説明

偏光分離素子およびその製造方法

【課題】偏光分離素子およびその製造方法において、高コントラストであり、大面積であっても製造効率、信頼性が良好となるようにする。
【解決手段】入射光を偏光方向に応じて透過もしくは反射することにより偏光成分を分離する偏光フィルム10が、一方向に延びる微細な凹凸形状からなるグリッド部1bを有する透光性基材1と、グリッド部1bの凸面上に、入射光の入射側で入射光に対して相対的な高反射率となり、入射光の透過方向に向けて、蒸着材料の組織が漸次的に変化することにより、相対的な低反射率となるように形成された蒸着層2とを備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーグリッド方式の偏光分離素子およびその製造方法に関する。例えば、携帯電話、PDA、ノートPC、PCモニター、液晶テレビなどの機器の液晶表示部に好適に用いることができる偏光分離素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、PDA、ノートPC、PCモニター、液晶テレビなどの機器に用いられる液晶表示部は、液晶を偏光分離素子である偏光フィルムで挟持して、背後からバックライト光を照射する構成が一般的である。
従来、この偏光フィルムに二色性偏光フィルムを用いることが多いが、二色性偏光フィルムは、透過軸と直交方向の偏光を吸収してしまうため、理論的に光の利用効率が50%を超えることができないという問題があった。
そのため、吸収される偏光成分を反射してバックライト側に戻して再利用することにより光の利用効率を向上することができる反射型の偏光分離素子が注目されている。このような反射型偏光分離素子として、例えば、入射光の波長よりも小さな格子ピッチで形成されたワイヤーグリッドにより格子に直交する偏光成分を透過し、格子と平行な偏光成分を反射することでワイヤーグリッド方式の偏光分離素子が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、光透過性の基板の表面に回折格子を構成する凹凸パターンが設けられ、その凸部の少なくとも2面以上の面が金属あるいは金属化合物よりなる材料膜で被覆された偏光分離素子およびその製造方法が記載されている。
また、特許文献2には、ガラス基板上に所定方向に延びる複数のストライプ部分を有する第1グレーティング層と第2グレーティング層とが、それぞれ光の波長より短いピッチで設けられ、第1グレーティング層が反射性を示す第1材料からなり、第2グレーティング層が第1グレーティング層による光の反射を抑制する第2材料から形成されている偏光光学素子が記載されている。
【特許文献1】特開2006−3447号公報(図1、2)
【特許文献2】特開2005−37900号公報(図1−4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来の偏光分離素子およびその製造方法には、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、光透過性の基板をインプリント法によるプラスチックフィルムで形成し、ワイヤーグリッドに相当する反射部を基板に形成された凸部に金属あるいは金属化合物を蒸着して形成するので、薄型フィルム状の偏光分離素子を比較的容易に製造することができるものの、偏光成分を反射して入射側に戻す反射部が、光が透過していく外部側からの光を外部側に反射してしまうため、この反射光のために低コントラストとなってしまうという問題がある。このため、高コントラストが求められる液晶表示部に適用することができないという問題がある。
一方、特許文献2に記載の技術では、偏光成分を反射するグレーティング層を反射性の第1材料と反射を抑制する第2材料とを重ねて設けることで、光が透過していく外部側での外光の反射を抑制することができるものの、これらグレーティング層は、フォトリソグラフおよびエッチング技術を用いて形成するため、あまり大型の素子を製作することができず、製作できたとしても製造コストが高価なものとなってしまうという問題がある。そのため、大型化、低コスト化の要求が強い液晶表示部の偏光分離素子には適用できないという問題がある。
特許文献1の技術において、反射部の上面に反射を抑制する層膜を蒸着して、特許文献2の偏光光学素子の構成を実現することも考えられるが、通常の蒸着加工と異なり、偏光分離作用を有するワイヤーグリッドの格子ピッチは、光の波長以下の微細なものであるため、異種材料の蒸着層の境界面の強度が十分に確保できないという問題があった。そのため、製造不良を起こしやすく、また製品の信頼性も低くなってしまうという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、高コントラストであり、大面積であっても製造効率、信頼性が良好となる偏光分離素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の偏光分離素子は、入射光を偏光方向に応じて透過もしくは反射することにより偏光成分を分離する偏光分離素子であって、一方向に延びる微細な凹凸形状からなるグリッド部を有する光透過性のベース部材と、前記グリッド部の凸面上に、前記入射光の入射側で前記入射光に対して相対的な高反射率となり、前記入射光の透過方向に向けて、蒸着材料の材質、組成および組織の少なくともいずれかが漸次的に変化することにより、相対的な低反射率となるように形成された蒸着層とを備える構成とする。
この発明によれば、グリッド部の凸面上に、入射光の入射側で、入射光に対して相対的な高反射率となり、入射光の透過方向側で相対的な低反射率となる蒸着層を備えるので、入射光は、偏光成分に応じて透過し、高反射率部分で偏光成分に応じて反射され、反射光が再利用される。また、入射光が透過していく方向から来る光は、蒸着層の低反射部分で吸収され、入射光の透過方向への反射が抑制される。そのため、入射光の透過方向におけるコントラストが向上する。
また、蒸着層は、このような反射率変化が、蒸着材料の組成および組織の少なくともいずれかが漸次的に変化するように形成されるので、異なる条件で形成された高反射率層と低反射率層とが1つの境界面で接合された場合に比べて、高強度が得られる。
ここで、漸次的に変化するとは、漸次変化する場合と、漸次変化する層を含む場合と、中間の反射率特性を有する少なくとも1層以上の層を介することで3層以上にわたって多段階的に変化する場合とを含むものとする。
【0006】
また、本発明の偏光分離素子の製造方法は、入射光を偏光方向に応じて透過もしくは反射することにより偏光成分を分離する偏光分離素子の製造方法であって、一方向に延びる微細な凹凸形状からなるグリッド部が形成された光透過性のベース部材の前記グリッド部の凸面上に、前記入射光の入射側で前記入射光に対して相対的な高反射率となり、前記入射光の透過方向に向けて、蒸着材料の材質、組成および組織の少なくともいずれかを漸次変化させることにより、相対的な低反射率となる蒸着層を形成する蒸着工程を備える方法とする。
この発明によれば、本発明の偏光分離素子を製造する方法となっているので、本発明の偏光分離素子と同様の作用効果を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の偏光分離素子およびその製造方法によれば、グリッド部上に、蒸着材料の組成および組織の少なくともいずれかが漸次変化させて、入射光の入射側で入射光に対して相対的な高反射率となり、入射光の透過方向に向けて相対的な低反射率となる蒸着層を備えるので高コントラストであり、蒸着層が高強度に形成できるため大面積であっても製造効率、信頼性が良好となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下では、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0009】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る偏光分離素子について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る偏光分離素子の模式的な斜視外観図である。図2は、図1のA−A断面図である。なお、図1、2は、模式図であり、簡単のため形状や寸法関係は誇張されている(以下、他の図面も同様である)。
【0010】
本実施形態の偏光フィルム10は、入射光を偏光方向に応じて透過もしくは反射することにより偏光成分を分離するもので、入射光の波長よりも狭いピッチを有する回折格子により構成されたワイヤーグリッド偏光子(Wire Grid Polarizer、以下、WGPと略称する)である。
偏光フィルム10は、図1、2に示すように、表面に微細な凹凸形状を有するフィルム状の透光性基材1と、透光性基材1の凸部の先端側に形成された蒸着層2とからなる。
透光性基材1は、フィルム状のベース部1a上に、幅Wを有する凸部である複数のグリッド部1bが格子ピッチPで平行に形成されてなる。ここで、格子ピッチPは、入射光の波長よりも狭いような微細な間隔とされる。
例えば、液晶表示部に用いる場合、可視光の範囲で偏光分離特性を備えていればよい。その場合、格子ピッチPは可視光波長の半分以下が好ましい。例えば、200nm以下、より好ましくは150nm以下とするのがよい。可視光波長の1/5以下であれば、さらに望ましい。
また格子ピッチPとグリッド部1bの幅Wの比率はW/P=0.5を中心に、求める効果により±0.3以内の範囲で適宜調整するのがよい。例えば、0.5より小さいと、偏光度が若干低下するかわりに、透過率が上昇するといったことなどを考慮して適宜設定する。すなわち、グリッド部1bの幅Wと格子ピッチPとの関係は次式を満足することが好ましい。
0.2≦W/P≦0.8 ・・・(A)
透光性基材1の材質は、光透過性を有する適宜の合成樹脂材料を採用することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、メタクリル樹脂(PMMA)などの材質を採用することができる。
また、透光性基材1の表面は必ずしも平坦である必要はなく、光の透過を過剰に妨げる形状でなければ特に制限されるものではない。
【0011】
蒸着層2は、本実施形態では、蒸着の下層から上層に向けて、反射率が漸次、高反射率から低反射率に変化するように形成されている。そのため、グリッド部1bの凸部先端面(以下、凸面と称する)の近傍には、高反射率要素2aが形成され、蒸着層2の最上面側には、低反射率要素2bが形成され、それらの中間部では中間の反射率となるような蒸着膜構成を有するグラデーション層2cが形成されている。ここで、高反射率要素2a、低反射率要素2bは、巨視的または幾何光学的には、光の反射、吸収を起こす反射面と言ってもよいが、微視的には、それぞれ、反射、吸収機能が発揮される層厚範囲に形成された層状部分を指す。
ここでの低反射率は、ある程度、光透過性があってもよいが、蒸着層2内に透過した光が、再び低反射率要素2b側から出射されないようにするために光吸収性を備えることが必須である。そのため、光透過性の保護膜コートなどが形成されていてもよいが、その部分は低反射率要素2bには含めないものとする。
これらの反射率変化は、蒸着材料の材質、組成および組織の少なくともいずれかを漸次変化させて形成することができるが、本実施形態では、蒸着材料としてアルミ(Al)を採用し、蒸着角度を変えてその組織を稠密な状態からポーラスな状態に変化させることで実現している。アルミは、このような反射率変化が顕著であるが、可視光波長域において所望の反射率が得られる場合には、他の金属材料、例えば銀(Ag)などを採用してもよい。
【0012】
グラデーション層2cの蒸着膜構成の変化のさせ方は、高反射率要素2a側、低反射率要素2b側の反射率がそれぞれ良好な値となれば、特に限定されず、材質、組成、組織が蒸着層2の強度に及ぼす影響を考慮して、適宜設定することができる。
例えば、単調に変化させてもよいし、高反射率要素2a、低反射率要素2bがそれぞれ反射、吸収機能を発揮する最低限の層厚よりも厚い層厚で形成され、その中間で蒸着膜構成が滑らかに変化する3層構造としてもよい。また、層の境界面で強度が急峻に変化しないようにすれば、階段状の変化を示す多層構造としてもよい。
【0013】
高反射率要素2aの反射率は、偏光フィルム10の光利用効率を向上するためにできるかぎり高いことが好ましく、低反射率要素2bの反射率は、偏光フィルム10のコントラストを向上するためにできるだけ低いことが好ましい。例えば、40%を超えない反射率とすることが好ましく、30%を超えないことがより好ましい。
【0014】
このような偏光フィルム10によれば、透光性基材1のグリッド部1bの裏面側の表面から光を入射することにより、略一方向の偏光成分のみを透過させ、それ以外の偏光成分を入射側に戻すことができる。
例えば、図2の図示下方側にバックライト装置などの光源が設けられ図示上方に光が照射される場合、電界の振動方向が偏光フィルム10の格子方向(図2の紙面垂直方向)に直交するTM波であるTM波成分3Mは、グリッド部1bを通して、図示上方に透過する。
一方、電界の振動方向が格子方向に平行なTE波であるTE波成分3Eは、透過することができず、高反射率要素2aにより反射され、反射光3Rとして光源側に戻り、適宜装置内部での反射を繰り返して偏光フィルム10に再入射する。このようにして反射光3Rが再利用されるため光利用効率が向上する。
【0015】
また、図2の上方からの光は、TM波成分4Mが透過し、透過できないTE波成分4Eが低反射率要素2bで反射される。低反射率要素2bは、低反射率に設定されているので、一部が吸収されて減衰した光が図示上方に反射される。
したがって、蒸着層2側では、TM波成分3Mを良好なコントラストで観察することができる。TM波成分4M、TE波成分4Eは、偏光フィルム10が液晶表示部に用いられる場合、外光に相当する。
【0016】
次に、このような偏光フィルム10の製造方法および製造装置について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る偏光分離素子の製造装置の主要部を示す概略構成図である。図4は、図3のa部の部分拡大図である。図5は、図3のb部の部分拡大図である。図6は、図3のc部の部分拡大図である。図7は、本発明の第1の実施形態に係る偏光分離素子の製造方法に採用した蒸着角度と反射率との関係について示すグラフである。横軸は蒸着角度(°)を示し、縦軸は波長550nmにおける反射率(%)を示す。
【0017】
図3に示す偏光フィルム製造装置100は、本実施形態の偏光フィルム10の製造を行うためのものであり、主要部として、冷却ドラム5、ガイドローラ6、7、蒸着源9、および蒸着マスク8を備え、これらが真空槽に収容されたものである。
冷却ドラム5は、透光性基材1の温度が安定するように一定の冷却を行いつつ、透光性基材1を円周方向に搬送する搬送機構を構成するもので、不図示のモータにより図示時計回りに一定速度で回転駆動される。冷却ドラム5の回転軸は、図3の紙面垂直方向に沿って設けられている。
ガイドローラ6は、冷却ドラム5に透光性基材1を巻き付ける位置で、透光性基材1の搬送をガイドするローラ部材である。
透光性基材1は、図4に示すように、グリッド部1bにより形成される凹凸形状が冷却ドラム5の回転軸方向と同方向に配置されるとともに、グリッド部1bの裏面側のベース部1aが、冷却ドラム5に巻き付られた状態で搬送される。
ガイドローラ7は、冷却ドラム5の回転とともに回転し、蒸着層2が形成された透光性基材1を冷却ドラム5から離脱させる位置において透光性基材1の搬送をガイドするローラ部材である。
【0018】
蒸着源9は、蒸着材料を加熱して蒸着成分11を放射するもので、本実施形態では、冷却ドラム5の下方の搬送路中間部に対向して配置されている。そのため、蒸着成分11は、上方に拡散するにつれ放射状に拡がるようになっている。蒸着成分11の放射中心軸は、本実施形態では、図示上下方向に略一致している。
【0019】
蒸着マスク8は、蒸着源9と冷却ドラム5との間で、冷却ドラム5を覆うように設けられている。そして、蒸着成分11の透過位置を規制するために、一定幅で紙面奥行き方向に延ばされた開口8a、8bが搬送方向上流側から順次設けられている。
【0020】
開口8aは、蒸着成分11の放射中心軸に対して搬送方向上流側よりに設けることで、図5に示すように、冷却ドラム5上を搬送される透光性基材1の法線に対する蒸着角度が、搬送方向下流側に傾斜し、その大きさが搬送方向上流側のθ1から搬送方向上流側のθ2(ただし、θ1>θ2)まで変化するようになっている。
ここで、θ1、θ2は、次式を満足することが好ましい。
40°≦θ1≦70° ・・・(1)
20°≦θ2≦50° ・・・(2)
【0021】
開口8bは、蒸着成分11の放射中心軸に対して搬送方向下流側よりに設けることで、図6に示すように、冷却ドラム5上を搬送される透光性基材1の法線に対する蒸着角度が、搬送方向上流側に傾斜し、その大きさが搬送方向上流側のθ3から搬送方向上流側のθ4(ただし、θ3<θ4)まで変化するようになっている。
ここで、θ3、θ4は、次式を満足することが好ましい。
60°≦θ3<90° ・・・(3)
60°≦θ4<90° ・・・(4)
【0022】
次に、偏光フィルム製造装置100を用いた偏光フィルム10の製造方法について説明する。
透光性基材1は、適宜の方法により製造することができるが、例えば、インプリント法で製造することが好ましい。インプリント法は、例えば電子線描画とエッチングとの組み合わせにより、微細構造を有する金型を形成し、その金型形状をプラスチックフィルムなどの転写する工法である。そのため、フィルムをパターニングして、フォトリソグラフおよびエッチング技術を用いて凹凸形状を形成する場合に比べて、大型化、低コスト化が可能である。
【0023】
ガイドローラ6でガイドされた透光性基材1は、グリッド部1bを冷却ドラム5の径方向外側に向けて冷却ドラム5に巻き付けられ、冷却ドラム5の円周方向に搬送される。
透光性基材1が、開口8aを通して、蒸着成分11が放射される領域(図5の点V1)に到達すると、蒸着層2の下層を形成する第1の蒸着サブ工程が開始される。
すなわち、開口8aから角度θ1で入射する蒸着成分11により、グリッド部1bの凸面が蒸着され、搬送が進むにつれて、蒸着角度がθ2まで連続的に変化しつつ蒸着が進行される。そして透光性基材1が、蒸着成分11がマスクされる位置(図5の点V2)まで移動すると第1の蒸着サブ工程が終了する。
【0024】
そして、透光性基材1が、開口8bを通して、蒸着成分11が放射される領域(図6の点V3)に到達すると、蒸着層2の上層を形成する第2の蒸着サブ工程が開始される。
すなわち、開口8bから角度θ3で入射する蒸着成分11により、第1の蒸着サブ工程で形成された蒸着層2の下層の上面が蒸着され、搬送が進むにつれて、蒸着角度がθ4まで連続的に変化しつつ蒸着が進行する。そして透光性基材1が、蒸着成分11がマスクされる位置(図6の点V4)まで移動すると第2の蒸着サブ工程が終了する
以上で蒸着工程が終了し、蒸着層2が形成された透光性基材1は、ガイドローラ7によって、装置外部に向けて搬送される。
【0025】
本実施形態では、蒸着材料として金属あるいは金属化合物を用いる場合、反射率が蒸着角度に依存することに着眼し、蒸着角度を変えることで、蒸着層2の反射率を変化させている。
図7に示す実験例は、透光性基材1と同材質のプラスチックフィルムに、蒸着角度を振ってアルミ蒸着膜を形成し、反射率を測定した結果である。反射率は、直線200で精度よく近似される変化を示すことが分かる。すなわち、反射率は、蒸着面の法線方向(蒸着角度0°)で最大となり、法線に対する傾きに比例して減少している。
これは、蒸着角度が小さい状態では薄膜が稠密かつ均一な状態で形成されるが、蒸着角度が大きい状態では、薄膜がポーラスな状態に形成され、薄膜の微細な組織構造が変化するためである。実際、蒸着角度が大きいサンプルは、アルミを用いても黒味がかっており、光沢も低下した状態となる。
【0026】
このため、第1蒸着サブ工程によりグリッド部1bの凸面側に高反射率要素2aが形成され、その上層側に反射率が漸次低下するグラデーション層2cの一部が形成される。そして、第2蒸着サブ工程により漸次反射率が低下するグラデーション層2cの一部が形成され、最上層部に低反射率要素2bが形成される。
このように、本実施形態の蒸着源9と蒸着マスク8との位置関係によれば、開口8aは高反射率蒸着部を構成し、開口8bは低反射率蒸着部を構成している。
【0027】
ここで、θ2=θ3とすれば、グラデーション層2cは、反射率が漸次変化する構成が得られる。
また、θ2<θ3とすれば、高反射率要素2a、低反射率要素2bの反射率差に比べて小さい反射率差を有する不連続面を含んで漸次的に変化する構成が得られる。
この場合、不連続面は、材質としては連続しており、またその組織の違いも高反射率要素2a、低反射率要素2bの組織を直接接合した場合に比べて小さくなるので、脆化を引き起こすことなく、層間の密着性も良好となり、製造も容易である。
【0028】
このように、本実施形態は、蒸着工程が、蒸着層の層高さに応じて蒸着角度を変化させて蒸着を行う工程になっている。そのため、蒸着層を略同一の蒸着材料から構成して反射率が漸次的に変化する蒸着層を形成することができる。
また、本実施形態では、蒸着工程が、蒸着角度範囲がそれぞれ異なる複数の蒸着サブ工程に分割されている。そのため、1つの連続する蒸着工程で、反射率を漸次変化させる場合に比べて、より大きな反射率変化する蒸着層をより容易に形成することができる。
また、本実施形態は、蒸着層が、略同一の蒸着材料から構成されているため、第1蒸着サブ工程と第2蒸着サブ工程とに分けて蒸着層が形成されても、境界面でのなじみがよくなり、蒸着角度が不連続的に変化しても異材質により不連続面が形成される場合に比べて高強度が得られる。そのため、グリッドの倒れなどの製造不良を低減するとともに信頼性の高いWGPを形成することができる。
なお、各蒸着サブ工程の蒸着角度範囲は、必要に応じて共通の角度範囲を含んでいてもよい。
【0029】
ここで、蒸着角度がグリッド形状に及ぼす影響について説明する。
本実施形態のように、光の波長以下のピッチで微細な凹凸形状を形成するグリッド部1bの凸面に蒸着を行う場合、蒸着角度に応じて蒸着層の形状が変化するため適切なグリッド形状が形成できなくなる場合がある。
蒸着角度が小さすぎると、隣接するグリッド部1b上の蒸着層が連結してしまい、入射光が透過する凹部がふさがれてしまう。蒸着角度が大きすぎると、蒸着膜に偏りが生じ、斜めに傾いたグリッドが形成されてしまう。
そのため、蒸着角度は、グリッド形状との関係で必要に応じて適切な範囲に設定する必要がある。
表1に、透光性基材1に対して、蒸着角度固定して同一の層厚の蒸着を行い、その反射率とグリッド形状とを観察した結果を示す。グリッド形状の評価は、良好を○、可を△、不可を×とし、具体的な観察結果を現象欄に記載した。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果によれば、グリッド形状が形成可能な蒸着角度範囲は、30°から60°であり、図7を参照すれば、約67%から約40%の反射率に対応する。この結果は、層厚方向に蒸着角度を一定にした場合の結果である。
蒸着角度が変化する場合、蒸着材料が蒸着面全体を隙間なく覆って反射面を形成するためには、蒸着条件に応じて薄膜形成時間が必要となる。したがって、薄膜形成時間の初期または最後の段階での蒸着角度は、薄膜の特性にあまり寄与しないことになる。
そのため、本実施形態のように蒸着角度を変化させる場合には、グリッド形状が形成可能な蒸着角度範囲は、20°から70°程度である。
また、70°を超えたときのグリッド形状の問題は蒸着膜の偏りによる傾斜であるが、これは蒸着膜の厚さが薄い場合には問題とならない。本実施形態では、グリッドの傾きが生じない範囲で第1蒸着サブ工程を行ってから、蒸着角度の大きい第2蒸着サブ工程を行うため、蒸着角度が大きい範囲での層高さが低くなり、図7の実験結果より広い角度範囲でも良好な結果を得ることが可能である。例えば、後述する実施例に示すように、θ4=90°の設定でも良好なグリッド形状が得られる。
したがって、各蒸着サブ工程の蒸着角度の上下限値としては、上記式(1)〜(4)の値を採用することができる。
【0032】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
図8は、本発明の第1実施形態に係る偏光分離素子の変形例を示す模式的な断面図である。
本変形例の偏光フィルム20は、図8に示すように、上記第1の実施形態の偏光フィルム10の蒸着層2が、上下反転した位置関係でグリッド部1bの凸面に形成されたものである。
そのため、蒸着層2が形成された側から光を入射すると、そのTM波成分3Mが透過されTE波成分3Eが高反射率要素2aにより反射光3Rとして反射されようなWGPが構成されている。したがって、蒸着層2側にバックライト装置などの光源を配置することで、液晶表示部に用いることができる。偏光分離特性に関しては、偏光フィルム10と同等の作用効果を有する。蒸着層2を外側に配置したくない場合には、偏光フィルム20の構成が好都合となる。
ただし、このようにWGPの外側に透光性基材1が配置される場合、透光性基材1の材質としては、複屈折性が小さく、延伸等の加工を加えても偏光を乱さない性質のものを選択し、WGPの機能により整えられた偏光を再び乱さないようにすることが好ましい。
【0033】
偏光フィルム20は、偏光フィルム製造装置100において、上記第1の実施形態の第1蒸着サブ工程と第2蒸着サブ工程との蒸着角度の条件を逆転することで容易に製造することができる。例えば、蒸着マスク8の配置を調整することにより、本変形例におけるθ1、θ2、θ3、θ4が、それぞれ上記第1の実施形態で採用した、θ4、θ3、θ2、θ1の値をとるような配置とすればよい。
これは、図3において、冷却ドラム5における透光性基材1の搬送方向を反時計回りに変えても実現できるし、蒸着マスク8の配置位置を図示左右で反転して配置しても実現することができる。
このようにして形成される蒸着層2の高反射率要素2a、低反射率要素2b、グラデーション層2cは、透光性基材1に対する上下の位置関係が異なるだけなので、上記第1の実施形態の説明と同様な作用効果を有する。
【0034】
また、このような変形例の製造方法に特有の作用効果として、蒸着層2の上層(図8の下側)を形成する際の蒸着角度が偏光フィルム10を形成する場合に比べて小さくなるため、蒸着層2の上層側でのグリッド形状の傾きが発生しにくくなることが挙げられる。
【0035】
このように、本実施形態および変形例では、蒸着工程が、一方向に延びる微細な凹凸形状からなるグリッド部を有する光透過性のベース部材を、グリッド部の裏面側で保持して一方向と直交する方向に連続的に搬送しつつ蒸着を行う工程からなり、ベース部材に対向して配置された少なくとも1つの蒸着源と、その少なくとも1つの蒸着源とベース部材との間に配置され、ベース部材の搬送方向に沿って蒸着源ごとに少なくとも1つの開口を有する蒸着角度規制部材とによって、ベース部材の法線に対する蒸着角度が、ベース部材の搬送方向に沿って相対的に小さい角度から相対的に大きい角度、または相対的に大きい角度から相対的に小さい角度になるようにし、蒸着工程を行う偏光分離素子の製造方法であって、1つの蒸着源とその1つの蒸着源に対応して2つの開口を有する蒸着角度規制部材によって、蒸着角度が、相対的に小さい角度からなる高反射率蒸着部と、相対的に大きい角度からなる低反射率蒸着部とを形成し、高反射率蒸着部および低反射率蒸着部を、反射率の高低の順、または低高の順に沿って前記ベース部材の搬送経路上に配列することにより、蒸着工程を、ベース部材の搬送方向に沿う順に、高反射率から低反射率に向かう蒸着を行う複数工程、または低反射率から高反射率に向かう蒸着を行う複数工程として行うようにした方法となっている。
このため、本発明の偏光分離素子をベース部材の搬送方向に沿って連続的に形成することができる製造方法となっている。
ここで、「蒸着源ごとに」開口を有するとは、蒸着源のそれぞれに対応して蒸着材料を透過するように開口が形成もしくは配置されたことを意味し、必要に応じて、1つの開口が複数の蒸着源に対応する開口を兼用してもよい。
【0036】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る偏光分離素子について説明する。
本実施形態の偏光フィルム30は、図2に示すように、上記第1の実施形態の偏光フィルム10の蒸着層2の高反射率要素2a、低反射率要素2b、グラデーション層2cに代えて、それぞれ高反射率要素2A、低反射率要素2B、グラデーション層2Cを備えたものである。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0037】
本実施形態では、蒸着層2内の漸次的な反射率変化を、蒸着材料の材質または組成を変えることで実現している。
高反射率要素2Aの蒸着材料の材質は、可視光波長域において必要な高反射率が得られる金属材料、例えばアルミや銀などを採用することができる。
低反射率要素2Bの蒸着材料の材質は、高反射率要素2Aに比べて低反射率が得られる材質または光吸収性を有する材質を用いる。例えば、高反射率要素2Aの材質に比べて低反射率の金属、金属酸化物や、カーボン、あるいはそれらの混合物などを採用することができる。
グラデーション層2Cは、高反射率要素2Aと低反射率要素2Bとの蒸着材料が混合された層で形成される。そのため、グラデーション層2Cは、高反射率要素2Aの反射率と低反射率要素2Bの反射率との間の反射率を有する構成とされる。
【0038】
一般に異なる材質を積層すると、層間の密着性が悪化するため、強度面での脆化、作製面での難易度が上がるなどの問題が発生するが、本実施形態によれば、高反射率要素2Aと低反射率要素2Bとの間に、それぞれの材質の含有比率が漸次的に変化するグラデーション層2Cを設けているので、層間の密着性の悪化を防ぐことができる。
【0039】
このように本実施形態は、蒸着層が、上層部および下層部がそれぞれ異なる材質または組成を有する蒸着材料からなり、前記上層部および前記下層部の間の中間部に、前記異なる材質または組成の蒸着材料が混合された中間層部が形成された場合の例になっている。
この場合、上層部と下層部とを形成する蒸着材料の異なる材質または組成であっても、これらの蒸着材料が混合された中間層部が備えるため、材質が異なる不連続面が形成されない。そのため、上層部と下層部とが材質または組成の不連続面を有する場合に比べて高強度が得られる。その結果、グリッドの倒れなどの製造不良を低減するとともに信頼性の高いWGPを形成することができる。
【0040】
次に、このような偏光フィルム30の製造方法および製造装置について説明する。
図9は、本発明の第2の実施形態に係る偏光分離素子の製造装置の主要部を示す概略構成図である。
【0041】
図9に示す偏光フィルム製造装置110は、本実施形態の偏光フィルム20の製造を行うためのものであり、その主要部が、上記第1の実施形態の偏光フィルム製造装置100の蒸着源9に代えて、高反射材料蒸着源15、低反射材料蒸着源16を備え、同じく蒸着マスク8に代えて、蒸着マスク12とマスク板14とを備えるものである。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0042】
高反射材料蒸着源15、低反射材料蒸着源16は、それぞれ高反射率要素2A、低反射率要素2Bを形成する蒸着材料を加熱して、それぞれに対応する蒸着成分17、18を放射するもので、冷却ドラム5の下方側で、それぞれ搬送方向上流側、下流側の位置に対向して配置されている。そのため、蒸着成分17は、搬送方向上流側で、図示左斜め上方向に拡散するにつれ放射状に拡がるようになっている。また、蒸着成分18は、搬送方向下流側で、図示右斜め上方向に拡散するにつれ放射状に拡がるようになっている。それぞれの位置は必ずしも左右対称である必要はないが、本実施形態では、略対称な位置に配置されている。
【0043】
蒸着マスク12は、高反射材料蒸着源15、低反射材料蒸着源16と冷却ドラム5との間で、冷却ドラム5を覆うように設けられ、蒸着成分17、18の透過位置を規制するために、一定幅で紙面奥行き方向に延ばされた開口12a、12b、12cが搬送方向上流側から順次設けられている。
開口12aは、蒸着成分17の放射中心軸に対して搬送方向上流側に位置し、開口12cは、蒸着成分18の放射中心軸に対して搬送方向下流側に位置している。また、開口12bは、蒸着成分17の放射中心軸の搬送方向下流側かつ蒸着成分18の放射中心軸の搬送方向上流側の位置に設けられている。
マスク板14は、開口12bを中間部で図示左右方向に分割し、搬送方向上流側の上流側開口12Aと、搬送方向下流側の下流側開口12Bとを形成するために立てられた平板である。すなわち、開口12bの開口端部を上流側から、エッジS1、S3とし、マスク板14の冷却ドラム5側の端部をエッジS2とすると、上流側開口12Aは、エッジS1、S2によって形成される開口であり、下流側開口12Bは、エッジS2、S3によって形成される開口である。
また、マスク板13、13は、それぞれ開口12a、開口12cの外側に拡散する蒸着成分17、18をマスクして拡散を抑制するための部材である。
【0044】
本実施形態の偏光分離素子の製造方法は、蒸着源をベース材料の搬送方向に沿って複数設け、蒸着角度規制部材の開口を、蒸着源のうち互いに隣接する蒸着源の間で、その蒸着源の各蒸着材料が混合されるように設けることにより、複数工程の中間部の工程が、互いに隣接する蒸着源の蒸着材料を混合して蒸着する工程を含むようにした方法となっている。
そのため、隣り合う蒸着源が混合した中間層部を形成することが容易となる。
【0045】
偏光フィルム製造装置110では、蒸着工程を、開口12a、12b、12cに対応する位置で、それぞれ第1蒸着サブ工程、第2蒸着サブ工程、第3蒸着サブ工程に分けて行うことができる。
まず、本実施形態の第1蒸着サブ工程では、開口12aを蒸着成分17が透過する範囲で、上記第1の実施形態の第1蒸着サブ工程に相当する蒸着が行われ、高反射材料により高反射率要素2Aが形成される。
【0046】
次に、本実施形態の第2蒸着サブ工程は、上流側開口12Aを通して蒸着成分17が、下流側開口12Bを通して蒸着成分18が、それぞれ同時に放射されるため、蒸着成分17と蒸着成分18とが混合した状態で蒸着が進行し、グラデーション層2Cが形成される。
その際、それぞれの蒸着角度や開口幅によって、蒸着成分の到達位置や到達量が変わるため、上流側開口12A、下流側開口12Bの開口幅や位置を調整することにより、蒸着成分17と蒸着成分18とが混合する割合を搬送方向に沿って適宜設定することができる。この設定により、グラデーション層2Cの漸次的な組成の変化の割合を制御することができる。
この組成変化は、グラデーション層2Cに強度に影響する組成の不連続面が形成されないようにすれば、適宜設定することができるが、上流側から下流側に向かって、蒸着成分17が減衰し、蒸着成分18が増大するように漸次的に変化することが好ましい。
【0047】
続いて、本実施形態の第3蒸着サブ工程では、開口12cを蒸着成分18が透過する範囲で、上記第1の実施形態の第2蒸着サブ工程に相当する蒸着が行われ、蒸着成分18が優勢な第2蒸着サブ工程の蒸着層の上層に、低反射材料である蒸着成分18により低反射率要素2Bが形成される。
ここで、低反射材料が、アルミなどのように、蒸着角度に応じて反射率が顕著に変化する場合、第1の実施形態の第2蒸着サブ工程と同様に反射率が漸次低反射率となる低反射率要素2Bが形成される。材質そのものが、低反射率であり、蒸着角度による反射率の依存性が少ない場合には、反射率が略一定の低反射率要素2Bが形成される。
以上、第1〜3蒸着サブ工程により、偏光フィルム30が製造される。
【0048】
本実施形態では、反射率の漸次的な変化を、材質とその組成を変えることで実現しているが、蒸着角度により反射率の変化を起こしやすい材質では、第1の実施形態と同様に、蒸着角度範囲を調整する必要がある。そのため、開口12aおよび下流側開口12Bにおける蒸着角度は、上記第1の実施形態の開口8aにおける蒸着角度と同等とすることが好ましく、開口12cおよび上流側開口12Aにおける蒸着角度は、上記第1の実施形態の開口8aにおける蒸着角度と同等とすることが好ましい。
各開口と蒸着角度との好ましい関係を示すために、図5、6に、対応する符号を記載した。ただし、図面の簡略化のため、蒸着マスク12、マスク板13の図示は省略している。
【0049】
次に本実施形態の変形例について説明する。
本変形例の偏光フィルム40は、図8に示すように、上記第2の実施形態の偏光フィルム30の蒸着層2が、上下反転した位置関係でグリッド部1bの凸面に形成されたものである。すなわち、上記第1の実施形態の変形例の偏光フィルム20の蒸着層2の高反射率要素2a、低反射率要素2b、グラデーション層2cを、上記第2の実施形態の蒸着層2の高反射率要素2A、低反射率要素2B、グラデーション層2Cに置き換えたものである。
したがって、上記第2の実施形態の作用効果を有し、外部側に対して、グリッド部1bの裏面側のベース部1aを向けた形態のWGPが得られる。
【0050】
偏光フィルム40の製造方法は、偏光フィルム製造装置110において、図9で冷却ドラム5における透光性基材1の搬送方向を反時計回りに変えた状態を実現するか、あるいは、高反射材料蒸着源15、低反射材料蒸着源16、蒸着マスク12、マスク板14の配置位置をそれぞれ図示左右で反転する位置関係とすることで容易に実現できる。また、単に図9で高反射材料蒸着源15と低反射材料蒸着源16とを入れ替えるだけでもよい。
【0051】
なお、上記の第1の実施形態の説明では、1つの蒸着源に対応して2つの開口が設けられ、1つの蒸着源で2つの蒸着工程を行う場合の例で説明したが、本発明は、蒸着角度規制部材によって蒸着角度が変化させることで、反射率が漸次的に変化する構成の蒸着層を形成することができるようにしたものであり、1つの蒸着源に対する開口の数は2つに限定されるものではない。例えば、必要となる反射率の大きさによっては、1つの蒸着源と1つの開口と、またはそれらを複数組み合わせた構成により蒸着層を形成してもよい。
すなわち、蒸着工程が、一方向に延びる微細な凹凸形状からなるグリッド部を有する光透過性のベース部材を、グリッド部の裏面側で保持して一方向と直交する方向に連続的に搬送しつつ蒸着を行う工程からなり、ベース部材に対向して配置された少なくとも1つの蒸着源と、その少なくとも1つの蒸着源とベース部材との間に配置され、ベース部材の搬送方向に沿って蒸着源ごとに少なくとも1つの開口を有する蒸着角度規制部材とによって、ベース部材の法線に対する蒸着角度が、ベース部材の搬送方向に沿って相対的に小さい角度から相対的に大きい角度、または相対的に大きい角度から相対的に小さい角度になるように蒸着工程を行うようにした偏光分離素子の製造方法としてもよい。
この場合、反射率が蒸着角度の変化に応じて漸次変化する蒸着層を形成することができる。
このとき、蒸着角度は、上記に説明したような反射率とグリッド形状との関係から好ましい角度範囲に設定することができる。
【0052】
また、上記の説明では、偏光分離素子を製造するのに、蒸着源の個数が1個または2個用いる場合の例で説明したが、3個以上の蒸着源を用いて、反射率が多層にわたって漸次的に変化する偏光分離素子を製造してもよい。
【0053】
また、上記の第2の実施形態の説明では、マスク板14により、開口12bを上流側開口12Aと下流側開口12Bとに分割する場合の例で説明したが、開口12bで、蒸着成分17、18を必要な割合に混合することができれば、マスク板14を省略して、開口12bが高反射材料蒸着源15、16の開口を兼用するようにしてもよい。
【0054】
また、上記の説明では、透光性基材1を冷却ドラム5上で搬送する場合の例で説明したが、搬送経路は、円周上とは限らず円以外の曲線や、直線、折れ線などに沿う経路を形成し、その搬送経路上に蒸着マスク、蒸着源を設けた構成でもよい。
【0055】
また、上記の説明では、蒸着成分の放射範囲を透光性基材1が移動することにより、蒸着角度が変化するようにした場合の例で説明したが、透光性基材1に対して蒸着マスクや蒸着源の位置を移動したり、蒸着成分の放射方向を変化させたりして、蒸着角度を変化させてもよい。
【0056】
また、上記の各実施形態、各変形例に記載された構成要素は、技術的に可能であれば、本発明の技術的思想の範囲内で適宜組み合わせて実施することができる。
【0057】
ここで、上記各実施形態の用語と特許請求の範囲の用語との対応関係について名称が異なる場合について説明する。
偏光フィルム10、20、30、40は、それぞれ偏光分離素子の一実施形態である。透光性基材1は、ベース部材の一実施形態である。グラデーション層2Cは、中間層部の一実施形態である。蒸着マスク8、12、および蒸着マスク12とマスク板14との組み合わせは、それぞれ蒸着角度規制部材の一実施形態である。冷却ドラム5は、搬送機構の一実施形態である。高反射材料蒸着源15、低反射材料蒸着源16は、それぞれ蒸着源の一実施形態である。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の偏光分離素子およびその製造方法の実施例を比較例とともに説明する。
[実施例1]
透光性基材1としてPETフィルム(フィルム厚:100μm)を用い、本発明の第1の実施形態の偏光分離素子の製造方法によってWGPを作製した。
まず、蒸着前に透光性基材1上にストライプ状のグリッド部1bを、格子ピッチP=150nm、幅W=75nm、高さ150nmで設けた。このグリッド部1bの形状は、以下の実施例2〜4も共通である。
そして、蒸着源9の蒸着材料としてAlを用いて蒸着を行った。図5、6におけるθ1〜θ4をそれぞれ−60°、−30°、60°、90°に設定することによって、図2に示す偏光フィルム10のようなWGPを得た。ここで、角度の符号は、法線から反時計回りの角度を正、時計回りの角度を負とした(以下、同じ)。
すなわち、蒸着初期は高反射率要素2aで始まり、高反射率要素2aから低反射率要素2bへ蒸着角度の変化に応じて漸次的に組織が変わっていくグラデーション層2cを経て、蒸着後期は低反射率要素2bになるような蒸着層2を持つWGPである。蒸着層2の厚さは150nmである。
このWGPを液晶テレビの液晶表示部の下側偏光板として用いてコントラスト比を測定したところ、明室(300Lx)条件下で、コントラスト比は、1000:1であった。
【0059】
[実施例2]
透光性基材1としてPCフィルム(フィルム厚:100μm)を用い、本発明の第1の実施形態の変形例の偏光分離素子の製造方法によってWGPを作製した。
蒸着源9の蒸着材料としてAlを用い、図5、6におけるθ1〜θ4をそれぞれ−90°、−60°、30°、60°に設定することによって、図8に示す偏光フィルム20のようなWGPを得た。
すなわち、蒸着初期は低反射率要素2bで始まり、低反射率要素2bから高反射率要素2aへ蒸着角度の変化に応じて漸次的に組織が変わっていくグラデーション層2cを経て、蒸着後期は高反射率要素2aになるような蒸着層2を持つWGPである。蒸着層2の高さは150nmである。
このWGPを作製した後、上下反転して液晶テレビの液晶表示部の下側偏光板として用いてコントラスト比を測定したところ、明室(300Lx)条件下で、コントラスト比は、1000:1であった。
【0060】
[実施例3]
透光性基材1としてPETフィルム(フィルム厚:100μm)を用い、本発明の第2の実施形態の偏光分離素子の製造方法によってWGPを作製した。
高反射材料蒸着源15、低反射材料蒸着源16の蒸着材料には、それぞれAl、カーボンを用い、高反射材料蒸着源15、低反射材料蒸着源16側ともにθ1〜θ4をそれぞれ−60°、−30°、60°、90°に設定することで、図2に示す偏光フィルム30のようなWGPを得た。
すなわち、蒸着初期はAlからなる高反射率要素2Aで始まり、高反射率要素2Aから低反射率要素2Bへ漸次的に組成比率が変わる状態でAlとカーボンが混在するグラデーション層2Cを経て、蒸着後期はカーボンからなる低反射率要素2Bになるような蒸着層2を持つWGPである。この蒸着層2の高さは150nmである。
このWGPを液晶テレビの液晶表示部の下側偏光板として用いてコントラスト比を測定したところ、明室(300Lx)条件下で、コントラスト比は、1000:1であった。
【0061】
[実施例4]
透光性基材1としてPCフィルム(フィルム厚:100μm)を用い、本発明の第2の実施形態の変形例の偏光分離素子の製造方法によってWGPを作製した。
その際、図9の構成において、高反射材料蒸着源15と低反射材料蒸着源16との位置を入れ替え、入れ替えた高反射材料蒸着源15側ではθ1〜θ4をそれぞれ−60°、−30°、60°、90°に設定し、入れ替えられた低反射材料蒸着源16側ではθ1〜θ4をそれぞれ−60°、−30°、60°、90°に設定して蒸着を行った。高反射材料蒸着源15、低反射材料蒸着源16の蒸着材料は、それぞれAl、カーボンを用いた。
これにより図8に示す偏光フィルム40のようなWGPを得た。
すなわち、蒸着初期はカーボンからなる低反射率要素2Bで始まり、低反射率要素2Bから高反射率要素2Aへ漸次的に組成比率が変わる状態でカーボンとAlが混在するグラデーション層2Cを経て、蒸着後期はAlからなる高反射率要素2Aになるような蒸着層2を持つWGPである。この蒸着層2の高さは150nmである。
このWGPを作製した後、上下反転して液晶テレビの下側偏光板として用いてコントラスト比を測定したところ、明室(300Lx)条件下で、コントラスト比は、1000:1であった。
【0062】
[比較例1]
透光性基材としてPETフィルム(フィルム厚:100μm)を用い、以下のような手順で図10(a)に示すようなWGPを得た。
1.PETフィルム50の表面にAl、カーボンを各100nmずつ蒸着・積層する。
2.上部へレジストを塗布してリソグラフィー、エッチングによってレジストのライン&スペースを形成する。
3.レジストをマスクとして1.のAl、カーボン層をそれぞれエッチングする。
4.蒸着層上部に残ったレジストを剥離する。
以上の工程で作製されたWGPは格子ピッチP=150nmで、格子幅W=75nmである。格子高さの合計は200nmで、Al部51の厚みが100nm、カーボン部52の厚みが100nmである。
このWGPを液晶テレビの液晶表示部の下側偏光板として用いてコントラスト比を測定したところ、明室(300Lx)条件下で、コントラスト比は、1000:1であった。
【0063】
[比較例2]
透光性基材としてPETフィルム(フィルム厚:100μm)を用い、以下のような手順で図10(b)に示したようなWGPを得た。
1.PETフィルム50の表面にAlを150nm蒸着する。
2.上部へレジストを塗布してリソグラフィー、エッチングによってレジストのライン&スペースを形成する。
3.レジストをマスクとして1.のAl層をエッチングする。
4.蒸着層上部に残ったレジストを剥離する。
以上の工程で作製されたWGPのAl層53による格子形状は、格子ピッチP=150nmで、格子幅W=75nmである。格子高さは150nmである。
このWGPを液晶テレビの液晶表示部の下側偏光板として用いてコントラスト比を測定したところ、明室(300Lx)条件下で、コントラスト比は、500:1であった。
【0064】
表2に、以上の実施例1〜4と比較例1、2との評価結果について簡潔にまとめた。
【0065】
【表2】

【0066】
比較例1との比較では、実施例1〜4のWGPはいずれも容易な製造プロセスによって同等のコントラスト性能を示すことが可能であり、蒸着層の高さを低く抑え、かつ高反射率要素と低反射率要素との間にグラデーション層を形成することにより、グリッド強度を保つことが可能であった。
また、比較例2との比較では、実施例1〜4のWGPはいずれも容易な製造プロセスであり、かつ高いコントラスト比を示すことが可能であった。
すなわち、本発明の偏光分離素子の製造方法により、反射型偏光素子としての効果を有しつつ、高コントラスト効果をも併せ持つ、パフォーマンスの高い偏光分離素子を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る偏光分離素子の模式的な斜視外観図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る偏光分離素子の製造装置の主要部を示す概略構成図である。
【図4】図3のa部の部分拡大図である。
【図5】図3のb部の部分拡大図である。
【図6】図3のc部の部分拡大図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る偏光分離素子の製造方法に採用した蒸着角度と反射率との関係について示すグラフである。
【図8】本発明の第1実施形態に係る偏光分離素子の変形例を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る偏光分離素子の製造装置の主要部を示す概略構成図である。
【図10】比較例に係る偏光分離素子の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 透光性基材(ベース部材)
1b グリッド部
2 蒸着層
2a、2A 高反射率要素
2b、2B 低反射率要素
2c グラデーション層
2C グラデーション層(中間層部)
3M TM波成分(入射光)
3E TE波成分(入射光)
5 冷却ドラム(搬送機構)
8、12 蒸着マスク(蒸着角度規制部材)
8a、8b、12a、12b、12c 開口
9 蒸着源
10、20、30、40 偏光フィルム(偏光分離素子)
11、17、18 蒸着成分
12A 上流側開口(開口)
12B 下流側開口(開口)
14 マスク板(蒸着角度規制部材)
15 高反射材料蒸着源(蒸着源)
16 低反射材料蒸着源(蒸着源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を偏光方向に応じて透過もしくは反射することにより偏光成分を分離する偏光分離素子であって、
一方向に延びる微細な凹凸形状からなるグリッド部を有する光透過性のベース部材と、
前記グリッド部の凸面上に、前記入射光の入射側で前記入射光に対して相対的な高反射率となり、前記入射光の透過方向に向けて、蒸着材料の材質、組成および組織の少なくともいずれかが漸次的に変化することにより、相対的な低反射率となるように形成された蒸着層とを備えることを特徴とする偏光分離素子。
【請求項2】
前記蒸着層が、略同一の蒸着材料から構成されたことを特徴とする請求項1に記載の偏光分離素子。
【請求項3】
前記蒸着層が、上層部および下層部がそれぞれ異なる材質または組成を有する蒸着材料からなり、前記上層部および前記下層部の間の中間部に、前記異なる材質または組成の蒸着材料が混合された中間層部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の偏光分離素子。
【請求項4】
入射光を偏光方向に応じて透過もしくは反射することにより偏光成分を分離する偏光分離素子の製造方法であって、
一方向に延びる微細な凹凸形状からなるグリッド部が形成された光透過性のベース部材の前記グリッド部の凸面上に、
前記入射光の入射側で前記入射光に対して相対的な高反射率となり、前記入射光の透過方向に向けて、蒸着材料の材質、組成および組織の少なくともいずれかを漸次変化させることにより、相対的な低反射率となる蒸着層を形成する蒸着工程を備えることを特徴とする偏光分離素子の製造方法。
【請求項5】
前記蒸着工程が、前記蒸着層の層高さに応じて蒸着角度を変化させて蒸着を行う工程であることを特徴とする請求項4に記載の偏光分離素子の製造方法。
【請求項6】
前記蒸着工程が、蒸着角度範囲がそれぞれ異なる複数の蒸着サブ工程に分割されていることを特徴とする請求項5に記載の偏光分離素子の製造方法。
【請求項7】
前記蒸着角度を蒸着面の法線に対する角度で表し、
前記蒸着サブ工程のうち、相対的高反射率の蒸着層部分を形成する工程の蒸着角度θHが、θ2≦|θH|≦θ1(ただし、θ2<θ1)の角度範囲を有し、
前記蒸着サブ工程のうち、相対的低反射率の蒸着層部分を形成する工程の蒸着角度θLが、θ3≦|θL|≦θ4(ただし、θ3<θ4)の角度範囲を有するとき、
θ1、θ2、θ3、θ4が、次式を満足することを特徴とする請求項6に記載の偏光分離素子の製造方法。
40°≦θ1≦70° ・・・(1)
20°≦θ2≦50° ・・・(2)
60°≦θ3<90° ・・・(3)
60°≦θ4<90° ・・・(4)
【請求項8】
前記蒸着工程が、一方向に延びる微細な凹凸形状からなるグリッド部を有する光透過性のベース部材を、前記グリッド部の裏面側で保持して前記一方向と直交する方向に連続的に搬送しつつ蒸着を行う工程からなり、
前記ベース部材に対向して配置された少なくとも1つの蒸着源と、該少なくとも1つの蒸着源と前記ベース部材との間に配置され、前記ベース部材の搬送方向に沿って前記蒸着源ごとに少なくとも1つの開口を有する蒸着角度規制部材とによって、
前記ベース部材の法線に対する蒸着角度が、前記ベース部材の搬送方向に沿って相対的に小さい角度から相対的に大きい角度、または相対的に大きい角度から相対的に小さい角度になるようにして、前記蒸着工程を行うことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の偏光分離素子の製造方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの蒸着源と、該少なくとも1つの蒸着源ごとに少なくとも2つの開口を有する蒸着角度規制部材とによって、前記ベース部材の法線に対する蒸着角度が、相対的に小さい角度からなる高反射率蒸着部と、相対的に大きい角度からなる低反射率蒸着部とを形成し、前記高反射率蒸着部および前記低反射率蒸着部を、反射率の高低の順、または低高の順に沿って前記ベース部材の搬送経路上に配列することにより、
前記蒸着工程を、
前記ベース部材の搬送方向に沿う順に、高反射率から低反射率に向かう蒸着を行う複数工程、または低反射率から高反射率に向かう蒸着を行う複数工程として行うようにしたことを特徴とする請求項8に記載の偏光分離素子の製造方法。
【請求項10】
前記蒸着源を前記ベース材料の搬送方向に沿って複数設け、
前記蒸着角度規制部材の開口を、前記蒸着源のうち互いに隣接する蒸着源の間で、該蒸着源の各蒸着材料が混合されるように設けることにより、
前記複数工程の中間部の工程が、前記互いに隣接する蒸着源の蒸着材料を混合して蒸着する工程を含むようにしたことを特徴とする請求項9に記載の偏光分離素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−9069(P2008−9069A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178415(P2006−178415)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】