信号補償装置、信号補償方法、信号補償プログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、及び通信装置
【課題】信号増幅器の非線形歪みによる影響が排除された希望波を抽出することが可能な信号補償装置を提供する。
【解決手段】信号補償装置8は、第1局が送信したIB信号と、このIB信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号であるOB信号とが重畳された重畳信号が、TWTAを含む中継局から第2局に送信される通信システムに用いられ、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性を示す非線形補償モデルに、OB信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する。それゆえ、信号補償装置8によって、希望波(IB信号)の信号劣化が大幅に低減される。そして、信号補償装置8は、不要波復調方式および遅延検出方式の何れにも適用することができる。
【解決手段】信号補償装置8は、第1局が送信したIB信号と、このIB信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号であるOB信号とが重畳された重畳信号が、TWTAを含む中継局から第2局に送信される通信システムに用いられ、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性を示す非線形補償モデルに、OB信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する。それゆえ、信号補償装置8によって、希望波(IB信号)の信号劣化が大幅に低減される。そして、信号補償装置8は、不要波復調方式および遅延検出方式の何れにも適用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1局が送信した第1局送信信号と、この第1局送信信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号である第2局送信信号とが重畳された重畳信号を、信号増幅器を含む中継局からから受信し、当該重畳信号から、所望の信号としての第2局送信信号を得るための信号補償装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信の大容量化、通信速度の高速化に伴い衛星通信の用途が増加している。しかしながら、通信衛星に用いられる静止衛星は地球の赤道上を周回しておりその数は有限であるため、衛星通信における周波数の有効利用は極めて重要な課題である。
【0003】
そこで、周波数利用効率を向上させるため、VSAT(Very Small Aperture Terminal)システムや通常の対向型システムにおける伝送信号重畳方式が検討されている。
【0004】
伝送信号重畳方式では、相手局が送信する信号(希望波)と、自局が送信する信号(不要波)を同一の周波数帯域で伝送するため、不要波は希望波にとって干渉となる。そこで、干渉波の再生と除去を行う干渉キャンセラが必要になる。そして、その干渉キャンセラとして、自局送信信号を自局から送信した後に、衛星を経由して自局に返ってくる当該信号(不要波)を復調することによって、その正確なレプリカ信号を生成し、そのレプリカ信号を重畳信号から減算(キャンセル)する方法が採用される(不要波復調方式)。
【0005】
あるいは、他の伝送信号重畳方式として遅延検出方式も研究されている。遅延検出方式は、衛星1往復間の遅延時間を測定し、自局の送信信号をその遅延時間だけ遅延させることでレプリカ信号を生成し、重畳信号からレプリカ信号を減算するという方法である。
【0006】
このような伝送信号重畳方式を開示する文献として、特許文献1、及び、非特許文献1〜6参照が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2007/102415号公報(国際公開日 平成19年9月13日)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Dankberg, Paired Carrier Multiple Access(PCMA) for Satellite Communications, The ViaSat Inc. Presentation MaterialURL:http://www.viasat.com/_files/?view=pcma.pdf
【非特許文献2】M.Ichikawa, T.Hara, M.Okada, H.Yamamoto and K.Andou "Fast and Accurate Canceller on Carrier Super-positioning for VSAT Frequency Reuse "IEEE-WCNC 2005, New Orleans, March, 2005.
【非特許文献3】Takao hara, Michihiro Ichikawa, Minoru Okada, and Heiichi Yamamoto, "Canceller Design for Carrier Super-positioning Frequency Re-use of VSATsatellite Communications", IEIEC Transaction Vol.J88-B,No.7, pp1300-1309,July,2005.
【非特許文献4】Noriaki ISHIDA, "Commom-band Satellite Communication System", IEIEC Transactions Vol.J82-B, No.8, pp1531-1537, Aug.1999
【非特許文献5】B.R.Ebert, The Satellite Communication Application Handbook,Artech House, 1997
【非特許文献6】奈良先端科学技術大学院大学、浦谷剛史、修士論文「衛星中継増幅器の非線形性が信号重畳方式の伝送特性に与える影響」、2008.2.7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、非特許文献1〜5に記載の発明では以下の問題が生じる。
【0010】
具体的には、実際の衛星伝送系における衛星には非線形増幅器が設けられており、この非線形増幅器によって衛星からの不要波には非線形歪みが加えられる。一方、干渉キャンセラでは、受信機で不要波のレプリカ信号が生成される仕組みになっており、そのレプリカ信号は、基本的には非線形歪みの影響を受けない。従って、不要波とレプリカ信号との間に差異が生じ、受信機での不要波キャンセル後の信号(希望波)に非線形歪みが残留することとなる。その結果、希望波に干渉雑音が加わり、その信号波形が本来の波形とは異なるものとなってしまうという問題が生じる。また、希望波と不要波の2信号が非線形増幅器に入力された場合、2信号間の相互変調歪、及び混変調により信号のBER(Bit Error Rate)特性が大幅に劣化する可能性が懸念される。
【0011】
この点、特許文献1、及び非特許文献1〜5の発明は何れも、衛星に搭載されている中継局の非線形増幅器による信号歪みの影響を何ら考慮していない。従って、特許文献1、及び非特許文献1〜5の発明では、特に、希望波と干渉波の2信号が非線形増幅器に入力された場合、2信号間の相互変調歪、及び混変調により信号特性が大幅に劣化する可能性が高く、伝送信号重畳方式の最適な運用がなされるとは考え難い。
【0012】
一方、非特許文献6の発明は、非線形増幅器の非線形領域が干渉キャンセラの特性にどのような影響を与えるかを検討している。具体的には、入力バックオフ(IBO(Input Back−off))を取りBERの劣化と電力損失の総劣化量を示すことで、衛星中継局の適切な動作点を適宜選択し、干渉キャンセラが非線形系においても動作することを計算シミュレーションで明らかにしている。
【0013】
なお、IBOとは、衛星中継局に搭載された進行波管増幅器(TWTA:Traveling Wave Tube Amplifier、以下TWTA)等の非線形増幅器の出力が最大となる振幅を飽和出力振幅とし、そのときの入力振幅を飽和入力振幅とした場合、その飽和入力振幅を基準(0dB)として、そこからどれだけ振幅を抑えるかをデシベル表示したものである。
【0014】
しかしながら、非特許文献6の発明は、IBOを十分に取り線形領域で非線形増幅器を動作させるため、IBOが大きいほど衛星から信号を出力する際の送信電力が低下してしまうという問題がある。これをバックオフによる電力損失といい、通常は衛星に搭載された中継局の電力をできるだけ効率よく使用するためには、IBOを取りすぎないようにする必要がある。つまり、IBOと電力損失とはトレードオフの関係にあるところ、非特許文献6の発明では、IBOの取りすぎによって電力損失の増加が想定され、それゆえ、衛星から信号を出力する際の送信電力が低下してしまうという問題が懸念される。つまり、非特許文献6の発明では、非線形増幅器による信号の非線形歪みが、伝送信号重畳方式の最適な運用を妨げてしまう危険性が極めて高い。
【0015】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、中継局に搭載された非線形増幅器によって生じる受信信号の特性劣化を補償する信号補償装置、信号補償方法、信号補償プログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、及び、上記信号補償装置を備えた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る信号補償装置は、上記の課題を解決するために、第1局が送信した第1局送信信号と、この第1局送信信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号である第2局送信信号とが重畳された重畳信号が、信号増幅器を含む中継局から上記第2局に送信される通信システムに用いられる信号補償装置であって、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成手段を備えることを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係る信号補償方法は、上記の課題を解決するために、第1局が送信した第1局送信信号と、この第1局送信信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号である第2局送信信号とが重畳された重畳信号が、信号増幅器を含む中継局から上記第2局に送信される通信システムに用いられる信号補償装置であって、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成ステップを含むことを特徴としている。
【0018】
上記構成によれば、補償レプリカ信号生成手段あるいは補償レプリカ信号生成ステップは、第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を非線形補償モデルに入力することにより、線形領域および非線形領域を含む信号増幅器の入出力特性を包含した補償レプリカ信号を生成することができる。それゆえ、上記入出力特性による非線形性歪みの影響が残留する、第1及び第2局送信信号が重畳されてなる重畳信号から上記補償レプリカ信号を減算(キャンセル)することにより、上記非線形歪みによる影響が相殺された、第1局が送信した第1局送信信号(希望波)を抽出することができる。つまり、信号増幅器の非線形性歪みによる影響を排除した本来の信号波形のままの第1局送信信号を抽出することができる。
【0019】
このように、本発明に係る信号補償装置および信号補償方法では、補償レプリカ信号生成手段(ステップ)が、中継局の信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルにレプリカ信号を入力することにより補償レプリカ信号を生成するものである。従って、従来のように、線形領域で非線形増幅器を動作させることを目的として入力バックオフ(IBO)を十分に取り、そのため中継局から信号を出力する際の送信電力が低下してしまうという問題を大幅に軽減することになり、中継局に搭載されている非線形増幅器によって生じる受信信号の特性劣化を好適に補償することができる。
【0020】
さらに、本発明に係る信号補償装置では、
上記信号増幅器は、TWTAであって、
上記補償レプリカ信号生成手段は、以下の式(1)〜式(12)に基づいて、上記レプリカ信号を入力s(t)として得られる出力u(t)を、上記補償レプリカ信号として生成することが好ましい。
【0021】
u(t)=s(t)×G〔s(t)〕 …式(1)
G〔s(t)〕=1/|s(t)|
× g(|s(t)|)×exp(jf(|s(t)|)) …式(2)
g(γ)=αx・γ/(1+βx・γ2) …式(3)
f(γ)=αφ・γ2/(1+βφ・γ2) …式(4)
【0022】
【数1】
【0023】
【数2】
【0024】
ik=α×Ik …式(7)
qk=α×Qk …式(8)
s=ik+jqk …式(9)
【0025】
【数3】
【0026】
【数4】
【0027】
【数5】
【0028】
ただし、
u(t) :TWTAの出力信号
s(t) :TWTAへの入力信号
G〔s(t)〕:TWTAの利得(ゲイン)
g(r) :TWTAのAM/PM変換特性
f(r) :TWTAのAM/AM変換特性
AM :Amplitude Modulation(振幅変調)
PM :Phase Modulation(位相変調)
j :√(−1)
αx :小信号利得
1/√βx :飽和入力振幅
αφ :AM/PM変換特性を決めるパラメータ
βφ :AM/PM変換特性を決めるパラメータ
Ik :入力信号のk番目のI成分
Qk :入力信号のk番目のQ成分
N :データサンプリング数
ΓIBO :IBO(dB)
ik :TWTAへの入力複素振幅のI成分
qk :TWTAへの入力複素振幅のQ成分
Amax :飽和振幅最大値(dB)
【0029】
【数6】
【0030】
【数7】
【0031】
とする。
【0032】
上述したように、補償レプリカ信号生成手段(ステップ)は、非線形補償モデルにレプリカ信号を入力することで補償レプリカ信号を生成するものであるため、ソフトウェアによる演算処理によって補償レプリカ信号を生成することもできる。
【0033】
そこで、上記式(1)〜式(12)を用いることにより、上記補償レプリカ信号生成手段は、上記補償レプリカ信号のI成分およびQ成分を出力u(t)として演算処理で生成することができる。
【0034】
それゆえ、補償レプリカ信号生成手段(ステップ)は、より迅速かつ正確に所望の補償レプリカ信号を生成することができる。
【0035】
さらに、本発明に係る信号補償装置では、上記レプリカ信号は、上記第1局送信信号と上記第2局送信信号との間における電力密度の差を利用して、所望でない信号としての上記第2局送信信号を復調することで、当該第2局送信信号のレプリカとして生成されたものであることが好ましい。
【0036】
また、本発明に係る信号補償装置では、上記レプリカ信号は、上記第1局に送信された上記第2局送信信号が上記第2局に戻ってくるまでの間、上記第2局に保持されていることが好ましい。
【0037】
本発明に係る信号補償装置では、補償レプリカ信号生成手段は、自身に入力されたレプリカ信号を非線形補償モデルに入力することにより補償レプリカ信号を生成する。つまり、不要波復調方式および遅延検出方式の何れの方式においても、中継局となる衛星に搭載された信号増幅器の入出力特性を、非線形補償モデルとしてモデル化できるとともに、重畳信号からレプリカ信号をキャンセルして希望波を得る点において共通しているため、本発明に係る信号補償装置は、いわゆる不要波復調方式や遅延検出方式の何れにも適用可能である。
【0038】
つまり、本発明に係る信号補償装置は、何れの伝送信号重畳方式にも組み込むことができるため、幅広い需要者のニーズに応えうる汎用性の高い装置と言える。
【0039】
なお、前記信号補償装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記補償レプリカ信号生成手段として動作させることにより前記信号補償装置をコンピュータにて実現させる信号補償プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0040】
この場合、ソフトウェアによる演算処理によって補償レプリカ信号を生成することにより、ハード的に補償レプリカ信号を生成する構成に比べ、費用を抑えつつ、かつ、装置の小型化を実現することができる。
【0041】
加えて、上記信号補償装置を備えた通信装置も本発明の範疇に入る。これにより、当該通信装置は、中継局に搭載されている非線形増幅器によって生じる受信信号の特性劣化を好適に補償することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係る信号補償装置は、以上のように、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成手段を備える構成である。
【0043】
また、本発明に係る信号補償方法は、以上のように、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成ステップを含む構成である。
【0044】
また、本発明に係る信号補償プログラムは、以上のように、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成ステップをコンピュータに実行させる構成である。
【0045】
それゆえ、中継局に搭載されている非線形増幅器によって生じる受信信号の特性劣化を補償する信号補償装置、信号補償方法、信号補償プログラムを実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の信号補償装置を備えた通信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】周波数再利用が可能なP−Pシステムを説明するための図である。
【図3】周波数再利用が可能なP−MPシステムを説明するための図である。
【図4】遅延検出方式におけるレプリカ信号生成方法を説明するための図である。
【図5】不要波復調方式におけるレプリカ信号生成方法を説明するための図である。
【図6】入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む増幅器の入出力特性を概略的に示す図である。
【図7】重畳されたOB信号とIB信号がTWTAに入力され、OB信号がTWTAによる信号の非線形歪みの影響を受けた様子を示す図である。
【図8】TWTAにおけるAM/PM変換特性およびAM/AM変換特性を示すグラフである。
【図9】線形領域における、出力された電力スペクトルによる特性評価のシミュレーション結果を示す図である。
【図10】非線形領域における、出力された電力スペクトルによる特性評価のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】ハードウェアによる試験結果を示す図である。
【図12】シミュレーションによる、入力信号および出力信号のスペクトルを示す図である。
【図13】IBO=2dBの場合における、信号キャンセル後のIB信号の誤り率特性を示す図である。
【図14】IBO=10dBの場合における、信号キャンセル後のIB信号の誤り率特性を示す図である。
【図15】誤り率10−4においてIBOを変化させた時のBER特性の劣化量を示す図である。
【図16】8PSK方式の信号点配置の例を示す図である。
【図17】16QAM方式の信号点配置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本実施の形態に係る信号補償装置、及び当該信号補償装置を備えた通信装置の一実施形態について説明する。なお、説明の便宜上、以下では本発明をVSATネットワークに適用した場合の実施形態について説明するが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。
【0048】
〔1.VSAT型信号重畳方式の基本概要〕
図2、図3は、周波数再利用が可能とされる代表的な2つの衛星通信システムを示す。なお、各図に示される2つの衛星通信システムはそれぞれ、相手局が送信する信号(希望波)と、自局が送信する信号(不要波)を同一の周波数帯域で伝送するため、不要波は希望波にとって干渉となり、干渉波の再生と除去を行う干渉キャンセラが必要になる。以下、各図について説明する。
【0049】
図2は、P−P(Point to Point)システムを示す。P−Pシステムは、同一サイズのアンテナを使用する局A(第2局)、局B(第1局)から同一の信号レベルで送信された2つの信号を同一の周波数帯域に重畳して伝送を行うシステムである。このP−Pシステムでは、衛星1往復分の時間だけ自局の送信信号(第2局送信信号)を自局内で遅延させることでレプリカ信号を作成し、そのレプリカ信号を重畳信号から減算(キャンセル)することにより干渉キャンセラ処理を行う。この場合、衛星1往復分の遅延を正確に計測する必要があり、また両局で不要波をキャンセルする必要がある。なお、上記方法による不要波のキャンセルを遅延検出方式と称する。
【0050】
図3は、P−MP(Point to Multi Point)システムを示す。このシステムは、VSATシステムとも称されており、アンテナ口径の大きいハブ局A(Hub Station)(第2局)と、多数の超小型地球局B(Remote Station)(第1局)から構成される。なお、以下の説明では、ハブ局の側から見て、希望波のことをIB信号(Inbound Signal)(第1局送信信号)、不要波のことをOB信号(Outbound Signal)(第2局送信信号)と称する。
【0051】
ハブ局Aからリモート局へ送信されるOB信号のキャリアは広帯域で、一般的に狭帯域のIB信号のキャリアよりも信号電力密度が高い。これは、ハブ局とリモート局の間に受信性能(地球局のアンテナ密度の良さを表す値G/T:Gain to Noise Temperature Ratio)の差が存在するため、互いに必要な送信信号電力が異なるためである。よって、信号を重畳した場合、互いの受信信号電力を比べると、OB信号がIB信号より大きくなる。
【0052】
このような理由から、リモート局では、同じ帯域内に不要波であるIB信号が存在しても、それらを除去することなく希望波であるOB信号を復調できる。これにより、VSATシステムでは、多数のリモート局のシステムを変更する必要はない。これに対して、ハブ局では、希望波であるIB信号に対して電力の大きな信号は干渉となるため、IB信号を復調するためにはOB信号のレプリカを生成し、OB信号をキャンセルする必要がある。そして、上記方法による不要波のキャンセル方式を不要波復調方式と称する。
【0053】
〔2.レプリカ信号生成方法(遅延検出方式)〕
次に、P−Pシステムにおけるレプリカ信号生成方法を図4を参照して説明する。図4は、遅延検出方式におけるレプリカ信号生成方法を説明するための図である。
【0054】
同図では、A局が送信する信号(不要波)が破線で、B局が送信する信号(希望波)が実線で示される。なお、A局およびB局は同一サイズのアンテナを使用しているため、不要波および希望波は同一の信号レベルと考えてよい。
【0055】
同図に示すように、遅延検出方式におけるレプリカ信号生成方法にはパス1及びパス2が存在する。パス1では、不要波および希望波が重畳した重畳信号が伝送され、パス2では、不要波のレプリカ信号が生成・伝送される。なお、レプリカ信号の生成は、衛星1往復分の時間(τ)だけA局の送信信号(不要波)をA局内で遅延させ、その遅延した不要波をレプリカ信号として生成するというものである。そして、干渉キャンセラにおいて、重畳信号からレプリカ信号が減算(キャンセル)され、そのキャンセルされた信号が希望波として外部に出力される。
【0056】
このようにして希望波が取得されるため、遅延検出方式では、衛星1往復分の遅延を正確に、継続的に計測する必要があり、また両局で不要波をキャンセルすることになる。
【0057】
〔3.レプリカ信号生成方法(不要波復調方式)〕
次に、P−MPシステムにおけるレプリカ信号生成方法を図5を参照して説明する。図5は、不要波復調方式におけるレプリカ信号生成方法を説明するための図である。
【0058】
上述したように、VSATシステムにおいては、リモート局は、同じ帯域内に不要波であるIB信号が存在しても、それらを除去することなく希望波であるOB信号を復調できる。これにより、VSATシステムでは、多数のリモート局のシステムを変更する必要はない。これに対して、ハブ局では、希望波であるIB信号に対して電力の大きな信号は干渉となるため、IB信号を復調するためにはOB信号のレプリカを生成し、IB信号とOB信号の重畳信号からOB信号をキャンセルする必要がある。
【0059】
そこで、図5に示すように、不要波復調方式では、パス1においてIB信号とOB信号の重畳信号を伝送し、パス2では復調部においてOB信号のレプリカを生成する。そして、干渉キャンセラにおいて、重畳信号からレプリカ信号が減算(キャンセル)され、そのキャンセルされた信号が希望波として出力される。そして、上記減算は、レプリカ信号の生成に必要な時間だけ遅延して、重畳信号からレプリカ信号を減算し、これによりレプリカ信号が復調されるために生じる固定遅延による影響を抑えている。
【0060】
このようにして希望波が取得されるため、不要波復調方式は、シンプルであり、かつ、VSATシステムに好適に用いることができる。ただし、生成するレプリカ信号の正確性は、不要波を復調する際の誤り率特性に影響を受ける。
【0061】
〔4.衛星中継増幅器〕
衛星通信では、衛星(中継局)に搭載されている中継増幅器(信号増幅器)において多数の信号が共通増幅され、理想的な線形増幅器では、個々の出力信号の振幅や位相は共通増幅される他の信号の影響を受けることは無い。
【0062】
しかしながら、衛星に搭載されている固体増幅器(SSPA:Solid Statue Power Amplifier)や進行波管増幅器(TWTA)などの高出力増幅器(HPA:High Power Amplifier)では、入力される信号電力が小さい間は線形動作をするが、信号電力が大きくなると非線形増幅の影響が現れる。特に、伝送信号重畳方式では、同一の周波数帯域で複数の信号を送受信するため、非線形増幅の影響が大きくなる。
【0063】
図6は、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む増幅器の入出力特性を概略的に示す図である。
【0064】
同図に示すように、衛星に搭載されるSSPAまたはTWTA等の非線形増幅器は、線形領域および非線形領域を含む入出力特性を有し、線形領域では、入力レベルと出力レベルは線形性を維持しているものの、非線形領域では、入力レベルと出力レベルは線形性を失っており、出力信号が歪んで出力されてしまう。従って、伝送信号重畳方式の最適な運用という観点において、衛星中継増幅器の非線形性が通信システムの伝送特性に与える影響を排除する必要がある。
【0065】
次に説明する本実施形態に係る信号補償装置8は、上記問題点を解決することを目的とするものである。なお、以下では、信号補償装置8は、VSATシステムに適用されるものとして説明するが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。詳細は後述するが、信号補償装置8は、生成されたOB信号のレプリカ信号に対して所定の処理を加えるものであるため、レプリカ信号を生成する伝送信号重畳方式であれば、何れの方式に対しても適用が可能である。従って、信号補償装置8は、〔2.レプリカ信号生成方法(遅延検出方式)〕で説明したP−Pシステムにも適用することができる。
【0066】
〔5.信号補償装置8を備えた通信装置1の詳細〕
本実施形態に係る信号補償装置8が用いられる通信装置1について、図1等を参照して説明する。
【0067】
図1は、本発明の信号補償装置8を備えた通信装置1の構成を示すブロック図である。通信装置1は、VSATシステムにおいて、ハブ局側に設けられるものである。すなわち、通信装置1は、同図に示すように、信号受信部2と、位相回転器3と、第1復調部4と、2値化部5と、変調器6と、フィルタ7と、信号補償装置8と、自動増幅回路9と、相関算出部10と、信号遅延部11と、信号キャンセル部12と、第2復調部13と、を備えている。
【0068】
信号受信部2は、衛星からOB(アウトバウンド)信号とIB(インバウンド)信号とが重畳された重畳信号(図3参照)を受信するものである。そして、信号受信部2は、衛星から受信した信号をQPSKのI/Q信号に変換後、そのI/Q信号を位相回転器3に出力する。
【0069】
位相回転器3は、I/Q信号のキャリア位相同期を取るために入力信号の位相を回転させる。そして、位相回転器3は、位相回転を施したI/Q信号を、パス1を経由して信号遅延部11に出力する一方で、パス2を経由して第1復調部4に出力する。
【0070】
第1復調部4は、位相回転器3から出力されるアウトバウンド信号とインバウンド信号との間の電力密度の差Δを利用して、所望でないアウトバウンド信号を復調する。さらに、第1復調部4は、その内部に含む図示しないQPSKDemapブロックにより受信信号とその判定点の位相差を位相回転器3にフィードバックする。位相回転器3は、そのフィードバックを受けてI/Q信号の位相制御を行う。
【0071】
なお、電力密度差Δを利用したアウトバウンド信号の復調は従来方法に従えばよく、ここでの詳細説明は省略する。
【0072】
2値化部5は、第1復調部4により復調されたアウトバウンド信号を、I信号およびQ信号からなるパルス列に変換するものである。
【0073】
変調器6は、I信号およびQ信号からなるパルス列を、第1復調部4から出力されるキャリア列を用いて変調するものである。そして、変調されたキャリア列をフィルタ7に通すことで、衛星に搭載された非線形増幅器による信号の非線形歪みの影響を受ける前のアウトバウンド信号のレプリカ信号を再生する。
【0074】
信号補償装置8は、補償レプリカ信号生成手段8aを含む。補償レプリカ信号生成手段8aは、I成分取得部8b、Q成分取得部8c、及び非線形補償モデル演算部8dを含む。I成分取得部8bは、アウトバウンド信号のレプリカ信号のI成分をフィルタ7から取得する。Q成分取得部8cは、そのレプリカ信号のQ成分をフィルタ7から取得する。
【0075】
非線形補償モデル演算部8dは、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む非線形増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルを有する。そして、非線形補償モデル演算部8dは、I成分取得部8bおよびQ成分取得部8cから取得した上記レプリカ信号のI成分及びQ成分を上記非線形補償モデルに入力し、後述の演算を行うことにより、I成分及びQ成分で示される補償レプリカ信号を生成する。なお、その補償レプリカ信号は、線形領域および非線形領域を含む非線形増幅器の入出力特性をレプリカ信号に包含させた信号である。
【0076】
次に、非線形補償モデル演算部8dは、その補償レプリカ信号を自動増幅回路9および相関算出部10に出力する。なお、線形領域および非線形領域を含む信号増幅器の入出力特性、非線形補償モデルの詳細、及び補償レプリカ信号の生成については後ほど詳述する。
【0077】
自動増幅回路9は、信号補償装置8と信号キャンセル部12との間に設けられるものであり、不要波信号を含む衛星からの受信信号および生成されたレプリカ信号を同期し、両信号の振幅を同程度とするものである。信号キャンセル部12における信号キャンセル後の出力において、生成されたレプリカ信号と不要波との間の電力差が復調する希望波の干渉となるため、そのような事態を未然に防止することを目的として自動増幅回路9が設けられる。
【0078】
相関算出部10は、信号キャンセル部12の出力である残留信号とレプリカ信号との相関を算出するものである。自動増幅回路9で用いられる振幅制御信号は、相関算出部10で算出された相関に基づいて求められる。
【0079】
信号遅延部11は、パス2においてレプリカ信号を生成している時間だけ、パス1経由で位相回転器3から出力される信号を遅延させるものである。パス2においてレプリカ信号を生成するのに必要な時間(τ)は、常に一定であり、通常、10シンボルから最大でも数10シンボル期間となる。
【0080】
信号キャンセル部12は、信号遅延部11により遅延された信号から、自動増幅回路9が出力した補償レプリカ信号を減算(キャンセル)するものである。信号キャンセル部12は、キャンセル後の信号を相関算出部10に出力すると共に、第2復調部13にも出力する。なお、信号キャンセル部12におけるキャンセル処理は従来方法に従えばよく、ここでの詳細説明は省略する。
【0081】
第2復調部13は、信号キャンセル部12でキャンセル処理された後の信号を復調することで、所望の信号であるインバウンド信号を得る。
【0082】
〔6.非線形補償モデル(TWTAモデル)〕
衛星通信では、衛星に搭載されている中継増幅器において複数の信号が共通増幅され、その増幅器として固体増幅器(SSPA)や進行波管増幅器(TWTA)などの高出力増幅器(HPA)が使用される。なお、一般的には、SSPAが地上の移動通信に使用され、TWTAが衛星に搭載されるケースが多い。これは、TWTAの方がSSPAよりも高い出力を得られるためである。
【0083】
そこで、本実施形態では、衛星に搭載されている増幅器がTWTAである場合を念頭に、信号補償装置8において補償レプリカ信号を生成する方法を提案する。従って、信号補償装置8は、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性を示す非線形補償モデルに、OB信号(不要波)のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する、と考えてよい。そこで、以下では、線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性、TWTAに係る非線形補償モデル、その非線形補償モデルにOB信号のレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する方法、そして当該方法によって得られる効果を順次説明する。
【0084】
なお、本願発明はTWTAに限定されるものではなく、SSPAにおいても同様に、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含むSSPAの入出力特性を示す非線形補償モデルに、OB信号(不要波)のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成することも可能である。
【0085】
〔6−1.TWTAモデル〕
最初に、重畳されたOB信号およびIB信号がTWTAに入力され、OB信号がTWTAによる信号の非線形歪みの影響を受けた様子を図7に示す。なお、図7では、横軸は入力信号のI成分を、縦軸は入力信号のQ成分を表しており、OB信号およびIB信号を複素表現している。
【0086】
同図の(a)、(b)、(c)は、TWTAに入力されるOB信号、IB信号、そしてそれらを合成した信号(IB信号+OB信号)の信号ベクトルを示す。(d)は、TWTAによる信号の非線形歪みを受けたIB信号及びOB信号の合成信号であるTWTAの出力ベクトルを示す。なお、合成信号(c)が受ける非線形歪みによる影響は、ハブ局が送信したOB信号にのみ及ぶ。
【0087】
これから説明するTWTAモデルは、図7(d)で示されるTWTAによる非線形歪みの影響を受けたOB信号のレプリカ信号に当該非線形歪みを包含させた補償レプリカ信号を生成するというものである。
【0088】
そこで、まずTWTAの入出力特性を説明し、続いてTWTAに係る非線形補償モデルについて説明する。この非線形補償モデルではTWTAへの入力信号を複素関数s(t)で表現する。このとき、レプリカ信号を入力s(t)として得られる出力u(t)を、上記補償レプリカ信号として生成する式は、以下の式(1)で表される。
【0089】
u(t)=s(t)×G〔s(t)〕 …式(1)
ここで、
u(t) :TWTAの出力信号
s(t) :TWTAへの入力信号
G〔s(t)〕:TWTAの利得(ゲイン)
とする。
さらに、TWTAのゲインであるG〔s(t)〕は以下の式(2)で表される。
【0090】
G〔s(t)〕=1/|s(t)|
× g(|s(t)|)×exp(jf(|s(t)|)) …式(2)
ここで、
g(r):TWTAのAM/PM変換特性
f(r):TWTAのAM/AM変換特性
AM :Amplitude Modulation(振幅変調)
PM :Phase Modulation(位相変調)
j :√(−1)
とする。
【0091】
そして、TWTAでは、g(γ)は式(3)で、f(γ)は式(4)で、それぞれ表される。
【0092】
g(γ)=αx・γ/(1+βx・γ2) …式(3)
f(γ)=αφ・γ2/(1+βφ・γ2) …式(4)
ここで、
αx :小信号利得
1/√βx:飽和入力振幅
αφ :AM/PM変換特性を決めるパラメータ
βφ :AM/PM変換特性を決めるパラメータ
とする。
【0093】
ここで、図8は、TWTAにおけるAM/PM変換特性およびAM/AM変換特性を示すグラフである。また、表1は、式(3)、式(4)で使用される、TWTAの特性を決めるパラメータの値を示す。なお、表1の各パラメータは、TWTAに好適とされる代表的な数値であり、これらのパラメータを式(3)、式(4)に挿入した場合に、式(3)のg(γ)は図8のAM/AM変換特性を、式(4)のf(γ)は同図のAM/PM変換特性を好適に表すことが知られている。
【0094】
【表1】
【0095】
また、飽和出力振幅をTWTAの出力が最大となるところとした場合に、そのときの入力振幅を飽和入力振幅(1/√βx)とする。さらに、入力バックオフ(IBO:Input Back−off)、出力バックオフ(OBO:Output Back−off)は、飽和入力振幅、飽和出力振幅を基準(0dB)として、そこからどれだけ振幅を抑えるかをデシベル表示したものと定義する。
【0096】
例えば、図8では、飽和入力基準は出力振幅が最大になるときの入力振幅である2dBとなる。これをIBOの基準として、入力振幅を1/2にする(入力電力を6dB下げる)と、出力振幅は0.8、すなわち、OBOの基準である出力振幅1.0の4/5となる。つまり、出力電力が2dB下がったことになり、このときのIBO、OBOはそれぞれ6dB、2dBとなる。
【0097】
続いて、入力信号のk番目のI成分及びQ成分をそれぞれIkおよびQkとして、入力信号の平均電力を以下の式(5)で算出する。
【0098】
【数1】
【0099】
ここで、
N:データサンプリング数
とする。
【0100】
次に、以下の式(6)で入力電力補正係数αを算出する。
【0101】
【数2】
【0102】
ここで、
ΓIBO:IBO(dB)
とする。
すると、式(1)、及び式(2)でモデル化される非線形増幅器TWTAへの入力複素振幅のI成分およびQ成分は、以下の式(7)、式(8)で与えられる。
【0103】
ik=α×Ik …式(7)
qk=α×Qk …式(8)
そして、式(1)、式(2)において、
s=ik+jqk …式(9)
として、非線形補償モデルの出力値の計算を行う。
従って、出力値uは、以下の式(10)で得られる。
【0104】
【数3】
【0105】
得られた出力値uはさらに、飽和振幅最大値Amaxと乗算されて出力される。従って、出力信号のI成分及びQ成分は、以下の式(11)、式(12)で表される。
【0106】
【数4】
【0107】
【数5】
【0108】
このようにして、式(1)〜式(12)に基づいて出力信号のI成分及びQ成分が算出される。つまり、式(1)〜式(12)に基づいて、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性を示す非線形補償モデルを実現することができる。
【0109】
これを図1のブロック図に当てはめて考えてみると、信号補償装置8を構成するI成分取得部8b及びQ成分取得部8cが、アウトバウンド信号のレプリカ信号に係るI成分およびQ成分をフィルタ7から取得する。このレプリカ信号のI成分およびQ成分が非線形補償モデルへの入力信号(s(t))となる。そして、非線形補償モデル演算部8dは、入力信号s(t)を入力として、式(1)〜式(12)で示される非線形補償モデルにおいて演算を行い、最終的にI成分及びQ成分で示される補償レプリカ信号を生成する(式(11)、式(12))。このようにして、式(1)〜式(12)により補償レプリカ信号が生成され、その補償レプリカ信号に線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性が包含される。
【0110】
〔6−2.シミュレーションおよび実証試験による試験結果〕
TWTAの線形領域および非線形領域における干渉キャンセラの特性劣化の補償について、コンピュータ・シュミレーション、及び、FPGA(Field Programmable Gate Array)に基づくハードウェア・プロトタイプによるラボテストを行った。なお、IB信号に対するOB信号の電力密度比は13dBで設定した。
【0111】
図9は、線形領域における、出力された電力スペクトルによる特性評価のシミュレーション結果を示すものであり、受信信号(5MHzのOB信号および1MHzのIB信号を含む)の電力スペクトルと抽出したIB信号とが示されている。また、図10は、非線形領域における、出力された電力スペクトルによる特性評価のシミュレーション結果を示すものであり、IBOが0dBの場合の非線形領域についてのシミュレーション結果が示されている。
【0112】
図9と図10とを比較して分かるように、IB信号(希望波)は、線形領域の方が非線形領域よりも確実に抽出される。非線形領域では、残留OB信号(干渉波)とIB信号の電力密度比(D/U)が10dB以下と小さくなっていることがわかる。
【0113】
図11は、上記シミュレーションと同様の条件で行ったハードウェアによる試験結果を示す図であり、受信信号(OB信号+IB信号)及び抽出IB信号が示されている。結果として、ハードウェアによる試験結果は、シミュレーションによる試験結果に劣るものであった。つまり、ハードウェアによる試験ではIB信号を十分に抽出することができなかった。抽出されたIB信号のD/Uが僅か6〜7dBであった。これは、実験では非線形の影響がより強く出たためと考えられる。
【0114】
〔6−3.シミュレーションによるキャンセラの動作検証〕
次に、シミュレーションによるキャンセラの動作検証を説明する。なお、シミュレーションでは、OB信号をQPSK信号、IB信号をDQPSK信号とし、IB信号に対するOB信号の電力密度比を13dBに設定した。その他のシミュレーション緒元は表2に記載する通りである。
【0115】
【表2】
【0116】
最初に、信号キャンセル後のIB信号の特性劣化に対する補償の効果を説明する。図12は、シミュレーションによる、キャンセラへの入力信号(IB信号+OB信号)とキャンセラからの出力信号(IB信号)のスペクトルを示す図である。なお、TWTAの動作点は飽和入力基準であり(IBO=0dB)、IB信号に対するOB信号の電力密度比は13dBで設定している。さらに、出力信号は、補償の有無による2通りのシミュレーションを行った。
【0117】
同図に示すように、補償の有無で比較した場合、IB信号およびOB信号の重畳信号からOB信号に係る補償レプリカ信号をキャンセルすることで、IB信号の信号劣化が約10dB、すなわち約90%抑制される。このことは、上記キャンセルによるIB信号の特性劣化の抑制効果が極めて高いことを示すものである。
【0118】
次に、信号キャンセル後のIB信号の誤り率特性を説明する。図13は、IBO=2dBの場合における、信号キャンセル後のIB信号の誤り率特性を示す図である。図14は、IBO=10dBの場合における、信号キャンセル後のIB信号の誤り率特性を示す図である。
【0119】
図13から分かるように、IBO=2dBの場合、「補償あり」は「補償なし」よりもIB信号の誤り率特性が低い数値を示している。つまり、IB信号およびOB信号の重畳信号からOB信号に係る補償レプリカ信号をキャンセルすることにより、IB信号の誤り率特性を低減することが立証された。
【0120】
一方、図14から分かるように、IBO=10dBの場合、「補償あり」と「補償なし」とではIB信号の誤り率特性に明確な差異がなく、IB信号およびOB信号の重畳信号からOB信号に係る補償レプリカ信号をキャンセルすることによる有意な効果は認められなかった。これは、IBO=10dBとすることにより、入力信号に対する出力信号の入出力特性が非線形領域から線形領域に近づき、信号劣化の程度が低くなることによる。
【0121】
続いて、図15は、誤り率10−4においてIBOを変化させた時のBER特性の劣化量を示す図である。なお、ここでいう劣化量とは、図13・図14を参照して説明した「理想値」からの劣化量をdB表示したものである。
【0122】
同図に示すように、IB信号およびOB信号の重畳信号からOB信号に係る補償レプリカ信号をキャンセルすることにより、キャンセル処理後の出力信号(IB信号)のBER特性の劣化量が大幅に抑えられることが分かる。なお、本シミュレーションは、実際の衛星中継局で使用されるTWTAの非線形特性と同条件でキャンセル処理を行うものである。それゆえ、TWTAの非線形領域における特性劣化を抑制するために、レプリカ信号を上記非線形補償モデルに入力して補償レプリカ信号を生成し、IB信号およびOB信号の重畳信号からOB信号に係る当該補償レプリカ信号をキャンセルするという本実施形態に係る信号補償方法は、極めて有効に希望波(IB信号)の信号劣化を低減可能であることを立証できた。
【0123】
このように、補償レプリカ信号生成手段8aは、衛星に搭載されたTWTAの入出力特性を示す非線形補償モデルにレプリカ信号を入力することにより補償レプリカ信号を生成するものである。従って、従来のように、線形領域で動作させることを目的として入力バックオフ(IBO)を十分に取り、そのため衛星から信号を出力する際の送信電力が低下してしまうという問題を大幅に軽減することができる。
【0124】
加えて、補償レプリカ信号生成手段8aは、非線形補償モデルにレプリカ信号を入力することで補償レプリカ信号を生成するものであり、必ずしも増幅器(アンプ)等のハードウェアを使用する必要がなく、ソフトウェアによる演算処理によって補償レプリカ信号を生成する構成も可能である。従って、ソフト的に補償レプリカ信号を生成することにより、ハードウェアにかかる費用を抑えつつ、通信装置1の小型化を同時に実現することができる。
【0125】
さらに、本実施形態で提案する信号補償方法は、不要波復調方式および遅延検出方式の何れにも適用することができる。これは、補償レプリカ信号生成手段8aが、アウトバウンド信号のレプリカ信号をフィルタ7から取得して、そのレプリカ信号を、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性を示す非線形補償モデルに入力することで補償レプリカ信号を生成するという方法を採るためである。
【0126】
従って、上記説明した不要波復調方式とは異なる遅延検出方式に本実施形態に係る信号補償方法を適用する場合には、図4のパス2において、信号補償装置8を干渉キャンセラの直前に設ける構成とすればよい。これにより、(図示しない)補償レプリカ信号生成手段8aが、不要波(A局の送信信号)のレプリカ信号を取得して、そのレプリカ信号を、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性を示す非線形補償モデルに入力することで補償レプリカ信号を生成することができる。そして、干渉キャンセラが重畳信号から補償レプリカ信号を減算することにより希望波が抽出される。
【0127】
このように、本実施形態に係る信号補償方法は、不要波復調方式および遅延検出方式の両方の方式において、非線形増幅器によって生じる受信信号の特性劣化を好適に補償することができる。それゆえ、本実施形態に係る信号補償方法は、不要波復調方式が採用されるP−MPシステム、及び、遅延検出方式が採用されるP−Pシステムの両方の信号重畳方式において好適に適用することができる。
【0128】
なお、P−Pシステムは、同一サイズのアンテナを使用する局A、局Bから同一の信号レベルで送信された2つの信号を同一の周波数帯域に重畳して伝送を行うシステムである。それゆえ、P−Pシステムでは、本実施形態に係る信号補償装置8を局A、局Bの両方に設けることが好ましい。
【0129】
このように、本実施形態に係る信号補償方法は、P−MPシステム及びP−Pシステムの何れの伝送信号重畳方式にも組み込むことができるため、幅広い需要者のニーズに応えることができる。
【0130】
加えて、本実施形態で提案する信号補償方法は、信号の変調方式が多値変調であるか否かに関係なく適用することができる。このことを、図16、図17を参照して説明する。なお、図16は、8PSK方式の信号点配置の例を示す図であり、図17は、16QAM方式の信号点配置の例を示す図である。
【0131】
一般的に、移動体通信システム等のようなデジタル無線通信システムにおいて、データは、所望の通信品質(例えば、受信機側で所定値以下の誤り率)を得られるような変調方式により伝送される。そして、そのような変調方式のうち、変調単位である1シンボルで複数ビットを伝送する方式として多値変調方式がある。多値変調方式は、変調単位である1シンボルで複数ビットの情報を伝送するものであり、1シンボルで2ビットの情報を伝送するものをQPSK(Quadri−Phase Shift Keying)方式、1シンボルで3ビットの情報を伝送するものを8PSK方式、1シンボルで4ビットの情報を伝送する16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)という。
【0132】
そして、図16、図17に示すように、変調信号が多値変調になるにつれ信号点の間隔(距離)が小さくなる。そのため、衛星に搭載された非線形増幅器による非線形歪みの影響は、変調信号が多値変調になるほど大きくなる。つまり、QPSK方式よりも8PSK方式が、8PSK方式よりも16QAM方式が非線形歪みの影響を大きく受ける。従って、非線形増幅器によって生じる受信信号の特性劣化も多値変調になるほど大きくなる。
【0133】
この点、本実施形態で提案する信号補償方法は、実際の衛星中継局で使用されるTWTAの非線形特性と同じ特性を希望波のレプリカ信号に与えるものであり、しかも、演算処理によって補償レプリカ信号をI成分およびQ成分で表現するものである。従って、本実施形態に係る信号補償方法は、I成分及びQ成分で表現されるQPSK方式、8PSK方式、16QAM方式等の何れの多値変調方式に対しても、非線形増幅器による非線形歪みの影響を排除しつつ、好適に適用することができる。
【0134】
これに対して、上述した非特許文献6の発明は、IBOを十分に取り、線形領域で非線形増幅器を動作させ、それにより干渉キャンセラを非線形系において動作させるというものである。つまり、非特許文献6の発明は、多値変調になるほど非線形増幅器による非線形歪みの影響が大きくなるという問題を考慮することなく、また、信号の変調方式を考慮することなく、一律にIBOを取ることにより非線形増幅器による非線形歪みの影響を排除するものである。従って、非特許文献6の発明は、信号の変調方式が多値変調方式の場合に、その多値変調方式ごとに異なる非線形増幅器による非線形歪みの影響を確実に排除できるとは言い難い。
【0135】
このような理由から、本実施形態で提案する信号補償方法は、従来発明である非特許文献6の発明が抱える課題を解決できるものであって、信号の変調方式が多値変調方式であるか否かに関係なく適用することができるという顕著な効果を有する。
【0136】
なお、本実施の形態では、主として衛星に搭載されている中継局の非線形増幅器(TWTA)による信号歪みの影響を説明した。しかしながら、本発明は、地上の基地局を介して行われる通信システムにおいて使用される非線形増幅器に対しても適用可能であり、その用途は、通信衛星に限定されるものではない。
【0137】
最後に、通信装置1の各ブロック、特に、信号補償装置8は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0138】
すなわち、通信装置1は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである通信装置1の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、通信装置1に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0139】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0140】
また、通信装置1を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを、通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によれば、同一の周波数帯域で信号を伝送する伝送信号重畳方式において、第1局から第2局に送信される信号から、所望の信号であるインバウンド信号を、中継局の非線形増幅器による信号歪みの影響を大幅に軽減して抽出することができる。
【符号の説明】
【0142】
1 通信装置
2 信号受信部
3 位相回転器
4 第1復調部
5 2値化部
6 変調器
7 フィルタ
8 信号補償装置
8a 補償レプリカ信号生成手段
8b I成分取得部
8c Q成分取得部
8d 非線形補償モデル演算部
9 自動増幅回路
10 相関算出部
11 信号遅延部
12 信号キャンセル部
13 第2復調部
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1局が送信した第1局送信信号と、この第1局送信信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号である第2局送信信号とが重畳された重畳信号を、信号増幅器を含む中継局からから受信し、当該重畳信号から、所望の信号としての第2局送信信号を得るための信号補償装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信の大容量化、通信速度の高速化に伴い衛星通信の用途が増加している。しかしながら、通信衛星に用いられる静止衛星は地球の赤道上を周回しておりその数は有限であるため、衛星通信における周波数の有効利用は極めて重要な課題である。
【0003】
そこで、周波数利用効率を向上させるため、VSAT(Very Small Aperture Terminal)システムや通常の対向型システムにおける伝送信号重畳方式が検討されている。
【0004】
伝送信号重畳方式では、相手局が送信する信号(希望波)と、自局が送信する信号(不要波)を同一の周波数帯域で伝送するため、不要波は希望波にとって干渉となる。そこで、干渉波の再生と除去を行う干渉キャンセラが必要になる。そして、その干渉キャンセラとして、自局送信信号を自局から送信した後に、衛星を経由して自局に返ってくる当該信号(不要波)を復調することによって、その正確なレプリカ信号を生成し、そのレプリカ信号を重畳信号から減算(キャンセル)する方法が採用される(不要波復調方式)。
【0005】
あるいは、他の伝送信号重畳方式として遅延検出方式も研究されている。遅延検出方式は、衛星1往復間の遅延時間を測定し、自局の送信信号をその遅延時間だけ遅延させることでレプリカ信号を生成し、重畳信号からレプリカ信号を減算するという方法である。
【0006】
このような伝送信号重畳方式を開示する文献として、特許文献1、及び、非特許文献1〜6参照が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2007/102415号公報(国際公開日 平成19年9月13日)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Dankberg, Paired Carrier Multiple Access(PCMA) for Satellite Communications, The ViaSat Inc. Presentation MaterialURL:http://www.viasat.com/_files/?view=pcma.pdf
【非特許文献2】M.Ichikawa, T.Hara, M.Okada, H.Yamamoto and K.Andou "Fast and Accurate Canceller on Carrier Super-positioning for VSAT Frequency Reuse "IEEE-WCNC 2005, New Orleans, March, 2005.
【非特許文献3】Takao hara, Michihiro Ichikawa, Minoru Okada, and Heiichi Yamamoto, "Canceller Design for Carrier Super-positioning Frequency Re-use of VSATsatellite Communications", IEIEC Transaction Vol.J88-B,No.7, pp1300-1309,July,2005.
【非特許文献4】Noriaki ISHIDA, "Commom-band Satellite Communication System", IEIEC Transactions Vol.J82-B, No.8, pp1531-1537, Aug.1999
【非特許文献5】B.R.Ebert, The Satellite Communication Application Handbook,Artech House, 1997
【非特許文献6】奈良先端科学技術大学院大学、浦谷剛史、修士論文「衛星中継増幅器の非線形性が信号重畳方式の伝送特性に与える影響」、2008.2.7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、非特許文献1〜5に記載の発明では以下の問題が生じる。
【0010】
具体的には、実際の衛星伝送系における衛星には非線形増幅器が設けられており、この非線形増幅器によって衛星からの不要波には非線形歪みが加えられる。一方、干渉キャンセラでは、受信機で不要波のレプリカ信号が生成される仕組みになっており、そのレプリカ信号は、基本的には非線形歪みの影響を受けない。従って、不要波とレプリカ信号との間に差異が生じ、受信機での不要波キャンセル後の信号(希望波)に非線形歪みが残留することとなる。その結果、希望波に干渉雑音が加わり、その信号波形が本来の波形とは異なるものとなってしまうという問題が生じる。また、希望波と不要波の2信号が非線形増幅器に入力された場合、2信号間の相互変調歪、及び混変調により信号のBER(Bit Error Rate)特性が大幅に劣化する可能性が懸念される。
【0011】
この点、特許文献1、及び非特許文献1〜5の発明は何れも、衛星に搭載されている中継局の非線形増幅器による信号歪みの影響を何ら考慮していない。従って、特許文献1、及び非特許文献1〜5の発明では、特に、希望波と干渉波の2信号が非線形増幅器に入力された場合、2信号間の相互変調歪、及び混変調により信号特性が大幅に劣化する可能性が高く、伝送信号重畳方式の最適な運用がなされるとは考え難い。
【0012】
一方、非特許文献6の発明は、非線形増幅器の非線形領域が干渉キャンセラの特性にどのような影響を与えるかを検討している。具体的には、入力バックオフ(IBO(Input Back−off))を取りBERの劣化と電力損失の総劣化量を示すことで、衛星中継局の適切な動作点を適宜選択し、干渉キャンセラが非線形系においても動作することを計算シミュレーションで明らかにしている。
【0013】
なお、IBOとは、衛星中継局に搭載された進行波管増幅器(TWTA:Traveling Wave Tube Amplifier、以下TWTA)等の非線形増幅器の出力が最大となる振幅を飽和出力振幅とし、そのときの入力振幅を飽和入力振幅とした場合、その飽和入力振幅を基準(0dB)として、そこからどれだけ振幅を抑えるかをデシベル表示したものである。
【0014】
しかしながら、非特許文献6の発明は、IBOを十分に取り線形領域で非線形増幅器を動作させるため、IBOが大きいほど衛星から信号を出力する際の送信電力が低下してしまうという問題がある。これをバックオフによる電力損失といい、通常は衛星に搭載された中継局の電力をできるだけ効率よく使用するためには、IBOを取りすぎないようにする必要がある。つまり、IBOと電力損失とはトレードオフの関係にあるところ、非特許文献6の発明では、IBOの取りすぎによって電力損失の増加が想定され、それゆえ、衛星から信号を出力する際の送信電力が低下してしまうという問題が懸念される。つまり、非特許文献6の発明では、非線形増幅器による信号の非線形歪みが、伝送信号重畳方式の最適な運用を妨げてしまう危険性が極めて高い。
【0015】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、中継局に搭載された非線形増幅器によって生じる受信信号の特性劣化を補償する信号補償装置、信号補償方法、信号補償プログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、及び、上記信号補償装置を備えた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る信号補償装置は、上記の課題を解決するために、第1局が送信した第1局送信信号と、この第1局送信信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号である第2局送信信号とが重畳された重畳信号が、信号増幅器を含む中継局から上記第2局に送信される通信システムに用いられる信号補償装置であって、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成手段を備えることを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係る信号補償方法は、上記の課題を解決するために、第1局が送信した第1局送信信号と、この第1局送信信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号である第2局送信信号とが重畳された重畳信号が、信号増幅器を含む中継局から上記第2局に送信される通信システムに用いられる信号補償装置であって、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成ステップを含むことを特徴としている。
【0018】
上記構成によれば、補償レプリカ信号生成手段あるいは補償レプリカ信号生成ステップは、第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を非線形補償モデルに入力することにより、線形領域および非線形領域を含む信号増幅器の入出力特性を包含した補償レプリカ信号を生成することができる。それゆえ、上記入出力特性による非線形性歪みの影響が残留する、第1及び第2局送信信号が重畳されてなる重畳信号から上記補償レプリカ信号を減算(キャンセル)することにより、上記非線形歪みによる影響が相殺された、第1局が送信した第1局送信信号(希望波)を抽出することができる。つまり、信号増幅器の非線形性歪みによる影響を排除した本来の信号波形のままの第1局送信信号を抽出することができる。
【0019】
このように、本発明に係る信号補償装置および信号補償方法では、補償レプリカ信号生成手段(ステップ)が、中継局の信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルにレプリカ信号を入力することにより補償レプリカ信号を生成するものである。従って、従来のように、線形領域で非線形増幅器を動作させることを目的として入力バックオフ(IBO)を十分に取り、そのため中継局から信号を出力する際の送信電力が低下してしまうという問題を大幅に軽減することになり、中継局に搭載されている非線形増幅器によって生じる受信信号の特性劣化を好適に補償することができる。
【0020】
さらに、本発明に係る信号補償装置では、
上記信号増幅器は、TWTAであって、
上記補償レプリカ信号生成手段は、以下の式(1)〜式(12)に基づいて、上記レプリカ信号を入力s(t)として得られる出力u(t)を、上記補償レプリカ信号として生成することが好ましい。
【0021】
u(t)=s(t)×G〔s(t)〕 …式(1)
G〔s(t)〕=1/|s(t)|
× g(|s(t)|)×exp(jf(|s(t)|)) …式(2)
g(γ)=αx・γ/(1+βx・γ2) …式(3)
f(γ)=αφ・γ2/(1+βφ・γ2) …式(4)
【0022】
【数1】
【0023】
【数2】
【0024】
ik=α×Ik …式(7)
qk=α×Qk …式(8)
s=ik+jqk …式(9)
【0025】
【数3】
【0026】
【数4】
【0027】
【数5】
【0028】
ただし、
u(t) :TWTAの出力信号
s(t) :TWTAへの入力信号
G〔s(t)〕:TWTAの利得(ゲイン)
g(r) :TWTAのAM/PM変換特性
f(r) :TWTAのAM/AM変換特性
AM :Amplitude Modulation(振幅変調)
PM :Phase Modulation(位相変調)
j :√(−1)
αx :小信号利得
1/√βx :飽和入力振幅
αφ :AM/PM変換特性を決めるパラメータ
βφ :AM/PM変換特性を決めるパラメータ
Ik :入力信号のk番目のI成分
Qk :入力信号のk番目のQ成分
N :データサンプリング数
ΓIBO :IBO(dB)
ik :TWTAへの入力複素振幅のI成分
qk :TWTAへの入力複素振幅のQ成分
Amax :飽和振幅最大値(dB)
【0029】
【数6】
【0030】
【数7】
【0031】
とする。
【0032】
上述したように、補償レプリカ信号生成手段(ステップ)は、非線形補償モデルにレプリカ信号を入力することで補償レプリカ信号を生成するものであるため、ソフトウェアによる演算処理によって補償レプリカ信号を生成することもできる。
【0033】
そこで、上記式(1)〜式(12)を用いることにより、上記補償レプリカ信号生成手段は、上記補償レプリカ信号のI成分およびQ成分を出力u(t)として演算処理で生成することができる。
【0034】
それゆえ、補償レプリカ信号生成手段(ステップ)は、より迅速かつ正確に所望の補償レプリカ信号を生成することができる。
【0035】
さらに、本発明に係る信号補償装置では、上記レプリカ信号は、上記第1局送信信号と上記第2局送信信号との間における電力密度の差を利用して、所望でない信号としての上記第2局送信信号を復調することで、当該第2局送信信号のレプリカとして生成されたものであることが好ましい。
【0036】
また、本発明に係る信号補償装置では、上記レプリカ信号は、上記第1局に送信された上記第2局送信信号が上記第2局に戻ってくるまでの間、上記第2局に保持されていることが好ましい。
【0037】
本発明に係る信号補償装置では、補償レプリカ信号生成手段は、自身に入力されたレプリカ信号を非線形補償モデルに入力することにより補償レプリカ信号を生成する。つまり、不要波復調方式および遅延検出方式の何れの方式においても、中継局となる衛星に搭載された信号増幅器の入出力特性を、非線形補償モデルとしてモデル化できるとともに、重畳信号からレプリカ信号をキャンセルして希望波を得る点において共通しているため、本発明に係る信号補償装置は、いわゆる不要波復調方式や遅延検出方式の何れにも適用可能である。
【0038】
つまり、本発明に係る信号補償装置は、何れの伝送信号重畳方式にも組み込むことができるため、幅広い需要者のニーズに応えうる汎用性の高い装置と言える。
【0039】
なお、前記信号補償装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記補償レプリカ信号生成手段として動作させることにより前記信号補償装置をコンピュータにて実現させる信号補償プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0040】
この場合、ソフトウェアによる演算処理によって補償レプリカ信号を生成することにより、ハード的に補償レプリカ信号を生成する構成に比べ、費用を抑えつつ、かつ、装置の小型化を実現することができる。
【0041】
加えて、上記信号補償装置を備えた通信装置も本発明の範疇に入る。これにより、当該通信装置は、中継局に搭載されている非線形増幅器によって生じる受信信号の特性劣化を好適に補償することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係る信号補償装置は、以上のように、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成手段を備える構成である。
【0043】
また、本発明に係る信号補償方法は、以上のように、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成ステップを含む構成である。
【0044】
また、本発明に係る信号補償プログラムは、以上のように、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成ステップをコンピュータに実行させる構成である。
【0045】
それゆえ、中継局に搭載されている非線形増幅器によって生じる受信信号の特性劣化を補償する信号補償装置、信号補償方法、信号補償プログラムを実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の信号補償装置を備えた通信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】周波数再利用が可能なP−Pシステムを説明するための図である。
【図3】周波数再利用が可能なP−MPシステムを説明するための図である。
【図4】遅延検出方式におけるレプリカ信号生成方法を説明するための図である。
【図5】不要波復調方式におけるレプリカ信号生成方法を説明するための図である。
【図6】入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む増幅器の入出力特性を概略的に示す図である。
【図7】重畳されたOB信号とIB信号がTWTAに入力され、OB信号がTWTAによる信号の非線形歪みの影響を受けた様子を示す図である。
【図8】TWTAにおけるAM/PM変換特性およびAM/AM変換特性を示すグラフである。
【図9】線形領域における、出力された電力スペクトルによる特性評価のシミュレーション結果を示す図である。
【図10】非線形領域における、出力された電力スペクトルによる特性評価のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】ハードウェアによる試験結果を示す図である。
【図12】シミュレーションによる、入力信号および出力信号のスペクトルを示す図である。
【図13】IBO=2dBの場合における、信号キャンセル後のIB信号の誤り率特性を示す図である。
【図14】IBO=10dBの場合における、信号キャンセル後のIB信号の誤り率特性を示す図である。
【図15】誤り率10−4においてIBOを変化させた時のBER特性の劣化量を示す図である。
【図16】8PSK方式の信号点配置の例を示す図である。
【図17】16QAM方式の信号点配置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本実施の形態に係る信号補償装置、及び当該信号補償装置を備えた通信装置の一実施形態について説明する。なお、説明の便宜上、以下では本発明をVSATネットワークに適用した場合の実施形態について説明するが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。
【0048】
〔1.VSAT型信号重畳方式の基本概要〕
図2、図3は、周波数再利用が可能とされる代表的な2つの衛星通信システムを示す。なお、各図に示される2つの衛星通信システムはそれぞれ、相手局が送信する信号(希望波)と、自局が送信する信号(不要波)を同一の周波数帯域で伝送するため、不要波は希望波にとって干渉となり、干渉波の再生と除去を行う干渉キャンセラが必要になる。以下、各図について説明する。
【0049】
図2は、P−P(Point to Point)システムを示す。P−Pシステムは、同一サイズのアンテナを使用する局A(第2局)、局B(第1局)から同一の信号レベルで送信された2つの信号を同一の周波数帯域に重畳して伝送を行うシステムである。このP−Pシステムでは、衛星1往復分の時間だけ自局の送信信号(第2局送信信号)を自局内で遅延させることでレプリカ信号を作成し、そのレプリカ信号を重畳信号から減算(キャンセル)することにより干渉キャンセラ処理を行う。この場合、衛星1往復分の遅延を正確に計測する必要があり、また両局で不要波をキャンセルする必要がある。なお、上記方法による不要波のキャンセルを遅延検出方式と称する。
【0050】
図3は、P−MP(Point to Multi Point)システムを示す。このシステムは、VSATシステムとも称されており、アンテナ口径の大きいハブ局A(Hub Station)(第2局)と、多数の超小型地球局B(Remote Station)(第1局)から構成される。なお、以下の説明では、ハブ局の側から見て、希望波のことをIB信号(Inbound Signal)(第1局送信信号)、不要波のことをOB信号(Outbound Signal)(第2局送信信号)と称する。
【0051】
ハブ局Aからリモート局へ送信されるOB信号のキャリアは広帯域で、一般的に狭帯域のIB信号のキャリアよりも信号電力密度が高い。これは、ハブ局とリモート局の間に受信性能(地球局のアンテナ密度の良さを表す値G/T:Gain to Noise Temperature Ratio)の差が存在するため、互いに必要な送信信号電力が異なるためである。よって、信号を重畳した場合、互いの受信信号電力を比べると、OB信号がIB信号より大きくなる。
【0052】
このような理由から、リモート局では、同じ帯域内に不要波であるIB信号が存在しても、それらを除去することなく希望波であるOB信号を復調できる。これにより、VSATシステムでは、多数のリモート局のシステムを変更する必要はない。これに対して、ハブ局では、希望波であるIB信号に対して電力の大きな信号は干渉となるため、IB信号を復調するためにはOB信号のレプリカを生成し、OB信号をキャンセルする必要がある。そして、上記方法による不要波のキャンセル方式を不要波復調方式と称する。
【0053】
〔2.レプリカ信号生成方法(遅延検出方式)〕
次に、P−Pシステムにおけるレプリカ信号生成方法を図4を参照して説明する。図4は、遅延検出方式におけるレプリカ信号生成方法を説明するための図である。
【0054】
同図では、A局が送信する信号(不要波)が破線で、B局が送信する信号(希望波)が実線で示される。なお、A局およびB局は同一サイズのアンテナを使用しているため、不要波および希望波は同一の信号レベルと考えてよい。
【0055】
同図に示すように、遅延検出方式におけるレプリカ信号生成方法にはパス1及びパス2が存在する。パス1では、不要波および希望波が重畳した重畳信号が伝送され、パス2では、不要波のレプリカ信号が生成・伝送される。なお、レプリカ信号の生成は、衛星1往復分の時間(τ)だけA局の送信信号(不要波)をA局内で遅延させ、その遅延した不要波をレプリカ信号として生成するというものである。そして、干渉キャンセラにおいて、重畳信号からレプリカ信号が減算(キャンセル)され、そのキャンセルされた信号が希望波として外部に出力される。
【0056】
このようにして希望波が取得されるため、遅延検出方式では、衛星1往復分の遅延を正確に、継続的に計測する必要があり、また両局で不要波をキャンセルすることになる。
【0057】
〔3.レプリカ信号生成方法(不要波復調方式)〕
次に、P−MPシステムにおけるレプリカ信号生成方法を図5を参照して説明する。図5は、不要波復調方式におけるレプリカ信号生成方法を説明するための図である。
【0058】
上述したように、VSATシステムにおいては、リモート局は、同じ帯域内に不要波であるIB信号が存在しても、それらを除去することなく希望波であるOB信号を復調できる。これにより、VSATシステムでは、多数のリモート局のシステムを変更する必要はない。これに対して、ハブ局では、希望波であるIB信号に対して電力の大きな信号は干渉となるため、IB信号を復調するためにはOB信号のレプリカを生成し、IB信号とOB信号の重畳信号からOB信号をキャンセルする必要がある。
【0059】
そこで、図5に示すように、不要波復調方式では、パス1においてIB信号とOB信号の重畳信号を伝送し、パス2では復調部においてOB信号のレプリカを生成する。そして、干渉キャンセラにおいて、重畳信号からレプリカ信号が減算(キャンセル)され、そのキャンセルされた信号が希望波として出力される。そして、上記減算は、レプリカ信号の生成に必要な時間だけ遅延して、重畳信号からレプリカ信号を減算し、これによりレプリカ信号が復調されるために生じる固定遅延による影響を抑えている。
【0060】
このようにして希望波が取得されるため、不要波復調方式は、シンプルであり、かつ、VSATシステムに好適に用いることができる。ただし、生成するレプリカ信号の正確性は、不要波を復調する際の誤り率特性に影響を受ける。
【0061】
〔4.衛星中継増幅器〕
衛星通信では、衛星(中継局)に搭載されている中継増幅器(信号増幅器)において多数の信号が共通増幅され、理想的な線形増幅器では、個々の出力信号の振幅や位相は共通増幅される他の信号の影響を受けることは無い。
【0062】
しかしながら、衛星に搭載されている固体増幅器(SSPA:Solid Statue Power Amplifier)や進行波管増幅器(TWTA)などの高出力増幅器(HPA:High Power Amplifier)では、入力される信号電力が小さい間は線形動作をするが、信号電力が大きくなると非線形増幅の影響が現れる。特に、伝送信号重畳方式では、同一の周波数帯域で複数の信号を送受信するため、非線形増幅の影響が大きくなる。
【0063】
図6は、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む増幅器の入出力特性を概略的に示す図である。
【0064】
同図に示すように、衛星に搭載されるSSPAまたはTWTA等の非線形増幅器は、線形領域および非線形領域を含む入出力特性を有し、線形領域では、入力レベルと出力レベルは線形性を維持しているものの、非線形領域では、入力レベルと出力レベルは線形性を失っており、出力信号が歪んで出力されてしまう。従って、伝送信号重畳方式の最適な運用という観点において、衛星中継増幅器の非線形性が通信システムの伝送特性に与える影響を排除する必要がある。
【0065】
次に説明する本実施形態に係る信号補償装置8は、上記問題点を解決することを目的とするものである。なお、以下では、信号補償装置8は、VSATシステムに適用されるものとして説明するが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。詳細は後述するが、信号補償装置8は、生成されたOB信号のレプリカ信号に対して所定の処理を加えるものであるため、レプリカ信号を生成する伝送信号重畳方式であれば、何れの方式に対しても適用が可能である。従って、信号補償装置8は、〔2.レプリカ信号生成方法(遅延検出方式)〕で説明したP−Pシステムにも適用することができる。
【0066】
〔5.信号補償装置8を備えた通信装置1の詳細〕
本実施形態に係る信号補償装置8が用いられる通信装置1について、図1等を参照して説明する。
【0067】
図1は、本発明の信号補償装置8を備えた通信装置1の構成を示すブロック図である。通信装置1は、VSATシステムにおいて、ハブ局側に設けられるものである。すなわち、通信装置1は、同図に示すように、信号受信部2と、位相回転器3と、第1復調部4と、2値化部5と、変調器6と、フィルタ7と、信号補償装置8と、自動増幅回路9と、相関算出部10と、信号遅延部11と、信号キャンセル部12と、第2復調部13と、を備えている。
【0068】
信号受信部2は、衛星からOB(アウトバウンド)信号とIB(インバウンド)信号とが重畳された重畳信号(図3参照)を受信するものである。そして、信号受信部2は、衛星から受信した信号をQPSKのI/Q信号に変換後、そのI/Q信号を位相回転器3に出力する。
【0069】
位相回転器3は、I/Q信号のキャリア位相同期を取るために入力信号の位相を回転させる。そして、位相回転器3は、位相回転を施したI/Q信号を、パス1を経由して信号遅延部11に出力する一方で、パス2を経由して第1復調部4に出力する。
【0070】
第1復調部4は、位相回転器3から出力されるアウトバウンド信号とインバウンド信号との間の電力密度の差Δを利用して、所望でないアウトバウンド信号を復調する。さらに、第1復調部4は、その内部に含む図示しないQPSKDemapブロックにより受信信号とその判定点の位相差を位相回転器3にフィードバックする。位相回転器3は、そのフィードバックを受けてI/Q信号の位相制御を行う。
【0071】
なお、電力密度差Δを利用したアウトバウンド信号の復調は従来方法に従えばよく、ここでの詳細説明は省略する。
【0072】
2値化部5は、第1復調部4により復調されたアウトバウンド信号を、I信号およびQ信号からなるパルス列に変換するものである。
【0073】
変調器6は、I信号およびQ信号からなるパルス列を、第1復調部4から出力されるキャリア列を用いて変調するものである。そして、変調されたキャリア列をフィルタ7に通すことで、衛星に搭載された非線形増幅器による信号の非線形歪みの影響を受ける前のアウトバウンド信号のレプリカ信号を再生する。
【0074】
信号補償装置8は、補償レプリカ信号生成手段8aを含む。補償レプリカ信号生成手段8aは、I成分取得部8b、Q成分取得部8c、及び非線形補償モデル演算部8dを含む。I成分取得部8bは、アウトバウンド信号のレプリカ信号のI成分をフィルタ7から取得する。Q成分取得部8cは、そのレプリカ信号のQ成分をフィルタ7から取得する。
【0075】
非線形補償モデル演算部8dは、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む非線形増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルを有する。そして、非線形補償モデル演算部8dは、I成分取得部8bおよびQ成分取得部8cから取得した上記レプリカ信号のI成分及びQ成分を上記非線形補償モデルに入力し、後述の演算を行うことにより、I成分及びQ成分で示される補償レプリカ信号を生成する。なお、その補償レプリカ信号は、線形領域および非線形領域を含む非線形増幅器の入出力特性をレプリカ信号に包含させた信号である。
【0076】
次に、非線形補償モデル演算部8dは、その補償レプリカ信号を自動増幅回路9および相関算出部10に出力する。なお、線形領域および非線形領域を含む信号増幅器の入出力特性、非線形補償モデルの詳細、及び補償レプリカ信号の生成については後ほど詳述する。
【0077】
自動増幅回路9は、信号補償装置8と信号キャンセル部12との間に設けられるものであり、不要波信号を含む衛星からの受信信号および生成されたレプリカ信号を同期し、両信号の振幅を同程度とするものである。信号キャンセル部12における信号キャンセル後の出力において、生成されたレプリカ信号と不要波との間の電力差が復調する希望波の干渉となるため、そのような事態を未然に防止することを目的として自動増幅回路9が設けられる。
【0078】
相関算出部10は、信号キャンセル部12の出力である残留信号とレプリカ信号との相関を算出するものである。自動増幅回路9で用いられる振幅制御信号は、相関算出部10で算出された相関に基づいて求められる。
【0079】
信号遅延部11は、パス2においてレプリカ信号を生成している時間だけ、パス1経由で位相回転器3から出力される信号を遅延させるものである。パス2においてレプリカ信号を生成するのに必要な時間(τ)は、常に一定であり、通常、10シンボルから最大でも数10シンボル期間となる。
【0080】
信号キャンセル部12は、信号遅延部11により遅延された信号から、自動増幅回路9が出力した補償レプリカ信号を減算(キャンセル)するものである。信号キャンセル部12は、キャンセル後の信号を相関算出部10に出力すると共に、第2復調部13にも出力する。なお、信号キャンセル部12におけるキャンセル処理は従来方法に従えばよく、ここでの詳細説明は省略する。
【0081】
第2復調部13は、信号キャンセル部12でキャンセル処理された後の信号を復調することで、所望の信号であるインバウンド信号を得る。
【0082】
〔6.非線形補償モデル(TWTAモデル)〕
衛星通信では、衛星に搭載されている中継増幅器において複数の信号が共通増幅され、その増幅器として固体増幅器(SSPA)や進行波管増幅器(TWTA)などの高出力増幅器(HPA)が使用される。なお、一般的には、SSPAが地上の移動通信に使用され、TWTAが衛星に搭載されるケースが多い。これは、TWTAの方がSSPAよりも高い出力を得られるためである。
【0083】
そこで、本実施形態では、衛星に搭載されている増幅器がTWTAである場合を念頭に、信号補償装置8において補償レプリカ信号を生成する方法を提案する。従って、信号補償装置8は、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性を示す非線形補償モデルに、OB信号(不要波)のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する、と考えてよい。そこで、以下では、線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性、TWTAに係る非線形補償モデル、その非線形補償モデルにOB信号のレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する方法、そして当該方法によって得られる効果を順次説明する。
【0084】
なお、本願発明はTWTAに限定されるものではなく、SSPAにおいても同様に、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含むSSPAの入出力特性を示す非線形補償モデルに、OB信号(不要波)のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成することも可能である。
【0085】
〔6−1.TWTAモデル〕
最初に、重畳されたOB信号およびIB信号がTWTAに入力され、OB信号がTWTAによる信号の非線形歪みの影響を受けた様子を図7に示す。なお、図7では、横軸は入力信号のI成分を、縦軸は入力信号のQ成分を表しており、OB信号およびIB信号を複素表現している。
【0086】
同図の(a)、(b)、(c)は、TWTAに入力されるOB信号、IB信号、そしてそれらを合成した信号(IB信号+OB信号)の信号ベクトルを示す。(d)は、TWTAによる信号の非線形歪みを受けたIB信号及びOB信号の合成信号であるTWTAの出力ベクトルを示す。なお、合成信号(c)が受ける非線形歪みによる影響は、ハブ局が送信したOB信号にのみ及ぶ。
【0087】
これから説明するTWTAモデルは、図7(d)で示されるTWTAによる非線形歪みの影響を受けたOB信号のレプリカ信号に当該非線形歪みを包含させた補償レプリカ信号を生成するというものである。
【0088】
そこで、まずTWTAの入出力特性を説明し、続いてTWTAに係る非線形補償モデルについて説明する。この非線形補償モデルではTWTAへの入力信号を複素関数s(t)で表現する。このとき、レプリカ信号を入力s(t)として得られる出力u(t)を、上記補償レプリカ信号として生成する式は、以下の式(1)で表される。
【0089】
u(t)=s(t)×G〔s(t)〕 …式(1)
ここで、
u(t) :TWTAの出力信号
s(t) :TWTAへの入力信号
G〔s(t)〕:TWTAの利得(ゲイン)
とする。
さらに、TWTAのゲインであるG〔s(t)〕は以下の式(2)で表される。
【0090】
G〔s(t)〕=1/|s(t)|
× g(|s(t)|)×exp(jf(|s(t)|)) …式(2)
ここで、
g(r):TWTAのAM/PM変換特性
f(r):TWTAのAM/AM変換特性
AM :Amplitude Modulation(振幅変調)
PM :Phase Modulation(位相変調)
j :√(−1)
とする。
【0091】
そして、TWTAでは、g(γ)は式(3)で、f(γ)は式(4)で、それぞれ表される。
【0092】
g(γ)=αx・γ/(1+βx・γ2) …式(3)
f(γ)=αφ・γ2/(1+βφ・γ2) …式(4)
ここで、
αx :小信号利得
1/√βx:飽和入力振幅
αφ :AM/PM変換特性を決めるパラメータ
βφ :AM/PM変換特性を決めるパラメータ
とする。
【0093】
ここで、図8は、TWTAにおけるAM/PM変換特性およびAM/AM変換特性を示すグラフである。また、表1は、式(3)、式(4)で使用される、TWTAの特性を決めるパラメータの値を示す。なお、表1の各パラメータは、TWTAに好適とされる代表的な数値であり、これらのパラメータを式(3)、式(4)に挿入した場合に、式(3)のg(γ)は図8のAM/AM変換特性を、式(4)のf(γ)は同図のAM/PM変換特性を好適に表すことが知られている。
【0094】
【表1】
【0095】
また、飽和出力振幅をTWTAの出力が最大となるところとした場合に、そのときの入力振幅を飽和入力振幅(1/√βx)とする。さらに、入力バックオフ(IBO:Input Back−off)、出力バックオフ(OBO:Output Back−off)は、飽和入力振幅、飽和出力振幅を基準(0dB)として、そこからどれだけ振幅を抑えるかをデシベル表示したものと定義する。
【0096】
例えば、図8では、飽和入力基準は出力振幅が最大になるときの入力振幅である2dBとなる。これをIBOの基準として、入力振幅を1/2にする(入力電力を6dB下げる)と、出力振幅は0.8、すなわち、OBOの基準である出力振幅1.0の4/5となる。つまり、出力電力が2dB下がったことになり、このときのIBO、OBOはそれぞれ6dB、2dBとなる。
【0097】
続いて、入力信号のk番目のI成分及びQ成分をそれぞれIkおよびQkとして、入力信号の平均電力を以下の式(5)で算出する。
【0098】
【数1】
【0099】
ここで、
N:データサンプリング数
とする。
【0100】
次に、以下の式(6)で入力電力補正係数αを算出する。
【0101】
【数2】
【0102】
ここで、
ΓIBO:IBO(dB)
とする。
すると、式(1)、及び式(2)でモデル化される非線形増幅器TWTAへの入力複素振幅のI成分およびQ成分は、以下の式(7)、式(8)で与えられる。
【0103】
ik=α×Ik …式(7)
qk=α×Qk …式(8)
そして、式(1)、式(2)において、
s=ik+jqk …式(9)
として、非線形補償モデルの出力値の計算を行う。
従って、出力値uは、以下の式(10)で得られる。
【0104】
【数3】
【0105】
得られた出力値uはさらに、飽和振幅最大値Amaxと乗算されて出力される。従って、出力信号のI成分及びQ成分は、以下の式(11)、式(12)で表される。
【0106】
【数4】
【0107】
【数5】
【0108】
このようにして、式(1)〜式(12)に基づいて出力信号のI成分及びQ成分が算出される。つまり、式(1)〜式(12)に基づいて、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性を示す非線形補償モデルを実現することができる。
【0109】
これを図1のブロック図に当てはめて考えてみると、信号補償装置8を構成するI成分取得部8b及びQ成分取得部8cが、アウトバウンド信号のレプリカ信号に係るI成分およびQ成分をフィルタ7から取得する。このレプリカ信号のI成分およびQ成分が非線形補償モデルへの入力信号(s(t))となる。そして、非線形補償モデル演算部8dは、入力信号s(t)を入力として、式(1)〜式(12)で示される非線形補償モデルにおいて演算を行い、最終的にI成分及びQ成分で示される補償レプリカ信号を生成する(式(11)、式(12))。このようにして、式(1)〜式(12)により補償レプリカ信号が生成され、その補償レプリカ信号に線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性が包含される。
【0110】
〔6−2.シミュレーションおよび実証試験による試験結果〕
TWTAの線形領域および非線形領域における干渉キャンセラの特性劣化の補償について、コンピュータ・シュミレーション、及び、FPGA(Field Programmable Gate Array)に基づくハードウェア・プロトタイプによるラボテストを行った。なお、IB信号に対するOB信号の電力密度比は13dBで設定した。
【0111】
図9は、線形領域における、出力された電力スペクトルによる特性評価のシミュレーション結果を示すものであり、受信信号(5MHzのOB信号および1MHzのIB信号を含む)の電力スペクトルと抽出したIB信号とが示されている。また、図10は、非線形領域における、出力された電力スペクトルによる特性評価のシミュレーション結果を示すものであり、IBOが0dBの場合の非線形領域についてのシミュレーション結果が示されている。
【0112】
図9と図10とを比較して分かるように、IB信号(希望波)は、線形領域の方が非線形領域よりも確実に抽出される。非線形領域では、残留OB信号(干渉波)とIB信号の電力密度比(D/U)が10dB以下と小さくなっていることがわかる。
【0113】
図11は、上記シミュレーションと同様の条件で行ったハードウェアによる試験結果を示す図であり、受信信号(OB信号+IB信号)及び抽出IB信号が示されている。結果として、ハードウェアによる試験結果は、シミュレーションによる試験結果に劣るものであった。つまり、ハードウェアによる試験ではIB信号を十分に抽出することができなかった。抽出されたIB信号のD/Uが僅か6〜7dBであった。これは、実験では非線形の影響がより強く出たためと考えられる。
【0114】
〔6−3.シミュレーションによるキャンセラの動作検証〕
次に、シミュレーションによるキャンセラの動作検証を説明する。なお、シミュレーションでは、OB信号をQPSK信号、IB信号をDQPSK信号とし、IB信号に対するOB信号の電力密度比を13dBに設定した。その他のシミュレーション緒元は表2に記載する通りである。
【0115】
【表2】
【0116】
最初に、信号キャンセル後のIB信号の特性劣化に対する補償の効果を説明する。図12は、シミュレーションによる、キャンセラへの入力信号(IB信号+OB信号)とキャンセラからの出力信号(IB信号)のスペクトルを示す図である。なお、TWTAの動作点は飽和入力基準であり(IBO=0dB)、IB信号に対するOB信号の電力密度比は13dBで設定している。さらに、出力信号は、補償の有無による2通りのシミュレーションを行った。
【0117】
同図に示すように、補償の有無で比較した場合、IB信号およびOB信号の重畳信号からOB信号に係る補償レプリカ信号をキャンセルすることで、IB信号の信号劣化が約10dB、すなわち約90%抑制される。このことは、上記キャンセルによるIB信号の特性劣化の抑制効果が極めて高いことを示すものである。
【0118】
次に、信号キャンセル後のIB信号の誤り率特性を説明する。図13は、IBO=2dBの場合における、信号キャンセル後のIB信号の誤り率特性を示す図である。図14は、IBO=10dBの場合における、信号キャンセル後のIB信号の誤り率特性を示す図である。
【0119】
図13から分かるように、IBO=2dBの場合、「補償あり」は「補償なし」よりもIB信号の誤り率特性が低い数値を示している。つまり、IB信号およびOB信号の重畳信号からOB信号に係る補償レプリカ信号をキャンセルすることにより、IB信号の誤り率特性を低減することが立証された。
【0120】
一方、図14から分かるように、IBO=10dBの場合、「補償あり」と「補償なし」とではIB信号の誤り率特性に明確な差異がなく、IB信号およびOB信号の重畳信号からOB信号に係る補償レプリカ信号をキャンセルすることによる有意な効果は認められなかった。これは、IBO=10dBとすることにより、入力信号に対する出力信号の入出力特性が非線形領域から線形領域に近づき、信号劣化の程度が低くなることによる。
【0121】
続いて、図15は、誤り率10−4においてIBOを変化させた時のBER特性の劣化量を示す図である。なお、ここでいう劣化量とは、図13・図14を参照して説明した「理想値」からの劣化量をdB表示したものである。
【0122】
同図に示すように、IB信号およびOB信号の重畳信号からOB信号に係る補償レプリカ信号をキャンセルすることにより、キャンセル処理後の出力信号(IB信号)のBER特性の劣化量が大幅に抑えられることが分かる。なお、本シミュレーションは、実際の衛星中継局で使用されるTWTAの非線形特性と同条件でキャンセル処理を行うものである。それゆえ、TWTAの非線形領域における特性劣化を抑制するために、レプリカ信号を上記非線形補償モデルに入力して補償レプリカ信号を生成し、IB信号およびOB信号の重畳信号からOB信号に係る当該補償レプリカ信号をキャンセルするという本実施形態に係る信号補償方法は、極めて有効に希望波(IB信号)の信号劣化を低減可能であることを立証できた。
【0123】
このように、補償レプリカ信号生成手段8aは、衛星に搭載されたTWTAの入出力特性を示す非線形補償モデルにレプリカ信号を入力することにより補償レプリカ信号を生成するものである。従って、従来のように、線形領域で動作させることを目的として入力バックオフ(IBO)を十分に取り、そのため衛星から信号を出力する際の送信電力が低下してしまうという問題を大幅に軽減することができる。
【0124】
加えて、補償レプリカ信号生成手段8aは、非線形補償モデルにレプリカ信号を入力することで補償レプリカ信号を生成するものであり、必ずしも増幅器(アンプ)等のハードウェアを使用する必要がなく、ソフトウェアによる演算処理によって補償レプリカ信号を生成する構成も可能である。従って、ソフト的に補償レプリカ信号を生成することにより、ハードウェアにかかる費用を抑えつつ、通信装置1の小型化を同時に実現することができる。
【0125】
さらに、本実施形態で提案する信号補償方法は、不要波復調方式および遅延検出方式の何れにも適用することができる。これは、補償レプリカ信号生成手段8aが、アウトバウンド信号のレプリカ信号をフィルタ7から取得して、そのレプリカ信号を、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性を示す非線形補償モデルに入力することで補償レプリカ信号を生成するという方法を採るためである。
【0126】
従って、上記説明した不要波復調方式とは異なる遅延検出方式に本実施形態に係る信号補償方法を適用する場合には、図4のパス2において、信号補償装置8を干渉キャンセラの直前に設ける構成とすればよい。これにより、(図示しない)補償レプリカ信号生成手段8aが、不要波(A局の送信信号)のレプリカ信号を取得して、そのレプリカ信号を、入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含むTWTAの入出力特性を示す非線形補償モデルに入力することで補償レプリカ信号を生成することができる。そして、干渉キャンセラが重畳信号から補償レプリカ信号を減算することにより希望波が抽出される。
【0127】
このように、本実施形態に係る信号補償方法は、不要波復調方式および遅延検出方式の両方の方式において、非線形増幅器によって生じる受信信号の特性劣化を好適に補償することができる。それゆえ、本実施形態に係る信号補償方法は、不要波復調方式が採用されるP−MPシステム、及び、遅延検出方式が採用されるP−Pシステムの両方の信号重畳方式において好適に適用することができる。
【0128】
なお、P−Pシステムは、同一サイズのアンテナを使用する局A、局Bから同一の信号レベルで送信された2つの信号を同一の周波数帯域に重畳して伝送を行うシステムである。それゆえ、P−Pシステムでは、本実施形態に係る信号補償装置8を局A、局Bの両方に設けることが好ましい。
【0129】
このように、本実施形態に係る信号補償方法は、P−MPシステム及びP−Pシステムの何れの伝送信号重畳方式にも組み込むことができるため、幅広い需要者のニーズに応えることができる。
【0130】
加えて、本実施形態で提案する信号補償方法は、信号の変調方式が多値変調であるか否かに関係なく適用することができる。このことを、図16、図17を参照して説明する。なお、図16は、8PSK方式の信号点配置の例を示す図であり、図17は、16QAM方式の信号点配置の例を示す図である。
【0131】
一般的に、移動体通信システム等のようなデジタル無線通信システムにおいて、データは、所望の通信品質(例えば、受信機側で所定値以下の誤り率)を得られるような変調方式により伝送される。そして、そのような変調方式のうち、変調単位である1シンボルで複数ビットを伝送する方式として多値変調方式がある。多値変調方式は、変調単位である1シンボルで複数ビットの情報を伝送するものであり、1シンボルで2ビットの情報を伝送するものをQPSK(Quadri−Phase Shift Keying)方式、1シンボルで3ビットの情報を伝送するものを8PSK方式、1シンボルで4ビットの情報を伝送する16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)という。
【0132】
そして、図16、図17に示すように、変調信号が多値変調になるにつれ信号点の間隔(距離)が小さくなる。そのため、衛星に搭載された非線形増幅器による非線形歪みの影響は、変調信号が多値変調になるほど大きくなる。つまり、QPSK方式よりも8PSK方式が、8PSK方式よりも16QAM方式が非線形歪みの影響を大きく受ける。従って、非線形増幅器によって生じる受信信号の特性劣化も多値変調になるほど大きくなる。
【0133】
この点、本実施形態で提案する信号補償方法は、実際の衛星中継局で使用されるTWTAの非線形特性と同じ特性を希望波のレプリカ信号に与えるものであり、しかも、演算処理によって補償レプリカ信号をI成分およびQ成分で表現するものである。従って、本実施形態に係る信号補償方法は、I成分及びQ成分で表現されるQPSK方式、8PSK方式、16QAM方式等の何れの多値変調方式に対しても、非線形増幅器による非線形歪みの影響を排除しつつ、好適に適用することができる。
【0134】
これに対して、上述した非特許文献6の発明は、IBOを十分に取り、線形領域で非線形増幅器を動作させ、それにより干渉キャンセラを非線形系において動作させるというものである。つまり、非特許文献6の発明は、多値変調になるほど非線形増幅器による非線形歪みの影響が大きくなるという問題を考慮することなく、また、信号の変調方式を考慮することなく、一律にIBOを取ることにより非線形増幅器による非線形歪みの影響を排除するものである。従って、非特許文献6の発明は、信号の変調方式が多値変調方式の場合に、その多値変調方式ごとに異なる非線形増幅器による非線形歪みの影響を確実に排除できるとは言い難い。
【0135】
このような理由から、本実施形態で提案する信号補償方法は、従来発明である非特許文献6の発明が抱える課題を解決できるものであって、信号の変調方式が多値変調方式であるか否かに関係なく適用することができるという顕著な効果を有する。
【0136】
なお、本実施の形態では、主として衛星に搭載されている中継局の非線形増幅器(TWTA)による信号歪みの影響を説明した。しかしながら、本発明は、地上の基地局を介して行われる通信システムにおいて使用される非線形増幅器に対しても適用可能であり、その用途は、通信衛星に限定されるものではない。
【0137】
最後に、通信装置1の各ブロック、特に、信号補償装置8は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0138】
すなわち、通信装置1は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである通信装置1の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、通信装置1に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0139】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0140】
また、通信装置1を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを、通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によれば、同一の周波数帯域で信号を伝送する伝送信号重畳方式において、第1局から第2局に送信される信号から、所望の信号であるインバウンド信号を、中継局の非線形増幅器による信号歪みの影響を大幅に軽減して抽出することができる。
【符号の説明】
【0142】
1 通信装置
2 信号受信部
3 位相回転器
4 第1復調部
5 2値化部
6 変調器
7 フィルタ
8 信号補償装置
8a 補償レプリカ信号生成手段
8b I成分取得部
8c Q成分取得部
8d 非線形補償モデル演算部
9 自動増幅回路
10 相関算出部
11 信号遅延部
12 信号キャンセル部
13 第2復調部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1局が送信した第1局送信信号と、この第1局送信信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号である第2局送信信号とが重畳された重畳信号が、信号増幅器を含む中継局から上記第2局に送信される通信システムに用いられる信号補償装置であって、
入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成手段を備えることを特徴とする信号補償装置。
【請求項2】
上記信号増幅器は、進行波管増幅器(TWTA:Traveling Wave Tube Amplifier、以下TWTA)であって、
上記補償レプリカ信号生成手段は、以下の式(1)〜式(12)に基づいて、上記レプリカ信号を入力s(t)として得られる出力u(t)を、上記補償レプリカ信号として生成することを特徴とする請求項1に記載の信号補償装置。
u(t)=s(t)×G〔s(t)〕 …式(1)
G〔s(t)〕=1/|s(t)|
× g(|s(t)|)×exp(jf(|s(t)|)) …式(2)
g(γ)=αx・γ/(1+βx・γ2) …式(3)
f(γ)=αφ・γ2/(1+βφ・γ2) …式(4)
【数1】
【数2】
ik=α×Ik …式(7)
qk=α×Qk …式(8)
s=ik+jqk …式(9)
【数3】
【数4】
【数5】
ただし、
u(t) :TWTAの出力信号
s(t) :TWTAへの入力信号
G〔s(t)〕:TWTAの利得(ゲイン)
g(r) :TWTAのAM/PM変換特性
f(r) :TWTAのAM/AM変換特性
AM :Amplitude Modulation(振幅変調)
PM :Phase Modulation(位相変調)
j :√(−1)
αx :小信号利得
1/√βx :飽和入力振幅
αφ :AM/PM変換特性を決めるパラメータ
βφ :AM/PM変換特性を決めるパラメータ
Ik :入力信号のk番目のI成分
Qk :入力信号のk番目のQ成分
N :データサンプリング数
ΓIBO :IBO(dB)
ik :TWTAへの入力複素振幅のI成分
qk :TWTAへの入力複素振幅のQ成分
Amax :飽和振幅最大値(dB)
【数6】
【数7】
とする。
【請求項3】
上記レプリカ信号は、上記第1局送信信号と上記第2局送信信号との間における電力密度の差を利用して、所望でない信号としての上記第2局送信信号を復調することで、当該第2局送信信号のレプリカとして生成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の信号補償装置。
【請求項4】
上記レプリカ信号は、上記第1局に送信された上記第2局送信信号が上記第2局に戻ってくるまでの間、上記第2局に保持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の信号補償装置。
【請求項5】
第1局が送信した第1局送信信号と、この第1局送信信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号である第2局送信信号とが重畳された重畳信号が、信号増幅器を含む中継局から上記第2局に送信される通信システムに用いられる信号補償方法であって、
入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成ステップを含むことを特徴とする信号補償方法。
【請求項6】
第1局が送信した第1局送信信号と、この第1局送信信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号である第2局送信信号とが重畳された重畳信号が、信号増幅器を含む中継局から上記第2局に送信される通信システムに用いられる信号補償プログラムであって、
入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成ステップをコンピュータに実行させるための信号補償プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の信号補償プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項8】
請求項1から4の何れか1項に記載の信号補償装置を備えた通信装置。
【請求項1】
第1局が送信した第1局送信信号と、この第1局送信信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号である第2局送信信号とが重畳された重畳信号が、信号増幅器を含む中継局から上記第2局に送信される通信システムに用いられる信号補償装置であって、
入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成手段を備えることを特徴とする信号補償装置。
【請求項2】
上記信号増幅器は、進行波管増幅器(TWTA:Traveling Wave Tube Amplifier、以下TWTA)であって、
上記補償レプリカ信号生成手段は、以下の式(1)〜式(12)に基づいて、上記レプリカ信号を入力s(t)として得られる出力u(t)を、上記補償レプリカ信号として生成することを特徴とする請求項1に記載の信号補償装置。
u(t)=s(t)×G〔s(t)〕 …式(1)
G〔s(t)〕=1/|s(t)|
× g(|s(t)|)×exp(jf(|s(t)|)) …式(2)
g(γ)=αx・γ/(1+βx・γ2) …式(3)
f(γ)=αφ・γ2/(1+βφ・γ2) …式(4)
【数1】
【数2】
ik=α×Ik …式(7)
qk=α×Qk …式(8)
s=ik+jqk …式(9)
【数3】
【数4】
【数5】
ただし、
u(t) :TWTAの出力信号
s(t) :TWTAへの入力信号
G〔s(t)〕:TWTAの利得(ゲイン)
g(r) :TWTAのAM/PM変換特性
f(r) :TWTAのAM/AM変換特性
AM :Amplitude Modulation(振幅変調)
PM :Phase Modulation(位相変調)
j :√(−1)
αx :小信号利得
1/√βx :飽和入力振幅
αφ :AM/PM変換特性を決めるパラメータ
βφ :AM/PM変換特性を決めるパラメータ
Ik :入力信号のk番目のI成分
Qk :入力信号のk番目のQ成分
N :データサンプリング数
ΓIBO :IBO(dB)
ik :TWTAへの入力複素振幅のI成分
qk :TWTAへの入力複素振幅のQ成分
Amax :飽和振幅最大値(dB)
【数6】
【数7】
とする。
【請求項3】
上記レプリカ信号は、上記第1局送信信号と上記第2局送信信号との間における電力密度の差を利用して、所望でない信号としての上記第2局送信信号を復調することで、当該第2局送信信号のレプリカとして生成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の信号補償装置。
【請求項4】
上記レプリカ信号は、上記第1局に送信された上記第2局送信信号が上記第2局に戻ってくるまでの間、上記第2局に保持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の信号補償装置。
【請求項5】
第1局が送信した第1局送信信号と、この第1局送信信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号である第2局送信信号とが重畳された重畳信号が、信号増幅器を含む中継局から上記第2局に送信される通信システムに用いられる信号補償方法であって、
入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成ステップを含むことを特徴とする信号補償方法。
【請求項6】
第1局が送信した第1局送信信号と、この第1局送信信号とは異なる信号であって、第2局が送信した信号である第2局送信信号とが重畳された重畳信号が、信号増幅器を含む中継局から上記第2局に送信される通信システムに用いられる信号補償プログラムであって、
入力信号に対する出力信号の入出力特性が線形領域および非線形領域を含む上記信号増幅器の入出力特性を示す非線形補償モデルに、上記第2局送信信号のレプリカであるレプリカ信号を入力して補償レプリカ信号を生成する補償レプリカ信号生成ステップをコンピュータに実行させるための信号補償プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の信号補償プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項8】
請求項1から4の何れか1項に記載の信号補償装置を備えた通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−55125(P2011−55125A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200596(P2009−200596)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【出願人】(397060072)スカパーJSAT株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【出願人】(397060072)スカパーJSAT株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
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