説明

作業機

【課題】 走行装置を駆動するHSTを備えた作業機において、無負荷時の走行速度をキープしながらエンジンストール防止と走行速度向上を図る。
【解決手段】 走行一次側圧力を制御する圧力制御弁34と、この圧力制御弁34を制御する制御装置CUとを設け、制御装置CUによって圧力制御弁34を制御することにより、エンジン29の無負荷時の実エンジン回転数と走行一次側圧力との関係を示す無負荷時特性線Xと、エンジン29に所定以上の負荷が作用したときの実エンジン回転数と走行一次側圧力との関係を示すドロップ特性線Zとを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパクトトラックローダ(CTL)、スキットローダ、バックホー等の自走式作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自走式作業機として特許文献1,2に記載のトラックローダがある。
このトラックローダは、エンジンによって駆動される斜板形可変容量ポンプからなるHSTポンプと、このHSTポンプと一対の変速用油路により閉回路接続されていて該HSTポンプからの吐出油によって駆動されることにより走行装置を駆動するHSTモータとからなるHSTを備えている。
【0003】
また、該トラックローダは、エンジンによって駆動されるメインポンプとパイロットポンプとを備えていると共に、メインポンプの吐出油によって駆動される作業装置と、パイロットポンプの吐出油によってHSTポンプの斜板を制御する走行操作装置とを備えている。
作業装置は、上下揺動動作されるアームと、該アームの先端側に取り付けられたバケットとを有する。
【0004】
前記トラックローダにあっては、該トラックローダを前進させて山積みされた土砂等にバケットを突っ込ませた場合などHSTモータに負荷がかかった場合、該HSTモータにかかった負荷がHSTポンプを介してエンジンに伝達してエンジン回転数がドロップする。
このときに、同時にバケットをスクイ動作させて該バケットに高負荷がかかると、バケットからメインポンプに作用する負荷がエンジンに伝達して、エンジンがストールする惧れがあるので、この従来のトラックローダにあっては、エンジンストールを防止すべく、パイロットポンプから走行操作装置に供給されるパイロット油の一部を絞りを介してドレンさせるブリード回路を設けている。
【0005】
このブリード回路を設けることにより、エンジン回転数がドロップすると、パイロットポンプの回転数が減少して該パイロットポンプの吐出量が減少し、このパイロットポンプの吐出量に対するブリード回路からの油の漏れの割合が大きくなることから、走行操作装置の一次側圧力(これを走行一次側圧力という)が降下して該走行操作装置から出力されるパイロット圧がエンジン回転数の低下に応じて低下し、これによって、回転数を減少させるように(斜板が中立側に戻るように)HSTポンプの斜板角が自動調整されてエンジンの負荷を減少させ、エンジンストールが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−270527号公報
【特許文献2】特開2010−270528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来のトラックローダにおいて、バケットの積載荷重が過大な状態で登坂作業を行うと、エンジン回転のドロップ量が大きく、登坂速度が遅いという問題がある。
この問題に対処するため、エンジン回転がドロップしたときに、走行一次側圧力を急激に降下させることが考えられている。エンジン回転数がドロップしたときに、走行一次側圧力を急激に降下させることにより、HSTポンプ側からエンジンに作用する負荷が早めに減少し、高めの実エンジン回転数でバランスする。斜板角減少に伴うHSTポンプの流量減少による速度ダウンよりもエンジン回転数に起因するHSTポンプの流量増加による速度アップの方が大きいことから、高めの実エンジン回転数でバランスさせると、トータル的にみて走行速度を向上させることができるのである。
【0008】
しかしながら、前記従来のトラックローダにあっては、ブリード回路によって走行一次側圧力を逃がしているだけであるので、エンジン回転数と走行一次側圧力との特性線を比
較的自由に生成できないことから、無負荷時の走行一次側圧力をある程度高めに設定しながら所定以上の負荷が作用したときに走行一次側圧力を急激に降下させるという特性線を自由に生成することができないものであった。
【0009】
そこで、本発明は、前記問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記技術的課題を解決するために本発明が講じた技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。
請求項1に係る発明では、エンジンによって駆動される斜板形可変容量ポンプからなるHSTポンプと、このHSTポンプと一対の変速用油路により閉回路接続されていて該HSTポンプからの吐出油によって駆動されることにより走行装置を駆動するHSTモータと、エンジンによって駆動されるパイロットポンプと、このパイロットポンプによって吐出されるパイロット油によってHSTポンプの斜板を制御する走行操作装置と、この走行操作装置の一次側の圧力である走行一次側圧力を制御する圧力制御弁と、この圧力制御弁を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置によって圧力制御弁を制御することにより、エンジンの無負荷時の目標エンジン回転数と走行一次側圧力との関係を示す無負荷時特性線と、エンジンに所定以上の負荷が作用したときの実エンジン回転数と走行一次側圧力との関係を示すドロップ特性線とを生成することを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、前記無負荷時特性線は、目標エンジン回転数がアクセル操作部材を最大に操作したマックス回転数からアイドリング回転数へと下がるにしたがって走行一次側圧力が徐々に降下するように生成され、
ドロップ特性線は、目標エンジン回転数から実エンジン回転数が下がるに従って無負荷時特性線に比べて走行一次側圧力が急激に降下するように生成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明では、ドロップ特性線は途中で屈曲されていて、所定以上の負荷が作用したときに実エンジン回転数が下がるに従って走行一次側圧力が急激に降下するように生成された前記特性線部と、さらにエンジン回転数が下がった場合に、実エンジン回転数が下がるに従って走行一次側圧力が前記特性線部に比べて緩やかに降下するように生成された他の特性線部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
請求項1に係る発明によれば、走行一次側圧力を制御する圧力制御弁と該圧力制御弁を制御する制御装置とを設けているので、エンジンの無負荷時の無負荷時特性線と、エンジンに所定以上の負荷が作用したときのドロップ特性線とを個別に生成することができ、これにより、エンジンの無負荷時の特性線と、エンジンに所定以上の負荷が作用したときの特性線をそれぞれ適正に生成することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、無負荷時の走行一次側圧力をある程度高く維持することができるのでアイドリング時での走行速度を向上させることができると共に、所定以上の負荷が作用したときには、走行一次側圧力を急激に降下させることでエンジンストールを防止しつつ作業時の走行速度の向上を図ることができる。
請求項3に係る発明によれば、走行一次側圧力が急激に降下するように設定された特性線部によって、負荷が作用したときのエンジンストールの防止が図れると共に作業時の走行速度の向上が図れ、且つ、走行一次側圧力が前記特性線部に比べて緩やかに降下するように設定された他の特性線部によって、過大な負荷が作用してエンジン回転が大きくドロップしたあとのエンジン回転数の復帰がしやすいという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】トラックローダの全体側面図である。
【図2】キャビンを上昇させた状態のトラックローダの一部を示す側面図である。
【図3】トラックローダの油圧システムの油圧回路である。
【図4】走行系の油圧回路である。
【図5】作業系の油圧回路である。
【図6】エンジン回転数−走行一次側圧力の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1、図2において、符号1は本発明に係る作業機として例示するトラックローダであり、このトラックローダ1は、機体2と、この機体2に装着した作業装置3と、機体2を走行可能に支持する左右一対の走行装置4とを備え、機体2の上部前部寄りにキャビン5(運転者保護装置)が搭載されている。
【0017】
機体2は、底壁6と、左右一対の側壁7と、前壁8と、左右各側壁7の後部に設けられた支持枠体9とを備え、側壁7間は上方に開放状とされ、この機体2の後端部には、左右一対の支持枠体9間の後端開口を塞ぐ蓋部材10が開閉自在に設けられている。
前記キャビン5は、前下端が機体2の前壁8上端に載置されていると共に、背面の上下中途部が機体2に設けた支持ブラケット11に、左右方向の支持軸12廻りに揺動自在に支持されており、支持軸12回りにキャビン5を上方に揺動することにより機体2内のメンテナンス等が可能とされている。
【0018】
キャビン5内には運転席13が設けられ、この運転席13の左右一側(例えば、左側)には、走行装置4を操作するための走行操作装置14が配置され、運転席13の左右他側(例えば、右側)には、作業装置3を操作するための作業用操作装置15が配置されている。
キャビン5は上面が屋根で塞がれ、左右の側面が多数の角孔を形成した側壁で塞がれ、背面上部がリヤガラスで塞がれ、底面の前後方向中央部が底壁により塞がれていて、前方が開口した箱形に形成され、前面側が乗降口とされている。
【0019】
左右の各走行装置4は、前後一対の従動輪16と、前後の従動輪16間の上方で且つ後部寄りに配置した駆動輪17と、前後の従動輪16間に配置した複数の転輪18と、これら前後従動輪16,駆動輪17及び転輪18にわたって巻き掛けられた無端帯状のクローラベルト19とを備えてなるクローラ式走行装置により構成されている。
前後従動輪16及び転輪18は、機体2に取付固定されたトラックフレーム20に横軸回りに回転自在に取り付けられ、駆動輪17はトラックフレーム20に取り付けられた油圧駆動式の走行モータ21L,21R(ホイルモータ)の回転ドラムに取り付けられ、該走行モータ21L,21Rによって駆動輪17を左右軸回りに回転駆動することによりクローラベルト19が周方向に循環回走され、これにより、トラックローダ1が前後進するように構成されている。
【0020】
作業装置3は、左右一対のアーム22と、該アーム22の先端側に装着したバケット23(作業具)とを備えている。
アーム22はキャビン5の左右両側にそれぞれ配置され、左右のアーム22はその前部側の中途部において連結体によって相互に連結されている。
左右の各アーム22は、該アーム22の先端側が機体2の前方側で昇降するように、その基部側(後部側)が機体2の後上部に第1リフトリンク24と第2リフトリンク25とを介して上下揺動自在に支持されている。
【0021】
また、左右の各アーム22の基部側と機体2の後下部との間には、複動式油圧シリンダからなるリフトシリンダ26が設けられ、該左右のリフトシリンダ26を左右同時に伸縮させることにより左右のアーム22が上下に揺動動作する。
左右の各アーム22の先端側には、それぞれ装着ブラケット27が左右軸回りに回動自在に枢支連結され、左右の装着ブラケット27にバケット23の背面側が取り付けられている。
【0022】
装着ブラケット27とアーム22の先端側中途部との間には、複動式油圧シリンダからなるバケットシリンダ28が介装され、このバケットシリンダ28の伸縮によってバケット23が揺動動作(スクイ・ダンプ動作)するように構成されている。
バケット23は装着ブラケット27に対して着脱自在とされており、バケット23を取り外して装着ブラケット27に各種の油圧アタッチメント(油圧駆動式の作業具)を取り
付けることで、掘削以外の各種の作業(又は他の掘削作業)を行えるように構成されている。
【0023】
機体2の底壁6上の後側にはエンジン29が設けられ、機体2の底壁6上の前側には燃料タンク30と作動油タンク31とが設けられている。
エンジン29の前方には左右の走行モータ21L,21Rを駆動する油圧駆動装置32が設けられ、この油圧駆動装置32の前方に第1〜3ポンプP1,P2,P3が設けられ、機体2の右側壁7の前後方向中途部に、作業装置用コントロールバルブ33(油圧制御装置)が設けられている。
【0024】
また、機体2の前部には、フット操作によってエンジン29の回転数を上げ・下げ操作するアクセルペダル53(アクセル操作部材)と、ハンド操作によってエンジン29の回転数を上げ・下げ操作するアクセルレバー54(アクセル操作部材)とが設けられている。
アクセルレバー54はケーブル等を介してアクセルペダル53に連動連結されていて、アクセルレバー54を操作すると該操作に連動してアクセルペダル53が揺動動作する。また、アクセルレバー54は摩擦力によって操作された位置に保持可能である。また、アクセルペダル53はアクセルレバー54によって操作された位置から踏込み操作可能であり、該踏込み操作を解除すると戻しバネによって踏み込み前の元の位置に戻される。
【0025】
アクセルペダル53の下方側には、該アクセルペダル53の踏込み量(アクセル操作量)を検出するアクセルセンサASが設けられている。
次に、図3〜5を参照して、トラックローダ1の油圧システムについて説明する。
第1〜3ポンプP1,P2,P3は、エンジン29の動力によって駆動される定容量型のギヤポンプによって構成されている。
【0026】
第1ポンプP1(メインポンプ)は、リフトシリンダ26、バケットシリンダ28又はアーム22の先端側に取り付けられるアタッチメントの油圧アクチュエータを駆動するために使用される。
第2ポンプP2(パイロットポンプ、チャージポンプ)は、主として制御信号圧力(パイロット圧)の供給用に使用される。
【0027】
第3ポンプP3(サブポンプ)は、アーム22の先端側に取り付けられる油圧アタッチメントの油圧アクチュエータが大容量を必要とする油圧アクチュエータである場合に該油圧アクチュエータに供給する作動油の流量を増量するのに使用される。
第1ポンプP1の吐出ポートには該第1ポンプP1から吐出される吐出油を流通させる吐出油路qが接続され、第2ポンプP2の吐出ポートには該第2ポンプP2から吐出される吐出油(パイロット油)を流通させる吐出油路aが接続され、第3ポンプP3の吐出ポートには該第3ポンプP3から吐出される吐出油を流通させる吐出油路kが接続されている。
【0028】
また、第2ポンプP2の吐出油路aからは第1〜6供給路b〜gが分岐され、該第2ポンプP2の吐出油路aの終端は第7供給路wに接続されており、第5供給路fの下流側に第2ポンプP2の最高圧力を設定するリリーフ弁52が接続されている。
図3及び図5を参照して、先ず作業系の油圧システムを説明する。
前記作業用操作装置15は、アーム上げ用パイロット弁86と、アーム下げ用パイロット弁87と、バケットダンプ用パイロット弁88と、バケットスクイ用パイロット弁89と、これらパイロット弁86,87,88,89について共通の(1本の)操作レバー90とを有する。
【0029】
この作業用操作装置15には第5供給路fが接続され、この第5供給路には電磁方式の二位置切換弁からなる作業ロック弁91が設けられ、この作業ロック弁91を励磁することにより第2ポンプP2の吐出油が第5供給路fを介して各パイロット弁86,87,88,89に供給可能とされる。また、作業ロック弁91が消磁されることにより第2ポンプP2からの圧油が各パイロット弁86,87,88,89に供給不能とされて作業用操作装置15が操作不能となる。
【0030】
作業装置用コントロールバルブ33は、リフトシリンダ26を制御するアーム用制御弁
92と、バケットシリンダ28を制御するバケット用制御弁93と、アーム22の先端側等に取り付けられるアタッチメントの油圧アクチュエータを制御するSP用制御弁94とを有し、前記各制御弁92,93,94は、パイロット方式の直動スプール形三位置切換弁から構成されている。
【0031】
アーム用制御弁92、バケット用制御弁93及びSP用制御弁94は、シリーズ回路を構成するように、第1ポンプP1の吐出油路qに接続され、第1ポンプP1の吐出油が、リフトシリンダ26、バケットシリンダ28、又はアタッチメントの油圧アクチュエータにそれぞれ供給可能とされている。
作業用操作装置15の操作レバー90は、中立位置から、前後左右と前後左右の間の斜め方向に傾動操作可能とされ、該操作レバー90を傾動操作することにより、作業用操作装置15の各パイロット弁86,87,88,89が操作されると共に、操作レバー90の中立位置からの操作量に比例したパイロット圧が該操作されたパイロット弁86,87,88,89から出力される。
【0032】
本実施形態では、操作レバー90を後側(図5の矢示B1方向)に傾動させると、アーム上げ用パイロット弁86が操作されてリフトシリンダ26を伸長させる方向にアーム用制御弁92が操作され、操作レバー90の傾動量に比例した速度でアーム22が上がる。
操作レバー90を前側(図5の矢示B2方向)に傾動させると、アーム下げ用パイロット弁87が操作されてリフトシリンダ26を縮小させる方向にアーム用制御弁92操作され、操作レバー90の傾動量に比例した速度でアーム22が下がる。
【0033】
操作レバー90を右側(図5の矢示B3方向)に傾動させると、バケットダンプ用パイロット弁88が操作されてバケットシリンダ28を伸長させる方向にバケット用制御弁93が操作され、操作レバー90の傾動量に比例した速度でバケット23がダンプ動作する。
操作レバー90を左側(図5の矢示B4方向)に傾動させると、バケットスクイ用パイロット弁89が操作されてバケットシリンダ28を縮小させる方向にバケット用制御弁93が操作され、操作レバー90の傾動量に比例した速度でバケット23がスクイ動作する。
【0034】
また、操作レバー90を斜め方向に傾動させると、アーム22の上げ又は下げ動作と、バケット23のスクイ又はダンプ動作とを複合した動作が行える。
前記SP用制御弁94には、油圧ホース接続用の継手ユニット71の一対の圧油供排用継手71a,71bが油圧管路を介して接続されており、該継手71a,71bに油圧ホース等を介してアタッチメントの油圧アクチュエータを接続することにより、SP用制御弁94によってアタッチメントが操作可能とされる。
【0035】
なお、この継手ユニット71にはドレン用継手71cが備えられている。
SP用制御弁94は比例電磁方式のパイロット弁によって構成された一対のSP用操作弁79,80によって操作可能とされ、これらSP操作弁79,80は前記作業用操作装置15の操作レバー90の頂部側に設けられたスライドボタンによって操作可能とされている。
【0036】
一方のSP操作弁79は第4供給路dに設けられ、該第4供給路dはSP用制御弁94の一側の受圧部に接続され、他方のSP操作弁80は第5供給路eに設けられ、該第5供給路eはSP用制御弁94の他側の受圧部に接続されている。
操作レバー90に設けたスライドボタンを一方にスライド操作すると、操作信号が制御装置CUに入力され、該制御装置CUから一方のSP操作弁79に指令信号が出力され、一方のSP操作弁79から操作量に比例したパイロット圧がSP用制御弁94の一側の受圧部に出力される。
【0037】
また、スライドボタンを他方にスライド操作すると、制御装置CUから他方のSP操作弁80に指令信号が出力され、他方のSP操作弁80から操作量に比例したパイロット圧がSP用制御弁94の他側の受圧部に出力される。
前記第3ポンプP3の吐出油路kはハイフロー弁83に接続されている。
ハイフロー弁83は、パイロット方式の2位置切換弁から構成され、第3ポンプP3の
吐出油を作動油タンク31に戻す非増量位置と、第3ポンプP3の吐出油を増量油路nを介して一方の継手71bに流す増量位置とに切り換え自在とされ、バネによって非増量位置に切り換えられる方向に付勢され、受圧部に作用するパイロット圧によって増量位置に切り換えられる。
【0038】
ハイフロー弁83の受圧部にパイロット圧を作用させるか否かは電磁方式の二位置切換弁からなる切換弁84によって行われ、この切換弁84を励磁することにより第5供給路fから分岐した第8供給路rのパイロット圧がハイフロー弁83の受圧部に作用し、切換弁84を消磁することによりパイロット圧がハイフロー弁83の受圧部に作用しない。
次に、図3及び図4を参照して、走行系の油圧システムを説明する。
【0039】
走行操作装置14は、前進用のパイロット弁36と、後進用のパイロット弁37と、右旋回用のパイロット弁38と、左旋回用のパイロット弁39と、これらパイロット弁36,37,38,39について共通の(1本の)走行レバー40と、第1〜4シャトル弁41,42,43,44と、第2ポンプP2からの圧油を入力するポンプポート50と、作動油タンク31に連通するタンクポート51とを有する。
【0040】
前記走行操作装置14のポンプポート50には第2供給路cが接続されており、第2ポンプP2の吐出油はパイロット油として走行操作装置14に供給され、この走行操作装置14に供給されたパイロット油は該走行操作装置14の各パイロット弁36,37,38,39の一次側ポートに供給可能とされていると共に、使用されないパイロット油がタンクポート51からドレンされる。
【0041】
左右の各走行モータ21L,21Rは、高低2速に変速可能な斜板形可変容量アキシャルモータによって構成されたHSTモータ57(走行用の油圧モータ)と、このHSTモータ57の斜板の角度を切り換えることによりHSTモータ57を高低2速に変速操作する斜板切換シリンダ58と、HSTモータ57の出力軸57a(走行モータ21L,21Rの出力軸57a)を制動するブレーキシリンダ59と、フラッシング弁60と、フラッシング用リリーフ弁61とを有する。
【0042】
前記斜板切換シリンダ58には第7供給路wが接続されていて、該斜板切換シリンダ58に第7供給路wのパイロット油が作用していないときにはHSTモータ57を1速状態とし、該斜板切換シリンダ58に第7供給路wのパイロット油が作用しているときにはHSTモータ57を2速状態に切り換える。
この斜板切換シリンダ58に圧油を作用させるか否かはパイロット方式の二位置切換弁からなるシリンダ切換弁63によって行われ、このシリンダ切換弁63は、第7供給路wに設けられた電磁方式の二位置切換弁からなる2速切換弁64によって切換え操作される。
【0043】
前記ブレーキシリンダ59にはHSTモータ57の出力軸57aを制動するバネが内蔵されると共に第6供給路gが接続され、第6供給路gに設けられた電磁方式の二位置切換弁からなるブレーキ解除弁65を励磁することにより該ブレーキシリンダ59に第6供給路gのパイロット油が作用して、HSTモータ57の出力軸57aの制動を解除する。
前記油圧駆動装置32は、左走行モータ21L用の駆動回路32A(左用駆動回路)と、右走行モータ21R用の駆動回路32B(右用駆動回路)とを備えている。
【0044】
各駆動回路32A,32Bは、一対の変速用油路h,iによって対応する走行モータ21L,21RのHSTモータ57に閉回路接続されたHSTポンプ(走行用の油圧ポンプ)66と、高圧側の変速用油路h,iの圧が設定以上になると低圧側の変速用油路h,iに逃がす高圧リリーフ弁67と、第2ポンプP2からの圧油をチェック弁68を介して低圧側の変速用油路h,iに補充するためのチャージ回路jとを備えている。
【0045】
各駆動回路32A,32BのHSTポンプ66は、エンジン29の動力によって駆動される斜板形可変容量アキシャルポンプであると共にパイロット圧で斜板の角度が変更されるパイロット方式の油圧ポンプ(斜板形可変容量油圧ポンプ)である。
すなわち、HSTポンプ66は、パイロット圧が作用する前進用受圧部66aと後進用受圧部66bとを備えており、これら受圧部66a,66bに作用するパイロット圧によって斜板の角度が変更されて作動油の吐出方向や吐出量が変更され、これによって走行モ
ータ21L,21Rの回転出力をトラックローダ1を前進させる方向(正転方向)或いはトラックローダ1を後進させる方向(逆転方向)に無段階に変速することができるよう構成されている。
【0046】
各チャージ回路jには前記第1供給路bが接続されていて、各チャージ回路jに第2ポンプP2の吐出油が供給可能とされている。また、右用駆動回路32Bには、各駆動回路32A,32Bのチャージ回路jの回路圧を設定するチャージリリーフ弁78が設けられている。
走行モータ21L,21Rのフラッシング弁60は、高圧側の変速用油路h,iの圧によって低圧側の変速用油路h,iをフラッシング用リリーフ油路mに接続するように切り換えられ、低圧側の変速用油路h,iに作動油を補充させるべく該低圧側の変速用油路h,iの作動油の一部をフラッシング用リリーフ油路mを介して走行モータ21L,21Rのハウジング内の油溜まりに逃がすものである。前記フラッシング用リリーフ弁61は、フラッシング用リリーフ油路mに介装されている。
【0047】
前記走行モータ21L,21RのHSTモータ57及びフラッシング弁60等と駆動回路32A,32Bと一対の変速用油路h,iとで分離型のHST(静油圧トランスミッション)が構成されている。
前記走行操作装置14の走行レバー40は、中立位置から、前後左右と前後左右の間の斜め方向に傾動操作可能とされ、該走行レバー40を傾動操作することにより、走行操作装置14の各パイロット弁36,37,38,39が操作されると共に、走行レバー40の中立位置からの操作量に比例したパイロット圧が該操作されたパイロット弁36,37,38,39の二次側ポートから出力されるよう構成されている。
【0048】
走行レバー40を前側(図4では矢示A1方向)に傾動させると、前進用パイロット弁36が操作されて該パイロット弁36からパイロット圧が出力され、該パイロット圧は第1シャトル弁41から第1流路46を介して左用駆動回路32AのHSTポンプ66の前進用受圧部66aに作用すると共に第2シャトル弁42から第2流路を介して右用駆動回路32Bの前進用受圧部66aに作用する。 これにより左右の走行モータ21L,21Rの出力軸57aが走行レバー40の傾動量に比例した速度で正転(前進回転)してトラックローダ1が前方に直進する。
【0049】
また、走行レバー40を後側(図4では矢示A2方向)に傾動させると、後進用パイロット弁37が操作されて該パイロット弁37からパイロット圧が出力され、該パイロット圧は第3シャトル弁43から第3流路48を介して左用駆動回路32AのHSTポンプ66の後進用受圧部66bに作用すると共に第4シャトル弁44から第4流路を介して右用駆動回路32BのHSTポンプ66の後進用受圧部66bに作用する。
【0050】
これにより左右の走行モータ21L,21Rの出力軸57aが走行レバー40の傾動量に比例した速度で逆転(後進回転)してトラックローダ1が後方に直進する。
また、走行レバー40を右側(図4では矢示A3方向)に傾動させると、右旋回用パイロット弁38が操作されて該パイロット弁38からパイロット圧が出力され、該パイロット圧は第1シャトル弁41から第1流路46を介して左用駆動回路32AのHSTポンプ66の前進用受圧部66aに作用すると共に第4シャトル弁44から第4流路49を介して右用駆動回路32BのHSTポンプ66の後進用受圧部66bに作用する。
【0051】
これにより左走行モータ21Lの出力軸57aが正転し且つ右走行モータ21Rの出力軸57aが逆転してトラックローダ1が右側に旋回する。
また、走行レバー40を左側(図4では矢示A4方向)に傾動させると、左旋回用パイロット弁39が操作されて該パイロット弁39からパイロット圧が出力され、該パイロット圧は第2シャトル弁42から第2流路47を介して右用駆動回路32BのHSTポンプ66の前進用受圧部66aに作用すると共に第3シャトル弁43から第3流路43を介して左用駆動回路32AのHSTポンプ66の後進用受圧部66bに作用する。
【0052】
これにより右走行モータ21Rの出力軸57aが正転し且つ左走行モータ21Lの出力軸57aが逆転してトラックローダ1が左側に旋回する。
また、走行レバー40を斜め方向に傾動させると、各駆動回路32A,32Bの前進用
受圧部66aと後進用受圧部66bとに作用するパイロット圧の差圧によって、走行モータ21L,21Rの出力軸57aの回転方向及び回転速度が決定され、トラックローダ1が前進又は後進しながら右旋回又は左旋回する。
【0053】
すなわち、走行レバー40を左斜め前側に傾動操作すると該走行レバー40の傾動角度に対応した速度でトラックローダ1が前進しながら左旋回し、走行レバー40を右斜め前側に傾動操作すると該走行レバー40の傾動角度に対応した速度でトラックローダ1が前進しながら右旋回し、走行レバー40を左斜め後側に傾動操作すると該走行レバー40の傾動角度に対応した速度でトラックローダ1が後進しながら左旋回し、走行レバー40を右斜め後側に傾動操作すると該走行レバー40の傾動角度に対応した速度でトラックローダ1が後進しながら右旋回する。
【0054】
前記第1〜4流路46〜49には、それぞれショック緩和用絞り77が設けられ、HSTポンプ66の前進用受圧部66a及び後進用受圧部66bに対する走行操作装置14からのパイロット油の供給又は前進用受圧部66a及び後進用受圧部66bからのパイロット油の戻りはショック緩和用絞り77を介して行われるので、急激な車速の変動が防止される。
【0055】
前記エンジン29は、前記アクセルペダル53又はアクセルレバー54によって、これらアクセル操作部材53,54の操作量が0であるアイドリング回転(1150rpm)から、前記アクセル操作部材53,54を最大に操作したマックス回転(2480rpm)へと回転数を増大可能とされ、エンジン29の回転数を増大させることにより、HSTポンプ66の回転数が増加して該HSTポンプ66の吐出量が上がり、走行速度が増加する。
【0056】
本実施形態にあっては、コモンレール式の電子制御燃料供給装置SUが設けられ、該電子制御燃料供給装置SUによってエンジン29に燃料が供給される。この電子制御燃料供給装置SUは、燃料を蓄える筒状の管からなるコモンレールと、燃料タンク30内の燃料を高圧にしてコモンレールに送るサプライポンプと、コモンレールに蓄えた高圧の燃料をエンジン29の気筒に噴射するインジェクタと、このインジェクタの燃料噴射量をコントロールするコントローラECUとを備えている。
【0057】
前記コントローラECUには、アクセルペダル53の操作量を検出するアクセルセンサASとエンジン29の実際の回転数(実エンジン回転数)を検出する回転センサRSとが伝送路を介して接続されていて、該コントローラECUにアクセルセンサAS及び回転センサRSの検出信号が入力される。
そして、このアクセルセンサAS及び回転センサRSの検出信号に基づいて、エンジン29がアクセルペダル53又はアクセルレバー54の操作量に応じた(アクセル操作部材53,54によって決定される)回転数(目標エンジン回転数)となるように、コントローラECUによってインジェクタの燃料噴射量が制御される。
【0058】
前記第2供給路cには、走行操作装置14に供給されるパイロット圧(走行操作装置14の各パイロット弁36,37,38,39の一次側圧力)を制御する圧力制御弁34が介装されている。この圧力制御弁34は電磁比例弁によって構成され、油圧システムは該圧力制御弁34を制御する制御装置CUを備えている。
圧力制御弁34の比例ソレノイド34aは制御装置CUに伝送路を介して接続されていて、制御装置CUから比例ソレノイド34aへと出力される出力電流によって圧力制御弁34の二次側圧力(すなわち、走行操作装置14の各パイロット弁36,37,38,39の一次側圧力)が制御される。
【0059】
前記制御装置CUは電子制御燃料供給装置SUのコントローラECUに伝送路を介して接続されていて、電子制御燃料供給装置SUから制御装置CUへと目標エンジン回転数及び実エンジン回転数の情報が入力される。
次に、図6を参照して、制御装置CU及び圧力制御弁34による走行操作装置14の各パイロット弁36,37,38,39の一次側圧力(以下単に、走行一次側圧力という)の制御について説明する。
【0060】
図6は、エンジン回転数と走行一次側圧力との関係を示す特性図(エンジン回転数に対
する走行一次側圧力の圧力特性)を示しており、走行一次側圧力を縦軸とし、エンジン回転数を横軸としている。
図6において、M1はアイドリング回転数(1150rpm)を示し、M2はアクセル操作部材(アクセルペダル53、アクセルレバー54)を最大に操作したときの目標エンジン回転数であるマックス回転数(2480rpm)を示す。
【0061】
特性線Xは、本実施形態のトラックローダ1のエンジン回転数と走行一次側圧力との関係を示す特性線を示し、エンジン29が無負荷時における実エンジン回転数(=目標エンジン回転数)に対する走行一次側圧力の変化を示した特性線である(これを無負荷時特性線という)。
特性線Yは、従来の油圧システムでのエンジン回転数に対する走行一次側圧力の関係を示す特性線を示し、エンジンが無負荷状態及びエンジンに負荷が作用しているときの両方における実エンジン回転数に対する走行一次側圧力の変化を示した特性線である。
【0062】
特性線Zは、本実施形態のトラックローダ1のエンジン回転数と走行一次側圧力との関係を示す特性線を示し、アクセル操作部材53,54によって目標エンジン回転数を所定回転数に固定した状態でエンジン29に所定以上の負荷が作用して実エンジン回転が目標エンジン回転数からドロップしたときにおける実エンジン回転数に対する走行一次側圧力の変化を示す特性線である(これをドロップ特性線という)。
【0063】
本実施形態のトラックローダ1にあっては、エンジン29の無負荷時には前記無負荷時特性線Xが生成されるように、また、エンジン29に所定以上の負荷が作用しているときには前記ドロップ特性線Zが生成されるように、制御装置CU及び圧力制御弁34によってエンジン回転数に応じて走行一次側圧力を変化させる制御を行う(したがって、無負荷状態から所定以上の負荷がかかると無負荷時特性線Xからドロップ特性線Zに切り換わる)。
【0064】
無負荷時特性線Xは、従来の特性線Yと同様に、エンジン回転数がアクセル操作部材53,54を最大に操作したマックス回転数M2からアイドリング回転数M1へと下がるにしたがって走行一次側圧力が徐々に降下するように設定されており、従来の特性線Yに比べて、同じ回転数における走行一次側圧力が高く設定されている(図6において、無負荷時特性線Xは従来の特性線Yの上方に位置する)。
【0065】
また、無負荷時特性線Xは、アイドリング回転数M1付近で走行一次側圧力が従来より一段高くなるように設定されている。
ドロップ特性線Z1は、目標エンジン回転数がマックス回転数M2の時においてエンジン回転がドロップしたときの実エンジン回転数に対する走行一次側圧力の変化を示した特性線を示し、ドロップ特性線Z2は、目標エンジン回転数が2000rpmの時においてエンジン回転がドロップしたときの実エンジン回転数に対する走行一次側圧力の変化を示した特性線を示し、ドロップ特性線Z3は、目標エンジン回転数が1500rpmの時においてエンジン回転がドロップしたときの実エンジン回転数に対する走行一次側圧力の変化を示した特性線を示し、ドロップ特性線Z4は、目標エンジン回転数がアイドリング回転数M1の時においてエンジン回転がドロップしたときの実エンジン回転数に対する走行一次側圧力の変化を示した特性線を示す。
【0066】
この図6において図示したドロップ特性線Z1〜4は、目標エンジン回転数がマックス回転数M2、2000rpm、1500rpm又はアイドリング回転数M1の時のドロップ特性線を代表として例示したものであり、ドロップ特性線Zは、アイドリング回転数M1からマックス回転数M2までの目標エンジン回転数の各々について存在する。
したがって、ドロップ特性線Zはアイドリング回転数M1からマックス回転数M2まで無段階に存在し、アクセル操作部材53,54を操作すると、その操作した位置の目標エンジン回転数に対応するドロップ特性線Zに切り換わるよう制御される。また、アクセル操作部材53,54を操作している途中においてドロップ特性線Zは連続的に変更される(連続的に切り換わっていく)。
【0067】
各ドロップ特性線Zは中途部で屈曲されており(ドロップ特性線Zは中途部で特性線の傾きが変化しており)、該屈曲部分Dよりエンジン回転数が高い側の領域での特性線部で
ある第1特性線部E1と、屈曲部分Dよりエンジン回転数が低い側の領域での特性線部である第2特性線部E2(他の特性線部)とを有する。
なお、図例では、ドロップ特性線Zは屈曲部分Dで角状(鈍角状)に屈曲しているが(屈曲部分Dは角状であるが)、ドロップ特性線Zは屈曲部分Dで湾曲状に屈曲していてもよい(屈曲部分Dが湾曲状であってもよい)。
【0068】
第1特性線部E1は、目標エンジン回転数から屈曲部分Dにかけて実エンジン回転数が下がるに従って無負荷時特性線Xに比べて走行一次側圧力が急激に降下するように設定されている(第1特性線部E1の走行一次側圧力と無負荷時特性線Xの走行一次側圧力の差が、実エンジン回転数が下がるに従って漸次大となっている)。
第2特性線部E2は、屈曲部分Dから実エンジン回転数が下がるに従って走行一次側圧力が第1特性線部E1に比べて緩やかに降下するように設定されている。
【0069】
なお、図例のドロップ特性線Zの第1特性線部E1及び第2特性線部E2は、第1特性線部E1の傾きが第2特性線部E2の傾きよりも大きな直線状とされているが、第1特性線部E1及び第2特性線部E2は、図例の第1特性線部E1及び第2特性線部E2に略沿った曲線状であってもよい。
また、ドロップ特性線Zは、図例の第1特性線部E1を下方側に延長したかたちで生成してもよい(この場合、第2特性線E2は設けない)。
【0070】
また、本実施形態では、目標エンジン回転数がマックス回転数M2の時のドロップ特性線Z1を実験的に求めて該マックス回転数M2時のドロップ特性線Z1を基準のドロップ特性線とし、この基準のドロップ特性線Z1を横軸に沿って平行移動させてその他のドロップ特性線(ドロップ特性線Z2,Z3,Z4及び図示省略したその他のドロップ特性線)を生成している。したがって、各ドロップ特性線Zの第1特性線部E1の傾きは同じであり、各ドロップ特性線Zの第2特性線部E2の傾きも同じであり、各ドロップ特性線Zの屈曲部分Dでの走行一次側圧力は同圧とされている。
【0071】
本実施形態にあっては、エンジン29に作用する負荷の検出は、制御装置CUにおいて、目標エンジン回転数と実エンジン回転数との差を演算することによって行っている(目標エンジン回転数に対して実エンジン回転数が低いと負荷が作用していると判断される)。
そして、無負荷であると、特性線Xで決められた実エンジン回転数に対する走行一次側圧力となるように圧力制御弁34が制御され、所定以上の負荷が検出されると、ドロップ特性線Zで決められた実エンジン回転数に対する走行一次側圧力となるように圧力制御弁34が制御される。すなわち、無負荷時と所定以上の負荷が作用しているときとで、実エンジン回転数に対する走行一次側圧力の特性線を切り換えるようにしている。
【0072】
前述したように無負荷時特性線Xは、従来よりも、実エンジン回転数に対する走行一次側圧力が高くなるように生成されていて、例えば、作業装置3で作業していなく、また、登坂時などの大きな負荷が作用していない状態での走行の速度向上が図られており、特に、走行一次側圧力がアイドリング回転M1付近でエンジン高回転域に比べて従来よりも一段高く設定されていて、アイドリング時での走行速度アップが図られている。
【0073】
また、エンジン29に所定以上の負荷がかかったときには、ドロップ特性線Zの第1特性線部E1で示すように、実エンジン回転数がドロップするにしたがって走行一次側圧力を急激に(大きく)降下させている。
これによって、エンジンストールを防止しつつ、エンジン回転がドロップしたときにおける実エンジン回転数を高めに安定させることによる走行速度アップを図ることができる。
【0074】
すなわち、エンジン回転がドロップしたときに走行一次側圧力を降下させることにより、走行操作装置14から出力されるパイロット圧(走行二次側圧力)が低下し、これによって、回転数を減少させるように(斜板が中立側に戻るように)HSTポンプ66の斜板角が調整されてエンジン29に作用する負荷を減少させ、エンジン29のストールが防止される。
【0075】
また、エンジン回転がドロップしたときに、走行一次側圧力を急激に降下させることに
より、HSTポンプ66側からエンジン29に作用する負荷が早めに減少し、これによって、例えば、目標エンジン回転数がマックス回転M2の際において実エンジン回転数がドロップしたときに、従来では1500rpmでバランスしていたものを、2200rpmという高めの実エンジン回転数でバランスさせることができる。
【0076】
そして、斜板角減少に伴うHSTポンプ66の流量減少による速度ダウンよりもエンジン回転数に起因するHSTポンプ66の流量増加による速度アップの方が大きいことから、エンジン回転がドロップしたときにおける実エンジン回転数を高めに安定させることにより、HSTポンプ66の流量が高めに確保され、トータル的に走行速度を向上させることができる。また、HSTポンプ66側からエンジン29に作用する負荷を早めに減少させる方がトルクも高いところでキープさせることができる。
【0077】
これによって、エンジン29に大きな負荷が作用するような作業における走行速度を向上させることができ、例えば、バケット23の積載荷重が過大な状態で登坂作業する場合における走行速度(登坂速度)を向上させることができる。
前述したように、本実施形態では、制御装置CUによって圧力制御弁34を制御することによって走行一次側圧力を電子制御することにより、無負荷時と所定以上の負荷が作用しているときとで、実エンジン回転数に対する走行一次側圧力の特性線を切り換えることができる。これによって、無負荷時の走行一次側圧力を高めに設定して走行速度を向上させることができると共に、所定以上の負荷が作用する時においては、エンジンストールを防止しつつ走行速度の向上を図ることができる。
【0078】
また、例えば、アクセルペダル53を踏み込んで目標エンジン回転数をマックス回転数M1にして作業をしているときでも、トラックローダ1を前進させて山積みされた土砂等にバケット23を突っ込ませた場合には、実エンジン回転数は1200rpm付近にまでドロップしてしまうが、そこまで実エンジン回転数がドロップしたときに、ドロップ特性線Zの傾きが大きいと(ドロップ量に対する走行一次側圧力の降下量が大きいと)、エンジン29のトルクが足りなくて実エンジン回転数が戻るのが遅い。そして、例えば、山積みされた土砂等にバケット23を突っ込ませた後に、バックで出ようとしたときに、実エンジン回転数が低く、しかも走行一次側圧力も低いと、実エンジン回転数が戻りにくくスムーズにバックできないこととなる。
【0079】
そこで、エンジン回転が大きくドロップしたあとに、実エンジン回転数が復帰しやすいように、ドロップ特性線Zを中途部で屈曲させてドロップ量の過大な領域である第2特性線部E2の傾きを第1特性線部E1の傾きよりも緩くし、高負荷時においてはドロップ量に対する走行一次側圧力の降下量を少なくしている。
これによって、エンジン回転が極端に大きくドロップしたあとに実エンジン回転数が復帰しやすくなり、山積みされた土砂等にバケット23を突っ込ませた後に、バックで出ようとしたときに、速やかにバックすることができる。
【0080】
屈曲部分Dでの走行一次側圧力は、あまり高すぎると、前述したバケット積載荷重が過大な状態での登坂作業における走行速度の向上効果が出ないし、あまり低すぎると、エンジン回転が大きくドロップしたあとの実エンジン回転数の復帰効果が得られないので、本実施形態では、該屈曲部分Dでの走行一次側圧力はアイドリング回転数M1でも走行することができる圧力(所定圧力)とされ、具体的には14Kg/m2に設定されている。
【0081】
すなわち、アイドリング回転数M1でも走行することができる走行一次側圧力を基点として傾きの緩やかな第2特性線部E2を生成しており、エンジン回転が大きくドロップしてもアイドリング回転数M1でも走行することができる圧力より、走行一次側圧力があまり大きく降下しないようにしている。
また、本実施形態では、エンジン回転数がアイドリング回転数M1未満の低回転領域の低回転時特性線Gを有する。
【0082】
この低回転時特性線Gは無負荷時特性線Xのアイドリング回転側端部から延びるように生成されており、エンジン回転数が下がるに従って走行一次側圧力が降下するように生成されている。
また、この低回転時特性線Gには各ドロップ特性線Zが交わっており、該低回転時特性
線Gは各ドロップ特性線Zが交わる部分において、エンジン回転数が下がるに従って走行一次側圧力が第2特性線部E2に比べて大きく(急激に)降下するように設定されている。
【0083】
目標エンジン回転数がアイドリング回転数M1の状態(アクセル操作部材53,54を操作しない状態)において、走行レバー40を操作して走行するときに、所定以上の負荷がかかると、特性線がドロップ特性線Z4に切り換わって走行一次側圧力が制御されるが、エンジン回転数が低回転では走行一次側圧力が高いとエンストしやすくなる。
そこで、この目標エンジン回転数がアイドリング回転数M1のときにおけるエンストを防止すべく、ドロップ特性線Z4が低回転時特性線Gに交わると、特性線が低回転時特性線Gに切り換わって走行一次側圧力が制御されるようにしている。
【0084】
また、同様に、その他のドロップ特性線Zで走行一次側圧力が制御されるときにおいても、該ドロップ特性線Zが低回転時特性線Gに交わると、特性線が低回転時特性線Gに切り換わって走行一次側圧力が制御される。
また、本実施形態では、前述したように、目標エンジン回転数ごとにドロップ特性線Zが存在し、アクセル操作すると(アクセルペダル53又はアクセルレバー54の操作をすると)、アクセル操作した目標エンジン回転数に対応するドロップ特性線Zに切り換わるが、アクセル操作中においてはドロップ特性線Zが連続的に切り換わっていくので、アクセル操作の操作フィーリングがよい。
【0085】
また、アクセル操作した際において、アクセル操作した後の目標エンジン回転数に対応するドロップ特性線Zに、アクセル操作に合わせて瞬時に切り換わると、操作の違和感やショックがあるので、アクセル操作に対するドロップ特性線Zの切り換えの速度を遅らせる制御をしている(アクセル操作とドロップ特性線の切り換えとにタイムラグを設けている)。
【0086】
すなわち、例えば、目標エンジン回転数が1500rpmとなるようにアクセル操作しているときにおいて、実エンジン回転数が1000rpmまでドロップしているときに、アクセル操作によって目標エンジン回転数を2000rpmまで上げようとした場合、ドロップ特性線はZ3からZ2に切り換わるが、このとき、アクセル操作に応じて実エンジン回転数が上がるのに応答遅れ(タイムラグ)があるのに対して、ドロップ特性線がZ3からZ2に瞬時に切り換わると、実エンジン回転数が上がるまでに、一旦、走行一次側圧力がドロップ特性線Z2の1000rpm付近の圧力にまで下がる。すなわち、エンジン回転数を上げようとしているのに、走行一次側圧力が、一旦下がるという現象が生じ、オペレータが操作に違和感を感じたりショックを感じたりする。
【0087】
また、逆に、目標エンジン回転数が2000rpmとなるようにアクセル操作しているときにおいて、実エンジン回転数が1000rpmまでドロップしているときに、アクセル操作によって目標エンジン回転数を1500rpmまで下げようとした場合は、ドロップ特性線がZ2からZ3に瞬時に切り換わると、走行一次側圧力が、一旦下がるという現象が生じる。
【0088】
そこで、本実施形態にあっては、アクセル操作した際に、ドロップ特性線Zの切り換えの速度を、エンジン回転数の上昇速度又は下降速度と同期するように、アクセル操作に対して遅らせている(換言すると、アクセル操作部材53,54を操作した際において、該アクセル操作部材53,54の操作に対するエンジン回転数の応答遅れに合わせて、アクセル操作部材53,54の操作前のドロップ特性線Zからアクセル操作部材53,54の操作後のドロップ特性線Zに切り換わる速度を遅らせている)。
【0089】
これによって、アクセル操作した際におけるドロップ特性線Zの切り換わりの速度がエンジン回転数の上昇速度又は下降速度とマッチングし、走行速度がアクセル操作に応じてスムーズに上昇又は下降し、アクセル操作部材53,54の操作フィーリングが良好となる。
このドロップ特性線Zの切り換わりの速度は実験的に割り出している。アクセル操作に対してエンジン回転数の応答性が相当程度遅いと思われるとき、例えば、バケット23に過大な荷重をかけて登坂しているときにアクセル操作したときの、エンジン回転数が上が
る時間又は下がる時間をカウントし、それに合わせるようにドロップ特性線Zの切り換わりの速度を決めている
本実施形態にあっては、いずれかの目標エンジン回転数からいずれかの目標エンジン回転数に上げる場合において、ドロップ特性線Zの切り換わりの速度は一定であり、また、いずれかの目標エンジン回転数からいずれかの目標エンジン回転数に下げる場合でも、ドロップ特性線Zの切り換わりの速度は一定である。
【0090】
しかしながら、エンジン回転数を上げるようにアクセル操作する場合と、エンジン回転数を下げるようにアクセル操作する場合とではエンジン回転数の応答性が異なるので、エンジン回転数を上げる場合とエンジン回転数を下げる場合とでドロップ特性線Zの切り換わりの速度は変えている。
エンジン回転数を上げるときに比べて、エンジン回転数を下げるときの方が、エンジン29にかかる負担が比較的軽いので、エンジン回転数を上げる方向にアクセル操作部材53,54を操作する場合のドロップ特性線Zが切り換わる速度に対して、エンジン回転数を下げる方向にアクセル操作部材53,54を操作する場合のドロップ特性線Zが切り換わる速度を速く設定している。
【0091】
また、本実施形態にあっては、アクセル操作部材53,54によって決定された目標エンジン回転数よりも実回転数が高いときには無負荷時特性線Xによって設定された走行一次側圧力に制御される。
本発明は、エンジン29により駆動される油圧ポンプの吐出油によって駆動する油圧モータで作動するようにした走行装置3と、前記エンジン29により駆動される油圧ポンプの吐出油によって駆動する作業装置とを備えた、その他の自走式作業機、例えばバックホーなどの作業機にも採用することができる。
【符号の説明】
【0092】
4 走行装置
14 走行操作装置
29 エンジン
34 圧力制御弁
53 アクセルペダル(アクセル操作部材)
54 アクセルレバー(アクセル操作部材)
57 HSTモータ
66 HSTポンプ
CU 制御装置
E1 第1特性線部
E2 第2特性線部(他の特性線部)
M1 アイドリング回転数
M2 マックス回転数
P2 パイロットポンプ
X 負荷時特性線
Z ドロップ特性線
h 変速用油路
i 変速用油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(29)によって駆動される斜板形可変容量ポンプからなるHSTポンプ(66)と、このHSTポンプ(66)と一対の変速用油路(h,i)により閉回路接続されていて該HSTポンプ(66)からの吐出油によって駆動されることにより走行装置(4)を駆動するHSTモータ(57)と、エンジン(29)によって駆動されるパイロットポンプ(P2)と、このパイロットポンプ(P2)によって吐出されるパイロット油によってHSTポンプ(66)の斜板を制御する走行操作装置(14)と、この走行操作装置(14)の一次側の圧力である走行一次側圧力を制御する圧力制御弁(34)と、この圧力制御弁(34)を制御する制御装置(CU)とを備え、
前記制御装置(CU)によって圧力制御弁(34)を制御することにより、エンジン(29)の無負荷時の実エンジン回転数と走行一次側圧力との関係を示す無負荷時特性線(X)と、エンジン(29)に所定以上の負荷が作用したときの実エンジン回転数と走行一次側圧力との関係を示すドロップ特性線(Z)とを生成することを特徴とする作業機。
【請求項2】
前記無負荷時特性線(X)は、実エンジン回転数がアクセル操作部材(53,54)を最大に操作したマックス回転数(M2)からアイドリング回転数(M1)へと下がるにしたがって走行一次側圧力が徐々に降下するように生成され、
ドロップ特性線(Z)は、所定以上の負荷が作用したときに実エンジン回転数が下がるに従って無負荷時特性線(X)に比べて走行一次側圧力が急激に降下するように生成された特性線部(E1)を有することを特徴とする請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
ドロップ特性線(Z)は途中で屈曲されていて、所定以上の負荷が作用したときに実エンジン回転数が下がるに従って走行一次側圧力が急激に降下するように生成された前記特性線部(E1)と、さらにエンジン回転数が下がった場合に、実エンジン回転数が下がるに従って走行一次側圧力が前記特性線部(E1)に比べて緩やかに降下するように生成された他の特性線部(E2)とを有することを特徴とする請求項2に記載の作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−36274(P2013−36274A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174991(P2011−174991)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】