説明

修治技術を取り入れたきのこ類の機能性食品およびその生産方法

【課題】 修治技術を応用して、きのこ類から有用な物質を抽出する方法、及びこの方法によって得られた機能性食品等を提供すること。
【解決手段】 アガリスク、エノキタケ、エリンギ、カバノアナタケ、シイタケ、タモギタケ、冬虫夏草、トンビマイタケ、ナメコ、ハタケシメジ、ハナビラタケ、ヒラタケ、フクロタケ、ブナシメジ、マイタケ、マツタケ、メシマコブ、ヒマラヤヒラタケ、バイリングまたは霊芝(マンネンタケとも言う)からなる群から選ばれる1または2以上のきのこ類を乾燥処理し、その乾燥きのこ類を100℃〜200℃の熱気体で修治処理することにより、修治処理きのこ類が得られる。このきのこ類を適当に破砕或いは粉砕することで、機能性食品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修治技術を取り入れたきのこ類の機能性食品およびその生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種きのこ類に含まれる有用物質を抽出し、機能性食品を得ようとする研究開発が行われている(例えば、特許文献1〜特許文献3)。これらの文献においては、きのこ類を乾燥させた後にその乾燥物を粉末化してそのまま用いる方法、或いはきのこ類から水、アルコール又は熱水を用いて抽出した溶液を用いる方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−102525号公報
【特許文献2】特開2005−288901号公報
【特許文献3】特開2004−292414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の方法によっては、十分に有用な物質が抽出されていないという虞がある。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、修治技術を応用して、きのこ類から有用な物質を抽出する方法、及びこの方法によって得られた機能性食品等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は長年に渡って、漢方の技術を応用することで、従来には知られていなかった有用な食品、医薬品を調製することを試みている。漢方には、修治という技術が知られている。修治とは、生薬に熱を加えたり、水で煮たりなどの加工処理を行う技術全般を意味している。そのような修治処理を行うことにより、生薬の毒性を少なくしたり、生のままでは抽出し難い(或いは抽出できない)成分を抽出できると考えられている。
本発明者らは、きのこ類に修治技術を応用することにより、有用な効果を発揮できる食品等を得ることに成功し、基本的には本発明を完成するに至った。
【0005】
こうして、上記課題を解決するための第1の発明に係るきのこ類由来組成物の製造方法は、きのこ類を乾燥処理し、その乾燥きのこ類を100℃〜200℃の熱気体で修治処理することを特徴とする。
きのこ類とは、子嚢菌の一部および担子菌類の子実体を意味しており、例えばアガリスク、エノキタケ、エリンギ、カバノアナタケ、シイタケ、タモギタケ、冬虫夏草、トンビマイタケ、ナメコ、ハタケシメジ、ハナビラタケ、ヒラタケ、フクロタケ、ブナシメジ、マイタケ、マツタケ、メシマコブ、ヒマラヤヒラタケ、バイリング、霊芝(マンネンタケとも言う)などを含むが、これらには限られない。これらのうち、特にエリンギまたはハナビラタケであることが好ましい。
【0006】
乾燥処理とは、きのこ類の水分が所定の割合以下となるように乾燥させる処理を施したことを意味する。そのような乾燥処理の方法としては、例えばきのこ類を天日にさらす乾燥処理、或いはきのこ類を所定の温度(例えば40℃〜100℃、好ましくは40℃〜80℃、更に好ましくは40℃〜70℃、更にさらに好ましくは40℃〜60℃)にコントロールした場所に置く乾燥処理が挙げられる。乾燥時間は特に限られず、乾燥きのこ類が提供できる程度の時間の処理を行う。
乾燥きのこ類とは、初めに含まれていたきのこ類の水分を減少させることにより、乾燥きのこ類の全質量あたり10%以下(好ましくは5%以下)としたものを意味する。
【0007】
そのような乾燥きのこ類を100℃〜200℃(好ましくは130℃〜200℃、更に好ましくは150℃〜200℃)の熱気体で修治処理することにより、きのこ類由来有用組成物を製造することができる。熱気体は、電気、ガス、炭等の燃焼材により気体(例えば空気)を熱することにより得られるが、これらの方法には限られない。
修治処理に必要な時間としては、(1)所定の温度で所定の時間(例えば、10分間〜120分間)だけ処理する方法と、(2)修治処理後の乾燥きのこ類の水分含量を目安として、所定の水分含量以下(例えば、処理後きのこ類の全質量あたり2%以下、好ましくは1%以下)となるために必要な時間だけ処理する方法とによって決定することができる。必要な時間以上の長時間に渡って、修治処理しても有効成分が分解する等の問題が発生しない温度であればそのように処理しても良い。但し、処理効率の点から考えると、必要な時間だけ修治処理すればよい。
【0008】
このようにして製造されたきのこ類由来有用組成物は、そのままで飲食等に供することができるし、この有用組成物を破砕或いは粉砕することにより、適当な大きさとして飲食等に供することもできる。
第2の発明に係る機能性食品は、修治処理した乾燥きのこ類を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、修治技術を応用することにより、きのこ類から従来の方法では得られなかった程度の量、或いは質を備えた有用物質を抽出することができる。こうして、より効果的な機能性食品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0011】
<試験例1> きのこ類の乾燥処理
生の廃棄エリンギ試料を下記の温度及び時間で処理することにより、乾燥エリンギを調製した。乾燥処理は、適当な大きさに区画した庫内に電気ヒータで熱した空気を送り込むことにより行った。処理のための温度及び時間設定は、40℃にて約5時間、45℃にて約5時間、50℃にて約5時間、及び60℃にて約8時間とし、これらの処理を連続的に行った。具体的には、図1に示したグラフの条件に従って温度を変化させた。
その結果、乾燥処理前の生エリンギの水分量が85.2%であり、乾燥エリンギの水分量は4.5%(乾燥エリンギの全質量あたり)であった。
【0012】
<試験例2> きのこ類の修治処理
1.エリンギの修治処理
生エリンギ子実体を乾燥させて乾燥エリンギを調製し、この乾燥エリンギを修治処理した(この修治処理後の乾燥エリンギは、本発明におけるきのこ類由来有用組成物の一例に該当する)。修治処理は、適当な大きさに区画した庫内に電気ヒータで熱した空気を送り込むことにより行った(以下の修治処理2および修治処理3においても同じ)。処理のための温度及び時間設定は、180℃〜200℃の温度で約90分間とした。具体的には、図2に示したグラフの条件に従って温度を変化させた。
その結果、修治処理前の乾燥エリンギの水分量が4.3%であり、修治処理後のエリンギの水分量は0.7%(修治処理後エリンギの全質量あたり)であった。
【0013】
2.エリンギの修治処理
乾燥した廃棄エリンギを修治処理した(この修治処理後の乾燥エリンギは、本発明におけるきのこ類由来有用組成物の一例に該当する)。修治処理は、室温から200℃まで30分間をかけて温度を上昇させ、200℃で30分間保持した後、約1時間かけて室温に下降させることにより行った。具体的には、図3に示したグラフの条件に従って温度を変化させた。
その結果、修治処理前の乾燥エリンギの水分量が4.5%であり、修治処理後のエリンギの水分量は1.0%(修治処理後エリンギの全質量あたり)であった。
【0014】
3.エリンギの修治処理
生エリンギ子実体を乾燥させて乾燥エリンギを調製し、この乾燥エリンギを修治処理した(この修治処理後の乾燥エリンギは、本発明におけるきのこ類由来有用組成物の一例に該当する)。修治処理は、室温から190℃まで30分間をかけて温度を上昇させた後、約1時間半をかけて室温に下降させることにより行った。具体的には、図4に示したグラフの条件に従って温度を変化させた。
その結果、修治処理前の乾燥エリンギの水分量が4.3%であり、修治処理後のエリンギの水分量は0.7%(修治処理後エリンギの全質量あたり)であった。
【0015】
<試験例3> きのこ類の各種粉末の作製
1.エリンギ乾燥粉末の作製
生のエリンギ子実体試料を後述の条件で乾燥処理した後、粉末加工した。エリンギの乾燥は、適当な大きさに区画した庫内に電気ヒータで熱した空気を送り込むことにより行った(以下の粉末作製についても同じ)。乾燥処理のための温度及び時間設定は、40℃にて5時間、45℃にて5時間、50℃にて5時間、及び60℃にて5時間とし、これらの処理を連続的に行うことにより、乾燥処理を行った。
乾燥後のエリンギをハンマークラッシャータイプの粉末加工装置で粉砕することによりエリンギ乾燥粉末を得た。粉砕のメッシュスクリーン径は、直径0.3mmとした。
【0016】
2.エリンギ表面修治処理品粉末の作製
生のエリンギ子実体試料を後述の条件で修治処理した後、粉末加工した。まず、エリンギ子実体試料を40℃にて15時間、45℃にて5時間、50℃にて5時間、及び60℃にて5時間とし、これらの処理を連続的に行うことにより、乾燥処理を行った。次いで、150℃にて30分間処理することにより修治処理を行った。
修治処理後のエリンギをハンマークラッシャータイプの粉末加工装置で粉砕することにより、エリンギ表面修治処理品粉末を得た。粉砕のメッシュスクリーン径は、直径0.3mmとした。なお、このエリンギ粉末は、本発明における機能性食品の一例に該当する。
【0017】
3.エリンギ全体修治処理品粉末の作製
上記2の乾燥処理までは同じ工程を行い、次いで190℃にて30分間処理することにより修治処理を行った。
修治処理後のエリンギをハンマークラッシャータイプの粉末加工装置で粉砕することにより、エリンギ全体修治処理品粉末を得た。粉砕のメッシュスクリーン径は、直径0.3mmとした。なお、このエリンギ粉末は、本発明における機能性食品の一例に該当する。
【0018】
4.ハナビラタケ乾燥粉末の作製
生のハナビラタケ子実体試料を、後述の条件で乾燥処理した後、粉末加工した。乾燥のための温度及び時間設定は、40℃にて15時間、45℃にて5時間、50℃にて5時間、及び60℃にて5時間とし、これらの処理を連続的に行った。
乾燥後のハナビラタケをハンマークラッシャータイプの粉末加工装置で粉砕することにより、ハナビラタケ乾燥粉末を得た。粉砕のメッシュスクリーン径は、直径0.3mmとした。
【0019】
5.ハナビラタケ表面修治処理品粉末の作製
生のハナビラタケ子実体試料を後述の条件で修治処理した後、粉末加工した。まず、ハナビラタケ子実体試料を40℃にて15時間、45℃にて5時間、50℃にて5時間、及び60℃にて5時間とし、これらの処理を連続的に行うことにより、乾燥処理を行った。次いで、150℃にて30分間処理することにより修治処理を行った。
修治処理後のハナビラタケをハンマークラッシャータイプの粉末加工装置で粉砕することにより、ハナビラタケ表面修治処理品粉末を得た。粉砕のメッシュスクリーン径は、直径0.3mmとした。なお、このハナビラタケ粉末は、本発明における機能性食品の一例に該当する。
【0020】
6.ハナビラタケ全体修治処理品粉末の作製
上記5の乾燥処理までは同じ工程を行い、次いで190℃にて30分間処理することにより修治処理を行った。
修治処理後のハナビラタケをハンマークラッシャータイプの粉末加工装置で粉砕することにより、ハナビラタケ全体修治処理品粉末を得た。粉砕のメッシュスクリーン径は、直径0.3mmとした。なお、このハナビラタケ粉末は、本発明における機能性食品の一例に該当する。
【0021】
7.ハナビラタケエキスの作製
上記4〜6の3種類のハナビラタケ加工品粉末について、それぞれ100gに対して2Lの純水を加え、約90℃で6時間の熱水抽出を行った。得られた抽出物を凍結乾燥させ、粉末状とした。
こうして、ハナビラタケ乾燥粉末エキス、ハナビラタケ表面修治処理品粉末エキス、及びハナビラタケ全体修治処理品粉末エキスの3種類のフリーズドライエキスを得た。
【0022】
<試験例4> きのこ類の各種粉末の食品理化学分析試験
上記<試験例3>で作製したきのこ類の各種粉末のうち、エリンギ乾燥粉末、エリンギ表面修治処理品粉末、ハナビラタケ乾燥粉末、及びハナビラタケ表面修治処理品粉末の4種類について、次の項目の分析を行った。
すなわち、エリンギ乾燥粉末については、水分、蛋白質、脂質、糖、灰分、炭水化物、エネルギー、食物繊維、蛋白質、脂質、ナイアシン、ナトリウム、カリウム、トレハロースを分析した。
エリンギ表面修治処理品粉末については、水分、蛋白質、脂質、糖、灰分、炭水化物、エネルギー、食物繊維、ナイアシン、ナトリウム、カリウム、トレハロースを分析した。
【0023】
ハナビラタケ乾燥粉末については、水分、蛋白質、脂質、灰分、炭水化物、エネルギー、ナトリウム、アミノ酸(18種)、β-グルカンを分析した。
ハナビラタケ表面修治処理品粉末については、水分、蛋白質、脂質、灰分、炭水化物、エネルギー、ナトリウム、アミノ酸(18種)、β-グルカンを分析した。
表1及び表2には、エリンギ乾燥粉末(表中には、「エリンギ未修治」と示した)及びエリンギ表面修治処理品粉末(表中には、「エリンギ修治」と示した)の分析結果を示した。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表3〜表5には、ハナビラタケ乾燥粉末(表中には、「ハナビラタケ未修治」と示した)及びハナビラタケ表面修治処理品粉末(表中には、「ハナビラタケ修治」と示した)の分析結果を示した。
【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
【表5】

【0030】
上記表に示すように、修治処理することにより、エリンギ及びハナビラタケのいずれのきのこにおいても、水分含有量は未修治に比べて半分以下となった。
また、ハナビラタケの分析では、必須アミノ酸で塩基性アミノ酸であるリジン値と、含硫アミノ酸であるシスチン値に修治処理の際の熱の影響によると思われる減少が認められた。その他の数値では、乾燥粉末と修治処理粉末との間には、顕著な相違は認められなかった。
【0031】
<試験例5> きのこ類の各種粉末の蛋白と多糖の分画測定
次に、上記<試験例3>で用いた4種類のきのこ類粉末について、下記のように処理することにより、アセトン抽出画分、エタノール抽出画分、及び熱水抽出画分の3種類の抽出画分を得た(図5を参照)。
操作方法を説明すると次の通りである。エリンギ乾燥粉末、エリンギ表面修治処理品粉末、ハナビラタケ乾燥粉末、及びハナビラタケ表面修治処理品粉末のそれぞれについて、粉末試料50gをアセトン500mLで還流下、3時間で3回の抽出操作を繰り返した。全抽出液を減圧濃縮した後、真空デシケーター中で乾燥することによりアセトン抽出画分を得た。
【0032】
上記アセトン抽出の残渣をエタノール500mLで還流下、3時間で3回の抽出操作を繰り返した。全抽出液を減圧濃縮した後、少量の純水に溶解し、凍結乾燥することによりエタノール抽出画分を得た。
上記エタノール抽出の残渣を95℃の熱水中、3時間で3回の抽出操作を繰り返した。全抽出液を減圧濃縮した後、凍結乾燥することにより熱水抽出画分を得た。
また、4種類のきのこ類粉末から得られた熱水抽出画分に関しては、それぞれの試料について8g〜10gを400mLの純水に溶解し、硫安飽和溶液(硫酸アンモニウム280gを添加した溶解)に一夜放置した後、生じた沈殿を遠心分離した。それぞれの沈殿物(たんぱく質画分)について、分子量6000の透析膜を用いて透析した後、凍結乾燥した。また、各試料の上澄液は、分子量5000の膜を用いて限外ろ過を行い、脱塩した後、凍結乾燥することにより多糖画分を得た。
【0033】
こうして、4種の試料から溶媒抽出分画法により、アセトン抽出画分、エタノール抽出画分、及び熱水抽出画分を得た。更に、熱水抽出画分については、塩析法により蛋白質画分と多糖画分に分画した。
一般にきのこ類の脂溶性成分であるグリセライド・ステロイド類などは、アセトン抽出画分に、トレハロース・マニトール・ステロイド配糖体・ポリフェノール配糖体などはエタノール抽出画分に含まれる。また、熱水抽出画分には、オリゴ糖類、各種配糖体、たんぱく質、水溶性多糖類が含まれていると予想された。
表6には、エリンギ乾燥粉末(表中には、「エリンギ未修治」と示した。表8についても同じ。)及びエリンギ表面修治処理品粉末(表中には、「エリンギ修治」と示した。表8についても同じ。)から得られた3種類の抽出各分量を示した。
【0034】
【表6】

【0035】
表7には、ハナビラタケ乾燥粉末(表中には、「ハナビラタケ未修治」と示した。表9についても同じ。)及びハナビラタケ表面修治処理品粉末(表中には、「ハナビラタケ修治」と示した。表9についても同じ。)から得られた3種類の抽出各分量を示した。
【0036】
【表7】

【0037】
表8には、エリンギ乾燥粉末及びエリンギ表面修治処理品粉末の熱水抽出画分から得られた蛋白質画分量と多糖画分量を示した。
【0038】
【表8】

【0039】
表9には、ハナビラタケ乾燥粉末及びハナビラタケ表面修治処理品粉末の熱水抽出画分から得られた蛋白質画分量と多糖画分量を示した。
【0040】
【表9】

【0041】
表6及び表7に示したように、4種類のきのこ類粉末試料から得られた各画分の収量(g/100g粉末)は、アセトン抽出画分については、エリンギ、ハナビラタケとも修治処理により画分量が大きく減少した。これは、修治処理の際に、脂溶性成分のうちの揮発性成分が揮発したものと考えられた。一方、エタノール抽出画分については、エリンギ、ハナビラタケとも画分量には、ほとんど変化が見られなかった。
熱水抽出画分の量を比較すると、エリンギ、ハナビラタケとも修治処理により、画分の量が増加した。特にハナビラタケでは、修治処理により約2倍程度まで増加した。
【0042】
表8に示すように、エリンギの熱水抽出画分では、蛋白質画分及び多糖画分のいずれについても、修治処理により画分量が大きく減少した。
表9に示すように、ハナビラタケ乾燥粉末の熱水抽出画分では、全体の86%が蛋白質画分であるということが判った。また、この蛋白質画分は、修治処理により29%にまで減少することが明らかになった。
【0043】
ハナビラタケ乾燥粉末の熱水抽出画分では、全体の3.2%が多糖画分であった。この多糖画分は、修治処理により0.1%にまで減少することが明らかになった。
このように、いずれのキノコ類においても、修治処理によっては、熱水抽出画分量には顕著な差異は認められなかった。しかし、修治処理によって、この画分中の高分子画分量が減少し、低分子画分量が増加するという構造的な変化が認められた。
【0044】
<試験例6> きのこ類の各種試料がラットに与える影響確認試験
次に、ラットにきのこ類の各種試料を与えたときの影響を確認する試験を行った。ラット8匹を1群とし、ND−H2O、HFD−H2O、HFD−PEQ−15%、HFD−MPEQ1−15%、HFD−MPEQ2−15%、HFD−SCF−15%、HFD−MSCF1−15%、HFD−MSCF2−15%、HFD−SCFext9%、HFD−MSCF1ext9%、及びHFD−MSCF2ext9%の11群について評価を行った。
【0045】
上記各群については、次の通りとした。
ND−H2O:通常食で飼育し、いずれのきのこ類も含まない水を自由摂取させた群
HFD−H2O:高脂肪食飼育し、いずれのきのこ類も含まない水を自由摂取させた群
HFD−PEQ−15%:高脂肪食で飼育し、エリンギ乾燥粉末(PEQ)を15%含有する水を自由摂取させた群
HFD−MPEQ1−15%:高脂肪食で飼育し、エリンギ表面修治処理品粉末(MPEQ1)を15%含有する水を自由摂取させた群
HFD−MPEQ2−15%:高脂肪食で飼育し、エリンギ全体修治処理粉末(MPEQ2)を15%含有する水を自由摂取させた群
【0046】
HFD−SCF−15%:高脂肪食で飼育し、ハナビラタケ乾燥粉末(SCF)を15%含有する水を自由摂取させた群
HFD−MSCF1−15%:高脂肪食で飼育し、ハナビラタケ表面修治処理品粉末(MSCF1)を15%含有する水を自由摂取させた群
HFD−MSCF2−15%:高脂肪食で飼育し、ハナビラタケ全体修治処理品粉末(MSCF2)を15%含有する水を自由摂取させた群
【0047】
HFD−SCFext9%:高脂肪食で飼育し、ハナビラタケ乾燥粉末エキス(SCFext)を9%含有する水を自由摂取させた群
HFD−MSCF1ext9%:高脂肪食で飼育し、ハナビラタケ表面修治処理品粉末エキス(MSCF1ext)を9%含有する水を自由摂取させた群
HFD−MSCF2ext9%:高脂肪食で飼育し、ハナビラタケ全体修治処理品粉末エキス(MSCF2ext)を9%含有する水を自由摂取させた群
また、通常食としては、5%ラードを含有するMF(オリエンタル酵母工業株式会社製)を使用し、高脂肪食としては、上記MFに30%ラードを添加して35%ラードを含有したものを使用した。
【0048】
各群のラットを上記条件の下、3ヶ月間に渡って飼育した後、一日あたり水分摂取量(Water intake/d)、一日あたり食餌摂取量(food intake/d)、一日あたり体重増加量(BW gain/d)、体重あたりの腎臓周囲白色脂肪組織(WATr)、体重あたりの精巣周囲の白色脂肪組織(WATt)、及び血漿中各種マーカーを測定した。血漿中マーカとしては、中性脂肪(TG)、遊離脂肪酸(NEFA)、グルコース(Glucose)、インスリン(Insulin)、アディポネクチン(Adiponectin)、腫瘍壊死因子(TNF−α)、及びレジスチン(Resistin)を選択した。
結果を表10〜表12に示した。
【0049】
【表10】

【0050】
【表11】

【0051】
【表12】

【0052】
表中、一日あたり水分摂取量、一日あたり食餌摂取量、一日あたり体重増加量、体重あたりの腎臓周囲白色脂肪組織重量、及び体重あたりの精巣周囲の白色脂肪組織重量については、ND−H2Oを100%としたときの百分率を平均値で示した。また、血漿中マーカーについては、平均値±標準誤差で示した。また、(a)はND−H2Oとの間で有意差(p<0.05)が認められたことを、(b)は、HFD−H2Oとの間で有意差(p<0.05)が認められたことをそれぞれ意味している。
【0053】
エリンギ加工品粉末については、次のような効果が明らかとなった。
表面修治処理品粉末(MPEQ1)は、高脂肪食条件下、PEQの1日あたりの体重増加率の低下作用をさらに増強させた(13.0%低下 vs PEQ)。
修治処理品粉末(特にMPEQ1)は、高脂肪食条件下、PEQの脂肪重量減少作用の増強を引き起こした。その増強効果は、腰回り及び下腹部の内蔵脂肪組織重量(WATr、WATt)の顕著な低下を示した(WATr:35.4%低下 vs PEQ、WATt:22.7%低下 vs PEQ)。
未修治(PEQ)及び修治処理(特にMPEQ1)は、高脂肪食条件下、統計学的に有意な摂食行動の抑制作用を示した。ただし、節水行動には影響を及ぼさなかった。
MPEQ1及びMPEQ2は、高脂肪食条件下、PEQと同様にTGの合成を抑制し、かつTGの分解を強力に促進させている可能性が示唆された。
MPEQ1及びMPEQ2は、高脂肪食による血糖値の増加を顕著に抑制した。
MPEQ1及びMPEQ2は、PEQと同様に高脂肪食によるインスリン値の増加を顕著に抑制した。
PEQ、MPEQ1及びMPEQ2は、アディポネクチンを増加させた。
血液を用いたマイクロアレイ解析後のクラスタリング解析からは、PEQと比べてMPEQ1及びMPEQ2の発現プロファイルの関係は非常に近いことが明らかとなった。
【0054】
ハナビラタケ加工品粉末については、次のような効果が明らかとなった。
修治処理(特にMSCF1)は、高脂肪食条件下、SCFの1日あたりの体重増加率の低下作用をさらに増強させた(13.9%低下 vs SCF)。
修治処理(特にMSCF1)は、高脂肪食条件下、PEQの脂肪重量減少作用の増強を引き起こした。その増強効果は、腰回り及び下腹部の内蔵脂肪組織重量(WATr、WATt)の顕著な低下を示した(WATr:24.4%低下 vs SCF、WATt:6.9%低下 vs SCF)。
未修治(SCF)及び修治処理(MSCF1及びMSCF2)は、高脂肪食条件下、摂食行動及び節水行動には影響を及ぼさなかった。
MSCF1及びMSCF2は、高脂肪食条件下、TGの合成を抑制し、かつTGの分解をさらに促進させている可能性が示唆された。
SCF、MSCF1及びMSCF2は、高脂肪食による血糖値の増加を顕著に抑制した。
SCF、MSCF1及びMSCF2は、高脂肪食によるインスリン値の増加を顕著に抑制した。
SCF、MSCF1及びMSCF2は、アディポネクチンを増加させた。
SCFとMSCF2は、TNF−αを低下させた。
血液を用いたマイクロアレイ解析後のクラスタリング解析からは、SCF、MSCF、MSCF2の発現プロファイルパターンの関係は遠いことを示している。しかし、そのなかでも、MSCF1とMSCF2の発現プロファイルパターンは近かった。
【0055】
ハナビラタケエキスについては、次のような効果が明らかとなった。
未修治(SCFext)及び修治処理エキス(MSCF1ext及びMSCF2ext)は、高脂肪食条件下、1日あたりの体重増加率に影響を及ぼさなかった。
修治処理(MSCF1ext及びMSCF2ext)は、高脂肪食条件下、SCFextの脂肪組織重量減少作用の増強を引き起こした。その増強効果は、腰回りの内蔵脂肪組織重量(WATr)の顕著な低下を示した(WATr:42.8%低下と61.2%低下 vs SCFext)。
未修治(SCFext)及び修治処理(MSCF1ext及びMSCF2ext)は、高脂肪食条件下、摂食行動及び節水行動には影響を及ぼさなかった。
SCFextは、高脂肪食条件下、NEFAの合成を抑制し、MSCF2extはTGの合成を抑制し、またTGの分解を促進した。
高脂肪食による血糖値の増加に対するSCFextの抑制効果は、修治処理により消失した。
SCFext、MSCF1ext及びMSCF2extは、高脂肪食によるインスリン値の増加を顕著に抑制した。
SCFext、MSCF1ext及びMSCF2extは、アディポネクチンを増加させた。
SCFext、MSCF1ext及びMSCF2extは、TNF−αを低下させた。
【0056】
体重、摂食行動、及び脂肪重量に対する効果をまとめると次の通りであった。
エリンギ及びハナビラタケを修治処理することにより、脂肪分解作用の増強が認められた。特に、MPEQ1(エリンギ表面修治処理品粉末)には、腎臓周囲及び精巣周囲の脂肪分解作用が強いことが明らかとなった。一方、MSCF1(ハナビラタケ表面修治処理品粉末)、MSCF2(ハナビラタケ全体修治処理品粉末)、MSCF1ext(ハナビラタケ表面修治処理品粉末エキス)、及びMSCF2ext(ハナビラタケ全体修治処理品粉末エキス)は腎臓周囲の脂肪のみを分解することが判明した。
MSCF2extは摂食行動の抑制作用が非常に強いこと明らかとなった。一方、MPEQ1はPEQの摂食行動の抑制作用を維持した。
MPEQ1及びMSCF2extの高脂肪食による体重上昇抑制作用は、摂食行動の抑制と脂肪分解作用に起因するのに対して、MSCF1は脂肪分解作用に大きく依存すると考えられた。
【0057】
血漿脂質成分と血糖値に対する効果をまとめると次の通りであった。
エリンギ及びハナビラタケを修治処理すると、TGの合成低下作用とTGの分解促進作用が認められた。特に、MPEQ1及びMPEQ2はTGの分解作用が非常に高いことが明らかとなった。
エリンギ及びハナビラタケを修治処理すると、高脂肪食による血糖値の増加を抑制することが判明した。
血漿アディポサイトネクチンに対する効果をまとめると次の通りであった。
エリンギ及びハナビラタケを修治処理すると、アディポネクチン濃度の上昇を引き起こし、インスリン感受性を高める方向に働くことが考えられた(特に、MPEQ1、MSCF2は非常に強い分泌促進作用を持っていた)。
修治処理は、未修治(PEQ、SCF)によるインスリン感受性の増強を維持させた。また、MPEQ1及びMSCF2においては、PEQ及びSCFのインスリン感受性を増強させた。
修治処理は、SCF及びSCFextのTNF−αの低下作用を維持させ、インスリン感受性を高める方向に働くことが考えられた(MSCF2、MSCF1ext、MSCF2ext)。
【0058】
このように、修治処理はすべてのきのこ類において、インスリン感受性を高める方向に働くことが、共通していた。その大きな作用として体重の減少(摂食行動の抑制、脂肪分解作用とその代謝促進)が上げられる。また、インスリン感受性の増加に善玉アディポサイトカインの上昇と悪玉アディポサイトカインの低下が認められた。上記の結果より、以下抗肥満修治処理原料の代表を示した。
【0059】
MPEQ1
アディポネクチンの上昇を示す修治処理エリンギの場合、摂食行動抑制作用と脂肪分解作用により顕著な体重低下を引き起こし、血漿TGの合成抑制とTG分解促進作用を示した。さらに、血糖値を低下させ、インスリン感受性を高めた。
MSCF2
アディポネクチンの上昇とTNF−αの低下を示す修治処理ハナビラタケの場合、腎臓周囲の脂肪分解作用により体重低下を引き起こした。血漿TGの合成抑制とTG分解促進作用を示した。さらに、血糖値を低下させ、インスリン感受性を高めた。
【0060】
このように本実施形態によれば、修治技術を応用することにより、きのこ類から従来の方法では得られなかった程度の量、或いは質を備えた有用物質を抽出することができた。こうして、より効果的な機能性食品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】生エリンギを乾燥処理したときの時間と温度の関係を示すグラフである。
【図2】乾燥エリンギを修治処理したときの時間と温度の関係を示すグラフである。
【図3】乾燥エリンギを修治処理したときの時間と温度の関係を示すグラフである。
【図4】乾燥エリンギを修治処理したときの時間と温度の関係を示すグラフである。
【図5】きのこ類粉末からアセトン抽出画分、エタノール抽出画分、及び熱水抽出画分を得るときの操作方法を説明する図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
きのこ類を乾燥処理し、その乾燥きのこ類を100℃〜200℃の熱気体で修治処理することを特徴とするきのこ類由来組成物の製造方法。
【請求項2】
前記きのこ類が、アガリスク、エノキタケ、エリンギ、カバノアナタケ、シイタケ、タモギタケ、冬虫夏草、トンビマイタケ、ナメコ、ハタケシメジ、ハナビラタケ、ヒラタケ、フクロタケ、ブナシメジ、マイタケ、マツタケ、メシマコブ、ヒマラヤヒラタケ、バイリングまたは霊芝(マンネンタケとも言う)からなる群から選ばれる1または2以上のものであることを特徴とする請求項1に記載のきのこ類由来組成物の製造方法。
【請求項3】
前記きのこ類が、エリンギまたはハナビラタケであることを特徴とする請求項2に記載のきのこ類由来組成物の製造方法。
【請求項4】
修治処理した乾燥きのこ類を含むことを特徴とする機能性食品。
【請求項5】
前記修治処理した乾燥きのこ類は請求項1〜請求項3のいずれかに記載の方法により製造されたものであることを特徴とする請求項4に記載の機能性食品。
【請求項6】
前記修治処理した乾燥きのこ類は、アガリスク、エノキタケ、エリンギ、カバノアナタケ、シイタケ、タモギタケ、冬虫夏草、トンビマイタケ、ナメコ、ハタケシメジ、ハナビラタケ、ヒラタケ、フクロタケ、ブナシメジ、マイタケ、マツタケ、メシマコブ、ヒマラヤヒラタケ、バイリングまたは霊芝(マンネンタケとも言う)からなる群から選ばれる1または2以上のものであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の機能性食品。
【請求項7】
前記修治処理した乾燥きのこ類が、エリンギまたはハナビラタケであることを特徴とする請求項6に記載の機能性食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−269641(P2007−269641A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93805(P2006−93805)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国の委託研究の成果に係る特許出願である(平成17年度 経済産業省地域新生コンソーシアム研究開発事業「修治技術を取り入れた廃棄及び有用資源活用型機能性食品の開発」委託研究)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(505027801)東邦産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】