説明

体腔内の異物捕捉用治療具

【課題】 異物を効果的に捕捉できると共に、体腔内壁に効果的に密接させることができる、体腔内の異物捕捉用治療具を提供する。
【解決手段】この治療具10は、筒状のシース20と、該シース内にスライド可能に配置される支軸30と、該支軸30の先端部に取付けられ、前記シース20の先端から出没可能とされた、体腔内の異物を捕捉する捕捉部材40とを備え、捕捉部材40は、基端部41aを支軸30に固定され、先端部41dを互いに結束された、超弾性合金からなる複数本の線材41を有しており、該線材41は、支軸30の先端から延出された後、外方に向けて支軸30の基端方向に屈曲され、放射状に外方に広がった後に再び前記支軸30の先端方向に向けて屈曲され、それらの先端部を結束された形状をなしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状器官等の人体の体腔内に生成された異物を捕捉するための、体腔内の異物捕捉用治療具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管の狭窄部の治療に際しては、ガイドワイヤ等を介して、バルーンカテーテルや、ステントを外装したバルーンカテーテル、更にはステントを収容したシース等を、狭窄部まで到達させた後、バルーンカテーテルやステントを適宜拡張させることにより、狭窄部を広げる治療が広く行われている。
【0003】
また、近年、血管内に生成された血栓を回収するために、芯材にコイル状部材を取付けておき、これをカテーテル等を介して血栓が生成された部位まで移送し、芯材を介してコイル状部材を操作することで、血栓を絡め取るようにして回収することが行われている。
【0004】
しかし、上記のようにバルーンカテーテル等を拡張させて、血管内腔を開通させる際に、狭窄部がバルーンカテーテル等により押されて圧迫されるので、狭窄部に溜まったプラーク等の異物が散らばって、血管の下流側へ流れてしまうことがあった。また、コイル状部材で血栓を回収する場合も、コイル状部材により比較的脆い血栓が崩壊し、微小な破片状の異物が散らばって、血管の下流側へ流れてしまうことがあった。
【0005】
このような異物が、例えば、脳内血管等の細い血管まで流れると、脳内血管が詰まってしまって、脳梗塞等の原因となることがある。
【0006】
そのため、狭窄部の治療や血栓の回収等の際には、下流側に流れる異物を捕捉する必要がある。このようなものとして、下記特許文献1の図11A及び図11Bに示す実施形態には、ガイドワイヤと、袋状をなし、その中央部が前記ガイドワイヤの先端に固着された袋状部と、Ni−Ti等からフープ状に形成されると共に、その両端が前記ガイドワイヤに連結され、中間部分が前記袋状部の周縁に連結された複数の支持フープとを有する異物の除去用脈管装置が記載されている。
【0007】
そして、上記装置は、配送シースと併用して用いられるようになっている。すなわち、配送シースに対してガイドワイヤを手元側に引張ると、支持フープが折り畳まれ、袋状部の口が閉じた状態で配送シース内に収容され、一方、この収容状態からガイドワイヤを押し出すと、支持フープが復帰して、袋状部の口を開いて拡径させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4439780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1記載の装置は、ガイドワイヤ先端中央に袋状部が固着され、その周縁が支持フープを介してガイドワイヤに連結されているため、袋状部及び支持フープを見たとき、軸方向両端が窄まり中間部分が膨らんだラグビーボール形状となっている。
【0010】
このような形状では、支持フープ及びガイドワイヤの固着部と、袋状部の開口縁部との長さが長くなるので、袋状部の開口縁部を、バルーンカテーテル等の先端部に対して十分に近づけることができなくなる。
【0011】
そのため、狭窄部の近傍に分岐管があり、狭窄部と分岐管との距離が短い血管等に、特許文献1の装置を適用した場合、狭窄部に配置されるバルーンカテーテルから離れて、分岐管を超えた位置に、袋状部の開口縁部が配置されるので、袋状部で異物が捕捉されずに、分岐管に入って流れてしまう可能性があった。
【0012】
また、上記装置の場合、留置位置を修正すべくガイドワイヤを手元側に引張ると、支持フープにより袋状部の周縁が引張られて縮径し、支持フープが血流による抵抗を受けた場合も縮径するので、袋状部の周縁と血管内壁との間が離れやすい構造となっており、異物が隙間から通過してしまう可能性があった。
【0013】
したがって、本発明の目的は、分岐管近傍の狭窄部等をバルーンカテーテル等で処置したときでも、異物を効果的に捕捉することができると共に、移動させたり血流等の抵抗を受けたりしたときも、体腔内壁に密接させることができる、体腔内の異物捕捉用治療具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の体腔内の異物捕捉用治療具は、筒状のシースと、該シース内にスライド可能に配置される支軸と、該支軸の先端部に取付けられ、前記シースの先端から出没可能とされた、体腔内の異物を捕捉する捕捉部材とを備え、前記捕捉部材は、基端部を前記支軸に固定され、先端部を互いに結束された、超弾性合金からなる複数本の線材を有しており、該線材は、前記支軸の先端から延出された後、外方に向けて前記支軸の基端方向に屈曲され、放射状に外方に広がった後に再び前記支軸の先端方向に向けて屈曲され、それらの先端部を結束された形状をなしていることを特徴とする。
【0015】
本発明の体腔内の異物捕捉用治療具においては、前記複数の線材の結束部から最大に拡径した部分に、各線材どうしを連結するフィルタ部材が設けられていることが好ましい。
【0016】
本発明の体腔内の異物捕捉用治療具においては、前記支軸は、少なくともその先端部に軸心に沿った中空部が形成されており、この中空部に芯線の基端部がスライド可能に挿入され、該芯線の先端部に前記複数の線材の先端部が固着されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シース及び支軸を相対的にスライドさせて、捕捉部材をシース内に引き込むと、捕捉部材の各線材が引き延ばされて縮径してシース内周に収容されるので、比較的細いシースでも捕捉部材の収容が可能となり、体腔内に挿入しやすくすることができる。また、シース及び支軸を相対的にスライドさせて、捕捉部材をシース先端から押出すと、超弾性合金からなる複数本の線材が形状復帰して、外方に広がった形状となる。
【0018】
そして、例えば、バルーンカテーテルによる狭窄部治療の際に、本発明の異物捕捉用治療具を用いる場合には、シース内に捕捉部材を収容させて異物捕捉用治療具を、バルーンカテーテルに通して体腔内に挿入し、バルーンカテーテルのバルーンを狭窄部に配置して膨らませる際に、異物捕捉用治療具の捕捉部材をシース先端から押し出して拡径させ、バルーンカテーテルの先端部の前方に配置させた状態で、バルーンカテーテルのバルーンを膨らませることにより、狭窄部が押し広げられることとなる。
【0019】
このとき、線材は、支軸の先端から延出された後、外方に向けて支軸の基端方向に屈曲され、放射状に外方に広がった後に再び支軸の先端方向に向けて屈曲して延出されたS字形状をなすので、各線材が支軸から延出された後、外方に広がって最大に拡径した部分に至る、軸方向の長さを短くすることができる。その結果、捕捉部材の線材の最大拡径部をバルーンカテーテルの先端部にできるだけ近づけて配置することができ、バルーンカテーテルのバルーンで狭窄部を押し広げたときに発生する異物を、捕捉部材内に効果的に捕捉することができる。
【0020】
また、捕捉部材を構成する線材がS字をなして広がっているので、捕捉部材を拡径させた状態で支軸をスライドさせて、バルーンカテーテルに近づけるときや、体腔内を流れる血流等の抵抗を受けたときに、線材が更に外径側に広がって体腔内壁に密接することができ、異物をより効果的に捕捉することができる。更に、各線材の屈曲部が体腔内壁に接触するので、体腔内壁を損傷しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る体腔内の異物捕捉用治療具の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】同異物捕捉用治療具の動作状態を示し、(a)はシース先端から捕捉部材を突出させた状態の説明図、(b)はシース内に捕捉部材を引き込む途中の状態の説明図、(c)はシース内に捕捉部材を収容した状態の説明図である。
【図3】同異物捕捉用治療具の使用方法を示し、その第1手順の説明図である。
【図4】同異物捕捉用治療具の使用方法を示し、その第2手順の説明図である。
【図5】同異物捕捉用治療具の使用方法を示し、その第3手順の説明図である。
【図6】同異物捕捉用治療具の使用方法を示し、その第4手順の説明図である。
【図7】本発明に係る体腔内の異物捕捉用治療具の他の実施形態を示しており、(a)はその使用状態を示す説明図、(b)は(a)の状態から捕捉部材を更に広げた状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1〜6を参照して、本発明に係る体腔内の異物捕捉用治療具の一実施形態について説明する。
【0023】
図1及び図2に示すように、この実施実施形態における体腔内の異物捕捉用治療具10(以下、「治療具10」という)は、筒状のシース20と、該シース20内にスライド可能に配置される支軸30と、該支軸30の先端部に取付けられると共に、前記シース20及び前記支軸30の両者を相対的にスライドさせることにより、前記シース20の先端から出没可能とされた、体腔内の異物を捕捉する捕捉部材40とを備えている。
【0024】
図1及び図2に示すように、本実施形態における前記支軸30は、その先端から基端に至るまで軸心に沿って中空部31が形成され筒状をなしている。また、この中空部31には所定長さの芯線33の基端部側がスライド可能に挿入され、同芯線33の先端部側は中空部31から突出されている。なお、中空部31は、支軸30の先端から芯線33がスライド可能な長さだけ形成し、支軸30の残りの部分を中実としてもよい。また、芯線33の先端部からは、ガイド線34が所定長さで延設されており、芯線33の先端部が体腔内壁に直接突き当たらないようにし、捕捉部材40を体腔内に挿入しやすくしている。
【0025】
前記シース20は、ナイロンエラストマー、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエーテルブロックアミド、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニルや、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタート、ポリブダジエン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリブチレンテレフタート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルフィド、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂を用いることができ、更にこれらの混合物、或いは、ポリエーテルアミド、シリコーン等の共重合体であってもよい。また、滑り性を向上させる目的で、ECTFE(三弗化塩化エチレン−エチレン共重合樹脂)、ETFE(四弗化エチレン−エチレン共重合樹脂)、FEP(四弗化エチレン−六弗化プロピレン共重合樹脂)、PCTFE(三弗化塩化エチレン共重合樹脂)、PFA(四弗化エチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合樹脂)、PTFE(四弗化エチレン樹脂)、PVDF(弗化ビニリデン樹脂)、PVF(弗化ビニル樹脂)等のフッ化樹脂を用いてもよい。
【0026】
前記支軸30、前記ガイド線34及び前記芯線33は、鉄、ステンレス、ピアノ線、Ni−Ti合金、その他の超弾性合金等で形成されている。または、ナイロンエラストマー、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエーテルブロックアミド、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニルや、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタート、ポリブダジエン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリブチレンテレフタート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルフィド、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂を用いることができ、更にこれらの混合物、或いは、ポリエーテルアミド、シリコーン等の共重合体であってもよい。更に、ECTFE(三弗化塩化エチレン−エチレン共重合樹脂)、ETFE(四弗化エチレン−エチレン共重合樹脂)、FEP(四弗化エチレン−六弗化プロピレン共重合樹脂)、PCTFE(三弗化塩化エチレン共重合樹脂)、PFA(四弗化エチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合樹脂)、PTFE(四弗化エチレン樹脂)、PVDF(弗化ビニリデン樹脂)、PVF(弗化ビニル樹脂)等のフッ化樹脂を用いてもよい。
【0027】
また、前記シース20、前記支軸30、前記ガイド線34及び前記芯線33には、滑りやすくするために、潤滑剤をコーティング或いは塗布することが好ましく、血栓付着を防止するために、血栓を溶解するようなウロキナーゼやヘパリン等をコーティングすることが好ましく、感染症を防ぐために、抗菌剤をコーティングすることが好ましい。
【0028】
前記捕捉部材40は、超弾性合金から形成され、その基端部41aを前記支軸30に固定され、先端部41dを互いに結束された、複数本の線材41を有している(図1及び図2参照)。本実施形態では、前記支軸30及びその中空部31に挿入された前記芯線33の外周に、均等な間隔を設けて複数本(ここでは8本)の線材41が配設されている。この線材41は、3〜40本であることが好ましく、6〜10本であることがより好ましい。
【0029】
図2に示すように本実施形態では、各線材41の基端部41aは、前記支軸30の先端部外周にそれぞれ設置され、その外周に配置された金属筒状の固定部材35をカシメることにより、支軸30及び固定部材35に挟み込まれて固定されるようになっている。なお、線材41の基端部41aは、接着剤等や紐状体等を介して支軸30に固定してもよい。
【0030】
更に図1及び図2に示すように、基端部41aが支軸30に固定された各線材41は、支軸30の先端から直線状に延出された後、外方に向けて前記支軸30の基端方向に屈曲され(この屈曲部分を「第1屈曲部41b」とする)、放射状に外方に広がった後に、再び前記支軸30の先端方向に向けて屈曲されて(この屈曲部分を「第2屈曲部41c」とする)、S字形状をなし、更に緩やかなカーブを描きつつ延出して、それらの先端部41dが結束されている。
【0031】
また、本実施形態では、各線材41の先端部41dは、支軸30の中空部31に挿入された芯線33の先端部外周に設置され、その外周に配置された金属筒状の結束部材37をカシメることにより、芯線33及び結束部材37に挟み込まれて、芯線33を介して結束されるようになっている(図2参照)。なお、線材41の先端部41dは、接着剤等を介して芯線33に結束させてもよく、また、芯線33がない場合には、複数の線材41の先端部41dどうしを接着剤や紐状体等で互いに結束させてもよい。
【0032】
以上説明した線材41に用いられる超弾性合金としては、Ni−Ti合金、Ni−Ti−X(X=Fe,Cu,V,Co等)合金、Cu−Zn−X(X=Al,Fe等)合金等を採用することができる。また、線材41に用いられる超弾性合金は、その変態点が常温以下とされており、常温以上となったときに超弾性が発揮されるようになっている。
【0033】
そのため、捕捉部材40をシース20内に収容するとき、その超弾性によりS字形状をなした各線材41が引き伸ばされると共に(図2(c)参照)、体腔内にてシース先端から捕捉部材40を押し出すと、超弾性によって各線材41が形状復帰して、S字形状に広がった状態となるようになっている(図2(a)参照)。なお、線材41に用いられる超弾性合金の変態点を、人体の温度以上となるように設定して、適宜の加温手段(温水等)によって、シース先端から突出した捕捉部材40の各線材41がS字形状に戻るようしてもよい。
【0034】
また、図1に示すように、複数の線材41の先端部41dが結束された部分から、同線材41の最大に拡径した部分、すなわち、第2屈曲部41cに至る部分には、各線材41どうしを連結するフィルタ部材50が配設されている。本実施形態のフィルタ部材50は、線材41の先端部41d側が閉じ、線材41の基端部41a側に向けて、曲面状をなしつつ次第に広がるスカート状に形成されており、更にその周面には流体流通用の流通孔51が複数設けられている。
【0035】
このフィルタ部材50は、ポリウレタン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンテレフタート、ナイロン、シリコーン等の合成樹脂から形成されている。また、不織布やナイロンメッシュ等を用いてもよい。更に、フィルタ部材50には、血栓を溶解するようなウロキナーゼやヘパリンをコーティング或いは上記合成樹脂に含有させることが好ましく、また、感染症を防ぐために、抗菌剤をコーティング或いは上記合成樹脂に含有させることが好ましい。
【0036】
また、この治療具10においては、視認性を向上させるために、治療具10の先端の前記結束部材37を、Pt、Ti、Pd、Rh、Au、W、及び、これらの合金等から形成して放射性不透過性を有するものとしたり、或いは、捕捉部材40の各線材41を、Pt、Ti、Pd、Rh、Au、W、及び、これらの合金等からなる放射線不透過性の芯材と、該芯材の外周に被着された形状記憶合金やステンレス等からなる被覆体とから構成された複合線材としてもよい。
【0037】
上記構造の治療具10は、シース20に対する支軸30のスライド操作により、次のように動作するようになっている。
【0038】
すなわち、図2(a)に示される状態で、支軸30の基端部を把持して、支軸30を固定し、シース20を先端側に押し出す方向にスライドさせると、図2(b)に示すように、捕捉部材40の各線材41がシース20の内周に押圧され、弾性力に抗して各線材41が伸ばされつつ徐々に引き込まれ、図2(c)に示すように、捕捉部材40の各線材41が引き伸ばされて縮径された状態でシース20の先端部内周に収容され、それに伴ってフィルタ部材50も畳まれて縮径した状態でシース20の先端部内周に収容される。
【0039】
一方、図2(c)に示される状態で、支軸30の基端部を把持して、支軸30を固定し、シース20を手元側(基端側)に引き込む方向にスライドさせると、シース20の先端部から各線材41が突出して徐々に形状復帰し(図2(b)参照)、図2(a)に示すように、各線材41がS字形状に形状復帰して外方に広がり、畳まれたフィルタ部材50も元のスカート形状に広がる。
【0040】
なお、上記スライド操作では、支軸30を固定してシース20をスライドさせたが、シース20を固定して支軸30をスライドさせることで、シース20の先端部から捕捉部材40を出没させてもよい。すなわち、捕捉部材40をシース内に収容する場合には、シース20を固定して支軸30を手元側に引き込む方向にスライドさせ、一方、シース先端から捕捉部材40を突出させる場合には、シース20を固定して支軸30を先端側に押し出す方向にスライドさせればよい。
【0041】
そして、この実施形態では、前記支軸30に形成された中空部31に、芯線33の基端部側がスライド可能に挿入され、同芯線33の先端部に、捕捉部材40を構成する複数の線材41の先端部41dが固着された構造となっている。すなわち、複数の線材41は、支軸30のみならず、芯線33によっても支持されているので、複数の線材41を偏心させることなく、支軸30に対してほぼ均等に拡径させることができる(図1及び図2(a)参照)。また、シース20内に捕捉部材40を収容するときに、図2(c)に示すように、各線材41をほぼ真っ直ぐに引き伸ばすことができ、シース20内に収容させやすくすることができる。
【0042】
次に上記構造からなる治療具10の使用方法について説明する。
【0043】
この治療具10は、人体の体腔、すなわち、脳内血管、胸部大動脈、腹部第動脈等の血管、気管、胆管等の管状器官などに生成された異物を、捕捉するために用いることができる。
【0044】
まず、支軸30を固定してシース20を先端側にスライドさせるか、シース20を固定して支軸30を手元側にスライドさせる。それにより、図2(c)に示すように、シース20の先端部内周に、複数の線材41が引き伸ばされて捕捉部材40が収容されると共に、フィルタ部材50が畳まれて収容される。このように、この治療具10においては、捕捉部材40の各線材41が引き延ばされてシース20の内周に収容されるので、比較的細いシース20でも捕捉部材40を収容することができ、体腔内に挿入しやすという利点が得られる。
【0045】
そして、経皮的若しくは皮膚を切開する等して、親カテーテル1を狭窄部Sの手前にまで留置させ、この親カテーテル1を介して図示しないガイドワイヤを挿入し、狭窄部Sを通過させて、同ガイドワイヤの先端部を管状器官Vの奥方に到達させる。次いで図示しないガイドワイヤに沿って、ステント5を外装したバルーンカテーテル3を移動させ、図3に示すように、ステント5を狭窄部Sに整合させる。そして、バルーンカテーテル3から図示しないガイドワイヤを引き抜いて、親カテーテル1を介してバルーンカテーテル3内に本治療具10を挿入し、同バルーンカテーテル3の内腔を通して治療具10を移動させる。
【0046】
その後、図4に示すように、バルーンカテーテル3の先端部から治療具10を突出させて、同治療具10の先端部を、狭窄部Sを通り越えた所定の位置まで移動させる。この状態で、支軸30を固定してシース20を手元側にスライドさせると、図5に示すように、捕捉部材40の各線材41がS字形状に形状復帰して外方に広がって、その最大拡径部分である線材41の第2屈曲部41cが管状器官Vの内壁に密接すると共に、畳まれたフィルタ部材50がスカート形状に広がる。
【0047】
このとき、捕捉部材40の各線材41は、第1屈曲部41b及び及び第2屈曲部41cを有するS字形状をなしているので、線材41が最大限に広がったときに、緩やかに屈曲した第2屈曲部41cが、管状器官Vの内壁に当接するため、管状器官Vの内壁を損傷させにくくすることができる。
【0048】
そして、上記のようにバルーンカテーテル3の前方に捕捉部材40及びフィルタ部材50を広げた状態で、バルーンカテーテル3内に生理食塩水等を流して、図6に示すように、バルーン3aを膨らませると共に、バルーン3aに外装されたステント5を拡径させることで、狭窄部Sを押し広げる。すると、狭窄部Sに溜まったプラーク等の異物Bが散らばって、血流によって管状器官Vの下流側に流れることとなる。
【0049】
しかしながら、狭窄部Sの下流側には、予め本治療具10における捕捉部材40及びフィルタ部材50が広がっているので、流れてくる異物Bを残らず捕捉することができる。
【0050】
そして、この治療具10においては、捕捉部材40を構成する各線材41が、支軸30の先端から延出された後、外方に向けて支軸30の基端方向に屈曲され、放射状に外方に広がった後に再び支軸の先端方向に向けて屈曲して延出されたS字形状をなすので、各線材41が支軸30から延出された後、外方に広がって最大に拡径した部分に至る、軸方向の長さL(図2(a)参照)を短くすることができるようになっている。
【0051】
その結果、図6に示すように、捕捉部材40の各線材41の最大拡径部を、バルーンカテーテル3やステント5の先端部にできるだけ近づけて配置することができ、異物Bを捕捉部材40及びフィルタ部材50によって効果的に捕捉することができる。
【0052】
すなわち、特許文献1記載のラグビーボール形状をなす装置では、図3〜6に示すような、分岐管V1,V2と狭窄部Sとの距離が短い管状器官Vに適用した場合に、異物Bを捕捉し損ねて分岐管に流れてしまうことがあった。これに対して本治療具10では、捕捉部材40の各線材41の最大拡径部を、バルーンカテーテル3等にできるだけ近づけて配置することができるので、分岐管V1,V2と狭窄部Sとの距離が短くても、図6に示すように、分岐管V1,V2の手前側に捕捉部材40を配置することができ、異物Bをより捕捉しやすくすることができ、異物Bが分岐管V1,V2に流れてしまうことを効果的に防止できる。
【0053】
また、この実施形態では、捕捉部材40を構成する複数の線材41の先端部41dが結束された部分から、同線材41の最大に拡径した部分(第2屈曲部41cに至る部分)には、各線材41どうしを連結するフィルタ部材50が配設されているので、異物Bが微細な場合であっても、より確実に捕捉することができる。
【0054】
こうして、捕捉部材40のフィルタ部材50内に異物Bを捕捉した後、捕捉部材40を広げた状態でバルーンカテーテル3の開口部に近づけるように、支軸30、或いは、支軸30及びシース20を、バルーンカテーテル3側に引っ張って移動させる。このとき、各線材41の外方に広がった部分が管状器官Vの内壁に接触して摩擦力が作用するが、その摩擦力は各線材41を外方に広げる力として作用する。また、フィルタ部材50が管状器官Vを流れる血流等の抵抗を受けて、捕捉部材40が更に広がりやすくなる。その結果、捕捉部材40の各線材41及びフィルタ部材50が外径側に広がり、管状器官Vの内壁に密接し、異物Bが捕捉部材40と管状器官Vとの隙間から流れてしまうのを防止することができる。
【0055】
そして、捕捉部材40及びフィルタ部材50の最大拡径部が、バルーンカテーテル3の開口部近傍に位置したら、シース20を固定しておいて、支軸30をシース20内に引き込むことにより、図2(b),(c)に示すように、捕捉部材40の各線材41がシース20内に引き込まれていき、異物Bを捕捉した捕捉部材40及びフィルタ部材50が縮径するので、それらをバルーンカテーテル3内に引き込むことができる。この場合、捕捉部材40は、少なくともバルーンカテーテル3内に収容できればよく、シース20内に完全に収容する必要はない。
【0056】
その後、バルーンカテーテル3のバルーン3aを窄ませて、バルーンカテーテル3と共に治療具10を手元側にスライドさせ、親カテーテル1を介して又は親カテーテル1と共に体内から引き抜くことで、体内から異物Bを取出すことができる。なお、バルーンカテーテル3のバルーン3aは、バルーンカテーテル3内に治療具10を収容する前に窄ませてもよい。但し、上記のようにバルーン3aを膨らまて、バルーンカテーテル3が固定された状態の方が、バルーンカテーテル3内に治療具10を収容しやすい。
【0057】
以上の説明では、ステント5を外装したバルーンカテーテル3による狭窄部Sの治療の際に、治療具10を用いた場合について記載したが、この態様に限定されるものではなく、例えば、バルーンカテーテルのみ、或いは、自己拡張型のステントのみを用いて狭窄部を治療する場合や、コイル状の血栓回収具等で血栓の除去治療をする場合、更には、その他の、異物が散らばるような治療の場合にも、本発明の治療具を好適に用いることができる。
【0058】
図7には、本発明に係る体腔内の異物捕捉用治療具の他の実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0059】
図7(a),(b)に示すように、この実施形態に係る体腔内の異物捕捉用治療具10a(以下、「治療具10a」という)は、筒状のハンドル部60を備えている。このハンドル部60には、その軸方向に沿ってスライド可能なスライド部材61が装着されている。また、支軸30aは、先端側が細く、基端側に向けて段階的に拡径した形状をなしており、その基端部が前記ハンドル部60の先端に固着されている。
【0060】
また、捕捉部材40を構成する複数の線材41の先端部41dを支持する芯線33が、前記実施形態のものよりも長く伸びており、前記支軸30aの中空部31を通って、その基端部がハンドル部60のスライド部材61に連結されている。
【0061】
そのため、ハンドル部60に対してスライド部材61をスライドさせると、それに伴って支軸30a内の芯線33がスライドして、更にこの芯線33の先端部に結束部材37を介して結束された複数の線材41の先端部41dがスライドするようになっている。
【0062】
したがって、図7(a)に示す、シース20の先端から捕捉部材40が突出され、各線材41がS字形状に外方に広がった状態から、スライド部材61を手元側にスライドさせると、図7(b)に示すように、芯線33を介して各線材41の先端部41dが、手元側に引き込まれて、各線材41をS字形状から更に外径側に広がるように変形させることができる。一方、図7(b)に示す状態から、スライド部材61を先端側にスライドさせると、芯線33を介して各線材41の先端部41dが先端側に押し出されて、図7(a)に示すように、各線材41を元の形状に復帰させることができる。
【0063】
この実施形態では、スライド部材61のスライド操作によって、捕捉部材40の各線材41の拡径量を調整することができるので、支軸30の基端部を直接把持してスライドさせる場合よりも、捕捉部材40の各線材41の拡径量を精度よく調整することができるという利点が得られる。
【符号の説明】
【0064】
10,10a 異物捕捉用治療具(治療具)
20 シース
30,30a 支軸
31 中空部
33 芯線
34 ガイド線
40 捕捉部材
41 線材
41d 先端部
50 フィルタ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のシースと、該シース内にスライド可能に配置される支軸と、該支軸の先端部に取付けられ、前記シースの先端から出没可能とされた、体腔内の異物を捕捉する捕捉部材とを備え、
前記捕捉部材は、基端部を前記支軸に固定され、先端部を互いに結束された、超弾性合金からなる複数本の線材を有しており、該線材は、前記支軸の先端から延出された後、外方に向けて前記支軸の基端方向に屈曲され、放射状に外方に広がった後に再び前記支軸の先端方向に向けて屈曲され、それらの先端部を結束された形状をなしていることを特徴とする体腔内の異物捕捉用治療具。
【請求項2】
前記複数の線材の結束部から最大に拡径した部分に、各線材どうしを連結するフィルタ部材が設けられている請求項1記載の体腔内の異物捕捉用治療具。
【請求項3】
前記支軸は、少なくともその先端部に軸心に沿った中空部が形成されており、この中空部に芯線の基端部がスライド可能に挿入され、該芯線の先端部に前記複数の線材の先端部が固着されている請求項1又は2記載の異物捕捉用治療具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−179112(P2012−179112A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42662(P2011−42662)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(599140507)株式会社パイオラックスメディカルデバイス (37)
【Fターム(参考)】