説明

保護コロイドで安定化されたポリマーの製造方法及び前記方法を実施するための装置

本発明の対象は、ポンプ及び熱交換器が備えられている外部冷却循環路を有する反応器中で乳化重合することにより保護コロイドで安定化されたポリマーを製造する方法であり、前記方法は、反応器中に存在する反応混合物を、ポンプを用いて固定された内部構造物を有する冷却されたスタティックミキサー−熱交換器中へ搬送し、引き続き前記反応器へ返送することにより特徴付けられる。本発明の別の対象は、反応器及び外部冷却循環路を含む、乳化重合することにより保護コロイドで安定化されたポリマーを製造するための装置であり、前記装置は、外部冷却循環路に、ポンプと、固定された内部構造物を有する冷却されるスタティックミキサー−熱交換器とが備えられていることにより特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ及び熱交換器が備えられている外部冷却循環路を有する反応器中で乳化重合することによる保護コロイドで安定化されたポリマーの製造方法並びにこの方法を実施するための装置に関する。
【0002】
保護コロイドで安定化されたポリマーはとりわけそれらの水性分散液又は水中に再分散可能なポリマー粉末の形で、様々な用途において、例えば多種多様な基体用のコーティング剤又は接着剤として、使用される。保護コロイドとして通例ポリビニルアルコールが使用される。ポリビニルアルコールの使用は、努力する価値がある、それというのも、この使用は、低分子化合物(乳化剤)により安定化されている系と比較して、それ自体で強さ(例えばタイル接着剤中での引張接着値)に寄与するからである。再分散可能な粉末を製造するためのモノマーとして、これまで好ましくはビニルエステル及びエチレンが使用されてきた、それというのも、ポリビニルアルコールによるアクリラートコポリマーもしくはスチレンアクリラートコポリマーの安定化は、簡単に実現されることはできないからである。
【0003】
これらの分散液の製造は、従来的にはバッチ法又はチャージ法における乳化重合により行われる。この方法は、高いフレキシビリティーにより特徴付けられ、かつそれゆえ、好ましくは設備中で大きな生成物多様性を伴い見出されることができる。
【0004】
重合の際に発生される大量のエネルギーが、反応器の内部冷却装置によって不十分にのみ導出されることができることは不利である。反応器内部の冷却装置は一般的に、中で冷却媒体が反応器を循環流動する二重ジャケットであるか、又は反応器内壁上に取り付けられている冷却蛇管である。これらの装置を用いて条件付きで制限された熱除去により、部分的に極めて長いプロセス時間が生じ、これらの時間は前記方法の経済性を妨げる。より良好な熱除去及び前記プロセスの促進のために、重合する媒体が、循環路を経て外部冷却器に供給され、かつそこから再び前記反応器中へ返送されるように重合を導くことは公知である。
【0005】
欧州特許出願公開(EP-A1)第0 834 518号明細書には、乳化重合によるポリマー分散液の製造方法及び外部冷却器を介する重合熱の除去が記載されており、本質的に層流のプロフィールを有する熱交換器及びせん断の乏しいポンプが使用されることにより特徴付けられる。層流の存在は、特に強調され、かつせん断力の作用を低く維持するのに利用される。国際公開(WO-A2)第03/006510号には類似の方法が記載されているが、ただし具体的にせん断に乏しく搬送するシリンダー−又はホースダイアフラムポンプが推奨される。国際公開(WO-A1)第02/059158号には、モノマーの部分量が外部循環路中へ直接導入されることによる方法が記載される。このことは、あまり凝結物及び壁被覆物を形成することに寄与しないはずである。欧州特許出願公開(EP-A1)第0 608 567号明細書は、熱交換器及びポンプが備えられている外部冷却循環路を有する反応器中での塩化ビニルの重合方法に関し、その際にポンプとしてスクリュー遠心ホイール(Schraubenzentrifugalrad)を有するHidrostalポンプが使用される。欧州特許出願公開(EP-A2)第0 526 741号明細書からは、外部冷却循環路を有する反応器系が知られており、この系はスパイラルスクリューの形のインペラーを有する特殊なポンプにより特徴付けられている。独国特許(DE)第199 40 399号明細書において、前記ポリマー分散液を、冷却循環路中のインペラー(Fluegelrad)を有するポンプを用いて搬送することが推奨される。
【0006】
常用の熱交換器(プレート式熱交換器、管束熱交換器、スパイラル熱交換器)が、道理にかなった構造サイズの場合に、制限された熱除去容量のみを有することは不利である。このことはとりわけ、冷却すべき分散液を用いて層流のみが確立されることにより引き起こされる。まずまずの冷却性能を達成するために、故に、極めて高い流速もしくは性能で、外部循環路を経てポンプ輸送することが必要である。そのために必要な高性能ポンプは、その際に、媒体中へのエネルギー導入により、生成物の激しい損傷をまねきうる。
【0007】
本発明の課題は、乳化重合の際に、生成物特性を妨げることなくより効率的に熱除去する方法を提供することであった。
【0008】
本発明の対象は、ポンプ及び熱交換器が備えられている外部冷却循環路を有する反応器中で乳化重合することにより保護コロイドで安定化されたポリマーを製造する方法であり、前記方法は、反応器中に存在する反応混合物を、ポンプを用いて、固定された内部構造物を有する冷却されたスタティックミキサー−熱交換器中へ搬送し、引き続き前記反応器へ返送することにより特徴付けられる。
【0009】
本発明のさらなる対象は、反応器及び外部冷却循環路を含む、乳化重合することにより保護コロイドで安定化されたポリマーを製造するための装置であり、前記装置は、外部冷却循環路に、ポンプと、固定された内部構造物を有する冷却されるスタティックミキサー−熱交換器とが備えられていることにより特徴付けられる。
【0010】
適した反応器は、相応して寸法決定された鋼反応器であり、これらの反応器は、加圧反応器又は無加圧反応器として設計されていてよく、かつ常用の撹拌装置、加熱系及び冷却系、測定装置及び制御装置、並びに出発物質を供給するためもしくは生成物を導出するための管路を有する。
【0011】
前記外部冷却循環路は、相応して寸法決定された管路からなり、その中へポンプ及び熱交換器が一体化されている。一般的に、外部冷却循環路への重合混合物の外部導出のための接続は、反応器の下3分の1に、好ましくは前記反応器の底部に存在する。重合混合物を外部冷却循環路から反応器中へ返送するための接続は、外部導出のための接続とは異なる箇所に、一般的に反応器の上3分の1に、好ましくは前記反応器の頂部に存在する。
【0012】
使用されるポンプのタイプは重要ではない。例えばフリーフローポンプ(渦)又は容積移送式ポンプが適している。容積移送式ポンプが好ましく、スクリューポンプが特に好ましい。前記ポンプは好ましくは、100barまで、好ましくは40〜100barの圧力に耐えるように寸法決定されている。時間処理量は、前記反応器の寸法決定に依存する。一般的に、外部冷却循環路は、流動速度(時間処理量)が1時間あたり反応器容積の少なくとも2倍、好ましくは1時間あたり反応器容積の3〜10倍、最も好ましくは1時間あたり反応器容積の4〜6倍であるように構成されている。通常の値は、50〜400m3/h、好ましくは150〜300m3/hの範囲内である。
【0013】
スタティックミキサーは、一般的に管状のケーシングを含み、その中に配置された少なくとも1つの混合インサートが、例えば1つ又はそれ以上のブリッジ(Stege)及びスリットの形で有するプレートが、備えられている。その際に、一方のプレートのブリッジはそれぞれ、他方のプレートのスリットと交差して延在する。好ましくは、前記プレートは、相互に対してかつ前記管の軸に対して傾けて配置されている。冷却のために、二重ジャケットを有する管状のケーシングが備えられていてよい。混合構成要素が備えられた流れ管に、それと選択的に又は冷却のために追加的に、内部に配置された管束も備えられることができる。適したスタティックミキサー−熱交換器は、商業的に入手可能であり、例えばFluitec社の型式CES-XRのものである。
【0014】
スタティックミキサー−熱交換器の寸法決定は、本質的には前記重合反応器の大きさに依存する。一般的に、冷却性能は≧50KW/m3反応器容積であるべきである。好ましくは、冷却性能は、≧75KW/m3反応器容積、特に好ましくは75〜100KW/m3反応器容積であるべきである。
【0015】
スタティックミキサー−熱交換器は、混合内部構造物を用いて横混合及び恒常的な表面更新が配慮されることにより特徴付けられる。このことは、特に層流のために、極めて良好な熱伝達を可能にする。前記内部構造物にも拘わらず、ポリマー分散液の生成物損傷もしくは凝結が観察されないことは、意外である。単純な管束熱交換器と比較してかなりより良好な熱除去は、前記冷却器の明らかによりコンパクトな構造形式を可能にし、このことは、大工業的な設備にとって重要な点である。
【0016】
乳化重合することによる保護コロイドで安定化されたポリマーの製造方法の場合に、任意のエチレン系不飽和モノマーは、水性媒体中で、任意の保護コロイドの存在で及びラジカルによる開始により、重合されることができる。エチレン系不飽和モノマーとして、一般的に、炭素原子1〜15個を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルキルカルボン酸のビニルエステル、炭素原子1〜15個を有するアルコールのメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル、ビニル芳香族化合物、オレフィン、ジエン及びビニルハロゲン化物を含む群からの1つ又はそれ以上のモノマーが使用される。好ましくは、ビニルエステルの重合方法は、好ましくはエチレン、及び場合により別のコモノマーの存在で使用される。
【0017】
適したビニルエステルは、炭素原子1〜15個を有するカルボン酸のビニルエステルである。好ましいビニルエステルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ビニル−2−エチルヘキサノアート、ビニルラウラート、1−メチルビニルアセタート、ビニルピバラート及び炭素原子9〜11個を有するα−分枝鎖状モノカルボン酸のビニルエステル、例えばVeoVa9R又はVeoVa10R(Hexion社の商標名)である。酢酸ビニルが特に好ましい。挙げられたビニルエステルは、モノマーの全質量に対してそれぞれ、一般的に30〜100質量%、好ましくは30〜90質量%の量で重合される。
【0018】
エチレンは、前記モノマーの全質量を基準として、一般的に1〜40質量%の量で共重合される。
【0019】
適した別のコモノマーは、アクリル酸又はメタクリル酸のエステル、塩化ビニルのようなビニルハロゲン化物、プロピレンのようなオレフィンの群からのそのようなものである。適したメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルは、炭素原子1〜15個を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルコールのエステル、例えばメチルアクリラート、メチルメタクリラート、エチルアクリラート、エチルメタクリラート、プロピルアクリラート、プロピルメタクリラート、n−ブチルアクリラート、n−ブチルメタクリラート、2−エチルヘキシルアクリラート、ノルボルニルアクリラートである。メチルアクリラート、メチルメタクリラート、n−ブチルアクリラート及び2−エチルヘキシルアクリラートが好ましい。これらのコモノマーは、前記モノマーの全質量を基準として、場合により1〜40質量%の量で、共重合される。
【0020】
場合により、モノマー混合物の全質量を基準として、補助モノマー0.05〜10質量%がさらに共重合されることができる。補助モノマーの例は、エチレン系不飽和のモノカルボン酸及びジカルボン酸、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸及びマレイン酸;エチレン系不飽和のカルボン酸アミド及びカルボン酸ニトリル、好ましくはアクリルアミド及びアクリロニトリル;フマル酸及びマレイン酸のモノエステル及びジエステル、例えばジエチルエステル及びジイソプロピルエステル、並びに無水マレイン酸、エチレン系不飽和スルホン酸もしくはそれらの塩、好ましくはビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸である。さらなる例は、前架橋性コモノマー、例えばエチレン系ポリ不飽和コモノマー、例えばジビニルアジパート、ジアリルマレアート、アリルメタクリラート又はトリアリルシアヌラート、又は後架橋性コモノマー、例えばアクリルアミドグリコール酸(AGA)、メチルアクリルアミドグリコール酸メチルエステル(MAGME)、N−メチロールアクリルアミド(NMA)、N−メチロールメタクリルアミド(NMMA)、N−メチロールアリルカルバマート、アルキルエーテル、例えばイソブトキシエーテル又はN−メチロールアクリルアミドのエステル、N−メチロールメタアクリルアミドのエステル及びN−メチロールアリルカルバマートのエステルである。エポキシド官能性コモノマー、例えばグリシジルメタクリラート及びグリシジルアクリラートも適している。さらなる例は、ケイ素官能性コモノマー、例えばアクリルオキシプロピルトリ(アルコキシ)シラン及びメタクリルオキシプロピルトリ(アルコキシ)シラン、ビニルトリアルコキシシラン及びビニルメチルジアルコキシシランであり、その際にアルコキシ基として例えばメトキシ基、エトキシ基及びエトキシプロピレングリコールエーテル基が含まれていてよい。ヒドロキシ基又はCO基を有するモノマー、例えばメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル及びアクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、例えばヒドロキシエチルアクリラート、ヒドロキシプロピルアクリラート又はヒドロキシブチルアクリラート又はヒドロキシエチルメタクリラート、ヒドロキシプロピルメタクリラート又はヒドロキシブチルメタクリラート並びにジアセトンアクリルアミド及びアセチルアセトキシエチルアクリラート又はアセチルアセトキシエチルメタクリラートのような化合物も挙げることができる。
【0021】
好ましくは、酢酸ビニルとエチレン1〜40質量%とのコモノマー混合物;並びに
酢酸ビニルと、エチレン1〜40質量と、カルボン酸基中に炭素原子1〜15個を有するビニルエステル、例えばプロピオン酸ビニル、ビニルラウラート、炭素原子9〜11個を有するα−分枝鎖状カルボン酸のビニルエステル、例えばVeoVa9、VeoVa10、VeoVa11の群からの1つ又はそれ以上の別のコモノマー1〜50質量%とのコモノマー混合物;及び
酢酸ビニルと、エチレン1〜40質量%と、好ましくは1〜60質量%の炭素原子1〜15個を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルコールのアクリル酸エステル、特にn−ブチルアクリラート又は2−エチルヘキシルアクリラートとの混合物;及び
酢酸ビニル30〜75質量%、ビニルラウラート又は炭素原子9〜11個を有するα−分枝鎖状カルボン酸のビニルエステル1〜30質量%と、並びに炭素原子1〜15個を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルコールのアクリル酸エステル、特にn−ブチルアクリラート又は2−エチルヘキシルアクリラート1〜30質量%とを有し、さらにエチレン1〜40質量%を含有する、混合物;
並びに酢酸ビニルと、エチレン1〜40質量%と塩化ビニル1〜60質量%との混合物であり;その際に
前記混合物はさらに、挙げた補助モノマーを挙げた量で含有していてよく、かつ質量%の記載は合計でその都度100質量%である。
【0022】
モノマー選択もしくはコモノマーの質量割合の選択は、その際に、一般的に−50℃〜+50℃のガラス転移温度Tgが生じるように行われる。ポリマーのガラス転移温度Tgは、示差走査熱量測定法(DSC)を用いて公知方法で算出されることができる。TgはFox式を用いて近似的に見積もられることもできる。Fox T. G., Bull. Am. Physics Soc. 1, 3, 123頁(1956)によれば次の通りである:1/Tg=x/Tg+x/Tg+…+x/Tg、その際にxはモノマーnの質量分率(質量%/100)を表し、かつTgはモノマーnのホモポリマーのガラス転移温度[単位:K]である。ホモポリマーについてのTg値は、Polymer Handbook 第2版, J. Wiley & Sons, New York (1975)に記載されている。
【0023】
重合温度は、一般的に40℃〜100℃、好ましくは60℃〜90℃である。重合の開始は、乳化重合に一般に使われているレドックス開始剤組合せを用いて行われる。適した酸化開始剤の例は、ペルオキソ二硫酸のナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩、過酸化水素、t−ブチルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ペルオキソ二リン酸カリウム、t−ブチルペルオキソピバラート、クメンヒドロペルオキシド、イソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、アゾビスイソブチロニトリルである。ペルオキソ二硫酸のナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩及び過酸化水素が好ましい。前記の開始剤は、前記モノマーの全質量を基準として、一般的に0.01〜2.0質量%の量で使用される。
【0024】
適した還元剤は、アルカリ金属及びアンモニウムの亜硫酸塩及び重亜硫酸塩、例えば亜硫酸ナトリウム、スルホキシル酸の誘導体、例えば亜鉛ホルムアルデヒドスルホキシラート又はアルカリ金属ホルムアルデヒドスルホキシラート、例えばナトリウムヒドロキシメタンスルフィナート(Brueggolit)及び(イソ)アスコルビン酸である。ナトリウムヒドロキシメタンスルフィナート及び(イソ)アスコルビン酸が好ましい。還元剤量は、前記モノマーの全質量を基準として、好ましくは0.015〜3質量%である。
【0025】
前記の酸化剤、特にペルオキソ二硫酸の塩は、単独でも熱開始剤として使用されることができる。
【0026】
分子量の制御のために、重合中に調節物質が使用されることができる。調節剤が使用される場合には、これらは通常、重合すべきモノマーを基準として、0.01〜5.0質量%の量で使用され、かつ別個にか又はまた反応成分と予め混合されて計量供給される。そのような物質の例はn−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸メチルエステル、イソプロパノール及びアセトアルデヒドである。好ましくは、調節物質は使用されない。
【0027】
適した保護コロイドは、完全けん化又は部分けん化されたポリビニルアルコール;ポリビニルアセタール;ポリビニルピロリドン;水溶形の多糖類、例えばデンプン(アミロース及びアミロペクチン)、セルロース及びそれらのカルボキシメチル−、メチル−、ヒドロキシエチル−、ヒドロキシプロピル−誘導体;タンパク質、例えばカゼイン又はカゼイナート、大豆タンパク質、ゼラチン;リグニンスルホン酸塩;合成ポリマー、例えばポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリラートとカルボキシル官能性コモノマー単位とのコポリマー、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルスルホン酸及びそれらの水溶性のコポリマー;メラミンホルムアルデヒドスルホン酸塩、ナフタレンホルムアルデヒドスルホン酸塩、スチレンマレイン酸−及びビニルエーテルマレイン酸−コポリマーである。
【0028】
好ましい保護コロイドは、部分けん化された又は完全けん化されたポリビニルアルコールである。80〜95mol%の加水分解度及び1〜30mPasの4%水溶液中ヘプラー粘度(20℃でのヘプラーによる方法、DIN 53015)を有する部分けん化されたポリビニルアルコールが好ましい。80〜95mol%の加水分解度及び1〜30mPasの4%水溶液中ヘプラー粘度を有し、部分けん化され、疎水性に変性されたポリビニルアルコールも好ましい。これらの例は、酢酸ビニルと、疎水性コモノマー、例えばイソプロペニルアセタート、ビニルピバラート、ビニルエチルヘキサノアート、炭素原子5又は9〜11個を有する飽和α−分枝鎖状モノカルボン酸のビニルエステル、ジアルキルマレイナート及びジアルキルフマラート、例えばジイソプロピルマレイナート及びジイソプロピルフマラート、塩化ビニル、ビニルアルキルエーテル、例えばビニルブチルエーテル、オレフィン、例えばエテン及びデセンとの部分けん化されたコポリマーである。疎水性単位の割合は好ましくは、部分けん化されたポリビニルアルコールの全質量を基準として、0.1〜10質量%である。挙げたポリビニルアルコールの混合物も使用されることができる。
【0029】
好ましい別のポリビニルアルコールは、部分けん化された疎水化ポリビニルアルコールであり、これらは、重合類似反応、例えばビニルアルコール単位とブチルアルデヒドのようなC1〜C4−アルデヒドとのアセタール化により得られる。疎水性単位の割合は好ましくは、部分けん化されたポリビニルアセタートの全質量を基準として、0.1〜10質量%である。加水分解度は、80〜95mol%、好ましくは85〜94mol%であり、ヘプラー粘度(DIN 53015、ヘプラーによる方法、4%水溶液)は、1〜30mPas、好ましくは2〜25mPasである。
【0030】
85〜94mol%の加水分解度及び3〜15mPasの4%水溶液中ヘプラー粘度(20℃でのヘプラーによる方法、DIN 53015)を有するポリビニルアルコールが最も好ましい。前記の保護コロイドは、当業者に知られた方法により入手可能である。
【0031】
前記ポリビニルアルコールは一般的に、前記モノマーの全質量を基準として、全部で1〜20質量%の量で、前記重合の際に添加される。
【0032】
本発明による方法の場合に、好ましくは乳化剤を添加せずに重合される。例外的な場合に、なお追加的に少量の、前記モノマー量を基準として場合により1〜5質量%の乳化剤を使用することは有利でありうる。適した乳化剤は、アニオン性、カチオン性並びに非イオン性の乳化剤、例えばアニオン性界面活性剤、例えば炭素原子8〜18個の鎖長を有するアルキル硫酸塩、疎水性基中に炭素原子8〜18個及びエチレンオキシド単位又はプロピレンオキシド単位40個までを有するアルキルエーテル硫酸塩又はアルキルアリールエーテル硫酸塩、炭素原子8〜18個を有するアルキルスルホン酸塩又はアルキルアリールスルホン酸塩、スルホコハク酸と一価アルコール又はアルキルフェノール類とのエステル及び半エステル、又は非イオン性界面活性剤、例えばエチレンオキシド単位8〜40個を有するアルキルポリグリコールエーテル又はアルキルアリールポリグリコールエーテルである。
【0033】
前記モノマーは、反応器中に全部で装入されることができるか、又は計量供給されることができる。好ましくは、前記モノマーの全質量を基準として、50〜100質量%、特に70質量%超が装入され、かつ残余が計量供給されるようにして行われる。計量供給は、別個に(空間的に及び時間的に)実施されることができるか、又は計量供給すべき成分は、全て又は部分的に予備乳化されて計量供給されることができる。
【0034】
前記保護コロイド含分は、反応器中に、完全に装入されることができ、並びに部分的に計量供給されることができる。好ましくは、前記保護コロイドの少なくとも70質量%が装入され、特に好ましくは、前記保護コロイド含分は完全に装入される。
【0035】
前記重合は、好ましくは、酸化成分及び還元成分からなるレドックス系を用いて開始される。モノマー転化率は、開始剤計量供給で制御される。前記開始剤は、連続的な重合が保証されているように、前記反応器中へ全体として計量供給される。
【0036】
反応器中での重合の終了後に、残存モノマー除去のために公知方法を適用して、一般的にレドックス触媒を用いて開始された後重合により、無加圧反応器中で後重合されることができる。前記無加圧反応器中で、故に双方の開始剤成分は、最終仕上げ(Endkonfektionierung)のために必要な量で添加される。揮発性の残存モノマーは蒸留を用いて、好ましくは減圧下で、及び場合により不活性キャリヤーガス、例えば空気、窒素又は水蒸気を導通又は通過させながら、除去されることもできる。
【0037】
本発明による方法を用いて得ることができる水性分散液は、30〜75質量%、好ましくは50〜60質量%の固体含量を有する。水中に再分散可能なポリマー粉末の製造のためには、水性分散液は、場合により乾燥助剤としての保護コロイドの添加後に、例えば流動層乾燥、凍結乾燥又は噴霧乾燥により、乾燥されることができる。好ましくは、分散液は噴霧乾燥される。噴霧乾燥はその場合に常用の噴霧乾燥設備中で行われ、その際に噴霧は、一流体ノズル、二流体ノズル又は多流体ノズルを用いて又は回転円板を用いて行われることができる。出口温度は一般的に45℃〜120℃、好ましくは60℃〜90℃の範囲内で、設備、樹脂のTg及び所望の乾燥度に応じて、選択される。
【0038】
通例、乾燥助剤は、分散液のポリマー成分を基準として、3〜30質量%の全量で使用される。すなわち乾燥過程前の保護コロイドの全量は、ポリマー割合に対して少なくとも3〜30質量%であるべきである;好ましくは、ポリマー割合に対して5〜20質量%が使用される。
【0039】
適している乾燥助剤は、部分けん化されたポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリビニルアセタール;水溶形の多糖類、例えばデンプン(アミロース及びアミロペクチン)、セルロース及びそれらのカルボキシメチル−、メチル−、ヒドロキシエチル−、ヒドロキシプロピル−誘導体;タンパク質、例えばカゼイン又はカゼイナート、大豆タンパク質、ゼラチン;リグニンスルホン酸塩;合成ポリマー、例えばポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリラートとカルボキシル官能性コモノマー単位とのコポリマー、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルスルホン酸及びそれらの水溶性コポリマー;メラミンホルムアルデヒドスルホン酸塩、ナフタレンホルムアルデヒドスルホン酸塩、スチレンマレイン酸−コポリマー及びビニルエーテルマレイン酸−コポリマーである。好ましくは、ポリビニルアルコールとしての別の保護コロイドは、乾燥助剤として使用されない。
【0040】
ノズル噴霧の際に、しばしば、基本ポリマーを基準として、1.5質量%までの含量の消泡剤が好都合であることが判明している。ブロッキング安定性の改善により、特に低いガラス転移温度を有する粉末の場合の、貯蔵性を増大させるために、得られた粉末は、ポリマー成分の全質量を基準として、好ましくは30質量%までの、ブロッキング防止剤(付着防止剤)で仕上げ加工されることができる。ブロッキング防止剤の例は炭酸Caもしくは炭酸Mg、タルク、セッコウ、ケイ酸、カオリン、好ましくは10nm〜10μmの範囲内の粒度を有するケイ酸塩である。
【0041】
ノズル噴霧すべき原料の粘度は、<500mPas(20回転及び23℃でのBrookfield粘度)、好ましくは<250mPasの値が得られるように固体含量に関して調節される。ノズル噴霧すべき分散液の固体含量は>35%、好ましくは>40%である。
【0042】
応用技術的な性質を改善するためには、ノズル噴霧の際に別の添加剤が添加されることができる。好ましい実施態様において含まれている、分散粉末組成物の別の成分は、例えば顔料、充填剤、泡安定剤、疎水化剤である。
【0043】
水性ポリマー分散液及び水中に再分散可能な保護コロイド安定化されたポリマー粉末は、そのために典型的な適用分野において使用されることができる。例えば、建築化学製品において、場合により水硬性結合剤、例えばセメント(ポルトランドセメント、アルミン酸塩セメント、トラスセメント、スラグセメント、マグネシアセメント、リン酸塩セメント)、セッコウ及び水ガラスと組み合わせて、建築用接着剤、特にタイル接着剤及び完全断熱接着剤、プラスター、目止め剤、床用目止め剤、流展材料(Verlaufsmassen)、シーリングスラリー、目地モルタル及び着色剤の製造のため。さらに、コーティング剤及び接着剤用の結合剤として又はテキスタイル及び紙用のコーティング剤もしくは結合剤として。
【0044】
次の例は、本発明をさらに説明するために利用される:
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例の反応器系を示す略示図。
【実施例】
【0046】
次の実施例の反応器系は、図1に示されており、かつ加圧反応器R1及び熱交換器Wを含む。前記熱交換器は、1.60mの全長を有するFluitec-熱交換器CSE-XRであり;熱交換器Wの容積はそれゆえ約22lである。反応器R1は、約590lの容積、撹拌機及び冷却可能なジャケットを有する。ポンプPは、プログレッシブキャビティポンプ(Exzenterschneckenpumpe)である。全ての装置は、80barまでの利用可能な圧力範囲に設計されている。後処理は、無加圧反応器R2中で行われる。
【0047】
例;
加圧反応器R1中に、脱イオン水120kg、88mol%の加水分解度及び4mPasのヘプラーによる粘度を有するポリビニルアルコールの20%溶液92kg、並びに酢酸ビニル236kg及びエチレン19kgを装入した。
【0048】
pH値を、ギ酸140gで4.0に調節し、かつ前記混合物を10%硫酸鉄アンモニウム50mlの添加後に55℃に加熱した。
【0049】
設定温度に達した際に、開始剤計量供給を750g/hで開始した:
酸化剤:t−ブチルヒドロペルオキシドの3%溶液
還元剤:ナトリウムヒドロキシメタンスルフィナート(Brueggolit)の5%溶液
重合の開始と共に、反応器内容物を、3m3/hの速度で外部循環路を経てポンプ輸送した。同時に、内部温度を、85℃に安定に確立されるように制御した。
【0050】
反応開始30分後に、再度、酢酸ビニル59kg及び88mol%の加水分解度及び4mPasのヘプラーによる粘度を有するポリビニルアルコールの20%溶液29kgを1時間かけて計量供給した。さらに、エチレン15kgを44barで後計量供給した。120分の運転時間後に、重合は終了しており、かつ反応混合物を、無加圧反応器R2中へ放圧し、かつ過剰のエチレンを分離した。残存モノマーを、10%t−ブチルヒドロペルオキシド2.2kg及び5%ナトリウムヒドロキシメタンスルフィナート(Brueggolit)4.4kgの添加により低下させた。
【0051】
57.5%の固体含量、1480mPasの粘度(23℃でのBrookfield 20)、3.4のpH値、+16℃のTg及び1120nmの粒度直径Dwを有する分散液が得られた。遊離残存モノマーは150ppmであった。
【0052】
前記生成物品質の言うに値する妨害は観察されなかった。
【0053】
250μmのふるい分けの際のふるい残分は、180ppm(mg/kg)であった。前記分散液は、セメント中で安定であった。
【0054】
熱交換器を経ての熱除去は約40KWであった。熱交換器中での言うに値する壁被覆物形成は観察されなかった。
【0055】
比較例:
例1のように行ったが、ただし、熱交換器として匹敵しうる容積を有する従来の管形熱交換器を使用した。熱除去性能は、約25KWで本発明により使用される熱交換器の約60%に過ぎなかった。重合時間は、155分に延長された。前記管形熱交換器は、使用時間の過程で(通常50チャージまで)、明らかな壁被覆物が形成する傾向にあり、冷却性能の相応する減少を伴った。
【符号の説明】
【0056】
R1、R2 反応器、 W 熱交換器、 P ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ及び熱交換器が備えられている外部冷却循環路を有する反応器中で乳化重合することによって保護コロイドで安定化されたポリマーを製造する方法であって、反応器中に存在する反応混合物を、ポンプを用いて、固定された内部構造物を有する冷却されたスタティックミキサー−熱交換器中へ搬送し、引き続き前記反応器へ返送することを特徴とする、保護コロイドで安定化されたポリマーの製造方法。
【請求項2】
流動速度が1時間あたり反応器容積の少なくとも2倍であるように外部冷却循環路が寸法決定されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
冷却性能が≧50KW/m3反応器容積であるようにスタティックミキサー−熱交換器が寸法決定されている、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
炭素原子1〜15個を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルキルカルボン酸のビニルエステル、炭素原子1〜15個を有するアルコールのメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル、ビニル芳香族化合物、オレフィン、ジエン及びビニルハロゲン化物を含む群からの1つ又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマーを重合させる、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
炭素原子1〜15個を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルキルカルボン酸の1つ又はそれ以上のビニルエステルを、エチレンと共重合させる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
モノマーの全質量を基準としてそれぞれ、30〜90質量%の量の炭素原子1〜15個を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルキルカルボン酸の1つ又はそれ以上のビニルエステル、1〜40質量%の量のエチレンを、場合によりアクリル酸又はメタクリル酸のエステル、ビニルハロゲン化物又はオレフィンを含む群からの1つ又はそれ以上の別のコモノマーと共重合させる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
保護コロイドとしての部分けん化又は完全けん化されたポリビニルアルコールの存在で重合させる、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
乳化重合を用いて得られる水性ポリマー分散液を、水中に再分散可能なポリマー粉末へと乾燥させる、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
建築化学的製品における、場合により水硬性結合剤、例えばセメント、セッコウ又は水ガラスと組み合わせて、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法により得られた生成物の使用。
【請求項10】
建築用接着剤、特にタイル用接着剤及び完全断熱接着剤、プラスター、目止め剤、床用目止め剤、流展材料(Verlaufsmassen)、シーリングスラリー、目地モルタル又は着色剤における、請求項9記載の使用。
【請求項11】
コーティング剤及び接着剤用の結合剤として、又はテキスタイル及び紙用のコーティング剤又は結合剤としての、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法により得られた物の使用。
【請求項12】
反応器及び外部冷却循環路を含む、乳化重合することにより保護コロイドで安定化されたポリマーを製造するための装置であって、外部冷却循環路に、ポンプと、固定された内部構造物を有する冷却されたスタティックミキサー−熱交換器とが備えられていることを特徴とする、保護コロイドで安定化されたポリマーを製造するための装置。

【図1】
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【公表番号】特表2010−537022(P2010−537022A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522297(P2010−522297)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/060503
【国際公開番号】WO2009/027212
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】