説明

偏光素子、偏光素子の製造方法、プロジェクター、液晶装置、および電子機器

【課題】高温での信頼性に優れた偏光素子を提供する。
【解決手段】偏光素子100は、基板11と、基板11上に平面視ストライプ状に設けられた第1のグレーティング1と、基板11上に平面視ストライプ状に設けられた第2のグレーティング2と、を備えている。第1のグレーティング1は、複数のストライプ状の金属層12を備え、第2のグレーティング2は、金属層12の延在方向と平行に延在する複数のストライプ状の吸収層14を備えており、窒化クロム、窒化タングステン、窒化タンタルのうち少なくとも一つを含む。さらに、第1のグレーティング1と第2のグレーティング2とは積層体5をなし、金属層12と吸収層14との間に、誘電体層13が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光素子とその製造方法、プロジェクター、液晶装置、電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光素子の一種としてワイヤーグリッド偏光素子が知られている。ワイヤーグリッド偏光素子は、透明な基板上に金属からなるグリッドが、用いる光の波長よりも短いピッチで敷き詰められた構成を備えている。ワイヤーグリッド偏光素子は、無機物のみで構成できるため、有機物を用いた偏光板と比較して光照射による劣化が著しく少なく、高輝度化が進む液晶プロジェクターにおいて有効なデバイスとして注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−37900号公報
【特許文献2】特開2009−186929公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤーグリッド偏光素子は優れた耐熱性を備えているが、近年の液晶プロジェクターの高輝度化に伴い、さらなる高温での信頼性が求められている。
【0005】
特許文献1では、基板上に光反射性の高いグレーティング層と、光吸収性の高いグレーティング層とを積層することにより、コントラストが高く、光利用効率に優れた偏光素子を提供できるとしている。しかしながら、特許文献1で開示されている光吸収性薄膜は、タングステン、クロム、モリブデン等の高融点材料ではあるが耐酸化性が低く、300℃以上の高温環境下では実用上、使用に適さない。
【0006】
特許文献2では、光吸収性を高めるという観点から、光吸収材料として炭素、炭化物、酸化物、硫化物または窒化物が好ましいとされている。具体的には、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化バナジウム及び酸化クロムを光吸収材料として用いた偏光素子が開示されている。しかしながら、金属酸化物は、高温環境下で最も耐酸化性が高い材料ではあるが、特許文献2の実施例に示された金属酸化物の消衰係数kは、可視域で極めて小さく実用に適さない。ここで、消衰係数kは複素屈折率N=n+ikの虚部である。また、光吸収材料として酸化物の他に、炭化物、硫化物および窒化物が例示されているが、具体的な組成は開示されておらず、かつそれらの材料の光吸収特性と高温環境下での耐酸化性も不明である。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、高温での信頼性に優れた偏光素子とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の偏光素子は、基板と、前記基板上に平面視ストライプ状に設けられた第1のグレーティングと、前記基板上に平面視ストライプ状に設けられ、前記第1のグレーティングの延在方向に延在する第2のグレーティングと、を備えた偏光素子であって、前記第1のグレーティングは光に対して反射性を示す材料からなり、前記第2のグレーティングは、窒化クロム、窒化タングステン、窒化タンタルのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、第2のグレーティングの耐酸化性が高いため、高温での信頼性に優れ、かつ吸収特性の良い吸収型の偏光素子を実現できる。
【0010】
また、上記に記載された偏光素子の好ましい態様としては、前記第1のグレーティングと前記第2のグレーティングとは積層体をなす構成としてもよい。
【0011】
この構成によれば、第1のグレーティングと第2のグレーティングとを同時にパターニングできるので、製造プロセスが軽減できる。
【0012】
また、上記に記載された偏光素子の好ましい態様としては、前記第1のグレーティングと前記第2のグレーティングとの間に、誘電体層が設けられている構成としてもよい。
【0013】
この構成によれば、第1のグレーティングと第2のグレーティングとの間で、第1のグレーティングの構成元素と第2のグレーティングの構成元素の相互拡散が生じるのを防止することができる。そのため、上記の相互拡散に起因する偏光分離特性の変動を抑えることができる。
【0014】
また、上記に記載された偏光素子の好ましい態様としては、前記第1のグレーティングのピッチと前記第2のグレーティングのピッチとは、可視光の波長よりも短い構成としてもよい。
【0015】
この構成によれば、コントラストが高く、光利用効率に優れた偏光素子を実現することができる。
【0016】
本発明の偏光素子の製造方法は、基板と、前記基板上に平面視ストライプ状に設けられた第1のグレーティングと、前記基板上に平面視ストライプ状に設けられ、前記第1のグレーティングの延在方向に延在する第2のグレーティングと、を備えた偏光素子の製造方法であって、前記第2のグレーティングを窒素雰囲気中で反応生成することを特徴とする。
【0017】
この製造方法によれば、耐酸化性に優れた第2のグレーティングを容易に形成できる。そのため、高温での信頼性に優れ、かつ吸収特性の良い吸収型の偏光素子を容易に製造することができる。
【0018】
また、上記に記載された偏光素子の製造方法の好ましい態様としては、前記第2のグレーティングは、窒化クロム、窒化タングステン、窒化タンタルのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0019】
この製造方法によれば、耐酸化性がさらに高い偏光素子を製造することができる。
【0020】
本発明のプロジェクターは、光を射出する照明光学系と、前記光を変調する液晶ライトバルブと、前記液晶ライトバルブで変調された光を被投射面に投射する投射光学系と、を備え、前記液晶ライトバルブと前記照明光学系との間、及び前記液晶ライトバルブと前記投射光学系との間のうち少なくとも一方に、先に記載の偏光素子が設けられていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、高温での信頼性に優れた偏光素子を備えるプロジェクターを提供することができる。
【0022】
本発明の液晶装置は、一対の基板間に液晶層を挟持してなり、前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の前記液晶層側に、先の偏光素子が設けられていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、高温での信頼性に優れた偏光素子を備える液晶装置を提供することができる。
【0024】
本発明の電子機器は、液晶装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、高温での信頼性に優れた表示部を具備した電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態の偏光素子の概略図。
【図2】第1実施形態における偏光素子の製造方法を示す工程図。
【図3】プロジェクターの一実施形態を示す図である。
【図4】実施形態に係る偏光素子を備えた液晶装置を示す断面模式図。
【図5】実施形態に係る液晶装置を用いた電子機器の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る偏光素子及び偏光素子の製造方法について説明する。図1は本実施形態の偏光素子100の概略図であり、図1(a)は部分斜視図、図1(b)は偏光素子100をYZ平面で切った部分断面図である。
【0027】
なお、以下の説明においてはXYZ直交座標系を設定し、このXYZ座標系を参照しつつ各部材の位置関係を説明する。この際、基板11の面11aと平行な面をXY平面とし、第1のグレーティングが有するストライプ状の金属層12の延在方向をX軸方向とする。複数の金属層12の並び方向(配列軸)はY軸方向である。また、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせている。
【0028】
(偏光素子)
図1(a)及び図1(b)に示すように、偏光素子100は、基板11と、基板11上に平面視ストライプ状に設けられた第1のグレーティング1と、基板11上に平面視ストライプ状に設けられた第2のグレーティング2と、を備えている。第1のグレーティング1は、複数のストライプ状の金属層12を備え、第2のグレーティング2は、金属層12の延在方向と平行に延在する複数のストライプ状の吸収層14を備えている。さらに、第1のグレーティング1と第2のグレーティング2とは積層体5をなし、金属層12と吸収層14との間に、誘電体層13が設けられている。
【0029】
基板11は透光性を有する材料であればよく、例えば、石英、プラスチック等を用いてもよい。本実施形態では基板11としてガラス基板を用いている。偏光素子100の用途によっては、偏光素子100が蓄熱して高温になる場合があるため、基板11の材料としては、耐熱性の高いガラスや石英を用いることが好ましい。
【0030】
金属層12は、基板11上で所定の方向に延びる金属細線であり、複数の金属層12は基板11上に所定のピッチで互いに平行に配列されている。複数の金属層12は、可視光の波長よりも短い周期でY軸方向に略均等な間隔で設けられている。これにより、第1のグレーティングは可視光に対する偏光素子として機能する。金属層12の材料としては、可視域において光の反射率が高い材料が用いられる。具体的には、例えばアルミニウム、銀、銅、クロム、チタン、ニッケル、タングステン、鉄などを金属層12の材料として用いることができる。本実施形態では金属層12の材料としてアルミニウムを用いている。
【0031】
誘電体層13は金属層12の上に積層され、複数の誘電体層13は、複数の金属層12と同様に、基板11上に所定のピッチで互いに平行に配列されている。誘電体層13は、第1のグレーティング1と第2のグレーティング2との間に設けられている。誘電体層13は、後述する吸収層14と金属層12との間で、金属層12の構成元素と吸収層14の構成元素の相互拡散が生じるのを防止するためのバリア層として機能する。これにより、金属層12が変質して偏光分離機能が変動するのを防止することができる。
【0032】
誘電体層13の材料は、上記のバリア性を有する誘電体材料であれば特に限定されないが、シリコン、アルミニウム、クロム、チタン、ニッケル、タングステンなどの窒化物や酸化物により形成することができる。本実施形態の場合は、誘電体層13の材料としてシリコン酸化物を用いている。
【0033】
吸収層14は、誘電体層13の上に積層されている。複数の吸収層14は、複数の金属層12と同様に、基板11上に所定のピッチで互いに平行に配列されている。吸収層14は、金属層12の延在方向(X軸方向)に沿って延在している。吸収層14の材料としては、可視領域において高い光吸収率を有する金属窒化物が用いられる。具体的には、吸収層14は、窒化クロム、窒化タングステン、窒化タンタルのうち少なくとも一つを含む。本実施形態では、吸収層14の材料として、窒化クロムを用いている。
【0034】
互いに隣り合って配置された2つの金属層12の間には溝部15が設けられている。溝部15は、金属層12と同様に、可視光の波長よりも短い周期でY軸方向に略均等な間隔で設けられている。
【0035】
本実施形態の偏光素子100における各部の寸法は例えば以下のように設定することができる。金属層12の高さH1は、50nm以上200nm以下の範囲であり、誘電体層13の金属層12上における高さH2は、10nm以下50nm以下の範囲である。また、吸収層14の誘電体13上における高さH3は、10nm以下50nm以下の範囲である。互いに隣り合って配置された2つの金属層12同士の間隔S(溝部15のY軸方向の幅)は、83nmであり、周期P(ピッチ)は、145nmである。金属層12、誘電体層13、吸収層14の幅Lは全て等しく、62nmである。
【0036】
以上で説明した本実施形態の偏光素子100は、金属層12が、可視域において光反射率の高いアルミニウムにより形成されており、誘電体層13が、可視域において光透過率の高いシリコン酸化物により形成されている。また、吸収層14は、可視領域における光の吸収率が高い窒化クロムにより形成されている。かかる構成を備えた本実施形態の偏光素子100によれば、以下の作用効果を得ることができる。
【0037】
まず、本実施形態の偏光素子100は、互いに平行に延在している金属層12と誘電体層13と吸収層14との積層体を備えていることで、図1(b)に示したように、金属層12の延在方向と直交する方向に振動する直線偏光であるTM波21を透過させ、金属層12の延在方向に振動する直線偏光であるTE波22を吸収させることができる。
【0038】
より詳しくは、基板11の吸収層14(第2のグレーティング2)側から入射したTE波22は、主に吸収層14の光吸収作用によって減衰され、場合によっては誘電体層13によりさらに減衰される。一部のTE波22は、吸収層14によって吸収されることなく誘電体層13に入射するが、誘電体層13を通過する際に位相差を付与される。誘電体層13を通過したTE波22は金属層12(第1のグレーティング1)で反射される。この反射したTE波22は、誘電体層13を通過する際にさらに位相差を付与され、干渉効果により減衰されるともに、残りが吸収層14で再吸収される。以上のようなTE波22の減衰効果により、吸収型の所望の偏光分離特性を得ることができる。
【0039】
このように本実施形態によれば、偏光素子100は、高温環境下での耐酸化性が高い吸収層14(第2のグレーティング2)を備えている。そのため、高温での信頼性に優れ、かつ光吸収特性に優れた偏光素子100を得ることができる。
【0040】
(偏光素子の製造方法)
次に、本実施形態の偏光素子100の製造方法について説明する。図2は、第1実施形態における偏光素子100の製造方法を示す工程図である。本実施形態の偏光素子100の製造方法は、第2のグレーティング2が備える吸収層14を窒素雰囲気中で反応生成する工程を含むものである。
【0041】
以下、図面を参照しながら説明する。まず、図2(a)に示した金属層12、誘電体層13および吸収層14を形成する工程では、基板11の面11aの上に金属層12、誘電体13、吸収層14をこの順に形成する。具体的には、基板11上に、スパッタ法などを用いてアルミニウム膜、シリコン酸化物、窒化クロムをこの順に成膜する。次に、この窒化クロム膜上にレジスト膜を形成する。次いで、レジスト膜を露光・現像することによって、ストライプ状のマスク16を形成する。
【0042】
具体的な窒化クロムの成膜条件は、次の通りである。まず、ステンレス製容器内に、金属層12と誘電体層13が形成された基板11を配置する。次いで、窒素ガスとアルゴンガスからなる混合ガスをステンレス製容器内に導入し、ステンレス製容器内の圧力を例えば0.2Paの圧力に制御する。そして、クロムターゲットに対し、例えば500Wの電力(直流電圧)を投入する。これにより、窒素雰囲気中で、3分間で厚さ60nmの窒化クロム膜を反応生成させることができる。この製造方法によれば、耐酸化性に優れた窒化クロム膜からなる第2のグレーティングを容易に形成できる。
【0043】
次に、図2(b)に示すドライエッチング工程では、マスク16を用いて、窒化クロム、シリコン酸化物、アルミニウム膜の順に、基板11の面11aまでエッチングする。その後、マスク16を除去することにより、図2(b)に示すように、ストライプ状の複数の金属層12を備えた第1のグレーティング1とストライプ状の複数の吸収層14を備えた第2のグレーティング2とを含む積層体5が形成される。金属層12と吸収層14との間には、誘電体層13が設けられている。
【0044】
以上の工程を経ることにより、偏光素子100を製造することができる。
なお、本実施形態では、クロム窒化物からなる吸収層14を用いたが、先に挙げたタングステンやタンタルの窒化物からなる吸収層14を用いてもよい。クロム以外の金属の窒化物を用いる場合にも、上記と同様に反応性スパッタを用いて成膜してもよく、成膜速度という点で反応性スパッタよりも劣るが、金属窒化物のターゲットを用いたRFスパッタや、蒸着法を用いてもよい。
【0045】
[投射型表示装置]
図3は、プロジェクターの一実施形態を示す図である。図3に示すプロジェクター800は、光源810、ダイクロイックミラー813、ダイクロイックミラー814、反射ミラー815、反射ミラー816、反射ミラー817、入射レンズ818、リレーレンズ819、射出レンズ820、光変調部822、光変調部823、光変調部824、クロスダイクロイックプリズム825、投射レンズ826、を有している。
【0046】
光源810は、メタルハライド等のランプ811とランプの光を反射するリフレクター812とからなる。なお、光源810としては、メタルハライド以外にも超高圧水銀ランプ、フラッシュ水銀ランプ、高圧水銀ランプ、Deep UVランプ、キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ等を用いることも可能である。
【0047】
ダイクロイックミラー813は、光源810からの白色光に含まれる赤色光を透過させるとともに、青色光と緑色光とを反射する。透過した赤色光は反射ミラー817で反射されて、赤色光用の光変調部822に入射される。また、ダイクロイックミラー813で反射された青色光と緑色光のうち、緑色光は、ダイクロイックミラー814によって反射され、緑色光用の光変調部823に入射される。青色光は、ダイクロイックミラー814を透過し、長い光路による光損失を防ぐために設けられた入射レンズ818、リレーレンズ819及び射出レンズ820を含むリレー光学系821を介して、青色光用の光変調部824に入射される。
【0048】
光変調部822、光変調部823、光変調部824各々は、液晶ライトバルブ830を挟んで両側に、入射側偏光素子840と射出側偏光素子部850と、が配置されている。入射側偏光素子840は、光源810から射出された光の光路上の、光源810と液晶ライトバルブ830との間に設けられている。また、射出側偏光素子部850は、液晶ライトバルブ830を通過した光の光路上の、液晶ライトバルブ830と投射レンズ826との間に設けられている。入射側偏光素子840と射出側偏光素子部850とは、互いの透過軸が直交して(クロスニコル配置)配置されている。
【0049】
入射側偏光素子840は反射型の偏光素子であり、透過軸と直交する振動方向の偏光を反射させる。
【0050】
一方、射出側偏光素子部850は、第1偏光素子(プリポラライザー)852と、第2偏光素子854と、を有している。第2偏光素子854には、上述した第1実施形態の偏光素子が用いられている。第1偏光素子852及び第2偏光素子854は、いずれも吸収型の偏光素子であり、第1偏光素子852と第2偏光素子854とが協働して光を吸収している。なお、入射側偏光素子840として第1実施形態の偏光素子を用いることもできる。
【0051】
光変調部822により変調された赤色光と、光変調部823により変調された緑色光と、光変調部824により変調された青色光とは、クロスダイクロイックプリズム825に入射する。このクロスダイクロイックプリズム825は4つの直角プリズムを貼り合わせたものであり、その界面には赤光を反射する誘電体多層膜と青光を反射する誘電体多層膜とがX字状に形成されている。これらの誘電体多層膜により3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が形成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ826によってスクリーン827上に投写され、画像が拡大されて表示される。
【0052】
以上のような構成のプロジェクター800は、射出側偏光素子部850に、上述した実施形態の偏光素子を用いることとしているため、高出力の光源を用いても偏光素子の劣化が抑えられる。そのため、信頼性が高く優れた表示特性を有するプロジェクター800とすることができる。
【0053】
[液晶装置]
図4は、本発明に係る偏光素子を備えた液晶装置300の一例を示した断面模式図である。本実施形態の液晶装置300は、素子基板310,対向基板320の間に液晶層350が挟持され構成されている。
【0054】
素子基板310は偏光素子330を備え、対向基板320は偏光素子340を備えている。偏光素子330及び偏光素子340は、前述した第1実施形態の偏光素子である。
【0055】
偏光素子330は基板本体331と金属層332(第1のグレーティング)及び保護膜333を備え、偏光素子340は基板本体341と金属層342(第1のグレーティング)及び保護膜343を備えている。ただし、金属層332と保護膜333との間には、既に説明した誘電体層13及び吸収層14(第2のグレーティング)が設けられているが、図4では省略してある。金属層342と保護膜343との間にも、既に説明した誘電体層13及び吸収層14(第2のグレーティング)が設けられているが、図4では省略してある。本実施形態では、基板本体331および基板本体341は偏光素子の基板であると同時に液晶装置用の基板も兼ねている。また、金属層332の延在方向と金属層342の延在方向とは、互いに交差している。いずれの偏光素子も、金属層が基板本体の液晶層350側に配置されている。
【0056】
偏光素子330の液晶層350側には、画素電極314や不図示の配線やTFT素子を備え、配向膜316が設けられている。同様に、偏光素子340の内面側には、共通電極324や配向膜326が設けられている。
【0057】
このような構成の液晶装置においては、基板本体331、基板本体341が、液晶装置用の基板と、偏光素子用の基板との機能を兼ねることから、部品点数を削減することができる。そのため、装置全体が薄型化でき、液晶装置300の機能を向上させることができる。さらに、装置構造が簡略化されるので、製造が容易であるとともにコスト削減を図ることができる。
【0058】
[電子機器]
次に、本発明の電子機器に係る他の実施形態について説明する。図5は、図4に示した液晶装置を用いた電子機器の一例を示す斜視図である。図5に示す携帯電話(電子機器)1300は、本発明の液晶装置を小サイズの表示部1301として備え、複数の操作ボタン1302、受話口1303、及び送話口1304を備えて構成されている。これにより、信頼性に優れ、高品質な表示が可能な表示部を具備した携帯電話1300を提供することができる。
【0059】
また、本発明の液晶装置は、上記携帯電話の他にも、電子ブック、パーソナルコンピューター、デジタルスチールカメラ、液晶テレビ、プロジェクター、ビューファインダー型あるいはモニター直視型のビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電卓、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等々の画像表示手段として好適に用いることができる。
【0060】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0061】
[高耐熱吸収材料の試作および信頼性評価]
発明の効果を確認するため、まず初めに、いろいろな窒化物系材料の高温安定性を評価した。これらは、後述の偏光素子のシミュレーション解析に必要な光学特性である。
【0062】
(実施例1)
反応性スパッタを用いて、ガラス基板上に厚さ35.0nmの窒化クロムの薄膜を形成することによって、サンプル2を作成した。サンプル2を大気雰囲気中において300℃で150時間加熱する前と後とで、サンプル2の屈折率nと消衰係数kとを測定した。屈折率nと消衰係数kの測定には、エリプソメーター法(J.A.ウーラム社製 M−2000)を使用した。測定波長は532nmである。測定結果を表1に示す。
【0063】
(実施例2)
反応性スパッタを用いて、ガラス基板上に厚さ48.0nmの窒化タンタルの薄膜を形成することによって、サンプル4を作成した。サンプル4を大気雰囲気中において300℃で150時間加熱する前と後とで、サンプル4の屈折率nと消衰係数kとを測定した。測定結果を表1に示す。
【0064】
(実施例3)
反応性スパッタを用いて、ガラス基板上に厚さ55.0nmの窒化タングステンの薄膜を形成することによって、サンプル6を作成した。サンプル6を大気雰囲気中において300℃で150時間加熱する前と後とで、サンプル6の屈折率nと消衰係数kとを測定した。測定結果を表1に示す。
【0065】
(比較例1)
反応性スパッタを用いて、ガラス基板上に厚さ35.4nmの窒化銅の薄膜を形成することによって、サンプル1を作成した。サンプル1を大気雰囲気中において300℃で150時間加熱する前と後とで、サンプル1の屈折率nと消衰係数kとを測定した。測定結果を表1に示す。
【0066】
(比較例2)
反応性スパッタを用いて、ガラス基板上に厚さ35.0nmの窒化モリブデンの薄膜を形成することによって、サンプル3を作成した。サンプル3を大気雰囲気中において300℃で150時間加熱する前と後とで、サンプル3の屈折率nと消衰係数kとを測定した。測定結果を表1に示す。
【0067】
(比較例3)
反応性スパッタを用いて、ガラス基板上に厚さ33.0nmの窒化チタンの薄膜を形成することによって、サンプル5を作成した。サンプル5を大気雰囲気中において300℃で150時間加熱する前と後とで、サンプル5の屈折率nと消衰係数kとを測定した。測定結果を表1に示す。
【0068】
(比較例4)
スパッタを用いて、ガラス基板上に厚さ10.0nmの金属クロムの薄膜を形成することによって、サンプル7を作成した。金属クロムは、特許文献1に記載された高融点材料(融点1863℃)である。サンプル7を大気雰囲気中において300℃で150時間加熱する前と後とで、サンプル7の屈折率nと消衰係数kとを測定した。測定結果を表1に示す。
【0069】
表1に、各種薄膜の加熱前後における光学特性を示す。窒化物であっても、構成元素によって耐熱性に差が認められた。これらは、次に述べる偏光素子のシミュレーション解析に必要な光学特性である。
【0070】
【表1】

【0071】
[シミュレーション解析による光学特性評価]
第1実施形態に係る偏光素子のシミュレーション解析結果について説明する。
【0072】
解析においては、本発明の偏光素子を液晶プロジェクターのライトバルブ用の偏光素子として適用することを想定して評価を行った。本発明の偏光素子は、無機材料で形成されており耐熱性が高いことから、前述した高出力の光源を有する液晶プロジェクターの出射偏光板として適用できる。
【0073】
このような出射偏光板には、TM光に対しては高い光透過率を有し、TE光に対しては高い光吸収率と低い光透過率とを有する必要がある。具体的には、TM光の透過率が80%より大きく、TE光の吸収率が80%より大きく、かつTE光の透過率が0.1%より小さければ高コントラスト比の画像を表示することができる。さらには、TE光が出射偏光板で反射しライトバルブへ戻ることを防ぐために、TE光の反射率は低い方が良く、20%以下であることが望まれる。
【0074】
そこで、以下の解析においては、大気中で加熱する前後で、TM光の透過率が80%より大きく、TE光の吸収率が80%より大きく、TE光の反射率が20%より小さく、かつTE光の透過率が0.1%より小さいことを信頼性基準として評価を行った。
【0075】
シミュレーション解析には、Grating Solver Development社製の解析ソフトであるGSolverを用いて、偏光素子の形状や構成材料の屈折率nと消衰係数kとをパラメーターとした。
【0076】
第1実施形態(図1)に係る偏光素子100は、金属層12上に誘電体層13が積層されており、誘電体層13上に吸収層14が積層された構造をとっている。そこでシミュレーションでは、基板から金属層12(アルミニウム)、誘電体層13(酸化シリコン)、吸収層14の順で積層されたモデルを用いて数値計算を行った。
【0077】
(シミュレーション1)
金属層12としてアルミニウムを用い、誘電体層13として酸化シリコンを用い、吸収層14として窒化クロムを用いた。金属層12の高さH1を152nm、金属層12の幅Lを62nmとし、誘電体層13の高さH2を25nm、誘電体層13の幅Lを62nmとし、吸収層14の高さH3を20nm、吸収層14の幅Lを62nmとし、溝部15のY軸方向の幅Sを83nm、複数の金属層12(あるいは誘電体層13)の周期Pを145nmとした。アルミニウムの屈折率nとアルミニウムの消衰係数kと酸化シリコンの屈折率nと酸化シリコンの消衰係数kとしては、GSolverに格納されている各パラメーターを用いた。また、窒化クロムの屈折率n及び窒化クロムの消衰係数kとしては、大気雰囲気中で300℃で150時間加熱する前と後それぞれに対して上述したエリプソメーターによって測定した値を用いた。このようにして、吸収層14として窒化クロムを用いた偏光素子の偏光特性を、300℃加熱前後それぞれについてシミュレーションした。
【0078】
表2に、数値計算による300℃加熱前の偏光素子の偏光特性を、表3に、加熱後の偏光特性を示す。これらは、TM光及びTE光に対する偏光分離特性のシミュレーション結果を示す表であり、表中、RTMはTM光の反射率(%)、TTMはTM光の透過率(%)、RTEはTE光の反射率(%)、TTEはTE光の透過率(%)、ATEはTE光の光吸収率(100−Tc−Rc(%))である。さらに表4に、加熱前後の特性変化量を示す。
【0079】
(シミュレーション2)
吸収層14として窒化タンタルを用いたことと、吸収層14の厚さを10nmにしたこと以外は、シミュレーション1と同様である。窒化タンタルの屈折率n及び消衰係数kは、上述したエリプソメーターによって300℃加熱前後それぞれで測定した値を用いた。このようにして、吸収層14として窒化タンタルを用いた偏光素子の偏光特性を、300℃加熱前後それぞれについてシミュレーションした。その結果を表2、表3および表4に示す。
【0080】
(シミュレーション3)
吸収層14として窒化タングステンを用いたこと以外は、シミュレーション1と同様である。窒化タングステンの屈折率n及び消衰係数kは、上述したエリプソメーターによって300℃加熱前後それぞれで測定した値を用いた。このようにして、吸収層14として窒化タングステンを用いた偏光素子の偏光特性を、300℃加熱前後それぞれについてシミュレーションした。その結果を表2、表3および表4に示す。
【0081】
(シミュレーション4)
比較例として本シミュレーションを行った。吸収層14として窒化銅を用いたことと、吸収層14の厚さを35nmにしたこと以外は、シミュレーション1と同様である。窒化銅の屈折率n及び消衰係数kは、上述したエリプソメーターによって300℃加熱前後それぞれで測定した値を用いた。このようにして、吸収層14として窒化銅を用いた偏光素子の偏光特性を、300℃加熱前後それぞれについてシミュレーションした。その結果を表2、表3および表4に示す。
【0082】
(シミュレーション5)
比較例として本シミュレーションを行った。吸収層14として窒化モリブデンを用いたことと、吸収層14の厚さを25nmにしたこと以外は、シミュレーション1と同様である。窒化モリブデンの屈折率n及び消衰係数kは、上述したエリプソメーターによって300℃加熱前後それぞれで測定した値を用いた。このようにして、吸収層14として窒化モリブデンを用いた偏光素子の偏光特性を、300℃加熱前後それぞれについてシミュレーションした。その結果を表2、表3および表4に示す。
【0083】
(シミュレーション6)
比較例として本シミュレーションを行った。吸収層14として窒化チタンを用いたことと、吸収層14の厚さを30nmにしたこと以外は、シミュレーション1と同様である。窒化チタンの屈折率n及び消衰係数kは、上述したエリプソメーターによって300℃加熱前後それぞれで測定した値を用いた。このようにして、吸収層14として窒化チタンを用いた偏光素子の偏光特性を、300℃加熱前後それぞれについてシミュレーションした。その結果を表2、表3および表4に示す。
【0084】
(シミュレーション7)
比較例として本シミュレーションを行った。吸収層14として金属クロムを用いたことと、吸収層14の厚さを13nmにしたこと以外は、シミュレーション1と同様である。金属クロムの屈折率n及び消衰係数kは、上述したエリプソメーターによって300℃加熱前後それぞれで測定した値を用いた。このようにして、吸収層14として金属クロムを用いた偏光素子の偏光特性を、300℃加熱前後それぞれについてシミュレーションした。その結果を表2、表3および表4に示す。
【0085】
表2、3、4から、大気雰囲気中で300℃で150時間加熱しても、特に、窒化クロム、窒化タングステンおよび窒化タンタルの偏光特性の変化は、高融点材料である金属クロムや窒化銅、窒化モリブデン、窒化チタンの偏光特性の変化に比べ小さく、300℃大気環境下でも安定した偏光特性を示すことが認められる。この3種類の窒化物は酸化の進行が極めて遅いため、偏光特性の変化が小さいと考えられる。よって、上記窒化物は、高温環境下において、好適な特性を有するものであると認められる。なお、金属クロムと窒化銅は、300℃加熱前において上記の信頼性基準を満足せず、吸収型偏光素子には適用できないことが分かる。
【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
上記の実施例では、第2のグレーティング(吸収層)が、窒化クロム、窒化タングステン、窒化タンタルのうちいずれか一つを含む場合について説明したが、これに限られない。第2のグレーティング(吸収層)は、窒化クロム、窒化タングステン、窒化タンタルのうち2つ以上の材料を含んでいてもよい。
【0090】
また、上記の実施例では、基板11の面11aの上に第1のグレーティングを設け、その上層に第2のグレーティングを設けたが、これに限られない。第2のグレーティングの上層に第1のグレーティングを設けてもよい。
【0091】
また、上記の実施例では、基板11の面11aの上に第1のグレーティングと第2のグレーティングとを設けたが、これに限られない。基板11の面11aの上に第1のグレーティングを設け、基板11の面11aとは反対側の面に第2のグレーティングを設けてもよい。
【0092】
以上説明したように、第2のグレーティング(吸収層)が、窒化クロム、窒化タングステン、窒化タンタルのうち少なくとも一つを含むことにより、高温で使用しても偏光特性の劣化が小さく、かつ吸収特性の良い吸収型の偏光素子を実現することができる。
【符号の説明】
【0093】
100,330,340…偏光素子、11…基板、11a…面、12,332,342…金属層、13…誘電体層、14…吸収層、300…液晶装置、350…液晶層、800…プロジェクター、830…液晶ライトバルブ、1300…携帯電話(電子機器)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に平面視ストライプ状に設けられた第1のグレーティングと、
前記基板上に平面視ストライプ状に設けられ、前記第1のグレーティングの延在方向に延在する第2のグレーティングと、
を備えた偏光素子であって、
前記第1のグレーティングは光に対して反射性を示す材料からなり、
前記第2のグレーティングは、窒化クロム、窒化タングステン、窒化タンタルのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする偏光素子。
【請求項2】
前記第1のグレーティングと前記第2のグレーティングとは積層体をなすことを特徴とする請求項1に記載の偏光素子。
【請求項3】
前記第1のグレーティングと前記第2のグレーティングとの間に、誘電体層が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の偏光素子。
【請求項4】
前記第1のグレーティングのピッチと前記第2のグレーティングのピッチとは、可視光の波長よりも短いことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の偏光素子。
【請求項5】
基板と、
前記基板上に平面視ストライプ状に設けられた第1のグレーティングと、
前記基板上に平面視ストライプ状に設けられ、前記第1のグレーティングの延在方向に延在する第2のグレーティングと、
を備えた偏光素子の製造方法であって、
前記第2のグレーティングを窒素雰囲気中で反応生成することを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項6】
前記第2のグレーティングは、窒化クロム、窒化タングステン、窒化タンタルのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項5に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項7】
光を射出する照明光学系と、前記光を変調する液晶ライトバルブと、前記液晶ライトバルブで変調された光を投射する投射光学系と、を備え、
前記液晶ライトバルブと前記照明光学系との間、及び前記液晶ライトバルブと前記投射光学系との間のうち少なくとも一方に、請求項1から4のいずれか一項に記載の偏光素子が設けられていることを特徴とするプロジェクター。
【請求項8】
一対の基板間に液晶層を挟持してなり、前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の前記液晶層側に、請求項1から4のいずれか一項に記載の偏光素子が設けられていることを特徴とする液晶装置。
【請求項9】
請求項8に記載の液晶装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−104992(P2013−104992A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248285(P2011−248285)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】