説明

作業車輌

【課題】作業装置5,28を任意に駆動できるものとして作業能率を向上させると共に、走行中の誤操作による作業装置5,28の異常変速を少なくして作業精度を向上させる
【解決手段】第1に、作業装置(5,28)を駆動する静油圧式無段変速装置(76)を走行変速用の変速レバー(S)に設けたスイッチ(119)の操作によって変速作動させられるように構成する。第2に、静油圧式無段変速装置(76)を設定時間にわたり所定の速度で自動的に駆動させられるように構成する。第3に、変速レバー(S)が中立位置にあるときにのみ、作業装置(5,28)を駆動する静油圧式無段変速装置(76)を変速作動させられるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバイン等の作業車輌に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、作業車輌には、走行装置を駆動する静油圧式無段変速装置と作業装置を駆動する静油圧式無段変速装置が備えられている。
この例として、特許文献1には、クローラ式の走行装置を駆動する静油圧式無段変速装置と、刈取装置を駆動する静油圧式無段変速装置とを備えたコンバインが記載されている。即ち、作業装置である刈取装置の駆動速度を車速に応じた速度に変速制御する構成である。
【特許文献1】実開昭56−57025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の特許文献1に記載されたような作業車輌では、停車状態において、任意に作業装置を駆動させることはできない。従って、例えばコンバインによる刈取作業において、圃場の一辺を刈り終えて圃場の隅部に至った場合に、変速レバーを中立位置へ操作して走行装置を駆動する静油圧式無段変速装置の出力を停止させ、機体を停車させると、刈取装置を駆動する静油圧式無段変速装置の出力も停止してしまい、この機体の前方に残った圃場隅の植立穀稈を刈り取ることができなくなる。
【0004】
このように、従来の技術では、機体を停車させた状態で作業装置を任意に駆動させることができず、作業能率が低下する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上述の如き課題を解決するために、次のような技術的手段を講じる。
即ち、請求項1記載の発明は、走行装置(2)を駆動する静油圧式無段変速装置(47)を変速レバー(S)の操作によって変速作動させるように構成すると共に、作業装置(5,28)を駆動する静油圧式無段変速装置(76)を前記変速レバー(S)に設けたスイッチ(119)の操作によって変速作動させられるように構成したことを特徴とする作業車輌としたものである。
【0006】
しかして、変速レバーSを前進側へ操作すると、走行装置2を駆動する静油圧式無段変速装置47が正転増速側へ変速作動し、機体は前進走行する。尚、この前進走行中において、作業装置5,28を駆動する静油圧式無段変速装置76を変速作動させて作業装置5,28を駆動するように構成してもよい。しかして、前記変速レバーSに設けたスイッチ119を操作すると、作業装置5,28を駆動する静油圧式無段変速装置76が変速作動し、作業装置5,28が駆動される。
【0007】
また、請求項2記載の発明は、走行装置(2)を駆動する静油圧式無段変速装置(47)を変速レバー(S)の操作によって変速作動させるように構成すると共に、作業装置(5,28)を駆動する静油圧式無段変速装置(76)を前記変速レバー(S)に設けたスイッチ(119)の操作に基づいて設定時間にわたり所定の速度で自動的に駆動させられるように構成したことを特徴とする作業車輌としたものである。
【0008】
しかして、変速レバーSを前進側へ操作すると、走行装置2を駆動する静油圧式無段変速装置47が正転増速側へ変速作動し、機体は前進走行する。尚、この前進走行中において、作業装置5,28を駆動する静油圧式無段変速装置76を変速作動させて作業装置5,28を駆動するように構成してもよい。しかして、前記変速レバーSに設けたスイッチ119を操作すると、作業装置5,28を駆動する静油圧式無段変速装置76が変速作動し、作業装置5,28が設定時間にわたり所定の速度で自動的に駆動される。
【0009】
また、請求項3記載の発明は、走行装置(2)を駆動する静油圧式無段変速装置(47)を変速レバー(S)の操作によって変速作動させるように構成すると共に、該変速レバー(S)が中立位置にあるときにのみ、作業装置(5,28)を駆動する静油圧式無段変速装置(76)を前記変速レバー(S)に設けたスイッチ(119)の操作によって変速作動させられるように構成したことを特徴とする作業車輌としたものである。
【0010】
しかして、変速レバーSを前進側へ操作すると、走行装置2を駆動する静油圧式無段変速装置47が正転増速側へ変速作動し、機体は前進走行する。尚、この前進走行中において、作業装置(5,28)を駆動する静油圧式無段変速装置(76)を変速作動させて作業装置(5,28)を駆動するように構成してもよい。しかして、例えば作業地の隅部に至って変速レバーSを中立位置に操作して機体を停車させ、この停車状態において前記変速レバーSに設けたスイッチ119を操作すると、作業装置5,28を駆動する静油圧式無段変速装置76が変速作動し、作業装置5,28が駆動される。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によると、機体を停車させても、変速レバーSに設けたスイッチ119の操作によって、作業装置5,28を任意に駆動して作業することができ、作業能率を向上させることができる。
【0012】
また、請求項2記載の発明によると、機体を停車させても、変速レバーSに設けたスイッチ119の操作によって、作業装置5,28を設定時間にわたり所定の速度で駆動して作業することができ、作業能率の向上および操作性の向上を図ることができる。
【0013】
また、請求項3記載の発明によると、機体を停車させた状態でのみ、変速レバーSに設けたスイッチ119の操作によって、作業装置5,28を任意に駆動して作業することができ、作業能率を向上させることができると共に、走行中の誤操作による作業装置5,28の異常変速を少なくして作業精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明における作業車輌の実施の形態を、農業用作業車輌としての自脱型コンバインを例示して説明する。
図1及び図2に示すように、コンバインは、機台1の下側に走行装置2を設け、該機台1の上側において脱穀装置3と穀粒貯留装置4とを左右に併設し、該脱穀装置3の前側に刈取装置(作業装置)5を配置し、前記穀粒貯留装置4の前側に操縦部6を配置して構成する。
【0015】
前記走行装置2は、機台1の左右両下面から外側下方へ向けて延設したフレームフット7,7の下端部に、左右の転輪フレーム8,8を取り付け、該転輪フレーム8,8に軸支した多数の転輪9,9と後端部の緊張輪10,10と走行ミッションケース11から駆動される左右の駆動輪12,12とにわたって無限軌道帯であるクローラ13,13を巻き掛けて構成する。
【0016】
前記刈取装置5は、機台1の前部に設置した刈取懸架台14の上部にアトフレーム15の後端部を上下回動自在に軸支し、該アトフレーム15の前端部に左右方向のギヤケース16を連結し、該ギヤケース16から前方へ分草フレーム17を延設し、該分草フレーム17の前端部に複数の分草体18を取り付け、該分草フレーム17における前記分草体18の後側に引起装置19の下部を固定し、該引起装置19の上部と前記ギヤケース16の左右一側上面から立ち上げた引起伝動軸20の上端部とを連結し、前記分草フレーム17の後部下側に刈刃21を取り付け、該刈刃21の上側に掻込スターホイル22を回転自在に配置し、該掻込スターホイル22の上側から後方に向けて株元搬送チェン23を架設し、該株元搬送チェン23の後部に続いて穂先側供給搬送装置24と扱ぎ深さ調節機能を有する株元側供給搬送装置25とを上下に配置して構成する。
【0017】
前記脱穀装置3は、上側の扱室26と下側の選別室27とから構成する。即ち、前記扱室26には外側一側にフィードチェン(作業装置)28を配置し、該扱室26内には扱胴29と後述する二番移送螺旋から送られてくる処理物を再処理する二番処理胴30と該二番処理胴30と同軸で回転して前記扱胴29側から送られてくる脱粒物を排塵処理する排塵処理胴31とを軸架して設け、前記扱胴29の後側上部にフィードチェン28から脱穀済みの排藁を引き継いで機外へ搬送する排藁搬送チェン32を設け、該排藁搬送チェン32の下側に排塵ファン43を配置して構成する。また、前記選別室27は、前側から副唐箕44と主唐箕33と一番移送螺旋34と第二唐箕35と二番移送螺旋36とを配置し、これらの上側に揺動選別棚37を揺動自在に設けて構成する。また、前記一番移送螺旋34から一番揚穀螺旋38を介して前記穀粒貯留装置4へ穀粒を投入するように構成し、前記二番移送螺旋36から二番還元螺旋39を介して前記二番処理胴30の始端部(図示では右端部)へ二番物を還元するように構成する。
【0018】
前記穀粒貯留装置4は、底面を谷状に形成し、該谷底部に底部搬送螺旋40を設け、該底部搬送螺旋40の終端部(穀粒貯留装置4の外部)に揚穀螺旋41を接続し、該揚穀螺旋41の上端部に排出螺旋42を上下回動自在に接続して構成する。
【0019】
しかして、図2に基づいて、このコンバインの伝動機構を説明する。
前記操縦部6の座席下に設けるエンジン45の出力プーリ46と走行ミッションケース11の上部に取付けた静油圧式無段変速装置47の入力プーリ48との間に伝動ベルト49を巻き掛ける。該静油圧式無段変速装置47は、前記入力プーリ48の回転によって駆動される油圧ポンプ47pと、該油圧ポンプ47pからの送油を受けて回転動力に変換するプランジャピストン式の油圧モータ47mとの間を閉回路とした油路で接続した構成であり、前記油圧ポンプ47p側の斜盤角度を前記操縦部6に設ける主変速レバー(変速レバー)Sの操作によって調節することにより送油量を変更し、油圧モータ47mの駆動出力回転速度を停止状態から正逆転方向へ無段階に調節できるものである。
【0020】
そして、前記静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの出力軸を、走行ミッションケース11の上部一側に設けた伝動ケースKの入力ギヤ50の回転軸に連結し、該入力ギヤ50にカウンタギヤ51を噛み合わせ、該カウンタギヤ51に出力ギヤ52を噛み合わせ、該出力ギヤ52と同軸上に摺動のみ自在に設けた副変速出力ギヤ53を下手側の中間軸に設けた有効直径の異なる副変速入力ギヤ54に択一的に噛み合い可能に設けて副変速機構55を構成し、前記中間軸に設けた出力ギヤ56を下手側のサイドクラッチ軸に設けたセンターギヤ57に噛み合わせ、該センターギヤ57の左右両側に該センターギヤ57に対して係合離脱自在にサイドクラッチギヤ58,58を設け、該左右のサイドクラッチギヤ58,58の外側に該サイドクラッチギヤ58,58の回転を制動するサイドブレーキ59,59を設け、該左右のサイドクラッチギヤ58,58を下手側の左右の車軸の内側端部に設けた左右のホイルギヤ59,59に噛み合わせ、該左右の車軸の外側端部に前記左右の駆動輪12,12を取付ける。
【0021】
また、前記エンジン45の出力プーリ46と脱穀カウンタ軸の一端部に設けた入力プーリ60との間にテンションクラッチ式の脱穀クラッチ61を有する伝動ベルト62を巻き掛け、前記脱穀カウンタ軸の中間部に設けた出力プーリ63と前記主唐箕33の駆動軸の内側端部に設けた入力プーリ64との間に伝動ベルト65を巻き掛け、該主唐箕33の駆動軸の外側端部に設けた出力プーリ66と一番移送螺旋34軸の外側端部に設けた入力プーリ67と二番移送螺旋36軸の外側端部に設けた入力プーリ68と排塵ファン43軸へ伝動する中間軸の外側端部に設けた入力プーリ69との間に伝動ベルト70を巻き掛け、前記脱穀カウンタ軸の中間部に設けた出力プーリ63と揺動選別棚37の揺動クランク軸に設けた入力プーリ71との間に伝動ベルト72を巻き掛ける。
【0022】
また、前記エンジン45の出力プーリ46とカウンタ軸の一端側に設けた入力プーリ73との間に伝動ベルト74を巻き掛け、該カウンタ軸の他端側から前記穀粒貯留装置4の底部搬送螺旋40軸を連動するように構成する。
【0023】
そして、前記刈取装置5のアトフレーム15の後端部を上下回動自在に支持する刈取懸架台14に伝動ケース75を取り付け、該伝動ケース75の一側にフィードチェン・刈取駆動用の静油圧式無段変速装置(フィードチェン・刈取駆動HST)76を取り付ける。該静油圧式無段変速装置76は、前記主唐箕33の駆動軸の外側端部に設けた出力プーリ77から伝動ベルト78を介して駆動される入力プーリ79の回転によって駆動される油圧ポンプ76pと、該油圧ポンプ76pからの送油を受けて回転動力に変換するプランジャピストン式の油圧モータ76mとの間を閉回路とした油路で接続した構成であり、前記油圧ポンプ76p側の斜盤角度をフィードチェン・刈取駆動HST制御モータ80の作動によって調節することにより送油量を変更し、油圧モータ76mの駆動出力回転速度を停止状態から正逆転方向へ無段階に変速調節できるものである。そして、前記静油圧式無段変速装置76の油圧モータ76mの出力軸を、前記伝動ケース75内の入力軸に連結し、該入力軸に設ける入力ギヤ81に中間ギヤ82を噛み合わせ、該中間ギヤ82に出力ギヤ83を噛み合わせ、該出力ギヤ83を有する出力軸に設けた出力プーリ84と前記刈取装置5のアトフレーム15の後端部に設ける上下回動軸芯と同軸上に設けた刈取入力軸の入力プーリ85との間に刈取クラッチとしてのテンションクラッチ機能を備えた伝動ベルト86を巻き掛ける。また、前記出力プーリ84と前記副唐箕44の駆動軸に設けた入力プーリ87との間に伝動ベルト88を巻き掛ける。
【0024】
更に、前記出力プーリ84とフィードチェン伝動ケース89側の入力軸の外端部に設けた入力プーリ90との間に伝動ベルト91を巻き掛け、前記入力プーリ90を設けた入力軸の内端部に設けた入力ギヤ92と中間軸に設けたカウンタギヤ93とを噛み合わせ、該カウンタギヤ93と出力軸の内端部に摺動のみ自在に設けた出力ギヤ94とをシフタ95の操作により離脱操作自在に噛み合わせ、前記出力軸の外端部に駆動スプロケット96を設け、該駆動スプロケット96にフィードチェン28の中間部を巻き掛ける。
【0025】
尚、125は冷却ファンである。
次に、図3に基づいて、上記コンバインの制御システムについて説明する。
油圧回路は、油圧ポンプ97の吐き出し側に送油方向切換用の3位置切換弁98を接続し、該3位置切換弁98の下手側に刈取装置5昇降駆動用の油圧シリンダ99への送油路と方向制御用の送油路とを並列に接続し、該方向制御用の送油路の下手側に送油方向切換用の3位置切換弁100を接続し、該3位置切換弁100の下手側に前記左右のサイドクラッチギヤ58,58を摺動させてセンターギヤ57から離脱させる左右のプッシュシリンダ101,101への送油路を接続する。102は作動油タンク、103は高圧リリーフバルブ、104は操縦部6に設ける操向レバー105の操作によってリリーフ圧が変化する可変リリーフバルブ、107は流量制御バルブである。また、前記3位置切換弁100は、前記操縦部6に設ける操向レバー105の操作、及び、刈取装置5における分草体18の後側に設けた方向制御用センサー106からの信号によって、送油方向が切り換わるように連動させる。
【0026】
そして、前記可変リリーフバルブ104の下手側の油路を、前記走行装置駆動用の静油圧式無段変速装置47の閉回路と前記フィードチェン・刈取駆動用の静油圧式無段変速装置(フィードチェン・刈取駆動HST)76の閉回路とへ作動油を補給するように接続する。108はチェックバルブ、109はリリーフバルブ、110は絞り弁である。
【0027】
更に、コントローラ(CPU)111に対して、その入力側に、HSTトラニオン角度検出センサー(斜盤角度検出センサー)112と車速検出センサー113と後進検出センサー114と中立検出センサー115とフィードチェン速度設定ダイヤル116とフィードチェン駆動スイッチ117とフィードチェン停止スイッチ118と掻き込みスイッチ(スイッチ)119とエンジン停止スイッチ120と手扱ぎ作業検出スイッチ121とフィードチェン・刈取逆転スイッチ122とフィードチェン・刈取増速スイッチ123とを接続する一方、その出力側に、フィードチェン・刈取駆動HST制御モータ124を接続する。尚、上記掻き込みスイッチ119とフィードチェン・刈取増速スイッチ123とは、主変速レバー48の把持部側面に設ける。
【0028】
この構成により、主変速レバーSを中立位置ないし微速前進位置に操作し、脱穀クラッチを入りにした状態で前記掻き込みスイッチ119をON操作すると、コントローラ111からフィードチェン・刈取駆動HST制御モータ124へ駆動出力がなされ、フィードチェン・刈取駆動用の静油圧式無段変速装置(フィードチェン・刈取駆動HST)76の油圧モータ76pの斜盤角度が中立位置から正転増速方向へ角度変更され、油圧モータ76mの出力軸が正転方向へ一定速度で回転する状態となる。また、この一定速度への回転を、低速から高速へ徐々に増速して実現するように構成してもよい。これにより、刈取装置5及びフィードチェン28を一定速度で駆動しながら圃場端部での植立穀稈の掻き込み作業を安定して行うことができる。
【0029】
また、上述の構成において、主変速レバーSを中立位置ないし微速前進位置に操作し、脱穀クラッチを入りにした状態で前記掻き込みスイッチ119をON操作すると、コントローラ111からフィードチェン・刈取駆動HST制御モータ124へ設定時間だけ駆動出力がなされ、フィードチェン・刈取駆動用の静油圧式無段変速装置(フィードチェン・刈取駆動HST)76の油圧モータ76pの斜盤角度が中立位置から正転増速方向へ角度変更され、油圧モータ76mの出力軸が正転方向へ一定速度で回転する状態となり、この状態が設定時間だけ維持されるように構成してもよい。即ち、従来は、刈取作業中に圃場隅に至ると、駐車ブレーキを掛けた状態で主変速レバーを操作して刈取部を駆動させてこの圃場隅の植立穀稈を刈り取り、中断する場合には、この主変速レバーを中立位置へ操作しなければならず、操作が煩わしいものであった。また、フィードチェンと刈取装置とを長時間駆動していると、刈取対象外の未刈穀稈を掻き込んでしまう不具合があった。しかるに、上述の構成によると、圃場の隅で刈取を中断してもスイッチ操作で掻き込みを行うことができるため、穀稈のこぼれ落ちを防止することができる。また、この掻き込みを設定時間だけ行うので、刈取対象外の未刈穀稈を掻き込んでしまう不具合を解消することができる。
【0030】
また、上述の構成において、掻き込みスイッチ119のON操作による刈取装置5及びフィードチェン28の駆動開始を、走行用の静油圧式無段変速装置47が停止状態にあることを中立検出センサー115が検出しているときにのみ有効とする構成にしてもよい。これにより、掻き込み操作は、機体停止時のみ可能となるので、誤操作による不具合を解消することができる。
【0031】
また、上述の構成において、主変速レバーSが中立域にある場合には、フィードチェン・刈取増速スイッチ122をON操作しても刈取装置5及びフィードチェン28の増速駆動が行われず、掻き込みスイッチ119をON操作した場合に刈取装置5及びフィードチェン28の駆動が開始されるように構成してもよい。この場合、掻き込みスイッチ119のON操作による刈取装置5及びフィードチェン28の駆動開始は、主変速レバーSが中立域にあるときにのみ行われる構成とする。これにより、掻き込みスイッチ119とフィードチェン・刈取増速スイッチ122との両方のスイッチを操作しても、主変速レバーSの操作位置によって作動を規制されるので、この両方のスイッチを操作した場合のトラブルを少なくすることができる。
【0032】
また、上述の構成において、フィードチェン・刈取逆転スイッチ122をON操作した場合に、コントローラ111からフィードチェン・刈取駆動HST制御モータ124へ設定時間だけ駆動出力がなされ、フィードチェン・刈取駆動用の静油圧式無段変速装置(フィードチェン・刈取駆動HST)76の油圧モータ76pの斜盤角度が中立位置から逆転増速方向へ角度変更され、油圧モータ76mの出力軸が逆転方向へ一定速度で回転する状態となり、この状態が設定時間だけ維持されるように構成してもよい。これにより、刈取装置5やフィードチェン28に穀稈の詰まりを生じた場合に、この刈取装置5やフィードチェン28を逆転させて、詰まっていた穀稈を容易に除去することができる。また、この逆転状態が設定時間で自動的に終了するため、操作が容易化できる。
【0033】
また、図4に示すように、穂先側供給搬送装置24の駆動入力部と引起装置19の駆動入力部とにワンウェイクラッチ126を設けて、上述のように刈取装置5を逆転駆動した場合でも穂先側供給搬送装置24と引起装置19とは逆転駆動されないように構成するとよい。これにより、穂先側供給搬送装置24及び引起装置19のラグの破損を防止することができる。
【0034】
また、図5に示すように、引起装置19の伝動を、引起伝動軸20から上部横伝動軸127を介して複数の引起装置19を連動させるように構成する場合には、この引起伝動軸20から上部横伝動軸127への伝動途中部位にワンウェイクラッチ126を設けるとよい。このように構成すれば、多条刈の刈取装置における複数の引起装置19の逆転を単一のワンウェイクラッチ126によって防止できるため、安価に構成することができる。
【0035】
また、図6に示すように、副変速機構55が「標準」の位置での最高車速をVmとし、副変速機構55が「低速」の位置での最高車速をVLとし、基本刈取条数をNとした場合に、Vm×N=VL×(N+1)なる式が成立するように、車速を設定するとよい。即ち、自脱型コンバインは、基本刈取条数(設定された刈取条数)NまたはN+1の条数の刈り取りが可能であり、上述のように車速を設定することにより、どの刈取条数であっても脱穀能力を同じにすることができ、脱穀能力を最大限に引き出すことができる。
【0036】
また、図7に示すように、走行用の静油圧式無段変速装置47から駆動されるカウンタギヤ51の駆動回転を、ベルト式無段変速装置128を介して刈取装置5の入力プーリ85へ入力するように構成し、前記走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤角度を変更可能に構成し、刈取装置5を左右に揺動自在に構成すると共に該刈取装置5の既刈側の分草体18を左右方向へ回動自在に構成して、刈取装置5が既刈側へ揺動すると既刈側の分草体18が既刈側へ回動すると共に走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤が減速側へ角度変更されるように、ワイヤー129によって連動させるとよい。即ち、既刈側の分草体18を既刈側に開いて刈取作業を行う場合は、2条刈に設定された刈取装置に3条分の穀稈を導入して刈り取る場合であり、この場合、脱穀処理量が増大して扱室での藁屑の発生量が増大して脱穀ロスが増加してしまう問題があるが、上述のように構成することによってこのような問題を解消することができる。
【0037】
また、別実施例として、図8に示すように、上述の構成における走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤角度をHSTモータ斜盤切り換えアクチュエータ142によって変更自在に構成すると共に、走行ミッションケース11内の伝動機構を差動ギヤ機構130と直進クラッチ131と旋回クラッチ132とから成るものに換えてもよい。即ち、旋回内側のサイドクラッチギヤ58をセンターギヤ57から離脱させると共に旋回クラッチ132を接続してゆくことで、旋回内側のホイルギヤ59の駆動速度を低下させて緩旋回し、やがてこのホイルギヤ59を逆転させてスピンターンできる構成である。
【0038】
そして、図9に示すように、前述のコントローラ111の入力側に刈取上げ高さ検出センサー133を接続する。また、走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤角を制御するコントローラ(CPU)134に対して、その入力側に、HSTトラニオン角度検出センサー135と車速検出センサー113と後進検出センサー114と中立検出センサー115と最高車速設定変更手段136と作物種類最高車速設定手段137と作物条件最高車速設定手段138と機体重量検出手段139と習熟度条件最高車速設定手段140と作業条件最高車速設定手段141とを接続する一方、その出力側に、HSTモータ斜盤切り換えアクチュエータ142を接続する。
【0039】
この構成により、刈取装置5が設定高さ以上に上昇したことが刈取上げ高さ検出センサー133によって検出されると、コントローラ111からフィードチェン・刈取駆動HST制御モータ124へ出力がなされて、フィードチェン・刈取駆動用の静油圧式無段変速装置(フィードチェン・刈取駆動HST)76の油圧モータ76pの斜盤角度が中立角度に戻る。これにより、該油圧モータ76pの出力が停止して、フィードチェン28の駆動と刈取装置5の駆動と副唐箕44の駆動とが停止する。即ち、刈取作業速度が速くなると、脱穀装置3における選別性能を向上させるために、副唐箕44を増速するのであるが、刈取装置5の上昇によってフィードチェン28の駆動と刈取装置5の駆動とが停止すると脱穀装置3へ供給される穀稈量が減少する。この場合に、副唐箕44も停止させることによって選別風を弱め、選別風が強すぎることによる穀粒の飛散を防止し、脱穀損失を少なくすることができる。尚、上述の構成では、刈取装置5の設定高さ以上への上昇によって、フィードチェン28の駆動と刈取装置5の駆動と副唐箕44の駆動の停止に加え、第二唐箕35の駆動も停止する。即ち、刈取作業速度が速くなった場合に、脱穀装置3における選別性能を向上させるために、副唐箕44と第二唐箕35を設けるのであるが、刈取装置5の上昇によってフィードチェン28の駆動と刈取装置5の駆動とが停止すると脱穀装置3へ供給される穀稈量が減少する。この場合に、副唐箕44の駆動と第二唐箕35の駆動とを停止させることによって選別風を弱め、選別風が強すぎることによる穀粒の飛散を防止し、脱穀損失を少なくすることができる。
【0040】
また、図10に示すように、上述の走行系の油圧回路に併設して、旋回系の油圧回路を設ける。即ち、油圧ポンプ143の吐出側に流量制御弁144と絞り弁145と比例減圧弁146と前記旋回クラッチ132の油室147とを直列に接続する。148は高圧リリーフバルブである。そして、コントローラ(CPU)149に対して、その入力側に、HSTモータ斜盤角度検出センサー150とHSTポンプ斜盤角度検出センサー151と車速センサー152と後進検出センサー153と中立検出センサー154とパワステレバー(操向レバー)角度検出センサー155と旋回速度検出センサー156と脱穀クラッチON検出センサー157と刈取クラッチON検出センサー158と穀稈センサー159とエンジン回転センサー160と油圧クラッチ(旋回クラッチ)圧検出センサー161と旋回状態検出センサー162と最高車速変更手段163とを接続する一方、その出力側に、HSTモータ斜盤切り換えアクチュエータ164を接続する。この構成により、操向レバー105を左右に操作すると、パワステレバー角度検出センサー155がこの操向レバー105の操作角度を検出し、コントローラ149からHSTモータ斜盤切り換えアクチュエータ164へ出力がなされて走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤角度が減速側に操作される。これにより、副変速機構55を減速操作することなく、旋回時に自動的に車速の減速(図11に示す最高速の3段階規制)とトルクアップを行うことができ、操作性及び旋回性能を向上させることができる。
【0041】
また、図12に示すように、操向レバー105の操作角度に対応する旋回状態は、左右のマイルドターン(緩旋回)領域の外側に、左右のブレキターン領域が配置され、該左右のブレーキターン領域の外側に左右のスピンターン領域が配置される構成である。また、図13に示すように、操向レバー105を大きく傾動させるほど、走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤角度が減速側へ無段階に操作されるように連動してもよい。これにより、旋回時の減速と駆動トルクの向上とが達成でき、また、走行用の静油圧式無段変速装置47の閉回路内の圧力を低下させてリリーフバルブ109の作動を少なくすることができる。また、走行用の静油圧式無段変速装置47の閉回路における高圧側の圧力を低下させることができるため、旋回時のエンジン消費馬力も低減でき、エンジン回転のドロップを少なくすることができ、脱穀性能を適正に維持することができる。
【0042】
また、設定速度以上の車速で旋回を開始した場合に、走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤角度を減速側へ自動的に操作されるように構成すると、旋回速度は図14に示すラインを描く。これにより、設定速度以上での旋回を行う操作をした場合に、車速が設定速度まで自動的に減速するため、安全性を高めることができる。
【0043】
また、図15に示すように、前記旋回状態検出センサー162によって、現在の旋回状態がマイルドターン(緩旋回)とブレーキターンとスピンターンとのうちのいずれであるかが検出されると、コントローラ149からHSTモータ斜盤切り換えアクチュエータ164への出力によって、各旋回状態に応じて設定された最高車速に規制するように、走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤角度の増速側への変更限界角度が規制される。これにより、各旋回状態に応じて車速の上限が規制されるので、適正な車速で安全に旋回することができる。
【0044】
また、図16に示すように、脱穀クラッチを入り操作した場合に、脱穀クラッチON検出センサー157がこれを検出し、コントローラ149からHSTモータ斜盤切り換えアクチュエータ164へ出力がなされて、走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤角度の増速側への変更限界角度が規制されるように構成してもよい。これにより、脱穀作業時の最高車速を規制でき、路上走行速度領域で刈取作業を行うような誤操作を防止することができる。尚、刈取クラッチを入り操作した場合や、刈取対象となる植立穀稈を穀稈センサー159が検出した場合に、走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤角度の増速側への変更限界角度が規制されるように構成してもよい。また、後進走行時には上記のような最高車速の規制は行わないように構成する。即ち、後進時には刈取作業を行わないため最高車速の規制は必要なく、このように最高車速の規制をしないことによって、高速で後進でき、作業能率を向上させることができる。また、エンジン回転センサー160によってエンジン回転数を検出し、旋回時にエンジン回転数が設定回転数以下に低下したことを検出した場合に、コントローラ149からHSTモータ斜盤切り換えアクチュエータ164へ出力がなされて、走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤角度を減速側へ操作して、エンジン回転数が設定回転数以下にならないように制御する構成としてもよい。即ち、刈取作業時には、刈取負荷と脱穀負荷と走行負荷とによってエンジンにかかる消費馬力が大きく、旋回時には更に旋回負荷がかかってエンジン回転数が低下する現象が起こるのであるが、上記のように構成することにより、エンジン回転数が設定回転数以下となって脱穀ロスが発生するのを防止することができる。
【0045】
また、図17に示すように、旋回クラッチ132の油室147に設ける油圧クラッチ(旋回クラッチ)圧検出センサー161によって作動圧が設定圧以上に上昇したことが検出されると、コントローラ149からHSTモータ斜盤切り換えアクチュエータ164へ出力がなされて、走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤角度を減速側へ連続的(直線的)に変更するように構成してもよい。即ち、従来は、旋回時に走行用の静油圧式無段変速装置の油圧モータの最大出力トルクは一定であったため、ブレーキターンやスピンターンではリリーフバルブが作動して旋回不能に陥る場合があり、又、高速で旋回すると、この旋回に大きな馬力を必要とするためにエンジン回転数が低下し、穀粒損失を増大させ、脱穀性能を低下させる不具合があった。これに対して、上述のように構成することにより、旋回時に走行用の静油圧式無段変速装置の高圧側の圧力を低下させ、リリーフバルブが作動するのを少なくすることができ、又、消費馬力も低減できてエンジン回転の低下を少なくすることができる。尚、上記走行用の静油圧式無段変速装置47の油圧モータ47mの斜盤角度の減速側への変更は、図18に示すように、油圧クラッチ圧が所定圧を超えてから直線的に変更されるように構成してもよい。これにより、設定速度以上での高速旋回を行おうとした場合には、設定速度まで減速されるため、安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】コンバインの説明用側面図。
【図2】コンバインの伝動説明図。
【図3】コンバインの制御システム説明図。
【図4】刈取装置の伝動機構説明図。
【図5】刈取装置の伝動機構説明図。
【図6】作用説明図。
【図7】コンバインの説明用平面図。
【図8】別実施例におけるコンバインの伝動説明図。
【図9】別実施例におけるコンバインの制御システム説明図。
【図10】別実施例におけるコンバインの制御システム説明図。
【図11】主変速レバー操作角度と車速との関係を示すグラフ。
【図12】操向レバーの操作領域説明図。
【図13】操向レバー操作角度と油圧モータの作動油吐出量との関係を示すグラフ。
【図14】操向レバー操作角度と旋回速度との関係を示すグラフ。
【図15】各旋回モードと油圧モータの作動油吐出量との関係を示すグラフ。
【図16】主変速レバーの操作角度と車速との関係を示すグラフ。
【図17】油圧クラッチ圧とモータ吐出量との関係を示すグラフ。
【図18】油圧クラッチ圧とモータ吐出量との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0047】
2 走行装置
5 刈取装置(作業装置)
28 フィードチェン(作業装置)
47 静油圧式無段変速装置
76 静油圧式無段変速装置
119 掻き込みスイッチ(スイッチ)
S 主変速レバー(変速レバー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置(2)を駆動する静油圧式無段変速装置(47)を変速レバー(S)の操作によって変速作動させるように構成すると共に、作業装置(5,28)を駆動する静油圧式無段変速装置(76)を前記変速レバー(S)に設けたスイッチ(119)の操作によって変速作動させられるように構成したことを特徴とする作業車輌。
【請求項2】
走行装置(2)を駆動する静油圧式無段変速装置(47)を変速レバー(S)の操作によって変速作動させるように構成すると共に、作業装置(5,28)を駆動する静油圧式無段変速装置(76)を前記変速レバー(S)に設けたスイッチ(119)の操作に基づいて設定時間にわたり所定の速度で自動的に駆動させられるように構成したことを特徴とする作業車輌。
【請求項3】
走行装置(2)を駆動する静油圧式無段変速装置(47)を変速レバー(S)の操作によって変速作動させるように構成すると共に、該変速レバー(S)が中立位置にあるときにのみ、作業装置(5,28)を駆動する静油圧式無段変速装置(76)を前記変速レバー(S)に設けたスイッチ(119)の操作によって変速作動させられるように構成したことを特徴とする作業車輌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−174972(P2007−174972A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376986(P2005−376986)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】