説明

倒立二輪車

【課題】複数の状態センサ間の個体差による検知データのバラツキによって発生する無駄な消費電力を抑える。
【解決手段】相互に電気的に絶縁された第1巻線22及び第2巻線23を有し、駆動輪を回転させるための第1モータ4と、第1駆動系6と、第2駆動系7と、を備える。第1駆動系6は、第1状態センサ12と、第1制御回路11を有する。第2駆動系7は、第2状態センサ17と、第2制御回路16を有する。第1駆動系6の第1状態センサ12の第1検知データと、第2駆動系7の第2状態センサ17の第2検知データは、第1駆動系6と第2駆動系7の間で共有される。第1駆動系6の第1制御回路11は、共有している検知データに基づいて第1モータ4の第1巻線22への電力供給を制御する。第2駆動系7の第2制御回路16は、共有している検知データに基づいて第1モータ4の第2巻線23への電力供給を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、特許文献1は、電動車両の駆動輪を駆動するための電動動力源装置を開示している。各駆動輪に設けられた電気モータは3相交流電気モータであって、各相を互いに絶縁された2重巻線により構成している。そして、電気モータの一方の巻線は第1の駆動回路に接続されており、他方の巻線は第2の駆動回路に接続されている。
【0003】
この構成で、通常時は、第1の駆動回路と第2の駆動回路の両方用いて、電気モータを所定通り駆動する。そして、第1の駆動回路に故障が発生したら、電気モータの駆動は、故障が生じていない第2の駆動回路にて継続させることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-312234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本願発明者らは、駆動系に冗長性を持たせた倒立二輪車を開発している。具体的には、倒立二輪車は、第1の駆動系と第2の駆動系を有する。倒立二輪車の駆動輪を回転させる電気モータは、互いに絶縁された2重巻線を有する。電気モータの一方の巻線は第1の駆動系に接続されており、他方の巻線は第2の駆動系に接続されている。第1の駆動系及び第2の駆動系は、夫々、状態センサと、この状態センサの検知データに基づいて巻線への電力供給を制御する制御部と、を有している。この構成によれば、一方の駆動系が故障しても、残された駆動系で電気モータの駆動制御を継続することができる。
【0006】
しかし、第1の駆動系の状態センサの検知データと、第2の駆動系の状態センサの検知データとは、状態センサの個体差により、必ずしも一致するとは限らない。従って、特には、電気モータの出力トルクをゼロにしたい場合に問題となる。
【0007】
即ち、電気モータの出力トルクをゼロにしたい場合、通常は、第1の駆動系の巻線で発生する出力トルクも、第2の駆動系で発生する出力トルクもゼロになるべきである。しかしながら、第1の駆動系の制御部も、第2の駆動系の制御部も、それぞれの状態センサの検知データでフィードバック制御されるものであることから、場合によっては、第1の駆動系の巻線で発生する出力トルクが"10"であり、第2の駆動系で発生する出力トルクが"−10"となることで初めて電気モータの出力トルクがゼロになる場合がある。この場合、本来であれば消費電力は極めて小さいはずなのに、実際にはある程度の電力が消費されてしまう結果となる。
【0008】
本願発明の目的は、冗長性な駆動系で電気モータを駆動制御する倒立二輪車において、消費電力を抑える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の第1の観点によれば、倒立二輪車は、倒立二輪車本体と、前記倒立二輪車本体によって回転自在に支持される駆動輪と、相互に電気的に絶縁された複数の巻線を有し、前記駆動輪を回転させるための電気モータと、前記倒立二輪車本体の状態を検知して検知データを出力する状態検知手段と、前記状態検知手段からの前記検知データに基づいて前記電気モータの対応する前記巻線への電力供給を制御する制御手段と、を有する複数の駆動系と、を備える。各駆動系に属する前記状態検知手段の前記検知データは、前記複数の駆動系間で共有されるように構成する。各駆動系の前記制御手段は、共有している前記複数の検知データに基づいて前記電気モータの対応する前記巻線への電力供給を制御する。以上の構成によれば、前記複数の状態検知手段間の個体差による前記複数の検知データのバラツキによって発生する無駄な消費電力を抑えることができるようになる。
【0010】
また、各駆動系の前記制御手段は、共有している前記複数の検知データを所定の比率で足し合わせて合成データを生成し、この合成データに基づいて前記電気モータの対応する前記巻線への電力供給を制御することが好ましい。以上の構成によれば、各駆動系の前記制御手段が生成した各合成データは、相互に一致することになる。従って、各駆動系の前記制御手段は、相互に一致する前記合成データに基づいて、前記電気モータの対応する前記巻線への電力供給を制御することになる。従って、前記複数の状態検知手段間の個体差による前記複数の検知データのバラツキによって発生する無駄な消費電力が効果的に抑えられる。
【0011】
本願発明の第2の観点によれば、倒立二輪車は、倒立二輪車本体と、前記倒立二輪車本体によって回転自在に支持される駆動輪と、相互に電気的に絶縁された第1巻線及び第2巻線を有し、前記駆動輪を回転させるための電気モータと、前記倒立二輪車本体の状態を検知して第1検知データを出力する第1状態検知手段と、前記第1状態検知手段からの前記第1検知データに基づいて前記電気モータの前記第1巻線への電力供給を制御する第1制御手段と、を有する第1駆動系と、前記倒立二輪車本体の状態を検知して第2検知データを出力する第2状態検知手段と、前記第2状態検知手段からの前記第2検知データに基づいて前記電気モータの前記第2巻線への電力供給を制御する第2制御手段と、を有する第2駆動系と、を備える。前記第1状態検知手段の前記第1検知データと前記第2状態検知手段の前記第2検知データは、前記第1駆動系と前記第2駆動系の間で共有されるように構成する。前記第1駆動系の前記第1制御手段は、前記第1検知データ及び前記第2検知データに基づいて前記電気モータの前記第1巻線への電力供給を制御し、前記第2駆動系の前記第2制御手段は、前記第1検知データ及び前記第2検知データに基づいて前記電気モータの前記第2巻線への電力供給を制御する。以上の構成によれば、前記第1状態検知手段と前記第2状態検知手段間の個体差による前記第1検知データと前記第2検知データのズレによって発生する無駄な消費電力を抑えることができるようになる。
【0012】
また、前記第1駆動系の前記第1制御手段は、前記第1検知データ及び前記第2検知データを所定の比率で足し合わせて合成データを生成し、この合成データに基づいて前記電気モータの前記第1巻線への電力供給を制御し、前記第2駆動系の前記第2制御手段は、前記第1検知データ及び前記第2検知データを前記所定の比率で足し合わせて合成データを生成し、この合成データに基づいて、前記電気モータの前記第2巻線への電力供給を制御することが好ましい。以上の構成によれば、前記第1駆動系の前記第1制御手段が生成する合成データと、前記第2駆動系の前記第2制御手段が生成する合成データは、相互に一致することになる。従って、各駆動系の前記制御手段は、相互に一致する前記合成データに基づいて、前記電気モータの対応する前記巻線への電力供給を制御することになる。従って、前記第1状態検知手段と前記第2状態検知手段間の個体差による前記第1検知データと前記第2検知データのズレによって発生する無駄な消費電力が効果的に抑えられる。
【0013】
また、前記第1駆動系の前記第1制御手段は、前記第1検知データ及び前記第2検知データを同じ比率で足し合わせて平均化データを生成し、この平均化データに基づいて前記電気モータの前記第1巻線への電力供給を制御し、前記第2駆動系の前記第2制御手段は、前記第1検知データ及び前記第2検知データを同じ比率で足し合わせて平均化データを生成し、この平均化データに基づいて前記電気モータの前記第2巻線への電力供給を制御することが好ましい。以上の構成で、仮に、前記第2駆動系が故障したとすると、前記第1駆動系の前記第1制御手段が単独で前記電気モータを制御することになる。具体的には、前記第1駆動系の前記第1制御手段は、前記第1検知データのみに基づいて、前記電気モータの前記第1巻線への電力供給を制御する。このとき、前記電気モータの前記第1巻線への電力供給を制御するに際し前記第1制御手段が参照するデータにはステップ状の変化が発生することになる。前記第2駆動系に代えて前記第1駆動系が故障した場合も同様である。これに対し、前記第1制御手段及び前記第2制御手段が通常運行時から前記平均化データを参照するようにしておくことで、上記のステップ状の変化の幅を最小限に抑えることができる。従って、故障発生後に行う対処動作を一層滑らかに遂行することができるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本願発明によれば、前記複数の状態検知手段間の個体差による前記複数の検知データのバラツキによって発生する無駄な消費電力を抑えることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、倒立二輪車の外観図である。
【図2】図2は、倒立二輪車の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1及び図2に基づいて、本願発明の好適な実施形態を説明する。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施形態において、倒立二輪車1は、倒立二輪車本体2と、倒立二輪車本体2によって回転自在に支持される一対の駆動輪3と、各駆動輪3を回転させるための第1モータ4(電気モータ)及び第2モータ5(電気モータ)と、第1駆動系6(駆動系)と、第2駆動系7(駆動系)と、を備えて構成されている。倒立二輪車本体2は、乗員Pが直立した姿勢で乗車可能な筐体8と、乗員Pが把持可能なハンドル9が先端に取り付けられ、基端が筐体8に固定されたハンドル支柱10と、を主たる構成として備えている。
【0018】
第1駆動系6は、第1制御回路11(制御手段、第1制御手段)と、第1状態センサ12(状態検知手段、第1状態検知手段)と、第1アンプ13と、第2アンプ14と、によって構成されている。第1制御回路11は、第1平均化回路15を有している。
【0019】
第2駆動系7は、第2制御回路16(制御手段、第2制御手段)と、第2状態センサ17(状態検知手段、第2状態検知手段)と、第3アンプ18と、第4アンプ19と、によって構成されている。第2制御回路16は、第2平均化回路20を有している。
【0020】
第1駆動系6と第2駆動系7は、通常運行時、協力して第1モータ4を駆動制御する。即ち、第1駆動系6と第2駆動系7は、通常運行時、第1モータ4の出力の半分ずつを担当している。同様に、第1駆動系6と第2駆動系7は、通常運行時、協力して第2モータ5を駆動制御する。即ち、第1駆動系6と第2駆動系7は、通常運行時、第2モータ5の出力の半分ずつを担当している。そして、第1制御回路11と第2制御回路16は、信号線21によって相互に接続されている。この信号線21の存在により、第1制御回路11と第2制御回路16は双方向通信可能となっている。
【0021】
第1モータ4は、相互に電気的に絶縁された第1巻線22(巻線、第1巻線)及び第2巻線23(巻線、第2巻線)を有し、駆動輪3を回転させるための電気モータである。第1モータ4は、例えば3相交流電気モータによって構成されている。
【0022】
第2モータ5は、相互に電気的に絶縁された第3巻線24(巻線、第1巻線)及び第4巻線25(巻線、第2巻線)を有し、駆動輪3を回転させるための電気モータである。第2モータ5は、例えば3相交流電気モータによって構成されている。
【0023】
第1状態センサ12は、倒立二輪車本体2の加速度や倒立二輪車本体2の姿勢を含む、倒立二輪車本体2の状態を検知して第1検知データ(検知データ)を第1制御回路11に出力する。第1状態センサ12は、加速度センサやジャイロセンサによって構成されている。
【0024】
第2状態センサ17は、倒立二輪車本体2の加速度や倒立二輪車本体2の姿勢を含む、倒立二輪車本体2の状態を検知して第2検知データ(検知データ)を第2制御回路16に出力する。第2状態センサ17は、加速度センサやジャイロセンサによって構成されている。
【0025】
第1制御回路11は、第1アンプ13を介して第1モータ4の第1巻線22に接続されている。第1制御回路11は、第1状態センサ12からの第1検知データに基づいて第1モータ4の第1巻線22への電力供給を制御する。同様に、第1制御回路11は、第2アンプ14を介して第2モータ5の第3巻線24に接続されている。第1制御回路11は、第1状態センサ12からの第1検知データに基づいて第2モータ5の第3巻線24への電力供給を制御する。
【0026】
第2制御回路16は、第3アンプ18を介して第1モータ4の第2巻線23に接続されている。第2制御回路16は、第2状態センサ17からの第2検知データに基づいて第1モータ4の第2巻線23への電力供給を制御する。同様に、第2制御回路16は、第4アンプ19を介して第2モータ5の第4巻線25に接続されている。第2制御回路16は、第2状態センサ17からの第2検知データに基づいて第2モータ5の第4巻線25への電力供給を制御する。
【0027】
本実施形態において第1制御回路11は、第1状態センサ12からの第1検知データを信号線21を介して第2制御回路16に転送するように構成されている。第2制御回路16も同様に、第2状態センサ17からの第2検知データを信号線21を介して第1制御回路11に転送するように構成されている。端的に言えば、第1状態センサ12の第1検知データと、第2状態センサ17の第2検知データは、信号線21を介して第1駆動系6と第2駆動系7の間で共有されるように構成されている。
【0028】
そして、本実施形態において第1制御回路11は、第1状態センサ12の第1検知データに加えて、第2状態センサ17の第2検知データも考慮して、第1モータ4の第1巻線22や第2モータ5の第3巻線24への電力供給を制御する。即ち、第1制御回路11は、第2制御回路16と共有している第1状態センサ12の第1検知データと第2状態センサ17の第2検知データに基づいて、第1モータ4の第1巻線22や第2モータ5の第3巻線24への電力供給を制御する。具体的には、第1制御回路11の第1平均化回路15は、第1状態センサ12の第1検知データと第2状態センサ17の第2検知データを同じ比率で足し合わせて平均化データを生成する。端的に言えば、第1制御回路11の第1平均化回路15は、第1状態センサ12の第1検知データと第2状態センサ17の第2検知データを平均化した平均化データを生成する。そして、第1制御回路11は、この平均化データに基づいて、第1モータ4の第1巻線22や第2モータ5の第3巻線24への電力供給を制御する。
【0029】
同様に、本実施形態において第2制御回路16は、第2状態センサ17の第2検知データに加えて、第1状態センサ12の第1検知データも考慮して、第1モータ4の第2巻線23や第2モータ5の第4巻線25への電力供給を制御する。即ち、第2制御回路16は、第1制御回路11と共有している第1状態センサ12の第1検知データと第2状態センサ17の第2検知データに基づいて、第1モータ4の第2巻線23や第2モータ5の第4巻線25への電力供給を制御する。具体的には、第2制御回路16の第2平均化回路20は、第1状態センサ12の第1検知データと第2状態センサ17の第2検知データを同じ比率(50:50)で足し合わせて平均化データを生成する。端的に言えば、第2制御回路16の第2平均化回路20は、第1状態センサ12の第1検知データと第2状態センサ17の第2検知データを平均化した平均化データを生成する。そして、第2制御回路16は、この平均化データに基づいて、第1モータ4の第2巻線23や第2モータ5の第4巻線25への電力供給を制御する。
【0030】
なお、第1制御回路11の第1平均化回路15が生成した平均化データと、第2制御回路16の第2平均化回路20が生成した平均化データは、相互に一致する。
【0031】
(作動)
次に、倒立二輪車1の作動を説明する。
【0032】
(通常運行時)
第1状態センサ12と第2状態センサ17は同じ倒立二輪車本体2の状態を検知するものであるから、第1状態センサ12の第1検知データと第2状態センサ17の第2検知データは理屈上、一致するはずである。しかしながら、第1状態センサ12と第2状態センサ17の間には製造誤差に基づく個体差が必然的に存在する。ここで、説明の便宜上、第1状態センサ12の第1検知データが"5"であり、第2状態センサ17の第2検知データが"−5"であったとする。
【0033】
この場合、第1制御回路11の第1平均化回路15が生成する平均化データは"0"となる。同様に、第2制御回路16の第2平均化回路20が生成する平均化データは"0"となる。
【0034】
そして、第1制御回路11は、第1平均化回路15が生成した平均化データ"0"に基づいて第1モータ4の第1巻線22への電力供給を制御する。同様に、第2制御回路16は、第2平均化回路20が生成した平均化データ"0"に基づいて第1モータ4の第2巻線23への電力供給を制御する。この結果、第1モータ4の出力トルクは"0"となる。
【0035】
ここで、もし仮に、第1制御回路11が第1状態センサ12の第1検知データである"5"に基づいて第1モータ4の第1巻線22への電力供給を制御し、第2制御回路16が第2状態センサ17の第2検知データである"−5"に基づいて第1モータ4の第2巻線23への電力供給を制御していたとする。すると、第1モータ4の第1巻線22が生成する出力トルクと、第1モータ4の第2巻線23が生成する出力トルクは、絶対値は等しいが符号が逆になる。この結果、第1モータ4の第1巻線22が生成する出力トルクと、第1モータ4の第2巻線23が生成する出力トルクは相殺されて、結果的には、上述のように第1モータ4の出力トルクは"0"となる。しかしながら、明らかに無駄な電力を消費することとになっている。この意味で、平均化データに基づく制御は、消費電力削減の観点から極めて有益であることが理解されよう。
【0036】
以上に、第1モータ4の第1巻線22及び第2巻線23での消費電力について説明したが、第2モータ5の第3巻線24及び第4巻線25での消費電力についても同様のことが言える。
【0037】
なお、消費電力削減の観点から言えば、第1制御回路11の第1平均化回路15は、第1状態センサ12の第1検知データと第2状態センサ17の第2検知データを、例えば80:20の比率で足し合わせて合成データを生成し、この合成データに基づいて第1モータ4の第1巻線22への電力供給を制御し、第2制御回路16の第2平均化回路20は、第1状態センサ12の第1検知データと第2状態センサ17の第2検知データを、同じ比率で足し合わせて合成データを生成し、この合成データに基づいて第1モータ4の第2巻線23への電力供給を制御するようにしてもよい。
【0038】
(第1駆動系6の故障時)
次に、第1駆動系6が故障し、この第1駆動系6の故障が図示しない故障検知手段により検知された場合を説明する。この場合、第1駆動系6に属する第1制御回路11、第1状態センサ12は無効化され、第1モータ4の第1巻線22への電力供給は停止すると共に、第2モータ5の第3巻線24への電力供給も停止する。従って、第1駆動系6の故障が検知された後は、第1モータ4や第2モータ5は、第2駆動系7のみによって駆動制御されることになる。即ち、第2駆動系7は、第1モータ4や第2モータ5を適切に駆動制御することにより、第1駆動系6の故障により一時的に好ましくない状態となった倒立二輪車1の倒立二輪車本体2の姿勢を降車姿勢とする。降車姿勢とは、図1において乗員Pが倒立二輪車1から下車するのに好適となる、倒立二輪車1の倒立二輪車本体2の姿勢を意味する。このときの第2駆動系7の作動を以下に詳しく説明する。
【0039】
第1駆動系6の故障が検知される前は、第2制御回路16は、第2平均化回路20が生成した平均化データに基づいて、第1モータ4の第2巻線23への電力供給を制御していた。これに対し、第1駆動系6の故障が検知されると、第2制御回路16は、第2平均化回路20が生成した平均化データに代えて、第2状態センサ17の第2検知データに基づいて、第1モータ4の第2巻線23への電力供給を制御することになる。
【0040】
先程と同様に、説明の便宜上、第1状態センサ12の第1検知データが"5"であり、第2状態センサ17の第2検知データが"−5"であったとする。この場合、第2平均化回路20が生成する平均化データは"0"である。従って、第2制御回路16が第1モータ4の第2巻線23への電力供給を制御するに際し基準とするデータである制御基準データは、"0"から"−5"へとステップ状に変化することになる。換言すれば、この場合、制御基準データのステップ状の変化幅は、"5"となる。そして、このように制御基準データがステップ状に変化することで、倒立二輪車1の倒立二輪車本体2の姿勢は急峻に変化することになり、不快な乗り心地を招く。
【0041】
しかしながら、このステップ状の変化幅は、第1駆動系6の故障が検知される前、第2制御回路16が、第2平均化回路20が生成した平均化データに基づいて第1モータ4の第2巻線23への電力供給を制御していたからこそ、最小化できていると言及することができる。
【0042】
というのは、仮に、第1駆動系6の故障が検知される前の制御基準データが、第1状態センサ12の第1検知データと第2状態センサ17の第2検知データとを80:20の比率で足し合わせた合成データである"(5×80+(−5)×20)/100=3"だったとする。この場合も、前述した消費電力削減の効果は十二分に発揮される。しかし、この場合、制御基準データは、"3"から"−5"へとステップ状に変化することになる。換言すれば、この場合、制御基準データのステップ状の変化幅は、"8"となる。単純に"5"と"8"を比較して判る通り、制御基準データのステップ状の変化幅は前述した場合と比較して大きくなっている。従って、制御基準データのステップ状の変化幅は、第1駆動系6の故障が検知される前、第2制御回路16が、第2平均化回路20が生成した平均化データに基づいて第1モータ4の第2巻線23への電力供給を制御していたからこそ、最小化できていると言及することができる。
【0043】
なお、第1駆動系6ではなく第2駆動系7の故障が検知された場合は、前述の「80:20の比率」を採用した方が、制御基準データのステップ状の変化幅が当然小さくなる。しかしながら、第1駆動系6と第2駆動系7の何れが故障するかが予測できるものでない以上、第1駆動系6ではなく第2駆動系7の故障が検知された場合に大変有利であるという理由だけで、第1駆動系6が故障した際に不利となる「80:20の比率」を採用することがベストと言うことはできない。
【0044】
以上に、第1駆動系6が故障した場合を説明したが、第2駆動系7が故障した場合についても勿論、同様である。
【0045】
付言するならば、第1駆動系6又は第2駆動系7の故障検知時に発生する制御基準データのステップ状の変化幅を最小化する技術は、単に、乗り心地の悪化を抑えるのみならず、以下のような有用性が認められる。即ち、一般に、第1駆動系6又は第2駆動系7の故障を検知するには、ノイズ等に起因する誤検知を排除するために、ある程度の時間をかけて各種信号を監視する必要がある。従って、第1駆動系6又は第2駆動系7の故障を検知した後で実際に対処動作を実行しようとする時点では既に倒立二輪車1の倒立二輪車本体2の姿勢は相当悪化している虞がある。このように倒立二輪車1の倒立二輪車本体2の姿勢が相当悪化している状態で制御基準データがステップ状に大きく変化すると、まさに故障時の状況に対して追い討ちをかけることに他ならない。このような事情から、制御基準データのステップ状の変化幅は、可能な限り最小限に抑えることが肝要であると言える。つまり、制御基準データのステップ状の変化幅の大小は、決して軽視できるものではない。
【0046】
なお、第1駆動系6の故障が検知された後は、第1モータ4は、第2駆動系7のみによって駆動制御されることになる。そのとき、第2駆動系7の第2制御回路16は、第1モータ4の定格最大電流を超えるような大きな電流を一時的に第1モータ4の第2巻線23に供給することで大きなトルクが発生するように、第2状態センサ17の第2検知データに対して高いゲインで第1モータ4の第2巻線23への電力供給を制御することになる。
【符号の説明】
【0047】
1 倒立二輪車
4 第1モータ
5 第2モータ
6 第1駆動系
7 第2駆動系
12 第1状態センサ
15 第1平均化回路
17 第2状態センサ
20 第2平均化回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
倒立二輪車本体と、
前記倒立二輪車本体によって回転自在に支持される駆動輪と、
相互に電気的に絶縁された複数の巻線を有し、前記駆動輪を回転させるための電気モータと、
前記倒立二輪車本体の状態を検知して検知データを出力する状態検知手段と、前記状態検知手段からの前記検知データに基づいて前記電気モータの対応する前記巻線への電力供給を制御する制御手段と、を有する複数の駆動系と、
を備え、
各駆動系に属する前記状態検知手段の前記検知データは、前記複数の駆動系間で共有されるように構成し、
各駆動系の前記制御手段は、共有している前記複数の検知データに基づいて前記電気モータの対応する前記巻線への電力供給を制御する、
倒立二輪車。
【請求項2】
請求項1に記載の倒立二輪車であって、
各駆動系の前記制御手段は、共有している前記複数の検知データを所定の比率で足し合わせて合成データを生成し、この合成データに基づいて前記電気モータの対応する前記巻線への電力供給を制御する、
倒立二輪車。
【請求項3】
倒立二輪車本体と、
前記倒立二輪車本体によって回転自在に支持される駆動輪と、
相互に電気的に絶縁された第1巻線及び第2巻線を有し、前記駆動輪を回転させるための電気モータと、
前記倒立二輪車本体の状態を検知して第1検知データを出力する第1状態検知手段と、前記第1状態検知手段からの前記第1検知データに基づいて前記電気モータの前記第1巻線への電力供給を制御する第1制御手段と、を有する第1駆動系と、
前記倒立二輪車本体の状態を検知して第2検知データを出力する第2状態検知手段と、前記第2状態検知手段からの前記第2検知データに基づいて前記電気モータの前記第2巻線への電力供給を制御する第2制御手段と、を有する第2駆動系と、
を備え、
前記第1状態検知手段の前記第1検知データと前記第2状態検知手段の前記第2検知データは、前記第1駆動系と前記第2駆動系の間で共有されるように構成し、
前記第1駆動系の前記第1制御手段は、前記第1検知データ及び前記第2検知データに基づいて前記電気モータの前記第1巻線への電力供給を制御し、前記第2駆動系の前記第2制御手段は、前記第1検知データ及び前記第2検知データに基づいて前記電気モータの前記第2巻線への電力供給を制御する、
倒立二輪車。
【請求項4】
請求項3に記載の倒立二輪車であって、
前記第1駆動系の前記第1制御手段は、前記第1検知データ及び前記第2検知データを所定の比率で足し合わせて合成データを生成し、この合成データに基づいて前記電気モータの前記第1巻線への電力供給を制御し、
前記第2駆動系の前記第2制御手段は、前記第1検知データ及び前記第2検知データを前記所定の比率で足し合わせて合成データを生成し、この合成データに基づいて、前記電気モータの前記第2巻線への電力供給を制御する、
倒立二輪車。
【請求項5】
請求項4に記載の倒立二輪車であって、
前記第1駆動系の前記第1制御手段は、前記第1検知データ及び前記第2検知データを同じ比率で足し合わせて平均化データを生成し、この平均化データに基づいて前記電気モータの前記第1巻線への電力供給を制御し、
前記第2駆動系の前記第2制御手段は、前記第1検知データ及び前記第2検知データを同じ比率で足し合わせて平均化データを生成し、この平均化データに基づいて前記電気モータの前記第2巻線への電力供給を制御する、
倒立二輪車。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−170212(P2012−170212A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28419(P2011−28419)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】