説明

偽造防止印刷物

【課題】本発明は、微細な画線、特に、微細な画線を含んだ階調図柄においてもパール顔料による干渉光で視認できるパール光沢が付与でき、加えて、パール光沢による階調画像が視認できる偽造防止性の高い印刷物を提供するものである。
【解決手段】階調図柄は、第1の印刷層の全部又は一部に第2の印刷層を積層して成り、第1の印刷層は、凸状で、かつ光吸収性インキにより複数の画線を有し、画線の画線幅は、階調図柄の所定の領域毎に異ならせて成り、画線の画線高さは、階調図柄の所定の領域ごとに画線幅に応じた所定の周長になるように異ならせて成り、第2の印刷層は、パール印刷層で成り、階調図柄は、拡散光領域では第1の印刷層の印刷色で階調をなして視認でき、正反射光領域では第1の印刷層に積層するパール印刷層によりパール光沢で階調をなして視認できる偽造防止印刷物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣、国債、パスポート、有価証券、カード、貴重印刷物を含む偽造防止が必要とされる印刷物に利用されるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カラー複写機の高画質化、カラー製版技術のコンピュータ化に伴い、紙幣や有価証券類の偽造手段が多様化する傾向にある。特に、カラーコピー機やスキャナーなどの画像入出力機器の解像度が飛躍的に向上していることから、有価証券類に使用されている細線や微小文字の抽出が比較的容易になってきた。このため、コピー機やパソコンのプリンタで再現できない技術、例えば、角度によって異なる色彩が視認できるパール印刷、ホログラムや触感によって凹凸感が得られる凹版印刷などが更に有効な技術になってきている。
【0003】
そこで、本出願人は、パール印刷に着眼して、特開2004−90381号公報や特開2004−209646号公報を開示している。
【0004】
特開2004−90381号公報は、基材表面に盛り上がりのあるインキで、配列方向が異なる2方向の万線を利用して第2メッセージ画像を印刷した後、第2メッセージ画像上に第1メッセージ画像を光学的変化インキで印刷し、第1及び第2のメッセージ画像は視認する角度によって出現するものである(特許文献1参照)。
【0005】
一方、特許第3718712号公報は、基材表面に、盛り上がった画線形状をなし、かつスクリーン印刷用のインキで、基本画像部と背景画像部を印刷し、基本画像部は視認する角度によってポジ画像からネガ画像に変化して出現するものである(特許文献2参照)。
【0006】
しかし、特許文献1では、潜像を複数現出することを目的及び課題とし、配列方向が異なる万線状凸画線上に光学的変化インキを印刷しているが、印刷物の凸状画線上にパール印刷した場合に及ぼす効果及び万線の線幅及び線ピッチを変化させることは触れておらず、単なる構成のみを言及しているところ、潜像を視認するためには万線状凸画線の線幅及び線ピッチを同一にしないと、印刷物を傾けた時の潜像が明瞭に視認できないため、線構成が単純となり複製が容易であるという欠点がある。
【0007】
また、特許文献2では、パール顔料などを含んだ盛り上がりのある画線でメッセージ画像部と背景画像部とを構成しているが、使用するパール顔料の粒子径によって画線幅は制約を受ける。具体的には、通常、スクリーン印刷、グラビア印刷又は凹版印刷で使用されるパール顔料の平均粒子径は通常5〜150μm程度で、通常の印刷に使用する粒子径よりも大きい。このため、顕著なネガポジ効果のある印刷物として得るためには、印刷物の画線幅はパール顔料(又は鱗片状顔料)の粒子径に依存するものの、少なくとも、画線幅はパール顔料の粒子径よりも3倍以上、粒子径のバラツキを±10μm程度と考えると、好ましくは5倍以上の大きさで画線幅を設計しないと、印刷中に版面の目詰まりが発生し、画線幅は長時間、同一の印刷品質が維持できない。具体的には、版面は印刷方式により異なるが、グラビア印刷の場合はグラビアシリンダのセル、スクリーン印刷の場合はスクリーンの紗の開口幅、凹版印刷の場合は凹版版面の凹部により定まる。
【0008】
そこで、使用するパール顔料の粒子径によって、適宜、画線幅の設計を行う必要があるが、実行上、例えば、平均粒子径5μmのパール顔料を使用した場合でも、75μm以下(パール顔料のバラツキ(プラス側)の粒子径:15μm×版詰まりしない許容値:5倍)の画線幅での印刷は、版詰まりの影響からほとんど行われていない。また、パール顔料を5μm以下の微細にして、パール光沢を向上する開発も行われているが、パール顔料が小さくなると、パール顔料である例えば鱗片状顔料の粒子径が厚みと近似し適正な光の屈折が得られないことと、印刷乾燥後にフィーリング(配向)せずパール光沢が現出しないことこら、パール顔料の粒子径は一定程度の大きさが必要である。従って、スクリーン印刷などによってパール印刷層を形成する場合、75μm以下の画線幅で、長時間安定してパール光沢のある印刷物を作製することは、実行上難しかった。
【0009】
前述の課題は、特許文献2に限った課題ではなく、パール印刷全般に関わる課題である。通常、基材にパール顔料を印刷する場合、比較的大きな印刷顔料の粒子径でも印刷できるグラビア印刷又はスクリーン印刷の方式を用いるが、印刷図柄としては、階調のないベタ図柄で印刷を行う。理由としては、図柄に階調を設けた場合、階調のハイライト部となる細かい画線では印刷上時の版詰まりの影響から不向きであることと、仮に細かな画線で印刷しても、画線面積が小さいため顕著なパール光沢は得られないためである。従って、図柄を微細な画線で構成した場合、顕著なパール光沢を具備する印刷物の作製は困難であった。
【0010】
ところで、基材にパール印刷する場合、パール光沢をより明瞭に観察する方法としては、図8(a)に示すように、まず、光反射性のある白色の紙などの基材10aにオフセット印刷などで平胆状、かつベタ状に光吸収性の黒系インキで印刷層10bを設けた後、印刷層10b上にスクリーン印刷方式などでパール印刷層10cを設ける方法が知られており、この方法は多種多様なパール顔料ごとの色見本印刷物10に利用されている。
【0011】
この理由としては、比較例として図8(b)に示すように、光反射性の白色の基材11a上にスクリーン印刷方式等でパール印刷層11cを設けた印刷物11は、自然光などで視認した場合、パール顔料11dに対する入射光がパール顔料11dで反射する第1の反射光(又は干渉光)と透過する透過光(反射光の補色)に分けられ、さらに透過光は光反射性の基材に反射するため第2の反射光として視認できることによる。このため、第1と第2の反射光で2色の反射光が視認できるが、互いの反射光が干渉し合い(又は、混じり合い)、強いパール光沢は得られないことと、パール顔料11dで本来発揮する干渉光によるパール光沢のみを視認することはできない。
【0012】
一方で、図8(a)のように、色見本印刷物10ではスクリーン印刷方式等でパール印刷層10cの下層に光を吸収する黒系色の印刷層10bを設けることで、自然光等で視認した場合、パール顔料10dに対する入射光は、パール顔料10dで反射する反射光(又は干渉光)は視認できるが、透過する透過光(反射光の補色)は、下層が光吸収性の基材のため、吸収され反射しない。従って、パール顔料10dで反射するパール光沢のみを視認できるため、パール顔料10dが本来、発揮すべき干渉光によるパール光沢のみが明瞭に視認できることと、基材からの反射光がなく反射光の干渉が生じないことから、強いパール光沢が視認できる。
【0013】
しかし、従来は、図8(a)に示すように、基材10aに比較的大きな印刷領域にベタ状に黒系印刷層10bを設け(又は、透明基材の裏面に黒系印刷層を設け)、その上にパール印刷層10cを形成することは、単なるパール顔料のパール光沢を示す色見本としての利用にとどまり、偽造防止効果を狙った開発は図られていなかった。なお、ここでいう「パール顔料」は、特殊な光学効果で真珠のような光沢及び虹彩色を示す顔料であり、天然の雲母に酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物をコートした顔料であるが、その他公知の顔料を適宜使用しても良い。また、「パール光沢」は、メジウム、パール顔料などを混合したインキをスクリーン印刷などでパール印刷層を形成し視認した時に、パール顔料である鱗片状顔料により光多重反射による干渉光を発し、真珠のような光沢、虹彩色及び金属色などが視認できることを言う。
【0014】
【特許文献1】特開2004−90381号公報(第1−8頁、第6−8図)
【特許文献2】特許第3718712号公報(第1−9頁、第5−12図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、前述した課題を解決し、微細な画線でも顕著なパール光沢を発揮することができる。特に、微細な画線を含んだ階調図柄においてもパール顔料による干渉光で視認できるパール光沢が付与でき、加えて、パール光沢の強さの変化が階調画像の画線に応じて視認できる偽造防止性の高い印刷物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、光反射性の基材の少なくとも一方に階調図柄を有する印刷物であって、階調図柄は、第1の印刷層の全部又は一部に第2の印刷層を積層して成り、第1の印刷層は、凸状で、かつ光吸収性インキにより複数の画線を有し、画線の画線幅は、階調図柄の所定の領域ごとに異ならせて成り、画線の画線高さは、階調図柄の所定の領域ごとに画線幅に応じた所定の周長になるように異ならせて成り、第2の印刷層は、パール印刷層で成り、階調図柄は、拡散光領域では第1の印刷層の印刷色で階調をなして視認でき、正反射光領域では第1の印刷層に積層するパール印刷層によりパール光沢で階調をなして視認できることを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0017】
本発明は、光反射性の基材の少なくとも一方に階調図柄を有する印刷物であって、階調図柄は、第1の印刷層の全部又は一部に第2の印刷層を積層して成り、第1の印刷層は、凸状で、かつ光吸収性インキにより複数の画線を有し、画線の画線幅と画線高さは同一とし、画線は、階調図柄の所定の領域ごとに画線のピッチを異ならせて成り、第2の印刷層は、パール印刷層で成り、階調図柄は、拡散光領域では第1の印刷層の印刷色で階調をなして視認でき、正反射光領域では第1の印刷層に積層するパール印刷層によるパール光沢で階調をなして視認できることを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0018】
本発明は、基材と、第1の印刷層及び第2の印刷層との間に、第3の印刷層をパール印刷層で設け、第2及び第3の印刷層に含まれるパール顔料が、同一、同質又は異質であることを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0019】
本発明は、パール光沢が虹彩色又はメタリック調色で視認できることを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0020】
本発明は、第2の印刷層が、ベタ状又は線状であることを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0021】
本発明は、光吸収性インキが、黒、茶、暗青、暗緑又は暗紫のいずれかの色相であることを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0022】
本発明は、階調図柄が、ハイライト部、中間部及びシャドー部から成ることを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0023】
本発明は、階調図柄のハイライト部において、画線の画線幅が100μm以下であることを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0024】
本発明は、画線の画線幅が1〜500μm以下であることを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0025】
本発明は、画線の画線高さが1〜150μm以下であることを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0026】
本発明は、パール印刷に用いるパール顔料の顔料径が、画線の画線幅の1/3以上で成ることを特徴とする偽造防止印刷物である。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、微細な画線を凸状として、その上をパール印刷層で積層することで、画線の周長又は表面積を大きくできることから、画線上に積層又は隠蔽するパール印刷層に含まれるパール顔料の数も増加するため、パール顔料の干渉光(又は多重反射光)も増加する。加えて、画線を黒系色とすることで、パール顔料の干渉光のみを視認できるため、強いパール光沢を視認できる。従って、微細な画線においても、従来よりも視認性が高いパール印刷物が作製できる。
【0028】
また、本発明の印刷物を拡散反射領域で視認した場合、階調画像は第1の印刷層の黒系色及び画線3a以外の基材1上に積層したパール顔料4aの干渉光によりパール光沢が視認できる。一方、正反射領域で視認すると、階調画像の画線3a上に積層した第2の印刷層であるパール印刷層に含まれるパール顔料4aの干渉光により強いパール光沢が視認でき、かつ階調図柄の夫々の画線3aによってパール顔料4aの積層する配向数が異なる結果、夫々の画線3aでは干渉光の強さも異なり、階調図柄に応じたパール光沢の強さの変化が視認できる。従って、視認する角度によって異なった色で階調図柄が視認できる。
【0029】
さらに、本発明の構成では、微細な画線を凸状として、その上にスクリーン印刷でパール印刷層をベタ状に形成するため、パール顔料の粒子径の大きさに制約を受けることなく微細な画線幅でも高いパール光沢が付与できる。
【0030】
また、本発明の構成によって作製した印刷物を複写した場合、第1の印刷層である画線の印刷色となる黒系色は複写できるが、画線上に付与したパール印刷層は透明又は半透明であるため複写困難であり、且つ、印刷物を正反射領域で視認しても、真珠のような光沢や虹彩色などのパール光沢までは再現できないため、偽造防止効果に優れている。
【0031】
また、基材上に第2のパール印刷層、凸状の画線及び第1のパール印刷層の順序に積層する場合、第2のパール印刷層は用紙製造段階で印刷すれば、印刷工程で2回パール印刷する必要がないので効率的に作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は以下に述べる実施するための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな形態が実施可能である。
【0033】
まず、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明における印刷物の構成図である。図2は、本発明の第1の印刷層となる凸状の画線形状を示している。図3は、微細な凸状の画線上にパール顔料を積層した模式図である。図4は、本発明の第1の実施形態を説明している。図5は、本発明の効果を示す図である。図6は、本発明の第2の実施形態を説明している。図7は、本発明の第3の実施形態を説明している。図8は、パール光沢をなす従来例の印刷物である。
【0034】
(印刷層1の構成)
図1(a)は本発明の印刷物1であり、基材2に光を反射する用紙、例えば白色の用紙で、基材2の上に「N」の画線による階調図柄を第1の印刷層3として設ける。印刷層3は、ベタ模様でない凸状(盛り上がった状態)の画線3aを複数設けて画線による連続階調図柄とする。具体的には、図1(b)に示すように、画線3aは縦方向の万線を複数設け、上から下へと画線の幅が徐々に細くなっているため、「N」の図柄自体には連続的に濃度の変化が視認できる。また、画線3aの色は、可視光を吸収する黒系色を用いることが必須となる。黒系色としては、黒、茶、暗青、暗緑又は暗紫等が好ましいが、特に光を吸収すれば色の制約はない。印刷層3の図柄は、文字、数字、マーク又は人像等でも構わず、画線3aは直線のほかに、曲線、破線、分岐線、網点、画素又は格子でも良い。なお、基材1は光吸収性の基材を用いると、本発明の効果が発揮できないため、光反射性の基材1を用いる必要がある。
【0035】
次に、画線による連続階調図柄の構成として、例えば、画線3aは画線ピッチPを300μmとし、シャドー部cでは、画線幅250μm、画線高さ120μm、中間部bでは、画線幅150μm、画線高さ70μm、ハイライト部cでは、画線幅50μm、画線高さ20μmであり、上から下に画線が細く、かつ低くなっている。なお、画線による連続階調図柄を画線3aで形成する場合には、画線幅は5〜300μm、好ましくは10〜100μm、画線ピッチは5〜500μm、好ましくは10〜250μm、画線高さは1〜200μm、好ましくは1〜100μmの範囲が望ましい。なお、印刷層3は、画線による連続階調図柄で施した方が偽造防止上望ましいが、画線自体の太細の変化や非連続な階調で施しても良く、シャドー部、ハイライト部の構成でも構わない。また、印刷層3の画線による連続階調図柄としては、本出願人が開示した特許第3721823号公報、特開2005−28645号公報に記載する構成を利用しても良い。なお、画線3aは、規則的なピッチ、規則的な配線で配置しなくても良く、線自体が断絶していても構わない。
【0036】
印刷層3における画線3aは、酸化重合型インキ、UV硬化型インキ、電子線硬化型インキ、紫外線硬化及び酸化重合機能を併せ持つインキ(特許2113880号公報参照)、又は2液混合型インキが好ましい。印刷方式は特に限定されることはないが、凹版印刷方式又はスクリーン印刷方式が好ましい。
【0037】
(印刷層2の構成)
次に、例えば、図1(a)のような「星」の図柄を、第1の印刷層3に積層するように第2の印刷層4をスクリーン印刷によりパール印刷層で設ける。印刷層4の印刷領域は、印刷層3の印刷領域よりも大きくし、また、パール印刷層をベタ状に設けることが好ましく、この構成により、印刷層3の画線3aに微細な画線、正確には、100μm以下の画線が含まれていても、印刷層3の画線による連続階調図柄は、図柄全体で階調のあるパール光沢を視認できる。なお、印刷層4は、印刷層3の画線3aの全部又は一部をパール印刷層で被覆すれば良く、UV硬化型インキや電子線硬化型インキなどを用い、スクリーン印刷ならば100〜300メッシュ、グラビア印刷ならば100〜250line/inchで印刷すれば良い。また、パール印刷層で使用するパール顔料の粒子径は5〜100μm、平均粒子径は10〜50μm程度が望ましく、印刷するスクリーン線数などによって適宜選択すれば良い。また、印刷層4のパール印刷層の高さ(又は厚さ)は、画線3aのハイライト部の画線高さよりも低いことが望ましい。理由は、画線3aが印刷層4で平坦状に埋まってしまうと、画線3aの凸形状に沿って配向しない場合があり、パール光沢は有するが減衰してしまう恐れがある。したがって、顕著なパール光沢を得るためには、印刷層4の高さは画線3aの高さの1/5〜4/5が好ましいが、この数字に限定されるものではない。さらに、印刷層4は、ベタ状なく線状でも良く、例えば、本出願人が開示した特許第3718712号公報を用いても構わない。
【0038】
(パール光沢の現出)
図1(c)は、図1(a)の断面図(X−X’部)であり、本発明の印刷物の画線断面を模式的に示したものである。基材2に、印刷層3となる黒系色の画線3aの上には印刷層4が積層されている。印刷層4はパール印刷層であるため、基材2及び画線3a上にはパール顔料4aが配向されている。この時、画線3aは凸状であり、仮に半真円状の断面形状とすると、画線3aの画線幅をX、画線3aの周長Yは、略以下の式で求められる。
【0039】
【数1】

したがって、画線3aの凸状の周長Yは、画線幅Xの約1.5倍となることから表面積も増加する。一方、図1(d)に示すように、オフセット印刷で黒系色の画線3bを平坦状に設けた印刷物1bの場合は、画線3bの画線幅Xと周長Yは平坦状であることから等しくで周長は変化しない。従って、画線3aを凸状とすることで、画線3a上に配向するパール顔料4aの配向数が多くなり、パール顔料による干渉光も増えるためパール光沢も向上する。加えて、画線3aは黒系色であるために、印刷層3の領域では、パール顔料4aの干渉光のみを視認できることから、二重にパール光沢を向上することができる。なお、画線3aを半円状で説明しているが、図2(a)〜(b)に示すような、楕円状、三角状及び四角状等、形状の工夫で周長又は表面積を増加することができると共に、パール光沢も高くなる。また、図2(d)のように、まず、平坦に印刷層3aを設けてエンボスにより凸状としても良い。なお、ここでいう「周長」とは、画線3aの基材2と接していない凸状の周囲の長さをいう。なお、断面図に示すパール顔料4aの配向状態は模式的に示したものであり、実際は印刷層4内の上層及び中層等に多数配向されている。
【0040】
また、本発明の構成であれば、75μm以下の微細な画線3aに対しても、顕著なパール光沢が付与できる。例えば、図3に示すように、印刷層3を黒系色の画線3aとして、画線幅を20μm、画線高さ30μm、印刷層4であるパール印刷層のパール顔料4aの粒子径を、10μmとした場合、画線3aは、複数のパール顔料4aで被覆され、かつパール顔料4aの下層を黒系色としてパール顔料4aの干渉光のみを視認できることから、微細な画線でも顕著なパール光沢が得られる。
【0041】
一方、比較例として、例えば図示しない基材1に白色の用紙を用い画線3aを設けないで、20μmの画線幅で粒子径10μmのパール顔料で、スクリーン印刷やグラビア印刷でパール印刷層を設けた場合(図示せず)は、版詰まりや目詰まりにより印刷できないため、パール顔料4aの粒子径を微細にする必要がある。しかし、微細なパール顔料では、所定のパール顔料の厚みが得られず、光を効果的に干渉できないことや配向ができないことから、パール光沢は現出したとしても微弱となる。
【0042】
(実施例1)
図4は、本発明の印刷物1であり、図4(a)のように、光反射性の白い紙となる基材2に凹版印刷機を使用して第1の印刷層3となる「1」の画線による階調図柄を印刷した後、スクリーン印刷機で印刷層3の上に、第2の印刷層4を長方形状に階調のないベタ図柄としてパール印刷層を施した。
【0043】
印刷層3の「1」は、黒色インキにより複数の凸状の画線3aで形成し、上下方向に濃度が変化している。具体的には、「1」の下部はハイライト部a、「1」の中央部は中間部b、「1」の上部はシャドー部cであり、連続的に濃度が変化する画線による連続階調図柄である。階調の形成方法は、図4(b)〜(d)に示すように、例えば、画線3aを斜めに交差するように配置し、各領域とも画線ピッチPを400μmとして、ハイライト部aは、図4(b)に示すように画線3aの画線幅L1を30μm、画線高さ15μm、中間部bは、図4(c)に示すように画線3aの画線幅L2を140μm、画線高さが70μm、シャドー部cは、図4(d)に示すように画線3aの画線幅L3を250μm、画線高さ120μmとして形成することで連続的に濃度が変化している。また、各領域の断面状態(X−X’部)を、図4(b’)〜(d’)に示すが、濃度が濃くなるにつれて画線幅が広がっており、それに伴い画線3aは徐々に高くなることから、画線3aの周長も増加している。なお、図4(b)〜(d)は、印刷層3のみの構成を示すもので、実際には、印刷層3の上には印刷層4が積層されている。
【0044】
また、図4(b’’)〜(d’’)は、図4(b’)〜(d’)の点線で囲まれた領域を拡大した図である。断面形状から見て分かるように、図4(b’’)のハイライト部a、図4(c’’)の中間部b、図4(c’’)のシャドー部cの順に、画線幅、画線の高さとも大きくなるため、画線3aの凸部の周長も長くなる。また、各領域の画線3a上には、印刷層4であるパール印刷層のパール顔料4aが配向していることから、印刷層3による図柄内における夫々の画線3aにおける周長の長さに応じて、パール顔料4aの配向数も増加している。なお、スクリーン印刷は200メッシュの紗を用い、パール顔料4aは透明であり、天然の雲母に酸化チタンした鱗片状顔料で平均粒子径10μm、緑色を帯びた金属光沢を発する顔料を使用し、印刷層4の高さは5μmとした。
【0045】
したがって、実施例1では、ハイライト部aに配置されている、30μm程度の微細な画線3aでもパール光沢、具体的には、緑色を帯びた金属光沢が付与でき、夫々の領域において画線3aの周長の長さに応じて、パール光沢の強さの変化が視認できる。このため、画線による連続階調図柄を構成する画線3aの幅、高さを変化させることで、パール光沢の強さも変化するため、視認する角度によってパール光沢での連続階調図柄も視認できる。また、印刷層3と印刷層4との積層した2層の領域と印刷層4のみの1層の領域におけるパール光沢は、夫々の領域でパール印刷層である印刷層4の下層の色(又は光反射性)が異なることから、パール光沢の強さが異なって視認できる。
【0046】
図5は本発明の構成で、パール光沢で連続階調図柄を視認する場合の模式図である。図5(a)は、画線3aに対して上から光源をあてて、上から視認(観察)した場合の模式図であり、この環境を「拡散反射領域」(画線3aに積層したパール顔料4aが反射しない角度)という。この時、パール顔料4aは透明であるため、連続階調画像をなす第1の印刷層の印刷色である黒色と基材1上に積層したパール顔料4aの第1のパール光沢が視認できる。一方、図5(b)は、画線3aに対して上から光源をあてて斜めから視認(観察)した模式図であり、この環境を「正反射領域」(画線3aに積層したパール顔料が反射する角度)という。この時、階調画像の画線3a上に積層した第2の印刷層であるパール印刷層に含まれるパール顔料4aの第2のパール光沢が視認でき、かつ画線による連続階調図柄の夫々の画線3aによってパール顔料4aの積層する配向数が異なる結果、パール光沢の強さも異なり、階調図柄に応じたパール光沢の強さの変化が視認できる。したがって、視認する角度によって異なった色で連続階調図柄が視認できる。加えて、拡散反射領域と正反射領域とでは、下地色の影響から第1と第2のパール光沢の強さが異なって視認できる。なお、パール顔料4aに緑色を帯びた金属光沢を使用したが、虹彩色であればいずれでも良く、また、銀白色、金白色などのメタリック調やこれらを組み合わせても構わない。
【0047】
また、印刷層3の領域に対して、全部でなく一部の領域に印刷層4を積層しても良い。例えば、印刷層3である「1」の図柄の右半分の領域のみに印刷層4を積層すれば、「1」の右半分はパール光沢を有するが、左半分はパール光沢を有しない画線が形成できる。
【0048】
さらに、印刷層3を複数の領域に色分けして印刷層4を積層しても良い。例えば、印刷層3である「1」の図柄の右半分の領域を茶色、左半分の領域を暗褐色として、凹版印刷機で夫々の色の着肉ローラ、パターンローラを用意すれば印刷可能であり、さらに、印刷層3の全部にパール印刷層で印刷層4を積層すれば、パール光沢も「1」の左右の領域で下地の色の影響で、異なる干渉光を発することから、1種類のパール顔料で2種類のパール光沢を発現する印刷物が得られる。
【0049】
(実施例2)
実施例2は、実施例1の印刷層3における画線3aの構成を異ならせて階調を付与しているが、その他の構成は同一であるため、同一な構成の説明は省略し、異なる構成のみを説明する。
【0050】
階調の形成方法は、図6(b)〜(d)に示すように、例えば、画線3aを斜め方向に交差するように配置し、全ての領域を形成する画線3aにおいて画線幅Lを60μm、画線高さ30μmとし、ハイライト部aは、図6(b)に示すように画線3aの画線ピッチP1を400μm、中間部bは、図6(c)に示すように画線3aの画線ピッチP2を250μm、シャドー部cは、図6(d)に示すように画線3aの画線ピッチP3を90μmとして形成し、画線による連続階調図柄を施している。また、各領域の断面状態(X−X’部)を、図6(b’)〜(d’)に示すが、図示した通り、濃度が濃くなるにつれて画線ピッチが狭くなっており、単位面積あたりの画線面積は徐々に大きくなり、その結果、画線3aの表面積も増加している。つまり、画線3aは、画線による連続階調図柄の所定の領域毎に画線3aのピッチを異ならせて形成している。
【0051】
また、図6(b’’)〜(d’’)は、図6(b’)〜(d’)の点線で囲まれた領域を拡大した図である。断面形状から見て分かるように、図6(b’’)のハイライト部a、図6(c’’)の中間部b、図6(c’’)のシャドー部cの順に、単位面積あたりでは画線3aの面積は増えている。なお、画線3aの高さは何れの領域も30μmで一定である。一方、各領域の画線3a上には、印刷層4であるパール印刷層が10μmの高さで形成され、パール顔料4aが配向することから、図柄内における夫々の領域では、単位面積あたりでパール顔料4aの配向数も変化しパール光沢による連続階調図柄が視認できる。
【0052】
(実施例3)
実施例3は、実施例1又は実施例2における印刷層3及び印刷層4の構成は同一として、基材2との間に第3の印刷層5をパール印刷層で設けるものであるため、同一な構成の説明は省略し、異なる構成のみを説明する。
【0053】
図7は、本発明の印刷物1であり、図7(a)のように、光反射性の白い紙となる基材2に、まず、用紙の製造段階において抄紙機上でフレキソ印刷によりパール印刷層を形成し、「太陽」のベタ状の図柄として第3の印刷層5として設けており、赤色を帯びた金属光沢を発するパール顔料5aが配向している。用紙の製造段階で印刷層5を設ける利点は、印刷工程でパール印刷層を設けるための印刷を2回する必要がなく効率的であり、用紙の製造段階でパール印刷層を形成する方法としては、本出願人が先に開示した特許第2740765号などで実施しても構わない。なお、印刷層5は、印刷工程の印刷機で設けても構わない。
【0054】
次に、印刷層5の上に、凹版印刷により「星」の図柄を凸状の画線3aを設ける。なお、「星」の図柄には画線により階調が施されており、実施例1又は実施例2の構成で設ければ良い。次に、「N」の連続階調図柄をスクリーン印刷でパール印刷層をベタ状に印刷層4とする。但し、図7(a)に示すように、印刷層4の印刷領域は、印刷層3の領域内に設けることによって、「N」の連続階調図柄に強いパール光沢が視認できることから、印刷層4の印刷領域は、印刷層3の領域内に設けることが望ましい。また、印刷層4のパール顔料4aを銀白色のメタリック調として、印刷層4と印刷層5とのパール顔料を異ならせた場合は、印刷層5の1層で形成する領域のパール光沢と、印刷層4で形成する領域のパール光沢は、異なるパール光沢を視認できる。なお、パール顔料4aとパール顔料5aを同一又は異質にしても良い。また、印刷層4の下層となる印刷層3の画線3aの構成を実施例1又は実施例2の構成にすることで、「星」の図柄は画線による連像階調図柄であるため、その上にスクリーン印刷されたパール印刷層の「N」も階調のあるパール光沢が視認できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明における印刷物の構成図である。
【図2】本発明の第1の印刷層となる凸状の画線形状の断面図である。
【図3】第1の印刷層となる微細な画線上にパール顔料を積層した模式図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の説明図である。
【図5】本発明の効果の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の説明図である。
【図7】本発明の第3の実施形態の説明図である。
【図8】従来のパール光沢を向上する説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 印刷物
1b 印刷物
2 基材
3 第1の印刷層
3a 凸状の画線
3b 平坦状の印刷層
4 第2の印刷層
4a パール顔料
5 第3の印刷層
5a パール顔料
10 色見本印刷物
10a 基材
10b 黒系印刷層
10c パール印刷層
10d パール顔料
11 印刷物
11a 基材
11c パール印刷層
11d パール顔料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射性の基材の少なくとも一方に階調図柄を有する印刷物であって、前記階調図柄は、第1の印刷層の全部又は一部に第2の印刷層を積層して成り、前記第1の印刷層は、凸状で、かつ光吸収性インキにより複数の画線を有し、前記画線の画線幅は、前記階調図柄の所定の領域ごとに異ならせて成り、前記画線の画線高さは、前記階調図柄の所定の領域毎に前記画線幅に応じた所定の周長になるように異ならせて成り、前記第2の印刷層は、パール印刷層で成り、前記階調図柄は、拡散光領域では前記第1の印刷層の印刷色で階調をなして視認でき、正反射光領域では前記第1の印刷層に積層する前記パール印刷層によりパール光沢で階調をなして視認できることを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項2】
光反射性の基材の少なくとも一方に階調図柄を有する印刷物であって、前記階調図柄は、第1の印刷層の全部又は一部に第2の印刷層を積層して成り、前記第1の印刷層は、凸状で、かつ光吸収性インキにより複数の画線を有し、前記画線の画線幅と画線高さは同一とし、前記画線は、前記階調図柄の所定の領域ごとに前記画線のピッチを異ならせて成り、前記第2の印刷層は、パール印刷層で成り、前記階調図柄は、拡散光領域では前記第1の印刷層の印刷色で階調をなして視認でき、正反射光領域では前記第1の印刷層に積層する前記パール印刷層によるパール光沢で階調をなして視認できることを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項3】
前記基材と、前記第1の印刷層及び前記第2の印刷層との間に、第3の印刷層をパール印刷層で設け、前記第2及び前記第3の印刷層のパール顔料が、同一、同質又は異質であることを特徴とする請求項1又は2記載の偽造防止印刷物。
【請求項4】
前記パール光沢が虹彩色又は金属色で視認できることを特徴とする請求項1〜3記載の偽造防止印刷物。
【請求項5】
前記第2の印刷層が、ベタ状又は線状でパール印刷することを特徴とする請求項1〜4記載の偽造防止印刷物。
【請求項6】
前記光吸収性インキが、黒、茶、暗青、暗緑又は暗紫のいずれかの色相であることを特徴とする請求項1〜5記載の偽造防止印刷物。
【請求項7】
前記階調図柄が、ハイライト部、中間部及びシャドー部から成ることを特徴とする請求項1〜6記載の偽造防止印刷物。
【請求項8】
前記階調図柄のハイライト部において、前記画線の画線幅が100μm以下であることを特徴とする請求項1〜7記載の偽造防止印刷物。
【請求項9】
前記画線の画線幅が1〜500μm以下であることを特徴とする請求項1〜8記載の偽造防止印刷物。
【請求項10】
前記画線の画線高さが1〜150μm以下であることを特徴とする請求項1〜9記載の偽造防止印刷物。
【請求項11】
前記パール印刷に用いるパール顔料の顔料径が、前記画線の画線幅の1/3以上で成ることを特徴とする請求項1〜10記載の偽造防止印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−105238(P2008−105238A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289342(P2006−289342)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】