説明

傷付き防止フイルム及びその製造方法

【課題】巻き戻しが容易でない欠点、接着力が強すぎる欠点、季節変動特性のある欠点、傷付き防止貼着時の剥離繰り出し性が悪い欠点、剥離調整剤を使用する欠点、剥離防塵フイルムの自然崩壊による廃棄困難の欠点、それ自体が埃を作り出す欠点、製品ロスの少ない作業性生産性の悪い欠点の全てを同時に解決するフイルムを提供することを目的とする。
【解決手段】水添成分を含有しない熱可塑性樹脂からなる樹脂層Aと、水添ブロック共重合体樹脂又はオレフィンブロック共重合体樹脂からなる接着性層Bと、生分解性樹脂からなる樹脂層Cとから構成されており、樹脂層Aと接着性層Bとの剥離接着強度が0.50以上で、かつ樹脂Bと樹脂Cとの剥離接着強度が0.01〜0.10N/cmであることを特徴とする傷付き防止フイルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
光学用物品、ガラス製品、金属板、その他の加工品等を保存・移動する際に、物品等に貼着して、その際の傷付きから保護・防止するための傷付き防止フイルム、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス光学物品、金属板やその加工製品、プラスチック板や加工製品では、表面の傷付きを防止する必要がある場合は、持ち運びによる紙類ポリエチレンフイルム等の包装材と被包装物特にガラスプラスチック製品との摩擦傷付きや保管中に珪素粒を含む埃の付着等での摩擦傷付きを考慮して、特定2層のマスキングフイルムすなわち、傷付き防止フイルムをこれらの物品の必要部分に摩擦が起こらないように貼り付けて用いることが、例えば、特許文献1及び特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5に開示されている。しかしながら、フイルムをただ貼り付けるだけでは問題になる欠点があった。すなわち、光学用のガラスや透明プラスチック板のマスキングには、接着性と剥離性とを兼ね備えた積層フイルムが使われることが多いが、接着層を該板側に貼着しその上をやや固めの傷付き防止基材フイルムで保護する2層積層フイルムを使う場合には、この2層フイルムをロールに巻き取る場合に接着層がロール状基材層に接着して巻き戻せなくなる恐れがあった。
【0003】
そこで、この巻取り時の接着を防ぐ為にこれを改良した技術に接着層に接着性がやや低く適度な接着性と剥離性を持つ熱可塑性エラストマーのスチレンブタジエン共重合体(例、商品名旭化成タフテック)やエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA:酢酸ビニル含量20wt%)を使用した2層フイルムがあるが、接着性樹脂が表面に露出するので、接着層側へ周囲の塵が付着することを防止できない欠点があり、板や物品に傷を付ける恐れのある。塵や異物の付着を防止する為にポリアクリル樹脂や、芳香族ポリエステル樹脂(PET)や、高密度ポリエチレンなどからなる防塵フイルムをその接着層フイルム上に貼り付けて接着し3層構造の傷付きを防止する積層フイルムにして置き、板や物品に傷を付ける恐れのある物品への貼着する直前でその防塵積層フイルムを剥離しながら内側接着層を該板等の物品側に貼着する方法が取られている。
【0004】
しかしながら、該防塵フイルム(例えば、低密度ポリエチレン)と接着層との接着性はやや低いとはいうものの接着層(例えば、タフテック)との剥離強度が強過ぎるので、接着層を含むフイルム全体を引き伸ばしてしまい傷付き防止を必要とする物品との接着が均一に行われ難いフイルム繰り出し性不良等の欠点があり、これを改良した技術に接着層に適度な接着性と剥離性を持つ熱可塑性エラストマーのスチレンブタジエン共重合体(例、商品名:旭化成タフテック)やエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA:酢酸ビニル含量20wt%)を使用した3層積層フイルムがある。更には、この接着層にタフテックを有する3層積層フイルムも剥離層の低密度ポリエチレンとの剥離性がやや弱く信頼性に欠けているばかりでなく、その接着性の季節変動が激しく夏場には接着性が強すぎて剥離不良になりやすい欠点があったし、ゲル分多く傷付き防止を必要とする物品の表面が細かい粗面の梨地の場合は更にその接着剥離性に信頼性を欠いている欠点があった。
すなわち、接着層と防塵剥離層との接着性と剥離繰り出し性との相反する特性の両立性バランスが適当でないと傷付き防止フイルムとしては使用し難い欠点がある。この欠点を解決する方法に傷付きを防止する積層フイルムの構成フイルムである剥離防塵フイルムの接着層側に剥離調整剤を塗布しておくことが考えられる。しかしながら、防塵フイルムを剥離した時に塗布した剥離調整剤が接着層側に残って表面の傷付きを防止を必要とする板その他の物品の表面に付着し商品価値を下げるという欠点がある。
【0005】
更に、この防塵フイルムは貼着時に剥離され廃棄されることになるが、埋め立てなどに廃棄される場合は自然に光や微生物で崩壊する天然自然のものが望まれている。これら天然自然のものには紙、板紙、レーヨン不織布などが特許文献1に開示されているが、それ自体は接着性は良いが埃を作り出してしまう欠点があったし、当然に剥離性が悪い欠点があった。
そして、更に、この3層傷付き防止フイルムを製造するのに従来では、先ずポリオレフィンフイルムの上に接着層を有する2層フイルムを用意して、別に硬い性質があり接着性と剥離性を兼ね備えたポリエチレンメタアクリル酸共重合体フイルムを用意して接着層の上にTダイラミネーション法で張り合わせ3層にする方法が採用されるが、この製造方法では、張り合わせた幅両端が製品ロスになり、製法も別々に用意して張り合わせる方法をとるので作業性生産性が悪いという欠点があった。
【0006】
【特許文献1】特公平05−074627号公報
【特許文献2】特開平08−311419号公報
【特許文献3】特開平10−006444号公報
【特許文献4】特開2003−119435号公報
【特許文献5】特開2003−338918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、巻き戻しが容易でない欠点、接着力が強すぎる欠点、季節変動特性のある欠点、傷付き防止貼着時の剥離繰り出し性が悪い欠点、剥離調整剤を使用する欠点、剥離防塵フイルムの自然崩壊による廃棄困難の欠点、それ自体が埃を作り出す欠点、製品ロスの少ない作業性生産性の悪い欠点等の全ての欠点を同時に解決する積層型の傷付き防止フイルム、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究した結果、芳香族ポリエステル樹脂や接着し難いと思われるポリオレフィン樹脂と特定のブロック共重合体からなる接着性樹脂は接着し過ぎると予想されるところであるが、特定のジブロックラバー樹脂又は特定のオレフィンブロック共重合体ラバー樹脂からなる接着生樹脂とポリエステル系樹脂である生分解生樹脂を採用することにより驚くべきことに上記課題を全て解決し得ることを見出し、本発明をなすに至った。
即ち、本発明は、下記(1)から(5)の発明である。
(1)水添成分を含有しない熱可塑性樹脂からなる樹脂層Aと、水添ブロック共重合体樹脂からなる接着性層Bと、生分解性樹脂からなる樹脂層Cとから構成されており、樹脂層Aと接着性層Bとの剥離接着強度が0.041以上で、かつ樹脂Bと樹脂Cとの剥離接着強度が0.02〜0.04N/cmであることを特徴とする傷付き防止フイルム。
(2)生分解性樹脂が、ポリ乳酸樹脂であることを特徴とする上記(1)に記載の傷付き防止フイルム。
(3)該傷付き防止フイルムが、フィードブロック積層方法を用いた積層インフレーション方法で製造されたことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の傷付き防止フイルム。
(4)接着性樹脂を構成する水添ブロック共重合体樹脂又はオレフィンブロック共重合体樹脂が、水添スチレン・ブタジエンラバー樹脂、ポリスチレン−ポリイソプレンの水添ジブロックエラストマー樹脂、エチレン・プロピレン・ブチレン共重合体ラバー樹脂であることを特徴とする上記(1)記載の傷付き防止フイルム。
(5)樹脂層Aと、接着性層Bと、樹脂層Cとをフィードブロック法で口金内で同心円上に重ね合わせてインフレーション製膜することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の傷付き防止フイルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、巻き戻しが容易でない欠点、接着力が強すぎる欠点、季節変動特性のある欠点、傷付き防止貼着時の剥離繰り出し性が悪い欠点、剥離調整剤を使用する欠点、剥離防塵フイルムの自然崩壊による廃棄困難の欠点、それ自体が埃を作り出す欠点、製品ロスの少ない作業性生産性の悪い欠点等の全ての欠点を同時に解決する傷付き防止フイルムを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明の傷付き防止フイルムにおいては、樹脂層Aと接着性層Bと樹脂層Cとは、層A、層B、層Cの順に構成される。A、B、C層の合計全層厚みは30〜200μmであり、好ましくは60〜150μmであることが本発明の目的を達成し易くて好ましい。
本発明の樹脂層Aを構成する熱可塑性樹脂とは、水添成分を含有しない熱可塑性樹脂であって、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂から選ばれる少なくとも1種からなる樹脂からなるものであり、その加工温度の適正な範囲が160〜210℃の範囲の樹脂である。水添成分を含有しない熱可塑性樹脂とは、接着性層Bを構成する水添ブロック共重合体樹脂と区別するための規定であり、ブタジエンで代表されるようなジエン成分を水添(水素添加)した成分を含有しない熱可塑性樹脂である。
【0011】
ポリオレフィン系樹脂とは、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン(直鎖状ポリエチレン)、メタロセン法で得られた直鎖低密度ポリエチレン、ポリプロピレン樹脂などの脂肪族オレフィン系高分子重合体の総称である。
アクリル系樹脂とは、ポリメタアクリル酸共重合体樹脂の総称である。また、芳香族ポリエステル系樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート(PET)と称される芳香族系ポリエステル樹脂の他に、該PETと共重合し得るコモノマーを50重量%以下含有する芳香族ポリエステル共重合体も包含される。
樹脂層Aの厚みは、傷付き防止基材層として10〜100μmあれば良い。10μmより薄いと傷付き防止効果が減少する傾向があるし、100μmを超えるとフイルムを巻き取り難くなり、作業性が悪化し易く好ましくない。また、A層と下記のB層との厚み関係ではA/Bが4/1〜1/1が好ましく、より好ましくは2/1〜1.5/1の範囲である。
【0012】
接着性層Bを構成する熱可塑性エラストマー樹脂とは、水添ブロック共重合体樹脂又はオレフィン系ブロック共重合体であり、その際、水添ブロック共重合体樹脂とは芳香族ビニル系化合物と共役ジエン系化合物とのブロック共重合体の水添ブロック共重合体である。水添ブロック共重合体としては、水添スチレンブタジエン共重合体ラバー(HSBR)や、スチレンエチレンブチレンブロック共重合体ラバー(SEBR)が挙げられ、オレフィンブロック共重合体には、エチレンプロピレンブチレン共重合体ラバー(プライムポリマー(株)製、商品名:プライムTPO)が挙げられる。
【0013】
接着性層Bは、樹脂層Aとは良く接着し、樹脂層Cとは、固着すること無く適度に接着し、適度に剥離性の指標である剥離繰り出し性を有する特性を有する樹脂である。この適度の剥離接着強度とは、N/cmで表現されて、樹脂層Aと接着性層Bとの剥離接着強度が0.50N/cm以上でかつ接着性層Bと樹脂層Cとの剥離接着強度が0.01〜0.100N/cmであることを特徴とする傷付き防止フイルムであることが好ましい。樹脂層Aと接着性層Bとの剥離接着強度が0.50N/cm未満では、防塵剥離フイルム層Cを剥離した時に剥離してはならない樹脂層Aと接着性層Bが剥離し易くなり好ましくない。また、接着性層Bと樹脂層Cとの剥離接着強度が0.01N/cm未満では、ロール状に巻かれた傷付き防止フイルムを巻き戻す時にすでに樹脂層Cが剥離してしまって貼着保護作業不能になる可能性が出てきて好ましくない。また、接着性層Bと樹脂層Cとの剥離接着強度が0.10N/cmを超えると、剥離作業がし難くなる欠点がある。
【0014】
この接着性強度は、樹脂Bと樹脂Cとを幅3cmの短冊状に切り出し180度剥離でその強度をインストロン引っ張り試験機で3mm/1secの速度で剥離接着強度を測定した時の値をN/cmで表したものである。なお、接着強度及び接着剥離強度については、樹脂層Aと接着性層Bとの接着強度は、接着性層Bと樹脂層Cとの接着剥離強度より強くなければならない。
接着性層Bの厚みは、接着剥離層として5〜30μmあれば良い。5μmより薄いとインフレーションフイルムを製造する場合に均一性が保てなくなり易い、30μm以上であると同じくインフレーションフイルムを製造する場合に均一性が保てなくなり易く作業性が悪くなり易い。なお、接着性層Bを構成する樹脂は、その樹脂加工温度の適正な範囲が160〜210℃の範囲である樹脂であることが好ましい。この接着性層Bの樹脂は、特にポリ乳酸生分解性樹脂に対しては、剥離後に再接着可能であることが特徴的であり、剥離後に修正再使用が可能である。接着性層Bの樹脂は、数平均分子量が500より低すぎると樹脂がはがれて表面の傷付きを防止を必要とする板やその他の物品の表面に付着し商品価値を下げる可能性がある。
【0015】
樹脂層Cを構成する生分解性樹脂とは、本発明の防塵剥離フイルム樹脂層を構成する層の生分解性樹脂であり、生分解性樹脂とは、種々の生分解性ポリエステルであり、具体的にはポリ乳酸、あるいはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、シクロペンタンジカルボン酸およびシクロヘキサンジカルボン酸等の通常、炭素数が3〜12の二塩基性カルボン酸とエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、1,8−オクチレングリコール、ナノメチレングリコール、デカメチレングリコール等の通常、炭素数が2〜10のグリコールから任意に選ばれた1種あるいは2種以上のジカルボン酸とグリコールの脱水縮合あるいはそれに続く脱グリコール反応により得られる生分解性を有する脂肪族ポリエステル、あるいは芳香族ジカルボン酸、脂肪族グリコール、およびスルホン酸金属塩基を核置換基として有する芳香族ジカルボン酸からなる生分解性を有する芳香族系ポリエステルが挙げられる。
【0016】
この生分解性脂肪族ポリエステルの1つは下記一般式(1)で示される脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とからなる脂肪族ポリエステルである。
【化1】

(式中、R1 は炭素数1〜8の炭化水素を表し、R2 は炭素数1〜8の炭化水素を表し、lは100〜2000の整数を表す。)
【0017】
他の一つの生分解性脂肪族ポリエステルは下記一般式の一般式(2)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸の重縮合ポリエステルである。
【化2】

(式中、R3 は炭化水素1〜6の炭化水素を表し、xは100〜2000の整数を表す。)
これらの中でも、融点が75℃以上のポリ乳酸、コハク酸などの脂肪族系ポリエステルが、接着性樹脂との接着性、剥離性、季節変動特性、透明性、強度、柔軟性といったフイルム物性に優れるので好ましい。
【0018】
ポリ乳酸生分解性ポリエステルである本発明に係わるポリ乳酸は、乳酸の構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、更にはL−乳酸とD−乳酸の混合物(ラセミ体)であるポリ(DL−乳酸)等の乳酸の単独重合体、及び乳酸を主成分とし、乳酸以外の共重合可能なコモノマーを少割合、例えばグリコール酸50重量%未満、好ましくは30重量%以下、より好ましくは10重量%以下の割合で共重合したコポリマー、あるいはこれら重合体の混合物等の乳酸を主成分とする重合体である。
乳酸と共重合可能なコモノマーとしては、例えば、3−ヒドロキシブチレート、カプロラクトン、グリコール酸などを挙げることができる。これらの中でも乳酸のみからなる単独重合体は透明性に優れているので好ましく使用できる。かかるポリ乳酸の重合法としては、縮重合法、開環重合法など公知のいずれの方法も採用することができる。例えば、縮重合法ではL−乳酸またはD−乳酸あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して任意の組成を持ったポリ乳酸を得ることができる。
【0019】
また、開環重合法では乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等を用いながら、触媒を使用し、開環重合してポリ乳酸を得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成、結晶性を有するポリ乳酸を得ることができる。
ポリ乳酸の分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物などを使用することができる。ポリ乳酸の重量平均分子量は通常6万〜100万の範囲にあり、この範囲を下回る場合は用途によっては強度物性がほとんど発現されない可能性があり、一方、この範囲を上回る場合には、溶融粘度が高すぎて流動性が悪く最適加工温度を外れ易くフイルム成形加工性に極めて劣り、均一フイルムを作り難い欠点がある。
【0020】
一方で、芳香族ポリエステルからなる生分解性ポリエステルの他の例としての本発明に係わる芳香族ポリエステルは、生分解性を有するものであり、好ましくはスルホン酸金属塩基を核置換基として有する芳香族ジカルボン酸を1共重合成分として含むポリエステルであり、より具体的には、芳香族ジカルボン酸、脂肪族グリコール、およびスルホン酸金属塩基を核置換基として有する芳香族ジカルボン酸、それに必要に応じて脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ヒドロキシカルボン酸を加え、それらの成分間で重縮合反応を行って得られるポリエステルである。芳香族ポリエステルの好ましい組成は、芳香族ジカルボン酸成分に由来する単位が30〜49.9モル%、脂肪族グリコール成分に由来する単位が35〜50モル%、スルホン酸金属塩基を置換基として有する芳香族または脂肪族ジカルボン酸成分に由来する単位が0.1〜5モル%、および脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分に由来する単位が0〜30モル%(ここで、全単位の合計が100モル%である)である。また得られるフイルムに可撓性、生分解性等の性能を付与し、また向上させるために、さらに脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ヒドロキシカルボン酸を共重合成分として加えた多成分系のポリエステルであってもよい。
【0021】
また、生分解性樹脂(A)としては、微生物が生成するポリ−3−ヒドロキシアルカノエート系のポリエステルも好適である。微生物により発酵法で生産されるポリエステルとして、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシバリレートのランダム共重合体、3−ヒドロキシブチレートと4−ヒドロキシブチレートのランダム共重合体、3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシバリレートと4−ヒドロキシブチレートの3元共重合体等が挙げられる。また、これらの混合物も使用される。例えば、米国メタポリックス社では、水素細菌にプロピオン酸とグルコースを与えて発酵法で3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシバリレートのランダム共重合体を生産し、バイオポールの商品名で販売している。
3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシバリレートとの共重合比としては、3−ヒドロキシバリレートの含有量が2〜20モル%の共重合体が望ましい。好ましくは、3−ヒドロキシバリレートの含有量が5〜15モル%の共重合体である。前記3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシバリレートの共重合体には、必要に応じて可塑剤、安定剤、無機物等を添加して使用する場合がある。
【0022】
生分解性樹脂(C)としては、脂肪族二塩基酸と二価アルコールの縮合重合により合成される各種の脂肪族ポリエステル等が使用される。例えば、コハク酸、アジピン酸とエチレングリコール、1,4ブタンジオールの縮合重合により得られるポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート等の脂肪族ポリエステル等が使用される。また、3官能又は4官能の多価アルコール、オキシカルボン酸及び多価カルボン酸、若しくはその無水物から合成した脂肪族ポリエステル等も使用することができる。又、これらの混合物も使用される。生分解性樹脂(C)としては、ポリ乳酸が使用されるが、ポリグリコール酸等の脂肪族ポリエステルを使用することもできる。
また、生分解性樹脂フイルムの材質の具体例としては、直鎖状ポリエステル樹脂、ポリ乳酸系樹脂、天然ゴム系の生分解性樹脂、生分解性ポリカプロラクトン系樹脂、ポリビニルアルコールあるいはその変性物である生分解性樹脂、脂肪族ポリエステル・ポリエーテル共重合体などの生分解性樹脂などが挙げられる。これら生分解性の材質の中でも、特にポリ乳酸系樹脂を用いることが特に好ましい。さらにこれらのフイルムには本発明の効果を損なわない限り色素、紫外線吸収剤、熱酸化安定剤などを添加しても良く、フイルムの表面をコロナ処理、プラズマ処理、サンドマット加工などの処理を施すことをあらかじめ設けたものでもよい。
【0023】
また、生分解性樹脂としては、各種の生分解性樹脂を使用することができ、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、ポリエチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/テレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシブチレート、修飾澱粉、酢酸セルロース等が挙げられ、中でもポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)を使用することができる。これらの混合物も有用である。
樹脂層Cの厚みは、防塵剥離層として5〜30μmあれば良い。5μmより薄いとインフレーションフイルムを製造する場合に均一性が保てなくなり易く、30μmを超えると廃棄作業性が悪くなり易い。なお、樹脂層Cは、その樹脂加工温度の適正な範囲が160〜210℃の範囲である樹脂が好ましい。樹脂A、樹脂B及び樹脂Cの加工適正温度範囲が近いということは、フィードブロック積層フイルムのインフレーション製膜には生産性を引き出す上でもフイルムの均一性にも有用なことである。
【0024】
本発明の傷付き防止フイルムは、水添成分の無い熱可塑性樹脂からなる樹脂層Aと、水添ブロック共重合体からなる接着性層Bと、生分解性樹脂層からなる樹脂層Cとをフィードブロック法で口金内で同心円上に重ね合わせて円形口金スリットからインフレーション製膜する製法で作られる。即ち、従来方法のこの3層傷付き防止フイルムを製造するのに、先ずポリオレフィンフイルムの上に接着層を有する2層フイルムを用意して、別に硬い性質があり接着性と剥離性を兼ね備えたポリエチレンメタアクリル酸共重合体フイルムを用意して接着層の上にTダイラミネーション法で張り合わせ3層にする方法が採用されているが、該製造方法では、張り合わせた幅両端が製品ロスになり、また製造方法も別々に用意してフイルムを張り合わせる方法をとるので作業性生産性が悪いという欠点があったが本発明の方法ではその欠点も解消される。
【実施例】
【0025】
本発明を実施例等に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものであない。
[実施例1]
低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)(旭化成ケミカルズ(株)製、商品名:M3240、MI:4.0、密度0.932g/cc)を樹脂層A(基材層)とし、接着性樹脂(水添スチレンブタジエンラバー)(日本合成ゴム(株)製、商品名:ダイナロン1321P、スチレン含有量10重量%、比重0.89、MFR:10)を接着性層B(中間層)、リリース層(防塵剥離フイルム層)として生分解性樹脂のポリ乳酸の脂肪族ポリエステル樹脂(昭和高分子(株)製、商品名:ビオノーレ3001)を樹脂層C(外層)に、基材層40μm、粘着層20μm、リリース層を15μmとなるようにフィードブロック法、インフレーション共押出成形法により樹脂温度180℃で表面保護傷付き防止フイルムを作製した。このフイルムを用いてアクリル板へリリース層を粘着樹脂層より剥離させながら貼り合わせ加工を行った。この保護フイルムの粘着樹脂層は押出機よりシートとして巻取るまでに安定板、ガイドロールへの接触、雰囲気による塵埃汚染を防塵回避しピュアーな状態で3層積層傷付き防止フイルムを生産することができた。
【0026】
このフイルムの接着剥離強度は樹脂層Aと接着性層Bとは測定不能の強い強度を示した。接着性層Bと樹脂層Cとの接着剥離強度は0.03N/cmであった。
得られた本発明の傷付き防止フイルムは、傷付き防止を必要とする表面梨地のアクリル樹脂物品に対して防塵フイルムを剥離しながら貼着し、巻き戻しが容易でない欠点、接着力が強すぎる欠点、季節変動特性のある欠点、傷付き防止貼着時の剥離繰り出し性が悪い欠点、剥離調整剤を使用する欠点、剥離防塵フイルムの自然崩壊による廃棄困難の欠点、それ自体が埃を作り出す欠点、製品ロスの少ない作業性生産性の悪い欠点等の全ての欠点を同時に解決する3層積層の傷付き防止フイルムであった。
【0027】
[実施例2]
ポリプロピレン樹脂(商品名:ウインティックWFX4TA)を樹脂層A(基材層)とし、接着性樹脂(商品名:ダイナロン1321P)を接着性層B(中間層)、リリース層(防塵剥離フイルム層)として生分解性樹脂のポリ乳酸のポリエステル樹脂(商品名:ビオノーレ3001)を樹脂層C(外層)に、基材層40μm、粘着層20μm、リリース層を15μmとなるように実施例1同様にインフレーション共押出成形法によって表面保護フイルムを作製した。このフイルムを用いてアクリル板へリリース層を粘着樹脂層より剥離させながら貼り合わせ加工を行った。この保護フイルムの粘着樹脂層は押出し機よりシートとして巻取るまでに安定板、ガイドロールへの接触、雰囲気による汚染を回避しピュアーな状態で生産することができた。
【0028】
[実施例3]
高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)(旭化成ケミカルズ(株)製、商品名:L−4470,MI7.0、密度0.944g/cm3 )を樹脂層A(基材層)とし、接着性樹脂として水添スチレン・ブタジエンラバー(日本合成ゴム(株)製、商品名:ダイナロン1321P、スチレン含有量10重量%、比重0.89、MFR;10)を接着性層B(中間層)、リリース層(防塵剥離フイルム層)として生分解性樹脂のポリ乳酸の脂肪族ポリエステル樹脂(昭和高分子(株)製、商品名:ビオノーレ3001)を樹脂層C(外層)に、基材層40μm、粘着層20μm、リリース層を25μmとなるようにTダイ法により樹脂温度190℃で表面保護傷付き防止フイルムを作製した。
このフイルムを用いて評価した結果は、実施例1とほぼ同様であった。
【0029】
[実施例4]
高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)(旭化成ケミカルズ(株)製、商品名:L−4470,MI7.0、密度0.944g/cm3 )を樹脂層A(基材層)とし、接着性樹脂としてエチレン・ポロピレンブロック共重合体(ポライムポリマー(株)社製、商品名:プライムTPOF3740、エチレン含有量:4重量%、MI:4.5)を接着性層B(中間層)、リリース層(防塵剥離フイルム層)として生分解性樹脂のポリ乳酸の脂肪族ポリエステル樹脂(昭和高分子(株)製、商品名:ビオノーレ1001)を樹脂層C(外層)に、基材層40μm、粘着層20μm、リリース層を25μmとなるようにフィードブロック法インフレーション共押出成形法により樹脂温度190℃で表面保護傷付き防止フイルムを作製した。
このフイルムを用いて評価した結果は、実施例1とほぼ同様であった。
【0030】
[比較例1]
高密度ポリエチレン樹脂(商品名:L−4470)を樹脂層A(基材層)とし、接着性樹脂(商品名:ダイナロン1321P)を接着性層B(中間層)、リリース層として低密度ポリエチレン樹脂(商品名:M1920)を樹脂層C(外層)に、基材層40μm、粘着層20μm、リリース層15μmとなるように実施例1同様のインフレーション共押出成形によって表面保護フイルムを作製した。
このフイルム構成では、粘着樹脂の中間層とリリース層の低密度ポリエチレン(LDPE)層と剥離することができなかった。
【0031】
[比較例2]
高密度ポリエチレン樹脂(商品名:L−4470)を樹脂層A(基材層)とし、接着性樹脂(商品名:ハイブラー7311)を樹脂層C(外層)に、基材層40μm、粘着層20μmとなるようにインフレーション共押出成形によって表面保護フイルムを作製した。この構成のフイルムではシートで巻き取るまでの工程で、安定板、ガイドロール等への接触による汚染、作業場内の雰囲気による汚染によって防塵できずピュアーな粘着層をが製造することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の傷付き防止フイルム(マスキングフイルム)は、ガラス光学物品、金属板やその加工製品、プラスチック板や加工製品について、表面の傷付きを防止する用途の分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水添成分を含有しない熱可塑性樹脂からなる樹脂層Aと、水添ブロック共重合体樹脂又はオレフィンブロック共重合体樹脂からなる接着性層Bと、生分解性樹脂からなる樹脂層Cとから構成されており、樹脂層Aと接着性層Bとの剥離接着強度が0.50以上で、かつ樹脂Bと樹脂Cとの剥離接着強度が0.01〜0.10N/cmであることを特徴とする傷付き防止フイルム。
【請求項2】
生分解性樹脂が、ポリ乳酸樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の傷付き防止フイルム。
【請求項3】
該傷付き防止フイルムが、フィードブロック積層方法を用いた積層インフレーション方法で製造されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の傷付き防止フイルム。
【請求項4】
接着性樹脂を構成する水添ブロック共重合体樹脂又はオレフィンブロック共重合体樹脂が、水添スチレン・ブタジエンラバー樹脂、ポリスチレン−ポリイソプレンの水添ジブロックエラストマー樹脂、エチレン・プロピレン・ブチレン共重合体ラバー樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の傷付き防止フイルム。
【請求項5】
樹脂層Aと、接着性層Bと、樹脂層Cとをフィードブロック法で口金内で同心円上に重ね合わせてインフレーション製膜することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の傷付き防止フイルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−261233(P2007−261233A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93251(P2006−93251)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(503150376)エンシュー化成工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】