説明

偽造防止印刷用インキ及び偽造防止印刷物

【課題】水銀のような有害金属を含まず安全で、耐久性や安定性に優れ、温度変化より明瞭に変色し、安価に製造できる簡易な組成の偽造防止印刷用インキ、及びそのインキで印刷され、特殊な真贋判定装置を用いなくてもその異なる色相により真正であることを目視で簡便かつ正確に確認でき、偽造が不可能な偽造防止印刷物を提供する。
【解決手段】偽造防止印刷用インキは、配位子及びそれが配位する非水銀の中心金属を有し周囲の温度変化に応じて可逆的に構造を変化させて異なる色相を呈することにより真正を示すサーモクロミック金属錯化合物と、インキ成分とを、含有している。偽造防止印刷物は、この偽造防止印刷用インキが、偽造防止すべき印刷基材の少なくとも一部に印刷されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変化で異なる色相を呈することにより真正品であることを示すための偽造防止印刷用インキ、及びそのインキで印刷された真正品であって偽造品と区別される偽造防止印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙幣、商品券、小切手、入場券、チケット、回数券、株券、証券等の金券は、動産として重要なものである。これら金券をカラーコピー機で複写したり、スキャナで読み込んだその金券の画像データをパーソナルコンピュータで加工処理しプリンタで綺麗に印刷したりした偽造品による悪質な犯罪の被害が、年々増加し、大きな社会問題となっている。これら偽造品が増加したのは、パーソナルコンピュータの画像処理能力の向上、カラーコピー機やスキャナやプリンタの解像度の向上に伴い、比較的簡単に高画質で複写したり印刷したりできるようになったことが、一つの要因である。
【0003】
そこで、金券をカラーコピー機等で複写して偽造しようとしても、全く同一のものが得られず、偽造品であることが直ぐ判るように、金券には、様々な種類の偽造防止印刷用インキを組み合わせた特殊な印刷を施す偽造防止策がとられている。
【0004】
このような偽造防止印刷用インキとして、見る角度によって印刷した図柄やその色が変わる変色インキ、印刷物に透かしを入れる透かしインキ、半透明なパール光沢を帯びたパールインキ、特定の波長の光で蛍光発光する蛍光インキ、温度によって変色する感温インキが知られている。
【0005】
中でも感温インキは、所定の温度領域を超えると変色し、その温度を下回ると再び元の色調に戻る可逆的な物性を利用して真贋を判定するものである。
【0006】
このような感温インキとして、例えば特許文献1に、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、それらによる呈色反応をコントロールするエステル化合物の均質相溶体からなる組成物を内包したマイクロカプセル顔料を含むインキが、開示されている。一般に、有機染料や有機顔料等の呈色性有機化合物を含む感温インキは、繰返して変色することによる有機化合物の分解や光による劣化の所為で耐久性が悪かったり、有機化合物の反応性が低い所為で、変色可能な温度領域が極めて狭かったりする。
【0007】
偽造防止印刷物として、例えば特許文献2に、サーモクロミック材料又はフォトクロミック材料を用いた感熱インキで形成した光学機能層と、その上に配置されるコレステリック液晶層とを組み合わせた識別媒体が、開示されている。このような複雑な層の構造物は、偽造が極めて困難で偽造防止効果が高い反面、製造工程が複雑で生産性が低くしかも生産コストが高くなってしまう。
【0008】
電力設備機器用温度管理材として汎用されている水銀含有ハロゲン錯体化合物は、温度によって可逆的に変色するサーモクロミック材料であり、耐光性、変色の明瞭性に優れている。しかし有毒な水銀を含むため、人が触れる金券に印刷するためのインクとして使用するのは、人体に対する安全性や環境保全の観点から、敬遠されている。
【0009】
水銀非含有の金属錯体を用いた偽造防止印刷用インキとして、例えば特許文献3に、可視光領域に吸収を有する金属錯体とラジカル発生剤とを含有する偽造防止印刷用インキが開示されている。このインキで印刷された真正な印刷物をカラーコピー機で複写すると、複写の際に照射される特定波長の光でインキが変色し、変色した色調のままで複写物が得られ、真正な印刷物と区別できる。しかし、特殊な光源からの特定波長の強い光を照射しなければ変色しないから、印刷物自体の真贋を目視で簡便に判断できない。
【0010】
【特許文献1】特開2005−342973号公報
【特許文献2】特開2006−103048号公報
【特許文献3】特開平08−259870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、水銀のような有害金属を含まず安全で、耐久性や安定性に優れ、温度変化より明瞭に変色し、安価に製造できる簡易な組成の偽造防止印刷用インキ、及びそのインキで印刷され、特殊な真贋判定装置を用いなくてもその異なる色相により真正であることを目視で簡便かつ正確に確認でき、偽造が不可能な偽造防止印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の偽造防止印刷用インキは、配位子及びそれが配位する非水銀の中心金属を有し周囲の温度変化に応じて可逆的に構造を変化させて異なる色相を呈することにより真正を示すサーモクロミック金属錯化合物と、インキ成分とを、含有していることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の偽造防止印刷用インキは、請求項1に記載されたもので、前記金属錯化合物中の前記配位子が窒素含有配位子であり、又は前記金属錯化合物中の対イオンが窒素含有カチオンであることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の偽造防止印刷用インキは、請求項2に記載されたもので、前記窒素含有配位子又は前記窒素含有カチオンが、キヌクリジノン類、ピラゾリル類、フェナントロリン類、チアゾール類、有機アンモニウム類、ヒドラジニウム類、バリナート類、ジアミン類、及びイソニトロソケトエステルイミノ類のいずれかであることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の偽造防止印刷用インキは、請求項1に記載されたもので、前記金属錯化合物が、銅錯化合物、ニッケル錯化合物及び/又はパラジウム錯化合物であることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の偽造防止印刷用インキは、請求項1に記載されたもので、前記インキ成分が、ビヒクルを含んでいることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の偽造防止印刷物は、請求項1〜5の何れかに記載の偽造防止印刷用インキが、偽造防止すべき印刷基材の少なくとも一部に印刷されていることを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の偽造防止印刷物は、請求項6に記載されたもので、前記印刷基材が、紙、織布、不織布、木材板、皮革、樹脂フィルム、樹脂板、ガラス板、金属板から選ばれる平面状素材;又は、樹脂塊、ガラス塊、金属塊、陶器、セメント塊、鉱物、セラミックスから選ばれる立体状素材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の偽造防止印刷用インキは、水銀のような有害金属を含まないから人体に対して安全で環境を汚染せず、耐久性や安定性に優れるから繰返して長期間使用できるうえ、簡易な組成であるから効率よく安価に製造できる。さらにこの偽造防止印刷用インキは、示温剤であるサーモクロミック金属錯化合物の種類や含有量を調節することにより、広範囲の特定な温度域での温度変化で、明瞭に変化した色相を呈して、真正であることを示すことができる。例えば、−78℃で変色する塩化ニッケル(II) [trans-2-(2'-キノリル)メチレン-3-キヌクリジノン](Dichloro[trans-2-(2'-quinolyl)methylene-3-quinuclidinone]nickel(II))系偽造防止インキから、220℃で変色する塩化ニッケル(II)[ビス(3,5-ジメチルピラゾリル)メタン](Dichloro[bis(3,5-dimethylpyrazolyl)methane]nickel(II))系偽造防止インキまでの任意の特定な温度域での温度変化を設定できる。偽造防止印刷用インキは、適度に粘性と流動性とを有しているから印刷に適している。偽造防止印刷用インキで印刷した印刷部位は、コレステリック液晶のような液晶よりも遥かに薄く、触っても凹凸を感じさせない。
【0020】
このインキで印刷した偽造防止印刷物は、身近にある熱媒体による温度変化、例えば氷、冷水、湯、加熱ヒーターなど身近にある低温〜高温の日常生活品に接触させたり翳したり、体温で温めたりすることによる温度変化で、明瞭に色相が変化するので、特殊な真贋判定装置を用いなくても、真正であることを簡便に確認できる。さらに、この印刷物をカラーコピー機等で複写して偽造したとしても、変色機能まで複製できないから、温度変化させるだけでその複写物が真正でないと簡便に確認できる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
本発明の偽造防止印刷用インキは、示温剤として非水銀の遷移金属を中心金属としそれに配位子が配位しているサーモクロミック金属錯化合物と、インキ成分としてビヒクルと、必要に応じて添加剤とを、配合して混練した有害金属非含有のものである。
【0023】
金属錯化合物を1〜50重量%、ビヒクル及び添加剤を50〜99重量%とすることが好ましい。
【0024】
この金属錯化合物は、その金属錯化合物中の配位子を窒素含有配位子とし、又は金属錯化合物中の対イオンを窒素含有カチオンとするものであることが好ましい。金属錯化合物は、銅錯化合物、ニッケル錯化合物、又はパラジウム錯化合物であることが好ましく、それらの一種類であってもいずれかの混合物であってもよい。金属錯化合物は、錯イオンと対イオンとの塩類、例えばハロゲン塩、過塩素酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、硝酸塩、四臭化カドミウム塩であってもよい。
【0025】
この金属錯化合物を構成する窒素含有配位子や窒素含有カチオンは、
trans-2-(2'-キノリル)メチレン-3-キヌクリジノン(trans-2-(2'-quinolyl)methylene-3-quinuclidinone)、
trans-2-(6'-メトキシ-2'-キノリル)メチレン-3-キヌクリジノン(trans-2-(6'-methoxy-2'-quinolyl)methylene-3-quinuclidinone)で例示されるキヌクリジノン類;
(3,5-ジメチルピラゾリル)メタン((3,5-dimethylpyrazolyl)methane)で例示されるピラゾリル類;
2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン(2,9-dimethyl-1,10-phenanthroline)で例示されるフェナントロリン類;
4-メチルチアゾール(4-methylthiazole)で例示されるチアゾール類;
N-メチルフェネチルアンモニウム(N-methylphenethylammonium)、
イソプロピルアンモニウム(isopropylammonium)、
ジエチルアンモニウム(diethylammonium)、
RNH4-x(Rは炭素数1〜100の直鎖・分岐鎖又は環状のアルキル基又はアリル基で、xは1又は2)で例示される有機アンモニウム類;
トリメチルヒドラジニウム(trimethylhydrazinium)で例示されるヒドラジニウム類;
N-ベンジル-L-バリナート(N-benzyl-L-valinato)、
N-ベンジル-D-バリナート(N-benzyl-D-valinato)で例示されるバリナート類;
N,N-ジエチルエチレンジアミン(N,N-diethylethylenediamine)で例示されるジアミン類;
イソニトロソ-β-ケトエステルイミノ(isonitroso-β-ketoesterimino)で例示されるイソニトロソケトエステルイミノ類
から選ばれるものであることが好ましく、それの1個又は複数個によりこの金属錯化合物を形成するものであってもよい。
【0026】
この金属錯化合物は、例えば前記塩類であって、前記窒素含有配位子及び/又は窒素含有カチオンと、非水銀の遷移金属、とりわけ銅、ニッケル又はパラジウムとの任意の組み合わせによる配位で形成される化合物であることが好ましい。
【0027】
金属錯化合物は、具体例には、銅錯化合物として、
ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)過塩素酸塩(Bis(N,N-diethylethylenediamine)copper(II)perchlorate)、
ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)テトラフルオロホウ酸塩(Bis(N,N-diethylethylenediamine)copper(II)tetrafluoroborate)、
ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)硝酸塩(Bis(N,N-diethylethylenediamine)copper(II)nitrate)、
テトラクロロ銅(II)酸ビス(N-メチルフェネチルアンモニウム)(Bis(N-methylphenethylammonium)tetrachlorocuprate(II))、
テトラクロロ銅(II)酸ビス(イソプロピルアンモニウム)(Bis(isopropylammonium)tetrachlorocuprate(II))、
トリクロロ銅(II)酸イソプロピルアンモニウム(Isopropylammonium trichlorocuprate(II))、
トリブロモ銅(II)酸イソプロピルアンモニウム(Isopropylammonium tribromocuprate(II))、
テトラクロロ銅(II)酸ビス(ジエチルアンモニウム)(Bis(diethylammonium)tetrachlorocuprate(II))、
(RNH4-x)CuCl4や(RNH4-x)CuBr4(ただしR、xは前記に同じ)、
ジニトロジアミン銅(II)(Dinitrodiaminecopper(II))、
(N-ベンジル-L-バリナート)銅(II)二水和物((N-benzyl-L-valinato)copper(II)dihydrate)、
(N-ベンジル-D-バリナート)銅(II)二水和物((N-benzyl-D-valinato)copper(II)dihydrate);
ニッケル錯化合物として、
ジクロロ[trans-2-(2'-キノリル)メチレン-3-キヌクリジノン]ニッケル(II)(Dichloro[trans-2-(2'-quinolyl)methylene-3-quinuclidinone]nickel(II))、
ジブロモ[trans-2-(2'-キノリル)メチレン-3-キヌクリジノン]ニッケル(II)(Dibromo[trans-2-(2'-quinolyl)methylene-3-quinuclidinone]nickel(II))、
ジクロロ[trans-2-(6'-メトキシ-2'-キノリル)メチレン-3-キヌクリジノン]ニッケル(II)(Dichloro[trans-2-(6'-methoxy-2'-quinolyl)methylene-3-quinuclidinone]nickel(II))、
ジクロロ[ビス(3,5-ジメチルピラゾリル)メタン]ニッケル(II)(Dichloro[bis(3,5-dimethylpyrazolyl)methane]nickel(II))、
ジクロロ(2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン)ニッケル(II)(Dichloro(2,9-dimethyl-1,10-phenanthroline)nickel(II))、
ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)ニッケル(II)過塩素酸塩(Bis(N,N-diethylethylenediamine) nickel(II)perchlorate)、
ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)ニッケル(II)テトラフルオロホウ酸塩(Bis(N,N-diethylethylenediamine) nickel(II)tetrafluoroborate)、
ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)ニッケル(II)硝酸塩(Bis(N,N-diethylethylenediamine) nickel(II)nitrate)、
テトラクロロニッケル(II)酸ビス(ジエチルアンモニウム)(Bis(diethylammonium)tetrachloronickelate(II))、
(RNH4-x)NiCl4や(RNH4-x)NiBr4(ただしR、xは前記に同じ)が挙げられる。
【0028】
金属錯化合物は、粉体のままインキに含有されていてもよいが、安定性を向上させるため、マイクロカプセルに内包させる前処理が施されていてもよく、樹脂でコーティングする前処理が施されていてもよい。
【0029】
ビヒクルは、例えば樹脂の1〜50重量部と溶剤の50〜99重量部とを含んでいることが好ましい。ビヒクルは、必要に応じて可塑剤、油等を含んでいてもよい。
【0030】
ビヒクルを構成する樹脂として、ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ロジン樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、マレイン酸樹脂、クマリン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、メチル メタクリレート(MMA)−スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチルセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂、プロピルセルロース樹脂、酢酸・酪酸セルロース樹脂、硝酸セルロース樹脂、ポリクロロフルオロエチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合樹脂、ポリビニリデンフルオライド樹脂、ポリウレタン樹脂、ナイロン6樹脂、ナイロン66樹脂、ナイロン610樹脂、ナイロン11樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンテレフタレート樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エチルセルロース、天然ゴムや合成ゴム、石油樹脂、油脂が挙げられる。またこれらは、1種類だけで用いてもよく、複数種混合して用いてもよい。
【0031】
ビヒクルを構成する溶剤として、n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット、インキオイル、ソルベントナフサ、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、第二ブチルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−メチルシクロヘキシルアルコール、トリデシルアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラリン、ジペンテン、ヘプタン、メチルイソブチルカルビノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、ジエチルケトン、エチルアミルケトン、メチルシクロヘキサン、イソブチルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、ジメチルホルムアミド、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、水などが挙げられる。またこれらは、1種類だけで用いてもよく、複数種混合して用いてもよい。
【0032】
ビヒクルを構成する可塑剤として、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、アジピン酸、セバチン酸、クエン酸、アゼライン酸、塩化パラフィン、ヒマシ油、エポキシ系及びポリエステル系可塑剤などが挙げられる。またこれらは、1種類だけで用いてもよく、複数種混合して用いてもよい。
【0033】
ビヒクルを構成する油として、アマニ油、シナキリ油、大豆油、マレイン化油、ウレタン化油、ビニル化油、マシン油、スピンドル油、軽油などが挙げられる。またこれらは、1種類だけで用いてもよく、複数種混合して用いてもよい。
【0034】
ビヒクルは、市販の印刷用ビヒクルであってもよい。このような市販のビヒクルとして、F−Glossメジウム(大日本インキ化学工業株式会社の商品名)、Hy Unity Soyメジウム(東洋インキ製造株式会社の商品名)、Nouvel Maxiメジウム(大日精化工業株式会社の商品名)、Nouvel Senior Soyメジウム(大日精化工業株式会社の商品名)、Qセット200メジウム(十条ケミカル株式会社の商品名)、No.900メジウム(十条ケミカル株式会社の商品名)、ハイセットマットメジウム(ミノグループの商品名)、JRPメジウム(セイコーアドバンスの商品名)、PAS No.800メジウム(十条ケミカル株式会社の商品名)、FBHDメジウム(東洋インキ製造株式会社の商品名)、スチレンBメジウム(東洋インキ製造株式会社の商品名)、NEW LPスーパーRメジウム(東洋インキ製造株式会社の商品名)などが挙げられる。
【0035】
添加剤として、ワックス、ドライヤ、分散剤、湿潤剤、増粘剤、ゲル化剤、チキソトロピー付与剤、消泡剤、安定剤、体質顔料、調整顔料等が挙げられる。
【0036】
添加物のワックスとして、カルナウバろう、木ろう、みつろう、無水ラノリン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンろう、オゾケライト、ペトロラタム、ワセリン、ポリエチレンワックス、ポリテトラフルオロエチレン、塩化パラフィン、脂肪酸アミドが挙げられる。
【0037】
添加物のドライヤとして、液状ドライヤ、ペーストドライヤが挙げられる。
【0038】
添加剤の分散剤として、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリアクリル酸の部分脂肪酸エステル、アルキルアミン脂肪酸塩、アルキルジアミン、アルキルトリアミン、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルアリールスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリールエーテル、スチレンマレイン酸樹脂、ポリアクリル酸誘導体、水素添加ヒマシ油、アルミニウムせっけん、アルミニウムキレート、アルミニウムアルコレート、有機ベントナイト、酸化ポリエチレン、直鎖ポリアミノアミド、ポリカルボン酸アルキルアミン、アルギン酸ナトリウム、カゼイン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキサイド、シリコーン、非イオン活性剤、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、オイゲノール、フェルノール系防かび剤、コロイダルシリカ、低分子ポリエチレン、バニリン、クマリン、はっか油、ラベンダー油、アセトフェノン、バリウム、カルシウムの金属セッケン、ポリアミド、イソシアネート、硝化綿、アンモニア水、アルコールアミン類、モルホリン、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤などが挙げられる。
【0039】
添加物の調整顔料は、金属錯化合物からなる示温剤の色相を整えたり、温度変化に基づく色変化を、一層際立たせたりするために用いられるものである。調整顔料として、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、アルミナホワイト(Al23・xH2O)、クレー、沈降性硫酸バリウム、グロスホワイト、ファストイエローG、ファストイエロー10G、ジスアゾイエローAAA、ジスアゾイエローAAMX、ジスアゾイエローAAOT、黄色酸化鉄、ジスアゾイエローHR、ジニトロアニリンオレンジ、ジスアゾオレンジPMP、ジスニシジンオレンジ、トルイジンレッド、塩素化パラレッド、ビリリアントファストスカーレット、ピラゾロンレッドB、バリウムレッド2B、カルシウムレッド2B、バリウムリソールレッド、レーキレッドC、ブリリアンカーミン6B、ピグメントスカーレット3Bレーキ、ローダミン6G PTMA トーナー、べんがら、ナフトールレッドFGR、キナクリドンマゼンダ、ローダミンB PTMA トーナー、メチルバイオレット PTMA トーナー、キナクリドンレッド、ジオキサジンバイオレット、ビクトリアピュアブルー PTMA トーナー、フタロシアニンブルー、アルカリブルートーナー、紺青、群青、ブリリアントグリーン PTMA トーナー、ダイヤモンドグリーン PTMA トーナー、フタロシアニングリーン、カーボンブラック、亜鉛華、アルミニウム粉、ブロンズ粉、昼光蛍光顔料、パール顔料などが挙げられる。
【0040】
これらの添加剤は、印刷適性やインキ適性に合わせ、必要に応じ添加されるもので、これらは、1種類だけで用いてもよく、複数種混合して用いてもよい。
【0041】
本発明の偽造防止印刷物は、前記偽造防止印刷用インキを、偽造防止すべき印刷基材の少なくとも一部に印刷したものである。印刷によってこのインキは、印刷基材に、吸着、吸収、塗布されている。印刷後、溶媒を揮発させてもよい。
【0042】
印刷基材は、紙、織布、不織布、木材板、皮革のようなきめ細かな多孔性平面状素材であってもよく、樹脂フィルム、樹脂板、ガラス板、金属板のような平滑性平面状素材であってもよく、樹脂塊、ガラス塊、金属塊、陶器、セメント塊、鉱物、セラミックスのような立体状素材であってもよい。
【0043】
印刷方法として、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷、平版印刷、凸版印刷等が挙げられる。
【0044】
偽造防止印刷物中、示温剤である金属錯化合物が、1〜90重量%含まれていることが好ましい。
【0045】
この偽造防止印刷物は、以下のようにして使用される。
【0046】
金属錯化合物がビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)過塩素酸塩である偽造防止印刷用インキで、紙に印刷した偽造防止印刷物を、例に説明する。この偽造防止印刷物を80℃の熱媒体に接触させると、印刷部位の色相が緑色から黄色に変色し、放冷すると印刷部位の色相が黄色から緑色に復色したら、真正品であると判断できる。この偽造防止印刷物をカラーコピー機で複写して得られた複写物を、加熱又は冷却しても、真正品の印刷部位に対応する箇所は変色しない。そのためこの複写物は偽造品であると判断できる。
【0047】
偽造防止印刷物の印刷部位が、周囲の昇温又は降温した特定の温度領域で、可逆的に、変色して異なる色相を示す機序は、温度変化に応じて金属錯化合物の構造が変化するサーモクロミックによるものである。その詳細は必ずしも明らかではないが、以下の通りであると推察される。金属錯化合物中の中心金属と、それに配位している配位子の配位原子とが、例えば低温では同一平面上に存在するが、高温では捩れて同一平面状に存在しなくなって、可逆的に立体構造が変化する。又は、金属錯化合物が、例えば低温では4配位の単分子で存在するが、高温では2分子乃至それ以上の分子と共に配位状態が変化して5配位となって存在し、可逆的に立体構造が変化する。その結果、特定波長の光の吸収が相違するようになり、色相の変化として表れる。
【0048】
以下に、偽造防止印刷用インキ、それで印刷した偽造防止印刷物を試作した実施例を示す。
【0049】
(実施例1)
イソプロピルアルコール500mlにジエチルアミン塩酸塩88gを入れ溶解させた。この溶液に塩酸銅(II)二水和物68gを加え、必要に応じ温めて、完全に溶解させた。放置後、ジエチルエーテル500mlを加えてかき混ぜ、結晶を析出させた。結晶をろ取し、ジエチルエーテルで洗浄した後、常温乾燥させて、水銀非含有金属錯化合物の示温材として、テトラクロロ銅(II)酸ビス(ジエチルアンモニウム)(Bis(diethylammonium) tetrachlorocuprate(II)) 約100gが得られた。
【0050】
エチルアルコール200gにエチルセルロース20gを溶解させ、ビヒクルを得た。この金属錯化合物100gとビヒクル200gとを、ライカイ機にて、5時間程度混練すると偽造防止印刷用インキが得られた。
【0051】
得られたインキをシルクスクリーン200メッシュ版で、上質紙に印刷した。常温乾燥させると、緑色の印刷部位が付されている偽造防止印刷物が得られた。
【0052】
この偽造防止印刷物を、約80℃の湯を入れたコーヒーカップの外側面に当て加熱すると、緑色であった印刷部位が、黄色に変色した。また、変色後の偽造防止印刷物を放冷すると、黄色であった印刷部位が、可逆的に変色して元の緑色に戻った。
【0053】
次に、偽造防止印刷物をカラーコピー機で複写し、外観上極めて類似している複写物を作製した。偽造防止印刷物とこの複写物とを同時に加熱すると、真正の偽造防止印刷物の印刷部位に対応する複製物の複写箇所は全く変色せず、真贋判定をすることができた。
【0054】
(実施例2)
エチルアルコール500mlにN,N−ジエチルエチレンジアミン90gを入れ溶解させた。この溶液に過塩素酸塩銅(II)・六水和物148gを加え、完全に溶解させた。溶液を冷却して結晶を得た。結晶をろ取し、ジエチルエーテルで洗浄した後、常温乾燥させると、水銀非含有金属錯化合物である示温材として、ビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)過塩素酸塩(Bis(N,N-diethylethylenediamine)copper(II)perchlorate) 約200gが得られた。
【0055】
ブチルゴム1000gをキシレン2700gとミネラルスピリット4000gの混合溶剤で溶かし、ビヒクルを得た。
【0056】
この金属錯化合物100gとビヒクル200gとをボールミルポットで2日間混練すると偽造防止印刷用インキが得られた。
【0057】
得られたインキをシルクスクリーン200メッシュ版で、上質紙に印刷した。常温乾燥させると、赤紫色の偽造防止印刷物が得られた。
【0058】
この偽造防止印刷物を、ホットヒーターで加熱すると、赤色であった印刷部位が、黒紫色に変色した。また、変色後の偽造防止印刷物を冷却すると、黒紫色であった印刷部位が、可逆的に変色して、元の赤色に戻った。
【0059】
次に、偽造防止印刷物をカラーコピー機で複写し、外観上極めて類似している複写物を作製した。偽造防止印刷物とこの複写物とを同時に加熱すると、真正の偽造防止印刷物の印刷部位に対応する複製物の複写箇所は変色せず、真贋判定をすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の偽造防止印刷用インキは、真正の金券、音楽やプログラムが記録されたコンパクトディスク(CD)やその包装、書籍等に印刷して、偽造を防止するのに有用である。
【0061】
このインキで印刷した金券等の偽造防止印刷物は、真正であることを流通過程や流通後に確認するのに有用である。また、偽造したとしても真正でないことが一目瞭然であるから偽造による犯罪を防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配位子及びそれが配位する非水銀の中心金属を有し周囲の温度変化に応じて可逆的に構造を変化させて異なる色相を呈することにより真正を示すサーモクロミック金属錯化合物と、インキ成分とを、含有していることを特徴とする偽造防止印刷用インキ。
【請求項2】
前記金属錯化合物中の前記配位子が窒素含有配位子であり、又は前記金属錯化合物中の対イオンが窒素含有カチオンであることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止印刷用インキ。
【請求項3】
前記窒素含有配位子又は前記窒素含有カチオンが、キヌクリジノン類、ピラゾリル類、フェナントロリン類、チアゾール類、有機アンモニウム類、ヒドラジニウム類、バリナート類、ジアミン類、及びイソニトロソケトエステルイミノ類のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の偽造防止印刷用インキ。
【請求項4】
前記金属錯化合物が、銅錯化合物、ニッケル錯化合物及び/又はパラジウム錯化合物であることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止印刷用インキ。
【請求項5】
前記インキ成分が、ビヒクルを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止印刷用インキ。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の偽造防止印刷用インキが、偽造防止すべき印刷基材の少なくとも一部に印刷されていることを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項7】
前記印刷基材が、紙、織布、不織布、木材板、皮革、樹脂フィルム、樹脂板、ガラス板、金属板から選ばれる平面状素材;又は、樹脂塊、ガラス塊、金属塊、陶器、セメント塊、鉱物、セラミックスから選ばれる立体状素材であることを特徴とする請求項6に記載の偽造防止印刷物。

【公開番号】特開2008−189879(P2008−189879A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28140(P2007−28140)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(305013910)国立大学法人お茶の水女子大学 (32)
【Fターム(参考)】