説明

健康器具およびその製造方法

【課題】後加工不要であり、かつ安価なゲルマニウム皮膚当接健康器具およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】健康器具をGe:3〜15質量%を含み、残部がTiまたはTiとGeとの合金および不可避不純物である焼結合金により構成する。またその製造方法はゲルマニウム粉末:3〜15質量%および残部がチタン粉末からなる混合粉末を、所望の形状に圧粉成形した後、1100〜1300℃の焼結保持温度で焼結し、少なくとも800℃から焼結保持温度までの温度範囲における昇温速度を10℃/分以下とすることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の皮膚に直接接触させて用いる健康器具に関し、特にゲルマニウムを含有する健康器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゲルマニウムは半導休としてよく知られた元素であるが、人体の皮膚に接触させて用いた場合、ゲルマニウムはイオン反応により水素と結合して体外へ水素を排出することで体内の酸素濃度を増加させ、人体機能の回復や細胞修復を活性にするという作用、および、ゲルマニウムは、温度が32℃以上で電子が離脱し易くなるため、その電荷が生体電流を整えるという作用等の健康増進作用があるとされている。
【0003】
上記の作用を有するゲルマニウムを用いた皮膚当接健康器具として、特許文献1等があり、鋳造により造形したGe:99.9質量%で構成された粒状の健康器具や、ネックレスもしくはブレスレット状の健康器具が製造販売されている。しかし、ゲルマニウムは硬く、加工性が悪いという欠点を有しており、鋳造により造形した後、切削や研削等の機械加工を施すと製品に欠け等が発生しやすく、製造歩留まりが悪いことが問題となっている。ゲルマニウムは鉱石として値段が比較的高く、上記の製造歩留まりの問題は直接コストに影響を及ぼす重要な問題となっており、加工し易い、もしくは加工不要のゲルマニウム健康器具が望まれている。
【0004】
このため本発明者等は、ニアネットシェイプに造形できる粉末冶金法を適用し、Ge:2〜20質量%を含有するステンレス鋼焼結部材により構成した、加工不要かつ安価なゲルマニウム皮膚当接健康器具を提案した(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特公昭58−48186号公報
【特許文献2】特開2005−076073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示された健康器具は耐食性に優れたステンレス鋼中にGeを固溶する焼結部材から構成されるが、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合、耐食性はよいがNiアレルギーの問題があり、また、フェライト系ステンレス鋼を用いた場合Niアレルギーの問題は回避されるが耐食性が低下する。さらに、残留気孔が存在すると、気孔が例えば汗等を吸収した場合にいずれの場合でも孔食腐食が生じるという問題点を有する。本発明は、上記のような状況の下、加工が不要であり、より一層耐食性に優れ、人体の皮膚に接触してもアレルギーを起こすことがなく、かつ安価なゲルマニウム健康器具およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の健康器具は、3〜15質量%のGeを含み、残部がTiおよび不可避不純物である焼結合金からなることを特徴とし、チタン粒子相とゲルマニウム相からなるとともに、前記チタン粒子相界面にTiとGeが合金化したTi−Ge合金層が形成された金属組織を呈することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の健康器具の製造方法は、ゲルマニウム粉末3〜15質量%および残部がチタン粉末からなる混合粉末を、所望の形状に圧粉成形した後、1100〜1300℃の焼結保持温度で焼結することを特徴とする。なお前記焼結において、焼結雰囲気を不活性ガス雰囲気、もしくは圧力がGeの蒸気圧以上かつ13.3Pa以下の減圧雰囲気中で行うことが好ましく、また少なくとも800℃から焼結保持温度までの温度範囲を10℃/分以下の速度で昇温することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゲルマニウム健康器具は、ニアネットシェイプの製品形状が得られる粉末冶金法により製造されるものであるから、後加工が不要であるか、もしくは必要な場合でも最小限の加工で済むものであるとともに、3〜15質量%のGeを含み、残部がTiおよび不可避不純物である焼結部材から構成されたものであるため、皮膚と接触させて装着しても発汗等による錆が発生せず、ゲルマニウムの健康増進作用を有する当接片を安価に得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の健康器具は、粒状に造形した場合、粘着テープにより皮膚に直接貼り付けられたり、ネックレスもしくはブレスレットとして造形し、皮膚と接触させて装着したりするので、人体の発汗等による発錆を防止する必要があり、そのため耐食性に優れたTiをベースとして、これにGeを含有させることによって、発錆の問題を回避するとともにゲルマニウムの健康増進作用を両立させるものである。
【0011】
このような健康器具は、ゲルマニウム粉末をチタン粉末に添加し混合した原料粉末を所望の形状に圧粉成形し焼結することにより得ることができる。ゲルマニウム粉末は、焼結時にGe液相を発生してチタン粉末間の隙間に毛細管現象により浸透し、チタン粉末表面に濡れて焼結体の緻密化に寄与するとともに、チタン粉末表面の酸化被膜を除去してチタン粉末どうしの焼結を活性に進行させる。このため焼結後に得られるTi−Ge合金は、図1の模式図に示すような金属組織となる。すなわち図1中、濃灰色の相は基地でありTiまたはTiとGeの合金である。基地中に分散する黒色の部分は気孔である。図1中、薄灰色の相は基地よりもGeの濃度が高いTiとGeの合金相(Geリッチ相)であり、このようなGeリッチ相が気孔の周囲および基地の亜粒界(元のチタン粉末の粉末粒界)に分散する金属組織となる。
このため本発明の健康器具は、チタン粒子が強固に結合しているので、強度が高く、また、Ge液相による緻密化により気孔が少なくなっているとともに、ベースがTiであるから耐食性も良好である。さらに、本発明の健康器具は粉末冶金法により形成するものであるから、粉末冶金法の特徴であるネットシェイプの製品が得られ、後加工が不要もしくは最小限で済み、粉末冶金法に起因する気孔が残留してもベースがTiであることから孔食腐食の問題も生じない。
【0012】
健康器具としての上記のゲルマニウムの作用は、含有量が3質量%に満たないと上記健康増進作用が乏しく、かつGe液相の発生量が乏しくなって合金化が進行しない。一方15質量%を超えると、ゲルマニウム粉末は硬く靱性に乏しいので、成形金型の損耗が著しくなるとともに、成形性が悪くなって成形体密度が低下することから焼結時にGe液相が発生しても十分な緻密化が進行し難くなり外観が悪くなり、かつ強度が低下することとなる。また、Ge液相の発生量が過多となって製品表面での吹き出しや、型くずれ等が発生しやすくなる。よって、Geの含有量は3〜15質量%が適当である。
【0013】
上記のような健康器具は、チタン粉末に、ゲルマニウム粉末を3〜15質量%添加し、混合した混合粉末を用いて、所望の形状に圧粉成形し得られた圧粉体を、1100〜1300℃の焼結保持温度で焼結することによって得ることができる。焼結の昇温過程でゲルマニウム粉末は938℃で液相を発生し上記のようにチタン粉末表面に濡れを生じるが、焼結温度が1100℃より低い場合、チタン粉末表面でのGeの合金化が十分に進行せず得られる焼結体の強度が低下することとなる。一方、1300℃を超える温度で焼結すると製品の型くずれが著しくなるので避けるべきである。
【0014】
焼結時の雰囲気として、酸素分圧の高い雰囲気で焼結を行うとチタン粉末が酸化して合金化が進行せず焼結体の強度が低下する。また水素雰囲気で焼結を行うとチタン粉末が水素を吸蔵して膨張し型くずれが生じるとともに、合金化が進行せず焼結体の強度が低下する。この点で焼結雰囲気としてはチタン粉末に影響を及ぼさないアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気が適している。
【0015】
真空雰囲気もチタン粉末に影響を及ぼさないが、Geの蒸気圧よりも低い圧力に減圧して真空焼結を行うとGeのベーパーが生じるので好ましくない。一方圧力が13.3Paよりも大きい減圧雰囲気下で真空焼結を行うと酸素分圧が高くなって上記の問題が生じる虞がある。このため真空雰囲気中で焼結を行う場合には、圧力がGeの蒸気圧以上かつ13.3Pa以下の減圧雰囲気下で焼結を行うことが好ましい。
【0016】
焼結の昇温過程においてGe液相が急激に発生すると、焼結体にブリスターが生じて、外観不良が生じることがあるため、焼結の昇温過程においては、少なくとも800℃から焼結保持温度までの温度範囲においては10℃/分以下のゆるやかな速度で昇温することが好ましい。
【0017】
このようにして得られたTi−Ge焼結体は、耐食性に優れるとともに、人体に接触して用いてもアレルギーの問題が生じない健康器具として好適なものである。ただし一部に気孔が残留することは避けられず、残留気孔が汗等を吸収した場合に不快な臭気等が発生する虞がある。このため気孔中に樹脂を含浸して封孔し、汗等の気孔への進入を防ぐことが好ましい。含浸する樹脂としては、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等が使用される。
【実施例】
【0018】
[第1実施例]
ゲルマニウム粉末とチタン粉末を用意し、表1に示す割合で配合して混合した原料粉末を、基部直径がφ7mmで基部高さが1.65mm、基部から円錐頂部までの高さが1mmの独楽形状の試験片に、成形圧力686MPaで成形して、試料番号01〜06の成形体試料を作製した。得られた成形体試料をアルゴンガス雰囲気中で焼結温度1200℃で30分保持して焼結を行った。なお、焼結において、800℃から焼結保持温度までの昇温速度は10℃/分で行った。得られた焼結体試料の外観について観察した結果を表1に併せて示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表1の結果より、Ge量が3質量%に満たない試料番号01の試料では、Ge液相の発生量が乏しく30分の焼結時間では焼結が不十分で、成形体外観とあまり変わらない外観を呈しており、プラスチックハンマーで打撃を与えたところ容易に破壊され、焼結が進行していないことが確認された。Ge量が3〜15質量%の範囲の試料番号02〜05の試料では過剰なGe液相が発生しないできれいな金属光沢の試料が得られた。これらの試料についてもプラスチックハンマーで打撃を与えたが破壊されず良好な焼結状態が得られていることが確認された。Ge量が15質量%を超える試料番号06の試料では、Ge液相の発生量が過多となって試料表面にブリスターの発生が認められた。
【0021】
[第2実施例]
10質量%のゲルマニウム粉末をチタン粉末に添加、混合した原料粉末を第1実施例とじ成形条件で同じ形状に成形し、表2に示す焼結温度でアルゴンガス雰囲気中で30分保持して焼結を行い、試料番号07〜10の試料を作製した。800℃から焼結保持温度までの昇温速度は第1実施例と同様に10℃/分で行った。得られた焼結体試料の外観について観察した結果を表2に併せて示す。なお、焼結温度が1200℃の例は第1実施例の試料番号04の外観の観察結果である。
【0022】
【表2】

【0023】
表2より、焼結温度が1100℃に満たない試料番号07の試料は、焼結が不十分で成形体外観とあまり変わらない外観を呈しており、第1実施例と同様にプラスチックハンマーで打撃を与えたところ容易に破壊され焼結が進行していないことが確認された。焼結温度が1100〜1300℃の試料番号04、08、09の試料は焼結が進行した外観を呈しており、これらの試料についてもプラスチックハンマーで打撃を与えたが破壊されず良好な焼結状態が得られていることが確認された。焼結温度が1300℃を超える試料番号10の試料では、Ge液相の発生量が過多となって型くずれが発生した。
【0024】
[第3実施例]
10質量%のゲルマニウム粉末をチタン粉末に添加、混合した原料粉末を第1実施例と同じ成形条件で同じ形状に成形し、表3に示す圧力の真空雰囲気中で焼結温度1200℃で30分保持して焼結を行い、試料番号11〜15の試料を作製した。800℃から焼結保持温度までの昇温速度は第1実施例と同様に10℃/分で行った。得られた焼結体試料の外観について観察した結果を表3に併せて示す。
【0025】
【表3】

【0026】
表3より、圧力が13.3Paより高い圧力で真空焼結を行った試料番号11の試料は酸素分圧が大きく、焼結が不十分で成形体とあまり変わらない外観を呈しており、第1実施例と同様にプラスチックハンマーで打撃を与えたところ容易に破壊され焼結が進行していないことが確認された。圧力がGeの蒸気圧以上かつ13.3Paの範囲で真空焼結を行った試料番号12〜14の試料は焼結が進行した外観を呈しており、これらの試料についてもプラスチックハンマーで打撃を与えたが破壊されず良好な焼結状態が得られていることが確認された。Geの蒸気圧より低い圧力で真空焼結を行った試料番号15の試料では不完全な焼結状態となっており、この試料を別途EPMA装置で分析したところ試料中に含まれるGe量が減少していた。このことから圧力がGeの蒸気圧より低い圧力で真空焼結を行うとGeが蒸気として放散し、過度に低い場合はGeの液相量が減少して焼結不完全なものとなるものと考えられる。
【0027】
[第4実施例]
10質量%のゲルマニウム粉末をチタン粉末に添加、混合した原料粉末を第1実施例と同じ成形条件で同じ形状に成形し、800℃から焼結保持温度1200℃までの昇温速度を表4に示す昇温速度に変えて昇温し、アルゴンガス雰囲気中で30分保持して焼結を行い、試料番号16〜19の試料を作製した。得られた焼結体試料の外観について観察した結果を表4に併せて示す。なお、昇温速度が10℃/分の例は第1実施例の試料番号04の外観観察の結果である。
【0028】
【表4】

【0029】
表4より、800℃から焼結保持温度までの昇温速度が10℃/分を超える試料番号16、17の試料では急激なGe液相の発生により試料表面にブリスターの発生が認められた。800℃から焼結保持温度までの昇温速度が10℃/分以下の試料番号04、18、19の試料ではブリスターの発生は認められず良好な焼結状態となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、粉末冶金法により健康器具を製造することにより後加工不要とするとともに、Geを3〜15質量%を含み、残部がTiおよび不可避不純物である焼結合金からなる焼結体を使用することにより、耐食性に優れるとともに、ゲルマニウムの健康増進作用を兼ね備えたものであるから、皮膚に直接貼り付けたり、装身具として皮膚と接触させて装着する健康器具を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の健康器具の金属組織断面の状態を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3〜15質量%のGeを含み、残部がTiおよび不可避不純物である焼結合金からなることを特徴とする健康器具。
【請求項2】
Ti基地中またはTiとGeの合金からなる基地中の気孔の周囲および前記基地の亜粒界に前記基地よりもGeの濃度が高いTiとGeの合金相が分散する金属組織を呈することを特徴とする請求項1に記載の健康器具。
【請求項3】
前記焼結合金の気孔が樹脂により封孔されていることを特徴とする請求項1または2に記載の健康器具。
【請求項4】
ゲルマニウム粉末3〜15質量%および残部がチタン粉末からなる混合粉末を、所望の形状に圧粉成形した後、1100〜1300℃の焼結保持温度で焼結することを特徴とする健康器具の製造方法。
【請求項5】
前記焼結を不活性ガス雰囲気中で行うことを特徴とする請求項4に記載の健康器具の製造方法。
【請求項6】
前記焼結をGeの蒸気圧以上かつ13.3Pa以下の減圧雰囲気中で行うことを特徴とする請求項4に記載の健康器具の製造方法。
【請求項7】
前記焼結において、少なくとも800℃から焼結保持温度までの温度範囲を10℃/分以下の速度で昇温することを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の健康器具の製造方法。
【請求項8】
前記焼結の後、焼結部材に樹脂を含浸することを特徴とする請求項4から7のいずれかに記載の健康器具の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−330501(P2007−330501A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165711(P2006−165711)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(500440049)株式会社ナノサイエンス (1)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)
【Fターム(参考)】