説明

保水設備

【課題】貯留した水の蒸発を考慮しつつ、水の貯留量を調節する。
【解決手段】保水設備10は、枠体20に囲まれた、建造物の床面Pに設けられる。床面Pより上方に位置し、床面Pの上に貯留された水が所定の水位に到達したときに排水が可能な排水口112を備える。排水口112は、円柱状の排水装置110に設けられている。排水装置110は、底板100に設けられた排水管106に、底板100を貫通して床面102から上方へ突き出すように取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保水設備に関し、特に、保水体を利用する保水設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部の気温が郊外部に比べて高くなる現象、いわゆるヒートアイランド現象がますます顕著となりつつある。ヒートアイランド現象は、熱中症や睡眠障害などの健康への影響を引き起こすだけでなく、空調などの電気設備の負荷増加を招くことにより、エネルギー消費量を増加させる。
【0003】
また、ヒートアイランド現象は、近年、都市部で局所的に大雨が降る現象、いわゆるゲリラ豪雨の要因ともいわれている。特に都市部では、地面の大部分がアスファルトやコンクリートで舗装されているため、雨水を吸収することができない。ゲリラ豪雨が発生した場合、短時間で許容量を超える雨水が下水道や河川に流入し、都市部に特徴的な水害である都市型洪水が発生する。以上の諸問題を防止するために、ヒートアイランド現象緩和策が切望されている。
【0004】
都市空間は、すでに地上、地下とも過密利用されている。そのため、ヒートアイランド現象の緩和技術として、利用率の低いビルの屋上の有効活用に期待が寄せられている。そのひとつに、建物の屋上に芝生等を敷設する屋上緑化の試みがある。しかし、屋上緑化は、施工費用や維持管理問題から、十分な普及には至っていない。また、屋上緑化された設備は、雨水を保水する能力がそれほど高いわけではなく、都市型洪水の緩和にはあまり役に立っていなかった。
【0005】
そのため、より大量の雨水を貯留して都市型洪水を抑制する新たな技術が求められている。この技術はまた、貯留した雨水を晴天時に蒸発させ、蒸発冷却作用によって建物や周囲の温度上昇を抑え、ヒートアイランド現象を緩和できればより望ましい。
【0006】
特許文献1には、ビルの屋上などに敷設することができ、保水性と蒸発性を兼ね備えた保水セラミックス、およびこの保水セラミックスを敷き詰める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−100513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術は、保水セラミックスを2〜20cmの厚さで敷き詰める。しかし、この構造では、保水セラミックスが吸収しきれなかった水について考慮する必要がある。この点において、本発明者は改善の余地を認識した。
【0009】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、雨水等の貯水量に配慮する保水技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の保水設備は、枠体に囲まれた、建造物の床面に設けられる保水設備であって、床面より上方に位置し、床面の上に貯留された水が所定の水位に到達したときに排水が可能な排水口を備える。
【0011】
この態様によると、所定の高さまで水を貯留することができる。そのため、保水設備がたとえばビルなどの建造物の屋上などに設けられた場合に、大量の雨水を貯留することによって、下水道や河川への雨水の流入を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の保水設備によれば、貯水量を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例及び比較例における試験方法の説明図であり、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図2】実施例の保水用セラミックスの気孔の孔径分布図である。
【図3】比較例の保水用セラミックスの気孔の孔径分布図である。
【図4】(a)図は、試験体1を示す模式的な断面図、(b)図は試験体1〜3のスラブ下温度の経時変化を示すグラフである。
【図5】試験体1,3のスラブ表面温度の経時変化を示すグラフである。
【図6】(a)図は試験体4を示す模式的な断面図、(b)図は試験体4,5の上方大気温度の経時変化を示すグラフである。
【図7】ケース1〜3の初期及び維持費用を比較するグラフである。
【図8】本発明の保水用セラミックスと芝生の試験期間内の蒸散・吸水量を対比して示すグラフである。
【図9】本発明の保水用セラミックスと芝生の蒸散量と吸水量の累計を対比して示すグラフである。
【図10】実施例及び比較例における試験方法の説明図であり、パレット上の保水用セラミックスの積重状態を示す模式図である。
【図11】第1の実施の形態に係る保水設備の側面方向から見た概略図である。
【図12】第2の実施の形態に係る保水設備の側面方向から見た概略図である。
【図13】第3の実施の形態に係る保水設備の側面方向から見た概略図である。
【図14】第4の実施の形態に係る保水設備の側面方向から見た概略図である。
【図15】第5の実施の形態に係る保水設備の側面方向から見た概略図である。
【図16】第6の実施の形態に係る保水設備の側面方向から見た概略図である。
【図17】第7の実施の形態に係る保水設備の側面方向から見た概略図である。
【図18】第7の実施の形態に用いる接近防止材を示す斜視図である。
【図19】排水口の高さを調節する機構を有する排水装置の側面方向から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(前提技術)
はじめにまず、本発明の各実施の形態に好適に使用できる保水用セラミックスを、前提技術として説明する。当該保水用セラミックスは、特開2010−100513号公報に開示されている。前提技術として説明する保水用セラミックスに関連する記載において、「本発明」「実施例及び比較例」などの語句は、それぞれ「特開2010−100513号公報の発明」「特開2010−100513号公報の実施例及び比較例」などを示すものとする。
【0015】
[保水用セラミックス]
本発明の保水用セラミックスは、その保水用セラミックスの全体積の53〜70%好ましくは55〜68%が、孔径1〜100μm、好ましくは15〜40μmの微細気孔よりなる。上述の通り、このように微細な気孔を多量に含むことにより、保水用セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0016】
好ましくは、この孔径1〜100μmの気孔の60%以上、例えば70〜95%が孔径10〜50μm、好ましくは15〜40μmの気孔よりなる。
特に、本発明の保水用セラミックスは、その保水用セラミックスの全体積の10〜70%、特には15〜50%が孔径15〜40μmの微細気孔よりなることが好ましい。
【0017】
本発明の保水用セラミックスの全気孔率は、55〜80%であることが好ましい。保水用セラミックスの全気孔率が55%未満では、全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの微細気孔の保水用セラミックスの実現し得ず、80%よりも大きいと、強度が不足し、敷設材料としての実用性が損なわれる。
【0018】
なお、本発明では、気孔の孔径の測定は、水銀ポロシメータを用い、JIS R 1655に従って行われる。
【0019】
この保水用セラミックスは、1〜1200cm特に1〜200cmとりわけ20〜100cm程度の大きさであることが好ましい。この大きさのものは、屋上や庭などに敷き詰め易い。保水用セラミックスの形状は球形、楕円球状(例えばラグビーボール状)、立方体、直方体、錘形、円盤形状、柱状体など任意である。
【0020】
この保水用セラミックスを好ましくは厚さ2〜20cm特に8〜15cm程度に厚く敷き詰めることにより、保水用セラミックス層全体の保水容量が増大し、急激な降雨や一時的に多量の散水が行われたときでも、水を十分に保水することができる。従って、本発明の保水用セラミックスを都市の多くの建物や庭、空地等に敷き詰めることにより、都市型洪水を防止することも可能となる。
【0021】
また、この保水用セラミックスから、水が蒸発するときの蒸発潜熱により冷却が行われるので、本発明の保水用セラミックスを都市の多くの建物や庭、空地等に敷き詰めることにより、ヒートアイランド現象を防止することが可能となる。
【0022】
上記孔径の気孔内の水は、凍結時に保水用セラミックス外に押し出され易く、凍結融解作用を繰り返し受けても、保水用セラミックスが割れることは殆どない。
【0023】
この保水用セラミックスを構成するセラミックスの組成は
SiO:50〜80wt%とりわけ55〜70wt%
Al:10〜30wt%とりわけ15〜25wt%
NaO及びKOの合計:1〜10wt%とりわけ3〜7wt%
であることが好ましい。
【0024】
かかるソーダ・カリを多く含むアルミノ珪酸塩系セラミックスは、親水性であり、保水用セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0025】
なお、湿潤状態にある保水用セラミックスに藻が発生することを防止するために、CuOを保水用セラミックス中に0.1〜1.5wt%程度配合してもよい。
【0026】
本発明の保水用セラミックスには、その一部又は全面に光触媒コーティング液を塗布して光触媒効果を付与してもよく、これにより、光触媒による浄化作用で、保水用セラミックスの耐汚染性を高めることができる。
【0027】
[保水用セラミックスの製造方法]
次に本発明の保水用セラミックスの好適な製造方法について説明する。
【0028】
この保水用セラミックスを製造するには、窯業系原料、アルミナセメント及び粉末状吸水性ポリマー並びに好ましくは更に炭酸リチウムを乾式混合し、次いで水を添加して混合し、その後、成形、乾燥及び焼成する。この際の配合割合は、好ましくは、
窯業系原料:75〜95wt%、特に80〜95wt%
アルミナセメント:3〜15wt%、特に5〜15wt%
吸水性ポリマー:0.5〜10wt%、特に1〜5wt%
炭酸リチウム:10wt%以下、特に1〜10wt%、とりわけ1〜5wt%
である。
【0029】
なお、水の混合割合は、水以外の全原料の合計重量に対して130〜170wt%程度であって、吸水性ポリマーに対して80〜150倍程度とすることが、取り扱い性、成形性、吸水性ポリマーの吸水膨張性、その後の乾燥、焼成効率の面から好ましい。
【0030】
窯業系原料としては、カリ長石、粘土、珪砂などの1種又は2種以上を用いることができるが、これに限定されない。これらの窯業系原料をSiO、Al、NaO+KOの割合が前述となるように選択して用いる。
【0031】
アルミナセメントとしては、JISに定めるものを用いることができる。
【0032】
このアルミナセメントは、硬化が速いので、水を添加して混合し、成形すると、短時間のうちにハンドリングできる程度の成形体が得られる。
【0033】
粉末状吸水性ポリマーとしては、粒径10〜50μm特に20〜30μm程度のものが好適である。
【0034】
吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩系、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体ケン化物、でんぷん・アクリル酸グラフト共重合体など、各種のものを1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
この混合物を成形するには、定量充填機、鋳込成型機、押出成形機、ハニカム成形機などを用いることができるが、これに限定されない。
【0036】
この成形体を好ましくは80〜250℃で5〜40時間特に6〜12時間加熱して乾燥した後、好ましくは1050〜1200℃特に1100〜1150℃で0.2〜20時間特に0.3〜2時間焼成して焼結体とする。この焼成には、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン等を用いることができる。
【0037】
[保水用セラミックスの応用例及びその効果]
本発明の保水用セラミックスは、気孔径及びその割合が厳密に制御された多孔質セラミックスであり、雨水を吸水することにより治水し、また、吸水した水を日射によって蒸散させる性能を有する。
従って、本発明の保水用セラミックスを、ビル屋上や個人住宅又は公共施設の通路、広場、庭等に敷設することにより、以下のA,Bのような環境対策を図ることができる。
【0038】
A.個別ビルの環境対策
A−1.ビルの省エネ・CO削減:
本発明の保水用セラミックスをビル屋上に敷設することにより、保水用セラミックスによる雨水の治水・蒸散で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができる。
また、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすこともできる。特に、屋上階の夏場の空調の使用電力量を大きく低減することができる。
この結果、COの排出量の削減も可能となる。
【0039】
A−2.ビルの屋上緑化の代替:
本発明の保水用セラミックスは、芝生等の植物と同様の保水、冷却性能を有すると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用する維持管理不要な材料であるため、屋上緑化代替の有力候補となる。
現状の屋上緑化は維持に手間が掛かり、管理費も高いが、本発明の保水用セラミックスによれば、この問題を解決できる。
【0040】
A−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減:
本発明の保水用セラミックスは、熱伝導率が0.2W/m・K程度の低熱伝導性で断熱性が高いので、これをビル屋上に敷設することにより、屋上スラブ温度を一定に保つことができる。また、紫外線も防ぐことができる。
現状では10年程度で防水層の補修が必要とされるが、本発明の保水用セラミックスを適用することにより、このメンテナンス頻度を低減できる。
【0041】
B.都市の環境対策
B−1.ヒートアイランド対策:
本発明の保水用セラミックスは、ビル屋上を占有する各種機器(室外機・熱源など)の下にも敷設できるので、本発明の保水用セラミックスを各所に敷設することにより、都市の蒸散面積を増やし、街区全体の温度をより一層低減することができる。
また、本発明の保水用セラミックスは、芝生と比較して高い蒸散能力があるので、芝生に比べて単位面積当たりの温度低減効果も高い。
【0042】
B−2.ゲリラ豪雨対策:
本発明の保水用セラミックスは、芝生と比較して高い治水能力があるので、ビル屋上に可能な限り敷設すれば、ゲリラ豪雨のピークカットが期待できる。
【0043】
B−3.資源の再利用
本発明の保水用セラミックスは、従来、廃棄物とされていた長石キラを主原料(例えば原料の90%)として製造することができる。
長石キラはタイル原料の長石を採掘する時の副産物であり、従来は廃棄物とされていたが、本発明によれば、長石キラの有効利用が図れる。
【0044】
以下に、本発明の保水用セラミックスによる上記A,Bの効果を示す実験例及び試算例を挙げる。
【0045】
<A−1.ビルの省エネ・CO削減>
第4図(a)に示すように、底部及び4側面が断熱材11で構成された箱型容器内にコンクリートスラブ12を敷設し、その上に、本発明の保水用セラミックス(例えば、後掲の実施例2と同様にして製造された保水用セラミックス)13を厚さ10cmに敷設し、試験体1とした。保水用セラミックスの敷設面積は1mである。なお、底部断熱材11とコンクリートスラブ12との間には、温度センサ14を設けた。
別に、この保水用セラミックスの代りに芝生を植えたものを試験体2とし、保水用セラミックスを敷設しなかったものを試験体3とした。
【0046】
これらの試験体1〜3を並べて置き、気温と、各試験体の温度センサ14の測定温度の経時変化を調べ、結果を第4図(b)に示した。
なお、第4図(b)のグラフ中、吸水期間は、降雨のあった期間であり、それ以外は、曇ないし晴天であった。
【0047】
第4図(b)より明らかなように、本発明の保水用セラミックスを敷設した試験体1は、敷設なしの試験体3に対してスラブ下温度で最大−8℃の温度低減効果があった。しかも、試験体1の蒸散効果は、芝生を植えた試験体2よりも大きいものであった。
この結果から、本発明の保水用セラミックスによる雨水の治水・蒸散で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができることが分かる。
【0048】
次に、第4図(a)に示すと同様に保水用セラミックス13を敷設すると共に温度センサ14を設けた試験体1と、保水用セラミックスを敷設していない試験体3により、屋上スラブ表面温度の変化を模擬するものとして、1日24時間の温度センサ14の測定温度を調べ、結果を第5図に示した。
なお、本発明の保水用セラミックス、コンクリートスラブ及び土の一般的な熱伝導率は以下に示す通りである。
本発明の保水用セラミックス:0.20W/m・K
コンクリートスラブ :0.15W/m・K
土 :0.63W/m・K
【0049】
第5図より明らかなように、屋上スラブの表面温度の一日の変化量は、本発明の保水用セラミックスを敷設した試験体1では2℃であるのに対して、敷設していない試験体3では15℃だった。この結果から、本発明によれば、日射によるスラブへの熱負荷が軽減されることが分かる。
【0050】
次に、第6図(a)に示すように、底部及び4側面が断熱材11で構成された箱型容器内にコンクリートスラブ12を敷設し、その上に、本発明の保水用セラミックス(例えば、後掲の実施例2と同様にして製造された保水用セラミックス)13を厚さ10cmに敷設し、試験体4とした。保水用セラミックスの敷設面積は1mである。保水用セラミックスの敷設面の上方1cmの位置に温度センサ14を設けた。
別に、保水用セラミックスを敷設しなかったものを試験体5とした。この試験体5ではコンクリートスラブ12の上方1cmの位置に温度センサ14を設けた。
これらの試験体4,5を並べて置き、1日24時間の温度センサ14の測定温度の変化を調べ、結果を第6図(b)に示した。
【0051】
第6図(b)より明らかなように、保水用セラミックスを敷設した試験体4と敷設していない試験体5とでは、1cm上方の大気温度として、最大5℃の差があった。
この結果から、本発明の保水用セラミックスを敷設することにより、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすことができることが分かる。
【0052】
<A−2.ビルの屋上緑化の代替及びA−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減>
本発明の保水用セラミックスをビル屋上に敷設した場合(ケース1)と、これを敷設していない従来仕様(ケース2)と、芝生や低木を植えた屋上緑化の場合(ケース3)とで、単位面積当たりの初期費用(敷設ないし植栽費用)と20年間の維持(メンテナンス)費用を試算し、その比較結果を第7図に示した。
第7図に示されるように、本発明の保水用セラミックスは初期費用のみでその後の維持管理は殆ど不要である。一方、保水用セラミックスを敷設しない従来仕様のケース2では、防水層の補修等の維持費がかかり、結果として、本発明品と同等である。
屋上緑化のケース3では、初期費用に加えて、剪定、刈込み、芝刈り、施肥、除草、病害虫防除、灌漑装置の点検、その他の総合点検等の維持費用がかさみ、第7図に示す費用以外にも灌漑設備による散水のための運転に必要な電気代及び水道代がかかる。
【0053】
これらの結果から、前述の如く、本発明の保水用セラミックスは、治水・蒸散において、芝生等植物の性能と同等であると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用した維持管理不要なものである上に、屋上緑化に比較して、初期費用は1/2、維持費用も格段に安く、屋上緑化代替の有力候補となることが分かる。
【0054】
<B−1.ヒートアイランド対策>
東京都23区内のビル屋上全てに本発明の保水用セラミックスを敷設すると、治水・蒸散に機能する都市の蒸散面積を10%増加させることができる。
【0055】
現在、ビルの屋上には機器類(室外機・熱源など)が設置されているが、本発明の保水用セラミックスは、ビル屋上の各種機器の下にも敷設できるので、都市の蒸散面積を増やし、街区全体の温度を大幅に低減することができる。
【0056】
本発明の保水用セラミックスと芝生の治水・蒸散の繰り返し試験結果を示す第9図から明らかなように、本発明の保水用セラミックスは、芝生の約2倍の蒸散能力があるため、上記の10%の都市の蒸散面積の増加は、芝生に替算すれば、2倍の20%の都市の蒸散面積の増加となり、更なる有効性が明らかである。
【0057】
<B−2・ゲリラ豪雨対策>
本発明の保水用セラミックスと芝生について、10月2日〜10月16日の15日間にわたる期間の単位体積当たりの蒸散量と吸水量の累計を比較した第8図より明らかなように、本発明の保水用セラミックスは芝生よりも2倍以上の吸水・蒸散量を有する。
ビル屋上に本発明の保水用セラミックスを10cmの厚さで50kmの面積に敷設すると180万mもの治水ができ、東京都23区で3mm/hrのゲリラ豪雨のピークカットを図ることができる。
【0058】
<B−3.資源の再利用>
本発明の保水用セラミックスは、例えば、従来廃棄物とされていた長石キラ90重量%と、その他の材料10重量%で製造することができる。単位面積当たりの本発明の保水用セラミックスの重量を40kg/mとすると、5000mの敷設に必要となる長石キラの量は、
5000(m)×40(kg/m)×0.9÷1000=180ton
となる。
即ち、本発明の保水用セラミックスを敷設面積として1日に5000m生産すると、必要な廃棄物(長石キラ)原料は、180ton/日であり、廃棄物の有効利用効果は極めて大きい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0060】
なお、以下の実施例及び比較例で用いた原料は次の通りである。
【0061】
カリ長石:愛知県瀬戸産 長石
8号珪砂:勝野窯業製
長石キラ:愛知県瀬戸産 長石
吸水性ポリマー:三洋化成株式会社製
(篩によって粒径20μmアンダー(吸水性ポリマーA)、粒径 20〜50μm(吸水性ポリマーB)、粒径50〜100μm (吸水性ポリマーC)に分級した。)
アルミナセメント:ラファージュ株式会社製
炭酸リチウム:試薬特級
CuO:試薬特級
【0062】
[実施例1〜5、比較例1〜5]
水以外の原料を表1の割合で秤量し、ミキサ(ホソカワミクロン製ナウタミキサ)で乾式にて攪拌混合した。次いで、水を表1の割合でこの混合粉末に添加し、混練した。これを直径70mm、最大厚さ15mmの略円盤形状に成形し、80℃にて24時間乾燥した。これをローラーハースキルン(最高焼成温度は表1に示す通り。炉通過時間は60分)にて焼成し、保水用セラミックスを製造した。
【0063】
各保水用セラミックスについて成分分析を行うと共に特性測定を行った。結果を表1、表2に示す。
【0064】
なお、気孔率は、水銀ポロシメータ(Quantachrome株式会社製)を用いて測定した。気孔の孔径分布を第2図及び第3図に示す。
【0065】
保水量は、次のようにして測定した。
【0066】
保水用セラミックスを105℃で乾燥した後、放冷し、秤量し、重量(W)を求める。次いで、20℃の水中に24時間浸漬した後、引き上げ、表面水を湿った布で拭き取り、飽水状態とする。この試料を秤量し、重量(W)を求める。また、この飽水状態の保水用セラミックスをメスシリンダー中の水中に投入し、体積(V)を求める。保水量(g/cm)を(W−W)/Vにより算出する。
【0067】
強度は10cm×10cm×0.5cmのサンプルを作り3点曲げ試験(JTトーシ株式会社、50kNデジタル曲げ試験機)によって測定した。
【0068】
凍結融解性能は、上記飽水状態の保水用セラミックスを−20℃に75分保持して凍結させた後、30℃に90分保持して融解させる凍結・融解サイクルを200サイクル繰り返し、破損の程度を観察することによって調べ、非常に良好(◎)、良好(○)、やや不良(△)、不良(×)で評価した。
【0069】
蒸散性能は、水を深さ5mmに張った平たい容器内に、乾燥した保水用セラミックスを置き、30分吸水させた後、引き上げ、この30分間の吸水量を上記保水量の測定方法と同様にして求める。体積については保水量測定時の体積を用いる。この30分間の吸水量(g/cm)を蒸散性能とする。
【0070】
蒸散効果持続日数は、蒸発の潜熱による冷却効果の持続日数であり、次のようにして測定した。
【0071】
第1図に示す通り、厚さ150mmの再生ポリプロピレン樹脂製パレット1の上に、厚さ100mmの発泡スチロール板よりなる正方形状の囲枠2を載せ、容器とする。この容器の一辺は1000mm、深さは830mmである。容器の外周面にアルミ箔を張ってある。
【0072】
この容器内に厚さ500mmに発泡スチロール板3を敷き詰め、その上面の5箇所に温度センサT〜Tを配置する。
【0073】
この発泡スチロール板3の上に厚さ180mm、比重2.2のコンクリート板4を載せる。このコンクリート板4の上に飽水状態の保水用セラミックス5(第1図(b)にのみ図示)を50kg堆積させる。堆積厚さは約10cm程度である。以上の作業は、気温20℃、湿度60%RHの屋内で行う。この容器を35℃、60%RHの恒温恒湿室中に放置し、温度センサの検出温度が35℃に上昇するまでの日数を測定する。これを蒸散効果持続日数とする。
【0074】
また、各実施例及び比較例で得られた保水用セラミックスについて、吸水性を調べるために、第10図に示すように、5個の保水用セラミックス31〜35を用意し、水をはったパレット30上に、最下段の保水用セラミックス35がその底部から1mm程度水に浸かるようにして、5段積み重ね、この状態で1時間放置した後、最上段の保水用セラミックス31の重量変化から、この保水用セラミックス31の吸水率(吸水前の保水用セラミックスの重量に対する吸水した水の重量の割合)を算出した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
[考察]
表1の通り、実施例1〜5の保水用セラミックスは、蒸発性能及び蒸発効果持続日数に優れ、耐凍結融解性能、吸水性も良好である。
【0078】
これに対し、比較例1は、気孔の孔径が過大であるため、蒸発性能及び蒸発効果持続日数、吸水性に劣る。
比較例2は、気孔の孔径が過度に小さいため、凍結融解性能、吸水性に劣る。
比較例3は、気孔率が80%と過度に大きいため、強度及び凍結融解性能、吸水性に劣る。
比較例4,5は、保水量が低いため、蒸発効果持続日数が短く、吸水性も悪い。
【0079】
以下、上述の前提技術の保水用セラミックスを好適に使用することができる本発明の保水設備の実施の形態について説明する。ここでは、保水用セラミックスのことを多孔質セラミックスと呼ぶ。
【0080】
(第1の実施の形態)
図11は、第1の実施の形態に係る保水設備10の側面方向から見た概略図である。以下、すべての図面において、同等の構成要素には同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0081】
保水設備10は、ビルの屋上、舗装された路面、公園の地面、屋内の床面などの施工対象面Pに設けられる。施工対象面Pの上には、保水設備10の底板100が取り付けられている。底板100は、平面視で略長方形状である。底板100には、接合部分から水が漏れないよう横枠104が密に固定されている。横枠104が底板100に四方から取り付けられ、プールのような凹状の枠体20が形成される。四方の横枠104は、断面がそれぞれ逆L字状であり、上部に水はね防止用の返しを有する。
【0082】
底板100の上面である床面102と横枠104の内側には防水加工が施され、枠体20は雨水を貯留することができる。もちろん、床面102と横枠104自体を防水性の材料で形成してもよい。
【0083】
雨水を排出するひとつ以上の排水管106が底板100に設けられている。排水管106には、底板100を貫通して床面102から上方へ突き出すように、円柱状の排水装置110が取り付けられている。排水装置110には、床面102から高さhの位置に、排水口112が設けられている。そのため、砂などが排水口112へ流れ込むのを防止できる。ビルの屋上など、排水管106がもともと施工対象面Pに存在する場合、排水装置110をそれに取り付け可能な構造とすれば、既存の排水管106をそのまま利用できる。
【0084】
底板100には、排水管106の上端から床面102に向けて、テーパー状の排出補助面108が形成されている。排出補助面108は、排水装置110が排水管106に取り付けられた場合に、流入してきた砂などを溜め、排水口112に接近するのを防止する。排水装置110は高さ調節機構を有し、排水口112の高さhが調節される。高さ調節機構は図19で詳述する。
【0085】
枠体20に貯留された水の床面102からの水位を高さhとすると、h≦hのときは、水が排水口112から排出されずに枠体20の内側にすべて貯留される。それ以上の水は排水口112から排水管106を経由して排水される。そのため、保水設備10に大量の雨水を貯留することによって、都市型洪水を軽減することができる。また、排水口112の高さを調節することにより、比較的短い期間で蒸発するだけの限られた量の水を貯留することができる。これにより、施工対象面Pに過度に負荷をかけない配慮をすることができる。
【0086】
保水設備10は主に雨水を貯留するが、散水された水道水など、雨水以外の水を貯留してもよい。これによって、高温小雨の夏場に、貯留した水の蒸発冷却作用によって建物や周囲の温度上昇を抑制し、ヒートアイランド現象の抑制に寄与することができる。
【0087】
なお、本実施の形態では、施工対象面Pとは別に底板100を設けたが、施工対象面Pが防水性をもつ場合、これを直接底板として利用してもよい。同様に、建造物の屋上の壁面等を横枠104ないしその一部として利用してもよい。
【0088】
(第2の実施の形態)
図12は、第2の実施の形態に係る保水設備10の側面方向から見た概略図である。本実施の形態では、排水装置110の側面114をテーパー状とした。排水装置110の床面102と接する部分の外径は、テーパー状の排出補助面108の外径以上とし、排水装置110の下部と排出補助面108の隙間に砂その他異物が挟まらない配慮をしている。排水装置110と排水管106の固定強度を上げるため、排水装置110の下部は排出補助面108に埋設されている。本実施の形態でも、既存の排水管106をそのまま利用するよう排水装置110を設計することが望ましい。
【0089】
以上、本実施の形態に係る保水設備10によれば、比較的強い水圧がかかる排水装置110の下部構造を強化することができる。
【0090】
(第3の実施の形態)
図13は、第3の実施の形態に係る保水設備10の側面方向から見た概略図である。本実施の形態では、保水体120を床面102に多数敷設している。保水体120は保水性および蒸発性を有する。本明細書では、この保水体120の集合体を保水構造体122と呼ぶ。保水構造体122における保水性(吸水性)と、吸収された水の蒸発性とを高めるために、比較的小さな保水体120を利用し、保水構造体122の総表面積を大きくしている。
【0091】
保水構造体122は排水口112の高さhよりも低い高さhまで敷設されている。排水口112の大きさは保水体120の大きさよりも小さくすることで保水体120の流失を防止できる。
【0092】
保水体120の材料は、多孔質セラミックスである。本実施の形態の保水体120に用いられる多孔質セラミックスは、孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53〜70%を占めるものとする。多孔質セラミックスから作られた保水体120の細孔の孔径は、水銀ポロシメータを用い、JIS R 1655に従って測定することができる。
【0093】
保水体120を構成する多孔質セラミックスは、1〜1200cm、特に1〜200cm、とりわけ20〜100cm程度の大きさであることが好ましい。この範囲であれば、保水構造体122を保水設備10の内部に敷き詰め易い。保水体120を構成する多孔質セラミックスの形状は、球形、半球形、楕円球状(たとえばラグビーボール状)、立方体、直方体、錘形、円盤形状、柱状体など任意である。
【0094】
上記孔径のものを採用すれば、細孔内の水が凍結しても、多孔質セラミックス外に押し出され易く、凍結融解作用を繰り返し受けても、多孔質セラミックスが割れにくいことが実験で確認されている。
【0095】
この多孔質セラミックスを構成するセラミックスの組成は、
SiO:50〜80wt%、とりわけ55〜70wt%
Al:10〜30wt%、とりわけ15〜25wt%
NaO及びKOの合計:1〜10wt%、とりわけ3〜7wt%
であることが好ましい。こうしたソーダ・カリを多く含むアルミノ珪酸塩系セラミックスは、親水性であり、多孔質セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0096】
なお、湿潤状態にある多孔質セラミックスに藻が発生することを防止するために、CuOを多孔質セラミックス中に0.1〜1.5wt%程度配合してもよい。多孔質セラミックスには、その一部又は全面に光触媒コーティング液を塗布して光触媒効果を付与してもよい。これにより、光触媒による浄化作用で、多孔質セラミックスの耐汚染性を高めることができる。
【0097】
保水体120を構成する多孔質セラミックスを製造するには、窯業系原料、アルミナセメントおよび粉末状吸水性ポリマー、並びに好ましくは更に炭酸リチウムを乾式混合し、次いで水を添加して混合し、その後、成形、乾燥及び焼成する。この際の配合割合は、好ましくは、
窯業系原料:75〜95wt%、特に80〜95wt%
アルミナセメント:3〜15wt%、特に5〜15wt%
吸水性ポリマー:0.5〜10wt%、特に1〜5wt%
炭酸リチウム:10wt%以下、特に1〜10wt%、とりわけ1〜5wt%
である。
【0098】
なお、水の混合割合は、水以外の全原料の合計重量に対して130〜170wt%程度であって、吸水性ポリマーに対して80〜150倍程度とすることが、取り扱い性、成形性、吸水性ポリマーの吸水膨張性、その後の乾燥、焼成効率の面から好ましい。
【0099】
窯業系原料としては、カリ長石、粘土、珪砂などの1種又は2種以上を用いることができるが、これに限定されない。これらの窯業系原料をSiO、Al、NaO+KOが上述の割合となるように選択して用いる。
【0100】
アルミナセメントとしては、JISに定めるものを用いることができる。アルミナセメントは硬化が速いので、水を添加して混合し、成形すると、短時間のうちにハンドリングできる程度の成形体が得られる。
【0101】
粉末状吸水性ポリマーとしては、粒径10〜50μm、特に20〜30μm程度のものが好適である。吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩系、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体ケン化物、でんぷん・アクリル酸グラフト共重合体など、各種のものを1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0102】
この混合物を成形するには、定量充填機、鋳込成型機、押出成形機、ハニカム成形機などを用いることができるが、これに限定されない。この成形体を好ましくは80〜250℃で5〜40時間、特に6〜12時間加熱して乾燥した後、好ましくは1050〜1200℃、特に1100〜1150℃で0.2〜20時間、特に0.3〜2時間焼成して焼結体とする。この焼成には、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン等を用いることができる。
【0103】
以上、本実施の形態に係る保水設備10によれば、保水構造体122により、保水設備10に貯留された水の蒸発性を向上させることができる。
【0104】
また、本実施の形態は、排水口の高さhを保水構造体122の床面102からの高さhよりも高くしたため、保水構造体122が保水できる量以上の雨水を枠体20に貯留することができ、都市型洪水の軽減に寄与できる。
【0105】
(第4の実施の形態)
図14は、第4の実施の形態に係る保水設備10の側面方向から見た概略図である。本実施の形態では、保水構造体122の床面102からの高さhを排水口112の高さhよりも高くしている。そのため、保水体120が排水装置110に接近し、排水装置110を覆ったり擦れたりする可能性、および保水体120の破片が排水口112から流出したり、排水口112を詰まらせたりする可能性が高まる。そのため、本実施の形態では接近防止材124を設けている。
【0106】
接近防止材124は、ネット状の袋126に所定数の保水体120を収容して形成される。袋126の網目の開口は保水体120の外形よりも小さい。しかし、この開口は通気性、通水性、光の透過性を有するため、接近防止材124も保水構造体122として機能する。接近防止材124は、排水装置110から所定のクリアランスをとり、保水構造体122の高さhよりも高い、高さhまで土嚢状に積み上げられている。袋126は、軽量性、強度、および耐久性を有する化学繊維や金属などの材質によるネットでできている。袋126の色は黒色や白色など任意だが、保水設備10全体の美観を考慮して、保水構造体122と同一ないし類似の色でもよい。
【0107】
本実施の形態に係る保水設備10によれば、保水構造体122の高さhが排水口112の高さhよりも高いため、高い保水性を維持しつつ、高さhよりも高い部分の保水構造体122が下から水を吸い上げて蒸発させることにより、貯留された水の蒸発性を向上させることができる。
【0108】
なお、排水口112は、保水体120よりも小さいことが望ましいが、砂や保水体120の小さな破片など、排出されても不都合がない物体よりは大きくてよい。これにより、排水口112の目詰まりが防止しやすくなる。
【0109】
(第5の実施の形態)
図15は、第5の実施の形態に係る保水設備10の側面方向から見た概略図である。本実施の形態では、所定の高さの上下で、敷設する保水体120の比表面積を変えている。
【0110】
保水構造体122は、相対的にサイズは大きく比表面積は小さな第1の保水体120a、および相対的にサイズは小さく比表面積は大きな第2の保水体120bをそれぞれ多数個含む。これらの保水体は第3の実施の形態で説明した多孔質セラミックスである。なお、比表面積とは、単位体積あたりの表面積をいう。
【0111】
第1の保水体120aは、床面102から高さhまで敷設されている。この領域をここでは下方領域R1と呼ぶ。その上側に第2の保水体120bが高さhまで敷設されている。この領域をここでは上方領域R2と呼ぶ。下方領域R1と上方領域R2は、第2の保水体120bの径より小さい開口を有するシート状の保持材130によって分離されている。
【0112】
第2の保水体120bは、第1の保水体120aに比べて保持された水の蒸発性が高い。ここで蒸発性とは、温度、湿度、風邪などの諸条件が同じとき、単位体積あたりの保水体から単位時間当たりに蒸発する水の質量をいう。第2の保水体120bは、第1の保水体120aに比べて比表面積が大きいため、この蒸発性の大小関係が実現する。なお、比表面積は保水体が保水状態のときに外気に触れる表面(以下、外表面という)の面積を指し、保水状態で外気に触れない内部の細孔表面(内表面)は含まれない。この定義は、保水体の表面のうち、蒸発性に寄与する部分が外表面であり、内表面は蒸発性に寄与しないことを反映している。
【0113】
本実施の形態では、第2の保水体120bの方が第1の保水体120aよりサイズが小さいが、第2の保水体120bの比表面積が第1の保水体120aの比表面積より大きければこれに限られない。たとえば、両者のサイズおよび外形を同等とし、第2の保水体120bの外表面に微細凹凸を設けてもよい。
【0114】
本実施の形態でも接近防止材124a、124bが設けられている。接近防止材124a、124bは、それぞれネット状の袋126に所定数の第2の保水体120b、第1の保水体120aを収容して形成される。ここでは、下方領域R1に第1の保水体120aを収容した接近防止材124aを、上方領域R2に第2の保水体120bを収容した接近防止材124bをそれぞれ土嚢のように積み上げている。
【0115】
以上、本実施の形態に係る保水設備10によれば、蒸発性が相対的に高い第2の保水体120bによって保持された水の蒸発が促進される。第2の保水体120bによって保持された水の蒸発が速やかに進行することで、第1の保水体120aから第2の保水体120bに水の移動が進み、第2の保水体120bを介して水の蒸発が促進される。この結果、保水構造体122全体として、保水性を維持しつつ、蒸発効率を高めることができる。
【0116】
ここで「保水性」の面から補足的な考察を行う。保水性とは、保水体の単位体積あたり保水しうる水の質量をいう。第1の保水体120aの保水性W1と第2の保水体120bの保水性W2との関係は、(1)保水性W1=保水性W2、(2)保水性W1>保水性W2、および(3)保水性W1<保水性W2、のいずれかである。
【0117】
保水体が(1)の関係を有する場合、第1の保水体120aと第2の保水体120bとを同じ成分の材料で製造することができ、材料コストの低減、製造プロセスの簡略化により製造コストを低減することができる。
【0118】
保水体が(2)の関係を有する場合、第1の保水体120aと第2の保水体120bの役割分担をより明確にすることができる。すなわち、第1の保水体120aがより一層の保水機能を担い、第2の保水体120bがより一層の蒸発機能を担う。さらに、保水性W2を大きくする代わりに、その分、密に形成することで第2の保水体120bの強度を上げることができる。したがって、第2の保水体120bに保水構造体122全体としての強度アップの機能をたせることができる。
【0119】
この構成の場合、第2の保水体120bは蒸発性が相対的に高く、第2の保水体120bに保持された水は急速に蒸発する。一方、第1の保水体120aは蒸発性が相対的に低いため、第1の保水体120aに保持された水はじわじわと蒸発し、第2の保水体120bに保持された水が蒸発し終わった後も、第1の保水体120aに保持された水が継続して蒸発し続ける。したがって、ある程度の量の水は急速に蒸発させて冷却効果を高め、かつ次の豪雨にそなえつつ、晴天がつづいた場合にも、比較的長い時間をかけて蒸発する水分の存在により、施工対象面Pの急激な温度上昇を抑制することができる。
【0120】
保水構造体122が(3)の関係を有する場合、(2)の場合とは逆に第1の保水体120aの強度をより高めることができ、強度保持材としての機能をもたせることができる。一方、第2の保水体120bが保水性および蒸発性を兼ね備えた保水・蒸発材としての機能を担う。また、第1の保水体120aの摩耗性が低くなるため、保水構造体122全体としての耐久性を向上させることができる。
【0121】
(第6の実施の形態)
図16は、第6の実施の形態に係る保水設備10の側面方向から見た概略図である。本実施の形態では、接近防止材124に代えて固定部材132が使用されている。床面102上に固定部材132が取り付けられることにより、高さh10の区画が形成される。固定部材132どうしで形成される区画、および固定部材132と横枠104によって形成される区画には、保水構造体122が敷設されている。区画は格子状や直方体状など任意の形状でよい。
【0122】
保水構造体122の上方には、飛散防止材138が設けられている。飛散防止材138はネット状で、固定部材132の上面134において、飛散防止材取付部材136を用いて固定部材132により固定されている。固定部材132の材質は、風よけに応じた強度と耐久性を有するものであれば何でもよい。飛散防止材138は、網目状の構造で、網目は保水体120の外形よりも小さい。そのため、通気性、通水性、光の透過性などの保水蒸散性と、保水体120の飛散防止とが両立できる。なお、固定部材132自体も保水体120の飛散防止材として機能する。
【0123】
固定部材132には、水を通さない素材を用いるか、固定部材132の上から被覆を施してもよい。これにより、保水設備10にできるだけ水を貯留することができ、都市型洪水の軽減に寄与することができる。さらにこの場合、排水管106に近い位置にある固定部材132の所定の高さに穴を設け、これを排水口として利用することもできる。
【0124】
逆に、固定部材132に通水性のある部材を使用し、保水構造体122が保水できる以上の水をあまり長時間貯留させないようにしてもよい。長時間の貯留により、施工対象面Pに影響がある場合、この方法は有効である。固定部材132の素材や被覆の有無は、設置の際、どのような観点を重視するかに応じて選択すればよい。
【0125】
保水構造体122の高さhと固定部材132の高さh10との関係は3通りある。まず両者をほぼ同一とする場合、保水設備10の美観を損なわない点で有利である。
【0126】
つぎに、保水構造体122の高さhを固定部材132の高さh10よりも低くする場合、保水構造体122の上部により広いスペースが形成され、保水構造体122の蒸発性を高めることができる。
【0127】
最後に、保水構造体122の高さhを固定部材132の高さh10よりも高くし、ネット状の飛散防止材138によって保水構造体122を覆う場合、保水設備10の保水性および保水構造体122の総表面積を大きくしつつ、保水構造体122の飛散も防止することができる。
【0128】
以上、本実施の形態によれば、既出の実施の形態の効果に加え、保水体120の飛散を効果的に防止することができる。
【0129】
(第7の実施の形態)
図17は、第7の実施の形態に係る保水設備10の側面方向から見た概略図である。本実施の形態は接近防止材160を有する。図18(a)および図18(b)は、接近防止材160を示す斜視図である。
【0130】
図18(a)の接近防止材160は、円筒状のネットであり、所定の間隔で骨太な補強部162を有する。図18(b)の接近防止材160は、直径rの貫通穴168を有する。接近防止材160は、平面視がドーナツ状のネットであり、所定の間隔で補強部162を有する。いずれの接近防止材160も直径がrで高さがh11である。直径rは、排水装置110および排出補助面108の外径よりも大きい。いずれの接近防止材160も、ネットの開口は、保水体120が通過できない大きさである。なお、図18(b)の接近防止材160は、ここでは説明のために右端部のみにネットを示したが、実際には上面、側面ともネット状である。
【0131】
図17に接近防止材160の取り付け状態を示す。図18(a)の接近防止材160は、床面102にそのまま置かれても、接着剤などによって床面102に固定されてもよい。一方、図18(b)の接近防止材160では、貫通穴168の直径rが略円柱状の排水装置110の外径と同一か少し大きいものとする。そのため、図18(b)の接近防止材160は、貫通穴168を排水装置110にはめ込むことにより、排水装置110に固定することができる。
【0132】
本実施の形態に係る保水設備10によれば、接近防止材160を設けることにより、保水体120の好ましくない破片の流出や排水口112の詰まりを防止できる。また、保水体120が排水装置110に擦れることも防止できる。
【0133】
(変形例)
以下、複数の実施の形態について有効な細部の構造について説明する。
図19(a)〜(d)は、排水口の高さを調節する機構を有する排水装置110の側面方向から見た概略図である。図19(a)および図19(b)は、手動高さ調節機構の例を示す。手動高さ調節機構のある排水装置110は、胴部140と頭部144とを有する。胴部140は、排水管106に取り付けられ、円筒状である。頭部144は、上側に排水口112を有する円筒状であり、胴部140に被せられる。胴部140は突起142を側面に有し、頭部144は突起142とかみ合う突起146を側面に有する。本実施の形態では、突起142、146は、胴部140と頭部144にそれぞれ4段ずつ形成されている。これにより、排水口112の高さを4段階に調節することができる。
【0134】
図19(a)では、排水口112が高さh12に調節されている。この高さは、調節できる4段階の高さのうち、低い方から2番目の高さである。一方、図19(b)では、頭部144を引っ張って胴部140から上方にスライドさせ、一番上の突起142と一番下の突起146とを噛み合わせ、排水口112を高さh13に調節している。この高さは、調節できる4段階の高さのうち最も高い。
【0135】
本変形例によると、保水設備10の置かれる場所や季節によって排水口112の高さを調節することができる。その結果、状況に応じた保水性および蒸発性を実現することができる。保水設備10に保水構造体122を敷設する場合には、敷設する保水構造体122の量を増減させることにより、保水性および蒸発性をさらに向上させることができる。
【0136】
図19(c)および図19(d)は、自動高さ調節機構のある排水装置110を示す。この排水装置110は、本体150、センサ152、制御部154、およびアクチュエータ156を有する。本体150は、排水口112を有し、排水管106に固定されている。センサ152は、降雨量や風速などを自ら取得し、ないし台風情報などの降雨情報をネットワーク等を介して取得し、それらの情報を制御部154に伝達する。制御部154は、その情報に基づいて、アクチュエータ156を制御する。アクチュエータ156は、駆動されることによって、排水口112が所望の高さとなるよう排水装置110を上下させる。
【0137】
図19(c)では、排水口112が高さh14に調節されている。一方、図19(d)では、センサ152で得られた情報に基づいて、制御部154がアクチュエータ156を制御して駆動させることによって、排水口112が高さh15に調節されている。これにより、より高い水位まで水が貯留されても、排水口112から水が排出されない。
【0138】
本変形例によると、人がビルの屋上に登って排水口112の高さを調節しに行くことができないような状況下でも、排水口112の高さを調節することができる。また、排水口112の調節を簡便かつリアルタイムに行うことができる。なお、センサ152ないし制御部154は排水装置110内部ではなく、その管理設備等、別の場所に設けてもよい。
【0139】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【符号の説明】
【0140】
10 保水設備、20 枠体、100 底板、106 排水管、110 排水装置、112 排水口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体に囲まれた、建造物の床面に設けられる保水設備であって、
前記床面より上方に位置し、前記床面の上に貯留された水が所定の水位に到達したときに排水が可能な排水口を備えることを特徴とする保水設備。
【請求項2】
前記排水口の高さを調節する機構を備える請求項1に記載の保水設備。
【請求項3】
保水性を有する保水体の集合体であり、前記床面に敷設される保水構造体をさらに備える請求項1または2に記載の保水設備。
【請求項4】
前記排水口の周辺に敷設された前記保水構造体の高さより、前記排水口の前記床面からの高さの方が高い請求項3に記載の保水設備。
【請求項5】
前記排水口の周辺に敷設された前記保水構造体の高さより、前記排水口の前記床面からの高さの方が低い請求項3に記載の保水設備。
【請求項6】
前記保水体が前記排水口に接近することを防止する接近防止材をさらに有する請求項3乃至5のいずれか1項に記載の保水設備。
【請求項7】
前記保水体は多孔質セラミックスである請求項3乃至6のいずれか1項に記載の保水設備。
【請求項8】
孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が、前記多孔質セラミックスの全体積の53〜70%を占める請求項7に記載の保水設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−67566(P2012−67566A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215652(P2010−215652)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】