説明

信号捕捉装置および信号捕捉方法

【課題】時間の経過とともに周波数が変動するようなクロック信号を使用する場合でも、所定の周波数の信号をより確実に捕捉すること。
【解決手段】GPS信号受信部104は、GPS用クロック生成部106が生成するGPSクロック信号を基にGPS信号の捕捉を行う。周波数比較部107は、GPSクロック信号の周波数の理想値との周波数差を出力する。サーチ周波数決定部121は、初期状態ではサーチ基準周波数の高周波側と低周波側で時系列的に交互に振り分ける形でサーチ対象周波数を決定するが、周波数差を基に、高周波側サーチ基準周波数のサーチ基準周波数に対する実際の周波数差と、サーチ基準周波数の低周波側サーチ基準周波数に対する実際の周波数差を判別し、その判別結果に応じてその振り分けパターンを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばGPS(Global Positioning System)衛星から送出される信号のような所定の周波数の信号を捕捉するための信号捕捉装置および信号捕捉方法に関し、特に携帯電話機等の移動体通信端末に好適な信号捕捉装置および信号捕捉方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機やPDA(Personal Digital Assistant)といった高速でのデータ伝送が可能な移動体通信端末の普及が進んでいる。このような移動体通信端末では、その利便性や用途の拡大を図るために、衛星測位システムを利用した位置情報の取得機能を追加することが注目されている。
【0003】
衛星測位システムは、地球の周回軌道を回る複数の人工衛星から送出される情報を受信して、各人工衛星との間の距離を測定し、受信側の装置の現在位置を計算するシステムである。米国の国防総省が構築したGPSは、このような衛星測位システムの代表的なものであり、GPS衛星と呼ばれる人工衛星を複数配置している。
【0004】
GPS衛星は、送出の対象となる信号に対して、所定のPRN(Pseudo Random Noise:擬似ランダム雑音)コードを用いたスペクトラム拡散処理を行う。すなわち、移動体通信端末では、このGPS衛星から送出される信号(以下、「GPS信号」という。)に対し対応するPRNコードを用いて逆拡散処理を行うことによって、元の信号を取得することが可能である。そして、取得した信号に対して、メッセージ同期、エフェメリス(ephemeris)収集、PVT(Position, Velocity, Time)計算等の処理を行うことにより、自己の現在位置や時刻についての情報を得ることができる。
【0005】
このような測位機能が搭載された移動体通信端末では、GPS信号の受信処理に使用するためのクロック信号(以下、「GPSクロック信号」という。)を生成する装置部として、小型で安価であることから、水晶発振器を適用することが広く行われている(たとえば、特許文献1参照。)。
【0006】
ただし、水晶発振器の発振周波数は、周囲温度その他の使用条件によって変動するため、サーチ周波数範囲を大きく設定する必要があり、その結果、信号捕捉に時間がかかることがある。そこで、この従来の提案では、移動体通信端末が地上の無線基地局との間で無線通信を行う際に得られる高い周波数精度のクロック信号を使用して、自装置内部の水晶発振器が生成するGPSクロック信号の周波数がその理想値からどの程度ずれているかを検出する。そして、その周波数差に基づいて、測位に関する信号処理を行うようになっている。これにより、水晶発振器が発生させるGPSクロック信号の周波数が理想値と異なっていても、周波数サーチ範囲を限定して、高速な信号捕捉を行うことが出来る。
【0007】
ところで、前記したGPS信号のスペクトラム拡散処理で使用されるPRNコードは、コード長1ms(ミリ秒)、チップレート1.023MHz(メガヘルツ)であり、1チップの周期は約1μs(マイクロ秒)である。このスペクトラム拡散処理は、それぞれのGPS衛星に搭載された原子時計の時刻に同期して行われる。したがって、移動体通信端末は、0.5μs以下の誤差の精度で送出側のGPS衛星との時刻同期を確立してからでなければ、前記したメッセージ同期以降の処理を開始することができず、測位を行うことができない。
【0008】
しかしながら、移動体通信端末は、GPS信号の受信を開始していない状態ではいずれのGPS衛星からも独立して動作しているのが通常である。そこで、測位に先立って、まずGPS信号をサーチし、GPS信号に対する周波数同期または位相同期やPRNコードの同期(以下、「コード同期」と総称する。)を確立するための処理が必要となる。
【0009】
図12は、このような従来のGPS信号のサーチの様子の一例を示す説明図である。横軸はサーチが開始されてからの経過時間を表し、縦軸は周波数を表している。移動通信端末は、サーチ対象となる周波数としてのサーチ対象周波数1を、GPS信号の標準の周波数として予め定められたサーチの基準となる周波数(以下、「サーチ基準周波数」という。)fを基準として、時間の経過とともに徐々に周囲の周波数帯域に移動させる。これは、GPS衛星と移動体通信端末との間の相対速度その他の原因によって、サーチの対象となる周波数を移動体通信端末に到達するGPS信号の周波数としてのGPS信号周波数fに正確に合わせ込むことが難しいためである。この例では、時刻tでGPS信号が捕捉されることになる。また、移動体通信端末が携帯電話網に設けられたサーバとの通信によってGPS衛星の軌道情報を授受することで、GPS信号の標準の周波数よりも高い周波数精度で設定することも可能である。この場合には、より早い時刻にGPS信号を捕捉することができる。
【0010】
一方で、サーチ範囲を広げると、広げた分だけサーチする時間がかかる。また、サーチ速度を上げてこの時間の短縮を図ろうとすると、信号レベルが低い場合にはGPS信号を誤って捕捉し損ねてしまう可能性が高くなる。そこで、通常は、同図に示すようにサーチ対象周波数1に周波数上限値fmaxと周波数下限値fminを定める。そして、サーチを所定の時間内にサーチ対象周波数1がその上限値と下限値に到達するような速度でサーチ範囲を広げていくことにより、設定されたサーチ範囲、すなわち周波数上限値fmaxと周波数下限値fminとの間の周波数帯域についてのサーチを、所定の時間内に終了することができる。ここで、サーチを終了してもGPS信号の捕捉が出来なかった場合には、前記した一連のサーチ処理を再実行する。
【特許文献1】特開2003−329761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、水晶発振器には、前記したように周辺の温度変化によって発振周波数が変化してしまうという特徴がある。また、GPS信号のサーチは、前記したGPSクロック信号を動作クロックとして使用して行われる。したがって、サーチが開始された後に水晶発振器の発振周波数が変動し、GPSクロック信号の周波数が理想値のときのサーチ範囲に対して、実際のサーチ範囲が時間の経過とともにずれていってしまう場合がある。この場合、捕捉できるはずのGPS信号をいつまでも捕捉できないといった事態が発生する恐れがある。
【0012】
本発明はかかる点に鑑みてなされたもので、時間の経過とともに周波数が変動するようなクロック信号を使用する場合でも、所定の周波数の信号をより確実に捕捉することが可能な信号捕捉装置および信号捕捉方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため、本発明の信号捕捉装置は、所定のクロック信号の周波数の理想値に対する差としてのクロック周波数差を検出するクロック周波数差検出手段と、サーチの対象となる信号の周波数の基準周波数に対する周波数差としてのサーチ周波数差を、このクロック周波数差検出手段による最新の検出結果に基づいて所定の時間ごとに決定するサーチ周波数差決定手段と、所定のクロック信号を動作クロックとして捕捉の対象となる信号のサーチを行うとともに、そのサーチの対象となる信号の周波数をこのサーチ周波数差決定手段が決定したサーチ周波数差と基準周波数との加算値に基づいて補正する信号受信手段とを具備する構成を採る。
【0014】
また、本発明の信号捕捉方法は、所定のクロック信号の周波数の理想値に対する差としてのクロック周波数差を検出するクロック周波数差検出ステップと、サーチの対象となる信号の周波数の基準周波数に対する周波数差としてのサーチ周波数差を、このクロック周波数差検出ステップによる最新の検出結果に基づいて所定の時間ごとに決定するサーチ周波数差決定ステップと、所定のクロック信号を動作クロックとして捕捉の対象となる信号のサーチを行う信号受信手段について、そのサーチの対象となる信号の周波数をこのサーチ周波数差決定ステップで決定されたサーチ周波数差と基準周波数との加算値に基づいて補正するサーチ対象周波数制御ステップとを具備する構成を採る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所定のクロック信号の周波数の理想値に対する差としてのクロック周波数差を検出し、その最新の検出結果に基づいて、サーチの対象となる信号の周波数の基準周波数に対する周波数差としてのサーチ周波数差を所定の時間ごとに決定する。そして、所定のクロック信号を動作クロックとして捕捉の対象となる信号のサーチを行うとともに、そのサーチの対象となる信号の周波数を決定されたサーチ周波数差と基準周波数との加算値に基づいて補正する。これにより、所定のクロック信号の周波数が時間の経過とともに変動する場合でも、その変動を検出することができ、これに合わせ込む形でサーチ周波数差を決定し、サーチの対象となる周波数の値を適切な値に決定することができる。すなわち、予め定められた周波数の信号の捕捉をより確実に行うことができる。更に、クロック信号の周波数変動に対する耐性が向上するため、より柔軟な装置設計が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る信号捕捉装置ついて、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る信号捕捉装置が使用される通信システムの構成を示すシステム構成図である。この通信システム20は、携帯電話機10と、携帯電話網21と、この携帯電話網21に接続された無線基地局23と、携帯電話機10の上空に配置されたGPS衛星(ここでは説明のために、4つのGPS衛星24−1〜24−4を示す)と、から主に構成される。
【0018】
携帯電話機10は、無線基地局23と無線信号を送受信することによって、携帯電話網21に配置された図示しない他の携帯電話機や固定電話機あるいは情報サーバと通信を行う。また、4つのGPS衛星24−1〜24−4のそれぞれから送出されるGPS信号を捕捉し、各GPS信号から情報を抽出することによって測位を行う。このGPS信号は、1,57542GHz(ギガヘルツ)の同一の周波数の搬送波に、GPS信号ごとに異なるC/Aコード(Coarse/Acquisition Code)やPコード(Precise CodeもしくはProtected Code)といったPRNコードを重畳したものである。
【0019】
図2は、図1に示す携帯電話機10の構成を示すブロック図である。携帯電話機10は、無線用アンテナ101と、無線通信部102と、GPS用アンテナ103と、GPS信号受信部104と、測位演算部105と、GPS用クロック生成部106と、周波数比較部107と、基準周波数設定部108と、サーチ周波数制御部109と、測位開始指示入力部110と、から主に構成される。また、サーチ周波数制御部109は、サーチ周波数決定部121を備えている。
【0020】
また、この携帯電話機10は、図示しないがCPU(Central Processing Unit)と、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記憶媒体と、RAM(Random Access Memory)等の作業用メモリと、既存のハードウェアとしての通信回路によって構成されている。すなわち、制御プログラムをCPUが実行することで上記した各装置部の機能が実現する。
【0021】
無線通信部102は、図1に示す無線基地局23との間で無線信号の送受信を行う。無線基地局23は、図示しないが高い周波数精度でクロック信号を生成するクロック発振器を備えている。そして、このクロック信号を搬送周波数として使用し、無線通信部102と無線通信を行う。無線通信部102は、図示しないがPLL(Phase-Locked Loop)回路を有するAFC(Automatic Frequency Control)装置を備えており、無線基地局23から送出される無線信号の搬送波周波数に周波数同期した基準クロック信号を生成する。
【0022】
GPS信号受信部104は、GPS信号をサーチするとともにこれを捕捉し、GPS信号に含まれる情報を取得する。そして、測位演算部105は、この取得された情報を元に測位のための演算を行う。すなわち、携帯電話機10は、携帯電話網21に接続する機能と、GPSシステムによる測位機能とを備えた移動体通信端末である。
【0023】
測位開始指示入力部110は、GPSによる測位の開始の指示を受け付ける。GPS用クロック生成部106は、図示しない温度補償型水晶発振器(Temperature Compensated Crystal Oscillator : TCXO)を使用して、GPS信号受信部104の動作クロックとして使用されるGPSクロック信号を生成する。このGPS用クロック生成部106は、携帯電話機10の無線通信部102のAFC装置のような周波数同期は施されず、自走のクロック源である。また、温度補償型となっているものの、水晶発振器の発振周波数は周囲温度からの影響によって変動する。したがって、GPSクロック信号の周波数精度は、無線通信部102が出力する基準クロック信号の周波数精度よりも低くなっている。
【0024】
周波数比較部107は、GPSクロック信号の周波数をその理想値と比較し、その周波数の差分を周波数差情報として出力する。この周波数差情報は、たとえば基準クロック信号が所定回数立ち上がる区間にGPSクロック信号が何回立ち上がるかをカウントし、GPSクロック信号の周波数が理想値であったときに得られるカウント値と実際のカウント値を比較することによって求めることができる。
【0025】
基準周波数設定部108は、この周波数差情報を基にして、GPSクロック信号の周波数の理想値の実際のGPSクロック信号の周波数に対する比を表す情報である基準補正情報を生成する。この基準補正情報は、GPS信号受信部104がGPS信号を捕捉する際の基準となる周波数としてのサーチ基準周波数を補正するのに使用されるものである。
【0026】
サーチ周波数決定部121は、周波数比較部107が出力する周波数差情報を基にしてサーチ基準周波数を決定する。サーチ周波数制御部109は、この決定されたサーチ基準周波数に基準周波数設定部108が出力する基準補正情報を乗じた値を、GPS信号受信部104へと出力する。
【0027】
図3は、図2に示すGPS信号受信部104の回路構成を示すものである。GPS信号受信部104は、増幅回路131と、第1のミキサ132と、第1の帯域制限フィルタ133と、第2のミキサと134と、第2の帯域制限フィルタ135と、アナログデジタル(A/D)変換器136と、第3のミキサ137と、積分器138と、周波数逓倍器139と、数値制御発振器(Numerical Controlled Oscillator:NCO)140と、PRNコード生成部141と、から主に構成される。
【0028】
周波数逓倍器139は、GPSクロック信号を逓倍してGPS信号の搬送波の周波数レベルの第1のローカル信号(周波数:fLo1)に変換する。図2に示すGPS用アンテナ103で受信された受信信号は、増幅回路131で増幅され、第1のミキサ132でこの第1のローカル信号と乗算されてから、第1の帯域制限フィルタ133で不要な周波数成分を除去することでGPS信号は第1のIF(Intermediate Frequency)周波数(fIF1)にダウンコンバートされる。数値制御発振器140は、GPSクロック信号を動作クロックとし、入力されるサーチ対象周波数と同一の周波数をもつ第2のローカル信号(周波数:fLo2)を生成する。第1の帯域制限フィルタ133から出力される第1のIF周波数に変換された受信信号は、第2のミキサ134でこの第2のローカル信号と乗算され、第2のIF周波数(fIF2)に変換される。ここでは第2のIF周波数はベースバンド相当の信号、すなわち0Hz付近としているが、第2のIF周波数fLo2はベースバンドでなくても構わない。第2のIF周波数fLo2に変換された受信信号は、第2の帯域制限フィルタ135で不要な周波数成分が除去される。そして、アナログデジタル変換器136で、デジタル信号に変換される。
【0029】
PRNコード生成部141は、PRNコードを数値制御発振器140から出力されるクロック信号に同期してPRNコードを生成する。アナログデジタル変換器136でデジタル化された受信信号は、第3のミキサ137でこの生成されたPRNコードと乗算され、積分器138で積分される。すなわち、受信する信号がGPS信号であり、なおかつ数値制御発振器140から出力されるクロック信号がこれと周波数同期したとき、PRNコード生成部141が出力するPRNコードとの同期が確立し、積分器138が出力する積分値はピークをとる。したがって、図2に示す測位演算部105は、この積分値を監視することによって、コード同期が確立されたか否かを判別し、GPS信号の捕捉を検出する。
【0030】
数値制御発振器140の設定周波数は、GPSクロック信号の周波数が理想値に一致する前提での内容となっている。具体的には、前記した第1のローカル信号はGPSクロック信号を逓倍したものであり、更に第2のローカル信号を出力する数値制御発振器140はGPSクロック信号の周波数が正しいものとして動作するため、その上で設定された周波数で第2のローカル信号を出力する。したがって、サーチ対象周波数をfと設定した場合、GPSクロック信号の周波数をfclk、周波数逓倍器139の逓倍率をNとすると、数値制御発振器140の設定周波数(fnco)を以下の式(1)で表される内容に設定することで、サーチ対象周波数fをサーチすることが可能となる。
【0031】
nco=f−N×fclk−fIF2……(1)
【0032】
GPSクロック信号の周波数が理想値からずれている場合には、第1のローカル信号および第2のローカル信号も周波数が想定する周波数からずれたものとなる。たとえば、GPSクロック信号の周波数が理想値のm倍であった場合、出力される第1のローカル信号の周波数および第2のローカル信号の周波数も想定される周波数のm倍となる。したがって、これらの信号によってダウンコンバートされて出力される信号、すなわちIF変換された受信信号の周波数も、指定されたサーチ対象周波数fに対応するIF周波数からずれたものとなる。
【0033】
なお、GPS信号の捕捉は、図1に示す4つのGPS衛星24−1〜24−4の全てについてそれぞれ異なるチャネルで行われる必要がある。ここでは、説明の簡便化のために、GPS信号受信部104にはGPS衛星24−1に対応する構成のみが備えられているものとするが、実際にはチャネルごとに図3に示す構成が備えられる。
【0034】
以上の構成を有する携帯電話機10について、以下、各装置部の動作を説明する。
【0035】
測位開始指示入力部110は、図示しないがキースイッチを備えている。携帯電話機10のユーザは、このキースイッチを操作することによって任意のタイミングでGPSによる測位の開始の指示を入力できる。また、携帯電話機10搭載のアプリケーションソフトウェアあるいは携帯電話網21側からの測位開始の指示の入力も受け付ける。測位開始指示入力部110は、この測位開始の指示が入力されると、その旨を示す測位開始指示情報をGPS用クロック生成部106および周波数比較部107に出力する。
【0036】
GPS用クロック生成部106は、測位開始指示情報が入力されると、温度補償型水晶発振器への電源供給を開始し、GPSクロック信号の出力を開始する。周波数比較部107は、測位開始指示情報が入力されると、無線通信部102が出力する基準クロック信号とGPS用クロック生成部106が出力するGPSクロック信号の入力を開始する。そして、GPSクロック信号の周波数をその理想値と比較し、その周波数の差分を周波数差情報として出力する。この周波数差情報は、たとえば基準クロック信号が所定回数立ち上がる区間にGPSクロック信号が何回立ち上がるかをカウントし、GPSクロック信号の周波数が理想値であったときに得られるカウント値と実際のカウント値を比較することによって求めることができる。
【0037】
基準周波数設定部108は、後に説明する基準周波数設定処理によって、周波数比較部107からの周波数差情報の入力に対応して、サーチ周波数制御部109のサーチ周波数決定部121に対して基準補正情報を出力する。
【0038】
図4は、基準周波数設定部108による基準周波数設定処理の流れを示すフロー図である。基準周波数設定部108は、周波数比較部107からの周波数差情報の入力が開始されると(ステップS201:YES)、その内容に対応してGPS信号の捕捉の基準となるサーチ基準周波数を補正するための基準補正情報を生成する(ステップS202)。
【0039】
基準補正情報は、既に説明したように、実際のGPSクロック信号の周波数に対するGPSクロック信号の周波数の理想値の比である。したがって、基準周波数設定部108は、GPSクロック信号の理想的な周波数をfとし、入力された周波数差情報をΔfとすると、基準補正情報を、f/(f+Δf)で表される値に決定する。
【0040】
そして、サーチ周波数制御部109に対して、生成した基準補正情報を出力してサーチ対象周波数の制御の開始を指示する(ステップS203)。そして、GPS信号のサーチが終了すると(ステップS204:YES)、ステップS201へ戻って新たにGPS信号のサーチが開始されるのを待機する(リターン)。
【0041】
なお、GPS信号のサーチが終了するのは、たとえば、測位に必要な数のGPS衛星24との間でコード同期を確立できたときや、後に説明する所定のサーチ範囲についてサーチを実施したものの、測位に必要な数のGPS衛星24との間でコード同期を確立できなかったときである。この場合には、基準周波数設定部108はステップS202へ戻り、再度一連のサーチ処理を再実行するようにしてもよい。
【0042】
図5は、サーチ周波数決定部121によるサーチ対象周波数の決定の基本原理を説明するための説明図である。横軸はサーチが開始されてからの経過時間を表し、縦軸は周波数を表している。サーチ周波数制御部109は、サーチ周波数決定部121が決定したサーチ対象周波数に基準補正情報を乗じた値を、GPS信号受信部104へと出力する。GPS信号受信部104は、サーチ周波数制御部109からサーチ対象周波数を入力されると、その周波数を中心周波数とした所定の周波数幅Fについて、所定のサーチ時間Tでサーチを行う。これら所定の周波数幅Fと所定のサーチ時間Tは、GPS信号受信部104のサーチ能力、すなわちGPS信号受信部104がサーチを実施する時間及びその時間でサーチ可能となる周波数幅である。以下、この時間と周波数幅で規定されるサーチ能力をサーチ単位と記述する。
【0043】
サーチ周波数決定部121は、決定した1つのサーチ対象周波数に対応するサーチが完了するたびに、新たなサーチ対象周波数301をサーチ基準周波数fの上下に交互に決定する。このとき、サーチ基準周波数f以上の周波数帯域に設定されるサーチ対象周波数301としての高周波側サーチ対象周波数301は、たとえば1つ前に決定した高周波側サーチ対象周波数301よりも所定の周波数差ΔF(以下、「サーチステップ」という。)だけ高く決定される。また、サーチ基準周波数f以下の周波数帯域に設定されるサーチ対象周波数301としての低周波側サーチ対象周波数301は、たとえば1つ前に決定した低周波側サーチ対象周波数301よりも所定のサーチステップΔFだけ低く決定される。
【0044】
したがって、GPSクロック信号の周波数が理想値で一定している場合には、高周波側サーチ対象周波数301を中心周波数とするサーチ単位302としての高周波側サーチ単位302は、同図に示すように実際にサーチの基準となる周波数(以下、「実サーチ基準周波数」という。)fから時間の経過とともにより高い周波数帯域へと移動していく。また、低周波側サーチ対象周波数301を中心周波数とするサーチ単位302としての低周波側サーチ単位302は、同図に示すように実サーチ基準周波数fから時間の経過とともにより低い周波数帯域へと移動していく。このようにして、予め定められたサーチ範囲についてのGPS信号の順次走査(シーケンシャルスキャン)が実現される。
【0045】
サーチステップΔFは、サーチ単位302のサーチ時間TでのGPSクロック信号の周波数変動よりも十分に小さな値に設定されている。したがって、GPSクロック信号の周波数の変動によって実サーチ基準周波数fが変動しても、各高周波側サーチ単位302および各低周波側サーチ対象周波数301は、それぞれ周波数軸上で連続することになる。
【0046】
ところが、既に説明したように、GPSクロック信号の周波数の変動によって、実際のサーチ範囲が理想的なサーチ範囲からずれていってしまうという問題がある。そこで、サーチ周波数決定部121は、周波数差情報を基に実際のサーチ範囲についてのサーチを確実に行えるように、サーチ対象周波数の決定を行う。
【0047】
図6は、サーチ周波数決定部121によるサーチ周波数決定処理の流れを示すフロー図である。サーチ周波数決定部121は、基準周波数設定部108から基準補正情報を入力されると(ステップS221:YES)、サーチ基準周波数fをサーチ対象周波数に決定するとともに、サーチ基準周波数fに対するサーチ対象周波数のシフト量を表すパラメータFに初期値「0」を設定する(ステップS222)。サーチ周波数制御部109は、この決定されたサーチ対象周波数に基準補正情報を乗じた値を図3に示す数値制御発振器140へと出力し、サーチ基準周波数fを中心周波数とする形で、図5に示すサーチ単位302についてのサーチをGPS信号受信部104に実施させる。
【0048】
GPS信号が捕捉されない場合には(ステップS223:NO)、サーチ周波数決定部121は、図5に示す高周波側サーチ対象周波数301と低周波側対象周波数301の両方が理想的なサーチ範囲を超えるか否かを判別する(ステップS224)。この判別は、理想的なサーチ範囲の周波数幅をAとしたとき、パラメータFに周波数差情報Δfを加算した値と、パラメータFから周波数差情報Δfを減じた値が、いずれもA/2より大きいか否かを判別することによって行われる。
【0049】
なお、ここでの周波数差情報Δfはサーチ基準周波数fに対する実サーチ基準周波数fの周波数差(f-f)であり、周波数比較部107が出力する周波数差情報を基に定常的に算出更新されているものとする。
【0050】
高周波側サーチ対象周波数301と低周波側サーチ対象周波数301の少なくとも一方が理想的なサーチ範囲を超えない場合には(ステップS224:NO)、サーチ周波数決定部121は、高周波側サーチ対象周波数301が理想的なサーチ範囲を超えるか否か、すなわちパラメータFrに周波数差情報Δfを加算した値がA/2より大きいか否かを判別する(ステップS225)。大きくない場合には(ステップS225:NO)、サーチ基準周波数fにパラメータFを加算した値をサーチ対象周波数に決定する(ステップS226)。サーチ周波数制御部109は、この決定されたサーチ対象周波数に基準補正情報を乗じた値を図3に示す数値制御発振器140へと出力し、GPS信号受信部104に対して該当するサーチ単位302についてのサーチを行わせる。
【0051】
サーチ周波数決定部121は、GPS信号が捕捉されない場合には(ステップS227:NO)、更に低周波側サーチ対象周波数301が理想的なサーチ範囲を超えるか否か、すなわちパラメータFから周波数差情報Δfを減じた値がA/2より大きいか否かを判別する(ステップS228)。大きくない場合には(ステップS228:NO)、サーチ基準周波数fからパラメータFを減じた値をサーチ対象周波数に決定する(ステップS229)。サーチ周波数制御部109は、この決定されたサーチ対象周波数に基準補正情報を乗じた値を図3に示す数値制御発振器140へと出力し、GPS信号受信部104に対して該当するサーチ単位302についてのサーチを行わせる。まだGPS信号が捕捉されない場合には(ステップS230:NO)、サーチ周波数決定部121は、パラメータFを所定のサーチステップΔFだけ増加させ(ステップS231)、再びステップS224へ戻る。
【0052】
高周波側サーチ対象周波数301が理想的なサーチ範囲を超える場合には(ステップS225:YES)、サーチ周波数決定部121は、高周波側サーチ対象周波数301についてのサーチ対象周波数の決定は行わずに、ステップS228へ進む。また、低周波側サーチ対象周波数301が理想的なサーチ範囲を超える場合には(ステップS228:YES)、低周波側サーチ対象周波数301についてのサーチ対象周波数の決定は行わずに、ステップS231へ進む。
【0053】
ステップS223で、またはステップS224からステップS231までの処理を繰り返す間にGPS信号が捕捉されると(ステップS223:YES、ステップS227:YESまたはステップS230:YES)、サーチ周波数決定部121は、再びステップS221へ戻って新たに基準補正情報が入力されるのを待機する。また、GPS信号が捕捉されないまま、高周波側サーチ対象周波数301と低周波側サーチ対象周波数301の両方が理想的なサーチ範囲を超えてしまった場合にも(ステップS224:YES)、同様にステップS221へ戻る。なお、この場合には基準周波数設定部108に対して基準補正情報の再設定を行わせるようにしてもよい。
【0054】
図7は、GPS信号受信部104によるサーチ対象周波数の変化の様子の一例を示す説明図である。横軸はサーチが開始されてからの経過時間を表し、縦軸は周波数を表している。説明の簡便化のため、以下、GPSクロック信号の理想的な周波数が、PRNコードのチップレートと同一であるものとする。サーチ周波数制御部109は、基準周波数設定部108から入力された基準補正情報の値を、サーチ周波数決定部121が決定したサーチ対象周波数に乗じたものを、図3に示す数値制御発振器140に対して出力する。
【0055】
ここで、第1の時刻tにサーチが開始され、基準補正情報がサーチ周波数制御部109へ入力されたとする。基準補正情報は、既に説明したように実際のGPSクロック信号の周波数に対するGPSクロック信号の周波数の理想値の比を表す情報である。したがって、同図に示すように、第1の時刻tの直後には、実サーチ基準周波数fはサーチ基準周波数fにほぼ一致する。
【0056】
ただし、周波数差情報は無線クロック信号に基づいて生成されているため、GPS信号のPRNコードのチップレートとしてのGPS信号周波数fとの間に、周波数誤差Δdは残る。しかしながら、GPS用クロック生成部106の発振周波数を調整した場合に比べて、その周波数精度は数ppm(parts per million)から1ppm以下の値へと向上する。また、この周波数誤差Δdは、無線通信部102の周波数精度(周波数確度)によって決まってくる。したがって、理想的なサーチ範囲A、すなわちサーチ対象周波数301の周波数上限値fmaxと周波数下限値fminとの間の範囲は、この無線通信部102の周波数精度に対応する大きさで、なおかつサーチ基準周波数fが中心となるように設定されている。
【0057】
そして、サーチ周波数決定部121は、図6で説明した処理により、高周波側サーチ対象周波数301と低周波側サーチ対象周波数301とを交互に決定していく。同図に示すように実サーチ基準周波数fが徐々に下降していく場合、低周波側サーチ単位302の実際のサーチステップは、高周波側サーチ単位302の実際のサーチステップよりも大きくなる。したがって、低周波側サーチ単位302の中心周波数、すなわち低周波側サーチ対象周波数301が先に周波数下限値fminに達する。この時刻を第2の時刻tとすると、第2の時刻t以降は図6のステップS229およびステップS230の処理は行われなくなる。
【0058】
すると、図7に示すように、高周波側サーチ単位302が連続して指定されることになる。その結果、高周波側サーチ単位302の増加の速度が上がり、第3の時刻tには高周波側サーチ単位302の中心周波数がGPS信号周波数fに到達し、この時刻のあたりでGPS信号が捕捉されることになる。
【0059】
図8は、参考のためにサーチ単位302の上下への交互の振り分けをそのまま継続した場合のGPS信号受信部104によるサーチ対象周波数の変化の様子の一例を示す説明図であり、図7に対応するものである。実サーチ基準周波数fに対するサーチ対象周波数の周波数差は第4の時刻tでA/2に達し、これ以降の低周波側のサーチは実施されないが、高周波側サーチ単位302の中心周波数、すなわち高周波側サーチ対象周波数301は図7に示す第3の時刻tになってもGPS信号周波数fに達しない。したがって、図6に示したサーチ周波数決定処理を行ったほうが、より早い時刻にGPS信号周波数fを捕捉できることがわかる。
【0060】
図2に示すGPS信号受信部104では、GPS信号受信部104で捕捉されたGPS信号から元の信号を抽出し、コード同期時のコード位相や、周波数、信号レベルといった衛星捕捉情報を測位演算部105へと出力する。具体的には、図3に示す積分器138は、コード同期が確立されると、その出力がピークをとる。そこで、測位演算部105はこのピークを検出することによって、上記した衛星捕捉情報を取得することができる。測位演算部105は、取得した各衛星捕捉情報を基に測位演算を行い、測位結果を出力する。具体的には、PRNコードの位相シフト量から図1に示す4つのGPS衛星24−1〜24−4それぞれとの間の疑似距離を算出し、算出された各疑似距離を元に現在位置を算出し、その算出結果を出力する。
【0061】
以上説明したように、本発明の実施の形態1によれば、周波数精度の高い基準クロック信号を使用してGPSクロック信号の周波数の理想値との周波数差を判別し、その判別結果を基に実際の高周波側サーチ対象周波数301と低周波側サーチ対象周波数301を判別する。そして、初期状態では高周波側と低周波側のサーチを交互に行っていくが、
高周波側サーチ対象周波数301が理想的なサーチ範囲の上限値に達したことが判別されると、高周波側のサーチを終了し、その分の処理を低周波側のサーチに回す。また、周波側サーチ対象周波数301が理想的なサーチ範囲の下限値に達したことが判別されると、低周波側のサーチを終了し、その分の処理を高周波側のサーチに回す。これにより、GPSクロック信号の周波数が変動する場合でも、実際のサーチ範囲を理想的なサーチ範囲に合わせこむことができ、GPS信号のサーチをより確実に行うことができる。
【0062】
通常、水晶発振器の発振周波数は、電源の供給開始から十分に時間が経ち、温度が安定すると安定する。したがって、サーチ範囲のシフトを低減させるための対策として、水晶発振器に温度制御を施し、常に電源を供給しておくことも考えられる。しかしながら、携帯電話機を含めた各種の移動体通信端末では通常、蓄電池の小型化や軽量化の観点から、できるだけ消費電力を抑えることが求められている。したがって、このような市場の要求に適合した形で、より確実なGPS信号を実現することができる。
【0063】
(実施の形態2)
図9は、本発明の実施の形態2に係る信号捕捉装置が使用される移動通信端末装置としての携帯電話機の構成を示すブロック図であり、実施の形態1の図2に対応するものである。そこで、図2と同一部分には同一符号を付し、これについての説明を省略する。この携帯電話機40のサーチ周波数制御部409は、図2のサーチ周波数決定部121とは異なる処理を行うサーチ周波数決定部421を備えている。
【0064】
図10は、サーチ周波数決定部421によるサーチ周波数決定処理の流れを示すフロー図である。サーチ周波数決定部421は、基準周波数設定部108から基準補正情報を入力されると(ステップS501:YES)、サーチ基準周波数fをサーチ対象周波数に決定する。また、サーチ基準周波数fに対する高周波側サーチ対象周波数301の周波数差としての高周波側周波数差Fと、低周波側サーチ対象周波数301に対するサーチ基準周波数fの周波数差としての低周波側周波数差Fに、それぞれ初期値「0」を設定する(ステップS502)。サーチ周波数制御部409は、この決定されたサーチ対象周波数に基準補正情報を乗じた値を図3に示す数値制御発振器140へと出力し、サーチ基準周波数fをその中心周波数とする形で、実施の形態1の図5に示すサーチ単位302についてのサーチをGPS信号受信部104に実施させる。
【0065】
GPS信号が捕捉されない場合には(ステップS503:NO)、サーチ周波数決定部421は、図5に示す高周波側サーチ対象周波数301と低周波側サーチ対象周波数301の両方が理想的なサーチ範囲を超ええる否かを判別する(ステップS504)。この判別は、理想的なサーチ範囲の周波数幅をAとしたとき、高周波側周波数差Fに周波数差情報Δfを加算した値と、低周波側周波数差Fから周波数差情報Δfを減じた値が、いずれもA/2より大きいか否かを判別することによって行われる。なお、ここでの周波数差情報Δfはサーチ基準周波数fと実サーチ基準周波数実サーチ基準周波数fとの差分(f-f)であり、実施の形態1と同様に周波数比較部107が出力する周波数差情報を基に定常的に算出更新されているものとする。
【0066】
高周波側サーチ対象周波数301と低周波側サーチ対象周波数301の少なくとも一方が理想的なサーチ範囲を超えない場合には(ステップS504:NO)、サーチ周波数決定部421は、高周波側サーチ対象周波数301の実サーチ基準周波数fに対するシフト量が、低周波側サーチ対象周波数301の実サーチ基準周波数fに対するシフト量以下かどうかを判別する。すなわち、高周波側周波数差Fに周波数差情報Δfを加算した値が、低周波側周波数差Fから周波数差情報Δfを減じた値以下かどうかを判別する(ステップS505)。
【0067】
低周波側周波数差Fから周波数差情報Δfを減じた値以下である場合には(ステップS505:YES)、サーチ周波数決定部421は、サーチ基準周波数fに低周波側周波数差Fを加算した値をサーチ対象周波数に決定する(ステップS506)。サーチ周波数制御部409は、この決定されたサーチ対象周波数に基準補正情報を乗じた値を図3に示す数値制御発振器140へと出力し、GPS信号受信部104に対して該当するサーチ単位302についてのサーチを行わせる。そして、サーチ周波数決定部421は、高周波側周波数差Fを所定のサーチステップΔFだけ増加させ(ステップS507)、GPS信号が捕捉されない場合には(ステップS508:NO)、再びステップS504へ戻る。
【0068】
高周波側周波数差Fに周波数差情報Δfを加算した値が、低周波側周波数差Fから周波数差情報Δfを減じた値を超える場合には(ステップS505:NO)、サーチ基準周波数fから低周波側周波数差Fを減じた値をサーチ対象周波数に決定する(ステップS509)。サーチ周波数制御部409は、この決定されたサーチ対象周波数に基準補正情報を乗じた値を図3に示す数値制御発振器140へと出力し、GPS信号受信部104に対して該当するサーチ単位302についてのサーチを行わせる。そして、サーチ周波数決定部421は、低周波側周波数差Fを所定のサーチステップΔFだけ増加させ(ステップS510)、GPS信号が捕捉されない場合には(ステップS508:NO)、再びステップS504へ戻る。
【0069】
ステップS503で、またはステップS504からステップS508までの処理を繰り返す間にGPS信号が捕捉されると(ステップS503:YESまたはステップS508:YES)、再びステップS501へ戻って新たに基準補正情報が入力されるのを待機する。また、GPS信号が捕捉されないまま、高周波側サーチ対象周波数301と低周波側サーチ対象周波数301の両方が理想的なサーチ範囲を超えてしまった場合にも(ステップS504:YES)、同様にステップS501へ戻る。なお、この場合には基準周波数設定部108に対して基準補正情報の再設定を行わせるようにしてもよい。
【0070】
図11は、GPS信号受信部104によるサーチ対象周波数の変化の様子の一例を示す説明図であり、実施の形態1の図7に対応するものである。同図に示すように実サーチ基準周波数fが徐々に下降していく場合、低周波側サーチ単位302の実際のサーチステップは、高周波側サーチ単位302の実際のサーチステップよりも大きくなる。また、図10のステップS505の判別処理により、低周波側サーチ対象周波数301の実サーチ基準周波数fに対するシフト量が高周波側サーチ対象周波数301の実サーチ基準周波数fに対するシフト量よりも小さくなったときにのみ、低周波側サーチ対象周波数301がサーチ対象周波数に指定される。したがって、低周波側サーチ単位302よりも高周波側サーチ単位302が指定される回数が多くなり、図11に示すように高周波側サーチ単位302と低周波側サーチ単位302でそのシフトの速度はほぼ同一となる。ここでは、第4の時刻tのあたりでGPS信号が捕捉される。そして、実施の形態1と同様に、測位演算部105によって測位のための演算が行われる。
【0071】
以上説明したように、本発明の実施の形態2によれば、周波数精度の高い基準クロック信号を使用してGPSクロック信号の周波数の理想値との周波数差を判別し、その判別結果を基に実際の高周波側サーチ対象周波数301と低周波側サーチ対象周波数301を判別する。そして、各時刻において、サーチ基準周波数fからのシフト量がより少ない方に積極的にサーチ単位を設定する。これにより、GPSクロック信号の周波数が変動する場合でも、実際のサーチ範囲を理想的なサーチ範囲に合わせこむことができ、GPS信号のサーチをより確実に行うことができる。また、実際の高周波側サーチ単位302のシフトの速度と低周波側サーチ単位302のシフトの速度が見かけ上ほぼ同一とすることができる。
【0072】
なお、以上説明した実施の形態1および2では、説明の簡便化のために、同時に一つのサーチ単位のみをサーチの対象することができるものとして説明したが、これに限るものではない。サーチ処理を実行する装置部を複数搭載することにより、同時に複数のサーチ単位を指定し、たとえば上下の周波数を同時にサーチすることも可能である。この場合には、それぞれのサーチ処理を実行する装置部に対して、実施の形態1あるいは実施の形態2で説明した技術を適用するようにすればよい。
【0073】
また、GPSクロック信号の周波数の理想値との周波数差を検出するための基準となるクロック信号として、無線基地局との通信で得られるクロック信号を使用するようにしたが、他のクロック信号を使用してもよい。たとえば、あるチャネルでGPS信号を捕捉できた場合に、そのGPS信号の搬送波周波数に同期する形で得られるクロック信号を、他のチャネルでのサーチに基準クロック信号として使用するようにしてもよい。また、GPSクロック信号の理想的な周波数がPRNコードのチップレートと同一であるものとして説明を行ったが、当然ながらこれに限定されるものではない。更に、GPS機能を有する携帯電話機に本願発明を適用する場合について説明したが、これに限るものではなく、周波数が変動する可能性のあるクロック信号を使用して所定の周波数の信号の捕捉を試みるような他の各種装置に適用できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本願発明は、GPS(Global Positioning System)衛星から送出される信号を捕捉する機能を有する移動体通信端末に用いるに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態1に係る信号捕捉装置が使用される通信システムの構成を示すシステム構成図
【図2】本発明の実施の形態1に係る携帯電話機の構成を示すブロック図
【図3】本発明の実施の形態1に係るGPS信号受信部の回路構成を示す回路構成図
【図4】本発明の実施の形態1に係る基準周波数設定部による基準周波数設定処理の流れを示すフロー図
【図5】本発明の実施の形態1に係るサーチ周波数決定部によるサーチ対象周波数の決定の基本原理を説明するための説明図
【図6】本発明の実施の形態1に係るサーチ周波数決定部によるサーチ周波数決定処理の流れを示すフロー図
【図7】本発明の実施の形態1に係るGPS信号受信部によるサーチ対象周波数の変化の様子の一例を示す説明図
【図8】参考のためにサーチ単位の上下への交互の振り分けをそのまま継続した場合のGPS信号受信部によるサーチ対象周波数の変化の様子の一例を示す説明図
【図9】本発明の実施の形態2に係る信号捕捉装置が使用される移動通信端末装置としての携帯電話機の構成を示すブロック図
【図10】本発明の実施の形態2に係るサーチ周波数決定部によるサーチ周波数決定処理の流れを示すフロー図
【図11】本発明の実施の形態2に係るGPS信号受信部によるサーチ対象周波数の変化の様子の一例を示す説明図
【図12】従来の提案による従来のGPS信号のサーチの様子の一例を示す説明図
【符号の説明】
【0076】
10、40 携帯電話機
20 通信システム
21 携帯電話網
23 無線基地局
24 GPS衛星
101 無線用アンテナ
102 無線通信部
103 GPS用アンテナ
104 GPS信号受信部
105 測位演算部
106 GPS用クロック生成部
107 周波数比較部
108 基準周波数設定部
109、409 サーチ周波数制御部
110 測位開始指示入力部
121、421 サーチ周波数決定部
131 増幅回路
132 第1のミキサ
133 第1の帯域制限フィルタ
134 第2のミキサ
135 第2の帯域制限フィルタ
136 アナログデジタル変換器
137 第3のミキサ
138 積分器
139 周波数逓倍器
140 数値制御発振器
141 PRNコード生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のクロック信号の周波数の理想値に対する差としてのクロック周波数差を検出するクロック周波数差検出手段と、
サーチの対象となる信号の周波数の基準周波数に対する周波数差としてのサーチ周波数差を、このクロック周波数差検出手段による最新の検出結果に基づいて所定の時間ごとに決定するサーチ周波数差決定手段と、
前記所定のクロック信号を動作クロックとして捕捉の対象となる信号のサーチを行うとともに、そのサーチの対象となる信号の周波数をこのサーチ周波数差決定手段が決定した前記サーチ周波数差と前記基準周波数との加算値に基づいて補正する信号受信手段と、
を具備することを特徴とする信号捕捉装置。
【請求項2】
所定のパラメータの値を、前記信号受信手段によるサーチが行われるたびに更新するパラメータ制御手段と、
前記所定のパラメータの値を前記サーチ周波数差としたときに前記信号受信手段がサーチの対象とする周波数の差としての高周波側周波数差を、前記クロック周波数差検出手段による最新の検出結果を基に判別する高周波側周波数差判別手段と、
前記所定のパラメータの値を符号反転させた値を前記サーチ周波数差としたときに前記信号受信手段がサーチの対象とする周波数の差としての低周波側周波数差を、前記クロック周波数差検出手段による最新の検出結果を基に判別する低周波側周波数差判別手段とを更に具備し、
前記サーチ周波数差決定手段は、前記高周波側周波数差判別手段によって判別された前記高周波側周波数差あるいは前記低周波側周波数差判別手段によって判別された前記低周波側周波数差に基づいて、前記所定のパラメータの値と前記所定のパラメータの値を符号反転させた値のいずれかを前記サーチ周波数差に決定することを特徴とする請求項1記載の信号捕捉装置。
【請求項3】
前記高周波側周波数差判別手段によって判別された前記高周波側周波数差が予め定められた高周波側しきい値よりも大きいか否かを判別する高周波側しきい値判別手段を更に具備し、
前記サーチ周波数差決定手段は、この高周波側しきい値判別手段によって前記高周波側周波数差が前記高周波側しきい値よりも大きいと判別されるとき、前記所定のパラメータの値を前記サーチ周波数差に決定しないことを特徴とする請求項2記載の信号捕捉装置。
【請求項4】
前記低周波側周波数差判別手段によって判別された前記低周波側周波数差が予め定められた低周波側しきい値よりも大きいか否かを判別する低周波側しきい値判別手段を更に具備し、
前記サーチ周波数差決定手段は、この低周波側しきい値判別手段によって前記低周波側周波数差が前記低周波側しきい値よりも大きいと判別されるとき、前記所定のパラメータの値を符号反転させた値を前記サーチ周波数差に決定しないことを特徴とする請求項2記載の信号捕捉装置。
【請求項5】
前記基準周波数よりも高周波側のサーチ対象周波数を決定するための高周波側パラメータの値を、前記信号受信手段による前記高周波側のサーチ対象周波数に対応するサーチが行われるたびに更新する高周波側パラメータ制御手段と、
前記基準周波数よりも低周波側のサーチ対象周波数を決定するための低周波側パラメータの値を、前記信号受信手段による前記低周波側のサーチ対象周波数に対応するサーチが行われるたびに更新する低周波側パラメータ制御手段と、
前記高周波側パラメータの値を前記サーチ周波数差としたときに前記信号受信手段がサーチの対象とする周波数の差としての高周波側周波数差を、前記クロック周波数差検出手段による最新の検出結果を基に判別する高周波側周波数差判別手段と、
前記低周波側パラメータの値を符号反転させた値を前記サーチ周波数差としたときに前記信号受信手段がサーチの対象とする周波数の差としての低周波側周波数差を、前記クロック周波数差検出手段による最新の検出結果を基に判別する低周波側周波数差判別手段とを更に具備し、
前記サーチ周波数差決定手段は、前記高周波側周波数差判別手段によって判別された前記高周波側周波数差および前記低周波側周波数差判別手段によって判別された前記低周波側周波数差に基づいて、前記高周波側パラメータの値と前記低周波側パラメータの値を符号反転させた値のいずれかを前記サーチ周波数差に決定することを特徴とする請求項1記載の信号捕捉装置。
【請求項6】
前記高周波側周波数差判別手段によって判別された前記高周波側周波数差と前記低周波側周波数差判別手段によって判別された前記低周波側周波数差を比較する周波数差比較手段を更に具備し、
前記サーチ周波数差決定手段は、この周波数差比較手段によって前記高周波側周波数差が前記低周波側周波数差よりも大きいと判別されるとき、前記高周波側パラメータの値を前記サーチ周波数差に決定しないことを特徴とする請求項5記載の信号捕捉装置。
【請求項7】
前記高周波側周波数差判別手段によって判別された前記高周波側周波数差と前記低周波側周波数差判別手段によって判別された前記低周波側周波数差を比較する周波数差比較手段を更に具備し、
前記サーチ周波数差決定手段は、この周波数差比較手段によって前記低周波側周波数差が前記高周波側周波数差よりも大きいと判別されるとき、前記低周波側パラメータの値を符号反転させた値を前記サーチ周波数差に決定しないことを特徴とする請求項5記載の信号捕捉装置。
【請求項8】
所定のクロック信号の周波数の理想値に対する差としてのクロック周波数差を検出するクロック周波数差検出ステップと、
サーチの対象となる信号の周波数の基準周波数に対する周波数差としてのサーチ周波数差を、このクロック周波数差検出ステップによる最新の検出結果に基づいて所定の時間ごとに決定するサーチ周波数差決定ステップと、
前記所定のクロック信号を動作クロックとして捕捉の対象となる信号のサーチを行う信号受信手段について、そのサーチの対象となる信号の周波数をこのサーチ周波数差決定ステップで決定された前記サーチ周波数差と前記基準周波数との加算値に基づいて補正するサーチ対象周波数制御ステップと、
を具備することを特徴とする信号捕捉方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−198985(P2007−198985A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19884(P2006−19884)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】