説明

個体識別システム、衣類および個体識別方法

【構成】 個体識別システムは、識別対象18を撮影する赤外線カメラ16を含む。識別対象18には衣類20が着用され、この衣類20では、たとえば識別対象18の体からの水分を吸収して発熱することによって遠赤外線を放射する素材、識別対象18の体が放射する遠赤外線を遮断(反射、吸収)する素材、および遠赤外線を透過する素材を組み合わせることによって、たとえば2次元コードの形態で識別情報が形成される。この衣類20を着用している識別対象18を赤外線カメラ16で撮影すると、その赤外線画像では遠赤外線の強度分布として識別情報が現れる。この赤外線画像に画像処理を施すことによって、識別情報を抽出し解読して識別対象18を識別する。
【効果】 識別対象に由来する遠赤外線を検出するので、識別対象への負荷がなく、簡単に安定した識別を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は個体識別システム、衣類および個体識別方法に関し、特にたとえば遠赤外線を利用して個体識別をするための個体識別システムおよび個体識別方法、ならびに個体識別のために識別対象に着用される衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、個体識別を行う方式には、識別対象であるたとえば人物に識別情報を発信する装置を取り付けるアクティブな方式と、対象人物等には装置を一切取り付けずにカメラなどの外的センサによる観測情報のみから識別を行うパッシブな方式とがあった。たとえば、本件出願人が平成15年1月15日付けで出願した特願2003−7292号では、識別対象に無線タグを装着することによって、その対象を特定可能にしている。
【0003】
一方、たとえば特許文献1では、正面顔画像を撮影し、予め記憶しておいた識別辞書を用いて、人物を特定するようにしている。
【0004】
また、たとえば特許文献2には、紫外線発光塗料を用いて表示された物品の識別情報を認識する方法が開示されている。この特許文献2の技術では、紫外線照射器を用いて識別情報を発光させ、可視光カメラで画像として取り込むようにしている。
【0005】
また、たとえば特許文献3および特許文献4には、加熱することで赤外線を発光(輻射)する繊維素材を衣服など製品または商品の布地に織り込むことによってバーコードなどの不可読情報を形成し、このバーコード等を読み取ることによって製品等を認識する技術が開示されている。この技術では、製品等を加熱装置を用いて加熱し、あるいは製品等に赤外光を照射して、たとえば通常の衣服表面と、赤外線吸収率の異なる繊維素材を織り込んだ布地との赤外放射量の差から、赤外専用の検出器を用いることでバーコードを読み取るようにしている。バーコードにはその製品等のID、あるいは商品名称、色、サイズ、価格、製造元などの商品に関する情報が登録される。
【特許文献1】特開2002−56388号公報
【特許文献2】特開2003−99711号公報
【特許文献3】特開2001−146659号公報
【特許文献4】特開2002−74290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記アクティブな方式の場合には、安定した識別が可能であるが、識別対象にたとえば無線タグのような特殊な装置を装着しなければならないので、面倒であり、識別対象に負荷がかかる。一方、上記パッシブな方式の特許文献1の場合には、識別対象に対する負荷はないが、撮影した顔画像から人物を特定するので、処理が膨大であり識別が容易ではなく、したがって、安定した識別が難しいという問題があった。
【0007】
また、特許文献2の技術では、紫外線照射器のような特別な装置を準備しなければならない。また、識別情報の発光の検出に適した暗さを有する環境内で対象に紫外線を照射する必要がある。したがって、識別情報の読取を簡単には行うことができないという問題がある。さらに、識別情報の読取のためにたとえば識別対象を上記環境に移動させる必要があるので、面倒である。また、特許文献2では、たとえば人物を識別対象とすることは想定されていないので、人物などの識別をどのように行うのかは何ら明らかではない。この技術でたとえば人物を識別対象とすることを想定した場合、識別対象である人物に紫外線発光塗料で識別情報を付与して上記環境に意識的に移動させなければならないので、識別対象への負荷が大きくなってしまう。
【0008】
また、特許文献3および4の技術では、赤外線吸収率の異なる繊維素材を織り込むことで識別情報を形成した製品等を加熱し、その結果製品等から輻射される赤外線量の差を検出するようにしているので、加熱装置を準備して製品等を加熱したり赤外光を照射したりする必要があり、面倒である。さらに、識別情報の検出の際には、製品等および加熱装置のいずれか一方を他方に移動させる必要があるので、面倒である。また、特許文献3および4の技術は、衣服等自体を識別しようとするものであり、たとえば人物を識別対象とすることは想定されていないので、人物などの識別をどのように行うのかは何ら明らかではない。この技術でたとえば人物を識別対象とすることを想定した場合、識別対象である人物をたとえば加熱装置の設置場所に意識的に移動させなければならないので、識別対象への負荷が大きくなってしまう。
【0009】
それゆえに、この発明の主たる目的は、簡単に識別を行うことができる、個体識別システム、衣類および個体識別方法を提供することである。
【0010】
この発明の他の目的は、識別対象への負荷なく識別を行うことができる、個体識別システム、衣類および個体識別方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、遠赤外線を利用して個体識別をするための個体識別システムであって、識別対象に着用させるための衣類であって、遠赤外線を放射する素材、遠赤外線を遮断する素材および遠赤外線を透過する素材のうちのいずれかの組み合わせによって、該識別対象を示す識別情報が形成された衣類、衣類を着用した識別対象を撮影するための赤外線カメラ、および赤外線カメラによって撮影された画像に基づいて識別情報を検出する検出手段を備える、個体識別システムである。
【0012】
請求項1の発明では、識別対象に着用される衣類には、遠赤外線を放射する素材(第1素材と呼ぶ。)、遠赤外線を遮断する素材(第2素材と呼ぶ。)、および遠赤外線を透過する素材(第3素材と呼ぶ。)のうちのいずれかの組み合わせによって、該識別対象を示す識別情報が形成される。つまり、衣類では遠赤外線に関する特性の異なる素材を組み合わせることによって、その衣類を着用する識別対象を示す識別情報が形成される。具体的には、第1素材と第2素材との組み合わせ、第2素材と第3素材との組み合わせ、第3素材と第1素材との組み合わせによって、識別情報が形成される。たとえば、第1素材で形成される部分は遠赤外線を放射し、第2素材で形成される部分は識別対象の放射する遠赤外線を遮断し、第3素材で形成される部分は識別対象の放射する遠赤外線を透過する。このような衣類を通して遠赤外線を検出すると、衣類に形成された識別情報が遠赤外線の強度分布として現れる。したがって、衣類を着用した識別対象を赤外線カメラで撮影することによって、識別情報を取得することができる。そして、検出手段は、赤外線カメラによって撮影された画像に基づいて、識別情報を検出する。これによって、識別対象を識別することが可能になる。したがって、請求項1の発明によれば、識別対象に衣類を着用させるだけでよいので、識別対象に負荷をかけるようなことがない。また、識別対象を加熱するような装置や赤外線を照射するような装置を別途設ける必要もなく、簡単に個体識別を行うことができる。
【0013】
請求項2の発明は、個体識別のために識別対象に着用される衣類であって、遠赤外線を放射する素材と遠赤外線を遮断する素材とによって、識別対象を示す識別情報を形成した、衣類である。
【0014】
請求項2の発明では、衣類を着用する識別対象を示す識別情報が、遠赤外線を放射する素材(第1素材)と遠赤外線を遮断する素材(第2素材)とによって形成される。この衣類が識別対象に着用されると、第1素材で形成された部分は遠赤外線を放射し、第2素材で形成された部分はたとえば識別対象の放射する遠赤外線を遮断する。この衣類を介して遠赤外線を検出すると、衣類に形成した識別情報に対応する遠赤外線の強度分布が現れる。したがって、この衣類を介して遠赤外線を検出することによって、識別情報を取得することができる。そして、取得した識別情報に基づいて、識別対象を識別することが可能になる。したがって、請求項2の発明によれば、識別対象を加熱する装置や赤外線を照射する装置を別途設ける必要がなく、識別対象にこの衣類を着用させるだけでよい。したがって、識別対象に負荷をかけるようなこともなく、簡単に個体識別を行うことができる。
【0015】
請求項3の発明は、個体識別のために識別対象に着用される衣類であって、遠赤外線を透過する素材と遠赤外線を遮断する素材とによって、識別対象を示す識別情報を形成した、衣類である。
【0016】
請求項3の発明では、衣類を着用する識別対象を示す識別情報が、遠赤外線を透過する素材(第3素材)と遠赤外線を遮断する素材(第2素材)とによって形成される。この衣類が識別対象に着用されると、第3素材で形成された部分はたとえば識別対象の放射する遠赤外線を透過し、第2素材で形成された部分はたとえば識別対象の放射する遠赤外線を遮断する。この衣類を介して遠赤外線を検出すると、衣類に形成した識別情報に対応する遠赤外線の強度分布が現れる。したがって、この衣類を介して遠赤外線を検出することによって、識別情報を取得することができる。そして、取得した識別情報に基づいて、識別対象を識別することが可能になる。したがって、請求項3の発明によれば、識別対象を加熱する装置や赤外線を照射する装置を別途設ける必要がなく、識別対象にこの衣類を着用させるだけでよい。したがって、識別対象に負荷をかけるようなこともなく、簡単に個体識別を行うことができる。
【0017】
請求項4の発明は、個体識別のために識別対象に着用される衣類であって、遠赤外線を放射する素材と遠赤外線を透過する素材とによって、識別対象を示す識別情報を形成した、衣類である。
【0018】
請求項4の発明では、衣類を着用する識別対象を示す識別情報が、遠赤外線を放射する素材(第1素材)と遠赤外線を透過する素材(第3素材)とによって形成される。この衣類が識別対象に着用されると、第1素材で形成された部分は遠赤外線を放射し、第3素材で形成された部分はたとえば識別対象の放射する遠赤外線を透過する。この衣類を介して遠赤外線を検出すると、衣類に形成した識別情報に対応する遠赤外線の強度分布が現れる。したがって、この衣類を介して遠赤外線を検出することによって、識別情報を取得することができる。そして、取得した識別情報に基づいて、識別対象を識別することが可能になる。したがって、請求項4の発明によれば、識別対象を加熱する装置や赤外線を照射する装置を別途設ける必要がなく、識別対象にこの衣類を着用させるだけでよい。したがって、識別対象に負荷をかけるようなこともなく、簡単に個体識別を行うことができる。
【0019】
請求項5の発明は、請求項2または4の発明に従属し、遠赤外線を放射する素材は、吸湿発熱性素材を含む。請求項5の発明では、第1素材は吸湿して発熱する性質を有している。この衣類が識別対象に着用されると、第1素材で形成された部分は、識別対象から水分を吸収することで発熱し、遠赤外線を放射する。この第1素材で形成された部分から放射される遠赤外線の強度は、第2素材で形成された部分または第3素材で形成された部分のそれとは異なり、より高いものである。したがって、識別情報を十分なコントラストをもって現すことができるので、より安定した識別を簡単に行うことができる。
【0020】
請求項6の発明は、請求項2または3の発明に従属し、遠赤外線を遮断する素材は、遠赤外線を反射する素材または遠赤外線を吸収する素材を含む。請求項6の発明では、第2素材は、具体的には、遠赤外線を反射する素材、または遠赤外線を吸収する素材であってよい。この衣類が識別対象に着用されると、第2素材で形成された部分は、たとえば識別対象の放射する遠赤外線を反射しまたは吸収することによって遮断する。したがって、この衣類を介して遠赤外線を検出することによって識別情報を取得することができるので、識別対象に負荷をかけることなく、簡単に識別を行うことができる。
【0021】
請求項7の発明は、請求項6の発明に従属し、遠赤外線を遮断する素材が遠赤外線を反射する素材であるとき、該遠赤外線を反射する素材と識別対象との間に断熱素材が配置される。請求項7の発明では、遠赤外線を反射する素材と識別対象の間に断熱素材が配置されるので、反射する素材が識別対象の熱によって加熱されて温度上昇してしまうのを防止することができる。これによって反射性素材が遠赤外線を輻射することを低減することができる。したがって、他の素材との組み合わせによる遠赤外線強度分布のコントラストを容易に確保することができる。
【0022】
請求項8の発明は、請求項2ないし7のいずれかの発明に従属し、識別情報の表側は、遠赤外線を透過する素材で覆われる。請求項8の発明では、異なる素材の組み合わせで形成される識別情報の表側が、遠赤外線を透過する素材で覆われるので、識別情報が形成されていることを外見上目立たないようにすることができる。したがって、衣類を着用する識別対象が人目を気にしないでよく、識別対象には負荷がかからない。さらに、遠赤外線を透過するので、識別情報を形成する第1素材の部分または第3素材の部分から出てくる遠赤外線を、表側へ通過させることができる。したがって、識別に支障をきたすようなこともない。
【0023】
請求項9の発明は、遠赤外線を利用して個体識別をする個体識別方法であって、(a) 識別対象に着用させるための衣類であって、該識別対象の湿気を吸収して発熱することによって遠赤外線を放射する素材、該識別対象の放射する遠赤外線を遮断する素材、および該識別対象の放射する遠赤外線を透過する素材のうちのいずれかの組み合わせによって、該識別対象を示す識別情報が形成された衣類を準備し、(b) 識別対象に着用させた衣類を介して遠赤外線を検出することによって識別情報を取得する、個体識別方法である。
【0024】
請求項9の発明では、まず、識別対象に着用させるための衣類を準備する。この衣類では、識別対象を示す識別情報が、識別対象の湿気を吸収して発熱することによって遠赤外線を放射する素材(第1素材)、識別対象の放射する遠赤外線を遮断する素材(第2素材)、および識別対象の放射する遠赤外線を透過する素材(第3素材)のうちのいずれかの組み合わせによって形成される。具体的には、第1素材と第2素材との組み合わせ、第2素材と第3素材との組み合わせ、第3素材と第1素材との組み合わせによって、識別情報が形成される。このような衣類を通して得られる遠赤外線の強度分布は、衣類に形成された識別情報に対応する。したがって、次に、識別対象に着用させた衣類を介して遠赤外線を検出する。識別情報が遠赤外線の強度分布として現れているので、識別情報を取得することができる。これによって、取得した識別情報に基づいて識別対象を識別することが可能になる。したがって、請求項9の発明によれば、識別対象に衣類を着用させるだけでよいので、識別対象に負荷をかけるようなことがない。また、識別対象を加熱するような装置や赤外線を照射するような装置を別途設ける必要もなく、簡単に個体識別を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、識別対象には識別情報を形成した衣類を着用させるだけでよい。したがって、特殊な装置を装着させる必要がなく、識別対象への負荷がない。また、遠赤外線(熱線)という不可視情報を用いているので、識別対象の外観には何ら変化を生じさせない。したがって、たとえば看護師など制服を着用している作業者への導入が容易である。さらに、識別対象を遠赤外線源とし、衣類を介して遠赤外線を検出することによって、現れた識別情報を取得することができるので、特別な装置を必要とせずに容易に識別を行うことができる。
【0026】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1を参照して、この実施例の個体識別システム10は、赤外線を利用して個体識別をするためのものであり、パーソナルコンピュータ、ワークステーション等のようなコンピュータ12を含む。コンピュータ12は、図示を省略するが、CPU、RAM、HDD、入力装置、表示装置、通信装置および各種インタフェース等を備える。HDDには、この個体識別システム10の動作を制御するためのプログラムおよびデータが記憶され、CPUはプログラムに従って処理を実行する。
【0028】
コンピュータ12には、識別対象であるユーザの情報が登録されたユーザデータベース(DB)14が接続される。このユーザDB14には、図2に示すように、たとえばユーザのID番号(個人識別情報)のようなインデックス情報に対応付けてユーザ名などのユーザ情報が予め記憶されている。
【0029】
さらに、コンピュータ12には、赤外線画像を撮影する赤外線カメラ16が接続される。赤外線カメラ16は、対象人物であるユーザを観測するための空間に設けられる。赤外線カメラ16は、所定のフレームレートで撮影した赤外線画像をコンピュータ12に与える。コンピュータ12は取得した赤外線画像に画像処理を施すことによって識別情報を抽出する。そして、コンピュータ12は識別情報を解読してユーザを識別する。
【0030】
なお、図1では、1つの赤外線カメラ16が示されているが、コンピュータ12には、複数の赤外線カメラ16が接続されてもよい。また、個体識別システム10は、少なくとも1つの赤外線カメラ16が接続された複数のコンピュータ12によって構成されてもよく、この場合には、メインとなるコンピュータ12が他のコンピュータ12のそれぞれから赤外線画像データを取得して、識別処理を実行するようにしてよい。あるいは、他のコンピュータ12のそれぞれで識別処理を実行し、メインとなるコンピュータ12にそれぞれの処理結果を転送するようにしてもよい。
【0031】
この実施例では、たとえば看護師のような作業者を識別対象とする場合を想定している。図3に示すように、赤外線カメラ16は、作業者(ユーザ)18が業務を行う空間ないし部屋において、その作業場所に向けて設けられていて、識別対象である作業者18を撮影する。作業者18はたとえば制服または作業服のような衣服20を着用している。
【0032】
本発明者らは、人間18の体温が一般的に環境温度に比べて高いことと、人間18は通常は衣服など何らかの衣類20を身に着けていることとに注目し、本件発明を行った。
【0033】
すなわち、第1に、人体の温度は環境温度よりも高いので、体温によって放射されている遠赤外線(熱線)は環境から区別して検出可能である。
【0034】
ここで、遠赤外線は、ガラスの透過限界波長より長波長で、物質などに吸収されると、他の態様のエネルギに変換されることなく、直接的に分子や原子の振動エネルギや回転エネルギに変換される波長域の赤外線である。つまり、遠赤外線は熱線であり、具体的には波長範囲が4μm〜1mmまでである。遠赤外線は熱を持った(絶対温度が0度を超える)物体からは必ず放射されており、たとえば生活環境で温度を有するものは主に波長5μm〜20μmの遠赤外線を放射している。この実施例では、遠赤外線を検出の対象としている。
【0035】
また、第2に、人物18には通常は衣類20が着用されるので、遠赤外線に対する透過もしくは遮断、あるいは遠赤外線の放射などのような物理的特性を異にする特性分布を衣類20に形成しておけば、人物18が着用している衣類20を通して得られる遠赤外線の強度分布は、衣類20に形成された特性分布に対応したものとなる。
【0036】
そこで、衣類20ごとに、識別対象を示す識別情報として異なる特性分布を準備しておき、人物18に着用させた衣類20を介して遠赤外線を検出することによって、特性分布すなわち識別情報を取得することができる。たとえば図3の下段に示すように、赤外線カメラ16によって撮影した赤外線画像には、遠赤外線の強度分布として識別情報が現れるので、この赤外線画像に画像処理を施すことによって識別情報を抽出して解読する。
【0037】
なお、図3の赤外線画像では、簡略化のため、識別情報以外の部分は、実際の遠赤外線の強さ(温度)を反映していないことに留意されたい。これは後述する図8の赤外線画像でも同様である。
【0038】
この識別情報に基づいて、衣類20を着用している人物18を同定することができる。そして、たとえばどの時刻にどの作業空間ないし場所に存在していたかといった人物(作業者)18の行動を記録することができる。
【0039】
したがって、人物18は識別情報の形成された衣類20を着用するだけで、すなわち、負荷を感じることなく、自然に識別される。言い換えると、人物18は、識別情報の検出のために外部から加熱されたり赤外線を照射されたりする必要がないので、たとえば外部から加熱するような読取手段を設置した場所に意識的に移動するような負担がない。この実施例では、赤外線カメラ16のような、広範囲を高いフレームレートで観測することが可能な機器を用いて赤外線情報を検出することによって、空間中のあらゆる位置に存在する人物18の識別情報を取得することが可能である。また、人体を遠赤外線源としているので、加熱装置や赤外線照射装置等を別途設ける必要がない。したがって、識別対象である人物18に負荷をかけることがなく、しかも簡単に識別を行うことが可能である。
【0040】
具体的には、衣類20においては、遠赤外線を放射する素材、遠赤外線を遮断する素材、および遠赤外線を透過する素材のうちのいずれかを組み合わせることによって、識別情報が形成される。すなわち、遠赤外線を放射する素材と遠赤外線を遮断する素材との組み合わせ、遠赤外線を透過する素材と遠赤外線を遮断する素材との組み合わせ、および遠赤外線を放射する素材と遠赤外線を透過する素材との組み合わせによって、識別情報を形成する。
【0041】
遠赤外線を放射する素材(第1素材とする。)としては、たとえば吸湿発熱性の素材が適用される。吸湿発熱性素材は、吸湿時に吸着熱を発生する性質を有している。したがって、吸湿発熱性素材は、この衣類20を着用した人物18の発汗による水分ないし湿気を吸収して発熱することによって、熱線すなわち遠赤外線を放射する。このような吸湿発熱性素材の一例として、東洋紡績株式会社製の高吸湿発熱繊維「モイスケア(登録商標)」(http://www.toyobo.co.jp/seihin/ap/moiscare/moiscare.html)が使用されてよい。また、その他公知の吸湿発熱性の素材を適用してよいのは言うまでもない。たとえば特開2004−115952号公報、特開2003−293235号公報、特開2002−348780号公報、特開2002−115179号公報、特開2000−141555号公報、特開平11−279943号公報、特開平9−228141号公報にはこの種の素材が開示されている。
【0042】
遠赤外線を遮断する素材(第2素材とする。)としては、たとえば遠赤外線を反射する素材が適用される。遠赤外線反射性素材の一例としては、アルミ箔、銀紙、アルミ箔と発泡体とを組み合わせた素材等が使用されてよい。あるいは、遠赤外線反射性素材の塗料が使用されてもよい。製品の一例として、杉本商店の商品でありポリエチレン発泡体と強化繊維とアルミ蒸着フィルムからなる断熱材シート「アルセポリ(登録商標)」(http://www.i-sugimoto.com/shop/alsepori.php)が使用されてよい。この断熱材シートを使用する場合には、ポリエチレン発泡体(断熱材)が人体とアルミ蒸着フィルム(反射性素材)との間になるように配置することによって、人体との接触によるこの反射性素材の温度上昇を防止し、その結果として反射性素材が遠赤外線を輻射することを低減することができる。つまり、遠赤外線反射性素材を使用する場合には、その人体側に断熱素材を設けておくことによって反射性素材自体の輻射を低減するのが望ましい。
【0043】
また、第2素材としては、遠赤外線を吸収する素材を適用してもよい。ただし、この遠赤外線吸収性素材の場合には、人体からの遠赤外線を吸収した結果、温度が上昇して遠赤外線をさらに輻射することとなる。したがって、この遠赤外線吸収性素材を適用する場合には、識別情報として検出されるのに十分な赤外線強度の差ないしコントラストが得られる素材を選定する必要がある。
【0044】
なお、第2素材としては、その他公知の遠赤外線を反射する素材、または遠赤外線を吸収する素材を適用してよいのは言うまでもない。たとえば、特開平7−300344号公報、特開平9−227696号公報、特表2001−524200号公報には、遠赤外線反射性素材が開示され、特開平2−75683号公報、特開2002−370319号公報には、遠赤外線吸収性素材が開示されている。
【0045】
遠赤外線を透過する素材(第3素材とする。)としては、夏服に使用されるような通気性の良いもしくは薄めの生地、あるいはメッシュ状の生地などが適用される。つまり、遠赤外線透過性は、この実施例では、素材の特性自体ではなく、衣類20の内外を空気が流通するように形成することによって獲得するようにしている。ただし、このような形態の第3素材の特性自体について、遠赤外線に対する高反射性もしくは高吸収性を有するものは使用しないのが望ましい。
【0046】
あるいは、第3素材としては、素材の特性自体が、遠赤外線に対する吸収率および反射率の共に低いものが適用されてもよい。
【0047】
図4(A)には、第1素材と第2素材との組み合わせによって識別情報を形成した場合の衣類20の断面の一例が示される。人物18がこの衣類20を着用すると、第1素材で形成された部分22は、人物18の発汗による水分を吸収して発熱することによって遠赤外線を放射する。一方、第2素材で形成された部分24は、人物18から放射される遠赤外線を反射または吸収すること等によって遮断する。このようにして、第1素材で形成された部分22が存在する部分と第2素材で形成された部分24が存在する部分とでは遠赤外線の放射強度に大きな差が生じ、衣類20に形成した特性分布が遠赤外線の強度分布となって現れる。したがって、この衣類20を着用した人物18を撮影した赤外線画像には、たとえば図3に示すように識別情報が現れる。
【0048】
また、第1素材で形成された部分22からは、人物18の放射する遠赤外線よりも強い遠赤外線が放射される。したがって、この第1素材と第2素材との組み合わせでは、他の組み合わせのものよりも高いコントラストを得ることができるので、識別情報の読取精度を向上することができて、より安定性のある識別を行うことができる。
【0049】
なお、この第1素材と第2素材との組み合わせの場合には、第1素材は人物18の発汗による水分を吸収する必要があるので、この吸収が妨げられないように、第1素材で形成される部分22は、図4(A)に示すように、たとえば人体に接触するように識別対象側に配置されるのが望ましい。具体的には、第1素材で形成される部分22は、たとえば裏地などに配置されるのが望ましい。あるいは、識別情報を形成する部分と識別対象との間に裏地が設けられるような衣類20の場合には、第1素材の吸湿が妨げられないようにするために、裏地の素材は、通気性のよい素材で形成されるのが望ましい。
【0050】
また、第1素材で形成された部分22および第2素材で形成された部分24の表側は、たとえば第3素材で形成された表地を配置すること等によって、第3素材で形成された部分26で覆われるのが望ましい。このようにすれば、識別情報の形成された部分の表側が第3素材で覆われるので、第1素材と第2素材とで識別情報を形成していることを外見上目立たないようにすることができるとともに、第1素材で形成された部分22からの遠赤外線放射を、識別に支障をきたすことのないよう表側に通過させることができる。
【0051】
なお、第2素材で形成される部分24の衣類20における厚み方向の配置は、特に限定されるものではないが、第2素材で形成される部分24は、第1素材で形成された部分22と同様に識別対象側もしくは裏地などに配置されてよい。また、衣類20の地を第1素材で形成し、この地の識別対象側に第2素材を配置するようにしてもよい。
【0052】
ただし、第2素材として遠赤外線反射性素材を使用する場合には、上述したように、反射性素材と識別対象との間に断熱素材を設けるのが望ましい。より詳細には、図5(A)に示すように、衣類20の表側から識別対象側に向かって反射性素材で形成された部分24、断熱素材で形成された部分28の順に配列された階層構造になっていることが望ましい。たとえば、上記の「アルセポリ(登録商標)」が用いられてよい。断熱素材の配置によって、反射性素材の温度上昇による遠赤外線の更なる輻射を防止できて反射性素材自体からの輻射を低減することができるので、第1素材と第2素材による遠赤外線強度分布のコントラストを容易に確保することができる。したがって、より安定した識別を行うことができる。
【0053】
また、たとえば、反射性素材と識別対象との間に設けられる断熱素材は裏地であってよい。裏地は織物、布などからなっており、断熱効果が期待されるものだからである。つまり、断熱素材からなる裏地に反射性素材を設け、反射性素材が表地側となるようにこの裏地を配置するようにしてもよい。この場合、第1素材は裏地の識別対象側の面に配置される。あるいは、断熱素材からなる裏地が、第1素材の吸湿を妨げないような通気性のよい素材でもある場合には、裏地の表地側の面に第1素材を配置するようにしてよい。また、たとえば遠赤外線透過性素材からなる布地に、第1素材と反射性素材とによって識別情報を形成し、この識別情報を形成した布地を、透過性素材からなる表地と、断熱素材からなる通気性のよい裏地との間に設けるようにしてもよい。
【0054】
図4(B)には、第2素材と第3素材との組み合わせによって識別情報を形成した場合の衣類20の断面の一例が示される。人物18がこの衣類20を着用すると、第3素材で形成された部分26は、人物18の放射する遠赤外線を通過させる。一方、第2素材で形成された部分24は人物18から放射される遠赤外線を遮断する。このようにして、第3素材で形成された部分26のみが存在する部分と第2素材で形成された部分24が存在する部分とでは、遠赤外線の放射強度に差が生じ、衣類20に形成した特性分布が遠赤外線の強度分布となって現れる。
【0055】
なお、この組み合わせの場合にも、識別情報が形成された部分の表側には、たとえば第3素材で形成された表地を配置すること等によって、第3素材で形成される部分26が配置されるのが望ましい。これによって、識別情報が形成された部分の表側が第3素材で覆われるので、識別情報が第2素材と第3素材とで形成されていることを外見上目立たなくすることができる。また、第2素材で形成される部分24の厚み方向の配置は、上述の第1素材と第2素材との組み合わせの場合と同様であり、たとえば識別対象側もしくは裏地などであってよい。また、識別情報を形成する第3素材の部分26と、識別情報が形成された部分を覆う第3素材の部分26とは、同一素材であってもよいし、同一素材でなくてもよい。また、衣類20の地を第3素材で形成し、この地の識別対象側に第2素材を配置するようにしてもよい。
【0056】
ただし、この第2素材と第3素材との組み合わせの場合にも、第2素材として遠赤外線反射性素材を使用するときには、上記第1素材と第2素材との組み合わせの場合と同様に、反射性素材と識別対象との間に断熱素材を設けるのが望ましい。より詳細には、図5(B)に示すように、衣類20の表側から識別対象側に向かって反射性素材で形成された部分24、断熱素材で形成された部分28の順に配列された階層構造になっていることが望ましい。また、上記組み合わせの場合と同様に、断熱素材は裏地であってよく、つまり、断熱素材からなる裏地に反射性素材を設け、反射性素材が表地側となるようにこの裏地を配置するようにしてもよい。なお、この場合、断熱素材からなる裏地は、遠赤外線透過性素材すなわち第3素材でもある必要がある。 図4(C)には、第1素材と第3素材との組み合わせによって識別情報を形成した場合の衣類20の断面の一例が示される。人物18がこの衣類20を着用すると、第1素材で形成された部分22は、人物18の発汗による水分を吸収して発熱することによって遠赤外線を放射する。一方、第3素材で形成された部分26は、人物18の放射する遠赤外線を通過させる。したがって、第1素材で形成された部分22が存在する部分と、第3素材で形成された部分26のみが存在する部分とでは、遠赤外線の放射強度に差が生じ、衣類20に形成した特性分布が遠赤外線の強度分布となって現れる。ただし、この組み合わせの場合には、第1素材の部分22からも第3素材の部分26からも遠赤外線が表に出てくるので、第1素材としては、識別を行うのに十分なコントラストを得られるような発熱量の高い素材を使用する必要がある。
【0057】
なお、この組み合わせの場合にも、第1素材で形成される部分22は、上述の第1素材と第2素材との組み合わせの場合と同様に、人体からの水分の吸収を妨げないように、人体側または裏地などに配置されるのが望ましい。また、識別情報の形成された部分の表側には、たとえば第3素材で形成された表地を配置すること等によって、第3素材で形成された部分26が配置されるのが望ましい。これによって、識別情報が第1素材と第3素材とで形成されていることを外見上目立たなくすることができるとともに、第1素材で形成された部分22からの遠赤外線放射を、識別に支障をきたすことのないように表側へ通過させることができる。また、識別情報を形成する第3素材の部分26と、識別情報が形成された部分を覆う第3素材の部分26とは、同一素材であってもよいし、同一素材でなくてもよい。また、衣類20の地を第3素材で形成し、第1素材を識別対象側に配置するようにしてもよい。
【0058】
なお、図4(A)、(B)および(C)の例では、衣類20の地の厚み内に、識別情報を形成する部分を埋め込んで、着用に支障のないようにしている。しかしながら、パターンを形成する各素材を薄くした場合には、衣類20の地の上に各素材を配置するようにしても着用にほとんど支障がでないようにすることが可能である。また、衣類20の地の上に比較的厚い各素材を配置する場合でも、さらに裏地を設けて識別情報を覆うようにすれば、支障なく着用させることが可能である。
【0059】
また、この実施例では、識別対象18の体温それ自体による遠赤外線と、識別対象18の発汗等による水分を吸収し発熱した吸湿発熱性素材の温度による遠赤外線とを、検出の対象としている。つまり、この実施例では、識別対象18の体に由来する遠赤外線を検出するようにしている。したがって、たとえば外部から加熱する装置や赤外線を照射する装置などを設ける必要がなく、簡単に識別を行うことが可能である。
【0060】
また、図3の下段に示した赤外線画像から分かるように、1個または少数個の識別情報を衣類20に形成する場合には、撮影され易い場所に配置するのが望ましい。たとえば衣類20が作業服などの衣服である場合には、識別情報はたとえば背中の部分、胸の部分に形成されてよい。
【0061】
また、識別情報すなわち特性分布は、この実施例では、図3に示すようにたとえば2次元コードの形態で形成される。2次元コードにはスタック式とマトリックス式とがあるが、全方向読取可能なマトリックス式のものを使用するのが望ましい。マトリックス式では、黒のセルと白のセルが縦横に配置されたパターンによって、情報が表示される。2次元コードには、この実施例ではユーザのID番号(個人識別情報)などを含むデータが記録される。
【0062】
具体的には、この実施例ではQRコードが用いられる。ただし、他の実施例では、データマトリックス(Data Matrix)、ベリコード(Veri Code)、マキシコード(Maxi Code)、CPコードなど他の2次元コードが用いられてよい。
【0063】
QRコードでは、枠として所定数セル(たとえば4セル)以上の空白部分(マージン)が設けられ、この枠内に白黒セルの組み合わせで情報が記録される。この枠内には、識別対象の識別情報自体を示すデータ部分が設けられる他、位置検出用パターンとして3個の切り出しシンボルが設けられる。この切り出しシンボルによって360度全方向からの読取と高速読取が可能になっている。また、2次元コードは誤り訂正機能を備えており、内容を検証するためのデータが書き込まれているので、コードの一部に汚れや破損等がある程度存在しても、データを復元して識別することが可能になっている。したがって、2次元コードを用いて識別情報を形成した場合には、より安定性の高い自動識別が可能である。
【0064】
2次元コードなどの識別情報における白い部分には、遠赤外線の放射強度が組み合わせ相手と比べて高い素材を使用し、一方、黒い部分には、遠赤外線の放射強度が組み合わせ相手と比べて低い素材を使用する。つまり、第1素材と第2素材との組み合わせの場合には、白い部分に第1素材を使用し、黒い部分に第2素材を使用する。また、第2素材と第3素材との組み合わせの場合には、白い部分に第3素材を使用し、黒い部分に第2素材を使用する。また、第1素材と第3素材との組み合わせの場合には、白い部分に第1素材を使用し、黒い部分に第3素材を使用する。ただし、これは赤外線画像において放射の強い(高温)部分を白く表示し、放射の弱い(低温)部分を黒く表示する場合における素材の使用方法であり、赤外線画像において白黒反転表示する場合には、各素材の使用箇所を逆にする。
【0065】
識別情報を形成する際には、接着、蒸着、塗布乾燥、縫い付け、織り込みなどの方法を用いることができる。
【0066】
具体的には、第1素材と第2素材との組み合わせの場合には、たとえば、遠赤外線透過性素材(第3素材)からなる生地に、第1素材からなる生地から切り取った片と第2素材からなる生地から切り取った片を接着しまたは縫い付けること等によって、所望のパターンを形成することができる。または、第3素材からなる生地に、第1素材からなる糸および第2素材からなる糸を縫い込むことによって形成してもよい。また、第2素材としてアルミなど蒸着可能な素材を適用する場合には、第3素材からなる生地の所望の箇所に第2素材を蒸着することによって形成してもよい。また、たとえば第3素材からなるフィルムなどに第1素材と第2素材を接着もしくは蒸着すること等によって所望のパターンを形成しておき、このフィルム等を第3素材からなる生地に接着もしくは縫い付けるようにしてもよい。あるいは、第1素材からなる糸と第2素材からなる糸と第3素材からなる糸とを用いて織り込むことによって、第3素材からなる生地を形成するとともに第1素材および第2素材で所望のパターンを形成するようにしてもよい。
【0067】
あるいは、衣類20の地を第1素材で形成する場合には、たとえば第1素材からなる生地に、第2素材からなる生地から切り取った片を接着しまたは縫い付けてもよいし、第2素材からなる糸を縫い込むようにしてもよい。また、第2素材としてアルミなど蒸着可能な素材を適用する場合には、第1素材からなる生地に第2素材を蒸着するようにしてもよい。また、第1素材からなる糸と第2素材からなる糸とを用いて織り込むようにしてもよい。
【0068】
また、第2素材が塗料である場合には、第3素材または第1素材からなる生地の所望の箇所に第2素材を塗布して乾燥させるようにしてもよい。
【0069】
また、第2素材として遠赤外線反射性素材を使用する場合には、上述のように識別対象側に断熱素材を設けるのが望ましい。したがって、たとえば、断熱素材の上に、反射性素材を接着、蒸着、塗布乾燥、縫い付け等によって形成する。なお、断熱素材と反射性素材との間には通常の繊維(遠赤外線透過性素材)からなる布地などを介在させてもよい。そして、たとえば、この断熱素材等に反射性素材を積層したものから切り取った片を、接着、縫い付け等によって第1素材と組み合わせてパターンを形成するようにしてもよい。また、第2素材が遠赤外線反射性素材である場合には、熱が外へ逃げないので着心地や使用感がよくないおそれがある。したがって、衣類20の地の素材には、遠赤外線反射性素材を使用しないようにするのが望ましい。 また、第2素材と第3素材との組み合わせの場合にも、上述した組み合わせの場合と同様にして、パターンを形成することができる。つまり、たとえば、第3素材からなる生地に第2素材からなる生地から切り取った片を接着しまたは縫い付けるようにしてよい。または、第3素材からなる生地に、第2素材からなる糸を縫い込むようにしてもよい。また、第2素材がアルミなど蒸着可能な素材であれば、第3素材からなる生地の所望の箇所に第2素材を蒸着するようにしてもよい。また、第3素材からなるフィルムなどに第2素材を接着もしくは蒸着することなどによって所望のパターンを形成しておき、このフィルム等を第3素材からなる生地に接着もしくは縫い付けるようにしてもよい。あるいは、第2素材からなる糸と第3素材からなる糸とを用いて織り込むようにしてもよい。また、第2素材が塗料である場合には、第3素材からなる生地の所望の箇所に第2素材を塗布して乾燥させるようにしてもよい。また、第2素材として遠赤外線反射性素材を使用する場合には、上述のように断熱素材等に反射性素材を接着、蒸着、塗布乾燥、縫い付け等によって積層したものから切り取った片を、接着、縫い付け等によって第3素材と組み合わせてパターンを形成するようにしてもよい。
【0070】
また、第1素材と第3素材との組み合わせの場合にも、上述した組み合わせの場合と同様にして、パターンを形成することができる。つまり、たとえば、第3素材からなる生地に第1素材からなる生地から切り取った片を接着しまたは縫い付けるようにしてよい。または、第3素材からなる生地に、第1素材からなる糸を縫い込むようにしてもよい。または、第3素材からなるフィルム等に第1素材を接着すること等によって所望のパターンを形成しておき、このフィルム等を第3素材からなる生地に接着もしくは縫い付けるようにしてよい。あるいは、第1素材からなる糸と第3素材からなる糸とを用いて織り込むようにしてもよい。
【0071】
なお、上述した各組み合わせにおける識別情報の形成方法は例示であり、適宜変更され得るのはもちろんである。
【0072】
しかし、糸を生地に縫い込むことによって識別情報を形成したり、織り込みによって識別情報を形成したりする場合には、識別情報の更新に対応することができないので、更新ごとに衣類20を作り直さなければならなくなる。したがって、識別情報の更新が見込まれる場合には、縫い込みもしくは織り込み等によってパターンを形成せずに、接着もしくは蒸着等のような容易に更新可能な方法でパターンを形成するのが望ましい。
【0073】
また、識別情報を2次元コード等で形成する場合には、枠や切り出しシンボルのような各識別情報に共通な部分は、縫い込みもしくは織り込み等によって固定的に形成し、個々の情報を示すデータ部分は、接着もしくは蒸着等によって書き換え可能に形成するようにしてもよい。この場合には、識別情報の更新が必要なとき、識別情報の個別のデータ部分のみを新たに形成し直すだけでよいので、識別情報を容易に更新することができる。
【0074】
図6には、この個体識別システム10のコンピュータ12の動作の一例が示される。コンピュータ12のCPUは、ステップS1で、赤外線カメラ16で撮影された映像をフレーム単位で取り込む。たとえば、コンピュータ12は、所定のフレーム数(1フレームなど)ごとにこの図6の識別処理(ステップS1−S13)を繰り返し実行する。このステップS1では、赤外線カメラ16から1フレームの赤外線画像データを取得してRAMに一時記憶する。このステップS1で取得した赤外線画像データに対して画像処理を施すことによって、識別情報を検出し、人物18を特定する。
【0075】
具体的には、ステップS3で、取得された赤外線画像データに対して2値化処理を実行し、たとえば赤外線画像データの各画素を白または黒の2値に分ける。この2値化処理における白黒を分けるための閾値は、識別情報を形成した素材の組み合わせに応じて設定される。そして、ステップS5で、2次元コードなどの識別情報の抽出処理を実行する。識別情報の抽出処理の一例が図7に詳細に示される。なお、この図7は識別情報がQRコードである場合の処理を示している。
【0076】
図7の最初のステップS31では、画面中で直線を抽出する。QRコードでは上述のようにシンボルのまわりに枠として4セル以上のマージンが設けられるので、このマージンによって形成される直線の抽出を試みる。そして、ステップS33で、この直線を抽出できたか否かを判断する。このステップS33で“NO”であれば、取得した赤外線画像から識別情報(この実施例ではQRコード)を抽出できなかったので、この識別情報の抽出処理を終了して図6のステップS7へ戻る。
【0077】
ステップS33で“YES”であれば、続くステップS35で、直線抽出結果を用いて四角形を抽出する。具体的には、直線に囲まれた四角形部分の抽出、すなわち、QRコードのマージンに囲まれたシンボルの抽出を試みる。そして、ステップS37で、四角形を抽出できたか否かを判断する。このステップS37で“NO”であれば、取得した赤外線画像から識別情報を抽出できなかったので、この識別情報の抽出処理を終了して図6のステップS7へ戻る。
【0078】
ステップS37で“YES”であれば、続くステップS39で、抽出した四角形の内部において切り出しシンボルの探索を行う。そして、ステップS41で、切り出しシンボルを見つけることができたか否かを判断し、“NO”であれば、取得した赤外線画像から識別情報を抽出することができなかったので、この識別情報の抽出処理を終了して図6のステップS7へ戻る。
【0079】
一方、ステップS41で“YES”であれば、ステップS43で、切り出しシンボルによってQRコードの向きを特定する。これによって、このQRコードに記録されている情報を抽出して、解読を行うことができる。このステップS43を終了すると、この識別情報の抽出処理を終了して図6のステップS7へ戻る。
【0080】
図6に戻って、ステップS7では、識別情報が抽出されたか否かを判断する。このステップS7で“YES”であれば、つまり、ステップS5の識別情報の抽出処理で、2次元コードの向きを特定し、この識別情報を抽出することができた場合には、ステップS9で、抽出した識別情報の解読を行う。これによって、識別情報に記録されているデータ(ユーザ18のID番号(個人識別情報)など)を取得する。そして、ステップS11で、解読によって得た個人識別情報を出力する。たとえば、その個人識別情報をRAMまたはHDDの所定領域に記憶する。このようにして、赤外線カメラ16で撮影されたユーザ18が特定される。具体的には、読み取ったID番号に対応するユーザ情報をユーザDB14から取得して人物18を特定することができる。
【0081】
なお、特定された人物(ユーザ)18のID番号とともに、検出時刻などをコンピュータ12のHDDに記録するようにしてもよい。また、複数の赤外線カメラ16をたとえば複数の部屋に設けるような場合には、各赤外線カメラ16の設置場所および撮影方向などの情報をコンピュータ12のHDDなどに予め記憶しておく。そして、識別情報を検出したときには、撮影に使用された赤外線カメラ16の設置場所および撮影方向などの情報を、ユーザ18のID番号および検出時刻などとともに記録するようにしてよい。このようにすれば、特定されたユーザ18がどの時刻にどの場所で検出されたかを記録することができる。
【0082】
一方、ステップS7で“NO”であれば、ステップS5の識別情報の抽出処理で赤外線画像から識別情報を抽出することができなかったので、そのままステップS13へ進む。
【0083】
ステップS13では、この個体識別処理を終了するか否かを判断し、“NO”であればステップS1に戻る。一方、ステップS13で“YES”であれば、つまり、オペレータが終了指示を入力した場合や、所定の時間が経過した場合などには、この個体識別処理を終了する。
【0084】
この実施例によれば、識別対象18に特殊な装置を装着する必要がなく、識別情報の形成された衣類20を着用させるだけなので、識別対象18への負荷がない。また、熱線という不可視情報を用いるので、識別対象18の見た目には何ら変化を生じさせない。したがって、たとえば看護師のような制服を着用している作業者等への導入が容易である。つまり、衣類20において識別情報が外見上目立ってしまうようなことがないので、識別対象18がたとえば看護師である場合、識別対象18は患者などの周囲の目を気にせずに作業に専心できる。さらに、識別対象18を遠赤外線源とし、識別対象18の体に由来する遠赤外線(すなわち、識別対象18の体温に基づいて放射される遠赤外線、または識別対象18の体からの水分を吸収し発熱することによって放射される遠赤外線)を検出するようにしているので、特別な装置を必要とせずに容易に識別を行うことができる。さらにまた、2次元コードのように明確なパターンないし形状を有する識別情報を形成するようにしたので、取得した赤外線画像に画像処理を施すことによって、簡単に安定的に識別を行うことができる。
【0085】
なお、上述の実施例では、図3に示したように、衣類20において撮影され易い部分に2次元コードを形成した場合を説明したが、衣類20には多数の2次元コードを全体に分散して配置するようにしてもよい。たとえば衣服の場合には全身にわたって多数の2次元コードを分散配置する。これによって、識別対象18の向きや姿勢にかかわらず2次元コードすなわち識別情報を撮影画像中にとらえ易くなり、また、衣類20に皺が寄ったとしても、皺が掛からないか軽く掛かる程度の部分に存在するような読取可能な2次元コードを撮影する可能性を高めることができる。したがって、識別情報の検出の確実性を増すことができ、より安定した識別が可能になる。
【0086】
また、上述の各実施例では、識別対象18の情報(ユーザ情報)をユーザDB14に登録するとともに、2次元コードにはユーザDB14のインデックス情報(たとえばID番号)を記録しておき、解読されたID番号とユーザDB14とに基づいて識別対象18を識別するようにしている。この場合には、衣類20に形成される2次元コードにはID番号のみを記録するので、十分な撮影解像度が確保できないような撮影条件でも、識別対象18を特定できる。しかしながら、撮影画像上で2次元コードが非常に明確に観測され、表現可能な情報量を大きくしてよいような撮影条件が得られる場合には、ユーザDB14を設けずに、2次元コードにID番号、ユーザ名などのユーザ情報を記録しておき、この2次元コードに記録されたデータを読み取ることによって、識別対象18を識別するようにしてもよい。
【0087】
また、上述の各実施例では、識別情報は2次元コードの形態で形成されたが、他の実施例では、識別情報は、記号(数字、文字などを含む。)または図柄などを用いて形成されてもよい。図8には、識別情報が数字で形成された場合の赤外線画像の一例が示される。このように識別情報が明確なパターンないし形状を有して形成される場合には、識別情報(記号または図柄など)と、識別対象18のID番号とを対応付けたデータを、ユーザDB14またはHDDなどに予め記憶しておき、画像処理によって記号または図柄を認識することによって、識別対象18を識別することができる。あるいは、記号または図柄などからなる識別情報を人間が可読あるいは判別可能であるようなパターンないし形状に形成したときには、撮影した赤外線画像をコンピュータ12などの表示装置に表示して、オペレータの目視観察によって識別対象18を特定するようにしてもよい。また、特定された識別対象18に関する情報(ID番号など)は、オペレータが入力装置を用いて入力することによって、HDDなどに記録するようにしてよい。
【0088】
また、上述の各実施例では、識別情報の形成される衣類20の一例として、作業服、制服などの衣服を示した。この衣服20は、上着(外側に着用するもの)であってもよいし、シャツや肌着等のような、上着の下に着用する下着であってもよい。ただし、衣服20が上着である場合には、識別対象18の放射する遠赤外線や汗などの水分が下着によって遮断されないように、ユーザ18には遠赤外線を透過するかつ通気性のよい素材で形成された下着を着用させる必要がある。一方、衣服20が下着である場合には、この下着を介して出現する遠赤外線の分布が上着によって遮断されないように、識別対象18が上着を着用する場合、遠赤外線を透過させる素材で形成された上着を着用させる必要がある。
【0089】
また、識別情報の形成される衣類20は、衣服に限られるものではなく、遠赤外線源および湿気源である体を覆うように装着されるものであればよい。具体的には、靴下、帽子、マスク、手袋、ゼッケン、襷、腕章等が挙げられる。
【0090】
また、上述の各実施例では、識別対象は人間であったが、猿など他の動物の個体識別に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】この発明の一実施例の個体識別システムの電気的な構成の一例を示すブロック図である。
【図2】ユーザDBに登録されたユーザ情報の内容の一例を示す図解図である。
【図3】この発明の一実施例の個体識別システムの概要を示す図解図である。
【図4】この発明の一実施例の衣類の断面の一例を示す図解図であり、(A)は遠赤外線放射性素材と遠赤外線遮断性素材との組み合わせの場合を示し、(B)は遠赤外線透過性素材と遠赤外線遮断性素材との組み合わせの場合を示し、(C)は遠赤外線放射性素材と遠赤外線透過性素材との組み合わせの場合を示す。
【図5】この発明の一実施例の衣類の断面の一例を示す図解図であり、(A)は遠赤外線放射性素材と遠赤外線反射性素材との組み合わせの場合を示し、(B)は遠赤外線透過性素材と遠赤外線反射性素材との組み合わせの場合を示す。
【図6】図1実施例のコンピュータの動作の一例を示すフロー図である。
【図7】図6における識別情報の抽出処理の動作の一例を示すフロー図である。
【図8】撮影された赤外線画像の他の一例を示す図解図である。
【符号の説明】
【0092】
10 …個体識別システム
12 …コンピュータ
14 …ユーザDB
16 …赤外線カメラ
18 …識別対象
20 …衣類

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠赤外線を利用して個体識別をするための個体識別システムであって、
識別対象に着用させるための衣類であって、遠赤外線を放射する素材、遠赤外線を遮断する素材および遠赤外線を透過する素材のうちのいずれかの組み合わせによって、該識別対象を示す識別情報が形成された衣類、
前記衣類を着用した前記識別対象を撮影するための赤外線カメラ、および
前記赤外線カメラによって撮影された画像に基づいて前記識別情報を検出する検出手段を備える、個体識別システム。
【請求項2】
個体識別のために識別対象に着用される衣類であって、
遠赤外線を放射する素材と遠赤外線を遮断する素材とによって、前記識別対象を示す識別情報を形成した、衣類。
【請求項3】
個体識別のために識別対象に着用される衣類であって、
遠赤外線を透過する素材と遠赤外線を遮断する素材とによって、前記識別対象を示す識別情報を形成した、衣類。
【請求項4】
個体識別のために識別対象に着用される衣類であって、
遠赤外線を放射する素材と遠赤外線を透過する素材とによって、前記識別対象を示す識別情報を形成した、衣類。
【請求項5】
前記遠赤外線を放射する素材は、吸湿発熱性素材を含む、請求項2または4記載の衣類。
【請求項6】
前記遠赤外線を遮断する素材は、遠赤外線を反射する素材または遠赤外線を吸収する素材を含む、請求項2または3記載の衣類。
【請求項7】
前記遠赤外線を遮断する素材が前記遠赤外線を反射する素材であるとき、該遠赤外線を反射する素材と前記識別対象との間に断熱素材を配置した、請求項6記載の衣類。
【請求項8】
前記識別情報の表側は、遠赤外線を透過する素材で覆われる、請求項2ないし7のいずれかに記載の衣類。
【請求項9】
遠赤外線を利用して個体識別をする個体識別方法であって、
(a) 識別対象に着用させるための衣類であって、該識別対象の湿気を吸収して発熱することによって遠赤外線を放射する素材、該識別対象の放射する遠赤外線を遮断する素材、および該識別対象の放射する遠赤外線を透過する素材のうちのいずれかの組み合わせによって、該識別対象を示す識別情報が形成された衣類を準備し、
(b) 前記識別対象に着用させた前記衣類を介して遠赤外線を検出することによって前記識別情報を取得する、個体識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−28658(P2006−28658A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205809(P2004−205809)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「超高速知能ネットワーク社会に向けた新しいインタラクション・メディアの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】