説明

信号処理方法および信号処理装置

【課題】センサの出力信号に含まれる低周波雑音成分を速やかに且つ精度よく除去して、センサに負荷された物理量に対応する直流成分を得ることができるようにする。
【解決手段】センサの出力信号に対するA/D変換処理で得られた信号に対して高域雑音除去処理を行い、得られた処理信号Yのスペクトラムを解析する(S2、S3)。低域側の境界周波数以上の周波数範囲に雑音成分がある場合、処理信号Yに対する180°の移相処理を行い、その移相処理によって生じる振幅誤差を信号の時間応答係数αに基づいて補正して入力処理信号と加算し、雑音成分を除去する(S4〜S8)。また、入力処理信号に、境界周波数より低い第2の周波数範囲に雑音成分がある場合、その処理信号に対して180°の移相処理した信号を、その移相処理で生じる振幅誤差の周波数特性に対応したフィルタで補正して入力処理信号と加算して雑音成分を除去する(S9〜S15)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサの出力信号からそのセンサに負荷された物理量に対応した直流成分を速やかに且つ精度よく得るための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の物理量を検出するためのセンサには、その物理量の変化に対して過渡的な応答を示すものが多い。
【0003】
例えば、ロードセル等のように物品の質量を検出するためのセンサは、物品の荷重を受けて変形し、その変形量に応じた電圧の信号を出力するが、センサに対する物品の荷重が急激に行なわれた場合、このセンサの系の固有振動モードが励起されてセンサに伝達されるため、その出力信号は非線形振動をする。
【0004】
この出力信号の非線形振動は時間が経過するにしたがって減衰して、最終的には物品の質量Mに対応した一定の値(直流値)に収束するが、ライン等で物品の質量検査を連続的に行う場合、この振動が完全に収束するまで待っていたのでは効率的な検査がおこなえない。
【0005】
そこで、一般的には低域通過フィルタにより雑音成分を除去することが行われているが、数10Hz以下の雑音成分を除去するためのフィルタの時定数はかなり大きく、収束予想値を高速に得ることは困難であった。
【0006】
この問題を解決するための一つの技術として、本願出願人は、センサの出力信号に含まれる交流信号成分を抽出してその位相を反転させて原信号と加算することにより、センサの出力信号の雑音成分を除去する技術を開示している(特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特開2005−274320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1の技術を用いても、床振動等で生じる数10Hz以下の雑音成分を精度よく且つ速やかに除去することが困難であった。
【0009】
特に、位相反転用として一般的に用いられるヒルベルト変換器の周波数特性は基本的にハイパス型であり、極低域までその周波数特性を延ばそうとすれば、そのタップ数が非常に大きくなり、その処理による大きな遅延が生じてしまう。
【0010】
本発明は、この点を改善し、センサの出力信号に含まれる低周波雑音成分を速やかに且つ精度よく除去して、センサに負荷された物理量に対応する直流成分を得ることができる信号処理方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の信号処理方法は、
センサの出力信号に対するA/D変換処理で得られた時系列の信号を入力信号として受け、該入力信号に含まれる所定周波数(Fa)より高い高域雑音成分を除去し、該高域雑音成分が除去された第1処理信号(Y(k))から前記所定周波数以下の低域雑音成分を除去して、前記入力信号の直流成分を求める信号処理方法であって、
前記低域雑音成分を除去する処理は、
前記第1処理信号に対する180度の移相処理を行う段階(S5)と、
前記移相処理で得られた信号(Y(k)′)に基づいて、該移相処理の前記所定周波数以下の低域振幅誤差を生じさせる時間応答係数(α)を求める段階(S6)と、
前記求めた時間応答係数に基づいて、前記移相処理された信号の前記所定周波数以下の振幅を補正し、前記第1処理信号に含まれる低域雑音成分を180゜移相した雑音信号(NL1(k))を生成する段階(S7)と、
前記第1処理信号と前記雑音信号とを加算して、前記第1処理信号から前記所定周波数以下の低域雑音成分を除去した信号(Z(k))を求める段階(S8)とを含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2の信号処理方法は、
センサの出力信号に対するA/D変換処理で得られた時系列の信号を入力信号として受け、該入力信号に含まれる所定周波数(Fa)より高い高域雑音成分を除去し、該高域雑音成分が除去された第1処理信号(Y(k))から前記所定周波数以下の低域雑音成分を除去して、前記入力信号の直流成分を求める信号処理方法であって、
前記低域雑音成分を除去する処理は、
前記第1処理信号に対する180度の第1の移相処理を行う段階(S5)と、
前記第1の移相処理で得られた信号(Y(k)′)に基づいて、該第1の移相処理の前記所定周波数からそれより低い境界周波数(Fb)までの第1の周波数範囲の低域振幅誤差を生じさせる時間応答係数(α)を求める段階(S6)と、
前記求めた時間応答係数に基づいて、前記移相処理された信号の前記第1の周波数範囲の振幅を補正し、前記第1処理信号の前記第1の周波数範囲に含まれる低域雑音成分を180゜移相した第1の雑音信号(NL1(k))を生成する段階(S7)と、
前記第1処理信号と前記第1の雑音信号とを加算して、前記第1処理信号から前記第1の周波数範囲の低域雑音成分を除去した第2処理信号(Z(k))を求める段階(S8)と、
前記第2処理信号に対する180度の第2の移相処理を行う段階(S11)と、
前記第2の移相処理で得られた信号(Z(k)′)に対して、該第2の移相処理によって生じる前記境界周波数から下限周波数(Fc)までの第2の周波数範囲における周波数対振幅の誤差を補正して、前記第2処理信号の前記第2の周波数範囲に含まれる低域雑音成分を180度移相した第2の雑音信号(NL2(k))を生成する段階(S13)と、
前記第2処理信号と前記第2の雑音信号とを加算して、前記第2処理信号から前記第2の周波数範囲の低域雑音成分を除去した第3処理信号(W(k))を求める段階(S14)とを含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3の信号処理方法は、請求項2記載の信号処理方法において、
前記入力信号または前記第1処理信号に対するスペクトラム解析により少なくとも前記所定周波数以下の雑音成分を求める段階(S3)と、
前記スペクトラム解析により得られた雑音成分が、前記第1の周波数範囲と第2の周波数範囲のいずれにあるかを判定する段階(S4、S9、S16)とを含み、
前記スペクトラム解析により得られた雑音成分が、前記第1の周波数範囲と第2の周波数範囲の両方にあるときには、前記第3処理信号を最終の処理結果とし、雑音成分が前記第1の周波数範囲にのみあるときには、前記第2処理信号を最終の処理結果とし、雑音成分が前記第2の周波数範囲にのみあるときには、前記第2処理信号の代わりに前記第1処理信号に対して前記第3処理信号を求める処理をおこない、その結果を最終処理結果として出力することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項4の信号処理方法は、請求項2または請求項3記載の信号処理方法において、
前記第3処理信号を求める際には、該第3処理信号から抽出した雑音成分の振幅情報と周波数情報から生成した第2の雑音信号を用いて補正処理を行うこと特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項5の信号処理方法は、請求項1〜4のいずれかに記載の信号処理方法において、
前記移相処理は、
入力する処理信号から位相が90゜異なる直交信号を生成し、該直交信号から瞬時位相と瞬時振幅を算出する段階(S100)と、
算出された瞬時位相と瞬時振幅に基づいて前記入力する処理信号に対して180゜移相した信号を生成する段階(S101)とを含んでいることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項6の信号処理装置は、
センサ(11)の出力信号に対するA/D変換処理を行うA/D変換器(21)と、
前記A/D変換器の出力信号を受け、所定周波数(Fa)より高い高域雑音成分を除去し、該高域雑音成分を除去して得られた第1処理信号(Y(k))を出力する高域雑音除去部(22)と、
前記第1処理信号を受け、前記所定周波数以下の低域雑音成分を除去する低域雑音除去部(30)とを有する信号処理装置であって、
前記低域雑音除去部が、
前記第1処理信号に対して180度の移相処理を行う移相手段(31)と、
前記移相処理で得られた信号(Y(k)′)に基づいて、該移相処理の前記所定周波数以下の低域振幅誤差を生じさせる時間応答係数(α)を求める時間応答係数算出手段(32)と、
前記求めた時間応答係数に基づいて、前記移相処理された信号の前記所定周波数以下の振幅を補正し、前記第1処理信号に含まれる低域雑音成分を180゜移相した雑音信号(NL1(k))を生成する補正手段(33)と、
前記第1処理信号と前記雑音信号とを加算し、前記第1処理信号から前記所定周波数以下の低域雑音成分を除去した第2処理信号を求める加算手段(35)とを備えたこと特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項7の信号処理装置は、
センサ(11)の出力信号に対するA/D変換処理を行うA/D変換器(21)と、
前記A/D変換器の出力信号を受け、所定周波数(Fa)より高い高域雑音成分を除去し、該高域雑音成分を除去して得られた第1処理信号(Y(k))を出力する高域雑音除去部(22)と、
前記第1処理信号を受け、前記所定周波数以下の低域雑音成分を除去する低域雑音除去部(30)とを有する信号処理装置であって、
前記低域雑音除去部が、
前記第1処理信号に対して180度の移相処理を行う第1の移相手段(31)と、
前記第1の移相手段の出力信号(Y(k)′)に基づいて、該移相処理の前記所定周波数からそれより低い境界周波数(Fb)までの第1の周波数範囲の低域振幅誤差を生じさせる時間応答係数(α)を求める時間応答係数算出手段(32)と、
前記求めた時間応答係数に基づいて、前記第1の移相手段の出力信号の前記第1の周波数範囲の振幅を補正し、前記第1処理信号の前記第1の周波数範囲に含まれる低域雑音成分を180゜移相した第1の雑音信号(NL1(k))を生成する第1の補正手段(33)と、
前記第1処理信号と前記第1の雑音信号とを加算し、前記第1処理信号から前記第1の周波数範囲の低域雑音成分を除去した第2処理信号(Z(k))を求める第1の加算手段(35)と、
前記第2処理信号に対して180度の移相処理を行う第2の移相手段(41)と、
前記第2の移相手段の出力信号(Z(k)′)に対して、前記第1の移相手段によって移相処理によって生じる前記境界周波数から下限周波数(Fc)までの第2の周波数範囲の周波数対振幅の誤差を補正して、前記第2処理信号に含まれる前記第2の周波数範囲の雑音成分を180度移相した第2の雑音信号(NL2(k))を生成する第2の補正手段(42)と、
前記第2処理信号と前記第2の雑音信号とを加算し、前記第1処理信号から前記第2の周波数範囲の低域雑音成分を除去した第3処理信号(W(k))を求める第2の加算手段(45)とを備えたこと特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項8の信号処理装置は、請求項7記載の信号処理装置において、
前記入力信号または前記第1処理信号に対するスペクトラム解析により少なくとも前記所定周波数以下の雑音成分を求めるスペクトラム解析手段(26)と、
前記スペクトラム解析手段で得られた雑音成分が、前記第1の周波数範囲と第2の周波数範囲のいずれにあるかを判定する雑音分布判定手段(27)と、
前記スペクトラム解析手段で得られた雑音成分が、前記第1の周波数範囲と第2の周波数範囲の両方にあるときには、前記第3処理信号を最終の処理結果として出力させ、雑音成分が前記第1の周波数範囲にのみあるときには、前記第2処理信号を最終の処理結果として出力させ、雑音成分が前記第2の周波数範囲にのみあるときには、前記第2処理信号の代わりに前記第1処理信号を前記第2の移相手段に入力させ、該第1処理信号に対して前記第2の加算手段で得られた第3処理信号を最終処理結果として出力させる信号切換手段(28a〜28c)とを有していることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項9の信号処理装置は、請求項7または請求項8記載の信号処理装置において、
前記第2の補正手段は、前記第3処理信号から抽出した雑音成分の振幅情報と周波数情報から生成した第2の雑音信号を用いて補正処理を行うこと特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項10の信号処理装置は、請求項6〜9のいずれかに記載の信号処理装置において、
前記移相手段は、
入力する処理信号から位相が90゜異なる直交信号を生成し、該直交信号から瞬時位相と瞬時振幅を算出する手段(101〜106)と、
前記算出された瞬時位相と瞬時振幅に基づいて前記入力する処理信号に対して180゜移相した信号を生成する手段(107〜109)によって構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
このように本発明では、センサの出力信号に対するA/D変換処理で得られた時系列の信号に対して高域雑音除去処理を行い、その高域雑音除去処理後の第1処理信号に対する180度の移相処理を行い、その移相処理によって生じる低域振幅誤差を移相処理の時間応答係数を基づいて補正して、入力信号に含まれていた交流の雑音成分を180度移相した雑音信号を生成してから入力信号と加算して、その雑音成分を相殺除去しているので、移相処理帯域を極端に低域まで下げることなく、低域雑音成分を除去することができ、速やかに且つ精度よく直流成分を検出することができる。
【0022】
また、移相処理の周波数特性の傾斜部以下の低域を、境界周波数を境にして2つの周波数範囲に分け、その高い方の第1の周波数範囲については時間応答係数により速やかに補正処理を行い、低い方の第2の周波数範囲については、周波数対振幅の特性に基づいて振幅補正しているから、床振動などの極めて低い雑音成分に対しても速やかに精度よくセンサへの負荷に対応した直流成分を検出することかできる。
【0023】
また、入力信号あるいは第1処理信号のスペクトラム解析を行い、低域雑音がどの周波数範囲にあるかによって、雑音除去処理を選択的に行うものでは、実際に発生する雑音に応じて最短の処理時間でその雑音の除去が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
先ず始めに、本発明の信号処理方法の一実施形態を図1のフローチャートに基づいて説明する。
【0025】
図1に示しているように、この実施形態の信号処理方法は、質量、圧力等の物理量Mを受けたセンサの出力信号x(t)を、その周波数成分の上限の2倍より十分高い周波数でオーバサンプリングして、量子化雑音が極めて少ないデジタルの原信号X(k)に変換する(S1)。
【0026】
そして、この原信号X(k)に含まれる所定周波数Fa(例えば数10Hz)以上の高域雑音成分を除去する(S2)。この所定周波数Faは、後述する各移相手段の周波数振幅特性の平坦部と低域側の傾斜部の境界近傍に設定されているものとする(図3参照)。
【0027】
高域雑音成分の除去処理については後述するが、例えば前記した特許文献1の処理が使用可能であり、この処理により、例えば、図2の(a)のような信号x(t)に対して、図2の(b)のように低域の雑音成分のみが重畳した信号Y(k)を出力する。
【0028】
高域雑音除去処理で所定周波数Fa以上の雑音成分が短時間に除去された第1処理信号Y(k)は、低域雑音除去処理を受けるが、その低域雑音成分の存在を先に調べておくことで、以後の処理に無駄がなくなる。
【0029】
即ち、スペクトラム解析処理(S3)を行い、周波数Fa以下の所定レベル以上の雑音があるか否かを判定する(S4、S9、S16)。
【0030】
ここで、図3に示すように、移相処理の振幅周波数特性の周波数Faから雑音除去処理の下限周波数Fcの間を、境界周波数Fb(例えば10Hz)を境にして高い方を第1の周波数範囲、低い方を第2の周波数範囲に分け、雑音成分がどちらの周波数範囲にあるかを判定する。
【0031】
雑音成分が第1の周波数範囲にあるとき(S4)には、第1処理信号Y(k)に対する雑音除去処理が行われる。
【0032】
この低域雑音除去処理は、基本的に元の信号に含まれる交流の雑音成分を180゜移相して加算することで雑音成分を相殺するものである。
【0033】
即ち、第1処理信号Y(k)に対して180度の移相処理を行う(S5)。
この180度の移相処理は、単純には広帯域にわたり90度の移相処理が可能なヒルベルト変換器を2段接続して実現できる。
【0034】
また、後述するように入力信号からヒルベルト変換器を用いてIQ直交信号を生成し、そのI成分とQ成分から、雑音成分の瞬時周波数、瞬時位相、瞬時振幅を求め、これらの情報から各雑音成分について180゜移相した信号を合成して出力する構成としてもよい。
【0035】
ただし、前記したようにヒルベルト変換器はハイパス型で、図3で示したように周波数Faより傾斜部で周波数とともに利得が低下し、図2の(c)のように、移相処理した後の信号Y(k)′の低域成分の振幅が減衰してしまう。この利得が低下する周波数は、ヒルベルト変換処理のタップ数を多くすることでより低い方へずらすことができるが、そのために大きな遅延時間が生じてしまう。
【0036】
そこで、この実施形態では、移相処理によって生じる低域振幅誤差を移相処理の時間応答係数αを求めて補正処理し、第1処理信号Y(k)に含まれていた第1の周波数範囲の雑音成分を180度移相した第1の雑音信号NL1(k)を生成し、加算処理してその雑音成分を除去している。
【0037】
つまり、図2の(c)のように第1処理信号Y(k)に対して180゜の移相処理して得られた信号Y(k)′と、元の信号Y(k)とから時間応答係数αを求めて(S6)、その時間応答係数に応じた補正処理を行い(S7)、図2の(d)のように第1処理信号Y(k)に含まれる第1の周波数範囲の雑音成分を180゜移相した第1の雑音信号NL1(k)を求め、第1処理信号Y(k)と加算する(S8)ことで、図2の(e)のようなに第1の周波数範囲の雑音が除去された第2処理信号Z(k)を得ている。
【0038】
なお、時間応答係数αの算出は、例えば時刻mT、(m+1)Tの入力値をそれぞれK1、K2、そのときの直流値をDcで一定、ヒルベルト変換の出力値をそれぞれh[mT]、h[(m+1)T]とすると、次の連立方程式が成り立つ。
【0039】
Dc+h(mT)=K1
Dc+h[(m+1)T]=K2
【0040】
また、元の信号をそれぞれg[mT]、g[(m+1)T]とすれば、
α・g[mT]=h[mT]
α・g[(m+1)T]=h[(m+1)T]
となる。
【0041】
これらの式を解くことで、直流分Dcと時間応答係数αが得られるので、この時間応答係数α分の補正処理(逆数1/αを乗じる)を行うことで、前記したように第1の周波数範囲の低域雑音が除去された第2処理信号Z(k)を得ることができる。
【0042】
この第2処理信号Z(k)に第2の周波数範囲の雑音がなければ、第2処理信号Z(k)が最終の処理結果として出力されることになる(S9、S10)が、数Hzの低い周波数の床振動があるような場合、図2の(e)のように第2処理信号Z(k)にその雑音成分が重畳している。
【0043】
そこで、次に第2の周波数範囲の雑音に対する除去処理を行う。
即ち、第2処理信号Z(k)に対して180゜の移相処理を行い(S11)、図2の(f)のような信号Z(k)′を求める。
【0044】
そして、前記同様にその移相処理による低域振幅誤差を補正する。
この低域振幅誤差の補正処理としては、移相処理部の周波数特性が既知で固定であることから、その周波数特性を補償する固定周波数特性(LPF)のフィルタ処理(畳み込み演算処理)を行うことで実現できる。
【0045】
また、センサ11の出力に含まれる低域雑音成分は、センサ11に定常的に加わっている振動成分が主体である場合が多いので、その信号成分についてだけ低域振幅誤差を補正することで補正処理が容易となり、補正に必要な処理時間がより短くて済む。
【0046】
さらに、雑音が例えば床振動のように定常的なものが主体である場合、振幅最大の雑音成分だけを除去対象とし、その雑音を抽出して周波数情報と振幅情報を求めておき、その情報から雑音信号を生成して補正処理することも可能である。
【0047】
なお、図1の例では、第2処理信号Z(k)に対するスペクトラム解析を利用して、第2の周波数範囲に存在する雑音成分に対して前記移相処理で生じる低域振幅誤差を補正するために必要な係数(この場合FIR型フィルタの係数)を求め(S12)、そのフィルタ係数による補正演算処理(畳み込み演算処理)を信号Z(k)′に対して行い(S13)、図2の(g)のように、振幅誤差が補正され、且つ元の信号の低域雑音成分に対して180度移相した第2の雑音信号NL2(k)を生成している。
【0048】
そして、第2処理信号Z(k)と第2の雑音信号NL2(k)とを加算して、図2の(h)のように第2の周波範囲の低域雑音成分が除去された第3処理信号W(k)を求め(S14)、これを最終の処理結果として出力する(S15)。
【0049】
この最終の処理結果として出力された第3処理信号W(k)から、センサの出力信号x(t)の直流成分Vm、即ち、センサに負荷された物理量を正確に予測できる。
【0050】
また、スペクトラム解析の結果、第1の周波数範囲と第2の周波数範囲のいずれにも有害な雑音がないと判定された場合(S16)には、第1処理信号Y(k)を最終の処理結果として出力し(S17)、第2の周波数範囲にのみ有害な雑音があると判定された場合には、前記第2処理信号Z(k)の代わりに第1処理信号Y(k)に対する180°の移相処理を行って(S18)、その移相信号に対してS12〜S14の処理を行い、その処理で得られた信号W(k)を最終の処理結果とすればよい。
【0051】
なお、ここでは、第2の周波数範囲に、精度に影響を与える低域雑音成分が複数ある場合を想定して、その複数の低域振幅誤差を補正するために必要なフィルタ係数を求めていたが、スペクトラム解析で得られた低域雑音成分のうちの第2の周波数範囲内でレベル最大の雑音成分だけに対して補正処理を行うことも可能であり、その場合には、対象となる雑音成分の振幅の減衰割合を係数として求め、その係数の逆数を移相処理後の信号に乗じる演算のみで補正処理が行え、最短の処理時間で済む。
【0052】
このように、実施形態の信号処理方法では、センサ1の出力信号に対するA/D変換処理で得られた時系列の信号に対して高域雑音除去処理を行い、その結果得られた第1処理信号に対して180度の移相処理を行い、その移相処理により生じる低域振幅誤差を移相処理の時間応答係数に基づいて補正して第1処理信号と加算することで、低域雑音成分を相殺除去しているので、低域成分に対する移相処理のために大きな遅延時間を発生させることなく、極めて低い周波数の雑音成分の除去を速やか行うことができ、センサに負荷された物理量を高速且つ高精度に検出できる。
【0053】
さらに低域を第1の周波数範囲と第2の周波数範囲に分け、その高い方の第1の周波数範囲については時間応答係数に基づいて補正した雑音信号を用いて雑音除去処理を行い、低い方の第2の周波数範囲については移相処理の周波数対振幅の特性に基づいて補正され雑音信号を用いて雑音除去処理を行い、第2の周波数範囲の低域雑音成分を相殺させ、センサの出力信号の直流成分を得ているので、より効率的に雑音を除去できる。
【0054】
なお、高域雑音除去の処理は任意であり、簡単にはローパスフィルタのみで高域雑音成分を除去してもよく、また、前記した特許文献1の処理で極めて高速な雑音除去処理を行うこともできる。
【0055】
図4は、上記実施形態の信号処理方法を用いた実施形態の信号処理装置20の構成を示している。
【0056】
この信号処理装置20は、ロードセル等のセンサ11の出力信号x(t)を、A/D変換器21により例えば数kHzでオーバサンプリングして、量子化雑音が少ないデジタルの原信号X(k)を得て、高域雑音除去部22に入力している。
【0057】
高域雑音除去部22は、移相手段23、遅延手段24および加算手段25により構成されている。
【0058】
原信号X(k)を受ける移相手段23は、90度の移相を行う2つのヒルベルト変換器23a、23bを直列に接続したものであり、そのタップ数は、周波数Fa以上の周波数成分に対して平坦な周波数特性が得られる最小数に設定されている。
【0059】
なお、上記のようにヒルベルト変換器を用いた移相手段23の場合、原理的に直流分は除去されているので、原信号に重畳している交流成分に対して180度移相した雑音信号N(k)を生成できる。ただし、低域の雑音成分については元の成分に対して振幅が低下している。
【0060】
また、遅延手段24は、信号X(k)に対し、移相手段23の移相処理に必要な処理時間分の遅延を与え、加算器25に出力する。
【0061】
加算手段25には、原信号X(k)と、その原信号に含まれていた周波数Fa以上の高域雑音成分を180度移相した雑音信号N(k)とが入力されることになり、その加算処理により高域雑音成分が相殺除去された第1処理信号Y(k)が前記図2の(b)のように出力されることになる。
【0062】
このようにして得られた第1処理信号Y(k)は、スペクトラム解析手段26、低域雑音除去部30の移相手段31および遅延手段34に入力される。
【0063】
スペクトラム解析手段26は、第1処理信号Y(k)に対するスペクトラム解析を行い、周波数Fa以下の雑音成分を求める。
【0064】
雑音分布判定手段27は、スペクトラム解析手段26で得られた雑音成分が、第1の周波数範囲と第2の周波数範囲のいずれにあるかを判定する。この判定結果によって後述する信号切換用のスイッチ28a〜28cが切り替わる。
【0065】
第1処理信号Y(k)はスイッチ28aを介して低域雑音除去部30の移相手段31に入力される。移相手段31は例えば、図示のように90度の移相を行う2つのヒルベルト変換器31a、31bを直列に接続して構成でき、そのタップ数は、周波数Faより低い周波数成分に対しては、前記図3で示したように周波数が低くなる程振幅が減衰する特性となり、図2の(c)で示したように、その帯域の信号の振幅を下げてしまうが、その振幅低下は後続の補正手段33によって補正される。
【0066】
つまり、時間応答係数算出手段32により出力信号Y(k)′と入力信号Y(k)とから時間応答係数αが算出されて補正手段33に与えられ、信号Y(k)′の振幅が補正されて、図2の(d)に示したように第1処理信号Y(k)の第1の周波数範囲に含まれる雑音成分を180゜移相した第1の雑音信号NL1(k)が求められ、加算器35に与えられる。この加算器35には、第1処理信号Y(k)が、時間応答算出手段32および補正手段33の処理遅延分だけ遅延手段34で遅延されて入力されており、その加算処理により、第1処理信号Y(k)からその第1の周波数範囲に含まれる雑音成分が除去されて、図2の(e)に示した第2処理信号Z(k)が得られる。
【0067】
このようにして得られた第2処理信号Z(k)は、スイッチ28bを介して移相手段41および遅延手段44に入力される。
【0068】
移相手段41は、例えば前記同様に2つのヒルベルト変換器41a、41bで構成され、入力する処理信号Z(k)(後述するようにY(k)の場合もある)の交流成分に対して180°の移相処理を行うが、前記したように低周波域ではその周波数振幅特性の傾斜により振幅が低下しており、特に第2の周波数範囲では、振幅誤差が大きくなっており、補正処理が必要となる。
【0069】
この補正には、ヒルベルト変換器を用いた移相手段41の低域の周波数特性と逆の周波数特性を持つフィルタによってその低域全体の低域振幅誤差を補償する方法、実際に存在する低域雑音成分のうち、精度に影響を与える可能性のあるレベルが大きい雑音成分に対してのみ振幅誤差を補償する方法とがあるが、ここでは前者について説明する。
【0070】
即ち、補正手段42は、図3の周波数特性と逆の周波数特性をもつFIR型の低域通過フィルタであり、上記した移相処理によって生じる第2の周波数範囲の低域振幅誤差を補正する。
【0071】
補正係数算出手段43は、前記スペクトラム解析手段26等により得られた第2の周波数範囲の雑音成分の情報を受け、精度に影響する可能性のある所定レベル以上の低域雑音成分に対して移相手段41により生じる低域振幅誤差を補正するためのフィルタ係数を求め、これを補正手段42に設定する。このフィルタ係数は、例えばスペクトラム解析情報から補正に必要な振幅位相特性を求め、その特性に対して逆フーリエ変換(IFFT)を行ってインパルス応答を求め、そのインパルス応答を、要求する精度に対応した広さで切り出すことにより得ている。
【0072】
また、前記したように最もレベルが高い雑音成分(単信号)だけに対して補正処理を行う場合には、図4で点線で示しているように出力信号W(k)から得られた雑音成分の周波数情報と振幅情報に基づいて、その雑音信号に対して180゜移相した雑音信号を生成する雑音生成手段46を用い、その生成された雑音信号と移相処理された信号とを補正手段12で加算することで、雑音成分を除去することもでき、この場合最も短い処理時間で済む。なお、この場合、雑音成分の周波数情報と振幅情報は、出力W(k)から定期的に抽出して更新する方法と、メモリに記憶している固定の情報を用いる方法のいずれであってもよい。
【0073】
このようにして第2の周波数範囲の低域振幅誤差が補正されて、前記図2の(g)に示したように、第2処理信号Z(k)の第2の周波数範囲の低域雑音成分を180度移相した第2の雑音信号NL2(k)が得られる。
【0074】
一方、遅延手段44は、信号Z(k)に、移相手段41および補正手段42の処理時間分の遅延を与えて、加算手段45に出力する。
【0075】
したがって、加算手段45には、第2処理信号Z(k)と、その信号Z(k)の第2の周波数範囲に含まれていた低域雑音成分を180度移相した第2の雑音信号NL2(k)とが入力されることになり、前記図2の(h)のようにその低域雑音成分が相殺除去された第3処理信号W(k)が得られ、スイッチ28cを介して最終の処理結果として出力されることになる。
【0076】
以上、第1の周波数範囲と第2の周波数範囲に雑音が存在する場合について説明したが、雑音分布判定手段27によって第1の周波数範囲にのみ有害な雑音信号が存在すると判定された場合には、第1処理信号Y(k)を移相手段31に入力させ、加算手段35から出力される第2処理信号Z(k)をスイッチ28cで最終の処理結果として出力すればよい。
【0077】
また、第2の周波数範囲にのみ有害な雑音信号が存在すると判定された場合には、第2処理信号Z(k)の代わりに第1処理信号Y(k)を、スイッチ28bを介して移相手段41に入力させ、加算手段45から出力される第3処理信号W(k)をスイッチ28cで最終の処理結果として出力すればよい。
【0078】
このようにスペクトラム解析を行って実際に存在する低域雑音信号を求め、その低域雑音信号の分布に対して選択的に補正処理を行うようにすれば、補正のためのフィルタ構成が簡単に済み、遅延時間を短くすることができる。
【0079】
なお、上記実施形態では、180°の移相処理として2段のヒルベルト変換を行う場合について説明したが、図5のフローチャートに示すように、ヒルベルト変換を用いて入力する処理信号から直交信号I、Qを生成して、その瞬時位相、瞬時振幅を求め(S100)、得られた瞬時位相にπ/4を加えた位相値に対応する振幅1の直交成分を求め、瞬時振幅をそれぞれに乗算して加算合成することで、入力する処理信号に対して最終的に180゜移相した信号を生成することができる。ただし、この場合もヒルベルト変換処理の低域振幅歪みの影響を受けるので前記した補正処理が必要となる。
【0080】
図6は、図5の処理を実現する移相手段100で前記した各移相手段23、31、41に適用可能な構成例を示している。
【0081】
この移相手段100は、X(k)、Y(k)、Z(k)のいずれかの入力信号を、1段のヒルベルト変換器101で90°移相して、ヒルベルト変換器1段分の遅延を遅延手段102で与えた信号Iと、入力信号を2段のヒルベルト変換器103、104で180゜移相した信号Qとで、直交IQ信号を生成し、その直交信号I、Qを位相・周波数算出手段105および振幅算出手段106に与えて、雑音成分の瞬時周波数f、瞬時位相φ、瞬時振幅Aを求め、加算手段107で位相φにπ/4を加え、得られた位相φ′を瞬時位相とする振幅1の直交信号成分I′、Q′を直交信号生成手段108により生成し、合成手段109において、振幅Aを乗算して加算合成することで、入力信号に含まれる雑音成分を180゜移相した信号を合成して出力する。
【0082】
次に、上記図6の移相処理を用いた場合の実施形態のシミュレーションを図7〜図9に示す。なお、図7〜図9の縦軸の単位はグラム、横軸の単位は秒であり、シミュレーション条件は、以下の通りである。
【0083】
自由度バネマスダンパ系に0.3秒の台形波を入力(この振幅を100パーセントとする)
固有振動数 約45Hz(振幅20パーセント)
第2の周波数範囲の低域雑音 5Hz(振幅5パーセント)
第1の周波数範囲の低域雑音 21Hz、23Hz(ともに振幅1パーセント)
高域雑音 51Hz、61Hz、63Hz、71Hz(ともに振幅3パーセント)
サンプリング時間5ms
【0084】
図7の(a)は、センサの出力X(k)とその信号に対して高域雑音除去処理を行った結果Y(k)を示し、図7の(b)は、信号Y(k)と、比較のために線形時不変の直線位相のFIR型のLPFを用いて高域を除去した結果(LPFと示す)とを拡大したものである。
【0085】
ここで、高域雑音除去処理の下限周波数Faを40Hzとし、それ以上で測定精度が1/5000になる周波数平坦度を有するタップ数100のヒルベルト変換処理を用いている。
【0086】
図7から、低周波の5Hz、21Hz、23Hzの雑音が残っていることが判る。また、LPFの特性には、実施形態の処理に比べて急峻に上に延びた応答が見られている。
【0087】
図8は、第2処理信号Z(k)と、前記LPF出力を拡大したものである。この図8から、第2処理信号Z(k)には、低周波の第1の周波数範囲の21Hz、23Hzの雑音が除去されているが、5Hzの雑音が残留していることが判る。
【0088】
図9は、前記した補正係数を求めてフィルタで補正することで得られた第3処理信号W(k)の拡大図である。5Hzの雑音が除去され、上部がほぼ平坦な台形波が得られており、低周波雑音は十分除去されていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート
【図2】本発明の実施形態の動作例を示す信号図
【図3】ヒルベルト変換器の周波数特性図
【図4】本発明の実施形態の信号処理装置の構成図
【図5】移相処理の別の方法例を示す図
【図6】図5の移相処理の実現する具体的な構成例を示す図
【図7】高域雑音を除去した後の信号図
【図8】低域の第1の周波数範囲の雑音を除去した後の信号図
【図9】低域の第2の周波数範囲の雑音を除去した後の信号図
【符号の説明】
【0090】
11……センサ、20……信号処理装置、21……A/D変換器、22……高域雑音除去部、23……移相手段、24……遅延手段、25……加算手段、26……スペクトラム解析手段、27……雑音分布判定手段、30……低域雑音除去部、31……移相手段、32……時間応答係数算出手段、33……補正手段、34……遅延手段、35……加算手段、41……移相手段、42……補正手段、43……補正係数算出手段、44……遅延手段、45……加算手段、46……雑音信号生成手段、100……移相手段、101、103、104……ヒルベルト変換器、102……遅延手段、105……位相・周波数算出手段、106……振幅算出手段、107……加算手段、108……直交信号生成手段、109……合成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサの出力信号に対するA/D変換処理で得られた時系列の信号を入力信号として受け、該入力信号に含まれる所定周波数(Fa)より高い高域雑音成分を除去し、該高域雑音成分が除去された第1処理信号(Y(k))から前記所定周波数以下の低域雑音成分を除去して、前記入力信号の直流成分を求める信号処理方法であって、
前記低域雑音成分を除去する処理は、
前記第1処理信号に対する180度の移相処理を行う段階(S5)と、
前記移相処理で得られた信号(Y(k)′)に基づいて、該移相処理の前記所定周波数以下の低域振幅誤差を生じさせる時間応答係数(α)を求める段階(S6)と、
前記求めた時間応答係数に基づいて、前記移相処理された信号の前記所定周波数以下の振幅を補正し、前記第1処理信号に含まれる低域雑音成分を180゜移相した雑音信号(NL1(k))を生成する段階(S7)と、
前記第1処理信号と前記雑音信号とを加算して、前記第1処理信号から前記所定周波数以下の低域雑音成分を除去した信号(Z(k))を求める段階(S8)とを含むことを特徴とする信号処理方法。
【請求項2】
センサの出力信号に対するA/D変換処理で得られた時系列の信号を入力信号として受け、該入力信号に含まれる所定周波数(Fa)より高い高域雑音成分を除去し、該高域雑音成分が除去された第1処理信号(Y(k))から前記所定周波数以下の低域雑音成分を除去して、前記入力信号の直流成分を求める信号処理方法であって、
前記低域雑音成分を除去する処理は、
前記第1処理信号に対する180度の第1の移相処理を行う段階(S5)と、
前記第1の移相処理で得られた信号(Y(k)′)に基づいて、該第1の移相処理の前記所定周波数からそれより低い境界周波数(Fb)までの第1の周波数範囲の低域振幅誤差を生じさせる時間応答係数(α)を求める段階(S6)と、
前記求めた時間応答係数に基づいて、前記移相処理された信号の前記第1の周波数範囲の振幅を補正し、前記第1処理信号の前記第1の周波数範囲に含まれる低域雑音成分を180゜移相した第1の雑音信号(NL1(k))を生成する段階(S7)と、
前記第1処理信号と前記第1の雑音信号とを加算して、前記第1処理信号から前記第1の周波数範囲の低域雑音成分を除去した第2処理信号(Z(k))を求める段階(S8)と、
前記第2処理信号に対する180度の第2の移相処理を行う段階(S11)と、
前記第2の移相処理で得られた信号(Z(k)′)に対して、該第2の移相処理によって生じる前記境界周波数から下限周波数(Fc)までの第2の周波数範囲における周波数対振幅の誤差を補正して、前記第2処理信号の前記第2の周波数範囲に含まれる低域雑音成分を180度移相した第2の雑音信号(NL2(k))を生成する段階(S13)と、
前記第2処理信号と前記第2の雑音信号とを加算して、前記第2処理信号から前記第2の周波数範囲の低域雑音成分を除去した第3処理信号(W(k))を求める段階(S14)とを含むことを特徴とする信号処理方法。
【請求項3】
前記入力信号または前記第1処理信号に対するスペクトラム解析により少なくとも前記所定周波数以下の雑音成分を求める段階(S3)と、
前記スペクトラム解析により得られた雑音成分が、前記第1の周波数範囲と第2の周波数範囲のいずれにあるかを判定する段階(S4、S9、S16)とを含み、
前記スペクトラム解析により得られた雑音成分が、前記第1の周波数範囲と第2の周波数範囲の両方にあるときには、前記第3処理信号を最終の処理結果とし、雑音成分が前記第1の周波数範囲にのみあるときには、前記第2処理信号を最終の処理結果とし、雑音成分が前記第2の周波数範囲にのみあるときには、前記第2処理信号の代わりに前記第1処理信号に対して前記第3処理信号を求める処理をおこない、その結果を最終処理結果として出力することを特徴とする請求項2記載の信号処理方法。
【請求項4】
前記第3処理信号を求める際には、該第3処理信号から抽出した雑音成分の振幅情報と周波数情報から生成した第2の雑音信号を用いて補正処理を行うこと特徴とする請求項2または請求項3記載の信号処理方法。
【請求項5】
前記移相処理は、
入力する処理信号から位相が90゜異なる直交信号を生成し、該直交信号から瞬時位相と瞬時振幅を算出する段階(S100)と、
算出された瞬時位相と瞬時振幅に基づいて前記入力する処理信号に対して180゜移相した信号を生成する段階(S101)とを含んでいることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の信号処理方法。
【請求項6】
センサ(11)の出力信号に対するA/D変換処理を行うA/D変換器(21)と、
前記A/D変換器の出力信号を受け、所定周波数(Fa)より高い高域雑音成分を除去し、該高域雑音成分を除去して得られた第1処理信号(Y(k))を出力する高域雑音除去部(22)と、
前記第1処理信号を受け、前記所定周波数以下の低域雑音成分を除去する低域雑音除去部(30)とを有する信号処理装置であって、
前記低域雑音除去部が、
前記第1処理信号に対して180度の移相処理を行う移相手段(31)と、
前記移相処理で得られた信号(Y(k)′)に基づいて、該移相処理の前記所定周波数以下の低域振幅誤差を生じさせる時間応答係数(α)を求める時間応答係数算出手段(32)と、
前記求めた時間応答係数に基づいて、前記移相処理された信号の前記所定周波数以下の振幅を補正し、前記第1処理信号に含まれる低域雑音成分を180゜移相した雑音信号(NL1(k))を生成する補正手段(33)と、
前記第1処理信号と前記雑音信号とを加算し、前記第1処理信号から前記所定周波数以下の低域雑音成分を除去した第2処理信号を求める加算手段(35)とを備えたこと特徴とする信号処理装置。
【請求項7】
センサ(11)の出力信号に対するA/D変換処理を行うA/D変換器(21)と、
前記A/D変換器の出力信号を受け、所定周波数(Fa)より高い高域雑音成分を除去し、該高域雑音成分を除去して得られた第1処理信号(Y(k))を出力する高域雑音除去部(22)と、
前記第1処理信号を受け、前記所定周波数以下の低域雑音成分を除去する低域雑音除去部(30)とを有する信号処理装置であって、
前記低域雑音除去部が、
前記第1処理信号に対して180度の移相処理を行う第1の移相手段(31)と、
前記第1の移相手段の出力信号(Y(k)′)に基づいて、該移相処理の前記所定周波数からそれより低い境界周波数(Fb)までの第1の周波数範囲の低域振幅誤差を生じさせる時間応答係数(α)を求める時間応答係数算出手段(32)と、
前記求めた時間応答係数に基づいて、前記第1の移相手段の出力信号の前記第1の周波数範囲の振幅を補正し、前記第1処理信号の前記第1の周波数範囲に含まれる低域雑音成分を180゜移相した第1の雑音信号(NL1(k))を生成する第1の補正手段(33)と、
前記第1処理信号と前記第1の雑音信号とを加算し、前記第1処理信号から前記第1の周波数範囲の低域雑音成分を除去した第2処理信号(Z(k))を求める第1の加算手段(35)と、
前記第2処理信号に対して180度の移相処理を行う第2の移相手段(41)と、
前記第2の移相手段の出力信号(Z(k)′)に対して、前記第1の移相手段によって移相処理によって生じる前記境界周波数から下限周波数(Fc)までの第2の周波数範囲の周波数対振幅の誤差を補正して、前記第2処理信号に含まれる前記第2の周波数範囲の雑音成分を180度移相した第2の雑音信号(NL2(k))を生成する第2の補正手段(42)と、
前記第2処理信号と前記第2の雑音信号とを加算し、前記第1処理信号から前記第2の周波数範囲の低域雑音成分を除去した第3処理信号(W(k))を求める第2の加算手段(45)とを備えたこと特徴とする信号処理装置。
【請求項8】
前記入力信号または前記第1処理信号に対するスペクトラム解析により少なくとも前記所定周波数以下の雑音成分を求めるスペクトラム解析手段(26)と、
前記スペクトラム解析手段で得られた雑音成分が、前記第1の周波数範囲と第2の周波数範囲のいずれにあるかを判定する雑音分布判定手段(27)と、
前記スペクトラム解析手段で得られた雑音成分が、前記第1の周波数範囲と第2の周波数範囲の両方にあるときには、前記第3処理信号を最終の処理結果として出力させ、雑音成分が前記第1の周波数範囲にのみあるときには、前記第2処理信号を最終の処理結果として出力させ、雑音成分が前記第2の周波数範囲にのみあるときには、前記第2処理信号の代わりに前記第1処理信号を前記第2の移相手段に入力させ、該第1処理信号に対して前記第2の加算手段で得られた第3処理信号を最終処理結果として出力させる信号切換手段(28a〜28c)とを有していることを特徴とする請求項7記載の信号処理装置。
【請求項9】
前記第2の補正手段は、前記第3処理信号から抽出した雑音成分の振幅情報と周波数情報から生成した第2の雑音信号を用いて補正処理を行うこと特徴とする請求項7または請求項8記載の信号処理装置。
【請求項10】
前記移相手段は、
入力する処理信号から位相が90゜異なる直交信号を生成し、該直交信号から瞬時位相と瞬時振幅を算出する手段(101〜106)と、
前記算出された瞬時位相と瞬時振幅に基づいて前記入力する処理信号に対して180゜移相した信号を生成する手段(107〜109)によって構成されていることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−103585(P2009−103585A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275796(P2007−275796)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】