説明

保護フィルター装置

【課題】製造装置から排出され、減圧ポンプの故障原因となる排気中の微粉体を効率よく除去できる保護フィルター装置を提供する。
【解決手段】保護フィルター装置(10)を、内部空間(19)を有するケーシング(12)と、ケーシング(12)内に微粒子を含む排気(H)を導入する排気導入管(14)と、ケーシング(12)内における排気導入管(14)の開口部において、排気導入管(14)の中心軸線(CL)上に回転可能に保持された回転体(16)と、ケーシング(12)内において、回転体(16)を介して排気導入管(14)の開口部に正対配置されており、少なくとも表面側に微粒子捕集液(L)を含んでいる無端ベルト(18)とで構成し、無端ベルト(18)の表面を回転体(16)に接触させて、無端ベルト(18)が回転することによって回転体(16)を回転させる、無端ベルト(18)の表面側における微粒子捕集液(L)を回転体(16)の表面に塗布することにより上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上流側の真空或いは減圧(本明細書では両者を含めて「減圧」という。)利用の製造装置からの排気中に含まれる微粉体、特に、単結晶引上装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置のような半導体製造装置からの排気中に含まれるSiO微粉、a−Si微粉(アモルファス状のシリコン微粉)、反応生成物微粉等を除去して、下流側の減圧ポンプに無塵排気を供給する保護フィルター装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不活性ガスを流しながら減圧雰囲気で運転する減圧利用の製造装置は排気側に減圧ポンプを設置し、稼働中に発生する該装置内の発生ガス(=排気)を連続的に吸引しつつ製造作業を進めて行くが、当該排気中に微粉体が含まれている場合、減圧ポンプ内に次第に蓄積して減圧ポンプを破損する。
【0003】
例えば、図1に示すように、該製造装置がCZ(チョクラルスキー)法による単結晶製造装置の場合、単結晶製造原料である溶融純Siは高温雰囲気下においてSiO2坩堝に収納されているが、排気中には溶融純Siと坩堝のSiO2とが反応して出来たSiO微粉、反応生成物微粉等が僅かながら含まれる。これらは溶融シリコンが石英坩堝内に存在する間、反応が進行してSiOが発生し、一部は炉内壁に付着するとともに、他の一部は炉内に供給された不活性ガスに含まれて減圧ポンプに供給される。なお、SiOの発生量は、溶融シリコンとSiO2坩堝との反応量で決まり、一般に数百グラム程度発生する。
【0004】
使用される減圧ポンプとしては、油回転ポンプやドライ減圧ポンプ、メカニカルブースターポンプなどがあるが、油回転ポンプにおいては油の粘度が増加して回転モーターの過負荷を引き起こし、ドライポンプにおいてはロータとケーシングやロータ同士の摺接部分があり、僅かながら含まれている前記SiO粉が摺接部分に入り込んで次第に当該部分を磨耗したり或いは付着してロータの回転に負荷をかけ続けることになり、最終的に回転停止に至らしめることになる。稼働中にロータの回転が停止すると、復旧までに製造ラインに大きな影響が生じる。
【0005】
そこで、特許文献1が提案されたのであるが、ここでは減圧ポンプであるドライ真空ポンプの前段に「水封缶」を使用して、当該「水封缶」を通過したSiOやSiO2を含む排気に「湿気」を与えて「粉塵爆発」を抑制することが開示されている。更に、「水封缶」の前段に「緩衝缶」と「真空破壊弁」とを設けて、ドライ真空ポンプの故障或いは停電による緊急停止時における「水封缶」に封入された「封入水」の単結晶製造装置への逆流による「水蒸気爆発」を防止して「水封缶」を使用した場合における問題点を解消してその安全性、確実性を担保するとしている。
【0006】
しかしながら、発生したSiOやSiO2を含む排気は「泡」となって「封入水」を通過することから、該SiOやSiO2に湿気を与えて「粉塵爆発」を抑制し得たとしても該SiOやSiO2の大半を効率的に除去できるものではなく、ドライ真空ポンプの破損を抑制できると言うものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−175881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年の半導体をはじめとした単結晶材料の大口径化に伴い、単結晶製造装置を始めそれ以降の製造装置もますます大型化し、ラインの停止は企業に非常に大きな損害を与えてしまう。このような点は上記単結晶製造装置に留まらず、一般の減圧利用の製造装置、化学装置、環境機器などに言える事である。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたもので、製造装置から排出され、減圧ポンプの故障原因となる排気中の微粉体を効率よく除去し、できるかぎり減圧ポンプの損傷を回避し、その長寿命化を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載した発明は、
「内部空間(19)を有するケーシング(12)と、
前記ケーシング(12)内に微粒子を含む排気(H)を導入する排気導入管(14)と、
前記ケーシング(12)内における前記排気導入管(14)の開口部において、前記排気導入管(14)の中心軸線(CL)上に回転可能に保持された回転体(16)と、
前記ケーシング(12)内において、前記回転体(16)を介して前記排気導入管(14)の前記開口部に回転可能状態で正対配置されており、少なくとも表面側に微粒子捕集液(L)を含んでいる無端ベルト(18)とを備えており、
前記無端ベルト(18)の表面は、前記回転体(16)に接触しており、前記無端ベルト(18)が回転することによって前記回転体(16)を回転させ、前記無端ベルト(18)の前記表面側における前記微粒子捕集液(L)が前記回転体(16)の表面に塗布されることを特徴とする保護フィルター装置(10)」である。
【0011】
微粒子を含む排気(H)が排気導入管(14)を通って保護フィルター装置(10)のケーシング(12)内に導入されたとき、当該微粒子は、最も流速が速くなる排気導入管(14)の中心軸線(CL)上に最も多く分布することになるが、回転体(16)は、その表面が微粒子捕集液(L)で濡れているので、排気(H)中における多くの微粒子は回転体(16)の表面に衝突して捕集されることになる。
【0012】
そして、この回転体(16)は、その表面が接触している無端ベルト(18)の回転に伴って回転されると同時に、当該無端ベルト(18)の表面側に含まれた微粒子捕集液(L)が連続的に表面に塗布されているので、回転体(16)の表面に衝突し、当該微粒子捕集液(L)に吸着捕集されて排気(H)から除去された微粒子は、回転体(16)とともに無端ベルト(18)の表面まで回転した後、微粒子捕集液(L)とともに当該無端ベルト(18)の表面側に拭うようにして移される。そして、これと同時に回転体(16)の表面には、無端ベルト(18)から新たな微粒子捕集液(L)が塗布され、かつ、回転して開口部側に向かい、再び排気(H)中の微粒子が連続して吸着することになる。
【0013】
このように、表面側に微粒子捕集液(L)を含む無端ベルト(18)で回転体(16)を回転させることにより、「回転体(16)の表面への微粒子捕集液(L)の塗布」、「当該微粒子捕集液(L)による微粒子の吸着」、「微粒子を含む微粒子捕集液(L)の無端ベルトへの移動」、そして再び「微粒子捕集液(L)の塗布」といった手順が連続的に行われるので、回転体(16)の表面の一部分に微粒子が不所望に堆積するのを回避できる。
【0014】
加えて、排気導入管(14)の開口部からケーシング(12)内に排出された排気(H)は、当該開口部に正対配置された無端ベルト(18)に当たるので、上述のように、排気導入管(14)の中心軸線(CL)上に分布する多くの微粒子が当該中心軸線(CL)上に配置された回転体(16)の表面で吸着捕集されるのに加えて、当該回転体(16)で吸着捕集しきれない、排気導入管(14)の内壁近傍に分布する微粒子も、当該無端ベルト(18)の表面側に含まれた微粒子捕集液(L)に吸着捕集される。
【0015】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載の保護フィルター装置(10)の改良に関し、
「前記ケーシング(12)内の底部には、前記微粒子捕集液(L)が貯留されており、
貯留された前記微粒子捕集液(L)を前記無端ベルト(18)あるいは前記回転体(16)に供給する微粒子捕集液供給装置(64)が設けられている」ことを特徴とする。
【0016】
このように微粒子捕集液供給装置(64)を設けることにより、ケーシング(12)内の底部に貯留された微粒子捕集液(L)を何度も再利用することが可能となり、加えて、無端ベルト(18)を、貯留された微粒子捕集液(L)から離間して配置することができ、装置(10)のレイアウトの自由度を高めることができる。
【0017】
請求項3に記載した発明は、請求項1の保護フィルター装置(10)の改良に関し、
「前記ケーシング(12)内の底部には、前記微粒子捕集液(L)が貯留されており、
前記無端ベルト(18)の一部は、貯留された前記微粒子捕集液(L)に浸漬或いは接触している」ことを特徴とする。
【0018】
請求項3の保護フィルター装置(10)によれば、無端ベルト(18)の表面側に含まれる微粒子捕集液(L)は、ケーシング(12)内の底部に貯留された微粒子捕集液(L)に浸漬或いは接触している当該無端ベルト(18)の一部から供給補充されるようになっているので、無端ベルト(18)に微粒子捕集液(L)を供給するための専用の微粒子捕集液供給装置(64)等を設ける必要がなくなり、装置構成をシンプルにすることができる。
【0019】
加えて、貯留された微粒子捕集液(L)に無端ベルト(18)の一部を浸漬或いは接触させたときに、微粒子捕集液(L)に吸着捕集された微粒子を当該無端ベルト(18)から、貯留された微粒子捕集液(L)中に移すことができるので、より新しい(微粒子の混入が少ない)微粒子捕集液(L)を回転体に塗布することができるようになる。
【0020】
請求項4に記載した発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の保護フィルター装置(10)に関し、
「前記微粒子捕集液(L)は、高粘性低蒸気圧液である」ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るフィルター装置によれば、回転体の表面の一部分に微粒子が堆積することなく長時間連続的に排気中の微粒子を吸着捕集できるとともに、当該回転体で吸着捕集しきれない微粒子も無端ベルトで吸着捕集することによって微粒子の除去効率を極めて高くすることができるので、減圧ポンプ内部への微粒子の堆積や付着を長期間防止して、当該微粒子に起因するトラブルを解消することができた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のフロー図である。
【図2】本発明に使用される保護フィルター装置の断面図である。
【図3】図2におけるIII−III矢視による断面図である。
【図4】回転体の他の実施例を示す断面図である(装置の下部は省略している)。
【図5】保護フィルター装置の他の実施例に関する断面図である。
【図6】保護フィルター装置の他の実施例に関する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、シリコン融液から半導体シリコン単結晶を製造する場合を例として、図面に基づいて詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、対象装置(B)が減圧を利用するものであって、その排気(H)に微粒子が含まれるものであれば、すべての場合に適用することが出来ることは言うまでもない。
【0024】
図1は常圧法による単結晶製造装置(B)に本発明にかかる減圧ポンプ用の保護フィルター装置(10)を介して減圧ポンプ(C)を装着した例を表したフロー図である(もちろん、図示減圧ポンプ(C)の後段に、さらにドライポンプや油回転ポンプを直列に接続して運転してもよい。以下、このように複数のポンプを直列接続する場合も含めて、単に「減圧ポンプ(C)」という。)。
【0025】
図1の単結晶製造装置(B)はシリコン単結晶の引き上げ装置で、ここでは半導体ウエーハの最も一般的な材料である単結晶シリコンインゴットの製造を取り上げる。
【0026】
図1のチャンバー(1)内に納められた石英ガラス製溶融坩堝(2)に高純度・多結晶のシリコン、目的に応じた各種ドーパントを入れ、Ar雰囲気中でこれらを溶かし、その表面に種子にあたる単結晶(3)を浸して、次いでゆっくりとこれを引上げることによって、種子単結晶(3)と同じ方位配列を持った単結晶を成長させ、大きな円柱状のインゴット(4)にする。
【0027】
この過程で、結晶成長時に不活性のArガスを導入しつつチャンバー(1)内を減圧ポンプ(C)で減圧し、融液(5)の表面に発生する反応副生成物を排出させ、チャンバー(1)内を常時清浄雰囲気とする。Arガスを流すと共にチャンバー内圧を103〜104Pa(15〜20トール[Torr])に調整することで、融液(5)から僅かではあるが生成されるSiO微粉又は煙状体(主体はSiOの微粉)の除去を、窒素あるいはアルゴンガスをキャリアガスとして用いて炉外への排出を容易にし、これによって単結晶インゴット(4)の製造能力を飛躍的に高める。換言すれば、溶融シリコンが石英坩堝内で溶融している間は、単結晶製造装置(B)からの排気(H)中に僅かながらSiOが含まれている。特に、SiOは排気系の内面に付着・堆積するため、これらが運転開始時の炉内排気時や運転中に剥離又は遊離して減圧ポンプ(C)内に入り込むと、減圧ポンプ(C)の可動部分を損傷することになる。
【0028】
本実施例の保護フィルター装置(10)は、図2及び図3に示すように、大略、ケーシング(12)と、排気導入管(14)と、回転体(16)と、微粒子を吸着させる無端ベルト(18)と、排気排出管(56)とで構成されている。
【0029】
ケーシング(12)は、気密された内部空間(19)を有しており、本実施例では、両端にフランジを有する筒状の本体部(20)と、当該本体部(20)の両フランジに取り付けられた一対の側板(22)と、本体部(20)を支持する脚部(24)とで構成されているが、もちろん当該態様に限定されるものではない。
【0030】
また、ケーシング(12)の材質としては、排気(H)に含まれている腐食成分等や内部空間(19)に貯留する微粒子捕集液(L)に冒されない材質であればどのようなものでも使用できる(もちろん、内部空間(19)を臨む面に耐食性ライニングを施してもよい。)。
【0031】
微粒子捕集液(L)は、水を使用することもできるが、フッ素系オイル、シリコン系オイル或いは鉱物オイルなどの高粘性低蒸気圧性油、さらにはこのような油だけでなく、植物から抽出した低蒸気圧特性を持つグリセリンのような液体を使用することが好適である。
【0032】
高粘性低蒸気圧性液であれば、無端ベルト(18)を構成する繊維の隙間を埋めるように薄い膜を形成したり、多数の糸を引くように無端ベルト(18)の表面上を流れるため、単なる通常の水のようなものと異なり、気−液接触のチャンスが遥かに大きくしかも微粒子の付着性が非常に高いため高効率で除去することが出来るからである。
【0033】
しかも、「低蒸気圧特性」を有しているので、減圧下で使用される装置(B)側にその蒸気が逆流するようなことがなく、装置(B)を汚染するようなことがない。そして、捕集された微粒子は高粘性の微粒子捕集液(L)内に巻き込まれてしまい、微粒子同士が微粒子捕集液(L)によって隔離されてしまうため、発火の連鎖が防止されて「粉塵爆発」のようなものを起こすこともない。
【0034】
加えて、グリセリンであれば使用後に水で希釈してSiOを沈殿させた上澄み液を下水処理することが出来、環境にやさしいという利点もある。
【0035】
なお、本実施例の保護フィルター装置(10)において、SiOやSiO2の微粉体を捕集した微粒子捕集液(L)は、Cp=15000程度まで使用でき、粘性がこれ以上高くなれば、新液または使用済み再生液体と一部交換して使用を継続する。使用済み微粒子捕集液(L)の再生は沈殿法或いは遠心分離法などを応用して行うこともできる。
【0036】
排気導入管(14)は、外部(例えば単結晶製造装置(B))から、ケーシング(12)の内部空間(19)に微粒子を含む排気(H)を導入する管部(15)と、ケーシング(12)の内側の先端部に挿設されたライナー(26)とを含んでいる。本実施例では、排気導入管(14)は、フランジを介して、ケーシング(12)の本体部(20)の頂部から鉛直下向きに接続されているが、その接続方向は、これに限られるものではない。
【0037】
ライナー(26)は、排気導入管(14)の一部を構成し、排気導入管(14)の管部(15)の内径よりやや小さい外径を有する筒状本体(28)と、当該筒状本体(28)の下方端に取り付けられた傘状のフード(30)とで構成されている。もちろん、筒状本体(28)を省略し、フード(30)を排気導入管(14)の管部(15)に直接接続してもよい。
【0038】
フード(30)の内側には、回転体(16)を排気導入管(14)の中心軸線(CL)上において回転可能に保持する回転体保持部(32)が設けられている。本実施例の場合、回転体(16)に当接する円盤状のローラー(34)と、一端がフード(30)の内面に固定され、他端がローラー(34)に軸着されることによって当該ローラー(34)を回転可能の保持するサポート部材(36)とで構成された回転体保持部(32)が中心軸線(CL)を中心にして90°間隔で4セット(もちろん、3つ以上であればその数は限定されない。)設けられており、4つのローラー(34)によって球状の回転体(16)が回転可能に保持されている。
【0039】
もちろん、回転体保持部(32)の態様はこれに限られるものではなく、例えば、図2の(b)に示すように、球状の回転体(16)の直径よりも小さいリング(38)と、当該リング(38)を排気導入管(14)の中心軸線(CL)上に保持するリングサポート部材(40)とで構成してもよい。
【0040】
なお、後述するように(図4)、円柱状の回転体(16)を使用する場合には、フード(30)の対向する内面間で当該回転体(16)を回転可能に軸支する軸部材(42)が回転体保持部(32)となる。
【0041】
回転体(16)は、上述のように、回転体保持部(32)により、ケーシング(12)内における排気導入管(14)の開口部において(本明細書全体を通じて、「排気導入管(14)の開口部」とは、排気導入管(14)の開口の近傍を意味しており、開口の近傍であれば当該排気導入管(14)の内側だけでなく、外側をも含む概念である。例えば、本実施例では、回転体(16)はフード(30)内[=排気導入管(14)の内側]に配置されている。)、排気導入管(14)の中心軸線(CL)上に回転可能に保持された球状体であり、材質としては、ケーシング(12)と同様に、排気(H)に含まれている腐食成分等や内部空間(19)に貯留する微粒子捕集液(L)に冒されない材質(例えば、金属や樹脂)が考えられる。
【0042】
無端ベルト(18)は、ケーシング(12)内に配設され、回転体(16)を介して排気導入管(14)の開口部に正対配置されており、その表面が回転体(16)に接触している帯状体である。また、無端ベルト(18)の材質としては、少なくとも表面側に微粒子捕集液(L)を含むようにするため、樹脂製等の繊維を押し固めて不織布状(メッシュ状)にしたもので、通気抵抗が小さく、かつ、比表面積が大きいものが好適に使用される。無端ベルト(18)を構成する材質の一例としては、サラン(登録商標)繊維を不織布状に加工し、サランラテックスで被覆結合させたサランロック(登録商標)が考えられる。また、この無端ベルト(18)の表面には、プラズマ表面改質処理が施されており、当該無端ベルト(18)を構成する繊維表面の表面エネルギーや分子構造、或いは物理的な凹凸を変化させることによって表面の微粒子捕集液(L)に対する濡れ性を向上させている。
【0043】
また、上述のように、無端ベルト(18)の表面は回転体(16)に接触しているので、無端ベルト(18)が走行することによって回転体(16)も回転するとともに、無端ベルト(18)の表面側における微粒子捕集液(L)が回転体(16)の表面に塗布される。なお、不織布状(メッシュ状)の表面では回転体(16)が空回りして回転させ難い場合には、無端ベルト(18)の表面における幅方向中央部(すなわち、回転体(16)が接触する部分)に、より摩擦抵抗が大きくかつ微粒子捕集液(L)を含み易い素材(例えばスポンジ)を取り付ける(不織布状材料の表面に重ねてもよいし、不織布状材料で挟むようにしてもよい)のが好適である。
【0044】
回転体(16)の表面に微粒子捕集液(L)を塗布するメカニズムについて詳細に説明すると、保護フィルター装置(10)には、無端ベルト(18)を走行させるための無端ベルト回転機構(44)が設けられており、本実施例の場合、無端ベルト回転機構(44)は、1本の駆動軸(46)と、3本の従動軸(48)と、1本の絞りローラー(50)とを有しており、これらの軸及びローラーが、ケーシング(12)の内側空間(19)において、一方の側板(22)と他方の側板(22)との間に水平に架け渡されている。
【0045】
駆動軸(46)の一方端にはモーター(52)が直接、或いはギアやプーリー等の減速器を介して接続されており、当該モーター(52)からの回転力を受けた駆動軸(46)が無端ベルト(18)を回転させる。なお、無端ベルト(18)に接する駆動軸(46)の表面には複数のピン(54)が突設されており、当該ピン(54)が無端ベルト(18)の裏面(回転体(16)に接触するのとは反対の面)に食い込むことで、駆動軸(46)が無端ベルト(18)に対して空転するのを防止している。
【0046】
また、駆動軸(46)は、ケーシング(12)の内部空間(19)の底部に貯留された微粒子捕集液(L)の液面よりもやや低い位置に配置されており、3本の従動軸(48)は、駆動軸(46)の上方であって、無端ベルト(18)を回転体(16)に接触させることのできる第1の位置、当該第1の位置と同じ高さで、かつ、排気導入管(14)の中心軸線(CL)をはさんだ反対側の第2の位置、および第1の位置と第2の位置との間で、かつ、両位置よりも低い第3の位置に配設されている。
【0047】
駆動軸(46)および従動軸(48)がこのように配置されているので、無端ベルト(18)は、その表面が回転体(16)に接触する部分を含む水平移動部分(図2における右側)と、その端部が貯留された微粒子捕集液(L)に浸漬される垂直移動部分(図2における左側)とで構成され、その断面が「L」字状になっている。もちろん、駆動軸(46)の位置や微粒子捕集液(L)の液面位置を調整して、無端ベルト(18)の垂直移動部分の下端が微粒子捕集液(L)の液面に接触するようにしてもよい。また、図示しないが、水平移動部分の一部を下方に突出させ、当該突出部が貯留された微粒子捕集液(L)に浸漬あるいは接触するようにしてもよい。
【0048】
絞りローラー(50)は、駆動軸(46)と同じ高さで、かつ、その表面と駆動軸(46)の表面との間隔が無端ベルト(18)の厚さよりも狭くなる位置であって、駆動軸(46)の送り側に配設されている。駆動軸(46)の「送り側」とは、駆動軸(46)によって回転する無端ベルト(18)が貯留された微粒子捕集液(L)の液面から上がっていく側(図2では、駆動軸(46)の右側)を意味しており、当該「送り側」に絞りローラー(50)を設けることにより、微粒子捕集液(L)に浸漬された無端ベルト(18)に含まれる余剰の微粒子捕集液(L)を絞り落として、適切な含浸率にすることができる。
【0049】
排気排出管(56)は、ケーシング(12)の内部空間(19)から、微粒子が除去された排気(H)を下流側の減圧ポンプ(C)に排出するためのパイプである。本実施例では、排気排出管(56)は、ケーシング(12)の本体部(20)の側部から水平に接続されており、内部空間(19)における無端ベルト(18)の下方には、微粒子が除去された排気(H)を排気排出管(56)に導く排出ガイド(58)が設けられている。
【0050】
排出ガイド(58)は、金属或いは樹脂製の板材を組み合わせて形成されており、少なくとも、無端ベルト(18)の水平移動部分の直下において上側の断面が広く形成された漏斗部(60)と、排気排出管(56)に向かう排気(H)の流れを下向き(液面方向)に蛇行させるバッフル部(62)とを有している。
【0051】
この排出ガイド(58)を設けることにより、回転体(16)や無端ベルト(18)の表面で微粒子が除去されて無端ベルト(18)を通過してきた排気(H)を漏斗部(60)で広く集めることができるとともに、集められた排気(H)をバッフル部(62)で下向き(液面方向)に蛇行させることによって無端ベルト(18)から離れた微粒子捕集液(L)の液滴や排気(H)中に残存する微粒子を液面に向けて遠心分離することができるようになり、排出ガイド(58)を設けない場合にくらべて、よりクリーンな排気(H)を排気排出管(56)に導くことができるようになる。
【0052】
本実施例の保護フィルター装置(10)を用いて排気(H)から微粒子を除去する手順について説明する。最初に、保護フィルター装置(10)の図示しないスイッチをオンにしてモーター(52)を起動し、駆動軸(46)および無端ベルト(18)を回転させる。そして、少なくとも無端ベルト(18)がひと回りして無端ベルト(18)の表面側全体に微粒子捕集液(L)を含ませた後、単結晶引上装置(B)および減圧ポンプ(C)を稼動させる。
【0053】
単結晶引上装置(B)および減圧ポンプ(C)を稼動させると、排気導入管(14)を通って微粒子を含む排気(H)がケーシング(12)内に流入する。このとき、当該微粒子は、最も流速が速くなる排気導入管(14)の中心軸線(CL)上に最も多く分布することになるが、上述のように、回転体(16)は、排気導入管(14)の開口部における当該排気導入管(14)の中心軸線(CL)上において、回転体保持部(32)によって回転可能に保持されていることから、排気(H)中における多くの微粒子は回転体(16)の表面に衝突することになる。
【0054】
この回転体(16)は、その表面が接触している無端ベルト(18)の回転に伴って回転されると同時に、当該無端ベルト(18)の表面側に含まれた微粒子捕集液(L)が連続的に表面に塗布されるようになっているので、回転体(16)の表面に衝突し、当該表面に塗布された微粒子捕集液(L)に吸着捕集されることによって排気(H)から除去された微粒子は、回転体(16)とともに無端ベルト(18)の表面まで回転した後、微粒子捕集液(L)とともに当該無端ベルト(18)の表面側に移されることになる。微粒子を含む微粒子捕集液(L)が無端ベルト(18)側に移った後の回転体(16)の表面には、新たな微粒子捕集液(L)が塗布され、再び排気(H)中の微粒子が吸着することになる。
【0055】
このように、表面側に微粒子捕集液(L)を含む無端ベルト(18)で回転体(16)を回転させることにより、「回転体(16)の表面への微粒子捕集液(L)の塗布」、「当該微粒子捕集液(L)による微粒子の吸着」、「微粒子を含む微粒子捕集液(L)の無端ベルト(18)への移動」、そして再び「微粒子捕集液(L)の塗布」といった手順を連続的に行うことができるので、回転体(16)の表面の一部分に微粒子が不所望に堆積するのを回避できる。
【0056】
また、排気導入管(14)の開口部からケーシング(12)内に排出された排気(H)は、当該開口部に正対配置された無端ベルト(18)に当たるので、上述のように、排気導入管(14)の中心軸線(CL)上に分布する多くの微粒子が当該中心軸線(CL)上に配置された回転体(16)の表面で吸着捕集されるのに加えて、当該回転体(16)で吸着捕集しきれない、排気導入管(14)の内壁近傍に分布する微粒子も、排気(H)が無端ベルト(18)を通過する際に当該無端ベルト(18)の表面側に含まれた微粒子捕集液(L)に吸着捕集される。
【0057】
無端ベルト(18)を通過して微粒子が除去された排気(H)は、当該無端ベルト(18)の水平移動部分の直下に配置された、排出ガイド(58)の漏斗部(60)で集められ、バッフル部(62)において下向き(液面方向)に蛇行した後、排気排出管(56)を通って減圧ポンプ(C)に導入される。
【0058】
このように、本実施例の保護フィルター装置(10)によれば、回転体(16)の表面の一部分に微粒子が堆積することなく長時間連続的に排気(H)中の微粒子を吸着捕集できるとともに、当該回転体(16)で吸着捕集しきれない微粒子も無端ベルト(18)で吸着捕集することによって微粒子の除去効率を極めて高くすることができるので、減圧ポンプ(C)内部への微粒子の堆積や付着を長期間防止して、当該微粒子に起因するトラブルを解消することができる。
【0059】
なお、上記実施例では、回転体(16)として球状体を使用していたが、これに替えて、図4に示すように、円柱状の回転体(16)を使用してもよい(排気導入管(14)の中心軸線(CL)上に円柱の中心軸がくるように配置される。)。この場合、上述したように、フード(30)の対向する内面間で円柱状の回転体(16)を回転可能に軸支する軸部材(42)が回転体保持部(32)となる。
【0060】
また、ケーシング(12)の底部における微粒子捕集液(L)の貯留部に、内部に冷却水を通流させる冷却水管(78)を取り付けてもよい。これにより、高温の排気(H)を取り扱うことによってケーシング(12)の内部温度が上昇し、貯留された微粒子捕集液(L)の温度が必要以上に上昇するのを防止して、当該微粒子捕集液(L)が不所望に気化するのを回避することができる。
【0061】
さらに、図5に示すように、無端ベルト(18)を「L」字状に配置せず、「水平移動部分」だけで構成してもよい。ただし、この場合は、ケーシング(12)の底部に貯留された微粒子捕集液(L)を上方にある無端ベルト(18)や回転体(16)に供給する微粒子捕集液供給装置(64)が必要となる。
【0062】
微粒子捕集液供給装置(64)は、大略、微粒子捕集液回収配管(66)と、微粒子捕集液回収タンク(68)と、微粒子捕集液供給配管(70)と、回収ポンプ(72)と、送液ポンプ(74)とで構成されている。
【0063】
微粒子捕集液回収配管(66)は、一端がケーシング(12)の底面(すなわち、本体部(20)の底面)に接続され、他端が微粒子捕集液回収タンク(68)の頂部に接続されたパイプであり、必要なバルブが適宜取り付けられている(微粒子捕集液供給配管(70)も同じ。)。
【0064】
微粒子捕集液回収タンク(68)は、回収された微粒子捕集液(L)が一時的に溜められる容器である。
【0065】
微粒子捕集液供給配管(70)は、一端が微粒子捕集液回収タンク(68)の底部に接続され、他端がケーシング(12)の内部空間(19)における無端ベルト(18)の上側、或いは排気導入管(14)内に配置されたパイプであり、その他端には必要に応じてノズル(76)が取り付けられる。
【0066】
回収ポンプ(72)は、微粒子捕集液回収配管(66)に取り付けられており、ケーシング(12)の底部に貯留された微粒子捕集液(L)を微粒子捕集液回収タンク(68)に送るものである。
【0067】
送液ポンプ(74)は、微粒子捕集液供給配管(70)に取り付けられており、微粒子捕集液回収タンク(68)内の微粒子捕集液(L)を、ケーシング(12)内において、無端ベルト(18)の表面或いは回転体(16)に向けて供給するものである。
【0068】
この実施例によれば、微粒子捕集液供給装置(64)から供給された微粒子捕集液(L)は、回転体(16)の表面或いは無端ベルト(18)の表面で微粒子を取り込んだ後、ケーシング(12)の底部に落下し、再び微粒子捕集液供給装置(64)によってケーシング(12)内に供給される。
【0069】
もちろん、この微粒子捕集液供給装置(64)を、図2及び図3に示す「L」字状の無端ベルト(18)を用いた保護フィルター装置(10)に適用できることは言うまでもない。
【0070】
また、図6に示すように、無端ベルト(18)の水平移動部分における下側の無端ベルト(18)に球(80)を載置してもよい(もちろん、球に替えて円柱状のローラーでもよい。)。球(80)の数は特に限定されるものではないが、数が多い程、球(80)の全表面積が大きくなり、後述するように、排気(H)中の微粒子を吸着捕集する確率が高くなる点で好適である。
【0071】
球(80)を載置することにより、無端ベルト(18)の回転とともに当該無端ベルト(18)の裏面に接触する球(80)が回転し、回転体(16)と同様のメカニズムによって無端ベルト(18)の裏面から微粒子捕集液(L)が当該球(80)の表面に塗布され、上側の無端ベルト(18)を通過してきた排気(H)が球(80)に衝突したときに、当該排気(H)に残存する微粒子が球(80)の表面の微粒子捕集液(L)に吸着捕集される。したがって、微粒子の除去効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0072】
10…保護フィルター装置
12…ケーシング
14…排気導入管
15…管部
16…回転体
18…無端ベルト
19…(ケーシングの)内部空間
20…(ケーシングの)本体部
22…(ケーシングの)側板
24…(ケーシングの)脚部
26…ライナー
28…(ライナーの)筒状本体
30…(ライナーの)フード
32…回転体保持部
34…ローラー
36…サポート部材
38…リング
40…リングサポート部材
42…軸部材
44…無端ベルト回転機構
46…駆動軸
48…従動軸
50…絞りローラー
52…モーター
54…ピン
56…排気排出管
58…排出ガイド
60…漏斗部
62…バッフル部
64…微粒子捕集液供給装置
66…微粒子捕集液回収配管
68…微粒子捕集液回収タンク
70…微粒子捕集液供給配管
72…回収ポンプ
74…送液ポンプ
76…ノズル
78…冷却水管
80…球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有するケーシングと、
前記ケーシング内に微粒子を含む排気を導入する排気導入管と、
前記ケーシング内における前記排気導入管の開口部において、前記排気導入管の中心軸線上に回転可能に保持された回転体と、
前記ケーシング内において、前記回転体を介して前記排気導入管の前記開口部に回転可能状態で正対配置されており、少なくとも表面側に微粒子捕集液を含んでいる無端ベルトとを備えており、
前記無端ベルトの表面は、前記回転体に接触しており、前記無端ベルトが回転することによって前記回転体を回転させ、前記無端ベルトの前記表面側における前記微粒子捕集液が前記回転体の表面に塗布されることを特徴とする保護フィルター装置。
【請求項2】
前記ケーシング内の底部には、前記微粒子捕集液が貯留されており、
貯留された前記微粒子捕集液を前記無端ベルトあるいは前記回転体に供給する微粒子捕集液供給装置が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の保護フィルター装置。
【請求項3】
前記ケーシング内の底部には、前記微粒子捕集液が貯留されており、
前記無端ベルトの一部は、貯留された前記微粒子捕集液に浸漬或いは接触していることを特徴とする請求項1に記載の保護フィルター装置。
【請求項4】
前記微粒子捕集液は、高粘性低蒸気圧液であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の保護フィルター装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate