説明

便座

【課題】厚さ方向の寸法が極めて小さな薄い面状発熱体を有する洋式便器用の便座を提供する。
【解決手段】天然黒鉛を圧延して成るカーボングラファイトシート23を所定のパターン形状に打抜き、このようなパターン形状のカーボングラファイトシート23の両面を耐熱樹脂フィルム24で封止した面状発熱体17を、接着シート16を介して便座11の裏面に接合し、このカーボングラファイトシート23に通電を行なうことによって便座11の加温を行なうようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便座に係り、とくに洋式便器の上に装着される便座に関する。
【背景技術】
【0002】
洋式便器は、その上に便座を装着し、さらにこの便座の上に上蓋を開閉自在に取付けるようにしており、使用する際には上蓋を開き、便座の上に座るようにしている。
【0003】
ここでとくに冬季には、便座が冷たいと、冷気が伝わって不快感や苦痛を感ずる。そこでこのような便座に加熱手段を設けるようにし、加温して用いるようにしている。このような構成によると、冷感に伴う苦痛を和らげることが可能になる。
【0004】
ところが従来から一般に用いられている便座の発熱手段は、例えば特開2000−070182号公報に開示されているように、抵抗を有する金属、例えばニクロム線等を用いたものであって、このために平面状ではなく、便座の裏面に凹凸をもって取付けられることになる。またこのような取付け構造は、組立てが面倒になる欠点がある。
【特許文献1】特開2000−070182号公報
【特許文献2】特開平08−078143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明の課題は、扁平な発熱手段を設けるようにした便座を提供することである。
【0006】
本願発明の別の課題は、組立てが容易な便座を提供することである。
【0007】
本願発明のさらに別の課題は、加温手段を有する低コストの便座を提供することである。
【0008】
本願発明のさらに別の課題は、加温手段を取付けた状態で成形して製作することが可能な便座を提供することである。
【0009】
本願発明の上記の課題および別の課題は、以下に述べる本願発明の技術的思想およびその実施の形態によって明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の主要な発明は、洋式便器の上に装着され、その上に座って用を足す便座において、
カーボングラファイトシートによって構成される面状発熱体を裏面に接合したことを特徴とする便座に関するものである。
【0011】
ここで、前記面状発熱体が天然のカーボングラファイトを圧延してシート状にして所定のパターン形状に打抜いたものであってよい。また打抜かれた前記シート状のカーボングラファイトに耐熱樹脂フィルムが接合されてよい。また前記カーボングラファイトシートによって構成される面状発熱体が接着シートを介して便座の裏面に接合されてよい。
【0012】
製造方法に関する主要な発明は、平面状をなす熱可塑性樹脂板の裏面にカーボングラファイトシートによって構成される面状発熱体を予め接合し、
前記熱可塑性樹脂板の表面が金型の凹部に接するように真空成形または圧空成形して所定の形状に成形したことを特徴する便座の製造方法に関するものである。ここで前記カーボングラファイトシートから成る面状発熱体の周縁部に切込みを予め形成してよい。
【発明の効果】
【0013】
本願の主要な発明は、洋式便器の上に装着され、その上に座って用を足す便座において、カーボングラファイトシートによって構成される面状発熱体を裏面に接合したものである。
【0014】
従ってこのような便座によると、その裏面に接合して取付けられたカーボングラファイトシートによって構成される面状発熱体によって加温することが可能になる。しかもこのようなカーボングラファイトから成る面状発熱体が、平面状であってしかも柔軟性を有するために、便座の裏面に容易に取付けることが可能になるとともに、便座の形状に面状発熱体が倣うようになる。またこのような構造によると、加温手段を有する低コストの便座を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本願発明を図示の実施の形態によって説明する。図1は本実施の形態に係るトイレット用衛生装置の全体の構成を示すものであって、この衛生装置は、洋式便器10を備えている。洋式便器10は陶器によって構成され、上部が開放された凹部になっている。なお下部には排水口に接続される接続部が形成される。そしてこのような洋式便器10上には、便座11が着脱自在に装着される。そして便座11の上部には、上蓋12が開閉自在に取付けられるようになっている。
【0016】
図2はこのような衛生装置に用いられる便座11を逆様にして分解した状態で示すものである。すなわち便座11の裏面には、真中が開口になっている接着シート16を介して面状発熱体17が接合されるようになっている。そしてこのような面状発熱体17のさらに下側には、下カバー18が取付けられる。下カバー18の裏面には、複数のパッド19が取付けられるようになっている。これらのパッド19は、便座10の周縁部に当接し、これによって便座11を安定に保持するためのものである。
【0017】
次に本願発明の主要な特徴を構成する面状発熱体17について説明する。面状発熱体17は図3および図4に示すように、カーボングラファイトシート23を所定のパターン形状に打抜いたものであって、このようなカーボングラファイトシート23を、その両面に耐熱性樹脂フィルム24で接合している。そしてカーボングラファイトシート23から成るパターンの両端にはそれぞれ端子25を介してリード線26が引出されるようになっており、これらのリード線26を介して通電することにより、カーボングラファイトシート23が発熱するようになっている。
【0018】
とくに面状発熱体を構成するカーボングラファイトシート23について説明する。一般に炭素はダイヤモンド、グラファイト(黒鉛)および無定形炭素の形態で安定に存在する。この内とくにグラファイトは黒色不透明であって六方晶形の結晶構造を有し、電気および熱の導体である。
【0019】
このようなグラファイト(黒鉛)は、天然に存在する。そしてこのような天然のグラファイトを圧延することによってグラファイトシートが得られる。またアクリルニトリルを用いたアクリル樹脂フィルム等の有機合成フィルムを無酸素下で焼成すると、シート状のグラファイトが得られる。シート状のグラファイトは柔軟性および圧縮弾性があり、しかも相手材との馴染みがよいために、ガスケットやパッキンの材料として用いられている。ここではこのようなグラファイトシートの電気的特性、すなわち所定の抵抗を有する導体であるという性質を利用して、このグラファイトシート23によって面状発熱体17を構成している。
【0020】
面状発熱体17として用いるカーボングラファイトシート23としては、天然黒鉛から成るグラファイトシートを用いるのが好適である。その主な理由は、コスト上の理由による。すなわち天然のグラファイトを用いたグラファイトシートは、極めて安価に製造できる特徴を有している。このような安価なグラファイトシートは、天然鱗状黒鉛等の原料を浮遊選鉱し、さらに薬品処理を行なった後に濃硫酸と酸化剤との混酸によって熱処理を行なう。そしてこの後に膨潤化処理を行なう。膨潤化処理は、炉内においてバーナで高温急加熱を行なうことにより達成される。そしてこの後にロール圧延を行なって成形する。これによってシート状のグラファイトシートが得られる。
【0021】
面状発熱体17として用いられるカーボングラファイトシート23は、0.2〜2mmの範囲内のものであってよく、これを所定のパターン形状に打抜くとともに、このパターンの両端にそれぞれ端子25を介してリード線26が半田付けされて接合される。なお端子25は、例えば図4Bに示すようにりん青銅をU字状に屈曲したものであってよく、このような端子25の上部に半田を介してリード線26の先端を接続すればよい。そしてこのような所定のパターン形状を有ししかもリード線26が両端に接続されたカーボングラファイトシート23が上下一対の耐熱性樹脂フィルム24によって接合され、これによって図3Aに示すような絶縁構造を構成する。なお耐熱樹脂フィルム24としては、液晶ポリマ等の樹脂材料から成るフィルムが用いられてよい。
【0022】
図5および図6は、上述のような便座11を製作する一例を示すものであって、ここでは平板状をなす熱可塑性樹脂板30、例えばABS樹脂から成る樹脂板30を所定の形状に打抜くとともに、その裏面に上述の面状発熱体17を接着シート16を介して接合し、金型31の凹部32上に配置する。ここで凹部32の内表面の形状は、成形される便座11の形状になっている。金型31上において上記熱可塑性樹脂板30を加熱しながら、真空成形または圧空成形して凹部32の内表面に熱可塑性樹脂板30を密着させることによって、便座11が成形される。従って極めて簡潔な構造によって、しかも低コストで便座11を成形することが可能になる。なお便座11の成形は必ずしも熱可塑性樹脂板を用いて真空成形あるいは圧空成形によって成形する必要はなく、射出成形によって成形してもよく、あるいはまた合成樹脂以外の材料、例えばセラミックを用いて成形することも可能である。そしてその内側に取付けられる面状発熱体17の取付けについても、便座11の成形前に行なってもよく、あるいはまた成形後に行なうようにしてもよい。
【0023】
以上本願発明を図示の実施の形態によって説明したが、本願発明は上記実施の形態によって限定されることなく、本願発明の技術的思想の範囲内において各種の変更が可能である。例えば上記実施の形態における面状発熱体17のカーボングラファイトシート23のパターン形状については、必ずしも図3に示すパターン形状である必要はなく、例えば図7に示すように波形に湾曲した形状にカーボングラファイトシート23を打抜いて形成してもよい。この場合に波形に屈曲したカーボングラファイトシート23が便座11の周囲に沿って蛇行するように延びることになる。あるいはまた図8に示すように、帯状をなす形状にカーボングラファイトシート23を打抜いて面状発熱体としてもよい。また図8に示すように、カーボングラファイトシート23あるいはこれを絶縁封止する耐熱性樹脂フィルム24の外周縁に切込み33を形成し、これによって便座11の内表面の凹状の曲面にならうようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本願発明は、洋式便器の便座として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】洋式便器から成る衛生装置の分解斜視図である。
【図2】同衛生装置の便座を逆様にした状態の分解斜視図である。
【図3】便座の裏面に接合されるカーボングラファイトシートのパターン形状を示す平面図である。
【図4】図3におけるA〜A線断面およびB〜B線断面を示す断面図である。
【図5】真空成形または圧空成形によって便座を成形する状態を示す斜視図である。
【図6】同金型の要部縦断面図である。
【図7】変形例のパターン形状を有する面状発熱体の平面図である。
【図8】別のパターン形状の面状発熱体の平面図である。
【符号の説明】
【0026】
10 洋式便器
11 便座
12 上蓋
16 接着シート
17 面状発熱体
18 下カバー
19 パッド
23 カーボングラファイトシート
24 耐熱樹脂フィルム
25 端子
26 リード線
30 熱可塑性樹脂板
31 金型
32 凹部
33 切込み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋式便器の上に装着され、その上に座って用を足す便座において、
カーボングラファイトシートによって構成される面状発熱体を裏面に接合したことを特徴とする便座。
【請求項2】
前記面状発熱体が天然のカーボングラファイトを圧延してシート状にして所定のパターン形状に打抜いたものであることを特徴とする請求項1に記載の便座。
【請求項3】
打抜かれた前記シート状のカーボングラファイトに耐熱樹脂フィルムが接合されていることを特徴とする請求項2に記載の便座。
【請求項4】
前記カーボングラファイトシートによって構成される面状発熱体が接着シートを介して便座の裏面に接合されることを特徴とする請求項1に記載の便座。
【請求項5】
平面状をなす熱可塑性樹脂板の裏面にカーボングラファイトシートによって構成される面状発熱体を予め接合し、
前記熱可塑性樹脂板の表面が金型の凹部に接するように真空成形または圧空成形して所定の形状に成形することを特徴とする便座の製造方法。
【請求項6】
前記カーボングラファイトシートから成る面状発熱体の周縁部に切込みを予め形成することを特徴とする請求項5に記載の便座の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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