説明

偏波モード分散補償器および偏波モード分散補償方法

過去の複数のフィードバックループにおける偏光度応答を評価することで、偏波モード分散補償器の偏波制御器に供給される制御信号の変更の大きさが、各フィードバックループ毎に決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高ビットレート光データ伝送のための偏波モード分散(PMD)補償に関する。
【背景技術】
【0002】
高ビットレート光伝送システムの到達距離は、PMDによる制限を受ける。PMDの大きさ(1次PMDに対して群遅延時間差(DGD)により表される)と向き(主偏波状態により表される)は、温度のような環境変化により統計的に変動する。このため、補償デバイスは、適応的である必要がある。これには、いくつかの解決策が提案されている。一般的な設計としては、PMD補償素子の前段に設けられた偏波制御器が用いられる。
【0003】
図1は、このようなPMD補償器を示している。図1のPMD補償器は、偏波制御器101、DGD素子102(固定または可変)、信号品質モニタ103、制御ロジック104、およびインタフェース105を備える。信号品質モニタ103は、制御ロジック104に対してフィードバックを提供する。制御ロジック104は、PMD補償素子102が伝送システムに対して逆のPMDを付加するように、インタフェース105を介して偏波制御器101を調整する。インタフェース105は、偏波制御器101に対してリセットフリーかつエンドレスな制御を行う。フィードバック信号としては、ビット誤り率、フィルタされたスペクトル成分、および偏光度(DOP)のうち、任意のものを用いることができる。
【0004】
図2には、伝送ファイバのDGD(DGD)に対する、Qペナルティにより表される信号歪みの依存性が示されている。信号歪みは、伝送システムのDGDとともに増加する。DGDが大きいほど、信号歪みも大きくなる。DOPもまた、伝送ファイバのDGDの関数として示されている。DOPは、伝送ファイバとPMD補償器からなる伝送システムのDGDとともに減少する。DOPは、伝送ファイバのDGDが0に近づくにつれて最大値に達する。このため、PMD補償器の一実施形態では、DOPを用いて、偏波制御器101に対するフィードバックパラメータを適応的に制御することができる。一般的な制御手順は、DOPが最大値に達するようにフィードバックパラメータを調整することである。最適補償を識別して達成するためには、適応性のためにある種のディザリングが必要となる。制御ロジック104は、偏波制御器101およびDGD素子102に供給される制御パラメータをディザして、モニタ103により測定される信号品質を最適化する。
【0005】
この手順の概要は、図3のようになる。制御パラメータに変更を加えて、システム応答が測定される。信号品質が改善したか否かによって、それぞれ同じ方向または反対方向の変更がさらに加えられる。この手順を繰り返し行うことで、PMD補償器は、最適補償点を探知する。偏波制御器101に供給される制御パラメータはわずかに変更され(ディザされ)(ステップ301)、例えば、DOPにより応答が測定される(ステップ302)。そして、DOPが前のDOPより大きくなったか否かチェックされる(ステップ303)。DOPが大きくなっていれば、伝送ファイバの変化するPMD状態に追従するのと同じ方向に、制御パラメータがさらに変更される(ステップ304)。そうでなければ、偏波制御器101が反対方向に駆動されるように、制御パラメータが変更される(ステップ305)。この手順は、試行錯誤法として説明することもできる。ステップ301において、最適点が漂動したか否かをテストするために、現在の状態の周辺で制御パラメータがわずかに変更される。変更の大きさは、一般に、ノイズを含みかつ分解能が限定された制御パラメータから最適制御点を明確に識別するために十分な大きさでなければならない。一方で、加えられた変更(ディザリングステップ)の大きさは、著しい歪みを与えるレベルを超えてはならない。したがって、ディザリングステップに対する可能な変更の大きさ(ステップサイズ)は、ディザリング手順のための許容歪みにより決定される。
【0006】
与えられる歪み(試行錯誤法で最適制御点をテストするために必要)の大きさは加えられたパラメータ変更だけでなく、入力偏波と偏波制御器の固有軸の間の角距離にも依存することから、ある問題が発生する。これについて、図4に示されるポアンカレ球を用いてさらに説明する。偏波状態は、ポアンカレ球上の方位角θおよび楕円率εという、2つの変数(角度)により記述される。ここでは、調整可能な遅延特性と固定された固有軸(固有状態)401を有する複屈折素子を含む、1つまたは複数の区間からなる偏波制御器を想定している。このような複屈折素子は、入力偏波を、複屈折素子の固有軸401の周りの円上の出力偏波に変化させることができる。これにより、制御パラメータの変更時には、変化された偏波は常に円を記述する。この円の半径は、入力偏波と固有軸401の間の角距離に依存する。フィードバックパラメータに同じ変更が加えられた場合でも、与えられる信号歪みの大きさは、入力偏波と偏波制御器の固有軸401の間の角距離に依存する。このため、制御パラメータに同じ変更が加えられた場合でも、入力偏波と偏波制御器の固有軸401の間の角距離が増加するにつれて、偏波変化の大きさと与えられる歪みの大きさはともに大きくなる。
【0007】
固定ステップサイズによる偏波制御器のフィードバックパラメータのディザリングは、変化するPMD状態に追従するためには遅すぎる(小さなステップサイズ)か、または、最適補償性能を提供しない(大きなステップサイズ)。この様子は、図5に示されている。ステップサイズ(ディザリングステップ)が小さすぎる場合、(a)により示されるように、伝送ファイバのPMD状態の変化が速すぎない間のみ、PMD補償器は動作する。PMD状態が変化すると、PMD補償器は、フィードバックパラメータを変更することで、その変化に追従する必要がある。加えられるパラメータ変更の大きさには限界があるため、伝送ファイバのPMDは、高速外乱の発生時にPMD補償器が追従できるよりも速く変化する場合がある。したがって、ステップサイズが小さすぎれば、PMD補償器は、伝送ファイバのPMD状態が高速に変化する場合に追従できなくなるだろう。ディザリングステップが大きすぎる場合、(b)により示されるように、入力偏波と偏波制御器の固有軸の間の角距離が大きい場合に、PMD補償器は、時折、大きな信号歪みを与える。したがって、PMD補償器は高速変化に追従することができるが、ディザリング制御に必要である、与えられるQペナルティは、許容閾値を超えるだろう。
【0008】
この問題は、特許文献1および2を通じて技術的に知られている。そこでは、偏波制御器は、各々が固定された偏波固有状態と調整可能な遅延特性を有する複屈折素子を含む、1つまたは複数の区間からなる。複屈折素子に供給される制御パラメータを変更することで与えられる偏波変化の大きさは、入力偏波と複屈折素子の固有状態の間の相対角度に依存する。極端な条件では、入力偏波は複屈折素子の固有状態の方向を向いている。そして、供給される制御パラメータがどれだけ変更されたとしても、偏波に変化は生じない。入力偏波と複屈折素子の固有状態の間の角度が大きくなるほど、制御パラメータに与えられる変更に対する偏波変化の大きさが大きくなる。この様子は、図4に示されている。可能な偏波変化は、例えば、固有状態401の周りの円402および403上に定められる。制御パラメータの変更が同じであっても、固有状態401から入力偏波までの距離によって、比較的小さな偏波変化(状態S1→状態S2)または比較的大きな偏波変化(状態S3→状態S4)を生じさせる。伝送ファイバとPMD補償器からなる光伝送システム全体の偏波モード分散の変化の大きさと、例えば、ビット誤り率(BER)により測定されるデータ伝送品質の変化の大きさは、発生する偏波変化の大きさに依存する。このため、各フィードバックループ毎に加えられるパラメータ変更の最大値は、入力偏波が偏波制御器の複屈折素子の固有状態から最も離れている場合によって決定される。そうでなければ、PMD補償器によって、許容できない大きさの信号歪みが与えられるだろう。一方、加えられるパラメータ変更には限界があるため、入力偏波が複屈折素子の固有状態に近い場合には、システム(伝送ファイバとPMD補償器)の偏波モード分散に、ほとんどあるいは全く変化が生じないことになる。このような状況の下では、伝送ファイバの変動するPMD状態に追従することは、困難あるいは不可能でさえある。この問題を回避する方法は、特許文献1および2を通じて技術的に知られている。そこでは、偏波制御器の複屈折素子の固有状態と入力偏波の間の距離を評価して、パラメータ変更の大きさが適応的に変更される。小さな距離の場合は、各フィードバックループにおいて大きなパラメータ変更が加えられ、大きな距離の場合は、各フィードバックループにおいて小さなパラメータ変更が加えられる。図5の(c)により示されるように、適応ステップサイズ制御は変化するPMD状態の高速追従を可能にし、決してQペナルティの閾値を超過することはない。
【0009】
しかしながら、この方法は、複屈折素子の固有状態の決定に依存している。固有状態は、連続するフィードバックループで測定された少なくとも3つの偏波の間の曲率から推定することができる。例えば、図4に示されるように、偏波状態は状態S1から状態S2に変化する。偏波変化の大きさは限定され、そうでなければ、許容できない大きさの信号歪みが生じてしまう。さらに、偏波状態測定の精度は、ノイズおよびその他の劣化効果により限定される。このことは、固有状態の推定を不確かにするとともに、現実的な実装を難しくしている。さらに、曲率推定、固有状態の計算、および実際の偏波状態に対する角距離の計算には、時間のかかる計算が必要となる。
【0010】
もう1つの問題は、単純なディザリング(試行錯誤)は、補償量を減少させる方向に対して大量のテストステップを伴い、訂正に時間を要することである。第3の一般的な問題は、必要な偏波変化と制御パラメータ変更の大きさの間に単純な関係が存在しないことである。偏波変化における必要な変化が小さい場合でさえ、しばしば、偏波制御器印加電圧に大きな変更が必要となる。このため、単純なディザリング型アルゴリズムでは、準静的な補償が可能なだけである。このようなPMD補償器は、ファイバ接触等による高速変動に対して直ちに破綻する。
【0011】
特許文献3、4、および5もまた、光伝送システムにおけるPMD補償について記述している。
【特許文献1】欧州特許出願公開第EP1170890号
【特許文献2】特開2002−082311号公報
【特許文献3】特表2000−507430号公報(国際公開第WO98/29972号)
【特許文献4】特開2001−044937号公報
【特許文献5】特開2001−230728号公報
【発明の開示】
【0012】
本発明の課題は、適応ステップサイズ制御の現実的な実装を実現するPMD補償器およびPMD補償方法を提供することである。特に、偏波制御器に供給されるパラメータを各フィードバックループ毎に変更することで、ステップサイズを適応的に最適化する高速な方法について述べる。
【0013】
本発明の偏波モード分散補償器は、偏波制御器、補償デバイス、信号品質モニタ、および制御部を備える。偏波制御器は、入力光信号の偏波を変化させ、補償デバイスは、入力光信号の偏波モード分散を補償して、出力光信号を出力する。信号品質モニタは、出力光信号の品質を測定し、測定された品質を示すフィードバック信号を生成する。制御部は、過去の複数のフィードバックループにおいて生成された複数のフィードバック信号を用いて、偏波制御器に供給される制御信号に対する偏光度応答を評価することで、制御信号の変更の大きさを決定し、決定した大きさだけ制御信号を変更し、変更された制御信号を偏波制御器に供給する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
本実施形態においては、偏波制御器への印加制御電圧により生じた過去のDOP変動(DOP履歴)が評価される。過去のDOP変動がある閾値より上か下かによって、対応する制御パラメータ(次のステップで供給される)が減らされるかまたは増やされる。この制御方法を適用することで、応答時間を危険なまでに削減する過小なステップとともに、補償性能を低下させる過大なステップも効果的に回避される。応答時間(ファイバ接触等による高速PMD変動の場合の追従性能)をさらに向上させるために、この制御方法は、間違った方向、すなわち、PMD補償の改善ではなく低下を生じさせる方向に導くような制御ステップの監視を含んでいる。この方法によれば、過去の補償低下を生じさせた方向を避けることで、最適な補償器の状態の探索に必要となるステップ数が削減される。
【0015】
図6は、このような制御方法を採用したPMD補償器の構成を示している。このPMD補償器は、偏波制御器601、PMD補償デバイス602、信号品質モニタ603、および制御部604を備える。制御部604は、インタフェース回路611および制御回路612を含む。信号品質モニタ603は、PMD補償デバイス602から出力される光の状態および偏光度を測定して、制御回路612にフィードバック信号を供給する。制御回路612は、そのフィードバック信号を用いて、偏波制御器601およびPMD補償デバイス602に対する制御信号を生成し、一方をインタフェース回路611を介して偏波制御器601に供給し、他方をPMD補償デバイス602に供給する。
【0016】
偏波制御器601は、連結された1つ以上の回転可能な波長板のように制御できる複数の複屈折素子を含む。各波長板は、固定値の遅延特性を持っていてもよく、調整可能な値の遅延特性を持っていてもよい。PMD補償デバイス602は、固定値のDGDまたは可変かつ調整可能な値のDGDを有する光学素子である。以下では、偏波制御器601が複数区間(例えば4個)の独立に制御可能な部分波長板からなり、その後に可変DGD素子が設けられている場合を想定する。当業者にとって、様々な実現方法が可能であることは既知である。例えば、偏波制御器は、機械的に回転可能な波長板、ニオブ酸リチウム(LiNbO3 )デバイス、あるいは、液晶セル、ファイバスクイーザ、またはジルコン酸チタン酸鉛ランタン(PLZT)等の電気光学物質のように、可変遅延特性と固定された固有軸を有する連結された複数の光学素子であり、適切な角度配置で組み立てられたとき、複数の回転可能な部分波長板のように作用することができる。
【0017】
図7は、図6に示したPMD補償器の構成の具体例を示している。このPMD補償器は、偏波制御器701、偏波保持ファイバ702(0°)、704(90°)、可変遅延器703(45°)、ビームスプリッタ705、遅延器706(λ/4)、偏光子707(0°)、708(45°)、709(0°)、フォトダイオード710乃至713、および制御部604を備える。偏波制御器701は、図6の偏波制御器601のLiNbO3 による実装に対応する。偏波保持ファイバ702、704および可変遅延器703は、図6のPMD補償デバイス602に対応する。ビームスプリッタ705、遅延器706、偏光子707乃至709、およびフォトダイオード710乃至713は、図6の信号品質モニタ603に対応するストークス偏光計を形成する。ストークス偏光計では、入射する光ビームが少なくとも4つのビームに分岐し、各ビームが偏光子(および遅延器)を通過し、その結果として現れる強度が測定される。ストークスベクタは、測定された4つ以上の強度の一次結合により計算される。
【0018】
偏波制御器701は、LiNbO3 基材上の複数の3電極区間により実現される。全体の構造は、複数の回転可能な波長板のように動作する。制御回路612は、これらの区間のそれぞれの回転角を示す制御信号をインタフェース回路611に供給する。インタフェース回路611は、それらの回転角を複数の制御電圧に変換し、それらの電圧を偏波制御器701の複数の電極に印加する。PMD補償デバイスは、可変遅延器703により分離された2区間のDGD素子702および704を備え、可変遅延器703の固有軸は、各DGD素子の固有軸に対して45°の傾きを持つ。より一般的には、PMD補償デバイスは、2つの隣接するDGD素子の各々の固有軸に対して45°の傾きの固有軸を持つ、独立に制御可能な複数の可変遅延器により分離された、複数区間のDGD素子を備えることも可能である。フォトダイオード710、711、712、および713により検出される強度をそれぞれI0 、I1 、I2 、およびI3 と記すと、ストークスベクトル

は、次式により求められる。
【0019】
【数1】

【0020】
ストークスベクトル

【0021】
【数2】

【0022】
により偏波状態を記述すると、DOPは偏光パワーと全パワーの商として計算される。
【0023】
【数3】

【0024】
制御回路612は、ストークスベクトル

に関するフィードバック情報を用いて、偏波制御器701およびPMD補償デバイスに対する制御信号を決定する。制御回路612およびインタフェース回路611の各々は、例えば、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)により構成される。
【0025】
制御回路612の制御アルゴリズムの一例は、図8および図9のフローチャートにその概要が示されている。図8および図9は、それぞれ偏波制御器およびPMD補償デバイスに対するステップサイズ適応化の制御アルゴリズムを示している。このアルゴリズムは、偏波制御器の最初の波長板区間について開始し(ステップ802)、DOPが測定される(ステップ803)。ステップサイズ適応化のため、この測定されたDOPは、前に測定された複数のDOP値と比較される。このとき、直近のいくつかのDOP値(例えば、20回程度の測定)のみが考慮される。
【0026】
次に、PMD状態が安定しているか否かがチェックされる(ステップ804)。もし、新たに測定されたDOP値が前のDOP値の1つより小さくも大きくもなく、さらに前のDOP値の最大値と最小値の差がある閾値より下であれば、PMD状態は安定している。そこで、測定されたDOP値が、前のDOP値の最大値(past max.DOP)および最小値(past min.DOP)とそれぞれ比較され、最大値と最小値の差が閾値と比較される。測定されたDOP値がpast max.DOPよりは小さいがpast min.DOPよりは大きく、かつ、差が閾値より小さければ、PMD状態は安定していると判断され、その区間に対する制御信号のステップサイズは縮小される(ステップ805)。そうでなければ、PMD状態は不安定と判断され、高速変動するPMD状態の可能性を捕らえるためにステップサイズは拡大される(ステップ806)。そして、この区間の波長板は、変更されたステップサイズだけ所定方向に回転させられ(ステップ807)、DOPにより応答が測定される(ステップ808)。
【0027】
次に、測定されたDOP値が回転前に測定された値と比較される(ステップ809)。このDOP値が前の値以上であれば、補償は改善されているので、アルゴリズムは次の波長板区間について開始する(ステップ810)。新たに測定されたDOP値が前の値より小さければ、補償は悪化しているので(ステップ811)、波長板はステップサイズの2倍だけ逆方向に巻き戻される(ステップ812)。そして、再びDOPが測定され(ステップ813)、測定されたDOP値が前に測定された値と比較される(ステップ814)。この値が前の値以上であれば、補償は改善されている。この波長板区間の回転方向は、次回の制御ループのために変更された状態で記録され、アルゴリズムは次の波長板区間に進む(ステップ815)。こうして、この区間に対する後続の制御ループにおいては、補償が悪化する方向の制御ステップが効果的にスキップされる。新たに測定されたDOP値が前の値より小さければ、補償は悪化している(ステップ816)。そこで、波長板は初期状態に巻き戻され(ステップ817)、アルゴリズムは次の波長板区間に進む。ステップ803、808、および813においてDOPが測定される度に、測定されたDOPは、これまでに測定された複数のDOP値の実際の最大値(actual max.DOP)と比較される。この値がactual max.DOPより大きければ、その測定値をactual max.DOPとして記録することで、actual max.DOPが更新される。
【0028】
次に、上述した手順に従ってすべての波長板区間が評価された否かがチェックされる(ステップ801)。もしまだであれば、ステップ802以降において、次の波長板区間が評価される。1回の制御ループにおいてすべての波長板区間が評価されると、実行された制御ループの数が閾値と比較される(ステップ818)。制御ループの数が閾値以下であれば、ステップ802以降において、最初の波長板区間についてループが再び開始される。ループ数が閾値を超えた場合は、PMD補償デバイスに対するDGD制御が開始される(ステップ819)。
【0029】
偏波制御器の後段にあるPMD補償デバイスに可変DGD素子が実装されている場合、ステップ819におけるDGD制御アルゴリズムは、図9のようになる。実際の光伝送ファイバの偏波変動は、DGD変動より高速である。このため、偏波制御器に対するフィードバックループが数回実行された後に、DGD素子を制御および最適化するアルゴリズムが呼び出される。まず、過去のDGD変化に特定の傾向があるか否か、すなわち、DGDが連続的に減少または増加しているか否かがチェックされる(ステップ901)。これは、伝送範囲のDGD変動を反映している。PMD補償器における過去のDGD設定の連続的な減少または増加は、結果的に伝送ファイバの変化するDGD状態を示している。これを捕らえるため、DGDが特定の傾向を示している場合には、PMD補償デバイスのDGDが変更される大きさであるステップサイズを拡大して、応答性能が高められる(ステップ902)。一方、DGDが特定の傾向を示していない場合は、伝送ファイバのDGD状態は一定であり、DGDを大幅に変更する必要はない。将来における伝送ファイバのDGD変動を検出するためには、小さな変更で十分である。そこで、PMD補償デバイスに対するステップサイズは縮小される(ステップ903)。
【0030】
次に、偏波制御器に対する制御ループで記録されたactual max.DOPが、前のDGD制御ループの最後にステップ907で記録された、DOP値の前の最大値(previous max.DOP)と比較される(ステップ904)。actual max.DOPがprevious max.DOPより小さければ、前のDGD設定に対して補償性能は悪化している。このため、DGD変更の方向が反転される(ステップ905)。補償性能が改善した場合、すなわち、actual max.DOPがprevious max.DOP以上である場合は、同じ方向に保持される。次に、PMD補償デバイスのDGD素子が、変更されたステップサイズと決定された方向に従って設定され(ステップ906)、actual max.DOPが、次のDGD制御ループに対するprevious max.DOPとして記録される(ステップ907)。そして、アルゴリズムは、偏波制御器に対する後続の制御ループに進む(図8のステップ801以降)。
【0031】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、PMD補償器を制御するために、PMD補償デバイスにおける複屈折素子の固有状態を決定する必要はなく、より単純な、過去のDOP値の評価が採用される。したがって、高速変動するPMD状態に追従可能な、適応ステップサイズ制御の現実的な実装が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来のPMD補償器の構成を示す図である。
【図2】DGDの関数としてのQペナルティおよびDOPを示す図である。
【図3】PMD補償器の一般的な制御手順の概要を示す図である。
【図4】ポアンカレ球上における偏波変化を示す図である。
【図5】PMD補償器における偏波制御器の固定ステップサイズ制御の効果を示す図である。
【図6】本発明のPMD補償器の構成を示す図である。
【図7】PMD補償器の構成の具体例を示す図である。
【図8】偏波制御器のステップサイズを適応的に制御する制御アルゴリズムのフローチャートである。
【図9】PMD補償デバイスのステップサイズを適応的に制御する制御アルゴリズムのフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力光信号の偏波を変化させる偏波制御器と、
前記入力光信号の偏波モード分散を補償して、出力光信号を出力する補償デバイスと、
前記出力光信号の品質を測定し、該測定された出力光信号の品質を示すフィードバック信号を生成する信号品質モニタと、
過去の複数のフィードバックループにおいて生成された複数のフィードバック信号を用いて、前記偏波制御器に供給された制御信号に対する偏光度応答を評価することで、制御信号の変更の大きさを各フィードバックループ毎に決定し、該決定された大きさだけ該制御信号を変更し、変更された制御信号を該偏波制御器に供給する制御部と
を備えることを特徴とする偏波モード分散補償器。
【請求項2】
前記制御部は、前記複数のフィードバック信号の各々から偏光度を求め、得られた偏光度の最大値と最小値の差を閾値と比較し、該差が該閾値より大きいとき、前記変更の大きさを拡大することを特徴とする請求項1記載の偏波モード分散補償器。
【請求項3】
前記制御部は、現在のフィードバック信号から偏光度を求め、得られた偏光度を前記偏光度の最大値および最小値と比較し、該得られた偏光度が該最大値より小さく、かつ、該最小値より大きく、かつ、前記差が前記閾値より小さいとき、前記変更の大きさを縮小することを特徴とする請求項2記載の偏波モード分散補償器。
【請求項4】
前記制御部は、より悪い補償性能をもたらす制御信号の変更を記録し、後続する1つ以上のフィードバックループにおいて、該記録された変更を伴う制御ステップをスキップすることを特徴とする請求項1、2、または3記載の偏波モード分散補償器。
【請求項5】
前記偏波制御器は、各々が固定値の遅延特性を持つ連結された1つ以上の回転可能な波長板のように制御可能な、複数の複屈折素子を含むことを特徴とする請求項1、2、または3記載の偏波モード分散補償器。
【請求項6】
前記複数の複屈折素子は、各々が電極に印加される電圧により制御される回転可能な波長板のように動作する、LiNbO3 基材上の複数の3電極区間により実現されることを特徴とする請求項5記載の偏波モード分散補償器。
【請求項7】
前記偏波制御器は、遅延特性の値が調整できる連結された1つ以上の回転可能な波長板のように制御可能な、複数の複屈折素子を含むことを特徴とする請求項1、2、または3記載の偏波モード分散補償器。
【請求項8】
前記偏波制御器は、連結された1つ以上の回転可能な波長板のように制御可能な、複数の複屈折素子を含み、前記制御部は、該波長板のうち、より悪い補償性能をもたらすものの回転方向を記録し、後続する1つ以上のフィードバックループにおいて、該記録された方向への制御信号の変更を伴う制御ステップをスキップすることを特徴とする請求項1、2、または3記載の偏波モード分散補償器。
【請求項9】
前記補償デバイスは、固定値の群遅延時間差を持つ光学素子であることを特徴とする請求項1、2、または3記載の偏波モード分散補償器。
【請求項10】
前記補償デバイスは、可変かつ調整可能な値の群遅延時間差を持つ光学素子であることを特徴とする請求項1、2、または3記載の偏波モード分散補償器。
【請求項11】
前記制御部は、前記補償デバイスの群遅延時間差の過去における変化の傾向を評価することで、群遅延時間差の変更の大きさを各フィードバックループ毎に決定することを特徴とする請求項10記載の偏波モード分散補償器。
【請求項12】
前記制御部は、前記群遅延時間差が連続的な減少および増加の一方を示しているかどうかをチェックし、該群遅延時間差が連続的な減少および増加の一方を示しているとき、該群遅延時間差の変更の大きさを拡大することを特徴とする請求項11記載の偏波モード分散補償器。
【請求項13】
前記信号品質モニタは、ストークスベクトルの成分を測定し、該ストークスベクトルの成分を示すフィードバック信号を生成する偏光計を含み、前記制御部は、該ストークスベクトルの成分を用いて偏光度を求めることを特徴とする請求項1、2、または3記載の偏波モード分散補償器。
【請求項14】
入力光信号の偏波を変化させる偏波制御器と、該入力光信号の偏波モード分散を補償して、出力光信号を出力する補償デバイスと、該出力光信号の品質を測定し、該測定された出力光信号の品質を示すフィードバック信号を生成する信号品質モニタとを含む偏波モード分散補償器のための制御部であって、
過去の複数のフィードバックループにおいて生成された複数のフィードバック信号を用いて、前記偏波制御器に供給された制御信号に対する偏光度応答を評価することで、制御信号の変更の大きさを各フィードバックループ毎に決定し、該決定された大きさだけ該制御信号を変更し、変更された制御信号を該偏波制御器に供給する制御回路を備えることを特徴とする制御部。
【請求項15】
偏波制御器により、入力光信号の偏波を変化させ、
補償デバイスにより、前記入力光信号の偏波モード分散を補償して、出力光信号を生成し、
前記出力光信号の品質を測定して、該測定された出力光信号の品質を示すフィードバック信号を生成し、
過去の複数のフィードバックループにおいて生成された複数のフィードバック信号を用いて、前記偏波制御器に供給された制御信号に対する偏光度応答を評価することで、現在のフィードバックループに対する制御信号の変更の大きさを決定し、
前記決定された大きさだけ前記制御信号を変更して、変更された制御信号を前記偏波制御器に供給する
ことを特徴とする偏波モード分散補償方法。
【請求項16】
前記変更の大きさの決定において、それぞれのフィードバック信号から得られた偏光度の最大値と最小値の差を閾値と比較し、該差が該閾値より大きいとき、前記変更の大きさを拡大することを特徴とする請求項15記載の偏波モード分散補償方法。
【請求項17】
前記変更の大きさの決定において、現在のフィードバック信号から偏光度を求め、得られた偏光度を前記偏光度の最大値および最小値と比較し、該得られた偏光度が該最大値より小さく、かつ、該最小値より大きく、かつ、前記差が前記閾値より小さいとき、該変更の大きさを縮小することを特徴とする請求項16記載の偏波モード分散補償方法。
【請求項18】
より悪い補償性能をもたらす制御信号の変更を記録し、後続する1つ以上のフィードバックループにおいて、該記録された変更を伴う制御ステップをスキップすることを特徴とする請求項15、16、または17記載の偏波モード分散補償方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−532035(P2007−532035A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520482(P2006−520482)
【出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004177
【国際公開番号】WO2005/093975
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】