説明

偏光板用接着剤組成物及びこれを利用した偏光板{ADHESIVECOMPOSITIONFORPOLARIZERANDPOLARIZERUSINGTHESAME}

【課題】加湿熱条件下で優れた接着性と耐温水性が向上し、クニックの発生を抑制できる偏光板用接着剤組成物及びこれを利用した偏光板。
【解決手段】偏光板用接着剤組成物は、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂、水、沸点が100℃以下のアルコール系溶剤、及び以下の化学式で表されるグリオキシル酸塩を含む。アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂は、水の100重量部に対して1乃至8重量部含まれ、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂及びグリオキシル酸塩の固形分の重量比は、1:0.03乃至1:0.25であり、水とアルコール系溶剤の重量比は99:1乃至30:70であり、pHが4乃至10である。


[式中、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nは1または2である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板用接着剤組成物及びこれを利用した偏光板に関し、さらに詳しくは、加湿熱条件下で優れた接着性と耐温水性が向上し、クニックの発生を抑制できる偏光板用接着剤組成物及びこれを利用した偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、その画像形成方式の面において、液晶パネルの表面を形成するガラス基板の両側に偏光子を配置することが必要不可欠である。偏光子は、一般的にポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素などの二色性材料で染色した後、架橋剤を利用して架橋し、一軸延伸して製膜することによって得られる。偏光子は、延伸により作製されるため収縮しやすい。また、ポリビニルアルコール系フィルムは、新水性ポリマーを用いるため、特に加湿熱条件下では非常に変形されやすい。また、フィルム自らの機械的強度が弱いため、フィルムが破れるなどの問題がある。そのため、偏光子の両側または片側にトリアセチルセルロースなどの透明な保護フィルムを接着し、強度を補充した偏光板が利用されている。このような偏光板は、偏光子と透明保護フィルムを接着剤により接着することによって製造されている。
【0003】
最近の液晶表示装置は、用途が拡大され、携帯端末から家庭用大型テレビまで幅広く展開されてきており、各用途に応じてそれぞれの規格が形成される。特に、携帯端末の用途では、使用者が持ち運ぶことを前提とするため、耐久性に対する要求が非常に厳しい。例えば、偏光板には結露が生じる加湿熱条件下でも特性や形状が変化しないという耐温水性が要求されている。
【0004】
偏光子は、保護フィルムにより強度を補強し、偏光板として用いられる。偏光子と保護フィルムとの接着に利用する偏光板用接着剤としては、水系接着剤が好ましいが、例えば、ポリビニルアルコール水溶液に架橋剤を混合したポリビニルアルコール系接着剤が用いられている。しかし、ポリビニルアルコール系接着剤は、加湿熱条件下では偏光子と透明保護フィルムとの界面で剥離が生じる場合がある。これは、接着剤の主成分であるポリビニルアルコール系樹脂が水溶性高分子であるため、結露された状況下では接着剤の溶解が生じた可能性が考えられる。このような問題を解決するために、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤を含有する偏光板用接着剤が提案されている。
【0005】
一方、偏光板の作製時に、偏光子と透明保護フィルムをポリビニルアルコール系接着剤を介して接着するときにクニックが発生するという問題がある。クニックは、偏光子と透明保護フィルムとの界面で発生する局所的な凹凸欠陥である。クニックは、ポリビニルアルコール系接着剤としてアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂を利用する場合に特に発生しやすい。従って、高い接着性及び耐温水性を示しながらもクニックの発生は抑制できる偏光板用接着剤組成物の開発が要請される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためのものであって、本発明の目的は、加湿熱条件下で優れた接着性と耐温水性が向上し、クニックの発生を抑制できる偏光板用接着剤組成物及びこれを利用した偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上のような目的を達成するための本発明の一側面による偏光板用接着剤組成物は、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂、水、沸点が100℃以下のアルコール系溶剤、及び以下の化学式で表されるグリオキシル酸塩を含み、水の100重量部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂を1乃至8重量部含み、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂及びグリオキシル酸塩の固形分の重量比は、1:0.03乃至1:0.25であり、水とアルコール系溶剤の重量比は99:1乃至30:70であり、pHが4乃至10である。
【0008】
【化1】

【0009】
式中、Mは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nは、1または2である。
【0010】
偏光板用接着剤組成物の20℃における粘度は、3乃至25mPa・secである。
【0011】
アルコール系溶剤は、炭素数1乃至3の低級アルコールであり得るが、特に、アルコール系溶剤は、エタノールであり得る。
【0012】
水及びアルコール系溶剤の重量比は、95:5乃至50:50であることが好ましい。
【0013】
本発明の他の側面によると、偏光子及び偏光子の少なくとも片面に、本発明の一側面による偏光板用接着剤組成物を利用して接着される保護フィルムを含む偏光板が提供される。保護フィルムは、セルロース系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、及び(メタ)アクリレート系樹脂の中から選ばれる少なくとも1つを含むことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、偏光子と保護フィルムとの接着強度に優れるため、加湿熱条件下で優れた接着性と耐温水性が得られ、沸点が100℃以下のアルコール系溶剤を含有しているため、クニックの発生が抑制される。従って、本発明による偏光板用接着剤組成物を利用して偏光板を作製するときの工程の歩留まりを向上させることができ、生産性が向上するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1aは、本発明の一実施例により製造された偏光板の耐水性の評価試験方法において温水浸漬前の偏光板を示す図であり、図1bは、温水浸漬後の偏光板を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。本発明の実施形態は、当業界において通常の知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0017】
本発明による偏光板用接着剤組成物は、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂、水、沸点が100℃以下のアルコール系溶剤、及びグリオキシル酸塩を含み、水の100重量部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂を1乃至8重量部含み、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂及びグリオキシル酸塩の固形分の重量比は、1:0.03乃至1:0.25であり、水とアルコール系溶剤の重量比は99:1乃至30:70であり、pHが4乃至10である。
【0018】
本発明の偏光板用接着剤組成物は、偏光板に用いられるが、偏光板は、偏光子と偏光子の少なくとも片面に保護フィルムを接着して製造される。このとき、偏光子のいずれか片面に本発明の偏光板用接着剤組成物を塗布し、保護フィルムを接着させる。
【0019】
偏光板用接着剤組成物の形態としては、特に限定されないが、被着体である保護フィルムの表面に均一な接着剤層を形成するために、液状として用いることが好ましい。このような液状の接着剤としては、各種の溶剤の溶液や分散液が挙げられるが、基材への塗工性から溶液タイプであることが好ましく、安全性の側面から、通常は、水を主体とする溶液が好適に利用される。
【0020】
偏光板用接着剤組成物は、樹脂、水、アルコール系溶剤、及び架橋剤を含有する。本発明の偏光板用接着剤組成物に用いられる樹脂は、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂である。
【0021】
アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂は、反応性の高い官能基を有するポリビニルアルコール系接着剤であるため、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、偏光板の耐久性が向上する。
【0022】
アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂とジケテンを公知の方法で反応させて得られる。ポリビニルアルコール系樹脂の例としては、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られたポリビニルアルコール及びその誘導体;酢酸ビニルと共重合性を有する単量体との共重合体のケン化物;及びポリビニルアルコールをアセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、またはリン酸エステル化した変性ポリビニルアルコールが挙げられる。上記単量体としては、(無水)マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸及びそのエステル類;エチレン、プロピレンなどのα−オレフイン、(メタ)アリルスルホン酸(ソーダ)、スルホン酸ソーダ(モノアルキルマレート)、ジスルホン酸ソーダアルキルマレート、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミドアルキルスルホン酸アルカリ塩、N−ビニルピロリドン、またはN−ビニルピロリドン誘導体などがある。ポリビニルアルコール系樹脂は、1種の単独または2種以上を併用することができる。
【0023】
ポリビニルアルコール系樹脂は、特に限定されないが、接着性の面からみると、平均重合度は100乃至5000であり、好ましくは1000乃至4000であり、平均ケン化度は85乃至100モル%であり、好ましくは90乃至100モル%である。
【0024】
アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂は、上述したように、ポリビニルアルコール系樹脂とジケテンを公知の方法で反応させて得る。アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂を酢酸などの溶媒中に分散させておき、そこにジケテンを添加する方法、ポリビニルアルコール系樹脂をジメチルホルムアミドまたはジオキサンなどの溶媒に予め溶解させておき、そこにジケテンを添加する方法などを利用して製造できる。また、ポリビニルアルコールにジケテンガスまたは液状ジケテンを直接接触させる方法も利用できる。
【0025】
アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂のアセトアセチル基の変性度は、0.1モル%以上であれば特に制限はない。0.1モル%未満では、接着剤層の耐水性が不十分で不適切である。アセトアセチル基の変性度は、好ましくは0.1乃至40モル%程度、さらに好ましくは1乃至20モル%、特に好ましくは2乃至7モル%である。アセトアセチル基の変性度が40モル%を超えると、耐水性の向上効果が小さい。アセトアセチル基の変性度は、NMRにより測定した値である。
【0026】
本発明の偏光板用接着剤組成物に用いられる溶剤は、水及び沸点が100℃以下のアルコール系溶剤である。本発明において、溶剤として、水以外に表面エネルギーが非常に低いアルコール系溶剤を用いるため、接着剤の表面エネルギーを低めてクニックの発生を抑制する。接着剤の表面エネルギーが低くなるにつれて偏光子と保護フィルムとの界面で発生する局所的な凹凸を埋めることによってクニックの発生を無くすことができる。
【0027】
被着体に塗工後、接着剤に含有される溶剤を除去するために、一般的に乾燥工程が行われるが、本発明のように接着剤溶液中に水とアルコール系溶剤を混合すると、このような乾燥工程が短縮され得る。アルコール系溶剤は、水よりも沸点が低い、すなわち、沸点が100℃以下、特に80℃以下、また70℃以下であり得る。
【0028】
アルコール系溶剤は、炭素数1乃至3の低級アルコールであり得る。このようなアルコール系溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、または2−ブタノールなどの炭素数が1乃至4であるアルコールが挙げられる。特に、アルコール系溶剤は、エタノールであり得る。このようなアルコール系溶剤の配合量としては、特に限定されないが、水とアルコール系溶剤の混合溶剤における両者の含有割合(重量比)としては、99:1乃至30:70、好ましくは95:5乃至50:50、さらに好ましくは90:10乃至80:20の範囲が好ましく利用される。アルコール系溶剤の含量が多すぎると、樹脂の溶解度が下がるか、接着剤溶液の粘度安全性が低下する傾向があり、少ないとクニック発生の抑制効果が得られない場合がある。
【0029】
本発明の偏光板用接着剤組成物に用いられる架橋剤は、以下の化学式1で表されるグリオキシル酸塩である。
【0030】
【化2】

【0031】
式中、Mは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nは、1または2である。
【0032】
グリオキシル酸塩は、グリオキシル酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、何れも電気陰性度の小さい元素であり、そのカルボン酸は、化学的性質が類似するため、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの架橋剤として優れた性能を示す。グリオキシル酸塩のアルデヒド部分であることから、グリオキシル酸のアルカリ金属塩とアルカリ土類金属塩は、同じ作用効果が得られるものと推定される。
【0033】
化学式1のグリオキシル酸塩の具体的な化合物としては、例えば、Mがアルカリ金属とすると、グリオキシル酸リチウム、グリオキシル酸ナトリウム、及びグリオキシル酸カリウムなどがあり、Mをアルカリ土類金属とすると、グリオキシル酸マグネシウム、グリオキシル酸カルシウム、グリオキシル酸ストロンチウム、及びグリオキシル酸バリウムなどがある。その中でも、水に溶けやすい点を考慮すると、アルカリ金属塩が好ましく、その中、グリオキシル酸ナトリウムが特に好ましい。
【0034】
グリオキシル酸塩の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法が利用できるが、製造が簡単で精製が容易なものであるグリオキシル酸とアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物との中和反応による方法が好ましく利用され得る。
【0035】
本発明の偏光板用接着剤組成物は、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂とグリオキシル酸塩が、水/アルコール系溶剤の混合溶液に溶解されている溶液である。接着剤組成物溶液において、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂の濃度は、水100重量部に対して1乃至8重量部の範囲であり得る。アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂の濃度が、水/アルコールの混合溶液100重量部に対して1重量部未満である場合は、接着性が低下しやすい傾向があり、また、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂の濃度が、水100重量部に対して8重量部を超える場合は、偏光板の光学特性が低下しやすい傾向にある。水/アルコール系溶剤の混合溶液100重量部に対するアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂の量は、5重量部であることが好ましい。
【0036】
アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂とグリオキシル酸塩との固形分の重量比は、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂1に対し、グリオキシル酸塩が0.03乃至0.25の範囲とする。アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂に対するグリオキシル酸塩の重量比が0.03未満である場合は、接着剤層の耐水性が十分に発現されにくくなり、また、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂に対するグリオキシル酸塩の重量比が0.25を超える場合は、偏光板の密着性が低下しやすくなるためである。なお、耐水性と密着性のバランスの観点からは、接着剤組成物におけるアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂とグリオキシル酸塩との固形分の重量比は、1:0.05乃至0.2の範囲にあることがより好ましい。
【0037】
また、偏光板用接着剤組成物は、そのpHを4乃至10の範囲として用いる。偏光板用接着剤組成物のpHが4未満である場合は、偏光板状態における耐水性を十分に発現することができないからであり、偏光板用接着剤組成物のpHが10を超える場合は、偏光板用接着剤水溶液のポットライフが短くなるからである。取り扱いの安全性の観点からは、偏光板用接着剤組成物のpHを8以下にすることが好ましい。
【0038】
偏光板用接着剤組成物は、20℃における粘度が3乃至25mPa・secの範囲にあることが好ましい。偏光板用接着剤組成物の粘度が3mPa・sec未満である場合は、偏光板状態における耐水性を十分に発現することができないからであり、粘度が25mPa・secを超える場合は、偏光板の光学特性が低下しやすいからである。
【0039】
偏光板用接着剤組成物は、さらに、水溶性の触媒を含有してもよい。本発明に利用できる水溶性の触媒として、例えば、ピペラジン、ピロリジン、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム、酸化バリウム、ヨウ化アルキルなどが挙げられる。水溶性の触媒を配合する場合は、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂1に対する触媒の固形分の重量比が0.005乃至0.2の範囲になるようにすることが好ましい。
【0040】
本発明の偏光板用接着剤組成物には、その効果を阻害しない範囲で、例えば、可塑剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、またはレーベリング剤などの添加剤を含有することができる。
【0041】
本発明の他の側面によると、偏光子及び偏光子の少なくとも片面に、本発明の一側面による偏光板用接着剤組成物を利用して接着される保護フィルムを含む偏光板が提供される。本発明の偏光板は、ポリビニルアルコール系樹脂を含む偏光子の片面または両面に透明樹脂を含む保護フィルムを積層することによって製造される。アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂及びグリオキシル酸塩を含む水溶液である接着剤組成物を積層し、偏光子フィルムと保護フィルムとを接合した後、乾燥して偏光板を形成する。接着剤層の厚さは、特に制限されるものではないが、通常、0.0015μm、好ましくは0.012μm、より好ましくは0.03乃至0.5μmである。接着剤層の厚さが5μmを超える場合は、偏光板の外観不良が発生しやすい。
【0042】
ポリビニルアルコール系樹脂を含む偏光子は、具体的には、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向されたものである。偏光子を構成するポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することによって得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他に、酢酸ビニルとそれと共重合可能な他の単量体との共重合体などが例示される。酢酸ビニルに共重合される他の単量体として、例えば、不飽和カルボン酸類、不飽和スルホン酸類、オレフイン類、ビニルエーテル類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常、85乃至100モル%程度、好ましくは98モル%以上である。上記ポリビニルアルコール系樹脂はさらに変性されることもでき、例えば、アルデヒド類に変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども用いることができる。また、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常、1,000乃至10,000程度、好ましくは1,500乃至5,000程度である。
【0043】
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光子の円盤フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系円盤フィルムの膜厚は、特に限定されないが、例えば、10μm乃至150μm程度である。
【0044】
偏光子は、通常、このようなポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色し、その二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、及びホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造される。
【0045】
一軸延伸は、染色前に行うこともでき、染色と同時に行うこともでき、染色後に行うこともできる。一軸延伸を染色後に行う場合、一軸延伸は、ホウ酸処理前に行うこともでき、ホウ酸処理中に行うこともできる。勿論、これらの複数の段階で一軸延伸を行うことも可能である。一軸延伸には、例えば、周速の異なるロールの間で一軸に延伸する方法などが採用できる。また、熱ロールを利用して一軸に延伸する方法や、大気中で延伸を行うなどの乾式延伸であり得、溶剤で膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であり得る。延伸の倍率は、通常、3乃至8倍程度である。
【0046】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色するためには、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素を含有する水溶液に浸漬することが好ましい。二色性色素として、具体的には、ヨウ素や二色性有機染料が用いられる。また、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理前に水に浸漬処理を行っておくことが好ましい。
【0047】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、通常、ヨウ素及びヨウ素化カリウムを含有する水溶液にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、通常、水100重量部当り0.01乃至1重量部の程度であり、ヨウ素化カリウムの含有量は、通常、水100重量部当り0.5乃至20重量部の程度である。染色に用いる水溶液の温度は、通常、20乃至40℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常、20乃至1,800秒程度である。一方、二色性色素として二色性有機染料を用いる場合は、通常、水溶性の二色性有機染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。染色用水溶液における異色性有機染料の含量は、水100重量部に対し、通常、1×10−4乃至10重量部、好ましくは1×10−3乃至1重量部である。上記水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を染色助剤として含有することもできる。染色に用いる染料水溶液の温度は、通常、20乃至80℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常、10乃至1,800秒程度である。
【0048】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬することによって行われる。ホウ酸含有水溶液におけるホウ酸の量は、通常、水100重量部当り2乃至15重量部、好ましくは5乃至12重量部である。二色性色素としてヨウ素を用いた場合、このホウ酸含有水溶液は、ヨウ素化カリウムを含有することがが好ましい。ホウ酸含有水溶液におけるヨウ素化カリウムの量は、通常、水100重量部当り0.1乃至15重量部、好ましくは5乃至12重量部である。ホウ酸含有水溶液への浸漬時間は、通常、60乃至1,200秒、好ましくは150乃至600秒、さらに好ましくは200乃至400秒である。ホウ酸含有水溶液の温度は、通常、50℃以上であり、好ましくは50乃至85℃、より好ましくは60乃至80℃である。
【0049】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬することによって行われる。水洗処理における水の温度は、通常、5乃至40℃であり、浸漬時間は、通常、1乃至120秒である。水洗後には乾燥処理が行われ、偏光子が得られる。乾燥処理は、通常、熱風乾燥機や遠赤外線ヒータを利用して行われる。乾燥処理温度は、通常、30乃至100℃、好ましくは50乃至80℃である。乾燥処理時間は、通常、60乃至600秒であり、好ましくは120乃至600秒である。このようにしてポリビニルアルコール系樹脂フィルムに一軸延伸、二色性色素による染色、及びホウ酸処理が行われ、偏光子が得られる。この偏光子の厚さは、5乃至40μmである。
【0050】
偏光子の片面または両面に付着する保護フィルムを形成する材料としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、及び等方性に優れたものが好ましい。保護フィルムは、セルロース系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、及び(メタ)アクリレート系樹脂の中から選ばれる少なくとも1つを含むことができる。
【0051】
例えば、保護フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)などのスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーなどが挙げられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系乃至はノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体のようなポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミドなどのアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラル系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、または上記ポリマーのブレンド物なども、上記透明保護フィルムを形成するポリマーの例として挙げられる。
【0052】
また、偏光子には、通常、透明保護フィルムが接着剤層により接着されるが、透明保護フィルムとして、(メタ)アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコン系などの熱硬化性樹脂または紫外線硬化型樹脂が利用できる。透明保護フィルムの中には任意の適切な添加剤が1種類以上含有されていてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、潤滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、または着色剤が挙げられる。透明保護フィルム中の熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50乃至100重量%、より好ましくは50乃至99重量%、さらに好ましくは60乃至98重量%、特に好ましくは70乃至97重量%である。透明保護フィルム中の熱可塑性樹脂の含有量が50重量%以下である場合、熱可塑性樹脂が元々有する高透明性などを十分に発現することができない恐れがある。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例により限定されるものではない。以下において、含有量乃至使用量を示す%及び部は、特に断らない限り、重量基準である。
【0054】
[実施例1]
【0055】
(a)偏光子の作製
【0056】
平均重合度が約2,400であり、ケン化度が99.9モル%以上であり、厚さが75μmであるポリビニルアルコールフィルムを乾式で約5倍に一軸延伸し、また、延伸状態を維持した状態で60℃の純水に1分間浸漬した後、ヨウ素/ヨウ素化カリウム/水の重量比が0.05/5/100である水溶液に28℃で60秒間浸漬した。その後、ヨウ素化カリウム/ホウ酸/水の重量比が8.5/8.5/100である水溶液に72℃で300秒間浸漬した。次いで、26℃の純水で20秒間洗浄した後、65℃で乾燥してポリビニルアルコールフィルムにヨウ素が吸着配向されている偏光子を製造した。
【0057】
(b)接着剤組成物の製造
【0058】
アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂〔商品名“コセノールZ200”、日本合成化学工業(株)、4%水溶液の粘度12.5mPa・sec、ケン化度99.5モル%〕を純水に溶解し、10%濃度の水溶液を製造した。アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂水溶液と架橋剤であるグリオキシル酸ナトリウムを、前者:後者の固形分の重量比が1:0.1になるように混合する。アルコール系溶剤としてエタノールを用い、水/アルコール系混合溶剤の重量比を90:10、水/アルコール系混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が1部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈し、接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.7、粘度が3.5mPa・secであった。
【0059】
(c)偏光板の作製
【0060】
(a)工程において作製した偏光子の両面に、(b)工程からの接着剤組成物を塗布した後、保護フィルムを接合した。これを60℃の温度下で3分間乾燥し、偏光板を作製した(接着剤層の厚さ:約0.1μm)。
【0061】
[実施例2]
【0062】
実施例1の(b)工程において水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈したことを除いては、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.6、粘度が7.5mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0063】
[実施例3]
【0064】
実施例1の(b)工程において水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が5部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈したことを除いては、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.6、粘度が17.0mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0065】
[実施例4]
【0066】
実施例1の(b)工程においてアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂:グリオキシル酸ナトリウムの固形分の重量比を1:0.05とし、水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈したこと以外は、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.6、粘度が7.4mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0067】
[実施例5]
【0068】
実施例1の(b)工程においてアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂:グリオキシル酸ナトリウムの固形分の重量比を1:0.2とし、水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈したこと以外は、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.5、粘度が7.5mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0069】
[実施例6]
【0070】
実施例1の(b)工程において水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈し、このとき、水/アルコール系混合溶剤の重量比を99:1に調節したこと以外は、実施例1の(b)と同様にして接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.5、粘度が7.4mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0071】
[実施例7]
【0072】
実施例1の(b)工程において水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈し、このとき、水/アルコール系混合溶剤の重量比を30:70に調節したこと以外は、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.6、粘度が7.7mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0073】
[実施例8]
【0074】
実施例1の(b)工程においてアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂を“コセノールZ100”〔商品名、日本合成化学工業(株)、4%水溶液の粘度5.2mPa・sec、ケン化度99.2モル%〕に変更し、その5%濃度の水溶液を製造した。このアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂水溶液と架橋剤であるグリオキシル酸ナトリウムを、前者:後者の固形分の重量比が1:0.1になるように混合する。水/アルコール系混合溶剤の重量比を90:10、水/アルコール系混合溶剤100部に対してアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように、水/アルコール混合溶剤で希釈し、接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.6、粘度が3.2mPa・secであった。
【0075】
[実施例9]
【0076】
実施例1の(b)工程においてアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂を“コセノールZ300”〔商品名、日本合成化学工業(株)、4%水溶液の粘度27.9mPa・sec、ケン化度98.5モル%〕に変更し、その5%濃度の水溶液を製造した。このアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂水溶液と架橋剤であるグリオキシル酸ナトリウムを、前者:後者の固形分の重量比が1:0.1になるように混合する。水/アルコール系混合溶剤の重量比を90:10、水/アルコール系混合溶剤100部に対してアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように、水/アルコール混合溶剤で希釈し、接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.6、粘度が12.0mPa・secであった。
【0077】
[比較例1]
【0078】
実施例1の(b)工程において水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈し、このとき、水/アルコール系混合溶剤の重量比を20:80に調節したこと以外は、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.5、粘度が7.8mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0079】
[比較例2]
【0080】
実施例1の(b)工程において水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈し、このとき、水/アルコール系混合溶剤の重量比を99.5:0.5に調節したこと以外は、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.5、粘度が7.8mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0081】
[比較例3]
【0082】
実施例1の(b)工程において水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈し、添加剤として水酸化ナトリウムを利用してpHを11に調節したこと以外は、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが11.0、粘度が7.8mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0083】
[比較例4]
【0084】
実施例1の(b)工程において水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈し、添加剤として酢酸を利用してpHを3に調節したこと以外は、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが3.0、粘度が7.8mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0085】
[比較例5]
【0086】
実施例1の(b)工程においてアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂:グリオキシル酸ナトリウムの固形分の重量比を1:0.5とし、水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈したこと以外は、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.7、粘度が7.5mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0087】
[比較例6]
【0088】
実施例1の(b)工程においてアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂:グリオキシル酸ナトリウムの固形分の重量比を1:0.02とし、水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈したこと以外は、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.7、粘度が7.5mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0089】
[比較例7]
【0090】
実施例1の(b)工程において水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が0.5部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈したことを除いては、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.8、粘度が2.5mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0091】
[比較例8]
【0092】
実施例1の(b)工程において水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が10部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈したことを除いては、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.8、粘度が2.5mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0093】
[比較例9]
【0094】
架橋剤をグリオキシルに変更し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂(コセノールZ200)とグリオキシルの固形分の重量比を1:0.2とし、水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈したこと以外は、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.3、粘度が7.6mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0095】
[比較例10]
【0096】
架橋剤をホウ酸に変更し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂(コセノールZ200)とホウ酸の固形分の重量比を1:0.2とし、水/アルコール混合溶剤100部に対し、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂が3部となるように水/アルコール混合溶剤で希釈したこと以外は、実施例1の(b)と同様に接着剤組成物を製造した。この組成物は、pHが5.3、粘度が7.6mPa・secであった。この組成物を利用したこと以外は、実施例1の(c)工程と同様に偏光板を作製した。
【0097】
以下の表1に実施例1乃至9及び比較例1乃至10において用いた樹脂、架橋剤、溶剤、及び添加剤と、これらの含量、並びに製造された偏光板用接着剤組成物の物性が示されている。
【0098】
【表1】

【0099】
[評価試験]
【0100】
実施例1乃至10及び比較例1乃至10から得たそれぞれの偏光板に対し、以下の評価試験を行った。
【0101】
〔1〕接着性(カッター評価)
【0102】
各偏光板を1時間常温で放置した後、偏光板の各フィルムの間(偏光子と保護フィルムAとの間及び偏光子と保護フィルムBとの間)にカッターの刃を入れ、刃を押していったときの刃が入る方式を以下の基準で評価した。
【0103】
○:カッターの刃がいずれのフィルムの間にも入らない。
【0104】
△:刃を押していったとき、少なくともいずれか一方のフィルムの間に刃が4乃至5mm入ったときに止まる。
【0105】
×:刃を押していったとき、少なくともいずれか一方のフィルムの間に刃が無理なく入る(いずれか一方のフィルムの間に刃が無理なく入るものであれば、残りの他方には刃が入らないか、4乃至5mm入ったときに止まる場合も含む。)。
【0106】
〔2〕耐温水性
【0107】
23℃、相対湿度55%の環境下で24時間放置した各偏光板に対し、以下の耐温水性試験(温水浸漬試験)を行って耐水性を評価した。先ず、偏光板の吸収軸(延伸方向)を長辺とし、5cm×2cmの長方形状に偏光板をカットしてサンプルを作製し、長辺方向の寸法を正確に測定した。ここで、サンプルは、偏光子に吸着されたヨウ素に起因して全面にかけて均一に特有の色を示している。
【0108】
図1aは、本発明の実施例1により製造された偏光板の耐水性の評価試験方法において、温水浸漬前の偏光板を示す図であり、図1bは、温水浸漬後の偏光板を示す図である。図1aに示したように、サンプルの一つの短辺側を把持部(2)で把持し、長手方向の8割程度を60℃の水槽に浸漬し、4時間維持した。その後、偏光板(1)を水槽から取り出して水分を拭き取った。
【0109】
温水浸漬により収縮した偏光板の偏光子(5)が、図1bに示されている。偏光子(5)の収縮程度を偏光板(1)の短辺の中央における偏光板(1)の端(1’)(保護フィルムの端)から収縮した偏光子(5)の端までの距離を測定することによって評価し、それを収縮長さとした。また、図1bに示されているように、温水浸漬により偏光板の中央に位置する偏光子(5)が収縮することによって、保護フィルムの間に偏光子(5)が存在しない領域である偏光子の不存領域(3)が形成される。
【0110】
また、温水浸漬により温水に接する偏光子(5)の周辺部からヨウ素が溶出し、偏光板(1)の周辺部に色の抜けた領域(4)が生じる。この脱色の程度を、偏光板(1)の短辺の中央における収縮した偏光子(5)の端から偏光板特有の色が残っている領域までの距離を測定することによって評価し、ヨウ素抜け長さとした。収縮長さとヨウ素抜け長さの合計を浸食の総長さ(X)とした。すなわち、浸食の総長さ(X)とは、偏光板(1)の短辺の中央における偏光板(1)の端(1’)(保護フィルムの端)から偏光板特有の色が残っている領域までの距離である。収縮長さ、ヨウ素抜け長さ及び浸食の総長さ(X)が小さいほど、水の存在下における接着性(耐水性)が高いものと判断できる。その判断基準は、下記のとおりである。
【0111】
◎:浸食の総長さ(X)が2mm未満。
【0112】
○:浸食の総長さ(X)が2mm以上、3mm未満。
【0113】
△:浸食の総長さ(X)が3mm以上、5mm未満。
【0114】
×:浸食の総長さ(X)が5mm以上。
【0115】
〔3〕外観評価(クニック不良)
【0116】
偏光板を1000mm×1000mmとなるように切り出してサンプル偏光板を作製した。サンプル偏光板を蛍光灯下に置いた。サンプル偏光板の光源側に別途の偏光板をそれぞれの吸収軸が直交するように設け、この状態で、光が漏れる箇所(クニック欠陥)の個数をカウントした。
【0117】
◎:クニック欠陥の個数が3個未満。
【0118】
○:クニック欠陥の個数が3個以上、10個未満。
【0119】
△:クニック欠陥の個数が10個以上、20個未満
【0120】
×:クニック欠陥の個数が20個以上。
【0121】
〔4〕偏光度
【0122】
偏光度(Py)は、紫外可視分光光度計[日本分光(株)製、商品名「V−7100/VAP−7070」]を用い、偏光子の平行透過率(H)及び直交透過率(H90)を測定し、偏光度(%)={(H−H90)/(H+H90)}1/2×100により算出した。これらの透過率は、JIS Z 8701(1982年版)に規定された2度視野(C光源)により視感度補正を行ったY値である。結果を以下のように評価した。
【0123】
○:Pyが99.996%以上。
【0124】
△:Pyが99.993%超過、99.996%未満。
【0125】
×:Pyが99.993%以下。
【0126】
評価試験の結果が表2に示されている。
【0127】
【表2】

【0128】
表2を参照すると、接着剤組成物において、混合溶剤のうちアルコール系溶剤の重量比が高すぎる比較例1は、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール系樹脂の相溶性に下がり相分離が発生し、アルコールの重量比が低すぎる比較例2の偏光板は、クニック不良の改善効果が低かった。
【0129】
接着剤組成物のpHの高い比較例3は、ポットライフ(接着剤として使用できる寿命)が短く、pHの低い比較例4は、十分な耐水性を発揮することができなかった。架橋剤の割合を高くした比較例5は、十分な偏光度を示すことができず、架橋剤の割合を低くした比較例6は、十分な耐水性を示すことができなかった。
【0130】
接着剤組成物においてアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂の濃度の低い比較例7は、耐水性が十分でなく、ポリビニルアルコール系樹脂の濃度の高い比較例8は、十分な偏光度を示さなかった。また、公知の架橋剤を利用した比較例9及び10は、偏光度と接着性のうちいずれか一方が十分でない性能であった。
【0131】
よって、アルコール系溶剤の含量、組成物のpH、架橋剤の種類及び含量比、並びに樹脂の含量などが高いかまたは低い比較例1乃至10の偏光板は、その性能が不良であったが、これとは異なり発明により製造された実施例1乃至9の偏光板は、接着性、耐温水性、偏光度、クニック不良性、及びその他の物性においても優れた性能を示すことが確認できた。
【0132】
本発明は、上述した実施形態及び添付の図面により限定されるものではなく、添付の請求の範囲により解釈されなければならない。また、本発明に対し、請求の範囲に記載の本発明の技術的思想から外れない範囲内で様々な形態の置換、変形、及び変更が可能であることは、当該技術の分野における通常の知識を有する者にとって自明であるだろう。
【符号の説明】
【0133】
1:偏光板、1’:偏光板の端、2:把持部、3:偏光子の不存領域、4:色の抜けた領域、5:偏光子、X:浸食の総長さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂、水、沸点が100℃以下のアルコール系溶剤、及び以下の化学式で表されるグリオキシル酸塩を含み、
前記水100重量部に対し、前記アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂を1乃至8重量部含み、前記アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール系樹脂及び前記グリオキシル酸塩の固形分の重量比は、1:0.03乃至1:0.25であり、前記水と前記アルコール系溶剤の重量比は99:1乃至30:70であり、pHが4乃至10である偏光板用接着剤組成物。
【化1】


[式中、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nは1または2である。]
【請求項2】
前記偏光板用接着剤組成物の20℃における粘度は、3乃至25mPa・secであることを特徴とする請求項1に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項3】
前記アルコール系溶剤は、炭素数1乃至4の低級アルコールであることを特徴とする請求項1に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項4】
前記アルコール系溶剤は、エタノールであることを特徴とする請求項1に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項5】
前記水及び前記アルコール系溶剤の重量比は、95:5乃至50:50であることを特徴とする請求項1に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項6】
偏光子及び前記偏光子の少なくとも片面に、請求項1乃至請求項5のいずれか1項による偏光板用接着剤組成物で接合された保護フィルムを含む偏光板。
【請求項7】
前記保護フィルムは、セルロース系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、及び(メタ)アクリレート系樹脂の中から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項6に記載の偏光板。


【図1】
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【公開番号】特開2012−41533(P2012−41533A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172198(P2011−172198)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(503454506)東友ファインケム株式会社 (42)
【Fターム(参考)】