説明

傾斜又は垂直コンベアの逸走防止装置

【課題】ハンガーを暴走後に停止させる際の衝撃を緩和して、逸走防止装置の小型軽量化及び低コスト化を図る。
【解決手段】コンベアにより移動するハンガーの下流側面に当接して係止するドッグが設けられた無端状チェーン11、無端状チェーン11が係合する駆動スプロケット8及び従動スプロケット、駆動スプロケット8を駆動するギヤドモータ13、ハンガーの暴走時に無端状チェーン11を停止させる制動装置、並びに、ハンガーの暴走を検知する暴走検知装置を有する逸走防止装置であって、ギヤドモータ13の出力軸14と駆動スプロケット8との間にトルクリミッタ5を設け、トルクリミッタ5の回転伝達トルクの限界値を、制動装置による制動トルクよりも小さく設定した。トルクリミッタ5により前記回転伝達トルクの限界値を超えるトルクが遮断されるため、ハンガーを暴走後に停止させる際の衝撃が緩和される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜又垂直コンベアにおいて、搬送物を支持する搬送物支持手段が暴走した際に、該暴走を検知して搬送物支持手段を停止させ、その逸走を防止するための逸走防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の傾斜コンベアの逸走防止装置として、移送路の下り勾配部分と平行に移動する無端状チェーンに、コンベアのハンガーに設けた係止アームの進行方向側に当接する多数の係止片を設け、前記無端状チェーンをコンベア速度よりも僅か大なる速度をもって駆動する駆動チェーン及び減速電動機を含む駆動装置、並びに、前記駆動チェーンの緊張状態とゆるみ状態との張力変化を検出する検出装置を備えてなり、該検出装置により、前記ハンガーが暴走した際に前記係止アームが前記係止片を前方へ押圧して生じる前記張力変化を検出し、前記駆動装置を停止させるともに制動装置により制動するもの(例えば、特許文献1参照。)がある。
【0003】
【特許文献1】実開昭57−89515号公報(第1−6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の逸走防止装置は、暴走したハンガーを制動装置の制動力により瞬時に停止させるように構成されていることから停止時の衝撃が非常に大きくなるため、コンベアのハンガー等が損傷する場合がある。また、逸走防止装置の各機械要素には、このような大きな衝撃に耐え得る強度を持たせる必要があるため、逸走防止装置が大型になるとともに高コストとなる。
【0005】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、搬送物を支持する搬送物支持手段を暴走後に停止させる際の衝撃を緩和することができる構成により、小型軽量化及び低コスト化を図ることができる傾斜又は垂直コンベアの逸走防止装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る傾斜又は垂直コンベアの逸走防止装置は、下り勾配経路又は垂直経路を有するコンベアにおいて、該経路を少なくとも含む経路と平行に配設され、前記コンベアにより移動する搬送物支持手段の下流側面に当接して係止するドッグが所定間隔毎に設けられた無端状チェーン、該無端状チェーンが係合する駆動スプロケット及び従動スプロケット、前記駆動スプロケットを駆動する駆動装置、駆動系の適宜箇所に設けられた、前記搬送物支持手段の暴走時に前記無端状チェーンを停止させる制動装置、並びに、前記搬送物支持手段の暴走を検知する暴走検知装置を有する逸走防止装置であって、前記駆動装置の出力軸と前記駆動スプロケットとの間にトルクリミッタを設け、該トルクリミッタの回転伝達トルクの限界値を、前記制動装置による制動トルクよりも小さく設定してなるものである。
【0007】
ここで、前記駆動装置が、前記出力軸まわりに回動可能にフローティング支持されたものであり、前記暴走検知装置が、前記搬送物支持手段が暴走した際に前記無端状チェーンのドッグが押圧されることによる前記駆動装置の回動を検知するものであると好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る傾斜又は垂直コンベアの逸走防止装置によれば、下り勾配経路又は垂直経路を有するコンベアにおいて、該経路を少なくとも含む経路と平行に配設され、前記コンベアにより移動する搬送物支持手段の下流側面に当接して係止するドッグが所定間隔毎に設けられた無端状チェーン、該無端状チェーンが係合する駆動スプロケット及び従動スプロケット、前記駆動スプロケットを駆動する駆動装置、駆動系の適宜箇所に設けられた、前記搬送物支持手段の暴走時に前記無端状チェーンを停止させる制動装置、並びに、前記搬送物支持手段の暴走を検知する暴走検知装置を有する逸走防止装置であって、前記駆動装置の出力軸と前記駆動スプロケットとの間にトルクリミッタを設け、該トルクリミッタの回転伝達トルクの限界値を、前記制動装置による制動トルクよりも小さく設定してなるので、暴走検知装置により搬送物支持手段の暴走を検知した後に駆動装置を非作動とし制動装置を作動させて制動トルクが作用した状態において、トルクリミッタにより前記回転伝達トルクの限界値を超えるトルクが遮断される。すなわち、入力側(制動装置により瞬時に停止する駆動装置側)と出力側(駆動スプロケット及び無端状チェーン等の負荷側)の伝達が一時的に切り離され、入力側と出力側との間には滑りが生じて搬送物支持手段は瞬時には停止せず、搬送物支持手段、ドッグ、無端状チェーン、スプロケット及び駆動装置等が受ける衝撃が緩和される。よって、逸走防止装置の各機械要素に、大きな衝撃に耐え得る強度を持たせる必要がないため、逸走防止装置の小型軽量化及び低コスト化を図ることができる。
【0009】
また、前記駆動装置が、前記出力軸まわりに回動可能にフローティング支持されたものであり、前記暴走検知装置が、前記搬送物支持手段が暴走した際に前記無端状チェーンのドッグが押圧されることによる前記駆動装置の回動を検知するものであると、前記効果に加え、搬送物支持手段の暴走を安定かつ確実に検知することができるため、逸走防止装置の動作の信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明するが、本発明は、添付図面に示された形態に限定されず特許請求の範囲に記載の要件を満たす実施形態の全てを含むものである。なお、本実施の形態において、被搬送物の搬送方向を前とし、前方に向かって左右を左右とする。また、右方から見た図を正面図とする。
【0011】
図1〜図4は、本発明の実施の形態に係る逸走防止装置をコンベアの下り傾斜部分に用いた構成を示す説明図であり、図1は正面図、図2は駆動装置まわりの要部拡大正面図、図3は同じく平面図、図4は図3の矢視C−C断面図である。コンベアの例として、パワーアンドフリー式オーバーヘッドコンベアを示しているが、本発明に係る逸走防止装置が適用されるコンベアは、パワーアンドフリー式オーバーヘッドコンベアに限定されるものではない。
【0012】
図1において、パワーレールPRには図示しないパワーチェーンが支持され、フリーレールFRには図示しないトロリが支持され、前記パワーチェーンの駆動力が前記トロリに伝達されるため、前記トロリはフリーレールFRに沿って走行する。前記トロリには、搬送物支持手段であるハンガーHが連結され、該ハンガーHにより搬送物Wが支持される。そして、図1に示すように、コンベアレールであるパワーレールPR及びフリーレールFRは、下流側(搬送方向)に行くにしたがって下降する下り勾配経路を有している。
【0013】
逸走防止装置1は、上流側の固定フレーム7Aにより支持され、駆動スプロケット8を駆動する駆動装置2、下流側の固定フレーム7Bにより支持された従動スプロケット9、駆動スプロケット8及び従動スプロケット9に係合し、これらスプロケット8,9間に張架され、前記下り勾配経路を少なくとも含んで該経路と平行に設けられた案内レール10により支持され、ハンガーHの下流側面に当接して係止するドッグ12,…が所定間隔毎に設けられた無端状チェーン11、無端状チェーン11に張力を付与するテークアップ装置3、並びに、ハンガーHの暴走を検知する暴走検知装置4等により構成される。ここで、駆動装置2によって駆動される無端状チェーン11に設けられたドッグ12,…は、コンベアの移動速度と略同じ速度で移動する。なお、駆動装置2及び駆動スプロケット8を下流側に、テークアップ装置3及び従動スプロケット9を上流側に配設してもよい。
【0014】
図2〜図4に示すように、駆動装置2は、例えばハイポイドギヤやベベルキヤ等を用いた直交軸構成のギヤドモータ13により構成され、該ギヤドモータ13の出力トルクが伝達される出力軸14は、図4に示すように、固定フレーム7Aの左右の軸受15,16に支持されて回転する。図4に示すように、出力軸14には、トルクリミッタ5のハブ21が連結固定され、ハブ21には円環状のプレート24が外嵌され、ハブ21の左面に固定された右側の摩擦板22とプレート24の右面に固定された左側の摩擦板23との間に駆動スプロケット8が装着され、ばね押え26,…により支持された皿ばね25,…がプレート24の左面を押圧し、前記左右の摩擦板22,23が駆動スプロケット8に押圧されるため、遮断トルク(トルクリミッタ5の回転伝達トルクの限界値)以下の範囲で、入力側(駆動装置2側)のトルクが出力側(駆動スプロケット8等)に伝達される。なお、調節ボルト27,…によりトルクリミッタ5の遮断トルクを調節することができる。
【0015】
また、ギヤドモータ13のモータ軸には、ハンガーHの暴走時に無端状チェーン11を停止させるための、電磁ブレーキ等の制動装置6が取り付けられるが、このような制動装置は、ギヤドモータ13と別体としてもよく、駆動系の適宜箇所に設けることができる。そして、前記トルクリミッタ5の遮断トルクは、制動装置6による制動トルクよりも小さく設定される。なお、本明細書における制動トルクとは、本実施の形態のように制動装置をモータ軸に設けた場合には負荷側に換算したトルクのことを指し、制動装置を負荷側に設けた場合にはその制動トルクのことを指す。
【0016】
図2に示すように、ドッグ12,…は、無端状チェーン11の下側に位置した状態で、無端状チェーン11から斜め後方に延びる係止片28、該係止片の後側において無端状チェーン11から斜め前方に延びる左右の支持片29,29、該支持片29,29の先端部において長手方向に延びる長孔29A内に挿通されるとともに、前記係止片28の長手方向の中間部分から左右に突出するピン30により構成され、右方から視て略y字状となる。したがって、ハンガーHが下り勾配経路で暴走した際には、ハンガーHの下流側面にドッグ12の係止片28の先端部後面が当接する。
【0017】
次に、暴走検知装置4の構成及び動作について説明する。図2及び図3に示すように、駆動装置2(ギヤドモータ13)の本体フレームから略前方に延びる可動片17Aは、その前後方向の中間位置の上側に設けられ、ばね定数を比較的小さくして弾性変形しやすくしてなる圧縮コイルばね18により弾性支持され、可動片17Aの先端には頭部17Bが形成される。そして、駆動装置2の本体フレーム並びに可動片17A及び頭部17Bが、前記圧縮コイルばねを弾性変形させて左右方向軸Aまわりに矢印B(図2参照。)方向に回動すると、位置検出スイッチであるリミットスイッチ19の操作部20を押圧するため、リミットスイッチ19により、フローティング支持された前記駆動装置2の本体フレーム等の回動を検知することができる。
【0018】
したがって、図2に示すように、搬送物支持手段であるハンガーHが下り勾配経路において暴走した際には、前記のとおり、該ハンガーHの下流側面にドッグ12の係止片28の先端部後面が当接するため、該ハンガーHにより無端状チェーン11が押され、前記のとおり弾性変形しやすい圧縮コイルばね18により弾性支持された駆動装置2の本体フレーム並びに可動片17A及び頭部17Bが左右方向軸Aまわりに矢印B方向に回動し、該回動は、前記のとおり、リミットスイッチ19により検知される。このようにして、ハンガーHの暴走を検知することができる。このように、ハンガーHが暴走した際に確実に回動する、フローティング支持された駆動装置2の本体フレームの回動を動作の信頼性が高いリミットスイッチ19により検知する簡素かつ信頼性の高い構成により、搬送物支持手段の暴走を安定かつ確実に検知することができるため、逸走防止装置の動作の信頼性が向上する。
【0019】
次に、暴走検知装置4により搬送物支持手段であるハンガーHの暴走を検知した後の動作について説明する。暴走検知装置4によりハンガーHの暴走を検知すると、駆動装置2(ギヤドモータ13)を非作動として制動装置6を作動させる。このようにして制動装置6の制動トルクが作用した状態において、前記のとおり、トルクリミッタ5の遮断トルクが制動装置6による制動トルクよりも小さく設定されているため、トルクリミッタ5により遮断トルクを超えるトルクが遮断される。すなわち、入力側(制動装置6により瞬時に停止する駆動装置2側)と出力側(駆動スプロケット8及び無端状チェーン11等の負荷側)の伝達が一時的に切り離され、入力側と出力側との間には滑りが生じてハンガーHは瞬時には停止せず、ハンガーH、ドッグ12、無端状チェーン11、スプロケット8,9及び駆動装置2等が受ける衝撃が緩和される。よって、逸走防止装置1の各機械要素に、大きな衝撃に耐え得る強度を持たせる必要がないため、逸走防止装置1の小型軽量化及び低コスト化を図ることができる。
【0020】
以上の説明においては、本発明の逸走防止装置を傾斜コンベアに使用した構成を示したが、本発明に係る逸走防止装置は垂直コンベアにも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る逸走防止装置をコンベアの下り傾斜部分に用いた構成を示す正面図である。
【図2】駆動装置まわりの要部拡大正面図である。
【図3】同じく平面図である。
【図4】図3の矢視C−C断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 逸走防止装置
2 駆動装置
3 テークアップ装置
4 暴走検知装置
5 トルクリミッタ
6 制動装置
7A,7B 固定フレーム
8 駆動スプロケット
9 従動スプロケット
10 案内レール
11 無端状チェーン
12 ドッグ
13 ギヤドモータ
14 出力軸
15,16 軸受
17A 可動片
17B 頭部
18 圧縮コイルばね
19 位置検出スイッチ(リミットスイッチ)
20 操作部
21 ハブ
22,23 摩擦板
24 プレート
25 皿ばね
26 ばね押え
27 調節ボルト
28 係止片
29 支持片
29A 長孔
30 ピン
PR パワーレール
FR フリーレール
H ハンガー(搬送物支持手段)
W 搬送物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下り勾配経路又は垂直経路を有するコンベアにおいて、該経路を少なくとも含む経路と平行に配設され、前記コンベアにより移動する搬送物支持手段の下流側面に当接して係止するドッグが所定間隔毎に設けられた無端状チェーン、該無端状チェーンが係合する駆動スプロケット及び従動スプロケット、前記駆動スプロケットを駆動する駆動装置、駆動系の適宜箇所に設けられた、前記搬送物支持手段の暴走時に前記無端状チェーンを停止させる制動装置、並びに、前記搬送物支持手段の暴走を検知する暴走検知装置を有する逸走防止装置であって、
前記駆動装置の出力軸と前記駆動スプロケットとの間にトルクリミッタを設け、該トルクリミッタの回転伝達トルクの限界値を、前記制動装置による制動トルクよりも小さく設定してなることを特徴とする傾斜又は垂直コンベアの逸走防止装置。
【請求項2】
前記駆動装置が、前記出力軸まわりに回動可能にフローティング支持されたものであり、
前記暴走検知装置が、前記搬送物支持手段が暴走した際に前記無端状チェーンのドッグが押圧されることによる前記駆動装置の回動を検知するものである請求項1記載の傾斜又は垂直コンベアの逸走防止装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−143666(P2008−143666A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333530(P2006−333530)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000211695)中西金属工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】