説明

偏光性拡散フィルム、偏光性拡散フィルムの製造方法、および偏光性拡散フィルムを含む液晶表示装置

【課題】偏光選択性および拡散性を有し、かつ収縮率が低減されているフィルムを提供する。また、当該フィルムを偏光性拡散フィルムとして具備する液晶表示装置を提供する。
【解決手段】固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂からなる非晶状態のシートを加熱して、結晶化シートを得るステップと;前記結晶化シートを主として一軸方向に延伸して延伸フィルムを得るステップと;前記延伸フィルムを、実質的に固定することなく、前記延伸フィルムのガラス転移温度以上の温度にて、弛緩率が2%以上となるまで加熱するステップと;により、偏光性拡散フィルムを製造する。それにより、可視光線に対する全光線透過率が50〜90%であり、可視光線に対する透過ヘイズが15〜90%であり、可視光線に対する透過偏光度が20〜90%であり、かつ24時間、80℃で処理した際の収縮率が0.5%以下である、偏光性拡散フィルムが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光性拡散フィルム、偏光性拡散フィルムの製造方法、および偏光性拡散フィルムを含む液晶表示装置に関し、特に液晶表示装置に適した偏光性拡散フィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、コンピューター、テレビおよび携帯電話などの表示装置として幅広く用いられているが、表示特性の更なる向上や、消費電力を低減させたいという要求がある。これら要求に対する手段として、光源からの光を適度に拡散させること、光源の光利用効率を向上させることがある。光源からの光を適度に拡散させると、液晶表示装置の視野角を広げることができたり、輝度などの面内均一性を高めたりすることが可能となる。また、光源の光利用効率が高くなると、液晶表示装置の全体の輝度を高めて明るい画質を得ること、消費電力を低減させることが可能となる。
【0003】
偏光aを透過する一方、偏光aと直交する偏光bを反射する反射偏光子、およびこの反射偏光子を含む液晶表示装置が開示されている(特許文献1を参照)。この液晶表示装置は、表示面側から順に、液晶セル、反射偏光子、バックライトおよび拡散反射板を備える。
【0004】
この液晶表示装置のバックライトから発せられた光のうち、偏光aは反射偏光子を透過して表示光となり、一方、偏光bは反射偏光子で反射されて反射光となる。反射偏光子で反射された偏光bは、拡散反射板で反射されるとともに、偏光状態がランダム化されて、偏光aと偏光bとを含む光となる。ランダム化された光のうち、偏光aは、反射偏光子を透過して表示光となり、偏光bは再び反射光となる。このようにして、バックライトから発せられた光の利用効率を高める。この反射偏光子は、ポリエチレンナフタレートからなるフィルムAと、酸成分としてナフタレンジカルボン酸およびテレフタル酸等を用いたコポリエステルからなるフィルムBとが多層に重ね合わされた多層フィルムである。
【0005】
他の反射偏光子として、第1の透明樹脂で構成された連続相に、第2の透明樹脂が粒子状または所定の形状に分散してなるシートであって、偏光aを透過し、偏光aと直交する偏光bを反射するシートが開示されている(特許文献2および9を参照)。このシートは、二種類の異なる樹脂の混合物を押出成形して得られる。
【0006】
また、ヘイズ異方性を付与したライトガイド用のフィルムやシートが開示されている(特許文献3〜5を参照)。このフィルムの端面から入射された非偏光のうち、特定偏光のみが散乱出射するので、フィルム端面から照射された光の利用効率を高めうる。このフィルムは、フィラーを含有するか、またはフィラーを含有しないポリエチレンナフタレートなどのフィルムを一軸延伸して得られる。
【0007】
さらに、結晶化された未配向の樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂など)を二軸延伸配向して、容器用途の樹脂物品を得る方法が記載されている(特許文献6を参照)。
【0008】
一方、液晶表示装置にとって重要な特性の一つに、正面輝度がある。正面輝度を向上させる手段として、光学フィルム(例えば反射偏光子)の表面形状をプリズム形状とすることで、フィルム表面からの出射角度を調整することが知られている(特許文献7および8を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平9−506985号公報
【特許文献2】特開2003−075643号公報
【特許文献3】特開平11−281975号公報
【特許文献4】特開2001−264539号公報
【特許文献5】特開2001−49008号公報
【特許文献6】特表2005−531445号公報
【特許文献7】特開2007−272052号公報
【特許文献8】特開2007−206569号公報
【特許文献9】特表2000−506989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の反射偏光子は、フィルムAと、これとは化学構造の異なるフィルムBとを多層に重ね合わせた積層体であるため、製造方法が複雑であり、コストを低減することが困難であった。また、拡散性能を付与するために、拡散機能を有する部材または層を、貼合や塗装などによりさらに形成する必要があった。また、特許文献2および9に記載のシートはポリマーアロイにより製造されるため、製造方法が複雑であり、また、偏光特性や拡散性能を緻密に制御することが困難であった。
【0011】
特許文献3〜5に記載されたフィルムまたはシートは、比較的光学特性を制御しやすい方法で製造されうるが、フィルムまたはシートの端面から入射された光を導光するための部材である。よって、特許文献3〜5に記載されたシートは、シート表面から入射される光のうちの特定偏光を透過させる性能は有さず、その透過光を拡散させる機能もない。その理由として、延伸前のフィルムの結晶化度が小さく、また透過ヘイズも小さいことが挙げられる。
【0012】
特許文献6では、結晶化樹脂を延伸して、その透明性を高めているが、偏光性や拡散性は不十分であった。
【0013】
特許文献7および8に記載のフィルムは、二種類の異なる樹脂により得られるため、製造方法が複雑であり、偏光特性や拡散性能を緻密に制御することが困難であった。
【0014】
すなわち従来、フィルム表面から入射される光のうち特定方向の直線偏光を透過する一方、それと直交する直線偏光を効率よく反射し(つまり「偏光選択性」を有する)、かつ拡散性を有するフィルムが望まれていた。ところが、性能および製造容易性の両面において満足のゆくフィルムは提供されていない。
【0015】
そこで本発明は、偏光選択性および拡散性を有するフィルムと、それを容易に製造する手段とを提供することを目的とする。
【0016】
さらに本発明は、延伸樹脂フィルムであるにもかかわらず長期寸法安定性を有する。つまり、延伸樹脂フィルムは不安定であり、収縮しようとする。その収縮を抑える為に一般的に「熱固定」と称される処理を施すことが多い。ところが、熱固定により樹脂フィルムのミクロ構造(例えば、結晶の配向など)が変化することがあり、それにより樹脂フィルムの光学特性が悪影響を受けることがある。そこで本発明は、所望の偏光選択性および拡散性を有し、かつ長期寸法安定性を有する(収縮率が低減されている)フィルムを提供することを目的とする。
【0017】
それにより本発明のフィルムは、液晶表示装置の、熱に曝されやすい偏光性拡散フィルムとして用いることができ、液晶表示装置の正面輝度を高めることができる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第一は、以下に示す偏光性拡散フィルムに関する。
[1] 実質的に1種類の固有複屈折が0.1以上の結晶性樹脂からなる偏光性拡散フィルムであって:可視光線に対する全光線透過率が50〜90%であり、可視光線に対する透過ヘイズが15〜90%であり、可視光線に対する透過偏光度が20〜90%であり、かつ24時間、80℃で処理した際の収縮率が0.5%以下である、偏光性拡散フィルム。
[2] 前記偏光性拡散フィルムの結晶化度は、8〜40%であり;前記偏光性拡散フィルムに多色光を照射したときの、交差ニコル下における偏光顕微鏡観察において、明部と暗部とが観察され、前記明部と暗部が、実質的に同一の組成からなり、前記明部は、長軸を有し、かつ各明部の前記長軸が互いに略平行である、[1]記載の偏光性拡散フィルム。
[3] 前記偏光性拡散フィルムの結晶化度は、8〜40%であり;前記偏光性拡散フィルムは、前記固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂の一軸延伸樹脂フィルムからなり、前記一軸延伸樹脂フィルムは、フィルム厚さを100μmとしたときの、可視光線に対する透過ヘイズが20〜90%であり、前記一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して垂直な切断面のTEM像(撮像範囲のフィルム厚さ方向の距離は0.1μm、かつ撮像面積は45μm)で明暗構造が観察され、前記明暗構造の明部と暗部とが実質的に同一の組成で構成される、[1]記載の偏光性拡散フィルム。
[4] フィルム厚さを100μmとしたときの、透過偏光度が30〜90%である、[1]〜[3]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム。
[5] 前記偏光性拡散フィルムの結晶化度が、8〜30%である、[1]〜[4]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム。
[6] 前記結晶性樹脂は、ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、または液晶性樹脂である、[1]〜[5]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム。
[7] 前記結晶性樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂である、[1]〜[5]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム。
[8] 前記偏光性拡散フィルムの少なくとも一方の表面が、集光機能を有する表面形状を有する、[1]〜[7]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム。
[9] 前記集光機能を有する表面形状が、前記偏光性拡散フィルムの表面形状であるか、または前記偏光性拡散フィルムの表面に接する樹脂層の形状である、[8]記載の偏光性拡散フィルム。
[10] 前記集光機能を有する表面形状が、一次元プリズム、二次元プリズム、またはマイクロレンズである、[8]記載の偏光性拡散フィルム。
【0019】
本発明の第2は、以下に示す偏光性拡散フィルムの製造方法に関する。
[11] 前記[1]に記載の偏光性拡散フィルムの製造方法であって:固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂からなる非晶状態のシートを加熱して、結晶化シートを得るステップと、前記結晶化シートを主として一軸方向に延伸して延伸フィルムを得るステップと、前記延伸フィルムを、実質的に固定することなく、前記延伸フィルムのガラス転移温度以上の温度にて、弛緩率が2%以上となるまで加熱するステップと、を含む、偏光性拡散フィルムの製造方法。
[12] 前記[1]に記載の偏光性拡散フィルムの製造方法であって:固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂からなる非晶状態のシートを加熱して、結晶化シートを得るステップと、前記結晶化シートを主として一軸方向に延伸して延伸フィルムを得るステップと、前記延伸フィルムを、実質的に固定することなく、前記延伸フィルムのガラス転移温度以上の温度にて、前記延伸方向と直交しかつ前記フィルムの主面と平行な方向の弛緩率が0.5%以上となるまで加熱するステップと、を含む、偏光性拡散フィルムの製造方法。
[13] 前記結晶化シートを得るステップでは、下記式(2)で表される温度Tにおいて、結晶化度が3%以上となるまで前記非晶状態のシートを加熱する、[11]または[12]に記載の偏光性拡散フィルムの製造方法。
Tc−40℃≦T<Tm−10℃ (2)
(式(2)において、Tcは前記結晶性樹脂の結晶化温度、Tmは前記結晶性樹脂の融点を表す)
[14] 前記結晶化シートの、可視光線に対する透過ヘイズが7〜70%であり、かつ結晶化度が3〜20%である、[11]または[12]に記載の偏光性拡散フィルムの製造方法。
【0020】
本発明の第3は、以下に示す液晶表示装置に関する。
[15] (A)液晶バックライト用面光源、(B)少なくとも1つの光学素子および/またはエアギャップ、(C)前記[1]に記載の偏光性拡散フィルム、ならびに(D)液晶セルを2以上の偏光板で挟んでなる液晶パネルを少なくとも含み、かつ前記(A)から(D)の各部材が、上記の順に配置されている、液晶表示装置。
[16] 前記(C)偏光性拡散フィルムは、前記(D)液晶パネルに隣接して配置されている、[15]記載の液晶表示装置。
[17] 前記(C)偏光性拡散フィルムは、前記(D)液晶パネルを構成する偏光板の光源側保護フィルムを兼ねる、[16]記載の液晶表示装置。
[18] 前記(C)偏光性拡散フィルムの反射軸と、前記(D)液晶パネルを構成する偏光板であって前記光源側に配置される偏光板の吸収軸方向とは、ほぼ同じである、[16]記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、偏光選択性および拡散性を有し、かつ長期寸法安定性を有するフィルムを提供することができる。本発明のフィルムは、液晶表示装置の偏光性拡散フィルムとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】本発明の偏光性拡散フィルムの、延伸方向に平行な断面TEM像の一例である。
【図1B】本発明の偏光性拡散フィルムの、延伸方向に垂直な断面TEM像の一例である。
【図1C】図1Bに示されるTEM像の二値化画像である。
【図2】本発明の偏光性拡散フィルムの、延伸方向に平行な断面の偏光顕微鏡像の一例である。
【図3】本発明の偏光性拡散フィルムの表面形状の第1の例を示す、フィルム断面を含む斜視図である。
【図4】本発明の偏光性拡散フィルムの表面形状の第2の例を示す、フィルム断面を含む斜視図である。
【図5】本発明の偏光性拡散フィルムの表面形状の第3の例を示す、上面図および断面図である。
【図6】液晶表示装置の構成の一例を示す図である。
【図7】液晶表示装置の構成の他の例を示す図である。
【図8】液晶表示装置の表示機構を説明する図である。
【図9】弛緩率と、寸法維持性試験における収縮率との関係を示すグラフである。
【図10】弛緩率と、単位厚み(100μm)あたりの透過偏光度との関係を示すグラフである。
【図11】弛緩処理前および弛緩処理後の、フィルムの断面のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.偏光性拡散フィルム
偏光性拡散フィルムとは、「偏光選択性」と「拡散性」を兼ね備えたフィルムである。偏光選択性とは、特定方向の直線偏光を、これと直交する直線偏光よりも多く透過させ、特定方向の直線偏光と直交する直線偏光をより多く反射する特性をいう。一方、拡散性とは、透過光を拡散させる特性をいう。すなわち、偏光性拡散フィルムとは、特定方向の直線偏光を透過させて拡散させるが、これと直交する直線偏光は反射して光入射側へ戻すことができる。
【0024】
偏光性拡散フィルムは、一定以上の、可視光線に対する全光線透過率を有する。本発明の偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する全光線透過率は、50%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。前記全光線透過率は、高いほど好ましいが、フィルム両面での表面反射が生じるため、通常は90%以下になる。ただし、反射防止膜等を設けることによって、さらに全光線透過率を高めることもできる。
【0025】
前記全光線透過率を50%以上とすることによって、本発明の偏光性拡散フィルムを含む液晶表表示装置の輝度を著しく損なわずに、偏光選択性(偏光反射性)と拡散性の効果によって高輝度化することができる。
【0026】
本願における可視光線に対する全光線透過率は、全光線透過率の視感平均値であって、以下の手順で求めることができる。
1)分光光度計の積分球の光線入射口側の試験片設置部の手前に偏光解消板をセットし、偏光解消板表面の法線方向から光を入射できるようにする。これにより、試験片であるフィルム表面の法線方向から無偏光の光を入射できるようにする。フィルム表面に、偏光解消板を透過した波長範囲380〜780nmの光を入射させて、10nm毎に全光線透過率を測定する。
2)前記1)で得られた全光線透過データから、JIS R−3106に基づいて、視感平均値の全光線透過率Ttotalを算出する。
3)算出された全光線透過率Ttotalを、フィルム厚さtを100μmとしたときの値(Ttotal@100μm)に変換してもよい。具体的には、以下の式にあてはめればよい。
【数1】

【0027】
このように偏光解消板を使用することにより、分光光度計の分光光がある程度偏光しているとしても、それを補正し、フィルム本来の特性を評価することができる。あるいは、偏光解消板を使用しない場合は、全光線透過率Ttotalを、以下のように測定することもできる。
【0028】
1)フィルム表面に、波長範囲380〜780nmの光を照射して、10nm毎に全光線透過率を測定する。
2)前記1)のフィルムを、フィルム表面を含む平面内で90度回転させて、1)と同様にして全光線透過率を測定する。
3)前記1)と2)で測定した全光線透過率データの各波長での平均値を求めて、平均した全光線透過データを得る。平均した全光線透過データから、視感平均値の全光線透過率Ttotalを算出する。
【0029】
偏光性拡散フィルムの偏光選択性を示す指標の一つの例が「透過偏光度」である。フィルムの透過偏光度とは、偏光Vと、偏光Vに直交する偏光Pのいずれかを、選択的に透過する性質を示す指標である。つまり本発明の偏光性拡散フィルムは、後述するように一軸延伸樹脂フィルムを含むが、その延伸方向(延伸軸)に対して垂直な偏光Vを、延伸方向(延伸軸)に対して平行な偏光Pよりも選択的に透過する性質を有する。「反射軸」とは、その軸に平行な偏光を、その軸に対して垂直な偏光をよりも選択的に反射する軸である。
【0030】
透過偏光度は、下記式で示される。下記式において、「Tv」は前記延伸軸に対して垂直な偏光Vに対する、フィルムの全光線透過率(%)を示す。一方、「Tp」は前記延伸軸に対して平行な偏光Pに対する、フィルムの全光線透過率(%)を示す。
【数2】

【0031】
本発明の偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する透過偏光度は、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。また、前記透過偏光度は、拡散性との兼ね合いから90%以下である。
【0032】
本発明の偏光性拡散フィルムにとって「単位厚み当たりのフィルムの透過偏光度」も重要なパラメータである。単位厚み当たりのフィルムの透過偏光度が低すぎると、偏光性拡散フィルムの性能を確保するために、フィルムを極端に厚くする必要が生じうる。そのため、フィルムの取り扱いや樹脂必要量の観点から好ましくない。従って、フィルム厚さを100μmとしたときの透過偏光度(透過偏光度@100μm)が、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく;また、90%以下であることが好ましい。
【0033】
フィルム厚さtを100μmとしたときの透過偏光度は、フィルム厚さtを100μmとしたときのTvおよびTp(Tv@100μmおよびTp@100μm)を式(3)と式(4)から算出して、算出されたTv@100μmおよびTp@100μmを、式(5)にあてはめて求めればよい。
【数3】

【0034】
特に、偏光性拡散フィルムを液晶表示装置に適用する場合には、偏光Vに対するフィルムの全光線透過率Tvを、偏光Pに対するフィルムの全光線透過率Tpよりも、10%以上高くすることが好ましい。それにより、液晶表示装置により優れた表示特性を付与することができる。
【0035】
透過偏光度の測定は、以下の手順にて行えばよい。
1)分光光度計の積分球の試験片設置部の手前に偏光板をセットして、セットされた偏光板表面の法線方向から光を入射できるようにする。これにより、試験片に、偏光板の吸収軸に対して垂直な直線偏光を入射できる。
2)試験片であるフィルムを偏光板に密着させてセットして、偏光線に対する全光線透過率を測定する。
3)まず、試験片であるフィルムの延伸軸を、入射する直線偏光の偏光方向に対して平行とする。波長範囲380〜780nmの直線偏光を照射して、波長10nm毎に全光線透過率を測定する。測定値を、偏光板の全光線透過率で除し、JIS R−3106に基づいて、延伸軸に平行な偏光の全光線透過率Tpを求める。求めたTpを、Tp@100μmに変換してもよい。
4)次に、試験片であるフィルムを、フィルム表面を含む平面内で90度回転させて、試験片であるフィルムの延伸軸を、入射する直線偏光の偏光方向に対して垂直とする。3)と同様に、波長範囲380〜780nmの直線偏光を照射して、波長10nm毎に全光線透過率を測定する。3)と同様に、測定値を、偏光板の全光線透過率で除し、JIS R−3106に基づいて、延伸軸と垂直な偏光の全光線透過率Tvを求める。求めたTvを、Tv@100μmに変換してもよい。
5)得られた全光線透過率TpとTv、またはTp@100μmとTv@100μmを、前記式(2)または式(5)にあてはめて、透過偏光度を算出する。
【0036】
一方、偏光性拡散フィルムの拡散性を示す指標の一つの例が「透過ヘイズ」である。本発明の偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する透過ヘイズは、15%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましい。液晶表示装置の光拡散フィルムに適用したときに、装置に、ムラの低減と均一な輝度を与えるためである。また、前記透過ヘイズは、90%以下であることが好ましい。透過ヘイズが高すぎるフィルムは、高い拡散性を有するものの、光線損失などにより液晶表示装置の輝度を下げるからである。
【0037】
本発明の偏光性拡散フィルムにとって「単位厚み当たりのフィルムの透過ヘイズ」も重要なパラメータである。単位厚み当たりのフィルムの透過ヘイズが低すぎると、偏光性拡散フィルムの性能を確保するために、フィルムを極端に厚くする必要が生じうる。そのため、フィルムの取り扱いや樹脂必要量の観点から好ましくない。一方、単位厚み当たりのフィルムの透過ヘイズが高すぎると、所望の厚みのフィルムの透過ヘイズが高くなりすぎ、光線損失などにより液晶表示装置の輝度を下げてしまう場合もある。従って、フィルム厚さを100μmとしたときの透過ヘイズ(透過ヘイズ@100μm)が、20〜90%であることが好ましく、30〜80%であることがより好ましい。
【0038】
透過ヘイズおよび透過ヘイズ@100μmの測定は、以下の手順で行えばよい。
1)分光光度計の光線入射口の試験片設置部の手前に偏光解消板をセットし、偏光解消板表面の法線方向から光を入射できるようにする。これにより、試験片であるフィルム表面の法線方向から無偏光の光を入射できるようにする。フィルム表面に、波長範囲380〜780nmの光を照射して、波長10nm毎に平行光線透過率を測定する。
2)前記1)で得られた平行光線透過データから、JIS R−3106に基づいて、視感平均値の平行光線透過率Tparaを算出する。
3)前記2)算出された平行光線透過率Tparaと、前述の全光線透過率Ttotalから、透過へイズを以下の式(6)から算出する。
4)前記2)で算出された平行光線透過率Tparaを、フィルム厚さtを100μmとしたときの値(Tpara@100μm)に変換する。具体的には、以下の式(7)にあてはめればよい。
5)前記4)で算出されたフィルム厚さtを100μmとしたときの平行光線透過率(Tpara@100μm)と前述のフィルム厚さtを100μmとしたときの全光線透過率(Ttotal@100μm)から、フィルム厚さtを100μmとしたときの透過へイズ(透過ヘイズ@100μm)を以下の式(8)から算出する。
【数4】

【0039】
前述の透過偏光度、透過ヘイズ、および全光線透過率の測定は、例えば、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4100と、必要に応じて150φ積分球付属装置を用いて行えばよい。
【0040】
以上の通り、本発明の偏光性拡散フィルムは、光学特性においては主に、可視光線に対する「全光線透過率」、「透過偏光度」および「透過ヘイズ」の3つの光学特性で特徴付けられうる。つまり、本発明の偏光性拡散フィルムにおいて、3つの光学特性が高次元でバランスされている。特に、「単位厚み当たりの透過ヘイズ」と、「透過偏光度」との両立に利点がある。この利点は、後述のフィルムの結晶化度や「結晶性が相対的に高く、分子配向が相対的に強い部分」と「結晶性が相対的に低く、分子配向が相対的に弱い部分」との混在状態により実現されていると考えることができる。
【0041】
本発明の偏光性拡散フィルムは、結晶性樹脂の樹脂フィルムを含み、好ましくは結晶性樹脂の一軸延伸樹脂フィルムを含む。本発明の偏光性拡散フィルムは、さらに好ましくは実質的に1種類の結晶性樹脂の一軸延伸樹脂フィルムを含む。一軸延伸樹脂フィルムが、複数種の異なる樹脂からなる樹脂アロイであると、種類の異なる樹脂同士の間に界面が生じて相分離し易いためである。特に、複数種の樹脂同士の相溶性が低いと、界面の接着力が弱いため、延伸時に界面が剥離してボイドが生じ易くなる。ボイドが生じると、ボイドにおける光線散乱が強くなりすぎて光線損失の原因となり、光拡散性の制御が困難となる。
【0042】
結晶性樹脂とは結晶性高分子を含む樹脂であり、結晶質領域の形成が多い樹脂材料である。ここで結晶性樹脂の固有複屈折が、一定以上の値であることが好ましい。
【0043】
固有複屈折とは「高分子の分子配向性の高さを示すパラメータ」であり、以下の式で示される。下記式において、Δnは固有複屈折;nは平均屈折率;Nはアボガドロ数;ρは密度;Mは分子量;αは分子鎖方向の分極率;αは分子鎖と垂直方向の分極率を示す。
【数5】

【0044】
固有複屈折が高い樹脂は、延伸やその他の手段で加工したときに、分子が配向して、その複屈折が大きくなる特性を有する。
【0045】
種々の樹脂の固有複屈折は、例えば特開2004−35347号公報などに記載されている。本発明の偏光性拡散フィルムに含まれる一軸延伸樹脂フィルムの結晶性樹脂の固有複屈折は、0.1以上であることが好ましい。固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂の例には、ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂および液晶性樹脂が含まれる。
【0046】
固有複屈折が0.1以上であるポリエステル系樹脂の具体例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが含まれ、好ましくはポリエチレンレテフタレートまたはポリエチレン-2,6-ナフタレートである。固有複屈折が0.1以上であるポリエステル系樹脂の具体例には、さらに、前記ポリエステル樹脂の共重合体や、前記ポリステル樹脂にコモノマーとしてイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール、ジメチルテレフタレートなどが0.1mol%以上含まれた樹脂も含まれる。
【0047】
固有複屈折が0.1以上である芳香族ポリエーテルケトン樹脂の具体例には、ポリエーテルエーテルケトンが含まれる。固有複屈折が0.1以上である液晶性樹脂の具体例には、エチレンテレフタレートとp−ヒドロキシ安息香酸の重縮合体が含まれる。
【0048】
固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂の主成分は、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートの例には、テレフタル酸とエチレングリコールとをモノマー成分とする重縮合体(ホモポリマー);テレフタル酸とエチレングリコール以外のコモノマー成分をさらに含む共重合体(コポリマー)が含まれる。
【0049】
ポリエチレンテレフタレートのコポリマーにおけるコモノマー成分の例には、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等のジオール成分;アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等のカルボン酸成分;およびジメチルテレフタレート等のエステル成分などが含まれる。
【0050】
ポリエチレンテレフタレートのコポリマーにおけるコモノマー成分の含有量は、5重量%以下であることが好ましい。一般的に、コモノマー成分は、結晶化を阻害する傾向があるが、上記範囲であれば、後述する明暗構造の形成を阻害しないからである。コモノマー成分は、結晶化を阻害する傾向があるので、結晶性の低い暗部で比較的多く含まれてもよい。なお、暗部と明部にそれぞれ含まれるコモノマー成分等の含有量は、異なっていてもよい。
【0051】
ポリエチレンテレフタレートの例には、同種類の樹脂の混合物として、前記ホモポリマーと前記コポリマーとの混合物;分子量の異なる前記ホモポリマー同士の混合物;分子量の異なる前記コポリマー同士の混合物なども含まれる。
【0052】
ポリエチレンテレフタレートは、本発明の効果を損なわない範囲で、該ポリエチレンテレフタレートと相溶する異種類の樹脂を含んでもよい。このような異種類の樹脂の例には、ポリエチレンナフタレートやポリブチレンテレフタレート等が含まれる。ただし、異種類の樹脂を多く添加しすぎると相分離することがある。このため、異種類の樹脂の含有量は、ポリエチレンテレフタレートに対して5重量%以下であることが好ましい。異種類の樹脂とポリエチレンテレフタレートとの混合による相分離の形成を確実に抑制するために、ナフタレンジカルボン酸等をコモノマー成分として少量共重合させることが好ましい。
【0053】
ポリエチレンテレフタレートは、本発明の効果を損なわない範囲で、低分子量ワックス、可塑剤、高級脂肪酸およびその金属塩等のその他成分を含んでもよい。ポリエチレンテレフタレートは、重合段階または重合後において、結晶核剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、耐光剤、アンチブロッキング剤、増粘剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、顔料、難燃剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0054】
結晶核剤は、主に、フィルムの機械的特性に影響をおよぼす、結晶化速度または結晶サイズを制御しうる。つまり、ポリエチレンテレフタレートの結晶化度は、樹脂の種類によってほぼ決定されるものであり、結晶核剤等の各種添加剤によって大きく影響されるものではない。結晶核剤の例には、リン酸、亜リン酸及びそれらのエステル並びにシリカ、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、タルク、アルミナ等の無機粒子;各種有機粒子が含まれる。
【0055】
その他成分および各種添加剤の添加量は、ポリエチレンテレフタレートに対して5重量%以下であることが好ましい。その他成分および各種添加剤は、例えばppmオーダーなどの少量しか含まれない場合は、必ずしもポリエチレンテレフタレートに対して相溶性を有しなくてもよい。
【0056】
本発明の偏光性拡散フィルムは、前述の一軸延伸樹脂フィルムを含むが;当該一軸延伸樹脂フィルムには、紫外線をカットするための公知の紫外線吸収剤、難燃性向上のための公知の難燃剤、耐光性向上のための公知の耐光剤、表示装置の画質を調整するための色剤などが適量含まれていてもよい。
【0057】
本発明の偏光性拡散フィルムに含まれる、結晶性樹脂からなる一軸延伸樹脂フィルムの結晶化度は、フィルムの寸法安定性を優先的に得るためには、8〜40%であることが好ましく;高い透過偏光度を優先的に得るためには、8〜30%であることが好ましい。結晶性樹脂からなる一軸延伸樹脂フィルムの結晶化度は、11〜29%であることがさらに好ましい。前述の所望の全光線透過率、透過ヘイズ、偏光選択性を得るためである。
【0058】
結晶化度は、密度法による測定やX線回折法による測定から求めることができるが、本発明での結晶化度は、密度法により測定したものである。密度法とは、樹脂の密度から結晶化度を求める方法である。基準とする樹脂の密度は、例えば以下の文献に記載されている。
R.de.P.Daubeny,C.W.Bunn,C.J.Brrown,Proc.Roy.Soc.,A226,531(1954)
【0059】
樹脂の密度の測定の好ましい例には、密度勾配管法による測定が含まれる。密度勾配管法とはJIS−7112に規定されており、測定溶液の調製以外はJIS−7112に準じて行うことができる。密度勾配管法による密度測定は、例えば、密度勾配管法比重測定用水槽(OMD−6/池田理化工業株式会社)を用いて行えばよい。
【0060】
また、結晶性樹脂からなる結晶化シートを一軸延伸することによって得たフィルム内には、結晶相と非晶相とが混在する。本発明の偏光性拡散フィルムにおいて、「結晶性が相対的に高い部分」と「非晶性が相対的に高く結晶性が相対的に低い部分」との混在状態は、フィルムを薄切片化して観察した透過型電子顕微鏡(TEM)画像により観察されうる。その混在状態は、フィルムを薄切片化して観察したTEM画像により、「明暗構造」として観察されうる。
【0061】
TEMで観察される明暗構造とは、TEM画像において「明部」と「暗部」とが混在している構造;具体的には「明部」と「暗部」とが海島を形成している構造をいう。図1Aおよび図1Bに示された本発明の偏光性拡散フィルムのTEM画像では、「明部」が、結晶性が相対的に高い部分であり;「暗部」が、結晶性が相対的に低い部分であると考えられる。TEM像における「明部」と「暗部」の結晶性の比較は、後述の顕微ラマン分析(分解能1μm)で明部と暗部との両方横切るようにスキャンして、ラマンスペクトルを分析して確認されうる。
【0062】
明部と暗部とは、実質的に同一組成の樹脂で構成される。「明部と暗部とが実質的に同一組成の樹脂で構成される」とは、「明部を構成する樹脂」中に「明部とは異なる組成の樹脂粒子やフィラーなどで構成される暗部」がある状態ではなく;両者を構成する成分が、実質的に同一組成の樹脂成分であることを意味する。
【0063】
図1Aは、延伸方向に平行なフィルム断面TEM像であり;図1Bは、延伸方向に垂直なフィルム断面TEM像である。図1Aおよび図1Bの撮像範囲のフィルム厚さ方向の距離は0.1μmであり、かつ撮像面積は45μmである。延伸方向に平行なフィルム断面TEM像には、延伸方向に伸びた構造の明部が見られる(図1A参照)。一方、延伸方向に対して垂直なフィルム断面TEM像には、方向性のない島状の明部か、またはフィルム表面と平行な方向に若干伸びた明部が見られる(図1B参照)。
【0064】
図1Bの延伸方向に垂直なフィルム断面TEM像における、島状の明部の長軸の大きさは、特に制限はないが、光学的な効果を実現する観点からは100nm以上、特に好ましくは100nm〜20μmである。なお、100nm未満の島相がともに存在していても差し支えない。
【0065】
さらに、本発明の偏光性拡散フィルムは、延伸方向に対して垂直な断面のTEM像(図1B参照)の二値化処理画像における「明部に対応する面積の割合」が、6〜80%であることが好ましく、10〜75%であることがより好ましく、30〜60%であることがさらに好ましい。
【0066】
TEM像における「明部」と「暗部」とは、必ずしも明らかではいないが、その部分の樹脂の密度や結晶性が異なると考えられる。密度や結晶性が相違するために、その屈折率や、配向性や、複屈折も相違すると考えられる。
【0067】
フィルムの断面TEM像において、明部が、暗部に分散している場合には、それぞれを構成する樹脂の屈折率の違いから、フィルムの界面反射あるいは光散乱が生じる。したがって、フィルムの断面TEM像において、適度な量の明部が分散していれば、フィルムの透過ヘイズが好適な範囲に調整されうる。
【0068】
TEM像における「明部」と「暗部」とは、その樹脂の密度・結晶化度の違いから配向性が異なり、複屈折に差が生じる。複屈折に差が生じる結果、延伸方向に対して平行な方向と垂直な方向とでは、異なる屈折率差が発生する。そのため、延伸方向に対して平行な偏光に対する反射率や光散乱と、垂直な偏光に対する反射率や光散乱に差が生じる。ポリエチレンテレフタレートのように、正の複屈折を有する結晶性樹脂では、延伸方向に対して平行方向の屈折率差が、垂直方向の屈折率差よりも大きくなるため、延伸方向に対して平行な偏光が、より反射および散乱されやすい。
【0069】
フィルムの断面TEM像における明部と暗部との界面が多いほど、延伸方向に対して平行な偏光と垂直な偏光とで、反射量や散乱量の差が大きくなり、フィルムの透過偏光度が大きくなる。各明部の面積が大きすぎたり、明部が連結して互いに分離していなかったりすると、暗部との界面が少なくなる。一方、明部と暗部との界面が多すぎると、散乱しすぎて光線損失が増えたり偏光が乱れたりする。従って、フィルムの断面TEM像における明部が、適度な量、適度な形状で分散していることが重要である。
【0070】
一軸延伸樹脂フィルムの断面のTEM画像を得るには、まず一軸延伸樹脂フィルムを切断して薄切片試料を得る。前記切断面を、一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して垂直として、かつフィルムの厚み方向に対して平行とする。薄切片試料は、一般的な手法で得ることができ、例えば樹脂包埋されたフィルムサンプルを、ウルトラミクロトームの試料ホルダーに固定し;剃刀刃を用いてトリミングを行い;ガラスナイフあるいは人工サファイヤナイフで面出しをして;ウルトラミクロトームのダイヤモンドナイフで0.1〜1μm厚みの薄切片を切り出す、ことにより得ることができる。
【0071】
得られた薄切片試料は、任意に染色をされてもよい。例えば、四酸化ルテニウム結晶の入った染色容器に切片試料を入れて、常温で約2時間蒸気染色してもよい。
【0072】
染色された、または染色されていない薄切片試料の切断面を、透過電子顕微鏡装置にて撮像して、TEM像(エンドビュー像)を得る。透過電子顕微鏡装置の例には、日立ハイテクノロジーズ社製H−7650が含まれる。加速電圧を、数10〜100kV程度に設定することが好ましい。観察倍率を、例えば、約1000〜4000倍とし;観察視野範囲を5〜10000μmとすることが好ましく、10〜1000μmとすることがより好ましい。約5000〜50000倍で画像を出力する。
【0073】
出力されたTEM画像のピクセル(画素)ごとの明るさと、画像全体の明るさの平均とを得る。全ピクセルの数に対する、平均よりも明るいピクセルの数の比率を「明部の面積分率」とする。
【0074】
画像処理は、一般に利用されている画像解析ソフト(例えば WayneRasband作成のImageJ 1.32S)を用いて行うことができる。具体的には、TEM画像をJPEGなどの一般的な画像デジタルファイル(グレースケール、例えば256階調)として;ピクセル毎に階調を求めて、ピクセル数と階調とをヒストグラム化して、画像全体の平均階調を求めて;平均階調を閾値として二値化処理を行い、閾値以上の階調(明るい)のピクセルを1、閾値未満の階調(暗い)のピクセルを0として;全ピクセル数に対する、値1のピクセルの数を算出して、明部の面積分率とする。
【0075】
なお、TEM観察状態あるいは画像出力における要因により、実際には同一の明るさを有するにも係わらず、出力された画像においては異なる明るさとして出力されることがある。例えば、画像の左側領域と右側領域とで、実際には同一の明るさを有するにも係わらず、異なる明るさとして出力されたり;画像の左側から右側にいくに従って、実際には同一の明るさを有するにも係わらず、徐々に明るくなる結果として出力されたりすることがある。このような場合には、バックグランド補正を行ってから、ヒストグラム化および平均階調算出、二値化処理をして、明部の面積分率を算出することが好ましい。
【0076】
本発明の偏光性拡散フィルムにおいて、「結晶性が相対的に高い部分」と「非晶性が相対的に高く結晶性が相対的に低い部分」との混在状態は、偏光性拡散フィルムの交差ニコル下での偏光顕微鏡画像により、「明暗構造」としても観察されうる。図2に示された交差ニコル下での偏光顕微鏡画像では、「明部」が、結晶性が相対的に高い部分であり;「暗部」が、結晶性が相対的に低い部分である。交差ニコル下での偏光顕微鏡画像における「明部」と「暗部」の、結晶性および配向性の比較は、後述の顕微ラマン分析(分解能1μm)で明部と暗部との両方横切るようにスキャンして、ラマンスペクトルを分析して確認されうる。
【0077】
交差ニコル下での偏光顕微鏡画像における明部と暗部とは、TEM画像における場合と同様に、実質的に同一組成の樹脂(高分子)で構成される。「明部と暗部とが実質的に同一組成の樹脂で構成される」とは、明部を構成する成分と、暗部を構成する成分とが実質的に同一組成の樹脂成分であることを意味する。
【0078】
図2は、結晶性樹脂の一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して平行な切断面に多色光を照射したときの直交ニコル下における偏光顕微鏡写真(観察範囲は約200μm)である。図2Aに示されるように、延伸方向に平行なフィルム断面の偏光顕微鏡像には、相対的に明るく見える「明部」と;相対的に暗く見える「暗部」とが観察される。「明部」と「暗部」とは海島構造を形成してもよい。明部は、主に延伸方向に伸びた長軸を有する島状でありうる。
【0079】
交差ニコル(直交ニコルを含む)下における偏光顕微鏡写真において、相対的に明るく見える部分(明部)は、結晶化度および配向度がいずれも高い傾向にあり、相対的に暗く見える部分(暗部)は、結晶化度および配向度がいずれも低い傾向にある。つまり、明部の結晶化度および配向度は、暗部の結晶化度および配向度よりも高い。結晶化度が大きいと、配向し易くなり;配向度が大きいと複屈折が大きくなる。したがって、「明部の結晶化度と配向度が暗部のそれよりも大きい」とは、「明部の複屈折が暗部よりも大きい」ことを意味する。
【0080】
このように、図1AのTEM像における「明部」は、図2の偏光顕微鏡像における「明部」と対応しており;図1AのTEM像における「暗部」は、図2の偏光顕微鏡像における「暗部」とほぼ対応していると考えられる。
【0081】
偏光顕微鏡画像は、透過像の入射光側、観察光側にそれぞれ偏光子(偏光フィルム)を配置した装置:NIKON OPTIPHOT−2を用いて観察される。偏光像は、撮影装置:CANON POWERSHOT A650を用いて、対物レンズ:×100、観察倍率:1000倍に設定して撮影される。
【0082】
一軸延伸樹脂フィルムの偏光顕微鏡画像は、フィルム表面をそのまま観察することにより得られるが、高い分析精度の偏光顕微鏡画像を得るためには、一軸延伸樹脂フィルムを切断して薄切片試料を得ることが好ましい。前記切断面を、一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して平行として、かつフィルムの厚み方向に対して平行とする。薄切片試料は、前述と同様の一般的な手法で得ることができる。一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して平行な切断面を有する切片の厚みは、明暗構造を観察し易くする点から、0.5〜2μmであることが好ましく、さらにラマン分析の空間分解能が1μmであることを考慮すると、切片の厚みは1〜2μmであることがより好ましく、1μmであることがさらに好ましい。
【0083】
本発明における交差ニコル状態とは、フィルムサンプルを挟む2つの偏光子の偏光軸のなす角が互いに交差する状態(平行ニコルでない状態)をいう。2つの偏光子の偏光軸が交差する状態で、これらの偏光軸の交差する角度を変えて明暗コントラストが最も高くなる角度を探し;その角度(例えば90°など)で明暗像を観察することが好ましい。
【0084】
本発明の偏光性拡散フィルムは寸法維持性が高く、すなわち熱にさらされても収縮しにくいこと、つまり収縮率が小さいことを特徴とする。収縮率とは、ある方向のフィルム長さに対する、加熱により収縮した前記方向のフィルム長さの比率をいう。例えば、延伸方向の収縮率は、収縮前の延伸方向のフィルム長さに対する、収縮後の延伸方向のフィルム長さの比率をいう。収縮しにくいとは、80℃で24時間加熱したときの、いずれの方向の収縮率も0.5%以下であること、好ましくは0.4%以下であること、さらに好ましくは0.3%以下であることをいう。
【0085】
本発明の偏光性拡散フィルムが、延伸フィルムである場合には、延伸方向の収縮率が高くなりやすい。そのため、80℃で24時間加熱したときの延伸方向の収縮率が0.5%以下であることが好ましい。一方、80℃で24時間加熱したときの延伸方向に直交しフィルム主面と平行な方向の弛緩率は、さらに小さいことが好ましく、0.4%以下、より好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.2%以下となりうる。
【0086】
本発明の偏光性拡散フィルムは、後述するように、液晶表示装置内の光学フィルムとして用いられる。液晶表示装置内において、光学フィルムは加熱されて、約80℃にまで加温される。そのため、80℃で加熱したときの収縮率が小さいことが求められる。もちろん、本発明の偏光性拡散フィルムは、80℃で24時間以上、好ましくは500〜1000時間加熱したときの収縮率も、0.5%以下であることが好ましい。ただし、80℃に加熱したときに、加熱開始から24時間以降はほとんど収縮が確認されないことが多い。
【0087】
本発明の偏光性拡散フィルムの寸法維持性は、後述の通り、延伸処理後に弛緩することにより低減されうる。一般的に行われる熱固定の場合、偏光性拡散フィルムを構成する樹脂のミクロ構造(結晶の配向状態など)が変化して、偏光選択性を低下させる恐れがある。ところが、本発明のフィルムは、偏光選択性を所定の範囲に維持しつつ、弛緩することにより寸法維持性が高められていることを特徴とする。弛緩における具体的条件は、後述する。
【0088】
2.偏光性拡散フィルムの製造方法
本発明の偏光性拡散フィルムの製造方法は、(1)延伸前の結晶化シートを得るステップと、(2)結晶化シートを一軸延伸するステップと、(3)延伸したフィルムを弛緩するステップ(弛緩ステップ)とを経て製造されうる。
【0089】
(1)延伸前の結晶化シートを得るステップ
延伸前の結晶化シートは、所定の範囲の結晶化度と透過ヘイズを有することが重要である。延伸後のフィルムに適切な透過ヘイズと透過偏光度の両方を付与するためである。
【0090】
延伸前の結晶化シートの結晶化度は、3%以上であることが好ましく、3〜30%であることがより好ましく、3〜20%であることがさらに好ましい。延伸前の結晶化シートの結晶化度が、このような範囲にあれば、延伸後の樹脂フィルムの結晶化度を、例えば8〜40%、好ましくは8〜30%に設定できるからである。
【0091】
延伸前の結晶化シートの結晶化度が高すぎると、結晶化シートが硬くなり、大きな延伸応力が必要となる。このため、結晶性が比較的高い部分だけでなく、結晶性が比較的低い部分も配向が強くなる。また、延伸前の結晶化シートの結晶化度が高すぎると、大きい結晶粒が含まれることがある。このため、一軸延伸させて得られたフィルムに、偏光性拡散フィルムとしての所望の光学特性が付与できなかったり、結晶化度が高すぎて延伸自体が困難になったりすることがある。一方、延伸前の結晶化シートの結晶化度が低すぎると、配向する結晶が少なく延伸応力があまりかからない。このため、結晶性が比較的高い部分も配向しにくくなる。
【0092】
延伸前の結晶化シートの結晶化度は、前述の通り、密度法による測定から求めることができる。結晶粒の大きさは、偏光顕微鏡による観察により求めることができる。
【0093】
延伸前の結晶化シートの可視光線に対する透過ヘイズは、7〜70%であることが好ましく、15〜60%であることがより好ましい。延伸後のフィルムの透過ヘイズを適切に調整し、実用的な偏光度を得るためである。延伸前の結晶化シートの透過ヘイズは、前述の偏光性拡散フィルムの透過ヘイズと同様に測定されうる。ただし、延伸前の結晶化シートは光学的異方性をほとんど有さないので、その透過ヘイズの測定は、偏光性拡散フィルムの向きを変えて平均値を求める必要はない。
【0094】
以上の通り、延伸前の結晶化シートの結晶化度と透過ヘイズを所定の範囲に調整することが重要であり;延伸前の結晶化シートの結晶化度は3〜20%であり、かつ可視光線に対する透過ヘイズは7〜70%であることが好ましい。延伸後のフィルムに高い偏光性と拡散性の両方を付与するためである。
【0095】
延伸前の結晶化シートの厚みは、(2)延伸ステップによって得ようとする延伸フィルムの厚みと延伸倍率によって主に決められるが、好ましくは50〜2000μmであり、より好ましくは80〜1500μm程度である。
【0096】
延伸前の結晶化シートは、a)非晶状態のポリエステル樹脂シートをヘイズアップ結晶化させることにより得ることができるが、さらに必要に応じて、b)延伸前に予熱することで、さらにヘイズアップ結晶化させて得ることもあり、特に限定されない。
【0097】
非晶状態のポリエステル樹脂シートは、市場から入手可能なものでもよく、押出成形などの公知のフィルム成形手段で作製されてもよい。ポリエステル樹脂からなるシートは、単層であっても、多層であっても構わない。
【0098】
非晶状態のシートを構成するポリエステル樹脂は、一定量以下のコモノマー成分を含みうる。コモノマー成分は、樹脂の結晶化を阻害する傾向を有するため、ヘイズアップ結晶化における結晶化速度を精密に制御することができる。さらに、コモノマー成分を含むポリエステル樹脂は、溶融状態での粘度や固体状態での柔軟性が良好であるため、後述の(2)延伸ステップにおける成形性にも優れる。
【0099】
非晶状態のポリエステル樹脂のヘイズアップ結晶化は、非晶状態のポリエステル樹脂シートを、所定の温度および時間で加熱することにより得られる。非晶状態のポリエステル樹脂シートの加熱は、非晶状態のポリエステル樹脂シートを、延伸装置(例えば、テンター延伸機の予熱ゾーン)にセットして一定の張力がかかった状態で加熱してもよいし、延伸装置以外の加熱手段(例えば、ギアオーブン、加熱ロール、赤外線ヒーターあるいはこれらを組み合わせたもの)などで加熱してもよい。
【0100】
非晶状態のポリエステル樹脂シートを加熱してヘイズアップ結晶化する場合の加熱温度(T1)は、ポリエステル樹脂の結晶化温度Tcの近傍に設定される。結晶化温度には、通常、冷結晶化温度Tccと溶融結晶化Thcがあるが、本発明における結晶化温度Tcは、冷結晶化温度Tccを意味する。ポリエステル樹脂の結晶化温度Tcは、通常、ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgと融解温度Tmとの間の温度範囲(Tg<Tc<Tm)にある。
【0101】
非晶状態のポリエステル樹脂シートをヘイズアップ結晶化させ易くするために、加熱温度(T1)は、「Tc−40℃≦T1<Tm−10℃」であることが好ましく、「Tc−30℃≦T1<Tm−10℃」であることがより好ましい。ポリエチレンテレフタレートの場合、T1は約105〜180℃である。ここで、Tcはポリエステル樹脂の結晶化温度であり、Tmはポリエステル樹脂の融解温度である。たとえば、ポリエチレンテレフタレートの結晶化温度Tcは、約115〜170℃である。
【0102】
ポリエステル樹脂の結晶化温度(Tc)は、シートまたは結晶化していない状態の(過冷却状態にある)ポリエステル樹脂の示差走査熱量分析(DSC)により求めることが好ましい。示差走査熱量分析(DSC)は、JIS K7122に準拠して行えばよい。ポリエステル樹脂の融解温度(Tm)も、JIS K7122に従って示差走査熱量分析により求めることが好ましい。
【0103】
非晶状態のポリエステル樹脂シートを加熱してヘイズアップ結晶化する場合の加熱時間は、結晶化シートが一定の結晶化度(例えば、3〜20%)と透過ヘイズ(例えば7〜70%)を満たすように設定されればよい。加熱時間が長いと結晶化度も高くなる。一方、加熱時間が短いと結晶化度も低くなる。非晶状態のポリエステル樹脂シートを加熱してヘイズアップ結晶化する場合の加熱時間は、加熱温度(T1)やシートの厚み、シートを構成する樹脂の分子量、添加剤およびコポリマーの種類や量または加熱方法によって異なるが、5秒〜20分であり、好ましくは10秒〜10分である。
【0104】
例えば、非晶状態のポリエチレンテレフタレートからなるシートを120℃のギアオーブンで加熱処理する場合、加熱時間は、1.5〜10分程度であることが好ましく、1.5〜7分程度であることがより好ましい。また120℃の加熱ロールで加熱する場合は10〜100秒であることが好ましく、より好ましくは15〜60秒である。
【0105】
ただし、延伸前の予熱をさらに行う場合は、この予熱においても、結晶化シートがさらに結晶化する場合がある。その場合、ヘイズアップ結晶化における加熱時間を、延伸前の予熱を考慮して、適宜短めに設定してもよい。
【0106】
いずれにしても、ヘイズアップ結晶化のための加熱温度および加熱時間は、加熱方法や、ライン速度および熱風の風量などの影響を考慮して、適宜調整されうる。
【0107】
前記の通り、ヘイズアップ結晶化されたシートを、さらに延伸前に予熱してもよい。延伸前の予熱とは、延伸装置にセットされたシートを延伸直前に加熱することで、延伸に適した柔らかさにすることである。
【0108】
延伸前の予熱によっても、結晶化が進行する場合がある。その場合には、ヘイズアップ結晶化の条件(加熱温度や加熱時間)を調整しておくことが好ましい。
【0109】
延伸前の予熱における予熱温度(T2)は、結晶化シートを延伸に適した柔らかさにするため、ガラス転移温度Tgの近傍温度以上の範囲に設定される。予熱温度(T2)は、後述する延伸温度(T3)と同じであってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレートからなる結晶化シートの場合は、樹脂の粘度や結晶化シートの結晶化度、更にはライン速度や風量によって異なるが予熱温度(T2)を概ね95〜180℃とする。
【0110】
延伸前の予熱における予熱時間は、延伸開始時の結晶化シートが所定の予熱温度に到達するよう適宜調整され得る。予熱時間が長すぎると、結晶化シートの結晶化度を過剰に(例えば、30%超に)高め、延伸自体を困難にすることがある。一方、延伸前の予熱時間が短すぎると、延伸開始時の結晶化シートの温度が充分高まらないため、延伸応力が高すぎて延伸が困難になる。例えば、ポリエチレンテレフタレートからなる結晶化シートの場合、予熱時間は0.1〜10分であることが好ましい。
【0111】
いずれにしても、予熱温度T2および予熱時間は、ライン速度や熱風の風量などの影響を考慮して、適宜調整されうる。
【0112】
(2)延伸ステップについて
延伸ステップは、「延伸前の結晶化シート」を延伸するステップである。「延伸前の結晶化シート」とは、前述のヘイズアップ結晶化により得られたシートであってもよいし;ヘイズアップ結晶化後、さらに予熱して得られたシートであってもよいし;その他のプロセスで得られたシートでもよい。
【0113】
延伸により、透過ヘイズと透過偏光度が制御されたフィルムを得る。
【0114】
ポリエステル樹脂からなる延伸前の結晶化シートを、一軸延伸する手段は特に限定されない。「一軸延伸」とは、一軸方向の延伸を意味するが、本発明の効果を損なわない程度に、当該一軸方向とは異なる方向に延伸されていてもよい。用いる延伸設備などによっては、一軸方向に延伸しようとしても、当該一軸方向とは異なる方向にも、実質的に延伸されることがある。前記「一軸延伸」には、このような延伸も含まれると解される。
【0115】
例えば、所望とする延伸方向に対して垂直な方向にも、シートが延伸されることがある。通常、純然たる一軸延伸とは、延伸前のシート原反4辺のうちの相対する2辺だけを固定して、延伸方向に垂直な方向の両端をフリーな状態にして延伸する(「横フリー一軸延伸」ともいう)。横フリー一軸延伸では、延伸に伴い延伸方向に垂直な方向はポアソン変形により収縮する。よって、延伸方向に垂直な方向には延伸されない。
【0116】
一方、原反の4辺を固定(クランプ)する場合、一方向にのみ原反を延伸しても、延伸方向に垂直な方向の端部は固定されている(「横固定一軸延伸」ともいう)ため収縮できず、延伸方向に垂直な方向にも、僅かではあるが実質的に延伸されたことになる。
【0117】
前記「一軸延伸」は、横フリー一軸延伸および横固定一軸延伸を含む。横フリー一軸延伸の例には、ロール延伸法等が含まれ、横固定一軸延伸には、上記以外にテンター法による横一軸延伸が含まれる。
【0118】
一軸延伸の延伸速度は特に限定されないが、5〜500%/秒とすることが好ましく、より好ましくは9〜500%/秒、さらに好ましくは9〜300%/秒である。延伸速度とは、初期のサンプル長さをLoとし、時間t後における延伸されたサンプルの長さをLとしたとき、以下の式で表される。延伸速度が速すぎると、延伸応力が増大して設備への負担が大きくなり、結果として均一に延伸し難いことがある。一方、延伸速度が遅すぎると、生産速度が極端に遅くなるため、生産性が低下することがある。
【数6】

【0119】
延伸速度は、延伸前の結晶化シートの結晶化度によって変わりうる。結晶化シートの結晶化度が高くなるほど、フィルムが硬くなって延伸応力が大きくなるため、最適な延伸速度は低くなる傾向がある。
【0120】
例えば、ポリエチレンテレフタレートからなる結晶化シートを約120℃で延伸する場合、延伸速度は5〜220%/secであることが好ましい。なお、延伸工程の初期から後期にわたって延伸速度は必ずしも一定でなくてもよく、例えば初期は25%/secとし、全体として10%/secとしてもよい。
【0121】
延伸温度(T3)が高いと、延伸時に結晶化シートにかかる応力が小さいため、結晶性が比較的高い部分ではなく、結晶性が比較的低い部分があまり配向せずに伸びてしまう。延伸温度(T3)が低いと、延伸時に結晶化シートにかかる応力が大きいため、結晶性が比較的高い部分だけではなく、結晶性が比較的低い部分も配向する。例えば、ポリエチレンテレフタレートからなる結晶化シートを延伸する場合、延伸温度(T3)は95〜135℃であることが好ましい。
【0122】
延伸温度(T3)は、予熱ステップにおける予熱温度(T2)と同じであっても異なってもよい。
【0123】
延伸倍率も、選択する樹脂に応じて選択され、特に限定されない。ポリエステル系樹脂の場合は、2〜10倍が好ましい。延伸倍率が大きすぎると、延伸切れが発生する可能性が高くなることがあり、小さすぎると十分な分子配向状態が得られないことがある。
【0124】
延伸ステップにより得られる延伸後のフィルムの厚みは、20〜500μmであり、好ましくは30〜300μmである。薄すぎるフィルムは、十分な剛性を有さず、平面性を保持し難くなり、取り扱いや液晶表示装置への組み込みが困難になる場合がある。一方、厚すぎるフィルムは、ロール形態に巻くことが困難であったり、必要樹脂量が増えて生産性を低下させたりする場合がある。
【0125】
従来のフィルム製造条件で、結晶性樹脂の原反や結晶化シートを一軸延伸した場合、原反段階で存在する微結晶(一般的にはラメラ晶で構成される球晶)や結晶化シートの球晶の大部分が解体され、一様に分子鎖が引き伸ばされることが多かった。このため、得られる延伸フィルムは、ほぼ均一な配向構造を有し、透明性も高かった。これに対して、本発明の一軸延伸樹脂フィルムは、ポリエステル樹脂を、所定の条件で結晶化させた結晶化シートを一軸延伸して得られることから、前述のような特定の明暗構造が得られる。これにより、所望の光学特性を発現する延伸フィルムを得ることができる。
【0126】
(3)弛緩ステップについて
(2)延伸ステップで得られた延伸フィルムは、弛緩されることが好ましい。弛緩は、加熱することで、フィルムを弛緩(収縮)させることにより、弛緩後のフィルムの長期寸法維持性を高めるための処理である。いずれの方向に弛緩させてもよいが、延伸方向は弛緩させることが好ましい。一方、延伸方向と直交しかつ前記フィルムの主面と平行な方向には、弛緩させても弛緩させなくてもよい。好ましくは、延伸方向にも、延伸方向と直交しかつ前記フィルムの主面と平行な方向にも弛緩させる。
【0127】
弛緩温度は、ガラス転移温度Tg以上の温度とすることが好ましく、(融解温度Tm−30)℃以下とすることが好ましい。弛緩温度が高すぎると、フィルムを構成する樹脂の結晶化が進行して、偏光選択性が低下することがある。
【0128】
弛緩は、延伸フィルムを実質的に固定せずに行うことが好ましい。実質的に固定しないとは、フィルムが収縮可能な状態をいう。したがって、張力がかからない状態であれば、フィルムを固定していてもかまわない。例えば、延伸方向に弛緩する場合は、テンター延伸した場合に、テンター幅よりも狭い幅で延伸フィルムを固定していてもよい。
【0129】
弛緩処理による、延伸方向の弛緩率は、2%以上20%以下が好ましい。より好ましくは、2.5%以上、18%以下であり、さらに好ましくは、3%以上、15%以下である。また、弛緩処理による、延伸方向と直交しかつ前記フィルムの主面と平行な方向の弛緩率は、0.5%以上1.9%以下が好ましく、1%以上1.5%以下がより好ましい。
【0130】
弛緩率があまりに大きい場合は有効幅が狭くなる為、生産性の観点から望ましくない。弛緩率とは、弛緩前の特定方向のフィルム長さに対する、弛緩により収縮した前記特定方向のフィルム長さの比率をいう。例えば、延伸方向の弛緩率とは、弛緩前の延伸方向のフィルム長さに対する、弛緩により収縮した延伸方向のフィルム長さの比率をいう。
【0131】
弛緩処理により、延伸方向にも、延伸方向と直交しかつ前記フィルムの主面と平行な方向にも弛緩させることができる。延伸方向への弛緩と、前記延伸方向と直交しかつ前記フィルムの主面と平行な方向の弛緩とは、同時におこなってもよく、逐次的に行ってもよい。両方向の弛緩を同時に行えば、弛緩により生じる応力によって、偏光性拡散フィルムが変形することが抑制でき、好ましい場合がある。両方向の弛緩を同時に行うには、延伸方向にも、前記延伸方向と直交しかつ前記フィルムの主面と平行な方向にも、張力がかからない状態(実質的に固定しない状態)にして、弛緩するフィルムを加熱すればよい。
【0132】
一方、フィルムを固定した状態で熱固定を行う場合、長期寸法維持性を高めるには、弛緩の場合と比べて高温で実施する必要があったり、長時間実施する必要があったりする。そのためよりミクロ構造が乱れやすく偏光選択性を低下させやすい。ここで、フィルムを固定するとは、フィルムが自由に収縮できない状態をいう。
【0133】
弛緩は、延伸フィルムを延伸装置内から取り出すことなく、弛緩してもよいし、延伸フィルムを延伸装置から取り出し、別途の手段で弛緩してもよい。
【0134】
3.偏光性拡散フィルムの用途
本発明の偏光性拡散フィルムは、好ましくは液晶表示装置の光学フィルムとして用いられる。本発明の偏光性拡散フィルムを、液晶表示装置内に配設したときに、液晶表示装置の輝度、特に正面輝度を高めるために、本発明の偏光性拡散フィルムの一方の面、または両方の面は、集光機能を有する表面形状を有することが好ましい。通常、一方の面にだけ集光機能を有する形状を有することがより好ましい。例えば、偏光性拡散フィルムを、液晶表示装置の部材として用いる場合には、「偏光板と接する側の表面」に集光機能を有する表面形状を有することが好ましい。
【0135】
偏光性拡散フィルムの表面形状を、集光機能を有する表面形状とすることにより、偏光選択性により選択的に透過し、拡散性により斜め方向に出射する偏光を正面方向に集めることができるので、正面輝度がより向上する。このように、集光機能と偏光反射特性とを併せもつ偏光性拡散フィルムは、「従来から用いられるプリズムフィルムまたはマイクロレンズフィルムと、偏光性拡散フィルムとを組み合わせる」場合よりも、低コストで正面輝度をより向上させることができる。
【0136】
従来から用いられるプリズムフィルムやマイクロレンズフィルムとして一般的なフィルムは、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを表面加工したフィルムである。これらのフィルムと、偏光選択性を有する偏光性拡散フィルムとを組み合わせても、二軸延伸PETフィルムの位相差が大きいため、選択された偏光が二軸延伸PETフィルムを透過するときに、偏光が乱れる。そのため、偏光反射の効果が損なわれる。また、プリズムフィルムまたはマイクロレンズフィルムと偏光性拡散フィルムとを組み合わせて用いる場合に比べて、本発明の偏光性拡散フィルムは、コスト低減を実現し、且つ、液晶表示装置の厚みを減らすこともできる。
【0137】
集光機能を有する表面形状の例には、一次元プリズム状(図3参照)、二次元プリズム状(図4参照)、マイクロレンズ形状(図5参照)、ウェーブ状などが含まれるが、特に限定されない。
【0138】
一次元プリズムとは、複数の三角柱が列状に配置されている状態をいう(図3参照)。図3には、一次元プリズム状の表面形状を有する偏光性拡散フィルムの、プリズムの稜線に対して垂直な断面図が示される。プリズムピッチP1は等ピッチでも不等ピッチでも良いが約1〜200μmであることが好ましく、プリズム頂角θ1は約85〜95度であることが好ましく、プリズムの高さh1は約0.4〜110μmであることが好ましい。プリズムの稜線は、偏光性拡散フィルムの一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に平行に沿っているか、または直交していることが好ましい。偏光性拡散フィルムの製造において、一軸延伸樹脂フィルムのシート取り効率を高めるためである。
【0139】
二次元プリズムとは、複数の四角錐がマトリクス状に配置されている状態をいう(図4参照)。図4には、二次元プリズム状の表面形状を有する偏光性拡散フィルムの、断面を含む斜視図が示される。四角錐の頂点同士の距離P2は等ピッチでも不等ピッチでも良いが約1〜200μmであることが好ましく;四角錐の底面からの高さh2は約0.4〜110μmであることが好ましい。プリズム頂角θ2は、約85〜95度であればよい。
【0140】
マイクロレンズ形状とは、複数の凸レンズがフィルム表面に配置されている状態をいう(図5参照)。凸レンズは、規則性をもって配置されていてもよく、ランダムに配置されていてもよい。規則性をもった配置とは、最密充填されるように配置されることなどをいう。レンズ形状は球面、非球面のいずれかに特に限定されず、形状及び大きさは所望する集光性能および拡散性能に応じて適宜選択される。図5(A)には、マイクロレンズ形状の表面形状を有する偏光性拡散フィルムの上面図が示され;図5(B)には、フィルムの断面図が示される。各マイクロレンズのレンズ径Dは約4〜200μmであることが好ましく、レンズの高さh’は約2〜100μmであることが好ましい。
【0141】
本発明の集光機能を有する表面形状を備えた偏光性拡散フィルムの厚さは、集光機能を有する表面形状の厚さも合わせて、20〜650μmであることが好ましい。
【0142】
前記の通り、本発明の偏光性拡散フィルムの表面は、集光機能を有する表面形状を有してもよいが、当該表面形状は、前述の一軸延伸樹脂フィルム自体の表面形状であってもよく;一軸延伸樹脂フィルムの表面に別個に配置された層の形状であってもよい。別個に配置された層は、一軸延伸樹脂フィルムに直接接触している層であることが好ましく;つまり、接着層などを介さずに、直接配置されていることが好ましい。
【0143】
集光機能を有する表面形状を形成する方法は特に限定されず、慣用の方法を利用することができる。例えば、一軸延伸樹脂フィルム自体の表面形状を、集光機能を有する表面形状にするには、一軸延伸樹脂フィルムの表面に金型を、例えば樹脂のガラス転移温度Tg以上、結晶化温度Tc以下の温度条件で熱プレスして、冷却固化後、金型を剥離することにより形成すればよい。熱プレスは、平板積層プレスのほか、賦形ロールを用いたロールプレス、ダブルベルトプレスなどの方法を用いて行うことができる。
【0144】
また、一軸延伸樹脂フィルムの表面に別個に配置された層の形状を、集光機能を有する表面形状にするには、一軸延伸樹脂フィルムの表面に、活性エネルギー線硬化樹脂を注入した金型を重ねて密着状態とし;これに活性エネルギー線を照射して樹脂硬化を行い;金型を剥離すればよい。活性エネルギー線硬化樹脂の例には、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂などが含まれる。
【0145】
本発明の偏光性拡散フィルムの表面に、公知の易接着処理や易滑処理を施してもよい。さらに偏光性拡散フィルムの表面に、公知の処理方法により反射防止処理やアンチニュートンリング処理、帯電防止処理、ハードコート処理を施してもよい。
【0146】
4.液晶表示装置
本発明の偏光性拡散フィルムは、液晶表示装置の光学フィルムとして用いられることが好ましい。具体的に、本発明の液晶表示装置は、(A)液晶バックライト用面光源、(B)少なくとも1の光学素子および/またはエアギャップ、(C)本発明の偏光性拡散フィルム、ならびに(D)液晶セルを2以上の偏光板で挟んでなる液晶パネルを含む。ここで、前記(A)から(D)の各部材は、上記の順に配設されている。
【0147】
(A)液晶バックライト用面光源
液晶バックライト用面光源は、公知の光源を導光板側面に配設したサイドライト(エッジライト)型面光源、あるいは拡散板下に公知の光源を配列させた直下型面光源などでありうる。公知の光源の例には、冷陰極管(CCFL)や熱陰極管(HCFL)、外部電極蛍光管(EEFL)、平面蛍光管(FFL)、発光ダイオード素子(LED)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)が含まれる。
【0148】
(B)光学素子および/またはエアギャップ
光学素子とは、液晶バックライト用面光源からの光を拡散する素子である。前記光学素子の例には、フィラーあるいはビーズ含有のバインダーを塗装した拡散フィルム、プリズムシート、およびマイクロレンズシートが含まれる。
【0149】
エアギャップとは、液晶バックライト用面光源と本発明の偏光性拡散フィルムの間に設けられる空気層である。この空気層は液晶バックライト用面光源と偏光性反射フィルムとの間の反射界面となり、かつ液晶バックライト用面光源からの光を拡散することができる。エアギャップの例には、プリズムシートの凹部に形成される空気層が含まれる。
【0150】
(D)液晶セルを2以上の偏光板で挟んでなる液晶パネル
液晶セルは、二枚の基板の間にシールされた液晶を含む装置である。基板は、公知の材料で構成されればよく、その例には、ガラス板、プラスチックフィルムが含まれる。偏光板も公知の材料で構成されていればよく、その例には、二色性色素を用いた二色性偏光板が含まれる。下部偏光板は、(A)面光源側に配置され;上部偏光板は、表示画面側に配置される。下部偏光板の吸収軸と、上部偏光板の吸収軸とは、互いに直交している。
【0151】
大型の表示画面(例えば20インチ以上)を有する液晶表示装置では、一般的に偏光板の吸収軸が表示画面の横方向と一致していることが多い。一方、中小型の表示画面(例えば20インチ未満)を有する液晶表示装置では、一般的に偏光板の吸収軸を、表示画面の縦横に対して、45°傾けて配置することが多い。
【0152】
前記(A)〜(D)の各部材は、(A),(B),(C),(D)の順に配置されていることが好ましい。図6は、本発明の液晶表示装置の一例を示す分解図である。図6において(A)サイドライト型の液晶バックライト用面光源は、導光板50と反射シート60と光源70とで構成される。図6には、(C)偏光性拡散フィルム30と、ビーズ塗布型拡散フィルム等の(B)光学素子40とが示される。なお、図6において光学素子40が、複数枚配置される態様もありうるし、配置されない態様もありうる。(D)液晶パネルは、液晶セル10と上部偏光板20と下部偏光板21とで構成される。
【0153】
図7は、本発明の液晶表示装置の他の例を示す分解図である。(A)サイドライト型の液晶バックライト用面光源に代えて、(A)直下型面光源と、拡散板とが配置された以外は、図6の液晶表示装置とほぼ同様に構成される。(A)直下型面光源は、面内に配列された光源70と、反射シート60とで構成される。拡散板80は、(A)直下型面光源と、拡散フィルム、プリズムシート、マイクロレンズシート等の(B)光学素子40との間に配置される。なお、図7において、光学素子40が、複数枚配置される態様もありうるし、配置されない態様もありうる。
【0154】
図8は、本発明の液晶表示装置の表示機構を説明する図である。図8において、偏光性拡散フィルム30の延伸軸が、紙面水平となるように配置されている。偏光性拡散フィルム30は、その延伸軸に垂直な偏光を透過させ、延伸軸と平行な偏光を反射する性能を有する。下部偏光板21は、吸収軸が紙面水平となるように配置されている。
【0155】
光源から発せられた非偏光100は、偏光性拡散フィルム30の延伸軸に平行な偏光方向を有する偏光Pと、偏光性拡散フィルム30の延伸軸に垂直な偏光方向を有する偏光Vとを有する。非偏光100に含まれる偏光Vの多くは、偏光性拡散フィルム30を透過し、偏光V101となる。偏光V101は、下部偏光板21に吸収されずに透過し、表示光となる。偏光V101の大部分は、偏光を維持したまま光線出射方向に拡散しているため、広い視野角において表示光となる。
【0156】
一方、非偏光100に含まれる偏光Pの一部は、偏光性拡散フィルム30を透過して拡散し、偏光P102となる。偏光P102は、下部偏光板21で吸収される。また、非偏光100に含まれる偏光Pの残りの多くは反射されて、反射された光の多くは偏光P103となる。
【0157】
偏光P103は、さらに光学素子や反射シート(いずれも図示せず)で反射されるとともに偏光が解消され、反射光104となる。反射光104は、非偏光100として再利用される。本発明の液晶表示装置は、このような機構により、光を再利用できるので、視野角を広げつつ輝度を高くすることが可能となる。
【0158】
図8に示す装置においては、偏光性拡散フィルム30は、該偏光性拡散フィルム30の反射軸(一軸延伸で作成した場合は、延伸軸)が下部偏光板21の吸収軸とほぼ平行となるように設置されることが好ましい。表示光の量を多くし、かつ光の利用効率を高められるからである。
【0159】
本発明の液晶表示装置において、(C)偏光性拡散フィルムは、前記(D)液晶パネルに隣接して配置されることが好ましい。このような構成とすると、従来の液晶表示装置において(B)と(D)の間に配置された「上拡散フィルム」などが不要となりうる。すなわち、本発明の液晶用表示装置は、優れた偏光拡散性を有する(C)偏光性拡散フィルムを有するので、上拡散フィルム等の部材を有しなくても、輝度ムラが少なく、かつ輝度が向上されている。
【0160】
もちろん、(C)偏光性拡散フィルムと(D)液晶パネルの間に、他のフィルムを配置してもよいが、この場合は、当該他のフィルムは、(C)偏光性拡散フィルムから透過した偏光Vを、あまり乱さない、反射しない、または吸収しないフィルムとすることが好ましい。
【0161】
前述の通り、(C)偏光性拡散フィルムの表面に一次元プリズムが形成されている場合には、そのプリズムの稜線が、一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向と平行または垂直に配置されることが好ましい。一方、一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向と平行に配置される下側偏光板の吸収軸は、前述の通り一般的に大型の表示画面(例えば20インチ以上)を有する液晶表示装置(例えば液晶テレビ)の表示画面の縦方向と平行に配置されることが多い。
【0162】
したがって、一次元プリズムの稜線が、一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向と平行に配置された場合には、表示画面の縦方向と平行となることが多い。一次元プリズムの稜線が、延伸樹脂フィルムの延伸方向と平行であると、偏光選択性の向上が見込まれる。
一方、一次元プリズムの稜線が、延伸樹脂フィルムの延伸方向と垂直に配置された場合には、表示画面の横方向と平行となることが多い。一次元プリズムの稜線が、表示画面の横方向と平行であると、斜め方向の輝度の低下が少なくなる。
【0163】
偏光板の吸収軸を、表示画面の縦横に対して45°傾けて配置する場合には、本発明の偏光性拡散フィルムの表面を、一次元プリズムよりもむしろ、マイクロレンズ形状とすることが好ましい。
【0164】
また一般に、偏光板はその表面を保護するためにフィルムを有する。しかし、本発明の液晶表示装置においては、(C)偏光性拡散フィルムを、液晶パネルを構成する偏光板であって、光源側に配置される偏光板(下部偏光板)の保護フィルムとしての役割を有しうる。すなわち、本発明の(C)偏光性拡散フィルムは、偏光板と一体化されて「偏光性拡散機能付きの偏光板」とされてもよい。通常、偏光板の偏光子は一軸延伸で製造され、その延伸方向が吸収軸となる。そのため、(C)縦一軸ロール延伸により製造した偏光性拡散フィルムと偏光子とを、ロール・ツー・ロールにて貼り合わせれば、容易に「偏光性拡散機能付きの偏光板」を製造できる。
【0165】
以上から、本発明の(C)偏光性拡散フィルムを用いると、従来液晶表示装置の構成部材として使用されていた部材を省略できる。部材が省略された液晶用表示装置は、低コストであり、かつ薄型であるという利点がある。
【0166】
従来の液晶表示装置は、輝度向上、輝度ムラ低減、視野角向上のいずれか、あるいはこれらの全部を達成するために、(A)と(D)の間に次の部材を含んでいる。
1枚または複数枚の拡散フィルム;1枚または複数枚の拡散フィルムと、1枚または複数枚のプリズムシート;あるいは1枚または複数枚の拡散フィルムと、1枚または複数枚のプリズムシートと、1枚の上拡散フィルム。
また、従来の液晶表示装置は、拡散フィルムの代わりにマイクロレンズフィルムを備える場合もあるし、(D)に隣接する偏光反射フィルム(住友スリーエム社製DBEF等)を備える場合もある。
【0167】
一方、本発明の液晶表示装置は、優れた偏光拡散性を有するフィルムを備えるので、プリズムシートや上拡散フィルム、DBEFなどの部材を備えずとも、高輝度かつ広視野角で輝度ムラの少ない液晶用表示装置となり、しかも、低コストな装置である。
【実施例】
【0168】
実施例および比較例を参照して、本発明をさらに詳細に説明するが、これらによって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0169】
[延伸フィルムの調製1]
三井化学社製ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井PET J125)を原料とし、300mm幅Tダイを備えた40mmφ単軸押出機にて、押出温度270℃、押出量20kg/hrでTダイ製膜して厚さ600μmのキャスティングシートを得た。
【0170】
得られたキャスティングシートを、表面温度120℃の加熱ロール上で45秒間加熱し、加熱原反を得た。加熱原反の押出時MD方向を延伸方向とし、延伸速度を24mm/秒として、一軸延伸して延伸樹脂フィルムを得た。得られた延伸樹脂フィルムの厚さは123μmであった。
【0171】
[弛緩処理1]
得られた延伸フィルムを、延伸装置内から取りだすことなく、オンラインで弛緩処理した。表1には、弛緩または熱固定の条件(処理温度と、フィルムを固定したかどうか)と、弛緩による弛緩率とが示される。表1に示されるように、実施例1〜4および比較例2〜4においては、延伸フィルムを収縮可能な状態にしておき、90℃または110℃にて加熱することで、弛緩を行い;比較例5では、フィルムが収縮できないように固定した状態で、加熱することで熱固定を行い;比較例1では、弛緩をしなかった。
【表1】

【0172】
実施例1〜4および比較例1〜5で得られたフィルムの光学特性、すなわち全光線透過率、透過ヘイズ、透過偏光度、および100μmあたりの透過偏光度を、それぞれ測定・算出した。これらの測定は、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4100と、150φ積分球付属装置を用いて行った。また、各フィルムの結晶化度も測定した。具体的には、密度勾配管法比重測定用水槽(OMD−6/池田理化工業株式会社)を用いて、密度勾配管法に準じて密度を求め、求めた密度から結晶化度を算出した。これらの結果を表2に示す。
【表2】

【0173】
表2に示される通り、いずれの実施例および比較例のフィルムも、所望の光学特性を有していることがわかった。
【0174】
寸法維持性試験
次に、実施例1〜4および比較例1〜5で得られたフィルムを熱にさらした場合の寸法維持性を評価した。具体的には、各フィルムを加熱炉内に載置して、80℃で24時間加熱した。加熱前のフィルムの延伸方向の長さと、加熱後のフィルムの延伸方向の長さとから、収縮率を算出した。
【表3】

【0175】
表3に示される通り、実施例1〜4のフィルムの収縮率は、0.3%以内に低減されていることがわかる。このことは、一定以上の弛緩(弛緩率:2.6%以上)をさせておいたためである。一方で、弛緩をしなかった比較例1、弛緩率が1.7%以下である比較例2〜4、透過偏光度を著しく低下させない条件でフィルムを固定して熱固定した比較例5では、寸法維持性試験で0.7%以上の収縮が確認された。
【0176】
図9は、弛緩率と、寸法維持性試験における収縮率との関係を示すグラフである。図9のグラフに示されるように、弛緩率が低いほど、寸法維持性試験における収縮率が高いことがわかるが;弛緩率を2%以上にすると、収縮率も0.5%以下となっている。
【0177】
図10は、弛緩率と、透過偏光度@100μmとの関係を示すグラフである。図10のグラフに示されるように、弛緩率が低いほど、透過偏光度が高いことがわかる。本発明の偏光性拡散フィルムは、弛緩率を適正に調整することで、寸法維持安定性と、透過偏光度とを高度にバランスされている。
【0178】
図11Aは、弛緩処理前の延伸フィルムの、延伸方向に対して垂直な断面のTEM写真であり;図11Bは、弛緩処理前の延伸フィルムの、延伸方向に対して平行な断面のTEM写真である。一方、図11Cは、実施例1の弛緩処理後のフィルムの、延伸方向に対して垂直な断面のTEM写真であり;図11Dは、実施例1の弛緩処理後のフィルムの、延伸方向に対して平行な断面のTEM写真である。弛緩処理前のTEM画像にて示されるような分散状態(明暗構造)が、弛緩処理後のTEM画像でも観察されることがわかる。
【0179】
[延伸フィルムの調製2]
三井化学社製ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井PET J005)を押出機に供給して275℃で溶解し、口金より押出し、静電印加法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラム上で冷却固化し、厚さ800μmのキャスティングシートを得た。
【0180】
得られたキャスティングシートを表面温度125℃の加熱ロール上で加熱して、結晶化シートを得た。結晶化シートを5倍に一軸延伸して延伸フィルムを得た。得られたフィルムの厚さは、155μmであった。
【0181】
[弛緩処理2]
得られた延伸フィルムを延伸機から取り出した後、ロール間に設置したIRヒーターを用いてフィルムを加熱して弛緩処理を行った。弛緩処理は、延伸方向(TD方向)にも、延伸方向に直交する方向(MD方向)にもフィルムを固定せずに、収縮可能な状態にして行った。表4には、弛緩温度と、弛緩時間と、弛緩処理による弛緩率を示す。
【表4】

【0182】
実施例5〜6ならびに比較例6で得られたフィルムの光学特性、すなわち全光線透過率、透過ヘイズ、透過偏光度、および100μmあたりの透過偏光度を、それぞれ測定・算出した。これらの測定は、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4100と、150φ積分球付属装置を用いて行った。比較例6の弛緩未処理のフィルムの透過偏光度に対する、実施例5および実施例6の弛緩処理フィルムの透過偏光度の低下率を求めた。
【0183】
また、実施例5〜6および比較例6で得られたフィルムの結晶化度も測定した。具体的には、密度勾配管法比重測定用水槽(OMD−6/池田理化工業株式会社)を用いて、密度勾配管法に準じて密度を求め、求めた密度から結晶化度を算出した。これらの結果を表5に示す。
【表5】

【0184】
表5に示される通り、いずれの実施例および比較例のフィルムも、所望の光学特性を有していることがわかった。ただし、弛緩処理による弛緩率が大きかった実施例6のフィルムは、透過偏光度の低下率が大きい。一方、弛緩処理による弛緩率が適度に調整された実施例5のフィルムは、透過偏光度の低下率もわずかであった。
【0185】
寸法維持性試験
次に、実施例5〜6および比較例6で得られたフィルムを熱にさらした場合の寸法維持性を評価した。具体的には、各フィルムを加熱炉内に載置して、80℃で24時間加熱した。加熱前のフィルムのTD方向およびMD方向の長さと、加熱後のフィルムのTD方向およびMD方向の長さとから、収縮率を算出した。算出結果を表6に示す。
【表6】

【0186】
表6に示される通り、実施例5〜6のフィルムの収縮率は、0.4%以下に低減されていることがわかる。これは、延伸後のフィルムに弛緩処理をしたためである。一方で、弛緩処理をしなかった比較例6では、収縮率が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明の偏光性拡散フィルムは、偏光性と拡散性とを併せもち、かつ熱にさらされたときの形状安定性にも優れるので、特に液晶表示装置の光学フィルムとして好適に用いられうる。
【符号の説明】
【0188】
10 液晶セル
20 上部偏光板
21 下部偏光板
30 偏光性拡散フィルム
40 光学素子
50 導光板
60 反射シート
70 光源
80 拡散板
100 光源からの非偏光
101 偏光V
102 偏光P
103 偏光P
104 反射光
P1 プリズムピッチ
θ1、θ2 プリズム頂角
h1 プリズム高さ
P2 四角錐の頂点同士の距離
h2 四角錐の底面からの高さ
D 球面のレンズ径
h’ 球面高さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に1種類の固有複屈折が0.1以上の結晶性樹脂からなる偏光性拡散フィルムであって、
可視光線に対する全光線透過率が50〜90%であり、
可視光線に対する透過ヘイズが15〜90%であり、
可視光線に対する透過偏光度が20〜90%であり、かつ
24時間、80℃で処理した際の収縮率が0.5%以下である、偏光性拡散フィルム。
【請求項2】
前記偏光性拡散フィルムの結晶化度は、8〜40%であり、
前記偏光性拡散フィルムに多色光を照射したときの、交差ニコル下における偏光顕微鏡観察において、明部と暗部とが観察され、
前記明部と暗部が、実質的に同一の組成からなり、
前記明部は、長軸を有し、かつ各明部の前記長軸が互いに略平行である、請求項1記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項3】
前記偏光性拡散フィルムの結晶化度は、8〜40%であり、
前記偏光性拡散フィルムは、前記固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂の一軸延伸樹脂フィルムからなり、
前記一軸延伸樹脂フィルムは、フィルム厚さを100μmとしたときの、可視光線に対する透過ヘイズが20〜90%であり、
前記一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して垂直な切断面のTEM像(撮像範囲のフィルム厚さ方向の距離は0.1μm、かつ撮像面積は45μm)で明暗構造が観察され、
前記明暗構造の明部と暗部とが実質的に同一の組成で構成される、請求項1記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項4】
フィルム厚さを100μmとしたときの、透過偏光度が30〜90%である、請求項1記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項5】
前記結晶化度が8〜30%である、請求項1記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項6】
前記結晶性樹脂は、ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、または液晶性樹脂である、請求項1記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項7】
前記結晶性樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂である、請求項6記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項8】
前記偏光性拡散フィルムの少なくとも一方の表面が、集光機能を有する表面形状を有する、請求項1記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項9】
前記集光機能を有する表面形状が、前記偏光性拡散フィルムの表面形状であるか、または前記偏光性拡散フィルムの表面に接する樹脂層の形状である、請求項8記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項10】
前記集光機能を有する表面形状が、一次元プリズム、二次元プリズム、またはマイクロレンズである、請求項8記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項11】
請求項1に記載の偏光性拡散フィルムの製造方法であって、
固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂からなる非晶状態のシートを加熱して、結晶化シートを得るステップと、
前記結晶化シートを主として一軸方向に延伸して延伸フィルムを得るステップと、
前記延伸フィルムを、実質的に固定することなく、前記延伸フィルムのガラス転移温度以上の温度にて、前記延伸方向の弛緩率が2%以上となるまで加熱するステップと、
を含む、偏光性拡散フィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の偏光性拡散フィルムの製造方法であって、
固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂からなる非晶状態のシートを加熱して、結晶化シートを得るステップと、
前記結晶化シートを主として一軸方向に延伸して延伸フィルムを得るステップと、
前記延伸フィルムを、実質的に固定することなく、前記延伸フィルムのガラス転移温度以上の温度にて、前記延伸方向と直交しかつ前記フィルムの主面と平行な方向の弛緩率が0.5%以上となるまで加熱するステップと、
を含む、偏光性拡散フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記結晶化シートを得るステップでは、下記式(2)で表される温度Tにおいて、結晶化度が3%以上となるまで前記非晶状態のシートを加熱する、請求項11または12記載の偏光性拡散フィルムの製造方法。
Tc−40℃≦T<Tm−10℃ (2)
(式(2)において、Tcは前記結晶性樹脂の結晶化温度、Tmは前記結晶性樹脂の融点を表す)
【請求項14】
前記結晶化シートの、可視光線に対する透過ヘイズが7〜70%であり、かつ結晶化度が3〜20%である、請求項11または12記載の偏光性拡散フィルムの製造方法。
【請求項15】
(A)液晶バックライト用面光源、(B)少なくとも1つの光学素子および/またはエアギャップ、(C)請求項1に記載の偏光性拡散フィルム、ならびに(D)液晶セルを2以上の偏光板で挟んでなる液晶パネルを少なくとも含み、かつ
前記(A)から(D)の各部材が、上記の順に配置されている、液晶表示装置。
【請求項16】
前記(C)偏光性拡散フィルムは、前記(D)液晶パネルに隣接して配置されている、請求項15記載の液晶表示装置。
【請求項17】
前記(C)偏光性拡散フィルムは、前記(D)液晶パネルを構成する偏光板の光源側保護フィルムを兼ねる、請求項16記載の液晶表示装置。
【請求項18】
前記(C)偏光性拡散フィルムの反射軸と、前記(D)液晶パネルを構成する偏光板であって前記光源側に配置される偏光板の吸収軸方向とは、ほぼ同じである、請求項16記載の液晶表示装置。


【図1C】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−145642(P2011−145642A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114450(P2010−114450)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】