説明

作業支援装置及び作業支援システム

【課題】作業対象物のどの部品が異常な温度であるかを表示することで、肉眼だけではわかりにくい異常部品を知らせる作業支援装置を提供することである。
【解決手段】ヘッドマウントディスプレイを用いた作業支援装置7であって、可視光線を撮像する可視光線撮像部4と、赤外線を撮像する赤外線撮像部5と、異常を報知する報知部1と、赤外線撮像部で取得した赤外線像から温度分布画像を生成する温度分布画像生成部61と、可視光線撮像部で取得した可視光線像から部品を検出する部品検出部62と、各部品の適正温度を記憶する適正温度データベース62と、温度分布画像と可視光線像から検出された部品と各部品の適正温度とに基づき温度が異常である部品を検知する温度異常検知部64と、温度が異常である部品を検知した結果から報知する情報を生成する報知情報生成部65とを備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMDとも称する)を用いた作業支援装置と、作業支援装置及びそれと通信可能なサーバ装置を含む作業支援システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、いわゆるHMDと呼ばれる頭部搭載型の表示部が種々提案されている。近年、HMDは一般民生品としての利用だけでなく、様々な情報をユーザに提供することにより業務を円滑に行うことを支援する用途にも利用されはじめている。
【0003】
例えば、装置や設備の保守作業を行う作業者は、多用な故障内容や保守方法を記憶し、状況に応じて対応する必要があるため、経験や熟練が必要とされる。また、作業者は作業現場の状況を正確に把握して対処しなければならないが、適切な対処方法が分からない場合は設計者などから必要なアドバイスを受けて迅速に対応しなければならない場合もある。しかし、電話などでは、的確なアドバイスを受けることが難しい場合もある。
【0004】
そこでHMDを使った作業支援システムが提案されており、例えば特許文献1には、ネットワークを介して作業手順や作業指示をHMDに表示させ、作業者に指示を与える作業支援システムが開示されている。
【0005】
また特許文献2には、赤外線像と可視光線像を表示することができるHMDを用い、暗闇や火災時の煙の中などで人体や火元などの発熱をとらえるものが開示されている。同様なものとして、特許文献3〜5のような技術もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−102727号公報
【特許文献2】特開平8−54282号公報
【特許文献3】特開2007−286269号公報
【特許文献4】実開平5−38541号公報
【特許文献5】実開平5−75892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、装置(例えば複写機)内部の修理や保守作業を行う場合を考える。作業の過程では、熱を帯びた危険な部品が存在したり、異常を検知するのに部品の温度が有用であったり、部品の温度を知ることが重要となる。しかし、作業者は、通常、両手が塞がるような作業を行っており、温度測定用の機器を持ちながら作業することは困難である。
【0008】
そこで、上述したHMDの利用が考えられるが、特許文献1には温度測定に関する記載はない。また、装置内部においては部品毎に適正な温度帯が異なるので、特許文献2〜5のように温度を検出するだけではどの部品が異常であるかはわからないという問題がある。
【0009】
本発明は、作業対象物のどの部品が異常な温度であるかを報知することで、肉眼だけではわかりにくい異常部品を知らせる作業支援装置及び作業支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、ヘッドマウントディスプレイを用いた作業支援装置であって、可視光線を撮像する可視光線撮像部と、赤外線を撮像する赤外線撮像部と、異常を報知する報知部とを備え、前記報知部は、前記赤外線撮像部で取得した赤外線像から生成された温度分布画像と、前記可視光線撮像部で取得した可視光線像から検出された部品と、各部品の適正温度とに基づき、温度が異常である部品を検知した結果から生成された情報を報知することを特徴とする。
【0011】
この構成によると、機器を修理している作業者の視界の中から温度が異常な部品を探し出し、HMDを通じてその異常を知らせることができる。
【0012】
また本発明は、上記の作業支援装置と、該作業支援装置と通信可能なサーバ装置とを含む作業支援システムであって、前記赤外線撮像部で取得した赤外線像から温度分布画像を生成する温度分布画像生成部と、前記可視光線撮像部で取得した可視光線像から部品を検出する部品検出部と、各部品の適正温度を記憶する適正温度データベースと、前記温度分布画像と前記可視光線像から検出された部品と前記各部品の適正温度とに基づき温度が異常である部品を検知する温度異常検知部と、前記温度が異常である部品を検知した結果から報知する情報を生成する報知情報生成部とが、前記作業支援装置又は前記サーバ装置の何れかに備えられることを特徴とする。
【0013】
この構成によると、サーバ装置側に多くの構成部材を設ければ、作業支援装置の小型化、低コスト化が可能となる。
【0014】
また本発明は、 ヘッドマウントディスプレイを用いた作業支援装置であって、可視光線を撮像する可視光線撮像部と、赤外線を撮像する赤外線撮像部と、異常を報知する報知部と、前記赤外線撮像部で取得した赤外線像から温度分布画像を生成する温度分布画像生成部と、前記可視光線撮像部で取得した可視光線像から部品を検出する部品検出部と、各部品の適正温度を記憶する適正温度データベースと、前記温度分布画像と前記可視光線像から検出された部品と前記各部品の適正温度とに基づき温度が異常である部品を検知する温度異常検知部と、前記温度が異常である部品を検知した結果から報知する情報を生成する報知情報生成部とを備えることを特徴とする。
【0015】
この構成によると、サーバ装置を用いず、作業支援装置だけで機器を修理している作業者の視界の中から温度が異常な部品を探し出し、HMDを通じてその異常を知らせることができる。
【0016】
上記の報知部は、前記異常である部品の強調表示、異常を示す文字の表示、異常を示す記号の表示、音声メッセージ、ビープ音のうち少なくとも1つを用いて報知することで、作業者に注意を促すことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、作業対象物のどの部品が異常な温度であるかを報知することにより、肉眼だけではわかりにくい異常部品を知らせることができる。
【0018】
また、高温の箇所を報知することで作業者に注意を促し、作業時の安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の作業支援装置を構成するHMDの概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明のHMDを作業者が装着した状態でのHMDの側面図である。
【図3】本発明の表示部の概略構成を示す断面図である。
【図4】本発明の作業支援装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】複写機の定着部における加熱ローラが適正温度以上である場合の本発明の表示画像の一例である。
【図6】複写機の定着部における加熱ローラが適正温度以上である場合の本発明の表示画像の一例である。
【図7】複写機の定着部における加熱ローラが適正温度以上である場合の本発明の表示画像の一例である。
【図8】本発明の作業支援システムの概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、作業支援装置を構成するHMDの概略構成を示す斜視図であり、図2は、HMDを作業者が装着した状態でのHMDの側面図である。HMDは、表示部1と、支持部2と、ケーブル3と、可視光線撮像部4と、赤外線撮像部5とを有して構成されている。そして作業支援装置は、HMDと、ケーブル3に接続される制御部とから構成されている。なお、表示部1と後述するイヤホン25とを合わせて報知部と呼ぶ。
【0021】
表示部1は、映像を表示して作業者に提供するものであり、支持部2は、表示部1を作業者の眼前で支持するものである。図1及び図2では、支持部2は、表示部1を作業者の右眼の前に位置するように支持しているが、表示部1を2つ設け、これらを両眼の前に位置するように支持してもよい。いずれにしても、表示部1を支持部2で支持することにより、作業者は表示部1に表示される映像をハンズフリーで観察することが可能となる。ケーブル3は、制御部(不図示)と表示部1と可視光線撮像部4と赤外線撮像部5とを接続し、制御部からの少なくとも駆動電力および映像信号を表示部1と可視光線撮像部4と赤外線撮像部5とに供給する。
【0022】
支持部2は、テンプル21と、フレーム22とを有している。テンプル21は、作業者の側頭部に当接する左右一対のテンプル21R・21Lからなっている。フレーム22は、各テンプル21R・21Lを回動可能に支持するとともに、上記した表示部1を支持するものであり、略T字形で形成されている。テンプル21およびフレーム22は、例えば樹脂で構成されており、可撓性を有している。また、フレーム22には、作業者の鼻と当接する左右一対の鼻当て23が設けられている。
【0023】
テンプル21Rは、第1テンプル部21R1と、第2テンプル部21R2とが一体化されて構成されている。同様に、テンプル21Lは、第1テンプル部21L1と、第2テンプル部21L2とが一体化されて構成されている。第1テンプル部21R1・21L1および第2テンプル部21R2・21L2は、それぞれ、前後方向に長尺状に形成されており、第2テンプル部21R2・21L2は、第1テンプル部21R1・21L1よりも若干長く形成されている。
【0024】
第1テンプル部21R1・21L1は、フレーム22の左右端において、フレーム22に対してそれぞれ回動可能に連結されているとともに、第2テンプル部21R2・21L2に対して前方にずれた状態でその上方に位置するように連結されている。
【0025】
第2テンプル部22R2・21L2は、第1テンプル部21R1・21L1を介してフレーム22に支持されている。第2テンプル部21R2は、前後方向に移動可能にイヤホン25を保持するイヤホン保持部24を有しており、作業者はイヤホン保持部24にイヤホン25を保持させたまま(イヤホン25を耳に差し込まなくても)、音声を聞くことが可能となっている。
【0026】
また、第2テンプル部22R2・21L2は、フレーム22に対する第1テンプル部21R1・21L1の支持位置とは異なる高さ位置で前方に露出する露出面21RS・21LSを有している。そして、上述したケーブル3は、例えば第2テンプル部21R2の内部を通り、露出面21RSから引き出されて表示部1に接続され、さらに表示部1を通って可視光線撮像部4と赤外線撮像部5とに接続されている。このような接続方式により、以下の第1〜第4の効果を得ることができる。
【0027】
第1に、ケーブル3は、テンプル21R(第2テンプル部21R2)で一旦支持された状態で表示部1と接続されるので、ケーブル3が表示部1に直接接続される場合のように、ケーブル3の重量が表示部1に直接加わることがない。その結果、作業者がHMDを長時間使用しても、疲労感や不快感が増大するのを回避することができ、長時間使用における作業者の使用負担を軽減することができる。
【0028】
特に、本形態では、テンプル21Rが第1テンプル部21R1と第2テンプル部21R2との2段構成であるので、テンプル21Rにおいてフレーム22で支持される位置(第1テンプル部21R1とフレーム22との連結位置)と、露出面21RSの位置とを高さ方向に確実に異ならせることができる。これにより、フレーム22と第1テンプル部21R1とを回動可能に連結した状態で、ケーブル3を第2テンプル部21R2の内部から露出面21RSを介して外部に引き出すことが確実に可能となり、上記の接続方式を採用することが確実に可能となる。
【0029】
第2に、テンプル21Rは、作業者の側頭部との当接により、安定した状態でケーブル3を支持することができるので、本形態のように一方のテンプル21Rでケーブル3を支持する場合でも、作業者は安定してHMDを装着することが可能となる(HMDが前後左右にぐらつくことはない)。
【0030】
第3に、ケーブル3は、テンプル21Rの露出面21RSを介してフレーム22とは異なる高さ位置を通ることになるので、フレーム22に対するテンプル21Rの回動時に、ケーブル3が回動部分に巻き付き、テンプル21Rの回動を阻害することはない。したがって、テンプル21Rを容易に折りたたむことが可能となる。
【0031】
第4に、ケーブル3がフレーム22の内部を通らないので、フレーム22を必要以上に太く形成しなくても済む。これにより、フレーム22が作業者の頭部の大きさに合わせて変形しやすくなり、作業者はHMDを安定して違和感なく装着することが可能となる。
【0032】
また、ケーブル3は、図2に示すように、第2テンプル部21R2において作業者の耳と接触する位置よりも後方の位置から、第2テンプル部21R2の内部に進入している。これにより、ケーブル3は作業者の耳よりも後方で垂れ下がるので、作業者の耳を基準とした前後方向の重量バランスを良好にすることができ、作業者の使用負担を確実に軽減することができる。また、ケーブル3が作業者の側方の視界を遮って邪魔になることもなくなる。
【0033】
また、第1テンプル部21R1および第2テンプル部21R2は、前後方向に長尺状に形成されており、かつ、第1テンプル部21R1が第2テンプル部21R2に対して前方にずれた状態で互いに連結されているので、第1テンプル部21R1および第2テンプル部21R2を、必要最小限の厚さ(高さ)でそれぞれ細く形成して、テンプル21R全体を小型で軽量にすることができる。それに加えて、フレーム22に対して第1テンプル部21R1を回動させたときに、第2テンプル部21R2が第1テンプル部21R1よりも内側に折りたたまれ、第2テンプル部21R2が外に張り出すことがなく、HMDをコンパクトに収納することが可能となる。
【0034】
また、第1テンプル部21R1は、第2テンプル部21R2よりも上方に位置しているので、作業者の頭部へのHMDの装着時には(第2テンプル部21R2が作業者の耳の上部に位置するときには)、第1テンプル部21R1は、作業者の眼よりも上方に位置することになる。したがって、少なくとも作業者の前方から側方にかけて、第1テンプル部21R1と連結されるフレーム22を作業者の眼よりも上方に位置させることができ、作業者の視界を広く確保することが可能となる。また、作業者が一般の眼鏡をかけた状態でも、HMDのフレーム22が眼鏡のテンプルやフレームと干渉しにくくなり、HMDと眼鏡との併用が容易となる。
【0035】
ところで、第2テンプル部21R2・21L2において、作業者の側頭部と当接する面は、平面または略平面であることが望ましい。図1に示すように、第2テンプル部21R2・21L2の外形に沿って縁取られた面が平面となっている。これにより、第2テンプル部21R2・21L2は、線接触の場合に比べて、作業者の側頭部との接触面積が大きくなるので、作業者はHMDを安定して装着することが可能となる。また、左右の第2テンプル部21R2・21L2によって頭部を挟む力が分散し、作業者は違和感なくHMDを長時間使用することが可能となる。
【0036】
次に、表示部1の構成について説明する。図3は、表示部1の概略構成を示す断面図である。表示部1は、光源11と、一方向拡散板12と、集光レンズ13と、表示素子14と、接眼光学系16とを有している。光源11、一方向拡散板12、集光レンズ13および表示素子14は、筐体15内にユニット10として収容されており、接眼光学系16の一部(後述する接眼プリズム17の一部)も筐体15内に位置している。上記したケーブル3は、筐体15を貫通して設けられ、光源11や表示素子14に駆動電力や映像信号が供給される。
【0037】
なお、以下での説明の便宜上、方向を以下のように定義しておく。まず、表示素子14の表示領域の中心と、接眼光学系16によって形成される光学瞳Eの中心とを光学的に結ぶ軸を光軸とする。そして、光源11から光学瞳Eまでの光路を展開したときの光軸方向をZ方向とする。また、接眼光学系16の後述するホログラム光学素子19への光軸の入射面に垂直な方向をX方向とし、ZX平面に垂直な方向をY方向とする。なお、ホログラム光学素子19への光軸の入射面とは、ホログラム光学素子19における入射光の光軸と反射光の光軸とを含む平面、すなわち、YZ平面を指す。以下、上記入射面を単に入射面または光軸入射面と称する。なお、XYZの各方向において正負は問わないものとする。
【0038】
光源11は、表示素子14を照明するものであり、例えば、光強度のピーク波長および光強度半値の波長幅で462±12nm(B光)、525±17nm(G光)、635±11nm(R光)となる3つの波長帯域の光を発するRGB一体型のLEDで構成されている。このように、光源11が所定の波長幅の光を出射することにより、表示素子14を照明して得られる映像光に所定の波長幅を持たせることができ、後述するホログラム光学素子19にて映像光を回折させたときに、光学瞳Eの位置にて観察画角全域にわたって作業者に映像を観察させることができる。また、光源11の各色についてのピーク波長は、ホログラム光学素子19の後述する回折効率のピーク波長の近傍に設定されており、光利用効率の向上が図られている。
【0039】
また、光源11は、RGBの光を出射するLEDで構成されているので、光源11を安価に実現することができるとともに、表示素子14を照明したときに、表示素子14にてカラー映像を表示することが可能となり、そのカラー映像を作業者に提供することが可能となる。また、各LEDは、発光波長幅が狭いので、そのようなLEDを複数用いることにより、色再現性が高く、明るい映像表示が可能となる。
【0040】
一方向拡散板12は、光源11からの出射光を拡散させるものであるが、その拡散度は方向によって異なっている。より詳細には、一方向拡散板12は、X方向には入射光を約40゜拡散させ、Y方向には入射光を約0.5゜拡散させる。なお、一方向拡散板12の配置を省略することも可能である。
【0041】
集光レンズ13は、一方向拡散板12にて拡散された光をY方向に集光するシリンダレンズで構成されており、その拡散光が効率よく光学瞳Eを形成するように配置されている。
【0042】
表示素子14は、光源11からの出射光を画像データに応じて変調して映像を表示するものであり、光が透過する領域となる各画素をマトリクス状に有する透過型の液晶表示素子で構成されている。表示素子14は、矩形の表示領域の長辺方向がX方向となり、短辺方向がY方向となるように配置されている。なお、表示素子14は、反射型であってもよい。反射型の表示素子14としては、例えば反射型の液晶表示素子や、DMD(Digital Micromirror Device;米国テキサスインスツルメント社製)を用いることができる。
【0043】
接眼光学系16は、表示素子14に表示された映像の光を光学瞳Eに導き、表示素子14の表示映像の拡大虚像を作業者に提供する拡大光学系であり、接眼プリズム17(第1の透明基板)と、偏向プリズム18(第2の透明基板)と、ホログラム光学素子19とを有して構成されている。
【0044】
接眼プリズム17は、面17aを介して入射する表示素子14からの映像光を、対向する2つの面17b・17cで全反射させ、ホログラム光学素子19を介して作業者の瞳に導く一方、外光を透過させて作業者の瞳に導くものであり、偏向プリズム18とともに、例えばアクリル系樹脂で構成されている。この接眼プリズム17は、平行平板の下端部を下端に近くなるほど薄くして楔状にし、その上端部を上端に近くなるほど厚くした形状で構成されている。また、接眼プリズム17は、その下端部に配置されるホログラム光学素子19を挟むように、偏向プリズム18と接着剤で接合されている。
【0045】
偏向プリズム18は、平面視で略U字型の平行平板で構成されており(図1参照)、接眼プリズム17の下端部および両側面部(左右の各端面)と貼り合わされたときに、接眼プリズム17と一体となって略平行平板となるものである。この偏向プリズム18を接眼プリズム17に接合することにより、作業者が接眼光学系16を介して観察する外界像に歪みが生じるのを防止することができる。
【0046】
つまり、例えば、接眼プリズム17に偏向プリズム18を接合させない場合、外光は接眼プリズム17の楔状の下端部を透過するときに屈折するので、接眼プリズム17を介して観察される外界像に歪みが生じる。しかし、接眼プリズム17に偏向プリズム18を接合させて一体的な略平行平板を形成することで、外光が接眼プリズム17の楔状の下端部を透過するときの屈折を偏向プリズム18でキャンセルすることができる。その結果、シースルーで観察される外界像に歪みが生じるのを防止することができる。
【0047】
なお、接眼プリズム17および偏向プリズム18の互いに対向する2面は、平面であってもよいし、曲面であってもよい。後者の場合、接眼光学系16に矯正眼鏡レンズとしての機能を持たせることができる。
【0048】
ホログラム光学素子19は、表示素子14から出射される映像光(3原色に対応した波長の光)を回折反射して光学瞳Eに導き、表示素子14に表示される映像を拡大して作業者の瞳に虚像として導く体積位相型の反射型ホログラムである。このホログラム光学素子19は、例えば、回折効率のピーク波長および回折効率半値の波長幅で465±5nm(B光)、521±5nm(G光)、634±5nm(R光)の3つの波長域の光を回折(反射)させるように作製されている。ここで、回折効率のピーク波長とは、回折効率がピークとなるときの波長のことであり、回折効率半値の波長幅とは、回折効率が回折効率ピークの半値となるときの波長幅のことである。
【0049】
反射型のホログラム光学素子19は、高い波長選択性を有しており、上記波長域(露光波長近辺)の波長の光しか回折反射しないので、回折反射される波長以外の波長を含む外光はホログラム光学素子19を透過することになり、高い外光透過率を実現することができる。
【0050】
また、ホログラム光学素子19は、軸非対称な正の光学パワーを有している。つまり、ホログラム光学素子19は、正のパワーを持つ非球面凹面ミラーと同様の機能を持っている。これにより、装置を構成する各光学部材の配置の自由度を高めて装置を容易に小型化することができるとともに、良好に収差補正された映像を作業者に提供することができる。
【0051】
次に、上記構成の表示部1の動作について説明する。光源11から出射された光は、一方向拡散板12にて拡散され、集光レンズ13にて集光されて表示素子14に入射する。表示素子14に入射した光は、画像データに基づいて各画素ごとに変調され、映像光として出射される。つまり、表示素子14には、カラー映像が表示される。
【0052】
表示素子14からの映像光は、接眼光学系16の接眼プリズム17の内部にその上端面(面17a)から入射し、対向する2つの面17b・17cで複数回全反射されて、ホログラム光学素子19に入射する。ホログラム光学素子19に入射した光は、そこで反射され、面17bを透過して光学瞳Eに達する。光学瞳Eの位置では、作業者は、表示素子14に表示された映像の拡大虚像を観察することができる。
【0053】
一方、接眼プリズム17、偏向プリズム18およびホログラム光学素子19は、外光をほとんど全て透過させるので、作業者はこれらを介して外界像を観察することができる。したがって、表示素子14に表示された映像の虚像は、外界像の一部に重なって観察されることになる。
【0054】
このように、表示部1では、表示素子14から出射される映像光を接眼プリズム17内での全反射によって導光し、ホログラム光学素子19を介して作業者の瞳に導くので、通常の眼鏡レンズと同様に、接眼プリズム17および偏向プリズム18の厚さを3mm程度にすることができ、表示部1を小型化、軽量化することができる。また、表示素子14からの映像光を内部で全反射させる接眼プリズム17を用いることにより、高い外光の透過率を確保して、明るい外界像を作業者に提供することができる。
【0055】
また、体積位相型の反射型のホログラム光学素子19は、回折効率半値の波長幅が狭く、回折効率が高いので、このようなホログラム光学素子19を用いることにより、色純度が高く、明るい映像を提供することができるとともに、外光の透過率が高くなるので、作業者は明るい外界像を観察することができる。
【0056】
また、上記の説明からもわかるように、ホログラム光学素子19は、表示素子14からの映像光と外光とを同時に作業者の瞳に導くコンバイナとして機能している。これにより、作業者は、ホログラム光学素子19を介して、表示素子14から提供される映像と外界像とを同時に観察することができる。
【0057】
次に、可視光線撮像部4及び赤外線撮像部5について説明する。可視光線撮像部4及び赤外線撮像部5は筐体15の上部に設けられており、筐体15内を通じてケーブル3に接続されている。可視光線撮像部4と赤外線撮像部5は作業者の視界とほぼ同じ撮像範囲を有している。可視光線撮像部4は可視光線を選択的に撮像して可視光線像を、赤外線撮像部5は赤外線を選択的に撮像して赤外線像を得る。
【0058】
これら可視光線像及び赤外線像はケーブル3を通じて制御部へ送られ処理される。可視光線像はそのまま表示部1に表示することも可能である。可視光線撮像部4に備えられる撮像素子としては、例えばCCD(Charge Coupled Device)を用いることができる。また、赤外線撮像部5に備えられる撮像素子としては、例えば2次元に配列したボロメータ等の熱型赤外線検出素子を用いることができる。
【0059】
(第1の実施形態)
第1の実施形態として、上記のHMDを用いた作業支援装置について説明する。図4は、作業支援装置7の概略構成を示すブロック図である。制御部6は、温度分布画像生成部61と、部品検出部62と、適正温度データベース63と、温度異常検知部64と、報知情報生成部65とを備えている。
【0060】
温度分布画像生成部61は、赤外線撮像部5で取得した赤外線像を可視光線像に変換して温度分布画像を生成する。この画像においては、例えば低温を青、中温を黄色、高温を赤色で表示することができる。この温度分布画像は後述する温度異常検知に用いられたり、作業者への技術情報として表示部1に表示されたりする。
【0061】
部品検出部62は、可視光線撮像部4で取得した可視光線像を画像処理することによって画像内の各部品を検出する。部品検出部62には、部品の検出に必要な各部品の形状や名称や番号等の情報が必要に応じて記憶されている。
【0062】
部品を検出する際の前提として、現在どの機種を修理しようとしているのかを予め入力しておくことが望ましい。これにより、その機種に絞って部品検出することができる。部品検出部62での検出方法としては、例えば、部品毎に特徴的な色付けがされているような場合には、可視光線像の中から特徴的な色付けの部品を選び出し、記憶されている部品と色の関係からその部品を特定することができる。可視光線像の中のある部品が特定できれば、正規化によって他の部品も特定することができる。
【0063】
他の検出方法としては、部品に品番などの文字列が記載されている場合には、可視光線像の中から識別可能な文字列を抽出し、記憶されている部品と文字列との関係からその部品を特定することができる。可視光線像の中のある部品が特定できれば、正規化によって他の部品も特定することができる。
【0064】
また他の検出方法としては、マーカーを利用する方法がある。作業者はある程度決まった位置から修理対象の機械を目視することが想定される。そこで、作業開始初期の可視光線像の四隅と中央(奥行情報)とにマーカーを付け、その後は、この5点のマーカーの動きによって、作業者が見ている三次元的な情報を取得する。そして、可視光線像を、記憶されている部品毎の三次元情報と照合することで部品を特定することができる。
【0065】
また他の検出方法としては、パターンマッチングやHough変換などの図形検出処理も利用することができる。例えば、パターンマッチングを行うには、まず可視光線像を幾何学的変換する補正処理と幾何学的な特徴を抽出する特徴抽出処理とを行い、特徴データを生成する。そして、記憶されている各部品を各方向から形状化したパターンデータの中から、今抽出した特徴データに最も合致するものを選ぶことで部品を特定することができる。
【0066】
適正温度データベース63は、各部品の適正温度を記憶している。温度異常検知部64は、温度分布画像と、可視光線像から検出された部品と、各部品の適正温度とに基づき、温度が異常である部品を検知する。具体的には、可視光線像内の部品について適正温度データベース63から適正温度を読み出し、温度分布画像における各部品の位置に対応する温度を特定し、適正温度と測定した実際の温度とを比較し、実際の温度が適正温度の範囲内にない部品を温度異常部品として抽出する。
【0067】
報知情報生成部65は、温度異常部品を検知した結果から表示部1に表示する表示情報を生成し、表示部1に出力する。この表示情報は、温度異常部品の強調表示、異常を示す文字の表示、異常を示す記号の表示のうち少なくとも1つを含むものとする。例えば、図5〜図7に示す画像を表示情報として用いることができる。図5〜図7は、複写機の定着部における加熱ローラが適正温度以上である場合の表示画像の例であり、作業者の視界に重畳表示することで、作業者の目には、目視による加熱ローラに表示部1に表示された加熱ローラが重なって見える。
【0068】
図5の画像81では、温度異常部品である加熱ローラ82を赤色等としたり、赤色等の点滅表示としたりすることで、加熱ローラ82の温度が異常であることを強調し、作業者に異常な部品を知らせている。色は、適正温度との差に応じて黄色、橙色、赤色などと変化させてもよい。
【0069】
図6の画像83では、加熱ローラ82の画像上に「!」の記号84を表示することで、加熱ローラ82の温度が異常であることを示し、作業者に異常な部品を知らせている。図7の画像85では、加熱ローラ82に向かって矢印を使って「異常あり!」という文字86を表示することで、加熱ローラ82の温度が異常であることを示し、作業者に異常な部品を知らせている。さらに、図5〜図7の表示に加え、又は表示に代えて、注意を促す音声メッセージやビープ音を出力してもよい。
【0070】
このように、HMDを用いて温度異常部品を報知することにより、作業者は両手で自由に作業しながら、肉眼だけではわかりにくい修理が必要な異常な部品を容易に知ることができる。
【0071】
また、上記のように温度が適正範囲にない部品だけを報知するのではなく、作業の安全性の観点から、適正温度であっても作業者に火傷の危険があるような高温の部品(例えば複写機の現像部や定着部の部品)が検出された場合にも上述の手法で報知するようにしてもよい。例えば、温度分布画像において60℃以上であった部品を報知すれば火傷の危険性が低下する。
【0072】
(第2の実施形態)
第2の実施形態として、上記のHMDを用いた作業支援装置と、この作業支援装置と通信可能なサーバ装置とを含む作業支援システムについて説明する。図8は、作業支援システム9の概略構成を示すブロック図である。作業支援システム9は、作業支援装置7’と、ネットワーク100と、サーバ装置110とを含んでいる。以下、第1の実施形態と同じ構成部材については同符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0073】
作業支援装置7’は、表示部1と、可視光線撮像部4と、赤外線撮像部5と、制御部6’とを備えている。制御部6’は、温度分布画像生成部61と、送信部66と、受信部67とを備えている。
【0074】
送信部66は、可視光線撮像部4で取得した可視光線像と、温度分布画像生成部61で生成した温度分布画像とをネットワーク100を介してサーバ装置110へ送信する。一方、受信部67は、ネットワーク100を介してサーバ装置110から表示部1に表示する表示情報を受信し、表示部1に出力する。
【0075】
サーバ装置110は、受信部111と、送信部112と、部品検出部62と、適正温度データベース63と、報知情報生成部65とを備えている。
【0076】
受信部111は、ネットワーク100を介して作業支援装置7’から可視光線像と温度分布画像とを受信し、可視光線像を部品検出部62及び報知情報生成部65へ、温度分布画像を温度異常検知部64及び報知情報生成部65へ、それぞれ出力する。一方、送信部112は、報知情報生成部65で生成された表示情報をネットワーク100を介して作業支援装置7’へ送信する。表示情報の生成方法は第1の実施形態と同様である。
【0077】
このように、第2の実施形態では、第1の実施形態で作業支援装置7に備えられていた部品検出部62、適正温度データベース63、温度異常検知部64、報知情報生成部65をサーバ装置110に備えることにより、作業支援装置7の構成を簡略化することで、作業支援装置7の小型化、低コスト化を実現することができる。
【0078】
なお、第2の実施形態においては、温度分布画像生成部61と、部品検出部62と、適正温度データベース63と、温度異常検知部64と、報知情報生成部65とは、作業支援装置7’又はサーバ装置110の何れかに備えられていればよい。例えば、作業支援装置7’を最小の構成にする場合は、図8において、温度分布画像生成部61をサーバ装置110側に移動させればよい。
【0079】
なお、本発明の作業支援装置は、従来提案されているような通信によって外部から作業指示である画像や音声を受信する機能を備えるようにしても何ら問題はない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の作業支援装置及び作業支援システムは、装置や設備の保守作業を行う作業者の支援に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 表示部
4 可視光線撮像部
5 赤外線撮像部
7、7’ 作業支援装置
9 作業支援システム
11 サーバ装置
61 温度分布画像生成部
62 部品検出部
63 適正温度データベース
64 温度異常検知部
65 報知情報生成部
84 記号
86 文字

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドマウントディスプレイを用いた作業支援装置であって、
可視光線を撮像する可視光線撮像部と、
赤外線を撮像する赤外線撮像部と、
異常を報知する報知部とを備え、
前記報知部は、前記赤外線撮像部で取得した赤外線像から生成された温度分布画像と、前記可視光線撮像部で取得した可視光線像から検出された部品と、各部品の適正温度とに基づき、温度が異常である部品を検知した結果から生成された情報を報知することを特徴とする作業支援装置。
【請求項2】
請求項1記載の作業支援装置と、該作業支援装置と通信可能なサーバ装置とを含む作業支援システムであって、
前記赤外線撮像部で取得した赤外線像から温度分布画像を生成する温度分布画像生成部と、前記可視光線撮像部で取得した可視光線像から部品を検出する部品検出部と、各部品の適正温度を記憶する適正温度データベースと、前記温度分布画像と前記可視光線像から検出された部品と前記各部品の適正温度とに基づき温度が異常である部品を検知する温度異常検知部と、前記温度が異常である部品を検知した結果から報知する情報を生成する報知情報生成部とが、前記作業支援装置又は前記サーバ装置の何れかに備えられることを特徴とする作業支援システム。
【請求項3】
ヘッドマウントディスプレイを用いた作業支援装置であって、
可視光線を撮像する可視光線撮像部と、
赤外線を撮像する赤外線撮像部と、
異常を報知する報知部と、
前記赤外線撮像部で取得した赤外線像から温度分布画像を生成する温度分布画像生成部と、
前記可視光線撮像部で取得した可視光線像から部品を検出する部品検出部と、
各部品の適正温度を記憶する適正温度データベースと、
前記温度分布画像と前記可視光線像から検出された部品と前記各部品の適正温度とに基づき温度が異常である部品を検知する温度異常検知部と、
前記温度が異常である部品を検知した結果から報知する情報を生成する報知情報生成部とを備えることを特徴とする作業支援装置。
【請求項4】
前記報知部は、前記異常である部品の強調表示、異常を示す文字の表示、異常を示す記号の表示、音声メッセージ、ビープ音のうち少なくとも1つを用いて報知することを特徴とする請求項1又は3記載の作業支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−197153(P2010−197153A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41039(P2009−41039)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】