説明

作業車両の走行制御装置

【課題】作業車両の熱エネルギ損失を低減して作動油温の上昇を抑える。
【解決手段】エンジン1により駆動される可変容量形油圧ポンプ2と可変容量形油圧モータ3とを閉回路接続して形成される走行用回路HC1を有する作業車両の走行制御装置において、走行用回路HC1を流れる作動油の温度を検出する油温検出手段22と、少なくとも油温検出手段22により検出された作動油温が第1の所定値T1以上になると、油圧モータ3の許容回転速度を減少させる減速手段10,11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダなどの作業車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホイールローダのようにHST走行用回路を備えた作業車両において、走行負荷圧に応じて走行用モータのモータ押しのけ容積を変更するとともに、スイッチ操作により走行用モータの最小押しのけ容積を設定して、車両の最高車速を制限するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】実公平7−40764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば気温40度等の高温環境の下でモータ最小押しのけ容積を小さめにセットした状態で走行すると、作動油温が著しく上昇し、油圧機器に悪影響を及ぼすおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、エンジンにより駆動される可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続して形成される走行用回路を有する作業車両の走行制御装置において、走行用回路を流れる作動油の温度を検出する油温検出手段と、少なくとも油温検出手段により検出された作動油温が第1の所定値以上になると、油圧モータの許容回転速度を減少させる減速手段とを備えることを特徴とする。
油温検出手段により検出された作動油温が第1の所定値以上である状態が所定時間継続すると、油圧モータの許容回転速度を減少させることが好ましい。
油温検出手段によって所定時間内に検出された作動油温の平均値が第1の所定値以上になると、油圧モータの許容回転速度を減少させることもできる。
油温検出手段により検出された作動油温が高いほど、油圧モータの許容回転速度の減少量を大きくするようにしてもよい。
油温検出手段により検出された作動油温が第1の所定値よりも高い第2の所定値以上になると、油圧モータの許容回転速度の減少量を所定の下限値に制限することもできる。
低速走行を行う第1のモードと高速走行を行う第2のモードを選択するモード選択手段を有し、モード選択手段により第1のモードが選択されると第2のモードが選択されたときよりも油圧モータの許容回転速度を低く設定するとともに、油温検出手段により検出された作動油温が第1の所定値以上になると、各モードの許容回転速度をそれぞれ減少させることもできる。
油圧モータの最小押しのけ容積を増加させる、あるいは油圧ポンプの押しのけ容積を減少させることで、油圧モータの許容回転速度を減少させることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、作動油温が所定値以上になると油圧モータの許容回転速度を減少させるようにしたので、油温上昇時の熱エネルギ損失を低減することができ、作動油温の上昇を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
−第1の実施の形態−
以下、図1〜図8を参照して本発明による作業車両の走行制御装置の第1の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係る走行制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダ100は、アーム111,バケット112,タイヤ113等を有する前部車体110と、運転室121,エンジン室122,タイヤ123等を有する後部車体120とで構成される。アーム111はアームシリンダ114の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(ダンプまたはクラウド)する。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ(不図示)の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0008】
図2は、第1の実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図である。走行用油圧回路HC1は、エンジン1によって駆動される可変容量形油圧ポンプ2と、油圧ポンプ2からの圧油により駆動する可変容量形油圧モータ3とを有し、油圧ポンプ2と油圧モータ3を一対の主管路LA,LBによって閉回路接続したHST回路により構成されている。作業用油圧回路HC2は、アームシリンダ114やバケットシリンダ115を含み、エンジン1により駆動される作業用油圧ポンプ4からの圧油がこれらシリンダ114,115に供給される。作業用油圧回路HC2からの圧油はオイルクーラ12において冷却され、タンクに戻る。
【0009】
エンジン1により駆動されるチャージポンプ5からの圧油は、前後進切換弁6を介して傾転シリンダ8に導かれる。前後進切換弁6は操作レバー6aにより操作され、図示のように前後進切換弁6が中立位置のときは、チャージポンプ5からの圧油は絞り7および前後進切換弁6を介し、傾転シリンダ8の油室8a,8bにそれぞれ作用する。この状態では油室8a,8bに作用する圧力は互いに等しく、ピストン8cは中立位置にある。このため、油圧ポンプ2の押しのけ容積は0となり、ポンプ吐出量は0である。
【0010】
前後進切換弁6がA側に切り換えられると、油室8a,8bにはそれぞれ絞り7の上流側圧力と下流側圧力が作用するため、シリンダ8の油室8a,8bに圧力差が生じ、ピストン8cが図示右方向に変位する。これにより油圧ポンプ2のポンプ傾転量が増加し、油圧ポンプ2からの圧油は主管路LAを介して油圧モータ3に導かれ、油圧モータ3が正転し、車両が前進する。前後進切換弁6がB側に切り換えられると、傾転シリンダ8のピストン8cが図示左方向に変位し、油圧ポンプ2からの圧油は主管路LBを介して油圧モータ3に導かれ、油圧モータ3が逆転する。
【0011】
エンジン回転速度はアクセルペダル9の操作によって調整され、チャージポンプ5の吐出量はエンジン回転速度に比例する。このため、絞り7の前後差圧はエンジン回転速度に比例し、ポンプ傾転量もエンジン回転速度に比例する。チャージポンプ5からの圧油は絞り7およびチェック弁13A,13Bを通過して主管路LA,LBに導かれ、HST回路に補充される。この場合、オイルクーラ12を介してタンクに戻された油がチャージポンプ5により圧送されるため、チャージポンプ5からの吐出油の温度は低く、主管路LA,LBを流れる作動油を冷却することができる。絞り7の下流側圧力はチャージリリーフ弁12により制限され、主管路LA,LBの最高圧力はオーバーロードリリーフ弁14により制限される。なお、作業用油圧回路HC2の最高圧力は、作業用油圧回路HC2に設けられた図示しないリリーフ弁により制限される。
【0012】
コントローラ10は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ10には、高圧選択弁15で選択された主管路LA,LBの圧力(走行負荷圧Pt)を検出する圧力検出器21からの信号と、作動油の温度を検出する温度センサ22からの信号と、モードスイッチ23からの信号がそれぞれ入力される。モードスイッチ23は、オペレータが作業モードと走行モードのいずれかを選択するスイッチであり、作業時の最高速度を抑えるため、作業モードを選択したときは走行モードを選択したときよりも、油圧モータ3の最小押しのけ容積が大きく設定される。CPUでは以下のような処理を実行し、電気式レギュレータ11に制御信号を出力して、モータ押しのけ容積を制御する。
【0013】
図3は、CPUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは例えばエンジンキースイッチのオンによりスタートする。ステップS1では、圧力検出器21と温度センサ22とモードスイッチ23からの信号を読み込む。ここで読み込んだ温度センサ22の検出値は、少なくとも所定時間t0、メモリに記憶される。ステップS2では、走行モードと作業モードのいずれが選択されているかを判定する。
【0014】
走行モードが選択と判定されるとステップS3に進み、所定時間t0内に検出された作動油温の平均値Tmが所定値T1以上か否かを判定する。ステップS3が否定されるとステップS5に進み、肯定されるとステップS6に進む。ステップS5では、油圧モータ3の最小押しのけ容積qminを所定値qa1に設定する。
【0015】
ステップS6では、予め定めた図4の特性f1に基づき、作動油温に応じた油圧モータ3の最小押しのけ容積qminを演算する。特性f1によれば、作動油温が所定値T1以下のとき最小押しのけ容積はqa1であり、作動油温が所定値T1以上かつ所定値T2以下の範囲で最小押しのけ容積はqa1からqa2まで比例的に増加し、作動油温が所定値T2以上になると最小押しのけ容積はqa2になる。
【0016】
一方、ステップS2で作業モードが選択と判定されるとステップS4に進み、所定時間t0内に検出された作動油温の平均値Tmが所定値T3以上か否かを判定する。ステップS4が否定されるとステップS7に進み、肯定されるとステップS8に進む。ステップS7では、油圧モータ3の最小押しのけ容積qminをqa1よりも大きい所定値qb1に設定する。
【0017】
ステップS8では、予め定めた図4の特性f2に基づき、作動油温に応じた油圧モータ3の最小押しのけ容積qminを演算する。特性f2によれば、作動油温が所定値T3以下のとき最小押しのけ容積はqb1であり、作動油温が所定値T3以上かつ所定値T4以下の範囲で最小押しのけ容積はqb1からqb2まで比例的に増加し、作動油温が所定値T4以上になると最小押しのけ容積はqb2になる。特性f1とf2を比較すると、作動油温の全範囲において、特性f2の最小押しのけ容積は特性f1の最小押しのけ容積よりも大きい。なお、図では所定値T3,T4をそれぞれ所定値T1,T2に等しく設定しているが、T3,T4をT1,T2と異なった値に設定してもよい。
【0018】
ステップS9では、予め定めた図5の特性に基づき、油圧モータ3の押しのけ容積を演算する。図5では、走行負荷圧Ptが所定値Pt1以下のときモータ押しのけ容積は最小qminであり、走行負荷圧Ptが所定値Pt1以上かつ所定値Pt2以下の範囲でモータ押しのけ容積は最小qminから最大qmaxまで比例的に増加し、走行負荷圧Ptが所定値Pt2以上になるとモータ押しのけ容積は最大qmaxとなる。図5の最小押しのけ容積qminは、ステップS5〜ステップS8で演算された最小押しのけ容積であり、作動油温が所定値T1,T3以上であれば、図の点線で示すように最小押しのけ容積qminは上方にシフトする。なお、図5の走行負荷圧Ptとモータ押しのけ容積qとの積は、油圧モータ3の出力トルクに相当し、走行負荷が大きいとモータ押しのけ容積が大きくなり、車両は低速高トルクで走行する。
【0019】
ステップS10では、油圧モータ3の押しのけ容積がステップS9で演算されたモータ押しのけ容積となるようにレギュレータ11に制御信号を出力する。以上の処理により、作動油温が高いと油圧モータ3の最小押しのけ容積が大きくなり、最高車速が抑えられる。すなわち、図6に示すように作動油温が所定値T1、T3以下では、走行モードの最高車速はva1、作業モードの最高車速はvb1であるのに対し、作動油温が所定値T1、T3以上かつ所定値T2、T4以下で最高車速は徐々に低下し、作動油温が所定値T2、T4以上では最高車速はva2,vb2となる。
【0020】
第1の実施の形態の主要な動作を説明する。例えば図8に示すように砂利等の掘削対象物にバケットを突進して砂利等をすくい上げた後、ダンプに積み込む場合、オペレータはモードスイッチ23の操作により作業モードを選択し、走行軌跡が略V字状となるように車両を移動させながら作業(Vサイクル積み込み作業)を行う。このとき、作動油温が所定値T3以下であれば、油圧モータ3の最小押しのけ容積はqb1(図4)となる(ステップS7)。このため、車速と牽引力との関係を示す走行性能線図は図7の特性f3に示すようになり、最高車速はvb1(図6)に制限され、走行速度の出すぎによる作業性の悪化を防ぐことができる。
【0021】
一方、車両を単独走行する場合は、モードスイッチ23の操作により走行モードを選択する。このとき、作動油温が所定値T1以下であれば、油圧モータ3の最小押しのけ容積はqa1(図4)となり(ステップS5)、作業モードのときよりも最小押しのけ容積が小さくなる。これにより、図7の特性f4に示すように最高車速はva1まで増加し、高速走行が可能になる。
【0022】
外気温が高い地域において、モードスイッチ23の操作により作業モードを選択して上述のVサイクル積み込み作業を行っているとき、作動油温が所定値T4以上になると、油圧モータ3の最小押しのけ容積はqb1からqb2(図4)に増加する(ステップS8)。このため、図7に示すように最高車速はvb2(図6)に制限され、走行速度が低下する。これにより作業時間が長くなるので、単位時間当たりの作業量が減少し、油圧ポンプ2と油圧モータ3に入力される動力が減少する。その結果、ポンプ2およびモータ3の駆動により発生する損失(機械損失、流体損失、漏れ損失等)を低減することができ、熱エネルギ損失が減少するため、作動油温の上昇を抑制できる。
【0023】
また、外気温が高い地域において、例えばモードスイッチ23の操作により走行モードを選択して走行しているとき、作動油温が所定値T2以上になると、油圧モータ3の最小押しのけ容積はqa2(図4)に増加する(ステップS6)。このため、図7に示すように最高車速はva2(図6)に制限され、走行速度が低下する。これにより走行時に油圧ポンプ2と油圧モータ3に入力される動力が減少し、熱エネルギ損失が低減するため、作動油温の上昇を抑制できる。
【0024】
本実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)作動油温が所定値T1,T3以上になると、油圧モータ3の最小押しのけ容積を増加させるようにした。これにより最高車速が減少し、熱エネルギ損失が低減する。したがって、作動油温の上昇を抑えることができ、油圧ポンプ2や油圧モータ3等の油圧機器に悪影響を与えることを防止できる。また、作動油の冷却効率を上げるためにオイルクーラ12を大型化する必要がなく、オイルクーラをHST回路に別途設ける必要もないため、回路構成に特段の変更を加えずに油温上昇を抑えることができ、コストアップを抑えることができる。作動油温の上昇が抑えられるので、作業を中断してクーリングする必要もなく、作業効率もよい。
【0025】
車両の最高車速を制限することは、エンジン1の最高速度を下げることによっても可能である。しかし、その場合は、作業機用油圧ポンプ4の吐出流量が減少するので、作業機の駆動速度が低下し、車両全体での作業効率が大幅に悪化する。また、作業機用ポンプ4の吐出油をオイルクーラ12に導いて油圧回路全体を冷却するように構成すると、油圧ポンプ4の吐出流量が低下することにより、冷却性能が悪化する。この点、本実施の形態では、エンジン1の最高速度を低下させずに、走行用油圧モータ3の最小押しのけ容積を増加させるので、油圧ポンプ4の吐出流量の低下を防ぎ、走行用回路HC1および作業用回路HC2全体のクーリングを効率よく行うことができる。
【0026】
(2)作動油温の平均値が所定値T1,T3以上になると最小押しのけ容積を増加させるようにしたので、作動油温が急変化した場合に、車両の最高車速が急変化することを防ぐことができ、安定した走行が可能である。
(3)作動油温が所定値T1,T3以上かつ所定値T2,T4以下の範囲において、作動油温が高いほど、油圧モータ3の最小押しのけ容積を大きくしたので、最高車速が最適に制限され、油温上昇を抑えて効果的に作業を行うことができる。
(4)作動油温が所定値T2以上のときは、油圧モータ3の最小押しのけ容積を所定値qa2,qb2に設定したので、最高車速が一定(Va2,Vb2)以下にはならず、実用上十分な走行性能を得ることができる。
(5)モードスイッチ23の操作により作業モードが設定されると、走行モードが設定されたときよりも、モータ3の最小押しのけ容積を大きくするようにしたので、走行速度を抑えて良好に作業を行うことができる。
【0027】
なお、第1の実施の形態では、所定時間t0内における作動油温の平均値が所定値T1,T3以上になると、最小押しのけ容積qminを増加させるようにしたが、作動油温が所定値T1,T3以上の状態が所定時間t0継続すると、最小押しのけ容積qminを増加させるようにしてもよい。
【0028】
−第2の実施の形態−
図9,図10を参照して本発明による作業車両の走行制御装置の第2の実施の形態について説明する。
図9は、第2の実施の形態に係る走行制御装置の構成を示す油圧回路図である。第1の実施の形態では、作動油温が所定値以上になると油圧モータ3の最小押しのけ容積を増加させるようにしたが、第2の実施の形態では、油圧ポンプ2の押しのけ容積を減少させる。なお、図2と同一の箇所には同一の符号を付し、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0029】
図9に示すように前後進切換弁6と絞り7の間には電磁比例リリーフ弁25が設けられ、電磁比例リリーフ弁25を介して絞り7の上流側から下流側へと、チャージポンプ5からの圧油がリリーフ可能となっている。電磁比例リリーフ弁25のリリーフ圧は、コントローラ10からの制御信号によって制御される。これにより絞り7の前後差圧ΔPが調整され、傾転シリンダ8の移動量、すなわち油圧ポンプ2の押しのけ容積が制御される。
【0030】
コントローラ10には、圧力検出器21と、温度センサ22と、モードスイッチ23と、エンジン回転速度を検出する車速センサ24からの信号が入力される。これらの入力信号に基づきコントローラ10は、レギュレータ11に制御信号を出力してモータ押しのけ容積を制御するとともに、電磁比例リリーフ弁25に制御信号を出力してポンプ押しのけ容積を制御する。
【0031】
第2の実施の形態では、油圧モータ3の最小押しのけ容積qminは、作動油温に拘わらずモードスイッチ23の操作に応じて制御される。すなわちモードスイッチ23により走行モードが選択されると、モータ最小押しのけ容積は所定値qa1に設定され、作業モードが選択されると、モータ最小押しのけ容積は所定値qb1に設定される。これに対しポンプ押しのけ容積は、以下のように作動油温に応じて制御される。
【0032】
図10は、エンジン回転速度と絞り7の前後差圧ΔPの関係を示す特性図である。図10に示すようにエンジン回転速度の増加に伴いチャージポンプ5の吐出量が増加するため、絞り7の前後差圧も増加する。第2の実施の形態では、温度センサ22により検出された作動油温度が所定値T1,T3より高いとき、車速センサ24によって検出された車速が図6に示す最高速度を超えないように、電磁比例リリーフ弁25にコントローラ10から制御信号を出力する。これにより電磁比例リリーフ弁25を介して絞り7の上流側から下流側へ圧油をリリーフさせ、絞り7の前後差圧ΔPをΔP1まで低下させる。ΔPの低下量は、検出された作動油温度が所定値T1,T3より高いほど大きくする。つまりΔP1は検出された作動油温度に応じて変化する。前後差圧ΔPの低下により、油圧ポンプ2の押しのけ容積は小さくなり、油圧モータ3への圧油の吐出流量が減少する。その結果、車速が減速し、ポンプ2およびモータ3の駆動による熱エネルギ損失を低減できる。
【0033】
なお、上記実施の形態では、所定時間t0内における作動油温の平均値が所定値T1,T3以上のときに、モータ最小押しのけ容積を増加またはポンプ押しのけ容積を減少させるようにしたが、少なくとも作動油温が所定値T1,T3(第1の所定値)以上になるとモータ3の許容回転速度(最高回転速度)、つまり最高車速を減少させるのであれば、減速手段の構成はいかなるものでもよい。作動油温が所定値T1,T3以上かつ所定値T2,T4(第2の所定値)以下の範囲において、作動油温が高いほどモータ3の許容回転速度の減少量を大きくし、作動油温が所定値T2,T4以上では、モータ3の許容回転速度を所定値Va2,Vb2に制限するようにしたが、モータ3の許容回転速度の特性はこれに限らない。
【0034】
走行用回路HC1を流れる作動油の温度を温度センサ22により検出したが、油温検出手段としての温度センサ22をタンク以外に設けてもよい。モード選択手段としてのモードスイッチ23の操作により、走行モードと作業モードの2種類を選択可能としたが、他のモードを選択可能としてもよい。また、モード選択を行わないような構成としてもよい。
【0035】
以上では、本発明の走行制御装置をホイールローダに適用する例を説明したが、ホイールショベル、ブルドーザ、フォークリフト、コンバイン等の他の作業車両にも本発明を同様に適用することができる。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の走行制御装置に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態に係る制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図。
【図2】第1の実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図。
【図3】図2のコントローラで実行される処理の一例を示すフローチャート。
【図4】第1の実施の形態に係る走行制御装置による作動油温とモータ最小押しのけ容積との関係を示す図。
【図5】第1の実施の形態に係る走行制御装置による走行負荷圧とモータ押しのけ容積との関係を示す図。
【図6】第1の実施の形態に係る走行制御装置による作動油温と最高車速との関係を示す図。
【図7】第1の実施の形態に係る走行制御装置による車速と牽引力との関係を示す図。
【図8】掘削作業の様子を示す図。
【図9】第2の実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図。
【図10】第2の実施の形態に係る走行制御装置によるエンジン回転速度と絞りの前後差圧との関係を示す図。
【符号の説明】
【0037】
2 油圧ポンプ
3 油圧モータ
10 コントローラ
11 レギュレータ
22 温度センサ
23 モードスイッチ
25 電磁比例リリーフ弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続して形成される走行用回路を有する作業車両の走行制御装置において、
前記走行用回路を流れる作動油の温度を検出する油温検出手段と、
少なくとも前記油温検出手段により検出された作動油温が第1の所定値以上になると、前記油圧モータの許容回転速度を減少させる減速手段とを備えることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記減速手段は、前記油温検出手段により検出された作動油温が前記第1の所定値以上である状態が所定時間継続すると、前記油圧モータの許容回転速度を減少させることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記減速手段は、前記油温検出手段によって所定時間内に検出された作動油温の平均値が前記第1の所定値以上になると、前記油圧モータの許容回転速度を減少させることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記減速手段は、前記油温検出手段により検出された作動油温が高いほど、前記油圧モータの許容回転速度の減少量を大きくすることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記減速手段は、前記油温検出手段により検出された作動油温が前記第1の所定値よりも高い第2の所定値以上になると、前記油圧モータの許容回転速度の減少量を所定の下限値に制限することを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の作業車両の走行制御装置において、
低速走行を行う第1のモードと高速走行を行う第2のモードを選択するモード選択手段を有し、
前記減速手段は、前記モード選択手段により第1のモードが選択されると第2のモードが選択されたときよりも前記油圧モータの許容回転速度を低く設定するとともに、前記油温検出手段により検出された作動油温が前記第1の所定値以上になると、前記各モードの最高回転速度をそれぞれ減少させることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記減速手段は、前記油圧モータの最小押しのけ容積を増加させることにより、前記油圧モータの許容回転速度を減少させることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記減速手段は、油圧ポンプの押しのけ容積を減少させることにより、前記油圧モータの許容回転速度を減少させることを特徴とする作業車両の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−223898(P2008−223898A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63491(P2007−63491)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】