測定で腹囲、内臓脂肪面積、腹部皮下脂肪面積および肥満型が推定されるから、1回の測定で肥満を多面的に評価することができる。
【0050】
なお、前述したように、仰臥位の被験者10の腹部11の皮下脂肪は重力によって腹部の後側へ垂れ下がるから、推定精度の向上の観点では、鉛直方向に直交する平面を基準面Sとし、この基準面Sに平面Gが直交するようにフレーム20を配置して距離を測定するのが好ましい。この場合、距離の測定時に平面Gと身長方向とが直交するようにフレーム20を配置するのが更に好ましい。
【0051】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態は、複数の測定箇所のうち二つの測定箇所が可動の測定手段(測距センサ21とCPU41とROM62とメモリ43)を備えた体指標計200である。以下、図面を参照して体指標計200を説明する。図14は、体指標計200の電気的構成を示すブロック図である。この図に示されるように、体指標計200が体指標計100と異なる点は、フレーム20に代えてフレーム50を備える点のみである。
【0052】
まず、フレーム50がフレーム20と異なる点について説明する。
図15は、フレーム50の外観を示す斜視図である。この図に示すように、フレーム50の内側には、X方向に延在する摺動溝24b,24c,24f及び24gが形成されている。X方向は、距離測定時には腹部11の前後方向に一致する。測距センサ21b,21c,21f,21gは、それぞれ対応する摺動溝24b,24c,24f,24gに沿って可動である。ただし、いかなる場合でも、同一の測距センサ対を構成する二つの測距センサの距離計測軸は一致する。
【0053】
また、フレーム50は、図14に示すように、測距センサ21b,21c,21f及び21gを移動させる動力を発生させるモータ25と、モータ25によって発生された動力を用いて、測距センサ21b,21c,21f,21gを対応する摺動溝24b,24c,24f,24gに沿って測距センサ対毎に摺動させるための摺動機構(図示略)とを備える。摺動機構は、測距センサが対応する摺動溝から逸脱する事態や、測距センサが隣の測距センサを押す事態を回避可能に構成されている。
【0054】
また、フレーム20がROM42を備えるのに対し、フレーム50はROM62を備える。ROM42が第1プログラムを記憶しているのに対し、ROM62は、第1プログラムとは異なるコンピュータプログラム(以降、「第2プログラム」という)を記憶している。体指標計200のCPU41は、第2プログラムを実行することにより、体指標計100のCPU41と同様の動作を行う他に、操作者の指示に従って第2段および第3段の測距センサ対の摺動を制御する。
【0055】
具体的には、体指標計200のCPU41は、操作部44から第2段または第3段の測距センサ対の摺動の開始を指示する信号が供給されると、この指示に応じた信号をモータ25と前述の摺動機構とに供給する。この信号に基づいてモータ25と前述の摺動機構とが制御される。これにより、摺動を指示された測距センサ対が、二つの摺動溝に沿って、指示された方向に摺動する。また、体指標計200のCPU41は、操作部44から測距センサ対の摺動の終了を指示する信号が供給されると、この指示に応じた信号をモータ25と前述の摺動機構とに供給する。この信号に基づいてモータ25と前述の摺動機構とが制御される。これにより、総ての測距センサ対が停止する。
【0056】
以上の説明から明らかなように、体指標計200によれば、第2段および第3段の測距センサ対を被験者10の腹部の前後方向に移動させることができる。したがって、第1距離が示す横幅を、仰臥位最長横幅(Wmax)に近づけることができる。前述したように、式1〜式7は、いずれもL1=Wmaxの場合に推定精度が最高となるように定められているから、体指標計200によれば、体指標計100よりも高い精度で肥満指標を推定することができる。
【0057】
<変形例>
本発明は、上記の各実施形態に以下の変形を施して得られる各種の形態や、これらの形態の任意の組み合わせをも範囲に含みうる。
変数Aとして、第2距離に対する第1距離の比ではなく、第2距離に対する第1距離の比を採用してもよいし、第1距離と第2距離との差分を採用してもよい。図16は、第1距離と第2距離との差分である変数Aの値と、腹腔内脂肪面積に対する腹部皮下脂肪面積の比(比率B)の値との関係を示す相関図であり、第4段の測距センサ対を所定の測定箇所の測距センサ対とした場合のものである。この図から明らかなように、差分を採用した場合でも、変数Aと比率B(腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比)との間に相関がある。したがって、式1〜式5の係数や式6及び式7の閾値を適切に定めることにより、肥満に関する指標を推定することができる。つまり、本発明では、変数Aとして、第1距離と第2距離との相違に関する任意の変数を採用可能である。ただし、図5及び図16から明らかなように、変数Aと比率Bとの間の相関は、差分を採用した場合よりも、比を採用した場合の方が強い。したがって、肥満に関する指標の推定精度を向上させる観点では、比の採用が好ましい。
【0058】
所定の測定箇所の測距センサ対として、第4段以外の段の測距センサ対を採用してもよい。例えば、第1実施形態を変形し、所定の測定箇所の測距センサ対として第3段の測距センサ対を採用してもよい。この場合、第3段の測距センサ対に対応する合計距離が第2距離(L2)となり、第2距離に対する第1距離の比である変数Aの値と比率Bの値との関係は、図17に示す通りとなる。この図から明らかなように、第3段の測距センサ対を採用した場合でも、変数Aと比率Bとの間に相関がある。したがって、式1〜式5の係数や式6及び式7の閾値を適切に定めることにより、肥満に関する指標を推定することができる。このことは、第1距離に対する第2距離の比を変数Aとする場合でも、第1距離と第2距離との差分を変数Aとする場合でも、同様である。ただし、図5及び図17から明らかなように、変数Aと比率Bとの間の相関は、第3段の測距センサ対を採用した場合よりも、第4段の測距センサ対を採用した場合の方が強い。したがって、肥満に関する指標の推定精度を向上させる観点では、第4段の測距センサ対の採用が好ましい。
【0059】
測距センサ対の数を任意の複数としてもよい。つまり、測定箇所の数を任意の複数としてもよい。測定箇所の数が任意の複数の場合、これらの測定箇所のうち、基準面Sに最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とするのが最適である。その理由は以下の通りである。
例えば、図3に示すように、基準面Sから順に、第1の測定箇所(測距センサ21a及び21e)、第2の測定箇所(測距センサ21b及び21f)、第3の測定箇所(測距センサ21c及び21g)、第4の測定箇所(測距センサ21d及び21h)が並んでいるものとする。さらに、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いものとする。
この場合、所定の測定箇所が第2の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の前側(第3の測定箇所側)と後側(第1の測定箇所側)との二つである。また、所定の測定箇所が第3の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の前側(第4の測定箇所側)と後側(第2の測定箇所側)との二つである。
これに対して、所定の測定箇所が基準面Sに最も近い第1の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の前側(第2の測定箇所側)のみである。また、所定の測定箇所が基準面Sに最も遠い第4の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の後側(第3の測定箇所側)のみである。
このように、複数の測定箇所のうち基準面Sに最も近い測定箇所又は最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とすることにより、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いケースにおいて、所定の測定箇所と仰臥位最長横幅との相対的な位置関係の候補を絞ることができる。これは、変数Aが示すべき仰臥位の被験者の腹部の形状が限定されることを意味する。つまり、複数の測定箇所のうち基準面Sに最も近い測定箇所又は最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とすることにより、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いケースにおいて、変数Aで示される腹部の形状が実際の腹部の形状とかけ離れる可能性を低減することができる。
一方、仰臥位の被験者の腹部では皮下脂肪が重力によって腹部の後側へ垂れ下がるから、基準面Sに最も近い測定箇所での横幅より第1距離が長いケースよりも、基準面Sに最も遠い測定箇所での横幅より第1距離が長いケースの方が発生し易い。つまり、基準面Sに最も近い測定箇所を所定の測定箇所とする場合に比べて、基準面Sに最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とする場合の方が、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いケースが発生し易くなるのである。
【0060】
ところで、第2実施形態では、第2段および第3段の測距センサ対が腹部11の前後方向に可動であるから、第4段以外の段の測距センサ対を所定の測定箇所の測距センサ対とした場合、可動の測距センサ対が所定の測定箇所の測距センサ対となることもある。すなわち、本発明には、所定の測定箇所が基準面Sに交わる方向に可動の形態も含まれる。この形態では、所定の測定箇所の可動範囲内の複数個所に対応付けて式1〜式7に相当する式を用意しておき、所定の測定箇所に最も近い箇所に対応する式を用いた演算により、肥満に関する指標を推定する。式1〜式5に相当する式は、対応する箇所に応じて式1〜式5の係数を変更した式であり、式6および式7に相当する式は、対応する箇所に応じて式6および式7の閾値を変更した式である。
【0061】
上述した第2実施形態では、第2段および第3段の測距センサ対を腹部11の前後方向に可動とし、第1段および第4段の測距センサ対を固定としたが、これに限るものではない。つまり、本発明には、複数の測定箇所のうち1以上の測定箇所が基準面Sに交わる方向に可動である形態が含まれる。第1距離が示す横幅を仰臥位最長横幅(Wmax)に近づける観点では可動の測定箇所が多い方が好ましいが、用意すべき式を減らす観点では可動の測定箇所が少ない方が好ましい。
【0062】
上述した各実施形態では、複数の測定箇所の各々について合計距離が算出され、これらの合計距離(La+Le、Lb+Lf、Lc+Lg、Ld+Lh)が、第1距離と第2距離の候補となるが、これに限るものではない。例えば、L−La−Le、L−Lb−Lf、L−Lc−Lg、L−Ld−Lhが候補となるようにしてもよい。つまり、第1距離と第2距離の候補として、基準面Sに仰臥位で横たわる被験者10の腹部11の横幅を示す任意の距離を採用可能である。なお、上述した各実施形態では、測距センサ対を構成する二つの測距センサ21間の距離(L)が、総ての測距センサ対に共通であるが、これに限るものではない。
【0063】
複数の測定箇所のうち基準面Sから最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とした場合、所定の測定箇所で長さが零の横幅を示す距離が測定される可能性がある。長さが零の横幅を示す距離が第2距離となる場合、この距離を測定した測定箇所と腹部11との距離を考慮に入れる等の工夫をしないと、肥満に関する指標の推定精度が著しく低下してしまう。そこで、第1演算と第2演算とを実行可能な推定手段を採用してもよい。第1演算は、所定の測定箇所を基準面Sから最も遠い測定箇所とした場合に肥満に関する指標を推定する演算であり、第2演算は、所定の測定箇所を他の測定箇所とした場合に肥満に関する指標を推定する演算である。さらに、この推定手段は、測定手段によって測定された基準面Sから最も遠い測定箇所の距離が、長さが零の横幅を示す場合には、第2演算を実行し、長さが零でない横幅を示す場合には、第1演算を実行する。つまり、この形態では、基準面Sから最も遠い測定箇所で長さが零の横幅を示す距離が測定された場合には、他の測定箇所で測定された距離が第2距離となるから、肥満に関する指標の推定精度が著しく低下する事態を回避することができる。
【0064】
複数の測定箇所のうちの複数を所定の測定箇所としてもよい。この場合、複数種類の第2距離が得られ、複数種類の式を用いて複数種類の演算が行われ、複数種類の演算結果に基づいて肥満に関する指標の推定結果が得られる。また、推定する指標の種類を1以上3以下としてもよい。この形態において、推定する指標に内臓脂肪面積も腹部皮下脂肪面積も含まれない場合には生体インピーダンスの測定は不要となる。
【0065】
第1距離および第2距離の候補となる合計距離として、各測距センサ対の合計距離と当該測距センサ対を構成する二つの測距センサ間の距離との差分を採用してもよい。また、測距センサ対の数を1とし、この測距センサ対を腹部11の前後方向に移動させて腹部11を走査するようにしてもよい。また、光学式以外の方式の測距センサを採用してもよい。ただし、接触式の測距センサを採用すると、距離測定時に測距センサが接触することによって腹部11が変形する虞があるから、非接触式の測距センサの採用が好ましい。
【0066】
フレーム20又は50と生体インピーダンス測定部30との間の通信は、有線通信であってもよい。また、フレーム20又は50と生体インピーダンス測定部30との他に、CPU41とROM42又は62とメモリ43と操作部44と表示部45とを有する本体を備え、この本体が、フレーム20又は50と生体インピーダンス測定部30との各々と有線又は無線で通信する構成としてもよい。この場合、フレーム20又は50がCPUとROMとメモリと操作部と表示部とを有する必要は無い。
【符号の説明】
【0067】
10 被験者
100,200 体指標計
11 腹部
20,50 フレーム
21a〜21h 測距センサ
30 生体インピーダンス測定部
41 CPU
42,62 ROM
43 メモリ
G 平面
S 基準面
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満に関する指標(肥満指標)を推定する体指標計に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満指標としては、内臓脂肪面積および腹部皮下脂肪面積がある。特許文献1には、内臓脂肪面積および腹部皮下脂肪面積を推定する体組成計が記載されている。この体組成計は、立位の被験者の腹部の一つの横断面を注目面としたとき、注目面における腹部の横幅のうち、腹部の前後方向における複数の測定箇所での横幅を測定し、測定された横幅のうち最長の横幅(立位最長横幅に準じた横幅)を用いる演算により、内臓脂肪面積や腹部皮下脂肪面積などの体組成に関する指標を推定する。なお、立位最長横幅は、上記の注目面における腹部の横幅のうち最長の横幅である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−22482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他の肥満指標として、肥満の類型を示す肥満型がある。肥満の類型としては、例えば、肥満の主要な要因を内臓脂肪とする内臓脂肪型、肥満の主要な要因を皮下脂肪とする皮下脂肪型、あるいはそれらの中間に位置付けられる中間型が挙げられる。肥満型を推定する場合、腹腔内脂肪(内臓脂肪及び腹部皮下脂肪)に対する腹部皮下脂肪の比の値が重要となる。しかし、特許文献1に記載の体組成計による推定では、この値を示す特徴量を用いない演算により指標が推定される。例えば、立位最長横幅に準じた横幅が同一であっても、内臓脂肪が多い場合もあれば腹部皮下脂肪が多い場合もあるから、この横幅は、上記の比の値を示す特徴量ではない。よって、肥満型の推定は困難であった。
また、上記の比の値を示す特徴量を用いない演算では、内臓脂肪面積や腹部皮下脂肪面積の推定精度も低く抑制されてしまう。さらに、上記の比の値を示す特徴量を簡便に測定する技術も知られていない。
そこで、本発明は、腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比の値を示す特徴量を簡便に測定して肥満型などの肥満指標を推定することができる体指標計を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、基準面に仰臥位で横たわる被験者の腹部の横幅を示す距離を複数の測定箇所で測定し、前記複数の測定箇所は、前記基準面までの距離が互いに相違し、前記基準面と交わる一つの面(図2の平面G)に含まれる測定手段と、前記測定手段によって測定された前記複数の測定箇所の距離のうち、最長の横幅を示す距離を第1距離とし、当該複数の測定箇所のうち所定の測定箇所での横幅を示す距離を第2距離としたとき、前記第1距離と前記第2距離との相違に関する変数(変数A)を用いた演算により、肥満に関する指標(肥満指標)を推定する推定手段とを備え、前記複数の測定箇所は、前記基準面に最も近い測定箇所と最も遠い測定箇所との間に、前記一つの面における前記腹部の横幅のうち最長の横幅が位置するように定められることを特徴とする体指標計を提供する。平面Gは、距離の測定時に仰臥位の被験者の腹部を横切る平面である。
仰臥位の被験者の腹部では、皮下脂肪が重力によって腹部の後側へ垂れ下がる。この垂れ下がりは、腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比(比率B)の値が大きいほど顕著となる。つまり、仰臥位の被験者の腹部の形状と比率Bとの間には相関がある。したがって、平面Gにおける仰臥位の被験者の腹部の形状を示す特徴量を用いれば、肥満型などの肥満指標を推定することができる。
そこで、この体指標計は、第1距離と第2距離との相違に関する変数Aを用いた演算によって肥満指標を推定する構成を採っている。第1距離は、平面Gにおける仰臥位の被験者の腹部の横幅のうち最長の仰臥位最長横幅に準じた横幅を示す距離であり、第2距離は、平面Gに含まれる所定の測定箇所での横幅を示す距離であるから、変数Aは、平面Gにおける仰臥位の被験者の腹部の横幅の分布の傾向、すなわち平面Gにおける仰臥位の被験者の腹部の形状を示す特徴量である。また、前述のように、仰臥位の被験者の腹部の形状と比率Bとの間には相関がある。つまり、変数Aは、比率Bの値を示す特徴量である。よって、この体指標計によれば、比率B(腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比)の値を示す特徴量を測定して肥満型などの肥満指標を推定することができる。
また、この体指標計によれば、被験者は仰臥位であればよいから、寝たきりの人が被験者の場合にも、比率Bの値を示す特徴量を測定することができる。また、測定手段は、複数の測定箇所で腹部の横幅を示す距離を測定する手段であるから、その構成を簡素とすることができる。よって、この体指標計によれば、比率B(腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比)の値を示す特徴量を簡便に測定することができる。
なお、前述したように、仰臥位の被験者の腹部の皮下脂肪は重力によって腹部の後側へ垂れ下がるから、推定精度の向上の観点では、鉛直方向に直交する平面を基準面とし、この基準面に平面Gが直交するように測定手段を配置して距離を測定するのが好ましい。この場合、距離の測定時に平面Gと身長方向とが直交するように測定手段を配置するのが更に好ましい。
また、測定手段としては、腹部の横幅方向において腹部を挟んで対向する二つの測距センサで構成される測距センサ対を複数備えるとともに、測距センサによって計測された距離を測距センサ対毎に合計して合計距離を算出する合計手段とを備えるものを例示可能である。この測定手段では、複数の測距センサ対は、それぞれ複数の測定箇所に配置され、各測距センサは、配置された測定箇所で腹部との距離を計測する。この場合、「複数の測定箇所の距離」の各々として、測距センサによって計測された距離を測距センサ対毎に合計して得られる複数の合計距離の各々を採用してもよいし、各測距センサ対の合計距離と当該測距センサ対を構成する二つの測距センサ間の距離との差分を採用してもよい。
また、「所定の測定箇所」は、単数であっても複数であってもよい。所定の測定箇所が複数の場合、指標を推定する演算は、複数の所定の測定箇所の各々と推定する指標とに対応する演算となる。また、肥満型を推定する演算としては、所定の測定箇所に対応する条件式や回帰式を用いた演算を例示可能である。条件式の閾値や回帰式の係数は、第1距離が仰臥位最長横幅を示す場合に推定精度が最高となるように定められる。
【0006】
上記の体指標計において、前記推定手段は、前記第1距離と前記変数(変数A)とを用いた演算を実行するようにしてもよい。第1距離は仰臥位最長横幅に準じた横幅を示す距離であり、仰臥位最長横幅と、腹部皮下脂肪面積や、内臓脂肪面積、腹囲などの肥満指標との間には強い相関がある。したがって、この体指標計によれば、腹部皮下脂肪面積や、内臓脂肪面積、腹囲などの肥満指標を高い精度で推定することができる。なお、腹囲は、腹部のある横断面の周長である。
ここで、腹囲を高い精度で推定可能な理由について説明する。腹囲の推定には、本来、内臓脂肪と腹部皮下脂肪との区別は不要である。しかし、仰臥位の被験者の腹部では、皮下脂肪が垂れ下がることにより、腹部の後側の横幅が立位最長横幅よりも著しく長くなる虞がある。この場合、立位最長横幅よりも著しく長い横幅を第1距離が示す虞がある。この場合、第1距離のみを用いる演算によって腹囲を推定すると、その推定値が実測値と大きく相違する虞がある。これに対して、この体指標計では、第1距離のみならず、腹部の形状を示す特徴量である変数Aをも用いた演算によって腹囲が推定されるから、上記の相違が小さく抑制される。これが、腹囲が高い精度で推定される理由である。
【0007】
この体指標計において、複数の電極を前記腹部に接触させて、前記腹部の生体インピーダンスを測定する生体インピーダンス測定手段を備え、前記推定手段は、前記生体インピーダンス測定手段に測定された前記生体インピーダンスと、前記第1距離と、前記変数とを用いた演算を実行するようにしてもよい。腹部皮下脂肪面積および内臓脂肪面積などの肥満指標と腹部の生体インピーダンスとの間には強い相関があるから、この体指標計によれば、腹部皮下脂肪面積および内臓脂肪面積などの肥満指標の推定精度が向上する。
【0008】
前記変数(変数A)としては、前記第1距離と前記第2距離との比又は前記第1距離と前記第2距離の差分を例示可能である。図5に示すように、第1距離に対する第2距離の比を変数Aとした場合、変数Aと比率Bとの間には相関がある。また、図16に示すように、第1距離と第2距離との差分を変数とした場合、変数Aと比率Bとの間には相関がある。つまり、どちらであっても肥満指標を推定することができる。ただし、図5と図16との対比から明らかなように、肥満指標の推定精度を向上させる観点では、差分よりも比の方が好ましい。
【0009】
前述のように、本発明では、肥満指標の推定において、仰臥位の被験者の腹部の形状も考慮される。したがって、変数Aが示す形状が実際の腹部の形状からかけ離れると、肥満指標の推定精度が低下する。変数Aが示す形状が実際の腹部の形状からかけ離れないようにする観点では、前記複数の測定箇所のうち前記基準面に最も近い測定箇所又は最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とするのが好適である。その理由は以下の通りである。
例えば、図3に示すように、基準面(基準面S)から順に、第1の測定箇所(測距センサ21a及び21e)、第2の測定箇所(測距センサ21b及び21f)、第3の測定箇所(測距センサ21c及び21g)、第4の測定箇所(測距センサ21d及び21h)が並んでいるものとする。さらに、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いものとする。
この場合、所定の測定箇所が第2の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅(Wmax)の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の前側(第3の測定箇所側)と後側(第1の測定箇所側)との二つである。また、所定の測定箇所が第3の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅(Wmax)の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の前側(第4の測定箇所側)と後側(第2の測定箇所側)との二つである。
これに対して、所定の測定箇所が基準面に最も近い第1の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅(Wmax)の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の前側(第2の測定箇所側)のみである。また、所定の測定箇所が基準面に最も遠い第4の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅(Wmax)の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の後側(第3の測定箇所側)のみである。
このように、複数の測定箇所のうち基準面に最も近い測定箇所又は最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とすることにより、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いケースにおいて、所定の測定箇所と仰臥位最長横幅との相対的な位置関係の候補を絞ることができる。これは、変数Aが示すべき仰臥位の被験者の腹部の形状が限定されることを意味する。つまり、複数の測定箇所のうち基準面に最も近い測定箇所又は最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とすることにより、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いケースにおいて、変数Aが示す形状が実際の腹部の形状とかけ離れる可能性を低減することができるのである。
さらに、基準面に最も近い測定箇所を所定の測定箇所とするよりも、基準面に最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とするのが好適である。その理由は以下の通りである。
仰臥位の被験者の腹部では皮下脂肪が重力によって腹部の後側へ垂れ下がるから、基準面に最も近い測定箇所での横幅より第1距離が長いケースよりも、基準面に最も遠い測定箇所での横幅より第1距離が長いケースの方が発生し易い。つまり、基準面に最も近い測定箇所を所定の測定箇所とする場合に比べて、基準面に最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とする場合の方が、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いケースが発生し易くなるのである。
【0010】
前記複数の測定箇所のうち前記基準面から最も遠い測定箇所を前記所定の測定箇所とする場合、前記推定手段としては、前記所定の測定箇所を前記基準面から最も遠い測定箇所とした場合に前記指標を推定する第1演算と、前記所定の測定箇所を他の測定箇所とした場合に前記指標を推定する第2演算とを実行可能であり、前記測定手段によって測定された前記基準面から最も遠い測定箇所の距離が零を示す場合には前記第2演算を実行し、前記測定手段によって測定された前記基準面から最も遠い測定箇所の距離が零を示さない場合には前記第1演算を実行する手段が好ましい。
所定の測定箇所を前記基準面から最も遠い測定箇所とした場合、所定の測定箇所で零を示す距離(長さが零の横幅を示す距離)が測定される可能性が高くなる。零を示す距離が第2距離となる場合、この距離を測定した測定箇所と腹部との距離を考慮に入れる等の工夫をしないと、仰臥位の腹部の形状の推定精度が著しく低下してしまう。これに対して、この体指標計では、基準面から最も遠い測定箇所で零を示す距離が測定された場合には、他の測定箇所で計測された距離が第2距離となる。つまり、この体指標計によれば、腹部の形状の推定精度が著しく低下する事態を回避することができる。
【0011】
上記の各体指標計において、前記複数の測定箇所のうち1以上の測定箇所は、前記基準面と交わる方向に可動であるようにしてもよい。前述したように、第1距離は仰臥位最長横幅に準じた横幅を示す距離である。したがって、第1距離が示す横幅が仰臥位最長横幅よりも著しく短くなると、変数Aで示される形状が実際の形状と大きく異なってしまう。これに対して、この体指標計によれば、可動の測定箇所を可動させることにより、第1距離が示す横幅の長さを仰臥位最長横幅の長さに近づけることができる。つまり、この体指標計によれば、肥満指標の推定精度が向上する。
なお、演算において回帰式や条件式を用いる場合、所定の測定箇所が固定ならば、所定の測定箇所に対応する回帰式や条件式を用意しておけば足りるが、所定の測定箇所が可動ならば、所定の測定箇所となりうる各箇所に対応する回帰式や条件式を用意しておき、所定の測定箇所となった箇所に対応する回帰式や条件式を演算に用いるようにすべきである。
【0012】
上記の各体指標計において、前記測定手段は、前記複数の測定箇所の距離を、前記腹部に接触することなく測定することが好ましい。この体指標計では、指標を推定する演算に必要な距離の測定が非接触式の測定となる。接触式の測定では、測定のための接触によって腹部が変形するから距離の測定精度が低下するが、非接触式の測定では、当該変形が発生しないから距離の測定精度が低下しない。つまり、この体指標計によれば、肥満指標の推定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態の体指標計100の外観を示す立面図である。
【図2】体指標計100のフレーム20の外観を示す斜視図である。
【図3】フレーム20と腹部11との位置関係を示す断面図である(中間型)。
【図4】体指標計100の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】変数Aと比率Bとの関係を示す相関図である(第4段の比)。
【図6】フレーム20と腹部11との位置関係を示す断面図である(皮下脂肪型)。
【図7】フレーム20と腹部11との位置関係を示す断面図である(内臓脂肪型)。
【図8】変数Aを用いる回帰式による腹囲の推定値EWと実測値との関係を示す相関図である。
【図9】変数Aを用いない回帰式による腹囲の推定値と実測値との関係を示す相関図である。
【図10】生体インピーダンスを用いない回帰式による内臓脂肪面積の推定値EIFとCTスキャン法によって測定された内臓脂肪面積との関係を示す相関図である。
【図11】生体インピーダンスを用いる回帰式による内臓脂肪面積の推定値EIFとCTスキャン法によって測定された内臓脂肪面積との関係を示す相関図である。
【図12】生体インピーダンスを用いない回帰式による腹部皮下脂肪面積の推定値EIFとCTスキャン法によって測定された腹部皮下脂肪面積との関係を示す相関図である。
【図13】生体インピーダンスを用いる回帰式による腹部皮下脂肪面積の推定値EIFとCTスキャン法によって測定された腹部皮下脂肪面積との関係を示す相関図である。
【図14】本発明の第1実施形態の体指標計200の電気的構成を示すブロック図である。
【図15】体指標計200のフレーム50の外観を示す斜視図である。
【図16】変数Aと比率Bとの関係を示す相関図である(第4段の差分)。
【図17】変数Aと比率Bとの関係を示す相関図である(第3段の比)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態は、複数の測定箇所が総て固定の測定手段(後述の測距センサ21とCPU41とROM42とメモリ43)を備えた体指標計100である。測定手段は、ベッド1の上面である基準面S上に仰臥位で横たわる被験者10の腹部11について複数の測定箇所で距離を測定する。体指標計100は、さらに、腹部11の生体インピーダンスを測定する生体インピーダンス測定手段(後述の生体インピーダンス測定部30とCPU41とROM42とメモリ43)と、測定された距離と測定された生体インピーダンスとに基づいて、肥満指標を推定する推定手段(後述のCPU41とROM42とメモリ43)とを備える。肥満指標は、腹囲、腹部皮下脂肪面積、内臓脂肪面積および肥満型である。
【0015】
以下、図面を参照して体指標計100を説明する。
図1は、体指標計100の外観を示す立面図である。この図には、基準面S上に仰臥位で横たわる被験者10も示されている。この図に示されるように、体指標計100は、フレーム20と生体インピーダンス測定部30とを備える。フレーム20は、一片が開放した枠であり、距離を計測する複数の測距センサ21a〜21hを備え、距離測定時には、腹部11を囲むように基準面S上に配置される。生体インピーダンス測定部30は、電流供給用電極31a及び32aと電圧測定用電極31b及び32bとを備え、生体インピーダンス測定時には、各電極が腹部11に接触するように配置される。
【0016】
図2は、フレーム20の外観を示す斜視図であり、図3は、距離測定時におけるフレーム20と腹部11との位置関係を示す断面図である。図2に示されるように、フレーム20は、その内側に、距離を計測する複数の測距センサ21を備える。
【0017】
各測距センサ21は、光学式の測距センサであり、例えば赤外線のような光を発光する発光素子と、被計測点からの反射光を受けて電気信号を発する受光素子とを有し、当該測距センサ21内の基準点Pと被計測点との距離に相当する電気信号を出力する。以降の説明では、測距センサ21及び基準点Pの各々を識別するために添字a〜hを付ける。
【0018】
例えば、測距センサ21aは、基準点Paと被計測点との距離(図3のLa)に相当する電気信号を出力する。同様に、測距センサ21b〜21hは、それぞれ基準点Pb〜Phと被計測点との距離(図3のLb〜Lh)に相当する電気信号を出力する。なお、各測距センサ21の被計測点は、当該測距センサ21の距離計測軸と被験者10等の物体とが交わる点である。
【0019】
また、図2に示すように、測距センサ21b〜21hは、一つの平面Gに含まれている。具体的には、測距センサ21b〜21hは、それぞれの基準点Pb〜Ph及び被計測点が平面Gに含まれるように配置されている。平面Gは、距離の測定時に仰臥位の被験者10の腹部11を横切る平面であり、測距センサ21b〜21hの配列方向(例えば図3では紙面方向)に延在する。図2中の二点鎖線は、フレーム20の可視面と平面Gとの交線である。
【0020】
また、各測距センサ21は、その距離計測軸が距離測定時に基準面Sと平行となるように設けられている。また、測距センサ21a〜21dは、測距センサ21e〜21hに線対称に配置されている。つまり、図2に示すように、測距センサ21a及び21eの距離計測軸は同一線上にあり、測距センサ21b及び21fの距離計測軸は同一線上にあり、測距センサ21c及び21gの距離計測軸は同一線上にあり、測距センサ21d及び21hの距離計測軸は同一線上にある。
【0021】
以降の説明では、測距センサ21a及び21eを基準面Sに最も近い第1段の測距センサ対、測距センサ21b及び21fを基準面Sに次に近い第2段の測距センサ対、測距センサ21c及び21gを基準面Sに次に近い第3段の測距センサ対、測距センサ21d及び21hを基準面Sに最も遠い第4段の測距センサ対と呼ぶ。つまり、フレーム20は、被験者10の腹部11の横幅方向において腹部11を挟んで対向する二つの測距センサ21で構成される測距センサ対を複数の測定箇所に備える。
【0022】
複数の測定箇所は、基準面Sに最も近い測定箇所と最も遠い測定箇所との間に、平面Gにおける腹部11の横幅のうち最長の横幅(以降、「仰臥位最長横幅(Wmax)」という)が位置するように定められる。例えば、基準面Sと第1段の距離計測軸との間隔W1は4cmであり、nを3以下の自然数としたとき、第n段の距離計測軸と第n+1段の距離計測軸との間隔Wn+1は3cmである。また、測距センサ対を構成する二つの測距センサ21間の距離(L)は、総ての測距センサ対に共通である。
【0023】
図4は、体指標計100の電気的構成を示すブロック図である。この図に示されるように、フレーム20は、測距センサ21a〜21hの他に、スイッチ22とアナログ/デジタル(A/D)変換器23とを備える。スイッチ22は、測距センサ21a〜21hの出力信号を順次に選択してA/D変換器23に供給する。A/D変換器23は、供給された信号をデジタル信号に変換し、後述のCPU41に供給する。つまり、距離測定時には、A/D変換器23からCPU41へ、測距センサ21a〜21hによって計測された距離を示す距離データが順次供給される。
【0024】
生体インピーダンス測定部30は、電流供給用電極31a及び32aと電圧測定用電極31b及び32bとの他に、電流供給部33Aと電圧測定部33Bとを備える。電流供給部33Aは、生体インピーダンス測定時には、電流供給用電極31a及び32aを介して被験者10の腹部11に高周波の定電流と低周波の定電流とを供給する。高周波の電流の周波数は例えば50kHzであり、低周波の電流の周波数は例えば6.25kHzである。高周波の電流が供給される期間(高周波期間)と、低周波の電流が供給される期間(低周波期間)とは互いに重ならない。
【0025】
電圧測定部33Bは、高周波期間と低周波期間との各々において、電圧測定用電極31bと電圧測定用電極32bとの間の電圧を測定し、この測定の結果(電圧)を示す電圧データを無線通信によってフレーム20のCPU41へ供給する。なお、高周波の電流を供給したときの電圧と低周波の電流を供給したときの電圧との両方を測定するのは、内臓脂肪面積および腹部皮下脂肪面積の推定に用いるのに好適な生体インピーダンスを測定するためである。すなわち、筋肉組織などの電解質組織の影響が少ない生体インピーダンスを測定するためである。脂肪組織などの非電解質組織の電気抵抗は低周波の場合でも高周波の場合でもさほど変化しないが、電解質組織の電気抵抗は低周波の場合と高周波の場合とで大きく変化するから、両方の場合の電圧を測定すれば、電解質組織の影響が少ない生体インピーダンスを算出可能なのである。
【0026】
また、フレーム20は、CPU(中央演算処理装置)41と、ROM(read only memory)42と、メモリ43と、人に操作される操作部44と、情報を表示する表示部45とを備える。ROM42には、CPU41に実行されるコンピュータプログラム(以降、「第1プログラム」という)が記録されている。メモリ43は、例えば揮発性のメモリであり、CPU41のワークエリアとして使用される。操作部44は、操作内容に応じた信号をCPU41に供給する。表示部45に表示される情報は、例えば、肥満指標の推定結果であり、CPU41から供給される。
【0027】
CPU41は、ROM42に記憶された第1プログラムを実行し、各部の制御や各種の演算を行う。例えば、CPU41は、操作部44から生体インピーダンスの測定開始を指示する信号が供給されると、電流供給部33Aを制御し、高周波期間および低周波期間にわたって腹部11へ電流を供給させる一方、電圧測定部33Bから二種類の電圧データを受け取り、受け取った電圧データで示される二種類の電圧に基づいて、腹部11の生体インピーダンス(Z)を算出し、算出した生体インピーダンス(Z)を示す生体インピーダンスデータをメモリ43に書き込む。なお、ここで算出される生体インピーダンス(Z)は、電解質組織の影響が少ない生体インピーダンスである。
【0028】
また例えば、CPU41は、操作部44から距離の測定開始を指示する旨の信号が供給されると、測距センサ21a〜21hに距離の計測を開始させ、スイッチ22による選択を開始させ、A/D変換器23から順次供給される距離データを受け取り、受け取った距離データで示される距離を測距センサ対毎に合計して合計距離(La+Le、Lb+Lf、Lc+Lg、及びLd+Lh)を算出する。
【0029】
そして、CPU41は、これらの合計距離のうち、最短の合計距離を第1距離(L1)とし、この距離を示す第1距離データをメモリ43に書き込む一方、第4段の測距センサ対(所定の測定箇所の測距センサ対)に対応する合計距離を第2距離(L2)とし、第2距離に対する第1距離の比の値を算出し、この比を示すデータを、変数Aの値(A)を示す変数データとしてメモリ43に書き込む。つまり、A=L1/L2であり、変数Aは第2距離(L2)に対する第1距離(L1)の比である。この比は、平面Gにおける仰臥位の被験者10の腹部11の横幅の分布の傾向を示すから、変数Aは、平面Gにおける腹部11の形状を示す特徴量でもある。
【0030】
ところで、健康を維持する観点で広く用いられている肥満指標は、腹部の臍を通る横断面(身長方向に直交する平面)に関して測定された特徴量に基づいて推定される指標である。したがって、生体インピーダンス測定時には、腹部11の臍を通る横断面を含む平面内に電極31a、32a、31b及び32bが配置されるように生体インピーダンス測定部30を設置し、距離測定時には、当該平面が平面Gに含まれるようにフレーム20を設置することが好ましい。つまり、身長方向に対して直角に生体インピーダンス測定部30とフレーム20を配置するのが最も好ましい。なお、生体インピーダンス測定部30が腹部11に接触すると、これによって腹部11が変形するから、生体インピーダンス測定と距離測定とは同時でない方がよい。
【0031】
もちろん、腹部の臍を通る横断面以外の平面に関して測定された特徴量に基づいて推定される指標も、健康を維持するために役立つ肥満指標となりうる。つまり、本実施形態によれば、腹部の臍を通る横断面が距離測定時に平面Gに含まれなくとも、健康を維持するために役立つ肥満指標を推定することができる。例えば、距離測定時に、腹部の臍を通らない横断面(身長方向に直交する平面)が平面Gに含まれるようにしてもよいし、腹部の前後方向において平面Gが腹部を斜めに横切るようにしてもよいし、腹部の横幅方向において平面Gが腹部を斜めに横切るようにしてもよいし、腹部の前後方向及び横幅方向において平面Gが腹部を斜めに横切るようにしてもよい。
【0032】
また例えば、CPU41は、操作部44から肥満指標の推定開始を指示する旨の信号が供給されると、式を用いた演算によって肥満指標を推定し、この推定の結果を表示部45に表示させる。肥満指標を推定する演算に用いられる式は、肥満指標毎に予め定められており、腹部の外観の特徴量である変数Aを含む項を有する。
【0033】
図5は、変数Aの値と腹腔内脂肪面積に対する腹部皮下脂肪面積の比(比率B)の値との関係を示す相関図である。この図の比率Bの値は、CT(Computed Tomography)スキャン法によって測定された値に基づいて算出されている。また、この図において、rは相関係数であり、SEEは推定値に対する標準誤差であり、Pは危険率である。この図から明らかなように、変数Aと比率Bとの間には強い相関がある。したがって、肥満指標を推定する演算に、変数Aを含む項を有する式を用いれば、肥満型などの肥満指標の推定精度を向上させることができる。これが、肥満指標を推定する演算に、変数Aを含む項を有する式を用いる理由である。なお、比率Bは腹腔内脂肪面積に対する腹部皮下脂肪面積の比であるから、比率Bとの間に強い相関のある変数Aは、腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比の値を示す特徴量でもある。
【0034】
ここで、肥満型が示す肥満の類型について説明する。本実施形態では、上記の比率Bの値が一定の範囲内にある類型を中間型とし、比率Bの値が当該範囲の下限を超えている類型を内臓脂肪型とし、比率Bの値が当該範囲の上限を超えている類型を皮下脂肪型としている。もちろん、これは一例に過ぎず、上記の範囲と異なる範囲を一定の範囲としてもよいし、中間型を削除してもよい。中間型を削除した場合の肥満型は、比率Bの値が一定の値以下ならば内臓脂肪型を示し、比率Bの値が当該値を上回っているならば皮下脂肪型を示すことになる。
【0035】
次に、変数Aと比率Bとの強い相関の理由について説明する。
図6及び図7は、図3と同様に、距離測定時におけるフレーム20と腹部11との位置関係を示す断面図である。ただし、被験者10の肥満型は、図3では中間型であるのに対し、図6では皮下脂肪型であり、図7では内臓脂肪型である。これらの図に示すように、腹部11の横断面には、縦線のハッチングが施された骨H、横線のハッチングが施された内臓N、斜線のハッチングが施された筋肉M、筋肉Mの外側に存在する皮下脂肪SF、及び筋肉Mの内側に存在する内臓脂肪IFが現れる。
【0036】
被験者10が仰臥位の場合、皮下脂肪SFのうち直下に筋肉Mが存在しない部分が重力によって腹部11の後側へ垂れ下がる。この垂れ下がりの程度は、比率Bの値が大きいほど大きくなり易く(図6)、比率Bの値が小さいほど小さくなり易い(図7)。このため、基準面Sに直交する方向(理想的には鉛直方向)における仰臥位最長横幅Wmaxの位置は、比率Bの値が大きいほど低くなり易く(図6)、比率Bの値が小さいほど高くなり易い(図7)。
【0037】
一方、第2距離に対する第1距離の比である変数Aは、図6の場合には、(La+Le)/(Ld+Lh)であり、1よりも著しく小さいが、図7の場合には、(Ld+Lh)/(Ld+Lh)であり、1と等しい。つまり、変数Aの値(A)は、仰臥位最長横幅(Wmax)の位置が低いほど小さくなり易く、高いほど大きくなり易い。すなわち、変数Aの値(A)は、比率Bの値が大きいほど小さくなり易く、比率Bの値が小さいほど大きくなり易い。これが、変数Aと比率Bとの強い相関の理由である。
【0038】
肥満指標の推定では、CPU41は、推定する指標毎に式を選択し、選択した式を用いた演算を行う。演算に先立ち、CPU41は、メモリ43から第1距離データ及び変数データを読み出す。また、メモリ43に生体インピーダンスデータが記憶されていれば、生体インピーダンスデータも読み出す。そして、これらのデータで示される第1距離(L1)、変数Aの値(A)及び生体インピーダンス(Z)と、測距センサ対を構成する二つの測距センサ21間の距離(L)とを用いて、腹囲、内臓脂肪面積、腹部皮下脂肪面積および肥満型を推定する。
【0039】
<腹囲の推定>
腹囲の推定では、変数Aを用いる回帰式である式1が選択される。
EW=−68.9+3.13×(L−L1)+62.0×A … (式1)
式1の各項の係数は、L2=Ld+LhかつL1=Wmaxの場合に推定精度が最高となるように定められている。CPU41は、L1、A、L及び式1を用いて、腹囲の推定値EWを算出する。この推定値EWと腹囲の実測値との関係は図8に示す通りである。この図に示すように、両者の間には強い相関がある。つまり、体指標計100によれば、腹囲を高い精度で推定することができる。
【0040】
図9は、変数Aを用いない回帰式による腹囲の推定値と腹囲の実測値との関係を示す相関図である。図9の破線で示す領域には、推定値と実測値とが大きく相違するサンプルが存在する。これらのサンプルは、比率Bが著しく高い被験者10である。仰臥位の被験者10の比率Bが著しく高いと、垂れ下がった皮下脂肪によって腹部11の後側の横幅が立位最長横幅よりも著しく長くなる場合がある。この場合、立位最長横幅よりも著しく長い横幅を第1距離が示す場合がある。この場合、腹部の形状を示す特徴量である変数Aを用いないと、腹囲の推定値と実測値とが大きく相違する虞がある。これが、推定値と実測値とが大きく相違するサンプルが存在する理由である。これに対して、図8には、そのようなサンプルが存在しない。これが、高い精度で腹囲を推定することができる理由である。
【0041】
<内臓脂肪面積の推定>
内臓脂肪面積の推定では、生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されていない場合には、Zを用いない回帰式である式2が選択され、生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されている場合には、Zを用いる回帰式である式3が選択される。
EIF=−907.2+937.8×A+0.127×(L−L1)2 … (式2)
EIF=−787.4+878.6×A+0.001215×Z×(L−L1)2 … (式3)
式2及び式3の各項の係数は、L2=Ld+LhかつL1=Wmaxの場合に推定精度が最高となるように定められている。
【0042】
生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されていない場合、CPU41は、L1、A、L及び式2を用いて、内臓脂肪面積の推定値EIFを算出する。この推定値EIFとCTスキャン法によって測定された内臓脂肪面積との関係は図10に示す通りである。この図に示すように、両者の間には強い相関がある。これは、内臓脂肪面積との間に強い相関がある第1距離のみならず、比率Bとの間に強い相関のある変数Aをも用いた演算によって内臓脂肪面積が推定されるからである。よって、体指標計100によれば、内臓脂肪面積を高い精度で推定することができる。
【0043】
生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されている場合、CPU41は、L1、A、Z、L及び式3を用いて、内臓脂肪面積の推定値EIFを算出する。この推定値EIFとCTスキャン法によって測定された内臓脂肪面積との関係は図11に示す通りである。図10と図11との対比から明らかなように、式3を用いた場合の内臓脂肪面積の推定精度は、式2を用いた場合の内臓脂肪面積の推定精度よりも向上する。
【0044】
<腹部皮下脂肪面積の推定>
腹部皮下脂肪面積の推定では、生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されていない場合には、Zを用いない回帰式である式4が選択され、生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されている場合には、Zを用いる回帰式である式5が選択される。
ESF=210.6−415.6×A+0.363×(L−L1)2 … (式4)
ESF=593.7−576.3×A+0.003512×Z×(L−L1)2 … (式5)
式4及び式5の各項の係数は、L2=Ld+LhかつL1=Wmaxの場合に推定精度が最高となるように定められている。
【0045】
生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されていない場合、CPU41は、L1、A、L及び式4を用いて、腹部皮下脂肪面積の推定値ESFを算出する。この推定値ESFとCTスキャン法によって測定された腹部皮下脂肪面積との関係は図12に示す通りである。この図に示すように、両者の間には強い相関がある。これは、腹部皮下脂肪面積との間に強い相関がある第1距離のみならず、比率Bとの間に強い相関のある変数Aをも用いた演算によって腹部皮下脂肪面積が推定されるからである。よって、体指標計100によれば、腹部皮下脂肪面積を高い精度で推定することができる。
【0046】
生体インピーダンスデータがメモリ43に記憶されている場合、CPU41は、L1、A、Z、L及び式5を用いて、腹部皮下脂肪面積の推定値ESFを算出する。この推定値ESFとCTスキャン法によって測定された腹部皮下脂肪面積との関係は図13に示す通りである。図12と図13との対比から明らかなように、式5を用いた場合の内臓脂肪面積の推定精度は、式4を用いた場合の内臓脂肪面積の推定精度よりも向上する。
【0047】
<肥満型の推定>
肥満型の推定では、Aを用いる条件式である式6及び式7が選択される。
A>0.95 … (式6)
A≦0.9 … (式7)
式6及び式7の右辺の値(閾値)は、L2=Ld+LhかつL1=Wmaxの場合に推定精度が最高となるように定められている。CPU41は、A及び式6を用いて、式6の真偽を算出する。式6が真の場合、CPU41は、被験者10の肥満型を内臓脂肪型と推定(判定)する。式6が偽の場合、CPU41は、A及び式7を用いて、式7の真偽を算出する。式7が真の場合、CPU41は、被験者10の肥満型を皮下脂肪型と推定(判定)する。式7が偽の場合、CPU41は、被験者10の肥満型を中間型と推定(判定)する。前述したように、変数Aと比率Bとの間には強い相関があるから、このような推定の仕方により、高い精度で肥満型を推定することができる。
【0048】
以上説明したように、体指標計100は、基準面Sに仰臥位で横たわる被験者10の腹部11の横幅を示す距離を複数の測定箇所で測定する測定手段を備える。そして、これらの測定箇所は、いずれも固定であり、基準面Sまでの距離が互いに相違し、平面Gに含まれる。また、これらの測定箇所は、基準面Sに最も近い測定箇所と最も遠い測定箇所との間に、上記の平面における腹部11の横幅のうち最長の横幅(仰臥位最長横幅)が位置するように定められる。さらに、体指標計100は、測定手段によって測定された複数の測定箇所の距離のうち、最長の横幅を示す第1距離に対する第2距離(所定の測定箇所での横幅を示す距離)の比(変数A)を用いた演算により、肥満指標を推定する推定手段を備える。前述したように、変数Aは、腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比(比率B)の値を示す特徴量でもあるから、体指標計100によれば、比率Bの値を示す特徴量を測定して肥満指標を推定することができる。
【0049】
また、体指標計100による測定は、いずれも仰臥位の被験者10に対して行われるから、体指標計100によれば、寝たきりの被験者10についても肥満指標を推定することができる。また、測定手段は、複数の測定箇所で腹部の横幅を示す距離を測定する手段であり、その構成は簡素である。よって、体指標計100によれば、比率Bの値を示す特徴量を簡便に測定することができる。また、体指標計100によれば、1回の測定で腹囲、内臓脂肪面積、腹部皮下脂肪面積および肥満型が推定されるから、1回の測定で肥満を多面的に評価することができる。
【0050】
なお、前述したように、仰臥位の被験者10の腹部11の皮下脂肪は重力によって腹部の後側へ垂れ下がるから、推定精度の向上の観点では、鉛直方向に直交する平面を基準面Sとし、この基準面Sに平面Gが直交するようにフレーム20を配置して距離を測定するのが好ましい。この場合、距離の測定時に平面Gと身長方向とが直交するようにフレーム20を配置するのが更に好ましい。
【0051】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態は、複数の測定箇所のうち二つの測定箇所が可動の測定手段(測距センサ21とCPU41とROM62とメモリ43)を備えた体指標計200である。以下、図面を参照して体指標計200を説明する。図14は、体指標計200の電気的構成を示すブロック図である。この図に示されるように、体指標計200が体指標計100と異なる点は、フレーム20に代えてフレーム50を備える点のみである。
【0052】
まず、フレーム50がフレーム20と異なる点について説明する。
図15は、フレーム50の外観を示す斜視図である。この図に示すように、フレーム50の内側には、X方向に延在する摺動溝24b,24c,24f及び24gが形成されている。X方向は、距離測定時には腹部11の前後方向に一致する。測距センサ21b,21c,21f,21gは、それぞれ対応する摺動溝24b,24c,24f,24gに沿って可動である。ただし、いかなる場合でも、同一の測距センサ対を構成する二つの測距センサの距離計測軸は一致する。
【0053】
また、フレーム50は、図14に示すように、測距センサ21b,21c,21f及び21gを移動させる動力を発生させるモータ25と、モータ25によって発生された動力を用いて、測距センサ21b,21c,21f,21gを対応する摺動溝24b,24c,24f,24gに沿って測距センサ対毎に摺動させるための摺動機構(図示略)とを備える。摺動機構は、測距センサが対応する摺動溝から逸脱する事態や、測距センサが隣の測距センサを押す事態を回避可能に構成されている。
【0054】
また、フレーム20がROM42を備えるのに対し、フレーム50はROM62を備える。ROM42が第1プログラムを記憶しているのに対し、ROM62は、第1プログラムとは異なるコンピュータプログラム(以降、「第2プログラム」という)を記憶している。体指標計200のCPU41は、第2プログラムを実行することにより、体指標計100のCPU41と同様の動作を行う他に、操作者の指示に従って第2段および第3段の測距センサ対の摺動を制御する。
【0055】
具体的には、体指標計200のCPU41は、操作部44から第2段または第3段の測距センサ対の摺動の開始を指示する信号が供給されると、この指示に応じた信号をモータ25と前述の摺動機構とに供給する。この信号に基づいてモータ25と前述の摺動機構とが制御される。これにより、摺動を指示された測距センサ対が、二つの摺動溝に沿って、指示された方向に摺動する。また、体指標計200のCPU41は、操作部44から測距センサ対の摺動の終了を指示する信号が供給されると、この指示に応じた信号をモータ25と前述の摺動機構とに供給する。この信号に基づいてモータ25と前述の摺動機構とが制御される。これにより、総ての測距センサ対が停止する。
【0056】
以上の説明から明らかなように、体指標計200によれば、第2段および第3段の測距センサ対を被験者10の腹部の前後方向に移動させることができる。したがって、第1距離が示す横幅を、仰臥位最長横幅(Wmax)に近づけることができる。前述したように、式1〜式7は、いずれもL1=Wmaxの場合に推定精度が最高となるように定められているから、体指標計200によれば、体指標計100よりも高い精度で肥満指標を推定することができる。
【0057】
<変形例>
本発明は、上記の各実施形態に以下の変形を施して得られる各種の形態や、これらの形態の任意の組み合わせをも範囲に含みうる。
変数Aとして、第2距離に対する第1距離の比ではなく、第2距離に対する第1距離の比を採用してもよいし、第1距離と第2距離との差分を採用してもよい。図16は、第1距離と第2距離との差分である変数Aの値と、腹腔内脂肪面積に対する腹部皮下脂肪面積の比(比率B)の値との関係を示す相関図であり、第4段の測距センサ対を所定の測定箇所の測距センサ対とした場合のものである。この図から明らかなように、差分を採用した場合でも、変数Aと比率B(腹腔内脂肪に対する腹部皮下脂肪の比)との間に相関がある。したがって、式1〜式5の係数や式6及び式7の閾値を適切に定めることにより、肥満に関する指標を推定することができる。つまり、本発明では、変数Aとして、第1距離と第2距離との相違に関する任意の変数を採用可能である。ただし、図5及び図16から明らかなように、変数Aと比率Bとの間の相関は、差分を採用した場合よりも、比を採用した場合の方が強い。したがって、肥満に関する指標の推定精度を向上させる観点では、比の採用が好ましい。
【0058】
所定の測定箇所の測距センサ対として、第4段以外の段の測距センサ対を採用してもよい。例えば、第1実施形態を変形し、所定の測定箇所の測距センサ対として第3段の測距センサ対を採用してもよい。この場合、第3段の測距センサ対に対応する合計距離が第2距離(L2)となり、第2距離に対する第1距離の比である変数Aの値と比率Bの値との関係は、図17に示す通りとなる。この図から明らかなように、第3段の測距センサ対を採用した場合でも、変数Aと比率Bとの間に相関がある。したがって、式1〜式5の係数や式6及び式7の閾値を適切に定めることにより、肥満に関する指標を推定することができる。このことは、第1距離に対する第2距離の比を変数Aとする場合でも、第1距離と第2距離との差分を変数Aとする場合でも、同様である。ただし、図5及び図17から明らかなように、変数Aと比率Bとの間の相関は、第3段の測距センサ対を採用した場合よりも、第4段の測距センサ対を採用した場合の方が強い。したがって、肥満に関する指標の推定精度を向上させる観点では、第4段の測距センサ対の採用が好ましい。
【0059】
測距センサ対の数を任意の複数としてもよい。つまり、測定箇所の数を任意の複数としてもよい。測定箇所の数が任意の複数の場合、これらの測定箇所のうち、基準面Sに最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とするのが最適である。その理由は以下の通りである。
例えば、図3に示すように、基準面Sから順に、第1の測定箇所(測距センサ21a及び21e)、第2の測定箇所(測距センサ21b及び21f)、第3の測定箇所(測距センサ21c及び21g)、第4の測定箇所(測距センサ21d及び21h)が並んでいるものとする。さらに、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いものとする。
この場合、所定の測定箇所が第2の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の前側(第3の測定箇所側)と後側(第1の測定箇所側)との二つである。また、所定の測定箇所が第3の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の前側(第4の測定箇所側)と後側(第2の測定箇所側)との二つである。
これに対して、所定の測定箇所が基準面Sに最も近い第1の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の前側(第2の測定箇所側)のみである。また、所定の測定箇所が基準面Sに最も遠い第4の測定箇所ならば、仰臥位最長横幅の位置として有り得るのは、所定の測定箇所の後側(第3の測定箇所側)のみである。
このように、複数の測定箇所のうち基準面Sに最も近い測定箇所又は最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とすることにより、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いケースにおいて、所定の測定箇所と仰臥位最長横幅との相対的な位置関係の候補を絞ることができる。これは、変数Aが示すべき仰臥位の被験者の腹部の形状が限定されることを意味する。つまり、複数の測定箇所のうち基準面Sに最も近い測定箇所又は最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とすることにより、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いケースにおいて、変数Aで示される腹部の形状が実際の腹部の形状とかけ離れる可能性を低減することができる。
一方、仰臥位の被験者の腹部では皮下脂肪が重力によって腹部の後側へ垂れ下がるから、基準面Sに最も近い測定箇所での横幅より第1距離が長いケースよりも、基準面Sに最も遠い測定箇所での横幅より第1距離が長いケースの方が発生し易い。つまり、基準面Sに最も近い測定箇所を所定の測定箇所とする場合に比べて、基準面Sに最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とする場合の方が、第2距離が示す横幅よりも第1距離が示す横幅が長いケースが発生し易くなるのである。
【0060】
ところで、第2実施形態では、第2段および第3段の測距センサ対が腹部11の前後方向に可動であるから、第4段以外の段の測距センサ対を所定の測定箇所の測距センサ対とした場合、可動の測距センサ対が所定の測定箇所の測距センサ対となることもある。すなわち、本発明には、所定の測定箇所が基準面Sに交わる方向に可動の形態も含まれる。この形態では、所定の測定箇所の可動範囲内の複数個所に対応付けて式1〜式7に相当する式を用意しておき、所定の測定箇所に最も近い箇所に対応する式を用いた演算により、肥満に関する指標を推定する。式1〜式5に相当する式は、対応する箇所に応じて式1〜式5の係数を変更した式であり、式6および式7に相当する式は、対応する箇所に応じて式6および式7の閾値を変更した式である。
【0061】
上述した第2実施形態では、第2段および第3段の測距センサ対を腹部11の前後方向に可動とし、第1段および第4段の測距センサ対を固定としたが、これに限るものではない。つまり、本発明には、複数の測定箇所のうち1以上の測定箇所が基準面Sに交わる方向に可動である形態が含まれる。第1距離が示す横幅を仰臥位最長横幅(Wmax)に近づける観点では可動の測定箇所が多い方が好ましいが、用意すべき式を減らす観点では可動の測定箇所が少ない方が好ましい。
【0062】
上述した各実施形態では、複数の測定箇所の各々について合計距離が算出され、これらの合計距離(La+Le、Lb+Lf、Lc+Lg、Ld+Lh)が、第1距離と第2距離の候補となるが、これに限るものではない。例えば、L−La−Le、L−Lb−Lf、L−Lc−Lg、L−Ld−Lhが候補となるようにしてもよい。つまり、第1距離と第2距離の候補として、基準面Sに仰臥位で横たわる被験者10の腹部11の横幅を示す任意の距離を採用可能である。なお、上述した各実施形態では、測距センサ対を構成する二つの測距センサ21間の距離(L)が、総ての測距センサ対に共通であるが、これに限るものではない。
【0063】
複数の測定箇所のうち基準面Sから最も遠い測定箇所を所定の測定箇所とした場合、所定の測定箇所で長さが零の横幅を示す距離が測定される可能性がある。長さが零の横幅を示す距離が第2距離となる場合、この距離を測定した測定箇所と腹部11との距離を考慮に入れる等の工夫をしないと、肥満に関する指標の推定精度が著しく低下してしまう。そこで、第1演算と第2演算とを実行可能な推定手段を採用してもよい。第1演算は、所定の測定箇所を基準面Sから最も遠い測定箇所とした場合に肥満に関する指標を推定する演算であり、第2演算は、所定の測定箇所を他の測定箇所とした場合に肥満に関する指標を推定する演算である。さらに、この推定手段は、測定手段によって測定された基準面Sから最も遠い測定箇所の距離が、長さが零の横幅を示す場合には、第2演算を実行し、長さが零でない横幅を示す場合には、第1演算を実行する。つまり、この形態では、基準面Sから最も遠い測定箇所で長さが零の横幅を示す距離が測定された場合には、他の測定箇所で測定された距離が第2距離となるから、肥満に関する指標の推定精度が著しく低下する事態を回避することができる。
【0064】
複数の測定箇所のうちの複数を所定の測定箇所としてもよい。この場合、複数種類の第2距離が得られ、複数種類の式を用いて複数種類の演算が行われ、複数種類の演算結果に基づいて肥満に関する指標の推定結果が得られる。また、推定する指標の種類を1以上3以下としてもよい。この形態において、推定する指標に内臓脂肪面積も腹部皮下脂肪面積も含まれない場合には生体インピーダンスの測定は不要となる。
【0065】
第1距離および第2距離の候補となる合計距離として、各測距センサ対の合計距離と当該測距センサ対を構成する二つの測距センサ間の距離との差分を採用してもよい。また、測距センサ対の数を1とし、この測距センサ対を腹部11の前後方向に移動させて腹部11を走査するようにしてもよい。また、光学式以外の方式の測距センサを採用してもよい。ただし、接触式の測距センサを採用すると、距離測定時に測距センサが接触することによって腹部11が変形する虞があるから、非接触式の測距センサの採用が好ましい。
【0066】
フレーム20又は50と生体インピーダンス測定部30との間の通信は、有線通信であってもよい。また、フレーム20又は50と生体インピーダンス測定部30との他に、CPU41とROM42又は62とメモリ43と操作部44と表示部45とを有する本体を備え、この本体が、フレーム20又は50と生体インピーダンス測定部30との各々と有線又は無線で通信する構成としてもよい。この場合、フレーム20又は50がCPUとROMとメモリと操作部と表示部とを有する必要は無い。
【符号の説明】
【0067】
10 被験者
100,200 体指標計
11 腹部
20,50 フレーム
21a〜21h 測距センサ
30 生体インピーダンス測定部
41 CPU
42,62 ROM
43 メモリ
G 平面
S 基準面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準面に仰臥位で横たわる被験者の腹部の横幅を示す距離を複数の測定箇所で測定し、前記複数の測定箇所は、前記基準面までの距離が互いに相違し、前記基準面と交わる一つの面に含まれる測定手段と、
前記測定手段によって測定された前記複数の測定箇所の距離のうち、最長の横幅を示す距離を第1距離とし、当該複数の測定箇所のうち所定の測定箇所での横幅を示す距離を第2距離としたとき、前記第1距離と前記第2距離との相違に関する変数を用いた演算により、肥満に関する指標を推定する推定手段とを備え、
前記複数の測定箇所は、前記基準面に最も近い測定箇所と最も遠い測定箇所との間に、前記一つの面における前記腹部の横幅のうち最長の横幅が位置するように定められる、
ことを特徴とする体指標計。
【請求項2】
前記推定手段は、前記第1距離と前記変数とを用いた演算を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の体指標計。
【請求項3】
複数の電極を前記腹部に接触させて、前記腹部の生体インピーダンスを測定する生体インピーダンス測定手段を備え、
前記推定手段は、前記生体インピーダンス測定手段に測定された前記生体インピーダンスと、前記第1距離と、前記変数とを用いた演算を実行する、
ことを特徴とする請求項2に記載の体指標計。
【請求項4】
前記変数は、前記第1距離と前記第2距離との比又は前記第1距離と前記第2距離の差分である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の体指標計。
【請求項5】
前記所定の測定箇所は、前記複数の測定箇所のうち前記基準面から最も遠い測定箇所である、
ことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の体指標計。
【請求項6】
前記推定手段は、
前記所定の測定箇所を前記基準面から最も遠い測定箇所とした場合に前記指標を推定する第1演算と、前記所定の測定箇所を他の測定箇所とした場合に前記指標を推定する第2演算とを実行可能であり、
前記測定手段によって測定された前記基準面から最も遠い測定箇所の距離が零を示す場合には前記第2演算を実行し、前記測定手段によって測定された前記基準面から最も遠い測定箇所の距離が零を示さない場合には前記第1演算を実行する、
ことを特徴とする請求項5に記載の体指標計。
【請求項7】
前記複数の測定箇所のうち1以上の測定箇所は、前記基準面と交わる方向に可動である、
ことを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の体指標計。
【請求項8】
前記測定手段は、前記複数の測定箇所の距離を、前記腹部に接触することなく測定する、
ことを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の体指標計。
【請求項1】
基準面に仰臥位で横たわる被験者の腹部の横幅を示す距離を複数の測定箇所で測定し、前記複数の測定箇所は、前記基準面までの距離が互いに相違し、前記基準面と交わる一つの面に含まれる測定手段と、
前記測定手段によって測定された前記複数の測定箇所の距離のうち、最長の横幅を示す距離を第1距離とし、当該複数の測定箇所のうち所定の測定箇所での横幅を示す距離を第2距離としたとき、前記第1距離と前記第2距離との相違に関する変数を用いた演算により、肥満に関する指標を推定する推定手段とを備え、
前記複数の測定箇所は、前記基準面に最も近い測定箇所と最も遠い測定箇所との間に、前記一つの面における前記腹部の横幅のうち最長の横幅が位置するように定められる、
ことを特徴とする体指標計。
【請求項2】
前記推定手段は、前記第1距離と前記変数とを用いた演算を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の体指標計。
【請求項3】
複数の電極を前記腹部に接触させて、前記腹部の生体インピーダンスを測定する生体インピーダンス測定手段を備え、
前記推定手段は、前記生体インピーダンス測定手段に測定された前記生体インピーダンスと、前記第1距離と、前記変数とを用いた演算を実行する、
ことを特徴とする請求項2に記載の体指標計。
【請求項4】
前記変数は、前記第1距離と前記第2距離との比又は前記第1距離と前記第2距離の差分である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の体指標計。
【請求項5】
前記所定の測定箇所は、前記複数の測定箇所のうち前記基準面から最も遠い測定箇所である、
ことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の体指標計。
【請求項6】
前記推定手段は、
前記所定の測定箇所を前記基準面から最も遠い測定箇所とした場合に前記指標を推定する第1演算と、前記所定の測定箇所を他の測定箇所とした場合に前記指標を推定する第2演算とを実行可能であり、
前記測定手段によって測定された前記基準面から最も遠い測定箇所の距離が零を示す場合には前記第2演算を実行し、前記測定手段によって測定された前記基準面から最も遠い測定箇所の距離が零を示さない場合には前記第1演算を実行する、
ことを特徴とする請求項5に記載の体指標計。
【請求項7】
前記複数の測定箇所のうち1以上の測定箇所は、前記基準面と交わる方向に可動である、
ことを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の体指標計。
【請求項8】
前記測定手段は、前記複数の測定箇所の距離を、前記腹部に接触することなく測定する、
ことを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の体指標計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−125594(P2011−125594A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288798(P2009−288798)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)
【Fターム(参考)】
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