説明

偏光エンタングル光子の混成集積光源

【課題】偏光エンタングル光子を生成するように構成されたシステムを提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態では、偏光エンタングル光子光源は、第1の導波路と第2の導波路を有する下方変換結晶と、下方変換結晶と隣接して位置決めされ、第1の導波路から放射された電磁放射を受け取るように構成された誘電体スペーサと、下方変換結晶と隣接して位置決めされ、第2の導波路から放射された電磁放射を受け取るように構成された半波長板とを含む。偏光エンタングル光子光源は、また、誘電体スペーサと半波長板と隣接して位置決めされ、誘電体スペーサと半波長板から出力された電磁放射出力を単一電磁放射ビームに組み合わせるように構成されたビーム・ディスプレイサを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、非線形光学素子に関し、詳細には偏光エンタングル(polarization-entangled)状態の光子を生成する小型非線形光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
量子系を利用した新しい技術を生むために、現在、物質科学から量子物理学までの分野の最新の有望な進歩が使用されている。そのような量子系を使用して、量子情報を符号化し伝送することができる。詳細には、ほんのいくつかの例を挙げると、量子情報の符号化と処理、光量子リソグラフィ、および計測学を含む量子系を利用した様々な用途で、「|0>」と「|1>」で表わされる2つの不連続状態だけを含む量子系を潜在的に(potentially)使用することができる。2つの不連続状態からなる量子系は、「量子ビット系(qubit system)」と呼ばれ、「量子ビット基底状態(qubit basis state)」と呼ばれる状態|0>および|1>は、{|0>,|1>}のようなセット表記で表わすことができる。量子ビット系は、状態|0>、状態|1>、または以下のように|0>と|1>両方を同時に含み状態の線形重畳によって数学的に表わすことができる無限数の状態のうちのどれかの状態で存在することができる。
【0003】
|ψ>=α|0>+β|1>
【0004】
状態|ψ>は、「量子ビット(qubit)」と呼ばれ、パラメータαとβは、次の条件を満たす複素数値係数である。
【0005】
|α|+|β|=1
【0006】
量子系の測定を行うことは、量子系の状態を基底状態の1つに投影することと数学的に等価であり、一般に量子系の状態を基底状態に投影する確率は、基底状態と関連付けられた係数の二乗に等しい。例えば、量子ビット系の状態|ψ>が、基底{|0>,|1>}で測定されたときは、状態|0>の量子系を見つける確率|α|と、状態|1>の量子系を見つける確率|β|を有する。
【0007】
量子ビット系と関連付けられた無限数の純粋状態は、幾何学的に「ブロッホ球」と呼ばれる単位半径の三次元球で表わすことができる。
【0008】
【数1】

【0009】
ここで、
0≦θ<π
【0010】
0≦φ<2π
【0011】
図1Aは、量子ビット系のブロッホ球表現を示す。図1Aでは、線101〜103はそれぞれ、直交するx、yおよびzデカルト座標軸であり、ブロッホ球106の中心は原点にある。ブロッホ球106上には無限数の点があり、各点は、量子ビット系の固有状態を表わす。例えば、ブロッホ球106上の点108は、部分的に状態|0>と部分的に状態|1>を同時に含む量子ビット系の固有状態を表す。しかしながら、量子ビット系の状態を基底{|0>,|1>}で測定した後、量子ビット系の状態は、状態0>110または状態|1>112に投影される。
【0012】
電磁放射の光子状態は、量子情報処理と量子計算の用途で量子ビット基底状態として使用することができる。用語「光子」は、電磁放射の電磁場モードの励起エネルギーの単一量子を指す。電磁放射は、伝搬する電磁波の形でもよく、各電磁波は、横方向電場成分(transverse electric field)
【0013】
【数2】

【0014】
とこれと直角する横方向磁場成分
【0015】
【数3】

【0016】
の両方を含む。図1Bは、方向
【0017】
【数4】

【0018】
に伝搬する電磁波の横方向の電場成分と磁場成分(transverse magnetic field component)を示す。図1Bに示したように、電磁波は、z軸120に沿って導かれる。横方向電場(「TE」)成分
【0019】
【数5】

【0020】
と横方向磁場(「TM」)成分
【0021】
【数6】

【0022】
はそれぞれ、直交するx軸126とy軸128に沿って導かれる。TEとTMは、図1Bでは同一の振幅を有するように示したが、現実的には、TM成分の振幅は、TE成分の振幅より1/cのファクター(factor)だけ小さく、この場合、cは、自由空間内の光の速度である(c=3.0x10m/秒)。電場成分の大きさと磁場成分の大きさがかなり違うために、一般に、電場成分だけで物質との電磁相互作用(electromagnetic wave interactions with matter)のほとんどを占める。
【0023】
量子情報処理と量子計算において、量子ビット基底状態として電磁波の偏光光子状態を使用することもできる。一般に使用されている2つの基底状態は、電磁波の垂直偏光光子と水平偏光光子である。用語「垂直(vertical)」および「水平(horizontal)」は、座標系に相対的なものであり、互いに直角に向けられた電磁波を参照するために使用される。図2A〜図2Bは、垂直偏光光子と水平偏光光子をそれぞれ示す。図2A〜図2Bで、垂直偏光光子と水平偏光光子は、z座標軸202および204に沿って伝搬する電場成分をそれぞれ表わす振動連続正弦波によって表わされる。図2Aに示したように、垂直偏光光子|V>は、yz平面内で振動(oscillates in yz-plane)する電場成分に対応する。方向矢印206は、|V>がz座標軸202に沿って1完全波長だけ進行するときのxy平面208内の電場成分|V>の1つの完全振動サイクルを表わす。図2Bで、水平偏光光子|H>は、xz平面内で振動する電場成分に対応する。方向矢印210は、|H>がz座標軸204に沿って1完全波長だけ進行するときのxy平面212内の電場成分|H>の1つの完全振動サイクル(complete oscillatory cycle)を表わす。
【0024】
2つ以上の量子ビット系を含む系の状態は、各量子ビットが各量子ビット系の1つと関連付けられた量子ビットのテンソル積によって表わすことができる。例えば、第1の量子ビット系と第2の量子ビット系を含む系のテンソル積は、次の式で与えられる。
【0025】
|ψ>12=|ψ>+|ψ>
【0026】
ここで、第1の量子ビット系の状態は、次の通りである。
【0027】
|ψ>=(1/√2)(|0>,|1>
【0028】
また、第2の量子ビット系の状態は、次の通りである。
【0029】
|ψ>=(1/√2)(|0>,|1>
【0030】
状態|ψ>12は、基底状態の積の線形重畳(linear superposition of products of basis states)として書き直すこともできる。
【0031】
|ψ>12=|ψ>+|ψ>
=(1/2)(|0>|0>+|0>|1>+|1>|0>+|1>|1>
【0032】
ここで、項|0>|0>、|0>|1>、|1>|0>、および|1>|1>は、テンソル直積空間の基底(basis of tensor product space)である。状態の各積状態は、1/2の関連係数(associated coefficient)を有し、これは、第1の量子ビット系の状態が基底{|0>,|1>}で測定され、また第2の量子ビット系の状態が、基底{|0>,|1>}で測定されたときに、積状態(product states)のどれかに組み合わせ量子ビット系が見つかる確率が(1/4)(|1/2|)であることを示す。
【0033】
しかしながら、組み合わされた量子ビット系の特定の状態は、関連量子ビット(product of associated qubits)の積によって表わすことができない。そのような量子ビット系は、「エンタングル(entangle)」されると言われる。量子のエンタングルメント(絡み合い)は、量子系を空間的に分離できる場合でも、2つ以上の量子系の状態が関連付けられる量子力学の固有の特性である。エンタングル2量子ビット系の例示的なエンタングル状態の表現は、次の式で与えられる。
【0034】
|ψ12=(1/√2)(|0>|1>+|1>|0>
【0035】
エンタングル状態|ψ12は、パラメータα、β、αおよびβを任意に選択した場合に、α|0>+β|1>とα|0>+β|1>の積に因数分解できない。
【0036】
アンエンタングル(un-entangled)2量子ビット系の状態は、エンタングル2量子ビット系の状態と、以下のように区別することができる。状態|ψ>12のアンエンタングル2量子ビット系を検討されたい。基底{|0>,|1>}における第1の量子ビット系に行われる測定が、第1の量子ビット系の状態を状態|0>に投影すると想定する。状態|ψ>12によれば、測定直後のアンエンタングル2量子ビット系の状態は、状態(|0>|0>+|0>|1>)/√2線形重畳(linear superposition)である。最初の測定のすぐ後に同一の基準系で基底{|0>,|1>}における第2の量子ビット系に第2の測定が行われたとき、第2の量子ビット系の状態を状態|0>に投影する確率は1/2であり、第2の量子ビット系の状態を状態|1>に投影する確率は1/2である。すなわち、第2の量子ビット系の状態は、第1の量子ビット系の状態と関連しない。
【0037】
これと対照的に、エンタングル状態|ψ12のエンタングル2量子ビット系を検討する。基底{|0>,|1>}における第1の量子ビット系に行われる第1の測定が、第1の量子ビット系の状態を状態|0>に投影すると想定する。エンタングル状態|ψ>12によれば、第1の測定後のエンタングル2量子ビット系の状態は、積状態|0>|1>である。第2の測定が、基底{|0>,|1>}における第2の量子ビット系に実行されるとき、第2の量子ビット系の状態は、確実に|1>である。即ち、第1の量子ビット系の状態が、第2の量子ビット系の状態と関連する。
【0038】
エンタングル量子系(entangled quantum systems)は、量子計算から量子情報処理までの分野にわたるいくつか異なる実用的な用途を有する。詳細には、前述の偏光エンタングル光子は、量子情報処理、量子暗号化、テレポーテーション(teleportation)、および線形光学量子計算(linear optics quantum computing)に使用することができる。いくつかの異なるエンタングル状態の用途に使用できる偏光エンタングル光子の例は、次の式で与えられるベル状態(Bell state)である。
【0039】
|ψ>=(1/√2)(|H>|V>−|V>|H>
【0040】
|ψ>=(1/√2)(|H>|V>+|V>|H>
【0041】
|φ>=(1/√2)(V>|V>−|H>|H>
【0042】
|φ>=(1/√2)(V>|V>+|H>|H>
【0043】
ここで、添え字「1」と「2」は、異なる伝送チャンネルまたは異なる波長を表わすことができる。
【0044】
偏光エンタングル光子は、いくつかの潜在的な有用な用途を有するが、一般に、種々様々なエンタングル状態用途において偏光エンタングル光子光源を実際に実行することができない。例えば、Kwiatらによる非特許文献1では、Kwiatは、連続電磁波に有効であるが電磁波パルスには有効でない偏光エンタングル光子ベル状態の高輝度光源(high-intensity source of polarization entangled-photon Bell state)について述べている。更に、特定方向に放射された光子だけが絡まり合わされる。その結果、限られた数の光子しか生成できない。また、Kwiatらによる非特許文献2でも、Kwiatらは偏光エンタングル光子対の光源について述べている。しかしながら、良好なエンタングルメント(entanglement)を得るには薄板結晶と持続波ポンプ(continuous wave pumps)を使用しなければならない。Taehyun Kimらによる非特許文献3と、Fiorentinoらによる非特許文献4では、KimとFiorentinoは両者とも、ベル状態偏光エンタングル光子の超高輝度パラメトリック下方変換光源(ultrabright parametric down-conversion source of Bell state polarization-entangled photons)について述べている。しかしながら、これらの偏光エンタングル光子光源は、微小規模の用途では使用できず、製造に高い費用がかかり、定期的な調整を必要とする。物理学者たちは、持続波源とパルス・ポンプ源の両方と適合しかつ光ファイバ・カプラに結合して微小規模装置で実現することができる偏光エンタングル光子光源の必要性を認識した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0045】
【非特許文献1】「New High-Intensity Source of Polarization-Entangled Photon Pairs」Physical Review Letters, vol.75,4337, (1995)
【非特許文献2】「Ultrabright source of polarization-entangled photons」Physical Review A, vol.60, R773, (1999)
【非特許文献3】「Phase-stable source of polarization-entangled photons using a polarization Sagnac interferometer」Physical Review A, vol.73,012316 (2006)
【非特許文献4】「Generation of ultrabright tunable polarization entanglement without spatial, spectral, or temporal constraints」Physical Review A, vol.69,041801(R) (2004)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0046】
本発明の様々な実施形態は、偏光エンタングル光子を生成するように構成された装置を対象とする。本発明の一装置実施形態では、偏光エンタングル光子光源は、第1の導波路と第2の導波路を有する下方変換結晶(down conversion crystal)、下方変換結晶と隣接して位置決めされ、第1の導波路から放射された電磁放射を受け取るように構成された誘電体スペーサと、下方変換結晶と隣接して位置決めされ、第2の導波路から放射された電磁放射を受け取るように構成された半波長板とを含む。偏光エンタングル光子光源は、また、誘電体スペーサと半波長板と隣接して位置決めされ、誘電体スペーサと半波長板から出力された電磁放射を単一電磁放射ビームに結合するように構成されたビーム・ディスプレイサ(beam displacer)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1A】量子ビット系のブロッホ球表現の図である。
【図1B】伝搬する電磁波の横方向電場成分と横方向磁場成分を示す図である。
【図2A】垂直偏光光子基底状態を示す図である。
【図2B】水平偏光光子基底状態を示す図である。
【図3A】Y形ビーム・スプリッタを示す図である。
【図3B】ビーム・スプリッタ・コンバイナの概略図である。
【図3C】図3Bに示したビーム・スプリッタ・コンバイナに入力されるビームの反射と透過を示す図である。
【図4A】半波長板に入射する垂直偏光光子の偏光状態変化を示す図である。
【図4B】半波長板に入射する水平偏光光子の偏光状態変化を示す図である。
【図5】仮想複屈折結晶の等角図である。
【図6】ポンプ・ビームを信号光子ビームとアイドラ光子ビームに分割する複屈折非線形結晶を示す図である。
【図7A】タイプI下方変換の例を示す図である。
【図7B】タイプI下方変換の例を示す図である。
【図7C】タイプII下方変換の例を示す図である。
【図8A】信号ビーム強度のグラフである。
【図8B】仮想周期的分極下方変換結晶を示す図である。
【図8C】3つの異なる非線形結晶内で伝搬するポンプ・ビームによって生成される信号出力のグラフである。
【図9】本発明の実施形態による第1の偏光エンタングル光子光源の概略平面図である。
【図10】本発明の実施形態による第2の偏光エンタングル光子光源の概略平面図である。
【図11】本発明の実施形態による第3の偏光エンタングル光子光源の概略平面図である。
【図12】本発明の実施形態による第4の偏光エンタングル光子光源の概略平面図である。
【図13】本発明の実施形態による第5の偏光エンタングル光子光源の概略平面図である。
【図14】本発明の実施形態による第6の偏光エンタングル光子光源の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明の様々な実施形態は、偏光エンタングル光子を生成するように構成された装置を対象とする。詳細には、本発明の装置の実施形態を使用して、偏光エンタングル・ベル状態の光子を生成することができる。本発明の装置の実施形態は、ビーム・スプリッタ、半波長板(half-wave plates)、複屈折結晶(birefringent crystals)、および自発的(spontaneous)パラメトリック下方変換を使用し、これらについては、最初の節で明らかにされる。本発明の実施形態は、後の節で提供される。後で提供される様々な実施形態の説明では、同じ材料からなるいくつかの構造的に類似した構成要素は、同じ参照数字を有し、これらの構造と機能の説明は、簡略にするために繰り返されない。
【0049】
ビーム・スプリッタ、半波長板、複屈折結晶、および自発的パラメトリック下方変換
ビームスプリッタ(「BS」)は、光学信号式コンピューティングおよび情報処理システムのよく知られた構成要素である。図3Aは、Y形BS300の概略図を示す。Y形BS300は、入力導波路302、第1の出力導波路304、および第2の出力導波路306を含む。入力電場からエネルギーを取り出すことができる無損失プロセスのないY形BS300では、入出力電磁放射ビームと関連したエネルギーは保存される。図3Aに示したように、電磁放射の入射ビームは、Eによって表わされた電場振幅を有し、次の電場振幅を有する2つの別個のビームに分割される。
【0050】
=c
=c
【0051】
ここで、cとcは、次の条件を満たす複素数値係数を表わす
【0052】
|c+|c=1
【0053】
電場成分Eを有するビームは、出力導波路304に送られる。電場成分Eを有するビームは、出力導波路306に送られる。
【0054】
出力導波路304と306が対称的なとき、Y形BS300は、入射ビームのフラックス密度の50%を出力導波路304に送り、50%を出力導波路306に送る。Y形BSは、「50:50ビーム・スプリッタ」と呼ぶことができ、対応する係数cとcは両方とも1/√2でもよい。即ち、出力導波路304と306は両方とも、導波路302で伝送される入射ビームのフラックス密度の同じ割合を送る。
【0055】
図3Bは、ビーム・スプリッタ・コンバイナ(「BSC」)310の概略図を示す。BSC310は、第1の導波路312と第2の導波路314を含む。方向矢印320と322はそれぞれ、電場振幅EとEを有する電磁放射の入力ビームを表わし、方向矢印324と326はそれぞれ、EとEによって示された電場振幅を有する電磁放射の出力ビームを表わす。図3Cは、BSC310に入ったビームの反射と透過を示す。方向矢印328と330はそれぞれ、電場Eの反射と透過の経路を表わし、点線の方向矢印332と334はそれぞれ、電場Eの反射と透過の経路を表わす。図3Cでは、r41とt31は、電場Eの反射された量と透過された量を表わし、r32とt42は、電場Eの反射された量と透過された量を表わし、r31とr42は、複素数値反射係数を表わし、t41とt32は、次の関係を満たす複素数値透過係数である。
【0056】
|r31+|t41=|r42+|t32=1
3132+t4142=0
【0057】
入力電場からエネルギーを取り出すことができる無損失プロセスのないBSC310では、入出力電場と関連したエネルギーが保存される。その結果、入力電場振幅EとEおよび出力電場振幅EとEは、次の行列式によって数学的に関連付けることができる。
【0058】
【数7】

【0059】
ここで、BSC310が、入射ビーム0の50%を反射し透過するとき、BSC31は、「50:50ビーム・スプリッタ」と呼ぶこともでき、反射および透過係数を、次の式で示すことができる。
【0060】
【数8】

【0061】
半波長板(HWP)は、入射直線偏光光子の偏光を、入射偏光とHWP軸のなす角度の2倍の角度だけを回転させる。例えば、水平方向に対して45°の角度をなす軸を有するHWPは、入射垂直偏光光子を水平偏光光子に回転させ、入射水平偏光光子を垂直偏光光子に回転させる。図4A〜図4Bはそれぞれ、そのようなHWPに入射した垂直および水平偏光光子の偏光状態の変化を示す。図4Aでは、垂直偏光光子|V>402は、z座標軸404に沿って伝搬し、HWP406の前面に当たる。垂直偏光光子|V>402は、HWP406を通過し、水平偏光光子|H>408はΗWP406の反対側から出る。図4Bでは、水平偏光光子|H>410は、z座標軸404に沿って同じΗWP406の前面に伝搬する。水平偏光光子|H>410が、ΗWP406を通過するとき、垂直偏光光子|V>412は、ΗWP406の反対側から出る。
【0062】
複屈折結晶は、2つの異なる屈折率を示す。この結晶は、α−BaBr(「α−BBO」)、CaCO(「方解石」)、NbO(「酸化ニオブ」)、LiB(「三ホウ酸リチウム」または「LBO」)からなる。各屈折率は、入射光子の偏光状態と、入射光子の伝搬方向に対する複屈折結晶の向きとに依存する。複屈折結晶を使用して、水平方向と垂直方向に偏光した電磁波を分離することができる。図5は、仮想複屈折結晶502の等角図を示す。x座標軸504に対して45°で偏光された入射光子は、z方向の第1の伝送チャネル506に沿って、方向矢印508で示された方向に、複屈折結晶502まで伝搬する。入射光子は、垂直偏光状態と水平偏光状態のコヒーレント線形重畳によって数学的に以下のように表わすことができる。
【0063】
|45°>=(1/√2)(|H>+|V>)
【0064】
ここで、|H>は、複屈折結晶502のxz平面内にある水平偏光光子510を表わし、
|V>は、複屈折結晶502のyz平面内にある垂直偏光光子512を表わす。
【0065】
図5に示したように、水平偏光光子|H>510は、偏向されなかった複屈折結晶502を通過し、第1の送信チャンネル406に沿って伝搬し続け、一方、垂直偏光光子|V>512は、複屈折結晶502内で偏向され、第2の送信チャンネル514上の複屈折結晶502から出る。光子のコヒーレント線形重畳を得るために、複屈折結晶を使用して垂直偏光光子を水平偏光光子と組み合わせることができる。例えば、水平偏光光子|H>510と垂直偏光光子|V>512の伝搬方向を逆にすると、方向矢印516で示された方向に伝搬する45°偏光光子|45°>が得られる。
【0066】
自発的パラメトリック下方変換(spontaneous parametric-down conversion;SPDC)では、複屈折非線形結晶は、「ポンプ・ビーム」と呼ばれるコヒーレント状態|α>の電磁放射の入射ビームを「信号ビーム」と「アイドラ・ビーム(idler beam)」と呼ばれる1対の光子ビームに分割する。図6は、コヒーレント状態|α>のポンプ・ビームを1対の信号光子ビームとアイドラ光子ビームに分割する複屈折の非線形結晶を示す。図6では、周波数ωと波数pを有するポンプ・ビーム602は、長さLの非線形結晶604に入射する。ポンプ・ビーム602は、非線形結晶604内に第1の非線形偏光電磁波と第2の非線形偏光電磁波を生成する。第1の非線形偏光波は、ωで示された周波数で振動する「アイドラ(idler)」波と呼ばれ、第2の非線形偏光波は、ωで示された周波数で振動する「信号」波と呼ばれる。用語「信号」および「アイドラ」は、特別な意味のない慣習的な用語である。その結果、ビーム・ラベルの選択は任意である。2つの非線形偏光波と初期ポンプ波の相対位相が建設的に加わるとき、周波数ωおよび対応する波数kを有するアイドラ・ビーム606が出力され、周波数ωおよび対応する波数kを有する信号ビーム608が出力される。無損失非線形結晶(lossless nonlinear crystal)の場合、エネルギー保存は次の関係を必要とする。
【0067】
hω=hω+hω
【0068】
ここで、hはプランク定数を表わす。
【0069】
下方変換プロセスにおいて、非線形結晶の量子状態は変更されないままである。換言すると、非線形結晶604の最初と最後の量子力学的状態は同一である。非線形結晶604から出力された異なるアイドラ・ビーム606と信号ビーム608は、非線形性と複屈折(birefringence)の結果であり、非線形結晶の屈折率は、入射ポンプ・ビームの偏光方向に依存する。
【0070】
非線形結晶と関連した2種類の下方変換プロセスがある。非線形結晶から出力された信号ビームとアイドラ・ビームが同一の偏光を有するときは、「タイプI下方変換」と呼ばれる第1のタイプの下方変換が行われ、信号ビームとアイドラ・ビームが直角の偏光を有するときは、「タイプII下方変換」と呼ばれる第2のタイプの下方変換が行われる。図7A〜図7Bは、タイプI下方変換の2つの例を示す。図7Aでは、第1のタイプI下方変換結晶(down-conversion crystal; DCC)702は、|αで示されたコヒーレント状態の垂直偏光ポンプ・ビーム704を受け取り、垂直偏光信号光子|V>706と垂直偏光アイドラ光子|V>i708の両方を出力する。図7Bでは、第2のタイプI DCC710は、|αで示されたコヒーレント状態の水平偏光ポンプ・ビーム712を受け取り、垂直偏光信号光子|V>714と垂直偏光アイドラ光子|V>716の両方を出力する。図7Cは、タイプII下方変換の例を示す。タイプII DCC718は、|αv>によって示されたコヒーレント状態の垂直偏光ポンプ・ビーム720を受け取り、同時に垂直偏光信号光子|V>722と水平偏光アイドラ光子|H>724の両方を出力する
【0071】
バルク非線形結晶内のSPDCと関連した理論は十分に確立されている。バルク非線形結晶の場合、下方変換された信号出力は、周波数(波長)間隔で放射されるすべての放射角度にわたって積分され、ポンプ・ビーム・スポット・サイズに依存しない結果が得られる。バルク結晶内のパラメトリック下方変換の背後にある理論の詳細な説明は、Kochらによる「Hot spots in parametric fluorescence with a pump beam of finite cross section」IEEE J. Quantum Electron.31,769 (1995)を参照されたい。しかしながら、バルク結晶内のSPDCに至る実験条件は、導波路内のSPDCには適用できないことに注意されたい。所定の長さの導波路は有限で少数の横モードしか対応できない。更に、位相整合条件を満たす横モードは1組しかない場合がある。その結果、実質的にすべてのSPDC光子は、シングル横モードに放射され、一般に信号光子とアイドラ光子では別々のモードであり、高密度のSPDC光子がすべて導波路に沿って伝搬し、その結果スペクトル帯域幅は狭くなる。更に、このジオメトリでは、ポンプ閉じ込めが増えると、それに対応して、過剰な横モードへの放射によって輝度が低下せず、閉じ込めが増えると、信号ビームとアイドラ・ビーム生成が増えることになる。
【0072】
非線形結晶における導波路の効率は、導波路のスペクトル・パワー密度を調べることによって評価することができ、これは、信号ビームに関して以下のように表わすことができる。
【0073】
【数9】

【0074】
ここで、
Lは、非線形結晶の導波路の長さであり、
は、ポンプ・ビームの出力であり、
は、相互作用実効面積であり、そして
Δk=k−k−kは、「波数ベクトル(wavevector)、すなわち運動量(momentum)、不整合(mismatch)」と呼ばれる。
【0075】
図8Aは、スペクトル・パワー密度とΔkL/2の関係を示すグラフである。水平軸802は、ある範囲のΔkL/2値に対応し、縦軸804は、非線形結晶導波路から放射された信号ビームと関連したスペクトル・パワー密度に対応し、曲線806は、スペクトル・パワー密度をΔkL/2の関数として表わす。曲線806は、Δkが0と等しいときの最高効率またはスペクトル・パワー密度を示し、|Δk|Lが大きくなるほど、非線形結晶の効率が低下することを示す。この結果、|Δk|Lが非ゼロの大きな値の場合、信号ビームとアイドラ・ビームからポンプ・ビーム内に逆方向にパワーが流れる可能性ある。下方変換プロセスに含まれる電磁波が、順方向伝搬方向に建設的に加わるように位相整合されるときに最高効率(Δk=0)が達成される。同じように形成されたスペクトル・パワー密度曲線が、アイドラ・ビームについてもあり、また0に等しい波数ベクトル不整合Δkの中心となることに注意されたい。
【0076】
非線形結晶導波路内のSPDCとバルク(bulk)非線形結晶内のSPDCとの大きな違いは、以下のように説明することができる。非線形結晶導波路内では、少数のモードしか実質的に相互作用せず、バルク非線形結晶内では、ポンプ・ガウス・モードが、連続した平面波モードと相互作用する。非線形結晶の導波路放射は、前述の正弦項によって特徴付けられた限られた同一直線上の帯域に制限され、バルク非線形結晶の放射は、同一直線上にない。非線形結晶導波路の理論的および実験結果のより詳しい説明は、M.Fiorentinoらによる「Spontaneous parametric down-conversion in periodically polled KTP waveguides and bulk crystals」Optics Express, Vol.15, No.12, June 11,2007と、S.Spillaneらによる「Spontaneous parametric down-conversion in a nanophotonic waveguide」Optics Express, Vol.15, No.14, July 9,2007を参照されたい。これらの文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0077】
位相整合条件(Δk=0)は、多くの場合、ポンプ・ビーム、信号ビーム、およびアイドラ・ビームのそれぞれと関連した屈折率を慎重に制御することによって得ることができる。一般的に、位相整合は、角度同調か温度同調のいずれかによって達成され、これらは両方とも周知の位相整合方法である。しかしながら、角度同調方法と温度同調方法が、位相整合条件を維持するのに適していない状況がある。例えば、いくつかの非線形結晶は、広い波長範囲にわたって線形屈折率の分散を補償するのに不十分な複屈折を有する場合があり、他の非線形結晶は、電磁放射が次第に短かくなる波長を有するので、信号ビームと関連した屈折率がアイドラ・ビームの屈折率に近づく。
【0078】
通常の位相整合を実行できないときは疑似位相整合(quasi-phase matching)を使用することができる。疑似位相整合は、下方変換結晶を周期的に分極することにより達成することができる。図8Bは、仮想の周期的に分極された下方変換結晶810を示す。下方変換結晶810は、同じ複屈折材料の6つの交互層811〜816を含む。層811,813および815の結晶格子はすべて、下向矢印818などの下向矢印によって示されたように配向される。これと対照的に、層812,814および816の結晶格子はすべて、上向矢印820などの上向矢印で示されたように、層811,812および815の反対方向に配向される。交互層の周期は、Λで表わされる。非線形結晶を周期的に分極する方法は、当該技術分野で周知である。
【0079】
以下の考察では、3つの異なる非線形結晶の特性により信号出力がどのように変化するかを調べることによって、周期的な分極が、非ゼロ波数ベクトル不整合(non-zero wavevector mismatch)Δkをどのように補償できるかを説明する。図8Cは、異なる非線形結晶内を伝搬する信号とそれぞれ関連付けられた3つの信号出力のグラフである。水平軸822は、各非線形結晶内の伝搬距離に対応し、縦軸824は、強いポンプ電場(pump field)がある状態で各非線形結晶内を伝播する信号電場の出力に対応する。曲線826は、完全に位相整合した相互作用(Δk=0)を有する第1の単一非線形結晶について、信号出力が伝搬距離zと共に線形的に増大することを示す。これと対照的に、曲線828は、第2の単一非線形結晶と関連付けられるが、非ゼロ波数ベクトル不整合により、電場出力が振動する。その結果、第2の非線形結晶の伝搬距離を超える平均電場出力は0である。曲線830は、周期的に分極された非線形結晶と関連付けられる。曲線830は、通常は非ゼロ波数ベクトル不整合を示す非線形結晶を周期的に分極することによって、信号出力が、波数ベクトル不整合の結果として減少しようとするときに、周期Λの終わりに反転が起き、それにより電力が単調増加できることを示す。類似の考察は、アイドラ・ビームにも当てはまる。
【0080】
周期的に分極された非線形結晶の波数ベクトル不整合は、次の式によって与えられる。
【0081】
Δk=k−k−k−(2π/Λ)+Δkwg
【0082】
ここで、Δkwgは、導波路の位相整合への寄与であり、最適周期は、次の通りである。
【0083】
Λ=±2π/(k−k−k
【0084】
[発明の実施形態]
図9は、本発明の実施形態による第1の偏光エンタングル光子光源900の概略平面図を示す。エンタングル光子光源900は、タイプI DCC902、ビーム・ディスプレイサ904、HWP906、および誘電体スペーサ908を含み、これらはすべて、単一チップ上に配置することができる。HWP906と誘電体スペーサ908は、タイプI DCC902とビーム・ディスプレイサ904の間に配置される。エンタングル光子光源900は、また、レンズ910とダイクロイック・ミラー(dichroic mirror)912を含み、必要に応じて、タイプI DCC902の、HWP906と誘電体スペーサ908の反対側の面に付着された反射防止膜914を含んでもよい。
【0085】
タイプI DCC902は、zカットLiNbO(「ニオブ酸リチウム」)、KTiOPO(「KTP」)、KTiOAsO(「KTA」)、LiIO(「ヨウ素酸リチウム」)、LiTaO(「タンタル酸リチウム」)、または他の適切な非線形結晶材料または非線形電気光学重合体(non-linear electric polymer)などのzカット非線形結晶でよい。タイプI DCC902は、光学軸を有し、用語「zカット」は、この光学軸が、タイプI DCC902の平面と垂直向きであることを示す。ビーム・ディスプレイサ904は、α−BBO、方解石、NbO、LBOまたは別の適切な複屈折結晶でよい。オプションの反射防止膜914は、酸化マグネシウムから成ってもよい。
【0086】
図9に示したように、また図10〜図14に示した後の実施形態では、タイプI DCC902は、太い実線916および918によって表わされた導波路を含む。ビーム・ディスプレイサ904、半波長板906および誘電体スペーサ908内に伝送される電磁放射の経路は、太い破線で表わされる。導波路916および918は、リッジ導波管、すなわちエンタングル光子光源900の残りの部分より高い屈折率を有する領域でよい。導波路は、タイプI DCC902の特定の領域に陽子または原子をドープ(doping)することによって形成することができる。例えば、LiNbO結晶層の他の部分より高い屈折率を有する導波路は、LiNbO結晶層のその領域にTiを注入することによって形成することができる。DCCの導波路のより詳しい説明は、前に参照したM.FiorentinoとS.Spillaneによる参考文献を参照されたい。図9では、導波路918は、導波路916の方に曲がり50:50 BSC920を構成する。本発明の他の実施形態では、BSC920の代わりにY形導波路が使用されてもよいことに注意されたい。影付き領域922は、タイプI DCC902の周期的分極領域(periodically poled region)を表わす。HWP906は、導波路916から出力された偏波を約90°だけ回転させる。誘電体スペーサ908は、導波路918から出力された偏波を回転させず、SiOまたは別の適切な誘電材料で構成することができ、タイプI DCC902から出力された電磁放射出力の経路長を実質的に釣り合わせるために含まれる。ビーム・ディスプレイサ(beam displacer)904は、導波路916および918から出力された電磁放射ビームを単一電磁放射ビームに組み合わせるように位置決めされ構成される。
【0087】
エンタングル光子光源900は、エンタングル光子光源900より低い屈折率を有する基板(図示せず)によって支持することができ、導波路内の電磁放射の伝送を妨げない。例えば、基板は、SiO、ポリ(メタクリル酸メチル)(poly methyl methacrylate;PMMA)を使用して形成することができる。
【0088】
エンタングル光子光源900は、ポンプ・ビーム光源924から水平偏光または垂直偏光のコヒーレント状態のポンプ・ビームを受け取る。用語「水平」と「水平方向に」は、エンタングル光子光源の平面と平行に偏光された電場成分を有する電磁波を指し、用語「垂直」および「垂直方向に」は、エンタングル光子光源の平面に直角に偏光された電場成分を有する電磁波を指す。ポンプ・ビームは、導波路916に入力される連続的な電磁波または電磁波パルスにでよい。オプションの反射防止膜914を使用して、ポンプ・ビームの少なくとも一部分がタイプI DCC902の他の領域に浸透するのを防ぐことができる。エンタングル光子光源900は、次の式で表されるエンタングル状態の偏光エンタングル光子を出力する。
【0089】
|φ>=(1/√2)(|V>|V>+eiθ|H>|H>
【0090】
ここで、
|H>と|V>は、信号出力チャネル926内に出力された水平および垂直偏光信号標識光子(horizontally and vertically polarized signal labeled photons)を表し、
|H>と|V>は、アイドラ出力チャネル928で出力された水平および垂直偏光アイドラ標識光子を表し、
θは、水平偏光光子と垂直偏光光子の相対位相差である。
【0091】
ポンプ・ビーム光源924から出力される|αで示された水平偏光コヒーレント状態のポンプ・ビームを使用して状態|φ>の偏光エンタングル光子を生成することは、以下のように示される。50:50 BSC920は、導波路916にポンプ・ビーム|αを受け取り、次の式で表される状態のコヒーレント線形重畳の2つの経路依存ポンプ・ビーム(two path dependent pump beams)を出力する。
【0092】
|β>=(1/√2)(|α1p+|α2p
【0093】
ここで、
|α1pは、導波路918内で伝送される水平偏光ポンプ・ビームを表わし、
|α2pは、導波路916内で伝送される水平偏光ポンプ・ビームを表わす。
【0094】
本発明の様々な実施形態の以下の説明では、状態の数値の添え字は、DCCの導波路に沿って伝送される光子の経路依存を明確にするために使用される。経路は、図9〜図14で、丸で囲まれた数字によって示される。例えば、コヒーレント状態|α1pと関連付けられた添え字「1」は、上側導波路918内で伝送され、図9〜図14でも丸で囲まれた数字「1」によって示されたコヒーレント状態の電磁放射に対応する。
【0095】
水平および垂直偏光ポンプ・ビーム|α1pと|α2pが、タイプI DCC902内で伝送されるとき、導波路918内で伝送される水平偏光ポンプ・ビーム|α1pは、1対の水平偏光信号とアイドラ光子に変換され、以下のように表される。
【0096】
|α1p→タイプ1変換→|H>1s|H>1i
【0097】
また、導波路916内で伝送される水平偏光ポンプ・ビーム|α2pは、1対の水平偏光信号とアイドラ光子に変換され、やはり次のように表される。
【0098】
|α2p→タイプ1変換→|H>2s|H>2i
【0099】
HWP906は、水平偏光信号とアイドラ光子|H>2s|H>2iを受け取って、垂直偏光信号とアイドラ光子|V>2s|V>2iを出力する。ビーム・ディスプレイサ904は、状態|V>2s|V2iの信号光子とアイドル光子を状態|H>1s|H>1iの信号光子とアイドル光子と1つの経路内に組み合わせることで経路依存をなくし、状態|φ>の偏光エンタングル光子を出力する。レンズ910は、ビーム・ディスプレイサ904から出力された偏光エンタングル光子を平行にする。ダイクロイック・ミラー912は、状態|φ>の偏光エンタングル光子を信号光子とアイドラ光子に分離し、この信号光子とアイドラ光子はそれぞれ、出力チャネル926と928内で伝送される。例えば、垂直偏光光子|V>が、信号出力チャネル926内で検出されたとき、垂直偏光光子|V>は、アイドル出力チャネル928内で検出される。一方、状態|φ>は、水平偏光光子|H>が信号出力チャネル926内で検出されたとき、水平偏光光子|H>が、アイドル出力チャネル928内で検出されることも示す。出力チャネル926および928は、量子コンピュータ量子情報処理装置または記憶装置、量子暗号装置、量子テレポーテーション装置、または偏光エンタングル光子を使用する他の光学式装置またはネットワークに結合することができる。
【0100】
本発明の他の実施形態では、ポンプ・ビーム光源924を同調させて、|αによって示された垂直偏光コヒーレント状態のビームを、状態|φ>の偏光エンタングル光子も生じるエンタングル光子光源900の導波路916に入力することができることに注意されたい。
【0101】
図10は、本発明の実施形態による第2の偏光エンタングル光子光源1000の概略平面図を示す。エンタングル光子光源1000は、ビーム・ディスプレイサ904以外はエンタングル光子光源900とほぼ同一であり、エンタングル光子光源900のレンズ910は、複屈折結晶1002からのビーム出力を平行にするレンズ状外側面1004を有するビーム・ディスプレイサ1002と置き換えられた。エンタングル光子光源1000は、ポンプ・ビーム光源924から入力された偏光ビームに同じ操作を実行して、状態|φ>の偏光エンタングル光子を生成する。
【0102】
本発明の他の実施形態では、状態|φ>の偏光エンタングル光子は、タイプII DCCを使用して生成することができる。図11は、本発明の実施形態による第3の偏光エンタングル光子光源1100の概略平面図を示す。図11に示したように、エンタングル光子光源1100は、タイプII DCC1102、第1のΗWP1108、第2のΗWP1110、第1の誘電体スペーサ1112、および第2の誘電体スペーサ1114によって第2のビーム・ディスプレイサ1106から分離された第1のビーム・ディスプレイサ1104を含み、これらはすべて、単一チップ上に配置することができる。タイプII DCC1102は、ニオブ酸リチウム、KTP、KTA、ニオブ酸リチウム、ヨウ素酸リチウム、リチウム、タンタル酸塩、またはタイプII DCC1102の平面に対して垂直に位置決めされた光学軸を有する他の適切な非線形結晶または電気光学高分子などのzカット非線形結晶でよい。タイプII DCC1102は、また、周期的に分極された領域1116を含む。第1のビーム・ディスプレイサ1104は、導波路918と916内で伝送される垂直偏光電磁放射ビームがそれぞれ経路1118と1120に分かれるように位置決めされ構成され、第2のビーム・ディスプレイサ1106は、誘電体スペーサ1114から出力された垂直偏光電磁放射ビームが経路1122と1124に分かれるように位置決めされ構成される。エンタングル光子光源1100は、SiO、PMMA、またはエンタングル光子光源1100より低い屈折率を有しかつ導波路内で伝送される電磁放射を妨げない任意の他の基材(図示せず)によって支持されてもよい。
【0103】
エンタングル光子光源1100は、ポンプ・ビーム光源924から水平または垂直偏光コヒーレント状態のポンプ・ビームを受け取る。ポンプ・ビームは、また、導波路916に入力される連続電磁波または電磁波パルスでもよい。エンタングル光子光源1100は、エンタングル状態|φ>の偏光エンタングル光子を出力する。エンタングル光子光源900に関して前述したように、50:50 BSC920は、導波路916にポンプ・ビーム|αを受け取り、図9に関して前述したように、状態|β>のコヒーレント線形重畳の電磁放射を出力する。タイプII DCC1102は、導波路918内で伝送される水平偏光ポンプ・ビーム|α1pを、1対の水平偏光および垂直偏光された信号光子およびアイドル光子に変換し、これは、次のように表される。
【0104】
|α1p→タイプII変換→|H>1s>|V>1i
【0105】
また、導波路916内で伝送される水平偏光ポンプ・ビーム|α2pを、別の対の水平偏光および垂直偏光の信号光子およびアイドラ光子に変換し、これは、次のように表される。
【0106】
|α2p→タイプII変換→|H>2s>|V>2i
【0107】
タイプII DCC1102から出力された光子の状態は、次の式で示される。
【0108】
(1/√2)(|H>1s|V>1i+eiθ|H>2s|V>2i
【0109】
第1と第2の複屈折結晶1104と1106と、HWP1108と1110は、図11に示したように、アイドラ光子をアイドラ出力チャネル1126に入れ、以下のように信号光子を信号出力チャネル1128に入れるように構成される。第1のビーム・ディスプレイサ1104は、導波路918から出力された状態|H>1s|V>1iの1対の光子を、垂直偏光アイドラ光子|V>1iが経路1118に沿って伝送されるように分割し、導波路916から出力された1対の光子|H>2s|V>2iを、垂直偏光アイドラ光子|V>2iが経路1120に沿って伝送されるように分割する。経路1120に沿って伝送された垂直偏光光子|V>2iは、水平偏光光子|H>1sと組み合わされ、その偏光状態は、誘電体スペーサ1112および1114によって変化しない。ΗWP1108は、垂直偏光光子|V>1iを水平偏光光子|H>1iに変換し、ΗWP1110は、水平偏光光子|H>2iを垂直偏光光子|V>2iに変換する。その結果、第1のΗWP1108と第2の誘電体スペーサ1114の後、ビーム・ディスプレイサ1106に入る光子は、数学的に次の式で表わされるエンタングル偏光状態である。
【0110】
(1/√2)(|H>1s|H>1i+eiθ|V>2s|V>2i
【0111】
第2のビーム・ディスプレイサ1106は、アイドラ出力チャネル1126内のアイドラ光子を組み合わせ、信号出力チャネル1128内の信号光子を組み合わせて、エンタングル状態|φ>の偏光エンタングル光子を生成することにより経路依存性をなくす。垂直偏光光子|V>が、信号出力チャネル1128内で検出されるとき、垂直偏光光子|V>が、アイドラ出力チャネル1126内で検出され、水平偏光光子|H>が信号出力チャネル1128内で検出されたとき、水平偏光光子|H>がアイドラ出力チャネル1126内で検出される。
【0112】
本発明の他の実施形態では、状態|ψ>の偏光エンタングル光子は、ΗWPを、図9〜図11に関して前述したエンタングル光子光源900、1000および1100のアイドラ出力チャネルか信号出力チャネルのいずれかに導入することによって生成することができる。図12は、本発明の実施形態による第4の偏光エンタングル光子光源1200の概略平面図を示す。エンタングル光子光源1200は、信号出力チャネル926内に配置された追加のΗWP1202以外、図9に示したエンタングル光子光源900と同一である。ΗWP1202は、次のようにダイクロイックミラー912から出力された信号ビーム光子に作用する。
【0113】
|φ>=(1/√2)(|V>|V>+eiθ|H>|H>)→HWP変換→(1/√2)(|H>|V>+eiθ|V>|H>)=1φ>
【0114】
その結果、信号出力チャネル926で水平偏光光子|H>が検出されたときは、アイドラ出力チャネル928で垂直偏光光子|V>が検出され、信号出力チャネル926で垂直偏光光子|V>が検出されたときは、アイドラ出力チャネル928で水平偏光光子|H>が検出される。
【0115】
図13は、本発明の実施形態による第5の偏光エンタングル光子光源1300の概略平面図を示す。エンタングル光子光源1300は、ΗWP1202が信号出力チャネル926内に配置されている以外、図12に示したエンタングル光子光源1200と同一である。ΗWP1002は、次のようにダイクロイックミラー912から出力された信号ビーム光子出力に作用する。
【0116】
HWP変換|φ>→|ψ>
【0117】
図14は、本発明の実施形態による第6の偏光エンタングル光子光源1400の概略平面図を示す。エンタングル光子光源1400は、HWP1402が信号出力チャネル1128内に配置されている以外、図11に示したエンタングル光子光源1100と同一である。HWP1402は、次のように第2の複屈折結晶から出力された信号ビーム光子に作用する。
【0118】
HWP変換|φ>→|ψ>
【0119】
本発明の他の実施形態では、HWP1202および1402をアイドラ出力チャネル内に配置して状態|ψ>の偏光エンタングル光子を提供することができる。
【0120】
例:
ポンプ・ビーム光源924が、約405nmの波長を有するポンプ・ビームを出力するように構成されたとき、エンタングル光子光源900および1000は、約800および820nmの対応波長を有するエンタングル信号およびアイドラ光子対を放射する。ポンプ・ビーム光源924が、約650nmの波長を有するポンプ・ビームを出力するように構成されたとき、エンタングル光子光源900および1000は、対応する約1290および1310nmの波長を有するエンタングル信号およびアイドラ光子対を放射する。ポンプ・ビーム光源924が、約780nmの波長を有するポンプ・ビームを出力するように構成されたとき、エンタングル光子光源900および1000は、対応する約1550および1570nmの波長を有するエンタングル信号およびアイドラ光子対を放射する。
【0121】
以上の記述は、説明のため、本発明の完全な理解を提供するために特定の用語を使用した。しかしながら、本発明を実施するために特定の詳細が必要でないことは当業者に明らかであろう。本発明の特定の実施形態の以上の説明は、例示と説明のために提示される。これらは、網羅的なものでもなく、本発明を開示した厳密な形態に限定するものでもない。以上の教示を鑑みて多くの修正と変形が可能であることは明かである。実施形態は、本発明の原理とその実際的応用を最もよく説明するために示され記述され、それにより、当業者は、本発明と様々な実施形態を、意図された特定の用途に適するような様々な修正により利用することができる。本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲とその均等物によって定義されることが意図されている。
【符号の説明】
【0122】
900・・・偏光エンタングル光子光源,
902・・・下方変換結晶,
904・・・ビーム・ディスプレイサ,
906・・・半波長板.
908・・・誘電体スペーサ,
918,920・・・導波路,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光エンタングル光子光源(900)であって、
第1の導波路(918)と第2の導波路(920)を有する下方変換結晶(902)と、
前記下方変換結晶と隣接して位置決めされ、前記第1の導波路(918)から放射された電磁放射を受け取るように構成された誘電体スペーサ(908)と、
前記下方変換結晶と隣接して位置決めされ、前記第2の導波路(920)から放射された電磁放射を受け取るように構成された半波長板(906)と、
前記誘電体スペーサおよび前記半波長板と隣接して位置決めされ、前記誘電体スペーサと前記半波長板から出力された前記電磁放射を単一電磁放射ビームに結合するように構成されたビーム・ディスプレイサ(904)とを含む偏光エンタングル光子光源(900)と
を有する光源。
【請求項2】
前記複屈折結晶から出力された前記単一電磁放射ビームを平行にするように位置決めされ構成されたレンズ(910)
をさらに含む請求項1に記載の光源。
【請求項3】
前記ビーム・ディスプレイサ(1002)は、
前記単一電磁放射ビームを平行にするように構成されたレンズ状外側面(1004)
をさらに含む
請求項1に記載の光源。
【請求項4】
前記下方変換結晶は、
周期的に分極された領域(922)と、
タイプIの下方変換結晶(702,710)と
をさらに含む請求項1に記載の光源。
【請求項5】
前記単一電磁放射ビームをアイドラ電磁放射ビームと信号電磁放射ビームに分離するように構成されたダイクロイックミラー(912)と、
前記アイドラ電磁放射ビームの経路と前記信号電磁放射ビームの経路内に配置された半波長板(1202)と
をさらに有する請求項1に記載の光源。
【請求項6】
偏光エンタングル光子光源(1100)であって、
第1の導波路と第2の導波路を有する下方変換結晶(1102)と、
前記下方変換結晶と隣接して位置決めされ、前記第1の導波路から出力された電磁放射を前記第1の偏光状態の第1の電磁放射ビームと第2の偏光状態の第2の電磁放射ビームに分離し、前記第2の導波路から出力された電磁放射を前記第1の偏光状態の第3の電磁放射ビームと前記第2の偏光状態の第4の電磁放射ビームに分離するように構成された第1のビーム・ディスプレイサ(1112)と、
前記第1のビーム・ディスプレイサと隣接して位置決めされ、前記第1の電磁放射ビームを前記第1の偏光状態から前記第2の偏光状態に変換するように構成された第1の半波長板(1108)と、
前記第1のビーム・ディスプレイサと隣接して位置決めされ、前記第4の電磁放射ビーム出力を前記第2の偏光状態から前記第1の偏光状態に変換するように構成された第2の半波長板(1110)と、
前記第1と第2の半波長板と隣接して位置決めされ、前記第1と第3の電磁放射ビームをアイドラ電磁放射ビームに組み合わせ、かつ前記第2と第4の電磁放射ビームを信号電磁放射ビームに結合するように構成された第2のビーム・ディスプレイサ(1114)とを含む偏光エンタングル光子光源(1100)と
を有する光源。
【請求項7】
前記第1のビーム・ディスプレイサと前記第2のビーム・ディスプレイサの間に位置決めされた少なくとも1つの誘電体スペーサ
をさらに含む請求項6に記載の光源。
【請求項8】
前記下方変換結晶は、
周期的分極領域(1116)と、
タイプIIの下方変換結晶(718)と
をさらに含む
請求項6に記載の光源。
【請求項9】
前記第1の導波路と前記第2の導波路は、
低屈折率差導波路および高屈折率差導波路のいずれか一方
を含む
請求項6に記載の光源。
【請求項10】
前記第1の出力ビームの経路または前記第2の出力ビームの経路内に配置された半波長板(1402)を
さらに含む請求項6に記載の光源。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−539524(P2010−539524A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524056(P2010−524056)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/010525
【国際公開番号】WO2009/035585
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】