説明

修飾ポリオレフィン

本発明は、加水分解性シラン基をポリオレフィン(エチレン単位が存在する場合、全ポリオレフィンの50重量%未満を形成する)にグラフト化する方法に関する。ポリオレフィンを、Siと結合した少なくとも1つの加水分解性基を有する不飽和シラン、又はその加水分解産物と、ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る手段の存在下で反応させる。不飽和シランは、式R’’−CH=CH−Z(I)又はR’’−C=C−Z(II)(式中、Zは−SiRaR’(3-a)基で置換された電子求引部分を表す)(ここで、Rは加水分解性基を表し;R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し;aは1以上3以下の範囲の値を有し;R’’は水素又は−CH=CH−結合若しくは−C≡C−結合に対して電子求引効果又は任意の他の活性化効果を有する基を表す)を有する。ポリオレフィンに対するグラフト化反応を行う際に式R’’−CH=CH−Z(I)又はR’’−C=C−Z(II)の不飽和シランを使用することで、電子求引部分Zを含有しないビニルトリメトキシシラン等のオレフィン性不飽和シランをグラフト化する場合と比較して、グラフト化収率が亢進し得る。本発明は、鎖切断による重合体分解を制限/防止しつつグラフト化効率の高いシラン修飾ポリオレフィンを提供することを可能にする。シラン修飾ポリオレフィンを極性表面、フィラー若しくは極性重合体とさらに反応させるか、又はそれ自身に対して反応させて、ポリオレフィンを架橋し、それから作られる複合材料の物理的性質を亢進させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解性基及び架橋性基をポリオレフィンにグラフト化する方法並びに生成されるグラフト重合体、並びにグラフト化重合体を架橋する方法に関する。本発明は特に、加水分解性シラン基をポリオレフィンにグラフト化する方法に関する。
【0002】
ポリオレフィンは、多くの用途にとって重要な利点である低い極性を有する。しかしながら、場合によっては、ポリオレフィンの非極性の性質は不利点となる可能性があり、様々な最終用途においてその用途を限定し得る。例えば、その化学的な不活性さのために、ポリオレフィンの官能化及び架橋は困難である。性質を向上させるために特定の化合物を高分子骨格にグラフト化することによるポリオレフィン樹脂の修飾が知られている。特許文献1及び特許文献2には、無水マレイン酸とポリプロピレンとを反応させる方法が記載されている。特許文献3には、溶融条件下及び過酸化物の存在下で、環状エチレン性不飽和カルボン酸及び無水物をポリエチレンにグラフト化することが記載されている。これらのタイプの単量体は高分子鎖に極性を与えるが、架橋の機会はもたらさない。
【0003】
特許文献4には、ポリオレフィン、特にポリエチレンと不飽和加水分解性シランとを、ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物の存在下、140℃を上回る温度で反応させる(グラフト化する)ことによって、ポリオレフィンを架橋することが記載されている。引き続いて反応生成物を水分及びシラノール縮合触媒に曝すことにより、架橋が起こる。この方法はポリエチレンを架橋するために商業的に広く使用されている。特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9及び特許文献10は、かかるグラフト化及び架橋方法について記載する特許のさらなる例である。使用される不飽和加水分解性シランは概してビニルトリメトキシシランである。特許文献11には、共役炭化水素及び/又は一般式R−Xn−C(R)=C(R)−C(R)=C(R)−Xn−Si(R1)m(OR2)(3−m)の少なくとも1つの有機官能シランであり得る化合物(iii)と呼ばれる少量のさらなる化合物を添加することによってスコーチ性能を向上させることが教示されている。R基は同一であるか又は異なり、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基又はアリール基又はアラルキル基、好ましくはメチル基又はフェニル基であり、R(1)は炭素数1〜4の直鎖又は分枝アルキル基であり、R(2)は炭素数1〜8の直鎖、分枝又は環状アルキル基、好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基又はイソプロピル基であり、X基は同一であるか又は異なり、Xは系列−CH2−、−(CH2)2−、−(CH2)3−、−O(O)C(CH2)3−及び−C(O)O−(CH2)3−から選択される基であり、nは0又は1であり、mは0、1、2又は3である。
【0004】
これらの特許に記載されている技術は、ポリエチレンを官能化及び架橋するのに効率的なものである。しかしながら、上記の技術を用いてポリプロピレンの官能化を試みる場合、グラフト化はβ位での鎖切断又はいわゆるβ切断による重合体の分解を伴う。かかる分解は加工される材料の粘度を低下させる。さらに、この分解は出発物質と比較して劣った性能を有する重合体をもたらす。
【0005】
特許文献12には、高分子鎖の切断を防止する芳香族化合物等の架橋助剤の存在下で過酸化物を用いた、ビニル単量体による修飾ポリオレフィンの製造が記載されている。ビニルシランをポリエチレンと共に使用することが記載される。しかしながら、無水マレイン酸がポリプロピレンと共に使用するのに好ましい単量体であると記載されている。また、特許文献13には、重合体分解を防止するためにスチレンが非シラン単量体と併用されることが記載されている。特許文献14には、ポリプロピレンと、不飽和エポキシ化合物、スチレン及び過酸化物とを加熱しながら混合することによって、単量体をポリプロピレンにグラフト化することが記載されている。
【0006】
「シラングラフト化湿分架橋ポリプロピレンの性質に対するグラフト化処方及び加工条件の影響(Influences of grafting formulations and processing conditions on properties of silane grafted moisture crosslinked polypropylenes)」と題する非特許文献1の論文には、ポリプロピレンと不飽和シランとのグラフト化及び達成される架橋度(ゲル分率(gel percentage))及びポリプロピレン分解度が記載されている。記載される不飽和シランは、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びビニルトリエトキシシランである。「シラングラフト化ポリプロピレンの性質に対するグラフト化処方及び押出条件の影響(Influences of grafting formulations and extrusion conditions on properties of silane grafted polypropylenes)」と題する非特許文献2の論文には、二軸押出機を用いた同様なグラフト化プロセスが記載されている。「ポリプロピレンへのシラングラフトの加水分解架橋(Hydrolytic crosslinking of silane graft onto polypropylene)」と題する非特許文献3の論文も同様である。「シラングラフト化及び架橋ポリプロピレンを調製する一段階法の機構(Mechanism of a one-step method for preparing silane grafting and crosslinking polypropylene)」と題する非特許文献4の論文には、二軸反応押出機における一段階法でのシラングラフト化及び架橋が記載されている。スチレン等の架橋助剤の使用は重合体分解を阻害するが、依然としてシランのグラフト化効率を向上させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ベルギー特許第652324号明細書
【特許文献2】米国特許第3414551号明細書
【特許文献3】米国特許第3873643号明細書
【特許文献4】米国特許第3646155号明細書
【特許文献5】欧州特許第809672号明細書
【特許文献6】欧州特許第1942131号明細書
【特許文献7】欧州特許第0276790号明細書
【特許文献8】国際公開第2007/14687号
【特許文献9】英国特許第2134530号明細書
【特許文献10】米国特許第7041744号明細書
【特許文献11】米国特許第6864323号明細書
【特許文献12】特開平6−172459号公報
【特許文献13】欧州特許出願公開第225186号明細書
【特許文献14】米国特許第6028146号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Liu, Yao and Huang in Polymer 41, 4537-4542 (2000)
【非特許文献2】Huang, Lu and Liu in J. Applied Polymer Science 78, 1233-1238 (2000)
【非特許文献3】Lu and Liu in China Plastics Industry, Vol. 27, No. 3, 27-29 (1999)
【非特許文献4】Yang, Song, Zhao, Yang and She in Polymer Engineering and Science, 1004-1008 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特に高いグラフト化効率を有するシラン修飾ポリオレフィンを提供することである。一実施の形態において、特に高反応性シランを適切な架橋助剤と併用する場合に、鎖切断による重合体分解を制限しつつ高いグラフト化効率を得ることができる。本出願中の実施例によって実証されるように、シラン修飾ポリオレフィンをフィラーの表面上に存在する極性基とさらに反応させるか、又は別の重合体に付加させるか、又はそれ自身に対して反応させて、シラン修飾ポリオレフィンを架橋し、性質が向上された複合材料を形成することができる。代替的には、初めにシランを使用してフィラーを処理してもよく、処理したフィラーを次いで重合体に対するグラフト化に使用する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
加水分解性シラン基をポリオレフィン(エチレン単位が存在する場合、ポリオレフィン中の全単位の50重量%未満を形成する)にグラフト化する、本発明による方法は、重合体と、Siと結合した少なくとも1つの加水分解性基を有する不飽和シラン、又はその加水分解産物とを、ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成する手段の存在下で反応させることを含み、不飽和シランが式R’’−CH=CH−Z(I)又は式R’’−C≡C−Z(II)(式中、Zは−SiRaR’(3-a)基で置換された電子求引部分を表す)(ここで、Rは加水分解性基を表し、R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し、aは1以上3以下の範囲の値を有し、R’’は水素又は−CH=CH−結合若しくは−C≡C−結合に対して電子求引効果若しくは任意の他の活性化効果を有する基を表す)を有することを特徴とする。
【0011】
ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成する手段は、概してフリーラジカルを生成し得る、したがってポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物を含む。他の手段としては、剪断又は電子線を適用することが挙げられる。
【0012】
本発明者らは、ポリオレフィンに対するグラフト化反応を行うに当たり、電子求引部分Zを含有する式R’’−CH=CH−Z(I)又はR’’−C≡C−Z(II)の不飽和シランを用いることで、電子求引部分Zを含有しないビニルトリメトキシシラン等のオレフィン性不飽和シランをグラフト化する場合と比較してグラフト化収率が亢進されることを本発明により見い出した。グラフト化効率の亢進によって、水分及び場合によりシラノール縮合触媒(必須ではない)の存在下における、例えばカップリング性及び接着性、耐熱性、耐衝撃性等の物理的性質が亢進された、及び/又は架橋度が高まった、及び/又は架橋速度が加速したシラングラフト化重合体がもたらされ得る。
【0013】
電子求引部分は反応中心から電子を引き離す化学基である。電子求引部分Zは概してMichael B. Smith及びJerry March著「マーチ有機化学(March's Advanced Organic Chemistry)」第5版、John Wiley & Sons、New York(2001)、15−58章(1062頁)に求ジエン体として列記された基のうち任意のものであり得る(但し、これらの基は−SiRaR’(3-a)基で置換され得る)。部分Zは特に、C(=O)R*部分、C(=O)OR*部分、OC(=O)R*部分、C(=O)Ar部分(ここで、Arは−SiRaR’(3-a)基で置換されたアリーレンを表し、R*は−SiRaR’(3-a)基で置換された炭化水素部分を表す)であり得る。ZはC(=O)−NH−R*部分でもあり得る。好ましいシランは、式R’’−CH=CH−X−Y−SiRaR’(3-a)(III)又は式R’’−C≡C−X−Y−SiRaR’(3-a)(IV)(式中、Xは−CH=CH−結合又は−C≡C−結合に対して電子求引効果を有する化学連結、例えばカルボキシル連結、カルボニル連結又はアミド連結等を表し、Yは連結XとSi原子とを隔離する少なくとも1つの炭素原子を含む二価の有機スペーサー連結を表す)のものを含む。
【0014】
電子供与基、例えばアルコール基又はアミノ基は電子求引効果を減少させる可能性がある。一実施の形態において、不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)はかかる基を有しない。立体効果、例えばメチル等の末端アルキル基の立体障害は、オレフィン結合又はアセチレン結合の反応性に影響を及ぼす可能性がある。一実施の形態において、不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)はかかる立体障害基を有しない。グラフト化反応の際に形成されるラジカルの安定性を高める基、例えばシランの不飽和部分と共役した二重結合又は芳香族基が不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)中に存在することが好ましい。後者の基は−CH=CH−結合又は−C≡C−結合に対して活性化効果を有する。
【0015】
本発明は、上記の方法によって製造される加水分解性シラン基をグラフト化したポリオレフィンを含む。不飽和シランがCH=CH−結合を含有する場合、グラフト化ポリオレフィンは、式R’’−CH(PP)−CH2−Zのグラフト化部分及び/又は式R’’−CH2−CH(PP)−Zのグラフト化部分(式中、Zは−SiRaR’(3-a)基で置換された電子求引部分を表す)(ここで、Rは加水分解性基を表し;R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し;aは1以上3以下の範囲の値を有し;R’’は水素又は電子求引効果を有する基を表し;PPはポリオレフィン鎖(該ポリオレフィン中の全単位の50重量%未満がエチレン単位である)を表す)を含有することを特徴とする。
【0016】
加水分解性シラン基をグラフト化したポリオレフィンを、本出願中の実施例によって実証されるように、フィラーの表面上に存在する極性基とさらに反応させるか、又は別の重合体に付加させるか、又はそれ自身に対して反応させて、シラン修飾ポリオレフィンを架橋し、性質が向上された複合材料を形成することができる。代替的には、フィラーは不飽和シランで前処理した後、ポリオレフィンと反応させてもよい。
【0017】
本発明はしたがって、上記のように製造されたグラフト化ポリオレフィンを、場合によりシラノール縮合触媒の存在下で水分に曝すことを特徴とする、ポリオレフィン(エチレン単位が存在する場合、ポリオレフィン中の全単位の50重量%未満を形成する)を架橋する方法も含む。
【0018】
式R’’−CH=CH−Z(I)又は式R’’−C≡C−Z(II)の不飽和シランの−SiRaR’(3-a)基中の各加水分解性基Rは好ましくはアルコキシ基であるが、代替的な加水分解性基、例えばアセトキシ基等のアシルオキシ基、メチルエチルケトキシム基等のケトキシム基、エチルラクテート基等のアルキルラクテート基、アミノ基、アミド基、アミノキシ基又はアルケニルオキシ基を用いることができる。アルコキシ基Rは概してそれぞれ炭素数1〜6の直鎖又は分枝アルキル鎖を有し、最も好ましくはメトキシ基又はエトキシ基である。シラン(I)又はシラン(II)におけるaの値は例えば3である可能性があり、例えばシランはトリメトキシシランである可能性があり、これにより最大数の加水分解性部位及び/又は架橋性部位がもたらされる。しかしながら、各アルコキシ基は加水分解されると揮発性の有機アルコールを生成するため、架橋の際に生じる揮発性有機物質を最小限にするためにシラン(I)又はシラン(II)におけるaの値は、2ひいては1が好ましい場合がある。R’基は存在する場合、好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0019】
不飽和シランは部分的に加水分解され、シロキサン連結を含有するオリゴマーに縮合される。ほとんどの最終用途については、グラフト化重合体がそれ自身に対して並びに極性のある表面及び物質に対して十分な反応性があるように、かかるオリゴマーが依然として不飽和シラン単量体単位1個当たりSiに結合した加水分解性基を少なくとも1つ含有するのが好ましい。グラフト化重合体を第2の段階で架橋しようとする場合、通常、グラフト化前のシランの加水分解及び縮合を最小限にすることが好ましい。
【0020】
式R’’−CH=CH−X−Y−SiRaR’(3-a)(III)又は式R’’−C≡C−X−Y−SiRaR’(3-a)(IV)の不飽和シランにおいて、電子求引連結Xは好ましくはカルボキシル連結である。したがって、好ましいシランは式R’’−CH=CH−C(=O)O−Y−SiRaR’(3-a)(V)及びR’’−C≡C−C(=O)O−Y−SiRaR’(3-a)(VI)を有する。スペーサー連結Yは概して、少なくとも1つの炭素原子を含む二価の有機基、例えばメチレン、エチレン若しくはプロピレン等のアルキレン基又はアリーレン基又はポリエチレングリコール若しくはポリプロピレングリコール等のポリエーテル鎖であり得る。R’’基が水素を表し、かつYがアルキレン連結である場合、不飽和シラン(V)中のR’’−CH=CH−C(=O)O−Y−部分はアクリロキシアルキル基である。本発明者らは、アクリロキシアルキルシランがビニルシラン、アルキルシラン又はメタクリロキシアルキルシランよりもより容易にポリオレフィンにグラフト化することを見い出した。好ましいアクリロキシアルキルシランの例はγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシメチルトリメトキシシラン、アクリロキシメチルメチルジメトキシシラン、アクリロキシメチルジメチルメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン及びγ−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシランである。γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランは、米国特許第3179612号明細書に記載の方法によってアリルアクリレート及びトリメトキシシランから調製することができる。γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン及びγ−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシランもそれぞれ同様にアリルアクリレート及びメチルジメトキシシラン又はジメチルメトキシシランから調製することができる。アクリロキシメチルトリメトキシシランは、米国特許第3179612号明細書に記載の方法によってアクリル酸及びクロロメチルトリメトキシシランから調製することができる。
【0021】
式(III)又は式(IV)の不飽和シランにおいては、電子求引連結Xは、代替的にはC(=O)−NH−Y−SiRaR’(3-a)部分であり得る。R’’基がカルボン酸基を表す場合、不飽和シラン(III)はN−(トリメチルシリルプロピル)マレアミド酸(maleamic acid)である。
【0022】
式R’’−CH=CH−X−Y−SiRaR’(3-a)(III)又は式R’’−C≡C−X−Y−SiRaR’(3-a)(IV)のシラン中のR’’基は代替的にはアルケニル基であり得、例えばR’’はプロペニル基、XはC(=O)O基、Yはアルキレン基であり得る(シランがソルビン酸のアルコキシシリルアルキルエステルである場合)。
【0023】
不飽和シラン(III)又は不飽和シラン(IV)中のR’’基は、代替的には式−X−Y−SiRaR’(3-a)の電子求引基、例えば連結−X−がカルボキシル連結である電子求引基であり得る。不飽和シランはしたがって、式RaR’(3-a)Si−Y−O(O=)C−CH=CH−C(=O)O−Y−SiRaR’(3-a)又はRaR’(3-a)Si−Y−O(O=)C−C≡C−C(=O)O−Y−SiRaR’(3-a)のものであり得る。不飽和シラン(III)は、ビス(トリアルコキシシリルアルキル)フマレート(トランス異性体)及び/又はビス(トリアルコキシシリルアルキル)マレエート(シス異性体)を含み得る。例えば、ビス−(γ−トリメトキシシリルプロピル)フマレート:
【0024】
【化1】

【0025】
及びビス−(γ−トリメトキシシリルプロピル)マレエート:
【0026】
【化2】

【0027】
である。
【0028】
これらの調製は米国特許第3179612号に記載されている。
【0029】
代替的には、ビスシラン(III)又はビスシラン(IV)は非対称である可能性があり、例えば、分子の各側でY、R及びR’が異なる。
【0030】
代替的には、不飽和シラン(III)又は不飽和シラン(IV)中の電子求引基R’’は、式XH又はXR*(式中、R*はアルキル基である)のものであり得る。不飽和シランはモノ(トリアルコキシシリルアルキル)フマレート及び/又はモノ(トリアルコキシシリルアルキル)マレエートであってもよく、又はアルキルモノフマレート及び/又はアルキルモノマレエートのトリアルコキシシリルアルキルエステルであってもよい。
【0031】
不飽和シランはまた、式RaR’(3-a)Si−Y−O(O=)C−C≡C−C(=O)O−Y−SiRaR’(3-a)のものであってもよい。例えば、ビス−(γ−トリメトキシシリルプロピル)−2−ブチンジオエート:
【0032】
【化3】

【0033】
である。
【0034】
代替的には、メチル置換シス−及びトランス−ブテン二酸シラン、例えばシトラコン酸A及びメサコン酸Bの誘導体、並びにエキソ−アルキリデン置換イタコン酸誘導体C等の異性体(ここで、下記に示すR基の少なくとも1つが上記で規定されるような−Y−SiRaR’(3-a)基である):
【0035】
【化4】

【0036】
を不飽和シランとして使用することができる。かかる不飽和シランは、米国特許第3179612号に従って、ハロアルキルシランによるカルボン酸アンモニウム塩の置換反応を介して、又はYがプロピルスペーサーである場合、適合するアルキルエステルのヒドロシリル化反応を介して調製することができる。
【0037】
概して、不飽和酸のシリルアルキルエステルである不飽和シランはすべて、対応するカルボン酸塩と対応するクロロアルキルアルコキシシランとの反応によって、不飽和酸、例えばアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ソルビン酸又はケイ皮酸、プロピン酸又はブチン二酸から調製することができる。第1の工程では、例えば米国特許第4946977号に記載されている、カルボン酸とアルカリアルコキシド(アルコール溶液)との反応、又は例えば国際公開第2005/103061号に記載されている、カルボン酸と塩基水溶液との反応及び引き続く共沸蒸留による水の除去のいずれかによって、カルボン酸のアルカリ塩を形成する。カルボン酸のトリアルキルアンモニウム塩は、米国特許第3258477号又は米国特許第3179612号に記載されている、遊離カルボン酸と、トリアルキルアミン、優先的にはトリブチルアミン又はトリエチルアミンとの直接反応によって形成することができる。第2の工程では、カルボン酸塩を次いで、クロロアルキルアルコキシシランを用いた求核置換反応によって、副生成物としてアルカリクロリド又はトリアルキルアンモニウムクロリドを形成させながら反応させる。この反応は、クロロアルキルアルコキシシランを用いて、ニート条件下又は溶媒、例えばベンゼン、トルエン、キシレン若しくは同様な芳香族溶媒並びにメタノール、エタノール若しくは別のアルコール系溶媒等の中で行うことができる。30℃〜180℃の範囲内、好ましくは100℃〜160℃の範囲内の反応温度を有することが好ましい。この置換反応の速度を上げるために、様々な種類の相間移動触媒を用いることができる。好ましい相間移動触媒は以下の通りである:テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、Aliquat(登録商標)336(Cognis GmbH)若しくは同様な第四級アンモニウム塩(例えば米国特許第4946977号にて使用)、トリブチルホスホニウムクロリド(例えば米国特許第6841694号にて使用)、グアニジニウム塩(例えば欧州特許第0900801号にて使用)又は1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU、例えば国際公開第2005/103061号にて使用)等の環状不飽和アミン。必要であれば、以下の重合阻害剤を調製工程及び/又は精製工程を通じて用いることができる:ヒドロキノン、フェノール化合物、例えばメトキシフェノール及び2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等、フェノチアジン、p−ニトロソフェノール、アミン系化合物、例えば、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン等又はイオウ含有化合物(上記引用特許に記載されているものであるが、これらに限定されない)。
【0038】
不飽和シランの配合物、例えばγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランとアクリロキシメチルトリメトキシシランとの配合物、又はγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン及び/又はアクリロキシメチルトリメトキシシランと、電子求引基を含有しない不飽和シラン、例えばビニルトリメトキシシラン等との、又は1個若しくは2個のSi−アルコキシ基を含有するアクリロキシシラン、例えばアクリロキシメチルメチルジメトキシシラン、アクリロキシメチルジメチルメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン若しくはγ−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン等との配合物を用いることができる。
【0039】
不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)は、シラン基をポリエチレンにグラフト化するのに十分な量で存在するものとする。実施の形態によっては、例えば粘着性促進を目的として他のシラン化合物を添加するが、効率的なグラフト化が達成されるように、本プロセスの際に存在するシラン化合物の主要部が不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)であることが好ましい。好ましくは、不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)は、方法において存在するシラン化合物の少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%を形成する。
【0040】
グラフト化反応の際に存在する不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)の量は概して、全組成の少なくとも0.2重量%であり、最大で20重量%以上であり得る。全組成とは、反応混合物を形成するために一纏めにされる、すべての成分、例えば重合体、シラン、フィラー、触媒等を含有する出発組成を意味する。
【0041】
好ましくは、不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)は、全組成の0.5重量%〜15.0重量%存在する。最も好ましくは、不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)は、全組成の0.5重量%〜10.0重量%存在する。
【0042】
ポリオレフィンは通常、炭素数3〜18のオレフィン、例えば式CH2=CHQ(式中、Qは炭素数1〜16、より好ましくは1〜8の直鎖又は分枝アルキル基である)のα−オレフィン等の重合体である。ポリオレフィンは例えば、プロペン(プロピレン)、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−ペンテン−1又は2−メチル−プロペン−1(イソブチレン)の重合体であり得る。プロピレン重合体は、主要な種類の重合体、特にポリプロピレンである。ポリプロピレンは広く利用可能であり、低コストの汎用重合体である。ポリプロピレンは低密度であり、容易に加工され、多用途である。最も市販されているポリプロピレンはアイソタクチックポリプロピレンであるが、本発明の方法はアイソタクチックポリプロピレンのみならず、アタクチックポリプロピレン及びシンジオタクチックポリプロピレンに適用可能である。アイソタクチックポリプロピレンは、例えばチーグラー・ナッタ触媒又はメタロセン触媒を用いたプロペンの重合によって調製される。本発明は、汎用ポリプロピレンよりも性質が向上した官能化及び/又は架橋ポリプロピレンを提供することができる。ポリオレフィンは、代替的にはジエン、例えば炭素数4〜18であり、少なくとも1つの末端二重結合を有するジエン、例えばブタジエン又はイソプレン等の重合体であり得る。ポリオレフィンは共重合体又は三元重合体、特に少なくとも50重量%単位の炭素数3〜18のオレフィンを含む共重合体又は三元重合体、例えば少なくとも50重量%のプロピレンと、エチレン又は炭素数4〜18のα−オレフィンとの、又はアクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリル単量体、又はアクリル酸若しくはメタクリル酸と炭素数1〜16のアルキル基若しくは置換アルキル基とのエステル、例えばエチルアクリレート、メチルアクリレート若しくはブチルアクリレートとの共重合体、又は酢酸ビニルとの共重合体であってもよい。ポリオレフィンは三元重合体、例えばプロピレンエチレンジエン三元重合体であってもよい。代替的には、ポリオレフィンはジエン重合体、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、又はブタジエンとスチレンとの共重合体、又はブタジエンとエチレン及びスチレンとの、又はアクリロニトリル及びスチレンとの三元重合体であり得る。ポリオレフィンは異相性(heterophasic)であってもよく、例えばプロピレンエチレンブロック共重合体である。
【0043】
ポリオレフィンは、シランとの反応前のメルトフローレート(MFR 2.16kg/230℃、ISO1133法に準拠)が少なくとも0.5g/10分であることが好ましい。異なるポリオレフィン混合物を使用してもよい。不飽和シラン及びポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物と、或るタイプのポリオレフィンとを混合してマスターバッチを形成することができ、これを引き続いて異なるタイプのポリオレフィンと混合することができる。例えば微孔性ポリプロピレンは液体添加剤と混合してマスターバッチ(バルクポリプロピレン又は異なるα−オレフィン重合体と混合することができる)を形成する際に非常に有効である。微孔性ポリエチレンも液体添加剤と混合してマスターバッチを形成する際に非常に有効であり、かかるマスターバッチを本発明の方法においてポリプロピレン等のα−オレフィン重合体と混合することができる(但し、ポリエチレンはポリオレフィンと混和性であり、かつ得られるポリオレフィン組成物中のエチレン単位の比率は50重量%未満である)。
【0044】
ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物は、好ましくは有機過酸化物であるが、アゾ化合物等の他のフリーラジカル開始剤を用いることができる。好ましくは、フリーラジカル開始剤の分解によって形成されるラジカルは酸素系フリーラジカルである。ヒドロペルオキシド、カルボン酸ペルオキシエステル、ペルオキシケタール、ジアルキルペルオキシド及びジアシルペルオキシド、ケトンペルオキシド、ジアリールペルオキシド、アリール−アルキルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート、ペルオキシ酸、アシルアルキルスルホニルペルオキシド及びモノペルオキシジカーボネートを使用するのがより好ましい。好ましい過酸化物の例としては、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)へキシン−3,3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリペルオキソナン、ベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシアセテート、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、tert−アミルペルオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、tert−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、2,2−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ブタン、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、ブチル−4,4−ジ(tert−ブチルペルオキシ)バレレート、ジ−tert−アミルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチル−ペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、tert−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、クメンヒドロペルオキシド、tert−ブチルペルオクトエート、メチルエチルケトンペルオキシド、tert−ブチルα−クミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシベンゾエート)へキシン−3,1,3−又は1,4−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシド、tert−ブチルペルアセテート及びtert−ブチルペルベンゾエートが挙げられる。アゾ化合物の例は、アゾビスイソブチロニトリル及びジメチルアゾジイソブチレートである。上記ラジカル開始剤は、単独で用いてもよく、又は少なくとも2つを組み合わせて用いてもよい。
【0045】
ポリオレフィンと不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)とを、ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物の存在下で反応させる温度は、概して120℃、通常140℃を上回り、ポリオレフィンを溶融し、かつフリーラジカル開始剤を分解するには十分に高い。通常、ポリプロピレンについては、170℃〜220℃の範囲の温度が好ましい。過酸化物又はポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る他の化合物の分解温度は、好ましくは120℃〜220℃、最も好ましくは160℃〜190℃の範囲である。
【0046】
ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物は概して、全組成の少なくとも0.01重量%の量で存在し、最大で5重量%又は10重量%の量で存在し得る。有機過酸化物は例えば、グラフト化反応の際に、ポリオレフィンに対して0.01重量%〜2重量%存在することが好ましい。最も好ましくは、有機過酸化物は全組成の0.01重量%〜0.5重量%存在する。
【0047】
ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成する手段は、代替的には電子線であり得る。電子線を使用する場合、フリーラジカルを生成し得る過酸化物等の化合物は必要とされない。不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)の存在下で、ポリオレフィンに少なくとも5MeVのエネルギーを有する電子線を放射する。好ましくは、電子線の加速電位又はエネルギーは、5MeV〜100MeV、より好ましくは10MeV〜25MeVである。電子線発生器の出力は、好ましくは50kW〜500kW、より好ましくは120kW〜250kWである。ポリオレフィン/グラフト化剤混合物が受ける放射線量は、好ましくは0.5Mrad〜10Mradである。ポリオレフィンと不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)との混合物を、混合物に対して放射する電子線発生器の下を通るエンドレスベルト等の連続移動コンベヤーの上に置くことができる。望ましい放射線量(irradiation dose)を達成するためにコンベヤー速度を調整する。
【0048】
グラフト化反応は、ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る手段の存在下で、β切断による重合体分解を阻害する架橋助剤の存在下で行うのが好ましい。炭素数3以上のα−オレフィンの多くの重合体、例えばポリプロピレンは、三級炭素の存在によりポリオレフィン中にフリーラジカル部位が生成される場合、鎖β切断による重合体分解を受ける。しかし、コーティングにおける接着性能の増大といった幾つかの用途については、かかる分解は重要でない可能性があり、多くの場合、特にグラフト化が機械的性質の向上が意図される充填ポリオレフィン組成物又は架橋ポリオレフィンの調製の第一段階である場合に、鎖β切断による重合体分解を阻害する、ひいては最小限にするのが望ましい。
【0049】
重合体分解を阻害する架橋助剤は、好ましくはオレフィン−C=C−又はアセチレン−C≡C−不飽和結合と共役した芳香環を含有する化合物である。芳香環とは、不飽和であり、かつ幾らかの芳香族性又はπ結合を示す任意の環状部分を意味する。芳香環はベンゼン環若しくはシクロペンタジエン環等の炭素環、又はフラン環、チオフェン環、ピロール環若しくはピリジン環等の複素環であってもよく、単環又はナフタレン部分、キノリン部分若しくはインドール部分等の縮合環系であってもよい。最も好ましくは、架橋助剤はスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン、2,4−ビフェニル−4−メチル−1−ペンテン、フェニルアセチレン、2,4−ジ(3−イソプロピルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジ(4−イソプロピルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジ(3−メチルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジ(4−メチルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン等のビニル芳香族化合物又はアセチレン芳香族化合物であり、2つ以上のビニル基を含有する、例えばジビニルベンゼン、o−、m−又はp−ジイソプロペニルベンゼン、1,2,4−又は1,3,5−トリイソプロペニルベンゼン、5−イソプロピル−m−ジイソプロペニルベンゼン、2−イソプロピル−p−ジイソプロペニルベンゼンであってもよく、2つ以上の芳香環を含有する、例えばトランス−及びシス−スチルベン、1,1−ジフェニルエチレン、又は1,2−ジフェニルアセチレン、ジフェニルイミダゾール、ジフェニルフルベン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1,6−ジフェニル−1,3,5−ヘキサトリエン、ジシンナマルアセトン、フェニルインデノンであってもよい。架橋助剤は、代替的には2−ビニルフラン等のフラン誘導体であり得る。好ましい架橋助剤はスチレンである。
【0050】
重合体分解を阻害する架橋助剤は、代替的にはオレフィン−C=C−又はアセチレン−C≡C−不飽和結合と共役したオレフィン−C=C−又はアセチレン−C≡C−不飽和結合を含有する化合物であり得る。例えばソルベートエステル、又は2,4−ペンタジエノエート、又はその環状誘導体である。好ましい架橋助剤は以下の式のソルビン酸エチルである:
【0051】
【化5】

【0052】
重合体分解を阻害する架橋助剤は、代替的には多官能性アクリレート、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、又はエチレングリコールジメタクリレート、又はラウリル及びステアリルアクリレート等であり得る。
【0053】
重合体分解を阻害する架橋助剤は、不飽和シラン、及びポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る過酸化物等の化合物と共に添加するのが好ましい。架橋助剤、例えばスチレン等のビニル芳香族化合物は、好ましくは全組成の0.1重量%〜15.0重量%存在する。
【0054】
ポリエチレンと不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)とのグラフト化反応は、 任意の好適な装置を用いて、バッチプロセスとして又は連続プロセスとして行うことができる。ポリオレフィンは例えば、ペレット若しくは粉末形態で又はそれらの混合物として添加することができる。ポリオレフィンは加熱しながら機械的加工に付すことが好ましい。バッチプロセスは例えば、インターナルミキサ、例えば、ローラーブレードを備えたBrabender Plastograph(商標)350Sミキサ、又はバンバリーミキサ内で行うことができる。ロールミルはバッチ加工又は連続加工のいずれかに用いることができる。バッチプロセスでは、概して、ポリオレフィン、不飽和シラン、重合体分解を阻害する架橋助剤及びポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物をポリオレフィンの融点を上回る温度で少なくとも1分間混合し、最大30分混合することができるが、高温での混合時間は概して3分〜15分である。不飽和シラン、架橋助剤及び過酸化物は順に添加してもよいが、過酸化物をシラン及び架橋助剤と共に添加するのが好ましい。高温混合は、使用されるポリオレフィンの融点と分解温度との間の温度で行われる。この温度は、概して120℃超である。ポリプロピレンについては、混合温度は好ましくは170℃超である。反応混合物を混合後にさらに例えば1分〜20分の間、140℃を上回る温度に保持して、グラフト化反応を継続してもよい。
【0055】
概して連続加工が好ましく、好ましい容器は、機械的作動、すなわち、内部を通過する材料の混練又は調合に適応した押出機、例えば二軸押出機である。好適な押出機の一例は商標ZSKでCoperion Werner Pfleiderer GmbH & Co KGから販売されているものである。押出機は、いかなる未反応シランも除去するために、押出ダイのすぐ前に真空ポートを備えることが好ましい。押出機又は他の連続反応器中で120℃超で一緒にしたポリオレフィン、不飽和シラン、重合体分解を阻害する架橋助剤及びポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物の滞留時間は概して、少なくとも0.5分、好ましくは少なくとも1分であり、最大で15分であり得る。滞留時間は1分〜5分であることがより好ましい。ポリオレフィンの全部又は一部は、押出機に供給する前に、不飽和シラン及び/又はポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物と予混合してもよいが、かかる予混合は概して120℃未満、例えば周囲温度で行う。
【0056】
ポリオレフィンにグラフト化したシラン部分に存在する加水分解性基、例えばシリル−アルコキシ基は、水分の存在下で、多くのフィラー及び基質、例えば鉱物及び天然産物の表面上に存在するヒドロキシル基と反応する。水分は周囲水分であっても、又は水和塩を添加してもよい。本発明によるポリオレフィンと不飽和シランとのグラフト化を用いて、フィラーとのポリオレフィンの相溶性を向上させることができる。加水分解性基をグラフト化したポリオレフィンは、フィラー/重合体接着を向上させるカップリング剤として使用することができる。例えば、本発明によりグラフト化したポリプロピレンは、充填組成物中の未修飾ポリプロピレン用のカップリング剤として使用することができる。加水分解性基をグラフト化したポリオレフィンは、表面へのポリプロピレン等の低極性重合体の接着を向上させる接着促進剤又は接着中間層として使用してもよい。加水分解性基はまた、水分の存在下で互いに反応して高分子鎖間にSi−O−Si連結を形成し得る。加水分解性基をグラフト化したポリオレフィンは、発泡剤の存在下で水分との反応によって発泡させることができる。
【0057】
加水分解性基、例えばシリル−アルコキシ基は、周囲温度であっても、触媒がなくとも水分の存在下で互いに反応して高分子鎖間にSi−O−Si連結を形成するが、シロキサン縮合触媒の存在下では反応ははるかに急速に進行する。したがって、グラフト化重合体をシラノール縮合触媒の存在下で水分に曝すことによって架橋することができる。グラフト化重合体は発泡剤、水分及び縮合触媒を添加することによって発泡させることができる。任意の好適な縮合触媒を利用することができる。これらはプロトン酸、ルイス酸、有機塩基及び無機塩基、遷移金属化合物、金属塩並びに有機金属錯体を含む。
【0058】
好ましい触媒は、有機スズ化合物、特に有機スズ塩、とりわけジ有機スズ(diorganotin)ジカルボキシレート化合物、例えばジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジメチルスズジブチレート、ジブチルスズジメトキシド、ジブチルスズジアセテート、ジメチルスズビスネオデカノエート、ジブチルスズジベンゾエート、ジメチルスズジネオデコノエート又はジブチルスズジオクトエート等を含む。代替的な有機スズ触媒は、トリエチルスズタートレート、スズ(II)オクトエート、スズオレエート、スズナフテート、ブチルスズトリ−2−エチルヘキソエート、スズブチレート、カルボメトキシフェニルスズトリスベレート及びイソブチルスズトリセロエートを含む。代替的には、有機化合物、特に他の金属、例えば鉛、アンチモン、鉄、カドミウム、バリウム、マンガン、亜鉛、クロム、コバルト、ニッケル、アルミニウム、ガリウム又はゲルマニウム等のカルボキシレートを用いることができる。
【0059】
縮合触媒は代替的には、チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選択される遷移金属の化合物、例えば一般式Ti[OR54のチタネートエステルとしても知られるチタンアルコキシド及び/又は一般式Zr[OR54のジルコネートエステル(式中、各R5は同一であっても又は異なっていてもよく、直鎖又は分枝であり得る炭素数1〜10の一価の第一級、第二級又は第三級脂肪族炭化水素基を表す)であり得る。R5の好ましい例としては、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、及び2,4−ジメチル−3−ペンチル基等の分枝第二級アルキル基が挙げられる。代替的には、チタネートは、任意の好適なキレート剤、例えばアセチルアセトン又はメチル若しくはエチルアセトアセテート等でキレート化してもよい(例えばジイソプロピルビス(アセチルアセトニル)チタネート又はジイソプロピルビス(エチルアセトアセチル)チタネート)。
【0060】
縮合触媒は代替的にはプロトン酸触媒又はルイス酸触媒であり得る。好適なプロトン酸触媒の例としては、酢酸及びスルホン酸等のカルボン酸、特にドデシルベンゼンスルホン酸等のアリールスルホン酸が挙げられる。「ルイス酸」は電子対を受容して共有結合を形成する任意の物質、例えば、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、FeCl3、AlCl3、ZnCl2、ZnBr2又は式MR4fg(式中、MはB、Al、Ga、In又はTlであり、各R4は独立して同一であるか又は異なり、炭素数6〜14の一価の芳香族炭化水素ラジカル(好ましくは少なくとも1つの電子求引元素若しくは電子求引基、例えば−CF3、−NO2若しくは−CN等を有するか、又は少なくとも2つのハロゲン原子で置換される一価の芳香族炭化水素ラジカル)を表し、Xはハロゲン原子であり、fは1、2又は3であり、gは0、1又は2である(但しf+g=3)の触媒である。かかる触媒の一例はB(C653である。
【0061】
塩基性触媒の例は、アミン又はテトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム化合物又はアミノシランである。ラウリルアミン等のアミン触媒は、単独で用いてもよく、又は別の触媒、例えばスズカルボキシレート又は有機スズカルボキシレート等と組み合わせて用いてもよい。
【0062】
シラン縮合触媒は典型的には全組成の0.005重量%〜1.0重量%で用いられる。例えば、ジ有機スズジカルボキシレートは全組成の0.01重量%〜0.1重量%で使用することが好ましい。
【0063】
グラフト化ポリオレフィンは、1つ又は複数の有機又は無機フィラー及び/又は繊維を含有してもよい。本発明の一態様によると、ポリオレフィンのグラフト化を用いて、フィラー及び繊維強化材とのポリオレフィンの相溶性を向上させることができる。フィラー又は繊維とのポリプロピレン等のポリオレフィンの相溶性を向上させることで、グラフト化ポリオレフィンを引き続いて任意選択でシラノール縮合触媒を用いて架橋するか否かを問わず、性質が向上した充填重合体組成物を得ることができる。かかる性質の向上は、例えば強化用フィラー又は繊維によってもたらされる物理的性質の向上、又はフィラーによってもたらされる他の性質、例えば顔料による着色の向上であり得る。フィラー及び/又は繊維は、グラフト化反応の際に不飽和シラン及び有機過酸化物と共にポリオレフィン中に便宜上混合することができ、又は引き続いてグラフト化重合体と混合することができる。
【0064】
充填重合体組成物を形成する場合、グラフト化重合体は組成物中の唯一の重合体であっても、又は未修飾ポリオレフィン等の低極性重合体をさらに含む充填重合体組成物中のカップリング剤として使用してもよい。グラフト化重合体はしたがって、充填組成物の重合体含量の1重量%又は10重量%〜最大で100重量%であり得る。水分及び任意選択でシラノール縮合触媒を組成物に添加して、フィラーとシラングラフト化重合体との結合を促進してもよい。好ましくは、グラフト化重合体は充填重合体組成物の全重量の2%〜最大で10%であり得る。
【0065】
一実施の形態において、フィラーの処理及びPP樹脂重合体へのグラフト化はその場で一段階で行われる。成分(シラン、過酸化物、架橋助剤)は、反応容器にまとめて添加してもよく、又は別個に添加してもよい。
【0066】
代替的な方法では、フィラーを初めに不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)で処理し、次いでポリオレフィンマトリクスに添加してもよい。フリーラジカル部位がポリオレフィン中に生成する場合に、フィラーの表面にあるシランが続いてポリオレフィンマトリクスと反応する。
【0067】
ポリオレフィンを高温で高剪断にかけた場合、例えばポリオレフィンを二軸押出機で加工した場合に幾つかのフリーラジカル部位が生成するが、これはフィラーとポリオレフィンとの結合を亢進させるのに十分であり得る。フリーラジカル部位は電子線によっても生成し得る。フリーラジカル部位は、過酸化物を任意選択でβ切断による重合体分解を阻害する架橋助剤と共に添加し、高温で加工することによっても生成し得る。
【0068】
グラフト化重合体中に含入することができる無機フィラー又は顔料の例としては、二酸化チタン、アルミニウムトリヒドロキシド、マグネシウムジヒドロキシド、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、水和していない、部分的に水和した若しくは水和したフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、クロム酸塩、炭酸塩、水酸化物、リン酸塩、リン酸水素、硝酸塩、酸化物、並びにナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム及びバリウムの硝酸塩;酸化亜鉛、酸化アルミニウム、五酸化アンチモン、三酸化アンチモン、酸化ベリリウム、酸化クロム、酸化鉄、リトポン、ホウ酸又はホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム若しくはホウ酸アルミニウム等のホウ酸塩、アルミノケイ酸塩、バーミキュライト等の混合金属酸化物、ヒュームドシリカ、融解石英、沈降シリカ(precipitated silica)、石英、ケイ砂(sand)及びシリカゲルなどのシリカ;もみ殻灰(rice hull ash)、セラミック及びガラスビーズ、ゼオライト、アルミニウムフレーク若しくは粉末、ブロンズ粉末、銅、金、モリブデン、ニッケル、銀の粉末若しくはフレーク、ステンレス鋼粉末、タングステン、含水ケイ酸カルシウム、チタン酸バリウム、シリカ−カーボンブラック複合材料、官能化カーボンナノチューブ、セメント、フライアッシュ、天然スレート粉(slate flour)、ベントナイト、クレイ、タルク、アンスラサイト、アパタイト、アタパルジャイト、窒化ホウ素、クリストバライト、珪藻土、ドロマイト、フェライト、長石、グラファイト、焼成カオリン、二硫化モリブデン、パーライト、軽石、パイロフィライト、セピオライト、スズ酸亜鉛、硫化亜鉛又はウォラストナイトが挙げられる。繊維の例としては、木粉、木質繊維、綿繊維等の天然繊維、麦かん、麻、亜麻、ケナフ、パンヤ、ジュート、ラミー、サイザル麻、ヘネッケン繊維、トウモロコシ繊維若しくはコイア、又は堅果殻若しくはもみ殻等のセルロース系繊維若しくは農業用繊維(agricultural fibres)、又はポリエステル繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維若しくはガラス繊維等の合成繊維が挙げられる。有機フィラーの例としてはリグニン、でんぷん又はセルロース及びセルロース含有製品、又はポリテトラフルオロエチレン若しくはポリエチレンのプラスチックミクロスフェアが挙げられる。フィラーはアゾ染料、インジゴイド染料、トリフェニルメタン染料、アントラキノン染料、ヒドロキノン染料又はキサンチン染料が含入されているような固体有機顔料であり得る。
【0069】
かかる充填組成物中のフィラー又は顔料の濃度は大きく異なり得る。例えば、フィラー又は顔料は全組成の1重量%又は2重量%〜最大で70重量%を形成し得る。
【0070】
本発明のグラフト化ポリオレフィンを使用して、極性重合体とのポリプロピレン等の低極性重合体の相溶性を向上させることもできる。低極性重合体、極性重合体及びグラフト化ポリオレフィンを含む組成物は、充填及び/又は繊維強化又は無充填であり得る。
【0071】
本発明のグラフト化ポリオレフィンはまた、表面エネルギーのより高い重合体(典型的にはインク、塗料、接着剤及びコーティングに使用される)、例えばエポキシ、ポリウレタン、アクリル及びシリコーンとのポリオレフィンベースの材料のカップリング又は接着をさらに向上させる目的で、ポリオレフィンの表面エネルギーを増大させるために使用することができる。
【0072】
架橋ポリオレフィン物品を形成する場合、グラフト化重合体を物品に成形し、引き続いて水分によって架橋するのが好ましい。好ましい一手順では、シラノール縮合触媒はグラフト化重合体を架橋するのに使用される水に溶解させることができる。例えば、グラフト化ポリオレフィンから成形した物品は、酢酸等のカルボン酸触媒を含有するか、又はアルコキシ−シリル基の加水分解及び縮合反応を加速し得る任意の他の一般的な触媒を含有する水によって硬化させることができる。しかしながら、架橋はかかる触媒の非存在でも起こる場合がある。
【0073】
代替的又は追加的に、シラノール縮合触媒をグラフト化重合体に含入し、次いでグラフト化重合体を物品に成形することができる。成形した物品を引き続いて水分で架橋することができる。触媒はグラフト化反応の前、グラフト化反応の際、又はグラフト化反応後にポリオレフィンと混合することができる。
【0074】
好ましい一手順では、二軸押出機で120℃超でポリオレフィン、不飽和シラン、ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物及びビニル芳香族架橋助剤を混合することにより、シランと重合体とをグラフト化し、得られたグラフト化重合体とシラノール縮合触媒とを引き続く混合工程で混合する。触媒との混合は例えば、押出機(上記二軸押出機等の、内部を通過する材料の混練又は配合に適応した押出機であってもよく、又は単軸押出機等の、より単純な押出機であってもよい)内で連続的に行うことができる。グラフト化重合体はかかる第2の押出機でポリオレフィンの融点を上回る温度に加熱されるため、この第2の押出機でグラフト化反応が継続し得る。
【0075】
代替的な好ましい手順において、シラノール縮合触媒はポリオレフィンの一部と予混合することができ、不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)はポリオレフィンの異なる部分と予混合することができ、2つの予混合物を、グラフト化反応を行うために用いたミキサ又は押出機で任意選択でさらなるポリオレフィンと接触させることができる。ほとんどの不飽和シラン及び好ましい縮合触媒、例えばジ有機スズジカルボキシレート等は液体であるため、押出機でポリプロピレン又は他のポリオレフィンの大部分と混合する前に別途微孔性ポリオレフィンにそれぞれ吸収させることが好ましい場合がある。
【0076】
他の好ましい実施の形態では、シラノール縮合触媒非存在下で架橋を行う。これは、シラノール縮合触媒の使用に関連する、必要反応剤数、コスト及び汚染リスク(とりわけスズに基づくもの)の低減を可能にするため、有利である。米国特許第7015297号は硬化に際して架橋するだけでなく重合体の鎖延長をもたらすアルコキシシラン末端重合体系を提供する。ジアルコキシα−シランを含入することにより、かかる組成物の反応性も十分に高く、概してスズを含有する比較的多量の触媒を使用することなく組成物を製造することができると言われている。米国特許出願公開第20050119436号は、欧州特許第372561号に、シラン縮合触媒を用いて又は用いずに加硫処理されてから水分を排除して保存しなければならないシラン架橋性ポリエーテルの調製についての記載があることを報告している。本発明による方法において、α−ATMは材料における完全な架橋を達成するのに縮合触媒(例えば、DOTDL)の使用を必要としないことが観察されている。他方、縮合触媒の添加によって、反応性の低い不飽和シランを、反応性の高い不飽和シランを縮合触媒なしで使用した場合と同じ重合体架橋速度で使用することが可能となる。
【0077】
フィラー及び/又は強化用繊維は、シラノール縮合触媒をグラフト化ポリオレフィンに添加する場合、架橋重合体を形成する別個の後続工程でシラノール縮合触媒と共に重合体組成物に含入することができる。
【0078】
グラフト化重合体への触媒の添加に用いる混合手順が何であれ、架橋重合体物品を形成する際に、シラン及び触媒が共に水分に曝されないように、又はシラングラフト化重合体及び触媒の組成物が所望の物品に最終的に成形される前に水分に曝されないように注意を払わなければならない。
【0079】
他方、本発明によるグラフト化ポリオレフィンから発泡物品を製造する場合、加水分解及び縮合反応はシラノール縮合触媒と混合した時点で起きるのが好ましい。これにより発泡物品中の重合体の溶融強度をより高くすることが確実となる。加水分解性基をグラフト化したポリオレフィンは、発泡剤、水分及び縮合触媒を共にグラフト化ポリオレフィン組成物に添加することによって発泡させるのが好ましい。発泡剤は分解によってガスを発生する化学的発泡剤、例えばアゾジカーボンアミド、又は組成物が大気圧下に放出されると膨張する、加圧下で注入された蒸気又はガスである物理的発泡剤であり得る。
【0080】
多くの用途では、グラフト化又は架橋した重合体は少なくとも1つの酸化防止剤を含有することが好ましい。好適な酸化防止剤の例としては、商標Ciba Irgafos(登録商標)168で市販されているトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、商標Ciba Irganox(登録商標)1010で市販されているテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル−プロピオネート)]メタン加工安定剤及び商標Ciba Irganox(登録商標)1330で市販されている1.3.5−トリメチル−2.4.6−トリス(3.5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンが挙げられる。架橋重合体が紫外線放射及び光放射に対する安定剤、例えば4−置換−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン等のヒンダードアミン系光安定剤、例えば、商標Tinuvin 770、Tinuvin 622、Uvasil 299、Chimassorb 944及びChimassorb 119で販売されているもの等を含有することが望ましい場合もある。酸化防止剤及び/又はヒンダードアミン系光安定剤は便宜上、グラフト化反応の際に不飽和シラン及び有機過酸化物と共に、又はこれを別個の引き続く工程でグラフト化重合体に添加する場合にはシラノール縮合触媒と共に、ポリオレフィンに含入することができる。架橋ポリオレフィン中の酸化防止剤及び光安定剤の全濃度は、典型的には全組成の0.02重量%〜0.15重量%の範囲である。
【0081】
本発明のグラフト化又は架橋重合体は、染料又は加工助剤等の他の添加剤をさらに含有していてもよい。
【0082】
本発明の重合体組成物、特に充填グラフト化ポリオレフィン組成物及び/又は架橋ポリオレフィンは多種多様な製品で用いることができる。グラフト化重合体はブロー成形又は回転成形して、瓶、缶若しくは他の液体容器、液体供給部、通風部、タンク(燃料タンクを含む)、波形ベローズ、カバー、ケース、チューブ、管、管継ぎ手又は輸送トランクにすることができる。グラフト化重合体はブロー押出して、管、波形管、シート、繊維、プレート、コーティング、フィルム(収縮包装フィルムを含む)、プロファイル、床材、チューブ、導管若しくはスリーブにしてもよく、又は電気絶縁層としてワイヤ若しくはケーブル上に押し出してもよい。グラフト化重合体は射出成形して、チューブ及び管継ぎ手、包装、ガスケット並びにパネルにしてもよい。グラフト化重合体は発泡又は熱成形してもよい。それぞれの場合において、成形した物品はシラノール縮合触媒の存在下で水分に曝すことによって架橋することができる。
【0083】
本発明により製造した架橋ポリオレフィン物品は、グラフト化又は架橋を行わない同様のポリオレフィンから形成された物品と比較して、機械強度、溶融強度、耐熱性、耐薬品性及び耐油性、耐クリープ性及び/又は環境応力割れ耐性が向上している。
【実施例】
【0084】
本発明を以下の実施例によって説明する。
【0085】
原料
用いた重合体は以下の通りであった:
PP=Borealis(登録商標)製のHB 205 TFとして供給されているアイソタクチックポリプロピレンホモ重合体(メルトフローインデックス(melt flow index)MFR 1g/10分(230℃/2.16kgでISO1133に準拠して測定));
PPH=Total Petrochemicals(登録商標)によってPPH 7060として販売されているポリプロピレンホモ重合体(MFR 12g/10分(230℃/2.16kg));
PPC=Total Petrochemicals(登録商標)によってPPC 7760として販売されているポリプロピレン共重合体(MFR 12g/10分(230℃/2.16kg));
PP粉末=Basell(登録商標)によってMoplen HF500Nとして販売されているポリプロピレンホモ重合体(MFR 12g/10分(230℃/2.16kg));
RTP100=RTP Company(登録商標)製のポリプロピレンRTP 100(MFR 4g/10分(230℃/2.16kg))。
【0086】
多孔性PPは、MembranaからAccurel(登録商標)XP100として供給されている微孔性ポリプロピレンであった。この微孔性ポリプロピレンは液体成分の吸収に用いた。Accurel(登録商標)XP100はMFR(2.16kg/230℃)が2.1g/10分(ISO1133法)、融解温度(DSC)が156℃であることを特徴とする。
【0087】
用いた過酸化物は以下の通りであった:
DHBPはArkema製のLuperox(登録商標)101過酸化物として供給されている2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン過酸化物であった;
DCPはArkema製のLuperox(登録商標)DC40Pとして供給されているジクミルペルオキシドであった。
【0088】
試験したシランの系列は以下の通りであった:
ビニルトリメトキシシラン(VTM)はDow Corning(登録商標)Z6300であった;
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(γ−MTM)はDow Corning(登録商標)Z6030であった;
γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(γ−ATM)は米国特許第3179612号に記載のプロセスによってアリルアクリレート及びトリメトキシシランから調製した;
アクリロキシメチルトリメトキシシラン(α−ATM)は米国特許第3179612号に記載のプロセスによってアクリル酸及びクロロメチルトリメトキシシランから調製した;
スチリルシラン=t−ブチルカテコールによって阻害される、ABCR(登録商標)から供給されているスチリルエチルトリメトキシシラン(≧92%)(整理番号AB111376);
シロキシブタジエンシラン=ABCR(登録商標)から供給されている1−(トリメチルシロキシ)−1,3−ブタジエン(整理番号AB111504)。
【0089】
以下の2つの酸化防止剤を用いた:
Irgafos 168は、CibaからIrgafos(登録商標)168として供給されているトリス−(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト酸化防止剤であった;
Irganox 1010は、CibaからIrganox(登録商標)1010として供給されているテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル−プロピオネート)]メタンフェノール系酸化防止剤であった。
【0090】
用いた縮合触媒は以下の通りであった:
成形又は射出した試料を水中で硬化させる水で希釈した1%酢酸;
複合材料に複合させるための、粘度が104cSt(40℃、ASTM D445法)、比重が0.892g/cm3(ASTM D4052法)である、Nynasによって販売されているナフテン系加工油Nyflex(登録商標)222Bで希釈した、ABCR(登録商標)から供給されているジオクチルスズジラウレート(DOTDL)(整理番号AB106609)。
【0091】
重合体分解を阻害するために用いた架橋助剤は以下の通りであった:
Sigma-Aldrich Reagent Plus(登録商標)から供給されているスチレン(≧99%)(整理番号S4972);
Sigma-Aldrich Reagent Plus(登録商標)から供給されているα−メチルスチレン(≧99%)(整理番号M80903);
Sigma-Aldrich Reagent Plus(登録商標)から供給されているジビニルベンゼン(テクニカルグレード、異性体混合物、≧80%)(整理番号414565);
Sigma-Aldrich Reagent Plus(登録商標)から供給されているフェニルアセチレン(≧97%)(整理番号77840);
Sigma-Aldrich Reagent Plus(登録商標)から供給されているジフェニルアセチレン(≧98%)(整理番号D204803);
Cray Valleyから供給されているトリメチロールプロパントリアクリレート(整理番号SARTOMER 351);
Sigma-Aldrich Reagent Plus(登録商標)から供給されているソルビン酸エチル(≧98%)(整理番号177687);
Sigma-Aldrich Reagent Plus(登録商標)から供給されているメチル−2,4−ペンタジエノエート(≧97%)(整理番号18888)。
【0092】
用いたフィラーは以下の通りであった:
木粉=S.P.P.S.(登録商標)によって販売されているF530/200リグノセルロース系添加剤;
ガラス繊維(Fiber Glass)=直径13.0μm及び長さ4.0mmの、3B(登録商標)company製のチョップドストランド繊維CARTEC PLUS DS 2100−13P;
タルク=Luzenac(登録商標)によって販売されているタルクPR8218。
【0093】
用いた基準カップリング剤は以下の通りであった:
MAg−PP=Arkema(登録商標)によって販売されている無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレンであるOrevac(登録商標)CA 100(MFR 150g/10分〜200g/10分(230℃/2.16kg))。
【0094】
実施例1
多孔性PPペレット10重量部と、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン9.7重量部及びDHBP0.2部とを、液体試薬がポリプロピレンにより吸収されるまでタンブル混合(tumbled)して、シランマスターバッチを形成した。
【0095】
Borealis(登録商標)製のHB 205 TFポリプロピレンペレット100重量部を、ローラーブレードを備えたBrabender(登録商標)製のPlastograph 350Eミキサに投入し、そこで調合を行った。ミキサー充填率は0.7とした。回転速度は50rpmとし、チャンバーの温度は190℃に維持した。溶融物のトルク及び温度をモニタリングして成分の反応加工を制御した。PPを3回に分けて投入し、各添加後に1分間融合/混合した。シランマスターバッチを次いで添加し、4分間混合して、グラフト化反応を開始した。次いで、酸化防止剤を添加し、さらに1分間混合したが、この際、グラフト化は継続した。次いで、溶融物をミキサから落とし、周囲温度に冷ました。得られたグラフト化ポリプロピレンを、210℃で5分間Agila(登録商標)PE30プレス上で2mm厚シートに成形した後、さらにプレスしながら15℃/分で周囲温度に冷ました。
【0096】
2mmシートのサンプルを1%酢酸を触媒として含有する水浴中で、90℃で24時間硬化させた。
【0097】
調合時のトルク及び24時間硬化後の架橋ポリプロピレンのずれ弾性率G’を測定した。これらを表1に記録する。
【0098】
加工トルクは、50rpmの混合速度を維持するためにPlastograph 350Eミキサのモータによって加えられるニュートン・メートル(N・m)単位のトルクの大きさである。報告したトルク値は、混合工程の終了時のプラトーレベルである。
【0099】
トルクが低いほど、重合体粘度が低くなる。したがって、混合段階の終了時のトルクレベルは混合時の重合体分解を象徴している。
【0100】
ずれ弾性率(G’)は、Alpha technologiesから供給されているAdvanced Polymer Analyzer APA2000(登録商標)で測定した。試料3.5gを、その融点を上回る180℃の温度で分析した。ずれ弾性率(G’)は、定振動条件(0.5Hz)下での歪み掃引に対して記録した。1%〜610%の様々な歪みに対するずれ弾性率(G’)、ずれ粘性率(G’’)及びTanDの記録にはおよそ8分かかる。歪み%の関数であるG’の各種プロットから、12%歪みでの値はすべて線形粘弾性領域にあった。したがって、実施例に記載の試料の硬化時間の関数であるずれ弾性率の増加をフォローするために12%歪みでのG’の値を選択した。
【0101】
24時間の硬化後のポリプロピレンシートのゲル含量を測定し、表1に記録した。ゲル含量は、ISO10147法「架橋ポリエチレン(PE−X)から成る管及び継手−ゲル含量の定量による架橋度の推定(Pipes and fittings made of crosslinked polyethylene (PE-X) - Estimation of the degree of crosslinking by determination of the gel content)」を用いて求めた。この試験の本質は、成形部から採取した試験片の質量を、該試験片を溶媒中に(例えば還流キシレン中に8時間)浸漬させた前後に測定することにある。架橋度は不溶性物質の質量%で表す。
【0102】
比較例C1〜C3
比較例C1では、アクリロキシプロピルシランを省いて実施例1を繰り返した。比較例C2では、アクリロキシプロピルシラン及び過酸化物を省いて実施例1を繰り返した。比較例C3では、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを等モル量のビニルトリメトキシシランで置き換えて実施例1を繰り返した。調合時のトルク並びに24時間硬化後のポリプロピレンのずれ弾性率G’及びゲル含量を測定した。これらを表1に記録する。
【0103】
【表1】

【0104】
表1中のトルク値は、過酸化物単独(比較例C1)がポリプロピレンの大きな分解をもたらすことを示す。γ−ATM(実施例1)がこの分解を或る程度阻害する一方で、VTMは阻害しない(比較例C3)。
【0105】
表1中のゲル含量の結果から、実施例1の重合体は、ゲル含量が比較例C1及び比較例C2における基準PPのゲル含量よりもはるかに高いため、高い架橋密度まで硬化していることを結論付けることができる。一方、ビニルトリメトキシシランを用いる比較例C3はいかなる有意な架橋も示さない。
【0106】
実施例2〜実施例4
以下の表2に示されるような異なる量のスチレンを用いて実施例1を繰り返した。スチレンは不飽和シランと共に多孔性PPに添加した。実施例2では、γ−ATM及びスチレンは等モル量で使用した。
【0107】
比較例C4〜比較例C6
比較例C4では、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(γ−ATM)を省いて実施例2を繰り返した。比較例C5及び比較例C6では、γ−ATMを、比較例C5では等モル量のビニルトリメトキシシラン(VTM)、比較例C6では等モル量のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(γ−MTM)で置き換えた。
【0108】
実施例2〜実施例4及び比較例C4〜比較例C6の各々について、調合時のトルク及び24時間硬化後のポリプロピレンのずれ弾性率G’及び24時間硬化後のゲル含量を測定した。これらを表2に記録する。
【0109】
【表2】

【0110】
表1及び表2中のトルク値の比較によって、過酸化物単独(比較例C1)がポリプロピレンの大きな分解をもたらし、スチレン(比較例C4)がこの分解を有意に阻害することが示される。γ−ATM(実施例1)も分解を阻害するが、その程度はより小さい。
【0111】
表2中のG’値から、実施例2〜実施例4の重合体は、12%歪みでのG’が比較例C2における基準PPのG’よりもはるかに高いため、高い架橋密度まで硬化していることを結論付けることができる。これは比較例C4によって示されるように、スチレン単独では達成することができない。γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いる実施例2〜実施例4の重合体は、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いる比較例C6において達成されるよりも高い架橋密度まで硬化しており、一方でビニルトリメトキシシランを用いる比較例C5はいかなる有意な架橋も示さない。
【0112】
ゲル含量の結果によって、12%歪みでのG’からの結果が確認される。γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いる実施例2のポリプロピレンが、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いる比較例C6において達成されるよりも高いゲル含量を示す一方で、ビニルトリメトキシシランを用いる比較例C5はほとんどゲル形成を示さない。
【0113】
実施例5〜実施例8
実施例1の手順に従って、ポリプロピレンに表3に示されるような様々な量のγ−ATMをジクミルペルオキシド及びスチレンの存在下でグラフト化し、架橋した。スチレンのγ−ATMとのモル比は、1.5:1に維持した。トルク、硬化後のずれ弾性率G’及び硬化後のゲル含量を測定した。これらを表3に記録する。
【0114】
比較例C7〜比較例C10
各々の場合のγ−ATMを等モル量のγ−MTMで置き換えて実施例5〜実施例8を繰り返した。結果を表3に記録する。
【0115】
【表3】

【0116】
表3中のトルクの結果は、トルクがシラン及びスチレンの量の増加に伴ってわずかに増加することを示す。本発明者らは、スチレンがβ切断によるポリプロピレン分解を有意に防止し、表3中の2組の実施例(実施例5〜実施例8及び比較例C7〜比較例C10)においてスチレン量の増加がトルクの増加に主に寄与すると考えている。
【0117】
表3中の12%歪みでのG’についての結果は、硬化グラフト化ポリプロピレンの架橋密度が、少なくとも低いレベルのシランでγ−ATM及びγ−MTMの両方についてシラン含量と共に増加することを示唆している。表3中のゲル含量の結果からこのことが確認される。架橋密度は常に、同じレベルで使用されるγ−MTMによってよりもγ−ATMによって高く、γ−ATMによるグラフト化効率の増加を示唆し、γ−MTMに対するγ−ATMの明らかな利点を示している。γ−ATMによっては、3重量%のγ−ATMを超えるさらなる架橋の増加は観察されず、このレベルを上回るγ−ATMを用いても追加の利点が得られない可能性がある。
【0118】
実施例9
上記実施例2に記載のバッチプロセスの連続プロセスへのスケールアップを、スクリュー径20mm及びL/D=40のBrabender(登録商標)製のDSE 20/40共回転二軸押出機上で行った。スクリューの回転速度は250rpmとし、6つの加熱帯の温度プロファイルは以下の通りとした:
T1=190℃;
T2=190℃;
T3=195℃;
T4=195℃;
T5=195℃;
T6=200℃。
【0119】
原料はすべて、Brabender Technologie(登録商標)製のDSR28重量測定フィーダーを用いて、0Dのバレル開口を介して供給した。初めに、液体をAccurel(登録商標)XP100多孔性ポリプロピレン上に吸着させて供給を可能にし、ポリプロピレンベースの樹脂に粉末状酸化防止剤を含めたマスターバッチを予め調製した。30Dのバレル開口を通して大気ベントを行った。全押出スループットは3.5kg/時間であった。次いで、得られたグラフト化ポリプロピレン生成物を、210℃で5分間Agila(登録商標)PE30プレス上で2mm厚シートに成形した後、さらにプレスしながら15℃/分で周囲温度に冷ました。
【0120】
2mmシートのサンプルを1%酢酸を触媒として含有する水浴中で、90℃で24時間硬化させた。
【0121】
グラフト化ポリプロピレンのずれ弾性率G’を測定した。ずれ弾性率G’は、硬化前及びさらに24時間硬化後に測定した。これらを表4に記録する。
【0122】
比較例C11及び比較例C12
過酸化物、γ−ATM又はスチレンのいずれも含有しないポリプロピレン(比較例C11)、及び過酸化物を含有するが、γ−ATM又はスチレンのいずれも含有しないポリプロピレン(比較例C12)を押し出し、実施例9に記載されているような酢酸水溶液で処理した。結果を表4に示す。
【0123】
【表4】

【0124】
実施例9の結果から、本発明の方法を二軸押出機において連続的に首尾よく行うことができることが分かる。表4中の実施例9についての硬化後の12%歪みでのG’の値及びゲル含量の値の、実施例2について表2に示される値との比較によって、さらに高い架橋密度(より高レベルのグラフト化を示唆する)が連続プロセスにおいて達成されたことが示される。
【0125】
実施例9のグラフト化ポリプロピレンの接着性を、基質として使用されるポリプロピレン化合物に塗布したシリコーンシーラントから成る単純重ね継手試料を用いて評価した。2つの異なるシリコーンシーラントに対する接着性を検討した。接着性は、重なり剪断(lap-shear)試料を分離するのに必要とされる引張量(引張強度(MPa))を測定することによって求める。また、接着剤の量又は各継手の凝集破壊を概算する[%]。グラフト化ポリプロピレンは酢酸硬化を行わずに試験した。比較例C11の押出ポリプロピレンは、ニート及びプラズマ処理後の両方と比較して試験した。継手の寸法は横18mm、縦15mm、厚さ2mmであった。単純重ね継手試料を周囲条件(25℃及び50%湿度)で硬化させた。硬化時間は2週間とした。
【0126】
重なり剪断接着試験条件は、5.5mm/分で加えられる0.5Nでの先行載荷(pre-loading)、及び続く100mm/分での破断するまでの引張試験であった。結果を表5に示す。
【0127】
Dow−Corning(登録商標)993 2成分(two parts)室温加硫シーラント
【表5】

【0128】
Dow−Corning(登録商標)7091 1成分(one part)室温加硫シーラント
【表6】

【0129】
これらの結果に基づくと、比較例11の未修飾ポリプロピレンに対する2つのシーラントの接着がなかったことは明らかであり、実際に集合体を分離するのに非常に小さな力しか必要とされず、破断面(rupture)が十分に接着性である。他方、重なり剪断にはるかに高い力が必要とされること及びシーラントの凝集破壊が約100%であることによって示されるように、実施例9のグラフト化ポリプロピレンに対する良好な接着が見られた。
【0130】
本発明によって修飾されたポリプロピレンは、プラズマ処理を必要とせずに、プラズマ処理後に達成される接着性と同じくらい良好な接着性を示す。
【0131】
フィラーに対するカップリング剤として作用するグラフト化ポリプロピレンの能力を、木材プラスチック複合材料処方において、5重量%の実施例9のグラフト化ポリプロピレンをカップリング添加剤として用いて試験した。γATM−PPは、酢酸水溶液中での硬化段階を行わない、実施例9からのγATMシラングラフト化ポリプロピレンとした。
【0132】
比較例C11の押出未修飾ポリプロピレン(PP)を、同じようにして試験した。
【0133】
化合物をバッチプロセスに従って、ローラーブレードを備えたBrabender(登録商標)製のPlastograph 350Eミキサを用いて調製した。回転速度は50rpmとし、チャンバーの初期温度は190℃とした。充填率は0.8に設定した。全混合時間は約4分間であり、その後溶融物をプレスして2mm厚プレートにした。ミキサにおける様々な成分の添加順序は以下の通りであった:
PPC+gATM−PPペレットを投入し、添加後1.5分間融合/混合した;
酸化防止剤及び木粉を投入し、さらに2分間混合した;
バッチを落とし、周囲温度に冷ました;
次いで、得られた化合物を、190℃で5分間Agila(登録商標)PE30プレス上で2mm厚シートに成形した後、さらにプレスしながら15℃/分で周囲温度に冷ました。
【0134】
ISO−527タイプ1Bに準拠する引張試料を、Ray-Ran(登録商標)製のPolytest CNCカッティングミルを用いて、成形したシートから切り取った。各化合物の機械的性能を、ISO−527に準拠するこれらの試料の引張試験によって評価した。試験した組成及び得られた結果を表6に示す。組成は重量%で示す。
【0135】
【表7】

【0136】
これらの結果は、5wt%のグラフト化ポリプロピレンをカップリング剤として処方に添加した場合に、得られる木材プラスチック組成物の機械的性能が向上することを明らかに示す。これにより、本発明によるポリプロピレンのグラフト化がポリプロピレンと木粉フィラーとの間の接着を向上させたことが示唆される。
【0137】
ISO−3167に準拠する4mm厚の多目的サンプルを、実施例9及び比較例11の硬化化合物をISO−294に準拠して射出成形することによって調製した。4mm厚の多目的サンプルを、1%酢酸を触媒として含有する水浴中で、90℃で24時間硬化させた。サンプルの荷重たわみ温度(heat deflection temperature:熱変形温度)(HDT)をISO−75法Aに準拠して測定した。これを表7に記録する。
【0138】
【表8】

【0139】
実施例9の架橋グラフト化ポリプロピレンは、比較例C11の基準ポリプロピレンよりもはるかに高い荷重たわみ温度を有し、はるかに高い耐熱性を示す。
【0140】
実施例10及び実施例11
実施例2の手順に従って、グラフト化及び架橋ポリプロピレンサンプルを、表8に示す試薬量に従って、上に列記された他のグレードのポリプロピレンを用いて作製した。生成物を実施例1に記載のように試験した。結果を表8に示す。
【0141】
【表9】

【0142】
実施例10及び実施例11において測定されたトルクレベルは、MFR 12の純粋なポリプロピレンを混合した場合に観察されたトルクレベルと同様であり、スチレンの存在下での本発明による不飽和シランでのグラフト化と同時に、ポリプロピレンの低い分解を示す。実施例10及び実施例11において測定された高いゲル含量は、効果的なポリプロピレンの架橋を示唆する。
【0143】
実施例12及び実施例13
実施例2の手順に従って、グラフト化及び架橋ポリプロピレンサンプルを、スチレンの代わりに上の原料の段落に列記された他の架橋助剤を用い、表9に示す試薬量を用いて作製した。生成物を実施例1に記載のように試験した。結果を表9に示す。
【0144】
【表10】

【0145】
表9中のトルク値は、α−メチルスチレン(実施例12)及びジビニルベンゼン(実施例13)がポリプロピレン分解を有意に阻害することを示す。実際、これらのトルク値は、表1中の比較例C2の基準PPのトルク値と比べてわずかにしか低くない。
【0146】
表9中のG’値から、実施例12及び実施例13の重合体は、12%歪みでのG’が表1中の比較例C2における基準PPのG’よりもはるかに高いため、高い架橋密度まで硬化していることを結論付けることができる。また、G’値は表2中の比較例C5よりも有意に高く、表2中の実施例2〜実施例4と同様である。
【0147】
ゲル含量の結果によって、12%歪みでのG’からの結果が確認され、実際に実施例12及び実施例13のゲル含量は、比較例C2における基準PPのゲル含量よりもはるかに高い。また、ゲル含量値は表2中の比較例C5よりも有意に高く、表2中の実施例2〜実施例4と同様である。
【0148】
実施例12及び実施例13に記載の結果と同様、他の架橋助剤も首尾よく使用され、ポリプロピレン分解を有意に阻害する一方で高い架橋密度を達成する。試験した架橋助剤としては、フェニルアセチレン、ジフェニルアセチレン及びトリメチロールプロパントリアクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0149】
実施例14及び実施例15
実施例2の手順に従って、グラフト化及び架橋ポリプロピレンサンプルを、架橋助剤として先の実施例よりも低い濃度のスチレン、及びソルビン酸エチルを用い、表10に示す試薬量を用いて作製した。生成物を実施例1に記載のように試験した。結果を表10に示す。
【0150】
【表11】

【0151】
表10中のトルク値は、スチレン(実施例14)が、実施例2に使用されるレベルよりはるかに少量(ほぼ3分の1)の使用であってもポリプロピレン分解を有意に阻害することを示す。表10中のトルク値はまた、ソルビン酸エチル(実施例15)がポリプロピレン分解の別の非常に効果的な阻害剤であることを示す。実際、実施例14及び実施例15の両方が、比較例C2の基準PPのトルク値(表1)よりもわずかに低いが、架橋助剤を使用していない比較例C1及び比較例C3のトルク値(表1)よりもはるかに高いトルク値を示す。
【0152】
表10中のG’値から、実施例14及び実施例15の重合体は、12%歪みでのG’が比較例C2における基準PPのG’(表1)よりもはるかに高いため、高い架橋密度まで硬化していることを結論付けることができる。また、G’値は表2中の比較例C5よりも有意に高く、表2中の実施例2〜実施例4と同様である。
【0153】
ゲル含量の結果によって、12%歪みでのG’からの結果が確認され、実際に実施例14及び実施例15のゲル含量は、表1中の比較例C2における基準PPのゲル含量よりもはるかに高い。ソルビン酸エチルを用いて達成されるゲル含量は、スチレンを用いて達成されるゲル含量とほとんど同じ高さである。また、ゲル含量値は表2中の比較例C5よりも有意に高く、表2中の実施例2〜実施例4と同様である。
【0154】
実施例16及び実施例17
実施例2の手順に従って、グラフト化及び架橋ポリプロピレンサンプルを、ソルビン酸エチル及びメチル−2,4−ペンタジエノエート架橋助剤、及びBorealis(登録商標)製のHB 205 TFポリプロピレンペレットの代わりにTotal Petrochemicals(登録商標)製のPPH 7060ポリプロピレンを用い、表11に示す試薬量を用いて作製した。生成物を実施例1に記載のように試験した。結果を表11に示す。
【0155】
【表12】

【0156】
実施例16及び実施例17において測定されたトルクレベルは、MFR 12の純粋なポリプロピレンを混合した場合に観察されたトルクレベルと同様であり、適切な架橋助剤の存在下での本発明による不飽和シランでのグラフト化と同時に、ポリプロピレンの低い分解を示す。表11中のトルクの結果によって、ソルビン酸エチル及びメチル−2,4−ペンタジエノエートがポリプロピレン分解を阻害するのに効果的な架橋助剤であることが確認される。
【0157】
表11中のG’値及びゲル含量の結果から、実施例17の重合体について達成されるゲル含量はより低いものではあるが、実施例16及び実施例17の重合体の両方が有意な架橋密度を達成したことを結論付けることができる。
【0158】
実施例18
実施例9の架橋グラフト化ポリプロピレンは、比較例C11の基準ポリプロピレンよりもはるかに高い荷重たわみ温度を有し、はるかに高い耐熱性を示す。タルクは多くの場合、ポリプロピレン化合物の熱安定性を向上させるために使用されるが、本発明により修飾されたポリプロピレンのさらなる熱安定性評価をタルク充填化合物について行った。
【0159】
化合物を、連続プロセスに従って、スクリュー径20mm及びL/D=40のBrabender(登録商標)製のDSE 20/40共回転二軸押出機を用いて調製した。スクリューの回転速度は250rpmとし、6つの加熱帯の温度プロファイルは以下の通りとした:
T1=190℃;
T2=200℃;
T3=210℃;
T4=210℃;
T5=210℃;
T6=210℃。
【0160】
試験した組成物は、Borealis(登録商標)製のHB 205 TFポリプロピレンペレットの代わりにTotal Petrochemicals(登録商標)製のPPH 7060ポリプロピレンを用い、Luzenac(登録商標)製のPR8218タルクを用いて調製した。これらを表12に示す。
【0161】
【表13】

【0162】
原料はすべて、Brabender Technologie(登録商標)製のDSR28及びDDSR20重量測定フィーダーを用いて、0Dのバレル開口を介して供給した。初めに、液体をAccurel(登録商標)XP100多孔性ポリプロピレン上に吸着させて供給を可能にし、ポリプロピレンベースの樹脂に粉末状酸化防止剤を含めたマスターバッチを予め調製した。30Dのバレル開口を通して大気ベントを行った。全押出スループットは3.5kg/時間であった。
【0163】
次いで、得られた化合物を、ISO−294に準拠する射出成形によって、ISO−3167に準拠する4mm厚の多目的試料に成形した。4mm厚の多目的サンプルを、試験前に1%酢酸を触媒として含有する水浴中で、90℃で24時間硬化させた。サンプルの荷重たわみ温度(HDT)をISO−75法Aに準拠して測定した。これを表13に記録する。
【0164】
【表14】

【0165】
実施例18の架橋グラフト化ポリプロピレン化合物は、比較例C13の基準化合物よりも高い荷重たわみ温度を有し、はるかに高い耐熱性を示す。したがって、未修飾ポリプロピレンに対する本発明により修飾されたポリプロピレンの性能の向上が確認され、タルク充填系において有意である。
【0166】
実施例18に記載の結果と同様、30w%のガラス繊維を含有する化合物も調製したが、この場合も本発明により調製される化合物の耐熱性の有意な向上が確認された。
【0167】
実施例19
ガラス繊維強化化合物中のカップリング剤として使用した場合の本発明により修飾された重合体のカップリング性能を、無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレンカップリング剤と比較して評価した。また、加速老化試験(accelerated aging tests)を各々のカップリング剤を含有するガラス繊維強化化合物に対して行った。
【0168】
上記実施例14に記載のバッチプロセスの連続プロセスへのスケールアップを、スクリュー径20mm及びL/D=40のBrabender(登録商標)製のDSE 20/40共回転二軸押出機上で行った。スクリューの回転速度は250rpmとし、6つの加熱帯の温度プロファイルは以下の通りとした:
T1=190℃;
T2=200℃;
T3=210℃;
T4=210℃;
T5=210℃;
T6=210℃。
【0169】
試験した組成物を実施例19と呼び、Borealis(登録商標)製のHB 205 TFポリプロピレンペレットを用いて調製した。これを表14に示す。
【0170】
【表15】

【0171】
原料はすべて、Brabender Technologie(登録商標)製のDSR28重量測定フィーダーを用いて、0Dのバレル開口を介して供給した。初めに、液体をAccurel(登録商標)XP100多孔性ポリプロピレン上に吸着させて供給を可能にし、ポリプロピレンベースの樹脂に粉末状酸化防止剤を含めたマスターバッチを予め調製した。30Dのバレル開口を通して大気ベントを行った。全押出スループットは3.5kg/時間であった。
【0172】
次いで、ガラス繊維に対するカップリング剤として作用するグラフト化ポリプロピレンの能力を、ガラス繊維強化複合材料処方において、5重量%の実施例19のグラフト化ポリプロピレンをカップリング添加剤として用いて試験した。
【0173】
上で言及したMAg−PPを比較目的で同じようにして試験した。
【0174】
化合物を、実施例19と同じ連続プロセスに従って調製した。プロセスのパラメータは同様に設定し、化合物を表15に示す組成に従って調製した。
【0175】
【表16】

【0176】
次いで、得られた化合物を、ISO−294に準拠する射出成形によって、ISO−3167に準拠する4mm厚の多目的試料に成形した。この4mm厚の多目的サンプルは試験前に硬化させなかった。各化合物の機械的性能を、ISO−527に準拠するこれらの試料の引張試験によって評価した。得られた結果を表16に示す。
【0177】
次いで、試料をBinder(登録商標)製のFD53オーブン内で、16日間の強制対流によって150℃で老化させ、さらなる引張試験のために試料を定期的にサンプリングした。結果を表16に報告する。
【0178】
【表17】

【0179】
新鮮サンプルについての結果は、5wt%のグラフト化ポリプロピレンをカップリング剤として処方に添加した場合に、得られるガラス繊維強化複合材料の機械的性能が、無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレンによって達成される性能と少なくとも同じレベル、さらには超えるレベルまで向上することを明らかに示す。
【0180】
これに加えて、7日間及び16日間150℃で老化させた試料についての結果は、MAg−PPを用いた化合物3の性能が、本発明により修飾されたポリプロピレンを用いた化合物4の性能よりもはるかに速く劣化することを示す。
【0181】
実施例20及び比較例C14〜比較例C18
米国特許第6864623号と比較する研究を行った。比較例C14〜比較例C18は、米国特許第6864623号明細書の実施例2の手順を基に、Brabender(登録商標)製のPlastograph 350Eミキサを用い、以下の表17に列記される試薬量を用いて調製した。表17に記載の比較例C14〜比較例C18を、米国特許第6864623号明細書に記載されているそれぞれの量で、ビニルトリメトキシシランをスチレン又はシロキシブタジエン又はスチリルシラン架橋助剤のいずれかと組み合わせて調製した。生成物を実施例1に記載のように試験した。結果を表17に示す。
【0182】
【表18】

【0183】
表17中のトルクの結果は、比較例の処方がポリプロピレン分解を適切に防止しない(スチレンがこの分解の防止に寄与する比較例C14以外)ことを示す。
【0184】
表17中のG’値から、実施例20及び実施例14の重合体は、12%歪みでのG’が表1中の比較例C2における基準PPのG’よりもはるかに高いため、高い架橋密度まで硬化していることを結論付けることができる。他方、比較例C14〜比較例C18は、表1中の比較例C1と同様、極めて低いG’値を示すが、これは、VTMシランが特許文献11に記載されている条件でポリプロピレンに事実上グラフト化しないことから、β切断による有意なポリプロピレン分解及び架橋のほぼ完全な欠如を示唆する。
【0185】
表17中のゲル含量の結果によって、12%歪みでのG’からの結果が確認される。実際、実施例20及び実施例14のゲル含量は高く、比較例C14〜比較例C18についてのゲル含量は「0」であった。
【0186】
これらの後者の結果から、米国特許第68643265号に記載のプロセスが、本発明とは対照的に、β切断によるポリプロピレン樹脂分解を防止するのに適切ではなく、ポリプロピレン樹脂を修飾するいかなる有益な手段も提供しないことが確認された。
【0187】
実施例21及び実施例22並びに比較例C19及び比較例C20
実施例1の手順に従って、グラフト化及び架橋ポリプロピレンサンプルを40重量%の木粉を用い、表18に示す試薬量(重量%)を用いて作製した。
【0188】
実施例21では、実施例9において用いられる手順に従って調製された5重量%の前グラフト化(pre-grafted)ポリプロピレンを、木粉とポリプロピレンとの間のカップリング剤として添加した。実施例22では、ポリプロピレンに対するシラングラフト化反応は、ポリプロピレンへの木粉の調合時にその場で起こっていた。
【0189】
生成物をトルク及びずれ弾性率(G’)について実施例1に記載のように試験した。結果を表18に示す。また、得られた化合物を、210℃で5分間のAgila(登録商標)PE30プレス上での圧縮成形によって4mm厚プレートに成形した後、さらにプレスしながら15℃/分で周囲温度に冷ました。ISO−527タイプ1Bに準拠する引張試料を、Ray-Ran(登録商標)製のPolytest CNCカッティングミルを用いて、成形したシートから切り取った。この4mm厚のサンプルは試験前に硬化させなかった。各化合物の機械的性能を、ISO−527に準拠するこれらの試料の引張試験によって評価した。得られた結果を表18に示す。
【0190】
【表19】

【0191】
表18中のG’値から、実施例21の複合材料は、12%歪みでのG’が基準カップリング剤技術(比較例C19におけるMAg−PP)のG’よりもわずかに高いため、同様の又はわずかに高い架橋密度まで硬化していることを結論付けることができる。カップリングを実施例22のようにその場で行った場合、はるかに高いG’値が得られた。
【0192】
表18中の引張強度、引張率及び引張歪みの値から、実施例21及び実施例22の複合材料が、基準カップリング剤技術(比較例C19におけるMAg−PP)の機械的性質及び比較例C20におけるように任意のカップリング剤を含まない複合材料の機械的性質よりもはるかに良好な機械的性質を有することを結論付けることができる。
【0193】
吸水(Water uptake)試験を、室温で脱塩水中に試料を浸漬させることによって行った。吸水率を初期重量に対する所与の水中浸漬期間後のサンプル重量と水中浸漬前の初期重量との間の差の比率として計算し、%で表した。
【0194】
表18中の吸水の値から、実施例21及び実施例22の複合材料が、基準カップリング剤技術(比較例C19におけるMAg−PP)の耐吸水性及び比較例C20におけるように任意のカップリング剤を含まない複合材料の耐吸水性よりもはるかに良好な耐吸水性を有することを結論付けることができる。
【0195】
実施例23及び実施例24、並びに比較例C21及び比較例C22
実施例9の手順に従って、グラフト化及び架橋ポリプロピレンサンプルを30重量%の木粉を用い、表19に示す試薬量を用いて連続押出プロセスに従って作製した。木粉とポリプロピレンとの間のカップリングは、実施例22に用いられる手順に従ってその場で行った。
【0196】
次いで、得られた化合物を、ISO−294に準拠する射出成形によって、ISO−3167に準拠する4mm厚の多目的試料に成形した。各化合物の機械的性能を、ISO−527に従うこれらの未硬化試料の引張試験によって評価した。また、ノッチなし試料に対するシャルピー法(ISO179−2)に準拠して、これらの未硬化試料について衝撃強度を測定した。得られた結果を表19に示す。
【0197】
【表20】

【0198】
表19中の引張強度、引張率及び引張歪みの値から、実施例23及び実施例24の複合材料が、基準カップリング剤技術(比較例C21におけるMAg−PP)の機械的性質及び比較例C22におけるように任意のカップリング剤を含まない複合材料の機械的性質とかなり似た又はより良好な機械的性質を有することを結論付けることができる。
【0199】
表19中の衝撃強度の値から、実施例23及び実施例24の複合材料が、基準カップリング剤技術(比較例C21におけるMAg−PP)の耐衝撃性及び比較例C22におけるように任意のカップリング剤を含まない複合材料の耐衝撃性よりもわずかに良好な耐衝撃性を有することを結論付けることができる。
【0200】
表19中の吸水値から、実施例23及び実施例24の複合材料が、基準カップリング剤技術(比較例C21におけるMAg−PP)の耐吸水性及び比較例C22におけるように任意のカップリング剤を含まない複合材料の耐吸水性よりも有意に良好な耐吸水性を有することを結論付けることができる。
【0201】
実施例25〜実施例28
実施例1の手順に従って、グラフト化及び架橋ポリプロピレンサンプルを、混合工程の最後にローラーブレードミキサ内に添加されるジオクチルスズジラウレート(DOTDL)触媒の存在下及び非存在下で、表20に示す試薬量で作製した。ナフテン系加工油は、粘度が104cSt(40℃、ASTM D445法)、比重が0.892g/cm3(ASTM D4052法)である、Nynas製のNyflexR 222Bであった。α−ATMは、米国特許第3179612号に記載のプロセスに従ってアクリル酸及びクロロメチルトリメトキシシランから調製されたアクリロキシメチルトリメトキシシランであった。
【0202】
先の実施例1とは異なり、硬化を水浴中で希釈した任意のさらなる架橋触媒の非存在、95℃で水中で行った。これにより、材料自体におけるDOTDL触媒の添加の影響を評価した。
【0203】
【表21】

【0204】
表20に示す、ずれ弾性率(G’)値の分析により、DOTDL触媒の非存在下(実施例25及び実施例27)では、試料を水中で95℃で24時間硬化した後に、α−ATMによってγ−ATMに比べて約2倍高い値が得られたことが示唆される。このことはα−ATMによってγ−ATMに比べて速い硬化が達成されることを証明する。DOTDL触媒の存在下(実施例26及び実施例28)では、差はあまり顕著ではなかった。これらの観察結果から、スズ触媒がPP樹脂骨格上にグラフト化したシリルアルコキシ基の縮合を加速し、したがって試料間の差がなくなることが示唆される。これらの結果はまた、α−ATMが材料における完全な架橋を達成するのに縮合触媒(例えば、DOTDL)の使用を必要としないことを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性シラン基をポリオレフィン(エチレン単位が存在する場合、全ポリオレフィンの50重量%未満を形成する)にグラフト化する方法であって、該ポリオレフィンと、Siと結合した少なくとも1つの加水分解性基を有する不飽和シラン、又はその加水分解産物とを、該ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る手段の存在下で反応させることを含み、前記不飽和シランが式R’’−CH=CH−Z(I)又はR’’−C≡C−Z(II)(式中、Zは−SiRaR’(3-a)基で置換された電子求引部分を表す)(ここで、Rは加水分解性基を表し;R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し;aは1以上3以下の範囲の値を有し;R’’は水素又は−CH=CH−結合若しくは−C≡C−結合に対して電子求引効果又は任意の他の活性化効果を有する基を表す)を有することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記ポリオレフィンが少なくとも50重量%単位の炭素数3〜8のオレフィンを含み、好ましくは前記ポリオレフィンがポリプロピレンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グラフト化反応を、前記ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物の存在下で、β切断による重合体分解を阻害する架橋助剤の存在下で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記架橋助剤がビニル芳香族化合物、好ましくはスチレンであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記架橋助剤がソルビン酸エチルであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記架橋助剤が全組成の0.1重量%〜15.0重量%存在することを特徴とする、請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記不飽和シラン(I)又は前記不飽和シラン(II)中の各R基がアルコキシ基であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記不飽和シラン(I)又は前記不飽和シラン(II)を部分的に加水分解し、オリゴマーに縮合することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記不飽和シランが式R’’−CH=CH−X−Y−SiRaR’(3-a)(III)又は式R’’−C≡C−X−Y−SiRaR’(3-a)(IV)(式中、Xは−CH=CH−結合又は−C≡C−結合に対して電子求引効果を有する化学連結を表し、Yは連結XとSi原子とを隔離する少なくとも1つの炭素原子を含む二価の有機スペーサー連結を表す)を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記不飽和シランが式R’’−CH=CH−X−Y−SiRaR’(3-a)(III)を有し、R’’−CH=CH−X−Y−部分がアクリロキシアルキル基であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記不飽和シラン(I)がγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン及び/又はアクリロキシメチルトリメトキシシランを含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記不飽和シラン(I)がγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランとアクリロキシメチルトリメトキシシランとの配合物又はγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン若しくはアクリロキシメチルトリメトキシシランとビニルトリメトキシシラン若しくはメタクリロキシトリメトキシシランの配合物を含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記不飽和シラン(III)及び前記不飽和シラン(IV)中のR’’基が式−X−Y−SiRaR’(3-a)の電子求引基であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記不飽和シラン(III)がビス(トリアルコキシシリルアルキル)フマレート及び/又はビス(トリアルコキシシリルアルキル)マレエートを含むことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記不飽和シラン(I)又は前記不飽和シラン(II)が、全組成の0.5重量%〜15.0重量%存在することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記重合体中にフリーラジカル部位を生成し得る有機過酸化物化合物が、全組成の0.01重量%〜2重量%存在することを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
加水分解性シラン基を重合体(エチレン単位が存在する場合、全重合体の50重量%未満を形成する)にグラフト化する方法であって、該重合体を、Siと結合した少なくとも1つの加水分解性基を有する不飽和シラン、又はその加水分解産物の存在下で、電子線で処理することを含み、前記不飽和シランが式R’’−CH=CH−Z(I)又はR’’−C≡C−Z(II)(式中、Zは−SiRaR’(3-a)基で置換された電子求引部分を表す)(ここで、Rは加水分解性基を表し;R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し;aは1以上3以下の範囲の値を有し;R’’は水素又は−CH=CH−結合若しくは−C≡C−結合に対して電子求引効果又は任意の他の活性化効果を有する基を表す)を有することを特徴とする、方法。
【請求項18】
前記不飽和シラン(I)又は前記不飽和シラン(II)を、前記重合体と反応させる前にフィラーに付着させることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記重合体と、前記不飽和シラン(I)又は前記不飽和シラン(II)及びフィラーとをその場で反応させることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
加水分解性シラン基をグラフト化したグラフト化ポリオレフィン(該ポリオレフィン中の全単位の50重量%未満がエチレン単位である)であって、式R’’−CH(PP)−CH2−Zのグラフト化部分及び/又は式R’’−CH2−CH(PP)−Zのグラフト化部分(式中、Zは−SiRaR’(3-a)基で置換された電子求引部分を表す)(ここで、Rは加水分解性基を表し;R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し;aは1以上3以下の範囲の値を有し;R’’は水素又は電子求引効果若しくは任意の他の活性化効果を有する基を表し;PPはポリオレフィン鎖(該ポリオレフィン中の全単位の50重量%未満がエチレン単位である)を表す)を含有することを特徴とする、グラフト化ポリオレフィン。
【請求項21】
−CH=CH−Z−部分又は−C≡C−Z−部分を含有しないオレフィン性不飽和シランと比較してグラフト化を亢進させる、加水分解性シラン基を重合体(エチレン単位が存在する場合、全重合体の50重量%未満を形成する)にグラフト化する際の、式R’’−CH=CH−Z(I)又は式R’’−C≡C−Z(II)(式中、Zは−SiRaR’(3-a)基で置換された電子求引部分を表す)(ここで、Rは加水分解性基を表し、R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し、aは1以上3以下の範囲の値を有し、R’’は水素又は−CH=CH−結合若しくは−C≡C−結合に対して電子求引効果若しくは任意の他の活性化効果を有する基を表す)の不飽和シランの使用。
【請求項22】
請求項20に記載のグラフト化重合体又は請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法によって製造したグラフト化重合体を、シラノール縮合触媒の存在下又は非存在下のいずれかで水分に曝すことを特徴とする、重合体(エチレン単位が存在する場合、全重合体の50重量%未満を形成する)を架橋する方法。
【請求項23】
前記グラフト化重合体を物品に成形し、引き続いて水分に曝すことによって架橋することを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
低極性の重合体とフィラー又は基材又は接着剤、インク、塗料若しくはコーティングとの接着を向上させる接着促進剤としての、請求項20に記載のグラフト化重合体又は請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法によって製造したグラフト化重合体の使用。
【請求項25】
低極性の重合体とより高い極性を有する重合体との相溶性を向上させ、新合金を形成する相容化剤としての、請求項20に記載のグラフト化重合体又は請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法によって製造したグラフト化重合体の使用。
【請求項26】
発泡剤、水分及び縮合触媒を共に、請求項20に記載のグラフト化重合体又は請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法によって製造したグラフト化重合体に添加することを特徴とする、発泡重合体を形成する方法。

【公表番号】特表2011−526312(P2011−526312A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515241(P2011−515241)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004798
【国際公開番号】WO2010/000478
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(596012272)ダウ・コーニング・コーポレイション (347)
【Fターム(参考)】