信号処理方法及び信号処理装置
【課題】パルス幅をより鋭くして高い空間分解能を得ることができる信号処理方法及び信号処理装置を提供すること。
【解決手段】信号処理方法が、周波数が時間とともに連続的に変化するチャープ信号を検出対象物に複数送信する送信工程(S01)と、検出対象物からの反射信号を受信する受信工程(S02)と、を備え、前記複数のチャープ信号が、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ前記周波数帯域を超えない帯域幅を備えている。
【解決手段】信号処理方法が、周波数が時間とともに連続的に変化するチャープ信号を検出対象物に複数送信する送信工程(S01)と、検出対象物からの反射信号を受信する受信工程(S02)と、を備え、前記複数のチャープ信号が、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ前記周波数帯域を超えない帯域幅を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動を用いて検出対象物を検出するための信号処理方法及び信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波計測を用いた医用超音波画像化法(アコースティック・イメージング)、電磁波を用いたマイクロ波イメージグなど、波を照射し、その反射波信号を用いて画像化して検出対象物を検出する技術がある。これらの技術は、電磁波を用いるレーダー分野、超音波を用いる医用分野を中心に研究が展開されている。
【0003】
例えば超音波によるイメージングでは、一般には照射(送信)信号のパルス幅が狭いほど空間分解能が高くなり,高精細な画像化が可能となる。しかし、ピーク音圧を固定したままパルス幅を狭くした場合には、バックグラウンドノイズに対する照射エネルギーが小さくなり、減衰を考慮するとSN比が小さくなることで測定できる距離が減少してしまう。一方、照射する音圧を上げる場合にはSN比は向上するものの、音圧が大きいと振動子が壊れたり、特に生体の画像化を行う場合などは送信ピーク音圧が制限されたりする。そのため、一定値以上に音圧を上げることができない。
【0004】
そこで、パルス圧縮技術(Pulse Compression Technique:PCT)が提案されている。このPCTは、図8に示すように、照射する信号が低音圧でもSN比及び空間分解能を向上させることができる。パルス圧縮技術に用いられる符号化方法の代表的なものとして、送信信号の周波数を直線的に変化させるチャープ信号を利用する方式(例えば、特許文献1参照。)や、M系列などのPN符号を利用する方式がある。
【0005】
PCTでは、送信信号と受信信号との相関処理によって圧縮を行う。例えば、図9に示すように、送信信号が3つの検出対象物にそれぞれ反射する場合を想定する。この場合、図10に示すようなチャープ信号を送信する。圧縮処理後の信号の時間幅は、送信信号の帯域幅(帯域幅とは、図8において、入射(送信)する波を波長の長い波から短い波へと変化させる時の変化幅である。)に逆比例して狭くなる。
【0006】
つまり、帯域幅を広げることができれば空間分解能を向上させることができる。すなわち、ある程度の帯域を確保しなければ圧縮後の信号が鋭くならない。そこで、チャープ信号では掃引周波数の帯域を、M系列ではチップレートを確保することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再公表WO01/021074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、送信信号の帯域幅は無限に設定することができるわけではなく、送信できる信号の帯域は、振動子の共振特性により制限される。例えば、チャープ信号を用いる場合、掃引周波数の帯域は振動子が有する帯域以上にすることはできず、圧縮後のパルス幅を振動子の帯域で決まる幅より狭くすることができない。したがって、上記従来の信号処理方法及び信号処理装置の場合、図11に示すように、圧縮後のパルス幅を未だ十分に鋭くすることができず、3つのうち、距離の近い2つの検出対象物を分離することができない場合がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、信号処理したパルス幅をより鋭くして高い空間分解能を得ることができる信号処理方法及び信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明に係る信号処理方法は、周波数が時間とともに連続的に変化するチャープ信号を検出対象物に複数送信する送信工程と、前記検出対象物からの反射信号を受信する受信工程と、を備え、前記複数のチャープ信号が、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ前記周波数帯域を超えない帯域幅を備えていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る信号処理装置は、周波数が時間とともに連続的に変化するチャープ信号を複数発生する信号発生部を備え、前記複数のチャープ信号が、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ前記周波数帯域を超えない帯域幅を備えていることを特徴とする。
【0012】
この発明は、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ前記周波数帯域を超えない帯域幅を備えている複数のチャープ信号を発信する。そのため、検出対象物からの反射信号を受信して同時に処理することによって、所定の周波数帯域で一つのチャープ信号を送信する場合よりも空間情報量を増やすことができる。
【0013】
また、本発明に係る信号処理方法は、前記信号処理方法であって、前記チャープ信号の各中心周波数が、順次増加又は減少していることを特徴とする。
この発明は、チャープ信号の各中心周波数が、順次増加又は減少しているので、所定の周波数帯域内を確実にカバーすることができる。
【0014】
また、本発明に係る信号処理方法は、前記信号処理方法であって、送受信した前記チャープ信号に対して相互相関による圧縮処理を行う圧縮工程と、前記相互相関に基づいて構成される共分散行列の固有ベクトルを求め、信号成分とノイズ成分とに分ける固有値算出工程と、前記ノイズ成分を並列平均して前記検出対象物を検出する検出工程と、を備えていることを特徴とする。
【0015】
この発明は、複数のチャープ信号を公知の共分散行列の固有値解析、MUSIC法を用いて処理することによって、チャープ信号の持つ原理的な分解能を好適に引き出すことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、信号処理したパルス幅をより鋭くして高い空間分解能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る信号処理装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る信号処理方法を示すフロー図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る信号処理方法における送信信号を10MHzを中心に重ね合わせた状態を示すグラフである。
【図4】図3の一部拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る信号処理方法における送信信号にハミング窓を乗じた状態を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態に係る信号処理方法による受信信号と従来の方法による受信信号との反射強度の比較を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態に係る信号処理方法による受信信号と従来の方法による受信信号とのパルス幅の比較を示すグラフである。
【図8】従来の信号処理方法におけるパルス圧縮を示す説明図である。
【図9】従来の信号処理方法における対象物の検出状態を示す説明図である。
【図10】従来の信号処理方法における受信波形を示すグラフである。
【図11】従来の信号処理方法における受信信号の反射強度を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る一実施形態について、図1から図7を参照して説明する。
本実施形態に係る信号処理装置1は、図1に示すように、信号発生部2と、信号送信部3と、信号受信部5と、信号処理部6と、を備えている。
【0019】
信号発生部2は、周波数が時間とともに連続的に変化する超音波領域における複数のチャープ信号を送信信号として発生する。各チャープ信号は、所定の超音波周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ先の周波数帯域を超えない帯域幅を備えている。信号送信部3は、生成された複数のチャープ信号を検出対象物Oに送信する。信号受信部5は、検出対象物Oからの反射信号を受信する。信号処理部6は、送信信号と受信信号とを処理して検出対象物Oの検出を行う。
【0020】
次に、信号処理装置1における信号処理方法について説明する。
この信号処理方法は、図2に示すように、各チャープ信号の送信工程(S01)と、受信工程(S02)と、圧縮工程(S03)と、固有値算出工程(S04)と、検出工程(S05)と、を備えている。
【0021】
送信工程(S01)では、まず、信号発生部2にて複数のチャープ信号を生成する。これらのチャープ信号は、例えば、8MHzから12MHzまでの周波数帯域内で、2MHzの一定の帯域幅で中心周波数がステップ状に増加又は減少する信号となっている。
【0022】
すなわち、図3及び図4に示すように、9MHzから11MHzの帯域幅で中心周波数が10MHzのチャープ信号とともに、これと同一の2MHzの帯域幅にて、中心周波数が9MHz近傍までステップ状に減少するチャープ信号、及び11MHz近傍までステップ状に増加するチャープ信号を生成する。各チャープ信号のエネルギーは一定量となっている。これらのチャープ信号を信号送信部3から検出対象物Oに向けて送信する。
【0023】
受信工程(S02)では、検出対象物Oに反射して戻ってきたチャープ信号を信号受信部5にて受信する。
圧縮工程(S03)では、信号処理部6にて、受信したチャープ信号を直交検波したものと信号発生部2で生成された送信信号との相互相関による圧縮処理を行う。
【0024】
すなわち、(1)式に示すように、受信信号を実部に相当するIn phase信号と虚部に相当するQuadrature phase信号とに変換する。ここで、Dは送信信号数、c(t)はチャープ信号波形、η(t)はノイズ波形を示す。
【0025】
【数1】
【0026】
そして、各受信信号に対して(2)式によって従来と同様のパルス圧縮処理を行う。ここで、r(ζ−τ)はc(t)の自己相関、v(ζ)は、圧縮処理の影響をうけるノイズ波形を示す。
【0027】
【数2】
【0028】
各チャープ信号に対してこの圧縮処理を行ったものを行列Zで表示する。
固有値算出工程(S04)では、行列表示された(2)式と、(2)式の複素共役転置したものとから共分散行列R(=E[ZZH])を算出し、自己相関波形のエンベロープから算出した相関行列R0との固有ベクトルλiを求める。そして、固有ベクトルから信号成分とノイズ成分とを分ける。
【0029】
検出工程(S05)では、アレーアンテナによる到来方向予測に適用されるMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法の原理を利用する。すなわち、抽出したノイズ成分の逆数を求め、(3)式によりそれらを並列平均する。そしてそれぞれのエンベロープをとって検出対象物Oを検出する。
【0030】
【数3】
【0031】
この信号処理装置1及び信号処理方法によれば、送信信号である複数のチャープ信号が、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ先の周波数帯域を超えない帯域幅を備えている。すなわち、所定の周波数帯域内で同じ振幅であっても位相の異なる信号を送信するので、所定の周波数帯域で一つのチャープ信号を送信する場合よりも空間情報量を増やすことができ、従来のPCTによるパルス幅よりも、圧縮処理後のパルス幅をより鋭くすることができる。したがって、既存の振動子システムを用いたままでも高分解能を達成して高精細な画像を得ることができる。
【0032】
特に、チャープ信号の各中心周波数が、順次増加又は減少しているので、所定の周波数帯域内を確実にカバーすることができる。
【0033】
また、上述した圧縮工程(S03)と、固有値算出工程(S04)と、検出工程(S05)と、を備えているので、共分散行列の固有値解析、MUSIC法を用いてチャープ信号の持つ原理的な分解能を好適に引き出すことができる。
【0034】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、図5に示すように、各チャープ信号に矩形窓、ハミング窓などのあらゆる窓関数を乗じたものでもよい。また、各チャープ信号の中心周波数をステップ状でなくランダムに変化させてもよい。さらに、周波数帯域を8MHzから12MHzとした場合、各チャープ信号の帯域幅は2MHzに限らず、8MHzから12MHzまでの帯域幅を超えない一定の帯域幅であればよい。また、波動としては超音波に限らず電磁波でも構わない。
【実施例1】
【0035】
本実施形態に係る信号処理方法による検出対象物の検出結果と従来のPCTによる検出対象物の検出結果とを比較した。チャープ信号のパターン数は多ければ多いほど、また、ノイズとして扱えるように送信する信号数は多ければ多いほど、安定した解を得ることができ、高解像度の画像を得ることができる。そこで、使用したチャープ信号の帯域は2MHz、周波数スムージング、すなわち、チャープ信号のパターン数は49パターン、及びスナップショット数、すなわち、一つ一つのチャープ信号の送信回数は10回とした。つまり、490回送信した。結果を図6に示す。従来のPCTでは、近接する検出対象物を識別することができなかったが、本信号処理方法(SCM)によれば、すべての検査対象物を識別することができた。
【0036】
ここで、図7に示すように、本信号処理方法でのパルス幅をPCTによるパルス幅の1/75にすることができた。
【符号の説明】
【0037】
1 信号処理装置
2 信号発生部
O 検出対象物
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動を用いて検出対象物を検出するための信号処理方法及び信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波計測を用いた医用超音波画像化法(アコースティック・イメージング)、電磁波を用いたマイクロ波イメージグなど、波を照射し、その反射波信号を用いて画像化して検出対象物を検出する技術がある。これらの技術は、電磁波を用いるレーダー分野、超音波を用いる医用分野を中心に研究が展開されている。
【0003】
例えば超音波によるイメージングでは、一般には照射(送信)信号のパルス幅が狭いほど空間分解能が高くなり,高精細な画像化が可能となる。しかし、ピーク音圧を固定したままパルス幅を狭くした場合には、バックグラウンドノイズに対する照射エネルギーが小さくなり、減衰を考慮するとSN比が小さくなることで測定できる距離が減少してしまう。一方、照射する音圧を上げる場合にはSN比は向上するものの、音圧が大きいと振動子が壊れたり、特に生体の画像化を行う場合などは送信ピーク音圧が制限されたりする。そのため、一定値以上に音圧を上げることができない。
【0004】
そこで、パルス圧縮技術(Pulse Compression Technique:PCT)が提案されている。このPCTは、図8に示すように、照射する信号が低音圧でもSN比及び空間分解能を向上させることができる。パルス圧縮技術に用いられる符号化方法の代表的なものとして、送信信号の周波数を直線的に変化させるチャープ信号を利用する方式(例えば、特許文献1参照。)や、M系列などのPN符号を利用する方式がある。
【0005】
PCTでは、送信信号と受信信号との相関処理によって圧縮を行う。例えば、図9に示すように、送信信号が3つの検出対象物にそれぞれ反射する場合を想定する。この場合、図10に示すようなチャープ信号を送信する。圧縮処理後の信号の時間幅は、送信信号の帯域幅(帯域幅とは、図8において、入射(送信)する波を波長の長い波から短い波へと変化させる時の変化幅である。)に逆比例して狭くなる。
【0006】
つまり、帯域幅を広げることができれば空間分解能を向上させることができる。すなわち、ある程度の帯域を確保しなければ圧縮後の信号が鋭くならない。そこで、チャープ信号では掃引周波数の帯域を、M系列ではチップレートを確保することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再公表WO01/021074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、送信信号の帯域幅は無限に設定することができるわけではなく、送信できる信号の帯域は、振動子の共振特性により制限される。例えば、チャープ信号を用いる場合、掃引周波数の帯域は振動子が有する帯域以上にすることはできず、圧縮後のパルス幅を振動子の帯域で決まる幅より狭くすることができない。したがって、上記従来の信号処理方法及び信号処理装置の場合、図11に示すように、圧縮後のパルス幅を未だ十分に鋭くすることができず、3つのうち、距離の近い2つの検出対象物を分離することができない場合がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、信号処理したパルス幅をより鋭くして高い空間分解能を得ることができる信号処理方法及び信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明に係る信号処理方法は、周波数が時間とともに連続的に変化するチャープ信号を検出対象物に複数送信する送信工程と、前記検出対象物からの反射信号を受信する受信工程と、を備え、前記複数のチャープ信号が、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ前記周波数帯域を超えない帯域幅を備えていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る信号処理装置は、周波数が時間とともに連続的に変化するチャープ信号を複数発生する信号発生部を備え、前記複数のチャープ信号が、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ前記周波数帯域を超えない帯域幅を備えていることを特徴とする。
【0012】
この発明は、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ前記周波数帯域を超えない帯域幅を備えている複数のチャープ信号を発信する。そのため、検出対象物からの反射信号を受信して同時に処理することによって、所定の周波数帯域で一つのチャープ信号を送信する場合よりも空間情報量を増やすことができる。
【0013】
また、本発明に係る信号処理方法は、前記信号処理方法であって、前記チャープ信号の各中心周波数が、順次増加又は減少していることを特徴とする。
この発明は、チャープ信号の各中心周波数が、順次増加又は減少しているので、所定の周波数帯域内を確実にカバーすることができる。
【0014】
また、本発明に係る信号処理方法は、前記信号処理方法であって、送受信した前記チャープ信号に対して相互相関による圧縮処理を行う圧縮工程と、前記相互相関に基づいて構成される共分散行列の固有ベクトルを求め、信号成分とノイズ成分とに分ける固有値算出工程と、前記ノイズ成分を並列平均して前記検出対象物を検出する検出工程と、を備えていることを特徴とする。
【0015】
この発明は、複数のチャープ信号を公知の共分散行列の固有値解析、MUSIC法を用いて処理することによって、チャープ信号の持つ原理的な分解能を好適に引き出すことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、信号処理したパルス幅をより鋭くして高い空間分解能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る信号処理装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る信号処理方法を示すフロー図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る信号処理方法における送信信号を10MHzを中心に重ね合わせた状態を示すグラフである。
【図4】図3の一部拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る信号処理方法における送信信号にハミング窓を乗じた状態を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態に係る信号処理方法による受信信号と従来の方法による受信信号との反射強度の比較を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態に係る信号処理方法による受信信号と従来の方法による受信信号とのパルス幅の比較を示すグラフである。
【図8】従来の信号処理方法におけるパルス圧縮を示す説明図である。
【図9】従来の信号処理方法における対象物の検出状態を示す説明図である。
【図10】従来の信号処理方法における受信波形を示すグラフである。
【図11】従来の信号処理方法における受信信号の反射強度を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る一実施形態について、図1から図7を参照して説明する。
本実施形態に係る信号処理装置1は、図1に示すように、信号発生部2と、信号送信部3と、信号受信部5と、信号処理部6と、を備えている。
【0019】
信号発生部2は、周波数が時間とともに連続的に変化する超音波領域における複数のチャープ信号を送信信号として発生する。各チャープ信号は、所定の超音波周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ先の周波数帯域を超えない帯域幅を備えている。信号送信部3は、生成された複数のチャープ信号を検出対象物Oに送信する。信号受信部5は、検出対象物Oからの反射信号を受信する。信号処理部6は、送信信号と受信信号とを処理して検出対象物Oの検出を行う。
【0020】
次に、信号処理装置1における信号処理方法について説明する。
この信号処理方法は、図2に示すように、各チャープ信号の送信工程(S01)と、受信工程(S02)と、圧縮工程(S03)と、固有値算出工程(S04)と、検出工程(S05)と、を備えている。
【0021】
送信工程(S01)では、まず、信号発生部2にて複数のチャープ信号を生成する。これらのチャープ信号は、例えば、8MHzから12MHzまでの周波数帯域内で、2MHzの一定の帯域幅で中心周波数がステップ状に増加又は減少する信号となっている。
【0022】
すなわち、図3及び図4に示すように、9MHzから11MHzの帯域幅で中心周波数が10MHzのチャープ信号とともに、これと同一の2MHzの帯域幅にて、中心周波数が9MHz近傍までステップ状に減少するチャープ信号、及び11MHz近傍までステップ状に増加するチャープ信号を生成する。各チャープ信号のエネルギーは一定量となっている。これらのチャープ信号を信号送信部3から検出対象物Oに向けて送信する。
【0023】
受信工程(S02)では、検出対象物Oに反射して戻ってきたチャープ信号を信号受信部5にて受信する。
圧縮工程(S03)では、信号処理部6にて、受信したチャープ信号を直交検波したものと信号発生部2で生成された送信信号との相互相関による圧縮処理を行う。
【0024】
すなわち、(1)式に示すように、受信信号を実部に相当するIn phase信号と虚部に相当するQuadrature phase信号とに変換する。ここで、Dは送信信号数、c(t)はチャープ信号波形、η(t)はノイズ波形を示す。
【0025】
【数1】
【0026】
そして、各受信信号に対して(2)式によって従来と同様のパルス圧縮処理を行う。ここで、r(ζ−τ)はc(t)の自己相関、v(ζ)は、圧縮処理の影響をうけるノイズ波形を示す。
【0027】
【数2】
【0028】
各チャープ信号に対してこの圧縮処理を行ったものを行列Zで表示する。
固有値算出工程(S04)では、行列表示された(2)式と、(2)式の複素共役転置したものとから共分散行列R(=E[ZZH])を算出し、自己相関波形のエンベロープから算出した相関行列R0との固有ベクトルλiを求める。そして、固有ベクトルから信号成分とノイズ成分とを分ける。
【0029】
検出工程(S05)では、アレーアンテナによる到来方向予測に適用されるMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法の原理を利用する。すなわち、抽出したノイズ成分の逆数を求め、(3)式によりそれらを並列平均する。そしてそれぞれのエンベロープをとって検出対象物Oを検出する。
【0030】
【数3】
【0031】
この信号処理装置1及び信号処理方法によれば、送信信号である複数のチャープ信号が、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ先の周波数帯域を超えない帯域幅を備えている。すなわち、所定の周波数帯域内で同じ振幅であっても位相の異なる信号を送信するので、所定の周波数帯域で一つのチャープ信号を送信する場合よりも空間情報量を増やすことができ、従来のPCTによるパルス幅よりも、圧縮処理後のパルス幅をより鋭くすることができる。したがって、既存の振動子システムを用いたままでも高分解能を達成して高精細な画像を得ることができる。
【0032】
特に、チャープ信号の各中心周波数が、順次増加又は減少しているので、所定の周波数帯域内を確実にカバーすることができる。
【0033】
また、上述した圧縮工程(S03)と、固有値算出工程(S04)と、検出工程(S05)と、を備えているので、共分散行列の固有値解析、MUSIC法を用いてチャープ信号の持つ原理的な分解能を好適に引き出すことができる。
【0034】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、図5に示すように、各チャープ信号に矩形窓、ハミング窓などのあらゆる窓関数を乗じたものでもよい。また、各チャープ信号の中心周波数をステップ状でなくランダムに変化させてもよい。さらに、周波数帯域を8MHzから12MHzとした場合、各チャープ信号の帯域幅は2MHzに限らず、8MHzから12MHzまでの帯域幅を超えない一定の帯域幅であればよい。また、波動としては超音波に限らず電磁波でも構わない。
【実施例1】
【0035】
本実施形態に係る信号処理方法による検出対象物の検出結果と従来のPCTによる検出対象物の検出結果とを比較した。チャープ信号のパターン数は多ければ多いほど、また、ノイズとして扱えるように送信する信号数は多ければ多いほど、安定した解を得ることができ、高解像度の画像を得ることができる。そこで、使用したチャープ信号の帯域は2MHz、周波数スムージング、すなわち、チャープ信号のパターン数は49パターン、及びスナップショット数、すなわち、一つ一つのチャープ信号の送信回数は10回とした。つまり、490回送信した。結果を図6に示す。従来のPCTでは、近接する検出対象物を識別することができなかったが、本信号処理方法(SCM)によれば、すべての検査対象物を識別することができた。
【0036】
ここで、図7に示すように、本信号処理方法でのパルス幅をPCTによるパルス幅の1/75にすることができた。
【符号の説明】
【0037】
1 信号処理装置
2 信号発生部
O 検出対象物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が時間とともに連続的に変化するチャープ信号を検出対象物に複数送信する送信工程と、
前記検出対象物からの反射信号を受信する受信工程と、
を備え、
前記複数のチャープ信号が、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ前記周波数帯域を超えない帯域幅を備えていることを特徴とする信号処理方法。
【請求項2】
前記チャープ信号の各中心周波数が、順次増加又は減少していることを特徴とする請求項1に記載の信号処理方法。
【請求項3】
送受信した前記チャープ信号に対して相互相関による圧縮処理を行う圧縮工程と、
前記相互相関に基づいて構成される共分散行列の固有ベクトルを求め、信号成分とノイズ成分とに分ける固有値算出工程と、
前記ノイズ成分を並列平均して前記検出対象物を検出する検出工程と、
を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の信号処理方法。
【請求項4】
周波数が時間とともに連続的に変化するチャープ信号を複数発生する信号発生部を備え、
前記複数のチャープ信号が、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ前記周波数帯域を超えない帯域幅を備えていることを特徴とする信号処理装置。
【請求項1】
周波数が時間とともに連続的に変化するチャープ信号を検出対象物に複数送信する送信工程と、
前記検出対象物からの反射信号を受信する受信工程と、
を備え、
前記複数のチャープ信号が、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ前記周波数帯域を超えない帯域幅を備えていることを特徴とする信号処理方法。
【請求項2】
前記チャープ信号の各中心周波数が、順次増加又は減少していることを特徴とする請求項1に記載の信号処理方法。
【請求項3】
送受信した前記チャープ信号に対して相互相関による圧縮処理を行う圧縮工程と、
前記相互相関に基づいて構成される共分散行列の固有ベクトルを求め、信号成分とノイズ成分とに分ける固有値算出工程と、
前記ノイズ成分を並列平均して前記検出対象物を検出する検出工程と、
を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の信号処理方法。
【請求項4】
周波数が時間とともに連続的に変化するチャープ信号を複数発生する信号発生部を備え、
前記複数のチャープ信号が、所定の周波数帯域内で互いに異なる中心周波数を有し、それぞれ同一かつ前記周波数帯域を超えない帯域幅を備えていることを特徴とする信号処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−216940(P2010−216940A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62966(P2009−62966)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]