説明

便座ヒータおよびそれを用いた暖房便座

【課題】便座の着座面の温度を極めて短時間で昇温させると共に、便座内に浸水した場合でも安全な便座ヒータを提供する。
【解決手段】エナメル線からなる線状発熱体460を、第一の防水絶縁箔453の熱融着性の接着層452bと第二の防水絶縁箔451の非粘着層側との間に挟持して一様に熱融着させたので、第一の防水絶縁箔453と第二の防水絶縁箔451との接合した外周端面に臨む境界部Pでの浸水を防止した、シート状の便座ヒータ450が構成される。
したがって、線状発熱体460から第一の防水絶縁箔453に奪われる熱を最小にして、第二の防水絶縁箔451を介して極めて効率よく着座面410Uに伝熱させることができ、その結果、防水絶縁性を確保しながら素早い昇温性能を確保する暖房便座400が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便座ヒータとそれを使用した暖房便座に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の局部を洗浄する衛生洗浄装置の分野においては、人体に不快感を与えないようにするために、例えば、洗浄に用いる洗浄水を適切な温度に調整する加熱装置や人体との接触部の温度を適切な温度に調整する暖房便座等様々な機能を有する装置が案出されている。なかでも、上記に示す暖房便座によれば、使用者は冬場等気温が低い場合においても不快を感じることなく便座に着座することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の暖房便座においては、図10に示すように、マグネシウム合金により形成された便座ケーシング1の内部に線状ヒータ2が設けられている。線状ヒータ2は、便座ケーシング1の裏面全体にわたって蛇行するように配置されており、線状ヒータ2の両端部に電源回路3が接続されている。
【0004】
このような構成において、電源回路3から線状ヒータ2に電圧が印加されることにより線状ヒータ2が発熱する。そして、その線状ヒータ2の熱が便座ケーシング1に伝達されて、便座ケーシング1の温度が上昇し、使用者は快適に便座に着座することができる。
【特許文献1】2003−310485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来の暖房便座においては、線状ヒータ2と便座ケーシング1とを絶縁するために、シリコンゴムまたは塩化ビニル等からなる被覆チューブが用いられている。この場合、製造上および電気絶縁性確保のために、被覆チューブの厚さを大きくする必要があった。
【0006】
そのため、線状ヒータ2は被覆チューブの厚さを大きくした場合、線状ヒータ2から便座ケーシング1への伝熱効率が低下し、便座ケーシング1を迅速に昇温させることが困難であった。
【0007】
前記従来の技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、便座に対する線状ヒータの電気絶縁を確実にすると共に、便座を迅速に昇温させることができる便座ヒータおよびそれを用いた暖房便座を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の便座ヒータは、発熱線とその外周を被覆した薄い絶縁層で構成し、便座の裏側に設ける線状発熱体と、第一の防水絶縁箔および第二の防水絶縁箔とを備え、第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔との間に線状発熱体を挟持し、さらに第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔との接合した外周端面に臨む境界部を、浸水防止構造にしたものである。
【0009】
さらに、本発明の暖房便座は、着座面を有し金属材料を含む便座と、前記の便座ヒータを備え、便座の着座面の裏面に第二の防水絶縁箔の接着層側を貼着したものである。
【0010】
この便座ヒータおよびそれを用いた便座装置においては、発熱線で発生された熱が、絶縁層および防水絶縁層を介して便座に伝達され、便座の温度が上昇する。この場合、便座
ヒータは、線状発熱体に絶縁層が構成され、さらに防水絶縁箔で挟持されているため、二重の絶縁構成を確保している。
【0011】
したがって、便座ヒータが水没する事態が発生しても、線状発熱体に水分が接触することがなく、確実な絶縁状態を確保することができるとともに、この便座ヒータを、金属材料を含む便座に貼着したものであっても、着座面と線状発熱体の間の絶縁を確実にすることができる。
【0012】
その結果として、発熱線と便座とを確実に絶縁しつつ、着座面を迅速に昇温させることが可能な暖房便座を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、便座と発熱線とを確実に絶縁しつつ、便座を迅速に昇温させることができる便座ヒータおよびそれを用いた便座装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
第1の発明は、発熱線とその外周を被覆した薄い絶縁層を構成し、便座の裏側に設ける線状発熱体と、第一の防水絶縁箔および第二の防水絶縁箔とを備え、第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔との間に線状発熱体を挟持し、第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔との接合した外周端面に臨む境界部を、浸水防止構造にしたものである。
【0015】
これにより、発熱線で発生した熱は、前記発熱線の外周の絶縁層を介して第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔に伝達され、第一、第二の防水絶縁箔全体に熱拡散する。
【0016】
一方、第一、第二の防水絶縁箔の接合した外周端面に臨む境界部で浸水を防止しているため、万一水没するような事態があっても線状発熱体が水分に接触することがなく、常に二重の絶縁状態を確保した便座ヒータを実現することができる。
【0017】
したがって、線状発熱体の周囲には第一、第二の防水絶縁箔が存在するだけであるため、この便座ヒータを被加熱体に貼着させた場合、その被加熱体を素早く昇温させうるため、必要最小限の構成で、即温性と絶縁性を兼備することができる。
【0018】
第2の発明は、特に第1の発明において、第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔は、便座に接合しない第一の防水絶縁箔に接着層を設け、第一の防水絶縁箔の接着層側と第二の防水絶縁箔の非接着層側との間に線状発熱体を挟持し、第一の防水絶縁箔を第二の防水絶縁箔に貼着したものである。
【0019】
これにより、線状発熱体を介して第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔が密着状態を確保するため、第一、第二の防水絶縁箔の外周の端面部だけでなく、広範囲に防水性を維持でき、万一、第一、第二の防水絶縁箔の端面部に損傷が発生した状態で水没状態となっても、線状発熱体が水分に接触することがなく、二重の絶縁性を維持できる。
【0020】
そして、このように接着層で貼着することで、全体としてシート状の便座ヒータを構成することができる。
【0021】
第3の発明は、特に第1または第2の発明において、第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔は、ポリエステル系樹脂箔を用いたものである。
【0022】
これにより、第一、第二の防水絶縁箔は、水分を完全に通過させない構成となり、防水型の便座ヒータを実現することができる。
【0023】
第4の発明は、特に第1から第3のいずれか1つの発明において、ポリエステル系樹脂箔は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドのうち、いずれかを用いたものである。
【0024】
これにより、線状発熱体の実際の最高使用温度にあわせた選択が可能である。例えば、180℃程度までならポリエチレンテレフタレート、200℃程度であればポリエステルイミド、250℃程度であればポリアミドイミドまたはポリイミドといった選択が可能となる。
【0025】
第5の発明は、特に第1から第4のいずれか1つの発明において、第一の防水絶縁箔の接着層は熱融着性の接着層を用い、第二の防水絶縁箔の接着層は粘着層を用いたものである。
【0026】
これにより、第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔とをラミネータなどによって加熱圧着することによって、容易に便座ヒータを構成することができる。
【0027】
この場合、熱融着性の接着層は、通常のラミネート用接着剤、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、あるいはポリエステル系ホットメルト剤などを用いるとよく、その厚みは0.002〜0.01mm程度で強固な接着力が得られ、粘着層を用いた場合の厚みが0.03〜0.07mm程度必要なことに比べ、厚みを約十分の一程度まで薄くすることができる。
【0028】
したがって、線状発熱体からの発熱の伝熱ロスを極力少なくすることが可能である。一方、第二の防水絶縁箔の接着層を粘着層としたことにより、便座の着座面の裏面などの曲面が多い部位でも、その形状に合わせて確実に貼着させることができる。
【0029】
このように、多様な形状にも合わせて空隙を生じるおそれを少なくできる貼着が可能で、かつ素早い熱伝導を実現できる、フレキシブルなシート型の便座ヒータを構成することができる。
【0030】
第6の発明は、特に第1から第5のいずれか1つの発明において、第一防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔の接着層は、粘着層を用いたものである。
【0031】
これにより、第一の防水絶縁箔の接着層を粘着層としたことで、線状発熱体の配設パターンを保持することが容易であるだけでなく、第一の防水絶縁箔を、第二の防水絶縁箔に貼着する時点で、万一しわなどが発生した場合でも粘着層の流動性により、前記しわの部分に粘着層の一部が回りこむため、第一、第二の防水絶縁箔の接着部の防水性を確実にし、二重の絶縁性を維持することができる。
【0032】
第7の発明は、特に第6の発明において、第一の防水絶縁箔の粘着層は、第二の防水絶縁箔の粘着層よりも厚く構成したものである。
【0033】
これにより、同様に線状発熱体の配設パターンを保持することが容易であるだけでなく、第一の防水絶縁箔を、第二の防水絶縁箔に貼着する時点で、比較的多くのしわなどが発生した場合でも、粘着層の厚みを厚くしたことによる流動性により、粘着層の一部が前記の多くのしわの部分に回りこむため、第一、第二の防水絶縁箔の接着部の防水性を損なうことがないので、二重の絶縁性を維持することができる。
【0034】
したがって、しわが多くても絶縁性の良品が得られ、便座ヒータの製造過程における歩
留まりを高く維持でき、製造コストへの影響を極小にすることができる。
【0035】
第8の発明は、特に第1から第7のいずれか1つの発明において、線状発熱体は、発熱線の絶縁層に少なくともエナメル層を構成したものである。
【0036】
これにより、エナメル層は10μm前後で十分に発熱線の外周を絶縁被覆すると同時に、屈曲にも耐えるフレキシブル性を維持し、配線パターニングなどが容易な線状発熱体を構成することができる。
【0037】
第9の発明は、特に第8の発明において、線状発熱体は、発熱線の絶縁層を複数構成し、最内層にエナメル層を構成し、最外層にフッ素含有樹脂層を構成したものである。
【0038】
これにより、同様にエナメル層は10μm前後で十分に発熱線の外周をフレキシブルに絶縁被覆でき、さらに外層にフッ素含有樹脂層を構成するため、線状発熱体だけで比較的薄膜の二重の絶縁構成を確保すると共に、180〜220℃程度の高温に耐えて素早い伝熱性を確保できる線状発熱体が得られる。
【0039】
第10の発明は、着座面を有し金属材料を含む便座と、第1から第9のいずれか1つの発明に記載の便座ヒータを備え、便座の着座面の裏面に第二の防水絶縁箔の接着層側を貼着したものである。
【0040】
これにより、比較的曲面の多い着座面の裏側に容易、かつ確実に便座ヒータを貼着することができる。また、万一、便座が水没するような事態が発生しても、線状発熱体に水分が接触するこがなく、確実な二重の絶縁状態が維持できる、安全かつ即暖性の高い暖房便座を実現することができる。
【0041】
そのため、この便座ヒータを金属材料を含む便座に貼着したものであっても、着座面と線状発熱体の間の絶縁を確実にすることができる。
【0042】
結果として、発熱線と便座とを確実に絶縁しつつ、着座面を迅速に昇温させることが可能な暖房便座を提供することができる。
【0043】
本発明の目的は、第1の発明から第10の発明を実施の形態の要部とすることにより達成できるので、各請求項に対応する実施の形態の詳細を、以下に図面を参照しながら説明し、本発明を実施するための最良の形態の説明とする。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0044】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における暖房便座の要部拡大断面図、図2は同暖房便座に用いた便座ヒータの正面図、図3は同暖房便座の分解斜視図、図4は同便座ヒータを着座面に貼着した状態図、図5は図2でxの領域の部分拡大図、図6は同暖房便座の制御ブロックの概念図、図7は同暖房便座で構成した衛生洗浄装置の斜視図である。
【0045】
以上の図面を用いて、本発明の実施の形態1における便座ヒータとそれを用いた便座装置の構成、および動作、作用について説明する。
【0046】
図3において、暖房便座400(図7)は、合成樹脂製の便座基盤420と、アルミニウムなどの高い熱伝導性を有する金属で形成された着座面410Uと、便座基盤420と着座面410Uの間に本発明の便座ヒータ450が介在する構成で、便座ヒータ450は、馬蹄形状に構成され、粘着層452a(図1)を着座面410Uの内面部の一定の位置
に貼着されて固定されている。
【0047】
また、便座ヒータ450には、通常時の着座面410Uの温度調節のためのサーミスタ401a(図6)が装着されている。さらに、便座ヒータ450は、一定のパターンで線状発熱体460を配線させたもので、その一部のパターンは密にした領域部480(図2)となっており、異常時でも着座面410Uの温度が一定以上に上昇しないように制御するための温度過昇防止装置(図示せず)に接触する構成となっている。一方、制御部90(図6)には、人体検知センサ600からの信号入力600a、着座信号入力610a、サーミスタ401aからの出力、さらには、間に温度過昇防止装置を介して便座ヒータ450の通電経路が接続されている。
【0048】
図2、図4、図5に示すように、線状発熱体460は、着座面410Uの形状に合わせて左右方向に蛇行する蛇行形状に配設される。線状発熱体460は、蛇行形状の曲げ部が着座面410Uの外側の側辺および内側の側辺の近傍に位置するように配置されている。具体的には、1本の連続する線状発熱体460が、図5に示すように第1系列Aの線状発熱体460aと、第2系列Bの線状発熱体460bとに分けられ、両者はほぼ平行に配列されている。
【0049】
この線状発熱体460の配列は、曲げ部間の線間隔が短いため、熱膨張、収縮に起因する線状発熱体460の線長の変化が小規模となり、また曲げ部で熱膨張、収縮による熱ストレスを緩衝し、断線などを抑制する構成となっている。なお、図2のxの領域の曲げ部の長さLa、Lbおよび曲げ部間の間隔Sは、任意の調整が可能で、それによって便座ヒータ450の加熱分布を調整することができる。
【0050】
例えば、便座ヒータ450の外側および内側の側辺近傍の加熱密度が便座ヒータ450の中央部の加熱密度よりも高くなるように、曲げ部の長さLa,Lbおよび曲げ部間の間隔Sを調整し、便座ヒータ450のほぼ全領域において均等な暖房温度を維持することができる。
【0051】
また、本例では、矢印で示すように第1系列Aの線状発熱体460aでの電流の向きが、第1系列Bの線状発熱体460bでの電流の向きと対向するため、双方の線状発熱体460a、460bから発生する磁場が打ち消される傾向にあり、その結果、ノイズ等の発生が抑制される。
【0052】
図1、図2で、着座面410Uは、例えば厚さ1mmのアルミニウム板413により形成される。アルミニウム板413の上下面には、約150〜180℃の耐熱性を有するポリエステル樹脂製の塗装膜411が約0.05〜0.2mmの厚さで形成され、アルミニウム板の生地が露出しないようになっている。なお、着座面410Uには、アルミニウム板413以外にも、銅板、ステンレス板、アルミニウムめっき鋼板および亜鉛アルミニウムめっき鋼板のうちいずれか、または複数の組合せを用いてもよい。
【0053】
また、便座ヒータ450は、第一の防水絶縁箔453の熱融着性の接着層452b側と第二の防水絶縁451の非粘着層側との間に線状発熱体460を挟持させて、前述の蛇行形状配列を保持させたものである。そして、着座面410Uの下面側に、便座ヒータ450における第二の防水絶縁箔451の粘着層452a側を貼着することにより、暖房便座400の主要部分が構成される。
【0054】
便座ヒータ450の第一の防水絶縁箔453、第二の防水絶縁箔451は、例えば、ポリエステル系樹脂の中で比較的汎用性の高いポリエチレンテレフタレート(PET)を用いている。また、第一の防水絶縁箔453、第二の防水絶縁箔451の厚みは、線状発熱
体460を強固に挟持するための軟性、および防水絶縁性を必要とするため、0.012〜0.05mmの範囲であれば良く、本例では0.025mmとした。
【0055】
なお、第一の防水絶縁箔453、第二の防水絶縁箔451の材質は、線状発熱体の使用温度範囲、許容コストなどにより、ポリエステル系樹脂の中でもさらに耐熱性の高い材料の選択が可能である。例えば、200℃程度であればポリエステルイミド(PEI)、250℃程度であればポリアミドイミド(PAI)またはポリイミド(PI)といった選択が可能である。
【0056】
線状発熱体460は、断面が略円形の発熱線463aとその外周を被覆する、エナメル層463bからなる絶縁層により構成される。
【0057】
発熱線463aは、例えば0.16〜0.25mmの直径を有する銅または銅合金からなる。本実施の形態では、発熱線463aとして、直径0.168mmの4%Ag−Cu合金からなる高抗張力型ヒータ線が用いられる。因みに抵抗値は0.88Ω/mである。
【0058】
また、発熱線463aの第一の絶縁層であるエナメル層463bは、例えばPEIからなる。エナメル層463bの膜厚は、0.02mm以下であり、本実施の形態では0.01〜0.016mmである。このようなエナメル線463は、エナメル層463bの膜厚が極薄い0.01〜0.02mm程度であっても、電気用品技術基準である1000Vで1分間以上の電気絶縁耐圧性能を十分確保することができる。また、エナメル層463bの他の材料としては、PAIまたはPIなどを用いれば、さらに耐熱性が上昇する。
【0059】
ちなみに、便座ヒータ450を構成するための主要な工程を説明すると、第一に、線状発熱体460を前記の配線パターンでパターニングしたのち、第一の防水絶縁箔453の熱融着性の接着層452b側の面を線状発熱体460に向けて、第一の防水絶縁箔と線状発熱体460を加熱接着させる。
【0060】
具体的には、線状発熱体460の上方から面状態で第一の防水絶縁箔453の熱融着性の接着層452b側の面を接近させ、線状発熱体460と熱融着性の接着層452bが接触するとほぼ同時に、第一の防水絶縁箔453の非接着面を均一に加熱しながら圧着する。このときの加熱温度と圧着時間は、例えば200〜250℃程度、1〜5秒間である。
【0061】
なお、熱融着性の接着層452bの材質は、通常のラミネート用接着剤、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、あるいはポリエステル系ホットメルト剤などを用いるとよく、本例では、浸水防止に有効なEVAを用い、その厚みは0.002〜0.01mm程度とした。この時、熱融着性の接着層452bと線状発熱体460のエナメル層463bが融着状態となって、線状発熱体460の配線パターンが第一の防水絶縁箔453に固定される。
【0062】
しかるのち、加熱ローラー式ラミネータによって、線状発熱体460を第一の防水絶縁箔453と第二の防水絶縁箔451の非粘着層側との間に挟持しながら、第一の防水絶縁箔453を第二の防水絶縁箔451の非粘着層側に一様に熱融着させる。
【0063】
このようにして、図2、図4に示すように便座ヒータ450は、第一の防水絶縁箔453と第二の防水絶縁箔451との全面が第一の防水絶縁箔453の接着層452bにより接合した結果、その外周端面(図1に示す、図2、図4では馬蹄形状の外側、内側になる端面)に臨む第一の防水絶縁箔453と第二の防水絶縁箔451との接合した境界部Pでは、接着層452bで浸水防止構造が形成され、浸水を完全に防止したシート状の便座ヒータ450が構成される。
【0064】
したがって、便座ヒータ450は極めてフレキシブル性に富み、さらに、第二の防水絶縁箔451の接着層を厚さ0.05mmの粘着層452aとしたことにより、着座面410Uの裏面などの曲面が多い部位でも、その形状に合わせて空隙を極力少なくして、確実に貼着させることができる。
【0065】
このように、線状発熱体460にエナメル層463bを被覆しただけの発熱線463aを用いたことで、絶縁性を保持しながら発熱線463aからの熱伝導を向上できる。
【0066】
さらに、第一の防水絶縁箔453の接着層を0.002〜0.01mm程度で強固な接着力が得られる熱融着性の接着層452bとしたことにより、粘着層を用いた場合の厚みが0.03〜0.07mm程度必要なことに比べ、厚みを約十分の一程度まで薄くすることができる。
【0067】
したがって、線状発熱体460から第一の防水絶縁箔453に奪われる熱を最小にして、第二の防水絶縁箔451を介して、極めて効率よく着座面410Uに伝熱させることができ、その結果、暖房便座400の防水絶縁性を確保しながら素早い昇温性能を確保することができる。
【0068】
図6で、便座装置110は、本体部200、遠隔操作装置300、暖房便座400および人体検知センサ600を備える。本体部200は、制御部90、温度測定部401、ヒータ駆動部402、便座温調ランプRA1および着座センサ610を含む。また、便座部400は本発明の便座ヒータ450およびサーミスタ401aを備える。
【0069】
制御部90は、例えばマイクロコンピュータからなり、使用者の入室および暖房便座400の温度等の判定、タイマ機能、種々の情報の記憶、ならびに、ヒータ駆動部402の動作を制御するための通電率切替などの機能を有する。
【0070】
温度測定部401は、サーミスタ401aに接続され、サーミスタ401aから出力される信号に基づいて便座400の温度を測定し、ヒータ駆動部402は、暖房便座400の便座ヒータ450に接続され、便座ヒータ450を駆動する。
【0071】
本例では通常の使用状態として、初期設定時では、制御部90がヒータ駆動部402を制御することにより、暖房便座400が待機温度として例えば約18℃に温度調整される。制御部90では、人体検知センサ600からの入室検知信号により使用者のトイレットルームへの入室を検知する。
【0072】
ついで、制御部90は、暖房便座400の測定温度値、および便座設定温度に基づき、所定のヒータ制御パターンの選択を経て、ヒータ駆動部402により便座ヒータ450が駆動され、暖房便座400の温度が便座設定温度へと瞬時に加温される。したがって、比較的早く使用者が便座部400に着座した場合でも冷感を覚えることなく、快適な使用が可能である。
【0073】
図7で、トイレットルーム内に設置された衛生洗浄装置900は便器700の上面に取り付けられる。衛生洗浄装置900は、本体部200、遠隔操作装置300、暖房便座400および蓋部500により構成される。
【0074】
本体部200には、暖房便座400および蓋部500が開閉可能に取り付けられている。また、本体部200には、便器700内に出入りする洗浄装置800と洗浄水供給機構(図示せず)が設けられるとともに、制御部90が内蔵される。
【0075】
使用者がトイレットルーム内に入室すると、人体検知センサ600(例えば反射型の赤外線センサ)が、人体から反射された赤外線を検出し、使用者の入室を検知する。
【0076】
その時点で、便座ヒータ450からの効率よい伝熱により、使用者が冷感を感じない温度まで急速に、例えば6秒以内に着座面410Uが昇温する。
【0077】
次いで、使用者が着座面410Uに着座すると、本体部200の正面上部に設けられる着座センサ610(例えば反射型の赤外線センサ)が、人体から反射された赤外線を検出することにより、便座400上に使用者が存在することを検知して、着座面410Uは快適に着座できる適温に保持される。
【0078】
そして、使用者が用便終了後に遠隔操作装置300を操作して洗浄指示を信号として本体部200に送ると、水道配管(図示せず)に接続された洗浄水供給機構と直結した洗浄装置800が突出して、その先端近傍から洗浄水(矢印)が噴出して使用者の局部を洗浄する。
【0079】
さらに、使用者が洗浄終了後に遠隔操作装置300を操作して洗浄停止を信号として本体部200に送ると、洗浄装置900が本体200内に収納される。
【0080】
最終的に、使用者が着座面410Uから立ち上がり、トイレットルームから退出する。
【0081】
以上のように、暖房便座400の速やかな昇温により、トイレットルーム内で使用者が快適な用便を可能とする衛生洗浄装置が得られ、使用者の用便の過程などで暖房便座400内部に浸水が発生しても、便座ヒータ450内への浸水は阻止でき、電気的絶縁性、安全性を確保、維持することが可能な衛生洗浄装置が得られる。
【0082】
なお、本実施の形態における第一の防水絶縁箔453と第二の防水絶縁箔451との接合した外周端面に臨む境界部Pの浸水防止構造は、熱融着性の接着層452bによって行っているが、第一の防水絶縁箔453または第二の防水絶縁箔451のいずれか一方の端部を、他方の外周端面を覆って折り返し、熱融着性の接着層452bで接着する構造でも良い。
【0083】
(実施の形態2)
図8は本発明の実施の形態2における暖房便座の要部拡大断面図である。本実施の形態は、実施の形態1における図2〜図7に示す構成と基本的に同じであり、また、図8においても実施の形態1と同一符号のものは同一構造を有し、実施の形態1と異なるところを中心に便座ヒータの構成、および動作、作用について説明する。
【0084】
図8において、実施の形態1と異なる点は、便座ヒータ450aの線状発熱体460aを、線状発熱体460のエナメル層463bに、第二の絶縁層として、例えば260℃の耐熱性を有するパーフルオロアルコキシ混合物(以下PFA層462と称する)等のフッ素樹脂を被覆したところである。
【0085】
暖房便座400aに用いた便座ヒータ450aを構成する工程については、実施の形態1とほぼ同様で、説明は省略する。PFA層462の厚みは、例えば0.05〜0.15mmである。PFA層462の形成は、押出し加工により行うことができる。この場合、PFA層462の厚みが0.05程度に薄くても、雷サージにも耐える電気絶縁耐圧性能を確保することができる。
【0086】
したがって、発熱線463a上にエナメル層463b、PFA層462といった、二重かつ薄膜状の絶縁被覆を構成した線状発熱体460aが得られる。その外径は、0.3〜0.50mmの範囲に留まり、本例の場合0.35mm程度にでき、絶縁耐圧を確保すると共に、発熱線463aから第二の防水絶縁箔451を介して、着座面410Uへの熱伝導を極めて俊敏に行うことができるのはもちろんである。
【0087】
このように、便座ヒータ450aは、第一の防水絶縁箔453と第二の防水絶縁箔451の外周端面に臨む境界部Pから浸水することを確実に防止すると共に、多重の絶縁性を確保し、十分短時間で着座面410Uを昇温できるので、電気絶縁性、安全性、および快適性を確保した暖房便座400aが提供できる。なお、本実施の形態は実施の形態1の発明にも適用できるものである。
【0088】
(実施の形態3)
図9は本発明の実施の形態3における暖房便座の要部拡大断面図である。本実施の形態は、実施の形態1における図2〜図7に示す構成と基本的に同じであり、また、図9においても実施の形態1と同一符号のものは同一構造を有し、実施の形態1と異なるところを中心に便座ヒータの構成、および動作、作用について説明する。
【0089】
図9において、実施の形態1、2と異なる点は、暖房便座400bに用いた便座ヒータ450bの第一の防水絶縁箔453の接着層として、第二の防水絶縁箔451の粘着層452aの厚さより大きくした、厚さ0.07mmの粘着層452cを用いたところである。
【0090】
第一の防水絶縁箔453の接着層を比較的厚い粘着層452cとしたことで、便座ヒータ450bを構成する過程で、加熱ローラー式のラミネータを使用する必要がないため、加熱に要するエネルギーを削減でき、また、線状発熱体460aの配設パターンを保持することが容易であるだけでなく、第一の防水絶縁箔453aを、第二の防水絶縁箔451の非粘着層側に貼着する時点で、万一、皺455などが発生した場合でも粘着層452cの流動性により、皺455の部分に粘着層452cの一部が回りこむため、第一の防水絶縁箔453と第二の防水絶縁箔451の外周端面に望む境界部Pの防水性をより確実にした便座ヒータ450bが得られる。その結果、暖房便座400bの生産時の歩留まりをも向上させることができる。
【0091】
なお、本実施の形態は実施の形態1、2の発明にも適用できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上のように、本発明の便座ヒータおよびそれを用いた暖房便座は、暖房便座内に浸水などの異常が発生した場合でも、便座と発熱線とを確実に絶縁して安全性を確保しつつ、便座を迅速に昇温させることができるため、暖房便座に限らず使用者との接触を前提とする暖房機器への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施の形態1における暖房便座の要部拡大断面図
【図2】同実施の形態1における便座ヒータの正面図
【図3】同実施の形態1における暖房便座の分解斜視図
【図4】同実施の形態1における便座ヒータを着座面に貼着した状態図
【図5】同実施の形態1における図2に示す便座ヒータのxの領域の部分拡大図
【図6】同実施の形態1における暖房便座の制御ブロックの概念図
【図7】同実施の形態1における暖房便座で構成した衛生洗浄装置の斜視図
【図8】本発明の実施の形態2における暖房便座の要部拡大断面図
【図9】本発明の実施の形態3における暖房便座の要部拡大断面図
【図10】従来の暖房便座の正面図
【符号の説明】
【0094】
400、400a、400b 暖房便座
410U 着座面
450、450a、450b 便座ヒータ
451 第二の防水絶縁箔
452a、452c 粘着層
452b 熱融着性の接着層
453 第一の防水絶縁箔
460、460a 線状発熱体
462 PFA層
463a 発熱線
463b エナメル層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱線とその外周を被覆した薄い絶縁層で構成し、便座の裏側に設ける線状発熱体と、第一の防水絶縁箔および第二の防水絶縁箔を備え、前記第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔との間に前記線状発熱体を挟持し、さらに第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔との接合した外周端面に臨む境界部を、浸水防止構造にした便座ヒータ。
【請求項2】
第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔は、便座に接合しない前記第一の防水絶縁箔の面に接着層を設け、第一の防水絶縁箔の接着層側と第二の防水絶縁箔の非接着層との間に線状発熱体を挟持し、第一の防水絶縁箔を第二の防水絶縁箔に貼着した請求項1に記載の便座ヒータ。
【請求項3】
第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔は、ポリエステル系樹脂箔を用いた請求項1または2に記載の便座ヒータ。
【請求項4】
ポリエステル系樹脂箔は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドのうち、いずれかを用いた請求項1から3のいずれか1項に記載の便座ヒータ。
【請求項5】
第一の防水絶縁箔の接着層は熱融着性の接着層を用い、便座に接合する第二の防水絶縁箔の接着層は粘着層を用いた請求項1から4のいずれか1項に記載の便座ヒータ。
【請求項6】
第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔の接着層は、粘着層を用いた請求項1から5のいずれか1項に記載の便座ヒータ。
【請求項7】
第一の防水絶縁箔の粘着層は、第二の防水絶縁箔の粘着層よりも厚く構成した請求項6に記載の便座ヒータ。
【請求項8】
線状発熱体は、発熱線の絶縁層に少なくともエナメル層を構成した請求項1から7のいずれか1項に記載の便座ヒータ。
【請求項9】
線状発熱体は、発熱線の絶縁層を複数構成し、最内層にエナメル層を構成し、最外層にフッ素含有樹脂層を構成した請求項8に記載の便座ヒータ。
【請求項10】
金属材料を含む着座面と、請求項1から9のいずれか1項に記載の便座ヒータを備え、着座面の裏面に第二の防水絶縁箔の接着層側を貼着した暖房便座。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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