説明

保護管

【課題】水道用配管や給水・給湯用配管として用いられる合成樹脂製管の外周に装着されて合成樹脂製管の表面を保護する保護管を、合成樹脂製管の接続等の際に端部で折り返し易くし、かつ押出成形時に析出物が付着し難いものとする。
【解決手段】水道用配管や給水・給湯用配管として用いられる合成樹脂製管21の外周に装着されて、合成樹脂製管21の接続等の際に端部で折り返される可撓性の保護管11を、ポリプロピレン樹脂10〜30重量部とエチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー90〜70重量部とを含む樹脂で構成すると共に、保護管11の内壁面13に保護管11の長さ方向に沿う突条12を複数本形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製管の外周に装着されて合成樹脂製管の表面を保護する可撓性の保護管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水道用配管や給水・給湯用配管として、金属管に代えて架橋ポリエチレン樹脂やポリブテン樹脂等からなる可撓性を有する合成樹脂製管が用いられている。合成樹脂製管は、耐食性に優れる、スケールが付着し難い、電気絶縁性に優れる、軽量及び柔軟性に優れ配管施工性が良い等の特長があり、この特長が金属管からの代替理由となっている。
【0003】
合成樹脂製管は、上記のような優れた点があるものの、施工や保管時に管表面に傷が付くと、その部分の薄肉化による強度低下や、傷の付いた部分が継手との接合部となった場合に漏水の問題がある。そこで合成樹脂製管の外周に保護管を装着して、合成樹脂製管の表面の傷付きを防止することが行われている。
【0004】
前記合成樹脂製管の外周に装着された保護管は、合成樹脂製管を継手と接続する際に、端部が外へ折り返されて合成樹脂製管の接続部を露出する(すなわち保護管の端部を剥く)ことが行われる。そのため、保護管は折り返し易い材質で構成される必要がある。
【0005】
従来、保護管を折り返し易くするため、ポリオレフィン系樹脂に軟化剤としてオイル成分、ゴム成分を添加した熱可塑性エラストマーで保護管を構成することが行われている。
【0006】
前記保護管の製造は熱可塑性エラストマーの押出成形によって行われる。その際、前記オイル成分が熱可塑性エラストマーに含まれていると、メヤニと言われる析出物が口金や成形品である保護管に付着し、製品不良となるため、一定時間押出成形をした後、析出物を口金から定期的に除去しなければならなかった。また、析出物が保護管の内壁面に付着した場合には、保護管を合成樹脂製管の外周に装着した際に、合成樹脂製管の外周表面が保護管内壁面に付着している析出物で傷付くことがある。合成樹脂製管の外周表面の傷は、合成樹脂製管の長期使用時におけるクラックの発生原因や水漏れの原因となるばかりでなく、傷の付いた部分が継手との接合部となった場合には、50〜100μm程度の深さの傷であっても、水漏れのおそれがあり、好ましいものではなかった。特に合成樹脂製管の外周表面に付いた傷が微細なものである場合、合成樹脂製管の端部外周に装着される継手の内部に設けられているシール用オーリングでは合成樹脂製管外周表面の微細な傷からなる凹部に埋まり難く、傷による凹部がオーリングと合成樹脂製管外周表面間に隙間となって残り、そこから水漏れを生じるおそれがある。
【0007】
また、前記オイル成分が熱可塑性エラストマーに含まれていると、保護管の長期使用中に熱可塑性エラストマーからオイル成分がブリードして合成樹脂製管や継手部材等に悪影響を与えるおそれがある。
【0008】
【特許文献1】特開2006−52770号公報
【特許文献2】特開2005−319750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、端部の折り返し易さを損なうことのない可撓性を有し、かつ押出成形時に析出物の付着が少ない、または付着が無い保護管の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、合成樹脂製管の外周に装着される可撓性の保護管において、ポリプロピレン樹脂10〜30重量部とエチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー90〜70重量部とを含む樹脂で構成され、前記保護管の内壁面に前記保護管の長さ方向に沿う突条を複数本有することを特徴とする。前記突条の本数は、好ましくは前記保護管の内壁面一周当たり8〜36本、より好ましくは12〜24本である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保護管がポリプロピレン樹脂10〜30重量部とエチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー90〜70重量部とを含む樹脂で構成されているため、合成樹脂製管への装着し易さや、折り返し易さを損なうことのない柔軟な可撓性が得られる。また、保護管を構成する樹脂にオイル成分が含まれていないため、保護管の長期使用時にオイル成分のブリードによる合成樹脂製管や継手部材に対する悪影響のおそれがない。さらに、保護管を押出成形する際に、析出物を生じ難く、ダイスから析出物を除去する作業を不要あるいは少なくでき、かつ析出物の付着が少ない、または付着がない保護管を容易に得ることができる。
【0012】
また、前記突条の本数が少な過ぎると、保護管の内壁面において、突条間の弧の長さが長くなって突条間の内壁面部分が合成樹脂製管に密着し、その結果、保護管の端部を折り返して剥く時に保護管の端部を掴み難くなって剥き作業性が悪くなる。一方、前記突条の本数が多過ぎると、保護管の断面積が大きくなり、保護管を剥く時に大きな力が必要となり、剥き作業性が悪くなる。そのため、本発明において突条の好ましい本数は保護管の内壁面一周当たり8〜36本、より好ましくは12〜24本である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の一実施例に係る保護管を合成樹脂製管の外周に装着した状態を示す断面図、図2は図1の2−2断面図である。図に示す保護管11は、水道用配管や給水・給湯用配管等として使用される合成樹脂製管21の外周に装着されて合成樹脂製管21の外周表面を保護する。前記保護管11が装着される合成樹脂製管21の材質は、架橋ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0014】
前記保護管11は、樹脂の押出成形によって成形されたものであり、可撓性を有する。前記保護管11は、前記保護管11の押出成形時に前記合成樹脂製管21の外周を直接保護管11で被覆するように押し出すことにより、前記合成樹脂製管21の外周に装着される。なお、合成樹脂製管に保護管を被覆する製造方法は、公知の方法を用いることができ、上記方法に限定されるものではない。
【0015】
前記保護管11は円筒形状からなり、内壁面13に保護管11の長さ方向Lに沿う突条12を複数本有する。前記突条12は、前記合成樹脂製管21内を流れる流体によるウォーターハンマー現象に起因する衝撃力を緩和したり、前記保護管11の端部を剥く際の剥き作業性を良好にしたりするものである。前記突条12の本数が少な過ぎると、前記保護管11の内壁面13において突条12間の弧の長さが長くなって突条12間の内壁面部分が合成樹脂製管21に密着するようになり、前記保護管11の端部を折り返して剥く時に保護管11の端部を掴み難くなって剥き作業性が悪くなる。一方、前記突条12の本数が多過ぎると、前記保護管11の断面積が大きくなって保護管11の端部を折り返して剥く時に大きな力が必要となり、剥き作業性が悪くなる。そのため、本発明において、前記突条12の好ましい本数は保護管11の内壁面13の一周当たり8〜36本、より好ましくは12〜24本である。前記突条12は、前記保護管11の内壁面に保護管11の周方向に等間隔で設けるのが好ましい。また、前記保護管11の内壁面13からの突条12の突出高さは適宜とされる。
【0016】
前記保護管11を形成する樹脂は、ポリプロピレン樹脂10〜30重量部とエチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー90〜70重量部を含み、オイル成分を含まないもので構成されている。前記ポリプロピレン樹脂の量と前記エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマーの量は、合計値が100重量部となるようにされる。ポリプロピレン樹脂の量が10重量部よりも少ない場合、すなわちエチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマーの量が90重量部より多い場合には、前記保護管11の柔軟性が高くなりすぎて、前記端部の剥き作業性が悪くなる。一方、ポリプロピレン樹脂の量が30重量部よりも多い場合、すなわちエチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマーの量が70重量部より少ない場合には、保護管11の柔軟性が不足し、前記端部の剥き作業性が損なわれるようになる。
【0017】
ポリプロピレン樹脂としては、例えば、プロピレンの単独重合体、プロピレンを主成分とするプロピレン−エチレンランダム共重合体樹脂、プロピレン−エチレンブロック共重合体樹脂等が挙げられる。重合方式は、樹脂状物が得られれば、如何なる方式でも差し支えなく、特に限定されない。
【0018】
エチレン系エラストマーとしては、例えば、エチレン・プロピレン共重合エラストマー(EPR)、エチレン・オクテン共重合エラストマー(EOR)等のエチレン・α−オレフィン共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体エラストマー等のエチレン・α−オレフィン・ジエン三次元共重合体エラストマー(EPDM)などが挙げられるが、特に制限はない。
【0019】
前記スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック体(SIS)、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック体の水素添加物(SEBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック体の水素添加物(SEPS)等が挙げられるが、特に制限はない。
【0020】
前記保護管11を構成する樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて他の任意の配合成分を配合することができる。前記任意の配合成分とは、充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤、難燃剤等の各種添加剤があり、これらを単独または併用して用いることができる。
【実施例】
【0021】
表1及び表2に示す配合の樹脂を押出機(池貝製作所製、型番:FS65−25C)に投入し、直径17mmの合成樹脂製管(架橋ポリエチレン製)の外周に、管壁厚み1.0mm、突条の高さ0.5mm、突条の本数24本からなる実施例及び比較例の保護管を連続押出成形した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
表1及び表2に示す樹脂材料は以下の通りである。
・ポリプロピレン樹脂1;日本ポリプロ株式会社製、品番:ノバテックEG−8、MFR 0.8g/10min(230℃、JIS K−7210)
・エチレン系エラストマー;エチレン・α−オレフィン共重合体、三井化学株式会社製、品番:タフマーA−0250S、MFR 0.3g/10min(190℃、JIS K−7210)
・スチレン系エラストマー;スチレン・イソプレン・スチレントリブロック体の水素添加物(SEPS)、株式会社クラレ製、品番:セプトン2004、MFR 5g/10min(230℃、JIS K−7210)
・炭化水素系軟化剤;パラフィン系オイル、出光興産株式会社製、品番:PW−90
・ポリプロピレン樹脂2;サンアロマー株式会社製、品番:PM580X、MFR 5.0g/10min(230℃、JIS K−7210)
・ポリエチレン樹脂;日本ユニカー株式会社製、品番:NUCG−5225、MFR 2.0g/10min(190℃、JIS K−7210)
【0025】
前記連続押出成形中に、メヤニ発生時間を測定した。前記メヤニ発生時間は、ダイスの出口の外周全体に1mm以上の積層物(析出物)が析出するまでの時間とした。また、各実施例及び各比較例の保護管に対し、ブリード試験と剥け性試験を行った。ブリード試験は、前記押出成形によって合成樹脂製管(直径17mm、架橋ポリエチレン製管)の外周に各実施例あるいは各比較例の保護管を設けた二重管を長さ250mmに切断して試験体とし、前記試験体を135℃の絶対乾燥下にある恒温槽に収容し、200時間後に取り出して保護管の外表面のべたつきを観察し、べたつきがある場合はブリードあり、べたつきが無い場合はブリード無しとした。剥け性試験は、保護管の端部を折り返す際に、容易に折り返すことができた場合は「良」、硬くて折り返し難い場合は「不可」とした。各測定結果は表1及び表2の下部に示す通りである。
【0026】
表1及び表2に示す通り、各実施例の保護管は、メヤニ発生時間が7時間より長く、押出成形時に積層物(析出物)の付着が少ない保護管を容易に得ることができる。また、各実施例の保護管はブリード試験においてべたつきが無く、さらに剥け性(保護管端部の折り返し)も良好であった。
【0027】
一方、樹脂成分に炭化水素系軟化剤を含み、ポリプロピレン樹脂1とエチレン系エラストマーの割合が本願発明の範囲から外れる比較例1、樹脂成分に炭化水素系軟化剤を含み、ポリプロピレン樹脂1とスチレン系エラストマーの割合が本願発明の範囲から外れる比較例2は、メヤニ発生時間が1時間と短く、ブリード試験においては保護管の外表面にべたつきがあった。このことから、比較例1及び比較例2の保護管は、押出成形時に積層物(析出物)が保護管に付着し易く、長期使用時にオイル成分がブリードして合成樹脂製管や継ぎ手部材に悪影響を与えるおそれのあることがわかる。
【0028】
また、ポリプロピレン樹脂2のみからなる比較例3の保護管とポリエチレン樹脂のみからなる比較例4の保護管は、剥け性試験において、保護管が硬過ぎて端部を折り返すことができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例に係る保護管を合成樹脂製管の外周に設けた状態を示す断面図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【符号の説明】
【0030】
11 保護管
12 突条
13 保護管の内壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製管の外周に装着される可撓性の保護管において、
ポリプロピレン樹脂10〜30重量部とエチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー90〜70重量部を含む樹脂で構成され、前記保護管の内壁面に前記保護管の長さ方向に沿う突条を複数本有することを特徴とする保護管。
【請求項2】
前記突条の本数が、前記保護管の内壁面一周当たり8〜36本であることを特徴とする請求項1に記載の保護管。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−7768(P2010−7768A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168178(P2008−168178)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】