説明

偏光子、偏光板、光学フィルムおよび画像表示装置

【課題】 耐久性に優れ、高透過率、高偏光度を有し、かつ、黒表示の際には無彩色な表示を可能とする偏光特性を有する、特にテレビ用途の液晶表示装置に好適な、偏光子を提供すること。
【解決手段】 ポリビニルアルコール系フィルムに、少なくとも染色工程、延伸工程および架橋工程が施されている偏光子であって、ポリビニルアルコール系フィルムは、エチレン単位を1〜4モル%、ビニルエステル単位を0.5〜2モル%含有し、かつ、平均重合度2000〜2600、ケン化度98.0〜99.5モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体により形成されたものであり、偏光子は、380nm〜780nmの波長光について測定した、単体透過率が40〜44%、偏光度が99.95%以上であり、かつ、440nmの波長光で測定した直交透過率が0.023%以下であることを特徴とする偏光子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光子に関する。また本発明は当該偏光子を用いた偏光板に関する。前記偏光子、偏光板はこれ単独で、またはこれを積層した光学フィルムとして液晶表示装置、有機EL表示装置等のフラットパネルディスプレー等の画像表示装置を形成しうる。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置などに用いられる偏光子としては、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを、ヨウ素や二色性染料などで染色し、一軸延伸して形成された吸収二色性偏光子が広く用いられている。また、前記偏光子は、偏光子の両側または片側に鹸化処理したトリアセチルセルロースなどの透明保護フィルムを貼り合わせて、強度を補った偏光板として用いられている。
【0003】
また近年の液晶表示装置には、表示性能の向上に伴い、偏光子には、ますます高透過率、高偏光度が求められている。かかる要求に応えるために、例えば、平均重合度2600以上の高重合度のポリビニルアルコールフィルムや、エチレン変性したポリビニルアルコールフィルムを、高い延伸倍率で延伸したものを用いることが提案されている(特許文献1、特許文献2)。しかし、前記特許文献に記載のフィルムは平均重合度が高いため、フィルム製膜が難しいことや、耐久性の問題があり、産業上利用することができていない。
【0004】
またテレビ用等の液晶表示装置においては高透過率、高偏光度は勿論のこと、黒表示の際に無彩色な表示になることが要求される。さらには長時間に亘り、高輝度バックライトの点灯環境下で使用されるために耐熱性も要求される。しかし、従来のポリビニルアルコール系フィルムを用いた作成した偏光子では、単体透過率が高い場合には、短波長側の吸収が不足したものしか得られていない。そのため、広く採用いられている冷陰極管を用いたバックライトの青域の輝線波長440nm付近では、どうしても光が漏れてしまい、黒表示自体が青く色づく問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平6‐250019号公報
【特許文献2】特開2003‐268127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐久性に優れ、高透過率、高偏光度を有し、かつ、黒表示の際には無彩色な表示を可能とする偏光特性を有する、特にテレビ用途の液晶表示装置に好適な、偏光子を提供することを目的とする。
【0007】
また本発明は前記偏光子を用いた偏光板を提供すること、前記偏光子または偏光板を積層した光学フィルムを提供すること、さらには当該偏光子、偏光板または光学フィルムを用いた液晶表示装置等の画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す偏光子により前記目的に達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、ポリビニルアルコール系フィルムに、少なくとも染色工程、延伸工程および架橋工程が施されている偏光子であって、
ポリビニルアルコール系フィルムは、エチレン単位を1〜4モル%、ビニルエステル単位を0.5〜2モル%含有し、かつ、
平均重合度2000〜2600、ケン化度98.0〜99.5モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体により形成されたものであり、
偏光子は、380nm〜780nmの波長光について測定した、単体透過率が40〜44%、偏光度が99.95%以上であり、かつ、
440nmの波長光で測定した直交透過率が0.023%以下であることを特徴とする偏光子、に関する。
【0010】
前記偏光子は、440nmの波長光で測定した偏光度が、99.8%以上であることが好ましい。
【0011】
また本発明は、前記偏光子の少なくとも一方の面に、透明保護フィルムが積層されていることを特徴とする偏光板、に関する。
【0012】
前記偏光板において、透明保護フィルムが、トリアセチルセルロースフィルム、ノルボルネン系フィルム、シクロオレフィン系フィルムおよびアクリル樹脂フィルムからなる群より選ばれるいずれか少なくとも1つであることが好ましい。
【0013】
また本発明は、前記偏光子または前記偏光板が、少なくとも1枚積層されていることを特徴とする光学フィルム、に関する。
【0014】
さらに本発明は、前記偏光子、前記偏光板または前記光学フィルムが用いられていることを特徴とする画像表示装置、に関する。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明の偏光子では、ポリビニルアルコール系フィルムとして、エチレン単位を1〜4モル%、ビニルエステル単位を0.5〜2モル%含有する、エチレン−ポリビニルアルコール共重合体を用いている。かかるポリビニルアルコール系フィルムは、エチレン単位を前記範囲で導入することにより、またビニルエステル単位を前記範囲で有していることから、若干の疎水性が付与されるため、耐水性等の耐久性に優れる。
【0016】
また前記エチレン単位およびビニルエステル単位の含有率は、エチレン−ポリビニルアルコール共重合体の融点を220〜230℃になるように制御できるように当該共重合体に導入されている。前記エチレン単位およびビニルエステル単位の含有率によりフィルム材料の融点が制御できる。前記エチレン−ポリビニルアルコール共重合体を、偏光子の原反フィルムの材料として用いることで、当該共重合体の分子鎖が温水浴中で溶解されない程度に、うまく解きほぐされて延伸されやすい状態になり、こうした状態で延伸が施されることにより、二色性吸光体(例えば、ヨウ素系偏光子では、ヨウ素錯体)が、染色工程において高次に配向されるようになっていると思われる。その結果、高透過率、高偏光度の高い光学特性、特に偏光特性を有する偏光子が得られるものと思われる。
【0017】
本発明の偏光子は、波長光380nm〜780nmについて測定した、単体透過率が40〜44%、偏光度が99.95%以上であり、高透過率、高偏光度の高い光学特性を有する。なお、単体透過率が44%を超える場合には、直交透過率が大きくなり、黒表示の際に光漏れが生じるため好ましくない。単体透過率は41.5〜43.5%であるのが好ましく、さらには42〜43.2%であるのが好ましく、偏光度は99.95%以上、さらには99.97%以上であるのが好ましい。なお、波長光380nm〜780nmについて分光光度計により測定した、直交透過率は、0.005%以下、さらには0.003%以下であるのが好ましい。
【0018】
また本発明の偏光子は、440nmの波長光で測定した直交透過率が0.023%以下である。前記のように本発明の偏光子は、高次に二色性吸光体が配向されるため、440nmの波長光で測定した直交透過率が低くなり、波長440nm付近においても、黒表示の際の光漏れを抑えることができ、黒表示の際に無彩色な表示をすることができる。440nmの波長光で測定した直交透過率は、0.006%以下、さらには0.003%以下であるのが好ましい。また、本発明の偏光子は、440nmの波長光で測定した偏光度も高く、99.8%以上を満足することができる。440nmの波長光で測定した偏光度は、好ましくは99.85%以上である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の偏光子に用いるポリビニルアルコール系フィルムの材料としては、エチレン単位およびビニルエステル単位を含有する、エチレン−ビニルアルコール共重合体を用いる。
【0020】
エチレン−ビニルアルコール共重合体はエチレンと酢酸ビニル等のビニルエステル系モノマーとの共重合により得られるエチレン−ビニルエステル共重合体をケン化し、ビニルエステル単位をビニルアルコール単位とすることにより得られる。
【0021】
エチレンとビニルエステルを共重合させる際に、これら以外のモノマーを本発明の主旨を損なわない程度で共重合させても良い。このようなコモノマーとして例えば、エチレン以外のオレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド、その誘導体等、メタクリルアミド、その誘導体、ビニルエーテル類、ニトリル類、ハロゲン化ビニル、アリル化合物、マレイン酸およびその塩またはそのエステル、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物、酢酸イソプロペニル等がある。
【0022】
エチレン−ビニルアルコール共重合体における、エチレン単位は1〜4モル%、ビニルエステル単位は0.5〜2モル%になるように制御されている。エチレン−ビニルアルコール共重合体において、エチレン単位の含有率は、好ましくは1〜3.5モル%、さらに好ましくは2〜3モル%である。また、ビニルエステル単位の含有率は、好ましくは0.7〜1.7モル%である。前記エチレン単位、ビニルエステル単位の含有率は、1H−NMRの測定スペクトルから、ポリビニルアルコールのピークとポリエチレンまたはポリビニルエステルのピークのそれぞれの積分曲線から導かれる値を用いて算出した。分析装置は、日本電子(株)製のNMR(JEOL EX‐400):400MHzを用いた。測定条件:パルス幅45°、測定溶媒DMSO‐d,DO、測定温度:80℃、化学シフト基準:TSP‐d,0.00ppm。
【0023】
エチレン単位およびビニルエステル単位を前記範囲に制御することにより、エチレン−ビニルアルコール共重合体は、融点が220〜230℃程度になるように制御されている。前記共重合体の融点が、220℃未満の場合にはエチレン単位の含有率が高くなるため、フィルムの延伸をしやすくできるものの、適度な応力が延伸中にかからないため、十分な光学特性が得られない。また染色性などが悪く、440nmの波長光において、十分な吸光度が得難く(直交透過率が十分に小さくならず)、黒表示自体が青く色づき、黒表示の際における無彩色を実現し難い。一方、前記共重合体の融点が、230℃を超える場合には、エチレン単位の含有率が低すぎるため(またはエチレン単位が導入されていないため)、材料としてポリビニルアルコール用いる従来の偏光子と同程度の特性しか得られず、耐久性が十分でなく、また光学特性も十分ではない。エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点は、好ましくは225〜230℃、さらに好ましくは227〜229℃である。なお、エチレン−ビニルアルコール共重合体は、融点が220〜230℃程度に制御されるが、当該融点を満足していても、エチレン単位およびビニルエステル単位を前記範囲に制御していないものでは、本発明の目的を達成できない。
【0024】
エチレン−ビニルアルコール共重合体の平均重合度は、2000〜2600であるのが好ましい。平均重合度が2000より小さいと光学特性(偏光特性)、耐久性等の性能が低下するおそれがある。一方、平均重合度2600を超えると、当該共重合体からフィルムをキャスティングにより製膜する際のドープ粘度が高くなり、均一なフィルムが得られにくく製膜に時間がかかる。エチレン−ビニルアルコール共重合体の平均重合度はJIS−K6726に準じて測定される。すなわち、エチレン−ビニルアルコール共重合体を再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:dl/g)から次式:重合度=([η]×103/8.29)(1/0.62)、により求められる。
【0025】
エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化度は98.0〜99.5モル%である。ケン化度は、エチレン−ビニルアルコール共重合体のビニルアルコール単位におけるケン化度であり、これも本発明の偏光子の偏光特性、耐久性に影響する。ケン化度は、ケン化によりビニルアルコール単位に変換され得る単位の中で、実際にビニルアルコール単位にケン化されている単位の割合を表したものであり、残基はビニルエステル単位である。ケン化度は98.0モル%以上、好ましくは98.5モル%以上、より好ましくは99.0モル%以上である。ケン化度が98.0モル%未満では、偏光子の偏光特性が十分でない。一方、ケン化度は、光学特性、耐久性の点から99.5モル%以下であり、好ましくは99.4モル%以下、さらには99.3モル%以下である。ケン化度は、JIS K0070‐1992に記載の方法により測定を行った。
【0026】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体から偏光子が作成されるが、前記共重合体には、可塑剤等の添加剤を含有することもできる。可塑剤としては、ポリオールおよびその縮合物等があげられ、例えばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等があげられる。可塑剤の使用量は、特に制限されないが、前記共重合体に対して20重量%以下とするのが好適である。
【0027】
本発明の偏光子は、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムに、少なくとも染色工程、延伸工程および架橋工程を施すことにより作成される。得られる偏光子は、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムを用いていることから、380nm〜780nmの波長光について測定した、単体透過率が40〜44%、偏光度が99.95%以上であり、かつ、440nmの波長光で測定した直交透過率が0.023%以下を満足するものが得られる。また、440nmの波長光で測定した偏光度が、99.8%以上であるものを得ることができる。
【0028】
染色工程は、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムに、ヨウ素または二色性染料を吸着・配向させることにより行う。染色工程は、延伸工程とともに行うことができる。染色は、通常、上記フィルムを染色溶液に浸漬することにより一般に行われる。染色溶液としてはヨウ素溶液が一般的である。ヨウ素溶液として用いられるヨウ素水溶液は、ヨウ素および溶解助剤として例えばヨウ化カリウム等によりヨウ素イオンを含有させた水溶液などが用いられる。その他、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等のヨウ化物等の助剤を用いることができる。ヨウ素濃度は0.01〜0.5重量%程度、好ましくは0.02〜0.4重量%であり、ヨウ化カリウム濃度は0.01〜10重量%程度、さらには0.02〜8重量%で用いるのが好ましい。ヨウ素染色にあたり、ヨウ素溶液の温度は、通常20〜50℃程度、好ましくは25〜40℃である。浸漬時間は通常10〜300秒間程度、好ましくは20〜240秒間の範囲である。
【0029】
またエチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムは、染色溶液中で染色させる前に、水浴等で20〜60℃程度で0.1〜10分間程度膨潤処理されていてもよい。エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムを水洗することで当該フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるほかに、当該フィルムを膨潤させることで染色のムラなどの不均一を防止する効果もある。
【0030】
延伸工程は、通常、一軸延伸処理が施される。延伸方法は特に制限されず、湿潤延伸法と乾式延伸法のいずれも採用できる。乾式延伸法の延伸手段としては、たとえば、ロール間延伸方法、加熱ロール延伸方法、圧縮延伸方法等があげられる。延伸は多段で行うこともできる。前記延伸手段において、未延伸フィルムは、通常、加熱状態とされる。通常、未延伸フィルムは30〜150μm程度のものが用いられる。延伸フィルムの延伸倍率は目的に応じて適宜に設定できるが、総延伸倍率は2〜7倍程度、好ましくは3〜6.8倍、さらに好ましくは3.5〜6.5倍とするのが望ましい。
【0031】
延伸工程は、染色工程前、染色工程中、染色工程後の何れの段階で行ってもよい。また、延伸は、複数の工程で施すこともでき、例えば、染色工程前、染色工程時、染色工程後の二段階または三段階の工程で施すことができる。
【0032】
架橋工程は、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムを、架橋浴(架橋水溶液)中に浸漬することにより行う。架橋水溶液としては、通常、ホウ酸、ホウ砂、グリオキザール、グルタルアルデヒド等の架橋剤を単独又は混合して1〜10重量%程度含有するものを用いる。架橋剤の濃度は、光学特性とエチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムに発生する延伸力により生じる偏光板収縮のバランスを考慮して決定される。
【0033】
架橋浴中には、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等のヨウ化物等の助剤を0.05〜15重量%、好ましくは0.5〜8重量%添加してもよい。これら添加剤は、偏光子の面内の均一な特性を得る点で特に好ましい。架橋水溶液には、水溶媒以外に、水と相溶性のある有機溶媒が少量含有されていてもよい。架橋水溶液の温度は通常20〜85℃程度、好ましくは40〜70℃の範囲である。架橋工程における浸漬時間は、通常、10〜800秒間、好ましくは30〜500秒間程度である。
【0034】
架橋工程を施す段階は、染色工程の後である。架橋工程は延伸工程中または延伸工程後に行われる。
【0035】
また前記各工程が施されたエチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムには、洗浄工程を設けることができる。洗浄工程により、延伸フィルムの表面に発生する析出物を除去することができうる。
【0036】
洗浄工程は、例えば、水、蒸留水、純水等の水洗浄により行うことができる。水洗浄工程は、通常、水洗浄浴にポリビニルアルコール系フィルムを浸漬することにより行う。また洗浄工程は、ヨウ化カリウム等のヨウ化物を含有する水溶液に浸漬することにより行うことができる。例えば、当該水溶液としては、ヨウ化カリウム濃度0.5〜10重量%程度、さらには1〜8重量%とするのが好ましい。洗浄工程における洗浄浴の温度は、通常、5〜50℃、好ましくは10〜45℃、さらに好ましくは15〜40℃の範囲である。浸漬時間は、通常、1〜300秒間、好ましくは10〜240秒間程度である。なお、前記水溶液による洗浄は、水洗浄と組み合わせて行うことができ、水洗浄の前または後において行うことができる。
【0037】
また、前記各工程が施されたエチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムには、20〜80℃程度で1分〜10分間程度の乾燥工程を設けることができる。
【0038】
得られた偏光子は、常法に従って、その少なくとも片面に透明保護フィルムを設けた偏光板とすることができる。透明保護フィルムはポリマーによる塗布層として、またはフィルムのラミネート層等として設けることができる。透明保護フィルムを形成する、透明ポリマーまたはフィルム材料としては、適宜な透明材料を用いうるが、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮断性などに優れるものが好ましく用いられる。前記透明保護フィルムを形成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、二酢酸セルロースや三酢酸セルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーなどがあげられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、あるいは前記ポリマーのブレンド物なども前記透明保護フィルムを形成するポリマーの例としてあげられる。透明保護フィルムは、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型、紫外線硬化型の樹脂の硬化層として形成することもできる。
【0039】
また、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルム、たとえば、(A)側鎖に置換および/または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、(B)側鎖に置換および/または非置換フェニルならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物があげられる。具体例としてはイソブチレンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体とアクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂組成物のフィルムがあげられる。フィルムは樹脂組成物の混合押出品などからなるフィルムを用いることができる。これらのフィルムは位相差が小さく、光弾性係数が小さいため偏光板の歪みによるムラなどの不具合を解消することができ、また透湿度が小さいため、加湿耐久性に優れる。
【0040】
透明保護フィルムの厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性、薄層性などの点より1〜500μm程度である。特に1〜300μmが好ましく、5〜200μmがより好ましい。
【0041】
また、透明保護フィルムは、できるだけ色付きがないことが好ましい。したがって、Rth=(nx−nz)・d(ただし、nxはフィルム平面内の遅相軸方向の屈折率、nzはフィルム厚方向の屈折率、dはフィルム厚みである)で表されるフィルム厚み方向の位相差値が−90nm〜+75nmである透明保護フィルムが好ましく用いられる。かかる厚み方向の位相差値(Rth)が−90nm〜+75nmのものを使用することにより、保護フィルムに起因する偏光板の着色(光学的な着色)をほぼ解消することができる。厚み方向位相差値(Rth)は、さらに好ましくは−80nm〜+60nm、特に−70nm〜+45nmが好ましい。
【0042】
保護フィルムとしては、偏光特性や耐久性などの点より、トリアセチルセルロースフィルム、ノルボルネン系フィルム、シクロオレフィン系フィルムおよびアクリル樹脂フィルムが好ましい。特にトリアセチルセルロースフィルムが好適である。なお、偏光子の両側に保護フィルムを設ける場合、その表裏で同じポリマー材料からなる保護フィルムを用いてもよく、異なるポリマー材料等からなる保護フィルムを用いてもよい。
【0043】
前記透明保護フィルムの偏光子を接着させない面には、ハードコート層や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施したものであってもよい。
【0044】
ハードコート処理は偏光板表面の傷付き防止などを目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を透明保護フィルムの表面に付加する方式などにて形成することができる。反射防止処理は偏光板表面での外光の反射防止を目的に施されるものであり、従来に準じた反射防止膜などの形成により達成することができる。また、スティッキング防止処理は隣接層との密着防止を目的に施される。
【0045】
またアンチグレア処理は偏光板の表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に施されるものであり、例えばサンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて透明保護フィルムの表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。前記表面微細凹凸構造の形成に含有させる微粒子としては、例えば平均粒径が0.5〜50μmのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等からなる導電性のこともある無機系微粒子、架橋又は未架橋のポリマー等からなる有機系微粒子などの透明微粒子が用いられる。表面微細凹凸構造を形成する場合、微粒子の使用量は、表面微細凹凸構造を形成する透明樹脂100重量部に対して一般的に2〜50重量部程度であり、5〜25重量部が好ましい。アンチグレア層は、偏光板透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。
【0046】
なお、前記反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層等は、透明保護フィルムそのものに設けることができるほか、別途光学層として透明保護フィルムとは別体のものとして設けることもできる。
【0047】
前記偏光子と透明保護フィルムとの接着処理には、接着剤が用いられる。接着剤としては、イソシアネート系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ゼラチン系接着剤、ビニル系ラテックス系、水系ポリエステル等を例示できる。前記接着剤は、通常、水溶液からなる接着剤が用いられる。
【0048】
本発明の偏光板は、前記透明保護フィルムと偏光子を、前記接着剤を用いて貼り合わせることにより製造する。接着剤の塗布は、透明保護フィルム、偏光子のいずれに行ってもよく、両者に行ってもよい。貼り合わせ後には、乾燥工程を施し、塗布乾燥層からなる接着層を形成する。偏光子と透明保護フィルムの貼り合わせは、ロールラミネーター等により行うことができる。接着層の厚さは、特に制限されないが、通常0.1〜5μm程度である。
【0049】
本発明の偏光板は、実用に際して他の光学層と積層した光学フィルムとして用いることができる。その光学層については特に限定はないが、例えば反射板や半透過板、位相差板(1/2や1/4等の波長板を含む)、視角補償フィルムなどの液晶表示装置等の形成に用いられることのある光学層を1層または2層以上用いることができる。特に、本発明の偏光板に更に反射板または半透過反射板が積層されてなる反射型偏光板または半透過型偏光板、偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板、偏光板に更に視角補償フィルムが積層されてなる広視野角偏光板、あるいは偏光板に更に輝度向上フィルムが積層されてなる偏光板が好ましい。
【0050】
反射型偏光板は、偏光板に反射層を設けたもので、視認側(表示側)からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置などを形成するためのものであり、バックライト等の光源の内蔵を省略できて液晶表示装置の薄型化を図りやすいなどの利点を有する。反射型偏光板の形成は、必要に応じ透明保護フィルム等を介して偏光板の片面に金属等からなる反射層を付設する方式などの適宜な方式にて行うことができる。
【0051】
反射型偏光板の具体例としては、必要に応じマット処理した透明保護フィルムの片面に、アルミニウム等の反射性金属からなる箔や蒸着膜を付設して反射層を形成したものなどがあげられる。また前記透明保護フィルムに微粒子を含有させて表面微細凹凸構造とし、その上に微細凹凸構造の反射層を有するものなどもあげられる。前記した微細凹凸構造の反射層は、入射光を乱反射により拡散させて指向性やギラギラした見栄えを防止し、明暗のムラを抑制しうる利点などを有する。また微粒子含有の透明保護フィルムは、入射光及びその反射光がそれを透過する際に拡散されて明暗ムラをより抑制しうる利点なども有している。透明保護フィルムの表面微細凹凸構造を反映させた微細凹凸構造の反射層の形成は、例えば真空蒸着方式、イオンプレーティング方式、スパッタリング方式等の蒸着方式やメッキ方式などの適宜な方式で金属を透明保護フィルムの表面に直接付設する方法などにより行うことができる。
【0052】
反射板は前記の偏光板の透明保護フィルムに直接付与する方式に代えて、その透明フィルムに準じた適宜なフィルムに反射層を設けてなる反射シートなどとして用いることもできる。なお反射層は、通常、金属からなるので、その反射面が透明保護フィルムや偏光板等で被覆された状態の使用形態が、酸化による反射率の低下防止、ひいては初期反射率の長期持続の点や、保護層の別途付設の回避の点などより好ましい。
【0053】
なお、半透過型偏光板は、上記において反射層で光を反射し、かつ透過するハーフミラー等の半透過型の反射層とすることにより得ることができる。半透過型偏光板は、通常液晶セルの裏側に設けられ、液晶表示装置などを比較的明るい雰囲気で使用する場合には、視認側(表示側)からの入射光を反射させて画像を表示し、比較的暗い雰囲気においては、半透過型偏光板のバックサイドに内蔵されているバックライト等の内蔵光源を使用して画像を表示するタイプの液晶表示装置などを形成できる。すなわち、半透過型偏光板は、明るい雰囲気下では、バックライト等の光源使用のエネルギーを節約でき、比較的暗い雰囲気下においても内蔵光源を用いて使用できるタイプの液晶表示装置などの形成に有用である。
【0054】
偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板について説明する。直線偏光を楕円偏光または円偏光に変えたり、楕円偏光または円偏光を直線偏光に変えたり、あるいは直線偏光の偏光方向を変える場合に、位相差板などが用いられる。特に、直線偏光を円偏光に変えたり、円偏光を直線偏光に変える位相差板としては、いわゆる1/4波長板(λ/4板とも言う)が用いられる。1/2波長板(λ/2板とも言う)は、通常、直線偏光の偏光方向を変える場合に用いられる。
【0055】
楕円偏光板はスーパーツイストネマチック(STN)型液晶表示装置の液晶層の複屈折により生じた着色(青又は黄)を補償(防止)して、前記着色のない白黒表示する場合などに有効に用いられる。更に、三次元の屈折率を制御したものは、液晶表示装置の画面を斜め方向から見た際に生じる着色も補償(防止)することができて好ましい。円偏光板は、例えば画像がカラー表示になる反射型液晶表示装置の画像の色調を整える場合などに有効に用いられ、また、反射防止の機能も有する。上記した位相差板の具体例としては、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレンやその他のポリオレフィン、ポリアリレート、ポリアミドの如き適宜なポリマーからなるフィルムを延伸処理してなる複屈折性フィルムや液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムにて支持したものなどがあげられる。位相差板は、例えば各種波長板や液晶層の複屈折による着色や視角等の補償を目的としたものなどの使用目的に応じた適宜な位相差を有するものであってよく、2種以上の位相差板を積層して位相差等の光学特性を制御したものなどであってもよい。
【0056】
また上記の楕円偏光板や反射型楕円偏光板は、偏光板又は反射型偏光板と位相差板を適宜な組み合わせで積層したものである。かかる楕円偏光板等は、(反射型)偏光板と位相差板の組み合わせとなるようにそれらを液晶表示装置の製造過程で順次別個に積層することによっても形成しうるが、前記の如く予め楕円偏光板等の光学フィルムとしたものは、品質の安定性や積層作業性等に優れて液晶表示装置などの製造効率を向上させうる利点がある。
【0057】
視角補償フィルムは、液晶表示装置の画面を、画面に垂直でなくやや斜めの方向から見た場合でも、画像が比較的鮮明にみえるように視野角を広げるためのフィルムである。このような視角補償位相差板としては、例えば位相差フィルム、液晶ポリマー等の配向フィルムや透明基材上に液晶ポリマー等の配向層を支持したものなどからなる。通常の位相差板は、その面方向に一軸に延伸された複屈折を有するポリマーフィルムが用いられるのに対し、視角補償フィルムとして用いられる位相差板には、面方向に二軸に延伸された複屈折を有するポリマーフィルムとか、面方向に一軸に延伸され厚さ方向にも延伸された厚さ方向の屈折率を制御した複屈折を有するポリマーや傾斜配向フィルムのような二方向延伸フィルムなどが用いられる。傾斜配向フィルムとしては、例えばポリマーフィルムに熱収縮フィルムを接着して加熱によるその収縮力の作用下にポリマーフィルムを延伸処理又は/及び収縮処理したものや、液晶ポリマーを斜め配向させたものなどが挙げられる。位相差板の素材原料ポリマーは、先の位相差板で説明したポリマーと同様のものが用いられ、液晶セルによる位相差に基づく視認角の変化による着色等の防止や良視認の視野角の拡大などを目的とした適宜なものを用いうる。
【0058】
また良視認の広い視野角を達成する点などより、液晶ポリマーの配向層、特にディスコティック液晶ポリマーの傾斜配向層からなる光学的異方性層をトリアセチルセルロースフィルムにて支持した光学補償位相差板が好ましく用いうる。
【0059】
偏光板と輝度向上フィルムを貼り合わせた偏光板は、通常液晶セルの裏側サイドに設けられて使用される。輝度向上フィルムは、液晶表示装置などのバックライトや裏側からの反射などにより自然光が入射すると所定偏光軸の直線偏光または所定方向の円偏光を反射し、他の光は透過する特性を示すもので、輝度向上フィルムを偏光板と積層した偏光板は、バックライト等の光源からの光を入射させて所定偏光状態の透過光を得ると共に、前記所定偏光状態以外の光は透過せずに反射される。この輝度向上フィルム面で反射した光を更にその後ろ側に設けられた反射層等を介し反転させて輝度向上フィルムに再入射させ、その一部又は全部を所定偏光状態の光として透過させて輝度向上フィルムを透過する光の増量を図ると共に、偏光子に吸収させにくい偏光を供給して液晶表示画像表示等に利用しうる光量の増大を図ることにより輝度を向上させうるものである。すなわち、輝度向上フィルムを使用せずに、バックライトなどで液晶セルの裏側から偏光子を通して光を入射した場合には、偏光子の偏光軸に一致していない偏光方向を有する光は、ほとんど偏光子に吸収されてしまい、偏光子を透過してこない。すなわち、用いた偏光子の特性によっても異なるが、およそ50%の光が偏光子に吸収されてしまい、その分、液晶画像表示等に利用しうる光量が減少し、画像が暗くなる。輝度向上フィルムは、偏光子に吸収されるような偏光方向を有する光を偏光子に入射させずに輝度向上フィルムで一旦反射させ、更にその後ろ側に設けられた反射層等を介して反転させて輝度向上フィルムに再入射させることを繰り返し、この両者間で反射、反転している光の偏光方向が偏光子を通過し得るような偏光方向になった偏光のみを、輝度向上フィルムは透過させて偏光子に供給するので、バックライトなどの光を効率的に液晶表示装置の画像の表示に使用でき、画面を明るくすることができる。
【0060】
輝度向上フィルムと上記反射層等の間に拡散板を設けることもできる。輝度向上フィルムによって反射した偏光状態の光は上記反射層等に向かうが、設置された拡散板は通過する光を均一に拡散すると同時に偏光状態を解消し、非偏光状態となる。すなわち、拡散板は偏光を元の自然光状態にもどす。この非偏光状態、すなわち自然光状態の光が反射層等に向かい、反射層等を介して反射し、再び拡散板を通過して輝度向上フィルムに再入射することを繰り返す。このように輝度向上フィルムと上記反射層等の間に、偏光を元の自然光状態にもどす拡散板を設けることにより表示画面の明るさを維持しつつ、同時に表示画面の明るさのむらを少なくし、均一で明るい画面を提供することができる。かかる拡散板を設けることにより、初回の入射光は反射の繰り返し回数が程よく増加し、拡散板の拡散機能と相俟って均一の明るい表示画面を提供することができたものと考えられる。
【0061】
前記の輝度向上フィルムとしては、例えば誘電体の多層薄膜や屈折率異方性が相違する薄膜フィルムの多層積層体の如き、所定偏光軸の直線偏光を透過して他の光は反射する特性を示すもの(3M社製、D−BEF等)、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持したものの(日東電工社製、PCF350やMerck社製、Transmax等)如き、左回り又は右回りのいずれか一方の円偏光を反射して他の光は透過する特性を示すものなどの適宜なものを用いうる。
【0062】
従って、前記した所定偏光軸の直線偏光を透過させるタイプの輝度向上フィルムでは、その透過光をそのまま偏光板に偏光軸を揃えて入射させることにより、偏光板による吸収ロスを抑制しつつ効率よく透過させることができる。一方、コレステリック液晶層の如く円偏光を透過するタイプの輝度向上フィルムでは、そのまま偏光子に入射させることもできるが、吸収ロスを抑制する点よりその円偏光を位相差板を介し直線偏光化して偏光板に入射させることが好ましい。なお、その位相差板として1/4波長板を用いることにより、円偏光を直線偏光に変換することができる。
【0063】
可視光域等の広い波長範囲で1/4波長板として機能する位相差板は、例えば波長550nmの単色光に対して1/4波長板として機能する位相差層と他の位相差特性を示す位相差層、例えば1/2波長板として機能する位相差層とを重畳する方式などにより得ることができる。従って、偏光板と輝度向上フィルムの間に配置する位相差板は、1層又は2層以上の位相差層からなるものであってよい。
【0064】
なお、コレステリック液晶層についても、反射波長が相違するものの組み合わせにして2層又は3層以上重畳した配置構造とすることにより、可視光領域等の広い波長範囲で円偏光を反射するものを得ることができ、それに基づいて広い波長範囲の透過円偏光を得ることができる。
【0065】
また、偏光板は、他の光学層を積層したものからなっていてもよい。従って、上記の反射型偏光板や半透過型偏光板と位相差板を組み合わせた反射型楕円偏光板や半透過型楕円偏光板などであってもよい。
【0066】
偏光板に前記光学層を積層した光学フィルムは、液晶表示装置等の製造過程で順次別個に積層する方式にても形成することができるが、予め積層して光学フィルムとしたものは、品質の安定性や組立作業等に優れていて液晶表示装置などの製造工程を向上させうる利点がある。積層には粘着層等の適宜な接着手段を用いうる。前記の偏光板やその他の光学フィルムの接着に際し、それらの光学軸は目的とする位相差特性などに応じて適宜な配置角度とすることができる。
【0067】
前述した偏光板や、偏光板を少なくとも1層積層されている光学フィルムには、液晶セル等の他部材と接着するための粘着層を設けることもできる。粘着層を形成する粘着剤は特に制限されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく用いうる。
【0068】
また上記に加えて、吸湿による発泡現象や剥がれ現象の防止、熱膨張差等による光学特性の低下や液晶セルの反り防止、ひいては高品質で耐久性に優れる液晶表示装置の形成性などの点より、吸湿率が低くて耐熱性に優れる粘着層が好ましい。
【0069】
粘着層は、例えば天然物や合成物の樹脂類、特に、粘着性付与樹脂や、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の無機粉末等からなる充填剤や顔料、着色剤、酸化防止剤などの粘着層に添加されることの添加剤を含有していてもよい。また微粒子を含有して光拡散性を示す粘着層などであってもよい。
【0070】
偏光板や光学フィルムの片面又は両面への粘着層の付設は、適宜な方式で行いうる。その例としては、例えばトルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒にベースポリマーまたはその組成物を溶解又は分散させた10〜40重量%程度の粘着剤溶液を調製し、それを流延方式や塗工方式等の適宜な展開方式で偏光板上または光学フィルム上に直接付設する方式、あるいは前記に準じセパレータ上に粘着層を形成してそれを偏光板上または光学フィルム上に移着する方式などがあげられる。
【0071】
粘着層は、異なる組成又は種類等のものの重畳層として偏光板や光学フィルムの片面又は両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、偏光板や光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚さ等の粘着層とすることもできる。粘着層の厚さは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1〜500μmであり、5〜200μmが好ましく、特に10〜100μmが好ましい。
【0072】
粘着層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止等を目的にセパレータが仮着されてカバーされる。これにより、通例の取扱状態で粘着層に接触することを防止できる。セパレータとしては、上記厚さ条件を除き、例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体等の適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤でコート処理したものなどの、従来に準じた適宜なものを用いうる。
【0073】
なお本発明において、上記した偏光板を形成する偏光子や透明保護フィルムや光学フィルム等、また粘着層などの各層には、例えばサリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などの方式により紫外線吸収能をもたせたものなどであってもよい。
【0074】
本発明の偏光板または光学フィルムは液晶表示装置等の各種装置の形成などに好ましく用いることができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルと偏光板または光学フィルム、及び必要に応じての照明システム等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むことなどにより形成されるが、本発明においては本発明による偏光板または光学フィルムを用いる点を除いて特に限定はなく、従来に準じうる。液晶セルについても、例えばTN型やSTN型、π型などの任意なタイプのものを用いうる。
【0075】
液晶セルの片側又は両側に偏光板または光学フィルムを配置した液晶表示装置や、照明システムにバックライトあるいは反射板を用いたものなどの適宜な液晶表示装置を形成することができる。その場合、本発明による偏光板または光学フィルムは液晶セルの片側又は両側に設置することができる。両側に偏光板または光学フィルムを設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えば拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【0076】
次いで有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置)について説明する。一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。ここで、有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
【0077】
有機EL表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、有機発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物資を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0078】
有機EL表示装置においては、有機発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
【0079】
このような構成の有機EL表示装置において、有機発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0080】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
【0081】
位相差板および偏光板は、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、位相差板を1/4波長板で構成し、かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0082】
すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は位相差板により一般に楕円偏光となるが、とくに位相差板が1/4波長板でしかも偏光板と位相差板との偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。
【0083】
この円偏光は、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、位相差板に再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、偏光板の偏光方向と直交しているので、偏光板を透過できない。その結果、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、各例中、部および%は特記ない限り重量基準である。
【0085】
(融点の測定方法)
融点は、原反フィルムが含有する可塑剤(グリセリン)の影響を除去するために、次の手順にて測定した。原反フィルムの試料を、蒸留水に浸漬し、試料中のグリセリンを除去して、室温(23℃)にて3日間放置して自然乾燥した。その後、試料を、そのままアルミ製オープン容器にて精秤してクリンプし、0〜260℃の温度範囲で、昇温速度5℃/minでDSC測定し、吸熱ピークの温度を融点とした。なお、原反フィルムと、原反フィルムを作成する前の樹脂とのは、同じ融点の値を示した。
【0086】
実施例1
(偏光子)
平均重合度2400、ケン化度99.3モル%、エチレン単位の含有率2.3モル%、酢酸ビニルの含有率0.7モル%、融点227℃のエチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム((株)クラレ製,VF‐PE#7500,厚さ75μm)を、速度比の異なるロール間で染色、架橋、延伸して偏光子を得た。具体的には、ヨウ素濃度0.02%、ヨウ化カリウム濃度2%を含む30℃のヨウ素水溶液(染色浴)中に60秒間浸漬して、染色しながら、流れ方向に延伸倍率3倍まで一軸延伸した。次いで、ホウ酸濃度5%、ヨウ化カリウム濃度5%を含む62℃の水溶液(延伸浴)中に40秒間浸漬しながら総延伸倍率が6倍になるまで延伸した。次いで、ヨウ化カリウム濃度3重量%の30℃の水溶液中に10秒間浸漬することで洗浄し、その後、50℃で4分間乾燥して偏光子を得た。
【0087】
(偏光板)
上記で得られた偏光子の両側に、表面をケン化処理した、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルムを、ポリビニルアルコール系接着剤で貼り合せた後、60℃で4分間乾燥させて、偏光板を得た。
【0088】
実施例2〜6
実施例1において、偏光子の作成にあたり、ヨウ素濃度を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして、偏光子を作成した。また当該偏光子を用いて実施例1と同様にして偏光板を作成した。
【0089】
比較例1
実施例1において、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムの代わりに、平均重合度2400、ケン化度99.9モル%、酢酸ビニルの含有率0.1モル%、融点232℃のポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ製,VF−PS#7500,厚さ75μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、偏光子を作成した。また当該偏光子を用いて実施例1と同様にして偏光板を作成した。
【0090】
比較例2〜6
比較例1において、偏光子の作成にあたり、ヨウ素濃度を表1に示すように変えたこと以外は比較例1と同様にして、偏光子を作成した。また当該偏光子を用いて実施例1と同様にして偏光板を作成した。
【0091】
比較例7
実施例1において、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムの代わりに、平均重合度2400、ケン化度99.8モル%、エチレン単位の含有率2.4モル%、酢酸ビニルの含有率0.2モル%、融点228℃のポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ製,エクセバール151,厚さ75μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、偏光子を作成した。また当該偏光子を用いて実施例1と同様にして偏光板を作成した。
【0092】
(評価)
実施例および比較例で得られた偏光板について、下記光学特性および耐久性について評価した。結果を表1、表2に示す。
【0093】
<光学特性>
偏光板の単体および平行、直交状態について、380nm〜780nmの波長光での分光透過率を、高速分光光度計((株)村上色彩研究所製,DOT−3C)を用いて測定し、測定された分光透過率よりCIE1931 Yxy表色系に従いC光源2°視野でのY値を算出した。これらを単体透過率(Ts(Y))および平行透過率(Tp(Y))、直交透過率(Tc(Y))とした。
【0094】
偏光度(P)は、{(平行透過率−直交透過率)/(平行透過率+直交透過率)}1/2×100(%)、で算出した。
【0095】
また、440nmの波長光での平行透過率(Tp(440nm))、直交透過率(Tc(440nm))を、440nmの波長光の分光透過率を用いて上記同様に測定した。偏光度(P(440nm))についても、上記同様に算出した。
【0096】
<耐久性>
厚さ1.3mmのガラス板に偏光板をアクリル系粘着剤層を介して積層した状態で、80℃で500時間、および60℃/90%R.H.で500時間の環境下にそれぞれ投入し、初期および試験後の偏光度を上述と同様の方法にて測定、算出した。初期値からの変位量を、(初期偏光度)−(試験後偏光度)、で算出した。
【0097】
<クラック促進試験法>
偏光板を5cm×5cmに切断してサンプル片を作成した。常温(25℃)において、純水を入れた容器を用意し、当該容器中の純水に、サンプル片を、延伸方向が鉛直方向になるように、延伸方向の片側から半分(2.5cm)のところまで漬けて立てた。この状態で20分間放置した後にサンプル片を取り出して、クラックが発生しているか否かを確認した。クラックが発生していない場合は「○」、クラックが発生している場合は「その本数」を、全面にクラックが発生している場合には「全面」と記載した。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系フィルムに、少なくとも染色工程、延伸工程および架橋工程が施されている偏光子であって、
ポリビニルアルコール系フィルムは、エチレン単位を1〜4モル%、ビニルエステル単位を0.5〜2モル%含有し、かつ、
平均重合度2000〜2600、ケン化度98.0〜99.5モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体により形成されたものであり、
偏光子は、380nm〜780nmの波長光について測定した、単体透過率が40〜44%、偏光度が99.95%以上であり、かつ、
440nmの波長光で測定した直交透過率が0.023%以下であることを特徴とする偏光子。
【請求項2】
440nmの波長光で測定した偏光度が、99.8%以上であることを特徴とする請求項1記載の偏光子。
【請求項3】
請求項1または2記載の偏光子の少なくとも一方の面に、透明保護フィルムが積層されていることを特徴とする偏光板。
【請求項4】
透明保護フィルムが、トリアセチルセルロースフィルム、ノルボルネン系フィルム、シクロオレフィン系フィルムおよびアクリル樹脂フィルムからなる群より選ばれるいずれか少なくとも1つであることを特徴とする請求項3記載の偏光板。
【請求項5】
請求項1または2記載の偏光子または請求項3または4記載の偏光板が、少なくとも1枚積層されていることを特徴とする光学フィルム。
【請求項6】
請求項1または2記載の偏光子、請求項3記載の偏光板または請求項5記載の光学フィルムが用いられていることを特徴とする画像表示装置。

【公開番号】特開2008−102274(P2008−102274A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283902(P2006−283902)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】