説明

停止持に振動を低減する多気筒内燃機関とそれを搭載した車両、および振動を低減する方法。

【課題】
アイドリングストップ操作による惰行走行時の内燃機関の気筒内圧の圧力変動を低く抑え、パワープラント懸架系の振動を低減する。
【解決手段】
直列4気筒型の多気筒内燃機関10は、ピストン上下運動が互いに逆相となる第1気筒11と第2気筒12および第3気筒13と第4気筒14のそれぞれに、対の気筒を連通する短絡管21を設け、短絡管21と気筒11〜14との間に開閉弁30を設け、アイドリングストップ時に、短絡管21を開放し、第1気筒11と第2気筒12との間および第3気筒13と第4気筒14との間で気体の出し入れを行うように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラックのエンジンなどの多気筒内燃機関、特にはアイドリングストップシステムを有する多気筒内燃機関において、アイドリングストップシステムにより、内燃機関が停止する際の振動を低減する多気筒内燃機関とその多気筒内燃機関を搭載した車両、および振動を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、環境問題への関心が高まり、少ない燃料でより多くの距離を走る低燃費車や、温室効果ガスの排出を低減した低排出ガス車などに注目が集まっている。それらの中で、短時間のエンジン停止と再始動という一連の制御を、特別な操作を必要とすることなく、自動的に行う機構、つまりアイドリングストップシステムを搭載した車両がある。アイドリングストップとは信号停止中や渋滞中に燃費低減および、排気ガス低減のために内燃機関を停止することである。
【0003】
アイドリングストップは、エンジン始動に要する燃料がアイドリング5秒間に相当することから、5秒以上の停止を伴う場合に有効とされている。また、アイドリングストップを行うことで約14%の燃費向上が期待でき、CO排出については、1日10分間のアイドリングストップによって、乗用車1台あたり1年間で約120kg低減できるといわれている。
【0004】
しかし、アイドリングストップシステムを搭載した車両では、エンジン停止と始動時に振動が発生してしまい、この振動が原因で乗員を不快にさせることが問題となっている。
【0005】
この振動悪化は、筒内圧から起こされるクランク軸系の回転変動が原因であり、パワープラント懸架系とそれを支持するラバーマウントの共振により、その振動が助長されるために起こるものである。図8に示すように、ラバーマウントには防振域と共振域が周波数により存在する。アイドリング運転時の周波数は防振域となるために車両側に伝達される振動は低減される。しかし、アイドリングストップによる内燃機関停止、始動時には内燃機関の回転数が共振域の周波数となり、振動は増幅されてしまう。
【0006】
特にディーゼルエンジンの様に圧縮比が大きく、筒内圧の圧力変動が大きい場合には、その振動悪化問題は顕著となる。これらの対策としては、筒内圧の圧力変動を低く抑えることが最も有効であると考えられている。
【0007】
そこで、アイドリングストップシステムを有したエンジンに、筒内の圧力をセンサによって検出し、その圧力が最も低くなるように吸気バルブと排気バルブを動作させる制御ユニットを設けて、筒内圧を低く抑えエンジン停止持の振動を低く抑える装置がある(例えば特許文献1参照)。また、クラッチ油圧が完全に抜け出る時点でエンジンを停止し、車両に伝達されるトルクをなくし、モータを相殺トルクで制御し、車両の衝撃および振動現象を防止する制御装置もある(例えば特許文献2参照)。これらは、ハイブリッドシステムを備えた車両で、電気的なしくみにより始動停止持の振動を低減している。しかし、制御が複雑になる問題がある。また、大がかりな装置を設けたり、気筒内圧やクラッチ油圧が抜けるタイミングなどを正確に検知する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001―304005号公報
【特許文献2】特開2009−62026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、アイドリングストップ操作などにより内燃機関が停止した場合、気筒内の圧力変動を低く抑え、内燃機関の振動を低減させる内燃機関とそれを搭載した車両、および振動を低減する方法を提供することである。加えて、惰行走行時の内燃機関のポンピングロスを低減することも可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の多気筒内燃機関は、ピストン運動が互いに逆相となる対の気筒を有する多気筒内燃機関において、前記対の気筒を連通する短絡管を設け、該短絡管と気筒との間に開閉弁を設けて構成される。
【0011】
この構成によれば、内燃機関の停止操作時に、互いにピストンの上下運動が逆相の気筒を短絡させ、両気筒内の空気の行き来を自由にすることで、気筒内圧の圧力変動を低く抑えることができる。そのため、内燃機関停止持の振動を大幅に低減することができる。
【0012】
例えば、一般的な直列4気筒エンジンでは、1番気筒と2番気筒、3番気筒と4番気筒が互いにピストン上下運動が逆相、つまりクランク軸における角度で180度ずれることになることから、惰行走行時の空気の出入りは逆となる。この空気の出し入れを短絡管を用いて行うことにより筒内の圧力変動をほぼゼロにすることができる。
【0013】
上記の構成では、短絡管と気筒の間に開閉弁を設け、開閉弁を開放することで対の気筒を短絡させることができる。通常の内燃機関の運転時には開閉弁を閉鎖することで気筒は通常どおりの筒内圧を維持することができる。
【0014】
また、上記の多気筒内燃機関において、車両の一時停止において内燃機関の運転を停止するアイドリングストップ時に、内燃機関の運転停止指令に連動して、前記開閉弁を開閉するように構成する。
【0015】
この構成によれば、開閉弁がアイドリングストップシステムと連動して開閉し、惰行走行から停止する場合には短絡管が開放するように制御され、惰行走行持の内燃機関のローリングモーメントは大幅に低減することができる。
【0016】
また、惰行走行持に、適時使用すると内燃機関のポンピングロスを低減することができ、車両燃費が向上する。内燃機関はポンプのように空気を吸入し、排気ガスを排出する。それを行うために内燃機関の出力が用いられるため、その分は内燃機関の正味出力からみて損失となる。この損失をポンピングロスという。通常、アイドリング時にはバルブが閉じた状態になるため、走行時に比べ、ピストン運動がしにくくなる。上記の構成では対の気筒を短絡させるため、空気の圧縮などによる出力の低下を抑えることができる。
【0017】
加えて、上記の目的を達成するための本発明の車両は、トラックなどの車両において、上記の多気筒内燃機関を搭載して構成する。
【0018】
この構成によれば、上記の多気筒内燃機関を搭載した車両において、気筒内圧の圧力変動を低く抑えられた多気筒内燃機関を搭載するため、クランク軸系の回転変動を原因とする、パワープラント懸架系とそれを支持するラバーマウントの共振を防止し、振動を低減
することができる。
【0019】
さらに、上記の目的を達成するための本発明の多気筒内燃機関の振動低減方法は、アイドリングストップシステムを備えた多気筒内燃機関の振動低減方法において、多気筒内燃機関を停止させる場合のみ、ピストン運動が互いに逆相になる対の気筒を短絡管で連通させて、筒内圧が高い気筒から筒内圧が低い気筒へ空気を移送し、筒内圧の圧力変動を低く抑える。
【0020】
この方法によれば、アイドリングストップシステムによって、多気筒内燃機関が停止した場合に対の気筒を短絡管で連通し、対の気筒内の空気を移送することで、気筒内圧の圧力変動を低く抑えることができる。そのため、筒内圧力変動がほぼゼロになり、振動悪化を低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、内燃機関停止操作時の気筒内の圧力変動を低く抑えることができ、そのため、内燃機関停止持の振動を大幅に低減することができる。また、惰行走行持に適時使用することにより、内燃機関のポンピングロスを低減することができ、車両の燃費を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の多気筒内燃機関を示した断面図である。
【図2】本発明に係る第1の実施の形態の開閉弁の開放状態を示した断面図である。
【図3】本発明に係る第1の実施の形態の開閉弁の閉鎖状体を示した断面図である。
【図4】本発明に係る第1の実施の形態の多気筒内燃機関の動作を示したフローチャートである。
【図5】本発明に係る実施の形態の多気筒内燃機関の惰行走行時に短絡管を閉鎖したときの回転変動を示した表である。
【図6】本発明に係る実施の形態の多気筒内燃機関の惰行走行時に短絡管を開放したときの回転変動を示した表である。
【図7】本発明に係る第2の実施の形態の多気筒内燃機関を示した断面図である
【図8】ラバーマウントの共振域を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施の形態の多気筒内燃機関10とそれを搭載した車両、および振動を低減する方法について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明に係る実施の形態の多気筒内燃機関10は直列4気筒エンジンであり、第1気筒11、第2気筒12、第3気筒13および第4気筒14と、第1気筒11〜第4気筒14と連動して作動するクランクシャフト15と、シリンダブロック16と、シリンダヘッド17とからなる。
【0025】
第1気筒11はピストン11aと、コネクティングロッド11bとシリンダ11cとからなる。ピストン11aはシリンダブロック16のシリンダ11c内を摺動する。シリンダブロック16に形成されるシリンダ11cは円形を成しており、ピストン11aも合わせて円形に形成され、特にディーゼルエンジンの場合は、ピストン頭頂部を大きく窪ませて燃焼室を形成するとよい。コネクティングロッド11bは、クランクシャフト15との連動により、ピストン11aの往復直線運動を回転運動へ変換する部品である。
【0026】
第2気筒12、第3気筒13、および第4気筒14も第1気筒11と同様の構成となる。
【0027】
コネクティングロッド11bと連動するクランクシャフト15は、ピストン11aおよびコネクティングロッド11bなどの振動により生じる慣性力を軽減するためのバランスウェイトなどをつけてもよい。
【0028】
シリンダブロック16は第1気筒11〜第4気筒14が収まる。その気筒11〜14が収まる部分の下部にはクランクシャフト15が収まる。シリンダブロック16とクランクシャフト15が収まるクランクシャフトケースとを別々に設けてもよい。車両(図示しない)に搭載される際には、シリンダブロック16の下部にマウント装置(図示しない)が取り付けられ、マウント装置を介して車両に搭載する。それぞれのシリンダ11c〜14cにピストン11A〜14aとの気密性を保ちつつ滑らかに往復するための筒状の部品としてライナーを備えてもよい。
【0029】
シリンダヘッド17は、各気筒11〜14に吸気弁と排気弁と燃料噴射装置(図示しない)を備え、その吸気弁および排気弁を作動させるカムシャフトや、クランクシャフト15からの回転をカムシャフトに伝えるためのタイミングベルトなども備える。シリンダヘッド17はシリンダブロック16を蓋をするように設けられ、気筒11〜14内を密封する。
【0030】
多気筒内燃機関10は上記の構成に限らず、例えばガソリンエンジンであれば、シリンダヘッド17に点火プラグなども備える。
【0031】
上記の構成の多気筒内燃機関10は、吸入工程、圧縮行程、膨張行程、排気行程を順に行う4サイクル機関であり、その着火順が第1気筒11、第3気筒13、第4気筒14、第2気筒12の順番となる。それぞれのピストン上下運動は第1気筒11と第2気筒12が逆相、つまりクランクシャフト15における角度で180度ずれている。また、第3気筒13と第4気筒14も同様に、逆相となる。
【0032】
本発明に係る実施の形態では、図1に示すように、シリンダブロック16に振動低減装置20a、および20bを設ける。振動低減装置20aは第1気筒11と第2気筒12を短絡し、振動低減装置20bは第3気筒13と第4気筒14を短絡する。この振動低減装置20a、20bはピストン上下運動が逆相となる対の気筒を短絡する装置である。例えば直列6気筒エンジンでも、互いにピストン上下運動が逆相となる気筒を短絡するように振動低減装置を設けることができる。
【0033】
次にこの振動低減装置20aを説明する。図2に示すように、振動低減装置20aはピストン上下運動が逆相となる第1気筒11と第2気筒12を連通する短絡管21と、短絡管21と第1気筒11との連通部22を開閉するように開閉弁30Aを設け、また、短絡管21と第2気筒12との連通部23を開閉するように開閉弁30Bを設ける。
【0034】
短絡管21は第1気筒11と第2気筒12を連通させるように、内部が中空で、且つ両端が開口している。通常は円筒状に形成されるが、対の気筒を連通できれば形状はそれに限らない。
【0035】
開閉弁30Aと開閉弁30Bは同様の構成のため、開閉弁30Aの構成を説明する。開閉弁30Aは弁体31とソレノイド部32と弁座33とからなる。ソレノイド部32は電線42を介して制御部42と接続され、制御部42から電気信号を受け取る。
【0036】
弁体31は連通部22を開放または閉鎖するように形成され、ソレノイド部32からの動力でその開閉動作を行う。弁体31は円板状部34と棒状部35とからなる。円板状部
34は短絡管21の形状よりも大きく形成され、連通部22をしっかりと塞ぐことができる。弁体31の動作は下方に動作したときが、開いた状態であり、上方に動作したときが、閉じた状態である。弁体31が開いた状態を図2に示し、閉じた状態を図3に示す。図に示すように弁体31は上下に動作することによって、連通部22を開閉し、短絡管21を開放または閉鎖する。
【0037】
弁座33は第1気筒11と一体成形され、弁体31が閉じたときに弁体31と弁座33とがきっちりと合わさる。そのため、弁体31が閉じた場合に第1気筒11内で膨張行程が起きた際にも、高温の気体が短絡管21に晒されない。弁座33を第1気筒と一体に成形しない場合には、弁座33と気筒との間に、気筒内容積に影響を与えない程度の管を設けてもよい。
【0038】
ソレノイド部32は内部に永久磁石36と弁体31の棒状部35と接続されている電磁コイル37とからなる。電磁コイル37に電流を流した時にフレミングの左手の法則により電磁コイル37が動くようになっている。
【0039】
開閉弁30A、30Bは上記の構成に限らず、様々な構成の電磁弁を使用することができるが、直動型で電気信号が流れたときに弁体31を開方向へ動作させるものがこのましい。その他開閉弁30A、30Bには、カムシャフトによって動作する吸気用または排気用のバルブなどと同種の弁を用いることもできる。
【0040】
制御部41は、電気信号をソレノイド部32に送り、弁体31を動作させ、連通管21を開放または閉鎖する。開閉弁30A、30Bを電磁弁ではなく、吸気用または排気用バルブなどを使用する場合はカムシャフトやタイミングベルトなどが制御部41の役割を果たす。また、制御部41はアイドリングストップシステムなどと連動したり、アイドリングストップシステム自体を含んだ制御装置としてもよい。
【0041】
また、開閉弁30A、30Bを各気筒11〜14と短絡管21との連通部22、23に設けず、短絡管内に設けてもよいが、高温ガスに短絡管21が晒され、また、気筒内の容積が変わることに注意しなければならない。
【0042】
次に本発明に係る実施の形態の多気筒内燃機関10の動作を説明する。
【0043】
通常運転時には、図3に示すように、振動低減装置20a、20bは開閉弁30A、30Bが閉じた状態であり、短絡管21は閉鎖されている。よって、短絡管21には気体が流れ込むことがない。通常運転時に開閉弁30A、30Bが開き、第1気筒11と第2気筒12および第3気筒13と第4気筒14が短絡してしまうと、気筒内圧が上がらず、通常運転できない。
【0044】
通常運転時に多気筒内燃機関10は第1気筒11、第3気筒13、第4気筒14、そして第2気筒12の順に点火していき、それぞれのピストン11a〜14aが4サイクル運動を行い、上下運動を行う。そのピストン上下運動をコネクティングロッド11a〜14aとクランクシャフト15とが連動し、回転運動に換える。
【0045】
次に、図4に示す、アイドリングストップ操作時の動作を説明する。車両の運転時には短絡管21は気筒11〜14から閉鎖されている。ステップS101は信号機などによる車両の停止操作を示す。車両の停止を制御部41が検知すると今度はステップS102を開始する。ステップS102は車両の停止時間が任意の時間以上かどうか判断する工程である。任意の時間内に車両が動き出した場合に制御部41は多気筒内燃機関10の停止操作を開始することなく、また、短絡管21を閉鎖したまま維持する。ステップS102で
任意の時間以上経過した場合、ステップS103へ進む。ステップS103は多気筒内燃機関10を停止する操作を開始する工程である。多気筒内燃機関10の停止操作が開始されると同時に、ステップS104が開始され、制御部41から電気信号を振動低減装置20a、20bへ送り開閉弁30A、30Bを開き、短絡管21を解放する。
【0046】
ステップS104を詳しく説明する。停止操作に連動し制御部41が電線42を介して、開閉弁30A、30Bのソレノイド部32に電気信号を送る。このときの信号はサーボアンプなどを通じて送ってもよい。ソレノイド部32は電気信号を受け取る。すると電磁コイル37に電流が流れ、永久磁石36との関係から、下方へ、電磁コイル37が動作する。電磁コイル37と接合されている弁体31も同様に動作する。すると、弁体31の円板状部34が弁座33から離れ、気筒11〜14と短絡管21とが連通する。
【0047】
多気筒内燃機関10は運転を停止してから、完全に停止するまで、惰行運転を行う。その際に、図2に示すように、第1気筒11はピストン11aが矢印Iの方向へ下がり、気体を膨張し、気筒内圧を下げようとする。反対に第1気筒11とピストン上下運動が逆相の第2気筒12はピストン12aが矢印IIの方向へ上がり、気体を圧縮し、気筒内圧を上げようとする。しかし、開閉弁30が開放され短絡管21によって連通しているため、空気は矢印IIIの方向へ移動する。空気が移動することにより、気筒内の圧力が平衡していく。
【0048】
上記がステップS104からステップS105の多気筒内燃機関10が停止するまでの動作となる。
【0049】
上記のような動作によって、多気筒内燃機関10の停止時に、ピストン上下運動が逆相となる第1気筒11と第2気筒12、および第3気筒13と第4気筒14のそれぞれを短絡することができ、気筒内の圧力変動をほぼゼロにすることができる。そのため、気筒内圧の圧力変動から起こされるクランク軸系の回転変動を原因とする振動を低減することができる。
【0050】
上記の方法の他にも、たとえばステップS102を車両の速度で検知する方法にすることもできる。つまり、車両が渋滞や、信号機の手前などで、予め速度を減速させたときに車両を惰行走行させる制御である。速度が任意の速度以下になった場合に、多気筒内燃機関10の停止操作を開始し、車両を惰行走行させる。一般的な直列4気筒エンジンでは第1気筒11と第2気筒12、第3気筒13と第4気筒14が互いにピストン上下運動が逆相となることから、惰行走行時の空気の出入りは逆となる。この空気の出し入れを短絡管21で行うことで、気筒内圧の圧力変動を低く抑えることができる。また、惰行走行時に適時使用することができ、多気筒内燃機関10のポンピングロスを低減することも可能になり、車両燃費が向上する。
【0051】
図5、図6に本発明に係る実施の形態の内燃機関10の惰行走行時のパワープラントのローリングモーメントを、開閉弁30A、30Bを開閉した測定値を示す。図5が開閉弁30を閉じた状態を示し、図6が開閉弁30を開いた状態を示す。図5、図6から惰行走行時に開閉弁30A、30Bを開き、短絡管21を開放することで、パワープラント懸架系のローリングモーメントを大幅に低減することができることがわかる。特にクランクシャフト15の角度から見て取れるように、気筒内の圧力が上昇するときのローリングモーメントが大幅に減少していることがわかる。短絡管21を閉鎖し密閉状態になった気筒では、惰行走行時に起きる圧力変動によりローリングモーメントが発生している。しかし、短絡管21を開放することにより、気筒内の気体を圧力が高い方から低いほうへ移送することが可能となり、そのため、気筒内圧の圧力変動をほぼゼロにし、ローリングモーメントの発生を抑えことができる。その結果が図5に示されている。
【0052】
本発明の第2の実施の形態について説明する。図7に示すように、多気筒内燃機関60は排気管61と吸気管62とカムシャフト63とを備えている。排気管61は各気筒11、12と排気管61A、61Bを介して連通し、吸気管62は各気筒11、12と吸気管62A、62Bを介して連通する。吸気管62Aは気筒11との間にバルブ64Aを備える。排気管61Bは気筒12との間にバルブ64Bを備える。バルブ64A、64Bはカムシャフト63のカム63A、63Bの動作によって、開閉する。カムシャフト63はクランクシャフトと連動して動作する。
【0053】
気筒11では、排気管61Aと短絡管51とが3方向電磁弁50Aを介して、連通している。気筒12では吸気管62Bと短絡管51とが3方向電磁弁50Bを介して、連通している。この3方向電磁弁50Aは通常運転時に内部で短絡管51を閉鎖し、気筒11の排気行程時に排気管61Aを連通する。そして、アイドリングストップ時に排気管61Aを閉鎖し、短絡管51を開放する。3方向電磁弁50Bも同様に、吸気行程時に吸気管62Bを連通し、アイドリングストップ時に短絡管51を開放する。
【0054】
上記の構成によって、部品点数を少なくすることができ、また、製造を簡単にすることができる。
【0055】
上記の多気筒内燃機関10および60は直列4気筒エンジンで説明したが、本発明の多気筒内燃機関はそれに限らない。2つ以上の気筒を有したレシプロンエンジンであれば、直列型、並列型や、V型、W型などでもよい。
【0056】
上記の多気筒内燃機関10、60をラバーマウントなどのマウント装置で車両に固定する。多気筒内燃機関10、60は変速装置を介して、シャフトに動力を供給する。多気筒内燃機関10、60を搭載した車両は、車両の停止操作時に、気筒内圧の圧力変動を低く抑えるため、クランクシャフト15などの回転変動を原因とする、パワープラント懸架系とそれを支持するラバーマウントの共振を防止し、振動を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の内燃機関は、短絡管を開放することによって、気筒内圧の圧力変動を低く抑え、車両の惰行走行時の内燃機関停止操作に伴う振動を低減することができる。そのため、アイドリングストップシステムを有したトラックなどの車両などに用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
10、60 内燃機関 30 開閉弁
11、12、13、14 気筒 31 弁体
20a、20b 振動低減装置 32 ソレノイド部
21 短絡管 41 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン運動が互いに逆相となる対の気筒を有する多気筒内燃機関において、前記対の気筒を連通する短絡管を設け、該短絡管と気筒との間に開閉弁を設けたことを特徴とする多気筒内燃機関。
【請求項2】
車両の一時停止において内燃機関の運転を停止するアイドリングストップ時に、内燃機関の運転停止指令に連動して、前記開閉弁を開閉することを特徴とする請求項1に記載の多気筒内燃機関。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多気筒内燃機関を搭載したことを特長とする車両。
【請求項4】
アイドリングストップシステムを備えた多気筒内燃機関の振動低減方法において、多気筒内燃機関を停止させる場合のみ、ピストン運動が互いに逆相になる対の気筒を短絡管で連通させて、筒内圧が高い気筒から筒内圧が低い気筒へ空気を移送し、筒内圧の圧力変動を低く抑える振動低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−159016(P2012−159016A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18438(P2011−18438)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】