説明

便座装置およびそれを使用した衛生洗浄装置

【課題】便座の着座面の温度を極めて短時間で昇温させるともに、万が一の故障したときにも安全な便座暖房を提供する。
【解決手段】便座ヒータ450の金属箔ユニットの外形より大きい寸法の第一の防水絶縁箔455a、第二の防水絶縁455bで、金属箔ユニットの上下面をラミネートしたので、外部からの浸水を防止して絶縁性を強化した便座ヒータ450を構成でき、さらに、係止具480に貼着する形で断熱体490を設けたことで、密領域部460cから着座面410Uへの熱移動を抑制し、感熱部470aへ熱移動を集中化できる。
したがって、電気的安全性と、熱的安全性を共に確保した便座装置110を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度過昇防止装置を設けた便座装置とそれを使用した衛生洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の便座装置では、図17に示すように金属製便座1の裏面に設けた加熱手段2で便座を所定温度まで昇温させ、省エネを図るというものであった(例えば、特許文献1参照)。すなわち、この種の暖房便座において、加熱手段2は省電力のため使用者の便座への着座直前に通電して着座するまでの短時間に、すばやく便座を適温にしなければならないので、金属製の便座1を使用している。
【0003】
従って、臀部を直接に乗せ、かつ短時間に温度上昇させる暖房便座では、何らかの異常により便座への通電が所定の設定で停止せずに継続されるような事態が発生した時、比較的短時間で適温を越えて使用者に不快感を与え、これにより使用者が便座から立ち上がる必要が生じるという事態も考えられる。
【特許文献1】特開2003−79539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、前記従来の構成では、万が一の異常などにより便座1の温度過昇が発生しうるという問題があった。
【0005】
前記従来の技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、なんらかの異常が発生し便座の温度制御が不能となった場合でも、便座の温度過昇を速やかに検知して温度過昇の防止を可能とし、それにより安全な便座装置と、さらにそれを使用した衛生洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の便座装置は、着座面を有し、金属材料を含む便座と、線状発熱体と、前記線状発熱体を所定の配設パターンで保持する金属箔と、前記金属箔の防水絶縁箔と、感熱部を有し、前記着座面の温度過昇防止装置と、前記温度過昇防止装置の係止具とを備え、前記線状発熱体を挟持した前記金属箔を防水絶縁箔でラミネートして構成した便座ヒータを前記着座面の裏側に貼着させた暖房便座であって、前記便座ヒータは前記配設パターンの経路中に前記線状発熱体の密領域部を構成し、前記密領域部を温度過昇防止装置の感熱部と係止具によって挟持すると共に、前記密領域部から着座部側への熱移動を抑制する断熱体を設けたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の便座装置は、絶縁性の確保といった電気的安全性と、着座部の高温化防止といった熱的安全性を共に確保できる便座ヒータとそれを用いた便座装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
第1の発明は、着座面を有し、金属材料を含む便座と、線状発熱体と、前記線状発熱体を所定の配設パターンで保持する金属箔と、前記金属箔の防水絶縁箔と、感熱部を有し、前記着座面の温度過昇防止装置と、前記温度過昇防止装置の係止具とを備え、前記線状発熱体を挟持した前記金属箔を防水絶縁箔でラミネートして構成した便座ヒータを前記着座
面の裏側に貼着させた暖房便座であって、前記便座ヒータは前記配設パターンの経路中に前記線状発熱体の密領域部を構成し、前記密領域部を温度過昇防止装置の感熱部と係止具によって挟持すると共に、前記密領域部から着座部側への熱移動を抑制する断熱体を設けたものである。
【0009】
これにより、外部からの浸水を防いで線状発熱体が水分に接触することを防止して絶縁性を強化した便座ヒータを構成できる。その一方で、温度過昇防止装置の感熱部と密領域部との距離が拡大して、そのままでは温度過昇防止装置の温度応答遅れという課題が出る。
【0010】
そこで、密領域部を温度過昇防止装置の感熱部と係止具によって挟持すると共に、前記密領域部から着座部側への熱移動を抑制する断熱体を設けたことで、密領域部から着座部への熱移動を抑制して感熱部へ熱移動を集中化できる。
【0011】
したがって、前記した温度過昇防止装置の温度応答遅れといった課題を克服して、何らかの異常によって生じる温度過昇を速やかに検知できる。
【0012】
第2の発明は、特に第1の発明において、密領域部は、使用者が通常着座する頻度の少ない便座領域に位置するよう、便座ヒータの外周部近傍に設けたものである。
【0013】
これにより、密領域部での発熱は温度過昇防止装置の感熱部へ集中して熱移動するため、密領域部に相当する着座部の位置では、通常使用者が着座して腿部、臀部などが接触する部分とは温度上昇が鈍くなる場合がある。
【0014】
そのため、使用者の腿部、臀部といった確実に接触する着座部の部位を遠く離れた部位、例えば、使用者が着座した状態における便座後方の左右の端部に密領域部を位置させることができる。
【0015】
したがって、このように使用者が通常着座する頻度の少ない便座領域に対応の位置にさせたことにより、使用者が着座した場合に温度上昇速度の差による違和感を感ずることがなく快適な使用感を享受することができる。
【0016】
第3の発明は、特に第1または第2の発明において、便座ヒータは、第一の金属箔と第二の金属箔の間に線状発熱体を挟持して所定の配設パターンを保持し、第一の金属箔と第二の金属箔の露出部を第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔で挟持し、第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔との接合した境界部での浸水を防止したものである。
【0017】
これにより、第一の金属箔と第二の金属箔の間に線状発熱体を挟持して所定の配設パターンを保持することで、線状発熱体からの発熱を第一、第二の金属箔全体に均一に拡散させることができる。
【0018】
そして、第一、第二の金属箔の露出部を第一、第二の防水絶縁箔で挟持し、少なくとも第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔との接合した境界部での浸水を防止したことで、第一、第二の金属箔の金属端部が水分と接触することを確実に防止することができる。
【0019】
このようにして、均一な熱拡散状態を維持でき、かつ外部からの水分の内部の第一、第二の金属箔への侵入を防止して絶縁性を確保した、安全なシート型の便座ヒータを実現することができる。
【0020】
第4の発明は、特に第1から第3のいずれか1つの発明において、第一の防水絶縁箔と
第二の防水絶縁箔は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどのポリエステル系樹脂箔のうち、いずれかを用いたものである。
【0021】
これにより、線状発熱体の実際の最高使用温度にあわせた選択が可能である。例えば、180℃程度までならポリエチレンテレフタレート、200℃程度であればポリエステルイミド、250℃程度であればポリアミドイミドまたはポリイミドといった選択が可能となる。
【0022】
第5の発明は、特に第1から第4のいずれか1つの発明において、温度過昇防止装置は、サーモスタットを用いたものである。これにより、異常が発生した時に速やかにサーモスタットにより、安全に機器の停止を行うことが可能であり、使用者は安全に使用することができる。
【0023】
第6の発明は、特に第1から第5のいずれか1つの発明において、断熱体は、係止具と一体で設けたものである。これにより、断熱体は便座ヒータの密領域部を介して、温度過昇防止装置の感熱部に対向して確実に嵌合される。したがって、係止具、断熱体、密領域部、温度過昇防止装置の感熱部が、順次一定の密着度、一定の位置に固定され、温度過昇防止装置の感熱部への熱移動状態を一定に保持することができる。
【0024】
第7の発明は、特に第1から第6のいずれか1つの発明において、断熱体は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどのポリエステル系樹脂箔のうちいずれかを一つを用い、片側の面に粘着層を設けたものである。
【0025】
これにより、第一、または第二の防水絶縁箔と同様に、180℃程度までならポリエチレンテレフタレート、200℃程度であればポリエステルイミド、250℃程度であればポリアミドイミドまたはポリイミドといった選択が可能で、片方の面の粘着層が係止具に貼着されることで、断熱体の確実な固定が可能となる。したがって、第一、または第二の防水絶縁箔の残材を活用することも可能で、この場合、断熱体の製造コストを低減することもできる。
【0026】
第8の発明は、特に第1〜第7のいずれか1つの発明において、断熱体および係止具は、プレコート金属板を成型して構成し、コート面を便座ヒータの密領域部に接触させたものである。これにより、係止具のプレコート部は、主に樹脂などの材質で構成されているので、係止具を成型した時点で断熱体も同時形成できる。
【0027】
したがって、断熱体を別途、係止具に設ける手間が不要で製造コストを低減できるだけでなく、作業者による断熱体の設置不良などの事態も防止でき、熱的安全性に対する信頼性を高めることができる。
【0028】
第9の発明は、特に第8の発明において、プレコート金属板は、フッ素樹脂被覆金属板を用いたものである。これにより、フッ素樹脂被覆部分が断熱体の機能を果たすため、200℃程度の比較的高温状態や腐食環境においても、全く性状を変化させることがない断熱体を備えたものとなる。したがって、耐久的にも長寿命で、温度過昇防止装置の作動温度の安定性を維持することができる。
【0029】
第10の発明は、特に第1から第9のいずれか1つに記載の便座装置と、本体部とを備えたものである。これにより、便座に生じた異常な温度過昇を応答速度の速い温度過昇防止装置で検知して、遮断することができ、安全で快適な衛生洗浄装置を提供することができる。
【0030】
本発明の目的は、第1の発明から第10の発明を実施の形態の要部とすることにより達成できるので、各請求項に対応する実施の形態の詳細を、以下に図面を参照しながら説明し、本発明を実施するための最良の形態の説明とする。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0031】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における便座装置の概略構成の断面図、図2は同便座装置に用いた便座ヒータの正面図、図3は同便座全体の分解斜視図、図4は同便座ヒータを着座面に貼着した状態図、図5は図2に示すxの領域の部分拡大図、図6は線状発熱体の部分拡大断面図、図7は他の線状発熱体の例の部分拡大断面図、図8は同便座装置の制御ブロックの概念図、図9は温度過昇防止装置を装着した便座ヒータの正面図、図10は温度過昇防止装置の斜視図、図11は温度過昇防止装置の係止具の斜視図、図12は温度過昇防止装置の装着部の部分拡大断面図、図13は温度過昇防止装置と着座面の温度上昇特性図である。
【0032】
以上の図面を用いて、本発明の実施の形態1における便座装置の構成、および動作、作用について説明する。
【0033】
図1から図4において、便座400は、図1、図3に示すように合成樹脂製の便座基盤420と、アルミニウムなどの高い熱伝導性を有する金属で形成された着座面410Uと、便座基盤420と着座面410Uの間に便座ヒータ450が介在する構成で、便座ヒータ450は、粘着層(図示せず)により着座面410Uの内面部の一定の位置に貼着されて固定されている。また、便座ヒータ450には、通常時の着座面410Uの温度調節のためのサーミスタ401aが装着されている。
【0034】
さらに、便座ヒータ450は、一定のパターンで線状発熱体460を配線させたもので、その線状発熱体460の一部のパターンは、内部にバイメタルスイッチ(図示せず)を有するサーモスタットからなる温度過昇防止装置470の感熱部470a(図12)に接触し、感熱部470aに熱集中させるため、線状発熱体460を密に配線した領域である密領域部460c(図1、図2)となっている。そして、密領域部460cは、使用者が通常着座する頻度の少ない便座の領域に位置するよう、便座ヒータの外周部近傍に設けている。
【0035】
一方、便座装置の制御部90には、図8に示すように人体検知センサ600からの信号入力600a、着座信号入力610a、サーミスタ401aからの出力、さらには、間に温度過昇防止装置470を介して便座ヒータ450の通電経路が接続されている。
【0036】
図2、図5に示すように、線状発熱体460は、着座面410Uの形状に合わせて左右方向に蛇行する蛇行形状に配設される。線状発熱体460は、蛇行形状の曲げ部が着座面の外側の側辺および内側の側辺の近傍に位置するように配置されている。具体的には、1本の連続する線状発熱体460が、第1系列Aの線状発熱体460aと、第2系列Bの線状発熱体460bとに分けられ、両者はほぼ平行に配列されている。
【0037】
この配列は、曲げ部間の線間隔が短いため、熱膨張、収縮に起因する線状発熱体460の線長の変化が小規模となり、また曲げ部で熱膨張、収縮による熱ストレスを緩衝し、断線などを抑制する構成となっている。なお、図2に示すxの領域の曲げ部の長さLa、Lbおよび曲げ部間の間隔Sは、任意の調整が可能で、それによって便座ヒータ450の加熱分布を調整することができる。例えば、便座ヒータ450の外側および内側の側辺近傍の加熱密度が便座ヒータ450の中央部の加熱密度よりも高くなるように、曲げ部の長さLa,Lbおよび曲げ部間の間隔Sを調整し、便座ヒータ450のほぼ全領域において均
等な暖房温度を維持することができる。
【0038】
また、本例では、図示矢印で示すように第1系列Aの線状発熱体460aでの電流の向きが、第1系列Bの線状発熱体460bでの電流の向きと対向するため、双方の線状発熱体460a、460bから発生する磁場が打ち消される傾向にあり、その結果、ノイズ等の発生が抑制される。
【0039】
図2、図12で、着座面410Uは、例えば厚さ1mmのアルミニウム板413により形成される。アルミニウム板413の上下面には、約150〜180℃の耐熱性を有するポリエステル樹脂製の上面塗装膜411、下面塗装膜412が約0.05〜0.2mmの厚さで形成され、アルミニウム板の生地が露出しないようになっている。なお、着座面410Uには、アルミニウム板413以外にも、銅板、ステンレス板、アルミニウムめっき鋼板および亜鉛アルミニウムめっき鋼板のうちいずれか、または複数の組合せを用いてもよい。
【0040】
一方、着座面410Uの下面塗装膜412側には便座ヒータ450が貼着されている。そして、便座ヒータ450の線状発熱体460は、第一の金属箔453の粘着層453b側と第二の金属箔451の非粘着層451a側との間に線状発熱体460を挟持させて、前述の蛇行形状配列を保持させたものである。第一の金属箔453、第二の金属箔451は、例えば、比較的熱伝導率の高い厚さ0.05mmのアルミニウム箔を用いているが、その他、銅箔などさらに高い熱伝導率を有する金属材料を使用すると、便座ヒータ450としての加熱性能は上昇する。
【0041】
さらに、便座ヒータ450は、第一の金属箔453と第二の金属箔451との間に線状発熱体460を挟持した金属箔ユニットを、第一の金属箔453、第二の金属箔451の外周端部Aを含む寸法よりも大きい寸法を有する第一の防水絶縁箔455a、第二の防水絶縁箔455bで上下面をラミネートし、第一の防水絶縁箔455a、第二の防水絶縁箔455bの一方に設けた粘着層(図示せず)により接合した第一の防水絶縁箔455a、第二の防水絶縁箔455bの外周端部の境界部Pでは粘着層により浸水防止構造ができあがり、金属箔ユニットの周囲である第一の金属箔453、第二の金属箔451の外周端部Aからの浸水を防止した構成のシート型の便座ヒータ450となっている。
【0042】
便座ヒータ450の第一の防水絶縁箔455a、第二の防水絶縁箔455bは、例えば、ポリエステル系樹脂の中で比較的汎用性の高いポリエチレンテレフタレート(PET)を用いている。また、第一の防水絶縁箔455a、第二の防水絶縁箔455bの厚みは、線状発熱体460を強固に挟持するための軟性、および防水絶縁性を必要とするため、0.012〜0.05mmの範囲であれば良く、本例では0.025mmとした。
【0043】
なお、第一の防水絶縁箔455a、第二の防水絶縁箔455bの材質は、線状発熱体の使用温度範囲、許容コストなどにより、ポリエステル系樹脂の中でもさらに耐熱性の高い材料の選択が可能である。例えば、200℃程度であればポリエステルイミド(PEI)、250℃程度であればポリアミドイミド(PAI)またはポリイミド(PI)といった選択が可能である。
【0044】
図6に示す線状発熱体460は、断面が略円形の発熱線463a、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462により構成される。断面円形の発熱線463aの外周面がエナメル層463bおよび絶縁被覆層462で順に被覆される。発熱線463aおよびエナメル層463bによりエナメル線463が構成される。
【0045】
発熱線463aは、例えば0.16〜0.25mmの直径を有する銅または銅合金から
なる。本実施の形態では、発熱線463aとして、直径0.168mmの4%Ag−Cu合金からなる高抗張力型ヒータ線が用いられる。因みに抵抗値は0.88Ω/mである。
【0046】
また、発熱線463aの第一の絶縁被覆であるエナメル層463bは、例えば180〜250℃の耐熱性を有するポリエステルイミド(PEI)からなる。エナメル層463bの膜厚は、0.02mm以下であり、本実施の形態では0.01〜0.016mmである。
【0047】
このようなエナメル線463は、エナメル層463bの膜厚が極薄い0.01〜0.02mm程度であっても、電気用品技術基準である1000Vで1分間以上の電気絶縁耐圧性能を十分確保することができる。また、エナメル層463bの他の材料としては、ポリイミド(PI)またはポリアミドイミド(PAI)などを用いれば、さらに300℃程度まで耐熱性が上昇する。
【0048】
さらに、絶縁被覆層462は、例えば260℃の耐熱性を有するパーフルオロアルコキシ混合物(以下PFA層462と称する)等のフッ素樹脂からなる。PFA層462の厚みは、例えば0.05〜0.15mmである。PFA層462の形成は、押出し加工により行うことができる。この場合、PFA層462の厚みが0.05程度に薄くても、雷サージにも耐える電気絶縁耐圧性能を確保することができる。
【0049】
したがって、発熱線上にエナメル層463bと薄膜状のPFA層462といった二重の絶縁層を構成した線状発熱体460が得られる。その外径は、0.3〜0.50mmの範囲に留まり、本例の場合0.35mm程度にでき、絶縁耐圧を確保すると共に、発熱線463aから第二の金属箔451および着座面410Uへの熱伝導を極めて俊敏に行うことができる。
【0050】
このように耐熱性能に優れたエナメル線463をヒータ線として使用した場合、十分短時間で便座を昇温でき、かつ電気絶縁性および安全性を確保できるので、種々の便座装置への適用が可能である。
【0051】
図7は、線状発熱体460の他の構成例で、複数のエナメル線463が撚り合わされたもので、各エナメル線463は、直径0.09mmの発熱線463aに第一の絶縁被覆として膜厚0.01mmのエナメル層463bが形成される。さらに、複数のエナメル線463の線束を囲繞するように、絶縁被覆層としてPFA層462を形成することにより同様に二重の絶縁構造を確保している。
【0052】
なお、図7では、7本のエナメル線463が撚り合わされているが、エナメル線463の数は7本に限定されるものではない。
【0053】
この線状発熱体460の構成では、複数のエナメル線463を撚り合わせた撚り線とすることで、熱膨張、収縮による熱ストレスを線束全体に分散させることができるため、断線などの事態を抑制できる。また、撚り線のうち少なくとも1本をエナメル層463bのない非絶縁電線とすることにより、局所高熱等によりいずれかのエナメル線463のエナメル層463bが絶縁破壊された場合にも、その絶縁破壊を迅速に検知し、安全に発熱線463aへの通電を遮断することができる。
【0054】
図8において便座装置110は、本体部200、遠隔操作装置300、便座400および人体検知センサ600を備える。本体部200は、制御部90、温度測定部401、ヒータ駆動部402、便座温調ランプRA1および着座センサ610を含む。また、便座部400は便座ヒータ450およびサーミスタ401aを備える。
【0055】
制御部90は、例えばマイクロコンピュータからなり、使用者の入室および便座400の温度等の判定、タイマ機能、種々の情報の記憶、ならびに、ヒータ駆動部402の動作を制御するための通電率切替などの機能を有する。
【0056】
温度測定部401は、サーミスタ401aに接続され、サーミスタ401aから出力される信号に基づいて便座400の温度を測定し、ヒータ駆動部402は、便座ヒータ450に接続され、便座ヒータ450を駆動する。
【0057】
本例では、通常の使用状態として初期設定時では、制御部90がヒータ駆動部402を制御することにより、便座400が待機温度として例えば約18℃に温度調整される。制御部90では、人体検知センサ600からの入室検知信号600aにより使用者のトイレットルームへの入室を検知する。ついで、制御部90は、便座400の測定温度値、および便座設定温度に基づき、所定のヒータ制御パターンの選択を経て、ヒータ駆動部402により便座ヒータ450が駆動され、便座400の温度が便座設定温度へと瞬時に加温される。したがって、使用者が便座部400に着座した時に冷感を覚えることなく、快適な使用が可能である。
【0058】
次に、図2、図9〜12で、便座ヒータ450の後部の片側に線状発熱体460が高密度で蛇行する密領域部460cが形成され、密領域部460cにバイメタルスイッチ(図示せず)を内蔵したサーモスタットからなる温度過昇防止装置470が装着されている。サーモスタットは、復帰型と非復帰型があり、復帰型を用いた場合は、サーモスタットが接続された通電経路中に非復帰型の温度過昇防止装置を別途設置する方が望ましい。
【0059】
本例では、サーモスタットは一例として復帰型を用い、非復帰型の温度過昇防止装置として温度ヒューズ(図示せず)を便座ヒータ450に設置した構成である。温度過昇防止装置470は、感熱部470aを略円缶状の熱良導体で構成している。感熱部470aは、その周囲を囲繞するように、アルミニウムなどの熱伝導性の良好な金属からなる固定フランジ470bを嵌合させ、感熱部470aと固定フランジ470bを密領域部460cに密着させている。
【0060】
感熱部470aと密領域部460cとは、着座面410U側の係止具480と温度過昇防止装置470の固定フランジ470bとの間に密領域部460cを挟持しながら、係止具480に設けた2箇所の円筒状のバーリング部480aを、固定フランジ470bの対応する位置決め孔470cに合わせたのち、バーリング部480aを嵌合させることによって、密着状態を確保することができる。
【0061】
この時、係止具480の密領域部460c側の面の中央には、片側に粘着層(図示せず)を設けたポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂箔で構成した断熱体490が前記粘着層を下にして貼着されている。ちなみに、断熱体490の厚さは、0.1mm前後が貼着しやすい。なお、材料コスト低減の観点から、断熱体490の材料として、第一の防水絶縁箔455a、または第二の防水絶縁箔455bのいずれかの残材を使用することも可能である。
【0062】
さらに、密領域部460cと感熱部470aの間に、熱伝導促進グリス、熱伝導促進シートなどの熱伝導補助材料を介在させることにより、感熱部470aでの受熱量をさらに増大させることが可能である。本例では、熱伝導率0.8〜1W/m・Kのシリコン系の熱伝導グリス495を使用している。
【0063】
また、本例では、感熱部470aと固定フランジ470bの材質にアルミニウムまたは
アルミニウム合金を用いたが、銅または銅合金などの熱良導性の金属を用いることも可能である。その場合、水分混入という事態も想定されるため、異種金属の接触部で発生しやすいガルバニ腐食防止の点から、感熱部470aと固定フランジ470bはほぼ同一の材質か、イオン化傾向が比較的近い材質を用いることが望ましい。
【0064】
一般に、暖房便座100は着座面410Uに直接皮膚を接触させて着座するため、安全に対しては十分な配慮が必要である。通常使用では安全、快適に使用できるが、万一何らかの異常により制御部90に不具合が生じ、便座ヒータ450への通電制御が不能となった場合は、早急な安全装置の作動が必要である。本例における温度過昇防止装置470は、以下に述べるように作動する。
【0065】
図13は、制御部90が故障したことを想定して線状発熱体460に通電した場合の温度過昇防止装置470の検知温度と着座面410Uの表面温度を測定した結果である。図13において曲線(A)、(A’)は着座面12の表面温度であり、曲線(B)、(B’)は温度過昇防止装置470の検知温度である。
【0066】
線状発熱体460への通電が開始されると、着座面410Uの表面温度は時間t1で便座最高設定温度(T1)に達する。通常であれば(T1)に達した時点で、制御部90からの指令で通電を停止させるが、何らかの異常が発生した場合は、このまま通電され続ける。
【0067】
温度過昇防止装置470のOFF動作温度が(T3)に設定されていると、着座面410Uの表面温度が便座最高設定温度(T1)以上であり、確実に異常昇温であると判断できる(T2)に達した時に、温度過昇防止装置470内部のバイメタルスイッチが反転動作して、線状発熱体460への通電を遮断する。
【0068】
このとき、着座面410Uと温度過昇防止装置470の温度は、着座面410Uでの熱拡散作用により、(t2−t1)秒間過昇温し続ける。ここで、温度過昇防止装置470のOFF動作温度は、物作り面や、コスト面を考慮すると交差0とするのは非常に困難であり、公差は±2℃とするのが一般的である。つまり、公差を考慮すると温度過昇防止装置470のOFF動作温度は(T3)〜(T3+4)となる。
【0069】
OFF動作温度が(T3+4)であれば、着座面410Uの温度と温度過昇防止装置470の検知温度の曲線は(A’)、(B’)となり、時間t3で温度過昇防止装置470が動作し、通電回路が遮断される。この場合は(t3−t1)秒間過昇温し続けたこととなる。つまり、温度過昇防止装置470のOFF動作温度のバラツキを考慮すると、過昇温する時間は最短で(t2−t1)秒間、最長で(t3−t1)秒間となる。
【0070】
安全面を考慮すると、過昇温時はできるだけ短時間で回路を遮断しなければならない。そのために、曲線(B)の傾きを大きくする、つまり、温度過昇防止装置470の温度応答速度を速くすることによって、時間(t3−t1)を短くすることができ、着座面410Uの温度が過昇する前に、線状発熱体460への通電回路を遮断することが可能となり、万が一の時でも安心安全に使用できる。
【0071】
以上のように、本発明においては、便座ヒータ450の金属箔ユニットの外形の寸法より大きな寸法の第一の防水絶縁箔455a、第二の防水絶縁箔455bで、便座ヒータ450の金属箔ユニットの上下面をラミネートして、周囲からの浸水を防止しているため、内部の便座ヒータ450の金属箔ユニットへの外部からの浸水を防止して絶縁性を強化した便座ヒータ450を構成できるが、そのままの構成では、温度過昇防止装置470の感熱部470aと密領域部460cとの距離が拡大して、温度過昇防止装置470の温度応
答遅れという課題が出る。
【0072】
そこで、係止具480と密領域部460cとの間に、係止具480に貼着する形で断熱体490を設けたことで、密領域部460cから着座面410Uへの熱移動を抑制し、逆に感熱部470aへ熱移動を集中化できる。
【0073】
したがって、前記した温度過昇防止装置470の温度応答遅れといった課題を克服して、何らかの異常によって生じる温度過昇を速やかに検知して、通電を遮断することができる。このようにして、浸水などの事態でも絶縁性の確保といった電気的安全性と、着座面の高温化防止といった熱的安全性を共に確保できる便座ヒータ450を用いた便座装置110を提供することができる。
【0074】
(実施の形態2)
図14は本発明の実施の形態2における係止具の斜視図、図15は同じく温度過昇防止装置の装着部の部分拡大断面図である。本実施の形態は、実施の形態1における図1〜図13に示す構成と基本的に同じであり、また、図14、図15においても実施の形態1と同一符号のものは同一構造を有し、実施の形態1と異なるところを中心に便座ヒータの温度過昇防止装置の装着部分の構成、および動作、作用について説明する。
【0075】
図14、図15において、実施の形態1と異なる点は、係止具485、および断熱体490を、フッ素樹脂被覆アルミニウム板からなるプレコート金属板487を成型して構成し、プレコート面を便座ヒータ450の密領域部460cに接触させたものである。
【0076】
これにより、実施の形態1と同様に、係止具485であるプレコート金属板487の断熱体490の作用により、密領域部460cから着座面410Uへの熱移動を抑制し、感熱部470aへ熱移動を集中化でき、何らかの異常によって生じる温度過昇を速やかに検知して、通電を遮断することができる。
【0077】
したがって、同様に、浸水などの事態でも絶縁性の確保といった電気的安全性と、着座面の高温化防止といった熱的安全性を共に確保できる便座ヒータ450を用いた便座装置110を提供することができる。
【0078】
また、係止具485のフッ素樹脂被覆部分が断熱体490として機能を果たすため、200℃程度の比較的高温状態や腐食環境においても、全く性状を変化させることがない断熱体490を備えたものとなる。
【0079】
本実施の形態は、実施の形態1の発明にも適用できる。
【0080】
(実施の形態3)
図16は、本発明の実施の形態3における衛生洗浄装置を示す外観斜視図で、実施の形態1、2に示した便座装置のうちいずれか一つを備えたものである。
【0081】
図16において、トイレットルーム内に設置された衛生洗浄装置900は、便器700の上面に取り付けられる。衛生洗浄装置800は、本体部200、遠隔操作装置300、便座部400および蓋部500により構成される。
【0082】
便座400は、実施の形態1、2に示した便座装置のうちいずれか一つを包含し、本体部200には、便座400および蓋部500が開閉可能に取り付けられている。また、本体部200には、便器700内に出入りする洗浄装置800と洗浄水供給機構(図示せず)が設けられるとともに、制御部90(図8)が内蔵される。
【0083】
使用者がトイレットルーム内に入室すると、人体検知センサ600(例えば反射型の赤外線センサ)が、人体から反射された赤外線を検出し、使用者の入室を検知する。その時点で、実施の形態1で述べたように、便座400の着座面410Uが、少なくとも使用者が冷感を感じない温度まで急速に、例えば6秒以内に昇温する。
【0084】
次いで、使用者が着座面410Uに着座すると、本体部200の正面上部に設けられる着座センサ610(例えば反射型の赤外線センサ)が、人体から反射された赤外線を検出することにより、便座400上に使用者が存在することを検知して、着座面410Uは快適に着座できる適温に保持される。
【0085】
そして、使用者が用便終了後に遠隔操作装置300を操作して洗浄指示を信号として本体部200に送ると、水道配管(図示せず)に接続された洗浄水供給機構と直結した洗浄装置800が突出して、その先端近傍から洗浄水(矢印)が噴出して使用者の局部を洗浄する。さらに、使用者が洗浄終了後に遠隔操作装置300を操作して洗浄停止を信号として本体部200に送ると、洗浄装置900が本体200内に収納される。最終的に、使用者が着座面410Uから立ち上がり、トイレットルームから退出する。
【0086】
以上が、便座装置の衛生洗浄装置800は通常使用時の概要で、使用者が着座面410Uに着座する際に、実施の形態1で述べたような制御部90に何らかの異常が発生し、便座ヒータ450への通電が一定の温度で停止せず継続するような場合には、温度過昇防止装置470、便座ヒータ450の密領域部460c、および係止具480に一体で設けた断熱体490の作用により、温度過昇防止装置470が速やかに作動し、使用者に対する安全性を確保できる。
【0087】
さらに、使用者の用便の過程などで便座400内部に浸水が発生しても、便座ヒータ450内への浸水は阻止でき、電気的絶縁性、熱的安全性を同時に確保、維持することが可能な衛生洗浄装置が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明の便座装置は、外部からの浸水を防止して絶縁性を強化した便座ヒータの温度過昇防止装置の温度応答遅れを克服して、絶縁性の確保といった電気的安全性と、着座面の高温化防止といった熱的安全性を共に確保できるので、便座装置に限らず使用者の接触を前提とする暖房機器の汎用的な安全機構技術としての適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施の形態1における便座装置の概略構成の断面図
【図2】同実施の形態1における便座ヒータの正面図
【図3】同実施の形態1における便座全体の分解斜視図
【図4】同実施の形態1における便座ヒータを着座面に貼着した状態図
【図5】同実施の形態1における便座ヒータの図2に示すxの領域の部分拡大図
【図6】同実施の形態1における線状発熱体の部分拡大断面図
【図7】同実施の形態1における線状発熱体の他の例の部分拡大断面図
【図8】同実施の形態1における便座装置の制御ブロックの概念図
【図9】同実施の形態1における温度過昇防止装置を装着した便座ヒータの正面図
【図10】同実施の形態1における温度過昇防止装置の斜視図
【図11】同実施の形態1における温度過昇防止装置の係止具の斜視図
【図12】同実施の形態1における温度過昇防止装置の装着部の拡大断面図
【図13】同実施の形態1における温度過昇防止装置と着座部の温度上昇特性図
【図14】本発明の実施の形態2における温度過昇防止装置の係止具の斜視図
【図15】同実施の形態2における温度過昇防止装置の装着部の拡大断面図
【図16】本発明の実施の形態3における衛生洗浄装置を示す外観斜視図
【図17】従来の便座装置の要部の断面図
【符号の説明】
【0090】
110 便座装置
200 本体部
400 便座
410U 着座面
450 便座ヒータ
451 第二の金属箔
453 第一の金属箔
455a 第一の防水絶縁箔
455b 第二の防水絶縁箔
460 線状発熱体
460c 密領域部
470 温度過昇防止装置(サーモスタット)
470a 感熱部
480、485 係止具
487 プレコート金属板
490、495 断熱体
900 衛生洗浄装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座面を有し、金属材料を含む便座と、線状発熱体と、前記線状発熱体を所定の配設パターンで保持する金属箔と、前記金属箔の防水絶縁箔と、感熱部を有し、前記着座面の温度過昇防止装置と、前記温度過昇防止装置の係止具とを備え、前記線状発熱体を挟持した前記金属箔を防水絶縁箔でラミネートして構成した便座ヒータを前記着座面の裏側に貼着させた暖房便座であって、前記便座ヒータは前記配設パターンの経路中に前記線状発熱体の密領域部を構成し、前記密領域部を温度過昇防止装置の感熱部と係止具によって挟持すると共に、前記密領域部から着座部側への熱移動を抑制する断熱体を設けた便座装置。
【請求項2】
密領域部は、使用者が通常着座する頻度の少ない領域に位置するよう、便座ヒータの外周部近傍に設けた請求項1に記載の便座装置。
【請求項3】
便座ヒータは、第一の金属箔と第二の金属箔の間に線状発熱体を挟持して所定の配設パターンを保持し、第一の金属箔と第二の金属箔の露出部を第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔で挟持し、第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔との接合した境界部での浸水を防止した請求項1または2に記載の便座装置。
【請求項4】
第一の防水絶縁箔と第二の防水絶縁箔は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどのポリエステル系樹脂箔のうち、いずれかを用いた請求項1から3のいずれか1項に記載の便座装置。
【請求項5】
温度過昇防止装置は、サーモスタットを用いた請求項1から4のいずれか1項に記載の便座装置。
【請求項6】
断熱体は、係止具と一体で設けた請求項1から5のいずれか1項に記載の便座装置。
【請求項7】
断熱体は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどのポリエステル系樹脂箔のうちいずれかを一つを用い、片側の面に粘着層を設けた請求項1から6のいずれか1項に記載の便座装置。
【請求項8】
断熱体および係止具は、プレコート金属板を成型して構成し、コート面を便座ヒータの密領域部に接触させた請求項1から7のいずれか1項に記載の便座装置。
【請求項9】
プレコート金属板は、フッ素樹脂被覆金属板を用いた請求項8に記載の便座装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の便座装置と、本体部とを備えた衛生洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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