説明

体表面モニタ

【課題】被検者の体表面の放射能汚染の有無および量を被検者の体表面形状に応じて正確に測定することのできる体表面モニタを提供する。
【解決手段】被検者1の体形状を測定する体形状測定装置4と、被検者の体表面から放射される放射線を検出する複数の放射線検出器2を備えたモニタ本体3と、被検者の体形状測定データと放射線検出器の検出値から被検者の体表面放射能汚染密度を算出するデータ処理装置10とを具備し、被検者の体形状を測定することにより求められる放射線検出器と被検者体表面との距離に応じて放射線検出効率を補正するとともに、放射線検出限界値が規定の値に届かない場合や前記距離が設定された距離よりも大きく離れている不整合の場合には警報を出力する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひとの身体の表面から放射される放射線を測定する体表面モニタに関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質を取扱う施設に設けられた放射線管理区域内で作業した作業者が放射線管理区域から退出するときは、体表面モニタによって身体表面から放射される放射線を測定して放射能汚染を検査している。
【0003】
一般に従来の体表面モニタは、被検者の前面、背面、側面、頭部、側頭部を測定するためにモニタ本体に固定設置された放射線検出器により被検者の体表面における放射能汚染を計測する。ここで、頭部測定用の放射線検出器については、被検者の身長に応じて昇降動作を行うことにより、被検者との距離を一定に保つことができているが、その他の面については、放射線検出器が固定設置されているために、被検者の体形状によって放射線検出器と体表面の距離が変わる。また、放射線検出器は一般にプラスチックシンチレーション検出器を用いており、線源が放射線検出器に対して所定の位置にある場合を基準として検出効率を算出しているが、実際には線源との相対的位置関係により、放射線検出器の検出効率は変化する。
【0004】
これについては下記の特許文献1にもあるように、検出器の検出効率は放射線検出器の「レスポンスR」という用語で表現されており、この特許文献1においても被検者との距離を測定して、この「レスポンスR」を補正しているが、その補正演算内容については言及していない上に、その距離測定及び補正についても被検者の頭部のみと限定されている。
【特許文献1】特開平3−92788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の体表面モニタは、被検者と放射線検出器が一定の距離であることを前提とし、また被検者体表面の汚染分布状況も各放射線検出器と校正を実施した相対的位置関係が一意に存在することを前提にして放射線計測を実施しているため、厳密な精度の高い放射線計測を行うことができないという問題がある。
【0006】
例えば、校正を実施した距離よりも被検者が放射線検出器と離れた距離にいる場合、また、校正を実施した位置よりも検出効率が低い位置に被検者の体表面汚染がある場合には、実際の汚染よりも低い値として評価されてしまう。また、放射線検出器との距離が離れている場合、法律などで定められている規定の検出限界に届かない部分が生じる場合もある。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、被検者の体表面の放射能汚染の有無および量を被検者の体表面形状に応じて正確に測定することのできる体表面モニタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の体表面モニタは、被検者の体形状を測定する体形状測定装置と、被検者の体表面から放射される放射線を検出する複数の放射線検出器を備えたモニタ本体と、被検者の体形状測定データと前記放射線検出器の検出値から被検者の体表面放射能汚染密度を算出するデータ処理装置とを具備し、被検者の体形状を測定することにより求められる前記放射線検出器と被検者体表面との距離に応じて放射線検出効率を補正するとともに、放射線検出限界値が規定の値に届かない場合や前記距離が設定された距離よりも大きく離れている不整合の場合には警報を出力する構成とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被検者の体表面の放射能汚染の有無および量を被検者の体表面形状に応じて正確に測定することのできる体表面モニタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る体表面モニタの実施の形態を図1〜図4を参照して説明する。
図1は本実施の形態の体表面モニタの構成を示す図であり、(a)はモニタ本体と体形状測定装置の配置を示す図である。
【0011】
モニタ本体3は小室状をなし、上部3aと扉部3bに被検者1の体表面の放射線を検出する複数の放射線検出器2および各放射線検出器2を首振りあるいは移動させる駆動機構を備えている。体形状測定装置4には、被検者1を撮影するカメラ5及びカメラ5を昇降させる昇降装置6が入口側に設けてある。図1(b)は体形状測定装置4を垂直上方から見た図であり、カメラ5を被検者1に対して直角2方向に設けて計測する。カメラ5の画像は後述の画像計測装置7に伝送される。図1(c)に示すように、カメラ5の代わりに距離測定を行うことができる複数の光電センサ8や超音波センサ9を用いて、被検者1の体形状を測定するようにしてもよい。被検者1はモニタ本体3に入る前に、体形状測定装置4で待機し、カメラ5が被検者1の全長を測定する。
【0012】
図2は本実施の形態の体表面モニタに備えられる計測データ処理システムの構成図である。カメラ5からの画像データを画像計測装置7によって処理した計測値をデータ処理装置10へ伝送し、カメラ昇降装置6のエンコーダから算出されたカメラ5の垂直方向の高さデータと合わせることにより、被検者1の体形状を計測する。データ処理装置10には、校正用線源を用いて測定された各放射線検出器2の距離特性及び分布特性データ、つまり放射線検出器2の検出面との相対的位置によって変化する検出効率ηX,Y(α)及び、検出限界表面汚染密度AX,Y(α)があらかじめ登録されている。
【0013】
ここで、画像計測装置7や光電センサ8や超音波センサ9の代わりに、IDカードリーダ11を用いて、事前にID毎に登録された被検者の体形状データを読み出して利用することも可能である。
【0014】
このように構成された本実施の形態の体表面モニタにおいては、画像計測装置7や光電センサ8、超音波センサ9から算出された体形状、若しくはIDカードに記録された体形状を、あらかじめデータ処理装置10内に登録してある放射線検出器2が持つ特性データと照合する。
【0015】
図3のフローチャートを用いてその動作を説明する。
被検者の体形状を測定(ステップS2)した後、各放射線検出器2の検出面をXY座標で表し、あるポイント(i,j)において、検出面から垂直方向の被検者体表面上までの距離をaとして、データ処理装置10に登録されている放射線検出器2の特性データηX,Y(α)と照合させることにより、被検者の体表面上における各ポイントの検出効率ηi,j(ai,j)を算出する。同様に検出面の全てのポイントにおける検出効率を算出する(ステップS3)。
【0016】
また、同様に、データ処理装置10に登録されている特性データAX,Y(α)と照合させることにより、被検者の体表面上における各ポイントの検出限界表面汚染密度Ai,j(ai,j)を算出し、被検者の体表面の全てのポイントにおける検出限界を算出する。この際、検出限界表面汚染密度Aは下記の式(1)によって算出する。
【数1】

【0017】
なお、上記には全てのポイントと記載したが、適宜所定の面積となるように周りの数ポイントにおける検出効率ηX,Y(α)を平均化することにより、検出限界表面汚染密度Ai,j(ai,j)を算出するようにしてもよい。
【0018】
次に許容検出限界を超える部位があるか否か判定(ステップS4)して、図4に示すように被検者の体表面の各ポイントにおける検出限界Ai,j(a)が規定の値よりも大きいポイントがあった場合、つまり放射線検出器2との距離が大きく離れている部位があるなどした場合には、ガイダンス装置12の音声ガイダンスや画面上のガイダンスにより、被検者の代表的な部位名称を指示して、その部位を放射線検出器2に接近させるよう促す(ステップS5)。
【0019】
さらに、規定の検出限界を満足できるように、測定時間を長く変更する処置を行う(ステップS6)。この際、変更する測定時間Ts´は下記の式(2)を用いて算出する。
【数2】

【0020】
被検者の体表面からの放射線の測定値から被検者の表面汚染密度を算出する場合においても、被検者の体表面上における検出効率ηi,j(ai,j)を使用する。すなわち、表面汚染密度Mは下記の式(3)を用いて算出する(ステップS8)。
【数3】

【0021】
ここで、下記の式(4)のように、被検者の体形状に応じて検出効率を平均化してもよい。
【数4】

【0022】
また、搬出検査上安全側に評価することを考慮して、下記の式(5)のように検出効率ηi,j(ai,j)の最小値を検出効率として採用してもよい。
【数5】

【0023】
本実施の形態の体表面モニタによれば、被検者の体形状及び線源の距離や分布によって変化する放射線検出器の特性データを利用することで測定値を補正することや、検出限界を満足するように、測定時間を変更すること、さらに、ガイダンスの指示により、被検者自らが特定の部位を放射線検出器に接近するができるので、被検者の体形状に応じて正確な放射線検査および出入り管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態の体表面モニタの構成を示し、(a)はモニタ本体と体形状測定装置の構成と配置を示す立面図、(b)は体形状測定装置の平面図、(c)は体形状測定装置の他の例を示す平面図。
【図2】本発明の実施の形態の体表面モニタに備えられる計測データ処理システムの構成を示すブロック図。
【図3】本発明の実施の形態の体表面モニタの動作を示すフローチャート。
【図4】本発明の実施の形態の体表面モニタの動作を説明するグラフ。
【符号の説明】
【0025】
1…被検者、2…放射線検出器、3…モニタ本体、3a…モニタ本体上部、3b…モニタ本体扉部、4…体形状測定装置、5…カメラ、6…カメラ昇降装置、7…画像計測装置、8…光電センサ、9…超音波センサ、10…データ処理装置、11…IDカードリーダ、12…ガイダンス装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の体形状を測定する体形状測定装置と、被検者の体表面から放射される放射線を検出する複数の放射線検出器を備えたモニタ本体と、被検者の体形状測定データと前記放射線検出器の検出値から被検者の体表面放射能汚染密度を算出するデータ処理装置とを具備し、被検者の体形状を測定することにより求められる前記放射線検出器と被検者体表面との距離に応じて放射線検出効率を補正するとともに、放射線検出限界値が規定の値に届かない場合や前記距離が設定された距離よりも大きく離れている不整合の場合には警報を出力することを特徴とする体表面モニタ。
【請求項2】
前記不整合の場合には測定時間を長く変更することを特徴とする請求項1記載の体表面モニタ。
【請求項3】
前記不整合の場合には、被検者にその身体部分を放射線検出器に接近させるようにガイダンスを行うことを特徴とする請求項1記載の体表面モニタ。
【請求項4】
前記体形状測定装置はカメラおよび画像計測装置を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の体表面モニタ。
【請求項5】
前記体形状測定装置は複数の光電センサを備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の体表面モニタ。
【請求項6】
前記体形状測定装置は複数の超音波センサを備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の体表面モニタ。
【請求項7】
被検者の体表面と前記放射線検出器との距離を複数ポイント測定し、その平均値を用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の体表面モニタ。
【請求項8】
被検者の体表面と前記放射線検出器との距離を複数ポイント測定し、各放射線検出器面において、最も検出効率が低いポイントを用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の体表面モニタ。
【請求項9】
被検者の体表面と前記放射線検出器との距離を複数ポイント測定し、そのポイントにおける放射線検出器がもつ分布特性および距離特性を照合させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の体表面モニタ。
【請求項10】
事前にIDカード等に記録しておいた体形状データを前記体形状測定データの代わりに用いることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の体表面モニタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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