説明

保存性の低い産業廃棄物の保存性改良法

【課題】産業廃棄物等の保存性を向上する方法及び産業廃棄物を輸送する方法の提供。
【解決手段】産業廃棄物、食品産業副産物及び活性汚泥に醤油粕を混合することにより、腐敗や悪臭発生を抑制し、それらの保存性を向上する方法及びそれらを輸送する方法の提供を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐敗や悪臭発生しやすい食品産業副産物等の産業廃棄物に、醤油粕を混合することで、腐敗や悪臭発生までの期間をのばし、保存性を向上する方法に関するものである。また、産業廃棄物に醤油粕を混合しながら輸送する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物の中には、肥料・飼料として使用できるものがある。しかし、腐敗が早く輸送や保存に問題があったり、短時間の内に悪臭を発生するため有効な利用が困難なものが多く存在する。例えば、トウフ粕(おから)は高い栄養素を含んでいるが水分が高いため、非常に早く腐敗する。また、脱水汚泥などは短時間の保管、運搬中に悪臭を発生するため、きわめて取扱が困難である。
【0003】
これ等を解決するためには、排出後腐敗したり悪臭を発したりするまでの間に乾燥等の処理をする必要がある。しかし、処理のための設備はコストが高く、自社で保有することが困難な場合もある。従って、短時間の内に運搬処理できる設備が近隣にない場合には、輸送や保管のために、腐敗や悪臭発生を防止する一時的な対策が必要となる。
【0004】
腐敗や悪臭発生防止の対策方法として、例えば、トウフ粕と醤油粕を混ぜて枯草菌を添加して3日間発酵させ、その後乾燥させることで、醤油粕特有の匂いを除去する方法が提示されている(例えば、特許文献1参照)。また、醤油粕を乾燥させるときに、醤油粕の水分を高くして乾燥させることで、脱臭効率を高くする方法が提示されている(例えば、特許文献2参照)。
その他、活性汚泥法によって発生する汚泥粕(余剰汚泥脱水ケーキ)が発生する悪臭の防止法として、汚泥のpHを5.5以下に調整すると共に亜硝酸イオンを添加することで悪臭ガスの発生を抑制する方法が提示されている(例えば、特許文献3参照)。また、木材チップや稲わら、麦わら等を汚泥(粕)に混合してから臭気の発生を抑制する発酵方法(堆肥化方法)も提案されている。
【0005】
しかしこれらの方法は、最終処理物の製造時又は最終処理段階における腐敗の抑制や悪臭の発生抑制に関するものであり、輸送や保管のために産業廃棄物の保存性を向上することを目的としていない。
〔先行文献〕
【特許文献1】特開昭58−9657号公報
【特許文献2】特開2002−355636号公報
【特許文献3】特開2003−19471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、腐敗や悪臭発生しやすい産業廃棄物に、醤油粕を混合することで、腐敗や悪臭発生までの期間をのばし、保存性を向上する方法を提供することを課題とする。また、産業廃棄物に醤油粕を混合しながら輸送する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を鋭意検討した結果、食品産業副産物等の産業廃棄物に醤油粕を混合することで、産業廃棄物の腐敗の進行や悪臭発生の速度が遅くなり、保存性が向上することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)〜(7)の方法等に関する。
(1)醤油粕を混合することによる産業廃棄物の保存性を向上する方法。
(2)醤油粕を混合することによる食品産業副産物の保存性を向上する方法。
(3)醤油粕を混合することによる活性汚泥の保存性を向上する方法。
(4)食品産業副産物の食塩濃度が2%(w/w)以上、水分が60%(w/w)以下になるように醤油粕を混合する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法によって、保存性が向上した食品産業副産物を含む飼料又は肥料用の組成物。
(6)産業廃棄物に醤油粕を混合しながら輸送する方法。
(7)食品産業副産物に醤油粕を混合しながら輸送する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によって、腐敗や悪臭発生しやすい産業廃棄物の保存性を向上することができ、産業廃棄物の長時間の輸送や数日間の保存が可能となる。そのため、これまで近隣に処理のための設備がないがために廃棄処理されていた資源の活用が容易となる。
本発明の方法は、簡単かつ廉価であるため、腐敗や悪臭発生しやすい産業廃棄物の処理コストを低減しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の「保存性を向上する方法」とは、食品産業副産物等の産業廃棄物の腐敗の進行や悪臭発生の速度を遅らせ、長時間の輸送や数日間の保存を可能にする方法のことをいう。
本発明の「保存性を向上する方法」には、産業廃棄物の保存性を向上できる方法であれば、いずれの方法も含むことができるが、産業廃棄物に醤油粕を混合することが好ましい。この方法によって、産業廃棄物の腐敗や悪臭発生の期間が2倍程度又はそれ以上延長できるためである。
さらに、産業廃棄物の食塩濃度が2%(w/w)以上、水分含量が60%(w/w)程度以下になるように醤油粕を混合することが好ましい。例えば、食塩濃度が5〜7%(w/w)で、水分が26〜35%(w/w)である醤油粕を用い、水分80%(w/w)の産業廃棄物100部に対して、100部を混合することで水分53〜57%(w/w)、食塩2.5〜3.5%(w/w)の混合物とすることができる。産業廃棄物に醤油粕を混合する手法は通常使用される方法でよく、特殊な装置は必要としない。
本発明の「保存性を向上する方法」は、産業廃棄物の発生直後から飼料化や肥料化などの最終処理を行うまでの間、利用することができる。
【0011】
本発明の「醤油粕」とは、醤油の製造工程において作られる、もろみから醤油を絞った後に残るしぼり粕のことをいう。
【0012】
本発明の「産業廃棄物」には、事業活動から生ずる廃棄物であって、処理によって飼料や肥料等に利用できる産業廃棄物であれば、いずれのものも含まれる。
例えば、食品産業副産物又は活性汚泥、活性汚泥により発生する余剰汚泥等が挙げられる。本発明の「食品産業副産物」には、食品廃棄物も含まれる。
本発明の「食品産業副産物」としては、水分が高いものとして、でんぷん製造副産物(でんぷん粕)、ミカン、リンゴなどのジュース粕、都市厨芥(食堂残渣、学校給食残渣など)が挙げられる。
特に腐敗又は悪臭発生しやすい産業廃棄物であって、保存性が低いものであることが好ましく、このような産業廃棄物として、例えば、トウフ粕や活性汚泥粕が挙げられる。これらは水分80%前後であり、概ね1〜2日程度で腐敗したり悪臭を発生したりする。
【0013】
本発明の「輸送をする方法」には、ミキサー車あるいは混合機を搭載した車を用いて、産業廃棄物の発生場所を巡回して回収し、産業廃棄物に醤油粕を混合して、産業廃棄物の安定性を向上させながら運搬する方法が含まれる。また、本発明の保存性を向上する方法を用いて処理した産業廃棄物を車等に載せて運搬する方法も含まれる。
【0014】
本発明の「保存性が向上した食品産業副産物を含む飼料又は肥料用の組成物」は、そのままの形態で飼料や肥料の原料の一部として利用したり、乾燥して飼料や肥料としたりすることができ、乾燥と同時にペレット化することもできる。
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
食品産業副産物の保存性を向上する方法
食品産業副産物に醤油粕を混合することで、保存性の向上を行った。
以下、試験例1〜4において、食品産業副産物としてトウフ粕、蒸煮大豆粕及び活性汚泥により発生する余剰汚泥を用い、醤油粕を混合することによる、それぞれの保存性の変化を調べた。
【0016】
[試験例1]
<醤油粕とトウフ粕の混合比における保存性の検討>
トウフ粕と醤油粕を表1の比率で混合して30℃で保存した。これに下記のように調製した菌液を0.1%添加することで、各試験区における初発の細菌数をおよそ10/gとした。これをプラスチック容器に入れて30℃で保存し、臭気の判定を行い、トウフ粕の保存性の変化を調べた。臭気の判定は3〜5人のパネリストで行い、表2の脚注に示した基準で判定してまとめた。
細菌液の調製
混合比による初発の細菌数の違いを揃えるため、トウフ粕を3日間放置して腐敗させたものに10倍の水を加えて懸濁させた液を調製した。
【0017】
その結果、表2に示したように、トウフ粕単独では翌日に強い臭気が発生し、醤油粕を添加するとその添加量に応じて、腐敗臭の発生が抑えられることが確認された。特に醤油粕を30%以上混合すると、3日後でも明らかな腐敗臭の発生は認められなかった。
また、表1の試験No.2の2日後の試料50gと未処理の醤油粕50gとを混合して臭気判定を行ったところ、醤油粕を混合することで腐敗臭が若干弱くなったことから、醤油粕が腐敗臭の一部をマスキングすることが確認された。
従って、トウフ粕に醤油粕を混合することで、トウフ粕の保存性が増し、かつ、臭気が抑えられることから、飼料等に利用できることが示された。
【0018】

【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
[試験例2]
<混合成分における保存性の比較検討>
トウフ粕に醤油粕、フスマ、乾燥トウフ粕、食塩を表3の比率でそれぞれ混合したものを30℃に保存した。各試験区は、トウフ粕単独の対照区(試験No.1)、醤油粕を混合した試験区(試験No.9,10)、トウフ粕に、フスマ、食塩及び乾燥トウフ粕を混合して水分及び食塩濃度を調整した比較区(試験No.2〜8)とした。
これらをそれぞれプラスチック容器に入れて30℃に保存し、経時的に、その一部を採取して一般細菌数を測定し、同時に試験例1と同様の方法で臭気の判定を行い、混合した成分によるトウフ粕の保存性の変化を調べた。
【0021】
その結果、表4に示したように、醤油粕を混合した試験区(試験No.9,10)は他成分を混合した比較区と比べて細菌数の変化が小さく、醤油粕の混合は水分低下や食塩濃度の上昇以外にも細菌数抑制に有効な要因があることが示唆された。表5に示したように、臭気の変化においても、醤油粕を添加した試験区が最も変化が少なく良好であった。
このような醤油粕による臭気発生の抑制は、微生物による腐敗抑制効果と、醤油粕による匂いのマスキングの両方の効果によるものと考えられた。
【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
【表5】

【0025】
[試験例3]
【0026】
<蒸煮大豆粕の保存性の検討>
醤油工場等で発生する蒸煮大豆粕に醤油粕を混合することによる、保存性の変化を調べた。蒸煮大豆粕と醤油粕を表6の比率で混合して30℃で保存した。これに試験例1と同様の方法で調製した細菌の液を0.1%添加することで、各試験区における初発の細菌数をおよそ10/gとした。これをプラスチック容器に入れ30℃で保存し、試験例1と同様の方法で臭気の判定を行い、蒸煮大豆粕の保存性の変化を調べた。
その結果、表6に示したように、蒸煮大豆粕単独では2日後に強い臭気が発生したが、醤油粕を添加するとその添加量に応じて、臭気の発生が抑制されることが確認された。
【0027】
【表6】

【0028】
[試験例4]
<活性汚泥の保存性の検討>
活性汚泥により発生する余剰汚泥に醤油粕を混合して、保存性の変化を調べた。汚泥と醤油粕を表7の比率で混合して25℃で保存し、試験例1と同様の方法で臭気の判定を行い、活性汚泥の保存性の変化を調べた。
その結果、醤油粕を混合したものは、その混合量に応じて臭気の発生が抑制されることが確認された。
【0029】
【表7】

【実施例2】
【0030】
保存性を向上した産業廃棄物を用いた乳牛用の混合飼料の作成
豆腐工場に醤油粕260kgを輸送し、該工場で発生した直後のトウフ粕250kgを加えて混合し、フレコンバッグに詰めて処理工場へ輸送し、処理する日まで約2日間常温で放置した。このとき、混合物は異臭を発生せず、一般細菌数は10未満であったことから、醤油粕の混合によって、トウフ粕の保存性が向上されていることが示唆された。
この混合物に増量剤としてライ麦粉90kgを添加しペレット加工用の原料とした。ペレット製造には標準処理量100kg/時間のエキスパンダー(株式会社スエヒロEPM製)を用い、上記原料を圧力5mPa、出口温度を80℃になるように蒸気を加えながら処理することでペレットを作成した。このとき、ペレット状態を見ながら必要に応じて水分を補給することで、最終的に水分58.3%のペレット約600kgを得た。
この生ペレットを通風乾燥機で24時間乾燥し、約280kg(水分=13.3%)の匂いが弱く腐敗臭もない良好なペレット飼料を得た。
【実施例3】
【0031】
保存性を向上した産業廃棄物を用いた麦畑用肥料の製造
醤油粕300kgと脱水直後の生汚泥300kgをスコップでできるだけ塊が無いように混合し1000Lのナイロン製フレコンバッグ3つに分割して入れ、混合肥料とし、散布までの2日間を常温で保管した。この混合肥料は悪臭が認められず、散布作業にも問題が生じなかったことから、醤油粕の混合によって、生汚泥の保存性が向上されていることが示唆された。
この混合肥料を麦(栽培銘柄:ふくほのか)の元肥として使用した。すなわち、約28a当り本混合肥料400kg+苦土石灰100kg+化学肥料40kg及び本混合肥料200kg+苦土石灰100kg+化学肥料40kgをそれぞれ散布した。比較区として化学肥料単独区を設け、苦土石灰100kg+化学肥料40kgのみを散布した。
その結果、麦の発育は元肥として本混合肥料を使用した場合、化学肥料単独区と比べて非常に良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の方法によって、簡単かつ廉価に腐敗や悪臭発生しやすい産業廃棄物の保存性を向上することができる。この保存性が向上した産業廃棄物は、飼料又は肥料用の組成物として有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
醤油粕を混合することによる産業廃棄物の保存性を向上する方法。
【請求項2】
醤油粕を混合することによる食品産業副産物の保存性を向上する方法。
【請求項3】
醤油粕を混合することによる活性汚泥の保存性を向上する方法。
【請求項4】
食品産業副産物の食塩濃度が2%(w/w)以上、水分が60%(w/w)以下になるように醤油粕を混合する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって、保存性が向上した食品産業副産物を含む飼料又は肥料用の組成物。
【請求項6】
産業廃棄物に醤油粕を混合しながら輸送する方法。
【請求項7】
食品産業副産物に醤油粕を混合しながら輸送する方法。

【公開番号】特開2009−219981(P2009−219981A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65732(P2008−65732)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(508079430)株式会社高田商店 (1)
【出願人】(000112048)ヒガシマル醤油株式会社 (10)
【Fターム(参考)】