説明

作業車両

【課題】変速段を設定する負担を軽減することができるようにした作業車両を提供すること。
【解決手段】作業走行モードと路上走行モードでの変速位置を含む複数の変速位置に変速可能な変速装置の変速位置中の特定の変速位置を手動操作で選択して設定する変速操作レバー171を設け、該変速レバー171を手動操作でスライドさせて前記変速段を選択して設定できる直線的なガイド溝173を設け、該変速レバー171の直線的なスライド操作量に対応した変速段に自動的に変速装置を切り替え制御する制御装置100を設けたので、作業走行モードと路上走行モードを含めて、直感的に目的の変速位置に変速レバー171を容易にシフトさせることができる作業車両である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的簡素な変速操作で走行制御ができる農業用、建築用、運搬用等の作業機を連結した作業車両、特にトラクタなど作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタなどの作業車両の変速装置は、操作具によって変速位置を切換え可能な主変速装置とその他に別の操作具によって変速位置を切換え可能なギヤ式副変速装置などが組み合わされて多段変速の形態が取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−276095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1記載の発明では、目的とする変速段に設定するためには、これらの複数の変速装置の操作が必要であり、そのために複数の操作具を操作するので、操作が煩雑となるため、オペレータにとっても負担となっていた。
【0005】
そこで本発明の課題は、変速装置の変速段を設定する負担を軽減することができるようにした作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、次の解決手段により解決される。
請求項1記載の発明は、圃場での農作業を含む作業時の走行モードである作業走行モードと道路上を走行する走行モードである路上走行モードでの変速位置(変速段)を含む複数の変速位置に変速可能な変速装置と、
前記複数の変速装置の変速位置中の特定の変速位置を手動操作で選択して設定する変速操作手段(171)と、
該変速操作手段(171)を手動操作でスライドさせて前記特定の変速位置を選択して設定できる直線的なガイド溝(173)と、
エンジン回転数を加減するためのアクセル変速手段(175)と、
変速操作手段(171)の直線的なスライド操作量に対応して設定された変速位置に自動的に変速装置を切替制御する制御装置(100)
を設けたことを特徴とする作業車両である。
【0007】
請求項2記載の発明は、前記変速装置の操作手段(171)に、変速装置における高速側の変速段と低速側の変速段を切り替えて選択できる切替手段(177)を取り付けたことを特徴とする請求項1記載の作業車両である。
【0008】
請求項3記載の発明は、変速操作手段(171)のガイド溝(173)は、中立位置を経由して変速装置における高速側の変速段と低速側の変速段の切替ができる形状になっていることを特徴とする請求項1記載の作業車両である。
【0009】
請求項4記載の発明は、制御装置(100)が、変速操作手段(171)が路上走行モードに対応した変速位置にあるときに自動変速手段(175)が作動可能になる構成を備えていることを特徴とする請求項1記載の作業車両である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、該変速操作手段(171)を手動操作でスライドさせて前記変速段を選択して設定できる直線的なガイド溝(173)があるので、作業走行モードと路上走行モードを含めて、直感的に目的の変速段(変速位置)に変速操作手段(171)をシフトさせることができる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、変速操作手段(171)に、変速装置における高速側の変速段と低速側の変速段を切り替えて選択できる切替手段(177)を設けたので、該変速操作手段(171)を手動操作しながら、その手で変速位置を選択して設定できるので、変速操作が容易となる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、低速側又は高速側の適宜の変速位置を選択している変速操作手段(171)を中立位置に戻した状態でないと、他方の高速側又は低速側の変速位置に切り替えることができないので安全走行ができる。
【0013】
請求項4記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、変速操作手段(171)が路上走行モードに対応した変速位置にあるときに自動変速手段(180)が作動可能になるので、路上走行時には作業走行時より走行速度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態のトラクタの左側面図である。
【図2】図1のトラクタのトランスミッション内の動力伝動図である。
【図3】図2の動力伝動図の油圧回路図である。
【図4】図1のトラクタの制御ブロック図である。
【図5】図1のトラクタの一実施例の操縦席付近の斜視図である。
【図6】図1のトラクタの一実施例の操縦席付近の平面図である。
【図7】図1のトラクタの一実施例の操縦席付近の斜視図である。
【図8】図1のトラクタの一実施例の操縦席付近の平面図である。
【図9】図1のトラクタの一実施例の操縦席付近の平面図である。
【図10】図1のトラクタの一実施例の前後進切替レバーの操作態様を説明する図(図10(a))と従来の前後進切替レバーの操作態様を説明する図(図10(b))である。
【図11】図1のトラクタの他の実施例の操縦席付近の斜視図である。
【図12】図1のトラクタの他の実施例の操縦席付近の斜視図である。
【図13】図1のトラクタの一実施例の操作パネル付近の斜視図である。
【図14】図1のトラクタの一実施例の操作パネル付近の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について以下図面と共に説明する。なお、本明細書では乗車した操縦者が車両の前進方向に向かって左右をそれぞれ左、右といい、前後をそれぞれ前、後ということにする。ここで、本明細書において左右の走行車軸とは、作業車両の進行方向を向いて左右方向の走行車軸をいう。そして、本発明の実施の形態によれば、作業車両の一例であるトラクタを例として以下に説明する。
【0016】
図1には、本発明の実施形態のトラクタの左側面図を示し、図2には、図1のトラクタのトランスミッション内の動力伝動図を示す。更に図3には図2の動力伝動図の油圧回路図を示す。また、図4には図1のトラクタの制御ブロック図を示す。このトラクタはロータリ耕耘装置等の作業機を3点リンク機構により昇降可能に装着して対地作業を行うことができる。この車体Tは、前端部にフロントアクスルハウジング(図示せず)に支架させるエンジンブラケットを介してエンジン62を搭載し、このエンジン62の後側にクラッチハウジングや、ミッションケース65等を一体的に連結し、このミッションケース65の最後部にリヤアクスルハウジング(図示せず)を設けて、左右両側部に後輪63を軸装する。
【0017】
図2には、図1のトラクタのトランスミッション内の動力伝動図を示す。
エンジン62は後側に突出のエンジン軸1を有し、このエンジン軸1をクラッチハウジング部の入力軸2に連結する。ミッションケース65内の伝動機構を介して後端部の出力軸3及びPTO軸14を連動すると共に、ミッションケース65の下部に設けた前輪出力軸5を連動する構成としている。この出力軸3はミッションケース65内の後部の略中央部において前後方向に沿うように軸受されて後端にドライブピニオンギヤ53を有し、リヤデフ45のデフリングギヤ46に噛合し、リヤアクスルハウジングに沿って軸装されたリヤデフ軸10と後輪軸11を遊星減速機構を介して連動する。また、前輪出力軸5はミッションケース65の下部からエンジン62の下部を経て、フロントアクスルハウジングの中央部に設けられるフロントデフ47の入力軸26に連結され、このフロントアクスルハウジングに沿って軸装されるフロントデフ軸12及び遊星減速機構等を介して前輪軸13へ連動する構成としている。なお、入力軸2から油圧ポンプ80(図3)への動力取り出し用のギヤ駆動軸15,17が入力軸2に並列配置されている。
【0018】
図2に示すトランスミッションの噛合式変速装置は、エンジン軸1によって駆動される入力軸2から入力ギヤ31に連動されるPTO変速カウンタギヤ44を有するPTOカウンタ軸9上にPTOクラッチパック66を設けている。PTOクラッチパック66や入力ギヤ31などからなるPTOの動力伝達部の構成をPTOクラッチEということにする。
【0019】
また、入力軸2には前後進切替用の前後進切替ギア42、42が遊転状態に設けられ、一方の後進側の前後進切替ギア42には入力軸2と並列配置されたバックカウンタ軸8に設けられたバックカウンタギア43が噛合し、他方の前進側の前後進切替ギア42には主変速軸19上に固定した入力ギヤ48と該主変速軸19上に遊転自在に設けた有効径の異なる4つの主変速ギヤ33を設ける。これら4つの主変速ギヤ33は、四段変速に構成され、クラッチパック76によって切替シフトされ、4つの主変速ギヤ33から構成される変速装置を主変速油圧クラッチAということにする。
【0020】
前記主変速軸19上には、前記主変速油圧クラッチAの4つの主変速ギヤ33のうち、最も有効径の小さい主変速ギヤ33(第1速用)と3番目に有効径の小さい主変速ギヤ33(第3速用)との間にクラッチパック76を固定して設け、2番目に有効径の小さい主変速ギヤ33(第2速用)と最も有効径の大きい主変速ギヤ33(第4速用)との間にクラッチパック76を固定して設ける。前記2つのクラッチパック76には、各主変速ギヤ33を主変速軸19と一体回転するように連結する摩擦クラッチが各々設けられている。
【0021】
また、前後進切替ギヤ42の前進側のギヤと噛合可能な入力ギヤ48は、前後進切替ギヤ42の後進側のギヤともバックカウンタ軸8上のバックカウンタギヤ43とも噛合っており、該前後進切替ギヤ42のうちの前進側のギヤ42と後進側のギヤ42とを、前後独立した摩擦クラッチから成る2つの前後進切替クラッチパック60の切替によって択一的に入力軸2と一体化して、前進走行と後進走行とに切替えられる構成である。後述する油圧シリンダ85(図3)を含め、これらギヤ42とクラッチパック60などからなる構成を前後進油圧クラッチDということにする。
また、前後進油圧クラッチDの切替を手動で行う前後進切替レバー115(図11参照)ステアリングハンドル73のポスト部分に設け、クラッチぺダル119(図6)はハンドルポストの足下に設けている。
【0022】
主変速軸19と同軸芯位置に設けられた副変速軸20にはクラッチパック76によって切替シフトされる有効径の異なる2つの高低速切替ギヤ34が設けられており、主変速後の駆動力を更に減速して高速と低速とに切り替えることができる。この高速と低速とに切り替え可能なギア構成をハイ・ロー変速クラッチBということにする。
【0023】
さらに、副変速軸20と同軸上には有効径の異なる3つの副変速ギヤ35を有する出力軸3が配置されている。出力軸3は副変速ギヤ35により三段変速する構成としている。この三段変速可能なギヤ35の構成を副変速ギア伝動機構Cということにする。
【0024】
また、副変速ギヤ35に噛合するクリープカウンタギヤ49を備えたクリープカウンタ軸21が出力軸3に並列位置に設けられている。また、主変速ギヤ33や高低速切替ギヤ34等と噛合する主変速カウンタギヤ39と高低速切替ギヤ40を有する走行カウンタ軸6が主変速軸19や副変速軸20と並列位置に配置されており、主変速軸19から伝動される回転が主変速ギヤ33で変速されて、その回転が主変速カウンタギヤ39と高低速切替ギア40を順次経由して副変速軸20に設けられた高低速切替ギヤ34に伝達される。高低速切替ギヤ34に伝達された動力はクラッチパック76を介して副変速軸20上に設けた副変速ギヤ35による変速機構を介して出力軸3に伝達される。
この走行動力伝達系では、PTO正逆切替ギヤ37機構を備えたPTO連動軸4を回転する伝動形態である正逆転PTOを設けている。
【0025】
また、前記副変速ギヤ35と噛み合う副変速カウンタギヤ38の副変速カウンタ軸27を回転自在に支持すると共に、出力軸3から前輪取出ギヤ36を介して連動される前輪連動ギヤ51を有する前輪連動軸28を設け、この前輪連動軸28の前方延長軸芯上にはPTO減速ギヤ50を有するPTO減速軸23を設けている。さらに、前輪連動軸28の並行位置にPTO連動軸4を設け、該PTO連動軸4と同軸芯上前端部にPTO連動軸4を正転と逆転に切替えるPTO正逆切替ギヤ37のPTO正逆切替軸22と、PTO変速ギヤ32のPTO変速軸18を配置している。
【0026】
また、PTO正逆切替ギヤ37と噛合するPTO逆回転カウンタギヤ52を有するPTO逆回転カウンタ軸24が前記PTO正逆切替軸22の側部に設けられ、PTOクラッチパック66の入りによって、入力軸2からPTO変速ギヤ32、PTO変速カウンタギヤ44及びPTO正逆切替ギヤ37等を介してPTO正逆切替軸22へ動力が伝動するように構成している。前記正逆切替ギヤ37は前記PTO変速ギヤ32と同形態のクラッチリングを用いる形態としている。このPTO正逆切替軸22の側方にはPTO逆回転カウンタギヤ52を有する逆回転カウンタ軸24を設け、PTO逆回転カウンタギヤ52は、PTO減速ギヤ50からの連動を受けてPTO正逆切替ギヤ37を逆回転することができる。なお、前記PTOカウンタ軸9の後方に減速軸23が配置される。
【0027】
更に、ミッションケース65内の下段部に配置された前輪出力軸5は、ミッションケース65の後部底部に軸装されて、前輪連動軸25やカップリング等を介して前記フロントデフ47の入力軸26へ連結する。この前輪出力軸5の横側には前輪駆動軸7が配置されている。前輪駆動軸7の後端には前輪ギヤ55が設けられている。また、前記出力軸3の後端部の前輪取出ギヤ36に前輪連動軸28上の第1の前輪連動ギヤ51が噛合し、該第1の前輪連動ギヤ51を介して前輪連動軸28に伝達される出力軸3の駆動力は、前輪連動軸28と一体回転する第2の前輪連動ギア54に伝達されて、該前輪連動ギア54から前輪駆動軸7に伝達される。
【0028】
また、前輪駆動クラッチパック67を前輪駆動軸7上に設け、この駆動軸7の前端部から前輪出力軸5へギヤ連動する。また、有効径の異なる2つの前輪駆動切替ギヤ41が前輪駆動クラッチパック67の左右に配置されており、該2つの前輪駆動切替ギヤ41は、カウンタ軸59に設けた有効径の異なる2つの切替駆動カウンタギヤ56に各々噛み合わされ、前輪駆動クラッチパック67を択一的に接続することにより、2つの減速比のうちのいずれか一方の減速比で前輪駆動軸7を駆動することができる。
【0029】
前輪駆動クラッチパック67を中立位置にシフトするときは前輪61を駆動させない後輪駆動の二駆形態とし、この前輪駆動クラッチパック67を油圧操作によって切り換えて低速位置にシフトするときは前輪61を後輪63に対して約1倍の等速駆動させる四駆形態とし、また、この前輪駆動クラッチパック67を油圧操作によって切り換えて高速位置にシフトするときは前輪61を後輪63に対して約2倍に増速駆動させる四駆形態とすることによって走行することができる。
【0030】
上記構成からなる噛合式変速装置により、エンジン62の回転動力は主クラッチを構成する前後進油圧クラッチDを経由して4段の変速段からなる主変速油圧クラッチAと2段の変速段からなるハイ・ロー変速クラッチB及び3段の変速段からなる副変速ギア伝動機構(副変速装置)Cで合計24段のうちのいずれかの変速段に変速され、得られた回転動力はリヤデフ45を経て後輪63が駆動される。また、前記副変速ギア伝動機構Cで変速された回転動力は前輪駆動クラッチパック(二駆四駆切替クラッチ)67にも伝達され、該クラッチパック67により前輪61が「等速」もしくは「増速」に切り換えられた後、フロントデフ47を経て前輪61が駆動される。
【0031】
また、PTO変速ギヤ32、走行系の主変速ギヤ33、高低速切替ギヤ34及び副変速ギヤ35等を、ドライブピニオンギヤ53を有する出力軸3の軸芯上に沿って配置する構成とする。走行系の伝動は、入力軸2から出力軸3の軸芯上に配置される主変速ギヤ33、高低速切替ギヤ34及び複変速ギヤ35等を介してドライブピニオンギヤ53へ多段変速連動される。また、PTO系の変速は、この出力軸3の軸芯上の前端部に設けられるPTO変速ギヤ32を介して連動される。
なお、図2の主変速油圧クラッチAとハイ・ロー変速クラッチBの代わりにHST等の無段変速装置を用いても良い。
【0032】
次に図3には図2の動力伝動図の油圧回路図を示す。
図3の油圧回路図では左右の後輪63を独立して制動する左右のブレーキシリンダ83、前輪61へ伝達する動力を「等速」もしくは「増速」に切り換える四駆切換クラッチシリンダ99、ステアリングハンドル73の回転操作により作動するパワーステアリング装置103、PTOクラッチシリンダ104、PTOクラッチ切替換弁105、PTOクラッチ比例圧力制御弁106などが設けられている。なお、一点鎖線部分の回路101はメイン油圧回路(作業機昇降・作業機水平や外部油圧取出しなど)となり、サブ回路(走行・ブレーキ・デフロック・PTO側回路)とあまり関係がないため、回路図の図示を省略している。
【0033】
油圧ポンプ80から吐出した作動油は、減圧弁81aを介して主変速油圧クラッチAの第4速用と第2速用の各ギア33をクラッチパック76を介してそれぞれ作動させる油圧クラッチシリンダ88と油圧クラッチシリンダ87を切り替える主変速(2−4)クラッチ比例圧力制御弁(2−4速昇圧ソレノイド)89に供給され、さらに主変速油圧クラッチAの第1速用と第3速用の各ギア33をそれぞれ作動させる油圧クラッチシリンダ91と油圧クラッチシリンダ92を切り替える主変速(1−3)クラッチ比例圧力制御弁(1−3速昇圧ソレノイド)93に供給される。
【0034】
減圧弁81aを経由する作動油は、前後進クラッチシリンダ85のオン・オフ制御弁129を介して前後進クラッチシリンダ85の前進側と後進側の油圧クラッチDを切り替える切替弁86(前進ソレノイド86F,後進ソレノイド86R)に供給される。該前後進クラッチシリンダ85の前進側と後進側の油圧クラッチDのいずれに作動油が供給されているかは前進側クラッチ圧力センサ110(図4)と後進側クラッチ圧力センサ111(図4)で検出できる。また、前・後進クラッチDの油圧を昇圧するための前後進昇圧ソレノイド90を設けている。
【0035】
そして、同様に、上記及び下記油圧クラッチシリンダに供給される作動油はそれぞれの油圧クラッチシリンダへの入口側の油路に設けた圧力センサ(例えば油圧クラッチAの第1速用から第4速用までの圧力センサ145a〜145dやPTOクラッチEの圧力センサ146など(図4))で検知できる構成になっている。
【0036】
また、油圧ポンプ80から吐出した作動油は、減圧弁81bを介してブレーキバルブ82aを経由して左右のブレーキシリンダ83に分岐供給される。前記ブレーキバルブ82aは後輪63を選択する切替制御弁であり、該ブレーキバルブ82aはブレーキ力を調整する圧力制御弁82bと一体構成となっている。
【0037】
さらに、減圧弁81bを経由する作動油は、前記第1速〜第4速用の各ギア33で変速された速度を「高速」と「低速」の二つのギヤ40のいずれかにクラッチパック76を介して作動させるハイ・ロー油圧クラッチシリンダ95を切り替えるための制御弁96a,96bに供給される。
また、減圧弁81bを経由する作動油は、デフロック制御弁97を経てフロントデフ47用の前輪デフロックシリンダ98a及びリアデフ45用の後輪デフロックシリンダ98bに分岐される。
【0038】
さらに、前輪駆動クラッチパック67のギア41の切替用の油圧シリンダ99には切替制御弁94を経て前記減圧弁81bを経由する作動油が供給される。
同様に、減圧弁81bを経由する作動油は、PTO用バルブ105,106を介してPTOクラッチシリンダ104に供給され、PTOクラッチEの圧力を調整する。
また、図3に示す油圧ポンプ80からの油圧は、パワステアリングハンドル73の操作で作動されるオービットロール107に作動油を供給する構成である。
【0039】
また、例えば図11に示すように、トラクタの操縦油ハンドル110の左側には、トラクタの前進と後進の切り替えを行う前後進切替レバー115を配置し、トラクタの操縦席16の右側には、アクセルペダル175やアクセルレバー176(前に倒すとエンジン回転数増大、一番手前にするとアイドリングになる)を配置している。
【0040】
更に圃場や建設、土木作業場など(以下、圃場という)の作業領域(以下、圃場内という)における作業時のエンジン回転数を設定してメモリ(記憶部)100a(図4)に記憶させるためのエンジン回転数メモリボタン(スイッチ)126(図4に示す)を(座席右方のパネル(図示せず))に配置している。該メモリボタン(スイッチ)126は、いわゆるシーソースイッチであり、上側又は下側を押して指を離すと自動的に押していない状態に戻る。また、コントローラ(制御装置)100のメモリ100aには2通りのエンジン回転数を記憶できるので、その切換スイッチである。そして、このメモリボタン(スイッチ)126を操作すると記憶しているエンジン回転数が自動的に再現されるので、作業時に便利である。
【0041】
図2には、副変速ギア伝動機構Cの拡大図を示している。
副変速低速領域では、ギア137がギア139に噛み合い、副変速軸20、副変速ギヤ35、副変速カウンタギヤ38、ギア134、ギア140、ギア135、クリープカウンタギヤ49a、クリープカウンタギヤ49b、ギア136、ギア139、ギア137及び出力軸3に動力伝達される。
【0042】
副変速中速領域では、ギア131がギア133に噛み合い、副変速軸20、副変速ギヤ35、副変速カウンタギヤ38、ギア134、ギア140、ギア133、ギア131及び出力軸3に動力伝達される。
【0043】
副変速高速領域では、ギア131がギア130に噛み合い、副変速軸20、副変速ギヤ35、ギア130、ギア131及び出力軸3に動力伝達される。なお、路上走行速では副変速位置は前記副変速高速領域からの変更はなく、当該副変速高速領域が使用される。
【0044】
なお、路上走行速では手動変速と自動変速があり、自動変速を選択して副変速段を路上速位置(高速位置)にすると、アクセルペダル175を操作するだけでエンジン回転数と変速段が自動調整される。自動変速のときには高速側の所定の変速域を使用するが、状況により変速域を変更したり、全変速域を使用してもよい。
32段の変速位置の中で、自動変速時には、例えば25〜32段を使用したり、29〜32段を使用したり、さらには1〜32段を使用することもある。
【0045】
このように、アクセルペダル175と自動変速手段180は別の構成である。アクセルペダル175は回動量に応じてエンジン回転数を変更するもので、自動変速手段180は制御コンロトーラ100の中に設けられる手段であり、後述する自動スイッチ121やアクセル増減ボタン178が入りとなってはじめて作動して、アクセルペダル175の回動量、エンジン負荷、車速に応じて適切な位置に自動変速するものである。
【0046】
また、トランスミッション内の副変速ギア伝動機構Cは3段であるが、副変速位置は、4段(低速、中速、高速、路上走行速)である。主変速油圧クラッチAは4段、ハイ・ロー変速クラッチBは2段であるため、低速、中速、高速で副変速の位置に対する変速段数は各8段となる。すなわち、副変速が低速で8段、副変速が中速で8段、副変速が高速で8段となる。路上走行速については、高速8段の上側(高速側)4段となり、コントローラ100により上側4段のみ使用することにしている。
【0047】
図5の斜視図に操縦席16の左に主変速レバー操作部を示すように、本実施例では主変速レバー171を直線的に設けたレバーガイド溝173に沿って主変速レバー171をスライドさせることで、合計16段の中のいずれかの変速段(位置)を選択・設定して主変速クラッチAとハイ・ロー変速クラッチBと副変速装置Cを切り替えることができることに特徴がある。
【0048】
そして、主変速レバー171の16段にわたる変速位置に対応するレバーガイド溝173内にはポテンショメータなどからなる主変速レバー171の操作位置検知センサ(変速位置検知センサ)172(図4のみに図示)が配置されているので、制御装置100により変速位置検知センサ172(図4)が検知する主変速レバー171の位置に対応した主変速クラッチAとハイ・ロー変速クラッチBと副変速装置Cの変速が設定されるように図4に示す適宜のソレノイドが作動する。
また、主変速レバー171には一つの副変速スイッチ177を設けているので、専ら圃場内での、例えば耕耘作業などの作業時の走行モードでは副変速スイッチ177(副変速増速スイッチと副変速減速スイッチの2つのスイッチで構成してもよい。)のオン・オフで16段×2=32段の低速側の16段と高速側の16段を設定できる構成である。
【0049】
また、圃場を出て、路上を走行する高速走行時には前記32段の変速位置の中の高速段が選択される路上走行モードになる。
こうして、副変速スイッチ177のオン・オフと主変速レバー171のスライド操作により、圃場での農作業を含む作業時の走行モードである作業走行モードと道路上を走行する走行モードである路上走行モードを含めて、直感的に目的の変速段(変速位置)にシフトさせることができる。
【0050】
また、主変速レバー171を直線的な長いレバーガイド溝173の16段の最低変速位置(中立位置)に戻した状態でないと残りの16段への変速位置には移行できない、つまり低速段側と高速段側との間で変速段(変速位置)の切替は最低変速位置(中立位置)に戻した状態でないとできない構成になっているので走行安全性を確保できる。
【0051】
このように図5に示す実施例では、作業走行モードでは副変速スイッチ177を用いて高低二段の変速位置を切り替えることが出来るので変速操作が非常に簡略化できる。また、路上走行モードではアクセルペダル175を踏み込むと、踏み込み量、エンジン負荷、車速に応じて自動変速が開始され、路上を乗用車の運転時のような感覚で操縦できる。従来技術においては、自動変速を行うにはスイッチ操作が必要であったが、変速レバー171の操作のみで可能となり、操作性が向上する。
【0052】
図6の平面図に示す実施例は、図5に示す場合と同様に主変速レバー171を直線的に設けたレバーガイド溝173に沿って主変速レバー171をスライドさせることで合計16段の中のいずれかの変速段(位置)を選択・設定して主変速クラッチAとハイ・ロー変速クラッチBと副変速装置Cを切り替える構成であり、さらに図6に示す実施例で設けた副変速スイッチ177の代わりに、レバーガイド溝173の16段の最低変速位置(中立位置)にレバーガイド溝173と直交する方向にレバーガイド溝173aを設け、該レバーガイド溝173aの右側端部に高速・低速切替スイッチ123を設け、該レバーガイド溝173aの図面左側には路上走行モード用の自動変速を選択できる自動スイッチ121(自動スイッチ121はガイド溝173a内にあり、図6では表示されない)を設けている。
【0053】
従って、主変速レバー171がレバーガイド溝173の最低変速位置(中立位置)に戻り、レバーガイド溝173aの図面右側端部に移動して高速・低速切替スイッチ123に接触した後でレバーガイド溝173をスライドさせることで、もう一方の16段の変速段のいずれかの変速段を選択することができる。さらに、主変速レバー171がレバーガイド溝173の最低変速位置(中立位置)に戻り、レバーガイド溝173aの図面左側に移動すると自動スイッチ121がレバー171を検出して路上走行モードでの自動変速手段180が作動可能となり、アクセルペダル175が踏み込まれると、アクセルペダルポジションセンサ175a(図4)がアクセルペダル175の作動を検知して、制御装置100の指令でエンジン負荷、車速に応じて自動変速が行われる。
【0054】
このように図6に示す実施例では、作業走行モードではレバーガイド溝173内を主変速レバー171を移動させ、また中立位置で主変速レバー171をレバーガイド溝173aの高速・低速切替スイッチ123に接触させるだけで16段×2段の変速位置を切り替えることが出来るので変速操作が非常に簡略化できる。また、主変速レバー171をレバーガイド溝173aの図面左側に移して路上走行モードを選択すると、アクセルペダル175の踏み込み量、エンジン負荷、車速に応じて自動変速が開始され、路上を乗用車の運転時のような感覚で操縦できる。
この図6に示す実施例でも従来技術に比較して、自動変速を行うときにスイッチ操作が不要であり、変速レバー171の操作のみで可能となり、操作性が向上する。
【0055】
また、図2に示す主変速クラッチAとハイ・ロー変速クラッチB部分のギヤ噛合式変速装置に代えて油圧ポンプと油圧モータを油圧閉回路で結ぶ構成からなる油圧式無段変速装置(図示せず)を用いる場合には、該油圧式無段変速装置の油圧モータにも油圧ポンプにあるような斜板を設け、主変速レバー171の前記レバーガイド溝173内の直線的なスライド操作により前記油圧モータの斜板の傾斜角度を変更することで無段変速制御構成とすることもできる。
【0056】
また、図7の斜視図に示す実施例は、並列位置に主変速レバー171の操作用の直線的なレバーガイド溝173a,173bを設けた構成であり、主変速レバー171を各16段の変速段を選択できる直線的なレバーガイド溝173a又はレバーガイド溝173bの最低変速位置(中立位置)に戻して初めて並列位置に配置された他方の16段のレバーガイド溝173b又はレバーガイド溝173aにシフトさせることで32段の変速位置を設定する構成である。
【0057】
本実施例の主変速クラッチAとハイ・ロー変速クラッチBと副変速ギヤ装置Cを主変速レバー171の16段の変速位置をそれぞれ並列して直線的に設けた2つのレバーガイド溝173a,173bに沿ってスライドする構成としている。2列のレバーガイド溝173a,173bはそれぞれ作業モード1と作業モード2の2つの作業モードに対応したレバーガイド溝173a,173bであり、それぞれ16段の変速位置に対応したレバーガイド溝173a,173b内で主変速レバー171を直線的に移動させることで、合計32段の走行モードでの手動変速が可能である。このように2つのレバーガイド溝173a,173b内で主変速レバー171を移動させることで耕耘装置などの作業機の昇降時の作業機ポジションを上下させるような作業感覚で作業走行モードを選択する操作が可能となる。
【0058】
また、図7に示す構成からなる2つのレバーガイド溝173a,173bを用いて行う低速側と高速側の作業モードの切替は主変速レバー171をレバーガイド溝173a,173bの中立位置に戻して初めて可能になるので安全性が確保できる。
【0059】
また、主変速レバー171にはアクセル増減ボタン178を設けており、該アクセル増減ボタン178を押すことで自動変速を選択することができる。自動変速が選択されているときには、アクセルペダル175の操作(エンジン負荷、車速の情報も必要)で自動変速となる。
【0060】
このように、路上走行モードでの主変速レバー171の操作も、主変速レバー171を前記レバーガイド溝173a,173bで中立位置に戻して初めて該レバー171の作動を行うことができる構成であるので安全性を確保できる。
【0061】
また、主変速レバー171の位置が中立位置にある場合は、圃場内でもアクセルペダル175によるアクセル変速制御が働くので、旋回時などに車速制御が容易となる。
さらに、主変速レバー171にアクセル増減ボタン178を具備しているので、片手でエンジンン回転数の増減、主変速装置の変速段の増減が行える。
【0062】
図8の平面図に示す実施例は図7に示す実施例と同様に並列位置に主変速レバー171の操作用の直線的なレバーガイド溝173a,173bを設けた構成とし、主変速レバー171を各16段の変速段を選択できる直線的なレバーガイド溝173a又はレバーガイド溝173bの最低変速位置(中立位置)に戻して初めて並列位置に配置された他方の16段のレバーガイド溝173b又はレバーガイド溝173aにシフトさせることで32段の変速位置を設定する構成である。
【0063】
図8に示す実施例の構成は主変速レバー171にアクセル増減ボタン178は設けていないことが図7に示す実施例と異なり、レバーガイド溝173a,173bの中立位置に戻った主変速レバー171が、レバーガイド溝173a,173bとは直交する方向にあるレバーガイド溝173c内に移動して、該レバーガイド溝173c内でレバーガイド溝173bより図面右側に移動していると、路上走行モード検知センサ172a(図4のみに図示)により自動変速モードとなる。
【0064】
なお、図7、図8に示す実施例で路上走行モードの場合は、現行のオートマチックトランスミッション(AT)シフト(エンジン回転数に応じて副変速高速8段の上側4段のうちの適切な変速段に自動で変速する変速可能な自動変速(オートドライブ)機能がオンして自動的に適切な変速位置にシフトすること)と同様にアクセルペダル175の操作によるアクセル開度に応じた速度制御へ変更がなされる。
また、主変速レバー171の位置が中立位置にある場合は、圃場内でもアクセルペダル175によるアクセル変速制御が働くので、旋回時などに車速制御が容易となる。
【0065】
また、図10にイメージ図で示すように現在主流の図10(b)に示す前後位置とその間の中立位置の3つの位置にだけ操作する前後進(切替)レバー115’に代えて図10(a)の本実施例の一本の前後進切替レバー115を直線的に移動させるだけで32段までの変速を自動的に行うことができる構成としている。
【0066】
前後進(切替)レバー115に副変速機能を持たせている本実施例では、前進低速、前進中速、前進高速の32段変速をそれぞれに振り分ける。主変速レバー171で増減速操作するか、または図示しないボタン操作で増減速操作をする。この場合は手動変速を行うので、変速ショックがない状態で、変速操作が非常に簡単になり、トラクタの走行制御が極めて容易になる。
こうして、変速操作用のレバーの本数の従来技術より低減することで操縦跡16の周りのスペースが広がり、居住性の向上につながる。
【0067】
しかも、上記図5、図6及び図7、図8の主変速レバー171又は図10の前後進切替レバー115を直線的な移動操作で多数の変速段を選択できる構成であり、トラクタの速度が視覚的に分かり難いので、図9に示す表示モニタ125の画面に速度区分を表示させ、大まかなにでも現在の変速段を視覚的に把握できるようにすることが望ましい。そのために図9に示すような表示モニタ125の画面に現在設定されている変速位置(段)と走行速度を表示することが望ましい。
【0068】
前述のように、手動変速のときに副変速や主変速を操作するのではなく、目標となる車速をダイヤルで設定すると、あとは自動で副変速装置と主変速装置が選択されて、その車速にする。このとき、エンジン負荷等を考慮する。例えば、負荷が軽いときにはエンジン回転数を下げて変速を高速側にすることで目標車速を得るようにすることで、燃費が良くなる。これを自動(自動変速とは関係ない。)で行うものである。
【0069】
また、前記エンジン回転数の制御を促すアナウンスを表示モニタ125の画面上に表示するなど報知装置102を設けても良い。これによりアクセルレバーと副変速レバーを廃止することが可能となる。
【0070】
図4の制御ブロック図に示すように、コントローラ100は制御ダイヤル(またはボタン)190により設定した車速に対して、主変速装置のギヤ係合用の油圧クラッチソレノイドを操作し、又は主変速装置の油圧クラッチソレノイド86などを作動させて自動でエンジン回転数も同時に制御するので、人間が変速操作するときよりも燃費が良くなる。その制御結果は前記表示画面に表示する。
【0071】
前述のようにトラクタの作業では作業の再現性が重要になる。たとえば、ロータリ作業の場合では、前回どの程度の速度で作業したのかを再現することが、作業の均平性につながる。従来、トラクタの作業速はトラクタの変速位置とエンジン回転数を操縦者が覚えることで再現している。
【0072】
すなわち、前回作業した情報(変速段等)を記憶しておき、圃場内での走行であることをスイッチ等で検出すると、ハンドル右方のアクセルレバー176(アクセルペダル175ではない)を操作して定格近傍までエンジン回転数を上げることで、自動的に記憶している変速段にする構成とする。
【0073】
また、作業モード中は、アクセルレバー176によるエンジンスロットル弁の開度のみで車速を制御し、主変速装置の切替制御は操縦者の指定したエンジン回転数(=出したい速度)と現在のエンジン回転数との比率により、極端にエンジンがストールしないように主変速機構を自動で制御する。
これにより、主変速レバー171を省略し、前後進切替レバー115とアクセルレバー176の2本で走行車両の車速制御できる構成とする。
【0074】
上記本実施例のトラクタにおいて、作業を一時中断する際には安全を確保するために、いろいろな操作が必要になる。そこで図11のハンドル110付近の斜視図に示すように、一連の動作を簡略化できるように前後進切替レバー115の先端に設けた停止ボタン122を押すことで(図12に例示するようにアクセルレバー176の先端に停止ボタン122を設けても良い。)、エンジンが掛かっている状態で(1)ブレーキを掛ける、(2)PTOを停止させる、(3)主変速装置で現在係合しているギヤを抜く、及び(4)エンジン回転数を下げるという操作を自動的に行うことで、トラクタが一時停止状態にすることができる。
【0075】
こうして、とっさにトラクタを一時停止させたいときに使用できるため、安全作業が可能になる。また、再び停止ボタン122が押されるまで上記一時停止状態が保持されるので、走行安全性が従来以上に高まり、作業再開時の車速、変速段の設定が容易になるので、作業の中断、再開をやりやすくなる。
【0076】
また、図12の操縦席付近の斜視図に示すように、前後進切替レバー115に高速・低速切替スイッチ123を設け、アクセルレバー176に低速16段又は高速16段の16段の増減速を行うスイッチ(増速スイッチ176aと減速スイッチ176b)を設けた構成としても良い。また、図示しないが、同時に変速状態が分かるように、現在の変速段を表示モニタ125に表示することが望ましい。
上記構成で、トラクタに設置する操作レバーの本数を従来より低減でき、腕を動かす操作が減って、操作レバーに設けたスイッチ類を押す操作になるので、レバー操作性が簡略化でき、さらには操縦室の居住スペースの拡大を図ることができる。
【0077】
主変速レバー171を直線的にレバーガイド溝173内を移動させる構成において、図13に示す操縦席の操作パネル面に設けたメモリボタン(メモリスイッチ)126を押すと、トラクタが作業中に記憶した変速段とPTO変速段を表示モニタ125に表示可能にする。なお、メモリボタン(メモリスイッチ)126は操縦者が快適とした変速位置を制御装置100に記憶さておくことができるものである。
【0078】
メモリボタン126を押すことで、トラクタの移動後に別の圃場などでも、前記トラクタが作業時に記憶した変速位置で作業ができる(これを「ボタンシフト」ということがある)という利点があるが、主変速レバー171を直線的なスライド操作(これを「直線シフト」ということがある)をすると、前記ボタンシフト機能が失われる可能性があるので、操縦者は前記メモリボタン126を押されたときの表示モニタ125の画面を参考にしながら、主変速レバー171をスライド操作する必要することができる。
【0079】
すなわち、前記主変速レバー171の直線的スライドが可能な制御機構では、ボタンシフトが行われると、作業のガイダンスとして前記表示モニタ125の画像を用いることで、飛び段で直接必要な変速段にギヤを入れる事ができるので、操縦者自身で変速を行っても、それほどわずらわしくない。
【0080】
本実施例では、車速とエンジン回転数を検知することで車速自動制御が行えるような構成とすることもできる。
【0081】
(1)路上走行モードでは従来通りアクセルペダル175の踏み込みに合わせた制御を行い、主変速レバー171に設けたメモリスイッチ(又はダイヤル)126を操作して作業モードと路上走行モードを切り替え可能とする。なお、路上走行モードではアクセルペダル175の踏み込みに合わせた制御だけを可能とし、メモリスイッチ(又はダイヤル)126などのダイヤル又はボタンにより設定した車速に制御できない。これはトラクタが路上走行時には迅速で簡単な操作により広範囲な車速制御をする必要があるので、アクセルペダル175の踏み込み制御だけを可能にしている。
【0082】
(2)作業走行モードでは制御装置100で車速を設定する。
このとき、設定した車速で過不足ないようにエンジン回転数と車速を検知して、その情報を基に変速装置とエンジン回転数を制御する。これにより、設定した車速に対して、自動でエンジン回転数も同時に制御することができるので、人間が操作するときよりも燃費が良くなり、アクセルレバー176と副変速レバーを廃止することができる。
【0083】
また、作業モードでは操縦者は車速のみを設定し、あとは無段変速機構などにより、エンジン回転数を自動で一定に制御することにより、圃場条件の変動にも自動で対応可能となる。
上記した車速の自動制御は、最適な速度とエンジンン回転数を、あらかじめ調査しておく必要があるが、一方で熟練度の劣る操縦者による操縦よりは燃費が向上する利点がある。
【0084】
現行のオートマチックトラクタでは、前記「ボタンシフト」で変速する場合には多く変速段を経由する必要があるため、操作が煩雑になる。また、負荷が変わった場合には自ら変速段数を落とすか、エンジンスロットルを上げるなどの操作を行う必要がある。
【0085】
しかし、無段変速装置を備えたトラクタにおいて、車速とエンジン負荷からミッション内の出力軸3の回転数を制御し、一定速度の作業を実現できる構成とすることもできる。
【0086】
トラクタが圃場に入り、例えば耕うん作業状態になった場合に、ある程度の時間の間は通常通り作業する。この作業状態の間に最適なエンジン回転数と無段変速装置の出力軸3の回転数(HSTなら油圧ポンプの斜板の傾斜角度)を記憶する。
【0087】
その後、図14の操作パネル面に示すように速度自動調整ボタン128をオンにするかどうかを操縦者に問うために、表示モニタ125の画面に質問文を表示する。操縦者が速度自動調整ボタン128をオンにすると、エンジン回転数と変速装置の出力軸3の回転数を自動制御し、速度を一定にする。
【0088】
ここで圃場の硬い部分に入り、エンジン負荷が大きくなる(回転数が落ちる)と、エンジン回転数を自動で一時的に上げる。そしてエンジン回転数が一定基準より大きくなった場合は、無段変速装置から出力される出力軸3の回転数を低速側に制御する(変速段を落とす)。ここで上記制御中は表示モニタ125の画面に速度自動調整による制御中である旨の説明文を表示する。図2で示している機構は有段変速機構であるが、例えば主変速クラッチAとハイ・ロー変速クラッチBの代わりに油圧式無段変速機構(HST)等を用いる構成としてもよい。有段変速機構の場合は、一番近い最適な変速段に変速する構成とする。
【0089】
硬い圃場部分を越えてエンジン負荷がなくなりエンジン回転数が上がると、エンジン回転数と変速装置の変速段が再び制御される(エンジン回転数を下げて変速段をシフトアップして車速を維持される)。この制御を作業終了ボタン151(図4のみに図示)を押すまで行うことで、作業の安定化と作業者の労力の負担の軽減を実現する。
【0090】
また、無段変速装置を備えた、または同様に変速ショックの無い変速装置を備えたトラクタにおいて、車速とエンジン負荷から変速装置の出力軸3の回転数とエンジン回転数を制御し、一定速度での作業を実現できる構成としても良い。
【0091】
トラクタの作業が圃場に入り、例えば耕うん作業状態になった場合に、操作パネルの作業開始ボタン150(図4にのみ図示)を押して、次のような制御を始める。
ある程度の時間は通常通り作業し、現行の変速メモリのように操縦者が最適なエンジン回転数と無段変速装置の出力軸3の変速後の回転数(HSTなら油圧ポンプの斜板傾斜角度)を記憶する。次に速度制御の判断基準が揃った段階で、速度自動制御を始めるかどうかを操縦者に問う表示を表示モニタ125の画面に出し、速度自動調整をしても良いとなれば、ハンドル等に設けられたスイッチで是非の選択ができるようにする。その結果、次のような順序で制御が可能となる。
【0092】
(1)エンジン回転数と変速部の回転数を自動制御し、速度を一定にする。
(2)圃場の硬い部分に入りエンジン負荷が大きくなる(回転数が落ちる)と、
(a)エンジン回転数を自動で一時的に上げる。
(b)エンジン回転数が一定基準より大きくなった場合は、無段変速装置から出力される回転数を低速側に制御する(=変速段を落とす)。
(3)この制御中は、表示モニタ125の画面に制御中である旨の説明文を表示する。
(4)圃場の硬い部分を越えると(エンジン負荷がなくなり、エンジン回転数が上がると)、エンジン回転数と変速段が再び制御され、最初に記憶した無段変速装置の出力軸3の変速後の回転数(HSTなら油圧ポンプの斜板傾斜角度)に対応する速度に戻る。
この制御を作業終了ボタン151(図4)を押すまで行うことで、作業の安定化と作業者の労力の負担の軽減を実現する。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、トラクタなどの作業車両の操作性を良くすることができ、農業用、建築用、運搬用等の様々な作業車両に利用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 エンジン軸 2 入力軸
3 出力軸 4 PTO連動軸
5 前輪出力軸 6 走行カウンタ軸
7 前輪駆動軸 8 バックカウンタ軸
9 PTOカウンタ軸 10 リヤデフ軸
11 後輪軸 12 フロントデフ軸
13 前輪軸 14 PTO軸
15,17 ギヤ駆動軸 16 操縦席
18 PTO変速軸 19 主変速軸
19 主変速軸 20 副変速軸
21 クリープカウンタ軸 22 PTO正逆切替軸
23 PTO減速軸 24 PTO逆回転軸
25 前輪連動軸 26 入力軸
27 副変速カウンタ軸 28 前輪連動軸
30 アームレスト 31 入力ギヤ
32 PTO変速ギヤ 33 主変速ギヤ
34 高低速切替ギヤ 35 副変速ギヤ
36 前輪取出ギヤ 37 PTO正逆切替ギヤ
38 副変速カウンタギヤ 39 主変速カウンタギヤ
40 高低速切替ギヤ 41 前輪駆動切換ギヤ
42 前後進切替ギヤ 43 バックカウンタギヤ
44 PTO変速カウンタギヤ
45 リヤデフ 46 デフリングギヤ
47 フロントデフ 48 入力ギヤ
49 クリープカウンタギヤ
50 PTO減速ギヤ 51 前輪連動ギヤ
52 PTO逆回転ギヤ 53 ドライブピニオンギヤ
54 前輪連動ギヤ 55 前輪ギヤ
56 切替駆動カウンタギヤ
59 カウンタ軸 60 前後進切替クラッチパック
61 前輪 62 エンジン
63 後輪 65 ミッションケース
66 PTOクラッチパック
67 前輪駆動クラッチパック
73 ステアリングハンドル
76 クラッチパック
77F、77R リターンスプリング
78F、78R ピストン 80 油圧ポンプ
81a,81b 減圧弁 82a ブレーキバルブ
82b 圧力制御弁 83 ブレーキシリンダ
85 前後進クラッチシリンダ
86 前後進クラッチ比例圧力制御弁(切替弁)
86F、 86R ソレノイド
89 主変速(2−4)クラッチ比例圧力制御弁
90 前後進昇圧ソレノイド
87,88,91,92 油圧クラッチシリンダ
93 主変速(1−3)クラッチ比例圧力制御弁
94 切替制御弁
95 ハイ・ロー油圧クラッチシリンダ
96a,96b 制御弁 97 デフロック制御弁
98a 前輪デフロックシリンダ
98b 後輪デフロックシリンダ
99 四駆切替クラッチシリンダ
100 制御装置(コントローラ)
100a メモリ 100 制御装置
101 メイン油圧回路 102 報知装置
101 メイン油圧回路 103 パワーステアリング装置
104 PTOクラッチシリンダ
105,106 PTOクラッチ比例圧力制御弁
107 オービットロール 110 ハンドル
112 エンジン回転数センサ
115 前後進切替レバー 121 自動スイッチ
122 停止スイッチ 123 高速・低速切替スイッチ
125 表示モニタ
126 メモリボタン(メモリスイッチ)
128 速度自動調整ボタン
129 オン・オフ制御弁
130,131,133〜137,139,140 ギア
150 作業開始ボタン 151 作業終了ボタン
167 前後進切替レバーセンサ
170 車速センサ 171 主変速レバー
172 主変速レバー位置検知センサ
173、173a、173b、173c レバーガイド溝
175 アクセルペダル 175a アクセルポジションセンサ
176 アクセルレバー
176a、177b アクセルレバー変速段変更用スイッチ
177 副変速スイッチ 178 アクセル増減ボタン178
190 制御ダイヤル(または制御ボタン)
A 主変速油圧クラッチ B ハイ・ロー変速クラッチ
C 副変速ギア伝動機構(副変速装置)
D 前後進クラッチ E PTOクラッチ
T トラクタ車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場での農作業を含む作業時の走行モードである作業走行モードと道路上を走行する走行モードである路上走行モードでの変速位置を含む複数の変速位置に変速可能な変速装置と、
前記複数の変速装置の変速位置中の特定の変速位置を手動操作で選択して設定する変速操作手段(171)と、
該変速操作手段(171)を手動操作でスライドさせて前記特定の変速位置を選択して設定できる直線的なガイド溝(173)と、
エンジン回転数を加減するためのアクセル変速手段(175)と、
変速操作手段(171)の直線的なスライド操作量に対応して設定された変速位置に自動的に変速装置を切替制御する制御装置(100)
を設けたことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記変速装置の操作手段(171)に、変速装置における高速側の変速段と低速側の変速段を切り替えて選択できる切替手段(177)を取り付けたことを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【請求項3】
変速操作手段(171)のガイド溝(173)は、中立位置を経由して変速装置における高速側の変速段と低速側の変速段の切替ができる形状になっていることを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【請求項4】
制御装置(100)は、変速操作手段(171)が路上走行モードに対応した変速位置にあるときに自動変速手段(180)が作動可能になる構成を備えていることを特徴とする請求項1記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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