説明

保育器

【課題】 収容された新生児の目の発育や脳の発達および生育状態に悪影響を与えることがなく、雑菌繁殖のおそれもない保育器を提供する。
【解決手段】 保育器10は、新生児11を収容するベッド部12と、ベッド部12を覆う保護カバー13と、保護カバー13内の温度や湿度などを管理するためのコントロールパネル14などで構成され、保護カバー13は、構成成分として導電性酸化亜鉛を含有する透明なガラスで形成されている。保護カバー13は可視光線のみを透過し、放射線や電磁波などを効果的に遮断する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、出産後の新生児を収容する保育器に関する。
【0002】
【従来の技術】出産直後の幼児が、生存能力の不十分な未熟児である場合、あるいは異常な症状などを発症している場合、新生児は保育器に入れられ、新生児が独力で生存できるようになるまで、あるいは異常な症状が治るまで、その中で育てられる。
【0003】図3に示すように、従来の保育器90は、新生児91を収容するベッド部92と、ベッド部92を覆う透明な保護カバー93などで構成され、保護カバー93内を適切な温度、湿度に保つための加温手段および加湿手段、ベッド部92上の新生児91に対する酸素吸入手段などを備え、新生児91の院内感染などを予防するための感染防止手段も講じられている。
【0004】このような保育器90を使用することにより、かつては出産後に死亡すること多かった未熟児や何らかの異常をもって生まれた新生児の生存率は、大幅に高まっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来の保育器90において、新生児91を覆う保護カバー93は透明な合成樹脂で形成されており、外部の光は、この保護カバー93を透過して内部へ入射している。ところが、入射光線94が保護カバー93を透過する際、不規則に屈折したり、乱反射したりした後、内部の新生児91の目に到達するため、新生児91の目の発育や脳の発達に悪影響を与えるおそれがある。
【0006】また、保護カバー93は、有害な紫外線95その他の電磁波、放射線などを容易に透過するので、皮膚などが未発達な新生児91に対する悪影響も無視できない。
【0007】さらに、保護カバー93は熱伝導率が低いので保温性の点では優れているが、加温手段などから生じる熱96が内部にこもりがちであり、使用中、いわゆる温室状態となりやすいため、雑菌が繁殖しやすくなる。
【0008】本発明が解決しようとする課題は、収容された新生児の目の発育や脳の発達および生育状態に悪影響を与えることがなく、雑菌繁殖のおそれもない保育器を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の保育器は、新生児を収容するベッド部を覆う保護カバーを、構成成分として導電性金属酸化物を含有するガラスで形成したことを特徴とする。
【0010】このような構成とすることにより、導電性金属酸化物を含有するガラス製の保護カバーが、可視光線のみを不規則な屈折や乱反射を生じることなく透過するとともに、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線を効果的に遮断するので、収容された新生児の目の発育や脳の発達および生育状態に悪影響を与えることが少なくなる。
【0011】また、このガラス製の保護カバーは透明で熱伝導率が高く、内部の熱を適度に放散するので、熱のこもりが発生せず、雑菌繁殖のおそれがなく、内部に収容された新生児の顔色などを観察するときなどに支障が生じない。さらに、このガラス製の保護カバーは、従来の紫外線遮蔽用の表面コーティングガラスと異なり、ガラス自体が紫外線などの遮蔽機能を備えているため、表面損傷による機能低下や経時変化が発生せず、耐久性も優れている。
【0012】ここで、前記導電性金属酸化物として、導電性酸化亜鉛、導電性酸化錫、錫ドーピング酸化インジウムのいずれかを使用することができる。これらの導電性金属酸化物は、従来、紫外線、赤外線の遮蔽材としてガラス表面にコーティングされていた物質であり、これらの物質をガラス構成成分中に含有させることにより、紫外線、赤外線のみならず、X線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線を遮蔽する機能を発現し、ガラス自体に導電性も発現するので、新生児あるいは保育器内で使用される各種医療機器に悪影響を及ぼす放射線や電磁波などの入射を防止できるだけでなく、静電気による弊害も防止できる。
【0013】前記のように導電性金属酸化物としては、導電性酸化亜鉛、導電性酸化錫、錫ドーピング酸化インジウムのいずれかを使用することができるが、とくに導電性酸化亜鉛を含有させたガラスは、導電性酸化錫、錫ドーピング酸化インジウムを含有させたガラスに比べ、X線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線を遮蔽する機能に優れ、透明度の劣化が極めて少なく、また着色による透明度の調整も容易である。
【0014】このような導電性酸化亜鉛としては、アルミニウムやチタン、錫、これらの複合物などを含有するものがあるが、0.5〜10重量%のアルミニウムを含有する導電性酸化亜鉛は、製造工程におけるガラスとの混練が容易であり、とくにX線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線を遮蔽する機能に優れている。このような導電性酸化亜鉛としては、ハクスイテック株式会社製の導電性酸化亜鉛(商品名:23K)が好適である。
【0015】前述したガラスの構成成分としては、SiO2が65〜80%,Na2Oが10〜20%,CaOが5〜15%,MgOが0〜10%,K2Oが0〜5%,Al23が0〜5%が基本成分であり,そのほかに、酸素、珪素、ナトリウム、カルシウム、ホウ素、リチウム、イオウ、アンチモン、アルミニウム、カリウム、チタン、バリウム、ジルコニウム、亜鉛、鉛、砒素、マグネシウム、ストロンチウム、セリウム、セレン、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、モリブデン、クロムなどを含有していても差し支えない。
【0016】また、前記のガラス構成成分に対する導電性金属酸化物の含有量は、0.1〜25重量%の範囲、望ましくは0.5〜10重量%の範囲が好適である。導電性金属酸化物の含有量が25重量%を超えると、ガラス構成成分の含有比率の自由度が低下するので、ガラス本来の特徴を失うような弊害が生じることがあり、導電性金属酸化物の含有量が0.1重量%より少なくなると、放射線や電磁波などの遮蔽機能および導電性が十分に発現しない。
【0017】
【発明の実施の形態】図1は本発明の実施の形態である保育器を示す斜視図、図2は図1に示す保育器の縦断面図である。
【0018】本実施形態の保育器10は、従来の保育器と同様、新生児11を収容するベッド部12と、ベッド部12を覆う保護カバー13と、保護カバー13内の温度や湿度などを管理するためのコントロールパネル14などで構成されている。保護カバー13は、後述するように、構成成分として導電性金属酸化物を含有することによって、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線を遮蔽する機能を有する透明なガラスで形成されている。
【0019】保護カバー13を構成するガラスは、SiO2を71.8重量%,Na2Oを13.3重量%,CaOを8.8重量%,MgOを3.5重量%,K2Oを0.8重量%,Al23を1.7重量%,Fe23を0.1重量%の割合で含むガラス原料粉粒体に、ハクスイテック株式会社製の導電性酸化亜鉛(商品名:23−K)の粉末(平均粒径0.1〜0.25μm)を3〜10重量%添加して、この粉粒体を予め600〜1300℃に加熱した電気炉内で4時間加熱、溶融した後、ステンレス鋼板上に流し出して室温まで徐冷し、さらに表面を研磨して得られたものであり、その厚さは約10mmである。
【0020】このようなガラス板を組み合わせて形成された保護カバー13は、図2に示すように、可視光線14のみを不規則な屈折や乱反射を生じることなく透過するとともに、紫外線15、赤外線16およびX線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線などを効果的に遮断するので、内部に収容された新生児11の目の発育や脳の発達および生育状態に悪影響を与えることが少なく、保護カバー13内の空間を新生児11にとって適切かつ快適な環境に保つことができる。また、保護カバー13は、内部で使用される各種医療機器、たとえば心電図計などに悪影響を与えるおそれのある電磁波も遮断することができる。
【0021】このガラス製の保護カバー13は、熱伝導率が高く、新生児11の収容空間内の熱17を適度に放散するので、熱のこもりが発生せず、雑菌繁殖のおそれもない。また、保護カバー13は無色透明であるため、内部に収容された新生児11の顔色などを外部から観察するときにも支障が生じない。さらに、保護カバー13は導電性を備えているため帯電し難く、静電気による弊害をも防止することができる。
【0022】さらにこの保護カバー13は、従来の紫外線遮蔽のための表面コーティングガラスと異なり、ガラス板自体が紫外線などの遮蔽機能を備えているため、表面損傷による機能低下や経時変化が発生せず、透明度の劣化が極めて少なく、耐久性も優れている。なお、その他の部分の構造、機能などについては従来の保育器と同様である。
【0023】なお、本実施形態の保育器10は例示であり、本発明の保育器はこの保育器10に限定するものではないので、保護カバー13を構成するガラスの組成は前述した範囲内で変化させることが可能であり、保護カバー13の形状やサイズなども任意に定めることができる。
【0024】
【発明の効果】本発明により、以下に示す効果を奏する。
【0025】(1)新生児を収容するベッド部を覆う保護カバーを、構成成分として導電性金属酸化物を含有するガラスで形成することにより、この保護カバーが可視光線のみを不規則な屈折や乱反射を生じることなく透過し、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線などを効果的に遮断するので、収容された新生児の目の発育や脳の発達や生育状態に悪影響を与えることが少ない。また、この保護カバーは透明で熱伝導率が高く、内部の熱を適度に放散するので、熱のこもりに起因する雑菌繁殖のおそれがなく、内部に収容された新生児の顔色などを観察するときにも支障がない。さらに、保護カバーを構成するガラス自体が紫外線などの遮蔽機能を備えているため、表面損傷による機能低下や経時変化が発生せず、耐久性も優れている。
【0026】(2)導電性金属酸化物として、導電性酸化亜鉛、導電性酸化錫、錫ドーピング酸化インジウムのいずれかをガラス構成成分中に含有させることにより、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線を遮蔽する機能を発現し、ガラス自体に導電性も発現するので、内部の新生児や各種医療機器に悪影響を及ぼす放射線や電磁波などの入射を防止できるだけでなく、静電気による弊害をも防止できる。また、導電性酸化亜鉛を含有させたガラスは、ガラスの透明度の劣化が極めて少なく、着色による透明度の調整も容易となる。
【0027】(3)導電性金属酸化物として、0.5〜10重量%のアルミニウムを含有する導電性酸化亜鉛を使用することにより、製造工程におけるガラスとの混練が容易となり、とくにX線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線を遮蔽する機能が向上する。
【0028】(4)ガラス構成成分に対する導電性金属酸化物の含有量を、0.1〜25重量%の範囲とするこにより、ガラス本来の特徴を失うことなく、放射線や電磁波などの遮蔽機能および導電性を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施の形態である保育器を示す斜視図である。
【図2】 図1に示す保育器の縦断面図である。
【図3】 従来の保育器の縦断面図である。
【符号の説明】
10 保育器
11 新生児
12 ベッド部
13 保護カバー
14 可視光線
15 紫外線
16 赤外線
17 熱

【特許請求の範囲】
【請求項1】 新生児を収容するベッド部を覆う保護カバーを、構成成分として導電性金属酸化物を含有するガラスで形成したことを特徴とする保育器。
【請求項2】 前記導電性金属酸化物が、導電性酸化亜鉛、導電性酸化錫、錫ドーピング酸化インジウムのいずれかである請求項1記載の保育器。
【請求項3】 前記導電性金属酸化物が、0.5〜10重量%のアルミニウムを含有する導電性酸化亜鉛である請求項1記載の保育器。
【請求項4】 前記導電性金属酸化物の含有量が、ガラス原料の0.1〜25重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の保育器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2002−153523(P2002−153523A)
【公開日】平成14年5月28日(2002.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−354560(P2000−354560)
【出願日】平成12年11月21日(2000.11.21)
【出願人】(399052109)九州白水株式会社 (2)
【出願人】(000234395)ハクスイテック株式会社 (9)
【Fターム(参考)】