説明

作業車両の変速装置

【課題】ミッションケースの側方から突出して形成されたトラニオン軸の周辺にトラニオン軸を回動する変速操作装置を配置した作業車両の変速装置を提供する。
【解決手段】カムフォロアに取付けられる中立復帰用スプリングを渦巻きスプリングで構成し、油圧アクチュエータ45を、前記トラニオンアーム及びカムフォロアの下方においてその伸縮方向を前後方向として前記ミッションケース12の側方に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静油圧式無段変速装置を備えた作業車両の変速装置に係り、詳しくは、静油圧式無段変速装置の変速操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トラクタなどの作業車両は、HSТ(静油圧式無段変速装置)を備えた変速装置を有している。HSТにはトラニオン軸が設けられており、該トラニオン軸を回動することでHSTによる変速を行うことが知られている。
【0003】
従来、トラニオン軸を回動する変速操作装置が案出されている(例えば、特許文献1参照)。該変速操作装置は、トラニオン軸に連結するトラニオンアームと、トラニオンアームに係合するカムフォロアと、油圧アクチュエータとを備えている。
【0004】
該カムフォロアには、引っ張りバネが取付けられており、この引っ張りバネは、油圧アクチュエータの油圧シリンダと並んで配置されている。油圧アクチュエータは、この引っ張りバネの分だけミッションケースから側方へオフセットして配置されているため、変速操作装置はこのオフセットされたスペース分だけ大型化してしまっている。
【0005】
変速操作装置は、ミッションケースの側方から突出したトラニオン軸の端部に連結されるが、トラニオン軸の前方には、主クラッチを納めた膨出部がミッションケースに設けられ、後方には、ミッションケースから左右に張り出すリアアスクルケースが設けられる。また、トラニオン軸の上方には操縦部のフロアが設けられ、下方には最低地上高による高さ制限があり、更には、ミッションケースの側方にブレーキロッド等が配置される。このように、トラニオン軸の周辺には、多くの他の装置や部材などが設けられるため、変速操作装置を配置するスペースは制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−76646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
変速操作装置自体が大きい場合には、トラニオン軸の周辺に配置できない虞があり、係る場合、他の装置や部材の配置位置の変更を行うか、変速操作装置をトラニオン軸から離れた場所に配置しなければならず、配置変更の場合は手間がかかり、また、変速操作装置をトラニオン軸から離れた場所に配置した場合は、変速操作装置とトラニオン軸とを連結する中継リンクが複雑な構成となってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、カムフォロアに取付けられる中立復帰用スプリングを渦巻きスプリングにすることで変速操作装置をコンパクトに構成し、もって上記課題を解決した作業車両の変速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ミッションケース(12)の側方から突出した静油圧式無段変速装置(21)のトラニオン軸(29)を、前記ミッションケース(12)の側方に配置された油圧アクチュエータ(45)により操作して、前記静油圧式無段変速装置(21)を変速操作してなる作業車両(1)の変速装置(23)において、
前記トラニオン軸(29)に連結され、先端にカム(42a)を有するトラニオンアーム(42)と、
前記カム(42a)に係合するカムフォロア(43)を、前記トラニオン軸(29)が中立位置に復帰するように付勢する中立復帰用スプリング(46)と、
前記トラニオンアーム(29)と前記油圧アクチュエータ(45)を連結する中継リンク(47)と、を備え、
前記中立復帰用スプリング(46)が渦巻きスプリングからなり、前記油圧アクチュエータ(45)が、前記中立復帰用スプリング(46)及び前記カムフォロア(43)の下方においてその伸縮方向を前後方向として前記ミッションケース(12)の側方に配置されてなる。
【0010】
例えば図3を参照して、前記油圧アクチュエータ(45)が、前記ミッションケース(12)に固定される取付けベース(44)に固定され、
前記油圧アクチュエータ(45)を制御するバルブアッシ(41)が、前記取付けベース(44)における前記油圧アクチュエータ(45)の前記ミッションケース(12)に対して反対側に取付けられてなる。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲の記載に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によると、中立復帰用のスプリングを渦巻きスプリングで構成し、油圧アクチュエータをトラニオンアーム及びカムフォロアの下方で、伸縮方向を前後方向としてミッションケースの側方に配置したので、油圧アクチュエータをミッションケースから側方へのオフセット量を抑えて配置することができ、変速操作装置をコンパクトに構成することができると共に、他の部材や装置と干渉させることなくミッションケース側方に配置することができる。
【0013】
請求項2に係る発明によると、バルブアッシをミッションケースの反対側であって、油圧シリンダの側方に配置したので、変速操作装置をコンパクトな構成にすることができると共に、他の部材や装置と干渉させることなくミッションケース側方に配置することができる。また、バルブアッシと油圧アクチュエータとを繋ぐホースを短くすることができるので、油圧の損圧を抑えて油圧アクチュエータの応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】作業車両であるトラクタの側面図。
【図2】(a)はトランスミッションの展開図であり、(b)は超低速変速機構を示す図である。
【図3】ミッションケースの斜視図。
【図4】ミッションケースを示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は側面図である。
【図5】変速操作装置を示す図であって、(a)は正面からの斜視図であり、(b)は背面からの斜視図である。
【図6】前進状態の変速操作装置を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は側面図であり、(c)はバルブアッシを外した状態の側面図である。
【図7】中立状態の変速操作装置を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は側面図であり、(c)はバルブアッシを外した状態の側面図である。
【図8】後進状態の変速操作装置を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は側面図であり、(c)はバルブアッシを外した状態の側面図である。
【図9】制御部のブロック図。
【図10】トラクタの油圧回路図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る変速装置を備えた作業車両の一例であるトラクタの実施の形態について図面に沿って説明する。
【0016】
トラクタ1は、図1に示すように、前輪2及び後輪3に支持される走行機体5を有し、該走行機体5の前方には、ボンネット6に覆われてエンジン(不図示)が搭載されている。該エンジンの下方には、機体後方に向かってトランスミッションケース12(図2,図3参照)が配設されており、前記ボンネット6の後方には、運転操作部11が配設されている。該運転操作部11は、操作パネル7、ステアリングハンドル9、運転席10などを有して構成されている。
【0017】
トランスミッションケース(以下、単にミッションケース)12の外形は、図2及び図3に示すように、縦長の略直方体で形成されている。該ミッションンケースの前方には、図2に示すように、主クラッチ19が収納されたクラッチハウジング13が形成されており、該クラッチハウジング13の隣には、HST21が収納されたHSТケース15が形成されており、該HSТケース15の隣には、ギヤ変速装置22及びPTOドライブ軸24が収納されたセンターケース16が形成されており、該センターケース16の隣には、PTO変速装置25及びPTO軸26が収納されたリアケース17が形成されている。
【0018】
トラクタ1の変速装置23は、HST21とギヤ変速装置22とから構成されており、該ギヤ変速装置22は、図2に示すように、入力軸30と、該入力軸30と並んで配置されるピニオン軸32及び前輪駆動軸31とを備えて構成されている。前記入力軸30、ピニオン軸32、及び前輪駆動軸31には、回転を変速する変速歯車(ギヤ)が取付けられており、この変速ギヤの噛合わせで変速を行う構成になっている。前記ギヤ変速装置22は、回転を高速又は低速に変速し、図2(b)に示すように、超低速変速機構35がギヤ変速装置22に設けられると回転を超低速に変速することができる。高速変速では、入力軸30に回転自在に取付けられた中間歯車36に設けられた外歯36aと、ピニオン軸32に摺動自在にスプライン結合された従動歯車37に設けられた外歯37aとが噛合い、低速変速では、中間歯車36に設けられた外歯36bと、従動歯車37に設けられた外歯37bとが噛合い、超低速変速では、入力軸30に軸方向に摺動自在にスプライン結合された変速歯車34の外歯34aと、超低速変速機構35に設けられた超低速歯車38とが噛合うと同時に、従動歯車37に設けられた外歯37bと外歯36cとが噛合うことで変速される構成となっている。
【0019】
ミッションケース12側方の略中央には、図3及び図4に示すように、トラニオン軸29がミッションケース12から突出して形成されており、該トラニオン軸29の近くには、トラニオン軸29を回動する変速操作装置39が配設されている。
【0020】
変速操作装置39は、図4及び図5に示すように、一端がミッションケース12に固定された平面視略矩形形状の金属製プレートからなる取付けベース44上に配設されており、油圧アクチュエータ45などからなる変速操作装置の本体部40と、複数のバルブを備えたバルブアッシ41とから構成されている。
【0021】
前記本体部40は、図5乃至図8に示すように、トラニオン軸29の一端部に連結するトラニオンアーム42を有しており、該トラニオンアーム42の外形は、図6に示すように、略T字形状で形成されて、一端部にはカム42aが形成されている。該カム42aには、カムフォロア43の先端に設けられた係合部43bが係合しており、カムフォロアの軸部43aには、中立復帰用スプリング46として渦巻きスプリングが取付けられている。
【0022】
前記カムフォロア43の下方には、油圧アクチュエータ45が配設されており、該油圧アクチュエータ45は、油圧シリンダ45aと、ピストンロッド45bとから構成されている。油圧アクチュエータ45は、図6に示すように、油圧シリンダ45aが平面視でトラニオンアーム42及びカムフォロア43と重なりあった状態で、ピストンロッド45bの伸縮方向を前後方向としてミッションケース12の側方に配置されている。前記油圧アクチュエータのピストンロッド45bは、トラニオンアーム42と中継リンク47を介して連結さている。該中継リンク47は、軸51に回動自在に軸支されたプレート47bを有しており、該プレート47bの一端がロッド47aに連結し、他端が前記ピストンロッド45bに連結して、プレートがストッパ50に当接して前記中継リンクの回動範囲を規制している。また、前記トラニオンアーム42には、ロッド48を介してトラニオン角センサ49が連結されている。
【0023】
バルブアッシ41は、リリーフ弁及び2つのパイロットチェック弁(不図示)などが収納されたバルブケース58とソレノイドバルブ(電磁バルブ)54とを有しており、該ソレノイドバルブ54を上方にした状態で油圧シリンダ45aの側方に配置されている。前記バルブケース58には、油圧を供給するホース52,53と、バルブアッシ41内の油をトランスミッションケース12内に戻すドレン菅55と、プライオリティバルブ57からの配菅56とが連結されている。
【0024】
変速操作装置39の動作を制御する制御部60は、図9に示すように、マイクロコンピュータ(以下、単にマイコン)60から構成されており、マイコン60の入力側には、前進スイッチ61と、後進スイッチ62と、主クラッチスイッチ63と、変速レバーセンサ65と、トラニオン角センサ49とが接続され、マイコン60の出力側には、マイコンヒューズ67と、ブザー69と、ソレノイドバルブ(伸び)70と、ソレノイドバルブ(縮み)71の各種スイッチが接続されている。入力側に接続された各種スイッチの信号はマイコン60に入力され、これら信号に基づきマイコン60からソレノイドバルブ70,71などに信号が出力される構成となっている。
【0025】
次に、変速操作装置39の作動について説明する。運転者が変速レバーを操作すると、マイコン60の入力側に接続された各種スイッチがその操作を検知し、信号がマイコン60に入力されて、マイコン60はこの信号に基づき信号を出力する。該信号に基づいてバルブアッシ41から油が油圧シリンダ45aに供給され、該油圧シリンダ45aへの油の流入により、油圧アクチュエータのピストンロッド45bが前後に伸縮する。
【0026】
ピストンロッド45bが伸縮すると(図6,図8参照)、トラニオンアーム42及びトラニオン軸29が回動し、該回動に連動してHSТ21内の斜板(不図示)の角度が変化することで、HSТ21による前進、後進の変速が行われ、この変速回転がギヤ変速装置22に入力されてギヤ変速される。また、前記トラニオンアーム42が回動すると、トラニオンアームのカム42aと係合するカムフォロア43もカムフォロアの軸部43aを中心に下方側に回動する。このとき、カム42aには、渦巻きスプリング46によるトラニオン軸29を中立位置に復帰させる付勢力が作用する。更に、トラニオンアーム42が回動することで、トラニオン角センサ49のアーム49aの傾斜角度が変化し、この変化によりトラニオン軸29の回転角度が検知される。そして、この回転角度からトラニオン軸29が変速操作に適した回転角度になるよう変速操作装置39を操作するフィードバック制御が行われる。
【0027】
変速操作装置39を作動させる油圧は、図10に示すように、プライオリティバルブ57で分流されて、バルブアッシ41を介して油圧アクチュエータの油圧シリンダ45aに供給される一方で、プライオリティバルブ57からパワーステテアリング装置73に供給され、さらに、そこから分流された油圧は、オートブレーキターンや前輪倍速などの操向補助装置75へと供給される。
【0028】
上述のように、中立復帰用のスプリング46を渦巻きスプリングで構成し、油圧アクチュエータ45をトラニオンアーム42及びカムフォロア43の下方で、伸縮方向を前後方向としてミッションケース12の側方に配置したので、油圧アクチュエータ45をミッションケース12から側方へのオフセット量を抑えて配置することができ、変速操作装置39をコンパクトに構成することができると共に、他の部材や装置と干渉させることなくミッションケース12側方に配置することができる。
【0029】
また、バルブアッシ41をミッションケース12の反対側であって、油圧シリンダ45aの側方に配置したので、変速操作装置39をコンパクトな構成にすることができると共に、他の部材や装置と干渉させることなくミッションケース12側方に配置することができる。また、バルブアッシ41と油圧アクチュエータ45とを繋ぐホース52,53を短くすることができるので、油圧の損圧を抑えて油圧アクチュエータの応答性を高かめることができる。
【0030】
また、油圧アクチュエータ45をその伸縮方向を前後方向としてミッションケース12の側方に沿うように配置したので、変速操作装置39を支持する取付けベース44に作用する力を抑えることができる。
【0031】
また、バルブアッシ41からドレンは直接、ミッションケース12に戻す構成にしたので、プライオリティバルブ57からバルブアッシ41へ高圧配菅を1本配菅すればよく、配菅の取り回しを容易にすることができる。
【0032】
なお、本実施形態では、トラクタ1を例として説明したが、これに限らず、他の農作業車両及び建築作業車両等の変速装置にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 作業車両(トラクタ)
12 ミッションケース
21 静油圧式無段変速装置(HST)
23 変速装置
29 トラニオン軸
41 バルブアッシ
42 トラニオンアーム
42a カム
43 カムフォロア
44 取付けベース
45 油圧アクチュエータ
46 中立復帰スプリング(渦巻きスプリング)
47 中継リンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミッションケースの側方から突出した静油圧式無段変速装置のトラニオン軸を、前記ミッションケースの側方に配置された油圧アクチュエータにより操作して、前記静油圧式無段変速装置を変速操作してなる作業車両の変速装置において、
前記トラニオン軸に連結され、先端にカムを有するトラニオンアームと、
前記カムに係合するカムフォロアを、前記トラニオン軸が中立位置に復帰するように付勢する中立復帰用スプリングと、
前記トラニオンアームと前記油圧アクチュエータを連結する中継リンクと、を備え、
前記中立復帰用スプリングが渦巻きスプリングからなり、前記油圧アクチュエータが、前記中立復帰用スプリング及び前記カムフォロアの下方においてその伸縮方向を前後方向として前記ミッションケースの側方に配置されてなる、
ことを特徴とする作業車両の変速装置。
【請求項2】
前記油圧アクチュエータが、前記ミッションケースに固定される取付けベースに固定され、
前記油圧アクチュエータを制御するバルブアッシが、前記取付けベースにおける前記油圧アクチュエータの前記ミッションケースに対して反対側に取付けられてなる、
請求項1の作業車両の変速装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−32809(P2013−32809A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169351(P2011−169351)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】