説明

作業システム

【課題】複数の作業機器がそれぞれ移動しながらRFIDタグが取り付けられた物品との間で通信を行っても干渉を起こしたり通信待ちの状態を生じることがない作業システムを提供する。
【解決手段】作業機器P1は作業エリアA2に予め設定された無線チャネルch1以外の無線チャネルch2〜ch9の微弱なダミー電波を自らに向けて発信し、この状態でキャリアセンスを開始する。微弱なダミー電波の存在により、無線チャネルch2〜ch9は選択されずに、作業エリアA2に予め設定された無線チャネルch1が選択され、この無線チャネルch1を用いて棚1に収容されている物品WのRFIDタグと無線通信を行うことにより、検品作業を行う。同様にして、他の作業機器P2〜P10及びP11も、自らの作業エリアに予め設定された無線チャネル以外の無線チャネルの微弱なダミー電波を自らに向けて発信し、この状態でキャリアセンスを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、作業システムに係り、特に複数の作業機器がそれぞれ複数の作業エリア間を移動してRFIDタグが取り付けられた物品の検品を行うシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFIDタグを利用した物品の管理方法が提案されている。例えば、図8に示されるように、それぞれRFIDタグが取り付けられた物品Wを倉庫等の棚1及び2に収納し、ピッキングカートやフォークリフト等の作業機器P1〜P11が所望の棚1及び2の収納場所の近傍に位置して物品WのRFIDタグとの間で無線通信を行うことにより検品を行い、物品をピッキングする等の作業が行われる。
【0003】
このとき、個々の作業機器は、通信可能エリアを有し、この通信可能エリア内に位置するRFIDタグとの間で無線通信を行うので、倉庫等に配置された複数の作業機器P1〜P11が同時にそれぞれ対応する物品WのRFIDタグとの間の通信を行う場合には、通信可能エリア内に配置された他の作業機器と干渉を引き起こさないように、互いに異なる無線チャネルを使用する必要がある。
【0004】
そこで、高出力型のRFIDタグでは周波数952.2〜953.8MHzにおいて9個の無線チャネル、低出力型のRFIDタグでは周波数952.2〜954.8MHzにおいて14個の無線チャネルを使用し、いわゆるキャリアセンスを行って他の作業機器と干渉を起こさない無線チャネルを使用することが薦められている。なお、キャリアセンスは、通信可能エリア内における無線チャネルの使用状況を調べるもので、受信信号の有無と受信信号の強度及び継続時間を測定して通信可能エリア内で使用可能な無線チャネルを判断する手法である。
【0005】
複数の作業機器P1〜P11は、それぞれキャリアセンスを行うことにより、他の作業機器と干渉しないような無線チャネルを選択してRFIDタグと通信を行うことが可能となる。
しかしながら、各作業機器P1〜P11は、一般に、ピッキングした物品Wを入出荷ステーションに搬送したり、複数の物品Wを順次ピッキングする等により、それぞれ棚1及び2の周辺で移動する必要がある。このように、複数の作業機器P1〜P11がそれぞれ移動しながらRFIDタグと通信を行う場合には、各作業機器の通信可能エリア内に他の作業機器が頻繁に出入りし、干渉を引き起こさないような無線チャネルを選択するためにキャリアセンスを何回も繰り返して通信待ちの状態が生じることがある。
【0006】
また、同一の無線チャネルでなくても、上述した9個あるいは14個の無線チャネルのうち隣接する無線チャネルで通信する他の作業機器が通信可能エリア内に存在すると、電波のかぶりを生じて干渉しやすくなる。例えば、図8において、無線チャネルch1で通信を行う作業機器P1の通信可能エリアZ1内に隣接の無線チャネルch2で通信する作業機器P6が存在するため、これら作業機器P1とP6との間で干渉が起きやすくなる。同様に、図8の例では、無線チャネルch9で通信を行う作業機器P5とそれぞれ無線チャネルch8で通信する作業機器P9及びP11との間、及び無線チャネルch8で通信を行う作業機器P9と無線チャネルch7で通信する作業機器P4との間で干渉が起きやすくなっている。
【0007】
特許文献1には、複数の無線基地局と移動局から構成される無線通信システムにおいて、複数の無線基地局が自局で使用中の無線チャネルについての情報を互いに交換することにより、各無線基地局が自局を含む干渉エリア内で使用可能な無線チャネルを認識し、これに基づいて自局における無線チャネルの割り当てを行う方法が開示されている。この方法によれば、キャリアセンスによることなく効率よく無線チャネルの割り当て処理を行い、各移動局が無線基地局を経由して通信を行うことができる。
【0008】
【特許文献1】特開平5−206933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の無線通信システムは、複数の無線基地局の位置が固定されたものである。したがって、図8に示したように、複数の作業機器P1〜P11がそれぞれ移動しながらRFIDタグと通信を行う場合に特許文献1の方法を適用しても、干渉が起きやすくなったり、通信待ちの状態が生じるという問題を解消することはできない。
【0010】
この発明はこのような問題点を解消するためになされたもので、複数の作業機器がそれぞれ移動しながらRFIDタグが取り付けられた物品との間で通信を行っても干渉を起こしたり通信待ちの状態を生じることがない作業システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る作業システムは、複数の作業機器がそれぞれ複数の作業エリア間を移動すると共に各作業エリア内でRFIDタグが取り付けられた物品との間で無線通信を行うことにより検品を行う作業システムにおいて、複数の作業エリアの位置関係に基づき各作業エリアに対して互いに干渉しにくい無線チャネルを予め設定し、各作業機器は、作業を行おうとする作業エリアに対して予め設定された無線チャネル以外の無線チャネルの微弱なダミー電波を自らに向けて発信し、この状態でキャリアセンスを行うことによりその作業エリアに対して予め設定された無線チャネルを選択して作業するものである。
なお、この明細書において「微弱な電波」とは、空中線電力が10mW以下で、322MHz〜10GHzの周波数帯では無線設備から3mの距離における電界強度が35μV/m以下の電波のことをいい、電波法第4条のただし書に記載の「免許を要しない無線局」で扱われる電波に相当するものである。
【0012】
好ましくは、各作業機器は、RFID読取りアンテナとこのRFID読取りアンテナの近傍に配置されたダミー電波発信用アンテナとを備えている。
また、複数の作業機器による作業を管理する管理ステーションが、各作業機器の移動位置に対応して各作業機器に微弱なダミー電波を発信する無線チャネルを指示するように構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、複数の作業機器がそれぞれ移動しながらRFIDタグが取り付けられた物品との間で通信を行っても干渉を起こしたり通信待ちの状態を生じることなく作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に実施の形態に係る作業システムの全体構成を示す。それぞれRFIDタグが取り付けられた複数の物品Wが棚1及び2に収納されており、これらの物品Wに対応して棚1及び2の近傍に複数の作業エリアA1〜A11が設定されている。ピッキングカートやフォークリフト等の作業機器P1〜P11は、図中矢印で示されるように、これらの作業エリアA1〜A11間を順次移動しつつ物品WのRFIDタグとの間で無線通信を行うことにより検品を行い、物品Wのピッキング作業等を行う。また、各作業機器P1〜P11による作業を管理する管理ステーション3が配設されている。検品作業を行う毎に作業機器P1〜P11から管理ステーション3に作業の報告が送信され、これにより管理ステーション3は各作業機器P1〜P11の作業位置を把握することができる。
【0015】
また、複数の作業エリアA1〜A11に対してそれぞれ次の表1に示されるように予め無線チャネルが設定されている。
【0016】
【表1】

【0017】
これらの無線チャネルは、作業エリアA1〜A11の位置関係に基づいて互いに干渉しにくいように決定されている。具体的には、各作業エリア内に位置する作業機器の通信可能エリアと重なる他の作業エリアが当該作業エリアの無線チャネルと同一あるいは隣接の無線チャネルを有しないように決定されている。
図1に例えば作業エリアA2に位置する作業機器P1の通信可能エリアZ1が示されている。
【0018】
各作業機器P1〜P11は、物品Wに取り付けられたRFIDタグとの間で無線通信を行うために、図2に示されるようなRFID読取りアンテナ4を有すると共に、このRFID読取りアンテナ4の近傍に配置された8個のダミー電波発信用アンテナ5を有している。各ダミー電波発信用アンテナ5は、図3に示されるように、直方体状のケース6内に収容されたダイポールアンテナ7からなり、RFID読取りアンテナ4に向けて微弱なダミー電波を発信するためのものである。
ここで、ダイポールアンテナ7は、RFID読取りアンテナ4の読み取り効率を阻害しない程度に遮蔽され、出力調整されており、これにより、隣接する作業エリアに位置する作業機器のアンテナシステムに影響を与えることなく微弱なダミー電波を発信することができるように構成されている。
【0019】
次に、図4のフローチャートを参照して、この実施の形態に係る作業システムの動作について説明する。作業機器P1〜P11が、それぞれ作業エリアA1〜A11を移動しながら作業を行い、図1に示されるように、例えば作業機器P1が作業エリアA2に位置するものとする。管理ステーション3は、作業機器P1がこれから作業を行おうとする作業エリアA2に対して予め設定されている無線チャネルch1以外の無線チャネル、すなわち無線チャネルch2〜ch9を作業機器P1に指示する。この管理ステーション3からの指示を受けた作業機器P1は、図4のステップS1で作業エリアA2に予め設定された無線チャネルch1以外の無線チャネルch2〜ch9の微弱なダミー電波を自らに向けて発信する。このとき、無線チャネルch2〜ch9の微弱なダミー電波は、図2に示した8個のダミー電波発信用アンテナ5からそれぞれRFID読取りアンテナ4に向けて5〜10msの期間にわたって発信され、RFID読取りアンテナ4はこれらの微弱なダミー電波を−74dBmを越える強度で受信するように設定されている。
【0020】
作業機器P1は、ステップS2でキャリアセンスを開始し、9チャネルの無線チャネルch1〜ch9について順次受信信号の有無と受信信号の強度及び継続時間を測定する。すなわち、ステップS3で−74dBmを越える受信信号が存在するか否かが判定され、存在する場合には、ステップS4に進んで無線チャネルを変更し、ステップS3に戻る。このとき、無線チャネルch2〜ch9に対しては、RFID読取りアンテナ4が微弱なダミー電波を−74dBmを越える強度で受信しているため、ステップS3による判定の結果、ステップS4に進むこととなる。
【0021】
これに対し、無線チャネルch1については、ダミー電波発信用アンテナ5から微弱なダミー電波が発信されておらず、また、図1に示される作業機器P1の通信可能エリアZ1内に無線チャネルch1を用いて通信している他の作業機器が存在しないため、ステップS3で−74dBmを越える受信信号が存在しないと判定され、続くステップS5で5ms以上計測したと判定されるまでステップS3及びS5が繰り返される。
そして、ステップS5で5ms以上計測したことが判定されると、ステップS6でキャリアセンスを終了し、続くステップS7で該当無線チャネルch1を用いて棚1に収容されている物品WのRFIDタグと無線通信を行うことにより、検品作業が行われる。
【0022】
このように、作業エリアA2に予め設定された無線チャネルch1以外の無線チャネルch2〜ch9の微弱なダミー電波を自らに向けて発信した状態でキャリアセンスを行うので、通信待ちの状態を生じることがなく作業時間を短縮することが可能となる。
また、作業機器P1の通信可能エリアZ1内には、無線チャネルch1に隣接する無線チャネルch2を用いて通信している他の作業機器も存在しないため、干渉を引き起こすおそれはほとんどなく、信頼性の高い通信を行うことが可能となる。
【0023】
同様にして、他の作業エリアA3〜A11及びA1に位置する作業機器P2〜P10及びP11に対しても、その作業エリアに予め設定された無線チャネル以外の無線チャネルの微弱なダミー電波が自らに向けて発信され、この状態でキャリアセンスが行われる。したがって、それぞれ通信待ちの状態を生じることなく、干渉を引き起こさないような無線チャネルを選択してRFIDタグとの無線通信を行うことができる。
【0024】
なお、上記の実施の形態では、それぞれ一つのダイポールアンテナ7がケース6内に収容された8個のダミー電波発信用アンテナ5をRFID読取りアンテナ4の近傍に配置したが、図5に示されるように複数のダイポールアンテナ7が共通のケース8内に収容されたダミー電波発信用アンテナ9を、図6に示されるようにRFID読取りアンテナ4の近傍に配置してもよい。
さらに、図7に示されるように、RFID読取りアンテナ4の周縁部にL字形状の8個のダミー電波発信用アンテナ10をそれぞれ取り付けることもできる。
【0025】
なお、上記の実施の形態では、無線チャネルch1〜ch9の9チャネルを使用する場合について説明したが、これに限るものではなく、例えば低出力型のRFIDタグに対して14チャネルを使用してもよい。この場合には、各作業エリアに予め設定された無線チャネル以外の13チャネルの無線チャネルのダミー電波を発信するために、RFID読取りアンテナ4の近傍に13個のダミー電波発信用アンテナを配置することが好ましい。
【0026】
また、上記の実施の形態では、微弱なダミー電波を発信する無線チャネルが管理ステーション3から各作業機器P1〜P11に指示されたが、これに限るものではなく、各作業機器P1〜P11が自らの位置する作業エリアを把握し、表1に示したように、その作業エリアに対して予め設定されている無線チャネル以外の無線チャネルについて微弱なダミー電波を発信するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の実施の形態に係る作業システムの全体構成を示す図である。
【図2】各作業機器に搭載されたRFID読取りアンテナを示す斜視図である。
【図3】図2のRFID読取りアンテナに備えられたダミー電波発信用アンテナを示す斜視図である。
【図4】実施の形態の動作を示すフローチャートである。
【図5】他の実施の形態におけるダミー電波発信用アンテナを示す斜視図である。
【図6】図5のダミー電波発信用アンテナを備えたRFID読取りアンテナを示す斜視図である。
【図7】さらに他の実施の形態におけるRFID読取りアンテナを示す斜視図である。
【図8】従来の作業システムの全体構成を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1,2 棚、3 管理ステーション、4 RFID読取りアンテナ、5,9,10 ダミー電波発信用アンテナ、6,8 ケース、7 ダイポールアンテナ、P1〜P11 作業機器、A1〜A11 作業エリア、W 物品、Z1 通信可能エリア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の作業機器がそれぞれ複数の作業エリア間を移動すると共に各作業エリア内でRFIDタグが取り付けられた物品との間で無線通信を行うことにより検品を行う作業システムにおいて、
複数の作業エリアの位置関係に基づき各作業エリアに対して互いに干渉しにくい無線チャネルを予め設定し、
各作業機器は、作業を行おうとする作業エリアに対して予め設定された無線チャネル以外の無線チャネルの微弱なダミー電波を自らに向けて発信し、この状態でキャリアセンスを行うことによりその作業エリアに対して予め設定された無線チャネルを選択して作業することを特徴とする作業システム。
【請求項2】
各作業機器は、RFID読取りアンテナと前記RFID読取りアンテナの近傍に配置されたダミー電波発信用アンテナとを備えた請求項1に記載の作業システム。
【請求項3】
前記複数の作業機器による作業を管理する管理ステーションが、各作業機器の移動位置に対応して各作業機器に微弱なダミー電波を発信する無線チャネルを指示する請求項1または2に記載の作業システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−329755(P2007−329755A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160047(P2006−160047)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】