説明

作業車の油圧制御装置

【課題】レギュレータバルブを省きながらも、PTOクラッチを備える回路への所要圧を確保するように制御し、かつ他装置を備える分岐回路への圧油供給も可能にする。
【解決手段】チャージ油供給回路22よりも圧油供給方向下手側にPTOクラッチ制御回路40が接続されるように構成し、チャージ油供給回路への分岐箇所よりも圧油供給方向での下手側箇所に、PTOクラッチ制御回路40とは別に、使用形態が間欠的である他装置に対して圧油を供給するための他装置出力用油路50を分岐接続し、この他装置出力用油路50への分岐箇所に、PTOクラッチ制御回路40側の圧が設定以下に低下すると、他装置出力用油路50への圧油供給量を低減させるように絞り操作する圧力補償弁40を設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行装置駆動用の静油圧式無段変速装置を備え、作業用動力の駆動系にはPTOクラッチを備えるとともに、静油圧式無段変速装置に対してチャージ油を供給するためのチャージポンプを備えている作業車の油圧制御装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の作業車の油圧制御装置としては、下記の構造のものが従来より知られている。
[1] 静油圧式無段変速装置にチャージ圧を供給するための油圧ポンプからの吐出油を、レギュレータバルブを用いて複数の回路における供給圧を、パワーステアリング系に適した回路圧と、作業クラッチやサーボシリンダの制御に適した回路圧とのそれぞれに調節して供給するようにしたもの(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−284024号公報(段落番号0028、図12)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記[1]に示す従来構造のものでは、レギュレータバルブを用いて複数の回路における供給圧を適正に設定し得るものであるから、例えば、複数個の油圧ポンプを用いて各回路毎にポンプからの吐出圧を設定するような構造のものに比べては、構造の簡素化、小型化を図り得る点で有用なものである。
しかしながら、このようにレギュレータバルブを用いて複数の回路における供給圧を設定する構造のものでは、次のような問題がある。
つまり、レギュレータバルブ自体が比較的高価なものであり、十分なコスト低減を行い難い。また、そのレギュレータバルブで設定される供給圧は、各回路毎に所定の値に設定されるものであるため、分岐前の元圧としては分岐後における各回路圧の総和以上の圧が常に要求されることになる。したがって、各回路で使用される機器が間欠的にしか使用されないものであれば、平均的な圧油使用量や使用圧としては割合に少ないものであるが、この場合にも、各回路の合計分の圧油使用量や使用圧が求められるため、比較的容量の大きなポンプが必要となっていた。
【0005】
本発明の目的は、単一のポンプから分岐供給される複数の回路を備えたものにおいて、回路圧設定用のレギュレータバルブを省きながらも、PTOクラッチを備える回路への所要圧を確保するように制御し、かつ、他装置を備える分岐回路への圧油供給も可能である作業車の油圧制御装置を得ることにある
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔解決手段1〕
上記課題を解決するために講じた本発明の技術手段は、請求項1に記載のように、走行装置駆動用の静油圧式無段変速装置を備えるとともに、作業用動力の駆動系にPTOクラッチを備え、前記静油圧式無段変速装置に対してチャージ油を供給するためのチャージポンプを備えた作業車の油圧制御装置において、
前記チャージポンプからの吐出油を、静油圧式無段変速装置のチャージ油供給回路と前記PTOクラッチの作動を制御するPTOクラッチ制御回路とに並列供給するように、かつチャージ油供給回路よりも圧油供給方向下手側にPTOクラッチ制御回路が接続されるように構成してあり、
前記チャージ油供給回路への分岐箇所よりも圧油供給方向での下手側箇所に、PTOクラッチ制御回路とは別に、使用形態が間欠的である他装置に対して圧油を供給するための他装置出力用油路を分岐接続し、
この他装置出力用油路への分岐箇所に、PTOクラッチ制御回路側の圧が設定以下に低下すると、前記他装置出力用油路への圧油供給量を低減させるように絞り操作する圧力補償弁を設けてあることを特徴とする。
【0007】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段1にかかる本発明の作業車の油圧制御装置では、チャージ油供給回路への分岐箇所よりも圧油供給方向での下手側箇所に、PTOクラッチ制御回路とは別に、使用形態が間欠的である他装置に対して圧油を供給するための他装置出力用油路を分岐接続して、その他装置出力用油路への分岐箇所に上述の圧力補償弁を設けたものであるから、PTOクラッチを備える回路への所要圧の確保と、他装置を備える分岐回路への圧油供給とが可能となる。
つまり、圧力補償弁がPTOクラッチ制御回路側の圧力低下にともなって、他装置出力用油路への圧油供給量を絞ることにより、PTOクラッチ制御回路側での所要圧が確保された状態を維持することができる。
そして、他装置出力用油路への圧油供給量は低減されるが、その他装置出力用油路で使用される他装置は、もともと間欠的にしか用いられないものであり、圧油供給量が低減された時点で使用されていなければ全く影響がない。また、使用されていたとしても、それほど所要圧や所要量が多くなければならないものでなければ、やはり影響は少なく、それによる不具合よりもPTOクラッチ制御回路側での所要圧が確保されることの利点が大きいものである。
【0008】
また、PTOクラッチ制御回路側での所要圧が確保された状態を維持しながら他装置出力用油路への圧油供給を可能にするための手段として、例えば分岐箇所に分流弁を設けて、PTOクラッチ制御回路側を定常流側とし、他装置出力用油路側を余剰流側とすることも考えられる。しかしながら、このように分流弁を用いて構成する場合には、一次側の圧力変動が原因して二次側の圧力が低下した場合には対応できない。これに比べ、本発明では、仮に一次側の圧力低下によってPTOクラッチ制御回路側での圧力が低下した場合にも、他装置出力用油路への圧油供給量が自動的に低減されて、その減少分がPTOクラッチ制御回路側で増量されることになるので、このPTOクラッチ制御回路側での所要圧が確保され易くなる利点がある。
さらにまた、各回路毎の所要圧を設定するためのレギュレータバルブも必要としないので、コスト低減の上でも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
〔作業車の全体構成〕
図1には、作業車の一例であるトラクタの全体側面が示されている。このトラクタは、エンジン1を防振支持する前部フレーム2の左右に前輪3を配備し、エンジン1に連結されるフレーム兼用のミッションケース4の左右に後輪5を配備し、ミッションケース4の上方に、ステアリングホイール6や運転座席7などを備える搭乗運転部8を形成して構成されている。
ミッションケース4は、主クラッチ9などを内装する第1ケーシング部4A、静油圧式無段変速装置10などを内装する第2ケーシング部4B、PTOクラッチ14などを内装する第3ケーシング部4C、及び、ギヤ式変速装置11などを内装する第4ケーシング部4D、などを連結して構成されている。
【0010】
図2に示すように、エンジン1から取り出された動力は、乾式の主クラッチ9などを介して、主変速装置として備えた静油圧式無段変速装置(無段変速装置の一例)10に伝達される。
静油圧式無段変速装置10から取り出される動力のうち、走行用動力は、副変速装置として備えたギヤ式変速装置11や、前輪用差動装置12又は後輪用差動装置13などを介して左右の前輪3及び左右の後輪5に伝達される。ギヤ式変速装置11は、高中低の3段に変速切り換え可能に構成されている。
静油圧式無段変速装置10から取り出される動力のうち、作業用動力は、油圧式のPTOクラッチ14などを介して動力取出軸15に伝達される。
【0011】
〔油圧制御装置の構成〕
図3に示すように、静油圧式無段変速装置10は、第2ケーシング部4Bに内装したアキシャルプランジャー型の可変容量ポンプ16や定容量モータ17などを備え、可変容量ポンプ16からの非変速動力を作業用動力として出力し、定容量モータ17からの変速動力を走行用動力として出力する。
可変容量ポンプ16と定容量モータ17は、第1油路18及び第2油路19を介して接続され、その接続で形成された閉回路20に、前記可変容量ポンプ16とともにエンジン動力で駆動されるチャージポンプ21からのチャージ油が、チャージ油路22やチェック弁23などを介して供給される。
【0012】
図1及び図3に示すように、このトラクタには、搭乗運転部8に備えた変速ペダル(変速操作具の一例)24の操作などに基づいて、可変容量ポンプ16の斜板〔変速操作部の一例(以下、ポンプ斜板と称する)〕16Aの斜板角を変更することによって変速操作するサーボコントロール機構25が装備されている。
変速ペダル24は、図外のバネによる付勢で中立位置(零速位置)に自動復帰する中立復帰型に構成されている。
【0013】
図3に示すように、サーボコントロール機構25は、ポンプ斜板16Aを無段階に変速操作する油圧ポンプ16用のサーボシリンダ(操作手段の一例)26、及びサーボシリンダ26に対する作動油の流動を制御するサーボ弁27を備え、このサーボ弁27を変速ペダル24に連係して作動するように構成してある。したがって、前記変速ペダル24を操作することにより、サーボ弁27がサーボシリンダ26の前進変速用の油室34に作動油を供給する状態と、サーボシリンダ26の後進変速用の油室35に作動油を供給する状態とに切換操作される。
【0014】
サーボシリンダ26は、ポンプ斜板16Aを中立位置(零速位置)に復帰付勢する前進側の戻しバネ(付勢手段の一例)32や後進側の戻しバネ(付勢手段の一例)33とともに第2ケーシング部4Bに内装されている。
そして、その前進変速用の油室34にサーボ弁27からの作動油が供給されることで、戻しバネ32の付勢力に抗してポンプ斜板16Aを前進増速方向に変速操作し、前進変速用の油室34から作動油が排出されることで、戻しバネ32の付勢によるポンプ斜板16Aの前進減速方向への変速操作を許容する。
又、その後進変速用の油室35に作動油が供給されることで、戻しバネ33の付勢に抗してポンプ斜板16Aを後進増速方向に変速操作し、後進変速用の油室35から作動油が排出されることで、戻しバネ33の付勢によるポンプ斜板16Aの後進減速方向への変速操作を許容する。
【0015】
前記静油圧式無段変速装置10の閉回路20に対してチャージ油を供給するためのチャージポンプ21の圧油供給路30には、チャージ油路22とともに、PTOクラッチ制御回路40も並列に接続されている。
このPTOクラッチ制御回路40には、前記PTOクラッチ14を入り切り操作するためのクラッチ操作シリンダ41と、そのクラッチ操作シリンダ41に対して圧油を給排するクラッチ操作弁45とを装備させてある。
【0016】
前記クラッチ操作弁45は、クラッチ操作ペダル(図外)の操作に連動して2位置切換自在に構成してあり、前記クラッチ操作ペダルの非踏み込み状態で、図3に示すようにクラッチ操作シリンダ41側へ圧油を供給する供給位置にバネ付勢され、前記クラッチ操作ペダルを踏み込むと、クラッチ操作シリンダ41を図示の状態から図中左方へ移動させて、クラッチ操作シリンダ41の受圧室42内の圧油をタンク側へ排出する排出位置に切換られる。
前記クラッチ操作シリンダ41は、受圧室42内の圧油が排出されると、反対側のピストンロッド室43に装着された戻しバネ44の付勢作用によってクラッチ切り側に操作されるように構成してある。
【0017】
〔圧力補償弁関係〕
前記チャージポンプ21からの吐出油が供給される圧油供給路30には、前記チャージ油路22、及びPTOクラッチ制御回路40の他に、他装置出力用回路50としての、前記サーボコントロール機構25に対する圧油供給路が接続されている。
この他装置出力用回路50は、チャージポンプ21の圧油供給路30に対して、前記チャージ油路22への分岐箇所よりも圧油供給方向の下手側箇所で、前記PTOクラッチ制御回路40と分岐するように、圧力補償弁51を介して接続されている。
【0018】
この圧力補償弁51は、二次側の圧として前記PTOクラッチ制御回路40側における回路圧がインプットされるように構成してあり、そのPTOクラッチ制御回路40側における回路圧が所定圧以上であるときには、図3示すように、前記PTOクラッチ制御回路40と他装置出力用回路50との双方に、チャージポンプ21からの吐出油をその回路圧のままで供給する双方供給位置aにある。
そして、前記PTOクラッチ制御回路40側における回路圧が所定圧に満たなくなると、圧力補償弁51が備えている圧力設定用スプリング57が、前記インプットされた回路圧に打ち勝って、図3の状態から圧力補償弁51を図中右方へ押し戻し、PTO系優先位置bに切り換えられる。
【0019】
このPTO系優先位置bでは、PTOクラッチ制御回路40側へはチャージポンプ21からの吐出油がその回路圧のままで供給されるが、他装置出力用回路50側へは、絞り用のオリフィス59を介して供給されるため、他装置出力用回路50側への圧油供給量が絞られる。その結果、PTOクラッチ制御回路40側への圧油供給量が増大することになるので、PTOクラッチ制御回路40での回路圧低下を回避することができる。
【0020】
この圧力補償弁51は、図4(a),(b)に示すように構成されている。
図4に示す圧力補償弁51の弁ケース52には、チャージポンプ21側の圧油供給路30を一次側とするポンプ側ポート53と、PTOクラッチ制御回路40を二次側とするPTO側ポート54と、他装置出力用回路50に連なるサーボ側ポート55とが形成してあり、弁ケース52内に装備されたスプール56が、各ポートに作用する回路圧と、内装されている圧力設定スプリング57とのバランスによって、サーボ側ポート55への圧油供給形態を切り換えるように構成してある。
【0021】
すなわち、図4(a)は、ポンプ側ポート53とPTO側ポート54との回路圧が、弁ケース52内で圧力設定スプリング57の押し上げ力に打ち勝ってスプール56を押し下げている状態である。この状態が前記双方供給位置aに相当するものであり、チャージポンプ21側の圧油供給路30から供給される圧油は、ポンプ側ポート53と直接的に連通接続されているPTO側ポート54に対しては、そのままの回路圧でPTOクラッチ制御回路40に供給され、また、他装置出力用回路50に対しても、スプール56内に形成されている内部通路56a、及び弁ケース52に形成されている第1連通路58aを介して、そのままの回路圧で供給される。
【0022】
そして、図4(b)は、ポンプ側ポート53とPTO側ポート54との回路圧が低下して、弁ケース52内で圧力設定スプリング57の押し上げ力よりも低くなった状態を示している。この状態が前記PTO系優先位置bに相当するものであり、押し上げられたスプール56が前記弁ケース52の第1通路58aを塞ぎ、スプール56の内部通路56aを弁ケース52の第2連通路58bに開放している。
この第2通路58bでは、流路途中にオリフィス59が設けられているので、このオリフィス59を通って供給される他装置出力用回路50への圧油供給量が絞られることになる。このとき、直接的に連通しているポンプ側ポート53からPTO側ポート54への通路では絞り作用はなく、逆に、他装置出力用回路50への圧油供給量が絞られるたことによって、PTOクラッチ制御回路40側への圧油供給量が増大し、その供給圧を増加させることになる。
【0023】
図5は、横軸にエンジン回転数と同期するチャージポンプの回転数をとり、縦軸にチャージポンプ21の吐出圧をとって図示した、エンジン回転数(もしくはポンプ回転数)と回路圧との相関を示したグラフである。
図中、二点鎖線で示した線分が本発明の圧力補償弁を備えない場合の相関を示すものであり、図中実線で示す線分が、本発明の圧力補償弁を備えた場合を示している。このグラフからも分かるように、本発明による圧力補償弁51が、切り替わり作動するのは、圧力にして1.5MPa程度、回転数にして、1000rpm程度であるように、前記圧力設定スプリング57による作用範囲を設定してある。
【0024】
〔別実施形態の1〕
上記最良の実施形態では、他装置出力用回路50にサーボコントロール機構25を備えた構造のものを例示したが、これに限らず、例えば、ギヤ変速機構における副変速装置操作用のシフトシリンダを作動させるもの、あるいは、油圧機械変速機構におけるシフト操作を行うシフトシリンダを作動させるものなど、各種の機構を採用することができる。
【0025】
〔別実施形態の2〕
作業車としては、田植機やコンバインあるいは草刈機やホイールローダなどであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】トラクタの全体側面図
【図2】トラクタの伝動構造を示す概略図
【図3】油圧回路図
【図4】圧力補償弁を示す断面図
【図5】回路圧とポンブ入力回転数との相関を示すグラフ
【符号の説明】
【0027】
10 静油圧式無段変速装置
14 PTOクラッチ
21 チャージポンプ
22 チャージ油供給回路
30 圧油供給回路
40 PTOクラッチ制御回路
50 他装置出力用回路
51 圧力補償弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置駆動用の静油圧式無段変速装置を備えるとともに、作業用動力の駆動系にPTOクラッチを備え、前記静油圧式無段変速装置に対してチャージ油を供給するためのチャージポンプを備えた作業車の油圧制御装置であって、
前記チャージポンプからの吐出油を、静油圧式無段変速装置のチャージ油供給回路と前記PTOクラッチの作動を制御するPTOクラッチ制御回路とに並列供給するように、かつチャージ油供給回路よりも圧油供給方向下手側にPTOクラッチ制御回路が接続されるように構成してあり、
前記チャージ油供給回路への分岐箇所よりも圧油供給方向での下手側箇所に、PTOクラッチ制御回路とは別に、使用形態が間欠的である他装置に対して圧油を供給するための他装置出力用油路を分岐接続し、
この他装置出力用油路への分岐箇所に、PTOクラッチ制御回路側の圧が設定以下に低下すると、前記他装置出力用油路への圧油供給量を低減させるように絞り操作する圧力補償弁を設けてあることを特徴とする作業車の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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