説明

信号中継増幅器

【課題】同一周波数の上り信号と下り信号とが時分割で伝送されるメタル線伝送路上に介在して中継増幅を行う場合に、安価な構成で、かつ簡易な制御で、一方の中継路から他方の中継路に信号が回り込んでも、或いは、ノイズが混入しても、両中継路を一巡するループの形成を阻止する機構を備えた信号中継増幅器を得ること。
【解決手段】比較器7が、下り中継路の信号レベル検出器6aおよび上り中継路の信号レベル検出器6bがそれぞれ検出した信号レベルVd,Vu間の大小関係を比較し、その比較結果を、下り経路のスイッチ5aおよび上り経路のスイッチ5bに対して並列に、一方を開路状態にし他方を閉路状態にする制御信号として出力するだけで、一方の中継路から他方の中継路に信号が回り込んでも、或いは、ノイズが混入しても、両中継路を一巡するループの形成を阻止でき、発振しないようにすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、同一周波数の上り信号と下り信号とが時分割で伝送されるメタル線伝送路上に介在して中継増幅を行う信号中継増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同一周波数の上り信号と下り信号とが時分割で伝送されるメタル線伝送路上に介在して中継増幅を行う信号中継増幅器では、上り信号の中継路と下り信号の中継路とを並列に設けるが、一方の信号の中継時にその一方の信号が他方の信号用中継路に漏れ込むと、両中継路を一巡するループが形成され、発振することが起こる。
【0003】
そのため、上り信号の中継時にはその上り信号が下り信号側に漏れ込まないように、また、下り信号の中継時にはその下り信号が上り信号側に漏れ込まないように、それぞれ措置を講ずることが行われている(例えば、特許文献1)。
【0004】
すなわち、特許文献1に開示される双方向通信用中継増幅器は、同一周波数の上り信号と下り信号とが時分割で伝送されるメタル線伝送路を2分した一方側である第1のケーブル(上り側メタル線伝送路)が接続される第1の分配/結合部と、他方側である第2のケーブル(下り側メタル線伝送路)が接続される第2の分配/結合部とを備えている。
【0005】
第1及び第2の分配/結合部は、それぞれ、対応するケーブルから入力する信号を内部の2中継路に分配出力し、内部の2中継路から入力する信号を結合して対応するケーブルへ送出する2つの内部入出力ポートを有する。
【0006】
第1の分配/結合部の一方の内部入出力ポートから第2の分配/結合部の一方の内部入出力ポートに至る下り中継路に、第1の減衰部と第1の増幅部と第1のスイッチ部とがこの順に配置され、第2の分配/結合部の他方の内部入出力ポートから第1の分配/結合部の他方の内部入出力ポートに至る上り中継路に、第2の減衰部と第2の増幅部と第2のスイッチ部とがこの順に配置されている。
【0007】
そして、第1のスイッチ部と第2の減衰部とを制御する第1の検出部と、第2のスイッチ部と第1の減衰部とを制御する第2の検出部とを備えている。
【0008】
第1の検出部は、第1の減衰部の出力に下り信号を検出した場合に、第1のスイッチ部を導通状態になるように制御し、第2の減衰部の減衰量を第1の所定減衰量よりも増加するように制御する。これによって、下り信号の中継時にその下り信号が上り中継路側に漏れ込まないようにしている。
【0009】
また、第2の検出部は、第2の減衰部の出力に上り信号を検出した場合に、第2のスイッチ部を導通状態になるように制御し、第1の減衰部の減衰量が第2の所定減衰量よりも増加するように制御する。これによって、上り信号の中継時にはその上り信号が下り中継路側に漏れ込まないようにしている。
【0010】
【特許文献1】特開2005−184272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の技術では、上り信号の中継路と下り信号の中継路とにそれぞれ設ける減衰部での減衰量を、中継時と非中継時とで適正に設定する作業が面倒であり、また、一方の信号の中継時に、その一方の信号が他方の信号用中継路に漏れ込むのを阻止する制御がスイッチの開閉制御と減衰量の増減制御の2段構成となって複雑であり、全体としてコストアップの要因になる。
【0012】
また、メタル線伝送路では、線路長が長くなると、ノイズの混入が多くなると想定されるが、上記従来の技術では、両メタル線伝送路側に配置される分配/結合部は、メタル線伝送路からの信号を内部の2方路へ分配する構成であるので、例えば、上り信号の中継時に下り側メタル線伝送路からノイズの混入があると、それを信号入力と誤検出して下り側中継路が導通状態となる可能性がある。この場合は、上り信号が下り中継路に漏れ込んだことに相当するので、発振を阻止できないことが起こる。
【0013】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであり、同一周波数の上り信号と下り信号とが時分割で伝送されるメタル線伝送路上に介在して中継増幅を行う場合に、安価な構成で、かつ簡易な制御で、一方の中継路から他方の中継路に信号が回り込んでも、或いは、ノイズが混入しても、両中継路を一巡するループの形成を阻止できる機構を備えた信号中継増幅器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成するために、この発明は、同一周波数の上り信号と下り信号とが時分割で伝送されるメタル線伝送路上に介在して中継増幅を行う信号中継増幅器であって、前記メタル線伝送路を2分した一方側である上り側メタル線伝送路が接続され、前記上り側メタル線伝送路からの下り信号を内部に出力する下り出力ポートと、前記上り側メタル線伝送路へ送出する上り信号が内部から入力される上り入力ポートとを有する上り側入出力回路と、前記メタル線伝送路を2分した他方側である下り側メタル線伝送路が接続さ
れ、前記下り側メタル線伝送路からの上り信号を内部に出力する上り出力ポートと、前記下り側メタル線伝送路へ送出する下り信号が内部から入力される下り入力ポートとを有する下り側入出力回路と、前記上り側入出力回路の下り出力ポートから前記下り側入出力回路の下り入力ポートに至る下り中継路に配置される、前記上り側入出力回路の下り出力ポートから送出される信号を増幅する下り信号用増幅器、および、該下り信号用増幅器の出力端と前記下り側入出力回路の下り入力ポートとの間に介在する下り信号用スイッチと、前記下り側入出力回路の上り出力ポートから前記上り側入出力回路の上り入力ポートに至る上り中継路に配置される、前記下り側入出力回路の上り出力ポートから送出される信号を増幅する上り信号用増幅器、および、該上り信号用増幅器の出力端と前記上り側入出力回路の上り入力ポートとの間に介在する上り信号用スイッチと、前記下り信号用増幅器の出力レベルを検出する下り信号用信号レベル検出器、および、前記上り信号用増幅器の出力レベルを検出する上り信号用信号レベル検出器と、前記下り信号用信号レベル検出器および前記上り信号用信号レベル検出器がそれぞれ検出した信号レベル間の大小関係を比較し、その比較結果を、前記下り信号用スイッチおよび前記上り信号用スイッチに対して並列に、一方を開路状態にし、他方を閉路状態にする制御信号として出力する比較器とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、上り下りの各中継路を増幅器とスイッチとの直列回路で構成し、上り信号用スイッチおよび下り信号用スイッチの一方を開路状態にし、他方を閉路状態にする開閉制御を、それらの入力段にある増幅器の出力レベル間の大小関係に応じて行うようにしたので、従来技術と比較して安価な構成とすることができ、また、簡易な制御方法によって、一方の中継路から他方の中継路に信号が回り込んでも、或いは、ノイズが混入しても、両中継路を一巡するループの形成を阻止でき、発振するのを防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明にかかる信号中継増幅器の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による信号中継増幅器の構成を示すブロック図であ
る。図1に示す信号中継増幅器1は、同一周波数の上り信号と下り信号とが時分割で伝送されるメタル線伝送路上に介在して配置されるもので、図1では、そのメタル線伝送路を2分した一方側を上り側メタル線伝送路2aと表記し、他方側を下り側メタル線伝送路2bと表記してある。
【0018】
図1に示すように、信号中継増幅器1は、上り側メタル線伝送路2aが接続される上り側入出力回路であるハイブリッド回路3aと、下り側メタル線伝送路2bが接続される下り側入出力回路であるハイブリッド回路3bとを備えている。ハイブリッド回路3a,3bは、それぞれ、いわゆる2線・4線変換回路である。
【0019】
ハイブリッド回路3aは、上り側メタル線伝送路2aからの下り信号を下り中継路に出力する下り出力ポートD1と、上り側メタル線伝送路2aへ送出する上り信号が上り中継路から入力される上り入力ポートU2とを有する。また、ハイブリッド回路3bは、下り側メタル線伝送路2bからの上り信号を上り中継路に出力する上り出力ポートU1と、下り側メタル線伝送路2bへ送出する下り信号が下り中継路から入力される下り入力ポートD2とを有する。
【0020】
下り中継路は、ハイブリッド回路3aの下り出力ポートD1からハイブリッド回路3bの下り入力ポートD2に至る経路であり、下り出力ポートD1側から、増幅器(Amp)4aとスイッチ5aとがこの順に配置されている。また、上り中継路は、ハイブリッド回路3bの上り出力ポートU1からハイブリッド回路3aの下り入力ポートD2に至る経路であり、ハイブリッド回路3bの上り出力ポートU1側から、増幅器(Amp)4bとスイッチ5bとがこの順に配置されている。
【0021】
そして、スイッチ5a,5bに対する制御系として、信号レベル検出器6a,6bと、比較器7とを備えている。信号レベル検出器6aは、Amp4aの出力レベルを検出して比較器7に与える。信号レベル検出器6bは、Amp4bの出力レベルを検出して比較器7に与える。比較器7は、信号レベル検出器6aが検出した信号レベルVdと信号レベル検出器6bが検出した信号レベルVuとの大小関係を比較し、その比較結果を、スイッチ5a,5bに対して並列に、一方を開路状態にし、他方を閉路状態にする制御信号として出力する。
【0022】
次に、図1〜図5を参照して動作について説明する。なお、図2は、下り信号中継時に図1に示す比較器に入力する2つの信号レベルの関係を示す図である。図3は、下り信号中継時に図1に示す比較器が2つのスイッチを開閉制御する動作を説明する図である。図4は、上り信号中継時に図1に示す比較器に入力する2つの信号レベルの関係を示す図である。図5は、上り信号中継時に図1に示す比較器が2つのスイッチを開閉制御する動作を説明する図である。
【0023】
メタル線伝送路上には、上り信号と下り信号とが時分割で送出されるので、上り側メタル伝送路2aから下り信号がハイブリッド回路3aに入力する期間では、下り側メタル線伝送路2bからハイブリッド回路3bに上り信号は入力されない。同様に、下り側メタル伝送路2bから上り信号がハイブリッド回路3bに入力する期間では、上り側メタル線伝送路2aからハイブリッド回路3aに下り信号は入力されない。但し、ノイズの混入は有り得る。なお、スイッチ5a,5bの初期状態は、上記のように比較器7の比較結果に依存した開閉状態になっている。
【0024】
下り信号の中継動作は、次のようにして行われる。上り側メタル伝送路2aからの下り信号は、ハイブリッド回路3aの下り出力ポートD1からAmp4aを介してスイッチ5aと信号レベル検出部6aとに入力する。このタイミングでは、信号レベル検出部6bに入力するのは、ノイズ成分である。したがって、図2に示すように、信号レベル検出部6aから入力する信号レベルVdが信号レベル検出部6bから入力する信号レベルVuよりも大きいので、比較器7は、直ちに、スイッチ5aを閉路させ、スイッチ5bを開路させる制御信号を、両スイッチ5a,5bに並列に出力する(図3)。これによって、Amp4aにて増幅された下り信号が、スイッチ5aを介してハイブリッド回路3bの下り入力ポートD2に伝達され、ハイブリッド回路3bから下り側メタル線伝送路2b上へ送出される。
【0025】
この場合、ハイブリッド回路3bから見た下り側メタル線伝送路2bのインピーダンスが整合の取れた一定のインピーダンスである場合は、ハイブリッド回路3bでは、下り入力ポートD2と上り出力ポートU1との間に充分に大きいアイソレーションが確保されるので、下り信号が上り出力ポートU1からAmp4b側へ漏れ出る量は少ない。
【0026】
しかし、下り側メタル線伝送路2bの伝送路特性によっては、ハイブリッド回路3bからは、下り側メタル線伝送路2bのインピーダンスが整合の取れた一定のインピーダンスに見ない場合がある。この場合には、ハイブリッド回路3bでは、下り入力ポートD2と上り出力ポートU1との間に充分なアイソレーションを確保できないので、アイソレーションの不十分さに応じて下り信号が上り出力ポートU1からAmp4b側へ漏れ出る量が増える。
【0027】
つまり、量の過多はあるが、ハイブリッド回路3bから下り側メタル線伝送路2b上へ送出する下り信号の一部が上り出力ポートU1からAmp4b側へ漏れ出る。そして、メタル線伝送路の線路長が長いと、ノイズの混入する度合いが増える。そのようにノイズが重畳されている漏れ下り信号がAmp4bにて増幅され、スイッチ5bと信号レベル検出器6bとに入力する。
【0028】
信号レベル検出器6bは、Amp4bにて増幅された漏れ下り信号のレベルを検出して比較器7に与える。上り出力ポートU1からAmp4bへ漏れ出る下り信号にノイズが重畳しているとしても、比較器7に入力する、Amp4aにて増幅された下り信号のレベルVdと、Amp4bにて増幅された漏れ下り信号のレベルVuとの大小関係は、変わらずに図2に示すVd>Vuの関係にある。したがって、比較器7は、両スイッチ5a,5bに対して並列に、図3に示す状態を維持させる制御信号(比較結果)を出力する。これによって、下り中継路のスイッチ5aは、閉路状態を維持維持するように、上り中継路のスイッチ5bは、開路状態を維持するように、それぞれ制御される。
【0029】
そして、スイッチ5bは、開路状態にあるので、Amp4bにて増幅された漏れ下り信号がハイブリッド回路3aの上り入力ポートU2に入力するのが阻止される。ハイブリッド回路3aにおいて、上り入力ポートU2と下り出力ポートD1との間のアイソレーションが充分でない状況であっても、上り入力ポートU2に漏れ下り信号の入力がないので、両中継路を一巡するループは形成されず、発振することはない。
【0030】
このように、下り信号の中継増幅動作が、その下り信号の送信期間内、発振することなく安定的に実行される。
【0031】
次に、伝送する信号が、下り信号から上り信号に切り替わると、次のような動作が行われる。下り側メタル伝送路2bからの上り信号は、ハイブリッド回路3bの上り出力ポートU1からAmp4bを介して開路状態にあるスイッチ5bと信号レベル検出部6bとに入力する。
【0032】
この場合、ハイブリッド回路3bの上り出力ポートU1と下り入力ポートD2との間のアイソレーションが上記のように充分でない状況では、下り入力ポートD2からスイッチ5a側へ漏れ出る上り信号の量は多くなる。スイッチ5aは、閉路状態であるので、ノイズが重畳している漏れ上り信号は、スイッチ5aを介して信号レベル検出器6aに入力する。
【0033】
しかし、ハイブリッド回路3bの下り入力ポートD2から信号レベル検出器6a側へ漏れ出る上り信号にノイズが重畳しているとしても、図4に示すように、信号レベル検出器6aが検出する信号レベルVdは、信号レベル検出器6bが検出する信号レベルVuよりも小さいので、比較器7は、直ちに、スイッチ5aを開路させ、スイッチ5bを閉路させる制御信号(比較結果)を、両スイッチ5a,5bに並列に出力する(図5)。これによって、Amp4bにて増幅された上り信号は、スイッチ5bを介してハイブリッド回路3aの上り入力ポートU2に伝達され、ハイブリッド回路3aから上り側メタル線伝送路2a上へ送出される。
【0034】
この場合、上記の下り信号中継時と同様に、ハイブリッド回路3aの上り入力ポートU2と下り出力ポートD1との間のアイソレーションの程度に応じた量の下り信号が下り出力ポートD1からAmp4a側に漏れ出して増幅され、スイッチ5aとレベル検出器6aとに入力する。
【0035】
しかし、既にスイッチ5aは、開路状態になっているので、Amp4aにて増幅された漏れ上り信号は、ハイブリッド回路3bの下り入力ポートD2に伝達されない。したがって、ハイブリッド回路3bにおいて、下り入力ポートD2と上り出力ポートU1との間のアイソレーションが充分でない状況であっても下り入力ポートD2に漏れ上り信号の入力がないので、両中継路を一巡するループは形成されず、発振することはない。
【0036】
そして、ハイブリッド回路3aの下り出力ポートD1から漏れ出した下り信号にノイズが重畳していて、それがAmp4aにて増幅されても、比較器7に入力する、信号レベル検出部6aが検出した信号レベルVdと信号レベル検出部6bが検出した信号レベルVuとの大小関係は、変わらずに図4に示すVd<Vuの関係にある。したがって、比較器7は、両スイッチ5a,5bに対して並列に、図5に示す状態を維持させる制御信号(比較結果)を出力する。これによって、下り中継路のスイッチ5aは、開路状態を維持維持するように、上り中継路のスイッチ5bは、閉路状態を維持するように、それぞれ制御される。
【0037】
このように、上り信号の中継増幅動作が、その上り信号の送信期間内、発振することなく安定的に実行される。
【0038】
以上の中継動作を実現すべく設計時に、ハイブリッド回路3a,3bでの当該メタル線伝送路のインピーダンスなどとの関係で定まるアイソレーションを適切に調整し、また、Amp4a,4bの増幅ゲインを、当該メタル線伝送路に混入するノイズの大きさを勘案して、下り中継時には、確実にVd>Vuとなり、上り中継時には、確実にVd<Vuとなるように調整してある。
【0039】
このように、実施の形態1によれば、上り下りの各中継路を増幅器とスイッチとの直列回路で構成したので、従来技術と比較して安価な構成とすることができる。そして、下り中継路のスイッチおよび上り中継路のスイッチの一方を開路状態に他方を閉路状態にする開閉制御を、それらの入力段にある各増幅器の出力レベルの大小関係に応じて行うようにしたので、従来技術よりも簡易な制御方法によって、一方の中継路から他方の中継路に信号が回り込んでも、或いは、ノイズが混入しても、両中継路を一巡するループの形成を阻止できるので、発振するのを防止して安定した中継増幅動作を実現することができる。
【0040】
実施の形態2.
図6は、この発明の実施の形態2による信号中継増幅器の構成を示すブロック図であ
る。なお、図6では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、この実施の形態2に関わる部分を中心に説明する。
【0041】
実施の形態1にて説明したように、下り信号用のスイッチ5aおよび上り信号用のスイッチ5bの初期状態は、比較器7での比較結果に依存した開閉状態になっている。原理的にはこれでよいが、メタル線伝送路に混入するノイズの程度によっては、上り下りの信号が送出されない期間において下り信号用のスイッチ5aおよび上り信号用のスイッチ5bに誤った開閉動作を行わせる可能性がある。
【0042】
そこで、図6に示すこの実施の形態2による信号中継増幅器10では、図1(実施の形態1)に示した構成において、比較器7に代えた比較器11に、信号レベルとノイズレベルとを識別できるスレッショルドレベルを設定し、実施の形態1にて説明した方法で下り信号用のスイッチ5aおよび上り信号用のスイッチ5bに開閉動作を行わせる場合に、ノイズの影響を受けないようにしている。
【0043】
図7は、図6に示す比較器に設定するスレッショルドレベルと上り下りの中継信号が無い期間において図6に示す2つの信号レベル検出器が検出するノイズレベルとの関係を説明する図である。図8は、上り下りの中継信号が無い期間において図6に示す比較器が2つのスイッチを開閉制御する動作を説明する図である。
【0044】
メタル線伝送路上に上り信号と下り信号とが送出されていない期間においては、ハイブリッド回路3aには、上り側メタル線伝送路2a上に存するノイズが見えており、また、ハイブリッド回路3bには、下り側メタル線伝送路2b上に存するノイズが見えている。
【0045】
上り側メタル線伝送路2a上に存するノイズは、ハイブリッド回路3aの下り出力ポートD1からAmp5aに入って増幅され、信号レベル検出器6aにて信号レベルVdとして検出され、比較器11に入力される。また、下り側メタル線伝送路2b上に存するノイズは、ハイブリッド回路3bの上り出力ポートU1からAmp5bに入って増幅され、信号レベル検出器6bにて信号レベルVuとして検出され、比較器11に入力される。
【0046】
図7に示すように、メタル線伝送路上に上り信号と下り信号とが送出されていない期間において、信号レベル検出器6aにて検出された信号レベルVdと信号レベル検出器6bにて検出された信号レベルVuとは、ほぼ同じ大きさであるが、両者の大小関係は絶えず変動している。この場合、図1に示した比較器7では、安定した比較結果を出力できないので、スイッチ5a,5bは過敏に開閉動作を繰り返すことが起こる。
【0047】
そこで、比較器11では、メタル線伝送路上に送出される上り信号および下り信号のレベルと、該上り下りの信号に重畳されるノイズのレベルとを識別できるスレッショルドレベルVthが、メタル線伝送路上に上り信号と下り信号とが送出されていない期間において、信号レベル検出器6aにて検出された信号レベルVdと、信号レベル検出器6bにて検出された信号レベルVuとを共に超える大きさに設定されている。
【0048】
そして比較器11は、最初に、信号レベル検出器6a,6bがそれぞれ検出した信号レベルVd,VuとスレッショルドレベルVthとの大小比較を行い、図7に示すように、信号レベルVd,Vuが共にスレッショルドレベルVthよりも小さい場合は、図8に示すように、スイッチ5a,5bを共に開路状態にする制御信号をスイッチ5a,5bに対して並列に出力するようになっている。つまり、メタル線伝送路上に上り信号と下り信号とが送出されていない期間において、スイッチ5a,5bが無用な開閉動作を行わないようにしてある。
【0049】
図9は、下り信号中継時に図6に示す比較器に入力する2つの信号レベルとスレッショルドレベルとの関係を示す図である。図10は、上り信号中継時に図6に示す比較器に入力する2つの信号レベルとスレッショルドレベルとの関係を示す図である。
【0050】
メタル線伝送路上に上り信号或いは下り信号が送出されると、図9や図10に示すように、比較器11に入力する2つの信号レベルVd,Vuは、共にスレッショルドレベルVthよりも大きくなることが実施の形態1での説明から理解できる。
【0051】
そこで、比較器11は、上記のように、まず、信号レベル検出器6a,6bがそれぞれ検出した信号レベルVd,VuとスレッショルドレベルVthとの大小比較を行うが、信号レベルVd,Vuが共にスレッショルドレベルVthよりも大きいので、今度は、実施の形態1にて説明したように、信号レベルVd,Vu間の大小関係を比較する。
【0052】
その結果、図9に示すように、Vd>Vuである場合は、スイッチ5a,5bを図3に示す状態にする制御信号をスイッチ5a,5bに並列に出力する。また、図10に示すように、Vd<Vuである場合は、スイッチ5a,5bを図5に示す状態にする制御信号をスイッチ5a,5bに並列に出力する。
【0053】
このように、実施の形態によれば、ノイズレベルと信号レベルとを区別するスレッショルドレベルを設けたので、線路長が長くなり、ノイズの混入が多くなる設置環境においても、上り下りの中継信号が無いノイズレベルのみの期間におけるスイッチの誤った開閉制御を回避して、上り下りの中継信号に対して適切な中継増幅動作を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、この発明にかかる信号中継増幅器は、同一周波数の上り信号と下り信号とが時分割で伝送されるメタル線伝送路上に介在して中継増幅を行う場合に、安価な構成で、かつ簡易な制御で、一方の中継路から他方の中継路に信号が回り込んでも、或いは、ノイズが混入しても発振しないようにするのに有用であり、特に、線路長が長くなり、ノイズの混入が想定される環境、例えばビル内や列車内などに配線されるメタル線伝送路における信号中継増幅器に適している。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】この発明の実施の形態1による信号中継増幅器の構成を示すブロック図である。
【図2】下り信号中継時に図1に示す比較器に入力する2つの信号レベルの関係を示す図である。
【図3】下り信号中継時に図1に示す比較器が2つのスイッチを開閉制御する動作を説明する図である。
【図4】上り信号中継時に図1に示す比較器に入力する2つの信号レベルの関係を示す図である。
【図5】上り信号中継時に図1に示す比較器が2つのスイッチを開閉制御する動作を説明する図である。
【図6】この発明の実施の形態2による信号中継増幅器の構成を示すブロック図である。
【図7】図6に示す比較器に設定するスレッショルドレベルと上り下りの中継信号が無い期間において図6に示す2つの信号レベル検出器が検出するノイズレベルとの関係を説明する図である。
【図8】上り下りの中継信号が無い期間において図6に示す比較器が2つのスイッチを開閉制御する動作を説明する図である。
【図9】下り信号中継時に図6に示す比較器に入力する2つの信号レベルとスレッショルドレベルとの関係を示す図である。
【図10】上り信号中継時に図6に示す比較器に入力する2つの信号レベルとスレッショルドレベルとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 信号中継増幅器
2a 上り側メタル線伝送路
2b 下り側メタル線伝送路
3a,3b ハイブリッド回路
4a,4b 増幅器(Amp)
5a,5b スイッチ
6a,6b 信号レベル検出器
7 比較器
10 信号中継増幅器
11 比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一周波数の上り信号と下り信号とが時分割で伝送されるメタル線伝送路上に介在して中継増幅を行う信号中継増幅器であって、
前記メタル線伝送路を2分した一方側である上り側メタル線伝送路が接続され、前記上り側メタル線伝送路からの下り信号を内部に出力する下り出力ポートと、前記上り側メタル線伝送路へ送出する上り信号が内部から入力される上り入力ポートとを有する上り側入出力回路と、
前記メタル線伝送路を2分した他方側である下り側メタル線伝送路が接続され、前記下り側メタル線伝送路からの上り信号を内部に出力する上り出力ポートと、前記下り側メタル線伝送路へ送出する下り信号が内部から入力される下り入力ポートとを有する下り側入出力回路と、
前記上り側入出力回路の下り出力ポートから前記下り側入出力回路の下り入力ポートに至る下り中継路に配置される、前記上り側入出力回路の下り出力ポートから送出される信号を増幅する下り信号用増幅器、および、該下り信号用増幅器の出力端と前記下り側入出力回路の下り入力ポートとの間に介在する下り信号用スイッチと、
前記下り側入出力回路の上り出力ポートから前記上り側入出力回路の上り入力ポートに至る上り中継路に配置される、前記下り側入出力回路の上り出力ポートから送出される信号を増幅する上り信号用増幅器、および、該上り信号用増幅器の出力端と前記上り側入出力回路の上り入力ポートとの間に介在する上り信号用スイッチと、
前記下り信号用増幅器の出力レベルを検出する下り信号用信号レベル検出器、および、前記上り信号用増幅器の出力レベルを検出する上り信号用信号レベル検出器と、
前記下り信号用信号レベル検出器および前記上り信号用信号レベル検出器がそれぞれ検出した信号レベル間の大小関係を比較し、その比較結果を、前記下り信号用スイッチおよび前記上り信号用スイッチに対して並列に、一方を開路状態にし、他方を閉路状態にする制御信号として出力する比較器と、
を備えていることを特徴とする信号中継増幅器。
【請求項2】
前記比較器は、
メタル線伝送路上に送出される上り信号および下り信号のレベルと、該上り下りの信号に重畳されるノイズのレベルとを識別できるスレッショルドレベルが設定され、
最初に、前記下り信号用信号レベル検出器および前記上り信号用信号レベル検出器がそれぞれ検出した信号レベルと前記スレッショルドレベルとの大小比較を行い、双方の検出レベルが共に該スレッショルドレベルよりも小さい場合は、前記下り信号用スイッチおよび前記上り信号用スイッチに対して並列に、双方を開路状態にする制御信号を出力し、双方の検出レベルが共に該スレッショルドレベルよりも大きい場合に、双方の検出レベル間の大小比較を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の信号中継増幅器。
【請求項3】
前記上り側入出力回路および下り側入出力回路は、それぞれ、2線・4線変換を行うハイブリッド回路であることを特徴とする請求項1または2に記載の信号中継増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−270984(P2008−270984A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108595(P2007−108595)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】