説明

便座装置及びトイレ装置

【課題】便座が回動したときに、便座後部とタンクなどとの干渉を回避できる、もしくは使用者が手すりなどをより近い位置で使用することができる便座装置及びこれを備えたトイレ装置を提供する。
【解決手段】便器の上部に固定されるベース部と、前記ベース部の上部に設けられる便座と、を備え、前記ベース部及び前記便座のいずれか一方は、第1のガイド部を有し、いずれか他方は、前記第1のガイド部に係合する第1の回動軸を有し、前記ベース部及び前記便座のいずれか一方は、第2のガイド部を有し、いずれか他方は、前記第2のガイド部に係合する第2の回動軸を有し、前記便座は、前記第1ガイド部と、前記第2のガイド部と、前記ベース部の上面と、に略沿うように前後移動しつつ回動可能とされたことを特徴とする便座装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便座装置及びトイレ装置に関し、具体的には回動可能な便座を有する便座装置及びこれを備えたトイレ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車いすを使用している体の不自由な障害者などは、便座から車いすに移乗するとき、または車いすから便座に移乗するとき、トイレ室に備えられた手すりを利用したり、介護者からの介護を必要とする。一方、足腰の弱った高齢者なども同様に、便座から起立するとき、または便座に着座するとき、トイレ室に備えられた手すりなどを利用する。
【0003】
しかし、便座が略水平面内において便器などに固定されていると、使用者は車いすや手すりなどのある方向に体を向けようとしても便座が追従しないため、体の方向転換が容易ではない。すなわち、使用者が便座から車いすに移乗したり、手すりを利用することは容易ではない。一方、便座に移乗する場合であっても、便座が追従しないため、便座に着座しにくく、使用者は不安を感じるおそれがある。
【0004】
これに対して、便座が略水平面で回動できる便座装置がある(例えば、特許文献1および2)。特許文献1に記載された便座装置においては、ガイド部の溝が、便座受け台の左側辺部と右側辺部との略中心部に対して左右対称に設けられている。また、特許文献2に記載された便座装置においては、案内レールが、便座の左側辺部と右側辺部との略中心部に対して左右対称に設けられている。
【0005】
そのため、特許文献1および2に記載された便座装置は、便座が、便座の中央開口部の略中心を回動中心として回動できる構造を有している。したがって、使用者は、車いすや手すりなどの方向に体を方向転換しやすく、便座からの移乗を比較的容易に行うことができる。しかし、便座が便座の中央開口部の略中心を回動中心として回動するため、使用者にとって車いすや手すりなどが遠い。つまり、使用者は手すりなどを利用するときには、体を乗り出して不安定な姿勢を取らざるを得ず、足腰への負担が大きくなり、転倒の危険性が増すという問題がある。
【0006】
一方、便座が便器に対して滑らかに回動できる便座装置がある(例えば、特許文献3)。特許文献3に記載された便座装置においては、ガイド手段が、便座の左側辺部と右側辺部との略中心部に対して左右対称に設けられている。そのため、特許文献1および2に記載された便座装置と同様に、便座が便座の中央開口部の略中心を回動中心として回動する。したがって、使用者は手すりなどを利用するときには、体を乗り出して不安定な姿勢を取らざるを得ず、足腰への負担が大きくなり、転倒の危険性が増すという問題がある。さらに、特許文献1〜3に記載された便座装置は、便座が便座の中央開口部の略中心を回動中心として回動するため、便座が回動したときに、便座後部とタンクまたは臀部洗浄装置などとが干渉するおそれがある。
【特許文献1】特開2002−282171号公報
【特許文献2】特開平7−204125号公報
【特許文献3】特開平11−332787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、便座が回動したときに、便座後部とタンクなどとの干渉を回避できる、もしくは使用者が手すりなどをより近い位置で使用することができる便座装置及びこれを備えたトイレ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、便器の上部に固定されるベース部と、前記ベース部の上部に設けられる便座と、を備え、前記ベース部及び前記便座のいずれか一方は、第1のガイド部を有し、いずれか他方は、前記第1のガイド部に係合する第1の回動軸を有し、前記ベース部及び前記便座のいずれか一方は、第2のガイド部を有し、いずれか他方は、前記第2のガイド部に係合する第2の回動軸を有し、前記便座は、前記第1ガイド部と、前記第2のガイド部と、前記ベース部の上面と、に略沿うように前後移動しつつ回動可能とされたことを特徴とする便座装置が提供される。
【0009】
また、本発明の他の一態様によれば、便器と、前記便器に付設された上記の便座装置と、を備えたことを特徴とするトイレ装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、便座が回動したときに、便座後部とタンクなどとの干渉を回避できる、もしくは使用者が手すりなどをより近い位置で使用することができる便座装置及びこれを備えたトイレ装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる便座装置が設置されたトイレ室を例示する模式図である。
図1に表したトイレ室は、便座装置10と、便器100と、手すり300と、を備えている。便座装置10は、便座12と、ベース部14と、固定手段16と、を有している。ベース部14は便器100の上部に設置されており、便座12はベース部14の上部に設置されている。固定手段16は、便座12の後方部に付設されている。
【0012】
手すり300は、壁面200に設置されている。但し、手すり300は、壁面200に対向する図示しない壁面に設置されていてもよいし、便座装置10の前方にある図示しない壁面に設置されていてもよい。壁面200には、さらにペーパーホルダ310が設置され、そのペーパーホルダ310にトイレットペーパー312が設置されていてもよい。
【0013】
便座装置10の後方には、ロータンク104が設置されている。但し、図1に表したトイレ室においては、洗浄機構がいわゆる「ロータンク式」の大便器を例示しているが、この洗浄機構はロータンクを用いない、いわゆる「水道直圧式」であってもよい。また、便座12に座った使用者の「おしり」などに向けて水を噴射し、「おしり」の洗浄を可能とした温水洗浄便座装置102(臀部洗浄装置)が、ベース部14に付設されていてもよい。便座12は、後に詳述するように、ベース部14および便器100に対して移動することができるが、便座12の移動時に温水洗浄便座装置102が誤動作を起こすと、使用者の服に吐水がかかるなどするため、好ましくない。そこで、このように温水洗浄便座装置102と便座12とを分離することによって、着座センサが人体の非着座状態を検知することになり、温水洗浄便座装置102の誤作動防止を期待することができる。
【0014】
車いすを使用している体の不自由な障害者などは、便座12から車いすに移乗するとき、または車いすから便座12に移乗するとき、例えば手すり300などを利用する。一方、足腰の弱った高齢者なども同様に、便座12から起立するとき、または便座12に着座するとき、例えば手すり300などを利用する。
【0015】
図2は、本実施形態にかかる便座装置を斜めから眺めた模式斜視図であり、図2(a)は、便座が用便位置にある状態を表した模式図であり、図2(b)は、便座が前後移動を行いつつ回動を行った状態を表した模式図である。
ベース部14は、図示しない固定手段によって便器100に固定されている。図示しない固定手段は、いわゆる「ボルト」などと呼ばれるものであってもよい。そのため、ベース部14は、便器100に対して移動することはできない。
【0016】
便座12は、後に詳述するように、ベース部14に対向する面に回動軸22a、22b(図3参照)を有し、この回動軸22a、22bは、ガイド部24a、24b(図3参照)にそれぞれ係合されている。そのため、便座12は、ベース部14の上面に略沿うように、ベース部14および便器100に対して矢印400のように前後移動を行いつつ回動を行うことができる。なお、便座12は、前端部12bに切り欠き部を有していてもよい。このようにすれば、便座12が移動することによって生ずる便座12とベース部14との間の空隙において、使用者の身体が挟み込まれることを防止することができる。
【0017】
図3は、本実施形態にかかる便座装置の動作を表す模式図であり、図3(a)は、便座が用便位置にある状態を表した模式図であり、図3(b)は、便座が動作中の状態を表した模式図であり、図3(c)は、便座が最前方位置にある状態を表した模式図である。
【0018】
ベース部14は、便座12に対向する面にガイド部24a、24bを有している。ガイド部24a(第1のガイド部)は、ベース部14の左側方部に設けられており、便座12を上方から眺めた形状に略一致した湾曲形状を有している。またガイド部24b(第2のガイド部)は、ベース部14の右側方部に設けられており、便座12を上方から眺めた形状に略一致した湾曲形状を有している。ガイド部24aの長手方向に沿った幅中心曲線30aの長さと、ガイド部24bの長手方向に沿った幅中心曲線30bの長さと、を比較すると、幅中心曲線30aの長さの方が幅中心曲線30bの長さよりも長い。つまり、ガイド部24aの形状とガイド部24bの形状とは、便座12の開口部12aの左端部と右端部との略中心部に対して左右対称とはなっていない。
【0019】
便座12は、ベース部14に対向する面に回動軸22a、22bを有している。回動軸22a(第1の回動軸)はガイド部24aに係合され、また回動軸22b(第2の回動軸)はガイド部24bに係合されている。回動軸22aは、便座12が用便位置にあるときには、ガイド部24aの略最後部に位置するように設けられている。また、回動軸22bは、便座12が用便位置にあるときには、ガイド部24bの略最前部に位置するように設けられている。但し、本実施形態においては、便座12が回動軸22a、22bを有し、ベース部14がガイド部24a、24bを有しているが、これだけに限られるわけではなく、例えば、便座がガイド部を有し、ベース部が回動軸を有し、この回動軸がガイド部に係合されていてもよい。
【0020】
回動軸22a、22bは、ガイド部24a、24bにそれぞれ沿って移動することができる。すなわち、便座12は、図3(b)に表した動作のように、ベース部14および便器100に対して、ガイド部24a、24bに略沿うように、且つベース部14の上面に略沿うように、移動することができる。このとき、回動軸22aは、ガイド部24aに沿って前方へ移動する。一方、回動軸22bは、ガイド部24bに沿って後方へ移動する。
【0021】
回動軸22bが後方へ移動する速さよりも、回動軸22aが前方へ移動する速さの方が速いため、図3(b)に表した動作のように、便座12は左側方部が前方へ移動し、右斜め方向を向くようになる。すなわち、便座12は、ベース部14および便器100に対して、ガイド部24a、24bに略沿うように、且つベース部14の上面に略沿うように、前方移動を行いつつ回動を行うことができる。便座の中心位置は、後に詳述するように、略一点に固定されているわけではなく、便座12の移動に伴って中心位置も逐次移動する。これは、ガイド部24aの形状とガイド部24bの形状とが、便座12の開口部12aの左端部と右端部との略中心部に対して左右対称とはなっていないためである。
【0022】
便座12が、前方移動を行いつつ回動を行うことができるようにするためには、回動軸22bを適宜設定された一点において固定させることによって実現できるようにも思われる。しかし、このようにした場合には、ガイド部24aが、便座12を上方から眺めた形状に略一致した湾曲形状を有しているため、回動軸22aがガイド部24aから外れてしまい、便座12は前方移動を行いつつ回動を行うことはできない。これは、回動軸22aが回動軸22bを略中心として回動するようになるためである。したがって、回動軸22aが、ガイド部24aに沿って円滑に前方移動を行いつつ回動を行うことができるためには、回動軸22bを固定せずに、ガイド部24bを便座12を上方から眺めた形状に略一致した湾曲形状とする必要がある。
【0023】
さらに、便座12が、前方移動を行いつつ回動を行うことができるようにするためには、回動軸22bを適宜設定された一点において固定させ、ガイド部24aの形状を回動軸22bを中心とした円弧形状にさせることによって実現できるようにも思われる。しかし、便座12のベース部14に対向する面に、便座12の形状とは異なる円弧形状のガイド部を設けることは構造制約上、容易ではない。さらに、便座12は回動軸22bを略中心とした回動を行うことになるため、前方移動は伴わないことになる。
【0024】
便座12がさらに移動を続けると、図3(c)に表した状態のように、回動軸22aはガイド部24aの略最前部に位置するようになり、また回動軸22bはガイド部24bの略最後部に位置するようになる。このとき、便座12の前端部12bは、図3(a)の状態と比較すると、より前方および右側方に位置している。このように、便座12が前方移動を行いつつ回動を行うことによって、後に詳述するように、使用者は手すり300または車いすなどに近づくことができる。
【0025】
なお、ガイド部24aの長手方向に沿った幅中心曲線30aの長さと、ガイド部24bの長手方向に沿った幅中心曲線30bの長さと、を比較した場合、幅中心曲線30bの長さの方が幅中心曲線30aの長さより長くてもよい。この場合には、後に詳述するように、便器100の左側方の壁面に設置された手すりなどに近づくことができる。
【0026】
図4は、便座の中心位置の移動経路を表す模式図であり、図4(a)は、便座が用便位置にある状態を表した模式図であり、図4(b)は、便座が動作中の状態を表した模式図であり、図4(c)は、便座が最前方位置にある状態を表した模式図である。
図4(a)に表した状態のように、便座12が用便位置にあるときには、便座12の中心は中心12dの位置にある。ここで、便座12の中心は、便座12の開口部12aの左端部と右端部との中間点、且つ開口部12aの前端部と後端部との中間点とする。
【0027】
次に、便座12が、ベース部14の上面に略沿うように、前方移動を行いつつ回動を行うと、便座12の中心は、中心12eに位置するようになる。つまり、便座12の中心位置は、略一点に固定されているわけではなく、便座12の移動に伴って中心位置も逐次移動する。これにより、便座12の移動は、略一点を中心とした回動だけではなく、前方移動を伴うことが分かる。
【0028】
便座12が、ベース部14の上面に略沿うように、さらに前方移動を行いつつ回動を行うと、便座12の中心は、中心12fに位置するようになる。つまり、便座12の中心位置は、用便位置にある状態における中心12dから中心12fまで移動したことになる。したがって、便座12の前端部12bは、略一点を中心として回動した場合と比較すると、より前方およびより右側方に位置することになる。これにより、後に詳述するように、使用者は手すり300または車いすなどに近づくことができる。
【0029】
図5は、便座の固定手段を例示する模式図であり、図5(a)は、後方から眺めた模式図であり、図5(b)は、図4(a)におけるA−A断面を表す模式図である。
また、図6は、便座の固定手段を斜め上方から眺めた模式斜視図である。
なお、図6に表した便座装置において、説明の便宜上、便座12を省略している。
【0030】
本実施形態にかかる便座装置は、前述のように便座12が移動するため、便座12から車いすなどに移乗するときには、または車いすから便座12に移乗するときには、便座12を固定することが好ましい。移乗の際に便座12が移動すると、使用者の体勢が不安定となり、便座12から転倒するおそれがあるためである。したがって、本実施形態にかかる便座装置は、便座12の固定手段16を備えている。
【0031】
便座の固定手段16は、便座12の後方部に付設されている。固定手段16は、ベース部の方向に向かう固定軸16aと、使用者が操作するための取っ手16bと、を有している。固定軸16aと取っ手16bとは締結されており、また、図示しない付勢手段によって、ベース部14の方向へ付勢されている。付勢手段は、例えば「ばね」などが挙げられる。また、ベース部14は、固定軸16aが挿入されるための孔14dを有している。
【0032】
固定軸16aの直径と、孔14dの直径と、は略同じである。したがって、固定軸16aが孔14dに挿入された状態のときは、便座12は固定された状態、すなわち移動を抑制された状態となる。一方、便座12をベース部14の上面に略沿うように移動させる場合には、取っ手16bを上方へ持ち上げ、固定軸16aを孔14dから外すことで、便座12を移動させることができる。なお、孔14dの個数および設置位置は、適宜変更されてもよい。
【0033】
これによれば、使用者が便座から起立する場合や車いすへ移乗する場合、または便座へ移乗する場合、便座12の移動を止めることができるため、より安全に起立動作や移乗動作を行うことができる。
【0034】
図7は、本実施形態にかかる便座装置を右側方から眺めた模式図である。
図7に表した便座装置10において、便座12はベース部14および便器100に対して、矢印402のように前方移動を行いつつ回動を行っている。このとき、便座12の前端部12bと、便器100の前端部100bと、の間において空間106が生ずる。したがって、使用者は便座12から起立するとき、または車いすに移動するとき、この空間106に足を引き込むことができるため、自然な前傾姿勢を取ることができる。すなわち、使用者は足を空間106に引き込むことで、起立動作や車いすへの移乗動作を楽に行うことができる。
【0035】
さらに、便座12の後端部12cと、ロータンク104の前方面と、の間において空間108が生ずる。したがって、例えば、介護者が使用者の背後から介護を行う必要がある場合には、使用者とロータンク104との間の空間108に介護者が入り込むことで、介護を楽に行うことができる。これに対して、便座12が前方移動を行わない場合には、使用者とロータンク104との間に空間108が生ずることはなく、使用者の背後から介護を行うことは容易ではない。
【0036】
図8は、便座装置を斜め上方から眺めた模式図であり、図8(a)は、本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図8(b)は比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
【0037】
図8(a)および(b)に表した便座装置において、温水洗浄便座装置102(図1参照)は設けられていない。図8(a)に表した便座装置における便座12は、矢印402のように前方移動を行いつつ回動を行っている。この場合、便座12が前方移動を伴って回動を行っているため、便座12とロータンク104との間に空間110が生ずる。すなわち、便座12とロータンク104とは干渉しない。
【0038】
これに対して、図8(b)に表した比較例の便座装置における便座12は、便座12が用便位置にあるときの便座12の中心12d(図3参照)を略中心とした回動410のみを行っている。この場合には、便座12は前方移動を行っていないため、便座12とロータンク104とが、干渉部112において干渉するおそれがある。便座12とロータンク104とが干渉すると、便座12の回動角度が小さくなるだけではなく、便座12またはロータンク104が破損するおそれがあるため、好ましくない。
【0039】
図9は、温水洗浄便座装置が設けられた便座装置を斜め上方から眺めた模式図であり、図9(a)は、便座が用便位置にある状態を表す模式図であり、図9(b)は、本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図9(c)は比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
図9に表した便座装置において、便座12の後方に温水洗浄便座装置102(図1参照)が設けられている。図9(a)に表した状態のように、便座12が用便位置にあるときは、便座12と温水洗浄便座装置102とは干渉していない。
【0040】
図9(b)に表した便座装置における便座12は、矢印402のように前方移動を行いつつ回動を行っている。この場合、便座12が前方移動を伴って回動を行っているため、便座12と温水洗浄便座装置102との間に空間114が生ずる。すなわち、便座12と温水洗浄便座装置102とは干渉しない。
【0041】
これに対して、図9(c)に表した比較例の便座装置における便座12は、便座12が用便位置にあるときの便座12の中心12d(図3参照)を略中心とした回動410のみを行っている。この場合、便座12は前方移動を行っていないため、便座12と温水洗浄便座装置102とが、干渉部116において干渉するおそれがある。便座12と温水洗浄便座装置102とが干渉すると、便座12の回動角度が小さくなるだけではなく、便座12またはロータンク104が破損するおそれがあるため、好ましくない。
【0042】
図8および9を参照しつつ説明したように、便座12が、用便位置にあるときの便座12の中心12dを略中心とした回動410のみを行う場合、便座12の後方部において、便座12と、ロータンク104または温水洗浄便座装置102と、が干渉するおそれがある。これに対して、本実施形態の便座装置によれば、便座12は矢印400のように前方移動を行いつつ回動をおこなうため、便座12と、ロータンク104または温水洗浄便座装置102と、の干渉を回避することができる。
【0043】
図10は、便座と手すりとの位置関係を上方から眺めた模式上面図であり、図10(a)は本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図10(b)は、比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
また、図11は、便座と手すりとの位置関係を斜め上方から眺めた模式斜視図であり、図11(a)は本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図11(b)は、比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
図10および11に表した便座装置において、回動軸22a、22bおよびガイド部24a、24bは、図3における便座12およびベース部14のそれぞれの右側辺部と左側辺部との略中心部に対して左右対称となる位置に設けられている。したがって、便座12の前端部12bは、図3に表した便座装置とは異なり、左斜め方向を向くようになる。
【0044】
なお、便座12を座面と基台部との二層構造に分割し、基台部に回動軸22a、22bを設けてもよい。このようにすれば、便座装置10を設置するときに、基台部を表裏反対にして便座12に固定し、かつベース部14を表裏反対に便器100に固定することによって、回動軸22a、22bおよびガイド部24a、24bを、便座12およびベース部14のそれぞれの右側辺部と左側辺部との略中心部に対して左右対称の位置に設けることができる。
【0045】
図10(a)および図11(a)に表した動作のように、本実施形態にかかる便座装置10の便座12は、矢印402のように前方移動を行いつつ回動を行うことができる。つまり、便座12の前端部12bは、用便位置にある場合と比較すると、壁面200に設置された手すり300により近づくことができる。また、便座12の中心位置は、中心12dから中心12fへと移動している。したがって、便座12が前方移動を行うことによって、使用者は手すり300に近づくことができる。さらに便座12が回動を行うことによって、使用者は身体を手すり300の方向に向けることができ、手すり300に近づくことができる。
【0046】
このようにして、使用者は足腰への負担を軽減した状態で、手すり300を利用して起立したり、車いすに移乗することができる。一方、便座12に着座する場合においても、便座12が手すり300または車いすなどに近づくことができるため、使用者は安心して着座することができる。また、使用者が小柄で手すり300に手が届きにくい場合であっても、便座12を前方移動させつつ回動させることで、手すり300に近づくことができるため、使用者は体格によらず楽に手すり300を利用することができる。
【0047】
使用者が車いすを使用している場合、トイレ室内における車いすでの移動を少なくすることができれば、使用者および介護者にとって楽になる。これは、狭いトイレ室内において、車いすを自由に移動させることが容易ではないためである。そこで、便座12を前方移動させつつ回動させることで、便座12を車いすに近づけることができるため、トイレ室内における車いすでの移動を少なくすることができる。したがって、使用者は便座12または車いすからの移乗動作を楽に行うことができ、介護者にとっても楽に介護を行うことができる。
【0048】
これに対して、図10(b)および図11(b)に表した動作のように、比較例にかかる便座装置は、便座12が用便位置にあるときの便座12の中心12dを略中心とした回動410のみを行う。つまり、便座12の前端部12bを、手すり300の方向に向けることはできるが、図10(a)および図11(a)に表した便座装置のようには、手すり300に近づけることはできない。
【0049】
したがって、便座12に着座した使用者にとっては、手すり300が遠いため、手すり300を利用する場合は、無理に体を乗り出して不安定な姿勢で手すり300を掴む必要がある。しかし、この動作は足腰への負担が大きいため、足腰の弱った高齢者などにとっては容易ではない。また、便座12が手すり300に近づかないため、便座12へ移乗する場合、使用者は不安を感じるおそれがあり、転倒の危険性が増すという問題がある。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、便座12は前後移動を行いつつ回動を行うことができるため、便座12と、ロータンク104または温水洗浄便座装置102と、の干渉を回避することができる。また、便座12が手すり300または車いすに近づくことができるため、使用者は足腰への負担を軽減した状態で、手すり300を利用して起立したり、車いすに移乗することができる。一方、便座12に着座する場合においても、使用者は安心して着座することができる。また、便座12は前方移動404を行うため、使用者は足を空間106に引き込むことで、起立動作や車いすへの移乗動作を楽に行うことができる。一方、介護者は、使用者とロータンク104との間の空間108に入り込むことで、使用者の背後から介護を楽に行うことができる。さらに、便座12が車いすに近づくことができるため、トイレ室内における車いすでの移動を少なくすることができる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、回動軸22a、22bやガイド部24a、24bなどが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや便座装置10の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、ベース部14に回動軸22a、22bが設けられ、便座12にガイド部24a、24bが設けられていてもよい。あるいは、ベース部14に回動軸22a、22bのいずれか一方と、ガイド部24a、24bいずれか一方と、が設けられ、便座12にはこれらに係合する回動軸22a、22bのいずれか他方と、ガイド部24a、24bのいずれか他方と、が設けられていてもよい。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態にかかる便座装置が設置されたトイレ室を例示する模式図である。
【図2】本実施形態にかかる便座装置を斜めから眺めた模式斜視図であり、図2(a)は、便座が用便位置にある状態を表した模式図であり、図2(b)は、便座が前後移動を行いつつ回動を行った状態を表した模式図である。
【図3】本実施形態にかかる便座装置の動作を表す模式図であり、図3(a)は、便座が用便位置にある状態を表した模式図であり、図3(b)は、便座が動作中の状態を表した模式図であり、図3(c)は、便座が最前方位置にある状態を表した模式図である。
【図4】便座の中心位置の移動経路を表す模式図であり、図3(a)は、便座が用便位置にある状態を表した模式図であり、図3(b)は、便座が動作中の状態を表した模式図であり、図3(c)は、便座が最前方位置にある状態を表した模式図である。
【図5】便座の固定手段を表す模式図であり、図5(a)は、後方から眺めた模式図であり、図5(b)は、図4(a)におけるA−A断面を表す模式図である。
【図6】図6は、便座の固定手段を斜め上方から眺めた模式斜視図である。
【図7】本実施形態にかかる便座装置を右側方から眺めた模式図である。
【図8】便座装置を斜め上方から眺めた模式図であり、図8(a)は、本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図8(b)は比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
【図9】温水洗浄便座装置が設けられた便座装置を斜め上方から眺めた模式図であり、図9(a)は、便座が用便位置にある状態を表す模式図であり、図9(b)は、本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図9(c)は比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
【図10】便座と手すりとの位置関係を上方から眺めた模式上面図であり、図10(a)は本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図10(b)は、比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
【図11】便座と手すりとの位置関係を斜め上方から眺めた模式斜視図であり、図11(a)は本実施形態にかかる便座装置を例示する模式図であり、図11(b)は、比較例にかかる便座装置を例示する模式図である。
【符号の説明】
【0053】
10 便座装置、 12 便座、 12a 開口部、 12b 前端部、 12c 後端部、 12d 、12e、12f 中心、 14 ベース部、 14d 孔、 16 固定手段、 16a 固定軸、 16b 取っ手、 22a、22b 回動軸、 24a、24b ガイド部、 30a、30b 幅中心曲線、 100 便器、 100b 前端部、 102 温水洗浄便座装置(臀部洗浄装置)、 104 ロータンク、 106、108、110 空間、 112 干渉部、 114 空間、 116 干渉部、 200 壁面、 300 手すり、 310 ペーパーホルダ、 312 トイレットペーパー、 400、402 矢印、 410 回動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器の上部に固定されるベース部と、
前記ベース部の上部に設けられる便座と、
を備え、
前記ベース部及び前記便座のいずれか一方は、第1のガイド部を有し、いずれか他方は、前記第1のガイド部に係合する第1の回動軸を有し、
前記ベース部及び前記便座のいずれか一方は、第2のガイド部を有し、いずれか他方は、前記第2のガイド部に係合する第2の回動軸を有し、
前記便座は、前記第1ガイド部と、前記第2のガイド部と、前記ベース部の上面と、に略沿うように前後移動しつつ回動可能とされたことを特徴とする便座装置。
【請求項2】
前記第1のガイド部の長手方向に沿った幅中心曲線の長さと、前記第2のガイド部の長手方向に沿った幅中心曲線の長さと、が異なることを特徴とする請求項1記載の便座装置。
【請求項3】
前記便座の移動に伴い、前記便座の中心位置が移動することを特徴とする請求項2記載の便座装置。
【請求項4】
前記ベース部及び前記便座のいずれか一方は、孔を有し、
前記ベース部及び前記便座のいずれか他方は、固定手段を有し、
前記固定手段が前記孔に挿入されることによって、前記便座は移動を抑制されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の便座装置。
【請求項5】
前記ベース部に臀部洗浄装置が付設されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の便座装置。
【請求項6】
前記便座は、前端部に切り欠き部を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の便座装置。
【請求項7】
前記ベース部は、前記便器との固定手段を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の便座装置。
【請求項8】
前記便器と、
前記便器に付設された請求項1〜7のいずれか1つに記載の便座装置と、
を備えたことを特徴とするトイレ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−297460(P2009−297460A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158481(P2008−158481)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「人間支援型ロボット実用化基盤技術開発介護動作支援ロボット及び実用化技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】