説明

偏光素子の製造方法及びその製造方法で製造した偏光素子を用いた立体表示装置と機能性フィルム

【課題】量産性、偏光能に優れた偏光素子、更には偏光透過軸方向が異なる複数の偏光領域を有する偏光素子をも非常に簡易に且つ高精度に製造する。
【解決手段】本発明は、偏光透過軸方向が一方向の偏光領域、更には偏光透過軸方向が異なる複数の偏光領域を有する偏光素子の製造方法であって、リオトロピック液晶性を有する二色性色素を含む溶液を、基材に対して第1の斜め方向から射出する工程を含むことを特徴とする。また、前記溶液の射出は、インクジェット方式により行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光素子の製造方法及びその製造方法で製造した偏光素子を用いた立体表示装置と機能性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に偏光板の製造は、基材フィルム(主にポリビニルアルコール系フィルム)をヨウ素等の二色性材料で染色し、延伸することにより作製され、現在では液晶ディスプレイを中心に多くの産業分野で利用されている。しかし、この従来の製造方法では延伸技術を用いるため、原理的に同一平面内に異なる偏光透過軸を有する偏光領域を作製することが不可能である。
【0003】
そこで、従来から偏光透過軸の方向が異なる複数の偏光領域をパターン形成して偏光素子を得る方法としては、以下のような方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、延伸ポリビニルアルコール(PVA)フィルム上にレジストを塗布して露光・現像することによりレジストをパターニングし、レジストで覆われていない延伸フィルム部分を染色することにより所望のパターンで偏光領域を形成する方法が提案されている。
【0005】
また、Sadeg M. Farisは、1991年のSociety of Information and Display Conferenceにおいて、延伸したPVAフィルム上にレジストを塗布し、パターニングした後に苛性ソーダ水溶液でレジストを溶解除去して作製したパターン化偏光フィルムを重ね合わせてμPolという偏光素子を作製し、立体視に用いる方法を発表している(非特許文献1参照。)。
【0006】
また、特許文献2には、偏光能を有する複数の偏光片が、隣接するもの同士の偏光透過軸方向を異ならせて基材に貼り付けられている偏光素子が提案されている。
【0007】
また、特許文献3には、基板上に光活性基を有する液晶性高分子薄膜を形成し、該薄膜にマイクロパターン状のマスクを用いて異なる偏光軸を有する直線偏光を照射後、該薄膜上に二色性分子溶液を印刷機により塗布し、配向させることにより所望のパターンで偏光領域を形成する方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献4には、位相差機能を有する延伸PVAフィルムの所定の位置に透明なレジスト部材を設けた後、湯に浸漬させることにより、延伸PVAフィルムのレジスト部材の存在しない部分に水が浸透し、該部分が変質し、該部分のみ特定波長域の光の振動方向を直線偏光状態のまま回転しえる性質(位相差機能)が消失し、レジスト部材が存在する部分とレジスト部材が存在しない部分とで透過光の位相が180度ずれるフィルムを得ている。
【特許文献1】特開昭62−96905号公報
【特許文献2】特開平10−160932号公報
【特許文献3】特開2002−357720号公報
【特許文献4】特許第3806284号公報(特開2001−59949号公報)
【非特許文献1】SID 91 Digest,p.840−843
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
基材フィルム(主にポリビニルアルコール系フィルム)をヨウ素等の二色性材料で染色し、延伸して偏光素子を得る従来の方法は、多くの製造工程、高度な専門技術が必要であり、また原理的に同一平面内に異なる偏光透過軸を有する偏光領域を作製することが不可能である。更に、偏光透過軸方向が異なる複数の偏光領域をパターン形成して偏光素子を得る上記従来の方法には、以下のような問題があった。
【0010】
特許文献1に記載の方法では、レジストをパターニングする際に、延伸フィルムが現像液により膨潤してフィルムの一軸性が損なわれるため、偏光能が低下してしまう。
【0011】
また、非特許文献1に示される方法では、偏向軸が直交する2種類の基板を貼り合わせて製造するため、貼り合わせの際、極めて高い位置決め精度が要求され、またレジスト塗布、及び苛性ソーダによるパターニング等が必要であり、製造が非常に煩雑である。
【0012】
また、特許文献2に記載の方法では、複数の偏光片を隣接するもの同士の偏光透過軸を異ならせて基材に貼り付けて偏光素子を形成しているが、複数の偏光片を貼り合わせする際、極めて高い位置決め精度が要求され、製造が困難である。
【0013】
また、特許文献3に記載の方法では、異なる偏光軸を有する2種類の偏光の照射を行っているが、この方法では二色性色素が充分に配向しないため、例えば、作製した偏光素子を立体表示装置に用いると、左右の映像を明確に分離できるような偏光能を得ることが困難となり、十分な立体表示ができないおそれがある。
【0014】
また、特許文献4に記載の方法では、例えば、作製した偏光素子を立体表示装置に用いた場合、直線偏光特性を利用したディスプレイ〔例えば、液晶ディスプレイ(LCD)〕には有効であるが、直線偏光を利用しないディスプレイ〔例えば、有機発光ダイオード(OLED)〕には不向きである。
【0015】
本発明は上記従来の問題を解決したものであり、量産性、偏光能に優れ、偏光透過軸方向が単一の偏光領域だけでなく、偏光透過軸方向が異なる複数の偏光領域を有する偏光素子を非常に簡易に且つ高精度に製造できる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の偏光素子の製造方法は、リオトロピック液晶性を有する二色性色素を含む溶液を、基材に対して第1の斜め方向から射出する工程を含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第2の偏光素子の製造方法は、リオトロピック液晶性を有する二色性色素を含む溶液を、基材に対して垂直方向に落下させるとともに、前記基材を第1の方向に移動させる工程を含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の立体表示装置は、上記本発明の偏光素子の製造方法で製造した偏光素子を用いたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の機能性フィルムは、上記本発明の偏光素子の製造方法で製造した偏光素子を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、量産性、偏光能に優れ、偏光透過軸方向が単一の偏光領域だけでなく、偏光透過軸方向が異なる複数の偏光領域を有する偏光素子を非常に簡易に且つ高精度に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
一般に液晶化合物は様々な電場、磁場のような外場により配向することが知られている。その他にも、流動配向と言われる液晶化合物自身の流れにより配向すること、及びずり応力を加えても力の方向によく配向することが知られている。本発明は、液晶化合物にずり応力を加えることにより、流動配向させ、偏光能を有する偏光素子を製造するものである。即ち、二色性色素を含む溶液を基材に対して抵抗力(ずり応力)が加わるように塗布することにより、二色性色素が流動配向し、一定方向に液晶分子が配列するため、任意の偏光透過軸を有する二色性色素膜からなる偏光素子が作製可能となる。
【0022】
ここで、上記二色性色素膜とは、リオトロピック液晶性を有する二色性色素が基材上において配列した膜をいい、膜面内の任意の二方向、及び膜の厚み方向の合わせて3方向のうち、2方向における電磁気学的性質(光吸収、屈折率等の光学的性質、抵抗、容量等の電気的性質等)に異方性を有する膜を意味する。この二色性色素膜は、実質的に色素のみからなる膜であってもよく、その二色性色素膜の性能を損なわない範囲で、色素以外の成分(例えば高分子化合物、各種添加剤等)を含有していてもよい。
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
(実施形態1)
図1は、本発明の偏光素子の製造方法の一工程を示す模式図である。本実施形態では、図1に示すように、リオトロピック液晶性を有する二色性色素1を含む溶液を、基材2に対して角度αを有する方向3(第1の斜め方向3)から射出する。ただし、二色性色素1は1種類の色素であっても、2種類以上の色素を混合していてもよい。これにより、図2に示すように、基材2の上に二色性色素1が一定の方向を向いて配列され、偏光透過軸方向4を有する偏光領域5が形成される。その結果、図5Aに示すように単一の偏光透過軸方向を有する偏光素子を作製することが出来る。
【0025】
また、図5Bに示すように、上記のようにして作製した偏光領域5に隣接する領域に対して、図3に示すように、リオトロピック液晶性を有する二色性色素1を含む溶液を、基材2に対して角度αを有する方向であって第1の斜め方向3とは異なる方向6(第2の斜め方向6)から射出する。これにより、図4に示すように、基材2の上に二色性色素1が一定の方向を向いて配列され、偏光透過軸方向4とは異なる第2の偏光透過軸方向7を有する偏光領域8が形成される。その後、上記工程を繰り返すことにより、図5Bに示すように、偏光透過軸方向が異なる複数の偏光領域5、8を有する偏光素子9を作製することができる。図5Bでは、偏光領域5、8をストライプ状に形成したが、格子状に形成することもできる。
【0026】
本実施形態の方法により、量産性、偏光能に優れた偏光素子、更には偏光透過軸方向が異なる複数の偏光領域を有する偏光素子を非常に簡易に且つ高精度に製造できる。また、本実施形態の方法は、延伸操作が必要ないため、ガラス基板のような延伸不可能な基材上に対しても、容易に偏光素子を作り込むことが可能となる。
【0027】
上記溶液の射出は、インクジェット方式により行うことが好ましい。インクジェット方式で射出することにより、二色性色素にずり応力が加わり、二色性色素を一定の方向に確実に配列させることができる。これにより、基板上に、任意の偏光透過軸を有する偏光素子、特にマイクロパターン偏光素子の作製が可能となる。また、インクジェット方式を利用することにより、煩雑な操作を必要とせず、再現性、量産性に優れ、且つあらゆる任意の方向に容易に偏光透過軸を有する(マイクロパターン)偏光素子の製造が可能となる。インクジェット方式による射出は、例えば,市販のピエゾタイプ、サーマルタイプ、連続式等のインクジェットプリンタを用いることができる。
【0028】
また、上記角度αは基材2に対して1°〜89°の角度とすれば、二色性色素にずり応力を加えることができるが、5°〜70°の範囲内であれば、ずり応力がより大きくなり二色性色素の配向性をより向上できる。角度αは、方向3と方向6とで異ならせてもよい。また、角度αの設定は、例えば、インクジェット方式を採用する場合、インクヘッドの角度を調節することにより行ってもよく、また、基材2の角度を調節することにより行ってもよい。
【0029】
二色性色素1は、リオトロピック液晶性を有していればその種類は限定されないが、親水性基を有することが好ましい。これにより、二色性色素1の配向性をより向上できる。また、上記親水性基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、アミノ基、水酸基が好ましい。これらの置換基は、導入が容易であり、親水性も高いからである。二色性色素1は、これらの親水性基を1種のみ有していてもよいが、2種以上有していてもよい。
【0030】
また、使用する二色性色素1は1種類の色素であっても、2種類以上の色素を混合して使用してもよい。二色性色素1の分子量も特に限定されないが、数平均分子量で500〜5000であることが好ましい。この範囲内であれば、偏光能をより向上できるからである。
【0031】
また、二色性色素1の配列は、図2及び図4に示すように、単分子配列(単分子膜)としてもよいが、積層配列(多分子膜)としてもよい。二色性色素1から形成される二色性色素膜の厚さは、1nm〜10μmが好ましく、50nm〜5μmがより好ましい。この範囲内であれが、十分な偏光能を発揮できるからである。
【0032】
二色性色素1は、一定の溶媒組成・色素濃度・温度条件下でリオトロピック液晶性を示す化合物であり、クロモニック液晶相といわれる会合した集合体を形成しており、この集合体が一定方向に配列することにより、偏光性を示す。また、二色性色素1は、複数の分子が会合しているために耐光堅牢性に優れるという特徴を有している。
【0033】
二色性色素1としては、例えば、偏光能が高い芳香族系環構造を有する化合物が好ましい。芳香族系環構造としては、ベンゼン、ナフタリン、アントラセン、フェナントレンが挙げられ、その他にチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、キノリン等の複素環、又はこれらの4級塩、さらにはこれらとベンゼンやナフタリン等との縮合環が特に好ましい。また、前述のように、これらの芳香族系環にスルホン酸基、カルボン酸基、アミノ基、水酸基等の親水性置換基が導入されていることが好ましい。
【0034】
また、二色性色素1としては、例えばアゾ系色素、シアニン系色素、インダンスロン等の縮合系を含むアントラキノン系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、ペリレン系色素、ナフタルイミド系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素、キノフタロン系色素、インジゴ系色素、チオインジゴ系色素等が挙げられる。二色性色素1としては、水溶性の色素が好ましいがこの限りではない。二色性色素1の具体例としては、例えば、特開2005−255846号公報に記載のアゾ色素等が挙げられる。
【0035】
さらに、二色性色素1の具体例としては、例えば、C.I.Direct Blue 1、 C.I.Direct Blue 15、 C.I.Direct Blue 67、 C.I.Direct Blue 78、 C.I.Direct Blue 83、C.I.Direct Blue 90、 C.I.Direct Blue 98、 C.I.Direct Blue 151、 C.I.Direct Blue 168、 C.I.Direct Blue 202、 C.I.Direct Green 51、 C.I.Direct Green 59、 C.I.Direct Green 85, C.I.Direct Vioet 9、 C.I.Direct Vioet 48、 C.I.Direct Red 2、 C.I.Direct Red 39、 C.I.Direct Red 79、 C.I.Direct Red 81、 C.I.Direct Red 83、 C.I.Direct Red 89、 C.I.Direct Orange 39、 C.I.Direct Orange 41、 C.I.Direct Orange 49、 C.I.Direct Orange 72、 C.I.Direct Yellow 12、 C.I.Direct Yellow 26、 C.I.Direct Yellow 44、 C.I.Direct Yellow 50、 C.I.Acid Red 37、 C.I.No.27865、 C.I.No.27915、 C.I.No.27920、 C.I.No.29058、 C.I.No.29060、 disufoindanthrone,disulfo−N,N’−dixylylperylenetetracarbodiimide等が挙げられる。
【0036】
二色性色素1は、通常、溶剤に溶解させた溶液として基材2に射出される。二色性色素1を溶解する溶剤としては、水及び水混和性のある有機溶剤が適している。有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルイミダゾリン(DMI)等の非プロトン性極性溶剤が好ましい。特に、水を主体(50容量%以上)とする混合溶媒が好ましい。この場合の二色性色素1を溶解する濃度としては、色素の溶解性やリオトロピック液晶状態等の分子構造の形成濃度にも依存するが、溶液全体の重量割合で、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。この範囲内であれば、色素の凝集物や未溶解物等の影響も少なく、色素膜の異方性を損なう恐れがなく、また、充分な膜厚を形成できるためである。
【0037】
また、二色性色素1を含む溶液は、基材2への濡れ性、塗布性を向上させるため、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を加えることができる。この界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれも使用可能であり、その添加濃度は、通常溶液全体の重量割合で、0.05重量%以上5重量%以下程度とすればよい。この範囲内であれば、界面活性剤のミセル形成等が色素膜の異方性(配向性)に影響を及ぼす恐れがなく、基材2への充分な濡れ性が得られるからである。
【0038】
基材2については、二色性色素1の配向性を維持できれば特に限定されず、ガラスや樹脂等にて形成されたフィルム、シート、薄板等が使用できる。基材2に用いる樹脂としては、例えば、トリアセテート、アクリル、ポリエステル、トリアセチルセルロース、ポリウレタン等が使用できる。
【0039】
二色性色素1を含む溶液を基材2へ射出した後に乾燥を行うことにより、基材2の上に二色性色素膜が形成される。乾燥する際の温度・湿度条件は限定されないが、温度は0℃以上120℃以下、相対湿度は10%以上80%以下とすればよい。
【0040】
また、上記のように形成された偏光素子(二色性色素膜)は、通常、機械的強度が低いので、必要に応じ、この上に保護膜を設けて使用する。この保護膜としては、例えば、トリアセテート、アクリル、ポリエステル、トリアセチルセルロース、ポリウレタン等からなるフィルム等の透明な高分子膜が用いられる。また、上記二色性色素膜をLCDやOLED等の各種の表示装置の偏光フィルター等として用いる場合には、これらの表示素子を構成する電極基板等に直接、二色性色素膜を形成したり、二色性色素膜を形成した基材をこれら表示装置の構成部材に用いることができる。
【0041】
(実施形態2)
図6及び図7は、本発明の偏光素子の製造方法の他の一工程を示す模式図である。図6及び図7では、図1〜図4と共通する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。
【0042】
本実施形態では先ず、図6に示すように、リオトロピック液晶性を有する二色性色素1を含む溶液を、基材2に対して垂直方向に落下させるとともに、基材2を第1の方向10に移動させる。二色性色素1を含む溶液は、基材2を水平にして重力により落下させればよい。これにより、二色性色素1にずり応力が加わり、基材2の上に二色性色素1を一定の方向に配列させることでき、偏光透過軸方向11を有する偏光領域12が形成される。その結果、図5Aに示すように単一の偏光透過軸方向を有する偏光素子を作製することが出来る。
【0043】
また、図5Bに示すように、上記のようにして作製した偏光領域12に隣接する領域に対して、図7に示すように、リオトロピック液晶性を有する二色性色素1を含む溶液を、基材2に対して垂直方向に落下させるとともに、基材2を第2の方向13に移動させる。これにより、二色性色素1にずり応力が加わり、基材2の上に二色性色素1を一定の方向に配列させることでき、第2の偏光透過軸方向14を有する偏光領域15が形成される。その後は、実施形態1と同様にして図5Bに示すように、偏光透過軸方向が異なる複数の偏光領域12、15を有する偏光素子9を作製することができる。
【0044】
(実施形態3)
次に、本発明の立体表示装置の実施形態について説明する。本実施形態の立体表示装置は、実施形態1又は実施形態2で製造した偏光素子を用いた立体表示装置である。実施形態1又は実施形態2で製造した偏光素子を用いることにより、直線偏光特性を利用したLCD等のディスプレイであっても、直線偏光を利用しないOLED等のディスプレイであっても、立体影像を表示できる。
【0045】
立体(三次元)表示に関しては、従来様々な方法が提案されており、偏光を利用する二眼式立体視(偏光眼鏡方式とも呼ばれる。)はその一つである。即ち、右目、左目に各々偏光軸が直交する偏光板を使用した眼鏡をかけ、両眼視差を有する右目用、左目用の偏光方向の異なる画像を用いて、観察者の眼鏡の偏光板により左右の画像情報を各々左右の目に振り分けて観察する方式である。この方式において偏光方向の異なる画像を映し出すには、2台の表示装置や投影装置を用いて作られる画像をハーフミラー又は偏光ミラーで合成する方法がとられている。この場合、表示装置等が高価になり多数の観客に立体画像を見せる場合には適するが、家庭用又は少人数で見るオフィス用その他のディスプレイには向かないという問題点を有していた。これに対して、実施形態1又は実施形態2により偏光素子を微小に形成して、同一面内に偏光軸が直交するマイクロパターン偏光素子を作製し、そのマイクロパターン偏光素子を表示装置に用いれば、1台の表示装置中に右目用画像と左目用画像を同時に表示することが可能となり、表示装置の価格も低減できる長所がある。
【0046】
(実施形態4)
次に、本発明の機能性フィルムの実施形態について説明する。本実施形態の機能性フィルムは、実施形態1又は実施形態2で製造した偏光素子を用いた機能性フィルムである。本実施形態の機能性フィルムには、例えば、ディスプレイ用フィルム、偽造防止フィルム、複製防止フィルム、プラバシー保護フィルム等が該当するが、これらに限定はされない。
【0047】
図8を用いて本発明の機能性フィルムの一例である偽造防止フィルムを用いた偽造防止機能付きカードの偽造防止機能を説明する。図8Aは、第1の偏光板20と第2の偏光板30とをクロスニコル状態に配置した平面図である。図8Bは、実施形態1又は実施形態2の方法により、偏光透過軸方向が異なる複数の偏光領域を有する星形の偏光素子41を形成した偽造防止フィルムを貼り付けたカード40の平面図である。図8Bの非偏光環境下では、偏光素子41は視認されない。図8Cは、第1の偏光板20と第2の偏光板30との間にカード40を配置した状態を示す平面図である。図8Cの偏光環境下では、偏光素子41がコントラストよく視認できるようになる。これにより、カード40が真正なものか否か判断できる。
【0048】
また、カード40に直線偏光を直接照射することによっても、偏光素子41を視認可能にすることができ、同様に偽造防止機能を発揮できる。
【0049】
本実施形態の偽造防止フィルム等の機能性フィルムは、単純なカラーコピーやスキャナーによる画像取り込みによっては、複製品を再現できない。また、機能性フィルムのみを剥ぎ取って他の基板に貼り付けた場合には、剥ぎ取る際に偏光素子に応力が加わり、偏光素子の破壊、もしくはその偏光特性が変化するため、かかる手段も使えない。このように、本実施形態の機能性フィルムを用いると偽造、複製等が事実上不可能となり、各種の同一性の判断が必要なカード等のセキュリティーの向上を図ることができる。また、カード等のプラバシー情報を実施形態1又は実施形態2の方法で作製したマイクロパターン偏光素子からなる微細な文字等で記載することにより、偏光環境下のみでプライバシー情報を視認可能とでき、カード等にプライバシー保護機能を付与できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように本発明は、量産性、偏光能に優れた偏光素子、更には偏光透過軸方向が異なる複数の偏光領域を有する偏光素子をも非常に簡易に且つ高精度に製造でき、この偏光素子は、立体表示装置、又はティスプレイ用フィルム、偽造防止フィルム等の機能性フィルムへの応用が可能であり、その工業的価値は大である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の偏光素子の製造方法の一工程を示す模式図である。
【図2】図1に示す工程により偏光領域を形成した状態の模式図である。
【図3】本発明の偏光素子の製造方法の他の工程を示す模式図である。
【図4】図3に示す工程により偏光領域を形成した状態の模式図である。
【図5】本発明の偏光素子の製造方法により作製した偏光素子の模式図である。
【図6】本発明の偏光素子の製造方法の他の一工程を示す模式図である。
【図7】本発明の偏光素子の製造方法の他の工程を示す模式図である。
【図8】本発明の機能性フィルムの一例である偽造防止フィルムを用いた偽造防止機能付きカードの偽造防止機能を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0052】
1 二色性色素
2 基材
3 第1の斜め方向
4 偏光透過軸方向
5 偏光領域
6 第2の斜め方向
7 第2の偏光透過軸方向
8 偏光領域
9 偏光素子
10 第1の方向
11 偏光透過軸方向
12 偏光領域
13 第2の方向
14 第2の偏光透過軸方向
15 偏光領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リオトロピック液晶性を有する二色性色素を含む溶液を、基材に対して第1の斜め方向から射出する工程を含むことを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項2】
前記溶液を基材に対して前記第1の斜め方向以外の斜め方向から射出する工程をさらに含む請求項1に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項3】
前記溶液の射出をインクジェット方式により行う請求項1又は2に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1の斜め方向及び前記第1の斜め方向以外の斜め方向は、それぞれ前記基材に対して1°〜89°の角度を有する方向である請求項1〜3のいずれか1項に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項5】
リオトロピック液晶性を有する二色性色素を含む溶液を、基材に対して垂直方向に落下させるとともに、前記基材を第1の方向に移動させる工程を含むことを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項6】
前記溶液を前記基材に対して垂直方向に落下させるとともに、前記基材を前記第1の方向以外の方向に移動させる工程をさらに含む請求項5に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項7】
前記二色性色素は、親水性基を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項8】
前記親水性基は、スルホン酸基、カルボン酸基、アミノ基及び水酸基からなる群から選ばれる少なくとも一つの置換基である請求項7に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の偏光素子の製造方法で製造した偏光素子を用いたことを特徴とする立体表示装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の偏光素子の製造方法で製造した偏光素子を用いたことを特徴とする機能性フィルム。
【請求項11】
前記機能性フィルムは、ディスプレイ用フィルム、偽造防止フィルム、複製防止フィルム及びプライバシー保護フィルムからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項10に記載の機能性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−225090(P2008−225090A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63793(P2007−63793)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】